説明

リーダライタ、及び物品仕分システム

【課題】RFIDタグの配列順序とアンテナに対する移動方向を識別することができるリーダライタを提供する。
【解決手段】このリーダライタ50は、VCO2の出力信号の位相を、基準となる入力信号の位相に同期させるPLL回路1と、PLL回路1の制御電圧に基づいて所定の周波数を発振するVCO2と、VCO2から発信された信号をマイクロ波に変調する変調器3と、マイクロ波の方向により向きを決定するサーキュレータ5と、マイクロ波を発信してタグ7からの反射波を受信するアンテナ6と、sin波を復調するミキサ9と、cos波を復調するミキサ11と、ミキサ9の信号から所定の周波数成分のみを通過するBPF12と、ミキサ11の信号から所定の周波数成分のみを通過するBPF13と、A/Dコンバータ14とA/Dコンバータ16から位相を演算する演算器15と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーダライタ、及び物品仕分システムに関し、さらに詳しくは、マイクロ波方式により通信を行う非接触情報記録媒体への情報の読み書きを行なうリーダライタであって、移動する複数の非接触情報記録媒体の情報を一括して読み取る際の情報識別技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波を利用したRFIDシステムは、電源を持たないパッシブ型の非接触ICタグに対しても、数十cm〜数mという長い交信可能距離を持つ。しかし、非接触ICタグとの交信可能距離は、非接触ICタグに搭載されたアンテナの向きなどの諸要因により容易に変化するため一定ではなく、また、電波の反射等の影響により、非連続的な分布(情報が読める部分と読めない部分)を持つという特性がある。このため、実際の交信可能エリアも、大きな広がりを持ちながらも境界を定義することができない、曖昧なものとなる傾向がある。
そして、この交信可能エリアの曖昧さから、ベルトコンベア上で荷物につけられたタグを順に読み取るといった、タグの順序や移動状態を正確に識別することが要求されるシステムにおいては、対象外のタグと交信することを避けるために、タグ間隔の制限、アンテナ出力の制限、電波の物理的遮蔽(読み取る物品毎に電波遮蔽カーテンにより囲う)等、多くの制限・対策が必要となり、運用上に難があった。
特許文献1には、指向性の強い少数のアンテナで、通信不能部分の無い広い通信領域をカバーできるタグ通信用アンテナについて開示されている。
【特許文献1】特開2006−20083公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術では、RFIDリーダ/ライタに用いられるタグ通信用アンテナは、送信する電波のビームをスキャンできるビームスキャンアンテナであること、ビームはスキャン方向に指向性の強いビームであること、ビームのスキャンはスキャン方向を含む面が最も強い反射波の生じる反射面である床面と交わるように行われること、等の制約条件が多いため、場所によっては、アンテナを最適な位置に設置できないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、リーダライタから発信された電波とRFIDタグから反射された電波の遅延時間に基づいて、各RDIDタグとアンテナの距離の変化を求めることにより、RFIDタグの配列順序とアンテナに対する移動方向を識別することができるリーダライタを提供することを目的とする。
また、他の目的は、RFIDタグがアンテナ正面を通過したことを遅延なく検出することである。
また、他の目的は、向きや位置が一定ではないRFIDタグの読取を確実に行なうことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、電波を利用して非接触情報記録媒体に情報を読み書きするリーダライタであって、前記非接触情報記録媒体に電波を送信する送信手段と、該電波の一部を前記非接触情報記録媒体が変調した反射波を復調する復調手段と、前記反射波の遅延時間を求める演算手段と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより、電波の送受信を仲介するアンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることを特徴とする。
本発明は、マイクロ波を利用して非接触情報記録媒体と通信を行うマイクロ波方式におけるリーダライタであり、リーダライタから送信した電波(マイクロ波)は、非接触情報記録媒体により変調されて反射波としてリーダライタにより受信される。このとき発信した電波と反射波との間には、距離に応じた遅延時間が生じる。本発明はこの遅延時間を演算して求めることにより、非接触情報記録媒体とアンテナの距離の変化を求めるものである。これにより、移動する非接触情報記録媒体の距離の変化を把握することにより、移動するシステムにおいて、読み取り領域内の複数の非接触情報記録媒体の配列順序と移動状態を識別することができる。
