説明

リサイクル還元材の炉内投入方法

【課題】リサイクル還元材を所定の位置に置き留めることができるリサイクル還元材の炉内投入方法を提供する。
【解決手段】本方法は、タイヤを転動させてロータリーキルン3内へ投入するものである。予め、外径Dまたは質量Mが様々なタイヤを、実際に一定の高さからキルン内へ投入し、到達位置Lを計測していくことによって、転がり抵抗係数μrについての、外径Dまたは質量Mの関数として、μr=f(D)又はf(M)・・・関数(1)を獲得しておく。投入するタイヤを用意し、その外径等を測定し、測定結果から、関数(1)に基づいて、転がり抵抗係数μrを獲得し、得られた係数μrと、所望の還元材到達位置Lとから、投入高さh=μr・L・・・数式(2)に基づいて、還元材の投入高さhを決定する。決定した投入高さhから、そのタイヤを落下させて投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル還元材の炉内投入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント製造工程におけるリサイクル原燃料の使用量増加に伴い、リサイクル原燃料由来の鉛や亜鉛といった有害な微量忌避成分のロータリーキルン内への持ち込み量が増加する傾向がある。また、セメント製造に限らず、廃棄物の減容や消毒、汚染物質の除去等を目的とした焼却用ロータリーキルン、お弁当等の残飯を堆肥や家畜用飼料とする乾燥・混合・発酵等を目的としたロータリードライヤーなどでも同様の問題が発生し、忌避成分の除去についても取り組まれている。そこで、忌避成分が焼成物であるセメントへ混入したり、排水・排ガスとして工場から排出されたりすることのないように、また、さらなるリサイクル原燃料の受け入れを目的として、さまざまな手法を用いてこれら忌避成分の除去を実施している。
【0003】
この鉛等の忌避成分の除去方法のひとつとして、ロータリーキルン内へ還元材を投入し、ロータリーキルン内を還元雰囲気にする事により、ロータリーキルン内から揮発除去させた後、回収する技術がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、ロータリーキルンの内径をD、窯尻側から長手方向にロータリーキルン内部に向かう距離をLとした場合に、L/Dが0以上12以下の領域に還元材として円筒または球状の可燃物を含む燃料及び/又は原料をロータリーキルンの窯尻部の傾斜面を利用して投入することを特徴とするセメント焼成炉からの鉛除去方法が開示されている。
【0005】
ところで、環境保護やコスト節減の観点より、原燃料だけではなく、還元材についても、リサイクル材料を用いることは非常に好適なものである。本出願人は、廃棄物系還元材としてタイヤを用いることを試みている。例えば、シュートを利用し窯尻からロータリーキルン内へタイヤを投入する。投入されたタイヤは、ロータリーキルン内をある程度の距離転がった後、転倒し、そこで、還元材として効果的に機能する。
【0006】
しかしながら、廃棄物としてタイヤを回収した場合、タイヤメーカーや仕様によって様々な状態のものが集まることが普通である。よって、転がった後に転倒して留まる位置は、タイヤによって、バラバラになることが想定される。一方、補助燃料の投入の場合とは異なり、還元材の投入においては、キルン内に置き留められた位置によって、還元効果が好適に発揮できないことがある。また、これを避けるため、所望の位置に還元材が置かれる確率を高めるべく、本来の還元に必要な量よりも多くの還元材を投入する対策も考えてみた。しかしながら、還元材としてタイヤを用いる場合、タイヤには、硫黄分が多く含まれており、燃焼した時に発生する硫黄分はロータリーキルン内の固結の原因となる。そして、この固結のためにロータリーキルンの内径が変わって充填率が変わったり、リングが生成され原料が移動する時の抵抗となり、適正なセメント焼成を阻害してしまったり、固結を除去するための休転作業が頻発してしまったりするという問題を招来するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/050678号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、リサイクル還元材を一定量供給できるだけでなくそれに加え所定の位置に置き留めることもできる、リサイクル還元材の炉内投入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、リサイクル還元材を転動させて炉内へ投入するリサイクル還元材の炉内投入方法であって、予め、外径Dまたは質量Mが様々なリサイクル還元材を、実際に一定の高さから炉内へ投入し、到達位置Lを計測していくことによって、転がり抵抗係数μrについての、外径Dまたは質量Mの関数として、
