説明

ラジアル転がり軸受の試験方法

【課題】実際に使用するラジアルニードル軸受6、6を運転しつつ、スミアリングの発生状況を検査できる試験方法を実現する。
【解決手段】上記ラジアルニードル軸受6、6を、第一の駆動軸8を中心として回転するキャリア11を構成する遊星軸1、1の回りに配置する。この第一の駆動軸8によりこのキャリア11を回転させて、上記各ラジアルニードル軸受6、6に、各遊星歯車2、2に加わる遠心力に見合うラジアル荷重を負荷する。同時に、第二の駆動軸9により太陽歯車18を回転させて、上記各遊星軸1、1の周囲に設けた各遊星歯車2、2を回転させる。上記第一の駆動軸8の回転速度により上記ラジアル荷重を適正にして、スミアリングを再現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車(4輪及び2輪)、航空機、電気機器、情報機器、マシニングセンタ等の各種工作機械、鉄鋼用圧延機等の各種産業機械等の回転支持部に組み込む、各種ラジアル転がり軸受の耐久性を評価する為の、ラジアル転がり軸受の試験方法に関する。特に本発明は、潤滑剤の不足等により発生する局所的な凝着現象である、スミアリングと呼ばれる損傷を再現する事で、スミアリングがラジアルニードル軸受の耐久性に及ぼす影響を知る為に有効な試験方法を実現するものである。この様な本発明は、例えば、各種機械装置の変速機として使用される遊星歯車機構を構成する遊星軸の周囲に遊星歯車を回転自在に支持する為の、総ニードル型のラジアルニードル軸受の耐久性を試験する方法として有効である。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部に、玉軸受、ころ軸受、円すいころ軸受、球面ころ軸受等の各種ラジアル転がり軸受が組み込まれている。何れのラジアル転がり軸受に関しても、内周面に外輪軌道面を有する外輪相当部材と、外周面に内輪軌道面を有する内輪相当部材と、これら外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。この様なラジアル転がり軸受に所期の(設計値通りの)耐久性を持たせる為には、上記外輪、内輪両軌道面と上記各転動体の転動面との接触部の接触状態を、純転がり若しくは純転がりに近い状態に保つ必要がある。逆に言えば、この接触部の接触状態中に混在する滑りの割合が多くなり、しかもこの接触部の潤滑状態が不良であると、この接触部に、転がり軸受の技術分野で広く知られている、スミアリングと呼ばれる損傷が発生する。
【0003】
この様なスミアリングは、ラジアル転がり軸受を組み込んだ機械装置の急加減速、転動体であるころのスキュー等により上記接触部に滑りが発生し、転動体の転動面と外輪軌道面又は内輪軌道面との間に存在する油膜が破断される等により発生する。又、上記接触部の滑りは、ラジアル転がり軸受が負荷している荷重が小さい場合に生じ易い事も、転がり軸受の技術分野で広く知られている。即ち、ラジアル転がり軸受の(ラジアル)基本動定格荷重をCとし、実際にこの転がり軸受が負荷している(ラジアル)荷重をPとした場合に、P/Cが5%を越えない(一般的には8.3%以上ない)程の軽荷重で運転されると、上記スミアリングが発生し易い事が知られている。そして、このスミアリングが発生すると、上記ラジアル転がり軸受に焼き付き等の重大な損傷を発生する。従って、このスミアリングの発生を抑える為に、ラジアル転がり軸受の高速運転が不能になる(許容回転速度を満足できない)。
【0004】
この為、ラジアル転がり軸受の運転条件は、スミアリングを発生しない、言い換えれば過大な滑りが発生しない条件下で設定する事が重要になる。ラジアル転がり軸受にスミアリングを発生させず、しかも転がり疲れ寿命を確保して早期剥離等の損傷を防止し、十分な耐久性を確保する為には、上記ラジアル転がり軸受に適正なラジアル荷重を負荷し、且つ、十分量の潤滑油を供給しつつ運転すれば良い。但し、負荷するラジアル荷重は、機械装置の運転条件により大きく変動する。例えば、自動車用自動変速機を構成する遊星歯車機構で、各遊星軸の周囲に遊星歯車を回転自在に支持している、保持器を持たない総ニードル型のラジアルニードル軸受の場合、当該遊星歯車が動力伝達を行なっている場合と行なっていない状態とで、負荷するラジアル荷重が大きく(桁違いに)変動する。