説明

ラックブッシュおよびラック軸支持構造

【課題】良好な操舵フィーリングを得ることができるラックブッシュを提供する。
【解決手段】ラックブッシュ1が、外周4aおよび内周4bを有する蛇腹筒状の本体4を備える。外周4aに軸方向X1に交互に配置された谷部51,52,53および谷部61,62を備える。内周4bに軸方向X1に交互に配置された山部71,72,73および谷部81,82,83を備える。谷部51,52,53の裏側に山部71,72,73が配置される。第1山部72の頂部72aの第1内径d1が、無負荷状態でラック軸3の外径Dよりも小さい。第2山部71,73の頂部71a,73aの第2内径d2が、第1内径d1よりも大きい(d2>d1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラックブッシュおよびラック軸支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1では、外周および内周のそれぞれにおいて、軸方向に延びる溝を周方向に交互に形成したラックブッシュが提案されている。ラックブッシュの内周の溝間に設けられた弧状面部として、中心半径の小さい小径弧状面部と、小径弧状面部よりも中心半径の大きい大径弧状面部とが設けられている。大径弧状面部は、ラック軸に軸直角方向の負荷が加わったときのみに、ラック軸の外周と接触する。
【0003】
また、特許文献2では、一端の内周に設けられた支持部によってラック軸を弾性的に保持する樹脂製のラックブッシュが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−13019号公報
【特許文献2】特開平6−115439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ラック軸は、転舵輪側から外力を受けているため、ハウジングの中心軸線に対して若干傾斜した状態で軸方向に移動する場合がある。
特許文献1では、ラック軸と常時接触している小径弧状面部が、ラックブッシュの軸方向の全長に設けられているため、前記のようにラック軸が若干傾斜して移動する場合に、小径弧状面部がラック軸に与える摩擦抵抗が大きくなるおそれがある。したがって、操舵フィーリングが悪くなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、良好な操舵フィーリングを得ることができるラックブッシュおよびラック軸支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するめ、請求項1の発明は、筒状のハウジング(2)に同軸的に挿通された転舵のためのラック軸(3)を包囲し、前記ラック軸を軸方向(X1)に摺動可能に支持するラックブッシュ(1;101)であって、外周(4a)および内周(4b)を有し、前記外周および前記内周のそれぞれに軸方向に交互に配置された山部(61,62;71,72,73:172,173)および谷部(51,52,53;81,82)を有し、前記外周の山部および谷部が、それぞれ、前記内周の谷部および山部と径方向(Y1)に対向し、径方向に弾性変形可能な蛇腹筒状の本体(4)を備え、前記内周の山部は、第1山部(72)と、第2山部(71,73)と、を含み、前記第1山部の頂部(72a)の内径(d1)は、無負荷状態で前記ラック軸の外径(D)よりも小さくされ、前記第2山部の頂部(71a,73a;171a,173a)の内径(d2)は、前記第1山部の頂部の内径よりも大きくされているラックブッシュを提供する。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2のように、前記第2山部の頂部の内径は、無負荷状態で前記ラック軸の外径と同等または同等以上とされていてもよい。
【0009】
請求項3のように、前記本体に、軸方向に延びるスリット(9,10)が形成されていてもよい。
請求項4のように、前記本体は、軸方向に対向する第1端部および第2端部(41,42)を含み、前記スリットは、前記第1端部から延びる第1スリット(9)と、前記第2端部から延びる第2スリット(10)と、を含み、前記第1スリットおよび前記第2スリットは、周方向(Z1)に関して交互に配列されていてもよい。
【0010】
