ラム波装置
【課題】周波数のばらつきが小さいラム波装置を提供する。
【解決手段】ラム波装置102は、圧電体薄膜106と、圧電体薄膜106の主面に設けられたIDT電極108と、IDT電極108及び圧電体薄膜106の積層体104を支持し、積層体104を離隔させるキャビティ180が形成された支持構造体122とを備える。圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチpは、音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように選択される。圧電体薄膜106の結晶方位は、圧電体薄膜106の支持構造体122の側にある下面1062のフッ酸に対するエッチングレートが、十分に遅くなるように選択する。
【解決手段】ラム波装置102は、圧電体薄膜106と、圧電体薄膜106の主面に設けられたIDT電極108と、IDT電極108及び圧電体薄膜106の積層体104を支持し、積層体104を離隔させるキャビティ180が形成された支持構造体122とを備える。圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチpは、音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように選択される。圧電体薄膜106の結晶方位は、圧電体薄膜106の支持構造体122の側にある下面1062のフッ酸に対するエッチングレートが、十分に遅くなるように選択する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜にラム波を励振するラム波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧電体基板を除去加工して得られた圧電体薄膜に厚み方向縦波を励振するバルク弾性波装置を開示している。このようなバルク弾性波装置では、圧電体薄膜の膜厚に周波数が反比例するため、周波数を高くするためには圧電体薄膜の膜厚を薄くしなければならない。例えば、周波数を数GHzにするためには、圧電体薄膜を構成する圧電材料にもよるが、圧電体薄膜の膜厚を数100nmにしなければならない。
【0003】
しかし、圧電体薄膜の膜厚が数100nmにまで薄くなると、加工ばらつきによって生じる膜厚のばらつきが大きな周波数のばらつきの原因となるという問題を生じる。また、圧電体薄膜の機械的強度が不足するという問題も生ずる。
【0004】
一方、特許文献2は、圧電体薄膜にA1モードのラム波を励振するラム波装置を開示している。このようなラム波装置では、厚み方向縦波を励振するバルク弾性波装置の場合よりも、圧電体薄膜の膜厚が厚くなる。このため、圧電体薄膜の機械的強度が不足するという問題は緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−228319号公報
【特許文献2】国際公開第2007−046236号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2のラム波装置においても、膜厚のばらつきが共振周波数のばらつきに与える影響は、無視することができる程度にはならない。これは、A1モード等の高次モードのラム波の音速が圧電体薄膜の膜厚に対する大きな分散性を有しているからである。本発明は、この問題を解決するためになされたもので、周波数のばらつきが小さいラム波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1のラム波装置は、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、を備え、前記支持構造体が、支持基板と、前記支持基板と前記積層体とを接合するとともに前記積層体の励振部を支持基板から離隔させるキャビティが形成された支持膜と、を備え、音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0008】
請求項2のラム波装置は、請求項1のラム波装置において、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0009】
請求項3のラム波装置は、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、を備え、前記支持構造体が、支持基板、を備え、目的の周波数において音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0010】
請求項4のラム波装置は、請求項3のラム波装置において、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対するに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、支持構造体にキャビティを形成するときに圧電体薄膜がエッチングされることが抑制されるので、周波数のばらつきが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態のラム波装置の分解斜視図である。
【図2】第1実施形態のラム波装置の断面図である。
【図3】圧電材料がニオブ酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図4】圧電材料がニオブ酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図5】圧電材料がタンタル酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図6】エッチングレート比と周波数ばらつきとの関係を示す図である。
【図7】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図8】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図9】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図10】第2実施形態のラム波装置の断面図である。
【図11】エッチングレート比と周波数ばらつきとの関係を示す図である。
【図12】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図13】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図14】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図15】第3実施形態の積層体の断面図である。
【図16】第4実施形態の積層体の断面図である。
【図17】圧電体薄膜の膜厚による周波数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1 第1実施形態>
<1−1 ラム波装置102の構成>
図1及び図2は、第1実施形態のラム波装置102の模式図である。図1は、ラム波装置102の分解斜視図、図2は、ラム波装置102の断面図となっている。
【0014】
図1及び図2に示すように、ラム波装置102は、積層体104を支持構造体122で支持した構造を有する。積層体104は、圧電体薄膜106と、圧電体薄膜106にラム波を励振するIDT電極108とを備える。支持構造体122は、支持基板124と、支持基板124と積層体104とを接合する支持膜126とを備える。支持膜126には、積層体104の励振部を支持基板124から離隔させるキャビティ180が形成されている。IDT電極108は、キャビティ180が形成された領域(以下では、「キャビティ領域」という)の内部に設けられている。
【0015】
{圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチp}
圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチpは、音速が5000m/s以上となるラム波が目的の周波数(設計周波数;共振子の場合は設計共振周波数)において励振されるように選択されることが望ましい。これにより、厚み方向縦波を励振する場合よりも圧電体薄膜106の膜厚hが厚くなる。
【0016】