この様なラジアルニードル軸受に於いては、上記遊星歯車が動力伝達を行なわず、加わるラジアル荷重が僅少である状態で、スミアリングが発生し易くなる。この様な状態でもスミアリングが発生しない様にする為には、多量の潤滑油を供給し続ければ良いが、必要以上の潤滑油を供給する事は、潤滑油を供給する給油ポンプによる動力損失の増大、転動体の公転に伴う潤滑油の攪拌抵抗の増大に結び付く。この攪拌抵抗の増大は、上記ラジアル転がり軸受の動トルクの増大、延てはこのラジアル転がり軸受を組み込んだ各種機械装置の効率の低下に結び付く為、好ましくない。従って、実際の場合には、無闇に潤滑油の供給量を多くする事はできない。
【0005】
上述の説明から明らかな通り、各種機械装置に組み込むラジアル転がり軸受に関して、スミアリングが発生する条件を知る事は、これら各種機械装置の耐久性及び効率を向上させる設計を行なう為に重要である。この為従来から、例えば特許文献1、2に記載されている様な、所謂2円筒試験により、スミアリングに関する試験を行なっている。2円筒試験は、互いの外周面同士を接触させた1対の円筒を、互いの外周面を押し付け合いつつ、周速を異ならせた状態で互いに逆方向に回転させる事により、接触部を周速の差に応じて滑らせ、接触部にスミアリングを発生させる試験方法である。
【0006】
この様な2円筒試験によるスミアリングの再現は、例えば転がり軸受を構成する材料の開発を行なう場合には或る程度有効であるが、既に存在するラジアル転がり軸受に関して、スミアリングの発生を防止できる運転条件を求める為の試験方法としては、適切とは言えない。この様な運転条件を求める為には、実際に使用するのと同じ仕様のラジアル転がり軸受を各種条件下で運転し、当該ラジアル転がり軸受の構成部品の表面(外輪、内輪両軌道面、各転動体の転動面)にスミアリングが発生するか否かを検査する必要がある。例えば、前記自動変速機用の遊星歯車機構に組み込む総ニードル型のラジアルニードル軸受の場合、転動体(ニードル)のピッチ円直径をdm[mm]、遊星軸の周囲での遊星歯車の回転速度をN[min-1 ]とした場合に、これらの積であるdm・Nが15〜30万(例えば、ピッチ円直径dmを15mmとした場合で、遊星歯車の自転速度が10000〜20000min-1 )に達すると、スミアリング発生の可能性がある事が知られている。
【0007】
この為従来は、例えば自動変速機の運転条件を、経験的に、上記総ニードル型のラジアルニードル軸受のdm・Nを15万以下に抑えて、スミアリングの発生を防止する様にしていた。但し、この様に、一部の転がり軸受の運転条件を規制する事は、自動変速機の設計の自由度を制限する為、好ましくない。これに対して上記スミアリングの発生は、dm・Nを低く抑える事の他、潤滑条件等、他の条件によっても防止できると考えられている。但し、この様な他の条件は、実際に使用するラジアルニードル軸受を運転しつつ求めなければ、精度良く求める事はできない。例えば、各転動体の転動面と外輪、内輪両軌道面との接触部分を見た場合、転動面と内輪軌道面との接触部分は、凸曲面同士の接触となり、2円筒試験でも比較的似た条件を再現できる。これに対して、転動面と外輪軌道面との接触部分は、凸曲面である転動面と、凹曲面である外輪軌道面との接触となり、2円筒試験で似た条件を再現する事はできない。従って、従来からスミアリングに関する試験を行なっていた、2円筒試験では、上記他の条件を求める事はできない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−130061号公報
