モータ制御装置
【課題】単一の電流検出素子により、モータに供給される各相の電流をより高い精度で検出できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、モータ制御装置は、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、モータのロータ位置に追従するように通電パターンを生成する。通電信号生成手段は、通電制御周期内で電力変換器の直流側に接続され電流検出素子に発生する信号が少なくとも2相の電流に対応するよう通電パターンを生成し、電流検出手段は、電流検出素子に発生した信号と通電パターンとに基づき相電流を検出する。電流補正手段は検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御手段は入力される電流指令値と補正された電流とに応じて通電信号生成手段が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切り替え手段は、補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御手段が電流制御を行う周期を切り替える。
【解決手段】実施形態によれば、モータ制御装置は、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、モータのロータ位置に追従するように通電パターンを生成する。通電信号生成手段は、通電制御周期内で電力変換器の直流側に接続され電流検出素子に発生する信号が少なくとも2相の電流に対応するよう通電パターンを生成し、電流検出手段は、電流検出素子に発生した信号と通電パターンとに基づき相電流を検出する。電流補正手段は検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御手段は入力される電流指令値と補正された電流とに応じて通電信号生成手段が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切り替え手段は、補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御手段が電流制御を行う周期を切り替える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ回路の直流部に配置される電流検出素子によって相電流を検出するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御するためにU,V,W各相の電流を検出する場合、インバータ回路の直流部に挿入した1つのシャント抵抗を用いて電流検出を行う技術がある。この方式で3相の全ての電流を検出するには、PWM(Pulse Width Modulation,パルス幅変調)キャリア(搬送波)の1周期内において、2相以上の電流を検出できるように3相のPWM信号パターンを発生させる必要がある。例えば図8に示すように(キャリアを鋸歯状波としている)、U,V相のデューティが等しい場合、U+(「+」はインバータ回路の上アーム側スイッチング素子を示す),V+がオン、W+がオフ時にW相の電流は検出できるが、他の相電流は検出できない。このため、図9に示すように、ある相(この場合W相)のPWM信号の位相をシフトさせることで、常に2相以上の電流を検出可能とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3447366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電流検出のために各相のPWM信号を順次シフトさせると、特定のタイミングで検出した検出電流が、モータへ流れる平均電流(リップルの中央値)に対して誤差を持つという問題がある。この問題について、3シャント型の電流検出方式とPWM信号をシフトさせた1シャント型の電流検出方式とを対比させて説明する。図10は、3シャントによる電流検出方式を示しており、このときのPWM信号は図11に示すようになる。すなわち、3相ブリッジ(インバータ回路)の下アーム側にそれぞれシャント抵抗があることから、一般的な三角波比較方式により生成したPWM信号パターン、図11ではキャリア周期の中間位相を基準として双方向に延びるPWNパルスによりモータ制御を行うことができる。
【0005】
このとき、PWM周期における3相のモータ電流波形を同図に示す。U相の電流に着目すると、基本的にU相のPWMパルスがハイレベルの期間に電流が増加し、ローレベルの期間に減少する傾向を示している。また、U相のPWMパルスのみがハイレベルの期間の方が、他の相のPWMパルスが同時にハイレベルとなる期間よりも増加率が大きくなっている。これは、モータに印加される電圧が、前者の期間でより大きくなるからである。
【0006】
各相PWMパルスの大小関係はそれぞれのデューティに応じて変化するが、各相電流の増減は、上述したルールに従う。そして、電流を検出するタイミングを、PWM周期の中間位相となるキャリア波形の谷に設定すると、検出される各相の電流は、PWM周期内で変化する値の平均値(中央値)となる。
【0007】
次に、1シャントによる電流検出方式について説明する。図12は回路構成、図13はPWMパターンを示す。1シャント電流検出方式では、3相全てがHまたはLの区間は、直流母線に挿入されているシャント抵抗にモータ電流が流れないので、電流を検出できない。したがって、1周期内に少なくとも2相の電流を検出できるように、各相PWMパルスの立ち上り位相,立下り位相をシフトさせる手法が用いられることが多い)。
【0008】
このとき、各相の電流変化を3シャント方式の場合と同様に考えると、同図(c)のようになる。各相PWMパルス幅と、ある相のPWMパルスがハイレベルを示すときの電流増加の傾きは図11と同じであるが、各相パルスの位相をシフトしたことで全相パルスが同時にハイ又はローレベルとなる期間が減少しており、各相電流波形は図11の場合と異なっている。ただし、PWM周期内における各区間の印加電圧の合計は図11,図13で同じであるため、平均電流は同等となる。
【0009】
そして、このようなPWMパターンに応じてシャント抵抗に流れる電流は図中(d)に示すようになり、3相パルスがそれぞれ示すレベルにより検出される電流パターンが変化する(図14参照)。ここで、電流検出タイミング(サンプルタイミング)を図中の矢印で示す2点に設定すると、キャリアの谷より左のタイミングではW相電流−Iwが、右のタイミングではV相電流−Ivが検出できる。これらの2点で検出される電流は、図中(c)において各相電流に●を付した時点の値となる。