μr=f(D)又はf(M)・・・関数(1)
を獲得しておき、投入するリサイクル還元材を用意し、投入するリサイクル還元材の外径Dまたは質量Mを測定し、測定した外径Dまたは質量Mから、関数(1)に基づいて、転がり抵抗係数μrを獲得し、得られた転がり抵抗係数μrと、所望の還元材到達位置Lとから、
投入高さh=μr・L・・・数式(2)
の数式(2)に基づいて、還元材の投入高さhを決定し、決定した投入高さhから、そのリサイクル還元材を落下させて投入する。
【0010】
また、鉛直方向に延びた鉛直部とそこから炉に通じる湾曲部とを有する投入シュートを用意し、リサイクル還元材の投入高さ調整範囲が、前記鉛直部の延長範囲内に収まるように、投入高さの調整を前記鉛直部において行うと好適である。
【0011】
また、リサイクル還元材としてタイヤを用い、投入するタイヤを炉内に導く投入シュートとして、該投入シュートにおける延長方向と直交する通路形状が、前記タイヤの回転軸を含む断面外形に沿うものを用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明によれば、リサイクル還元材を一定量供給できるだけでなくそれに加え所定の位置に置き留めることもできる。
【0013】
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用する熱処理装置の概要を示す側面図である。
【図2】図1の熱処理装置における投入シュート近傍の側面図である。
【図3】図1の熱処理装置における投入シュート近傍を後方からみた図である。
【図4】本実施の形態に係るリサイクル還元材の炉内投入方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明に係るリサイクル還元材の炉内投入方法の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0016】
本実施の形態は、セメント製造用のロータリーキルンに対してリサイクル還元材の投入を行うものとし、リサイクル還元材としては、タイヤを用いるものとする。図1に示されるように、熱処理装置1は、主に、ロータリーキルン3と、サスペンションプレヒーター5と、タイヤ投入設備7とを備えている。なお、本願の明細書及び特許請求の範囲におけるタイヤとは、転がすことが可能な、廃タイヤ、リサイクルタイヤなどの各種タイヤを含むものとする。
【0017】
ロータリーキルン3は、通常、数十〜百メートル前後の長さの円筒形状であり、サスペンションプレヒーター5の反対側内部に焼成用バーナー9が配置されている。ロータリーキルン3は、鉄を主成分とする金属で作られており、セメントを焼成する温度では極度に変形するため、その内側には断熱材として図示省略するレンガが巻かれている。また、ロータリーキルン3は、バーナー9側が少し下がるよう傾斜(30〜40/1000程度)を持って設置されており、セメント原料はバーナー9側(窯前側)と反対側でありバーナーより位置の高い端部(窯尻側)から投入される。そして、ロータリーキルン3を回転させる事により、セメント原料が、窯尻側から窯前側へゆっくりとバーナー9のある方向に向かって流れながら焼成される。ロータリーキルン3から排出されたセメントクリンカは、セッコウ等を添加した後、仕上げミル内で微粉砕され、セメントとなる。
【0018】
サスペンションプレヒーター5は、ロータリーキルン3の排ガスとして排出される廃熱を有効利用するため装置であり、排ガスを用いてセメントクリンカ原料を数百℃まで予熱するためのものである。
【0019】
セメント焼成プロセスにおいては、セメントクリンカ原料(具体的には、石灰石、粘土、珪石、鉄滓、鋳物砂・スラグ・アルミナスラッジ・都市ごみの焼却灰等の廃棄物等)を、ドライヤ(乾燥機)で乾燥した後、粉砕機で粉砕して混合し、原料供給路を経由してサスペンションプレヒーター5に連続的に供給する。サスペンションプレヒーター5において予熱が行われたセメントクリンカ原料は、ロータリーキルン3に投入される。ロータリーキルン3内に供給されたセメントクリンカ原料は、800〜1450℃の温度条件下で焼成されて、セメントクリンカとなる。