請求項2は、前記非接触情報記録媒体に電波を送信する送信手段と、該電波の一部を前記非接触情報記録媒体が変調した反射波を復調する直交復調器等の位相変調の復調手段と、該復調手段により復調された信号を演算して前記反射波の遅延時間を求める演算手段と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより、電波の送受信を仲介するアンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることを特徴とする。
直交復調器により得たIQ信号を演算することにより、タグとの通信を行うと同時に、遅延時間の差分を得る。
【0005】
請求項3は、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定して前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることにより、前記非接触情報記録媒体の配列順序と前記アンテナに対する移動方向を識別することを特徴とする。
例えば、アンテナが固定され、非接触情報記録媒体が一定速度で移動する場合、距離と時間との関係は2次関数となる。即ち、1つの移動する非接触情報記録媒体に注目したとき、所定方向からアンテナに近づき、最もアンテナに近づいた位置から遠ざかって行く。つまり、非接触情報記録媒体のベクトルの向きと大きさから移動方向と速度を認識することができる。これにより、非接触情報記録媒体の並び順とアンテナからの移動方向を識別することができる。
請求項4は、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定して前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることにより、前記非接触情報記録媒体が前記アンテナに最接近したタイミングを識別することを特徴とする。
非接触情報記録媒体がアンテナに最接近したタイミングは、そのベクトルの向きが変化する直前である。即ち、距離と時間との関係から導かれた2次関数の極小点が、非接触情報記録媒体がアンテナに最接近した時である。これにより、非接触情報記録媒体がアンテナを通過した時間を個別に管理することができる。
【0006】
請求項5は、前記制御手段は、前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度を演算する相対速度演算部を備え、該相対速度演算部により前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度がゼロであることを演算したときに、前記非接触情報記録媒体が移動していることを条件として前記非接触情報記録媒体が前記アンテナ正面を通過したと判断することを特徴とする。
アンテナから遠い場所では相対速度は実速度に近いが、アンテナに近づくほど相対速度は低下し、アンテナ正面で0となり、同時に移動方向の正負が反転する。この相対速度の特徴を利用することで、非接触情報記録媒体の通過の検出が可能である。しかし、アンテナ正面に来たことを判定するためには、相対速度=0の点を検出することとなるが、タグが停止する場合などにも相対速度=0となることがあり、誤検出する虞があった。そこで、本発明では、検出部に非接触情報記録媒体の移動についての情報を与え、非接触情報記録媒体とアンテナの相対速度=0で、かつ非接触情報記録媒体が停止していない(絶対速度>0)という条件を判定に利用することで、確実にかつ迅速にアンテナ正面をタグが通過しつつあることを検出することができる。
請求項6は、前記非接触情報記録媒体の移動ベクトルと鉛直の関係を持つように配置した複数のアンテナを備え、前記制御手段は、前記相対速度演算部により前記各アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度がゼロか、若しくは該相対速度の符号が同一であることを演算したときに該非接触情報記録媒体が前記アンテナ正面を通過したと判断することを特徴とする。
複数のアンテナを時分割で切替ながら通信を行うとすると、一つのアンテナあたりの通信機会が減少する。これにより、通過時間測定の精度が低下するという問題があった。また、アンテナによって異なる傾向となった場合に、どのアンテナを信頼したら良いかという判別を行う必要があった。即ち、それぞれのアンテナと非接触情報記録媒体との距離は異なるため、それぞれの相対速度v(t)は一致しないが、v(t)=0となるt、また、v(t)の符号は同一となる。そこで本発明では、非接触情報記録媒体とアンテナとの相対速度を取得し、v(t)の符号、もしくは、v(t)=0となる点を利用して通過識別をすることで、どのアンテナで取得した値かを意識せずに、通過の識別を行うことができる。
【0007】