【0010】
上記の検出タイミングで得られる検出値と、図中に示す各相の平均電流とを比較すると、両者に乖離があることが判る。つまり、任意のタイミングで検出した相電流は平均電流と異なっており、図14のケースでは、W,V相電流Iw,Ivは、平均電流よりも大きな値の電流として検出される。この結果、3相電流の合計がゼロであることに基づく演算から求めたU相電流は平均電流よりも小さな値となってしまう。
【0011】
ベクトル制御においては、3シャント方式の場合と同様にPWM周期について発生する電流リップルの平均値を用いるため、図13に示すように検出した電流値を用いて制御を行うと、検出電流に含まれる誤差の影響によりモータの駆動時にトルクリップルや騒音が発生する可能性が大きい。図15は、1シャント検出方式で位相シフトを行ったPWM制御により、モータを実際に駆動した場合の電流波形を示す。相電流にはPWM周期のリップルが発生しており、検出タイミングによってリップルの平均値より離れた値の電流を検出すると誤差を含む制御となる。
【0012】
そこで、単一の電流検出素子により、モータに供給される各相の電流をより高い精度で検出できるモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態によれば、モータ制御装置は、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定の通電パターンに従いオンオフ制御することで、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、前記モータのロータ位置に追従するように前記通電パターンを生成する。通電信号生成手段は、通電制御周期内において電力変換器の直流側に接続され電流検出素子に発生する信号が、少なくとも2相の電流に対応するように通電パターンを生成すると、電流検出手段は、電流検出素子に発生した信号と通電パターンとに基づいてモータの相電流を検出する。
【0014】
電流補正手段は、電流検出手段により検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御手段は、入力される電流指令値と電流補正手段により補正された電流とに応じて、通電信号生成手段が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切り替え手段は、電流補正手段に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御手段が電流制御を行う周期を切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態であり、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】電流検出のタイミングを示すタイミングチャート
【図3】図2に示すPWMパターンにおけるW相へのモータ印加電圧と電流との関係を示す図
【図4】補正処理の手順をフローチャート
【図5】制御切替部による各周期の切り替えを説明する図(その1)
【図6】制御切替部による各周期の切り替えを説明する図(その2)
【図7】埋め込み磁石型同期モータに適用した場合に、磁極位置に応じた補正が必要になることを説明する図
【図8】従来技術を示す図(その1)
【図9】従来技術を示す図(その2)
【図10】3シャント電流検出方式の構成を示す図
【図11】PWM信号パターンを示す図
【図12】1シャント電流検出方式の構成を示す図
【図13】PWM信号パターンを示す図
【図14】PWMパターンに応じてシャント抵抗に流れる電流を示す図
【図15】1シャント検出方式で位相シフトを行ったPWM制御により、モータを実際に駆動した場合の電流波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態について、図1ないし図7を参照して説明する。図1は、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。電流制御部(電流制御手段)1は、入力される電流指令値Id_ref,Iq_refと、後述する3相→dq座標変換部13より与えられるd軸電流Id,q軸電流Iqとの差分について、比例積分(PI)或いは比例積分微分(PID)制御を行うことで電圧指令値Vd,Vqを生成すると、それらをdq→3相座標変換部3に出力する。
【0017】
電流指令値Id_ref,Iq_refについては、例えば外部より与えられる速度指令値ω_refと、モータ2の回転速度ωとの差分について、上記と同様にPI或いはPID制御を行うことで生成される。尚、d軸の電流指令値Id_refについては、モータ2がブラシレスDCモータ等の永久磁石モータであり、全界磁運転を行う場合はゼロに設定される。また、電流制御部1には、補正制御切替部12により電流制御周期指令が与えられている。
【0018】
モータ2は、図示しないロータに例えばホールICやロータリエンコーダ等の位置センサ4が配置されており、そのセンサ信号は磁極位置検出部5を介して磁極位置θとして出力される(但し、例えば誘起電圧を検出して磁極位置を推定する位置センサレス方式でも良い)。dq→3相座標変換部3は、磁極位置θによりd軸,q軸電圧指令値Vd,Vqを3相電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換すると、それらをPWM信号生成部6に出力する。
【0019】
PWM信号生成部6は、3相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて3相のPWM信号を生成し、インバータ回路(電力変換器)7を構成する各相スイッチング素子U±,V±,W±にゲート駆動信号を出力する。インバータ回路7には、交流電源を整流平滑して生成される直流電源8が供給されており、上記ゲート駆動信号が与えられることでモータ6を駆動する。直流電流検出器9は、図12と同様にインバータ回路7の直流部,例えば負側母線に挿入されているシャント抵抗であり、インバータ回路7に流れる直流電流検出信号を相電流検出部10に出力する。
【0020】
相電流検出部(電流検出手段)10は、PWM信号生成部6よりPWMキャリアの周期に同期した電流検出タイミング信号が与えられており、その検出タイミング信号に基づいて各相電流を検出する(図14参照)。直接検出するのは2相であるが、それらの検出は、後述するように連続するキャリア周期の2回について、異なるタイミングで2回行われる。そして、3相の検出電流値I(u,v,w)1,I(u,v,w)2が電流補正部(電流補正手段)11に出力される。