音速が5000m/s以上となるラム波を励振するためには、S0モード(0次対称モード)及びA0モード(0次反対称モード)以外の高次モードであるSnモード(n次対称モード;nは1以上の自然数)又はAnモード(n次反対称モード;nは1以上の自然数)のラム波を励振することが望ましい。これは、第1に、圧電体薄膜106の膜厚が同じであれば、S0モード及びA0モードよりも高次モードの方がラム波の音速が速くなることによる。第2に、S0モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて速くなるが、その上昇は次第に緩慢になり、A0モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて遅くなり、いずれも5000m/sとすることが困難であるのに対して、高次モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて単調に速くなるため、5000m/sとすることが容易であることによる。
【0017】
図3及び図4は、圧電体薄膜を構成する圧電材料がニオブ酸リチウム(LiNbO3)の単結晶である場合のA1モードの分散曲線である。図3及び図4は、それぞれ、128°Y板及び90°Y板を薄膜化した圧電体薄膜における波長λに対する膜厚hの比h/λによる音速vの変化を示している。図5は、圧電体薄膜を構成する圧電材料がタンタル酸リチウム(LiTaO3)の単結晶である場合のA1モードの分散曲線である。図5は、90°Y板を薄膜化した圧電体薄膜における波長λに対する膜厚hの比h/λによる音速vの変化を示している。
【0018】
図3〜図5に示すように、ラム波の励振条件h/λ≦1が満たされる範囲においては、方位角による若干の違いはあるものの、音速vは5000m/s以上となる。圧電体薄膜106を構成する圧電材料によっては、比h/λがラム波の励振条件h/λ≦1の上限に近づくと音速vが5000m/sを割り込むことも考えられるが、上述したように、A1モードのラム波の音速vは、膜厚hが薄くなるにつれて単調に速くなるため、膜厚hを若干薄くすることによって、A1モードのラム波の音速vを5000m/s以上にすることは容易である。これらのことは、A1モード以外の高次モードについても同様である。
【0019】
{音速を5000m/s以上とする意義}
水銀ランプを光源とする一般的なステッパのうち最も分解能が高いのは、波長が365nmのi線を用い最小線幅が0.365μmとなるi線ステッパである。このi線ステッパによりIDT電極108をパターニングした場合、IDT電極108により励振されるラム波の最短の波長λは0.365×4=1.46μmとなる。したがって、音速が5000m/s以上であれば、一般的なi線ステッパによりIDT電極108をパターニングした場合でも周波数は約3.4GHz以上となり、多くの高周波用途に利用可能なラム波装置が実現される。ただし、線幅を限界値である0.365μmまで狭くすると、IDT電極108の耐電力性の劣化やオーミック損によるQ値の低下が発生することもあるので、音速を8000m/s以上とすることがさらに望ましい。
【0020】
{圧電体薄膜106}
圧電体薄膜106を構成する圧電材料は、特に制限されないが、水晶(SiO2)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・タンタル酸リチウム(LiTaO3)・四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)・酸化亜鉛(ZnO)・ニオブ酸カリウム(KNbO3)・ランガサイト(La3Ga3SiO14)・窒化アルミニウム(AlN)・窒化ガリウム(GaN)等の単結晶から選択することが望ましい。圧電材料を単結晶から選択すれば、圧電体薄膜106の電気機械結合係数や機械的品質係数を向上することができるからである。
【0021】
圧電体薄膜106の結晶方位は、圧電体薄膜106の支持構造体122の側にある下面1062のフッ酸に対する65℃におけるエッチングレートが、支持膜126の支持基板124の側にある下面1262よりも十分に遅くなるように選択することが望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/2以下となるように選択することがさらに望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/20以下となるように選択することが特に望ましい。なお、フッ酸以外、例えば、バッファードフッ酸・フッ硝酸等のフッ化水素を含む溶液でエッチングをする場合も同様のことが言える。また、フッ化水素を含むガスでドライエッチングをする場合も同様のことが言える。これにより、キャビティ180を形成するときに最終的に圧電体薄膜106となる圧電体基板(後述)がほとんどエッチングされないので、圧電体薄膜106の膜厚のばらつきが減少し、共振周波数のばらつきが小さくなる。例えば、圧電体薄膜106がニオブ酸リチウムのθ°Y板を薄膜化したものであれば、θ=0〜45°又は128〜180°であることが望ましい。
【0022】
図6は、後に圧電体薄膜となる圧電体基板のエッチングレートの支持膜のエッチングレートに対する比(以下では、「エッチングレート比」という。)と周波数ばらつきとの関係を示す図である。図6は、支持膜を構成する絶縁材料及び圧電体基板を構成する圧電材料(圧電体薄膜を構成する圧電材料)も示している。図6に示す「LN36」「LN45」及び「LN90」は、それぞれ、ニオブ酸リチウム(LN)の単結晶の36°Y板、45°Y板及び90°Y板を意味する。図6は、圧電体基板の−Z面に支持膜を形成した場合の関係を示している。
【0023】
圧電体薄膜106は、支持基板124の全面を覆っている。
【0024】
{IDT電極108}
IDT電極108を構成する導電材料は、特に制限されないが、アルミニウム(Al)・モリブデン(Mo)・タングステン(W)・金(Au)・白金(Pt)・銀(Ag)・銅(Cu)・チタン(Ti)・クロム(Cr)・ルテニウム(Ru)・バナジウム(V)・ニオブ(Nb)・タンタル(Ta)・ロジウム(Rh)・イリジウム(Ir)・ジルコニウム(Zr)・ハフニウム(Hf)・パラジウム(Pd)又はこれらを主成分とする合金から選択することが望ましく、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金から選択することが特に望ましい。
【0025】
IDT電極108は、圧電体薄膜106の上面に設けられている。なお、IDT電極108を圧電体薄膜106の下面に設けてもよい。
【0026】
IDT電極108は、圧電体薄膜106に電界を印加するとともに圧電体薄膜106の表面に生成した表面電荷を収集するフィンガー110とフィンガー110を接続するバスバー116とを備える。フィンガー110は、ラム波の伝播方向と垂直な方向に延在し、ラム波の伝播方向に等間隔で配列されている。バスバー116は、ラム波の伝播方向に延在している。フィンガー110には、一方の側の端部において第1のバスバー118に接続された第1のフィンガー112と他方の側の端部において第2のバスバー120に接続された第2のフィンガー114とがあり、第1のフィンガー112と第2のフィンガー114とは交互に配列されている。これにより、IDT電極108は、第1のバスバー116と第2のバスバー116との間に入力された信号に応じたラム波を送信するとともに、受信したラム波に応じた信号を第1のバスバー116と第2のバスバー116との間に出力する。
【0027】
交互に配列された第1のフィンガー112と第2のフィンガー114とが異なる相となっている2相型のIDT電極108は、フィンガー110のピッチpの2倍の波長λのラム波を最も強く励振する。
【0028】
IDT電極108によって励振されたラム波は、キャビティ領域の端面で反射され、ラム波装置102は、共振子として機能する。なお、IDT電極108をラム波の伝播方向の両側から反射器電極で挟んでもよい。また、ラム波装置102を複数の共振子を組み合わせたフィルタ・デュプレクサ等として構成してもよいし、センサ等としてラム波装置102を構成してもよい。一般的に言って、「ラム波装置」とは、圧電体薄膜にラム波を励振し、当該ラム波による電気的な応答を利用する電子部品の全般を意味する。「ラム波」とは、伝播面内に変位成分をもつ縦波(L波:Longitudinai波)と横波(SV波:Shear Virtical波)の両者によって構成され、上面及び下面の境界条件により縦波と横波とが結合しながら伝播する波である。
【0029】
{支持基板124}
