説明

ルイス酸性フルオラススタノキサン触媒

【課題】取扱いが容易で,水と有機溶媒との分離が簡便で,回収および再使用が可能な環境にやさしい,求核付加反応または置換反応の汎用的な触媒を提供する。
【解決手段】下記式(1)および(2)で示される,多フッ素化アルキル基により修飾されたスタノキサン=パーフルオロアルカンスルホナート化合物,スタノキサン=ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)アミド化合物とそれらの二量体である。


(ただし,R1,R2,R3およびR4はそれぞれ独立して(CH2)nRfを表し,nは0-4の整数,Rfは炭素数4-20のパーフルオロアルキル基である。Rf'は炭素数1-20の直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基であって,炭素数を超えない範囲で5個以下の水素原子を含んでいてもよく,5個以下のエーテル酸素を含んでいてもよい。XはF,Cl,BrまたはIを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,スタノキサン類およびその触媒作用に関する。更に詳しくはパーフルオロアルカンスルホナートもしくはビス(パーフルオロアルカンスルホニル)アミドを対アニオンとするフルオラススタノキサン化合物とこの化合物を用いた触媒反応に関する。
【背景技術】
【0002】
ルイス酸触媒は,工業的に広く用いられている汎用性の高い触媒であるが,その多くは塩化アルミニウムであり,生成物との安定な付加体生成により失活することが多いために通常当量以上必要とすることから大量の触媒が必要であり,かつその廃酸処理が大きな問題となっている。そこで,触媒を回収および再利用できる手法の開発が求められている。その方法論の一つとして,一般の有機溶媒に難溶でパーフルオロアルカン等のフルオラス溶媒に易溶な多フッ素化有機基を有する触媒,いわゆるフルオラス触媒の開発が注目されている。
【0003】
有機溶媒/フルオラス溶媒二相系において,フルオラス触媒を用いた触媒反応を行うとき,反応前は有機溶媒には反応基質が溶解しているのに対し,フルオラス溶媒には触媒が溶解している。これを(高温で)激しく攪拌して反応させた後,(低温で)静置させると再び二相に分離する。このとき,上相の有機溶媒相には生成物が溶解しているのに対し,下相のフルオラス溶媒相には反応前と同じく触媒が溶解している。したがって,相分離という簡単な操作で生成物と触媒が分離でき,触媒をフルオラス溶媒相ごと回収および再使用が可能となる。
【0004】
一方,例えば下記式(3)で表わされるスタノキサン触媒は,極めて有効なエステル交換反応や直接エステル化反応の触媒となることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【化2】

(ただし,rは1-20の整数である。)
そこで,触媒の回収および再使用を容易にするために,アルキル基をパーフルオロアルキル基で修飾することにより,フルオラス溶媒に“固定”させたフルオラス触媒が開発された。例えば対アニオンとして塩化物イオンを有する式(4)
【化3】

で示されるフルオラススタノキサン触媒等である。(例えば特許文献2,特許文献3,非特許文献1,非特許文献2等を参照。)
式(4)の触媒等はカルボン酸エステルとアルコールによるエステル交換反応やカルボン酸とアルコールによる直接エステル化反応に極めて有効で,高収率および高選択率が達成され,回収および再使用が可能であった。しかしながら,ルイス酸性が高くないため,効果的に触媒できる反応が上記反応に限られていた。
【特許文献1】特開2001-172210号公報
【特許文献2】特開2002-371084号公報
【特許文献3】特開2003-335727号公報
【非特許文献1】J. Xiang, S. Toyoshima, A. Orita, J. Otera, Angewandte Chemie International Edition, 40, 3670 (2001).
