説明

リグニンスルホン酸塩を含有する潤滑グリース、その製造および使用

本発明の目的は、リグニンスルホン酸カルシウムを含有し、基油、カルシウム石けん、10,000g/mol超の平均分子量(重量平均)を有するリグニンスルホン酸カルシウム、任意選択でさらに別のアルカリ土類金属リグニンスルホン酸塩からなり、120℃超の温度に加熱し、変換させ、かつ低沸点の成分を追い出して、ベースグリースを生じさせ、冷却し、混合しながら基油および任意選択で添加剤を加えることによって製造可能な潤滑グリース、対応する方法およびリグニンスルホン酸カルシウムを含有する潤滑グリースの使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンスルホン酸カルシウムを含有する潤滑グリースを製造する方法、そのような種類の潤滑グリースおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、幅広く多様な種々の化学的結合で互いに架橋しているフェニルプロパン単位をベースとする複雑なポリマーである。リグニンは、植物細胞中にセルロースおよびヘミセルロースと共に存在している。リグニン自体は、例えば、少なくとも10,000g/mol(重量平均)の平均分子量を有する架橋高分子である。
【0003】
リグニンのモノマー成分として同定され得る主に3種のモノリグノールモノマーが存在し、それらは、そのメトキシル化の程度において異なる。これらは、p−クマリルアルコール、コニフェリルアルコールおよびシナピルアルコールである。これらのリグノールが、リグニン構造に、ヒドロキシフェニル(H)−、グアヤシル(G)−およびシリンガル(S)単位の形態で組み込まれている。マツなどの裸子植物(gymnosperms)は、G単位を主に含有し、H単位を低い割合で含有する。全てのリグニンが少量の不完全または変性モノリグノールを含有する。植物におけるリグニンの主な機能は、植物性多糖を架橋させることによって機械的安定性を植物に与えることである。リグニンは、樹木の乾燥質量の約1/3を構成し、概算で地球上の非化石有機炭素量の30%を構成している。これは、セルロースおよびキチンに次いで3番目に豊富な有機原料であり、したがって、工業製品のためにかなり容易に入手することができる再生可能な原料である。
【0004】
リグニンスルホン酸塩は、亜硫酸プロセスを使用する製紙の副生成物として得られる。このプロセスでは、木材チップにまで小さくされた木材を、亜硫酸水素カルシウム液の存在下、圧力(例えば、5から7バール)下で約7から15時間加熱し、次いで、洗浄および沈殿プロセスで、リグノセルロースからリグニンスルホン酸をリグニンスルホン酸カルシウムの形態で除去する。亜硫酸塩水素カルシウムの代わりに硫化マグネシウム、ナトリウムまたはアンモニウム液を使用することもでき、これらは、リグニンスルホン酸の対応するマグネシウム塩、ナトリウム塩およびアンモニウム塩をもたらす。
【0005】
洗浄液を蒸発させると、粉末のリグニンスルホン酸塩が残る。1年間に世界中で製造されるリグニンスルホン酸塩の量は、5千5百万トンの規模である。
【0006】
リグニンスルホン酸ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムは多くの場合に、コンクリートおよびモルタルを可塑化および液化するための原料として使用される。リグニンスルホン酸塩はまた、濃厚飼料工業においてペレット化促進剤として、かつ他の分野において分散化または錯化剤として使用される。
【0007】
近年の潤滑グリース配合物では、配合物経費の少なからぬ割合が、トライボケミカルによって働く極圧および耐摩耗添加剤(EP/AW添加剤)に当てられており、その結果、これらは多くの場合に、潤滑グリースについての価格上昇因子となっている。
【0008】
これらの添加剤の多くは、複雑で多段階の合成プロセスで製造され、その使用は、用途の性質に関しても、最終配合物におけるその有効な濃度に関しても、多くの場合に生じる毒物学的副作用によって制限される。一部の用途では、例えば、定速度ジョイントシャフトまたは低速重負荷転がり軸受けでは、液体添加剤が導入されても、潤滑状態の不足および/または摩擦対の接触を回避することができない。そのような場合の従来の実施は、無機化合物(例えば、カルシウムおよび亜鉛のリン酸塩)、プラスチック粉末(例えば、PTFE)または金属の硫化物(例えば、MoS)をベースとする固体潤滑剤の使用であった。しかし、これらの成分もまた多くの場合に高価であり、潤滑剤配合物の経費全体に重大な影響を有し得る。
【0009】
潤滑グリース製造における従来の実施は、増粘剤形成の事実上の化学的反応プロセスの後に行われる第2プロセスステップで、これらの添加剤を導入することであった。この方法では、その最適な効果を得るために、添加剤、特に固体潤滑剤を、比較的高い機械的動力を用いる激しい混合およびせん断プロセスによって、比較的粘稠性の潤滑グリース全体に均一に分布させる必要がある。近年の観点からは、下記は多くの場合に不利であることが判明しており、本発明を誘引している。
【0010】
通常の潤滑添加剤および固体潤滑剤は普通、非再生可能な原料をベースとしており、多くの場合に生分解性に乏しい。さらに、多くの一般的な耐摩耗添加剤および減摩潤滑添加剤は、高価な化学的合成プロセスを必要とし、これは、重大な経費要因である。特に固体潤滑剤を重負荷摩擦点のために使用する場合、最も頻繁に使用される材料、例えば、MoSまたはPTFEは比較的高価である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G.E.Fredheim、S.M.BraatenおよびB.E.Christensen、「Comparison of molecular weight and molecular weight distribution of softwood and hardwood lignosulfonates」、発行「Journal of Wood Chemistry and Technology」、Vol.23、No.2、197〜215頁、2003