請求項5の発明は、筒状のハウジングと、前記ハウジングに同軸的に挿通された転舵のためのラック軸を包囲し、前記ラック軸を軸方向に摺動可能に支持するラックブッシュと、を備えたラック軸支持構造であって、前記ラックブッシュは、外周および内周を有し、前記外周および前記内周のそれぞれに軸方向に交互に配置された山部および谷部を有し、前記外周の山部および谷部が、それぞれ、前記内周の谷部および山部と径方向に対向し、径方向に弾性変形可能な蛇腹筒状の本体を備え、前記内周の山部は、第1山部と、第2山部と、を含み、前記第1山部の頂部の内径は、無負荷状態で前記ラック軸の外径よりも小さくされ、前記第2山部の頂部の内径は、前記第1山部の頂部の内径よりも大きくされていることを特徴とするラック軸支持構造(A;A1)を提供する。
【0011】
請求項6の発明は、前記ハウジングは内周(2a)を含み、前記ハウジングの内周は、当該ハウジングの内周と前記ラックブッシュの外周の対応する谷部(52)との間に配置されてラックブッシュの軸方向の移動量を規制する凸部(12)を有し、前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記対応する谷部の両側の山部(61,62)の少なくとも一方の斜面と前記凸部との間に、軸方向の隙間(S1)が設けられていてもよい。
【0012】
請求項7の発明は、前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記対応する谷部のなす湾曲の曲率半径(R1)が、前記凸部としての湾曲凸部の曲率半径(R2)よりも大きくされていてもよい。
請求項8のように、前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記ハウジングの凸部と前記ラックブッシュの対応する谷部との間に、径方向の隙間(S2)が設けられており、前記ハウジングに対して前記ラック軸が偏心したときに、前記凸部が、前記対応する谷部を径方向に押圧するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ラック軸がハウジングに対して同軸的に移動する通常の場合は、主に第1山部がラック軸の移動に摩擦抵抗を与える。また、第2山部の頂部の内径を第1山部の頂部の内径よりも大きくしたので、ハウジングに対してラック軸が若干傾斜して移動する場合にも、第2山部がラック軸に接触して与える摩擦抵抗は僅かである。したがって、全体としての摩擦抵抗を低く抑えることができ、操舵フィーリングを向上することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、ラック軸がハウジングに対して同軸的に移動する通常の場合は、実質的に第1山部のみがラック軸の移動に摩擦抵抗を与える。また、第2山部の頂部の内径を、無負荷状態でラック軸の外径と同等または同等以上としたので、ハウジングに対してラック軸が若干傾斜して移動する場合に、第2山部がラック軸に与える摩擦抵抗は僅かである。したがって、全体としての摩擦抵抗をより低く抑えることができ、操舵フィーリングをより向上することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、蛇腹筒状の本体が熱膨張しても、その熱膨張による変形をスリットによって吸収することができる。したがって、温度変化に拘らず、摩擦抵抗を低く抑えて、良好な操舵フィーリングを維持することができる。
請求項4の発明によれば、スリットを交互の逆向きに配列することにより、径方向の弾性を周方向に関して均一化することができる。したがって、温度変化に伴う摩擦抵抗の変化をより抑えて、良好な操舵フィーリングを維持することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1の同じ作用を奏し、摩擦抵抗が低減されて操舵フィーリングの良いラック軸支持構造を実現することができる。
請求項6の発明によれば、ラックブッシュの軸方向の移動に伴って、ハウジングの凸部がラックブッシュの外周の対応する谷部の両側の山部の何れか一方の斜面と係合することにより、ラックブッシュの軸方向の移動量が規制される。すなわち、転舵に伴うラック軸の始動時に、ラックブッシュがラック軸とともに軸方向に微小移動することが可能となる。したがって、ラック軸の始動をスムーズに行うことができるので、運転者が引っ掛かり感を感じることがない。その結果、操舵フィーリングが格段に向上する。
【0017】