請求項7は、請求項1乃至6の何れか一項に記載のリーダライタと、電波の送受信を仲介するアンテナと、物品に係る情報を記録した非接触情報記録媒体を取り付けた物品と、該物品を搬送する搬送手段と、該搬送手段により搬送されてくる物品の通過を検知する検知手段と、前記搬送手段により搬送された物品を仕分けする仕分手段と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより前記アンテナと前記物品との距離の変化を求めて、該物品の搬送順序と前記アンテナに対する移動方向を識別し、前記検知手段が該物品の通過を検知すると、先頭の物品が通過したと判断して、当該物品に係る仕分けを実行することを特徴とする。
本発明は、移動する物品を識別して自動的に仕分する仕分システムに関するものである。即ち、本発明のリーダライタを備え、例えば、ベルトコンベアの近傍にアンテナを配置して、物品に取り付けられた非接触情報記録媒体との情報の授受を行い、その情報から物品の並び順とアンテナからの移動方向を識別する。また、それらの物品を仕分するために、物品が通過したことを検知する検知手段と、実際に物品を仕分する仕分機を備える。そして、PC等から構成される制御手段は、並び順と移動方向を記憶しておき、検知手段が物品の通過を検知すると、並び順の最も先頭の物品が通過したと判断して、当該物品に係る仕分けを実行する。これにより、読み取り領域内の物品が移動しても、正確にその並び順を把握して、正確に仕分けることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アンテナもしくは非接触ICタグ、もしくはその両方が移動するシステムにおいて、非接触ICタグとアンテナの距離の変化方向と、その変化量を検出することが可能となる。
また、アンテナもしくは非接触ICタグ、もしくは両方が移動するシステムにおいて、交信可能エリア内に複数の非接触ICタグが存在する場合でも、その順序・移動状態を識別することが可能となり、読み取ったIDと非接触ICタグを正確に対応付けることが可能となる。
また、その変化方向・変化量から、非接触ICタグとアンテナが最も近づいたタイミングを知ることができ、非接触ICタグの位置の取得が可能となる。
更に、アンテナと非接触ICタグとの距離の変化方向、またその変化量などの情報からタグをフィルタリングすることで、様々な用途に応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は、本発明の一実施形態に係るリーダライタのブロック図である。このリーダライタ50は、VCO2の出力信号の位相を、基準となる入力信号の位相に同期させるPLL回路1と、PLL回路1の制御電圧に基づいて所定の周波数を発振するVCO2と、VCO2から発信された信号をマイクロ波(電波)に変調する変調器3と、マイクロ波を増幅する増幅器4と、マイクロ波の方向により向きを決定するサーキュレータ5と、マイクロ波を発信して非接触ICタグ(以下、単にタグと呼ぶ)7からの反射波を受信するアンテナ6と、サーキュレータ5により合成された合成波を増幅する増幅器8と、VCO2の信号と増幅器8により増幅された信号を加算重畳してsin波を復調するミキサ9と、VCO2の信号を90°移相器10により移相した信号と増幅器8により増幅された信号を加算重畳してcos波を復調するミキサ11と、ミキサ9の信号から所定の周波数成分のみを通過するBPF12と、ミキサ11の信号から所定の周波数成分のみを通過するBPF13と、BPF12の出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ14と、BPF13の出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ16と、A/Dコンバータ14とA/Dコンバータ16から位相を演算する演算器15と、を備えて構成されている。
電波を利用したRFIDシステムでは、タグ7に与えた電波(CW波)の一部を、タグ7が変調を加えて戻す(振幅・位相を変化させて反射させる)ことにより、タグ7からリーダライタ50への通信を行っている。
リーダライタ50には「自ら発信した電波の反射波(後方散乱波)」が戻ることとなるが、この後方散乱波は、タグ7とアンテナ6との間を往復した波であるため、自ら発信した電波に対しタグ7とアンテナ6の距離の倍に比例した遅延を持った波であると考えることができる。
【0010】
本実施形態では、この後方散乱波の遅延時間の差分を測定することにより、アンテナ6とタグ7との距離の変化の認識を行う。
ここで、リーダライタ50に接続されたアンテナ6から送信されるCW波を


・・・(1)
とした時(AとθCは回路による決まる一定値)、同じアンテナ6で受信されるタグ7からの後方散乱波は、以下のように表せる。


・・・(2)
l[m]はタグ−アンテナ間の距離、cは電波の速度[m/s]、Bは空間やタグでの減衰を表す係数、θTはタグでの反射時の位相変化である。電波を利用するRFIDにおいては、タグ7からリーダライタ50への通信を行う際、タグ7で加えられる変調により、このBとθTが変化する。