【非特許文献2】G.E.Fredheim、S.M.BraatenおよびB.E.Christensen、「Molecular weight determination of lignosulfonates by size exclusion chromatography and multi−angle laser scattering」、発行「Journal of Chromatography A」、Volume 942、1−2版、2002年1月4日、191〜199頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、前記したとおりの先行技術の欠点を回避し、経費的に有効な構造形成剤と、耐摩耗性を促進し、摩擦を減らし、老化から保護し、同時に、良好な耐水性を潤滑グリースにもたらす添加剤との両方として潤滑グリース中で利用可能なリグニンスルホン酸塩を製造することである。
【0013】
リグニンスルホン酸塩の存在は、他の一般的な潤滑剤添加剤および固体潤滑剤、特にMoSの使用を最小にするか、または全く不要にすることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、独立請求項によって定義される。好ましい変形形態は、従属請求項の目的に示されているか、または下記に記載されている。
【0015】
本発明がベースとするプロセスでは、初めに、前駆体ステージ(ベースグリース)を少なくとも、
基油
脂肪酸および/またはそのエステルまたは塩(ここで、脂肪酸塩は少なくとも部分的にカルシウム塩であって、石けんを生じていて、少なくともカルシウム石けんを含有する)、
必要ならば、有機および/または無機錯化剤、
少なくともCaOHを包含するアルカリ土類金属水酸化物、
必要ならば、水(例えば、水酸化物の一部として)および
10000g/mol超の平均分子量(重量平均)を有するリグニンスルホン酸Ca
を混合し、加熱して、エステルが使用されている場合には低沸点の成分を追い出し、アルカリ土類金属水酸化物と反応し得る錯化剤を使用する場合には錯化剤との反応を包含するアルカリ土類金属水酸化物と、脂肪酸および/またはそのエステルおよびリグニンスルホン酸塩との少なくとも1つの変換を開始させ、増粘剤構造を基油中で形成することによって調製する。
【0016】
低沸点を有する成分は、水またはC1−からC4−アルコールなどの標準圧力下で約100℃までの温度で沸騰する成分である。
【0017】
ベースグリースを生じさせるために、混合物を好ましくは、120℃超または好ましくは180℃超の温度に加熱する。ベースグリースへの変換は、オートクレーブまたは真空反応器として構成されていてもよい加熱反応器中で行う。
【0018】
次いで、第2ステップにおいて、増粘剤構造の形成を冷却することによって完了し、添加剤などの任意の追加成分および/または基油を加えて、所望の粘稠度または所望の特性プロファイルに調節する。第2ステップは、第1ステップのために使用されたのと同じ反応器中で実施することができるが、冷却および場合による追加成分への混合物のために、ベースグリースを反応器から別の撹拌タンク反応器へと移すと好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
必要ならば、こうして得られた潤滑グリースを均一化、濾過および/または脱気することができる。
【0020】
好ましい物質は、リグニンスルホン酸カルシウムが、ベースグリースを生じさせるための反応相の前に既に加えられていて、熱プロセスを介して潤滑グリース構造に組み込まれており、高度に均質で油不溶性形態で存在し、高い滴点温度をもたらしているCa/Li−、Li/Ca−およびカルシウム増粘性標準および錯体石けんグリースである。
【0021】
脂肪酸塩とリグニンスルホン酸塩との両方のためにアルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウムの塩を使用することは、ベースグリースの生成の間か、または適用の間に、塩複分解が生じないことを保証する。
【0022】
良好な耐水性と同時に、高い滴点温度を有するリグニンスルホン酸塩を含有する潤滑グリースを得るために、特にナトリウムの塩での塩複分解を防ぐ必要がある。この理由で、ナトリウムリグニンスルホン酸および水酸化ナトリウムの使用は、回避する必要がある。耐水性は、グリースが水によって乳化せず、DIN 51807−1(バージョン:1979−04)に従った試験において格付けレベル1〜90(90℃で試験)に合致することを意味すると理解される。耐水性はさらに、グリースがDIN 51807−2(バージョン:1990−03)に従った試験において格付けレベル1〜80(80℃で試験)に合致することを意味すると理解される。
【0023】
過剰のアルカリを過剰の水酸化カルシウムおよび場合によってさらに酢酸カルシウムまたは他のカルシウム塩の形態で錯化剤として同時に適用することは、僅かな残量の遊離スルホン酸基でさえ、リグニンスルホン酸中で中和されて、その吸湿性、水乳化作用および浸食促進作用を失うことを保証することが意図されている。120℃超、特に180℃超の高いプロセス温度もまた、リグニンスルホン酸塩中になお残っている残りの水分を反応媒体から完全に蒸発させ、中和されていないリグニンスルホン酸塩のいずれかの成分を水酸化カルシウムによって中和することを保証する。
【0024】
室温で液体である標準的な潤滑油は、基油として使用するために適している。基油は好ましくは、40℃で20から2500mm/s、特に40から500mm/sの動粘度を有する。
【0025】
基油は、鉱油または合成油として分類され得る。検討するのに適格な鉱油には例えば、APIグループIでのその分類によるとナフテン塩基性およびケロセン塩基性鉱油が包含される。APIグループIIおよびIIIとして分類される、低い割合の飽和化合物およびグループIのオイルよりも良好な粘度/温度動態を有する化学的に変性された低級芳香族および低級硫黄鉱油も適している。