請求項7の発明によれば、対応する谷部のなす湾曲の曲率半径を、凸部としての湾曲凸部の曲率半径よりも大きくしたので、対応する谷部と凸部の大小関係の設定が容易である。
請求項8の発明によれば、ラック軸がハウジングと同軸的に配置された状態では、ハウジングの凸部がラックブッシュの対応する外周の谷部を径方向に押圧しないので、外周の対応する谷部の裏側の内周の山部が、ラック軸を強く押圧することがない。したがって、ラック軸に与える摩擦抵抗を低く抑えることができる。また、ラック軸が径方向に振動してハウジングに対してラック軸が偏心したときに、ハウジングの凸部がラックブッシュの外周の対応する谷部を径方向に押圧した状態で、その谷部の裏側の、内周の山部によって、ラック軸を径方向に受けることができる。したがって、ラック軸の振動を抑制してラトル音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態のラックブッシュの断面図である。
【図2】ハウジングに保持されたラックブッシュによってラック軸を支持するラック軸支持構造の概略断面図である。
【図3】ラック軸支持構造の概略断面図であり、ハウジングに対してラック軸が同軸的に配置されている状態を示している。
【図4】ラック軸支持構造の概略断面図であり、ラック軸の始動時に、ラック軸とともにラックブッシュが微小移動した状態を示している。
【図5】ラック軸支持構造の概略断面図であり、ハウジングに対してラック軸が径方向に偏倚した状態を示している。
【図6】本発明の別の実施の形態のラックブッシュを含むラック軸支持構造の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態のラックブッシュ1の断面図であり、図2はラックブッシュ1を含むラック軸支持構造Aの概略断面図である。
図2に示すように、ラックブッシュ1は、筒状のハウジング2に同軸的に挿通された転舵のためのラック軸3を包囲しており、ラック軸3を軸方向X1に摺動可能に支持する。図示していないが、ラック軸3の両端は、ハウジング2の両側へ突出し、対応するボールジョイントを介して対応するタイロッドに連結されている。各タイロッドは、対応するナックルアームを介して対応する転舵輪に連結されている。
【0020】
図1に示すように、ラックブッシュ1は、中心軸線C1を有し、径方向Y1に弾性変形可能な蛇腹筒状の本体4を備えている。本体4は、外周4aおよび内周4bを有している。外周4aは、軸方向X1に交互に配置された複数の谷部51,52,53および複数の山部61,62を有している。内周4bは、軸方向X1に交互に配置された複数の山部71,72,73および複数の谷部81,82を有している。
【0021】
内周4bにおいて、外周4aの谷部51,52,53の裏側に、それぞれ、山部71,72,73が配置され、谷部51,52,53が、それぞれ、山部71,72,73と径方向Y1に対向している。また、内周4bにおいて、外周4aの山部61,62の裏側に、それぞれ、谷部81,82が配置され、山部61,62が、それぞれ、谷部81,82と径方向Y1に対向している。
【0022】
内周4bの山部71,72,73のうち、山部72が第1山部を構成し、他の山部72,73が第2山部を構成している。以下では、山部72を第1山部72とも言い、山部71,73を第2山部71,73とも言う。
第1山部72の頂部72aの内径である第1内径d1は、無負荷状態でラック軸3の外径Dよりも小さくされている(d1<D)。また、各第2山部71,73の頂部71a,72bの内径である第2内径d2は、第1山部72の頂部72aの第1内径d1よりも大きくされている(d2<d1)。具体的には、各第2山部71,73の頂部71a,73aの第2内径d2は、無負荷状態で、図1に示すようにラック軸3の外径Dと同等(d2=D)とされるか、或いは、同等以上(d2≧D)の所定値とされている。
【0023】
本体4は、軸方向X1に対向する第1端部41および第2端部42を有している。本体4には、軸方向X1に延びるスリットとして、第1端部41から延びる第1スリット9と、第2端部42から延びる第2スリット10とが形成されている。第1スリット9および第2スリット10は、周方向Z1に関して交互に配列されている。
再び図2を参照して、ラックストッパ11およびラックブッシュ3が、ハウジング2の内周2aとラック軸3との間に配置されている。ラックストッパ11は、例えば鉄製の環状板からなる。ラックストッパ11は、ハウジング2の端部21の内周2aに設けられた拡径部2bに嵌合されて固定されている。
