説明

モールドシーラーの調製方法、モールドシーラーアッセンブリおよびその組成物

金属モールド表面から熱可塑性部品を成形するのに有効なモールドシーラー組成物を提供し、それはコーティングとして塗布された場合、硬化して複数回の離型を可能にする高い耐久性を有する仕上がりにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に熱可塑性部品を成形するのに有効なモールドシーラー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の簡単な説明)
高品質の平滑モールド表面、または高度に充填された熱可塑性複合物を使用するために半永久離型剤の効率が犠牲にされることが成形業者によって見出されることは、熱可塑性樹脂産業における共通の問題である。特にクロムまたはニッケル材料がモールド表面として用いられる場合は、とりわけ離型剤をモールド表面によく結合することができない。この離型剤はモールドから非常に簡単に剥がれてしまい、その結果、それらは複数回モールドから離型するにあたって充分に機能しない。この接着力の欠如は、硬化した離型剤をモールド表面から削ぎ取る際に証明されうる。
【0003】
また離型回数は、ゴム流動性または注入力によって減少する可能性があるということも一般的な問題である。特に熱可塑性樹脂産業では、モールドコーティングは高度な耐久性を有し、それによって多くの離型サイクル数を可能にすることを要求される。しかしながら従来の離型剤のほとんどは、離型剤の再塗布が必要になるまでわずか数サイクルを耐えるのみである。この問題は、中断時間、コスト、および離型剤の再塗布に関わる労働を増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに、適当な離型回数を有するモールドシーラーに対する要求に加えて、性能の観点から、より有効であり、およびコスト面で効率の良いモールドシーラーに対する要求もまた存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、モールドシーラー組成物、および該組成物を製造するための方法ならびにモールドシーラーコーティングおよびアッセンブリを形成するために、該組成物を塗布する方法を目的としている。
【0006】
本発明の1つの態様では、アミノおよびアルコキシ官能基を共に有し、式:
【0007】
【化1】

を有するシランを含むモールドシーラー組成物を提供し、式中:
は、ヒドロキシおよびアルコキシから選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルから選択され、ここで前記アルキルはアミノ基またはアルコキシシリル基によって任意に置換され;
Xは、C−Cアルキレンであり;および
aは、0または1である。
【0008】
本発明のある実施形態では、モールドシーラー組成物はさらにキャリアおよび架橋剤を含んでいてよい。任意に、本発明のモールドシーラー組成物は、追加の添加物、例えばスリップ剤(例えば、官能性または非官能性シロキサン)、乳化剤、pH調整剤、染料、触媒、殺生物剤、硬化調整剤、フィラー、粘度調整剤およびそれらの組合せを含んでよい。
【0009】
本発明のモールドシーラー組成物は、様々な機構、例えば熱、湿気および/または環境による縮合で硬化性であってよい。本組成物は、熱硬化性であることが望ましい。コーティングとして塗布された場合、該モールドシーラー組成物は硬化して、モールド離型組成物が部品に移動することなく多くの離型(例えば少なくとも3回、望ましくは少なくとも4回、より望ましくは少なくとも5回の離型)を可能にする高い耐久性を有する仕上がりとなる。本発明のモールドシーラー組成物は安定であり、例えば実質的な期間、例えば望ましくは少なくとも約6ヶ月間、より望ましくは約1年間、沈降、分離または性能劣化がないか、またはそれらを著しく減少させる。
【0010】
本発明の他の態様では、少なくとも1つの表面を有する部分を形成するためのモールド、および少なくとも1つの表面上への本発明のモールドシーラー組成物を含むコーティングを含むシールされたモールドアッセンブリを提供する。
【0011】
本発明の他の態様では、耐久性シールをモールド上に製造するための方法を提供し、この方法は、以下のステップ:
(a)少なくとも1つの表面を有する部分を形成するためのモールドを提供するステップ;
(b)前記モールド形成部分の前記少なくとも1つの表面上にモールドシーラー組成物を塗布するステップであって、ここで前記モールドシーラー組成物は:
