説明

モータ

【課題】ロータやステータのコアを圧粉磁心で形成した場合に、簡単な構成により、遠心力や磁気的な吸引力等に対して、コアを確実に保持できるようにする。
【解決手段】ロータ1のコア2が圧粉磁心により形成される場合、コア2の外周部に嵌まる環状の外周保持部材3と、コア2の内周側に嵌まりコア2を内周側から外周側に付勢する環状の付勢手段6とを備え、コア2の外周部を外周保持部材3で保持し、付勢手段6によってコア2を内周側から外周側に付勢した状態に保持し、簡単な構成により、遠心力等によって圧粉磁心が外周側に圧縮されてコア2が変形してもコア2を確実に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータの圧粉磁心で形成されるロータまたはステータのコアの保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アキシャルギャップ構造のモータは、ロータとステータがモータ軸方向にギャップを設けて対向配置した構成であり、とくにそのロータのコア(磁極も含む)については、積層鋼板に代えて圧粉磁心で形成することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この場合、圧粉磁心のコアで構成されるロータは、例えば環状のホルダに扇形に形成された各分割コアの圧入部分に圧粉磁心を圧入して環状のコアを形成することが考えられるが、このようにすると、圧粉磁心の圧入面に過大なせん断応力が発生し、圧粉磁心の磁性材粉末の結合が崩れて圧粉磁心が破損する可能性がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、非磁性体の環状のホルダに積層鋼板の磁性体を挟んで圧粉磁心で形成した扇形の各分割コアを環状に配設して環状のコアを形成し、その外周部にリング部材を嵌め、かしめ等で前記リング部材を固定してコアを環状に保持することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したアキシャルギャップ構造のモータのロータに限らず、種々のモータのロータやステータの圧粉磁心で形成されるコアは、一般に、圧縮応力には強いが、引張応力や曲げ応力には弱い特性がある。そのため、特許文献1に記載のようにリング部材等でコアを外周側から保持することは、遠心力によるコアの分解等を防止する点で好適である。
【0007】
しかしながら、とくにロータの圧粉磁心のコアの場合、前記リング部材等をコアの外周側に嵌めて遠心力に抗するようにしたとしても、ロータの回転が速くなって遠心力が大きくなると、圧粉磁心はヤング率が低く変形し易いため、遠心力に基づき、圧粉磁心がさらに圧縮され、外周方向に押付けられて縮むようになる。この圧粉磁心の外周側への縮みによりコアの内周側に圧粉磁心と前記ホルダと隙間が生じ、コアを保持維持できなくなるおそれがある。
【0008】
また、圧粉磁心のコアを確実に保持するため、ハウジング等の補強部材で圧粉磁心を囲んで遠心力等によってはコアが崩れないようにすることが考えられるが、このように構成した場合、補強部材が必要になるだけでなく、補強部材と圧粉磁心のコアのヤング率が異なることにより、遠心力によって両者の変形量に差が生じ、この差に基づき、圧粉磁心のコアにミクロなスリップ(ハウジング部材とコアが相対的に径方向に微小にずれて振動する現象)が発生し、コアの磨耗等が発生する問題がある。
【0009】
なお、ラジアルギャップ構造のモータにおいても、とくにロータのコアを圧粉磁心で形成すると、前記と同様の問題が生じる可能性がある。
【0010】
また、ステータは回転することはないが、ステータのコアをロータのコアと同様に圧粉磁心で形成する場合には、ステータのコアも変形し易く、ステータのコアにもロータのコアと同様の対策を施すことが望まれる。
【0011】
本発明は、ロータやステータのコアを圧粉磁心で形成した場合に、簡単な構成により、遠心力や磁気的な吸引力等に対して、コアを磨耗等なく確実に保持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明のモータは、ロータ、ステータの少なくともいずれか一方のコアが圧粉磁心により形成され、前記コアの外周部に嵌まる環状の外周保持部材と、前記コアの内周側に嵌まり前記コアを内周側から外周側に付勢する環状の付勢手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0013】