支持基板124を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、シリコン(Si)・ゲルマニウム(Ge)等のIV元素の単体、サファイア(Al2O3)・酸化マグネシウム(MgO)・酸化亜鉛(ZnO)・二酸化シリコン(SiO2)等の単純酸化物、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)等のホウ化物、タンタル酸リチウム(LiTaO3)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・アルミン酸リチウム(LiAlO2)、ガリウム酸リチウム(LiGaO2)・スピネル(MgAl2O4)・アルミン酸タンタル酸ランタンストロンチウムリチウム((LaSr)(AlTa)O3)・ガリウム酸ネオジウム(NdGaO3)等の複合酸化物、シリコンゲルマニウム(SiG)等のIV-IV族化合物、ガリウム砒素GaAs)・窒化アルミニウム(AlN)・窒化ガリウム(GaN)・窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)等のIII-IV族化合物等を選択することが望ましい。
【0030】
{支持膜126}
支持膜126を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、二酸化シリコンを選択することが望ましい。支持膜126は、概ね、キャビティ領域の外側に設けられ、その下面は支持基板124の上面に接し、その上面は圧電体薄膜106の下面1062に接している。支持膜126は、キャビティ領域において支持基板124から積層体104を離隔させるスペーサの役割を果たしている。
【0031】
{設計例}
ラム波装置102の各構成物の材質及び大きさは、その機能を果たすように選択されるが、典型的な設計例によれば、次のとおりである。ただし、この設計例は、本発明を制限するものではない。
【0032】
IDT電極108:アルミニウム(膜厚0.1μm,ピッチ0.73μm)
圧電体薄膜106:ニオブ酸リチウムの128°Y板を薄膜化したもの(膜厚1μm)
支持膜126:二酸化シリコン(膜厚0.5μm)
支持基板124:ニオブ酸リチウムの128°Y板(板厚500μm)
【0033】
<1−2 ラム波装置102の製造方法>
図7〜図9は、ラム波装置102の製造方法を説明する模式図である。図7〜図9は、製造の途上の仕掛品の断面図となっている。
【0034】
{板状構造体130の作製}
ラム波装置102の製造にあたっては、まず、図7に示すように、圧電体基板132の下面に支持膜126が形成された板状構造体130を作製する。支持膜126の形成は、支持膜126を構成する絶縁材料の膜を圧電体基板132の下面の全面に形成し、当該膜の不要部分をフッ酸によるエッチングで除去することにより行う。このとき、最終的に圧電体薄膜106となる圧電体基板132のフッ酸に対するエッチングレートは支持膜126よりも十分に遅いので、フッ酸でキャビティ180を形成するときに圧電体基板132はほとんどエッチングされない。エッチングは、温度を65℃に調整したフッ化水素濃度が50%のフッ酸に支持膜126を構成する絶縁材料の膜を圧電体基板132の下面の全面に形成した仕掛品を浸漬することにより行った。フッ酸の温度の調整は、フッ素樹脂製のビーカに入れたフッ酸を恒温水槽の内部で加熱することより行った。フッ酸への仕掛品の浸漬は、フッ酸の温度が安定した後に行った。キャビティの深さは、接触式段差計で測定した。なお、エッチングが行われる温度は、一定に維持されていれば必ずしも「65℃」である必要はないが、「65℃」であれば、エッチングレートが早くなりエッチングに要する時間が短くなる。
【0035】
{板状構造体130と支持基板124との接合}
板状構造体130を作製した後に、図8に示すように、板状構造体130の下面と支持基板124の上面とを接合する。板状構造体130と支持基板124との接合は、特に制限されないが、例えば、表面活性化接合・接着剤接合・熱圧着接合・陽極接合・共晶結合等により行う。
【0036】
{圧電体基板132の除去加工}
板状構造体130と支持基板124とを接合した後に、図9に示すように、板状構造体130と支持基板124とを接合した状態を維持したまま圧電体基板132を除去加工し、単独で自重に耐えることができる板厚(例えば、50μm以上)を有する圧電体基板132を単独で自重に耐えることができない膜厚(例えば、10μm以下)まで薄くする。これにより、支持基板124の上面の全面を覆う圧電体薄膜106が形成される。
【0037】
圧電体基板132の除去加工は、切削、研削、研磨等の機械加工やエッチング等の化学加工により行う。ここで、複数の除去加工方法を組み合わせ、加工速度が速い除去加工方法から、加工対象に生じる加工変質が小さい除去加工方法へと除去加工方法を切り替えながら圧電体基板132を除去加工すれば、高い生産性を維持しながら、圧電体薄膜106の品質を向上し、ラム波装置102の特性を向上することができる。例えば、圧電体基板132を固定砥粒に接触させて削る研削及び圧電体基板132を遊離砥粒に接触させて削る研磨を順次行った後に、当該研磨によって圧電体基板132に生じた加工変質層を仕上げ研磨によって除去することが望ましい。
【0038】
{IDT電極108の形成}
圧電体基板132を除去加工した後に、圧電体薄膜106の上面にIDT電極108を形成し、図1及び図2に示すラム波装置102を完成する。IDT電極108の形成は、圧電体薄膜106の上面の全面を覆う導電材料膜を形成し、当該導電材料膜の不要部分をエッチングで除去することにより行う。
【0039】
このラム波装置102の製造方法によれば、圧電体薄膜106をスパッタリング等により成膜した場合と異なり、圧電体薄膜106を構成する圧電材料や圧電体薄膜106の結晶方位が下地の制約を受けないので、圧電体薄膜106を構成する圧電材料や圧電体薄膜106における結晶方位の選択の自由度が高くなっている。したがって、ラム波装置102では、所望の特性を実現することが容易になっている。
【0040】
{その他}
IDT電極を圧電体薄膜106の下面に設ける場合は、支持膜126の形成に先立って圧電体基板132の下面にIDT電極を形成すればよい。
【0041】
<2 第2実施形態>
<2−1 ラム波装置202の構成>
第2実施形態は、第1実施形態の支持構造体122に代えて支持構造体222で第1実施形態と同様に圧電体薄膜206及びIDT電極208を備える積層体204を支持したラム波装置202に関する。図10は、第2実施形態のラム波装置202の模式図である。図10は、ラム波装置202の断面図となっている。
【0042】
図10に示すように、支持構造体222は、支持基板224を備えるが、支持膜を備えていない。支持基板224には、支持基板224から積層体204の励振部を離隔させるキャビティ280が形成されている。ラム波装置202のキャビティ280は、ラム波装置202のキャビティ280と異なり、支持基板224の上面と下面とを貫通している。
【0043】
圧電体薄膜206の結晶方位は、圧電体薄膜206の支持構造体222の側にある下面2062のフッ酸に対する65℃におけるエッチングレートが、支持基板224の圧電体薄膜206の側とは反対の下面2242よりも十分に遅くなるように選択することが望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/2以下となるように選択することがさらに望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/20以下となるように選択することが特に望ましい。なお、フッ酸以外、例えば、バッファードフッ酸・フッ硝酸等のフッ化水素を含む溶液でエッチングをする場合も同様のことが言える。また、フッ化水素を含むガスでドライエッチングをする場合も同様のことが言える。これにより、キャビティ280を形成するときに圧電体薄膜206がほとんどエッチングされないので、圧電体薄膜206の膜厚のばらつきが減少し、共振周波数のばらつきが小さくなる。例えば、圧電体薄膜206がニオブ酸リチウムのθ°Y板を薄膜化したものであれば、θ=0〜45°又は128〜180°であることが望ましい。
【0044】