(i)式I:
【0012】
【化2】

を有するシランであって、式中:
は、ヒドロキシおよびアルコキシから選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルから選択され、ここで前記アルキルは、任意にアミノ基またはアルコキシシリル基によって置換され;
Xは、C−Cアルキレンであり;および
aは、0または1であり;
(ii)キャリア;を含み;および
(c)前記モールドシーラー組成物を、少なくとも部分的な硬化を達成するのに充分な時間、硬化条件に曝すステップであって、それによりモールド上に耐久性シールを形成する、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、クロムおよびスチール双方の基体に対するモールドシーラーの結果を示す。
【図2】図2は、モールドシーラーの保存寿命期間の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、コーティングとして塗布される場合に耐久性を有し、コスト効率が良く、複数回の離型を可能にするモールドシーラー組成物を目的とする。また本発明は、本発明のモールドシーラー組成物で調製されたシールされたモールドアッセンブリも目的としている。そのような組成物を製造するための方法もまた開示する。
【0015】
本発明のモールドシーラー組成物は硬化性成分、望ましくは熱硬化性成分を含む。本明細書で用いる場合、用語「硬化する」または「硬化」とは、必ずしもそうではないが一般に少なくとも一つの変数、例えば時間、温度、放射線、材料における硬化触媒もしくは促進剤などによって引き起こされる該材料中における状態、条件および/もしくは構造上の変化を意味する。用語「硬化する」または「硬化」は、部分的な硬化および完全な硬化を含む。
【0016】
該硬化性成分は、アミノおよびアルコキシ官能基を共に有するシラン、キャリア、および架橋剤を含む。このシランは、一般式:
【0017】
【化3】

を有し、式中:
は、ヒドロキシおよびアルコキシから選択され;
は、アルキル、アルキレン、または水素であり;
は、水素およびアルキルから選択され、ここで前記アルキルは、任意にアミノ基またはアルコキシシリル基によって置換され;
Xは、C−Cアルキレン(すなわち、C、C、C、C、C、C、望ましくはC)であり;および
aは、0または1である。
【0018】
本発明において有用なシランの非限定的な例としては、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、アミノプロピルシラントリオール、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルシラントリオール、ならびに上記のモノマーから上記の事前に形成された、もしくはイン・サイチュで形成されたオリゴマー、さらにはそれらの組合せが挙げられる。これらのシランは、供給源、例えば、Gelest、Dow Corning、Shin−Etsu Chemical、およびMomentive Performance Materialsから市販品が入手可能である。
【0019】
本発明のシランは、所望の結合強度および離型耐久性を得るのに有効な量でモールドシーラー組成物中に存在する。シランは、モールドシーラー組成物中に望ましくは0.1−10重量%、より望ましくは0.3−5重量%、さらにより望ましくは0.5−2重量%の量で存在する。
【0020】
モールドシーラー組成物は、式Iで表されるシラン以外の当該技術分野において公知である硬化成分を望ましくは含んでいてよい。特にシランが水に可溶性でない場合、またはほんの部分的に水に可溶性である場合、1種の乳化剤または複数種の乳化剤が安定性に対して有利である。
【0021】
追加のシランまたは架橋剤は、シーラーコーティングの架橋密度を調整するために式(I)で表されるアミノシランと共に使用することができる。そのような調整剤の有用な例は、テトラ−またはトリアルコキシシランである。式(I)が3個未満の架橋基を有する場合、架橋調整剤の添加は特に有用である。
【0022】
熱硬化性成分は、式(I)で表されるものまたは調整剤のいずれかの架橋剤を含むことが望ましい。架橋は、例えばブリッジおよび交差ブリッジによる2つ以上のポリマー鎖の結合であり、元素、基、または化合物のいずれかを含む。架橋剤は、アルコキシ官能基化シランおよびヒドロキシル官能基化シランからなる群より選択されることが望ましい。
