説明

ランダム共重合体

【課題】高い移動度と耐久性を有し、有機EL素子等の正孔注入材料、正孔輸送材料及び発光材料に適したアリールアミンランダム共重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(11)及び(12)で表されるハロゲン化合物と一般式(13)で表されるアミン化合物とを、パラジウム触媒及び塩基の存在下で反応させる。


(式中、X,Xはハロゲン原子を表し、R21〜R23は各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基を表す。また、Arは特定のフルオレニル基、窒素含有複素環基、窒素含有ジフェニル基から選択される基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールアミン構造を有するランダム共重合体及びその製造法に関するものであり、有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)、有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池等の有機半導体材料として非常に有用である。
【背景技術】
【0002】
これまでに、主鎖型のアリールアミンポリマーが数多く報告されている。それらポリマーは、側鎖にフェニレン基を有するものが多く、縮合環がアミノ基に置換したポリマーの物性に関する記述やその合成法については共になかった(例えば、特許文献1〜5参照)。最近、側鎖にフルオニル基が置換したアリールアミンポリマーが報告されている(例えば、特許文献6〜7参照)。
【0003】
特許文献6では、エタノール中、ジボロン酸を原料に鈴木−宮浦カップリング反応を用いて合成しているが、何ら分子量に関する記載はない。追試したところ、重量平均分子量は、10,000〜20,000程度のものであった。その原因は、フルオレニル基のような縮合環が置換した場合、反応過程で中間体であるオリゴマーが生成し、その溶解度が低いため高分子量のポリマーが生成しにくいものと考えられる。特許文献7では、脱ハロゲン化重合である山本法を用いて合成しているが、実施例に記載されている重量平均分子量は、3,000〜4,000程度である。このように、従来の方法では、側鎖にフルオニル基のような縮合環が置換したポリマーの分子量は極めて低く、その結果、塗布法により成膜される有機薄膜の安定性が低いため、素子寿命が短いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−527102公報
【特許文献2】米国特許第5728801号公報
【特許文献3】特開2004−292782公報
【特許文献4】特開2003−316044公報
【特許文献5】特開2002−80595公報
【特許文献6】特開2009−43896公報
【特許文献7】特表2004−525501公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来材料以上に高い移動度と耐久性を有し、側鎖に特定の位置に置換基を有するフルオレニル基が置換した高分子量新規アリールアミン共重合体を提供することにある。更に詳しくは、有機EL素子等の正孔注入材料、正孔輸送材料及び発光材料に適したアリールアミンランダム共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定のモノマー単位を有するアリールアミンポリマー、なかでもある特定の割合で含有するアリールアミンのランダム共重合体が、効率及び耐久性の面で従来報告されているアリールアミンポリマーより非常に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、下記一般式(1)及び(2)の構成単位からなるランダム共重合体及びその製造方法に関するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R〜Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとR、又はRとRは互いに結合して環を形成しても良い。Arは下記一般式(3)〜(6)で表される基を表す。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0011】
一般式(1)及び(2)の構成単位からなるランダム共重合体において、R〜Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。
【0012】
〜Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基、トリデカニル基、テトラデカニル基、ペンタデカニル基、ヘキサデカニル基、オクタデカニル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2−エチルブチル基、4−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基等の分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0013】
また、置換基を有しても良いフェニル基としては、フェニル基、トリル基、アニシジル基、フェニル基で置換したフェニル基等が挙げられる。
【0014】
なお、RとR、又はRとRは互いに結合して環を形成しても良い。具体的には、以下のようなスピロ環が挙げられる。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、nは2〜5の整数を表し、R24は炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。)
上記一般式(2)において、Arは下記一般式(3)〜(6)で表される基である。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。)