図11は、後に支持基板となる素材基板のエッチングレートに対する圧電体薄膜のエッチングレートの比(以下では、「エッチングレート比」という。)と周波数ばらつきとの関係を示す図である。図12は、支持基板を構成する絶縁材料(素材基板を構成する絶縁材料)及び圧電体薄膜を構成する圧電材料も示している。図11に示す「LN36」「LN90」は、ニオブ酸リチウム(LN)の単結晶の36°Y板、90°Y板を意味し、「LT36」「LT90」及びは、それぞれ、タンタル酸リチウム(LT)の単結晶の36°Y板、90°Y板を意味する。図7は、圧電体薄膜の−Z面と素材基板の+Z面とが接合された場合の関係を示している。エッチングの手順及び条件は、第1実施形態の場合と同様である。
【0045】
支持基板224の材質は、貫通孔のキャビティ280を形成するため、フッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスによりエッチングされやすいタンタル酸リチウム(LiTaO3)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・二酸化シリコン(SiO2)・シリコン(Si)等であることが望ましい。
【0046】
ラム波装置202の各構成物の材質及び大きさは、その機能を果たすように選択されるが、典型的な設計例によれば、次のとおりである。ただし、この設計例は、本発明を制限するものではない。
【0047】
IDT電極108:アルミニウム(膜厚0.1μm,ピッチ0.73μm)
圧電体薄膜106:ニオブ酸リチウムの128°Y板を薄膜化したもの(膜厚1μm)
支持基板124:ニオブ酸リチウムの128°Y板(板厚500μm)
【0048】
<2−2 ラム波装置202の製造方法>
図12〜図14は、ラム波装置202の製造方法を説明する模式図である。図12〜図14は、製造の途上の仕掛品の断面図となっている。
【0049】
{圧電体基板232と素材基板230との接合}
ラム波装置202の製造にあたっては、まず、図12に示すように、圧電体基板232の下面と最終的に支持基板224となる素材基板230の上面とを接合する。圧電体基板232と素材基板230との接合は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0050】
{圧電体基板232の除去加工}
圧電体基板232と素材基板230とを接合した後に、図13に示すように、圧電体基板232と素材基板230とを接合した状態を維持したまま圧電体基板232を除去加工し、圧電体薄膜206を得る。圧電体基板232の除去加工は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0051】
{支持基板224の作製}
圧電体基板232を除去加工した後に、図14に示すように、素材基板230を下面の側からエッチングしてキャビティ280を形成された支持基板224を作製する。圧電体薄膜206のフッ酸に対するエッチングレートは素材基板230よりも十分に遅いので、フッ酸でキャビティ280を形成するときに圧電体薄膜206はほとんどエッチングされない。なお、IDT電極208を形成した後にキャビティ280を形成してもよい。
【0052】
{IDT電極208の形成}
支持基板224を作製した後に、圧電体薄膜206の上面にIDT電極208を形成し、図10に示すラム波装置202を完成する。IDT電極208の形成は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0053】
このラム波装置202の製造方法によれば、圧電体薄膜206をスパッタリング等により成膜した場合と異なり、圧電体薄膜206を構成する圧電材料や圧電体薄膜206の結晶方位が下地の制約を受けないので、圧電体薄膜206を構成する圧電材料や圧電体薄膜206の結晶方位の選択の自由度が高くなっている。したがって、ラム波装置202では、所望の特性を実現することが容易になっている。
【0054】
<3 第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の積層体104及び第2実施形態の積層体204に代えて採用することができる積層体304に関する。図15は、第3実施形態の積層体304の模式図である。図15は、積層体304の断面図となっている。
【0055】
図15に示すように、積層体304は、第1実施形態の圧電体薄膜106及びIDT電極108と同様の圧電体薄膜306及びIDT電極308に加えて、IDT電極309を備える。IDT電極309は、圧電体薄膜306の下面に設けられている。IDT電極309は、IDT電極308と同様の平面形状を有し、IDT電極308と対向する位置に設けられている。対向するIDT電極308のフィンガー310とIDT電極309のフィンガー311は同相となっている。
【0056】
このようなIDT電極308,309を採用した場合も、フィンガー310,311のピッチpの2倍の波長λのラム波が最も強く励振される。
【0057】
<4 第4実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の積層体104及び第2実施形態の積層体204に代えて採用することができる積層体404に関する。図16は、第4実施形態の積層体404の模式図である。
【0058】
図16に示すように、積層体404は、第1実施形態の圧電体薄膜106及びIDT電極108と同様の圧電体薄膜406及びIDT電極408に加えて、面電極409を備える。面電極409は、圧電体薄膜406の下面に設けられている。面電極409は、IDT電極408と対向する位置に設けられている。面電極409は、接地されていてもよいし、どこにも接続されずに電気的に浮いていてもよい。
【0059】
このようなIDT電極408を採用した場合も、フィンガー410のピッチpの2倍の波長λのラム波を最も強く励振される。
【0060】
<5 高次モードのラム波を励振することの利点>
図17は、A1モード及びS0モードのラム波並びに厚み方向縦波を励振したときの圧電体薄膜の膜厚による共振子の周波数の変化を示す図である。
【0061】
図17に示すように、A1モードのラム波を励振することにより、厚み方向縦波を励振した場合よりも高周波化が可能になり、S0モードのラム波を励振した場合では実現し得ない高周波化も可能になる。
【0062】
表1においては、3インチウエハを薄膜化した圧電体薄膜を支持構造体に支持させた構造を有する構造物にA1モードのラム波及び厚み方向縦波を励振する共振子を多数形成した場合の周波数のバラツキの実測結果を対比している。設計周波数はいずれも3GHzである。圧電体薄膜は、A1モードを励振する場合は、ニオブ酸リチウムの128°Y板を1.0μmまで薄膜化したもの、厚み方向縦波を励振する場合は、ニオブ酸リチウムの36°Y板を0.5μmまで薄膜化したものである。表1に示すように、A1モードのラムを励振する場合、周波数ばらつきは厚み方向縦波を励振する場合の半分になる。
【0063】
【表1】
【0064】
<6 その他>
この発明は詳細に説明されたが、上述の説明は、すべての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。特に、第1実施形態〜第5実施形態において説明したことを組み合わせることは当然に予定されている。
【符号の説明】
【0065】
102,202 ラム波装置
104,204,304,404 積層体
106,206,306,406 圧電体薄膜
108,208,308,309,408 IDT電極
110,310 フィンガー
116 バスバー
122,222 支持構造体
124,224 支持基板
180,280 キャビティ
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜にラム波を励振するラム波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧電体基板を除去加工して得られた圧電体薄膜に厚み方向縦波を励振するバルク弾性波装置を開示している。このようなバルク弾性波装置では、圧電体薄膜の膜厚に周波数が反比例するため、周波数を高くするためには圧電体薄膜の膜厚を薄くしなければならない。例えば、周波数を数GHzにするためには、圧電体薄膜を構成する圧電材料にもよるが、圧電体薄膜の膜厚を数100nmにしなければならない。
【0003】
しかし、圧電体薄膜の膜厚が数100nmにまで薄くなると、加工ばらつきによって生じる膜厚のばらつきが大きな周波数のばらつきの原因となるという問題を生じる。また、圧電体薄膜の機械的強度が不足するという問題も生ずる。
【0004】