【0023】
適した架橋剤は、例えば単量体、環状、オリゴマー状またはポリマー状シラザン、エノキシ官能性シラザン、シリコンハイドライド、トリアルコキシ−およびトリアルコキシシランを例とするアルコキシ官能性シラン、メチルエチルケトオキシム官能性シラン、アセトキシ官能性シラン、エノキシ官能性シラン、アミノ官能性シラン、およびそれらの組合せなど様々な架橋剤から選択されてよいが、これらに限定されない。適した架橋剤としてより具体的には、トリスメチルアミノ官能性シラン、トリスエノキシ官能性シラン、ハイドライド官能性シラン、および環状トリシラザンが挙げられるが、これらに限定されない。特に有用な架橋調整剤は、官能基化ポリジメチルシロキサン(PDMS)、例えばヒドロキシル末端PDMSである。
【0024】
架橋剤は、本発明の離型剤組成物中に望ましくは約0.01から約10重量%、さらに望ましくは約0.3から約3重量%の量で存在する。
【0025】
モールドシーラー組成物は、キャリアを含む。適したキャリアとしては、エマルジョンキャリア、水系キャリアおよび有機キャリアが挙げられる。望ましい態様では、キャリアは、例えば溶液またはエマルジョン組成物の一部として含む水である。
【0026】
有機キャリアの例としては、非VOCキャリア成分が挙げられる。望ましくは、非VOCキャリアは分岐鎖、直鎖、もしくは環状であってよいシロキサン化合物、または同様に分岐鎖、直鎖、もしくは環状であってよいフッ素化アルカン化合物、ならびにそれらの組合せを含む。他の有用な非VOCキャリアとしては、EPAによって40C.F.R§51.100におけるVolatile Organic Compoundの規定から適用外としてリスト化された化合物から選択された環境を害しない非反応性溶媒が挙げられ、それらはその全てを参照にして本明細書に明示的に組みこまれる。一般的な当業者であれば、EPAリストのどの溶媒が非反応性であり環境を害さないか、すなわち本発明の組成物として使用するのに適するかが分かるであろう。さらに、0.1mmHg未満の蒸気圧を有する溶媒は非揮発性であり、本発明の目的においてこれらも非VOC溶媒とみなされる。
【0027】
本発明のある態様に従って、非VOC溶媒は単独または他の非VOC溶媒と組合せて使用されてよい。さらに、それらは徐々に蒸発するので、望ましくは非VOC溶媒をVOC溶媒と混合することができ、それによってVOCの低いキャリア組成物を形成する。VOC有機キャリアとしては、例えば、脂肪族または芳香族のC6−14炭化水素を挙げることができる。
【0028】
非VOCキャリアは、硬化性離型剤組成物中に例えば全組成物(重量/重量)の約1%から約99.9重量%の量で存在する。
【0029】
本発明のある実施形態では、モールドシーラー組成物は非VOCキャリアとVOCキャリアの組合せであるキャリア組成物を含んでいてよく、その結果、上記にある様なVOCの低いキャリア組成物を提供する。VOCキャリア成分は離型剤組成物で使用される任意の従来のVOC溶媒であってよく、例えばCからC14脂肪族、芳香族溶媒、有機エーテル、アセテートまたはそれらの混合物などである。他のVOCキャリア成分は、例えばエタノールまたはプロパノールなどのアルコールを含み、純アルコールまたは水と混合して任意の濃度にしたアルコールであってよい。VOCキャリアは、約0.1から約99.9重量%の量で存在してよい。
【0030】
本発明のモールドシーラー組成物は、他の任意の添加物を多く含んでいてよく、例えば塩基、触媒、殺生物剤、スリップ剤、染料、硬化調整剤、フィラー、粘度調整剤、およびそれらの組合せを含んでよい。
【0031】
本発明で使用されるスリップ剤は、官能性または非官能性シロキサンであってよい。
【0032】
本発明で使用される塩基は、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、KOHまたは任意の他の適した塩基であってよい。当該技術分野において公知である任意の種類の塩基が本発明に従って使用されてよい。金属/モールドに対してより優れた結合能力をシランに提供することができるため、望ましくは適した塩基として非プロトン化アミンを使用してよい。
【0033】
該塩基の機能はpHを塩基性領域に調節するのに役立つことができ、それによって式(I)で表されるアミノ基は脱プロトン化される。
【0034】
