説明

リチウムイオンキャパシタ

【課題】リチウムイオンキャパシタにおける連続充電時の容量低下を防ぐ。
【解決手段】正極と、負極と、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒溶液とを有し、正極活物質がリチウムイオン、あるいはアニオン、あるいはリチウムイオン及びアニオンを可逆的にドープ及び脱ドープ可能な物質であり、負極活物質がリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質であり、前記正極と前記負極を短絡させた後の正極電位が2.0V以下(対Li/Li)になるように前記負極、あるいは前記正極、あるいは前記負極及び正極にリチウムイオンが予めドープされるリチウムイオンキャパシタで、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の複数の環状カーボネートを所定量含ませることで、連続充電時の静電容量の低下を抑制することができる。単一環状カーボネート、あるいは鎖状カーボネートを含ませる場合に比べて良好な結果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオンキャパシタの技術に関し、特にその連続充電時の静電容量の低下抑制に適用して有用な技術である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
近年、高エネルギー密度、高出力特性を有する蓄電装置として、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタとの蓄電原理を組み合わせたリチウムイオンキャパシタが提案されている。
【0004】
かかるハイブリッドキャパシタであるリチウムイオンキャパシタでは、さらに連続充電特性を向上させることでその耐久性の向上が試みられている。例えば、特許文献1では、非プロトン性有機溶媒からなる電解液中に、ビニレンカーボネートを含有させることで、その連続充電特性の改善が図れることが記載されている。
【0005】
また、ハイブリッドキャパシタではないが、特許文献2には、コイン型セルに構成した電気二重層キャパシタで、その電解液にプロピレンカーボネートとエチレンカーボネートの混合物を主体としたものを使用することにより、長時間電圧印加時の耐久性が向上することが記載されている。かかる混合物としては、特にその混合比は限定する必要ないが、好ましくはプロピレンカーボネート体積1に対して、エチレンカーボネートは体積0.1以上4以下が良い旨記載されている。かかる電解液を用いることで、500時間経過後の静電容量の変化率は-2.7%程度に抑え得るとされている。
【特許文献1】特開2006−286924号公報
【特許文献2】特開平11−121285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の如く、連続充電時の特性改善が、非プロトン性有機溶媒の電解液の組成変更で図られている。
【0007】
本発明者は、リチウムイオン電池に比べて比較的に開発の歴史が浅い車載可能なリチウムイオンキャパシタにおける特性向上の開発研究に携わっている。かかるリチウムイオンキャパシタは、正極には活性炭が、負極にはリチウムイオンをドープ可能な炭素系材料がそれぞれ使用され、電気二重層キャパシタに比べて高容量で、且つリチウムイオン電池に比べて高出力化が図れる所謂ハイブリッド型の蓄電デバイスである。
【0008】
かかるリチウムイオンキャパシタでは、その特性改善項目の一つとして、連続充電時の静電容量低下の問題が指摘されている。特に、非水系の有機溶媒を使用した場合における高温時の静電容量の低下率が大きく、その低下抑制が求められている。
【0009】
かかる低下抑制技術としては、より簡単な電解液の構成でその達成が図れ、その効果も従来技術に比して大きいことが求められている。すなわち、従来使用されている非プロトン性有機溶媒としての環状カーボネートの組合せで、かかる特性改善が図れれば好ましいのである。
【0010】
しかし、前記特許文献1に記載の発明は、ビニレンカーボネートを、別途プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートに加えるもので、本発明の開発主旨とはその技術的方向性は異なるものである。
【0011】
一方、特許文献2に記載の発明は、構成上は本発明の開発主旨に沿ったもので優れた発明ではあるが、しかし、コイン型電池をその対象としたものであり、その効果も500時間程度までしか確認されていない。本発明の前提とするリチウムイオンキャパシタは、自動車等に搭載される車載可能な大容量のものであり、その使用状態も過酷な状況が十分に想定されるものである。少なくとも1000時間での静電容量の低下幅を小さく抑えられる必要がある。
【0012】
本発明の目的は、リチウムイオンキャパシタにおける連続充電時の静電容量の低下を抑制する技術を提供することにある。
【0013】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0015】
すなわち、正極、負極、及びリチウム塩の非プロトン性有機溶媒を電解液として有し、正極と前記負極を短絡させた後の正極電位が2.0V以下(対Li/Li)になるように前記負極、あるいは前記正極、あるいは前記負極及び正極にリチウムイオンが予めドープされた構成のリチウムイオンキャパシタにおいて、電解液の非プロトン性有機溶媒として複数の環状カーボネートを80重量%以上含ませた。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
リチウムイオンキャパシタの電解液に使用する非プロトン性有機溶媒に、複数の環状カーボネートの混合物を所定量以上含ませることで、1000時間を越える連続充電時の容量低下を小さく抑えることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0019】
