説明

リング状品の焼入れ方法および装置

【課題】 焼入れ処理によって生じる熱変形を焼入れ処理中に矯正することができ、その熱変形矯正は、コストおよび手間をかけずに行え、かつ種々のサイズのリング状品に対して行え、加えて焼入れ温度まで効率良く加熱することができ、加熱時間が短く、設備を小型化できるリング状品の焼入れ方法を提供する。
【解決手段】 このリング状品の焼入れ方法は、予熱過程S1と、均熱過程S2と、一次冷却過程S3と、二次冷却過程S4とを含む。予熱過程S1では、リング状品Wを焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する。均熱過程S2では、リング状品Wを焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する。一次冷却過程S3では、リング状品Wをマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する。二次冷却過程S4では、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度までリング状品Wを冷却する。その際、リング状品Wの外周面の一方側に一対の受けロール3を転動自在に接触させ、反対側から回転する加圧ロール4を押付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受軌道輪等のリング状品を熱変形の矯正を行いながら焼入れするリング状品の焼入れ方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の軌道輪等のようなリング状品を焼入れすると、熱変形による真円度の狂いが生じる。そのため、一般には、焼入れ後、リング状品の外周を成形ロールで受け内周にマンドレルを押し当てて変形を矯正することが行われている。
【0003】
しかし、このように焼入れと別工程で変形矯正を行うと、リング状品の製造ラインの工程数が増えることから、図8に示すように、焼入れ時にリング状品Wを円筒状の拘束型40に入れて冷却することにより、変形を矯正することも行われている。詳しくは、リング状品Wを焼入れ温度(850℃程度)まで加熱した後、マルテンサイト変態点(230℃)付近の温度までは型拘束しない状態で冷却し、同温度まで低下した時点でリング状品Wを拘束型40に入れ、その状態のまま一定温度(110℃程度)まで冷却し、同温度まで冷却したなら拘束型40からリング状品Wを取り出し、その後は常温まで自然冷却させるというものである。
【0004】
また、拘束型を用いる変形矯正方法の一種として、軸方向に長い縦型円筒状の拘束型を用い、この縦型円筒状の拘束型に対して上側から順に、焼入れの冷却過程にあるリング状品を押し込み、それによって型内のリング状品が下側から順に押し出されるようにした方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平09−176740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記拘束型を用いる変形矯正の方法は、製作に高いコストがかかる拘束型をリング状品の寸法ごとに用意する必要がある。また、拘束型にリング状品を嵌め込む作業、および焼入れ終了後に拘束型からリング状品を取り出す作業に手間がかかる。特許文献1に開示の変形矯正方法の場合、拘束型からリング状品を取り出す作業が不要であるが、この方法は、拘束型とリング状品との摩擦力によってリング状品が型内に保持されるようになっているため、寸法の大きなリング状品の場合は自重で拘束型から落下してしまう可能性があり、比較的小さなリング状品にしか適用できない。そこで、コストおよび手間をかけることなく、種々のサイズのリング状品に対して熱変形の矯正を行える技術の開発が待望されている。
また、上記技術による焼入れ方法および装置は、焼入れ温度まで効率良く加熱することができ、加熱時間が短く、設備を小型化できるものであることが望まれる。
【0006】
この発明の目的は、焼入れ処理によって生じる熱変形を焼入れ処理中に矯正することができ、その熱変形矯正は、コストおよび手間をかけずに行え、かつ種々のサイズのリング状品に対して行え、加えて焼入れ温度まで効率良く加熱することができ、加熱時間が短く、設備を小型化できるリング状品の焼入れ方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のリング状品の焼入れ方法は、リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱過程と、予熱温度まで加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱過程と、焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却過程と、変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却過程とを含むことを特徴とする。前記リング状品は、例えば軸受の軌道輪とすることができる。