任意の従来型触媒は、本組成物の離型剤特性が損なわれない限り使用されてよい。使用可能な適した触媒としては、従来型の有機金属触媒、例えば、水および溶媒系の有機チタン誘導体および有機錫誘導体、第3級アミン化合物、およびある種の前期遷移金属化合物が挙げられる。一般的に、触媒は約0から1.0重量%の量で存在する。しかしながら、この濃度は所望の硬化速度に依存して変化してよい。
【0035】
モールドシーラー組成物のpHは、望ましくは約3から約11であり、より望ましくは約10から約11であり、最も望ましくは約10.5から約10.8である。低いpHは、より長い保存寿命期間を有するさらに安定なシラノールをもたらすことができるが、しかしながら、高いpHを有するシーラーコーティングは適用(例えば、耐久性)においてより効果的である。一般的に、本組成物は耐久性(すなわち離型の回数や離型の容易さ)および安定性の間でのバランスを達成するように配合することができる。例えば乳化剤のような他の添加物との組合せでpHを選択することは、そのような特性バランスを達成する可能性を増大させる。
【0036】
また、モールドシーラー組成物は、pH調整剤を含んでいてよい。pH調整剤は、モールドシーラー組成物の保存寿命期間を改善するのに有効な量および脱プロトン化剤として有効な量で添加してよい。pH調整剤は所望のpH、例えば約3から約11、より望ましくは約10から約11、最も望ましくは約10.5から約10.8を維持するために添加されることが望ましい。モールドシーラー組成物にとって所望のpHを得る必要があるために、適したpH調整剤として酸および塩基が共に挙げられる。適したpH調整剤の例としては、例えばトリエタノールアミン、酢酸、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、およびトリエチルアミンが挙げられる。
【0037】
本発明に従って、モールドシーラー組成物は、モールドシーラーコーティングを形成するために一部分に塗布することが望ましい。塗布の際に本組成物は環境温度または高い温度で硬化して、モールドシーラーコーティングを形成する。本発明のある実施形態では加熱の必要はないが、しかしながら、望ましくは硬化速度に影響を与えるために加熱してよい。すなわち、選択される成分に依存して望ましくは加熱してよい。室温での硬化の実施形態では、硬化時間は、約2分から約48時間の範囲にあることが望ましい。適した加熱適用の例としては、例えば400Fで5分間の硬化、325Fで10分間の硬化、または200Fで30分間の硬化が挙げられる。
【0038】
硬化時間は、上記のようにある種の適した触媒を添加する際には短縮してよい。本組成物は硬化して、離型組成物をモールドから部品に移すことで離型された部品を汚すことなく、多くの回数の離型を可能にする高耐久性仕上がりになることが望ましい。1つの実施形態では、硬化された本組成物は少なくとも3回の離型、望ましくは少なくとも4回の離型、より望ましくは少なくとも5回の離型、さらにより望ましくは少なくとも6−9回の離型、最も望ましくは少なくとも10回の離型を可能にする。
【0039】
本発明の硬化されたモールドシーラー組成物は安定であることが望ましく、例えば実質的な期間、例えば少なくとも約6ヶ月間、より望ましくは少なくとも約1年間、沈降、分離または性能劣化が全くないかもしくはそれらを著しく減少する。沈降および分離の存在は、通常は補助なしでの観察、肉眼によって決定することができる。
【0040】
モールドシーラー組成物は塗布され、シールされたモールドアッセンブリを形成する。該シールされたモールドアッセンブリは、少なくとも1つの表面を有する部品を形成するモールドおよび前記少なくとも1つの表面上へのコーティングを含むが、ここで前記コーティングは本発明のモールドシーラー組成物を含む。モールド形成部品は、例えばスチール、ステンレススチール、クロム、鋳鉄、アルミニウムおよびニッケルからなる群より選択される金属などの材料から構成されていてよい。該モールドシーラー組成物は、前記少なくとも1つの表面に化学的に結合されてよい。
【0041】
本発明はまた、以下の方法:
(a)部分を形成するためのモールドを提供することであって、前記モールドは、少なくとも1つの表面を有し;
(b)モールドシーラー組成物を前記少なくとも1つの表面に塗布することであって、前記モールドシーラー組成物は、
(i)式I:
【0042】
【化4】

を有するシランであって、式中:
は、ヒドロキシおよびアルコキシから選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルから選択され、ここで、前記アルキルは、任意にアミノ基またはアルコキシシリル基によって置換され;