一方、特許文献2は、圧電体薄膜にA1モードのラム波を励振するラム波装置を開示している。このようなラム波装置では、厚み方向縦波を励振するバルク弾性波装置の場合よりも、圧電体薄膜の膜厚が厚くなる。このため、圧電体薄膜の機械的強度が不足するという問題は緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−228319号公報
【特許文献2】国際公開第2007−046236号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2のラム波装置においても、膜厚のばらつきが共振周波数のばらつきに与える影響は、無視することができる程度にはならない。これは、A1モード等の高次モードのラム波の音速が圧電体薄膜の膜厚に対する大きな分散性を有しているからである。本発明は、この問題を解決するためになされたもので、周波数のばらつきが小さいラム波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1のラム波装置は、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、を備え、前記支持構造体が、支持基板と、前記支持基板と前記積層体とを接合するとともに前記積層体の励振部を支持基板から離隔させるキャビティが形成された支持膜と、を備え、音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0008】
請求項2のラム波装置は、請求項1のラム波装置において、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0009】
請求項3のラム波装置は、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、を備え、前記支持構造体が、支持基板、を備え、目的の周波数において音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【0010】
請求項4のラム波装置は、請求項3のラム波装置において、前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対するに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、支持構造体にキャビティを形成するときに圧電体薄膜がエッチングされることが抑制されるので、周波数のばらつきが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態のラム波装置の分解斜視図である。
【図2】第1実施形態のラム波装置の断面図である。
【図3】圧電材料がニオブ酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図4】圧電材料がニオブ酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図5】圧電材料がタンタル酸リチウムである場合のA1モードの分散曲線である。
【図6】エッチングレート比と周波数ばらつきとの関係を示す図である。
【図7】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図8】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図9】第1実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図10】第2実施形態のラム波装置の断面図である。
【図11】エッチングレート比と周波数ばらつきとの関係を示す図である。
【図12】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図13】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図14】第2実施形態のラム波装置の製造方法を説明する断面図である。
【図15】第3実施形態の積層体の断面図である。
【図16】第4実施形態の積層体の断面図である。
【図17】圧電体薄膜の膜厚による周波数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1 第1実施形態>
<1−1 ラム波装置102の構成>
図1及び図2は、第1実施形態のラム波装置102の模式図である。図1は、ラム波装置102の分解斜視図、図2は、ラム波装置102の断面図となっている。
【0014】
図1及び図2に示すように、ラム波装置102は、積層体104を支持構造体122で支持した構造を有する。積層体104は、圧電体薄膜106と、圧電体薄膜106にラム波を励振するIDT電極108とを備える。支持構造体122は、支持基板124と、支持基板124と積層体104とを接合する支持膜126とを備える。支持膜126には、積層体104の励振部を支持基板124から離隔させるキャビティ180が形成されている。IDT電極108は、キャビティ180が形成された領域(以下では、「キャビティ領域」という)の内部に設けられている。
【0015】
{圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチp}
圧電体薄膜106の膜厚h及びIDT電極108のフィンガー110のピッチpは、音速が5000m/s以上となるラム波が目的の周波数(設計周波数;共振子の場合は設計共振周波数)において励振されるように選択されることが望ましい。これにより、厚み方向縦波を励振する場合よりも圧電体薄膜106の膜厚hが厚くなる。
【0016】
音速が5000m/s以上となるラム波を励振するためには、S0モード(0次対称モード)及びA0モード(0次反対称モード)以外の高次モードであるSnモード(n次対称モード;nは1以上の自然数)又はAnモード(n次反対称モード;nは1以上の自然数)のラム波を励振することが望ましい。これは、第1に、圧電体薄膜106の膜厚が同じであれば、S0モード及びA0モードよりも高次モードの方がラム波の音速が速くなることによる。第2に、S0モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて速くなるが、その上昇は次第に緩慢になり、A0モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて遅くなり、いずれも5000m/sとすることが困難であるのに対して、高次モードのラム波の音速は、膜厚hが薄くなるにつれて単調に速くなるため、5000m/sとすることが容易であることによる。
【0017】
図3及び図4は、圧電体薄膜を構成する圧電材料がニオブ酸リチウム(LiNbO3)の単結晶である場合のA1モードの分散曲線である。図3及び図4は、それぞれ、128°Y板及び90°Y板を薄膜化した圧電体薄膜における波長λに対する膜厚hの比h/λによる音速vの変化を示している。図5は、圧電体薄膜を構成する圧電材料がタンタル酸リチウム(LiTaO3)の単結晶である場合のA1モードの分散曲線である。図5は、90°Y板を薄膜化した圧電体薄膜における波長λに対する膜厚hの比h/λによる音速vの変化を示している。
【0018】
図3〜図5に示すように、ラム波の励振条件h/λ≦1が満たされる範囲においては、方位角による若干の違いはあるものの、音速vは5000m/s以上となる。圧電体薄膜106を構成する圧電材料によっては、比h/λがラム波の励振条件h/λ≦1の上限に近づくと音速vが5000m/sを割り込むことも考えられるが、上述したように、A1モードのラム波の音速vは、膜厚hが薄くなるにつれて単調に速くなるため、膜厚hを若干薄くすることによって、A1モードのラム波の音速vを5000m/s以上にすることは容易である。これらのことは、A1モード以外の高次モードについても同様である。
【0019】
{音速を5000m/s以上とする意義}
水銀ランプを光源とする一般的なステッパのうち最も分解能が高いのは、波長が365nmのi線を用い最小線幅が0.365μmとなるi線ステッパである。このi線ステッパによりIDT電極108をパターニングした場合、IDT電極108により励振されるラム波の最短の波長λは0.365×4=1.46μmとなる。したがって、音速が5000m/s以上であれば、一般的なi線ステッパによりIDT電極108をパターニングした場合でも周波数は約3.4GHz以上となり、多くの高周波用途に利用可能なラム波装置が実現される。ただし、線幅を限界値である0.365μmまで狭くすると、IDT電極108の耐電力性の劣化やオーミック損によるQ値の低下が発生することもあるので、音速を8000m/s以上とすることがさらに望ましい。