本発明は、リチウムイオンキャパシタの高温時における連続充電時の静電容量の低下を抑制する技術である。特に、かかる低下抑制技術では、電解液の組合せを、環状カーボネートに特定し、その組成比率を限定特化構成により、リチウムイオンキャパシタの静電容量の低下抑制を図るものである。
【0020】
すなわち、本発明のリチウムイオンキャパシタの概略構成は、正極、負極、及びリチウム塩の非プロトン性有機溶媒を電解液として有しており、正極活物質がリチウムイオン、あるいはアニオン、あるいはリチウムイオン及びアニオンを可逆的にドープ及び脱ドープ可能な物質であり、負極活物質がリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質であり、前記正極と前記負極を短絡させた後の正極電位が2.0V以下(対Li/Li)になるように前記負極、あるいは前記正極、あるいは前記負極及び正極にリチウムイオンが予めドープされ、前記非プロトン性有機溶媒は、複数の環状カーボネートを80重量%以上、100重量%以下含むものである。
【0021】
かかる環状カーボネートとしては、少なくともプロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとを有するものである。常温では液体のプロピレンカーボネートに、常温では固体のエチレンカーボネートを所定量混合することで、リチウムイオンキャパシタの連続充電時の容量低下を抑制して、リチウムイオンキャパシタの耐久性を向上させるものである。特に、1000時間を超える長時間での連続充電時の静電容量の低下を抑制できるものである。そのキャパシタの対象は、大容量の車載可能なリチウムイオンキャパシタである。
【0022】
かかるリチウムイオンキャパシタの電解液は、連続充電時の容量低下抑制に実質的に寄与する複数の環状カーボネートを有するものである。かかる「実質的」と言う意味は、連続充電時の容量低下抑制に影響を与えない範囲での鎖状カーボネート等の混入は構わないとの意味である。
【0023】
かかる複数の環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネートと、エチレンカーボネートのみの構成が挙げられる。かかる構成において、エチレンカーボネートは、10重量%以上、60重量%以下含むものである。10重量%未満の場合には、プロピレンカーボネートにエチレンカーボネートを含ませた混合効果が十分に得られず、また60重量%を超える場合には低温でのイオンの移動性が悪くなり、内部抵抗が上がる等の不都合が発生するのである。
【0024】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタにおいて、該電解液を用いることにより30C以上、50C以下の放電電流にて放電した場合の−30℃のときの内部抵抗を9.6Ω・cc以下に低下させることができ、連続充電時の静電容量の低下を十分に抑制することができる。また、60℃にて3.8V連続印加した場合、上記構成の電解液を用いることで、リチウムイオンキャパシタの1000時間での静電容量の低下を、4%以下に抑えることができるのである。
【0025】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタでは、例えば、負極には難黒鉛化炭素材料を用いればよい。また、正極を構成する正極活物質には、比表面積が600m2/g以上、3000m2/g以下でアルカリ賦活処理が施されているものを使用してもよい。さらには、負極を構成する負極活物質は正極を構成する正極活物質に対して、重量当りの静電容量が3倍以上で、正極活物質の重量が負極活物質の重量より大きいものとすれば、リチウムイオンキャパシタの高容量化を果たすことができて好ましい。
【0026】
上記のような概略構成を有する本発明に係るリチウムイオンキャパシタについて、さらに以下詳細に説明する。
【0027】
本発明のリチウムイオンキャパシタでは、正極活物質には、リチウムイオン、あるいはアニオン、あるいはリチウムイオン及びアニオンを、可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質が用いられている。また、負極活物質には、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質が用いられている。
【0028】
ここで、本発明において、ドープとは、吸蔵、担持、吸着または挿入をも意味し、正極活物質にリチウムイオンおよび/またはアニオンが入る現象、あるいは負極活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。また、脱ドープとは、放出、脱着をも意味し、正極活物質からリチウムイオンまたはアニオンが脱離する現象あるいは負極活物質からリチウムイオンが脱離する現象をいう。
【0029】
尚、本発明では、「正極」とは放電の際に電流が流れ出る側の極を言い、「負極」とは放電の際に電流が流れ込む側の極を言うものとする。
【0030】
かかる負極と正極を短絡した後の正極電位及び負極電位は、2.0V(対Li/Li)以下を示すものである。本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極に対するリチウムイオンのドープにより、正極と負極を短絡させた後の正極の電位は、2.0V(対Li/Li)以下にされていることが必要である。
【0031】
上記構成とは異なりリチウムイオンがドープされていないキャパシタでは、正極電位及び負極電位はいずれも約3Vであり、充電前においては、正極と負極を短絡させた後の正極電位は約3Vである。しかし、本発明の如く、リチウムイオンをドープさせることにより、3V(対Li/Li)以下、より好ましくは2V(対Li/Li)以下に電位を下げることができるので、その分、静電容量の向上を図ることができるのである。
【0032】
