説明

リチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】プレドープ後の負極における集電体と負極活物質層との間の密着性の低下を最小限に抑制しつつ、不可逆容量に相当するリチウムを補填しうる技術を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、当該集電体上に形成された、負極活物質を含む負極活物質層とを有する。そして、当該集電体の表面の10〜60%(面積割合)に、当該集電体の面方向に間欠的に配置されてなる空隙部が存在する点に特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素、特に黒鉛系材料が用いられてきた。また、最近では、高容量の負極活物質として、リチウムと合金化しうる材料などが研究されている。例えば、Si材料は、充放電において1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Siにおいては4200mAh/g程度もの理論容量を有する。このようにリチウムと合金化しうる材料は電極のエネルギー密度を増加させることができるため、車両用途における負極材料として期待されている。
【0006】
しかしながら、このような大容量を有する炭素材料やリチウムと合金化する材料を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の多くは、初期充放電時の不可逆容量が大きい。このため、充填された正極の容量利用率が低下し、電池のエネルギー密度が低下するという問題がある。ここで、不可逆容量とは、リチウムイオン二次電池において、初期充電で負極中に吸蔵されたリチウムの全てを放電によって放出することはできず、放電後も負極中に残留するリチウム量のことを意味する。この不可逆容量の問題は、高容量が要求される車両用途への実用化において大きな開発課題となっており、不可逆容量を抑制する試みが盛んに行われている。
【0007】
このような不可逆容量に相当するリチウムを補填する技術として、集電体の表面と負極活物質層との間に金属リチウムからなるリチウム層を配置する技術が知られている(特許文献1を参照)。この開示によれば、負極の不可逆容量に相当するリチウムがリチウム層からのドープにより供給されることによって、電池作製後の充電により正極から供給されるリチウムが負極の不可逆分として浪費されず、放電容量が向上する、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−235869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、リチウム層に含まれるリチウムはプレドープされるとリチウム層から消失する。このため、プレドープ後の負極において集電体と負極活物質層との間の密着性が低下するという問題がある。このように密着性が低下すると、電池の充放電時において負極活物質層が膨張収縮した場合に、集電体と負極活物質層との界面で応力が発生し、負極活物質層からの活物質の脱落などの問題が発生する虞がある。
【0010】
そこで本発明は、プレドープ後の負極における集電体と負極活物質層との間の密着性の低下を最小限に抑制しつつ、不可逆容量に相当するリチウムを補填しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、リチウムイオン二次電池用負極において、集電体の表面の所定割合の領域に空隙部を存在させることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、当該集電体上に形成された、負極活物質を含む負極活物質層とを有する。そして、当該集電体の表面の10〜60%(面積割合)に、当該集電体の面方向に間欠的に配置されてなる空隙部が存在する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、集電体の表面に存在する空隙部が、電池の充放電時の負極活物質層の膨張収縮を吸収することで、集電体−負極活物質層界面における応力の発生が緩和される。その結果、プレドープ後における集電体と負極活物質層との間の密着性の低下を最小限に抑制しつつ、不可逆容量に相当するリチウムを補填することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。
【図2】図1に示す形態の負極に用いられる集電体の平面図である。
【図3】図1に示す形態の負極の変形例を示す模式断面図である。
【図4】図1に示す形態の負極の他の変形例を示す模式断面図である。
【図5】図1に示す形態の負極のさらに他の変形例を示す模式断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。
【図7】図6に示す形態の負極に用いられる集電体の平面図である。
【図8】双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図9】双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る組電池の外観図であって、図10(A)は組電池の平面図であり、図10(B)は組電池の正面図であり、図10(C)は組電池の側面図である。
【図11】図10に示す実施形態の組電池を搭載した車両の概念図である。
【図12】実験例1における容量維持率の算出結果を示すグラフである。
【図13】実験例2における容量維持率の算出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
[負極]
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。以下、図1に示すリチウムイオン二次電池用負極を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0017】
図1に示す本実施形態の負極1は、集電体2と、集電体2の両面側に形成された負極活物質層3とを有する。また、集電体2には、集電体2の面方向に間欠的に、貫通孔2aが形成されている。なお、貫通孔2aが「間欠的に形成される」とは、貫通孔2aどうしがある距離(一定でも不定でもよい)をもって存在するように形成されることを意味する。
【0018】
本実施形態において、集電体2は、図2(図1に示す負極に用いられる集電体の平面図)に示すような格子状の平面形状を有している。集電体2のそれぞれの面側に形成された負極活物質層3は、貫通孔2aを介して互いに結着している。さらに、集電体2の貫通孔2a以外の部位(図2の網掛け部)の表面には、空隙部4が存在している。空隙部4の存在する割合は、集電体の表面の面積100%に対して、例えば20%である。なお、本実施形態のように集電体2の貫通孔2a以外の部位のすべての表面に空隙部4が存在する場合には、貫通孔2aの存在する割合は、集電体の表面の面積100%に対して、(100−空隙部の存在割合)[%]と算出される。上述したように空隙部の存在割合が20%のとき、貫通孔の存在割合は80%となる。
【0019】
なお、図示は省略するが、図1に示す形態において空隙部4は、集電体2の面方向に対して規則的かつ周期的に存在している。ここで、「空隙部が規則的かつ周期的に存在する」とは、空隙部が一定の規則に従って(図1および図2に示す形態では所定の間隔を置いて)存在し、かつ、その規則的な配置が繰り返されていることを意味する。なお、集電体2の平面図における貫通孔の配置形態は特に制限されず、図2に示す形態以外の形態が採用されてもよい。また、場合によっては、空隙部4が集電体2の表面にランダムに存在する形態もまた、採用されうる。
【0020】
以下、本実施形態の負極1を構成する部材について説明するが、下記の形態のみに制限されることはない。
【0021】
[集電体]
集電体2は導電性材料から構成される。集電体2を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金またはカーボンが挙げられる。なお、非導電性高分子からなる基材に導電性フィラーが分散されてなる構成を有するいわゆる「樹脂集電体」もまた、集電体の一形態として採用されうる。集電体2の厚さは特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0022】