【非特許文献2】J. Xiang, A. Orita, J. Otera, Angewandte Chemie International Edition, 41, 4117 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,取扱いが容易で,水と有機溶媒との分離が簡便で,回収および再使用が可能な環境にやさしい,例えば式(4)等で示される塩化物を対アニオンとしたフルオラススタノキサン触媒の特徴を保持し,かつ高いルイス酸性を有する,求核付加反応または置換反応の汎用的な触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,高ルイス酸性のフルオラススタノキサン触媒を得るべく,鋭意検討した結果,特定の化合物を対アニオンとする新規なフルオラススタノキサン化合物を創製し,この化合物が高い触媒活性を示すことを見出し,本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は,以下の通りである。
1.下記式(1)または(2)で示される化合物もしくはその二量体である,多フッ素化アルキル基により修飾されたスタノキサン類。
【化4】

(ただし,R1,R2,R3およびR4はそれぞれ独立して(CH2)nRfを表し,nは0-4の整数,Rfは炭素数4-20のパーフルオロアルキル基である。Rf'は炭素数1-20の直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基であって,炭素数を超えない範囲で5個以下の水素原子を含んでいてもよく,5個以下のエーテル酸素を含んでいてもよい。XはF,Cl,BrまたはIを表す。)
【0008】
2.1項に記載のスタノキサン類を含んでなる,ルイス酸触媒求核付加反応または置換反応用ルイス酸触媒。
【0009】
3.2項に記載のルイス酸触媒を用いたルイス酸触媒求核付加反応または置換反応を行うことを特徴とする反応方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の触媒はルイス酸性が強いためにアルドール反応やアリル金属付加反応等の様々なカルボニル基やイミノ基への求核付加反応または置換反応に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下,本発明を詳細に説明する。
本発明における高い触媒活性を示す新規フルオラススタノキサン化合物とは,パーフルオロアルカンスルホナートまたはビス(パーフルオロアルカンスルホニル)アミドを対アニオンとするスタノキサン化合物であり,具体的には式(1)または(2)の化合物もしくはそれらの二量体である。
式(1),(2)において,R1,R2,R3およびR4はそれぞれ独立して(CH2)nRfを表し,Rfは炭素数4-20のパーフルオロアルキル基であり,好ましくは炭素数6-10のパーフルオロアルキル基である。炭素数が少なすぎるとフルオラス溶媒への溶解性が低下し,多すぎると活性点の密度が減少する。例えば,トリデカフルオロヘキシル基,ペンタデカフルオロヘプチル基,ヘプタデカフルオロオクチル基,ノナデカフルオロノニル基,ヘンイコサフルオロデシル基などが挙げられる。nは0-4の整数で,メチレン基,エチレン基,トリメチレン基,テトラメチレン基もしくは錫原子とRf基が直接結合している(n=0)。nが大きすぎるとフルオラス溶媒への溶解性が低下するが,合成の容易さの観点からはnは適度な長さを有することが好ましいことから,エチレン基,トリメチレン基が好ましい。
【0012】
Rf'は炭素数1-20の直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基であって,炭素数を超えない範囲で5個以下の水素原子を含んでいてもよく,下式(5)のように5個以下のエーテル酸素を含んでいてもよい。フルオラス溶媒への溶解性の観点からフッ素含有率は高い方が望ましい。好ましくは,炭素数6-10の多フッ素化有機基である。例えば,トリデカフルオロオクチル基,ヘプタデカフルオロドデシル基,トリデカフルオロヘキシル基,ペンタデカフルオロヘプチル基,ヘプタデカフルオロオクチル基,ノナデカフルオロノニル基,ヘンイコサフルオロデシル基,3,6-ジオキサ-5-トリフルオロメチル-1,1,2,2,4,4,5,7,8,8,8-ウンデカフルオロオクチル基,3,6-ジオキサ-5-トリフルオロメチル-1,1,2,2,4,4,5,7,7,8,8,8-ドデカフルオロオクチル基,3,6,9-トリオキサ-5,8-ビス(トリフルオロメチル)-1,1,2,2,4,4,5,7,7,8,10,11,11,11-テトラデカフルオロウンデシル基,3,6,9-トリオキサ-5,8-ビス(トリフルオロメチル)-1,1,2,2,4,4,5,7,7,8,10,10,11,11,11-ペンタデカフルオロウンデシル基などが挙げられる。より好ましくは,ヘプタデカフルオロオクチル基,ノナデカフルオロノニル基,ヘンイコサフルオロデシル基,3,6,9-トリオキサ-5,8-ビス(トリフルオロメチル)-1,1,2,2,4,4,5,7,7,8,10,11,11,11-テトラデカフルオロウンデシル基,3,6,9-トリオキサ-5,8-ビス(トリフルオロメチル)-1,1,2,2,4,4,5,7,7,8,10,10,11,11,11-ペンタデカフルオロウンデシル基である。
【化5】

(ただし,YはHもしくはFを表し,pは0-4の整数,qは1-5の整数である。)
【0013】
本発明のルイス酸性フルオラススタノキサン触媒の合成は,いかなる方法によっても構わないが,例えば次の方法で合成できる。
