説明

レチクル収納装置およびレチクル保管方法

【課題】保管時のペリクル内雰囲気を清浄化し、露光時にレチクルヘイズが発生することを抑える。
【解決手段】通気孔を有する支持枠と、該支持枠に張られたペリクル膜と、を備えるペリクルが取り付けられたレチクルを、ストッカ20内に収納するレチクル収納装置10であって、第一ガス(窒素ガス)と、ペリクル膜に対する透過率が第一ガスよりも高い第二ガス(乾燥空気)とで、それぞれストッカ20内をパージするガス流路30を備えるレチクル収納装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチクル収納装置およびレチクル保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置やディスプレイ装置用のデバイスの製造においては、レチクルに形成された微細なパターンを基板上に転写するフォトリソグラフィー工程が広く用いられている。ここで、レチクルに異物が付着して転写パターンに不具合が生じないよう、レチクルのパターン形成面をペリクルで覆い、異物の付着面とパターン形成面との焦点深度を相違させることが行われている。
【0003】
しかし、ペリクルの内部に存在する異物については、パターン形成面と焦点深度が近接して転写パターンに不具合を生じるため問題となる。かかる問題を解決する技術に関し、下記特許文献1には、ペリクルをレチクルに装着する際にペリクル内に異物が侵入することを防止する装置が記載されている。かかる装置は、ペリクル膜の支持枠に設けた二つの通気孔の一方より高圧のエアーを吹き込み、他方より排気することで、ペリクルの内から外に向かうクリーンエアーの気流を生じ、異物の侵入を防止するものである。
また、下記特許文献2には、ペリクル膜の支持枠に設けた通気孔に対して、粘着層を介して所定のメッシュサイズのフィルタを装着することにより、異物の侵入を所望のレベルに低減する発明が記載されている。
【0004】
一方、ペリクルが取り付けられたレチクルは、温度および湿度が管理されたストッカに収納されて保管される。かかる収納装置に関しては、例えば下記特許文献3に記載のものが知られている。レチクルは個別にケースに収容されて、ストッカ内に多段に並べて収納され、乾燥空気でパージされることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−49443号公報
【特許文献2】特開2000−305253号公報
【特許文献3】特開平6−258820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ペリクル内雰囲気が汚染されていると、レチクルに光照射してパターンを転写する際に、汚染ガスの光反応生成物が新たな異物となってペリクル内に生じることが問題となる。
汚染ガスの発生源は様々であるが、ペリクル膜と支持枠、またはレチクルと支持枠とを接合する接着剤や粘着剤からのアウトガスはその一因である。ペリクルを透過する露光光によるアウトガスの光反応生成物がレチクルのパターン形成面に異物として付着すると、かかる異物は焦点深度がパターンと近接することから転写パターンに欠陥が生じる。かかる欠陥を、レチクルヘイズと呼ぶ。
【0007】
ペリクル内雰囲気の汚染は、レチクルにペリクルが取り付けられた後、保管されている間に徐々に上昇する。したがって、上記特許文献1に記載の装置のように、ペリクルをレチクルに装着する際にクリーンエアーの気流によってペリクル内をパージしたとしても、光照射時のペリクル内雰囲気を清浄化することはできない。
また、上記特許文献2に記載のペリクルは、内部の空気を排出するものではないため、ペリクル内に発生したアウトガスを外部に排気することはできない。また、フィルタが装着された通気孔は気体の出入りを阻害するものではないため、ペリクル外部の汚染ガスがペリクル内に侵入することを防止することもできない。
したがって、上記各特許文献に記載の方法では、保管時のペリクル内雰囲気を清浄化することができず、露光時には上記のレチクルヘイズの問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、通気孔を有する支持枠と、該支持枠に張られたペリクル膜と、を備えるペリクルが取り付けられたレチクルを、ストッカ内に収納するレチクル収納装置であって、