及びRのアルキル基としては、R〜Rで例示した置換基を挙げることができる。また、Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基であって、置換基としては、R〜Rで例示したアルキル基の他、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基等の直鎖状のアルコキシ基、イソプロポキシ基、2−メチルプロピルオキシ基、2−メチルブチルオキシ基、3−メチルブチルオキシ基、2−エチルブチルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基等の分岐状のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0019】
本発明のランダム共重合体は、有機EL素子等において、耐久性及び発光効率向上をもたらす因子と考えられる有機薄膜の安定性及び高い正孔移動度を有する。なかでも、特定の構成単位の比率、具体的には、上記一般式(1)の構成単位と上記一般式(2)の構成単位の総和に対する上記一般式(2)の構成単位の比率(以下、F値と略す)が、0.01以上0.80以下であり、好ましくは0.10以上0.60未満である場合、有機EL素子の耐久性をもたらすことができる。耐久性及び発光効率が向上する詳細な要因は不明なところもあるが、おそらく、上記一般式(2)で表される構成単位が、ランダム共重合体中に部分的な結晶部分として存在するため高い移動度をもたらしたり、本発明のランダム共重合体を用いると他の薄膜層と接する界面の密着性が向上するためと考えられる。
【0020】
本発明のランダム共重合体の中でも、更に好ましくは、上記一般式(3)〜(6)で表される構成単位を有するものである。より好ましくは下記一般式(7)〜(10)で表されるランダム共重合体である。
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R〜R20は各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基を表し、Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。なお、RとR10、又はR12とR13は互いに結合して環を形成しても良い。mとnは、0.01≦n/(m+n)(=上記F値)≦0.80を満たす1以上の整数である。)
本発明のランダム共重合体の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、ポリスチレン換算で20,000〜500,000の範囲であり、より好ましくはポリスチレン換算で40,000〜100,000の範囲である。
【0023】
次に、本発明のランダム共重合体の製造方法について説明する。
【0024】
本発明のランダム共重合体は、下記一般式(11)、(12)及び(13)を原料に、公知のBuchwald−Hartwig反応を用いてパラジウム触媒及び塩基の存在下に合成することができる(例えば、Palladium Reagents and Catalysts、 John & Wiley 参照)。
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、X,Xはハロゲン原子を表し、R21〜R23は各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基を表す。また、Arは下記一般式(3)〜(6)で表される基を表す。)
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。)
なお、原料となる上記一般式(13)で表されるアミノフルオレン誘導体は、例えば、下記フルオレン誘導体から公知の方法により合成することができる。具体的には、ニトロ化/水素化を経由する方法、又は臭素化/Buchwald−Hartwig反応を利用したベンジルアミノ化/水素化を経由する方法が挙げられる。
【0029】
【化8】

【0030】
得られたランダム共重合体は、上記一般式(11)〜(13)で表される化合物の仕込みモノマー比率により、ランダム共重合体末端が、ハロゲン原子及び/又はアミノ基となっているため、ランダム共重合体の安定化のために末端保護処理を行うことができる。
【0031】
このように得られたランダム共重合体は、公知の再沈法、シリカゲル、アルミナ及び活性白土等の無機系酸化物、又は活性炭、イオン交換樹脂等のカラムクロマトグラフィーによる処理を、必要に応じて繰り返し行うことにより精製することができる。
【0032】
また、本発明のランダム共重合体からなる薄膜は、スピンコート法、ディップコート法、溶媒キャスト法等の常法により形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明による上記一般式(1)及び(2)の構成単位からなるランダム共重合体は、有機EL素子の正孔注入材料、正孔輸送材料、有機トランジスタ等のp型半導体材料として、発光効率及び耐久性向上の点で非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】2−ブロモ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンのH−NMRスペクトルを示す。
【図2】2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンのH−NMRスペクトルを示す。
【図3】2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンの13C−NMRスペクトルを示す。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明する。なお、実施例で得られた化合物の同定及び純度は、H−NMR測定、13C−NMR測定、GPC測定、ガスクロマトグラフィー測定又は液体クロマトグラフィー測定により行った。
【0036】
H−NMR測定、13C−NMR測定]
装置:バリアン社製 Gemini200
[ガスクロマトグラフィー測定]