【0026】
合成油については、ポリエーテル、エステル、ポリアルファオレフィン、ポリグリコールおよびアルキル芳香族化合物ならびにそれらの混合物が注目に値する。ポリエーテル化合物は、遊離ヒドロキシル基を含有してよいが、これはまた、完全にエーテル化されているか、または末端基エステル化されていてよく、かつ/または1個または複数のヒドロキシおよび/またはカルボキシル基(−COOH)を有する出発化合物から生じていてよい。アルキル化されているか、またはされていないかに関わらず、ポリフェニルエーテルはまた、唯一の成分として、またはより良好には、混合物の成分として可能である。芳香族ジ−、トリ−またはテトラカルボン酸と1種または混合物で存在する複数のC2−からC22アルコールとのエステル、アルコール、アジピン酸、セバシン酸、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと脂肪族、分岐または直鎖の飽和または不飽和C2からC22カルボン酸とのエステル、C2からC22アルコールとのC18ダイマー酸エステル、複合エステルもまた、単一成分として、またはそれらの任意の混合物で使用するのに適している。
【0027】
生じた石けんは、純粋なカルシウム石けんか、またはカルシウム石けん、カルシウム石けんの他には特に、置換または非置換の10から32個の炭素原子を有する、特に12から22個の炭素原子を有する1種または複数の飽和または不飽和モノカルボン酸、特に好ましくは、対応するヒドロキシカルボン酸のリチウム石けんおよび/またはアルミニウム石けんを含有する混合物である。適切なカルボン酸は例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸またはベヘン酸および好ましくは12−ヒドロキシステアリン酸である。酸/ヒドロキシ酸の対応するトリグリセリドおよびメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−またはsec−ブチルエステルなどの、対応する低級アルコールエステルも、より良好な分散を達成するために、遊離酸基の代わりにけん化で使用することができる。
【0028】
錯化剤の存在によって、石けんを錯体石けんへと変換する。本発明による錯体石けん(錯化剤の存在)は、例えば200℃超のより高い滴点を有する(DIN ISO 2176)。錯化剤を加えるための適切な量は、0.5から20重量%、特に0.5から10重量%である。
【0029】
次の錯化剤が、本発明の目的では有利である:
(a)それぞれ置換または非置換であってよい2から8個、特に2から4個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和モノカルボン酸もしくはさらにヒドロキシカルボン酸または2から16個、特に2から12個の炭素原子を有するジカルボン酸の、ナトリウム塩を除くアルカリ金属塩(好ましくは、リチウム塩)、アルカリ土類金属塩(好ましくは、カルシウム塩)またはアルミニウム塩、および/または
(b)ホウ酸およびまたはリン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、特にLiOHおよび/またはCa(OH)とのその反応生成物
【0030】
特に、ベースグリースを生じさせるために酢酸カルシウムとして使用される場合、錯化剤(a)は好ましくは、カルシウム塩のみである。酢酸およびプロピオン酸が、モノカルボン酸として特に適している。パラヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、2−ヒドロキシ−4−ヘキシル安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸(ガンマ−レソルシル酸)または4−ヒドロキシ−4−メトキシ安息香酸などのヒドロキシ安息香酸もまた適している。特に適切なジカルボン酸は、アジピン酸(C10)、セバシン酸(C1018)、アゼライン酸(C16)および/または3−tert−ブチル−アジピン酸(C1018)である。
【0031】
ホウ酸塩(b)として使用することが可能な物質には例えば、オルトホウ酸一リチウムまたはオルトホウ酸カルシウムなどのメタホウ酸塩、ジホウ酸塩、テトラホウ酸塩またはオルトホウ酸塩が包含されるであろう。リン酸塩は、アルカリ金属(好ましくは、リチウム)およびアルカリ土類金属(好ましくは、カルシウム)の二水素リン酸塩、水素リン酸塩またはピロリン酸塩から選択することができる。
【0032】
任意選択で、モンモリロナイト(一部または全てのナトリウムイオンがアンモニウムイオンで置換されていてよい)などのベントナイト、アルミノケイ酸塩、粘土、ケイ酸(例えば、エーロシル)、油溶性ポリマー(例えば、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリイソブチレン、ポリブテンまたはPS)またはさらに、ジ−およびポリ尿素もまた、補助増粘剤として使用することができる。ベントナイト、アルミノケイ酸塩、粘土、ケイ酸および/または油溶性ポリマーを、ベースグリースを生じさせるために加えるか、または添加剤として後で、第2ステップで導入することができる。ジ−およびポリ尿素は、添加剤として導入することができる。
【0033】
本発明による化合物はまた、他の添加剤を追加物質として含有してよい。本発明の目的のための一般的な追加物質は、抗酸化剤、耐摩耗性剤、防食剤、界面活性剤、染料、潤滑増強剤、粘度添加剤、減摩剤および高圧添加剤である。
【0034】
そのような例は:
アミン化合物(例えば、アルキルアミンまたは1−フェニル−アミノナフタリン)、芳香族アミン、例えばフェニル−ナフチルアミンまたはジフェニルアミン、フェノール化合物(例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、硫黄抗酸化剤、ジチオカルバミン酸亜鉛またはジチオリン酸亜鉛などの抗酸化剤;