【特許文献2】特開2004−137553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、実際に使用するラジアル転がり軸受を運転しつつ、スミアリングの発生状況を検査できるラジアル転がり軸受の試験方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のラジアル転がり軸受の試験方法は、内周面に外輪軌道面を有する外輪相当部材と、外周面に内輪軌道面を有する内輪相当部材と、これら外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたラジアル転がり軸受が無負荷乃至軽負荷状態で運転された場合に、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面と上記各転動体の転動面とのうちの少なくとも何れかの面に発生するスミアリングを再現する試験方法である。
この為に本発明のラジアル転がり軸受の試験方法では、上記ラジアル転がり軸受を、支持軸を中心として回転する回転支持部材に、上記外輪相当部材及び上記内輪相当部材の中心軸をこの支持軸と平行に配置すると共に、これら外輪相当部材と内輪相当部材との相対回転を可能に支持する。この状態で、上記回転支持部材を上記支持軸を中心として回転させつつ(ラジアル転がり軸受を公転させつつ)、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材とを相対回転させ(ラジアル転がり軸受を自転させ)、上記回転支持部材の回転速度に応じたラジアル荷重を、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材との間に負荷する。
【0011】
上述の様な本発明のラジアル転がり軸受の試験方法を実施するのに、例えば請求項2に記載した様に、転動体のピッチ円直径をdm[mm]とした場合に、外輪相当部材と内輪相当部材とのうちの内輪相当部材を回転支持部材に固定した状態で、外輪相当部材をこの内輪相当部材に対し、N[min-1 ]なる回転速度で、dm・N≧15万を満たす条件下で回転させる。
更に、この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記ラジアル転がり軸受を、外輪軌道面及び内輪軌道面が円筒面で各転動体がニードルであって、保持器を持たない、総ニードル型のラジアルニードル軸受とする。又、このラジアルニードル軸受の中心軸と支持軸の中心との距離である公転半径を20〜100mmとし、回転支持部材の回転速度を1000〜10000min-1 とし、上記各ニードルのピッチ円直径dmを8〜25mmとし、外輪相当部材を内輪相当部材に対し、dm・N≦75万を満たす事を条件に、7500〜35000min-1 で回転させる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明のラジアル転がり軸受の試験方法によれば、実際に使用するラジアル転がり軸受を運転しつつ、スミアリングの発生状況を検査できる。先ず、このラジアル転がり軸受を公転運動させつつ自転運動させる事によりスミアリングの再現をできる理由に就いて、図1〜2により説明する。
【0013】
先ず、スミアリングが発生する典型的な状態に就いて、図1を参照しつつ説明する。この図1は、内輪相当部材である遊星軸1の周囲に、外輪相当部材である遊星歯車2を、それぞれが転動体である複数本のニードル3、3により、回転自在に支持した状態を示している。上記遊星軸1の外周面が円筒状の内輪軌道面4となり、上記遊星歯車2の内周面が円筒面状の外輪軌道面5となる。そして、これら両軌道面4、5が、上記各ニードル3、3と共に、総ニードル型のラジアルニードル軸受6を構成する。スミアリングの発生状況を検査する為には、このラジアルニードル軸受6が負荷するラジアル荷重Pを、このラジアルニードル軸受6のラジアル基本動定格荷重Cの5%以下(P/C≦5%)として、上記遊星歯車2を回転させる必要がある。
【0014】
例えば、図1に矢印αで示す様に、同図の下方に、P/C≦5%を満たすラジアル荷重Pを加えつつ上記遊星歯車2を回転させると、このラジアル荷重Pが作用している側(図1〜2の上側)に存在する一部(数本)のニードル3、3のみが、図2(B)に示す様にこのラジアル荷重Pを支承する。この場合でも、このラジアル荷重Pが小さく、これら一部のニードル3、3の転動面と上記両軌道面4、5との接触部の状態が、純転がり接触とはならず、滑りが含まれた接触状態となる。この様な状態で、上記各ニードル3、3の転動面と上記両軌道面4、5との滑り速度が5m/s(特に7m/s)以上になる様に、上記遊星歯車2を回転させると、上記各ニードル3、3の転動面と上記両軌道面4、5とのうちの少なくとも何れかの面にスミアリングが発生する。
