説明

リファマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤または免疫調節剤

【課題】 本願は、炎症性疾患、例えば動脈硬化または経皮的血管形成術後の再狭窄等に対する予防及び治療のための抗炎症剤または免疫調節剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 上記課題は、炎症性細胞の増殖または炎症性サイトカイン産生を抑制するリファマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤または免疫調節剤とすることにより、解決される。このような抗炎症剤または免疫調節剤は、炎症性疾患の予防または治療に特に有効に利用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リファイマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤および免疫調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、傷害または感染に対する身体の正常な応答である。しかし、炎症性疾患では、免疫系細胞の活性異常が生じることにより、免疫系細胞の異常増殖やそれらから分泌される炎症性サイトカインの過剰産生が生じ、病的状態を引き起こしている。炎症性サイトカインとは、リンパ球やマクロファージなどから産生され、細菌やウイルス感染、腫瘍、組織損傷に伴う炎症反応に関与する物質である。例えばインターロイキン(IL)−1α、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8、腫瘍壊死因子(TNF−α)、単球走化活性因子(MCP−1)、インターフェロン(IFN)−γ等がある。
【0003】
炎症性サイトカインの過剰産生により引き起こされる炎症性疾患には、全身性炎症反応症候群、慢性関節リウマチなどの膠原病、アレルギー疾患、動脈硬化、経皮的血管形成術後の再狭窄、インスリン抵抗性、糖尿病などの代謝性疾患や、多発性硬化症、移植片対宿主症、ウイルス肝炎、HIV感染などの感染症等がある。
【0004】
従って、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制することは、これら病態の予防、治療、改善、再発防止に非常に有益となり得る。
【0005】
例えば、シクロスポリンやFK506(タクロリムス)は炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られており(非特許文献1、2参照)、皮膚疾患あるいは関節リウマチなどに対して有効とされている。
【0006】
【非特許文献1】Kobayashi T., et al. J Vet Med Sci. 2007 69(9) 887−892
【非特許文献2】Anderson J., et al. Immunology 1992 75(1) 136−142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明の課題は、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制することにより、上記病態の予防、治療、改善、再発防止が可能な手法を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗菌作用を有する化合物として知られているリファマイシン誘導体により、免疫系細胞の活性を調節することが可能であって、その結果炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、リファマイシン誘導体を有効成分とし、免疫系細胞の活性を調節することを特徴とする抗炎症剤または免疫調節剤に関する。
【0010】
前記リファマイシン誘導体は、下記式(I):
【0011】
【化10】