【0011】
ここで、タグ→リーダライタ間における通信がASK変調により行われる場合には、1を表すシンボルに同期して遅延時間の測定を行うものとすると、θTをタグ固有のある一定の値とすることができる。
また、BPSK変調の場合では、1または0を表すシンボルに同期して遅延時間の測定を行うものとすると、θTをタグ固有のある一定値θT1、もしくは、θT2(=θT1+π)のどちらかの値とすることができる。同様に、その他の位相変調においても、あるシンボルに同期して遅延時間の測定を行うことで、θTをタグ固有のある一定の値とすることができる。
このように、タグ7との通信を行う際に、そのシンボルと同期して遅延時間を測定することにより、タグ7で反射される際の位相が安定し、θTを定数値とみなすことができる。また、変調のかけられた後方散乱波を対象として測定を行うことで、変化を持たない後方散乱波(反射波)を、BPF12、13により除去することが可能となり、周囲の金属物や通信状態に無いタグからの反射等の影響を排除することができる。
更に、タグ7からリーダライタ50への通信を行う際に遅延時間を測定しているため、アンチコリジョン機能を持つプロトコルのもとでは、通信相手となるタグを一つに限定した条件の下で遅延時間の測定を行うことが可能となり、複数のタグが存在する環境においても、特定のタグの後方散乱波のみを選択して遅延時間を測定することと、その通信で得られたデータ(ID)と遅延時間を関連付けて管理することが可能となる。
【0012】
次に、後方散乱波の遅延時間の測定について説明する。CW波と共通の信号源から作成されるローカル信号

・・・(3)
を使用して、直交検波を行うことによって行う。
これにより、以下のIQ信号が得られる。

・・・(4)

・・・(5)
ここで、CとθRは、直交検波の操作により付加される変数であるが、Cは回路により決まる値であるため一定値と考えることができる。また、ローカル信号とCW波は、同じ信号源からの信号であるため、その位相差を回路により決まる一定値とみなすことができ、これにより、θRも回路により決まる一定値とみなすことができる。
【0013】
このIQ信号をA/D変換器14、16により取り込み、演算器15により、位相θr

・・・(6)
を得る。
ここで、θc・θT・θRはいずれも定数値とみなせるため、lをtの関数とすれば、θrは以下のように表すことができる。


・・・(7)
ここで、距離の変化Δlがλc/4を超えない内に、再度θrの取得を行うことで、このθrから遅延時間の差分を得ることができる。
そして、

・・・(8)
であれば、この通信で得られたIDを持つタグはアンテナから離れる方向に動いているといえ、また、

・・・(9)
であれば、この通信で得られたIDを持つタグはアンテナに近づく方向に動いているといえる。
【0014】
ここで、タグ7もしくはアンテナ6、もしくは両方が移動し、また、その移動方向・速度が一定であるシステムであれば、距離l(t)は2次関数により表され、dl/dt=0となるのは、両者の距離が極小となる点であるので(タグとアンテナの移動方向・速度が同一ではない場合)、dl/dt=0となる点、即ちdθ/dt=0となる点は、タグとアンテナの距離が最短となる位置といえる。
これにより、dθ/dtを得ることにより、タグ7とアンテナ6が最も接近したタイミングを検出することができる。さらに、ここで、移動方向・速度が同じであり、かつ、同一の線上を移動するタグ同士に対しては、このdθ/dtの大小比較により、タグの順序を決定することができるといえる。
【0015】
図8はタグ7とアンテナ6との距離と位置との関係を示す図である。図9はタグ7とアンテナ6との相対速度を示す図である。図8、9はタグ7の移動速度を1(cm/s)、アンテナ6正面での距離が50(cm)の場合を示す。
アンテナ6正面で相対速度が反転することを利用した通過検出では、タグ7が検知エリア内で停止する可能性がある場合、確実に通過を検出するためには、進入してきた場合とは逆の相対速度を持つことを確認するまで待つ必要があった。このため、検出時には、そのタグ7はアンテナ6から既に離れつつあり、通過を検出したタグに対する操作をする上で問題があった。
そこで本発明では、「タグの通過検出」において、通過検出部にタグの移動、もしくは、タグがついている搬送物の移動についての情報を与え、「タグが移動している」、かつ、「アンテナとの相対速度が0である」という条件により通過の検出を行う。
但し、aはタグの速度[m/s]、lはアンテナ正面での距離[m]、Taはアンテナ正面を通過するタイミング[s]とする。
【0016】
また、タグ7の移動方向・速度が一定とはいえないシステムであれば、両者の距離が極小となる点だけでなく、タグの移動が停止した場合にもdl/dt=0となりえる。