【0024】
ラックストッパ11は、ハウジング2の拡径部2bの端部に設けられた位置決め段部2cに当接している。これにより、ハウジング2に対するラックストッパ11の軸方向移動が規制されている。ラックストッパ11は、ラック軸3のストロークエンドで、ラック軸3と前記タイロッドとを連結する前記ボールジョイントのハウジング(図示せず)に当接することにより、ラック軸3の軸方向の移動量を規制する機能を果たす。
【0025】
ラックブッシュ1は、ラックストッパ11よりも内奥側において、ハウジング2の内周2aに嵌合されて、保持されている。ハウジング2の内周2aに、凸部としての湾曲凸部12が設けられている。湾曲凸部12は、単一で設けられていてもよいし、また、ハウジング2の周方向に離隔して複数が設けられていてもよい。また、ハウジング2の内周2aの全周に延びていてもよい(この場合、環状凸部となる。)。
【0026】
図3は、ラック軸3がハウジング2と同軸的に配置された状態(ラック軸3の中心軸線C3がハウジング2の中心軸線C2と一致した状態、すなわち、ラックブッシュ1の中心軸線C1がハウジング2の中心軸線C2およびラック軸3の中心軸線C3と一致した状態を示している。
図3に示すように、ハウジング2の湾曲凸部12は、ハウジング2の内周2aとラックブッシュ1の本体4の外周4aの対応する谷部52との間に配置されている。谷部52に隣接する山部61,62の少なくとも一方の斜面と湾曲凸部12との間に、軸方向X1の隙間S1が設けられている。具体的には、谷部52のなす湾曲の曲率半径R1が、湾曲凸部12の曲率半径R2がよりも大きくされている。これにより、ラックブッシュ1は、ハウジング2に対して軸方向X1に所定の移動量の移動が許容されている。
【0027】
また、図4に示すように、ハウジング2に対してラックブッシュ1が軸方向X1の例えば白抜き矢符の方向へ移動するに伴って、湾曲凸部12が谷部52に隣接する山部61または62(図4では山部62)の斜面と係合することにより、ハウジング2に対するラックブッシュ1の軸方向X1の移動量が規制されるように構成されている。
また、図3に示すように、ラック軸3がハウジング2と同軸的に配置された状態で、ハウジング2の湾曲凸部12とラックブッシュ1の谷部52との間に径方向Y1の隙間S2が設けられている。図5に示すように、ラック軸3に振動が生じて、ハウジング2に対してラック軸3が偏心したときに、径方向Y1の隙間S2がなくなり、湾曲凸部12がラックブッシュ1の谷部52を径方向Y1に押圧する。
【0028】
本実施の形態によれば、図3に示すように、ラック軸3がハウジング2に対して同軸的に移動する通常の場合は、主に第1山部72がラック軸3の移動に摩擦抵抗を与える。また、第2山部71,73の頂部71a,73aの第2内径d2が、第1山部72の頂部72aの第1内径d1よりも大きくされているので、ハウジング2に対してラック軸3が若干傾斜して移動する場合(図示せず)にも、第2山部71,73がラック軸3に接触して与える摩擦抵抗は僅かである。したがって、全体としての摩擦抵抗を低く抑えることができ、操舵フィーリングを向上することができるラックブッシュ1およびラック軸支持構造Aを実現することができる。
【0029】
特に、第2山部71a,73の頂部71a,73aの第2内径d2は、無負荷状態でラック軸3の外径Dと同等(d2=D)または同等以上(d2≧D)とされているので、ハウジング2に対してラック軸3が若干傾斜して移動する場合に、第2山部71,73がラック軸3に与える摩擦抵抗は僅かである。したがって、全体としての摩擦抵抗をより低く抑えることができ、操舵フィーリングをより向上することができる。
【0030】
また、図5に示すように、ラック軸3に振動が生じて、ハウジング2に対してラック軸3が偏心したときに、蛇腹筒状の本体4の断面において、隣接する山部71,72,73間のなすアーチ形状が偏平化されるので、ラック軸3に対する、各山部71,72,73の接触面積を十分に増加させることができる。したがって、ラック軸3の振動を抑制して、振動に伴うラトル音等の騒音の発生を抑制することができる。
【0031】
また、ラックブッシュ1の本体4に、軸方向X1に延びるスリット9,10を形成したので、蛇腹筒状の本体4が熱膨張しても、その熱膨張による変形をスリット9,10によって吸収することができる。したがって、温度変化に拘らず、摩擦抵抗を低く抑えて、良好な操舵フィーリングを維持することができる。