【0015】
要するに、ラジアルニードル軸受6等のラジアル転がり軸受に、小さなラジアル荷重Pを付加しつつ、このラジアル転がり軸受を高速運転すれば、実際に各種機械装置の回転支持部に組み込むラジアル転がり軸受で、スミアリングを再現できる。但し、P/C≦5%を満たす様な小さなラジアル荷重Pを、精度良く加えつつ上記遊星歯車2を回転させる構造は、実現可能ではあるが、構造が比較的複雑になり、設備費が嵩む事が避けられない。
【0016】
これに対して本発明のラジアル転がり軸受の試験方法の場合には、支持軸を中心として回転支持部材を回転させ、この回転支持部材に支持した上記ラジアル転がり軸受の構成部材に、遠心力により、この回転支持部材の径方向外方に向かうラジアル荷重を付加できる。従って、例えば内輪相当部材である遊星軸1をこの回転支持部材に対し固定し、外輪相当部材である遊星歯車2を、転動体である各ニードル3、3を介して上記遊星軸1の周囲に回転自在に支持すれば、この遊星軸1と上記遊星歯車2との間に、図1の(A)に示す様に、この遊星歯車2に加わる遠心力に基づき、上記支持部材の径方向内側(図1〜2の下側)に存在する一部(数本)のニードル3、3のみが、上記遠心力に対応するラジアル荷重Pを支承する。
【0017】
上記回転支持部材の回転に伴って上記遊星歯車2に加わる遠心力は、この遊星歯車の質量と、上記支持軸の中心からこの遊星歯車の中心迄の径方向距離(公転半径)と、上記回転支持部材の回転角速度とに基づいて、計算により求められる。又、この公転半径と質量とを一定とすれば、この回転角速度を変える事により、上記遠心力を任意に調節できる。そして、この遠心力に基づくラジアル荷重Pを、P/C≦5%を満たす条件で精度良く加えつつ、上記遊星歯車2を回転させる事ができる。この場合でも、上記遠心力に基づくラジアル荷重Pが小さく、上記一部のニードル3、3の転動面と内輪、外輪両軌道面4、5との接触部の状態が、純転がり接触とはならず、滑りが含まれた接触状態となるので、接触部の滑り速度が5m/s(特に7m/s)以上になる様に、上記遊星歯車2を回転させると、上記各ニードル3、3の転動面と上記両軌道面4、5とのうちの少なくとも何れかの面にスミアリングを発生させる事ができる。特に、請求項2、3に記載した条件下で運転すれば、例えば、自動変速機を構成する遊星歯車機構用のラジアルニードル軸受に、スミアリングを発生させる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図3は、本発明の実施に供するラジアル転がり軸受用試験装置の1例を示している。先ず、この試験装置の構造に就いて説明してから、この試験装置により、供試軸受であるラジアルニードル軸受6にスミアリングを発生させる際の動作に就いて説明する。フレーム7に第一、第二の駆動軸8、9を、それぞれ複数個の転がり軸受10、10により、互いに同心に、且つ、互いに独立した回転を自在に支持している。上記両駆動軸8、9のうちの第一の駆動軸8が、特許請求の範囲に記載した支持軸に相当する。この第一の駆動軸8の先端部には、特許請求の範囲に記載した回転支持部材である、キャリア11を固定している。このキャリア11は、上記第一の駆動軸8の先端部に固定した円盤状の支持板12と、それぞれの基端部をこの支持板12に支持固定した複数本の遊星軸1、1と、これら各遊星軸1、1の先端部同士を連結する円輪状の連結板13とから成る。このうちの遊星軸1、1が、特許請求の範囲に記載した内輪相当部材である。
【0019】
これら各遊星軸1、1の周囲には、それぞれが特許請求の範囲に記載した外輪相当部材である遊星歯車2、2を配置している。そして、これら各遊星歯車2、2の内周面に形成した外輪軌道面5、5と、上記各遊星軸1、1の外周面に形成した内輪軌道面4、4との間に、それぞれ複数本ずつのニードル3、3を介在させて、ラジアルニードル軸受6、6を構成している。これら各ラジアルニードル軸受6、6が、試験対象のラジアル転がり軸受である。これら各ラジアルニードル軸受6、6には、第一の給油ノズル14から送り込んだ潤滑油を供給自在としている。この為に、上記第一の駆動軸8と、上記支持板12と、上記各遊星軸1、1との内部に、互いに連通する給油通路15を設けている。尚、上記第一、第二の駆動軸8、9を支持する為の転がり軸受10、10には、別途設けた第二、第三の給油ノズル16、17を通じて、潤滑油を供給自在としている。