図1に示す形態において、集電体2は面方向に間欠的に形成された貫通孔2aを有している。貫通孔2aの形成は間欠的なものであるため、集電体2の貫通孔が形成されない部位の導通は全体にわたって確保されており、集電体としての機能に問題はない(図2を参照)。なお、集電体2に形成される貫通孔2aのサイズや数などの具体的な形態に特に制限はなく、本発明の作用効果が発揮されうる限り、適宜設定されうる。一例として、1つの貫通孔2aのサイズ(直径)は、0.1〜10mm程度である。
【0023】
図1に示す形態においては、貫通孔2aが存在することにより、集電体2の両面側に形成された負極活物質層3は、前記貫通孔2aを介して互いに結着している。このように、集電体2が貫通孔2aを有する形態は、集電体2の両側の面に極性の同じ活物質層(好ましくは、負極活物質層)が配置される場合(つまり、後述する双極型でない電池に用いられる場合)にのみ採用可能なものである。ここで、上述した特許文献1に記載の技術では、集電体と負極活物質層との界面の全体にリチウム層が設けられている。かような構成では、リチウム層からのリチウムのドープ後には、集電体と負極活物質層とを繋ぎ止めていたリチウム層が消失するため、リチウムのドープ後には集電体と負極活物質層との結着性が低下するという問題があった。これに対し、図1に示すように貫通孔2aを介して集電体2の両面側の活物質層どうしが結着していると、負極1における負極活物質層3の結着性がより一層向上する。その結果、負極活物質の膨張収縮に伴う活物質の脱落などの問題の発生がより一層抑制されうる。なお、この効果は図1に示す実施形態に特有のものであり、本発明に包含されるすべての実施形態がかような効果を発揮するわけではない。
【0024】
図1および図2に示す形態において、集電体2における貫通孔2aの存在割合は、集電体の表面の面積100%に対して、好ましくは40〜90%であり、より好ましくは55〜90%であり、さらに好ましくは70〜90%である。本実施形態においては、貫通孔2aの存在割合が40%以上であれば、貫通孔2aを介して結着する両面側の負極活物質層の結着性が十分に確保されうる。一方、貫通孔2aの存在割合が90%以下であれば、活物質層において発生した電気を外部へ取り出すという集電体本来の機能が十分に発揮されうる。なお、貫通孔2aは集電体2の少なくとも一部に設けられていればよいが、上述した作用効果を十分に発揮させるという観点からは、貫通孔2aは集電体2の全面に均一に設けられることが好ましい。
【0025】
ここで、図1には集電体2が貫通孔2aを有する形態を図示したが、本発明の技術的範囲はかような形態のみには限定されない。例えば、集電体2が貫通孔2aを有しない形態も採用可能である。例えば、図3に示すように、貫通はしていないものの集電体2の表面に凹部2bが設けられ、当該凹部2b以外の部位の表面に空隙部4が存在する形態もまた、採用されうる。また、図4に示すように、平坦な集電体2の表面に空隙部4が設けられる形態が採用されてもよい。図3や図4に示すように貫通孔が存在しない実施形態であっても、負極活物質層3の少なくとも一部が集電体2と結着しているという点で、特許文献1に記載の技術とは異なる。そして、かような構成によれば、リチウムドープ後も負極活物質層3の少なくとも一部は集電体2との結着が確保される。このため、これらの形態でもやはり、特許文献1に記載の技術における結着性の低下とそれに伴う種々の問題の発生は抑制されることになる。また、これらの形態では、図1や図2に示す形態よりも、負極活物質層3が集電体2と接触する面積が大きい。よって、集電体2と負極活物質層3との導通がより確実に確保されるという利点もある。
【0026】
図1に示す形態において、集電体2の貫通孔2a以外の部位(すなわち、図2に示す集電体の本体)の表面には、空隙部4が存在している。空隙部4のサイズや数などの具体的な形態についても特に制限はなく、本発明の作用効果が発揮されうる限り、適宜設定されうる。集電体2と負極活物質層3との密着性の低下を抑制するという本発明の作用効果を十分に発揮させるという観点からは、1つの空隙部4の深さ(電池の積層方向のサイズ)は、好ましくは10〜300μmであり、より好ましくは20〜200μmであり、さらに好ましくは30〜150μmであり、特に好ましくは40〜100μmである。なお、本実施形態の負極1における空隙部4の存在は、電池を完全に放電した後に電池から取り出した電極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、集電体2と負極活物質層3との間に空隙が存在するか否かを判断することにより、確認されうる。また、空隙部4は集電体2の表面の少なくとも一部に設けられていればよいが、上述した作用効果を十分に発揮させるという観点からは、空隙部4は集電体2の貫通孔2a以外の部位の全面に均一に設けられることが好ましい。
【0027】
以上、集電体2の両面の側に空隙部4が存在する場合を図示して説明したが、本発明の技術的範囲はかような形態のみには限定されない。例えば、図5に示すように、集電体2の一方の面側のみに空隙部4が存在する形態もまた、採用されうる。集電体2の一方の面側のみに空隙部4が存在する場合には、以下の(1)〜(2)の形態がより好ましい。ただし、これら以外の形態が本発明の技術的範囲から外れるわけではない。
【0028】
(1)集電体2の空隙部4の存在しない面側に、負極活物質層3は存在しない;
(2)空隙部4が存在する面側に形成される負極活物質層3に含まれる負極活物質量は空隙部4が存在しない面側に形成される負極活物質層3に含まれる負極活物質量よりも多い;
なお、集電体2が貫通孔2aを有する場合、それぞれの側の負極活物質層3は、集電体2における電極の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)を基準に分けられる。
【0029】
また、上記(1)〜(2)のより好ましい形態として、やはり図5に示すように、当該空隙部4の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)が負極全体の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)よりも集電体2側に位置する形態が挙げられる。なお、「負極全体の積層方向の中心面」とは、集電体2とその両面側に形成された負極活物質層3の合計厚さ(図5に示す距離L)の中心の面を意味する。これらの形態によれば、より均一にリチウムがドープされた形態の負極が提供されうるため、好ましい。なお、図5に示す形態において、空隙部4の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)と負極全体の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)との距離(図5に示す距離L)は特に制限されない。ただし、より均一なリチウムのドープを可能とするという観点からは、Lに対するLの比(L/L)は、好ましくは0〜0.5であり、より好ましくは0.1〜0.4であり、さらに好ましくは0.2〜0.3である。
【0030】
図6は、本発明の他の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。
【0031】
図6に示す本実施形態の負極1は、集電体2と、集電体2の両面側に形成された負極活物質層3とを有する。また、集電体2の表面には、集電体2の面方向に間欠的に、凹部5が形成されている。本実施形態において、集電体2の表面には、図7に示すような格子状の平面形状をなすように、凹部5が形成されている。凹部5の存在する割合は、集電体の表面の面積100%に対して、例えば20%である。なお、本実施形態は、集電体2の表面を彫り込むように(集電体2の内部に)凹部5が設けられている点で、集電体2の内部ではなく集電体2の表面に接する空間に空隙部4が設けられている上記実施形態とは異なる。ただし、本実施形態における凹部5は、上述した実施形態における空隙部4に対応し、同様の機能を発揮する。つまり、凹部5は、電池の充放電時の負極活物質層の膨張収縮を吸収するという機能を有する。これにより、集電体−負極活物質層界面における応力の発生が緩和され、プレドープ後における集電体と負極活物質層との間の密着性の低下が抑制されるのである。
【0032】