Xは、C−Cアルキレンであり;および
aは、0または1であり;
(ii)キャリア;を含み;および
(c)前記モールドシーラー組成物を少なくとも部分的な硬化を生じさせるのに充分な時間、硬化条件に曝し、それにより、耐久性シールを前記モールド上に形成する、
によって形成される、シールされたモールドを意図する。
【0043】
任意の適した硬化条件を用いてよく、例えば熱硬化(例えば400Fで5分間、325Fで10分間、または200Fで30分間)を用いてよい。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
表1は、5種の本発明による組成物の重量%を示す:
【0045】
【表1】

【0046】
表2は、乳化剤が存在する組成物1、2、5、乳化剤のない組成物1A、2A、および5Aの重量%を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
組成物1、2、および5は水溶性のシランを含み、乳化剤(単数または複数)の存在下、および乳化剤(単数または複数)の非存在下で行われた。結果は、乳化剤(単数または複数)の有無により観察できる違いを示さず、可溶性シランが乳化剤を必要としないことを指示した。
【0049】
表3は、乳化剤の存在下の組成物3および4の重量%、乳化剤の非存在下の組成物3Aおよび4Aの重量%を示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表2とは対照的に、組成物3Aおよび4Aは水に不溶のシランを含み、乳化剤(単数または複数)を使用せずに試験した場合、混合して均一な溶液を形成できなかった。激しく混合した後でさえも、シランが水の上に浮かんでいるのを明確に見ることができた。従って、組成物3Aおよび4Aに対してモールド表面上に均一なコーティングを作製する確実な方法はなく、結果として、これらの配合物をモールドシーラーとしての有効性に関して試験できなかった。
【0052】
様々な型のモールド材料(ステンレススチールおよび/またはクロムメッキされたモールド)について、表1に示されるモールドシーラー組成物のシール有効性(離型可能性)を評価するための実験を実施した。
【0053】
下記の手順に従って離型性を試験した。
【0054】
1.本発明によるモールドシーラー組成物の4つのコートを、1から1.5mL/秒で噴霧するように調節したスプレーガンを使用して、1対の金属パネルに塗布した。本発明のモールドシーラー組成物を塗布した後、それを325°Fで10分間硬化させた。
【0055】
2.本発明のモールドシーラー組成物を硬化し、塗布した後、市販品で入手可能なシリコーン系離型剤(Henkelから入手できるFrekote R−150)を同じスプレーガンを使用してパネルに塗布し、325°Fで10分間硬化させた。
【0056】
3.硬化した後、未硬化EPDMゴムの小片をこれら2つのパネルの間に置き、次いで5000ポンドの荷重および350°Fの温度を適用しながらパネルを高温プレスに置くことで、該パネルの離型性について試験した。25分後ゴムは完全に硬化し、パネルを高温プレスから取り外した。
【0057】
4.2つの該パネルを分離し、硬化したゴムを取り外した。
【0058】
離型性を評価するための基準は、以下のとおり1(最悪)から5(最良)の階級に基づいた。5の評価は、ゴムを離型するのに実質的に力が必要なく、自動的な離型を示す。4の評価は、離型するのに小さな力が必要であることを示す。3の評価は、離型するのに適度な力が必要であることを示す。2の評価は、離型するのに大きな力が必要であることを示す。1の評価は全く離型しないことを示し、損傷を受けずにゴムを取り外すことができない。離型性のわずかな違いを示すためにプラスおよびマイナスの印を使用し、例えば「4+」は「4」よりわずかに容易であるが、しかし「5−」よりも容易ではない。
【0059】
スチールおよびクロムモールドに関して、Frekote R−150をモールドシーラーと共に使用する場合およびこのシーラーを共に使用しない場合について試験を実施した。著しく容易な離型の回数、つまり離型性度において「5」の評価を達成できる「自動的」離型の回数を数えることによって、結果を比較した。自動的離型とは、硬化したゴムをモールド表面から取り外すのに実質的に全く力を必要としない離型として定義される。
【0060】
ステンレススチールモールド