【0020】
{圧電体薄膜106}
圧電体薄膜106を構成する圧電材料は、特に制限されないが、水晶(SiO2)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・タンタル酸リチウム(LiTaO3)・四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)・酸化亜鉛(ZnO)・ニオブ酸カリウム(KNbO3)・ランガサイト(La3Ga3SiO14)・窒化アルミニウム(AlN)・窒化ガリウム(GaN)等の単結晶から選択することが望ましい。圧電材料を単結晶から選択すれば、圧電体薄膜106の電気機械結合係数や機械的品質係数を向上することができるからである。
【0021】
圧電体薄膜106の結晶方位は、圧電体薄膜106の支持構造体122の側にある下面1062のフッ酸に対する65℃におけるエッチングレートが、支持膜126の支持基板124の側にある下面1262よりも十分に遅くなるように選択することが望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/2以下となるように選択することがさらに望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/20以下となるように選択することが特に望ましい。なお、フッ酸以外、例えば、バッファードフッ酸・フッ硝酸等のフッ化水素を含む溶液でエッチングをする場合も同様のことが言える。また、フッ化水素を含むガスでドライエッチングをする場合も同様のことが言える。これにより、キャビティ180を形成するときに最終的に圧電体薄膜106となる圧電体基板(後述)がほとんどエッチングされないので、圧電体薄膜106の膜厚のばらつきが減少し、共振周波数のばらつきが小さくなる。例えば、圧電体薄膜106がニオブ酸リチウムのθ°Y板を薄膜化したものであれば、θ=0〜45°又は128〜180°であることが望ましい。
【0022】
図6は、後に圧電体薄膜となる圧電体基板のエッチングレートの支持膜のエッチングレートに対する比(以下では、「エッチングレート比」という。)と周波数ばらつきとの関係を示す図である。図6は、支持膜を構成する絶縁材料及び圧電体基板を構成する圧電材料(圧電体薄膜を構成する圧電材料)も示している。図6に示す「LN36」「LN45」及び「LN90」は、それぞれ、ニオブ酸リチウム(LN)の単結晶の36°Y板、45°Y板及び90°Y板を意味する。図6は、圧電体基板の−Z面に支持膜を形成した場合の関係を示している。
【0023】
圧電体薄膜106は、支持基板124の全面を覆っている。
【0024】
{IDT電極108}
IDT電極108を構成する導電材料は、特に制限されないが、アルミニウム(Al)・モリブデン(Mo)・タングステン(W)・金(Au)・白金(Pt)・銀(Ag)・銅(Cu)・チタン(Ti)・クロム(Cr)・ルテニウム(Ru)・バナジウム(V)・ニオブ(Nb)・タンタル(Ta)・ロジウム(Rh)・イリジウム(Ir)・ジルコニウム(Zr)・ハフニウム(Hf)・パラジウム(Pd)又はこれらを主成分とする合金から選択することが望ましく、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金から選択することが特に望ましい。
【0025】
IDT電極108は、圧電体薄膜106の上面に設けられている。なお、IDT電極108を圧電体薄膜106の下面に設けてもよい。
【0026】
IDT電極108は、圧電体薄膜106に電界を印加するとともに圧電体薄膜106の表面に生成した表面電荷を収集するフィンガー110とフィンガー110を接続するバスバー116とを備える。フィンガー110は、ラム波の伝播方向と垂直な方向に延在し、ラム波の伝播方向に等間隔で配列されている。バスバー116は、ラム波の伝播方向に延在している。フィンガー110には、一方の側の端部において第1のバスバー118に接続された第1のフィンガー112と他方の側の端部において第2のバスバー120に接続された第2のフィンガー114とがあり、第1のフィンガー112と第2のフィンガー114とは交互に配列されている。これにより、IDT電極108は、第1のバスバー116と第2のバスバー116との間に入力された信号に応じたラム波を送信するとともに、受信したラム波に応じた信号を第1のバスバー116と第2のバスバー116との間に出力する。
【0027】
交互に配列された第1のフィンガー112と第2のフィンガー114とが異なる相となっている2相型のIDT電極108は、フィンガー110のピッチpの2倍の波長λのラム波を最も強く励振する。
【0028】
IDT電極108によって励振されたラム波は、キャビティ領域の端面で反射され、ラム波装置102は、共振子として機能する。なお、IDT電極108をラム波の伝播方向の両側から反射器電極で挟んでもよい。また、ラム波装置102を複数の共振子を組み合わせたフィルタ・デュプレクサ等として構成してもよいし、センサ等としてラム波装置102を構成してもよい。一般的に言って、「ラム波装置」とは、圧電体薄膜にラム波を励振し、当該ラム波による電気的な応答を利用する電子部品の全般を意味する。「ラム波」とは、伝播面内に変位成分をもつ縦波(L波:Longitudinai波)と横波(SV波:Shear Virtical波)の両者によって構成され、上面及び下面の境界条件により縦波と横波とが結合しながら伝播する波である。
【0029】
{支持基板124}
支持基板124を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、シリコン(Si)・ゲルマニウム(Ge)等のIV元素の単体、サファイア(Al2O3)・酸化マグネシウム(MgO)・酸化亜鉛(ZnO)・二酸化シリコン(SiO2)等の単純酸化物、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)等のホウ化物、タンタル酸リチウム(LiTaO3)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・アルミン酸リチウム(LiAlO2)、ガリウム酸リチウム(LiGaO2)・スピネル(MgAl2O4)・アルミン酸タンタル酸ランタンストロンチウムリチウム((LaSr)(AlTa)O3)・ガリウム酸ネオジウム(NdGaO3)等の複合酸化物、シリコンゲルマニウム(SiG)等のIV-IV族化合物、ガリウム砒素GaAs)・窒化アルミニウム(AlN)・窒化ガリウム(GaN)・窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)等のIII-IV族化合物等を選択することが望ましい。
【0030】
{支持膜126}
支持膜126を構成する絶縁材料は、特に制限されないが、二酸化シリコンを選択することが望ましい。支持膜126は、概ね、キャビティ領域の外側に設けられ、その下面は支持基板124の上面に接し、その上面は圧電体薄膜106の下面1062に接している。支持膜126は、キャビティ領域において支持基板124から積層体104を離隔させるスペーサの役割を果たしている。
【0031】
{設計例}
ラム波装置102の各構成物の材質及び大きさは、その機能を果たすように選択されるが、典型的な設計例によれば、次のとおりである。ただし、この設計例は、本発明を制限するものではない。
【0032】
IDT電極108:アルミニウム(膜厚0.1μm,ピッチ0.73μm)
圧電体薄膜106:ニオブ酸リチウムの128°Y板を薄膜化したもの(膜厚1μm)
支持膜126:二酸化シリコン(膜厚0.5μm)
支持基板124:ニオブ酸リチウムの128°Y板(板厚500μm)
【0033】
<1−2 ラム波装置102の製造方法>
図7〜図9は、ラム波装置102の製造方法を説明する模式図である。図7〜図9は、製造の途上の仕掛品の断面図となっている。
【0034】
{板状構造体130の作製}