本発明で、正極と負極を短絡させた後の正極電位が、2.0V(対Li/Li)以下とは、次のいずれかの方法で求められる正極電位が、2.0V(対Li/Li)以下の場合を言う。
【0033】
すなわち、リチウムイオンのドープ後、リチウムイオンキャパシタのキャパシタセル(以下、単にセルと言う場合がある)の正極端子と負極端子を導線で直接結合させて短絡し、その状態で12時間以上放置する。その後に、短絡を解除し、0.5〜1.5時間内に測定した正極電位が2.0V(対Li/Li)の場合を言うものとする。
【0034】
あるいは、充放電試験機にて、12時間以上かけて0Vまで定電流放電させ、その後に正極端子と負極端子を導線で結線して短絡させる。その状態で12時間以上放置し、その後に短絡を解除し、0.5〜1.5時間内に測定した正極電位が2.0V(対Li/Li)の場合を言うものとしても構わない。
【0035】
一般的に充電電圧の上限は、正極電位の上昇による電解液の分解が起こらない電圧に設定される。そこで、正極電位を上限に設定した場合、リチウムイオンのドープにより負極電位が低下する分、充電電圧を高めることが可能となるのである。短絡後の正極電位を3Vよりも低下させることができれば、それだけキャパシタの利用容量が増え、高容量とすることができるのである。
【0036】
通常、正極に活性炭、負極にリチウムイオン二次電池で使用する黒鉛や難黒鉛化炭素のような炭素材を用いたいわゆるハイブリッドキャパシタでは、電極に使用する活性炭や炭素材は通常3V(対Li/Li)前後の電位を有しているため、短絡しても正極電位は変化せず約3V(対Li/Li)のままである。
【0037】
しかし、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、別途金属リチウム等のリチウムイオン供給源から、負極にリチウムイオンをドープすることで、短絡した場合の正極電位を、2.0V(対Li/Li)になるようにするのである。
【0038】
すなわち、リチウムイオンキャパシタのセルに、予め負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極の双方に、上記リチウムイオン供給源からリチウムイオンをドープし、正極と負極を短絡させた後の正極の電位を、2.0V(対Li/Li)以下となるようにするのである。
【0039】
本発明では、リチウムイオンのドープは、負極と正極のいずれか一方、あるいは両方に行ってもよい。しかし、リチウムイオンのドープ量を多くして正極電位を下げると、リチウムイオンを不可逆的に消費してしまい、セルの静電容量が低下するなどの不具合が生じる。そのため、負極と正極にドープするリチウムイオンは、かかる不具合が発生しないように、正極、負極の両極のドープ量を制御することが必要となる。しかし、かかる制御は工程上煩雑となるため、リチウムイオンのドープを負極に対してのみ行うようにするのが好ましい。
【0040】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極活物質の単位重量当たりの静電容量を、正極活物質の単位重量当たりの静電容量の3倍以上に設定することが好ましい。さらに、正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きくなるように設定することが好ましい。かかる構成を採用することで、高電圧且つ高容量のリチウムイオンキャパシタとすることができる。
【0041】
上記の如く、正極活物質重量は負極活物質重量に対して大きいことが好ましく、例えば1.1倍〜10倍に設定すればよい。1.1倍未満であれば容量差が小さくなり、10倍を超えると逆に容量が小さくなる。また、正極と負極の厚み差が大きくなり過ぎて、セル構成上好ましくない場合も発生する。
【0042】
本発明では、リチウムイオンキャパシタにおけるセルの静電容量及びセル容量は、次のように定義する。
【0043】
すなわち、セルの静電容量とは、セルの単位電圧当たりセルに流れる電気量(放電カーブの傾き)とし、単位はF(ファラッド)で示す。また、セルの単位重量当たりの静電容量とは、セルの静電容量を、セル内に充填している正極活物質重量と負極活物質重量の合計重量で除した値とし、単位はF/gで示す。
【0044】
また、正極あるいは負極の静電容量とは、正極あるいは負極の単位電圧当たりセルに流れる電気量(放電カーブの傾き)とし、単位はF(ファラッド)で示す。正極あるいは負極の単位重量当たりの静電容量とは、正極あるいは負極の静電容量を、セル内に充填している正極あるいは負極の活物質重量で除した値とし、単位はF/gで示す。
【0045】
さらに、セル容量とは、セルの放電開始電圧と放電終了電圧の差、すなわち電圧変化量とセルの静電容量との積で、単位はC(クーロン)で示す。1Cは1秒間に1Aの電流が流れたときの電荷量であり、本発明においては換算してmAhで表示する場合がある。
【0046】
すなわち正極容量とは、放電開始時の正極電位と放電終了時の正極電位の差(正極電位変化量)と正極の静電容量の積であり、単位はCまたはmAhである。同様に負極容量とは、放電開始時の負極電位と放電終了時の負極電位の差(負極電位変化量)と負極の静電容量の積であり、単位はCまたはmAhである。これらセル容量と正極容量、負極容量は一致している。
【0047】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、予め負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極に、リチウムイオンをドープさせているが、かかるリチウムイオンのドープ手段としては、特に限定する必要はない。
【0048】
例えば、リチウムイオンの供給可能な金属リチウム等のリチウムイオン供給源を、リチウム極としてキャパシタセル内に配置する等の手段が使用できる。かかるドープに際しては、上記リチウム極を、負極と、あるいは正極と、あるいは負極及び正極と、物理的な接触(短絡)、あるいは電気化学的な手段で接触させればよい。