このようなシステムにおいては、検出部にタグの移動についての情報を与え、タグが停止していない(絶対速度>0)という条件を判定に加えることで、dl/dt=0となる点、即ちdθ/dt=0となる点は、タグとアンテナの距離が最短となる位置とする。また、アンテナ6が移動し、その移動方向・速度が一定でない場合も、同様にアンテナが停止していない(絶対速度>0)という条件を判定に加える。
尚、タグの移動情報を検出部に与えるものとしては、ベルトコンベア等の搬送手段を使用する場合は、その機器の制御情報。外部センサを利用して、タグが付けられている物の移動、速度、位置、また、距離を監視する情報。同期する搬送ライン上にある荷物の移動を赤外線センサ等で検知した情報。また、リーダ自身にタグの移動を検出する機能を組み込み、リーダ単体でタグの移動を判断し、検出を行う。
【0017】
即ち、リーダライタ50は、マイクロ波を利用してタグ7と通信を行うマイクロ波方式におけるリーダライタである。従って、リーダライタ50から送信した電波(マイクロ波)は、タグ7により変調されて反射波としてリーダライタ50により受信される。このとき発信した電波と反射波の間には、距離に応じた遅延時間が生じる。本実施形態はこの遅延時間を演算して求めることにより、タグ7とアンテナ6の距離の変化を求めるものである。これにより、移動するタグ7の距離の変化を把握することにより、移動するシステムにおいて、読み取り領域内の複数のタグの配列順序と移動状態を識別することができる。
尚、直交変調とは、sin波とcos波を90度位相をずらして(直交して)加算重畳することにより、合成波の振幅は、sin波の振幅がゼロとなる位相のときに、cos波の最大振幅になり、cos波の振幅がゼロとなる位相のときに、sin波の最大振幅になるように合成振幅が生成される。即ち、2つの信号を1つの合成波にまとめて変調することができる。本実施形態はこの原理により変調された合成波から直交復調することによりsin波(発信した電波)とcos波(反射波)を復調する。
【0018】
図2は、タグが移動した場合のアンテナとタグの距離との関係を示す模式図である。この図では、タグ7を取り付けた物品a、物品b、物品cが所定の間隔を維持して矢印Aの方向に移動しているものとする。そして、図2では、アンテナ6と物品aの距離がla、アンテナ6と物品bの距離がlb、アンテナ6と物品cの距離がlcとなる。
例えば、アンテナ6が固定され、タグ7が一定速度で移動する場合、距離と時間との関係は2次関数となる。即ち、1つの移動するタグに注目したとき、所定方向(矢印Aの上流側)からアンテナ6に近づき、最もアンテナ6に近づいた位置から遠ざかって行く。つまり、タグのベクトルの向きと大きさから移動方向と速度を認識することができる。これにより、物品a、b、cの並び順とアンテナ6からの移動方向を識別することができる。
【0019】
図3は、図2の動作を更に詳細に説明するための図である。縦軸にアンテナ6(原点)と物品a、b、cまでの距離を示し、横軸に通過時間を示す。この図から明らかなように、物品aはアンテナ6までの距離がlaのとき、ベクトルの向きと大きさは矢印Laとなり、アンテナ6に対して距離が2次関数17に従って減少してくる(近づいてくる)。また、物品bはアンテナ6までの距離がlbのとき、ベクトルの向きと大きさは矢印Lbとなり、アンテナ6に対して距離が2次関数17の極小点(最接近)にある。また、物品cはアンテナ6までの距離がlcのとき、ベクトルの向きと大きさは矢印Lcとなり、アンテナ6に対して距離が2次関数17に従って増加してくる(遠ざかる)。
このように移動する物品に対して、上記式(1)〜(7)を演算することにより、アンテナ6もしくはタグ7、もしくはその両方が移動するシステムにおいて、タグ7とアンテナ6の距離の変化方向と、その変化量を検出することが可能となる。
これにより、アンテナ6もしくはタグ7、もしくは両方が移動するシステムにおいて、交信可能エリア内に複数のタグが存在する場合でも、その順序・移動状態を識別することが可能となり、読み取ったIDとタグを正確に対応付けることが可能となる。また、その変化方向・変化量から、タグ7とアンテナ6が最も近づいたタイミングを知ることができ、タグの位置の取得が可能となる。他にも、アンテナとタグとの距離の変化方向、またその変化量などの情報からタグをフィルタリングすることで、様々な用途に応用が可能であると考えられる。
【0020】
図4は、本発明の物品仕分システムの構成を示すブロック図である。同じ構成要素には図1と同じ参照番号を付して説明する。この物品仕分システム100は、図1に記載のリーダライタ50と、電波の送受信を仲介するアンテナ6と、図示しない搬送手段により搬送されてくる物品の通過を検知するセンサ(検知手段)21と、搬送手段により搬送された物品を仕分けする仕分機(仕分手段)22と、PC(制御手段)20と、を備え、PC20は、演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することによりアンテナ6と物品との距離の変化を求めて、物品の並び順とアンテナ6からの移動方向を識別し、センサ21が物品の通過を検知すると、並び順の最も先頭の物品が通過したと判断して、当該物品に係る仕分けを実行する。
