説明

リピータ装置及び干渉信号抑圧方法

【課題】送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信する際に、より有効に干渉信号を抑圧する装置を提供する。
【解決手段】リピータ装置の送信信号の放射を停止した状態で測定した初期遅延プロファイルと、リピータ装置の送信信号を放射した状態で作成した通常遅延プロファイルとの差分をとって、最終遅延プロファイルを作成する。この最終遅延プロファイルに基づき、干渉信号を抑圧するための抑圧信号を作成し、加算器4で受信信号に加算する。これにより、干渉信号が抑圧された信号を送信させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信の中継に用いられるリピータ装置に関する。より詳しくは、受信信号と同じ周波数で送信信号を輻射する場合に生じる、受信アンテナへの回り込みにより受信信号に混入する干渉信号を抑圧する干渉信号抑圧技術に関する。リピータ装置は、中継装置あるいは無線中継ブースタと呼ばれる場合もある。
【背景技術】
【0002】
無線基地局の電波の届きにくいビル内部、トンネル内部、山岳地帯等での電波状況を改善するために、リピータ装置が用いられている。リピータ装置では、受信信号を所定の利得で増幅した上で送信するため、受信信号と送信信号とは同一周波数となる。このため、送信信号が受信アンテナに回り込むと、この信号が所望信号に対して干渉信号(回り込み干渉信号)となり、増幅器の利得(再送利得と呼ばれる)が大きい場合には発信を引き起こすという問題があった。
【0003】
この問題を解決する従来技術として、干渉信号が混入した受信信号からその干渉信号の残差成分を検出しておき、検出した残差成分に基づいて、干渉信号と同振幅、逆位相、同遅延時間となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を受信信号に加算することにより干渉信号を打ち消す技術が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された技術では、少なくとも干渉信号の遅延時間を事前に精度よく測定しておくことが必要となる。
また、干渉信号の遅延時間を検出する従来技術として、送信信号と同じ振幅で逆位相のリファレンス信号を遅延させた遅延リファレンス信号を生成し、この遅延リファレンス信号の遅延時間を1ステップずつ変化させ、変化させる毎に干渉信号が混入した受信信号との相関演算を行ない、干渉信号の遅延時間を検出する技術がある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−196994
【特許文献2】特開2005−086448
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載された技術では、遅延プロファイルを作成する際に、リピータ装置が受信する信号に、所望信号自体の遅延プロファイルが加算されており、遅延プロファイルから干渉信号を検出する精度を高めることができない。
【0005】
本発明の課題は、干渉信号をより高い検出精度で検出し、より有効にその抑圧を行なうリピータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリピータ装置は、送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置であって、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込む取込手段と、この取込手段で取り込んだリファレンス信号にそれぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力する遅延付加手段と、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行う相関演算手段と、この相関演算手段による相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに設定された遅延時間を表す遅延プロファイルを作成する遅延プロファイル作成手段と、前記対象信号に基づいて生成された前記送信信号の放射を制御する送信信号制御手段と、この送信信号制御手段の制御により前記送信信号の放射を停止させた状態で前記遅延プロファイル作成手段が作成した第1遅延プロファイルと、前記送信信号制御手段の制御により前記送信信号を放射させた状態で前記遅延プロファイル作成手段が作成した第2遅延プロファイルとの差分に基づいて最終遅延プロファイルを作成する最終遅延プロファイル作成手段と、前記最終遅延プロファイルが表す振幅と同じ振幅で逆位相となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記最終遅延プロファイルが表す遅延時間だけ遅延させて前記受信信号に加算する信号抑圧手段と、を備えて成る。
このように、第1遅延プロファイルと第2遅延プロファイルとの差分に基づいて最終遅延プロファイルを作成することから、干渉信号の検出精度がより高い遅延プロファイルを得ることができ、より有効に干渉信号を抑圧できる。
【0007】
前記遅延付加手段は、例えば、それぞれ前記リファレンス信号を入力とする複数の遅延器を含み、前記相関演算手段は、前記遅延器と同数の相関積分器を含み、個々の遅延器と相関積分器とが1対1に対応付けられる。これにより、それぞれ異なる設定時間だけ遅延する複数の遅延リファレンス信号の同時期での相関演算が可能となる。