図6に示す実施形態において、凹部5のサイズや配置形態などの具体的な形態は特に制限されず、本発明の作用効果が発揮されうる限り、適宜設定されうる。一例として、集電体2と負極活物質層3との密着性の低下を抑制するという本発明の作用効果を十分に発揮させるという観点からは、凹部5の深さ(電池の積層方向のサイズ)は、好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは3〜20μmであり、さらに好ましくは4〜10μmであり、特に好ましくは5〜8μmである。なお、本実施形態の負極1における凹部5の存在は、電池を完全に放電した後に電池から取り出した電極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、集電体2の表面に凹部が存在するか否かを判断することにより、確認されうる。
【0033】
図6に示す形態において、集電体2における凹部5の存在割合は、集電体の表面の面積100%に対して、好ましくは10〜60%であり、より好ましくは30〜60%であり、さらに好ましくは40〜60%である。本実施形態においては、凹部5の存在割合が10%以上であれば、集電体と負極活物質層との間の密着性の低下を抑制するという作用効果が十分に発揮されうる。一方、凹部5の存在割合が60%以下であれば、活物質層において発生した電気を外部へ取り出すという集電体本来の機能が十分に発揮されうる。なお、凹部5は集電体2の少なくとも一部に設けられていればよいが、上述した作用効果を十分に発揮させるという観点からは、凹部5は集電体2の全面に均一に設けられることが好ましい。なお、図6に示す形態において、凹部5の平面配列形状は格子状であるが、かような形態のみには制限されず、平行に配列された直線状その他の任意の配列形状が採用されうる。
【0034】
[負極活物質層]
負極活物質層3は負極活物質を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などをさらに含みうる。
【0035】
負極活物質層3中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、活物質層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、負極活物質層3の厚さは、2〜100μm程度である。
【0036】
(負極活物質)
負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、リチウムと合金化しうる元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化しうる元素を含む形態としては、リチウムと合金化しうる元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等が挙げられる。
【0037】
リチウムと合金化しうる元素を用いることにより、従来の炭素材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。また、リチウムと合金化しうる元素を含む材料はリチウムのドープ時に特に急激な発熱反応を起こし、炭素材料などの他の負極活物質に比べて発熱量を増加させる。上述したように、本実施形態では、保護層4が存在することによりリチウムと負極活物質との過剰な反応が抑制される点に特徴を有する。よって、リチウムとの反応による発熱量が大きいこれらの活物質を用いた場合に本発明の作用効果がより顕著に発揮される。
【0038】
リチウムと合金化しうる元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化スズ(SnO)、一酸化スズ(SnO)などを用いることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
この他、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム金属等の金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。場合によっては、これらの負極活物質が2種以上併用されてもよい。
【0040】
ただし、容量を向上させるためには、リチウムと合金化しうる元素を含む負極活物質を多く活物質中に含むことが好ましい。より好ましい形態において、具体的には、負極活物質中、リチウムと合金化しうる元素を含む活物質が60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含まれる。
【0041】
(導電助剤)
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本実施形態において用いられうる導電助剤は特に制限されず、従来公知の形態が適宜参照されうる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0042】
(バインダ)
バインダとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレン−ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0043】
(電解質・支持塩)
電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのリチウム塩を含むイオン伝導性ポリマー(固体高分子電解質)などが挙げられるが、これらに制限されることはない。
【0044】
支持塩(リチウム塩)としては、以下に制限されないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩;LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
[負極の製造方法]
上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、特に制限されない。例えば、上述した実施形態の負極を製造する際には、まず、空隙部4(図1に示す形態の場合)または凹部5(図6に示す形態の場合)に金属リチウムが充填されてなる構造を有する負極前駆体を作製する。次いで、得られた負極前駆体を用いて従来公知の手法により発電要素を作成し、これをエージング処理する。これにより、発電要素の内部に組込まれた形態として、負極1が完成する。つまり、本発明の代表的な形態においては、負極の製造は、電池の製造と併せて行なわれることになる。よって、上述した実施形態の負極の製造方法については、当該負極が用いられる電池の具体的な構成を説明した後に、電池の製造方法と併せて説明することとする。
【0046】
[電池]
上述した実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオン二次電池に用いられうる。すなわち、本発明の一形態は、上述した実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極を含む、リチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池の構造および形態は、双極型電池、双極型でない積層型電池(単に、「積層型電池」とも称する)など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。以下、本発明のリチウムイオン二次電池の構造について説明する。
【0047】
図8は、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池(積層型電池)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。このタイプの電池には、上述の図1、3〜6のいずれの形態の負極も用いられうる。
【0048】
図8に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートシートを電池の外装として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素21を収納し密封した構成を有している。
【0049】
発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0050】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層12が配置されている。なお、図8とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面のみに負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0051】