即ち、本実施形態は、移動する物品を識別して自動的に仕分する仕分システムに関する発明である。即ち、図1のリーダライタ50を備え、例えば、ベルトコンベアの近傍にアンテナ6を配置して、物品に取り付けられたタグ7と情報の授受を行い、その情報から物品の並び順とアンテナ6からの移動方向を識別する。また、それらの物品を仕分するために、物品が通過したことを検知するセンサ21と、実際に物品を仕分する仕分機22を備える。そして、PC20は、並び順と移動方向を記憶しておき、センサ21が物品の通過を検知すると、並び順の最も先頭の物品が通過したと判断して、当該物品に係る仕分けを実行する。これにより、読み取り領域内の物品が移動しても、正確にその並び順を把握して、正確に仕分けることができる。
【0021】
図5は、本発明の仕分システムの動作の一例を説明するための模式図である。同じ構成要素には図1、及び図4と同じ参照番号を付して説明する。本実施形態では、説明を簡略化するために、ベルトコンベア23上には、物品a〜dが載置され、それぞれに当該物品に関する情報(タグID、ルート情報等)を記憶したタグ7が取り付けられている。また、物品の並び順は、先頭からa、b、c、dとする。また、ベルトコンベア23は矢印Aの方向に移動する。また、アンテナ6の読み取り可能領域は6aとする。
【0022】
図6は、図5の仕分システムの動作を説明するフローチャートである。図5を参照して説明する。リーダライタ50は、読み取り可能領域6aにある物品a、b、cのタグ7の情報を一括して読み取る(S1)。PC20はリーダライタ50が読み取った情報から各タグの遅延時間を演算する(S2)。また、PC20は遅延時間の差分から各物品a、b、cまでの距離と方向を求める(S3)。この図では、物品aはアンテナ6から遠ざかる方向に移動しており、物品bはアンテナ6に最接近しており、物品cはアンテナ6に近づいてきていることを認識する。そして、これらの演算結果から、物品の並び順が先頭からa、b、cであることを認識する(S4)。この情報は、PC20内のメモリに記憶する(S5)(図7参照)。ここでセンサ21が物品を検出したかをチェックする(S6)。このチェックは何時発生するか分からないので、割り込み処理により行われるのが好ましい。ステップS6でセンサ21がOFF(S6でNO)のときは、ステップS1に戻って繰り返す。ステップS6でセンサ21がON(S6でYES)のときは、メモリに記憶されている先頭の物品名aから、ルート先を判別する(S7)。この例では、物品aのルート先はBであるので、仕分機22は物品aをルートBになるように仕分操作を行なう(S8)(図7(a)参照)。次に、仕分が完了した物品aのデータは必要ないので消去して、図7(b)にように次の物品bを先頭に繰り上げてS1に戻って繰り返す(S9)。
【0023】
図7はPC内のメモリに記憶された物品の並び順を示す図である。このメモリには、例えば図5の場合の記憶内容である。図7(a)には、メモリの先頭アドレス(AA)には物品名24が「a」、ルート先25が「B」と記憶されている。アドレス(BB)には物品名24が「b」、ルート先25が「A」と記憶されている。アドレス(CC)には物品名24が「c」、ルート先25が「C」と記憶されている。次に、物品aの仕分が完了すると、図7(b)のように、アドレス(AA)に記憶されていた物品aが消去されて、アドレス「BB」に記憶されている物品bをアドレス「AA」に繰り上げて記憶する。以下、順次繰り上げて記憶する。これにより、新たに物品bが先頭にある物品となる。
図9より、アンテナから遠い場所では相対速度は実速度に近いが、アンテナに近づくほど相対速度は低下し、アンテナ正面で0となり、同時に、移動方向の正負が反転する。この相対速度の特徴を利用することで、タグの通過の検出が可能である。
そこで、本発明では、検出部にタグの移動についての情報を与え、タグとアンテナの相対速度=0で、且つ、タグが停止していない(絶対速度>0)という条件を判定に利用することで、確実にかつ迅速にアンテナ正面をタグが通過しつつあることを検出することができる。
ここで、タグがアンテナに近付く際の相対速度を正とした場合、アンテナとタグとの相対速度=0となるか、もしくは、アンテナとタグとの相対速度が負に変化し相対速度0の点を通り越したと判断できる場合で、且つ、タグが移動中(絶対速度>0)であるといえる場合に、アンテナ正面にタグが来たと判断する。
【0024】
本発明により、タグがアンテナ正面に来たことを遅延無しに検出することが可能となる。これにより、検出を行ったアンテナにおいて、引き続きタグに対する操作を行うことが容易となり、また、タグの情報に基づいて、その後の動作を決定するシステムのリアルタイム性を向上させることが可能となる。