また、本発明のモータの前記付勢手段は、可撓性を有し前記コアの内周面に沿うCリングと、該Cリングの内周側に圧入されて前記コアを外周方向に付勢する環状の内周保持部材とを含むこと特徴としている(請求項2)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の場合、圧粉磁心で形成されるコアは、外周部が環状の外周保持部材で保持され、さらに、環状の付勢手段によって内周側から外周側に付勢された状態で保持される。この場合、コアがその内周側の環状の付勢手段によって内周側から外周側に付勢された状態で保持されるので、磁気的な吸引力や振動等の外力が発生してもコアの内周側とそれを保持する環状の付勢手段との間に隙間は発生しない。しかも、上記外力によるコアと付勢手段との相対的な動きの差に基づくミクロなスリップが生じないので、圧粉磁心のコアに磨耗等が生じることもない。
【0015】
そのため、ロータやステータのコアを圧粉磁心で形成した場合に、簡単な構成により、遠心力等によって圧粉磁心が外周側に圧縮されてコアが変形してもコアを磨耗等なく確実に保持することができる。
【0016】
請求項2の発明の場合、前記付勢手段は、可撓性を有するCリングを挟んで内周保持部材をコアの内周側に圧入する極めて簡単な圧入構造である。しかも、圧入時等に内周保持部材はコアに直接に接触することなくCリングに沿って移動し、内周保持部材の圧入や遠心力等による内周保持部材の移動によってコアの圧粉磁心が崩れたり破損したりすることがない利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態のロータの分解状態の斜視図である。
【図2】図1のロータの組み付けられた状態を示し、(a)は正面図、(b)は部分切断側面である。
【図3】図1のロータの組み付け方法を説明する部分断面図である。
【図4】図1のロータを備えたアキシャルギャップ構造のモータの部分断面図である。
【図5】図4の一部の拡大図である。
【図6】図4のステータの分解状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、アキシャルギャップ構造のモータに適用した本発明の一実施形態について、図1〜図6を参照して詳述する。
【0019】
まず、本発明を適用したロータについて、図1〜図5を参照して説明する。
【0020】
図1は分解状態のロータ1の斜視図であり、ロータ1の環状のコア2は圧粉磁心で形成された複数個の分割コア21を環状に配設して形成される。分割コア21は中央部が凸状の磁極21aであり、その両側が磁極21aを繋ぐコア部21bである。
【0021】
そして、環状のコア2は例えば非磁性体(磁性体でもよい)のリング状(環状)の外周保持部材3に嵌め込まれ、換言すれば、環状のコア2の外周部に外周保持部材3が嵌り、これによってコア2は外周側から環状の形状に保持される。なお、外周保持部材3は、所定幅の帯状の非磁性体をリングに加工して形成され、リングの一側側(図1の左側)の各分割コア21の継ぎ目の位置の部分に内周向きの係止爪31が形成され、リングの他側は各分割コア21の抜け止めを図るため、必要に応じて全周又は部分的に内側に折り曲げられている。そして、各分割コア21は図の左側から外周保持部材3に環状に配設するように嵌め込まれ、各係止爪31により、各分割コア21の継ぎ目の位置の部分が押さえ付けた状態に係止される。
【0022】
このようにして環状のコア2を外周保持部材3に嵌め込んだ後、コア2の内側に嵌るCリング4を用意する。Cリング4は可撓性を有する一定の幅のばね材からなる。また、Cリング4の内周側に嵌まる環状の内周保持部材5も用意する。内周保持部材5は、Cリング4と略同じ幅のリング部51と、その一方の端縁側(図1では右の端縁側)の全周に形成されたつば部52を備え、リング部51の一部に図示省略したモータ軸のガイド溝に嵌入するガイド突起51aが形成されている。
【0023】
ところで、Cリング4はその切れ目の部分41が比較的狭い基準の状態で略コア2の内周側に嵌入する径状に形成され、内周保持部材5のリング部51は、Cリング4より遠心力による縮みの締め代を考慮した大きさだけ大径に形成されている。なお、前記締め代は部品の寸法誤差等も考慮して設定される。
【0024】
そして、Cリング4をコア2の内周側にいわゆる摺動プレートとして嵌め、内周保持部材5を、つば部52の反対側の他方の端縁から、Cリング4の内側にCリング4に沿って滑らせて圧入し、付勢手段6をコア2の内周側に嵌めてロータ1を組み付けることにより、Cリング4および内周保持部材5が本発明の環状の付勢手段6を形成する。