上記の手順に従って、本発明のモールドシーラー組成物(番号1、2、3および5)をステンレススチール上で試験し、比較を行った。
【0061】
比較試験を実施して、シーラーを使用せずに離型剤を使用した場合のモールド離型性、ならびにシーラーもしくは離型剤を使用しない場合の離型性を試験した。離型試験を複数回繰り返し、各組成物の単一の塗布で離型を容易に達成できる回数を決定した。下記の結果を得た。
【0062】
【表4】

【0063】
表2に例示するように、本発明のモールドシーラー組成物は、コントロールと比較してステンレススチール上で優れた離型特性を得た。表2から明らかなように、本発明の組成物はまた、コントロールよりも少なくとも3.5−6倍多い離型サイクルを達成した。従来のFrekote R−150単独では、ただ1回の自動的離型ができたところが、スチールモールド上でシーラーを使用する場合には12回の自動的離型を達成することが可能であった。
【0064】
クロムメッキされたモールド
同じ手順に従って、本発明のモールドシーラー組成物(番号1、2、3および5)をクロムメッキされたモールド上で試験し、比較を行った。
【0065】
シーラーを使用せずに離型剤を使用した試験、およびシーラーおよび離型剤を使用した試験について比較を行った。離型試験を複数回繰り返し、各配合物の一回の塗布によって容易な離型がもたらされる回数を決定した。下記の結果を得た:
【0066】
【表5】

【0067】
表3に示されているように、本発明のモールドシーラー組成物は、クロムメッキされたモールド上で優れた離型特性を得た。いくつかの例で記載したように、本発明のモールドシーラー組成物は、コントロール(シーラーおよび離型剤組成物を伴わない)と比べて2−4倍多い離型サイクル数を達成した。従来のR−150単独ではただ1回の自動的離型ができたところが、クロムモールド上でシーラーを使用する場合では12回の自動的離型を達成することが可能であった。
【0068】
図1の表に示すクロムおよびスチール基体上での結果は、このモールドシーラーが熱可塑性および特にゴム成形産業に対して如何に有利であるかについて鮮明に示している。本発明のモールドシーラー組成物は、本発明のシーラー組成物を伴わないモールドと比べて、それぞれの離型剤の塗布からの離型回数を著しく増加させることを可能にする。そのような結果は、さらに、使用者に対して時間および金銭の顕著な節約を提供する。
【0069】
<実施例2>
保存寿命期間試験
【0070】
モールド:クロムモールド
【0071】
成形パラメータ:本発明の組成物1−5各々を、40日間に渡る熱老化(これは室温で1年にほぼ等しい)について試験した。1日の熱老化は、9日の室温老化と同じである。
【0072】
塗布:保存寿命期間を調査中、各試験に対してゴム離型の標準試験方法を用いてモールドシーラーの熱劣化試料を評価した。熱劣化したモールドシーラー試料をオーブンから取り出し、4つのコートを使用してクロムモールドにスプレー塗布した。それを325°Fで10分間硬化した。次に、同じスプレーガンを用いてFrekote R−150をパネルに塗布し、325°Fで10分間硬化させた。次いで、EPDMゴムを離型する能力について、各々のパネルを試験した。モールドシーラーの性能が時間とともにどのように変化するかを決定するために、結果を比較した。
【0073】
試験結果:モールドシーラーが室温(77°F、すなわち25℃)で少なくとも1年の保存寿命期間を有することを決定した。その結果は図2に提供する。
【0074】
図2の保存寿命期間表に示すように、本発明の組成物は、室温での部分に対する2、4および6月か月の老化の後、優れた離型を提供し続けた。
【0075】
さらに、図2の結果は、室温で360日に相当する老化の後、シーラーが時間とともに性能のわずかな低下を示すが、なおもシーラーによってR−150が7回の自動的離型および17回の良好な離型を達成できることを示す。これは、1回の自動的離型/良好な離型(シーラーなしで可能である)と比較して顕著な改善である。
【0076】
17−23回の自動的離型/良好な離型の後、シールされたモールドにタッチアップコートとして離型剤Frekote R−150を塗布した。各タッチアップコートは、最初のシールされたモールドとほぼ同じ数の離型を提供する(例えば、17−23)。モールド表面が式(I)で表されるもので既にシールされた後では、シーラーを再塗布する必要がなかった。
【0077】
<実施例3>
腐食試験