正極集電体11および負極集電体12には、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられている。そして、これらの集電板(25、27)はそれぞれ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出されている。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0052】
一方、本発明は、双極型リチウムイオン二次電池(双極型電池)にも適用されうる。このタイプの電池には、上述の図3、4、6の形態の負極が用いられうる。
【0053】
図9に示す本実施形態の双極型電池10’は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0054】
図9に示すように、本実施形態の双極型電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、前記集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極を有する。各双極型電極は、電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、電解質層17は、基材としてのセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極および電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極の正極活物質層13と前記一の双極型電極に隣接する他の双極型電極の負極活物質層15との間に電解質層17が挟まれて配置されている。
【0055】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層17からの電解液の漏れによる液絡を防止する目的で、単電池層19の外周部にはシール部31が配置されている。該シール部31を設けることで、隣接する集電体11間を絶縁し、隣接する電極間の接触による短絡を防止することもできる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。ただし、正極側の最外層集電体11aの両面に正極活物質層13が形成されてもよい。同様に、負極側の最外層集電体11bの両面に負極活物質層13が形成されてもよい。
【0056】
さらに、図9に示す双極型電池10’では、正極側最外層集電体11aに隣接するように正極集電板25が配置され、これが延長されて電池外装材であるラミネートシート29から導出している。一方、負極側最外層集電体11bに隣接するように負極集電板27が配置され、同様にこれが延長されて電池の外装であるラミネートシート29から導出している。
【0057】
以下、上述した電池を構成する負極以外の構成要素について、簡単に説明するが、下記の形態のみには限定されない。
【0058】
[正極(正極活物質層)]
正極活物質層13は正極活物質を含み、必要に応じて他の添加剤を含みうる。正極活物質層13の構成要素のうち、正極活物質以外は、負極活物質層15について上述したのと同様の形態が採用されうるため、ここでは説明を省略する。正極活物質層13に含まれる成分の配合比および正極活物質層の厚さについても特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0059】
正極活物質は、特にリチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質が利用されうる。具体的には、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物、LiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物、LiNi0.5Mn0.5などのLi−Ni−Mn系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0060】
[電解質層]
電解質層17は、正極活物質層と負極活物質層との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。
【0061】
電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質および高分子固体電解質などのポリマー電解質が適宜用いられうる。
【0062】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiN(SO、LiN(SOCF、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどの電極の活物質層に添加されうる化合物を同様に用いることができる。
【0063】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
【0064】
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0065】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0066】
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0067】
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
【0068】
[シール部]
シール部31は、双極型電池に特有の部材であり、電解質層17の漏れを防止する目的で単電池層19の外周部に配置されている。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。図9に示す形態において、シール部31は、隣接する2つの単電池層19を構成するそれぞれの集電体11で挟持され、電解質層17の基材であるセパレータの外周縁部を貫通するように、単電池層19の外周部に配置されている。シール部31の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが挙げられる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0069】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。また、最外層集電体(11a、11b)を延長することにより集電板としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0070】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0071】
[外装]
外装としては、図8や図9に示すようなラミネートシート29が用いられうる。ラミネートシートは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。なお、場合によっては、従来公知の金属缶ケースもまた、外装として用いられうる。
【0072】
本実施形態の積層型電池10や双極型電池10’は、上述した実施形態の負極を用いている。よって、これらの電池では、電池の充放電時の負極活物質層の膨張収縮に起因する応力の発生が緩和される。その結果、集電体と負極活物質層との間の密着性の低下が最小限に抑制されうる。
【0073】
[組電池]
上述した実施形態の積層型電池10や双極型電池10’は、複数個接続されて組電池を構成してもよい。詳しくは、少なくとも2つの電池が、直列化あるいは並列化あるいはその両方で接続されることにより、組電池が構成されうる。この際、直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
【0074】
本実施形態の組電池を構成する二次電池の数および接続の仕方は、電池に求める出力および容量に応じて決定されうる。本実施形態によれば、信頼性の高い組電池が提供されうる。また、本実施形態の組電池を構成することにより、組電池を構成する1つの単電池層(単セル)の劣化による組電池全体への影響を低減することもできる。
【0075】
図10は、本発明の一実施形態に係る組電池の外観図であって、図10(A)は組電池の平面図であり、図10(B)は組電池の正面図であり、図10(C)は組電池の側面図である。
【0076】