有機塩素化合物、ホウ酸硫黄、リンまたはカルシウム、ジチオリン酸亜鉛、有機ビスマス化合物などの高圧添加剤;
C2−からC6−ポリオール、脂肪酸、脂肪酸エステルまたは動物性もしくは植物油などの「油性」を改良するように設計された物質;
石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネートまたはソルビタンエステルなどの防食剤;
ベンゾトリアゾールまたは亜硝酸ナトリウムなどの金属不活性化剤;
ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オリゴ−デカ−1−エンおよびポリスチレンなどの粘度増強剤;
有機モリブデン錯体(OMC)、モリブデン−ジ−アルキル−ジチオホスフェート、モリブデン−ジ−アルキル−ジチオカルバメートまたはモリブデンスルフィド−ジ−アルキルジチオカルバメート、特にモリブデン−ジ−n−ブチルジチオカルバメートおよびモリブデンジスルフィド−ジ−アルキルジチオカルバメート(Mo(ジアルキルカルバメート)(式中、m=0から3およびn=4から1)などの耐摩耗性添加剤および減摩剤、
官能性ポリマー、例えばオレイルアミド、有機ポリエーテル−およびアミド−ベースの化合物、例えば、アルキルポリエチレングリコールテトラデシレングリコールエーテルなどの減摩剤である。
【0035】
加えて、本発明による潤滑グリース化合物はまた、キレート化化合物、ラジカル捕捉剤、UVコンバーター、反応層形成剤などとして機能する腐食、酸化および金属による攻撃に対して保護するための通常の添加剤も含有する。
【0036】
固体潤滑剤は例えば、ポリアミド、ポリイミドまたはPTFEなどのポリマー粉末、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、硫化モリブデン、二硫化タングステンまたはタングステン、モリブデン、ビスマス、スズおよび亜鉛をベースとする混合硫化物などの金属硫化物、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の無機塩の群から選択することができる。固体潤滑剤は、次の4つの群に分割することができる:二硫化モリブデンおよび二硫化タングステン、グラファイト、六方窒化ホウ素およびある種の金属ハロゲン化物などの格子層構造を有する化合物;遷移金属およびアルカリ土類金属の酸化および水酸化化合物ならびにそれらの炭酸塩またはリン酸塩;軟質金属および/またはプラスチック。固体潤滑剤を使用すべき場合には、リグニンスルホン酸塩を使用することで、所望の有利な潤滑特性を調節することができる。多くの場合に、固体潤滑剤は、完全に省くか、または少なくとも相当に減らすことができる。固体潤滑剤を使用する場合、グラファイトが最も好ましい。
【0037】
リグニンスルホン酸塩は、10,000超、特には12,000超またはさらに、15,000g/mol超、例えば、10,000から65,000g/molまで、または15,000〜65,000g/molの分子量(Mw、重量平均)を有し、特に、2から12重量%、特に4から10重量%の硫黄(元素の硫黄として算出)および/または5から15重量%、特に8から15重量%のカルシウム(Caを算出)を含有するリグニンスルホン酸カルシウムから選択することができる。リグニンスルホン酸カルシウムの他に、他のアルカリ土類金属リグニンスルホン酸塩を使用することもできる。平均分子量(重量平均)は例えば、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定する。適切な方法は、G.E.Fredheim、S.M.BraatenおよびB.E.Christensenによる論文、「Comparison of molecular weight and molecular weight distribution of softwood and hardwood lignosulfonates」、発行「Journal of Wood Chemistry and Technology」、Vol.23、No.2、197〜215頁、2003年および同著者による論文「Molecular weight determination of lignosulfonates by size exclusion chromatography and multi−angle laser scattering」、発行「Journal of Chromatography A」、Volume 942、1−2版、2002年1月4日、191〜199頁に記載されているとおりのSEC−MALLS法である(2.5に記載されているとおり移動相:Phosphate DMSO−SDS、固定相:Jordi−Glukose−DVB)。適切なリグニンスルホン酸カルシウムは例えば、Borregard Lignotechが製造している市販の製品Norlig 11 DおよびBorrement Ca 120である。
【0038】
本発明による潤滑グリースは、次の組成:
それぞれ組成物全体に対して、
a)55から92重量%、特に70から85重量%の基油、
b)0から40重量%、特に2から10重量%の添加剤、
c)3から40重量%、特に5から20重量%の石けんおよび
d)0から20重量%または0.5から20重量%、特に0.5から10重量%の錯化剤および
e)過剰のCa(OH)、好ましくは0.01から2重量%、
f)0.5から50、特に2から15重量%、特に好ましくは3から8重量%のリグニンスルホン酸塩、特にリグニンスルホン酸カルシウム
によって特徴付けられ、成分およびその好ましい変更は、前記で定義されている。
【0039】
リグニンスルホン酸塩は、固体潤滑剤または耐摩耗性添加剤および老化安定剤としての特性も有する耐水性潤滑グリースのための構造形成剤として機能することが見出された。同時に、リグニンスルホン酸塩は、他の固体潤滑剤、例えば、グラファイトまたは炭酸カルシウムと相乗効果を意外にも有することが観察された。