【0008】
このリング状品の焼入れ方法によると、二次冷却過程において、一対の受けロールをリング状品の外周面に転動自在に接触させた状態で、その反対側から回転する加圧ロールをリング状品の外周面に押付けつつ、リング状品を冷却する。リング状品が、一対の受けロールと1個の加圧ロールとで両側から所定荷重で挟み付けられながら、両ロール間で回転させられることにより、リング状品の変形が矯正され真円度が高まる。受けロールと加圧ロールとの間隔を変更することで、各種サイズのリング状品に対応させられる。この変形矯正は、拘束型を用いないため、型代が不要であり、かつリング状品を型に嵌める手間や型から外す手間がかからない。二次冷却過程中に変形矯正が行われるので、変形矯正のための工程を別に設ける必要がない。
また、誘導加熱により加熱する予熱過程と、連続加熱炉で加熱する均熱過程とでリング状品を焼入れ温度まで加熱するため、誘導加熱によりリング状品の深部までエネルギー効率良く短時間で加熱し、連続加熱炉によりリング状品の全体の均熱化が図れる。連続加熱炉を用いるが、連続加熱炉は焼入れ温度近くまで予熱されたリング状品を焼入れ温度まで昇温させるだけであるため、室温から加熱するものと異なり、加熱時間が大幅に短縮されて、炉内でリング状品を移動させる経路が短くて済み、設備を小型化できる。
【0009】
この発明において、一次冷却過程でリング状品を冷却する油槽と、二次冷却過程でリング状品を冷却する油槽とを別に設けると良い。
一次冷却過程の冷却用油槽と二次冷却過程の冷却用油槽とが別であると、一次冷却過程でのリング状品の冷却、一対の受けロールと加圧ロール間へのリング状品の投入、二次冷却過程でのリング状品の冷却を一連の流れに沿って行うことができる。また、焼入れ処理ラインの構成を簡易なものとすることができる。
【0010】
前記リング状品の外周面に前記加圧ロールを押付けている時間は、40秒ないし90秒であるのが好ましい。また、前記リング状品の外周面に前記加圧ロールを押付け始めるときのリング状品の温度は、マルテンサイト変換点温度よりも20℃ないし50℃高い温度とするのが良い。
各種試験を行った結果、リング状品の外周面に加圧ロールを押付けて変形矯正を行う時間は40秒ないし90秒が良いことが判った。上記変形矯正時間を確保して焼入れの冷却過程中に変形矯正を完了するには、マルテンサイト変換点温度よりも20℃ないし50℃高い温度から加圧ロールを押付け始めれば良い。
【0011】
この発明のリング状品の焼入れ装置は、リング状品を焼入れ温度まで加熱する加熱部と、この加熱部により焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却部と、この一次冷却部により変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却部とを含むことを特徴とする。
【0012】
このリング状品の焼入れ装置によると、二次冷却部において、一対の受けロールをリング状品の外周面に転動自在に接触させた状態で、その反対側から回転する加圧ロールをリング状品の外周面に押付けつつ、リング状品を冷却する。リング状品が、一対の受けロールと1個の加圧ロールとで両側から所定荷重で挟み付けられながら、両ロール間で回転させられることにより、リング状品の変形が矯正され真円度が高まる。受けロールと加圧ロールとの間隔を変更することで、各種サイズのリング状品に対応させられる。この変形矯正は、拘束型を用いないため、型代が不要であり、かつリング状品を型に嵌める手間や型から外す手間がかからない。二次冷却部で変形矯正が行われるので、変形矯正のための工程を別に設ける必要がない。
また、誘導加熱により加熱する予熱部と、連続加熱炉で加熱する均熱部とにより焼入れ温度まで加熱するため、誘導加熱によりリング状品の深部までエネルギー効率良く短時間で加熱することが可能であり、かつ連続加熱炉によりリング状品Wの全体の均熱化が図れる。連続加熱炉を用いるが、連続加熱炉は焼入れ温度近くまで予熱されたリング状品Wを焼入れ温度まで昇温させるだけであるため、室温から加熱するものと異なり、加熱時間が大幅に短縮される。また、炉内でリング状品Wを移動させる経路が短くて済み、設備を小型化できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のリング状品の焼入れ方法は、リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱過程と、予熱温度まで加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱過程と、焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却過程と、変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却過程とを含むため、焼入れ処理によって生じる熱変形を焼入れ処理中に矯正することができる。その熱変形矯正は、コストおよび手間をかけずに行え、かつ種々のサイズのリング状品に対して行える。さらに、予熱過程および均熱過程の2段階でリング状品を焼入れ温度まで加熱するため、加熱が効率良く行われ、加熱時間が短くなり、設備を小型化できる。