第一ガスと、前記ペリクル膜に対する透過率が前記第一ガスよりも高い第二ガスとで、それぞれ前記ストッカ内をパージするガス流路を備えるレチクル収納装置が提供される。
【0009】
上記発明によれば、第一ガスと第二ガスとに交互に切り換えてストッカ内をパージすることができる。そして、ペリクル膜の透過率の異なるパージガスを交互に切り換えることで、ペリクル膜を出入りするガスの流量が一時的に不釣り合いとなってペリクル内が交互に昇圧および減圧され、ペリクルが初期状態から収縮状態または膨張状態に遷移する。これにより、ペリクルが膨張状態から初期状態に回復する際、および初期状態から収縮状態に遷移する際に、通気孔を通じてペリクル内のガスが排気される。そして、ペリクル内で発生したアウトガスやペリクル内に一旦流入した汚染ガスは、パージガスに置換されてストッカから外部に排出されるため、収納されているペリクルは内部雰囲気が清浄化される。
【0010】
また本発明によれば、通気孔を有する支持枠と、該支持枠に張られたペリクル膜と、を備えるペリクルが取り付けられたレチクルを保管する方法であって、
第一ガスでパージされていた前記レチクルを、前記ペリクル膜に対する透過率が前記第一ガスよりも高い第二ガスでパージして、前記ペリクルを膨張させるとともに前記ペリクル膜を伸長させる膨張工程と、
伸長した前記ペリクル膜の復元力により、前記通気孔を通じて前記ペリクル内部のガスを前記ペリクルの外部に排出するとともに前記ペリクルを収縮させる収縮工程と、
をおこなうことを特徴とするレチクル保管方法が提供される。
【0011】
上記発明によれば、保管状態のペリクルが膨張状態から収縮する際に、ペリクル内部のガスが通気孔を通じて外部に排出され、ペリクル内雰囲気が清浄化される。
【0012】
なお、上記各発明において、第一ガスおよび第二ガスは、それぞれ単一種のガス成分で構成してもよく、または複数種のガス成分を混合して構成してもよい。複数種のガス成分を混合してなる場合、その一部成分については第一ガスと第二ガスとで共通としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレチクル収納装置およびレチクル保管方法によれば、収納または保管されたレチクルのペリクル内雰囲気が清浄化され、レチクルヘイズの問題が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態にかかるレチクル収納装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態のレチクル収納装置に収納されるレチクルがレチクルケースに収容された状態を示す模式図である。
【図3】ストッカにレチクルケースが収容された状態を示す模式図である。
【図4】本実施形態のレチクル保管方法を示すフローチャートである。
【図5】(a)〜(d)は、予備工程を示す説明図である。
【図6】(a)〜(d)は、本実施形態の保管方法における膨張工程と収縮工程を示す説明図である。
【図7】第二実施形態にかかるレチクル収納装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態にかかるレチクル収納装置10の構成を示す模式図である。
図2は、本実施形態のレチクル収納装置10に収納されるレチクル100がレチクルケース150に収容された状態を示す模式図である。
【0017】
<レチクル収納装置>
はじめに、本実施形態のレチクル収納装置10の概要について説明する。
本実施形態のレチクル収納装置10は、通気孔120を有する支持枠114と、支持枠114に張られたペリクル膜112と、を備えるペリクル110が取り付けられたレチクル100を、ストッカ20内に収納するものである。
そしてレチクル収納装置10は、第一ガス(窒素ガス)と、ペリクル膜112に対する透過率が第一ガスよりも高い第二ガス(乾燥空気)とで、それぞれストッカ20内をパージするガス流路30を備えている。
【0018】
次に、本実施形態のレチクル収納装置10について詳細に説明する。