その具体例として、タグを持った人が来たことを検出し、来た順番や時間といった情報をタグに書き込む。また、タグを持った人が来たことを検出し、タグの情報を元にゲートを開く・閉じるといった操作を行う。また、タグを持った人が来たことを検出し、その場でタグの情報を元に、表示や指示を出す。また、タグの付いた荷物が来たことを検出し、その場で表示することで、目視によるチェックと連動させる。
【0025】
図10はタグの移動ベクトルと各アンテナの位置関係を示す模式図である。
向きや位置が一定ではないタグの読取を行うためには、タグがどの方向に指向性のヌル点を持つか、また、どの方向からなら通信が成功するかが事前に分からないため、タグに対してそれぞれ異なる角度を持つアンテナをあらかじめ複数(ANT1〜3)用意して、それらを切替ながら読取を行う必要がある。この場合、タグがアンテナ正面を通過した時間を知るためには、複数のアンテナで同時に通過の検出する必要がある。しかし、複数のアンテナを時分割で切替ながら通信を行うとすると、一つのアンテナ当たりの通信機会が減少する。これにより、通過時間測定の精度が低下するという問題があった。また、アンテナによって異なる傾向となった場合に、どのアンテナを信頼すれば良いかという判別を行う必要があった。
尚、複数のアンテナをごく短い時間で切替ながら読取を行うことで、一つのリーダを用いて、異なる角度から読み取りを行うことができる。これにより、どの方向に指向性のヌル点を持つか分からないタグに対しても、確実な読取を期待できるが、ここで、受信強度・受信成功回数などの傾向からタグの通過を求めるとすると、以下のような問題がある。即ち、アンテナ毎に全く異なる傾向を示す可能性がある。また、 n個のアンテナを取り付けるとすると、通信機会が1/n以下となる。まず、前者の問題は、タグのアンテナに指向性があるため、回避は困難である。このため、アンテナ毎の検出となり、どのアンテナからの情報を信頼すれば良いかという解決しがたい問題が発生するが、それだけでなく後者の影響で精度が低下する。
【0026】
例えば、アンテナ切替単位時間m[ms]毎にn個のアンテナを切り替えるとすると、各アンテナにおいて、m×(n−1)[ms]のデータ空白期間が存在することとなり、アンテナ1枚の場合に比べて、時間検出精度が劣るといえる。
そこで、本発明では、全てのアンテナからの情報を同列に評価することができるようにすることで、アンテナ1つの場合と同等の精度の通過検出を実現する。まず、図10のように全てのアンテナは、1つの面上に配置するとする。そして、このアンテナ配置面は、タグの移動ベクトルと鉛直の関係を持つようにする。
例えば、タグの移動ベクトルが(α,0,0)と表される時は、各アンテナはyz面に配置する。この時、タグの位置がどのような位置をとっても、全てのアンテナに対してタグの最短距離となる点は、yz面(アンテナ配置面)上に存在するといえる。即ち、全てのアンテナにおける、タグとの距離が最短となる点は同一になるといえる。それぞれのアンテナとタグとの距離は異なるため、それぞれの相対速度v(t)は一致しないが、v(t)=0となるt、また、v(t)の符号は同一となる。
そこで、タグとアンテナとの相対速度を取得し、v(t)の符号、もしくは、v(t)=0となる点を利用した通過識別をすることで、どのアンテナで取得した値かを意識せずに、通過の識別を行うことができる。この時、常に相対速度の測定が成功するとすれば、何個のアンテナを使用するか、どのくらいの時間毎にアンテナを切り替えるかといったことによらず、1つのアンテナで測定した場合と同様の時間間隔で測定することが可能であり、同等の精度を得ることができるといえる。
【0027】
また、n個中の1個のアンテナでタグの相対速度の測定が全く成功しなかったとしても、その影響による空白期間は、アンテナ切替単位時間m[ms]分に抑えることが可能であり、精度への影響は比較的少なくすることができる。
また、ここで、全てのアンテナを同一面に設置できない場合には、その面と平行な任意の面A上に設置するとし、タグの移動速度と面間の距離からtの補正を行った上で、比較することもできる。これにより、多方向からタグの読取を行う際の通過検出の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るリーダライタのブロック図である。
【図2】タグが移動した場合のアンテナとタグの距離との関係を示す模式図である。
【図3】図2の動作を更に詳細に説明するための図である。
【図4】本発明の物品仕分システムの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の仕分システムの動作の一例を説明するための模式図である。
【図6】図5の仕分システムの動作を説明するフローチャートである。
【図7】PC内のメモリに記憶された物品の並び順を示す図である。
【図8】タグ7とアンテナ6との距離と位置との関係を示す図である。
【図9】タグ7とアンテナ6との相対速度を示す図である。