【0014】
この発明のリング状品の焼入れ装置は、リング状品を焼入れ温度まで加熱する加熱部と、この加熱部により焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却部と、この一次冷却部により変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却部とを含むため、焼入れ処理によって生じる熱変形を焼入れ処理中に矯正することができる。その熱変形矯正は、コストおよび手間をかけずに行え、かつ種々のサイズのリング状品に対して行える。さらに、予熱過程および均熱過程の2段階でリング状品を焼入れ温度まで加熱するため、加熱が効率良く行われ、加熱時間が短くなり、設備を小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1に示すように、このリング状品の焼入れ装置30は、前洗浄部31、予熱部32、均熱部33、一次冷却部34、二次冷却部35、後洗浄部36等よりなる。リング状品Wは、例えば軸受の軌道輪である。軸受の軌道輪は、鍛造により成形され、旋削により内周面または外周面に軌道溝が形成されたものである。軸受軌道輪の材質は、鋼材、例えば軸受鋼等である。
【0016】
前洗浄部31では、旋削加工時にリング状品Wに付着した切粉や油分等を洗い落とす。予熱部32では、前洗浄部31で洗浄されたリング状品Wを、誘導加熱装置50により焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する(予熱過程S1)。均熱部33では、予熱温度まで加熱されたリング状品Wを、連続加熱炉33aで所定の焼入れ温度(例えば850℃)まで加熱する(均熱過程S2)。一次冷却部34では、焼入れ温度まで加熱されたリング状品Wを、一次冷却槽34aの焼入れ油中に浸漬して、マルテンサイト変態点よりも高い温度(例えば290℃)まで一次冷却する(一次冷却過程S3)。二次冷却部35では、一次冷却されたリング状品Wを、変形矯正装置1により変形矯正しながら油槽20の焼入れ油中に浸漬して、一定温度(例えば110℃)まで二次冷却する(二次冷却過程S4)。後洗浄部36では、二次冷却されたリング状品Wを洗浄し、後の工程に送る。
【0017】
図2は予熱部32の誘導加熱装置50の構成を示す。この誘導加熱装置50は、リング状品Wを載せてリング中心O1の回りに回転させる回転台51と、加熱コイル52と、加熱コイル52に電流を流す交流電源53とを備える。交流電源53は例えば高周波電源とされる。誘導加熱装置50が設置された予熱室32a内は、窒素ガスNで満たされた雰囲気とされている。
【0018】
加熱コイル52は、例えば図2および図3に示すように、リング状品Wの内周側と外周側とに跨がるように配置される下向きU字状のものが用いられる。加熱コイル52の両側の対向片部52a,52bの先端は、交流電源53に接続されている。図4(A)は、図2および図3に示す加熱コイル52の斜視図である。
加熱コイル52としては、図4(B)に示すように、2個のU字状導体65,66をそれぞれの足部導体部65a,65b,66a,66bが互いに平行になるよう配置し、一方の足部導体部65a,66aの先端同士を接続導体67により接続し、他方の足部導体部65b,66bの先端にそれぞれリード部65c,66cを設け、このリード部65c,66cをそれぞれ交流電源53に接続したものであっても良い。
図2において、加熱コイル52は、加熱コイル支持体54に対して、回転台51の半径方向に位置変更可能に設置される。加熱コイル支持体54は、例えば回転台51の半径方向に延びるガイド54aを有し、このガイド54aに沿って加熱コイル52が無段階で位置変更可能とされる。その任意の変更位置で、ボルト(図示せず)等により、加熱コイル52がガイド54aに位置固定される。
【0019】
回転台51には、リング状品Wとの接触面積を小さくするための接触台51aが設けられる。接触台51aは、リング状品Wの径に応じたものに取り替え自在とされる。
回転台51は、回転台回転装置55により回転駆動され、かつ回転台昇降装置56により、回転台51上のリング状品Wが加熱コイル52の対向片部52a,52b間に入る高さ位置と出る高さ位置との間に昇降させられる。