ラム波装置102の製造にあたっては、まず、図7に示すように、圧電体基板132の下面に支持膜126が形成された板状構造体130を作製する。支持膜126の形成は、支持膜126を構成する絶縁材料の膜を圧電体基板132の下面の全面に形成し、当該膜の不要部分をフッ酸によるエッチングで除去することにより行う。このとき、最終的に圧電体薄膜106となる圧電体基板132のフッ酸に対するエッチングレートは支持膜126よりも十分に遅いので、フッ酸でキャビティ180を形成するときに圧電体基板132はほとんどエッチングされない。エッチングは、温度を65℃に調整したフッ化水素濃度が50%のフッ酸に支持膜126を構成する絶縁材料の膜を圧電体基板132の下面の全面に形成した仕掛品を浸漬することにより行った。フッ酸の温度の調整は、フッ素樹脂製のビーカに入れたフッ酸を恒温水槽の内部で加熱することより行った。フッ酸への仕掛品の浸漬は、フッ酸の温度が安定した後に行った。キャビティの深さは、接触式段差計で測定した。なお、エッチングが行われる温度は、一定に維持されていれば必ずしも「65℃」である必要はないが、「65℃」であれば、エッチングレートが早くなりエッチングに要する時間が短くなる。
【0035】
{板状構造体130と支持基板124との接合}
板状構造体130を作製した後に、図8に示すように、板状構造体130の下面と支持基板124の上面とを接合する。板状構造体130と支持基板124との接合は、特に制限されないが、例えば、表面活性化接合・接着剤接合・熱圧着接合・陽極接合・共晶結合等により行う。
【0036】
{圧電体基板132の除去加工}
板状構造体130と支持基板124とを接合した後に、図9に示すように、板状構造体130と支持基板124とを接合した状態を維持したまま圧電体基板132を除去加工し、単独で自重に耐えることができる板厚(例えば、50μm以上)を有する圧電体基板132を単独で自重に耐えることができない膜厚(例えば、10μm以下)まで薄くする。これにより、支持基板124の上面の全面を覆う圧電体薄膜106が形成される。
【0037】
圧電体基板132の除去加工は、切削、研削、研磨等の機械加工やエッチング等の化学加工により行う。ここで、複数の除去加工方法を組み合わせ、加工速度が速い除去加工方法から、加工対象に生じる加工変質が小さい除去加工方法へと除去加工方法を切り替えながら圧電体基板132を除去加工すれば、高い生産性を維持しながら、圧電体薄膜106の品質を向上し、ラム波装置102の特性を向上することができる。例えば、圧電体基板132を固定砥粒に接触させて削る研削及び圧電体基板132を遊離砥粒に接触させて削る研磨を順次行った後に、当該研磨によって圧電体基板132に生じた加工変質層を仕上げ研磨によって除去することが望ましい。
【0038】
{IDT電極108の形成}
圧電体基板132を除去加工した後に、圧電体薄膜106の上面にIDT電極108を形成し、図1及び図2に示すラム波装置102を完成する。IDT電極108の形成は、圧電体薄膜106の上面の全面を覆う導電材料膜を形成し、当該導電材料膜の不要部分をエッチングで除去することにより行う。
【0039】
このラム波装置102の製造方法によれば、圧電体薄膜106をスパッタリング等により成膜した場合と異なり、圧電体薄膜106を構成する圧電材料や圧電体薄膜106の結晶方位が下地の制約を受けないので、圧電体薄膜106を構成する圧電材料や圧電体薄膜106における結晶方位の選択の自由度が高くなっている。したがって、ラム波装置102では、所望の特性を実現することが容易になっている。
【0040】
{その他}
IDT電極を圧電体薄膜106の下面に設ける場合は、支持膜126の形成に先立って圧電体基板132の下面にIDT電極を形成すればよい。
【0041】
<2 第2実施形態>
<2−1 ラム波装置202の構成>
第2実施形態は、第1実施形態の支持構造体122に代えて支持構造体222で第1実施形態と同様に圧電体薄膜206及びIDT電極208を備える積層体204を支持したラム波装置202に関する。図10は、第2実施形態のラム波装置202の模式図である。図10は、ラム波装置202の断面図となっている。
【0042】
図10に示すように、支持構造体222は、支持基板224を備えるが、支持膜を備えていない。支持基板224には、支持基板224から積層体204の励振部を離隔させるキャビティ280が形成されている。ラム波装置202のキャビティ280は、ラム波装置202のキャビティ280と異なり、支持基板224の上面と下面とを貫通している。
【0043】
圧電体薄膜206の結晶方位は、圧電体薄膜206の支持構造体222の側にある下面2062のフッ酸に対する65℃におけるエッチングレートが、支持基板224の圧電体薄膜206の側とは反対の下面2242よりも十分に遅くなるように選択することが望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/2以下となるように選択することがさらに望ましく、フッ酸に対するエッチングレートが1/20以下となるように選択することが特に望ましい。なお、フッ酸以外、例えば、バッファードフッ酸・フッ硝酸等のフッ化水素を含む溶液でエッチングをする場合も同様のことが言える。また、フッ化水素を含むガスでドライエッチングをする場合も同様のことが言える。これにより、キャビティ280を形成するときに圧電体薄膜206がほとんどエッチングされないので、圧電体薄膜206の膜厚のばらつきが減少し、共振周波数のばらつきが小さくなる。例えば、圧電体薄膜206がニオブ酸リチウムのθ°Y板を薄膜化したものであれば、θ=0〜45°又は128〜180°であることが望ましい。
【0044】
図11は、後に支持基板となる素材基板のエッチングレートに対する圧電体薄膜のエッチングレートの比(以下では、「エッチングレート比」という。)と周波数ばらつきとの関係を示す図である。図12は、支持基板を構成する絶縁材料(素材基板を構成する絶縁材料)及び圧電体薄膜を構成する圧電材料も示している。図11に示す「LN36」「LN90」は、ニオブ酸リチウム(LN)の単結晶の36°Y板、90°Y板を意味し、「LT36」「LT90」及びは、それぞれ、タンタル酸リチウム(LT)の単結晶の36°Y板、90°Y板を意味する。図7は、圧電体薄膜の−Z面と素材基板の+Z面とが接合された場合の関係を示している。エッチングの手順及び条件は、第1実施形態の場合と同様である。
【0045】
支持基板224の材質は、貫通孔のキャビティ280を形成するため、フッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスによりエッチングされやすいタンタル酸リチウム(LiTaO3)・ニオブ酸リチウム(LiNbO3)・二酸化シリコン(SiO2)・シリコン(Si)等であることが望ましい。
【0046】
ラム波装置202の各構成物の材質及び大きさは、その機能を果たすように選択されるが、典型的な設計例によれば、次のとおりである。ただし、この設計例は、本発明を制限するものではない。
【0047】
IDT電極108:アルミニウム(膜厚0.1μm,ピッチ0.73μm)
圧電体薄膜106:ニオブ酸リチウムの128°Y板を薄膜化したもの(膜厚1μm)
支持基板124:ニオブ酸リチウムの128°Y板(板厚500μm)
【0048】
<2−2 ラム波装置202の製造方法>
図12〜図14は、ラム波装置202の製造方法を説明する模式図である。図12〜図14は、製造の途上の仕掛品の断面図となっている。
【0049】
{圧電体基板232と素材基板230との接合}
ラム波装置202の製造にあたっては、まず、図12に示すように、圧電体基板232の下面と最終的に支持基板224となる素材基板230の上面とを接合する。圧電体基板232と素材基板230との接合は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0050】
{圧電体基板232の除去加工}
圧電体基板232と素材基板230とを接合した後に、図13に示すように、圧電体基板232と素材基板230とを接合した状態を維持したまま圧電体基板232を除去加工し、圧電体薄膜206を得る。圧電体基板232の除去加工は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0051】
{支持基板224の作製}
圧電体基板232を除去加工した後に、図14に示すように、素材基板230を下面の側からエッチングしてキャビティ280を形成された支持基板224を作製する。圧電体薄膜206のフッ酸に対するエッチングレートは素材基板230よりも十分に遅いので、フッ酸でキャビティ280を形成するときに圧電体薄膜206はほとんどエッチングされない。なお、IDT電極208を形成した後にキャビティ280を形成してもよい。
【0052】
{IDT電極208の形成}
支持基板224を作製した後に、圧電体薄膜206の上面にIDT電極208を形成し、図10に示すラム波装置202を完成する。IDT電極208の形成は、第1実施形態の場合と同様に行う。