【0021】
電流補正部11には、補正制御切替部(補正制御切り替え手段)12により傾き演算指令が与えられ、その傾き演算指令が与えられタイミングで、検出電流値I2,I1の差分から各相について電流値の傾きを求め、その傾きに基づいて各相の電流値を補正し、補正した電流値Iu’,Iv’,Iw’を3相→dq座標変換部13に出力する。補正制御切替部12は、電流補正部11にて行われる補正が完了したが否かに応じて、補正のため傾き演算指令のオンオフと、電流制御部11の実行周期を変更するように指令する。
【0022】
3相→dq座標変換部13は、磁極位置θにより3相電流Iu’,Iv’,Iw’をq軸電流Id,Iqに変換し、電流制御部1に出力する。以上について、位置センサ4,インバータ回路7,直流電流検出器9はハードウェアで構成されるが、残りの機能ブロックは、マイクロコンピュータ及び当該マイクロコンピュータにより実行されるソフトウェアにて構成される。
【0023】
次に、本実施形態の作用について図2ないし図7を参照して説明する。図2に示すように、本実施形態では、1キャリア周期内で2相の電流を検出できるように、各相PWMのデューティパルスの位相をシフトさせて発生する。このように位相をシフトさせる方式は様々あるが、一例として、PWM信号生成部6の内部で各相ごとに異なる波形のキャリアを使用する。U相については、周期の開始位相(図中左端)で振幅が最大となり、周期の終了位相で振幅が最小となる鋸歯状波を使用し、V相については、周期の中央位相で振幅が最大となり、そこから振幅値が低下する鋸歯状波を使用し、W相についてはV相と波形が逆相となる鋸歯状波を使用する。ただし図2(a)では、説明の都合上、PWM周期の中心位相において振幅値がゼロとなる三角波をキャリアとして示している。
【0024】
相電流検出部10において1回だけ検出された相電流は、前述のように検出位置に応じた電流リップル誤差を持っている。電流補正部11は、その誤差を補正するために、検出した電流検出値が平均電流値からどれくらい乖離しているかを演算し(補正値)、補正値を検出値にプラスすることで平均電流を求める。
【0025】
上記の誤差乖離を求めるためには、電流を2回検出する必要がある。すなわち、特定の通電パターン(例:U+オン、V+オン、W+オフ)のときの電流の傾きと、その時間である。例えばW相電流Iwを補正するためには、U+オン、V+オン、W+オフの期間におけるW相電流の下降傾きと、検出タイミングと平均電流までの時間が分かれば補正値が演算できる。
【0026】
そこで、電流の傾きを求めるために、電流制御の実行周期よりも電流検出周期を早くする。例えば、電流検出2回につき電流制御を1回実行する。この結果、図2に示すように、連続するキャリア周期の2回(A,B)で全く同じPWMパターン(通電パターン)が出力されるので、これらの2周期で電流を検出するタイミングを変える。図2(a)に示す1周期目と図2(b)に示す2周期目で異なるタイミングでW相電流Iw,V相電流Ivを検出し、これらをIw1,Iv1, Iw2,Iv2とする。
【0027】
電流補正部11は、これらの検出値からそれぞれの差分を演算し、U+,V+がオン、W+がオフのときのW相電流Iwの傾きと、U+,W+がオン、V+がオフのときのV相電流Ivの傾きを演算する。図4は、補正処理の手順をフローチャートで示す。ステップS1に示すように、電流の傾きIdは、検出値I2,I1の差を検出時間差(T2−T1)で除すことにより求められる。
【0028】
次に、検出タイミングから平均電流値までの時間を求める。これは、予め出力するPWMパターンが分かっているため、PWMパターンに応じたテーブルを用意しておけばよい(S2)。図2に示すPWMパターンにおけるW相へのモータ印加電圧と電流との係を図3に示す。実線で示すU,V,Wは、図2に示す3相PWMパターンに対応する。
W相の印加電圧(相電圧)は、
(1)W相のみがONのとき、正方向に最大
(2)W相を含む2相がONのとき、(1)の1/2
(3)W相のみがOFFのとき、負方向に最大
(4)W相を含む2相がOFFのとき、(3)の1/2
となる。これをデューティの変化に応じて示しているのが図3に示すW相印加電圧であり、それを時間に応じて積分したものがW相印加電圧積分値であり、W相印加電圧をモータ2の相インダクタンスで除したものが電流となる。
【0029】
モータ2の相インダクタンスは略電流の傾きに相当し、上述した演算により得られる。キャリア周期におけるW相印加電圧積分値の中央値は図3に示す破線であり、1周期中の印加電圧積分値を平均して求めることができる。そして、W相印加電圧積分値がこの印加電圧中央値に到達するタイミングが、平均電流が直流電流検出器5(シャント抵抗)に流れているタイミングである。このタイミングと任意に設定した電流検出タイミングとの差を求めることで、検出タイミングから平均電流通電タイミングまでがどの程度時間的に離れているかが分かるので、これを補正時間とする。
このように求めたPWMパターン毎の電流傾きと補正時間から電流の補正値を算出し、検出値に加算することで補正電流値が得られる。すなわち、図4のステップS3に示すように、平均値I’は、検出値I1に、傾きIdに補正時間を乗じた項を加えることで求められる。
【0030】
次に、上述した補正シーケンスの実行を管理する補正制御切替部12の動作について説明する。電流の傾きを検出するため、電流検出周期よりも電流制御周期を遅くしていることにより、実際には、ハードウェアの性能による限界よりも電流制御周期が遅くなる問題がある。このため、補正電流切替部12は、各相電流の補正状態を監視しながら、補正演算の実行/停止を切り替えるように制御する。
【0031】
具体的には、運転を介した初期段階は相電流の補正値が得られていないので、補正値を得るための電流制御周期(電流検出周期の2倍とする)の指令と、補正演算指令とを出力する(図5(a)参照)。そして、補正値が得られたことで検出誤差が無くなると補正演算を停止させて、電流制御周期と電流検出周期とを同じ周期に設定する(図5(b)参照)。すなわち、相電流の検出は、1つのPWMパターンにつき1回となる。そして、電流補正部11は、既に得られている補正値を用いてキャリア周期毎に電流を補正する。このように切替えることで、補正された精度の良い電流を用いて、応答性を損なわない電流制御が可能になる。
【0032】