【0020】
一方、第二の駆動軸9の先端部には太陽歯車18を固定し、この太陽歯車18と、上記各遊星歯車2、2とを噛合させている。従って上記各遊星歯車2、2は、上記第一の駆動軸8により所定方向に所定速度で公転すると同時に、上記各遊星軸1、1の周囲で回転(自転)する。上記各遊星歯車2、2の自転速度は、上記第二の駆動軸9の回転方向及び回転速度を調節する事により、任意に調節できる。
【0021】
上述の様な試験装置により、上記各ラジアルニードル軸受6、6にスミアリングを発生させるには、上記第一の駆動軸8により上記キャリア11を回転させる事で、上記各遊星軸1、1を公転させる。この公転運動に伴って上記各遊星歯車2、2に作用する遠心力により、上記各ラジアルニードル軸受6、6に、上記キャリア11の径方向外方に向き、上記各遊星歯車2、2の質量に比例したラジアル荷重が加わる。これら各遊星歯車2、2の質量は一定であるから、このラジアル荷重の大きさは、上記第一の駆動軸8の回転速度を変える事により、任意に調節できる。
【0022】
上述の様にして上記各ラジアルニードル軸受6、6に所望のラジアル荷重を負荷すると同時に、上記第二の駆動軸9を回転させて、上記太陽歯車18を介して上記各遊星歯車2、2を自転させる。この自転速度は、上記第二の駆動軸9の回転方向と回転速度と(第一、第二の駆動軸8、9同士の間の回転速度差)を調節する事により、自在に調節できる。例えば、これら両駆動軸8、9を同方向に同速度で回転させれば、上記各遊星歯車2、2の上記各遊星軸1、1に対する相対回転速度は0になる。これに対して、上記両駆動軸8、9同士の間に存在する速度差が大きくなる程、上記各遊星歯車2、2の自転速度は速くなる。
【0023】
前述の様な試験装置を使用し、上述の様にして上記各ラジアルニードル軸受6、6の試験を行なえば、実際に自動変速機に組み込むのと同様のラジアルニードル軸受6、6を、実際の使用状態に則した条件下で運転しつつ、スミアリングの発生状況を検査できる。即ち、上記第一の駆動軸8の回転速度を調節する事により、上記各ラジアルニードル軸受6、6に加わるラジアル荷重を任意の値に、且つ正確な値に調節しつつ、上記第二の駆動軸9の回転速度の調節に基づいて、前記外輪軌道面5と前記内輪軌道面4とを、任意の速度差で相対回転させられる。この為、前述の[発明の効果]部分に記載した様な理由により、自動変速機を構成する遊星歯車機構用のラジアルニードル軸受6、6に、スミアリングを発生させる事ができる。
【実施例】
【0024】
本発明の効果を確認する為に行なった実験に就いて説明する。この実験は、前述の図3に示した試験装置により行なう、本発明の試験方法と、図4に示した様な試験装置により行なう、本発明の技術的範囲から外れる試験方法とが、スミアリングの再現性に及ぼす影響を知る為に行なった。尚、上記図4に示した試験装置では、固定軸19の外周面に形成した内輪軌道面4と、この固定軸19の周囲に設けた外輪20の内周面に形成した外輪軌道5との間に複数本のニードル3、3を設けて、ラジアルニードル軸受6を構成している。又、上記外輪20を内嵌固定してこの外輪20と共に回転する回転筒21の周囲に静止筒22を、1対の転がり軸受23、23を介して設けている。そして、これら静止筒22及び転がり軸受23、23と上記回転筒21とを介して、上記外輪19に所望のラジアル荷重を付与自在としている。
【0025】
何れの試験装置による場合も、ラジアルニードル軸受6は、ニードル3、3の数が18本、これら各ニードル3、3の有効長さが10mm、ラジアル隙間が0.01〜0.04mm、円周方向隙間が0.1〜0.4mmである、単列の総ニードル型とした。又、前記遊星歯車2及び上記外輪20の材質はSCM420、前記遊星軸1及び上記固定軸19の材質はSK85、上記各ニードル3、3の材質はSUJ2とした。