で表される化合物またはその生理学的に許容される塩であるのが好ましい。このうち、リファマイシン誘導体は、リファラジル{Rifalazil、3'-Hydroxy−5’−(4−isobutyl−1−piperazinyl)benzoxazinorifamycin、KRM1648}またはそれらの生理学的に許容される塩であるのが好ましい。なお、リファラジルの化学式は、後述の実施形態の項目で説明する。
【0012】
また、前記免疫系細胞が好中球、Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージからなる群より選択される抗炎症剤または免疫調節剤であるのが好ましい。
【0013】
免疫系細胞の活性を調節は、前記免疫系細胞の増殖を抑制することにより行いうる。
【0014】
また、免疫系細胞の活性を調節は、前記免疫系細胞のサイトカインの産生を調節することにより行いうる。このうち、前記サイトカインが、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−13、IL−15,IL−16、IL−17 、IL−18 、GM−CSF、TNF−α、TGF−β、EGF、FGF、PDGF、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、MCP−1、およびRANTESから選ばれるのが好ましい。
【0015】
更には、炎症性サイトカインの産生を抑制する抗炎症剤または免疫調節剤であるのが好ましい。このうち、前記炎症性サイトカインがIL−1α、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−α、MCP−1、IFN−γから選ばれるものである抗炎症剤または免疫抑制剤であるのが好ましい。
【0016】
また、本発明の抗炎症剤または免疫調節剤は、感染症、炎症性疾患の予防または治療のために使用するものであるのが好ましい。
【0017】
また、前記炎症性疾患が、血管性疾患、炎症性腸疾患、炎症性神経系疾患、炎症性肺疾患、炎症性眼疾患、慢性炎症性歯肉疾患、慢性炎症性関節疾患、関節リウマチ、皮膚疾患、骨疾患、心疾患、腎不全、慢性脱髄疾患、内皮細胞疾患、アレルギー症候群、敗血症/敗血症ショック、癌、肝炎、髄膜炎、多発性硬化症、皮膚炎症、移植拒絶、自己免疫疾患、肥満症、風邪、鎌状赤血球貧血、糖尿病、脳卒中、及び悪性新生物化学療法または放射線療法後の炎症であることを特徴とする抗炎症剤または免疫調節剤であるのが好ましい。
【0018】
また、前記血管性疾患が、動脈硬化症、動脈瘤、仮性瘤、動脈解離症、炎症性動脈疾患、非炎症性動脈疾患、透析シャント、および経皮的血管形成術後の血管再狭窄または再閉塞であることを特徴とする抗炎症剤または免疫調節剤であるのが好ましい。
【0019】
また、本発明にかかる抗炎症剤または免疫調節剤は、経口投与、あるいは、筋肉内投与、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、粘膜投与、吸入投与、およびインプラントを利用した投与からなる群より選択される非経口投与により血中への徐放が実施されるのが好ましい。このうち、インプラントが、ステント、ステントグラフト、人工血管、カテーテル、バルーンカテーテル、人工心弁、ペースメーカーのリード線、骨ネジ、人工骨、人工気管、または縫合糸であるのが好ましい。
【0020】
本発明の別の態様として、前記抗炎症剤または免疫調節剤を含むインプラントがある。
【0021】
また、本発明の別の態様として、抗炎症剤または免疫調節剤製造のための、前記リファマイシン誘導体の使用がある。
【0022】
また、本発明の別の態様として、前記リファマイシン誘導体を使用する炎症の抑制方法がある。
【0023】
また、本発明の別の態様として、前記リファマイシン誘導体を使用する免疫の調節方法がある。
【0024】
また、本発明の別の態様として、前記リファマイシン誘導体を使用する炎症性疾患の予防または治療方法がある。
【0025】
また、本発明のその他の態様およびこれらの効果は、以下に説明する実施形態および図面によって明らかにされる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるリファマイシン誘導体含む抗炎症剤または免疫調節剤は、免疫系細胞の活性を調節することが可能である。特に、リファマイシン誘導体が免疫系細胞の増殖や、炎症性サイトカインの産生を抑制する抗炎症剤または免疫調節剤は、炎症性疾患の予防または治療に特に有効に利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態としてのリファマイシン誘導体を利用した抗炎症剤または免疫調節剤、およびそれらを利用したインプラントについて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本願発明において、「リファマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤」とは、リファマイシン誘導体を有効成分とする炎症性疾患治療用組成物または製剤(医薬品)を含む概念である。同様に、「リファマイシン誘導体を有効成分とする免疫調節剤」とは、リファマイシン誘導体を有効成分とする免疫調節用組成物または製剤(医薬品)を含む概念である。
【0028】
1.リファマイシン誘導体
本願発明で用いられるリファマイシン誘導体としては、以下の式(I):
【0029】
【化11】

(式(I)中、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、Rはアセチル基または水素原子を示し、Rはメチル基またはヒドロキシメチル基を示し、R、Rは同一または相異なり、水酸基、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、下記式(II)で表される基、または、下記式(IV)で表される基を示す)で表される化合物またはその生理学的に許容される塩であるのが好ましい。
【0030】
【化12】

【0031】
【化13】

上記式(II)中、R、Rは同一または相異なり、炭素数1から3のアルキル基、または式(III)で表される基を示す。
【0032】
【化14】

(式(III)中、jは1から3の整数を示す)
上記式(IV)中、R、Rは同一または相異なり、水素原子または炭素数1から3のアルキル基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、下記式(V)で表される基、または、下記式(VI)で表される基を示す。
【0033】
【化15】

【0034】
【化16】

上記式(V)中、R、R10は同一または相異なり、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、またはRとR10が結合して下記式で表される基を示す。
−(CH
(式中、kは1から4の整数を示す)
上記式(VI)中、mは0または1を示し、R11は水素原子、炭素数1から7のアルキル基、または下記式で表される基を示す。
−(CH
(式中、nは1から4の整数を示し、Xは炭素数1から3のアルコキシ基、ビニル基、エチニル基、または下記式(VII)で表される基を示す。)
【0035】
【化17】