尚、図5(a)→(b)に切り替えを行う条件としては、図6に示すように各相の電流傾きが得られ、補正の効果が十分に反映された段階で(例えば、制御開始時点から所定時間の経過後に)切り替えれば良いが、温度特性などの条件を加味するためより多くの電流サンプルを得てから切り替えても良い。
【0033】
また、本実施形態では、説明を簡単にするため、モータ2の相インダクタンスがモータ2の磁極位置によって変化しない表面磁石型永久磁石同期モータを想定している。しかし、埋め込み磁石型同期モータについても適用可能である。この場合、補正のための電流傾き≒インダクタンスに磁極位置による変化分が見込まれるため、磁極位置に応じた補正が必要となる(図7参照)。具体的には磁極位置;角度毎に上記の補正処理を行う。しかし角度分解能を高めると必要なデータが膨大になるため、必要な電流検出精度から角度分解能を決めておく必要がある。例えば、あるモータ及びインバータ回路のセットでは、補正をしない場合に比べ、π/6程度の角度分解能で補正をしても充分な電流検出精度(±2〜5%程度の誤差)が得られることが実験的に分かっている。
【0034】
以上のように本実施形態によれば、PWM電信号生成部6は、PWM制御のキャリア周期内においてインバータ回路7の直流側に接続され直流電流検出器9(シャント抵抗)に発生する信号が、2相の電流に対応するようにPWM信号通電パターンを生成し、相電流検出部10は、直流電流検出器9に発生した信号と上記通電パターンとに基づいてモータ2の相電流を検出する。
【0035】
電流補正部11は、相電流検出部10により検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御部1は、入力される電流指令値と電流補正部11により補正された電流とに応じて、PWM通電信号部6が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切替部12は、電流補正部11に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御部1が電流制御を行う周期を切り替える。これにより、1シャント電流検出方式を採用することで検出電流がPWM周期中の平均電流に一致しない場合でも、平均電流が得られるように補正して精度よく電流を検出し、モータ2にトルクリップルが発生することを防止できる。
【0036】
そして、制御切替部12は、補正値演算指令を出力した場合は、PWM信号生成部6が同じ通電パターンを2回連続して出力するようにPWM制御周期を設定し、相電流検出部10は、同相の電流を異なるタイミングで2回検出する。これにより、2回検出した電流値の差に基づいて補正を行うことができる。また、電流補正部11は、2回検出された電流値の差から電流の傾きを算出し、その傾きに基づいて、すなわち電流の変化度合に応じて補正を行うことができる。
【0037】
更に、電流補正部11は、電流の傾きに基づいて、電流検出期間(キャリア周期)で変化する相電流の平均値を求めるので、1シャント電流検出方式によって検出される電流が変化しても、キャリア周期についての平均値が得られ、モータ2の制御を高精度に行うことができる。加えて、制御切替部12は、補正値演算指令の出力を停止すると、PWM信号生成部6が毎回異なる通電パターンを出力するように電流制御周期を設定し、電流補正部11は、既に得られている補正値を用いて前記電流制御周期(=キャリア周期)毎に電流を補正する。従って、補正値が得られた以降は、モータ2の駆動制御を高い応答性を以って行うことができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
PWM信号生成部6においてPWMデューティパルスをシフトさせる方式は、上述したものに限らず、異なる波形の組み合わせでも良い。また、例えば三角波等の単一のキャリアを用いて、各相のデューティ指令値を変換した上で、振幅が増加する期間と異なる期間とでキャリアと指令値との比較論理を変える等の方式を用いても良い。
【0039】
同一の相電流を3回以上連続して検出しても良い。
直流電流検出器9を、インバータ回路7の正側母線に配置しても良い。また、電流検出素子はシャント抵抗に限ることなく、例えばCT(Current Transformer)等を設けても良い。
スイッチング素子はNチャネル型,Pチャネル型のMOSFETや、IGBT,パワートランジスタ等を使用しても良い。
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は電流制御部(電流制御手段)、2はモータ、6はPWM信号生成部(通電信号生成手段)、7はインバータ回路(電力変換器)、9は直流電流検出器(電流検出素子)、10は相電流検出部(電流検出手段)、11は電流補正部(電流補正手段)、12は補正制御切替部(補正制御切り替え手段)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ回路の直流部に配置される電流検出素子によって相電流を検出するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御するためにU,V,W各相の電流を検出する場合、インバータ回路の直流部に挿入した1つのシャント抵抗を用いて電流検出を行う技術がある。この方式で3相の全ての電流を検出するには、PWM(Pulse Width Modulation,パルス幅変調)キャリア(搬送波)の1周期内において、2相以上の電流を検出できるように3相のPWM信号パターンを発生させる必要がある。例えば図8に示すように(キャリアを鋸歯状波としている)、U,V相のデューティが等しい場合、U+(「+」はインバータ回路の上アーム側スイッチング素子を示す),V+がオン、W+がオフ時にW相の電流は検出できるが、他の相電流は検出できない。このため、図9に示すように、ある相(この場合W相)のPWM信号の位相をシフトさせることで、常に2相以上の電流を検出可能とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3447366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電流検出のために各相のPWM信号を順次シフトさせると、特定のタイミングで検出した検出電流が、モータへ流れる平均電流(リップルの中央値)に対して誤差を持つという問題がある。この問題について、3シャント型の電流検出方式とPWM信号をシフトさせた1シャント型の電流検出方式とを対比させて説明する。図10は、3シャントによる電流検出方式を示しており、このときのPWM信号は図11に示すようになる。すなわち、3相ブリッジ(インバータ回路)の下アーム側にそれぞれシャント抵抗があることから、一般的な三角波比較方式により生成したPWM信号パターン、図11ではキャリア周期の中間位相を基準として双方向に延びるPWNパルスによりモータ制御を行うことができる。