【0020】
続いて、タイヤ投入設備7について説明する。タイヤ投入設備7は、タイヤ測定部11と、図示しないタイヤ投入高さ・投入間隔演算部と、タイヤ投入高さ調整部13と、タイヤ投入間隔調整部と、タイヤ投入シュート部15とを有する。
【0021】
図2及び図3に示されるように、タイヤ投入シュート部15は、投入するタイヤをロータリーキルン3内に導く筒状または樋状のものである。タイヤ投入シュート部15は、その上流側に、鉛直方向に延びる鉛直部15aを有する共に、下流側に、タイヤの進行方向を鉛直方向から水平に近い方向へと変更するように湾曲して延びる湾曲部15bを有する。タイヤ投入シュート部15における延長方向と直交する通路形状は、タイヤの回転軸を含む断面外径に沿うように形成されている。すなわち、本実施の形態では、タイヤ投入シュート部15内の通路形状は、ほぼ矩形に形成されている。
【0022】
タイヤ測定部11は、タイヤ投入シュート部15の上流側に配置されている。具体的構成例としては、タイヤ投入シュート部15の上流に、タイヤTを搬送するベルトコンベア17を用意しておき、その一部としてまたはその近傍に、タイヤ測定部11を設ける。測定対象としては、タイヤの外径または質量が挙げられる。外径測定としては、ローラーコンベア上にてレーザー測長機によって測定する態様が挙げられる。一方、質量測定としては、ローラーコンベア上にてロードセルによって測定する態様が挙げられる。また、予め外径と質量の関係を調査して関係式を作成しておき、一方を測定して他方を関係式から得る態様も可能である。
【0023】
図示しないタイヤ投入高さ・投入間隔演算部は、測定結果または関係式から得られた外径または質量を用い、後述のタイヤ投入高さ判定式を用いてタイヤの投入高さを演算する。また、測定結果または関係式から得られた外径または質量を元に、希望する還元度が得られるように投入間隔を演算する。
【0024】
タイヤ投入高さ調整部13は、タイヤ投入シュート部15の鉛直部15aに設けられており、シュートの途中の異なる高さ毎に、往復運動可能な投入高さ調節ピン19を複数本備える。投入高さ調節ピン19は、タイヤ投入シュート部15の鉛直部15aの延長範囲内において、鉛直方向に整列されている。投入高さ調節ピン19は、タイヤ投入高さ演算部からの出力を元にタイヤ通路に対して進入/退出する。より詳細には、図3に示されるように、複数の投入高さ調節ピン19は、必要な一部が、タイヤ投入シュート部15内面からタイヤ通路に突出し、残りは、タイヤ投入シュート部15内面から突出しないように後退している。これにより、突出した投入高さ調節ピン19の上にタイヤTが掛止・支持される。そして、突出していた投入高さ調節ピン19を、他のピンのようにタイヤ通路に対して引き込めることにより、その上に静止していたタイヤが落下し、湾曲部15bを通ってロータリーキルン3内に供給される。投入高さ調節ピン19は鉛直部15aの延長範囲内にのみ設けられており、タイヤの投入高さ調整範囲は、鉛直部15aの延長範囲内に収められている。
【0025】
また、複数の投入高さ調節ピン19は、タイヤ投入高さ調整部13としてだけでなく、タイヤ投入間隔調整部としても機能する。タイヤ投入高さ・投入間隔演算部では、タイヤの保有する炭素量と、ロータリーキルン3内へ投入したい炭素量とから投入間隔が演算されており、その演算結果に基づき、複数の投入高さ調節ピン19のそれぞれのタイヤ通路に対する進入/退出のタイミングが決定され、ロータリーキルン内へ必要時間に必要量だけタイヤを投入する。
【0026】
すなわち、タイヤの投入高さは、投入高さ調節ピン19の進入/退出の対象を制御することにより行われ、タイヤの投入間隔は、投入高さ調節ピン19の進入/退出のタイミングを制御することにより行われる。
【0027】
次に、タイヤの投入高さ・投入間隔の演算式の決定について説明する。
まず、1) 還元雰囲気を作る温度範囲、還元度を、シミュレーションや実験用小型ロータリーキルン等で決定する。
次に、2) 目的とするロータリーキルンの温度分布を元にタイヤの転がり到達位置を決定する。
3) 演算式の決定を行う。
i)基本式は次のとおりである。
E1=Mgh+1/2MV・・・式イ(タイヤ投入待機高さにおけるタイヤのエネルギー)
E2=PL=μrMgL・・・式ロ(ロータリーキルン内でタイヤ停止位置までに消費されるエネルギー)