【0036】
上記式(I)において、R、R、R、R、R、R、RおよびR10の炭素数1から3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基およびシクロプロピル基が挙げることができ、R11の炭素数1から6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロブチルメチル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、シクロヘキシル基、3−メチルシクロペンチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基などの鎖状または環状アルキル基を挙げることができる。
【0037】
の炭素数1から3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基およびシクロプロポキシ基を挙げることができる。
【0038】
好ましくは、リファマイシン誘導体は、前記式(I)のXが酸素原子であり、Rがアセチル基または水素原子を示し、Rはメチル基またはヒドロキシメチル基を示し、R、Rは同一または相異なり、水酸基、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、または式(VIII):
【0039】
【化18】

(式中、R12は水素原子、または炭素数1から7のアルキル基を示す)で表されるリファマイシン誘導体またはその生理学的に許容される塩である。
【0040】
12の炭素数1から7のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、シクロブチルメチル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、シクロヘキシキル基、3−メチルシクロペンチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基などの鎖状または環状のアルキル基を挙げることができる。
【0041】
好ましくは、リファマイシン誘導体は、前記式(I)のXが酸素原子であり、Rがアセチル基であり、Rがメチル基であり、Rが水酸基であり、Rが式(IX):
【0042】
【化19】

で表されるリファラジル{Rifalazil、3'-Hydroxy−5’−(4−isobutyl−1−piperazinyl)benzoxazinorifamycin、KRM1648}またはその生理学的に許容される塩である。ただし、本発明で用いられるリファマイシン誘導体は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0043】
2.リファマイシン誘導体の作用
従来、リファマイシン誘導体は肺炎クラミジアやヘリコバクター・ピロリに対して極めて強い抗菌活性を有する抗生物質であることが知られており、使用の際は、極めて低濃度で用いられていた。本願発明は、リファマイシン誘導体が、従来と比較して高濃度で用いられた場合、免疫系細胞の活性を調節する作用を示すという、抗菌活性とは関連のない意外な効果を初めて見出したことによりなされたものである。
【0044】
免疫系細胞の活性の調節は、例えば、免疫系細胞の増殖を抑制することにより行われる。このうち、免疫系細胞としては、好中球、Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージなどが挙げられる。
【0045】
また、免疫系細胞の活性の調節は、免疫系細胞のサイトカインの産生を調節することにより行われる。ここで、サイトカインの産生の調節とは、炎症性サイトカインの産生を抑制すること、および、抗炎症性サイトカインの産生を促進することを意味する。
【0046】
サイトカインとしては、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−13、IL−15,IL−16、IL−17、IL−18、GM−CSF、TNF−α、TGF−β、EGF、FGF、PDGF、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、MCP−1、RANTESなどが挙げられる。また、炎症性サイトカインとしては、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−α、MCP−1、IFN−γなどが挙げられる。
【0047】
近年、種々の疾患において炎症性変化の重要性が指摘されている。例えば、動脈硬化または経皮的血管形成術(PTCA)後の血管再狭窄の発生早期において、病変部位における免疫系細胞(好中球、Tリンパ球、単球/マクロファージ)の浸潤、炎症性サイトカインの発現増加が認められている。さらに、前記疾患は肺炎クラミジアやヘリコバクター・ピロリの感染との関連性が指摘されている(John Danesh, et al. Lancet 1997 350 430−436)。従って、抗菌作用、抗炎症作用を有するリファマイシン誘導体は、動脈硬化またはPTCA後の再狭窄の予防または治療や、炎症性疾患の予防または治療に有効に利用することができると考えられる。特に、微生物感染を伴う疾患には好適である。