【0025】
図2の(a)、(b)は上記のようにして組み付けられたロータ1を示し、付勢手段6は、内周保持部材5の締め代に基づくCリング4の可撓性により、コア2を内周側から外周側に付勢する。そして、コア2は、外周保持部材3によって外周側から環状の形状に保持されるとともに、付勢手段6により内周側から外周側に付勢された状態で保持される。なお、ロータ1の軽量化を図るため、図2(b)から明らかなように、各分割コア21は磁極21aの背面側(裏面側)が空洞になっている。
【0026】
図3は付勢手段6をコア2の内周側に嵌めてロータ1を組み付ける具体例を示し、付勢手段6をコア2の内周側に嵌める際、各分割コア21の磁極21aの面(磁極面)が治具7の平らな面上に位置するように、コア2をいわゆる裏返しの状態で治具7に載せ、コア2の背面(裏面)側から付勢手段6のCリング4、内周保持部材5を圧入する。このようにすると、圧粉磁心の形状のバラツキが大きく、各分割コア21の磁極21aの高さにバラツキがある場合にも、各分割コア21の磁極21aの面は平坦になり、組み付けられたロータ1の磁極面の平面度を確保できる。
【0027】
図4はロータ1を備えた本実施形態のアキシャルギャップ構造のモータ8を示し、モータ8は、磁極21aが図4の右側を向くようにモータ軸9に取り付けられたロータ1と、ロータ1に対向するように設けられたステータ10とを備える。
【0028】
モータ軸9はロータ1の取り付け位置の部分につば部91が形成され、このつば部91がロータ1の内周側に嵌入してロータ1がモータ軸9に取り付けられる。
【0029】
ステータ10は環状のコア11を備える。このコア11は、分割コア21と同様に圧粉磁心で形成された複数の分割コア12からなり、ロータ1の磁極21aに対向する各分割コア12の磁極12aに励磁用のコイル(図示せず)が集中巻きされる。なお、ステータ10の外周部には後述する外周保持部材13が嵌められている。
【0030】
そして、圧粉磁心で形成されたロータ1は、高速回転によって大きな遠心力が発生し、圧粉磁心が外周方向に圧縮されても、遠心力によるコア変形よりも大きな締め代でコア2が内周側から外周側に付勢されているので、コア2の内周側とそれを保持する環状の付勢手段6との間にモータ8の径方向の隙間が発生しない。そのため、圧入構造の極めて簡単な構成により、ロータ1の回転に伴う遠心力によって圧粉磁心が外周側に縮んでもそのコア2は確実に保持される。その結果、モータ8は、高速回転が可能になって出力が増大する。
【0031】
また、ロータ1は、付勢手段6によるコア2の保持構造が圧入によって実現するため、組み付け作業が簡単になり、その結果、モータ8の生産性が向上し、そのモータ性能の管理も容易になる。
【0032】
また、付勢手段6の内周保持部材5は、Cリング4の内側にCリング4に沿って滑らせて圧入されるので、コア圧入面を直接擦らない。そのため、内周保持部材5の圧入時のコア2の破損等を防止できる。
【0033】
さらに、ロータ1を製造する際、前記したようにコア2をいわゆる裏返しの状態で治具7に載せ、コア2の背面(裏面)側から付勢手段6のCリング4、保持部材を圧入することにより、組み付けられたロータ1の磁極面の平面度を確保できる。しかも、ロータ1、ステータ10間のギャップを小さくすることができ、モータ8のモータ出力や効率を向上できる利点もある。
【0034】
また、ロータ1は、遠心力によりモータ8の径方向に伸縮するコア2を、相対動きのない外周部および内周部だけで保持する構造であり、その結果、ロータ1は径方向のミクロなスリップによる磨耗を生じることがなく、耐久信頼性が向上する。
【0035】
図5は図4の2点破線で囲まれた部分Aを拡大して示し、付勢手段6の内周保持部材5を圧入する際に、つば部52とコア2と間にモータ軸方向に適当な隙間δを設けると、モータ軸方向のミクロなスリップによる磨耗を防止できる。このようにすることは、とくに、本出願人の既出願(特願2009−011523)等の立体的な磁路が形成されるアキシャルギャップ構造のモータのロータに適用した場合に効果的である。なお、隙間δは場合によっては設けなくてもよい。
【0036】
つぎに、モータ8のステータ10について、図4および図6を参照して説明する。
【0037】
本実施形態においては、ステータ10にも本発明を適用する。
【0038】