装置:島津製作所製 GC−17A
カラム:キャピラリーカラム(J&WScience社製 DB−5)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:150℃から280℃まで昇温(5℃/分)
インジェクション:280℃
検出器:FID
[液体クロマトグラフィー測定]
装置:東ソー製 マルチステーション LC−8020
カラム:Inertsil ODS−3V(4.6mmΦ×250mm)
検出器:UV検出(波長 254nm)
溶離液:メタノール/テトラヒドロフラン=9/1(v/v比)
[GPC測定]
装置:HLC−8220
カラム:G4000HXL−G3000HXL−G2000HXL−G2000HXL(いずれも東ソー製))
検出器:RI
溶離液:THF
合成例1(2−ブロモ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンの合成)
2Lセパラブルフラスコに、無水塩化アルミニウム 36.1g(274mmol)及びジクロロメタン 1Lを加えた後、室温で塩化アルミニウムが溶解するまで攪拌した。塩化アルミニウムが溶解したことを確認した後、ヘキサノイルクロライド 33.3g(247.1mmol)を加え、次に、9,9−ジメチルフルオレン 48g(247.1mmol)とジクロロメタン 600mLからなる混合溶液を室温下2時間滴下した。その後、4時間攪拌した後、反応液を2N−塩酸水溶液 400mLと氷 2kgからなる酸性水溶液に滴下して反応を終了させた。反応液を分液ロートに移し、pHが中性になるまで水で有機相を洗浄した。
【0037】
有機層を濃縮乾固することにより、70.6gの7−ヘキサノル−9,9−ジメチルフルオレンを合成した(淡褐色粉末、収率=97.8%、ガスクロマトグラフィー純度=98.0%)。
【0038】
次に、得られた7−ヘキサノル−9,9−ジメチルフルオレン 65.5g(224.2mmol)、85%水酸化カリウム 25.5g(385.7mmol)、エチレングリコール 600mLを1L丸底フラスコに加えた。次に、ヒドラジン一水和物 36.1g(721.5mmol)を室温で滴下した後、220℃で6.5時間還流させた。室温まで冷却後、トルエン及び水 各500mLを加えて有機相を抽出した。有機相は、pHが中性になるまで洗浄した後、硫酸マグネシウムで有機相を乾燥した。濃縮後に得られた油状物は、シリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン)により精製し、58.0gの微褐色油状物である7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを得た(収率=93.0%)。
【0039】
次に、1Lナス型フラスコに、7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 56.6g(203.5mmol)、クロロホルム 500mLを加えた後、室温下、臭素 34.7g(217mmol)を滴下し、その後3時間攪拌した。反応液は、飽和炭酸ナトリウム水溶液、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液、水で順次洗浄した。得られた有機相は濃縮することにより、目的物である2−ブロモ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを得た(収率=98.0%)。
【0040】
H−NMR測定により目的物であることを確認した(図1参照)。
【0041】
合成例2(2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンの合成)
1Lナス型フラスコに、2−ブロモ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 35.9g(100.6mmol)、ベンジルアミン 10.9g(100.6mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 11.8g(120.6mmol)、キシレン 400mLを加えた後、反応液を20分間、窒素バブリングした。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体 256mg(パラジウム換算で0.5mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン 300mg(1.4mmol)、キシレン 10mLからなる溶液を反応液に加えた後、120℃で5時間反応させた。反応液を室温まで冷却した後、水 250mLを加えて有機相を抽出した。有機相は濃縮後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することで、19.4gの2−ベンジルアミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを単離した(収率=50.3%、淡黄色棒状結晶)。
【0042】
○2−ベンジルアミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンのH−NMR
H−NMR(CDCl) δ:7.28−7.50(7H,m),7.16(1H,brs),7.09(1H,dd,J=8.0Hz),6.71(1H,d,J=2.2Hz),6.61(1H,dd,J=8.2,2.2Hz),4.38(2H,s),4.4(1H,brs),2.64(2H,t),1.2−1.8(14H,m),0.89(3H,t)
次に、50mLナス型フラスコに、2−ベンジルアミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 1.0g,トルエン 20mL、水 3.4g及び10%パラジウム−炭素(エヌ・イー・ケムキャット製、PEタイプ) 0.16g(ドライベース)を加え、系内を窒素で置換した。反応温度を70℃まで昇温した後、ギ酸 0.6gを滴下し、更に90℃で6時間加熱攪拌した。反応液を冷却後、触媒を濾過し有機層を分離した。得られた有機相を濃縮することで、目的とする2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを無色結晶として0.75g単離した(収率=92%、HPLC純度=98.7%)。