【0005】
このとき、PWM周期における3相のモータ電流波形を同図に示す。U相の電流に着目すると、基本的にU相のPWMパルスがハイレベルの期間に電流が増加し、ローレベルの期間に減少する傾向を示している。また、U相のPWMパルスのみがハイレベルの期間の方が、他の相のPWMパルスが同時にハイレベルとなる期間よりも増加率が大きくなっている。これは、モータに印加される電圧が、前者の期間でより大きくなるからである。
【0006】
各相PWMパルスの大小関係はそれぞれのデューティに応じて変化するが、各相電流の増減は、上述したルールに従う。そして、電流を検出するタイミングを、PWM周期の中間位相となるキャリア波形の谷に設定すると、検出される各相の電流は、PWM周期内で変化する値の平均値(中央値)となる。
【0007】
次に、1シャントによる電流検出方式について説明する。図12は回路構成、図13はPWMパターンを示す。1シャント電流検出方式では、3相全てがHまたはLの区間は、直流母線に挿入されているシャント抵抗にモータ電流が流れないので、電流を検出できない。したがって、1周期内に少なくとも2相の電流を検出できるように、各相PWMパルスの立ち上り位相,立下り位相をシフトさせる手法が用いられることが多い)。
【0008】
このとき、各相の電流変化を3シャント方式の場合と同様に考えると、同図(c)のようになる。各相PWMパルス幅と、ある相のPWMパルスがハイレベルを示すときの電流増加の傾きは図11と同じであるが、各相パルスの位相をシフトしたことで全相パルスが同時にハイ又はローレベルとなる期間が減少しており、各相電流波形は図11の場合と異なっている。ただし、PWM周期内における各区間の印加電圧の合計は図11,図13で同じであるため、平均電流は同等となる。
【0009】
そして、このようなPWMパターンに応じてシャント抵抗に流れる電流は図中(d)に示すようになり、3相パルスがそれぞれ示すレベルにより検出される電流パターンが変化する(図14参照)。ここで、電流検出タイミング(サンプルタイミング)を図中の矢印で示す2点に設定すると、キャリアの谷より左のタイミングではW相電流−Iwが、右のタイミングではV相電流−Ivが検出できる。これらの2点で検出される電流は、図中(c)において各相電流に●を付した時点の値となる。
【0010】
上記の検出タイミングで得られる検出値と、図中に示す各相の平均電流とを比較すると、両者に乖離があることが判る。つまり、任意のタイミングで検出した相電流は平均電流と異なっており、図14のケースでは、W,V相電流Iw,Ivは、平均電流よりも大きな値の電流として検出される。この結果、3相電流の合計がゼロであることに基づく演算から求めたU相電流は平均電流よりも小さな値となってしまう。
【0011】
ベクトル制御においては、3シャント方式の場合と同様にPWM周期について発生する電流リップルの平均値を用いるため、図13に示すように検出した電流値を用いて制御を行うと、検出電流に含まれる誤差の影響によりモータの駆動時にトルクリップルや騒音が発生する可能性が大きい。図15は、1シャント検出方式で位相シフトを行ったPWM制御により、モータを実際に駆動した場合の電流波形を示す。相電流にはPWM周期のリップルが発生しており、検出タイミングによってリップルの平均値より離れた値の電流を検出すると誤差を含む制御となる。
【0012】
そこで、単一の電流検出素子により、モータに供給される各相の電流をより高い精度で検出できるモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態によれば、モータ制御装置は、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定の通電パターンに従いオンオフ制御することで、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、前記モータのロータ位置に追従するように前記通電パターンを生成する。通電信号生成手段は、通電制御周期内において電力変換器の直流側に接続され電流検出素子に発生する信号が、少なくとも2相の電流に対応するように通電パターンを生成すると、電流検出手段は、電流検出素子に発生した信号と通電パターンとに基づいてモータの相電流を検出する。
【0014】
電流補正手段は、電流検出手段により検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御手段は、入力される電流指令値と電流補正手段により補正された電流とに応じて、通電信号生成手段が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切り替え手段は、電流補正手段に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御手段が電流制御を行う周期を切り替える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態であり、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】電流検出のタイミングを示すタイミングチャート
【図3】図2に示すPWMパターンにおけるW相へのモータ印加電圧と電流との関係を示す図
【図4】補正処理の手順をフローチャート
【図5】制御切替部による各周期の切り替えを説明する図(その1)
【図6】制御切替部による各周期の切り替えを説明する図(その2)
【図7】埋め込み磁石型同期モータに適用した場合に、磁極位置に応じた補正が必要になることを説明する図
【図8】従来技術を示す図(その1)
【図9】従来技術を示す図(その2)
【図10】3シャント電流検出方式の構成を示す図
【図11】PWM信号パターンを示す図
【図12】1シャント電流検出方式の構成を示す図
【図13】PWM信号パターンを示す図
【図14】PWMパターンに応じてシャント抵抗に流れる電流を示す図