図示の例では、回転台51は、昇降枠57に軸受58を介して回転自在に設置されていて、昇降枠57が基台59に昇降ガイド60を介して昇降自在に設置されている。昇降枠57には、油圧シリンダ等の昇降駆動源61が連結されており、回転台51は昇降駆動源61により昇降枠57と共に昇降させられる。
回転台回転装置55は、モータ62と、その回転を回転台51の軸部51cに伝えるプーリまたはギヤ列等の回転伝達機構63とにより構成される。
【0020】
図1に示すように、均熱部33の連続加熱炉33aは、内部が高温雰囲気に保たれた炉内を、コンベヤ等の搬送手段32bにリング状品Wを縦一列に載せて搬送しながら加熱する炉である。
【0021】
一次冷却部34の一次冷却槽34aは、焼入れ油の入っている部分の断面形状がU字状とされ、そのU字の一方の端部である導入部34aaからもう一方の端部である排出部34abへリング状品Wをエレベータ34bにより搬送するようになっている。前記導入部34aaの上側の空間34cは、窒素ガスNで満たされた密閉空間とされている。空間34cと連続加熱炉33aとの間には、開閉式の扉34dが設けられている。この一次冷却槽34aの構成によると、均熱部33で加熱されたリング状品Wは、すぐに窒素ガスNで満たされた空間34cに入れられ、続いて焼入れ油中に浸漬されるため、大気に触れさせずに冷却を行うことができる。
【0022】
図5に示すように、二次冷却部35の変形矯正装置1は、リング状品Wを載せる配置台2を備え、この配置台2上に一対の受けロール3および1個の加圧ロール4が設けられている。受けロール3は、受けロール支持部材7から上向き突出する受けロール支持軸3aに回転自在に取付けられている。加圧ロール4は、加圧ロール支持部材11から上向きに突出し、加圧ロール支持部材11に対して回転自在な加圧ロール支持軸4aに一体回転するよう取付けられている。
【0023】
上記一対の受けロール3と1個の加圧ロール4との間の配置台2の上面はリング状品載置部5とされ、上記一対の受けロール3の並び方向(Y方向)の一方の端から他方の端に亘って、他よりも一段高く形成されている。このリング状品載置部5には、後述する加圧ロール4の前進時に加圧ロール4および後記加圧ロール支持部材11との干渉を避けるための切欠き部5aが形成されている。配置台2の周辺部には、リング状品Wを矢印Aの方向からリング状品載置部5に投入し、リング状品載置部5から矢印Bの方向に排出する投入・排出機構(図示せず)が設けられている。
【0024】
一対の受けロール3は、受けロール間隔変更機構6により、Y方向の間隔を変更可能とされている。受けロール間隔変更機構6は、各受けロール3を回転自在に支持する受けロール支持部材7と、この受けロール支持部材7を配置台2に対しY方向に位置変更自在に案内するガイド8と、受けロール支持部材7を配置台2に固定する固定手段9とでなる。固定手段9としては、例えばボルトや、摩擦力で締付け固定する固定具を用いることができる。
【0025】
加圧ロール4は、加圧ロール進退機構10により、一対の受けロール3の中間点Mと加圧ロール4の中心O2とを結ぶ方向(X方向)に進退可能とされている。加圧ロール進退機構10は、加圧ロール4を回転自在に支持する加圧ロール支持部材11と、この加圧ロール支持部材11に設けた一対の被案内部11aがそれぞれ相対移動自在に嵌合するX方向のガイド軸12と、加圧ロール支持部材11を配置台2に対してX方向に進退させる進退手段13とでなる。被案内部11aは、例えば滑り案内、転がり案内によりガイド軸12を案内する。進退手段13は、例えば油圧シリンダよりなる。
【0026】
また、加圧ロール4は、加圧ロール回転駆動機構15により、所定方向に回転させられるようになっている。加圧ロール回転駆動機構15は、加圧ロール支持部材11に回転モータ16を設置し、この回転モータ16の出力軸に取付けたスプロケット17と、加圧ロール4の支持軸に取付けたスプロケット18とにチェーン19を巻き掛けたものである。
【0027】
前記配置台2のリング状品載置部5の下方にはリング状品冷却用の油槽20が設置されており、この油槽20の焼入れ油中にリング状品載置部5上のリング状品Wを浸漬させられるようになっている。そのための変形矯正時冷却機構21は、配置台2をリング状品載置部5側が下になるように傾け可能に支持する支持手段22と、この支持手段22に支持された配置台2を傾ける傾け手段23とでなる。この実施形態では、支持手段22は、配置台2のY方向両側から外向きに突出する水平な傾け中心軸22aを、回動支持部材22bにより回動自在に支持させたものとされている。また、傾け手段23は、傾け中心軸22aよりもリング状品載置部5と反対側に位置する配置台2の下面と床面24との間に設けた油圧シリンダよりなる。図5(B)に実線で示すように、傾け手段23を駆動して配置台2を傾けることにより、リング状品載置部5上のリング状品Wが油槽20の油中に浸漬させられる。
【0028】