図6は分解状態のステータ10の斜視図であり、ステータ10の環状のコア11は圧粉磁心で形成された複数個の分割コア12を環状に配設して形成される。分割コア12は中央部の磁極12aが扇型の平板状のコア部12bに載置された構成である。
【0039】
そして、環状のコア11の外周部に一実施形態のロータ1の外周保持部材3に相当する外周保持部材13が嵌り、これによってコア11は外周側から環状の形状に保持される。
【0040】
このようにして環状のコア11を外周保持部材13に嵌め込んだ後、コア11の内側に嵌るCリング14および、Cリング4の内周側に嵌まる環状の内周保持部材15を用意する。Cリング14、内周保持部材15は、一実施形態のロータ1のCリング4、内周保持部材5に相当して本発明の環状の付勢手段16を形成し、コア11の内周側の径に合せてCリング4、内周保持部材5より径大である。なお、Cリング14は、ロータ1のCリング4と同様に切れ目の部分141が比較的狭い基準の状態で略コア11の内周側に嵌入する径状である。また、内周保持部材15は、ロータ1のリング部51、つば部52と同様のリング部151、つば部152を備え、Cリング14より磁気的な吸引力や振動等の外力に対してコア11を保持させるための締め代を考慮した大きさだけ大径に形成されている。
【0041】
そして、Cリング14をコア11の内周側にいわゆる摺動プレートとして嵌め、内周保持部材15を、つば部152の反対側の他方の端縁から、Cリング14の内側にCリング14に沿って滑らせて圧入し、付勢手段16をコア11の内周側に嵌めてステータ10が組み付けられる。
【0042】
このようにして形成されたステータ10を備えた図4のモータ8においては、ステータ10は回転することはないが、付勢手段16によってコア11が内周側から外周側に付勢されているので、磁気的な吸引力や振動等の外力に対してもコア11の内周側とそれを保持する環状の付勢手段16との間、およびコア11と外周保持部材13との間に、それぞれコア11を圧縮する力が残存してコア11を保持する力を作用させることができ、圧入構造の簡単な構成により、コア11を確実に保持することができる。
【0043】
そして、モータ8はロータ1およびステータ10の少なくともいずれか一方のコア2、11を圧粉磁心で形成してよく、とくにロータ1およびステータ10の両方のコア2、11を圧粉磁心で形成すると、ロータ1およびステータ10を同様の部品の同じような組み付け作業で形成することができ、モータ8の組み付け作業が一層簡単になってモータ8の生産性が飛躍的に向上する。
【0044】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、付勢手段6、16は、Cリング4、14と内周保持部材5、15を用いた圧入構造の構成に限るものではなく、コア2、11の内周側に嵌まりコア2、11を内周側から外周側に付勢する種々の構造の構成であってよい。
【0045】
また、本発明は、ラジアルギャップ構造のモータのロータ、ステータにも同様に適用することができ、種々の用途のアキシャルギャップ構造、ラジアルギャップ構造のモータのロータ、ステータに適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ロータ
2、11 コア
3、13 外周保持部材
4、14 Cリング
5、15 内周保持部材
6、16 付勢手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ、ステータの少なくともいずれか一方のコアが圧粉磁心により形成され、
前記コアの外周部に嵌まる環状の外周保持部材と、
前記コアの内周側に嵌まり前記コアを内周側から外周側に付勢する環状の付勢手段とを備えたことを特徴とするモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
前記付勢手段は、可撓性を有し前記コアの内周面に沿うCリングと、該Cリングの内周側に圧入されて前記コアを外周方向に付勢する環状の内周保持部材とを含むこと特徴とするモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−166926(P2011−166926A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26256(P2010−26256)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】