【0049】
尚、リチウムイオン供給源の量(金属リチウム等の重量)は、所定の負極の容量が得られる量あればよい。
【0050】
リチウムイオン供給源は、導電性多孔体からなるリチウム極集電体上に形成することができる。導電性多孔体には、ステンレスメッシュ等の金属多孔体が使用でき、リチウムイオン供給源と反応しないものであればよい。
【0051】
大容量の多層構造を有するキャパシタセルでは、正極及び負極には、それぞれ電気を受配電する正極集電体及び負極集電体を設ける。かかる構成のセルでは、例えば、リチウム極を負極集電体に対向する位置に設け、電気化学的にリチウムイオンを供給するようにすればよい。
【0052】
正極集電体及び負極集電体には、例えばエキスパンドメタルのように表裏面を貫通する孔を備えた材料が用いられ、リチウム極を負極あるいは正極に対向させて配置する。かかる貫通孔の形態、数等は特に限定する必要はなく、電解液中のリチウムイオンが電極集電体に遮断されることなく電極の表裏間を貫通して移動できるようにしておけばよい。
【0053】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極にリチウムをドープするリチウム極を、セル中に局所的に配置した場合でも、リチウムイオンのドープを均一に行うことができる。
【0054】
従って、正極及び負極を積層もしくは捲回した大容量のセルの場合でも、最外周又は最外側のセルの一部にリチウム極を配置すればよく、スムーズに且つ均一に、負極、あるいは正極、あるいは負極及び正極にリチウムイオンをドープすることができる。
【0055】
電極集電体の材質としては、一般にリチウム系電池に提案されている種々の材質を用いることができる。例えば、正極集電体にはアルミニウム、ステンレス鋼等、負極集電体にはステンレス鋼、銅、ニッケル等を用いることができる。
【0056】
また、セル内に配置されたリチウムイオン供給源との電気化学的接触によりドープする場合のリチウムイオン供給源とは、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金のように、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質を使用すればよい。
【0057】
本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極活物質には、黒鉛、炭素系材料、ポリアセン系物質等を使用することができる。炭素系材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料等が挙げられる。ポリアセン系物質としては、例えば、ポリアセン系骨格を有する不溶不融性基体であるPAS等が挙げられる。かかる負極活物質は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。
【0058】
かかる負極活物質は、例えば、その粉末を、バインダー、必要に応じて導電性粉末、及び増粘剤(CMC(カルボキシメチルセルロース)等)と、水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、かかるスラリーを上述した集電体に塗布すれば、負極を形成することができる。あるいは、上記スラリーを予めシート状に成形し、これを集電体に貼り付ける等して、負極の形成を行っても構わない。
【0059】
バインダーとしては、例えば、SBR等のゴム系バインダーや、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の合フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂等を使用することができる。バインダーの使用量は、負極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、負極活物質に対して2〜40重量%の割合で加えればよい。
【0060】
また、導電材は必要に応じて使用すればよく、例えば、アセチレンブラック、金属粉末等が挙げられる。導電材の使用量は、負極活物質の黒鉛の電気伝導度、電極形状等により異なるが、負極活物質に対して2〜40%の割合で加えればよい。
【0061】
一方、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、正極活物質としては、電解質として使用するリチウムイオンと対をなすBF4-、PF6-等のようなアニオンを可逆的にドープできるものであればよく、特には限定する必要はない。
【0062】
かかる正極活物質としては、例えば、活性炭、導電性高分子、ポリアセン系物質等を挙げることができる。かかる正極活物質においては、例えば活性炭の有する粒度は一般的に使用される広い範囲のものを使用することができる。例えば、その50%体積累積径が2μm以上であり、より好ましくは2〜50μm、特に好ましくは2〜20μmである。また、平均細孔径が好ましくは10nm以下であり、比表面積が好ましくは600m2/gm以上、3000m2/gm以下、特に1300m2/g以上、2500m2/g以下であるのが好適である。
【0063】
また、かかる正極活物質は、例えば、水酸化カリウム等のアルカリで賦活処理が施されているものを用いるのが好ましい。かかるアルカリ賦活処理が施された活性炭は、水蒸気賦活処理が施されたものと比較して、吸蔵容量が大きいので特に好ましい。
【0064】
かかる正極活物質は、その粉末を、前述の負極形成の場合と同様に、バインダー、必要に応じて導電性粉末及び増粘剤(CMC等)と、水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、かかるスラリーを前述の集電体に塗布して正極を形成することができる。あるいは、上記スラリーを予めシート状に成形し、これを集電体に貼り付ける等しても正極の形成ができる。
【0065】