二次冷却部35での変形矯正装置1による変形矯正について説明する。変形矯正装置1は、図5に鎖線で示すように、加圧ロール4が受けロール3に対して後退した後退位置P1で待機している。このとき、配置台2は水平状態である。一次冷却槽34aから出たリング状品Wが、投入・排出機構(図示せず)により、上記待機状態にある変形矯正装置1のリング状品載置部5に投入される。リング状品Wが投入されると、図5に実線で示すように、加圧ロール進退機構10の進退手段13が駆動して、加圧ロール4を前進位置P2まで前進させる。これにより、リング状品Wが一対の受けロール3と1個の加圧ロール4とで、外周面をX方向の両側から挟み付けられる。この状態で、加圧ロール回転駆動機構15の回転モータ16を駆動して、加圧ロール4を所定方向に回転させる。リング状品Wは、一対の受けロール3と加圧ロール4とで両側から所定の荷重で挟み付けられながら、両ロール3,4間で回転させられることにより、変形が矯正され真円度が高まる。
【0029】
また、上記変形矯正を開始、すなわち加圧ロール4が回転を開始するのと前後して、図5(B)に実線で示すように、変形矯正時冷却機構21の傾け手段23が駆動して、配置台2が、リング状品載置部5が下側になるように傾く。これにより、リング状品Wが油槽20の焼入れ油中に浸漬させられて二次冷却される。上記リング状品載置部5へのリング状品Wの投入、加圧ロール4の前進、加圧ロール4の回転、および配置台2の傾き作動は連続して行われるため、一次冷却と二次冷却とがほとんど時間的な間を開けずに行われる。そのため、焼入れが良好に行われる。
【0030】
加圧ロール4のリング状品Wの外周面に押付けて変形矯正を開始するときのリング状品Wの温度は、マルテンサイト変換点温度よりも20℃ないし50℃高い温度とする。ここで、変形矯正を行う時間とは、加圧ロール4の押付けを開始してから押付けを終了するまでの時間のことである。また、加圧ロール4のリング状品Wの外周面に押付けて変形矯正を行う時間は、40秒ないし90秒程度とする。上記温度のリング状品Wを油槽20の焼入れ油中に上記時間だけ浸漬すると、リング状品Wはほぼ二次冷却の冷却目標温度(例えば110℃)まで冷却される。したがって、時間的な無駄無く変形矯正と二次冷却とが行われる。変形矯正および二次冷却が完了すると、配置台2を水平に戻し、加圧ロール4の回転を停止し、加圧ロール4を後退位置P1まで後退させてリング状品Wを解放する。解放されたリング状品Wは、投入・排出機構(図示せず)により、配置台2のリング状品載置部5から配置台2の外に排出される。
【0031】
この構成のリング状品の変形矯正装置1は、加圧ロール4が進退可能であるため、一対の受けロール3と加圧ロール4との距離を自由に変更することができる。そのため、種々の直径のリング状品Wに適用できる。受けロール間隔変更機構6により、リング状品Wのサイズに合わせて一対の受けロール3の間隔を変更しても良い。変形矯正装置1によるリング状品Wの変形矯正は、拘束型を用いないため、型代が不要であり、かつリング状品Wを型に嵌める手間や型から外す手間がかからない。
【0032】
この焼入れ装置30は、二次冷却部35の変形矯正装置1により、二次冷却過程S4中に変形矯正が行われるので、変形矯正のための工程を別に設ける必要がない。一次冷却部34の一次冷却油槽34aと二次冷却部35の二次冷却用油槽20とが別であるため、一次冷却部34でのリング状品Wの冷却、一対の受けロール3と加圧ロール4間へのリング状品Wの投入、二次冷却部35でのリング状品Wの冷却を一連の流れに沿って行うことができる。また、焼入れ装置30の処理ラインの構成を簡易なものとすることができる。
【0033】
この焼入れ装置30によると、誘導加熱により加熱する予熱部32と、連続加熱炉33aで加熱する均熱部33とにより焼入れ温度まで加熱するため、誘導加熱によりリング状品Wの深部までエネルギー効率良く短時間で加熱することが可能であり、かつ連続加熱炉33aによりリング状品Wの全体の均熱化が図れる。連続加熱炉33aを用いるが、連続加熱炉33aは焼入れ温度近くまで予熱されたリング状品Wを焼入れ温度まで昇温させるだけであるため、室温から加熱するものと異なり、加熱時間が大幅に短縮される。また、炉内でリング状品Wを移動させる経路が短くて済み、設備が小型化できる。
【0034】
この焼入れ装置30の二次冷却部35による二次冷却過程S4での変形矯正の効果を確かめるためにテストを行った。テストには、材質は軸受鋼、外径280mm、内径250mm、肉厚15mmのリング状品を使用した。このリング状品に対して、一次冷却の引上げ温度および加圧ロール4の加圧荷重を段階的に複数変化させて、それぞれの外径変化量ΔDと肉厚変化量ΔTを測定した。外径変化量ΔDは、変形矯正前Bの外径D1と変形矯正後Aの外径D2の差のことである(図6)。肉厚変化量ΔTは、変形矯正前Bの肉厚T1と変形矯正後Aの肉厚T2の差のことである(図7)。外径変化量ΔDおよび肉厚変化量ΔTのそれぞれにつき、平均値x、標準偏差値σ、および最大値Maxを求めた。そのテスト結果を表示したのが表1である。