図10に示す形態では、上述した実施形態の電池(10、10’)が複数、直列および/または並列に接続されて装脱着可能な小型の組電池35が形成されている。そして、この装脱着可能な小型の組電池35がさらに複数、直列および/または並列に接続され、組電池37とされている。これにより、組電池37は、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池37とされる。作製した装脱着可能な小型の組電池35は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続され、この組電池35は接続治具39を用いて複数段積層される。何個の非水電解質二次電池を接続して組電池35を作成するか、また、何段の組電池35を積層して組電池37を作成するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。本実施形態の組電池は、上述した実施形態の電池を用いて構成されていることから、耐久性に優れる。
【0077】
[車両]
上述した実施形態の二次電池(10、10’)や組電池37は、車両の駆動用電源として用いられうる。これらの二次電池または組電池は、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いられうる。これにより、高寿命で信頼性の高い自動車が提供されうる。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両であれば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0078】
図11は、図10に示す実施形態の組電池37を搭載した車両の概念図である。
【0079】
図11に示すように、組電池37を電気自動車40のような車両に搭載するには、電気自動車40の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池37を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームに搭載してもよい。以上のような組電池37を用いた電気自動車40は優れた耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。
【0080】
[電池の製造方法]
上記の[負極の製造方法]の欄でも説明したように、本発明の代表的な実施形態において、負極の製造は、電池の製造と併せて行なわれる。以下、かような形態について詳細に説明するが、下記の形態のみに限定されるわけではない。
【0081】
まず、図1に示す形態の負極を用いる場合を例に挙げて、説明する。すなわち、本発明の一形態によれば、集電体前駆体の表面に、金属リチウムからなるリチウム層を形成する工程(リチウム層形成工程)と、リチウム層が形成された前記集電体前駆体を格子状に加工して格子状集電体を得る工程(格子状集電体作製工程)と、前記格子状集電体の表面に、負極活物質を含むスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層が形成されてなる負極を作製する工程(負極活物質層形成工程)と、前記負極を用いて発電要素を作製する工程(発電要素作製工程)と、前記発電要素をエージングする工程(エージング工程)とを含む、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。かような方法を用いることにより、発電要素の作製とそのエージングによる電池の製造と併せて、図1に示す形態の負極が製造可能である。また、リチウム層の形成後に格子状集電体を得ることから、簡便な手法により集電体の所望の部位(例えば、全面)に均一にリチウム層を配置することができる。その結果、エージング工程におけるリチウムのプレドープが均一になされるという利点がある。また、格子状集電体の形成時にリチウム層の表面積が増大する結果、プレドープ速度を向上させるという効果も得られる。さらに、箔状のリチウム金属を集電体の表面にそのまま貼付してリチウム層を設ける場合、リチウム量をプレドープに用いるのに十分な量に抑えるには、工業的に製造が困難なほど薄いリチウム箔を用いる必要がある。これに対し、上述の製造方法によれば、集電体を格子状に加工する前にリチウム層を形成することから、この際に用いるリチウム箔としては比較的厚めのものを採用することが可能となる。以下、工程順に説明する。
【0082】
(1)リチウム層形成工程
本工程では、まず、集電体前駆体を準備する。なお、「集電体前駆体」とは、後述する「格子状集電体作製工程」において格子状に加工される前の導電性部材を意味する。集電体前駆体としては、例えば、後述する実施例に記載のように、未エキスパンド加工のエキスパンドメタルが用いられうる。また、集電体前駆体の構成材料については、上述した集電体の構成材料と同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0083】
次いで、上記で準備した集電体前駆体の表面に、リチウム層を形成する。リチウム層の形成手法について特に制限はなく、例えば、金属リチウムを適当な溶媒に分散させた分散液(スラリー)を集電体前駆体の表面に塗布し、乾燥させるという手法が例示されうる。また、リチウム層を形成するための他の手法としては、リチウム箔を集電体前駆体の表面に圧着させるという手法も採用されうる。
【0084】
なお、本工程において形成されるリチウム層に含まれるリチウムは、後述するエージング工程でのエージング処理によりドープされ、リチウム層からは消失する。かようなリチウム層の消失により、それまでリチウム層であった空間は、図1に示す形態の空隙部4となるのである。したがって、本工程におけるリチウム層の配置形態やサイズなどは、上述した負極について説明した空隙部4の好ましい形態を参考に、適宜設定されうる。
【0085】
(2)格子状集電体作製工程
本工程では、上記(1)リチウム層形成工程において得られた、リチウム層が形成されてなる集電体前駆体を、格子状に加工する。これにより、リチウム層が形成されてなる格子状集電体が得られる。集電体前駆体を格子状に加工するための具体的な手法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、集電体前駆体として未エキスパンド加工のエキスパンドメタルを用いた場合には、エキスパンド加工を施すことで、集電体前駆体であるエキスパンドメタルを格子状に加工することが可能である。また、場合によっては、集電体前駆体に対して打ち抜き加工などの処理を施すことによって、リチウム層が形成されてなる格子状集電体を得てもよい。
【0086】
(3)負極活物質層形成工程
本工程では、まず、負極活物質、導電剤およびバインダなどの電極材料を、適当なスラリー粘度調整溶媒に分散させて、負極活物質スラリーを調製する。
【0087】
スラリー粘度調整溶媒としては、特に制限されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。
【0088】
次いで、上記で作製した格子状集電体の表面に、上記で調製した負極活物質スラリーを塗布する。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0089】
続いて、格子状集電体の表面に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調製溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物はプレスすることによって電極の密度、空孔率や厚みが調整される。このプレス処理は乾燥前に行なわれてもよい。これにより、格子状集電体の表面に負極活物質層が形成される。なお、図1に示す形態のように集電体の両面側に負極活物質層が形成された負極を製造する場合には、上記で得られた格子状集電体の両面側に対して上記の処理を施せばよい。一方、双極型電池に用いられる双極型電極を作製する場合には、上記の手法により負極活物質層が形成された格子状集電体の他方の面に、同様の手法により正極活物質層を形成すればよい。
【0090】
(4)発電要素作製工程
続いて、上記で作製した負極または双極型電極を用いて、発電要素を作製する。具体的には、正極活物質層と負極活物質層とがセパレータを介して対向するように、電極とセパレータとを積層する。この際、積層型電池を作製するには、別途作製した、集電体の両面に正極活物質層が形成されてなる正極をさらに用いて、負極/セパレータ/正極/セパレータ…の積層を繰り返す。一方、双極型電池を作製するには、双極型電極とセパレータとを交互に積層する。これにより、発電要素が作製される。この際、単電池層の数が所望の数となるまでセパレータおよび電極の積層を繰り返す。