【0043】
目的物の同定は、H−NMR測定、13C−NMR測定により行った(図2,図3参照)。
【0044】
合成例3(2−アミノ−7−ペンチル−9,9−ジメチルフルオレンの合成)
ヘキサノイルクロライドをバレロイルクロライドに変更した他は、合成例1に準じて2−ブロモ−7−ペンチル−9,9−ジメチルフルオレンを合成した。次に、実施例1に準じて目的とする2−アミノ−7−ペンチル−9,9−ジメチルフルオレンを無色結晶として合成した。
【0045】
合成例4(2−アミノ−7−オクタノイル−9,9−ジメチルフルオレンの合成)
ヘキサノイルクロライドをオクタノイルクロライドに変更した他は、合成例1に準じて2−ブロモ−7−オクチル−9,9−ジメチルフルオレンを合成した。次に、実施例1に準じて目的とする2−アミノ−7−オクチル−9,9−ジメチルフルオレンを無色油状物として合成した。
【0046】
合成例5(N,N−ジ(4−ブロモフェニル)−2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンの合成)
窒素雰囲気下、50mLナス型フラスコに、2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチル−フルオレン 0.50g(1.71mmol)、ブロモベンゼン 0.35mL(3.40mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 0.39g(4.06mmol)及びキシレン 10mLを加えた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体 17.0mg(0.016mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン 19mg及びキシレン 5mLからなる混合溶液を加え、120℃で3時間攪拌した。冷却後、純水 20mL及びトルエン 20mLを加えてから分液ロートに移し有機層を分離した。有機層は、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。有機層を濃縮することで、褐色油状物を0.88g得た。シリカゲルクロマトグラフィーにより精製することで、無色の粘性油状物665.5mgを得た(収率=87.7%)。目的物のH−NMR測定、13C−NMR測定結果は以下の通りであった。
【0047】
○2−ジフェニルアミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンのH−NMR測定、13C−NMR測定
H−NMR(CDCl) δ:7.52(2H,d,J=7.6Hz),6.96−7.29(14H,m),2.66(2H,t,J=7.6Hz),1.61(2H,m),1.39(6H,s),1.32(6H,br s),0.89(3H,t)
13C−NMR(CDCl) δ:155.0,153.7,148.1,146.8,141.6,136.5,134.4,129.2,129.1,128.2,127.1,125.3,123.9,123.5,122.5,122.4,120.2,119.2,118.9,46.8,36.4,31.9,29.2,27.3,22.8,14.3
次に、得られた無色の粘性油状物をジメチルホルムアミド 7mLに溶解後、N−ブロモスクシンアミド 544.9mg(3.05mmol)のジメチルホルムアミド溶液 2mLを加えて、室温で2時間攪拌した。トルエン、水を加えて有機層を抽出した。有機層を濃縮して得られた褐色油状物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、818.5mgの無色粘性油状物を得た(収率=91.1%、HPLC純度=98.1%)。目的物のH−NMR測定、13C−NMR測定結果は以下の通りであった。
【0048】
○N,N−ジ(4−ブロモフェニル)−2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンのH−NMR測定、13C−NMR測定
H−NMR(CDCl) δ:7.54(2H,d,J=7.8Hz),7.11−7.36(7H,m),6.97(4H,d,J=8.8Hz),6.87(1H,d,J=9.0Hz),2.67(2H,t,J=7.6Hz),1.65(2H,m),1.40(6H,s),1.33(6H,br s),0.89(3H,t)
13C−NMR(CDCl) δ:155.3,153.7,146.7,125.7,142.0,136.2,135.4,132.3,132.1,129.1,128.2,127.3,125.2,123.8,123.2,122.6,120.5,119.3,119.2,115.2,114.6,46.9,36.4,31.9,29.2,27.3,22.8,14.3
実施例1
窒素雰囲気下、50mLナス型フラスコに、4,4’−ジヨードビフェニル 1.62g(4.0mmol)、2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン 0.350g(1.0mmol)、合成例2で得られた2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 1.47g(5.0mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 1.15g(12mmol)及びキシレン 15mLを加えた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体 25.8mg(0.025mmol)、トリ−tert−ブチルホスフィン 29mg及びキシレン 5mLからなる混合溶液を加え、130℃で6時間攪拌した。その後、ブロモベンゼン 50μLを添加し、2時間反応を行った後、ジフェニルアミンの10%キシレン溶液 0.85mLを添加し、更に2時間反応を行った。反応終了後、約80℃まで冷却してから、この反応混合物を攪拌しながら90%アセトン水溶液(100mL)にゆっくり加えた。ろ過により固体を回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄し、減圧乾燥することにより淡黄色粉体を得た。