まず二塩化ジフェニル錫(IV)にヨウ化アルキルマグネシウム(R1MgIおよびR2MgI,あるいはR3MgIおよびR4MgI)を作用させて,クロロ基を高度にフッ素化されたアルキル基に置換し,次に塩化トリメチルシリル(TMSCl)とメタノールを用いて,フェニル基をクロロ基と置換して塩化物(R1R2SnCl2およびR3R4SnCl2)とする。次に水酸化ナトリウム水溶液で処理してスタノキサン(R1R2SnOおよびR3R4SnO)とする。このスタノキサンと塩化物の反応によって式(6)の化合物またはその二量体が得られる。
【化6】

(ただし,R1,R2,R3およびR4は式(1)で示される化合物と同じである。)
【0014】
式(6)で示される化合物またはその二量体をスルホン酸塩Rf'SO3M(Rf'は式(1)で示される化合物と同じである)で処理することにより,式(1)で示される化合物またはその二量体が得られる。金属塩としては,好ましくは銀(I)塩が挙げられる。本反応の溶媒は,アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン等が用いられ,好ましくはアセトンである。反応時間は1時間から7日間の範囲で,好ましくは1-2日間である。反応温度は0-100℃の間であり,好ましくは20-40℃である。
【0015】
上式(6)で示される化合物またはその二量体をビススルホンアミドの金属塩(Rf'SO2)2NM(Rf'は式(2)で示される化合物と同じである)で処理することにより,式(2)で示される化合物またはその二量体が得られる。金属塩としては,好ましくは銀(I)塩が挙げられる。本反応の溶媒は,アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン等が用いられ,好ましくはアセトンである。反応時間は1時間から7日間の範囲で,好ましくは1-2日間である。反応温度は0-100℃の間であり,好ましくは20-40℃である。
【0016】
このようにして得られた本発明のスタノキサン類は強いルイス酸性を示すことから,種々のルイス酸触媒求核付加反応または置換反応の触媒として用いることができる。この際,本発明のスタノキサン類はそのままの形態で用いることができるが,他の成分(例えば反応に不活性な成分,他のルイス酸化合物等)との混合物として用いることもできる。混合物として用いる場合,本発明のスタノキサン類を50質量%以上含むことが好ましく,80質量%以上含むことがより好ましい。
本発明のルイス酸性フルオラススタノキサン類を触媒として使用する際には,液相反応として使用することが好ましい。液相反応において,反応媒体としては汎用される有機溶媒とパーフルオロアルカンなどのフルオラス溶媒の液液二相系がさらに好ましい。有機溶媒として好ましくは脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素,酸素あるいは塩素で置換された脂肪族炭化水素,芳香族炭化水素が用いられる。具体的には,トルエン,塩化メチレン,塩化エチレン,クロロベンゼン,シクロヘキサン,テトラヒドロフラン,ジオキサンが例示される。フルオラス溶媒として好ましくはパーフルオロアルカンのみならず,エーテル酸素を含んだパーフルオロアルカン化合物,トリス(パーフルオロアルキル)アミンが用いられる。具体的には,パーフルオロヘキサン,パーフルオロオクタン,パーフルオロ(メチルシクロヘキサン),パーフルオロデカリン,GALDEN SVシリーズ,同HTシリーズ,パーフルオロ(トリブチルアミン),パーフルオロ(トリエチルアミン)が例示される。
【0017】
触媒の添加量は,反応基質に対してフルオラススタノキサン単量体として0.0001倍〜10倍mol使用することができる。好ましくは0.01倍〜1倍molである。
【0018】
触媒として使用可能な反応は,式(4)の触媒でも高い活性を有するエステル交換,直接エステル化反応はもちろん,式(4)の触媒では低活性な反応,例えばアリル化反応,アルドール反応,アセタールへの求核付加反応,マイケル反応,ディールス−アルダー反応,フリーデル−クラフツ反応,エン反応等や,その他一般のカルボニル基,イミノ基への求核付加反応または置換反応が挙げられ,アルコール,エーテル,アルデヒド,ケトン,アミン,エステルなどの含酸素あるいは含窒素有機化合物の合成に有用である。
【実施例】
【0019】
以下に合成例および触媒使用例を挙げて,本発明を具体的に説明する。
【0020】
[合成例1]
(工程1-1) ジフェニルビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)の合成
窒素雰囲気下,マグネシウム粉末1.24gを反応容器へ加え,よく加熱乾燥させた後,エーテル60mLを加え,室温で30分攪拌した。次いでヨウ化3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル21.33gのエーテル(60mL)溶液をマグネシウム懸濁液に40分かけて滴下し,室温で1.5時間反応させた。さらに二塩化ジフェニル錫5.61gのテトラヒドロフラン(30mL)溶液を0℃で滴下し,室温に戻して20時間攪拌した。再び0℃に冷却して塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止し,固形物を濾別後,ヘキサンで抽出し,食塩水で洗浄,硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルクロマトグラフィーで精製し,目的物13.64gを得た(収率94%)。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ:1.44 (t,4H), 2.31 (t,4H), 7.38-7.55 (m,10H).