【0091】
そして、得られた発電要素の両端に必要に応じて集電板および/またはリードを接続し、集電板またはリードが導出するように、発電要素をアルミラミネートシートからなるバッグに収容する。その後、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールすることにより、電池が完成する。
【0092】
上記では電解質が液体電解質である場合の電池を例に挙げて説明した。ただし、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であるが、ここでは詳細な説明を省略する。
【0093】
(5)エージング工程
上記(4)において作製した電池を所定の時間エージング(静置)する。これにより、格子状集電体の表面に形成されたリチウム層に存在するリチウムがイオン化して、負極活物質層および/または正極活物質層に存在する活物質にドープされる。エージング工程を実施することにより、活物質層における単位面積当たりのリチウムドープ量を均一化することができ、信頼性の向上した電池が得られる。
【0094】
エージングの温度は、短時間でリチウムドープを完了するという観点からは、好ましくは20〜80℃であり、より好ましくは40〜60℃である。また、エージング時間は、エージング後の電池の電圧が所望のレベルとなるように適宜決定すればよいが、通常24〜120時間程度である。
【0095】
エージング工程後の電池の電圧は、1.0V以上であることが好ましく、1.0〜3.2Vであることがより好ましく、1.2〜3.0Vであることがさらに好ましい。エージング工程後の電池の電圧がかような範囲内の値であれば、リチウムが活物質層に十分にドープされている。
【0096】
なお、エージングは電池の組み立てや予備充電の後に行なってもよい。予備充電の条件は特に制限されない。例えば、20〜60℃で定電流方式(電流:0.5C)で10分間充電する方法を用いてもよい。
【0097】
続いて、図6に示す形態の負極を用いる場合を例に挙げて、電池の製造方法を説明する。すなわち、本発明の他の一形態によれば、表面に凹部が間欠的に形成されてなる集電体を準備する工程(集電体準備工程)と、前記凹部に金属リチウム粒子を配置する工程(リチウム粒子配置工程)と、前記集電体の表面に、負極活物質を含むスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層が形成されてなる負極を作製する工程(負極活物質層形成工程)と、前記負極を用いて発電要素を作製する工程(発電要素作製工程)と、前記発電要素をエージングする工程(エージング工程)とを含む、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。
【0098】
かような方法を用いることにより、発電要素の作製とそのエージングによる電池の製造と併せて、図6に示す形態の負極が製造可能である。また、集電体に形成された凹部にリチウムを配置し、これをドープさせるという構成を採用することで、簡便な手法により集電体の所望の部位(例えば、全面)に均一にリチウム層を配置することができる。その結果、エージング工程におけるリチウムのプレドープが均一になされるという利点がある。また、凹部への配置により、配置されるリチウムの表面積が増大する結果、プレドープ速度を向上させるという効果も得られる。さらに、箔状のリチウム金属を集電体の表面にそのまま貼付してリチウム層を設ける場合とは異なり、粒子状のリチウム金属を製造に用いることができるという点でも、好ましい。以下、工程順に説明する。
【0099】
(1)集電体準備工程
本工程では、表面に凹部が完結的に形成されてなる集電体を準備する。具体的な手法の一例では、まず、従来集電体として用いられている平坦な金属箔からなる集電体前駆体を準備する。次いで、この集電体前駆体の表面に、凹部を形成する。凹部を形成するための具体的な手法は制限されないが、彫り込み法のほか、所望のマスクパターンを用いてマスクを行ないながらのエッチング処理などが例示されうる。
【0100】
集電体前駆体の表面に形成される凹部の具体的な形態については、図6を参照しながら上記で説明した凹部5の形態が同様に採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0101】
(2)リチウム粒子配置工程
本工程では、上記で準備した集電体の表面に存在する凹部に、金属リチウム粒子を配置する。金属リチウム粒子の配置形態について特に制限はない。
【0102】
金属リチウム粒子とは、金属リチウムが微細に粉砕されたリチウムの粉末を意味する。リチウム粒子は、初回充放電時において生じる電極の不可逆容量を補償する機能を有する。なお、金属リチウム粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。
【0103】
また、金属リチウム粒子の平均粒子径についても特に制限はない。ただし、金属リチウム粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは2〜25μmであり、特に好ましくは3〜20μmである。金属リチウム粒子の平均粒子径が1μm以上であれば、取り扱いが容易であるため好ましい。一方、金属リチウム粒子の平均粒子径が30μm以下であれば、凹部に確実に配置されうるという点で好ましい。
【0104】
凹部に配置される金属リチウム粒子の量は特に制限されない。後述するエージング工程でのエージング処理によりドープしたいリチウム量を考慮して、配置すればよい。
【0105】
なお、上述したように本工程において凹部に配置されるリチウム粒子からは、後述するエージング工程でのエージング処理によりリチウムがドープされる。よって、エージング工程において当該リチウム粒子は消失する。かようなリチウム層の消失により、それまでリチウム粒子が配置されていた凹部は、図6に示す形態の(リチウム粒子を含まない)凹部5となるのである。したがって、本工程におけるリチウム層の配置形態やサイズなどは、上述した負極について説明した凹部5の好ましい形態を参考に、適宜設定されうる。ここで、凹部に配置されたリチウム粒子が後述するエージング工程でのエージング処理によって十分にドープされるようにするという観点からは、用いる金属リチウム粒子の粒子径を制御するとよい。具体的には、用いる金属リチウム粒子の粒子径の、集電体表面の凹部の深さに対する比の値を、好ましくは0.5〜1.0、より好ましくは0.6〜0.9、特に好ましくは0.7〜0.85とする。
【0106】
(3)負極活物質層形成工程〜(4)発電要素作製工程〜(5)エージング工程
これらの各工程については、上述した図1の負極を用いた電池を製造する場合の製造方法と同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、本形態が上記の形態と異なる点は以下の通りである。すなわち、本形態では、エージング工程におけるエージング処理によって、集電体の凹部に配置されたリチウム粒子に含まれるリチウムがイオン化して、負極活物質層および/または正極活物質層に存在する活物質にドープされるのである。
【0107】
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られず、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の実施形態に係る負極およびこれを用いた二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実験例1)
[実施例1−1]
以下の手法により、図5に示す形態の負極を有する電池を作製した。
(1)リチウム層形成工程
まず、集電体前駆体として、未エキスパンド加工の銅製エキスパンドメタル(厚さ70μm)を準備した。次いで、上記で準備したエキスパンドメタルの一方の面に、厚さ32μmの金属リチウム箔を圧着させて、リチウム層を形成した。
【0110】
(2)格子状集電体作製工程
上記(1)において得られた、リチウム層が形成されてなるエキスパンドメタル(集電体前駆体)にエキスパンド加工を施した。これにより、集電体を格子状に加工した。この際、エキスパンド加工により形成された開口部の割合(開口率)は、集電体の面積100%に対して40%であった。
【0111】
(3)負極活物質層形成工程