モールドシーラーが金属モールドに腐食損傷を起こすかどうかを決定するために、簡単な試験を行った。なぜなら、これは水系配合物にとっては共通な問題であるからである。過剰量のモールドシーラーをスチールパネルに塗布し、室温で一夜、空気乾燥させた。また、それと同じパネル上で同じ試験を水およびFrekote R−150を用いて実施した。
【0078】
その結果により、本発明のモールドシーラー組成物はスチールモールド上にさびを形成させないが、一方、水とFrekote R−150単独との組合せを使用するとさびを形成させることが示された。これは固有の化学反応に起因しており、これによってモールド表面で起こる酸化損傷はもたらされない。
【0079】
<実施例4>
任意の高度硬化による第2硬化
モールドシーラーの第1の硬化を325°Fで10分間行った。硬化後、モールドシーラーを600°Fに加熱し、その温度で1時間保持した。次いで、冷却して325°Fに戻し、Frekote−R150をモールドに塗布して、10分間硬化させた。このパネルのゴム離型を試験した結果、20回の自動的離型が可能であり、これは第2の硬化なしで達成できる12回の自動的離型と比較して顕著な改善であった。
【0080】
<実施例5>
シラン濃度
実施例6では、モールドシーラー組成物において使用するシランの最適量を決定するために実施された試験を記載する。
【0081】
水系試料を、0.5%、1.0%、および1.5%のアミノプロピルトリエトキシシラン(APTESと略される)を使用して調製した。
【0082】
先に示した試験方法に記載されているように、これらの試料をクロムパネルに塗布し、Frekote−R150離型剤を使用して試験した。
【0083】
結果は、以下のとおりである。
【0084】
【表6】

【0085】
これらの結果は、最適な濃度が約1.0%シランであることを示す。より多量に使用することは、殆どまたは全く利益はなく、ならびに、より少量で使用することは性能の低下をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式I:
【化1】

を有するシランであって、式中、
は、ヒドロキシおよびアルコキシからなる群より選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され、ここで前記アルキルは任意にアミノ基またはアルコキシシリル基で置換され;
Xは、C−Cアルキレンであり;および
aは、0または1であり;
(b)キャリア;
(c)pH調整剤、
を含むモールドシーラー組成物であって、前記組成物は10−11のpHを有し、少なくとも約6か月間から少なくとも約1年間安定である、組成物。
【請求項2】
さらにスリップ剤を含み、前記スリップ剤が官能性または非官能性シロキサンからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、10.5−10.8のpHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記キャリアが、エマルジョン、水系溶液および有機溶液からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
さらに架橋剤を含み、前記架橋剤がアルコキシ官能基化シランおよびヒドロキシ官能基化シランからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
さらに乳化剤を含み、前記乳化剤が3−25のHLBを有する非イオン性およびイオン性界面活性剤の使用からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記pH調整剤が、トリエチルアミンもしくは7より高いpHを有する同等物、ならびに酢酸もしくは7より低いpHを有する同等物からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
Xが、Cアルキレンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記式Iで表されるシランが、3−アミノプロピルトリエトキシシランである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記式Iで表されるシランが、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、n−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン、3−アミノプロピルシラントリオール、および上記モノマーから上記の事前に形成されたまたはイン・サイチュで形成されたオリゴマーからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