【図10】タグの移動ベクトルと各アンテナの位置関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 PLL回路、2 VCO、3 変調器、4、8 増幅器、5サーキュレータ、6 アンテナ、7 タグ、9、11 ミキサ、12、13 BPF、14、16 A/Dコンバータ、15 演算器、50 リーダライタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を利用して非接触情報記録媒体に情報を読み書きするリーダライタであって、前記非接触情報記録媒体に電波を送信する送信手段と、該電波の一部を前記非接触情報記録媒体が変調した反射波を復調する復調手段と、前記反射波の遅延時間を求める演算手段と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより、電波の送受信を仲介するアンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることを特徴とするリーダライタ。
【請求項2】
前記非接触情報記録媒体に電波を送信する送信手段と、該電波の一部を前記非接触情報記録媒体が変調した反射波を復調する直交復調器等の位相変調の復調手段と、該復調手段により復調された信号を演算して前記反射波の遅延時間を求める演算手段と、制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより、電波の送受信を仲介するアンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることを特徴とする請求項1に記載のリーダライタ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定して前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることにより、前記非接触情報記録媒体の配列順序と前記アンテナに対する移動方向を識別することを特徴とする請求項1または2に記載のリーダライタ。
【請求項4】
前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定して前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との距離の変化を求めることにより、前記非接触情報記録媒体が前記アンテナに最接近したタイミングを識別することを特徴とする請求項1または2に記載のリーダライタ。
【請求項5】
前記制御手段は、前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度を演算する相対速度演算部を備え、該相対速度演算部により前記アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度がゼロであることを演算したときに、前記非接触情報記録媒体が移動していることを条件として前記非接触情報記録媒体が前記アンテナ正面を通過したと判断することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のリーダライタ。
【請求項6】
前記非接触情報記録媒体の移動ベクトルと鉛直の関係を持つように配置した複数のアンテナを備え、前記制御手段は、前記相対速度演算部により前記各アンテナと前記非接触情報記録媒体との相対速度がゼロか、若しくは該相対速度の符号が同一であることを演算したときに該非接触情報記録媒体が前記アンテナ正面を通過したと判断することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のリーダライタ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のリーダライタと、電波の送受信を仲介するアンテナと、物品に係る情報を記録した非接触情報記録媒体を取り付けた物品と、該物品を搬送する搬送手段と、該搬送手段により搬送されてくる物品の通過を検知する検知手段と、前記搬送手段により搬送された物品を仕分けする仕分手段と、制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記演算手段により演算された遅延時間の差分を測定することにより前記アンテナと前記物品との距離の変化を求めて、該物品の搬送順序と前記アンテナに対する移動方向を識別し、前記検知手段が該物品の通過を検知すると、先頭の物品が通過したと判断して、当該物品に係る仕分けを実行することを特徴とする物品仕分システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−31267(P2009−31267A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146568(P2008−146568)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】