19F-NMR (282MHz, CDCl3) δ:-81.08 (m,6F), -116.73 (m,4F), -122.22 (m,4F), -123.13 (m,4F), 123.54 (m,4F), -126.42 (m,4F).
119Sn-NMR (111MHz, CDCl3) δ:-64.67.
【0021】
(工程1-2) 二塩化ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)の合成
窒素雰囲気下,ジフェニルビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV) 0.967gの四塩化炭素(6mL)溶液へメタノール0.203mLを加え0℃に冷やした。次いで塩化トリメチルシリル0.305gを滴下し,ゆっくりと室温まで昇温しながら12時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮し,真空乾燥して目的物を粗生成物として得た。粗生成物をヘキサンから室温で再結晶して,目的物0.82gを白色結晶として得た(収率94%)。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ:2.35 (t,2H), 2.66 (t,2H).
19F-NMR (282MHz, CDCl3) δ:-81.04 (m,3F), -115.47 (m,2F), -122.11 (m,2F), -123.15 (m,2F), 123.53 (m,4F), -126.46 (m,2F).
119Sn-NMR (111MHz, CDCl3) δ:-3.2.
【0022】
(工程1-3) 酸化ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)の合成
二塩化ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV) 0.884gのテトラヒドロフラン(20mL)溶液へ室温で4N NaOH水溶液0.75mLを滴下し,室温で3時間攪拌した。反応液を減圧下濃縮後,真空乾燥して得られた固体にアセトン0.5mLを加えて加熱した。水60mLを加えてよく攪拌した後,デカンテーションした。上澄み液が中性になるまで,上記操作を繰り返した。次いでアセトン1mLを加えて加熱溶解させ,室温で放冷した後,上澄み液をデカンテーションした。上記操作を3回繰り返した後,ジクロロメタン4mLで5回洗浄し,減圧乾燥して目的物0.75gを得た(収率90%)。
【0023】
(工程1-4) μ-オキソ-ビス[クロロビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)]またはその二量体の合成
酸化ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV) 0.829gのアセトン(20mL)溶液へ二塩化ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV) 0.928gを加え,12時間加熱還流した。反応液を濃縮し,減圧乾燥して目的物の粗生成物を得た。粗生成物をFC-72 5mLに溶解させ,ジクロロメタン5mLで4回(計20 mL)で洗浄した。FC-72を減圧下留去し,目的物1.59gを得た(収率93%)。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ:2.12-2.19 (m,8H), 2.79-2.90 (m,8H).
119Sn-NMR (111MHz, CDCl3) δ:-98.0, -167.7.
【0024】
(工程1-5) パーフルオロオクタン-1-スルホン酸銀(I)の合成
パーフルオロオクタン-1-スルホン酸1.00gへ水15mLを加え,反応器を遮光する。次いで炭酸銀(I) 331mgを加え,65℃で6時間,室温で1時間攪拌した。氷水で吸引ろ過を行い,ろ液が中性になるまで固体を氷水で洗浄した。得られた固体をアセトンに溶解させ,不純物をろ別後,ろ液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をテトラヒドロフラン1.5mLとエーテル4mLの混合溶媒から再結晶して,目的物484mgを得た(収率40%)。
19F-NMR (282MHz, acetone-d6) δ:-79.20 (m,3F), -112.29 (m,2F), -118.59 (m,2F),-119.90 (m,6F), -120.85 (m,2F), -124.33 (m,2F).