さらに塩基を含み、前記塩基がトリエチルアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
さらに、有機チタン化合物および有機錫化合物からなる群より選択される触媒を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
さらに殺生物剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
(a)部品を形成するためのモールドであって、前記モールドは少なくとも1つの表面を有し;
(b)請求項1に記載のモールドシーラー組成物を含む前記少なくとも1つの表面上のコーティング;
を含む、シールされたモールドアッセンブリ。
【請求項15】
前記モールドシーラー組成物が、前記少なくとも1つの表面に化学的に結合している、請求項14に記載のアッセンブリ。
【請求項16】
前記モールドが、スチール、ステンレススチール、クロム、鋳鉄、アルミニウム、およびニッケルからなる群より選択される金属から構成される、請求項14に記載のアッセンブリ。
【請求項17】
耐久性シールをモールド上に製造するための方法であり、以下のステップ:
(a)部品を形成するためのモールドを提供するステップであって、前記モールドは少なくとも1つの表面を有し;
(b)前記少なくとも1つの表面にモールドシーラー組成物を塗布するステップであって、前記モールドシーラー組成物は:
(i)式I:
【化2】

を有するシランであって、式中、
は、ヒドロキシおよびアルコキシからなる群より選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され、ここで前記アルキルは、任意にアミノ基またはアルコキシシリル基によって置換され;
XはC−Cアルキレンであり;および
aは、0または1であり;
(ii)キャリア;を含み;および
(c)前記モールドシーラー組成物を少なくとも部分的な硬化を生じさせるのに充分な時間、硬化条件に曝すステップであって、それにより、前記モールド上に耐久性シールを形成する、
を含む方法。
【請求項18】
前記硬化条件が、400°Fで5分間または200°Fで30分間である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記組成物がより高い温度の第2の硬化を受ける、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
モールドシーラー組成物を調製するための方法であり、以下のステップ:
(a)キャリアと式I:
【化3】

を有するシランとを混合して前記キャリア中で前記シランのエマルジョンまたは溶液を形成するステップであって、式中:
は、ヒドロキシおよびアルコキシからなる群より選択され;
は、アルキル、アルキレン、水素であり;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され、ここで前記アルキルは、任意にアミノ基またはアルコキシシリル基によって置換され;
XはC−Cアルキレンであり;および
aは、0または1であり;および
(b)任意に1種以上の架橋剤、乳化剤、pH調整剤、塩基、触媒および殺生物剤を前記エマルジョンまたは溶液に添加してモールドシーラー組成物を形成するステップ、
を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−500144(P2012−500144A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523955(P2011−523955)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/054282
【国際公開番号】WO2010/022133
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(500538520)ヘンケル コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL CORPORATION
【Fターム(参考)】