【0040】
また、リグニンスルホン酸塩は、潤滑剤のための多機能成分として役立つことが見出された。それらが含有する多数の極性基および芳香族構造、そのポリマー構造およびあらゆる種類の潤滑油へのその低い溶解性によって、リグニンスルホン酸塩は、増粘剤成分としてだけでなく、潤滑グリースおよび潤滑ペーストにおける固体潤滑剤として使用するためにも適している。その硫黄含分も、潤滑グリースにおいてそのEP/AW効果を増強し、フェノール構造は、老化阻害効果をもたらす。
【0041】
含有する多数のポリマーおよび極性芳香族単位によって、リグニンスルホン酸塩構造は主に平面であると想定される。
【0042】
したがって、これらは、外部摩擦およびせん断力の効果によって、非常に良好に層構造で金属表面に堆積させることができるが、それというのも、リグニンスルホン酸塩の芳香族核は、金属表面と結合性に相互作用し、金属摩擦対は、重負荷および高圧下でも、互いに有効かつ永続的に分離されるためである。
【0043】
石けん増粘剤、特にカルシウム錯体石けんを製造する間に反応相の開始前に、リグニンスルホン酸カルシウムを加えると、これらの石けんの増粘効果が高い滴点で増強されるだけでなく、対応する潤滑グリース配合物の耐摩耗性保護および潤滑効果が増強される。したがって、反応相の間にその場で、追加構造要素としてそれらが増粘剤構造に、化学的または機械的に導入されれば、添加剤および固体潤滑剤の分散および効果にとって有利である。
【0044】
先行技術では、多くの場合に、12−ヒドロキシステアリン酸などの特別に処理された高価な脂肪酸か、またはホウ酸塩または酢酸、セバシン酸およびアゼライン酸の塩などの特殊な錯化剤を使用することが、高い滴点を有する石けんグリースを製造するためには必要であり、そのうえ、これらの物質は、耐摩耗保護および減摩添加剤としての追加的な効果をほとんど有さないか、または有さない。リグニンスルホン酸Caが包含されれば、これら他の成分の使用は、かなり減らすか、または全く不要にさえなり得る。リグニンスルホン酸Caの使用はさらに、高性能潤滑グリースを再生可能な原料をベースに配合し、環境を損なう添加剤優先の化学を放棄することができることを示している。
【0045】
非変性または簡単に変性された天然脂肪酸エステルからなる油が、動物または植物性脂肪酸をベースとする金属石けんを使用して増粘されていて、リグニンスルホン酸塩が、唯一の追加増粘剤として、かつ同時に唯一の添加剤成分として使用されている場合、ほぼ専ら再生可能な原料をベースとして製造された潤滑グリースが得られ、その際、唯一の例外は、金属石けんのために使用される水酸化カルシウムである。リグニンスルホン酸塩が増粘剤成分として包含されている場合、これらのグリースは、老化および摩耗に対して保護し、焼き付き負荷を高め、摩擦を低減する効果を有する。
【0046】
本発明による潤滑グリースは、定速度ジョイントシャフト、転がり軸受けおよびギヤケースにおいて、またはそれらのために使用するのに特に適している。
【0047】
使用される基油がほぼ再生可能な原料を含有するものなどの容易に生分解可能なエステルからなる場合、潤滑グリースはまた、環境的に繊細な分野(例えば、鉱業または農業)でのトータルロス潤滑に適している。
【0048】
保全不要の定速度ジョイントシャフトでの潤滑の特殊な場合には、MoSならびに他の有機および無機モリブデン化合物を使用することなく、長期の動作寿命および良好なレベルの効率を全体で保証することにおいて先行技術とは異なる第1潤滑グリースを、リグニンスルホン酸カルシウムを使用して配合する。
【0049】
他の添加剤が存在しないことはまた、摩擦係数を低下させ、焼き付け負荷および摩耗に対して保護し、生成物を、クロロプレンゴムおよび熱可塑性ポリエーテルエステルなどの標準的な市場の定速度ジョイントシャフトベローで使用される材料と高度に相容性にするために役立つ。慣用の添加剤中の結合されている硫黄とは異なり、リグニンスルホン酸塩中に含有される硫黄は、熱安定なスルホネート基によって結合されるので、これは、非常に高い負荷下でのトライボ接触を除いて潤滑グリース用途で生じることはないような非常な高温および/または非常に高レベルの活性化エネルギーでしか放出されない。このように、潤滑剤の老化によって放出される硫黄によるゴム材料の後続の加硫または架橋は大部分、妨げられる。
【0050】
リグニンスルホン酸カルシウムを、過剰な水酸化カルシウムで過度に塩基性に調節されている潤滑グリース配合物中で使用すると、このことによって、遊離リグニンスルホン酸が、熱可塑性ポリエーテルエステルなどのベローにおいて使用される材料に対して加水分解効果を有することが妨げられる。
【0051】
本発明の特殊な態様は、これは、特に定速度ジョイントにおけるような重負荷下にある給油点のために、経費的に最適化された潤滑グリース配合物を得るために使用することができ、例えば、熱可塑性ポリエーテルエステル(TPE)およびクロロプレン(CR)を含有するベローと十分に相容性である一方で、高い効率、低い摩耗および長期の耐用寿命を示すことである。
【実施例】
【0052】
製造例
実施例A(比較例):
獣脂脂肪酸958g、牛脂958g、酢酸カルシウム958g、リン酸三ナトリウム27.7g、ホウ酸カルシウム27.7gおよび水酸化カルシウム358gを反応器中で、基油混合物12,000g中に入れ、水150mlを加えた。このベースを、規定の温度プログラムで198℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤(表を参照されたい)をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3700gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、定速度ジョイントシャフトグリースとして使用するために適している。
【0053】