特に、前記スリットとしての、軸方向X1に互いに逆向きに延びる第1スリット9および第2スリット10を用い、これら第1スリット9および第2スリット10を周方向Z1に関して交互に配列したので、ラックブッシュ1の径方向Y1の弾性を周方向Z1に関して均一化することができる。したがって、温度変化に伴う摩擦抵抗の変化をより抑えて、良好な操舵フィーリングを維持することができる。
【0032】
また、ハウジング2の内周2aに、当該内周2aとラックブッシュ1の外周4aの谷部52との間に配置された湾曲凸部12が、設けられている。ラック軸3がハウジング2と同軸に配置された状態で、谷部52の両側の山部61,62の少なくとも一方と湾曲凸部12との間に、軸方向X1の隙間S1が設けられている。したがって、下記の利点がある。
【0033】
すなわち、ラックブッシュ1の軸方向X1の移動に伴って、ハウジング2の湾曲凸部12がラックブッシュ1の外周4aの谷部52の両側の山部61,62の何れか一方の斜面と係合することにより、ラックブッシュ1の軸方向X1の移動量が規制される。転舵に伴うラック軸3の始動時に、ラックブッシュ1がラック軸3とともに軸方向X1に微小移動することが可能となる。したがって、ラック軸3の始動をスムーズに行うことができるので、運転者が引っ掛かり感を感じることがない。その結果、操舵フィーリングが格段に向上する。
【0034】
また、谷部52のなす湾曲の曲率半径R1を、凸部としての湾曲凸部12の曲率半径R2よりも大きくしたので、谷部52と湾曲凸部12の大小関係の設定が容易である。
また、ラック軸3がハウジング2と同軸的に配置された状態で、ハウジング2の湾曲凸部12とラックブッシュ1の外周4aの谷部52との間に径方向Y1の隙間S2が設けられている。したがって、ラック軸3がハウジング2と同軸的に配置された状態で、ハウジング2の湾曲凸部12がラックブッシュ1の外周4aの谷部52を径方向Y1に押圧しないので、谷部52の裏側の、内周4bの山部72が、ラック軸3を強く押圧することがない。したがって、ラック軸3に与える摩擦抵抗を低く抑えることができる。
【0035】
また、ラック軸3が径方向Y1に振動してハウジング2に対してラック軸3が偏心したときに、ハウジング2の湾曲凸部12がラックブッシュ1の外周4aの谷部52を径方向Y1に押圧した状態で、その谷部52の裏側の、内周4bの山部72によって、ラック軸3を径方向Y1に受けることができる。したがって、ラック軸3の振動を抑制してラトル音の発生を抑制することができる。
【0036】
次いで、図6は本発明の別の実施の形態のラックブッシュ101を含むラック軸支持構造A1を示している。図6に示すように、ラックブッシュ101がハウジング2とラック軸3との間に装着された状態で、ラックブッシュ101の内周4bの第2山部171,173の頂部171a,173aの内径(第2内径d2)が、ラック軸3の外径Dよりも大きくされていてもよい(d2>D)。図6の実施の形態の構成要素において、図3の実施の形態の構成要素と同じ構成要素には、同じ符号を付してある。
【0037】
図6の実施の形態では、ラック軸3がハウジング2に対して同軸的に移動する通常の場合において、第1山部72のみをラック軸3に接触させて、ラック軸3に与える摩擦抵抗をより小さく抑えることができる。操舵フィーリングを一層向上することがでる。なお、ラックブッシュ101の無負荷状態で、第2山部171,173の頂部171a,173aの内径(第2内径d2)が、ラック軸3の外径Dよりも大きくされていても(d2>D)、実質的に同じ効果を奏することができる。
【0038】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、凹部としての湾曲凹部をハウジング2の内周2aに設け、凸部としての湾曲凸部をラックブッシュ1の本体4の外周4aに設けるようにしてもよい。
その他、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0039】