一方、負極活物質としてSiO(80質量部、平均粒子径5μm)、導電助剤としてアセチレンブラック(10質量部)、およびバインダとしてポリイミド(PI)(10質量部)をスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に分散させ、負極活物質スラリーを調製した。
【0112】
上記(2)で作製した格子状集電体の両面の全面に、上記で調製した負極活物質スラリーを塗布し、60℃にて乾燥させて、プレス処理し、負極活物質層(片面の厚さ=36μm、負極活物質密度=10mg/cm)を形成した。得られた積層体にニッケル製の電流取り出しタブを超音波溶接により接合し、電極部サイズが36mm×26mmとなるように打ち抜いた。なお、得られた積層体について、図5に示すLの値は0であった。
【0113】
(4)発電要素作製工程
別途、正極活物質としてLiNiO(86質量部、平均粒子径7.5μm)、導電助剤としてアセチレンブラック(6質量部)、およびバインダとしてPVdF(8質量部)を、スラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、正極活物質スラリーを調製した。
【0114】
一方、正極集電体として、厚さ20μmのアルミニウム箔を準備した。この集電体の両面に、上記で調製した正極活物質スラリーを塗布し、60℃にて乾燥させて、プレス処理し、正極活物質層(厚さ=144μm、正極活物質密度=40mg/cm)を形成して、正極を完成させた。得られた正極にアルミニウム製の電流取り出しタブを超音波溶接により接合し、電極部サイズが34mm×24mmとなるように打ち抜いた。
【0115】
セパレータとして、ポリエチレン製微多孔質膜(厚さ=25μm)を準備した。また、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との等体積混合液にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度で溶解した溶液を準備した。
【0116】
上記で作製/準備した負極活物質層を含む積層体6枚、セパレータ10枚、および正極5枚を、両側に負極積層体が配置され、負極積層体のリチウム層が形成された側が揃うように、負極積層体/セパレータ/正極/セパレータ…の順に積層して、発電要素を作製した。
【0117】
得られた発電要素を外装であるアルミラミネートシート製のバッグ中に載置し、上記で準備した電解液を注液した。真空条件下において、両電極に接続された電流取り出しタブが導出するようにアルミラミネートシート製バッグの開口部を封止し、試験用セルを完成させた。
【0118】
(5)エージング工程
上記で作製した試験用セルに対して、55℃、72時間の条件でエージング処理を施した。これにより、上述のリチウム層に含まれるリチウムをドープさせ、図1に示す形態における空隙部4を形成した。なお、エージング後のセル電圧は3.9Vであった。上述のように集電体の開口率は40%であったことから、本工程において形成された空隙部の面積割合は(100−40)=60%であった。
【0119】
[実施例1−2〜実施例1−13]
上記(2)格子状集電体作製工程において、集電体の開口率および格子加工前のリチウム層の厚さを下記の表1に示す値としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、試験用セルを作製し、さらにエージング工程を行なった。なお、実施例1−5〜1−8においてはさらに、リチウム層(すなわち、完成後の電池における空隙部)の形成を集電体の両面に行なった。また、実施例1−9、1−10、1−12および1−13においては、図5に示すL/Lの値が下記の表1に示す値となるように、負極活物質層の厚さを調節した。なお、表1に示すL/Lの値がマイナスの場合(すなわち、実施例1−12および1−13)は、空隙部4の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)が負極全体の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)よりも集電体2側に位置することを意味する。一方、表1に示すL/Lの値がプラスの場合(すなわち、実施例1−9および1−10)は、空隙部4の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)が負極全体の積層方向の中心面(図5に示す一点鎖線Aを含み紙面に垂直な面)よりも集電体2とは反対の側に位置することを意味する。
【0120】
[比較例1−1]
集電体として、銅製エキスパンドメタルに代えて、厚さ20μmの銅箔を用い、リチウム層の形成も行なわなかったこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、試験用セルを作製し、さらにエージング工程を行なった。
【0121】
[比較例1−2](特許文献1に記載の技術)
集電体の両面にリチウム箔をそれぞれ19μmの厚さで圧着することによりリチウム層を形成したこと以外は、上述した比較例1−1と同様の手法により、試験用セルを作製し、さらにエージング工程を行なった。
【0122】
[比較例1−3および比較例1−4]
上記(2)格子状集電体作製工程において、集電体の開口率および格子加工前のリチウム層の厚さを下記の表1に示す値としたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、試験用セルを作製し、さらにエージング工程を行なった。なお、比較例1−4においてはさらに、リチウム層(すなわち、完成後の電池における空隙部)の形成を集電体の両面に行なった。
【0123】
[試験用セルの評価]
上記でエージング処理を施した各試験用セルについて、25℃の大気中で、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:4.2V)で3時間充電処理を行なった。次いで30分間休止後、定電流方式(CC、電流:0.5C)で2.5Vまで放電処理を行なった。
【0124】
続いて、さらに30分間休止後、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:4.2V)で3時間充電して、充電容量を測定した。その後、定電流(CC、電流:3.0C)で20秒間放電させ、放電容量を測定した。これらのサイクルを繰り返し(サイクル試験)、初回充電容量に対する、1、50、120、210、300、および500サイクル目における放電容量の値を容量維持率として算出した。結果を下記の表1および図12に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
表1および図12に示す結果から、すべての実施例において、比較例よりも高い容量維持率が確保されていることがわかる。これは、負極に設けられた空隙部が、負極活物質の膨張収縮に起因する応力を緩和することで、集電体と負極活物質層との間の密着性の低下が抑制されることによるものと考えられる。
【0127】
[実施例2−1]
以下の手法により、図6に示す形態の負極を有する電池を作製した。
【0128】
まず、集電体として、100mm×300mmの銅箔(厚さ20μm)を準備した。この集電体の長手方向の両端部の領域に対して、エッチング処理を施し、凹部を形成した。この際、エッチング深さは13μmであり、凹部が形成された領域の面積は集電体の面積100%に対して10%であった。
【0129】
一方、リチウム粒子(平均粒子径5μm)を溶媒であるキシレンに分散させて、リチウム粒子スラリーを調製した。調製したリチウム粒子スラリーを、集電体の凹部が形成された領域(エッチング領域)に塗布し、80℃にて2時間乾燥させて、凹部にリチウム粒子を配置した。
【0130】
次いで、上述した実施例1−1と同様の手法により、負極活物質層形成工程、発電要素作製工程、およびエージング工程を行ない、試験用セルを作製した。
【0131】
[実施例2−2]
エッチング処理により凹部を形成する際に、エッチング領域のパターンを集電体の幅方向に平行に5mm間隔で形成した。また、エッチング深さを11μmとし、凹部が形成された領域の面積は集電体の面積100%に対して40%であった。これら以外の形態については、上述した実施例2−1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0132】
[実施例2−3]