使用可能なバインダーとしては、例えば、SBR等のゴム系バインダーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の合フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂等である。
【0066】
バインダーの使用量は、正極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、正極活物質に対して2〜40重量%の割合で加えることが適当である。また、必要に応じて使用される導電材としては、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等が挙げられる。かかる導電材の使用量は、正極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、正極活物質に対して2〜40%の割合で加えることが適当である。
【0067】
本発明のリチウムイオンキャパシタでは、電解液には、非プロトン性有機溶媒電解質溶液を形成する非プロトン性有機溶媒を使用することができる。かかる非プロトン性有機溶媒には、本発明の特徴点の一つであるが、所定量の複数の環状カーボネートを用いる。
【0068】
すなわち、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネートが用いられている。かかる複数の環状カーボネートは、非プロトン性有機溶媒からなる電解液の80重量%以上占めるものである。勿論、100%を占めても構わない。このように複数の環状カーボネートを少なくとも電解液の80重量%以上含ませることで、連続充電時の容量低下が低く抑えることができることを、本発明者は今回新たに見出したのである。
【0069】
本発明者の研究では、鎖状カーボネートを含まず、複数の環状カーボネートだけを組み合わせるだけで、上記効果が発現できることを見出したのである。極めて簡単な構成である。ビニレンカーボネート等のようなものを含ませなくとも済むのである。
【0070】
また、かかる電解液には、複数の環状カーボネートを使用することが必要で、環状カーボネートを一種類用いた場合よりも連続充電時の静電容量低下を小さく抑えることができることも確かめたのである。その特性発現の詳細な機構は、現時点では明らかではないが、かかる事実に基づき本発明はなされたのである。
【0071】
また、複数の環状カーボネートを用いることによる連続充電時の静電容量低下の抑制効果の程度は、正確には、その複数の環状カーボネートの組成種と、組成比とに応じて決まることが確かめられた。
【0072】
例えば、25℃では液状のプロピレンカーボネートに、25℃では固体のエチレンカーボネートを溶解した非プロトン性有機溶媒を電解液として構成する場合には、エチレンカーボネートはプロピレンカーボネートに対して、重量%で、20重量%以上、60重量%以下が好ましいことが確認された。
【0073】
エチレンカーボネートが20重量%未満の場合には、プロピレンカーボネートへのエチレンカーボネートの添加効果が十分に発揮されずその効果が確認できない場合がある。また、60重量%より高いと、低温時の抵抗が上昇する不都合が見られる。
【0074】
また、20重量%より少ない量の鎖状カーボネートが電解液に含まれていても構わない。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0075】
また、上記の複数の環状カーボネートを有する非プロトン性有機溶媒に溶解させる電解質は、リチウムイオンを生成し得る電解質であれば使用可能である。かかる電解質としては、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0076】
尚、上記電解質及び溶媒は、充分に脱水された状態で、混合されて電解質溶液とする必要がある。電解液中の電解質濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため、少なくとも0.1モル/l以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5モル/l以上、1.5モル/l以下の範囲内とすればよい。
【0077】
本発明のリチウムイオンキャパシタは、特に、帯状の正極と負極とをセパレータを介して捲回させる円筒型セル、あるいは板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層した角型セル、あるいは板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層しさらに外装フィルム内に封入したフィルム型セル等の大容量セルに適している。市販されているコイン型の形態では、余り効果が顕著に感得されず、大型の容量のセルで有効にその効果が感得される。
【0078】
例えば、図1には、積層型のリチウムイオンキャパシタ10の要部を示した。かかる積層型の構成では、図1に示すように、セパレータ11を介して負極12と正極13とが、複数交互に積層されている。このようにして負極12と正極13が積層された積層構成の負極12の上部に、図1に示すように、セパレータ11を介してリチウム極14が設けられ、リチウム極14の上にセパレータ11が設けられた構成となっている。
【0079】
負極12は、負極集電体12aと、負極集電体12a面に設けた負極活物質層12bから構成されている。負極活物質層12bは、負極活物質のスラリーを負極集電体12a面に塗布したものである。かかる複数の負極12では、それぞれの負極集電体12aが導線15により並列接続されている。
【0080】
また、正極13も、正極集電体13aと、正極集電体13a面に設けた正極活物質層13bから構成されている。正極活物質層13bも、正極活物質のスラリーを正極集電体13a面に塗布して形成されている。かかる構成の複数の正極13でも、それぞれの正極集電体13aが導線15で並列接続されている。
【0081】