【図15】1シャント検出方式で位相シフトを行ったPWM制御により、モータを実際に駆動した場合の電流波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態について、図1ないし図7を参照して説明する。図1は、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。電流制御部(電流制御手段)1は、入力される電流指令値Id_ref,Iq_refと、後述する3相→dq座標変換部13より与えられるd軸電流Id,q軸電流Iqとの差分について、比例積分(PI)或いは比例積分微分(PID)制御を行うことで電圧指令値Vd,Vqを生成すると、それらをdq→3相座標変換部3に出力する。
【0017】
電流指令値Id_ref,Iq_refについては、例えば外部より与えられる速度指令値ω_refと、モータ2の回転速度ωとの差分について、上記と同様にPI或いはPID制御を行うことで生成される。尚、d軸の電流指令値Id_refについては、モータ2がブラシレスDCモータ等の永久磁石モータであり、全界磁運転を行う場合はゼロに設定される。また、電流制御部1には、補正制御切替部12により電流制御周期指令が与えられている。
【0018】
モータ2は、図示しないロータに例えばホールICやロータリエンコーダ等の位置センサ4が配置されており、そのセンサ信号は磁極位置検出部5を介して磁極位置θとして出力される(但し、例えば誘起電圧を検出して磁極位置を推定する位置センサレス方式でも良い)。dq→3相座標変換部3は、磁極位置θによりd軸,q軸電圧指令値Vd,Vqを3相電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換すると、それらをPWM信号生成部6に出力する。
【0019】
PWM信号生成部6は、3相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて3相のPWM信号を生成し、インバータ回路(電力変換器)7を構成する各相スイッチング素子U±,V±,W±にゲート駆動信号を出力する。インバータ回路7には、交流電源を整流平滑して生成される直流電源8が供給されており、上記ゲート駆動信号が与えられることでモータ6を駆動する。直流電流検出器9は、図12と同様にインバータ回路7の直流部,例えば負側母線に挿入されているシャント抵抗であり、インバータ回路7に流れる直流電流検出信号を相電流検出部10に出力する。
【0020】
相電流検出部(電流検出手段)10は、PWM信号生成部6よりPWMキャリアの周期に同期した電流検出タイミング信号が与えられており、その検出タイミング信号に基づいて各相電流を検出する(図14参照)。直接検出するのは2相であるが、それらの検出は、後述するように連続するキャリア周期の2回について、異なるタイミングで2回行われる。そして、3相の検出電流値I(u,v,w)1,I(u,v,w)2が電流補正部(電流補正手段)11に出力される。
【0021】
電流補正部11には、補正制御切替部(補正制御切り替え手段)12により傾き演算指令が与えられ、その傾き演算指令が与えられタイミングで、検出電流値I2,I1の差分から各相について電流値の傾きを求め、その傾きに基づいて各相の電流値を補正し、補正した電流値Iu’,Iv’,Iw’を3相→dq座標変換部13に出力する。補正制御切替部12は、電流補正部11にて行われる補正が完了したが否かに応じて、補正のため傾き演算指令のオンオフと、電流制御部11の実行周期を変更するように指令する。
【0022】
3相→dq座標変換部13は、磁極位置θにより3相電流Iu’,Iv’,Iw’をq軸電流Id,Iqに変換し、電流制御部1に出力する。以上について、位置センサ4,インバータ回路7,直流電流検出器9はハードウェアで構成されるが、残りの機能ブロックは、マイクロコンピュータ及び当該マイクロコンピュータにより実行されるソフトウェアにて構成される。
【0023】
次に、本実施形態の作用について図2ないし図7を参照して説明する。図2に示すように、本実施形態では、1キャリア周期内で2相の電流を検出できるように、各相PWMのデューティパルスの位相をシフトさせて発生する。このように位相をシフトさせる方式は様々あるが、一例として、PWM信号生成部6の内部で各相ごとに異なる波形のキャリアを使用する。U相については、周期の開始位相(図中左端)で振幅が最大となり、周期の終了位相で振幅が最小となる鋸歯状波を使用し、V相については、周期の中央位相で振幅が最大となり、そこから振幅値が低下する鋸歯状波を使用し、W相についてはV相と波形が逆相となる鋸歯状波を使用する。ただし図2(a)では、説明の都合上、PWM周期の中心位相において振幅値がゼロとなる三角波をキャリアとして示している。
【0024】
相電流検出部10において1回だけ検出された相電流は、前述のように検出位置に応じた電流リップル誤差を持っている。電流補正部11は、その誤差を補正するために、検出した電流検出値が平均電流値からどれくらい乖離しているかを演算し(補正値)、補正値を検出値にプラスすることで平均電流を求める。
【0025】
上記の誤差乖離を求めるためには、電流を2回検出する必要がある。すなわち、特定の通電パターン(例:U+オン、V+オン、W+オフ)のときの電流の傾きと、その時間である。例えばW相電流Iwを補正するためには、U+オン、V+オン、W+オフの期間におけるW相電流の下降傾きと、検出タイミングと平均電流までの時間が分かれば補正値が演算できる。
【0026】
そこで、電流の傾きを求めるために、電流制御の実行周期よりも電流検出周期を早くする。例えば、電流検出2回につき電流制御を1回実行する。この結果、図2に示すように、連続するキャリア周期の2回(A,B)で全く同じPWMパターン(通電パターン)が出力されるので、これらの2周期で電流を検出するタイミングを変える。図2(a)に示す1周期目と図2(b)に示す2周期目で異なるタイミングでW相電流Iw,V相電流Ivを検出し、これらをIw1,Iv1, Iw2,Iv2とする。
【0027】
電流補正部11は、これらの検出値からそれぞれの差分を演算し、U+,V+がオン、W+がオフのときのW相電流Iwの傾きと、U+,W+がオン、V+がオフのときのV相電流Ivの傾きを演算する。図4は、補正処理の手順をフローチャートで示す。ステップS1に示すように、電流の傾きIdは、検出値I2,I1の差を検出時間差(T2−T1)で除すことにより求められる。
【0028】
次に、検出タイミングから平均電流値までの時間を求める。これは、予め出力するPWMパターンが分かっているため、PWMパターンに応じたテーブルを用意しておけばよい(S2)。図2に示すPWMパターンにおけるW相へのモータ印加電圧と電流との係を図3に示す。実線で示すU,V,Wは、図2に示す3相PWMパターンに対応する。