【0035】
【表1】

【0036】
このテスト結果から、次のことが判った。
(1)外径変化量ΔDに関しては、一次冷却引上げ温度が250℃および280℃で、加圧荷重が300kgfである場合に、良好な結果が得られた。また、一次冷却引上げ温度280℃で、加圧荷重が580kgfである場合にも、良好な結果が得られた。
(2)肉厚変化量ΔTに関しては、一次冷却引上げ温度が230℃、250℃、および280℃で、加圧荷重が150kgfである場合、一次冷却引上げ温度が250℃および280℃で、加圧荷重が300kgfである場合、一次冷却引上げ温度が230℃で、加圧荷重が580kgfである場合のそれぞれで、良好な結果が得られた。
(3)このことから、外径変化量ΔD、肉厚変化量ΔT共に良好な結果が得られるのは、一次冷却引上げ温度が250℃および280℃で、加圧荷重が300kgfである場合であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施形態にかかる焼入れ装置の概念構成を示す図である。
【図2】同焼入れ装置の予熱部の誘導加熱装置の破断正面図である。
【図3】同誘導加熱装置の加熱コイルの位置調整例の説明図である。
【図4】(A)は同加熱コイルの斜視図、(B)は異なる加熱コイルの斜視図である。
【図5】(A)は同焼入れ装置の二次冷却部の変形矯正装置の平面図、(B)はその正面図である。
【図6】リング状品の外径変化量の説明図である。
【図7】リング状品の肉厚変化量の説明図である。
【図8】従来の変形矯正の方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…変形矯正装置
3…受けロール
4…加圧ロール
20…油槽
30…焼入れ装置
32…予熱部
33…均熱部
33a…連続加熱炉
34…一次冷却部
34a…油槽
35…二次冷却部
50…誘導加熱装置
S1…予熱過程
S2…均熱過程
S3…一次冷却過程
S4…二次冷却過程
W…リング状品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱過程と,予熱温度まで加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱過程と、焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却過程と、変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却過程とを含むことを特徴とするリング状品の焼入れ方法。
【請求項2】
請求項1において、一次冷却過程でリング状品を冷却する油槽と、二次冷却過程でリング状品を冷却する油槽とを別に設けたリング状品の焼入れ方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記リング状品の外周面に前記加圧ロールを押付けている時間が、40秒ないし90秒であるリング状品の焼入れ方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記リング状品の外周面に前記加圧ロールを押付け始めるときのリング状品の温度が、マルテンサイト変換点温度よりも20℃ないし50℃高いリング状品の焼入れ方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記リング状品は軸受の軌道輪であるリング状品の焼入れ方法。
【請求項6】
リング状品を焼入れ温度に近い所定の予熱温度まで誘導加熱により加熱する予熱部と、この予熱部により予熱温度まで加熱されたリング状品を焼入れ温度まで連続加熱炉で加熱する均熱部と、この均熱部により焼入れ温度まで加熱されたリング状品をマルテンサイト変換点温度よりも高い変形矯正開始温度まで冷却する一次冷却部と、この一次冷却部により変形矯正開始温度まで冷却されたリング状品に対し、このリング状品の外周面に一対の受けロールをリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに転動自在に接触させた状態で、前記一対の受けロールの中間点とリング状品を介して対向する側から、リング状品の外周面にリング状品の中心と平行な回転中心軸回りに回転する加圧ロールを押付けつつ、マルテンサイト変換点温度よりも低い温度まで冷却する二次冷却部とを含むことを特徴とするリング状品の焼入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−91639(P2009−91639A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265389(P2007−265389)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】