一方、負極12と正極13の積層構成の上段の負極12上にセパレータ11を介して設けられたリチウム極14では、リチウム極集電体14a面にリチウムイオン供給源として金属リチウム14bが設けられている。かかるリチウム極集電体14aは、図1に示すように、負極集電体12aと導線15で並列接続されている。
【0082】
また、図2には、フィルム型リチウムイオンキャパシタ20の要部を示した。かかる図2に示す構成では、セパレータ21を介して負極22と正極23とが、複数交互に積層されている。負極22と正極23が積層された積層構成の上部には、例えば、図2に示すように、セパレータ21を介してリチウム極24が設けられ、リチウム極24の上にセパレータ21が設けられた構成となっている。
【0083】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22a上に設けた負極活物質層22bから構成されている。負極活物質層22bは、負極活物質のスラリーを負極集電体22a面に塗布したものである。かかる構成の複数の負極集電体22aは、それぞれ端子接続部を有し、かかる端子接続部が一つにまとめられて負極端子22cに接続されている。
【0084】
また、正極23も、正極集電体23aと、正極集電体23a面に設けた正極活物質層23bから構成されている。正極活物質層23bも、正極活物質のスラリーを正極集電体23a面に塗布して形成されている。かかる構成の複数の正極集電体23aは、それぞれ端子接続部を有し、かかる端子接続部が一つにまとめられて、図2に示すように、正極端子23cに接続されている。
【0085】
一方、負極22と正極23の積層構成の上段にセパレータ21を介して設けられたリチウム極24は、リチウム極集電体24a面にリチウムイオン供給源としての金属リチウム24bが設けられている。かかるリチウム極集電体24aも、図2に示すように、負極集電体22aの端子接続部と一つにまとめられて負極端子22cに接続されている。
【0086】
さらに、かかる負極22、正極23、リチウム極24を上記のように積層した構成は、図2に示すように、深絞り状に構成したラミネートフィルム25内に格納されている。かかる積層構成を格納した上端側は、平らなラミネートフィルム26で封止されている。但し、負極端子22c、正極端子23cとは、ラミネートフィルム25、26の封止部から外部に出された構成となっている。尚、図2では、ラミネートフィルム25、26は、破線で表示した。
【0087】
かかるセル構造は、例えば、国際公開WO2000/07255号公報、国際公開WO2003/003395号公報、特開2004−266091号公報等により既に知られており、本発明のキャパシタセルもかかる既存のセルと同様な構成とすることができる。
【実施例】
【0088】
次に、上記説明の構成の本発明に係るリチウムイオンキャパシタについて、実施例を用いてより具体的に、本発明の構成により得られる効果等を説明する。勿論、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0089】
(実施例1)
<負極の製造法>
負極活物質である難黒鉛化炭素材料として、カーボトロンP(呉羽化学工業社製、比表面積;9m/g、粒径;9μm)を使用した。かかる難黒鉛化炭素材料の粉末100重量部と、ポリフッ化ビニリデン粉末10重量部をN−メチルピロリドン80重量部に溶解した溶液とを充分に混合し、さらに混合攪拌機にて充分混合して負極用のスラリーを作成した。
【0090】
かかるスラリーを、厚さ32μm(気孔率57%)の銅製エキスパンドメタルからなる負極集電体に塗布した。塗布に際しては、負極集電体の両面に、ロールコーターを用いて行った。このようにして負極電極層を成形し、真空乾燥後、全体の厚さ(両面の負極電極層の厚さと負極集電体厚さの合計)が90μmの負極を得た。
【0091】
<正極の製造法>
フェノール樹脂を900℃にて約10時間熱処理し、次いで、800℃にて約5時間水酸化カリウムでアルカリ賦活処理を施した比表面積2000m/gの活性炭粉末を92重量部、アセチレンブラック6重量部、アクリル系バインダー7重量部、カルボキシメチルセルロース4重量部、水200重量部とを混合攪拌機にて充分混合して正極用のスラリーを作成した。
【0092】
また、厚さ38μm(気孔率47%)のアルミニウム製エキスパンドメタルの両面に、非水系のカーボン系導電塗料をロールコーターにてコーティングし、乾燥させて導電層が形成された正極用集電体を作成した。全体の厚み(集電体の厚みと導電層の厚みの合計)は52μmであり、貫通孔はほぼ導電塗料により閉塞された。
【0093】
かかる正極用集電体上の両面に、正極用のスラリーを、ロールコーターにて塗布して正極電極層を成形した。真空乾燥後、正極全体の厚さ(両面の正極電極層厚さと両面の導電層厚さと正極集電体厚さの合計)が173μmの正極を得た。
【0094】
<負極の単位重量当たりの静電容量測定>
上記負極を1.5cm×2.0cmサイズに切り出し、評価用負極とした。かかる負極に、対極として1.5cm×2.0cmサイズ、厚さ200μmの金属リチウムを、厚さ50μmのポリエチレン製不織布をセパレータとして介し、組み合わせて模擬セルを組んだ。参照極としては、金属リチウムを用いた。
【0095】
電解液には、プロピレンカーボネートからなる非プロトン性有機溶媒に、1.2モル/lとなるようにLiPF6を溶解して構成した。
【0096】
充電電流1mAにて、負極活物質重量に対して350mAh/g分のリチウムイオンを充電し、その後1mAにて1.5Vまで放電を行った。放電開始1分後の負極電位から0.2V電位変化する間の放電時間より負極の単位当たり重量当たりの静電容量を求めたところ、3656F/gであった。
【0097】
<正極の単位重量当たりの静電容量測定>