【0008】
遅延プロファイル作成手段は、例えば、すべての遅延リファレンス信号の各々についての相関結果を比較し、相関結果が最も高くなる遅延リファレンス信号の振幅、位相および前記設定時間を表す遅延プロファイルを作成する。
【0009】
ある実施の態様では、前記遅延プロファイル作成手段は、前記相関演算手段がいずれかの遅延リファレンス信号について相関演算を行う毎に、当該遅延リファレンス信号についての相関結果を所定の記録領域に記録し、記録後は前記設定時間を再設定可能にするとともに、再設定された設定時間だけ遅延した遅延リファレンス信号に基づき新たに前記相関演算手段え得られた相関結果と前記記録された相関結果とを比較する。
相関結果を記録しておき、再設定された設定時間だけ遅延した遅延リファレンス信号に基づき新たに相関演算手段で得られた相関結果と記録された相関結果とを比較することにより、リピータ装置が有する遅延付加手段及び相関演算手段のハードウエア総数を超えた相関演算の結果を得ることができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、ディジタル信号を前記送信信号に変換するD/A変換器とを備えており、前記遅延プロファイル作成手段は、それぞれ前記A/D変換器および前記D/A変換器のサンプリング周波数の逆数である単位時間の整数倍となる複数の遅延時間設定信号を前記遅延時間付加手段に出力することにより前記設定時間を設定する。この場合、前記遅延プロファイル作成手段は、前記単位時間の整数倍毎に順次異ならせた複数の遅延時間設定信号を前記遅延時間付加手段に出力する。これにより、ディジタル信号処理を行うことができ、精度よく干渉信号の抑圧処理が可能となる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、干渉信号抑圧方法を提供する。
本発明の干渉信号抑圧方法は、送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置における干渉信号抑圧方法であって、前記送信信号の放射を停止させた状態で、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込み、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力し、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行い、相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに前記設定時間を表す第1遅延プロファイルを作成する段階と、前記送信信号を放射させた状態で、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込み、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力し、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行い、相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに前記設定時間を表す第2遅延プロファイルを作成する段階と、前記第1遅延プロファイルと前記第2遅延プロファイルとの差分に基づき最終遅延プロファイルを作成する段階と、前記最終遅延プロファイルが表す振幅と同じ振幅で逆位相となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記最終遅延プロファイルが表す前記設定時間だけ遅延させて前記受信信号に加算する段階とを有する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、送信信号の放射を停止した状態で作成した第1遅延プロファイルと、送信信号を放射した状態で作成した第2遅延プロファイルとの差分に基づいて最終遅延プロファイルを作成し、この最終遅延プロファイルに基づいて、受信信号と加算する抑圧信号を生成するので、干渉信号を精度良く検出し、より有効に干渉信号を抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[リピータ装置の構成]
図1は、本実施形態のリピータ装置の機能ブロック図である。図2は、リピータ装置において、遅延プロファイルを作成する機能を有する回路の詳細構成例を示す図である。
【0014】
これらの図に示されるように、本実施形態のリピータ装置は、図示しない受信アンテナで受信し、増幅されたアナログの受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器1と、このA/D変換器1の後段に設けられる加算器4と、この加算器4の後段に設けられるチップ遅延器2と、送信すべきディジタル送信信号をアナログの送信信号に変換するD/A変換器3とを基本系統として備える。アナログ変換された送信信号は、高周波増幅された後、アンテナから放射される。
【0015】
チップ遅延器2は、送信信号の一部が送信アンテナから受信アンテナへ回り込み、干渉信号となった際に、干渉信号が混入しない真の受信信号(以下、このような受信信号を「所望信号」と称する)と干渉信号との相関を減らすために、CDMA信号(CDMA:Code Division Multiple Access)信号の1チップ以上の遅延量の遅延を、受信後、所定の処理が施されたディジタルの送信対象信号(対象信号)に付加するディジタル信号処理デバイスである。