【0026】
試験条件は、図3に示した試験装置を使用する本発明の実施例に関しては下記の表1の通りであり、図4に示した試験装置を使用する比較例に関しては、同じく表2の通りである。
【表1】

【表2】

【0027】
又、実施例、比較例、それぞれに就いて、上記した条件は一定としたまま、内輪軌道面4の直径(遊星軸1或いは固定軸19の外径)と、外輪軌道面5の直径(遊星歯車2或いは外輪20の内径)と、これに伴って各ニードル3、3のピッチ円直径を種々異ならせて、ラジアルニードル軸受6内部の各面にスミアリングが生じるか否かを確認した。上記以外の試験条件及び試験結果を、下記の表3及び表4に示す。これら両表のうち、表3は、図3に示した試験装置を使用した、本発明の試験方法の結果を、表4は、図4に示した試験装置を使用した、比較例の結果を、それぞれ示している。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
上述の様な実験の結果を示す表3、4から明らかな通り、本発明のラジアル転がり軸受の試験方法によれば、実際に使用するラジアルニードル軸受6を、実際の使用に則した状態で運転して、スミアリングを再現できる。この為、ラジアルニードル軸受6を組み込んだ各種機械装置に関して、潤滑条件等、各種条件の設計に役立つ、信頼性の高い試験結果を得られる。
【0031】
尚、表3にその結果を示した、本発明の試験方法の場合、無負荷乃至は微小負荷で上記ラジアルニードル軸受6を運転する為、次の(1) 〜(3) の条件を満たすと仮定できる。
(1) 各ニードル3、3が殆ど自転しない。
(2) 負荷圏に於ける、上記各ニードル3、3のスキューに伴う振動は小さい。
(3) これら各ニードル3、3の公転速度は遊星歯車2の回転速度以下である{公転に伴う遠心力により遊星歯車2の内周面に貼り付いたまま回転(公転)する為、公転速度がこの遊星歯車2の回転速度にほぼ一致する}。
この様に仮定した場合、遊星軸1の外周面である内輪軌道面4と、上記各ニードル3、3の転動面との滑り速度vは、次式で表せる(推定できる)。尚、次式中のNは上記遊星歯車2の回転速度を、dは上記内輪軌道面4の直径(遊星軸1の外径)を、それぞれ表している。
v=(d/2)・(2πN/60)=(πd/60)・N
【0032】
この式に基づいて、上記表3にその結果を示した本発明の実施例での、上記各ニードル3、3の転動面との滑り速度vは、次の表5の様になる。
【表5】

この表5から明らかな通り、本発明の試験方法の実施例の場合、滑り速度は何れも5m/s以上となる。そして、何れの実施例の場合もスミアリングを再現できた。先ず、滑り速度の推定値が比較的遅い実施例1、4、7に就いては、100時間経過後に於いて、遊星軸1の表面硬度が、試験開始前のHv720からHv550程度迄低下し、且つ、表面に微小な焼き付きが見られた。又、滑り速度の推定値が中程度である、実施例2、3、5、8に就いては、100時間経過後に於いて、遊星軸1の表面硬度が、試験開始前のHv720からHv450程度に迄低下し、且つ、塑性流動を伴ったスミアリングの発生が確認された。更に、滑り速度の推定値が速い実施例6、9の場合には、試験開始後2時間乃至は1時間と言った短時間のうちに、異常振動が生じた為、その時点で試験を中止した。試験軸受を分解した結果、遊星軸1及び各ニードル3、3にスミアリングが発生している事が確認された。
【0033】
一方、表4にその結果を示した、本発明の技術的範囲から外れる試験方法の場合、何れも、スミアリングを再現できなかった。先ず、比較例1〜5、7、8に関しては、滑り速度が1〜2m/s若しくはそれ以下であると推定されるものであり、100時間経過後に於いてもスミアリングの発生を確認できなかっただけでなく、固定軸19の表面硬度に関しても、殆ど低下しなかった。又、比較例6、9に関しては、焼き付きは発生したものの、スミアリングの発生は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、自動変速機用遊星歯車機構に組み込む、総ニードル型のラジアルニードル軸受に限らず、各種機械装置の回転支持部に組み込む、各種ラジアル転がり軸受に関して、スミアリングが発生する条件を求める為に利用できる。