1;101…ラックブッシュ、2…ハウジング、2a…内周、2b…拡径部、2c…位置決め段部、3…ラック軸、3a…外周、4…本体、4a…外周、4b…内周、41…第1端部、42…第2端部、51,52,53…(外周の)谷部、61,62…(外周の)山部、72…(内周の)第1山部、72a…(第1山部の)頂部、71,73…(内周の)第2山部、71a,73a,171a,173a…(第2山部の)頂部、81,82…(内周の)谷部、9…第1スリット、10…第2スリット、12…湾曲凸部(凸部)、A;A1…ラック軸支持構造、C1…(ラックブッシュの)中心軸線、C2…(ハウジングの)中心軸線、C3…(ラック軸の)中心軸線、D…(ラック軸の)外径、d1…第1内径(第1山部の頂部の内径)、d2…第2内径(第2山部の頂部の内径)、S1…(軸方向の)隙間、S2…(径方向の)隙間、X1…軸方向、Y1…径方向、Z1…周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングに同軸的に挿通された転舵のためのラック軸を包囲し、前記ラック軸を軸方向に摺動可能に支持するラックブッシュであって、
外周および内周を有し、前記外周および前記内周のそれぞれに軸方向に交互に配置された山部および谷部を有し、前記外周の山部および谷部が、それぞれ、前記内周の谷部および山部と径方向に対向し、径方向に弾性変形可能な蛇腹筒状の本体を備え、
前記内周の山部は、第1山部と、第2山部と、を含み、
前記第1山部の頂部の内径は、無負荷状態で前記ラック軸の外径よりも小さくされ、
前記第2山部の頂部の内径は、前記第1山部の頂部の内径よりも大きくされていることを特徴とするラックブッシュ。
【請求項2】
前記第2山部の頂部の内径は、無負荷状態で前記ラック軸の外径と同等または同等以上とされている請求項1記載のラックブッシュ。
【請求項3】
前記本体に、軸方向に延びるスリットが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のラックブッシュ。
【請求項4】
前記本体は、軸方向に対向する第1端部および第2端部を含み、
前記スリットは、前記第1端部から延びる第1スリットと、前記第2端部から延びる第2スリットと、を含み、
前記第1スリットおよび前記第2スリットは、周方向に関して交互に配列されていることを特徴とする請求項3に記載のラックブッシュ。
【請求項5】
筒状のハウジングと、
前記ハウジングに同軸的に挿通された転舵のためのラック軸を包囲し、前記ラック軸を軸方向に摺動可能に支持するラックブッシュと、を備えたラック軸支持構造であって、
前記ラックブッシュは、外周および内周を有し、前記外周および前記内周のそれぞれに軸方向に交互に配置された山部および谷部を有し、前記外周の山部および谷部が、それぞれ、前記内周の谷部および山部と径方向に対向し、径方向に弾性変形可能な蛇腹筒状の本体を備え、
前記内周の山部は、第1山部と、第2山部と、を含み、
前記第1山部の頂部の内径は、無負荷状態で前記ラック軸の外径よりも小さくされ、
前記第2山部の頂部の内径は、前記第1山部の頂部の内径よりも大きくされていることを特徴とするラック軸支持構造。
【請求項6】
前記ハウジングは内周を含み、
前記ハウジングの内周は、当該ハウジングの内周と前記ラックブッシュの外周の対応する谷部との間に配置されてラックブッシュの軸方向の移動量を規制する凸部を有し、
前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記対応する谷部の両側の山部の少なくとも一方の斜面と前記凸部との間に、軸方向の隙間が設けられている請求項5に記載のラック軸支持構造。
【請求項7】
前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記対応する谷部のなす湾曲の曲率半径が、前記湾曲凸部の曲率半径よりも大きくされている請求項6に記載のラック軸支持構造。
【請求項8】
前記ラック軸が前記ハウジングと同軸的に配置された状態で、前記ハウジングの凸部と前記ラックブッシュの対応する谷部との間に、径方向の隙間が設けられており、
前記ハウジングに対して前記ラック軸が偏心したときに、前記凸部が、前記対応する谷部を径方向に押圧するように構成されている請求項6または7に記載のラック軸支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19462(P2013−19462A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152984(P2011−152984)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】