【0016】
チップ遅延器2とD/A変換器3との間から、ディジタルの送信対象信号と同じ振幅、同じ位相の複数の信号(リファレンス信号)を同時期に取得する。これらのリファレンス信号は、それぞれ他と独立して存在する遅延器7に同時期に入力される。
【0017】
各遅延器7には、CPU8から遅延時間設定信号が出力される。遅延時間設定信号は、入力信号に遅延を生じさせて出力する時間、すなわち設定時間(遅延時間)を定める信号である。各遅延器7は、この設定時間だけ、入力されたリファレンス信号に遅延を生じさせ、これを遅延リファレンス信号として出力する。遅延器7の出力は、当該遅延器7と1対1に対応して設けられる位相振幅制御器5および相関積分器6に入力される。遅延器7、相関積分器6および位相振幅制御器5の組は、複数組設けられる。
【0018】
相関積分器6は、遅延器7から出力される遅延リファレンス信号と、加算器4から他の相関積分器6と同時期に入力される受信信号との相関演算値を算出するための演算器である。本例では、2つの信号波形(関数)の類似性を求める演算を行う。相関演算値は、波形の類似度が高いほど高い数値となる。相関演算値がゼロの場合は2つの信号には相関がない、つまり波形の類似性がないことを表す結果となる。
【0019】
位相振幅制御器5は、遅延プロファイルに基づき、干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する。振幅および位相を変えるための制御信号は、CPU8から与えられる。加算器4には、CPU8により選定された一つ又は複数の位相振幅制御器5で生成された抑圧信号が入力される。
【0020】
加算器4は、干渉信号が混入された受信信号と上記の抑圧信号とを加算する。加算のタイミングは、後述する最終遅延プロファイルが表す遅延時間で決定されるタイミングとなる。
【0021】
CPU8は、所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、送信信号制御、遅延プロファイル作成、最終遅延プロファイル作成のための差分算出、干渉信号抑圧の機能を形成する。
具体的には、送信信号の放射を停止した状態で、各相関積分器6を制御して、それぞれ相関演算処理を行なわせ、相関度合いを表す相関演算値を得る。また、相関積分器6で算出された相関演算値を取得してこれらを比較し、相関度合いが最も高い、つまり相関演算値が最も大きい組で生成される遅延リファレンス信号を特定し、初期遅延プロファイルを作成する。次に、送信信号を放射させた状態で、同様の処理を行い、通常遅延プロファイルを作成する。さらに、初期遅延プロファイルが表す振幅、位相及び遅延時間と通常遅延プロファイルが表す振幅、位相及び遅延時間のそれぞれの要素の差分を算出し、最終遅延プロファイルを作成する。その後、特定した組の位相振幅制御器5に対して、位相および振幅を調整するための制御信号を出力する。
【0022】
CPU8は、さらに上記の遅延時間設定信号を出力し、遅延器7を制御する機能も有する。
【0023】
なお、位相振幅制御器5、相関積分器6および遅延器7により抑圧回路を構成し、さらに、CPU8を加えて監視制御回路9を構成している。監視制御回路9は、新たな干渉信号の発生を監視し、この新たな干渉信号に対して抑圧回路(それぞれ1つの位相振幅制御器5、相関積分器6及び遅延器7の組)を新たに割り当て、複数の干渉信号の抑圧を行なうことを可能にする。
【0024】
[干渉信号抑圧方法]
次に、上記のように構成されるリピータ装置による干渉信号抑圧方法の実施の形態例を説明する。この方法は、例えば図3および図4に示す手順で実行される。この手順は、所定のコンピュータプログラムを読み込んで実行するCPU8の制御により実現される。
【0025】
まず、遅延器7で遅延させる遅延時間の範囲である遅延時間設定範囲を設定する(S101)。遅延時間設定範囲は、約10[μs]程度である。この遅延時間設定範囲内で、各遅延器7に遅延時間が設定される。遅延時間は1ステップ毎に変えることができる。1ステップは、例えば、リピータ装置が受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、あるいは送信信号をディジタル信号からアナログ信号に変換する際のA/D変換器1、D/A変換器3のサンプリング周波数の逆数である単位時間である。
次に、初期遅延プロファイルの取得の処理であるか否かの判定を行なう(S102)。初期遅延プロファイルの取得の処理である場合、CPU8は、D/A変換器の出力を停止する(S103)。これにより送信アンテナからの送信信号の放射が停止された状態となる。他方、初期遅延プロファイルの取得の処理でない場合は、通常遅延プロファイルの取得の処理であるため、CPU8は、D/A変換器の出力の停止を解除する(S104)。これにより送信アンテナより送信信号が放射された状態となる。
【0026】
CPU8は、位相振幅制御器5、相関積分器6および遅延器7により構成された複数の抑圧回路のうち、1つを回路番号n=1として設定する(S105)。ここで「n」は、現在の処理の対象として割り当てた抑圧回路の番号であり、1ずつ増加する正の整数である。その後、最初の遅延時間(通常は遅延時間設定範囲の最小の遅延時間とする)を設定する(S106)。
【0027】
図4に移り、最初の遅延時間をn番目の抑圧回路に属する遅延器7に設定する(S107)。次に、現在の遅延時間にさらに1ステップ追加することにより、次の遅延時間を決定する(S108)。このようにステップを順次変えていくことにより、検出精度を劣化させることなく、適切な速度で、すべての相関演算値を得ることができる。