又、上述の説明は、単列総ニードル型のラジアルニードル軸受で実験を行なった場合に就いて説明したが、正の内部隙間を有する転がり軸受であれば、単列転がり軸受に限らず、複列の各種ラジアル転がり軸受にも適用できる。
更に、内輪相当部材、外輪相当部材、各転動体を鉄系金属により造っているラジアル転がり軸受であれば、前述した材料に限らず、他の材料により造ったラジアル転がり軸受にも適用できる。因に、遊星軸1の材料を、前述したSK85からSUJ2に変えて同様の実験を行なった結果、(当然に、程度は異なるが)スミアリングを再現できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明を説明する為、ラジアル転がり軸受にラジアル荷重或いは遠心力が加わる状態を示す略正面図。
【図2】(A)は遠心力が加わった状態での、(B)はこの遠心力と逆方向のラジアル荷重が加わった状態での、外輪相当部材及び内輪相当部材と各転動体との挙動を示す略正面図。
【図3】本発明の実施に使用する、ラジアル転がり軸受用試験装置の1例を示す断面図。
【図4】比較の為に使用した、ラジアル転がり軸受用試験装置の別例を示す断面図。
【符号の説明】
【0036】
1 遊星軸
2 遊星歯車
3 ニードル
4 内輪軌道面
5 外輪軌道面
6 ラジアルニードル軸受
7 フレーム
8 第一の駆動軸
9 第二の駆動軸
10 転がり軸受
11 キャリア
12 支持板
13 連結板
14 第一の給油ノズル
15 給油通路
16 第二の給油ノズル
17 第三の給油ノズル
18 太陽歯車
19 固定軸
20 外輪
21 回転筒
22 静止筒
23 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪相当部材と、外周面に内輪軌道面を有する内輪相当部材と、これら外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたラジアル転がり軸受が無負荷乃至軽負荷状態で運転された場合に、上記外輪軌道面と上記内輪軌道面と上記各転動体の転動面とのうちの少なくとも何れかの面に発生するスミアリングを再現する為、上記ラジアル転がり軸受を、支持軸を中心として回転する回転支持部材に、上記外輪相当部材及び上記内輪相当部材の中心軸をこの支持軸と平行に配置すると共に、これら外輪相当部材と内輪相当部材との相対回転を可能に支持した状態で、上記回転支持部材を上記支持軸を中心として回転させつつ、上記外輪相当部材と上記内輪相当部材とを相対回転させ、上記回転支持部材の回転速度に応じたラジアル荷重を上記外輪相当部材と上記内輪相当部材との間に負荷するラジアル転がり軸受の試験方法。
【請求項2】
転動体のピッチ円直径をdm[mm]とした場合に、外輪相当部材と内輪相当部材とのうちの内輪相当部材を回転支持部材に固定した状態で、外輪相当部材をこの内輪相当部材に対し、N[min-1 ]なる回転速度で、dm・N≧15万を満たす条件下で回転させる、請求項1に記載したラジアル転がり軸受の試験方法。
【請求項3】
ラジアル転がり軸受が、外輪軌道面及び内輪軌道面が円筒面で各転動体がニードルであって、保持器を持たない、総ニードル型のラジアルニードル軸受であり、このラジアルニードル軸受の中心軸と支持軸の中心との距離である公転半径を20〜100mmとし、回転支持部材の回転速度を1000〜10000min-1 とし、上記各ニードルのピッチ円直径dmを8〜25mmとし、外輪相当部材を内輪相当部材に対し、dm・N≦75万を満たす事を条件に、7500〜35000min-1 で回転させる、請求項2に記載したラジアル転がり軸受の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−263792(P2007−263792A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90122(P2006−90122)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】