レチクル収納装置10は、複数枚のレチクル100を並べて収納可能なストッカ20に対して、窒素ガス(N)が充填された第一ガス容器50と、清浄度の高い乾燥空気(air)が充填された第二ガス容器52が、配管32,34を介して接続されている。第一ガス容器50および第二ガス容器52の充填圧は、ストッカ20の所定の内圧(収納圧)以上である。
ストッカ20の上流側にあたる配管32,34には、それぞれ開閉弁42,44が設けられており、第一ガス容器50および第二ガス容器52からストッカ20へのガスの流入を所定量および所定タイミングに調整可能である。
【0019】
他方、ストッカ20には配管36が連通して接続され、ストッカ20内のガスを排気口38より排出可能である。排気口38には減圧ポンプ(図示せず)が接続されており、ストッカ20内のガスを吸引して排気することが可能である。
配管36の流路の開閉は、配管36の途中に設けられた開閉弁46によりおこなわれる。
【0020】
本実施形態のレチクル収納装置10は、ストッカ20内の状態を検知する検出部(酸素濃度計67)と、検出部(酸素濃度計67)の検知結果に基づいてガス流路30を通じてストッカ20内に供給されるガスを第一ガス(窒素ガス)と第二ガス(乾燥空気)とに交互に切り替える制御部60と、をさらに備えている。
【0021】
より具体的には、本実施形態の検出部は、ストッカ20内の第一ガス(窒素ガス)または第二ガス(乾燥空気)の濃度を検知する酸素濃度計67である。
【0022】
ここで、検出部が第一ガスまたは第二ガスの濃度を検知するとは、第一ガスまたは第二ガスに含有される特定の成分の濃度を検知して、第一ガスまたは第二ガスの濃度に換算することを含む。すなわち、本実施形態のように、酸素濃度計67によってストッカ20内の酸素濃度を検知して、乾燥空気(第二ガス)の濃度を比例演算によって検出してもよい。
【0023】
酸素濃度計67と制御部60とは、信号線69によって電気的に接続されている。なお、酸素濃度計67は、ガス流路30の開口端とは離間した位置、具体的にはストッカ20の収納部22における互いに異なる内壁面に設けられるとよい。これにより、収納部22に流入するパージガスの影響を受けず、収納部22の内部の酸素濃度を酸素濃度計67によって正確に測定することができる。
【0024】
酸素濃度計67はストッカ20内における酸素濃度を所定の時間間隔で測定し、信号線69を通じて検出信号を制御部60に送信する。
制御部60は、検出信号に基づいて、ストッカ20内における酸素濃度および乾燥空気(第二ガス)の濃度を検知する。乾燥空気中の酸素濃度は既知であり、具体的には約20%で一定であることから、制御部60は、酸素濃度計67からの検出信号(酸素濃度値)に基づいて、ストッカ20内における乾燥空気(第二ガス)の濃度を容易に演算することができる。
【0025】
ガス流路30の具体的な切り替え動作は以下のようにして行う。すなわち、開閉弁42,44,46は電磁弁であり、それぞれ制御部60と信号線62,64,66により接続されている。
そして、制御部60は、開閉弁42,44,46の開閉を切り換えることにより、窒素ガスと乾燥空気とによってストッカ20を交互にパージする。
具体的には、第一パージ工程として、制御部60は開閉弁42と開閉弁46に対して開放命令を送信する。開閉弁42,46が開放されると、ストッカ20内の初期空気は排気口38より排気され、ストッカ20内に第一ガス容器50より窒素ガスが供給される。なお、開閉弁44は閉止しておく。開閉弁46を開放してストッカ20より初期空気の排気を開始するタイミングと、開閉弁42を開放してストッカ20に窒素ガスを供給するタイミングについては、互いに同時でもよく、相違してもよい。ストッカ20の内圧を所定に保持する観点からは、両者をほぼ同時とするとよい。
【0026】
所定時間の排気および給気がおこなわれたところで、制御部60は開閉弁46と開閉弁42に対してそれぞれ閉止命令を送信する。窒素ガスによるパージ時間は、予め制御部60に設定された時間に亘っておこなってもよく、または、ストッカ20の内圧を制御部60で検知して所定の内圧となった時点で開閉弁46と開閉弁42を個別に閉止してもよい。制御部60でストッカ20の内圧を検知する場合には、ストッカ20内に設置した圧力センサ(図示せず)の出力信号を、図示しない信号線を通じて制御部60に取り込むとよい。