【0048】
3.炎症性疾患の例
本発明においては、抗炎症剤または免疫調節剤は、感染症、炎症性疾患の予防または治療のために使用することができる。
【0049】
前記炎症性疾患としては、血管性疾患、炎症性腸疾患、炎症性神経系疾患、炎症性肺疾患、炎症性眼疾患、慢性炎症性歯肉疾患、慢性炎症性関節疾患、関節リウマチ、皮膚疾患、骨疾患、心疾患、腎不全、慢性脱髄疾患、内皮細胞疾患、アレルギー症候群、敗血症/敗血症ショック、癌、肝炎、髄膜炎、多発性硬化症、皮膚炎症、移植拒絶、自己免疫疾患、肥満症、風邪、鎌状赤血球貧血、糖尿病、脳卒中、及び悪性新生物化学療法または放射線療法後の炎症が挙げられる。
【0050】
また、前記血管性疾患としては、動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症、中膜石灰化硬化症)、細小動脈硬化症、動脈瘤、仮性瘤、動脈解離症、炎症性動脈疾患、非炎症性動脈疾患、または透析シャントを含む自然発生的血管性疾患、経皮的血管形成術後の血管再狭窄または再閉塞を含む非自然発生的血管性疾患が挙げられる。さらに、血管形成術としては、例えば、バルーン拡張術、ステント留置術、アテレクトミー、レーザー血管形成術が挙げられる。
【0051】
4.抗炎症剤または免疫調節剤
(4−1.他の薬剤を含む実施形態)
例えば、炎症性疾患の予防または治療を目的とした製剤を製造する際には、他の薬剤(抗凝固薬、抗血小板物質、抗痙薬、抗菌薬、抗腫瘍薬、抗微生物剤、抗炎症剤、抗物質代謝剤、免疫抑制剤等)と組み合わせてもよい。
【0052】
本実施態様においても、リファマイシン誘導体は、免疫系細胞の活性を調節する作用を示し、免疫系細胞の増殖を抑制、あるいは炎症性サイトカインの産生を抑制する。
【0053】
(4−2.製剤の実施形態)
本発明の抗炎症剤または免疫調節剤は、所望により医薬上許容される担体または賦形剤と合して、経口投与または非経口投与用の製剤とすることができ、所望の成分を混合、溶解するような公知の製剤技術に従って、自体公知の剤型に調製できる。上記剤型のうち、経口的に投与される剤型としては、例えば、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤および液剤等が挙げられる。剤型が粉末、顆粒、錠剤等として処方される場合、固形組成物を処方するのに好適な任意の製薬担体、例えば、賦形剤(澱粉、ブドウ糖、果糖、白糖等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、崩壊剤(澱粉、結晶セルロース等)、結合剤(澱粉、アラビアゴム等)等を用いることができ、コーティング剤(ゼラチン、白糖等)でコーティングされていてもよい。また、剤型がシロップや液剤として処方される場合、例えば、安定化剤(エデト酸ナトリウム等)、懸濁化剤(アラビアゴム、カルメロース等)、矯味剤(単シロップ、ブドウ糖等)、芳香剤等を適宜に選択して使用することができる。非経口的に処方される剤型としては、注射剤、坐剤等が挙げられる。注射剤として処方される場合、例えば、溶剤(注射用蒸留水等)、安定化剤(エデト酸ナトリウム等)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、マンニトール等)、pH調整剤(塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウム等)を用いることができ、坐剤として処方される場合、例えば、坐剤基剤(カカオ脂、マクロゴール等)等を適宜に選択して使用することができる。
【0054】
局所投与の剤型としては、例えば、点眼剤、眼軟膏、点鼻剤等が挙げられる。点眼剤、眼軟膏または点鼻剤として処方される場合、例えば、溶剤(生理食塩水、精製水等)、安定化剤(エデト酸ナトリウム、クエン酸等)、乳化剤(ポリビニルピロリドン等)および乳化基剤(ヒマシ油等)、界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、保存剤(塩化ベンザルコニウム、パラベン類、クロロブタノール等)、緩衝剤(ホウ酸、ホウ砂、酢酸ナトリウム、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤等)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリン、マンニトール等)、pH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム等)、軟膏基剤(ワセリン、ラノリン等)、粘性剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)等公知の化合物を適宜に選択して使用することができる。
【0055】
(4−3.血中に徐放させる実施形態)
リファマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤または免疫調節剤を予防及び治療の目的で血中に徐放させる場合、投与経路は特に限定されず、経口投与若しくは非経口投与(例えば、筋肉内投与、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、鼻腔などへの粘膜投与または吸入投与、インプラントを利用した投与)のいずれでもよい。インプラントとしては、例えば、ステント、ステントグラフト、カテーテル(バルーンカテーテルも含む)が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下の実施例では、ヒト単球系株化細胞であるTHP−1を用いて、リファマイシン誘導体が炎症性サイトカインの産生を抑制する、本願発明の一実施形態について説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)THP−1の培養
THP−1(DS−バイオファーマバイオメディカル株式会社)を、RPMI1640培地{10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、50IU/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン含有}を用いて、2〜9×10cells/mlを維持しながら浮遊細胞用フラスコにて37℃の5%CO条件下で培養した。
【0058】
(実施例2)THP−1の増殖抑制試験
前記方法で培養したTHP−1を血清不含のRPMI1640培地で48時間培養した。次に、THP−1を96穴のマイクロプレートに播種し、種々の濃度(10、100、1,000nM)のリファラジルを含むRPMI1640培地(1%FBS)で72時間培養した。その後、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所)を用いて生細胞数を比較した。
【0059】
図1は、薬剤の各濃度と吸光度の関係を示すグラフである。各値は平均値±標準誤差を示す。グラフ中の、**は統計学的に有意であることを示す。統計処理は、例示としてダネット検定を行った。
【0060】
図1に示されるように、リファラジルは実施した全ての濃度において統計学的に有意にTHP−1の増殖を抑制した。
【0061】
(実施例3)THP−1のサイトカイン産生抑制試験
実施例1に記載の方法で培養したTHP−1を96穴のマイクロプレートに播種し、5ng/mlのPhorbol 12−Myristate 13-acetateを含むRPMI1640培地(10%FBS)で48時間培養し、マクロファージ様に分化させた。次に、上清を除去し、リファラジルを含むRPMI1640培地(10%FBS)で4時間培養した後、終濃度が25ng/mlとなるようにリポポリサッカライドを添加し20時間培養した後、培養上清を回収した。回収した上清は−20℃にて濃度測定まで凍結保存した。培養上清中のTNF−αの測定は、市販のELISAキット(PIERCE社製)を用いた。
【0062】
図2および後述する図3は、薬剤の各濃度と培養上清中のTNF−α濃度との関係を示すグラフである。各値は平均値±標準誤差を示す。グラフ中の、**は統計学的に有意であることを示す。統計処理は、例示としてダネット検定を行った。
【0063】
図2に示されるように、リファラジルは100nM及び1,000nMにおいて統計学的に優位にTNF−αの産生を抑制した。
【0064】
(比較例1)
比較例1では、被験物質をリファラジルに替えてリファンピシン(Rifampicin)とした他は前記実施例3と同様の方法でサイトカイン産生抑制試験を実施した。
【0065】
図3に示されるように、リファンピシンは100nM及び1,000nMにおいて統計学的に優位にTNF−αの産生を抑制しなかった。
【0066】
以上より、リファラジルはTHP−1の増殖、及びTNF−α産生を抑制することが示された。したがって、リファラジルは抗炎症剤または免疫調節剤の有効成分となり得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、リファラジルの各濃度とTHP−1の増殖抑制作用との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、リファラジルの各濃度と培養上清中のTNF−α濃度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、リファンピシンの各濃度と培養上清中のTNF−α濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リファマイシン誘導体を有効成分とし、免疫系細胞の活性を調節することを特徴とする抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項2】
前記リファマイシン誘導体が、下記式(I)
【化1】