【0053】
このラム波装置202の製造方法によれば、圧電体薄膜206をスパッタリング等により成膜した場合と異なり、圧電体薄膜206を構成する圧電材料や圧電体薄膜206の結晶方位が下地の制約を受けないので、圧電体薄膜206を構成する圧電材料や圧電体薄膜206の結晶方位の選択の自由度が高くなっている。したがって、ラム波装置202では、所望の特性を実現することが容易になっている。
【0054】
<3 第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の積層体104及び第2実施形態の積層体204に代えて採用することができる積層体304に関する。図15は、第3実施形態の積層体304の模式図である。図15は、積層体304の断面図となっている。
【0055】
図15に示すように、積層体304は、第1実施形態の圧電体薄膜106及びIDT電極108と同様の圧電体薄膜306及びIDT電極308に加えて、IDT電極309を備える。IDT電極309は、圧電体薄膜306の下面に設けられている。IDT電極309は、IDT電極308と同様の平面形状を有し、IDT電極308と対向する位置に設けられている。対向するIDT電極308のフィンガー310とIDT電極309のフィンガー311は同相となっている。
【0056】
このようなIDT電極308,309を採用した場合も、フィンガー310,311のピッチpの2倍の波長λのラム波が最も強く励振される。
【0057】
<4 第4実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の積層体104及び第2実施形態の積層体204に代えて採用することができる積層体404に関する。図16は、第4実施形態の積層体404の模式図である。
【0058】
図16に示すように、積層体404は、第1実施形態の圧電体薄膜106及びIDT電極108と同様の圧電体薄膜406及びIDT電極408に加えて、面電極409を備える。面電極409は、圧電体薄膜406の下面に設けられている。面電極409は、IDT電極408と対向する位置に設けられている。面電極409は、接地されていてもよいし、どこにも接続されずに電気的に浮いていてもよい。
【0059】
このようなIDT電極408を採用した場合も、フィンガー410のピッチpの2倍の波長λのラム波を最も強く励振される。
【0060】
<5 高次モードのラム波を励振することの利点>
図17は、A1モード及びS0モードのラム波並びに厚み方向縦波を励振したときの圧電体薄膜の膜厚による共振子の周波数の変化を示す図である。
【0061】
図17に示すように、A1モードのラム波を励振することにより、厚み方向縦波を励振した場合よりも高周波化が可能になり、S0モードのラム波を励振した場合では実現し得ない高周波化も可能になる。
【0062】
表1においては、3インチウエハを薄膜化した圧電体薄膜を支持構造体に支持させた構造を有する構造物にA1モードのラム波及び厚み方向縦波を励振する共振子を多数形成した場合の周波数のバラツキの実測結果を対比している。設計周波数はいずれも3GHzである。圧電体薄膜は、A1モードを励振する場合は、ニオブ酸リチウムの128°Y板を1.0μmまで薄膜化したもの、厚み方向縦波を励振する場合は、ニオブ酸リチウムの36°Y板を0.5μmまで薄膜化したものである。表1に示すように、A1モードのラムを励振する場合、周波数ばらつきは厚み方向縦波を励振する場合の半分になる。
【0063】
【表1】
【0064】
<6 その他>
この発明は詳細に説明されたが、上述の説明は、すべての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。特に、第1実施形態〜第5実施形態において説明したことを組み合わせることは当然に予定されている。
【符号の説明】
【0065】
102,202 ラム波装置
104,204,304,404 積層体
106,206,306,406 圧電体薄膜
108,208,308,309,408 IDT電極
110,310 フィンガー
116 バスバー
122,222 支持構造体
124,224 支持基板
180,280 キャビティ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラム波装置であって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、
前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、
を備え、
前記支持構造体が、
支持基板と、
前記支持基板と前記積層体とを接合するとともに前記積層体の励振部を支持基板から離隔させるキャビティが形成された支持膜と、
を備え、
音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項2】
請求項1のラム波装置において、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項3】
ラム波装置であって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、
前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、
を備え、
前記支持構造体が、
支持基板、
を備え、
目的の周波数において音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項4】
請求項3のラム波装置において、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対するに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項1】
ラム波装置であって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、
前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、
を備え、
前記支持構造体が、
支持基板と、
前記支持基板と前記積層体とを接合するとともに前記積層体の励振部を支持基板から離隔させるキャビティが形成された支持膜と、
を備え、
音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が目的の周波数において励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項2】
請求項1のラム波装置において、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持膜の前記支持基板の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項3】
ラム波装置であって、
圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の主面に設けられたIDT電極と、
前記圧電体薄膜及び前記IDT電極の積層体を支持する支持構造体と、
を備え、
前記支持構造体が、
支持基板、
を備え、
目的の周波数において音速が5000m/s以上となる高次モードのラム波が励振されるように前記圧電体薄膜の膜厚及び前記IDT電極のフィンガーのピッチが選択され、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/2以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【請求項4】
請求項3のラム波装置において、
前記圧電体薄膜の前記支持構造体の側にある主面のフッ化水素を含む溶液又はフッ化水素を含むガスに対するに対する65℃におけるエッチングレートが前記支持基板の前記圧電体薄膜の側とは反対の側にある主面の1/20以下となるように前記圧電体薄膜の方位が選択されるラム波装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−220204(P2010−220204A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28752(P2010−28752)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]