実施例B:
獣脂脂肪酸460g、牛脂445g、酢酸カルシウム460g、リン酸三ナトリウム27.7g、ホウ酸カルシウム27.7gおよび水酸化カルシウム168gおよびリグニンスルホン酸カルシウム(Borregard Lignotech製のNorlig 11D粉末)920gを反応器中で、基油混合物14,000g中に入れ、水150mlを加えた。このベースを、規定の温度プログラムで208℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤(表を参照されたい)をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3450gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、定速度ジョイントシャフトグリースとして使用するために適している。
【0054】
実施例C(比較例):
12−ヒドロキシステアリン酸800g、セバシン酸288g、酢酸カルシウム388gおよび水酸化カルシウム157.3gを反応器中で、基油混合物5000gに入れた。LiOH×HO64gを水250mlに溶かし、加えた。このベースを、規定の温度プログラムで200℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3116gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、転がり軸受けグリースとして使用するために適している。
【0055】
実施例D:
12−ヒドロキシステアリン酸600g、セバシン酸216g、酢酸カルシウム291gおよび水酸化カルシウム720gおよびリグニンスルホン酸カルシウム(Borregard Lignotech製のNorlig 11D粉末)300gを反応器中で、基油混合物5000gに入れた。LiOH×HO48gを水250mlに溶かし、加えた。このベースを、規定の温度プログラムで200℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3116gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、転がり軸受けグリースとして使用するために適している。
【0056】
実施例E(比較例):
獣脂脂肪酸1380g、牛脂1360g、リン酸三ナトリウム80g、ホウ酸カルシウム80g、酢酸カルシウム1400gおよび水酸化カルシウム493gを反応器中で、基油混合物12,000gに入れ、水150mlを加えた。このベースを、規定の温度プログラムで230℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤(表を参照されたい)をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3125gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、転がり軸受けグリースとして使用するために適している。
【0057】
実施例F:
獣脂脂肪酸1260g、牛脂1240g、リン酸三ナトリウム80g、ホウ酸カルシウム80g、酢酸カルシウム1278g、水酸化カルシウム493gおよびリグニンスルホン酸カルシウム(Borregard Lignotech製のNorlig 11D粉末)885gを反応器中で、基油混合物12,000gに入れ、水150mlを加えた。このベースを、規定の温度プログラムで225℃に撹拌しながら加熱して、加えた水および反応水が蒸発するようにした。添加剤をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。基油混合物3125gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、歯付きコロイドミルで均質化した。こうして得られたグリースは、例えば、転がり軸受けグリースとして使用するために適している。
【0058】
実施例G(比較例):
12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム975g、酢酸カルシウム225gおよびホウ酸カルシウム15gを反応器中で、オレイン酸メチルエステル3500gに入れた。このベースを、規定の温度プログラムで200℃に撹拌しながら加熱した。添加剤をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。オレイン酸メチルエステル180gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、3軸ミルで均質化した。こうして得られた潤滑グリースは、主に再生可能な原料をベースとして製造されている。
【0059】
実施例H:
12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム841g、酢酸カルシウム219.5g、ホウ酸カルシウム15gおよびリグニンスルホン酸カルシウム(Borregard Lignotech製のNorlig 11D粉末)418gを反応器中で、オレイン酸メチルエステル1965gに入れた。このベースを、規定の温度プログラムで200℃に撹拌しながら加熱した。添加剤をベースに、冷却相の間に一定の温度で加えた。トリオレイン酸トリメチロールプロパンエステル1684gを加えることによって、ベースを所望の粘稠度に調節した後に、最終生成物を、3軸ミルで均質化した。こうして得られた潤滑グリースは、主に再生可能な原料をベースとして製造されている。
【0060】
実施例IおよびJ:
実施例配合物IおよびJの生成物は、実施例Hの生成物と類似しているが、異なる量の12ヒドロキシステアリン酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびリグニンスルホン酸カルシウムならびに異なる組成のエステル基油を使用した。こうして得られた潤滑グリースは、主に再生可能な原料をベースに製造されている。