(式(I)中、Xは酸素原子または硫黄原子を示し、Rはアセチル基または水素原子を示し、Rはメチル基またはヒドロキシメチル基を示し、R、Rは同一または相異なり、水酸基、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、下記(II)式で表される基、または、下記式(IV)で表される基を示す)で表される化合物またはその生理学的に許容される塩であることを特徴とする請求項1に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【化2】

【化3】

上記式(II)中、R、Rは同一または相異なり、炭素数1から3のアルキル基、または式(III)で表される基を示す。
【化4】

(式(III)中、jは1から3の整数を示す)
上記式(IV)中、R、Rは同一または相異なり、水素原子または炭素数1から3のアルキル基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、下記式(V)で表される基、または、下記式(VI)で表される基を示す。
【化5】

【化6】

上記式(V)中、R、R10は同一または相異なり、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、またはRとR10が結合して下記式で表される基を示す。
−(CH
(式中、kは1から4の整数を示す)
上記式(VI)中、mは0または1を示し、R11は水素原子、炭素数1から7のアルキル基、または下記式で表される基を示す。
−(CH
(式中、nは1から4の整数を示し、Xは炭素数1から3のアルコキシ基、ビニル基、エチニル基、または下記式(VII)で表される基を示す。)
【化7】

【請求項3】
前記リファマイシン誘導体は、前記式(I)のXが酸素原子であり、Rがアセチル基または水素原子を示し、Rはメチル基またはヒドロキシメチル基を示し、R、Rは同一または相異なり、水酸基、水素原子、炭素数1から3のアルキル基、または式(VIII):
【化8】

(式中、R12は水素原子、または炭素数1から7のアルキル基を示す)で表されるリファマイシン誘導体またはその生理学的に許容される塩であることを特徴とする請求項2に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項4】
前記リファマイシン誘導体は、前記式(I)のXが酸素原子であり、Rがアセチル基であり、Rがメチル基であり、Rが水酸基であり、Rが式(IX):
【化9】

で表されるリファラジル{Rifalazil、3'-Hydroxy−5’−(4−isobutyl−1−piperazinyl)benzoxazinorifamycin、KRM1648}またはその生理学的に許容される塩であることを特徴とする請求項3に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項5】
前記免疫系細胞が好中球、Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージからなる群より選択される請求項1から4のいずれかに記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項6】
前記免疫系細胞の増殖を抑制することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項7】
前記免疫系細胞のサイトカインの産生を調節することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項8】
前記サイトカインが、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−13、IL−15,IL−16、IL−17 、IL−18 、GM−CSF、TNF−α、TGF−β、EGF、FGF、PDGF、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、MCP−1、およびRANTESから選ばれることを特徴とする請求項7に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項9】
前記免疫系細胞の炎症性サイトカインの産生を抑制することを特徴とする請求項7または8に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項10】
前記炎症性サイトカインがIL−1α、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8、TNF−α、MCP−1、IFN−γから選ばれることを特徴とする請求項9に記載の抗炎症剤または免疫抑制剤。
【請求項11】
感染症、炎症性疾患の治療に有用なことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項12】
前記炎症性疾患が血管性疾患、炎症性腸疾患、炎症性神経系疾患、炎症性肺疾患、炎症性眼疾患、慢性炎症性歯肉疾患、慢性炎症性関節疾患、関節リウマチ、皮膚疾患、骨疾患、心疾患、腎不全、慢性脱髄疾患、内皮細胞疾患、アレルギー症候群、敗血症/敗血症ショック、癌、肝炎、髄膜炎、多発性硬化症、皮膚炎症、移植拒絶、自己免疫疾患、肥満症、風邪、鎌状赤血球貧血、糖尿病、脳卒中、及び悪性新生物化学療法または放射線療法後の炎症から選択される請求項11に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項13】
前記血管性疾患が動脈硬化症、動脈瘤、仮性瘤、動脈解離症、炎症性動脈疾患、非炎症性動脈疾患、透析シャント、および経皮的血管形成術後の血管再狭窄または再閉塞である請求項12に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項14】
経口投与、あるいは、筋肉内投与、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、経皮投与、粘膜投与、吸入投与、およびインプラントを利用した投与からなる群より選択される非経口投与により血中への徐放が実施される請求項1から13のいずれかに記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項15】
前記インプラントが、ステント、ステントグラフト、人工血管、カテーテル、バルーンカテーテル、人工心弁、ペースメーカーのリード線、骨ネジ、人工骨、人工気管、または縫合糸であることを特徴とする請求項14に記載の抗炎症剤または免疫調節剤。
【請求項16】
前記リファマイシン誘導体を有効成分とする抗炎症剤または免疫調節剤を含むインプラント。
【請求項17】
抗炎症剤または免疫調節剤製造のための、請求項1から4のいずれかに記載の前記リファマイシン誘導体の使用。
【請求項18】
前記リファマイシン誘導体を使用する炎症の抑制方法。
【請求項19】
前記リファマイシン誘導体を使用する免疫の調節方法。
【請求項20】
前記リファマイシン誘導体を使用する炎症性疾患の予防または治療方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120572(P2009−120572A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298433(P2007−298433)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】