上記正極を1.5cm×2.0cmサイズに切り出し、評価用正極とした。かかる正極と対極として1.5cm×2.0cmサイズ、厚み200μmの金属リチウムを厚さ50μmのポリエチレン製不織布をセパレータとして介し、組み合わせて模擬セルを組んだ。参照極としては、金属リチウムを用いた。電解液としては、プロピレンカーボネートに、1.2モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を用いた。
【0098】
充電電流8mAにて3.8Vまで充電し、その後定電圧充電を行い、総充電時間1時間の後、8mAにて2.5Vまで放電を行った。3.8V〜2.5V間の放電時間より、正極の単位重量当たりの静電容量を求めたところ160F/gであった。
【0099】
<フィルム型リチウムイオンキャパシタセルの作製>
正極を2.4cm×3.8cmに5枚カットし、負極を2.5cm×3.9cmに6枚カットし、カットされた正極と負極とを、セパレータを介して積層し、150℃で12時間真空乾燥した。乾燥後、最上部と最下部にセパレータを配置させて4辺をテープ留めし、電極積層ユニットを作成した。
【0100】
負極活物質重量に対してドープ量が350mAh/gのイオン供給になるような金属リチウムを、厚さ70μmの銅ラスに圧着し、負極と対向するように上記電極積層ユニットの最外部に1枚配置した。負極(6枚)と金属リチウム箔を圧着した銅ラスとは、それぞれ溶接して接触させた。
【0101】
このように積層した素子を、端子部1辺と他の2辺とを熱融着した外装ラミネートフィルムへ入れた後、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートが重量比3:2の割合で混合した非プロトン性有機溶媒に、1.2モル/lの濃度にLiPF6が溶解した電解液を真空含浸させた。その後、残り1辺を減圧下にて熱融着し、真空封止を行うことにより、フィルム型キャパシタセルを組立てた。フィルム型キャパシタセルは3セル組立てた。
【0102】
<リチウムイオンキャパシタセルの特性評価>
リチウムイオンキャパシタセル組み立て後14日間放置して、その後に各1セルずつ分解したところ、金属リチウムはいずれも完全に無くなっていた。かかる事実から、負極活物質の単位重量当たりに3656F/gの静電容量を得るためのリチウムイオンが、予め充電により確実にドープされたと判断した。その後、1セルの正極と負極を短絡させて、正極電位を測定したところ、正極電位は0.85V〜0.95Vの範囲となり、2.0V以下であることが確認された。
【0103】
残ったフィルム型リチウムイオンキャパシタセルを、40C相当の定電流でセル電圧が3.8Vになるまで充電し、その後3.8Vの定電圧を印加する定電流−定電圧充電を1時間行った。次いで、40C相当の定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電した。この3.8V−2.2Vのサイクルを繰り返し、10回目の放電における静電容量を初期静電容量とした。その後、セル電圧3.8Vにて、1000時間の連続充電試験に供した。温度は、60℃で行った。1000時間経過した後電圧印加をやめ、恒温層から取り出し、25℃で3時間放置した後、前記3.8V−2.2Vサイクルを行い静電容量を算出するという測定を行った。また、初期静電容量に対する連続充電時の静電容量維持率も求めた。
【0104】
尚、静電容量維持率は下記の計算式より算出した。
静電容量維持率=所定時間経過時の静電容量/初期静電容量×100
(実施例2)
本実施例では、前記実施例1と、フィルム型リチウムイオンキャパシタセルにおける電解液の調製の箇所が異なるだけで、その他の構成は前記実施例1と全く同様である。すなわち、電解液としてプロピレンカーボネートにエチレンカーボネートを重量比4:1の割合で混合した非プロトン性有機溶媒に、1.2モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた点が異なるだけである。
【0105】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタセルの連続充電時の静電容量の維持率は、図3に示した。-30℃における低温時の内部抵抗を図4に示した。
【0106】
(比較例1)
比較例1では、前記実施例1と、フィルム型リチウムイオンキャパシタセルにおける電解液の調製箇所が異なるだけで、その他の構成は前記実施例1と全く同様である。すなわち、電解液としてプロピレンカーボネートのみからなる非プロトン性有機溶媒に、1.2モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた点が異なるだけである。
【0107】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタセルの連続充電1000時間における静電容量の維持率は、図3に示した。-30℃における低温時の内部抵抗を図4に示した。
【0108】
(比較例2)
比較例2では、前記実施例1と、フィルム型リチウムイオンキャパシタセルにおける電解液の調製箇所が異なるだけで、その他の構成は前記実施例1と全く同様である。電解液としてエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートと鎖状カーボネートであるジエチルカーボネートを、重量比で、3:1:4の割合で混合した非プロトン性有機溶媒の混合溶媒に、1.2モル/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を真空含浸させた点が異なるだけである。
【0109】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタセルの連続充電1000時間における静電容量維持率を図3に示した。また、-30℃における低温時の内部抵抗を図4に示した。
【0110】
60℃での連続充電における初期静電容量からの静電容量維持率は、実施例1の場合、1000時間では98.1%であることが確認された。実施例2の場合にも、静電容量維持率は97.3%と静電容量の低下を4%以下に抑えることができることが確認された。一方比較例1の場合には静電容量維持率95.8%、比較例2の場合には静電容量維持率93.7%と静電容量の低下が大きいことが確認された。