【0061】
【表1】


【0062】
【表2】


【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンスルホン酸塩を含有する潤滑グリースを製造する方法であって、
a)少なくとも、
基油
その場で生じさせてもよい10個以上の炭素原子を有するカルシウム石けん(ここで、前記カルシウム石けんをその場で生じさせる場合、少なくとも水酸化カルシウムを加える)、
10000g/mol超の平均分子量(重量平均)を有するリグニンスルホン酸カルシウム
を混合し、120℃超に加熱して反応を開始させ、低い沸点を有する成分を追い出して、ベースグリースを生じさせるステップと、
b)冷却し、混合しながら基油および場合によって添加剤を加えるステップとを含む方法。
【請求項2】
ステップa)において、水酸化カルシウムに加えて、任意の他のアルカリ土類金属水酸化物を加えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記潤滑グリースを、特に過剰の量の水酸化カルシウムを加えることによって、アルカリ性に調節することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
加熱を、180℃超の温度まで行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)において、水酸化カルシウムの他に、水酸化リチウム、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムおよび/またはアルミニウムアルコラートおよび/またはアルミニウムオキソアルコラートおよび/または10から32個の置換または非置換炭素原子を有する飽和または不飽和モノカルボン酸のリチウム、マグネシウムおよび/またはアルミニウム石けんをさらに使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
潤滑グリースが互いに独立に、
それぞれ潤滑グリースの全体組成に対して、
55から92重量%、特に70から85重量%の基油、
0から40重量%、特に2から10重量%の添加剤、
3から40重量%、特に5から20重量%の石けんおよび
0.5から20重量%、特に0.5から10重量%の錯化剤および
任意選択で、過剰のCa(OH)、好ましくは0.01から2重量%、
0.5から50、特に2から15重量%、特に好ましくは4から8重量%のリグニンスルホン酸カルシウム、任意選択でさらに他のアルカリ土類金属リグニンスルホン酸塩
を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の前記ベースグリースを、
それぞれベースグリースの組成に対して、
40から70重量%、特に45から60重量%の基油、
10から60重量%、特に15から50重量%の石けんおよび
0から30重量%、特に5から20重量%の錯化剤および
任意選択で、過剰のCa(OH)、好ましくは0.02から4重量%、
0.7から50、特に4から30重量%のリグニンスルホン酸カルシウム、任意選択でさらに他のアルカリ土類金属リグニンスルホン酸塩
を使用することによって生じさせ得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ベースグリースが互いに独立に、0.2〜5重量%のグラファイトを含有し、かつ/または固体潤滑剤を含有しないか、または1重量%未満の固体潤滑剤を含有する、特にMoSを含有しないことを特徴とする、請求項1または4に記載の方法。
【請求項9】
水酸化カルシウムと、エステルまたは無水物として例えばヒドロキシによって任意選択で置換されている10から32個の炭素原子を有する、特に16から20個の炭素原子を有する飽和または不飽和モノカルボン酸との反応の副生成物として、前記カルシウム石けんをその場で生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記錯化剤をカルシウム塩、特に水酸化カルシウムと、それぞれエステルまたは無水物として例えばヒドロキシルによって置換されていてよいか、または置換されていなくてよい2から8個、特に2から4個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和モノカルボン酸または2から16個、特に2から12個の炭素原子を有するジカルボン酸との反応の生成物として、ステップa)の間に加えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記錯化剤がカルボン酸のカルシウム塩であり、それぞれエステルまたは無水物として例えばヒドロキシルによって置換されていてよいか、または置換されていなくてよい2から8個、特に2から4個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和モノカルボン酸または2から16個、特に2から12個の炭素原子を有するジカルボン酸を加えることによって、ステップa)の間にその場で生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記リグニンスルホン酸カルシウムを、加える前に、例えば、95℃超、特に100℃超、例えば、120℃に基油中で加熱することによって、水0.5重量%未満の値まで脱水することを特徴とする、請求項1から11の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が0.5から20重量%、特に0.5から10重量%の前記錯化剤を含有することを特徴とする、請求項1から12の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項14】
それぞれ潤滑グリースの全体組成に対して、
55から92重量%、特に70から85重量%の基油、