【0025】
(工程1-6) μ-オキソ-ビス[(パーフルオロオクタン-1-スルホニルオキシ)ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)]またはその二量体の合成
(工程1-4)の化合物 514mgのアセトン(3mL)溶液へパーフルオロオクタン-1-スルホン酸銀(I) 364mgのアセトン(2mL)溶液を加え,1日攪拌した。固形物をろ別後,ろ液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をアセトン(2mL)に溶解させ,その溶液をジクロロメタン(20mL)中へ滴下した。吸引ろ過を行い,固体をジクロロメタンで洗浄し,次いでFC-72で洗浄した。精製が不十分なときは,固体をFC-72に溶解させ,酢酸エチルで不純物を抽出,除去した。それでも精製が不十分なときは,アセトン/アセトニトリルで不純物を抽出,除去した。FC-72を減圧下留去し本発明化合物539mgを得た(収率68%)。
1H-NMR (300MHz, acetone-d6) δ:2.07-2.13 (m,4H), 2.73-2.86 (m,4H).
19F-NMR (282MHz, acetone-d6) δ:-79.28 (t,18F), -112.28 (t,4F), -114.66 (m,8F), -118.72 (m,4F), -120.20 (m,20F), -121.30 (m,20F), -124.55 (m,12F).
119Sn-NMR (111MHz, acetone-d6) δ:-241.7, -295.9.
【0026】
[合成例2]
(工程2-1) 銀(I) ビス(パーフルオロオクタン-1-スルホニル)アミドの合成
ビス(パーフルオロオクタン-1-スルホニル)アミン1.96gへ水15mLを加え,反応器を遮光する。次いで炭酸銀(I) 331mgを加え,65 ℃で6時間,室温で1時間攪拌した。氷水で吸引ろ過を行い,ろ液が中性になるまで固体を氷水で洗浄した。得られた固体をアセトンに溶解させ,不純物をろ別後,ろ液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をテトラヒドロフラン1.5mLとエーテル4mLの混合溶媒から再結晶して,目的物916mgを得た(収率42%)。
19F-NMR (282MHz, acetone-d6) δ:-79.18 (t,6F), -112.30 (t,4F), -118.55 (m,4F), -119.90 (m,12F), -120.80 (m,4F), -124.24 (m,4F).
【0027】
(工程2-2) μ-オキソ-[[ビス(パーフルオロオクタン-1-スルホニル)アミノ]ビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)][クロロビス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル)錫(IV)]またはその二量体の合成
(工程1−4)の化合物 514mgのアセトン(3mL)溶液へ(工程2−1)の銀(I) ビス(パーフルオロオクタン-1-スルホニル)アミド326mgのアセトン(2mL)溶液を加え,1日攪拌した。固形物をろ別後,ろ液を減圧下濃縮した。得られた粗生成物をアセトン(2mL)に溶解させ,その溶液をジクロロメタン(20mL)中へ滴下した。吸引ろ過を行い,固体をジクロロメタンで洗浄し,次いでFC-72で洗浄した。精製が不十分なときは,固体をFC-72に溶解させ,酢酸エチルで不純物を抽出,除去した。それでも精製が不十分なときは,アセトン/アセトニトリルで不純物を抽出,除去した。FC-72を減圧下留去し本発明化合物558mgを得た(収率70%)。
1H-NMR (300MHz, acetone-d6) δ:2.04-2.10 (m,4H), 2.69-2.87 (m,4H).
19F-NMR (282MHz, acetone-d6) δ:-79.4 (t,18F), -112.12 (t,4F), -114.65 (m,8F), -118.70 (m,4F), -120.15 (m,20F), -121.29 (m,20F),-124.50 (m,12F).
119Sn-NMR (111MHz, acetone-d6) δ:-240.5, 293.5.