エッチング処理により凹部を形成する際に、エッチング領域のパターンとして、集電体の幅方向に平行なパターンに加えてこれに垂直な5mm間隔のパターンも併せて形成した。つまり、凹部を格子形状に形成した。また、エッチング深さを10μmとし、凹部が形成された領域の面積は集電体の面積100%に対して50%であった。これら以外の形態については、上述した実施例2−2と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0133】
[実施例2−4]
エッチング深さを8μmとし、凹部が形成された領域の面積は集電体の面積100%に対して45%であったこと以外は、上述した実施例2−3と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0134】
[実施例2−5]
エッチング深さを6μmとしたこと以外は、上述した実施例2−4と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0135】
[比較例2−1]
上述した比較例1−1と同様の手法により試験用セルを作製し、比較例2−1とした。
【0136】
[比較例2−2]
上述した実施例2−1において調製したリチウム粒子スラリーを、負極活物質層の表面に塗布し、乾燥させて、負極活物質層の表面にリチウム層を形成したこと以外は、上述した比較例2−1と同様の手法により、試験用セルを作製した。
【0137】
[試験用セルの評価]
上記でエージング処理を施した各試験用セルについて、上記と同様の手法により、充電処理および放電処理を行なった。この際、初回放電容量、充放電効率(初回放電容量/初回充電容量)、および抵抗値を算出した。なお、抵抗値については、充電および放電の後、セル電圧変化ΔVおよび電流値の値から算出した。これらの結果を下記の表2に示す。なお、表2には、エッチング深さ(t)に対するリチウム粒子の平均粒子径(r)の比の値(r/t)も併せて記載する。
【0138】
【表2】

【0139】
表2に示す結果から、すべての実施例において、比較例よりも高い容量維持率が確保されていることがわかる。また、各実施例の抵抗値の値についても、リチウム粒子スラリーを塗布する形態の比較例2−2と比べると、顕著に小さい値に抑えられている。これは、負極に設けられた空隙部が、負極活物質の膨張収縮に起因する応力を緩和することで、集電体と負極活物質層との間の密着性の低下が抑制されることによるものと考えられる。なお、比較例2−1における抵抗値はいずれの実施例よりも小さい値であったが、これはリチウムのドープを行なっていないためであり、そもそも充放電効率の点で劣ることが確認された。また、r/tの値を比較的大きく設定すると、充放電効率および抵抗値のいずれの特性も向上する傾向にあることが示される。
【0140】
さらに、上述した実施例2−5および比較例2−1で作製した試験用セルについて、上記と同様の手法によりサイクル試験を行なった。そして、1サイクル目の充電容量に対する、50、100、150、200、250、300、350、400、450、および500サイクル目の放電容量の値を、容量維持率として算出した。結果を下記の表3および図13に示す。
【0141】
【表3】

【0142】
表3および図13に示す結果から、実施例2−5の電池(試験用セル)は、サイクル耐久性の観点からも、比較例2−1の電池(試験用セル)と比較して優れた性能を発揮しうることが示される。
【符号の説明】
【0143】
1 負極、
2 集電体、
2a 貫通孔、
2b、5 凹部、
3 負極活物質層、
4 空隙部、
10 積層型電池
10’ 双極型電池、
11 集電体(正極集電体)、
11a 正極側最外層集電体、
11b 負極側最外層集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29 ラミネートシート、
31 シール部、
35 小型の組電池、
37 組電池、
39 接続冶具、
40 電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に形成された、負極活物質を含む負極活物質層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記集電体の表面の10〜60%(面積割合)に、前記集電体の面方向に間欠的に配置されてなる空隙部が存在することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記集電体の面方向に対して貫通孔が間欠的に配置されてなり、前記集電体の前記貫通孔以外の部位の表面に前記空隙部が存在する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記空隙部が前記集電体の面方向に規則的かつ周期的に存在する、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極活物質層が前記集電体の両面側に形成され、それぞれの面側に形成された前記負極活物質層が前記貫通孔を介して互いに結着している、請求項2または3に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記空隙部が前記集電体の一方の面側のみに存在し、前記空隙部の積層方向の中心が負極全体の積層方向の中心よりも集電体側に位置する、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記空隙部が、前記集電体の表面に形成された凹部である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記凹部が、前記集電体の面方向に格子状に形成されている、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1〜3、6または7に記載のリチウムイオン二次電池用負極の構成を含む双極型電極を有し、双極型である、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
集電体前駆体の表面に、金属リチウムからなるリチウム層を形成する工程と、
リチウム層が形成された前記集電体前駆体を格子状に加工して格子状集電体を得る工程と、
前記格子状集電体の表面に、負極活物質を含むスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層が形成されてなる負極を作製する工程と、
前記負極を用いて発電要素を作製する工程と、
前記発電要素をエージングする工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項11】
表面に凹部が間欠的に形成されてなる集電体を準備する工程と、
前記凹部に金属リチウム粒子を配置する工程と、
前記集電体の表面に、負極活物質を含むスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層が形成されてなる負極を作製する工程と、
前記負極を用いて発電要素を作製する工程と、
前記発電要素をエージングする工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記金属リチウム粒子の粒子径の、前記凹部の深さに対する比の値が0.8〜1.0である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
製造されたリチウムイオン二次電池の電池電圧が1.0〜3.2Vである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項8もしくは9に記載のリチウムイオン二次電池、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池を用いたことを特徴とする組電池。
【請求項15】
請求項8もしくは9に記載のリチウムイオン二次電池、または請求項10〜13のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池、あるいは請求項14に記載の組電池を駆動用電源として搭載した、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−212092(P2010−212092A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57123(P2009−57123)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】