W相の印加電圧(相電圧)は、
(1)W相のみがONのとき、正方向に最大
(2)W相を含む2相がONのとき、(1)の1/2
(3)W相のみがOFFのとき、負方向に最大
(4)W相を含む2相がOFFのとき、(3)の1/2
となる。これをデューティの変化に応じて示しているのが図3に示すW相印加電圧であり、それを時間に応じて積分したものがW相印加電圧積分値であり、W相印加電圧をモータ2の相インダクタンスで除したものが電流となる。
【0029】
モータ2の相インダクタンスは略電流の傾きに相当し、上述した演算により得られる。キャリア周期におけるW相印加電圧積分値の中央値は図3に示す破線であり、1周期中の印加電圧積分値を平均して求めることができる。そして、W相印加電圧積分値がこの印加電圧中央値に到達するタイミングが、平均電流が直流電流検出器5(シャント抵抗)に流れているタイミングである。このタイミングと任意に設定した電流検出タイミングとの差を求めることで、検出タイミングから平均電流通電タイミングまでがどの程度時間的に離れているかが分かるので、これを補正時間とする。
このように求めたPWMパターン毎の電流傾きと補正時間から電流の補正値を算出し、検出値に加算することで補正電流値が得られる。すなわち、図4のステップS3に示すように、平均値I’は、検出値I1に、傾きIdに補正時間を乗じた項を加えることで求められる。
【0030】
次に、上述した補正シーケンスの実行を管理する補正制御切替部12の動作について説明する。電流の傾きを検出するため、電流検出周期よりも電流制御周期を遅くしていることにより、実際には、ハードウェアの性能による限界よりも電流制御周期が遅くなる問題がある。このため、補正電流切替部12は、各相電流の補正状態を監視しながら、補正演算の実行/停止を切り替えるように制御する。
【0031】
具体的には、運転を介した初期段階は相電流の補正値が得られていないので、補正値を得るための電流制御周期(電流検出周期の2倍とする)の指令と、補正演算指令とを出力する(図5(a)参照)。そして、補正値が得られたことで検出誤差が無くなると補正演算を停止させて、電流制御周期と電流検出周期とを同じ周期に設定する(図5(b)参照)。すなわち、相電流の検出は、1つのPWMパターンにつき1回となる。そして、電流補正部11は、既に得られている補正値を用いてキャリア周期毎に電流を補正する。このように切替えることで、補正された精度の良い電流を用いて、応答性を損なわない電流制御が可能になる。
【0032】
尚、図5(a)→(b)に切り替えを行う条件としては、図6に示すように各相の電流傾きが得られ、補正の効果が十分に反映された段階で(例えば、制御開始時点から所定時間の経過後に)切り替えれば良いが、温度特性などの条件を加味するためより多くの電流サンプルを得てから切り替えても良い。
【0033】
また、本実施形態では、説明を簡単にするため、モータ2の相インダクタンスがモータ2の磁極位置によって変化しない表面磁石型永久磁石同期モータを想定している。しかし、埋め込み磁石型同期モータについても適用可能である。この場合、補正のための電流傾き≒インダクタンスに磁極位置による変化分が見込まれるため、磁極位置に応じた補正が必要となる(図7参照)。具体的には磁極位置;角度毎に上記の補正処理を行う。しかし角度分解能を高めると必要なデータが膨大になるため、必要な電流検出精度から角度分解能を決めておく必要がある。例えば、あるモータ及びインバータ回路のセットでは、補正をしない場合に比べ、π/6程度の角度分解能で補正をしても充分な電流検出精度(±2〜5%程度の誤差)が得られることが実験的に分かっている。
【0034】
以上のように本実施形態によれば、PWM電信号生成部6は、PWM制御のキャリア周期内においてインバータ回路7の直流側に接続され直流電流検出器9(シャント抵抗)に発生する信号が、2相の電流に対応するようにPWM信号通電パターンを生成し、相電流検出部10は、直流電流検出器9に発生した信号と上記通電パターンとに基づいてモータ2の相電流を検出する。
【0035】
電流補正部11は、相電流検出部10により検出された電流に含まれる誤差を補正し、電流制御部1は、入力される電流指令値と電流補正部11により補正された電流とに応じて、PWM通電信号部6が通電パターンを生成するための電流制御を行い、制御切替部12は、電流補正部11に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して電流制御部1が電流制御を行う周期を切り替える。これにより、1シャント電流検出方式を採用することで検出電流がPWM周期中の平均電流に一致しない場合でも、平均電流が得られるように補正して精度よく電流を検出し、モータ2にトルクリップルが発生することを防止できる。
【0036】
そして、制御切替部12は、補正値演算指令を出力した場合は、PWM信号生成部6が同じ通電パターンを2回連続して出力するようにPWM制御周期を設定し、相電流検出部10は、同相の電流を異なるタイミングで2回検出する。これにより、2回検出した電流値の差に基づいて補正を行うことができる。また、電流補正部11は、2回検出された電流値の差から電流の傾きを算出し、その傾きに基づいて、すなわち電流の変化度合に応じて補正を行うことができる。
【0037】
更に、電流補正部11は、電流の傾きに基づいて、電流検出期間(キャリア周期)で変化する相電流の平均値を求めるので、1シャント電流検出方式によって検出される電流が変化しても、キャリア周期についての平均値が得られ、モータ2の制御を高精度に行うことができる。加えて、制御切替部12は、補正値演算指令の出力を停止すると、PWM信号生成部6が毎回異なる通電パターンを出力するように電流制御周期を設定し、電流補正部11は、既に得られている補正値を用いて前記電流制御周期(=キャリア周期)毎に電流を補正する。従って、補正値が得られた以降は、モータ2の駆動制御を高い応答性を以って行うことができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
PWM信号生成部6においてPWMデューティパルスをシフトさせる方式は、上述したものに限らず、異なる波形の組み合わせでも良い。また、例えば三角波等の単一のキャリアを用いて、各相のデューティ指令値を変換した上で、振幅が増加する期間と異なる期間とでキャリアと指令値との比較論理を変える等の方式を用いても良い。
【0039】
同一の相電流を3回以上連続して検出しても良い。