【0028】
[使用例1] スタノキサン=パーフルオロアルカンスルホナート化合物
(工程1-6)の化合物 10mgのアセトニトリル(3mL)溶液へベンズアルデヒド106mgを加え,次いでケテン=エチルトリメチルシリルアセタール 260mgを加えた。室温で2時間攪拌した後,水5mLを加えて反応を停止し,酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4:1)によって精製し,3-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸エチル179mgを得た(収率92%)。
【0029】
[使用例2] スタノキサン=ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)アミド化合物
(工程2-2)の化合物 10mgのアセトニトリル(3mL)溶液へベンズアルデヒド106mgを加え,次いでケテン=エチルトリメチルシリルアセタール 260mgを加えた。室温で2時間攪拌した後,水5mLを加えて反応を停止し,酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4:1)によって精製し,3-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸エチル177mgを得た(収率91%)。
【0030】
[比較使用例1] 塩化スタノキサン化合物
使用例1の(工程1−6)の化合物の代わりに式(4)で示される化合物10mgを用いた以外,使用例1と同様の反応を行ったが,反応はほとんど進行しなかった。
【0031】
[使用例3]
ベンズアルデヒド=ジメチルアセタール152mgのアセトニトリル(2 mL)溶液へ(工程1-6)の化合物1mgのアセトニトリル(1mL)溶液を0℃で加え,次いで1-フェニル-1-(トリメチルシリルオキシ)エチレン 250mgを加えた。0℃で3時間攪拌した後,水5mLを加えて反応を停止し,酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6:1)によって精製し,3-メトキシ-1,3-ジフェニルプロパノン226mgを得た(収率94%)。
【0032】
[使用例4]
ベンズアルデヒド=ジメチルアセタール152mgのアセトニトリル(2mL)溶液へ(工程2-2)の化合物 1mgのアセトニトリル(1mL)溶液を0℃で加え,次いで1-フェニル-1-(トリメチルシリルオキシ)エチレン 250mgを加えた。0℃で3時間攪拌した後,水5mLを加えて反応を停止し,酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=6:1)によって精製し,3-メトキシ-1,3-ジフェニルプロパノン221mgを得た(収率92%)。
【0033】
[比較使用例2]
使用例3の(工程1−6)の化合物の代わりに式(4)で示される化合物10mgを用いた以外,使用例3と同様の反応を行ったが,反応はほとんど進行しなかった。
【0034】
[使用例5]
(工程1-6)の化合物 50mgのテトラヒドロフラン(3mL)溶液へアセトフェノン120mgを加え,次いでテトラアリル錫(IV) 85mgを加えた。65℃で24時間攪拌し,室温まで冷却した後,水5mLを加えてさらに1時間攪拌した。酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5:1)によって精製し,2-フェニル-4-ペンテン-2-オール171mgを得た(収率97%)。
【0035】
[使用例6]
(工程2-2)の化合物 50mgのテトラヒドロフラン(3mL)溶液へアセトフェノン120mgを加え,次いでテトラアリル錫(IV) 85mgを加えた。65℃で24時間攪拌し,室温まで冷却した後,水5mLを加えてさらに1時間攪拌した。酢酸エチルで3回抽出,飽和食塩水で洗浄し,無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5:1)によって精製し,2-フェニル-4-ペンテン-2-オール146mgを得た(収率83%)。
[比較使用例3]
使用例5の(工程1−6)の化合物の代わりに式(4)で示される化合物10mgを用いた以外,使用例5と同様の反応を行ったが,反応はほとんど進行しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のフルオラススタノキサンルイス酸触媒は,取扱いが容易で,有機溶媒との分離が簡便で,かつ回収および再使用が可能な環境にやさしいものである。さらに,アルドール反応やアリル金属付加反応などの様々なカルボニル基やイミノ基への求核付加反応または置換反応に適用できる汎用性の高い触媒であり,産業上大いに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または(2)で示される化合物もしくはその二量体である,多フッ素化アルキル基により修飾されたスタノキサン類。
【化1】

(ただし,R1,R2,R3およびR4はそれぞれ独立して(CH2)nRfを表し,nは0-4の整数,Rfは炭素数4-20のパーフルオロアルキル基である。Rf'は炭素数1-20の直鎖または分岐鎖を有するパーフルオロアルキル基であって,炭素数を超えない範囲で5個以下の水素原子を含んでいてもよく,5個以下のエーテル酸素を含んでいてもよい。XはF,Cl,BrまたはIを表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のスタノキサン類を含んでなる,ルイス酸触媒求核付加反応または置換反応用ルイス酸触媒。
【請求項3】
請求項2に記載のルイス酸触媒を用いたルイス酸触媒求核付加反応または置換反応を行うことを特徴とする反応方法。

【公開番号】特開2006−347994(P2006−347994A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179418(P2005−179418)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月28日 財団法人野口研究所主催の「The 3rd Symposium of Noguchi Fluorous Project」において文書をもって発表
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】