【0028】
1ステップ追加後、決定した遅延時間が予め設定された遅延時間設定範囲内にあるか否かを判定する(S109)。新たに決定した遅延時間が遅延時間設定範囲内であれば、nを1増加させ(S110)、そのnが装置内に並列に接続された全抑圧回路数以内にあるかどうかを判定する(S111)。nが全抑圧回路数の範囲内である場合は、ステップS107の処理に戻り、n番目の遅延器7に、新たな遅延時間を設定する。その後、ステップS109の判定で、遅延時間が遅延時間設定範囲外となるか、もしくは、ステップS111の判定で、nが回路数を超える値となるまで、ステップ107〜ステップS111の処理を繰り返す。
【0029】
一方、ステップS111の判定により、nが全抑圧回路数の範囲外となったことが判明した場合は、各相関積分器6に、干渉信号が混入した受信信号とそれぞれの遅延時間を設定した遅延器7からの出力信号(遅延リファレンス信号)とを入力し、n個分の相関演算を並行して同時に行う(S112)。これにより得られた複数の演算結果(相関演算値)は、その都度メモリに記録する(S113)。その後、再度、抑圧回路番号を「n=1」に戻して(S114)、ステップS107〜ステップS111の処理を繰り返す。
【0030】
このように、一旦、リピータ装置が有する全抑圧回路数分の相関演算を行ない、その演算結果をメモリに記憶することにより、再度、遅延器7に新たな遅延時間を設定し、抑圧回路を再利用することができる。結果として、全抑圧回路数以上のパターンの相関演算を行なうことができることとなる。
【0031】
ステップS109の判定の結果、遅延時間が、遅延時間設定範囲外となった場合は、遅延器7に遅延時間を設定するための処理を終了する。そして、すべての相関積分器6に、所望信号に干渉信号が混入した受信信号と、各々の遅延器7から出力される遅延リファレンス信号とを入力し、n個分の相関演算を並行して同時に行なわせ(S115)、演算結果である相関演算値から遅延プロファイルを作成し、メモリに記憶させる(S116)。
【0032】
例えば、相関積分器6で算定した演算結果うち、最も相関演算値の大きな演算結果を選定して、その演算結果に基づいて、干渉信号に最も相当する遅延リファレンス信号の振幅および位相と、その遅延リファレンス信号についての設定時間とを表す遅延プロファイルを作成する。この遅延リファレンス信号についての設定時間は、干渉信号が送信アンテナから受信アンテナに回り込むのに要する時間とほぼ一致する。
【0033】
なお、本実施形態では、最も相関演算値の大きな演算結果を選定したが、例えば平均値をとるなど、いくつかの演算結果に基づいて、遅延プロファイルを作成するものとしてもよい。
【0034】
その後、これまでの処理が初期遅延プロファイルの取得か否かの判定を行なう(S117)。この判定の結果が、初期遅延プロファイル取得である場合には、一旦、処理を終了し、通常遅延プロファイルの取得の処理に移行する。
【0035】
他方、これまでの処理が、初期遅延プロファイルの取得ではなく、通常遅延プロファイルの取得である場合には、これまでの処理で取得された通常遅延プロファイルと、既に取得され、メモリに記録されている初期遅延プロファイルとを比較し、両者の振幅、位相及び遅延時間のそれぞれの差分を算出し、最終遅延プロファイルを作成する(S118)。
【0036】
最終遅延プロファイルを作成した後は、干渉信号抑圧のための処理を行う。
すなわち、作成した最終遅延プロファイルに基づき、未使用の抑圧回路の遅延器7の1つに遅延時間を設定する。遅延時間を設定した後、対になる位相振幅制御器5を最終遅延プロファイルに基づき起動し、その動作環境下での抑圧回路として動作させる。
【0037】
これにより、その抑圧回路に属する位相振幅制御器5から、干渉信号と同じ振幅で逆位相の抑圧信号が、設定された遅延時間で遅延した状態で、加算器4に入力される。加算器4は、受信信号に上記の抑圧信号を加算することにより、干渉信号を抑圧する。
【0038】
以上が一連の処理の流れであるが、その後、さらに、干渉信号がある場合には、処理を終了せずに、ステップS102に戻って干渉信号の監視制御を続ける。
【0039】
このように、本実施形態では、リピータ装置の送信信号の放射を停止した状態で作成した初期遅延プロファイルと、リピータ装置の送信信号を放射した状態で作成した通常遅延プロファイルとの差分をとり、この差分に基づいて最終遅延プロファイルを作成することから、干渉信号を精度良く検出し、より有効に干渉信号を抑圧することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、位相振幅制御器5における抑圧信号の振幅、位相の制御をCPU8で行う場合の例を説明したが、この制御を対応する相関積分器6からの相関結果に基づいて自律的に行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態のリピータ装置の機能ブロック図。
【図2】遅延プロファイルを作成する機能を有する部分の構成例を示す図。
【図3】本実施形態による干渉信号抑圧方法の手順説明図。
【図4】本実施形態による干渉信号抑圧方法の手順説明図(図3の続き)。
【符号の説明】
【0042】
1 A/D変換器
2 チップ遅延器
3 D/A変換器
4 加算器
5 位相振幅制御器
6 相関積分器
7 遅延器
8 CPU
9 監視制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置であって、