直流電流検出器9を、インバータ回路7の正側母線に配置しても良い。また、電流検出素子はシャント抵抗に限ることなく、例えばCT(Current Transformer)等を設けても良い。
スイッチング素子はNチャネル型,Pチャネル型のMOSFETや、IGBT,パワートランジスタ等を使用しても良い。
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は電流制御部(電流制御手段)、2はモータ、6はPWM信号生成部(通電信号生成手段)、7はインバータ回路(電力変換器)、9は直流電流検出器(電流検出素子)、10は相電流検出部(電流検出手段)、11は電流補正部(電流補正手段)、12は補正制御切替部(補正制御切り替え手段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定の通電パターンに従いオンオフ制御することで、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、前記モータのロータ位置に追従するように前記通電パターンを生成するモータ制御装置において、
前記電力変換器の直流側に接続され、電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
通電制御周期内において前記電流検出素子に発生する信号が、少なくとも2相の電流に対応するように前記通電パターンを生成する通電信号生成手段と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記通電パターンとに基づいて、前記モータの相電流を検出する電流検出手段と、
この電流検出手段により検出された電流に含まれる誤差を補正する電流補正手段と、
入力される電流指令値と前記電流補正手段により補正された電流とに応じて、前記通電信号生成手段が前記通電パターンを生成するための電流制御を行う電流制御手段と、
前記電流補正手段に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して前記電流制御手段が電流制御を行う周期(電流制御周期)を切り替える制御切り替え手段とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御切り替え手段は、前記補正値演算指令を出力した場合は、前記通電信号生成手段が同じ通電パターンを2回以上連続して出力するように前記電流制御周期を設定し、
前記電流検出手段は、同相の電流を異なるタイミングで2回以上検出することを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流補正手段は、前記2回以上検出された電流値から電流の傾きを算出し、その傾きに基づいて補正を行うことを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記電流補正手段は、前記電流の傾きに基づいて、電流検出期間で変化する相電流の平均値を求めることを特徴とする請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御切り替え手段は、前記補正値演算指令の出力を停止すると、前記通電信号生成手段が毎回異なる通電パターンを出力するように前記電流制御周期を設定し、
前記電流補正手段は、既に得られている補正値を用いて前記電流制御周期毎に補正を行うことを特徴とする請求項2ないし4の何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項1】
ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定の通電パターンに従いオンオフ制御することで、直流を多相交流に変換する電力変換器を介してモータを駆動し、前記モータのロータ位置に追従するように前記通電パターンを生成するモータ制御装置において、
前記電力変換器の直流側に接続され、電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
通電制御周期内において前記電流検出素子に発生する信号が、少なくとも2相の電流に対応するように前記通電パターンを生成する通電信号生成手段と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記通電パターンとに基づいて、前記モータの相電流を検出する電流検出手段と、
この電流検出手段により検出された電流に含まれる誤差を補正する電流補正手段と、
入力される電流指令値と前記電流補正手段により補正された電流とに応じて、前記通電信号生成手段が前記通電パターンを生成するための電流制御を行う電流制御手段と、
前記電流補正手段に対して補正値演算指令を出力すると共に、前記指令の出力状態に連動して前記電流制御手段が電流制御を行う周期(電流制御周期)を切り替える制御切り替え手段とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記制御切り替え手段は、前記補正値演算指令を出力した場合は、前記通電信号生成手段が同じ通電パターンを2回以上連続して出力するように前記電流制御周期を設定し、
前記電流検出手段は、同相の電流を異なるタイミングで2回以上検出することを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流補正手段は、前記2回以上検出された電流値から電流の傾きを算出し、その傾きに基づいて補正を行うことを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記電流補正手段は、前記電流の傾きに基づいて、電流検出期間で変化する相電流の平均値を求めることを特徴とする請求項3記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御切り替え手段は、前記補正値演算指令の出力を停止すると、前記通電信号生成手段が毎回異なる通電パターンを出力するように前記電流制御周期を設定し、
前記電流補正手段は、既に得られている補正値を用いて前記電流制御周期毎に補正を行うことを特徴とする請求項2ないし4の何れかに記載のモータ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−66340(P2013−66340A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204563(P2011−204563)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]