【0049】
次に、200mLナス型フラスコに、得られた粉体及びクロロベンゼン 50gを添加した。100℃で溶解させた後、塩基性アルミナ 4gを加えて、同温度で1時間攪拌した。冷却後、80℃で加熱ろ過し、再度、反応混合物を攪拌しながら90%アセトン水溶液(100mL)にゆっくり加えた。ろ過により固体を回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄し、減圧乾燥することにより1.91gの淡黄色粉体を得た(F値=0.20、収率=88%)。
【0050】
得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が42,500、及び分散度(Mw/Mn)が2.20であった。
【0051】
実施例2
2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを、合成例3で得た2−アミノ−7−ペンチル−9,9−ジメチルフルオレン(5.0mmol)に変更した他は、実施例1に準じてポリマーを合成した。
【0052】
得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が57,400、及び分散度(Mw/Mn)が2.16であった。
【0053】
実施例3
2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレンを、合成例4で得た2−アミノ−7−オクチル−9,9−ジメチルフルオレン(5.0mmol)に変更した他は、実施例1に準じてポリマーを合成した。
【0054】
得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が78,500、及び分散度(Mw/Mn)が2.41であった。
【0055】
実施例4(モル比変更)
4,4’−ジヨードビフェニル 1.0mmol、2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン 4.0mmol及び2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 5.0mmolを用いて、実施例1に準じてポリマーを2.20g合成した(F値=0.80、収率=93%)。得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が84,800、及び分散度(Mw/Mn)が3.9であった。
【0056】
実施例5(モル比変更)
4,4’−ジヨードビフェニル 2.5mmol、2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン 2.5mmolを用いて、実施例1に準じてポリマーを2.05g合成した(F値=0.5、収率=89%)。得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が125,800、及び分散度(Mw/Mn)が4.1であった。
【0057】
実施例6
窒素雰囲気下、50mLナス型フラスコに、4,4’−ジヨードビフェニル 2.17g(5.36mmol)、N,N−ジ(4−ブロモフェニル)−2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 805.5mg(1.34mmol)、合成例2で得た2−アミノ−7−ヘキシル−9,9−ジメチルフルオレン 1.96g(6.70mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 1.54g(16.0mmol)及びキシレン 22mLを加えた。次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体 34.5mg、トリ−tert−ブチルホスフィン 40mg及びキシレン 5mLからなる混合溶液を加え、130℃で6時間攪拌した。その後、ブロモベンゼン 50μLを添加し、2時間反応を行った後、ジフェニルアミンの10%キシレン溶液 0.85mLを添加し、更に2時間反応を行った。反応終了後、約80℃まで冷却してから、この反応混合物を攪拌しながら90%アセトン水溶液(120mL)にゆっくり加えた。ろ過により固体を回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥し3.01gの淡黄色粉体を得た(F値=0.20、収率=90%)。
【0058】
得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が108,000、及び分散度(Mw/Mn)が3.4であった。
【0059】
実施例7
2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン 0.350g(1.0mmol)を、2,7−ジクロロ−N−(4−(2−エチルヘキシルオキシ)フェニル)カルバゾール 1mmolに変更した他は、実施例1に準じてポリマーを2.12g合成した(F値=0.20)。得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が98,400、及び分散度(Mw/Mn)が2.9であった。
【0060】
実施例8(素子作製)