0から40重量%、特に2から10重量%の添加剤、
3から40重量%、特に5から20重量%の10個以上の炭素原子を有するカルシウム石けん
0から20重量%、特に0.5から10重量%の錯化剤および
任意選択で、過剰のCa(OH)、好ましくは0.01から2重量%、
0.5から50、特に2から15重量%、特に好ましくは2から8重量%のリグニンスルホン酸カルシウム、場合によってさらに他のアルカリ土類金属リグニンスルホン酸塩
を含有する潤滑グリース化合物。
【請求項15】
ISO 2137に従って決定して265から385mm/10(25℃で)、好ましくは285から355mm/10の円錐稠度値(混和稠度)を有することを特徴とする、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記基油が、40℃で20から2500mm/s、好ましくは40から500mm/sの動粘度を有することを特徴とする、請求項14または15の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記錯化剤が、
それぞれ置換されていてよいか、または置換されていなくてよい2から8個、特に2から4個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和モノカルボン酸または2から16個、特に2から12個の炭素原子を有するジカルボン酸のアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩、アルカリ土類金属塩、好ましくはカルシウム塩またはアルミニウム塩
からなることを特徴とする、請求項14から16の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記添加剤が、次の群:
アミン化合物、フェノール化合物、硫黄抗酸化剤、ジチオカルバミン酸亜鉛またはジチオリン酸亜鉛などの抗酸化剤;
有機塩素化合物、ホウ酸硫黄、リンまたはカルシウム、ジチオリン酸亜鉛、有機ビスマス化合物などの高圧添加剤;
C2からC6−ポリオール、脂肪酸、脂肪酸エステルまたは動物性もしくは植物油;
石油スルホネート、ジノニルナフタロンスルホネートまたはソルビタンエステルなどの防食剤;
ベンゾトリアゾールまたは亜硝酸ナトリウムなどの金属中和剤;
ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オリゴ−デカ−1−エンおよびポリスチレンなどの粘度増強剤;
モリブデン−ジ−アルキル−ジチオカルバメートまたはモリブデンスルフィド−ジ−アルキルジチオカルバメート、芳香族アミンなどの耐摩耗性添加剤
官能性ポリマー、例えばオレイルアミド、ポリエーテル−およびアミド−ベースの有機化合物、またはジチオカルバミン酸モリブデンなどの摩擦調整剤
および
固体潤滑剤、例えばポリアミド、ポリイミドまたはPTFEなどのポリマー粉末、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンまたはタングステン、モリブデン、ビスマス、スズおよび亜鉛をベースとする混合硫化物などの金属硫化物、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の無機塩
から選択される1種または複数のメンバーを含むことを特徴とする、請求項14から17の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記潤滑グリースが耐水性であり、特に、
a)DIN 51807−1に規定されている試験に従って、評価レベル1〜90、および/または
b)DIN 51807−2に規定されている試験に従って、評価レベル1〜80
であることを特徴とする、請求項14から18の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記リグニンスルホン酸カルシウムが、10,000超、特に12,000超またはさらに、15,000g/mol超の平均分子量(Mw、重量平均)を有し、それとは独立に、2から12重量%、特に4から10重量%の硫黄(元素の硫黄として算出)、および/またはさらに独立に、5から15重量%、特に8から15重量%のカルシウムを含有することを特徴とする、請求項14から19の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記潤滑グリースが、再生可能な原料をベースとする基油を含有し、かつ/またはその95%以上の割合が、再生可能な原料をベースに製造されていることを特徴とする、請求項14から20の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が0.5から20重量%、特に0.5から10重量%の錯化剤を含有することを特徴とする、請求項14から21の少なくとも一項に記載の組成物。
【請求項23】
特にホモキネティックジョイントシャフトの一部としての定速度ジョイント、変速機および転がりまたは摩擦軸受けの少なくともいずれかを潤滑するための、請求項14から22の少なくとも一項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2013−518929(P2013−518929A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550318(P2012−550318)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【国際出願番号】PCT/DE2011/000087
【国際公開番号】WO2011/095155
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(505448774)フックス ペトロルブ アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】