尚、各表記の意味は次のとおりである。
M:タイヤの質量
g:重力加速度
D:タイヤの外径
L:タイヤ到達位置(タイヤ停止位置)
h:タイヤ投入高さ
V:タイヤ投入待機高さにおけるタイヤ移動速度
P:タイヤとロータリーキルン内の転がり摩擦力
μr:タイヤとロータリーキルン内の転がり抵抗係数
R:タイヤ接触点におけるロータリーキルンからの反力
よって、エネルギー保存の法則(E1=E2)より
Mgh+1/2MV=μrMgL・・・式ハ
が得られる。
さらに、投入待機位置におけるタイヤの初速は、静止状態からの落下であるため、零である(式イのV=0)。
よって、式ハは、
h=μr・L・・・数式(2)
として得られる。かかる数式(2)を、タイヤ投入高さ判定式として用いる。
【0028】
次に、図4に基づき、本実施の形態に係るリサイクル還元材の炉内投入方法の手順について説明する。まず、ステップS1として、転がり抵抗係数と、タイヤの外径または質量との関係を予め獲得しておく。具体的には、一定の高さ(h)から様々な外径(D)または質量(M)のタイヤをロータリーキルン内に投入し、その到達位置(L)を測定し、試みた一定高さ(h)と測定値である到達位置(L)とを用い、数式(2)の変形式 μr=h/Lより、そのタイヤにおけるロータリーキルン内の転がり抵抗係数(μr)を求める。求めた転がり抵抗係数(μr)とタイヤの外径(D)または質量(M)との関係をグラフ化し、規則性を推定することにより、転がり抵抗係数(μr)についての、外径(D)または質量(M)の関数として、
μr=f(D)又はf(M)・・・関数(1)
を獲得する。なお、グラフより一つの関数として獲得できない場合は、グラフを数分割し、分割区間毎に対応する関数を獲得する。
【0029】
投入間隔の調整を行う場合には、次のようにして、投入間隔の決定を行う。まず、単位時間あたりの必要炭素量を決定しておく。次に、タイヤの質量あたりの炭素量を測定する。通常、これは単純比例関係にある。そして、測定したタイヤ質量から次のタイヤ投入間隔を算出する。最初に質量を測定したタイヤT1が長期供給されると仮定して次のタイヤT2の投入間隔を決定する。T1の質量に対するT2の質量の差を補正し、更に次のタイヤの投入間隔を決定する。この操作を繰り返すことで、タイヤが定量供給されるようにすることができる。
【0030】
上記ステップS1は、本来の熱処理とは別個に行っておくのが好適である。次に、ステップS2として、本来の熱処理において投入するタイヤを用意し、その外径Dまたは質量Mを測定していく。ステップS3として、ステップS2の測定で得られた外径Dまたは質量Mから、ステップS1で得た関数(1)に基づいて、転がり抵抗係数μrを獲得する。
【0031】
続いて、ステップS4として、ステップS2で測定したタイヤに対する投入高さの決定を行う。すなわち、ステップS3で得た転がり抵抗係数μrと、実施者が把握しているタイヤを留めたい所望のタイヤ到達位置Lとから、上記の数式(2)に基づいて、そのタイヤの投入高さを求め決定する。なお、実施者が把握しているタイヤを留めたい所望のタイヤ到達位置は、鉛等の有害物質が効率よく揮発するための還元雰囲気を実現できる位置であり、ロータリーキルン内の温度が800℃〜1250℃、好ましくは1000℃〜1250℃の位置を好適な一例として挙げることができる。
【0032】
ステップS5として、決定した投入高さよりタイヤの投入を行う。投入高さの調整・実現は、上述したように、タイヤ投入高さ調整部13における複数の投入高さ調節ピン19の作用によって行われる。以降、ステップS2〜ステップS5までを繰り返し行うことによって、リサイクル還元材の炉内投入が実施される。
【0033】
以上のような本実施の形態によれば、リサイクル還元材を、一定量供給できるだけでなく、それに加え炉内の所定の位置に置き留めることもできる。よって、これまでは、ロータリーキルン内の温度が1250℃を超える位置にタイヤが置かれた場合には、窯前に到達する時間が短くなって熱履歴が少ないため、タイヤやそれを構成するワイヤー等が燃え残り、製品に悪影響を及ぼしてしまう問題があったり、本来の還元に必要な量よりも多くのタイヤを投入し、焼成阻害や固結除去のための休転作業を強いられる問題等があったりしたところ、本実施の形態によれば、リサイクル還元材を炉内の所定の位置に置き留めることができるため、これらの問題を解消することができ、確実且つ安定した還元効果を得ることができる。また、転動態様で供給する還元材の位置を制御できるようになったため、廃棄物系還元材としてタイヤを用いても上記の問題を解消でき、環境保護やコスト節減の観点より非常に好適である。