送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込む取込手段と、
この取込手段で取り込んだリファレンス信号にそれぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力する遅延付加手段と、
各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行う相関演算手段と、
この相関演算手段による相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに設定された遅延時間を表す遅延プロファイルを作成する遅延プロファイル作成手段と、
前記対象信号に基づいて生成された前記送信信号の放射を制御する送信信号制御手段と、
この送信信号制御手段の制御により前記送信信号の放射を停止させた状態で前記遅延プロファイル作成手段が作成した第1遅延プロファイルと、前記送信信号制御手段の制御により前記送信信号を放射させた状態で前記遅延プロファイル作成手段が作成した第2遅延プロファイルとの差分に基づいて最終遅延プロファイルを作成する最終遅延プロファイル作成手段と、
前記最終遅延プロファイルが表す振幅と同じ振幅で逆位相となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記最終遅延プロファイルが表す遅延時間だけ遅延させて前記受信信号に加算する信号抑圧手段と、
を備えて成るリピータ装置。
【請求項2】
前記遅延付加手段は、それぞれ前記リファレンス信号を入力とする複数の遅延器を含み、
前記相関演算手段は、前記遅延器と同数の相関積分器を含み、
個々の遅延器と相関積分器とが1対1に対応付けられている、
請求項1記載のリピータ装置。
【請求項3】
前記遅延プロファイル作成手段は、すべての遅延リファレンス信号の各々について算定された相関結果を比較し、最も高い相関結果が得られた遅延リファレンス信号の振幅、位相および前記設定時間を表す遅延プロファイルを作成する、
請求項1又は2記載のリピータ装置。
【請求項4】
前記遅延プロファイル作成手段は、前記相関演算手段がいずれかの遅延リファレンス信号についての相関演算を行う毎に、当該遅延リファレンス信号についての前記相関結果を所定の記録領域に記録し、記録後は前記設定時間を再設定可能にするとともに、再設定された設定時間だけ遅延した遅延リファレンス信号に基づき新たに前記相関演算手段で演算されて相関結果と前記記録された相関結果とを比較する、
請求項3記載のリピータ装置。
【請求項5】
前記受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル信号を前記送信信号に変換するD/A変換器とを備えており、
前記遅延プロファイル作成手段は、それぞれ前記A/D変換器および前記D/A変換器のサンプリング周波数の逆数である単位時間の整数倍となる複数の遅延時間設定信号を前記遅延時間付加手段に出力することにより前記設定時間を設定する、
請求項4記載のリピータ装置。
【請求項6】
送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置における干渉信号抑圧方法であって、
前記送信信号の放射を停止させた状態で、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込み、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力し、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行い、相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに前記設定時間を表す第1遅延プロファイルを作成する段階と、
前記送信信号を放射させた状態で、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅および位相のリファレンス信号を取り込み、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力し、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行い、相関結果の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に相当する信号として特定し、特定した遅延リファレンス信号の振幅、位相並びに前記設定時間を表す第2遅延プロファイルを作成する段階と、
前記第1遅延プロファイルと前記第2遅延プロファイルとの差分に基づき最終遅延プロファイルを作成する段階と、
前記最終遅延プロファイルが表す振幅と同じ振幅で逆位相となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記最終遅延プロファイルが表す前記設定時間だけ遅延させて前記受信信号に加算する段階とを有する、
リピータ装置による干渉信号抑圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−135933(P2010−135933A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307908(P2008−307908)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】