厚さ130nmのITO透明電極を有するガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコールで順次超音波洗浄し、次いで、イソプロピルアルコールで煮沸洗浄した後、乾燥した。更に、UV/オゾン処理したものを透明導電性支持基板として使用した。ITO透明電極上に、実施例1で得たランダム共重合体を0.5重量パーセント含むクロロベンゼン溶液をスピンコート法により塗布し(2000rpm,30秒)、真空オーブン中、150℃で乾燥させ、正孔注入層を形成した(膜厚=20nm)。更に、4,4’−ジ(1−ナフチルアミノフェニル)−1,1’−ベンジジン(以下、NPBと略す)を真空蒸着法により45nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。次に、アルミニウムトリスキノリノール錯体を真空蒸着法により60nmの膜厚で成膜し、電子輸送層を形成した。なお、上記有機化合物の蒸着条件は、真空度1.0×10−4Pa、成膜速度0.3nm/秒の同一条件で成膜した。
【0061】
次に、陰極としてLiFを0.5nm、Alを100nm蒸着し、金属電極を形成した。
【0062】
更に、窒素雰囲気下、保護用ガラス基板を重ね、UV硬化樹脂で封止した。このようにして得られた素子に、ITO電極を正極、LiF−Al電極を負極にして、20mA/cmの定電流密度条件下で駆動させた。その際の駆動電圧、電流効率、電力効率及び輝度半減寿命の値を表1に示す。
【0063】
比較例1
4,4’−ジヨードビフェニル 2.5mmolと2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン 2.5mmolの代わりに、4,4’−ジヨードビフェニル 5.0mmolを用いて、実施例1に準じて下記構造のホモポリマー(化合物A)を1.94g合成した(収率=88%)。
【0064】
得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量が27,000、及び分散度(Mw/Mn)が1.9であった。
【0065】
【化9】

【0066】
次に、化合物Aを正孔注入層として、実施例8に準じて用いて素子を作製した。ITO電極を正極、LiF−Al電極を負極にして、20mA/cmの定電流密度条件下で駆動させた。その際の駆動電圧、電流効率、電力効率及び輝度半減寿命の値を表1に示す。
【0067】
比較例2
化合物Aに代えて、下記ホモポリマー(化合物B)(重量平均分子量が26,200)を用いて素子を作製した。ITO電極を正極、LiF−Al電極を負極にして、20mA/cmの定電流密度条件下で駆動させた。その際の駆動電圧、電流効率、電力効率及び輝度半減寿命の値を表1に示す。
【0068】
【化10】

【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(2)の構成単位からなるランダム共重合体。
【化1】

(式中、R〜Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとR、又はRとRは互いに結合して環を形成しても良い。Arは下記一般式(3)〜(6)で表される基を表す。)
【化2】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。)
【請求項2】
Arが上記一般式(3)又は(5)であることを特徴とする請求項1に記載のランダム共重合体。
【請求項3】
上記一般式(1)の構成単位と上記一般式(2)の構成単位の総和に対する上記一般式(2)の構成単位の比率(F値)が、0.01以上0.80以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のランダム共重合体。
【請求項4】
F値が0.10以上0.60未満であることを特徴とする請求項3に記載のランダム共重合体。
【請求項5】
上記一般式(4)のArが置換基を有するフルオレニル基であることを特徴とする請求項1に記載のランダム共重合体。
【請求項6】
下記一般式(7)〜(10)で表されるランダム共重合体。
【化3】

(式中、R〜R20は各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基を表し、Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。なお、RとR10、又はR12とR13は互いに結合して環を形成しても良い。mとnは、0.01≦n/(n+m)(=上記F値)≦0.80を満たす1以上の整数である。)
【請求項7】
重量平均分子量が、ポリスチレン換算で20,000〜500,000の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のランダム共重合体。
【請求項8】
重量平均分子量が、ポリスチレン換算で40,000〜100,000の範囲であることを特徴とする請求項7に記載のランダム共重合体。
【請求項9】
下記一般式(11)及び(12)で表されるハロゲン化合物と一般式(13)で表されるアミン化合物とを、パラジウム触媒及び塩基の存在下で反応させることを特徴とする請求項1に記載のランダム共重合体の製造方法。
【化4】

(式中、X,Xはハロゲン原子を表し、R21〜R23は各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基を表す。また、Arは下記一般式(3)〜(6)で表される基を表す。)
【化5】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐状の一級アルキル基、又は置換基を有しても良いフェニル基を表す。なお、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。Ar〜Arは置換基を有しても良いフェニル基若しくはフルオレニル基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92181(P2012−92181A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238961(P2010−238961)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】