【0034】
また、鉛直方向に延びた鉛直部15aとそこから炉に通じる湾曲部15bとを有するタイヤ投入シュート部15を用意し、タイヤの投入高さ調整範囲が、鉛直部の延長範囲内に収まるように、投入高さの調整を鉛直部において行うことから、タイヤ投入シュート部をロータリーキルンの長さ方向に延長させないで済み省スペース化を図りながら、且つ、落下始点を、自由落下部分で調整することにより、湾曲した部分で調整するよりも、シュートの湾曲状態の影響を少なくし還元材到達位置の制御をより精度よく行うことができる。
【0035】
また、タイヤ投入シュート部15における延長方向と直交する通路形状を、タイヤの回転軸を含む断面外形に沿うように構成することにより、タイヤの転倒と回転軸のブレとを抑制することができ、還元材到達位置の制御をより精度よく行うことができる。
【0036】
なお、以下に具体的な一実施例を挙げておく。まず、ロータリーキルンとしては、内径5.3m、長さ110mのものを用い、タイヤの測定については、ロードセルによりタイヤの質量を測定し、レーザー測長機によりタイヤの外径を測定する。タイヤ投入シュート部15としては、横が0.35m、縦が1.1m、長さが15mのものを使用した。なお、横方向をX方向、縦方向をY方向、長さ方向をZ方向とし、タイヤは、その回転軸がX軸と平行になるように投入する。図1に示されるように、窯尻部分のロータリーキルン下側のレンガ面をZ=0mとする。
【0037】
投入高さ調節ピン19は、6m≦Z≦18mのシュート外側において、0.25m毎にSUS420の丸鋼(直径0.025m、長さ0.5m)を2本ずつ、等間隔でX方向に向かって設置することで実現されており、エア駆動のピストンシリンダーによって往復運動されるようになっている。挿入時にはタイヤ投入シュート部15内に丸鋼が0.30m入った状態となり、後退時にはシュート内に丸鋼が全く入っていない状態となる。
【0038】
熱処理装置1の動作について説明する。タイヤはロードセルで質量を測定し、その後レーザー測長機にて直径を測定する。Z=5.5mの位置と、Z=19mの位置とにはダンパがあり、レーザー測長機を通過した時間をt=0分とすると、t=0.5分に、Z=19mの位置にあるダンパ(以下、「DH」とも称する)が開放され、タイヤ投入高さ・投入間隔演算部からの出力に従った高さの丸鋼がタイヤ投入シュート部15に挿入される。t=1分に、DHが閉鎖され、Z=5.5mの位置にあるダンパ(以下、「DL」とも称する)が開放される。タイヤ投入高さ・投入間隔演算部からの出力に従った時間taに丸鋼が後退することによりタイヤはロータリーキルンに投入され、t=(ta+0.5)分にDLが閉鎖される。これらの動作を繰り返すことにより、連続的にロータリーキルンにタイヤを投入した。
【0039】
上記において、ロータリーキルン3を用いて、セメントを焼成しながらタイヤをその外径に応じた高さから投入し、クリンカの鉛濃度の変化を調査する実験を行なった。以下に、その方法について順を追って説明する。
【0040】
まず、鉛揮発に効果的なタイヤを投入する位置と投入量を、実験用小型ロータリーキルン(内径0.37m、長さ3.5m)での試験により決定した。試験条件は、窯尻温度、焼点温度、ロータリーキルン内滞留時間などを実機に合わせた。タイヤを投入する位置は、窯尻から0.5m毎に0.02m角に切断したタイヤを、原料投入量25kg/hに対して0.76kg/h投入し、得られたタイヤ投入位置とセメントクリンカ鉛濃度の関係から求めた。タイヤは、直径0.05m、長さ4mのステンレス製ひしゃくで投入した。最もセメントクリンカ鉛濃度が低下したタイヤ投入場所は、窯尻から1.5mの位置であった。タイヤ投入量については、原料25kg/hに対して、0.38kg/h、0.57kg/h、0.76kg/h、0.95kg/hとし、タイヤ投入位置1.5mにおいて安定運転可能で、かつ最もセメントクリンカ鉛濃度が低下した量とした。結果は0.57kg/hが最適であった。実験用小型ロータリーキルンから得られた結果を実機にスケールアップし、47mの位置に6.75t/hのタイヤを投入することとした。
【0041】