【0111】
さらに、図4からは、−30℃では内部抵抗が実施例1、2の場合の方が、比較例1、2の場合に比べて、確実に低下していることが見て取れる。
【0112】
以上のように、所定組成比でエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の複数の環状カーボネートを組み合わせた非プロトン性有機溶媒を電解液に用いることで、複数の環状カーボネートの組合せを用いない場合に比べて、連続充電時の静電容量の低下が抑えられ、つまり静電容量の維持率の向上が図れることが分かった。併せて、低温時の内部抵抗を低くすることもできることが確認された。
【0113】
以上の結果は、リチウムイオンキャパシタの電解液として一般的に用いられるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネートの組合せの簡単な構成で確認できた効果である。
【0114】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態、実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態、実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、リチウムイオンキャパシタの分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明に係るリチウムイオンキャパシタの積層型の要部構成を示す概念図である。
【図2】本発明に係るリチウムイオンキャパシタのラミネートフィルム型の要部構成を示す概念図である。
【図3】本発明における電圧印加後1000時間経過時の静電容量保持率を比較例と共に表形式で示す説明図である。
【図4】本発明における−30℃の内部抵抗の状況を比較例と共に表形式で示す説明図である。
【符号の説明】
【0117】
10 リチウムイオンキャパシタ
11 セパレータ
12 負極
12a 負極集電体
12b 負極活物質層
13 正極
13a 正極集電体
13b 正極活物質層
14 リチウム極
14a リチウム極集電体
14b 金属リチウム
15 導線
20 フィルム型リチウムイオンキャパシタ
21 セパレータ
22 負極
22a 負極集電体
22b 負極活物質層
22c 負極端子
23 正極
23a 正極集電体
23b 正極活物質層
23c 正極端子
24 リチウム極
24a リチウム極集電体
24b 金属リチウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒溶液とを有し、
正極活物質がリチウムイオン、あるいはアニオン、あるいはリチウムイオン及びアニオンを可逆的にドープ及び脱ドープ可能な物質であり、
負極活物質がリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質であり、
前記正極と前記負極を短絡させた後の正極電位が2.0V以下(対Li/Li)になるように前記負極、あるいは前記正極、あるいは前記負極及び正極にリチウムイオンが予めドープされ、
前記非プロトン性有機溶媒は、複数の環状カーボネートを80重量%以上含むことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記複数の環状カーボネートとは、少なくともプロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとを有することを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
請求項1記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記複数の環状カーボネートとは、プロピレンカーボネートと、エチレンカーボネートのみから構成されていることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記エチレンカーボネートは、10重量%以上、60重量%以下含むことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
30C以上、50C以下の放電電流にて放電した場合、−30℃のときの
前記リチウムイオンキャパシタの内部抵抗が9.6Ω・cc以下であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
60℃にて3.8V連続印加した場合、前記リチウムイオンキャパシタの1000時間での静電容量の低下が、4%以下であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記負極には、難黒鉛化炭素材料が使用されていることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記正極を構成する正極活物質は、比表面積が600m2/g以上、3000m2/gでアルカリ賦活処理が施されていることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタにおいて、
前記負極を構成する負極活物質は、前記正極を構成する正極活物質に対して、重量当りの静電容量が3倍以上で、
前記正極活物質の重量が、前記負極活物質の重量より、大きいことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−252013(P2008−252013A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94556(P2007−94556)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】