次に、タイヤ投入高さ判定式を作成した。外径を予め測定したタイヤ側面の一番膨らんでいる部分に4箇所の穴を開け、対角線に沿ってφ6mmの耐熱性アルミナロープを輪状に結び、中心にφ2mm、長さ150mの耐熱性アルミナロープを結びつけた。こうすることで、タイヤを転がした時にタイヤ自体に耐熱性アルミナロープが巻きつくのを防止した。タイヤ投入シュートのZ=15mの位置に丸鋼を二本挿入し、タイヤがそれより下に落ちないようにしてタイヤを丸鋼の位置にセットした。続いて、丸鋼を引き抜きタイヤを落下させると、φ2mmの耐熱性アルミナロープはロータリーキルン内へタイヤに引かれて入って行った。数秒後タイヤの転倒と共に、耐熱性アルミナロープがロータリーキルン内へ引かれる早さが急激に遅くなった。同一の操作を19本(外径0.51m〜0.96m、設置面の幅0.13m〜0.34mで、外径がほぼ等しい(±0.02m)タイヤが2本以上ある態様)のタイヤで繰り返し、タイヤを落下させ引きが急激に遅くなるまで繰り出した耐熱性アルミナロープの長さからシュート部の長さを減じて、窯尻からタイヤ到達点までの長さ(L)を求めた。その結果、外径が同じタイヤの到達位置には、ほとんど差がなかった。この結果を最小自乗法近似し、前述した、
μr=f(D)・・・関数(1)
を得た。
この関数(1)に、
h=μr・L・・・数式(2)
を代入し、以下のタイヤ投入高さ判定式を作成した。
【0042】
h=f(D)・L
最後に、実機での連続運転を実施した。ベルトコンベアによってタイヤ投入シュート部15の開口部と同じ高さ(Z=20m)まで上げたタイヤを、ローラーコンベアによってタイヤ投入シュート部15の開口部まで水平移動させた。その途中にロードセルとレーザー測長機を設置し、タイヤの質量と外径を測定した。測定したタイヤの外径から、窯尻からのタイヤ到達距離Lが47mとなるように、タイヤの投入高さhをタイヤ投入高さ調整部により調整した。また、タイヤの投入量が0.57kg/hとなるように、測定したタイヤの質量からタイヤ投入高さ・投入間隔演算部で投入間隔を求め、タイヤ投入間隔調整部で調整した。
【0043】
この運転を継続した本実施例と、従前の運転とを比較したところ、本実施例は従前運転よりもタイヤの投入量を2/3に減らしても、クリンカ内に残留する鉛濃度が20ppmと同等の成績を維持でき、さらに加えて、ロータリーキルンへの固着は約2/3程度少なくすることができた。
【0044】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0045】
1 熱処理装置
3 ロータリーキルン
15 タイヤ投入シュート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクル還元材を転動させて炉内へ投入するリサイクル還元材の炉内投入方法であって、
予め、外径Dまたは質量Mが様々なリサイクル還元材を、実際に一定の高さから炉内へ投入し、到達位置Lを計測していくことによって、転がり抵抗係数μrについての、外径Dまたは質量Mの関数として、
μr=f(D)又はf(M)・・・関数(1)
を獲得しておき、
投入するリサイクル還元材を用意し、
投入するリサイクル還元材の外径Dまたは質量Mを測定し、
測定した外径Dまたは質量Mから、関数(1)に基づいて、転がり抵抗係数μrを獲得し、
得られた転がり抵抗係数μrと、所望の還元材到達位置Lとから、
投入高さh=μr・L・・・数式(2)
の数式(2)に基づいて、還元材の投入高さhを決定し、
決定した投入高さhから、そのリサイクル還元材を落下させて投入する
リサイクル還元材の炉内投入方法。
【請求項2】
鉛直方向に延びた鉛直部とそこから炉に通じる湾曲部とを有する投入シュートを用意し、
リサイクル還元材の投入高さ調整範囲が、前記鉛直部の延長範囲内に収まるように、投入高さの調整を前記鉛直部において行う
請求項1に記載のリサイクル還元材の炉内投入方法。
【請求項3】
リサイクル還元材としてタイヤを用い、
投入するタイヤを炉内に導く投入シュートとして、該投入シュートにおける延長方向と直交する通路形状が、前記タイヤの回転軸を含む断面外形に沿うものを用いる
請求項1に記載のリサイクル還元材の炉内投入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190551(P2010−190551A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38442(P2009−38442)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】