【0027】
第一パージ工程の終了後、所定の時間間隔をあけたのちに第二パージ工程をおこなう。
第二パージ工程では、制御部60は開閉弁44および開閉弁46をそれぞれ開放させ、ストッカ20内の窒素ガスを排気口38より排出するとともに、ストッカ20内に第二ガス容器52より乾燥空気を導入する。
そして、所定時間の排気および給気がおこなわれたところで、制御部60は開閉弁46と開閉弁44を閉止する。
【0028】
そして、制御部60は、所定の時間間隔をあけたのちに、再び第一パージ工程として、開閉弁42および開閉弁46を開放して、ストッカ20内の乾燥空気を排気口38より排出するとともに、ストッカ20内に第一ガス容器50より窒素ガスを導入する。
【0029】
以降、レチクル収納装置10では、第二パージ工程と第一パージ工程とが繰り返される。
このように、制御部60によって開閉弁42,44,46の開閉を繰り返し切り換えることにより、レチクル収納装置10はストッカ20内が窒素ガスと乾燥空気により交互にガスパージされる。
なお、第一パージ工程と第二パージ工程の繰り返し回数は、各1回ずつ以上である限り任意である。
また、第一・第二パージ工程同士の間の時間間隔は特に限定されないが、後述するように各パージ工程にて膨張および収縮するペリクル110およびペリクル膜112の変形動作が十分に減衰した後に、次のパージ工程をおこなうとよい。
【0030】
本実施形態のレチクル収納装置10は、レチクルケース150に収容されたレチクル100を、かかるガスパージされた状態で保管するものである。
【0031】
図2に示すレチクル100およびレチクルケース150について説明する。
レチクル100は、フォトマスクとも呼ばれ、基板の一方の主面(パターン形成面104)に微細なパターン102が形成されている。パターン形成面104には、異物の付着を防止するためのペリクル110が取り付けられている。ペリクル110は、支持枠114と、これに張設されたペリクル膜112とからなる。支持枠114は、パターン102の全体を囲う形状および寸法にて構成されている。
対向するパターン形成面104とペリクル膜112とのクリアランスは、3〜6mm程度とすることができる。
【0032】
ペリクル膜112は、レチクル100に照射されるフッ化アルゴン(ArF)などの露光光に対する透過率が高い材料からなる。具体的には、ニトロセルロースや酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂材料や非晶質フッ素系樹脂材料など、ガス透過性の透明樹脂材料を例示することができる。
【0033】
支持枠114とペリクル膜112、または支持枠114とレチクル100は、樹脂材料により互いに接合されている。
具体的には、支持枠114とペリクル膜112とを接合する接着部116には、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、またはシリコーン樹脂系などの接着剤を用いることができる。一方、支持枠114とレチクル100とを接続する粘着部118には、ポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂またはアクリル樹脂等を用いることができる。
【0034】
ペリクル110は、支持枠114の一方の開口がペリクル膜112で閉止された蓋状をなしている。ペリクル膜112をパターン形成面104に対向させ、支持枠114にてパターン102を覆うようにペリクル110をレチクル100に装着することで、パターン102はペリクル110の外部の異物から保護される。そしてペリクル110とレチクル100との間には、内部空間130が形成される。
【0035】
なお、支持枠114の側面には、内部空間130の内外の気圧差を解消するための通気孔120が穿設されている。
通気孔120の孔径は、一例として直径0.1〜1mm程度とすることができる。通気孔120には、ペリクル110の外部からの異物の侵入を防止するため、直径1〜10μm程度のメッシュサイズのフィルタ122が装着されている。
かかるメッシュサイズのフィルタ122は、気体分子の出入りを許容し、固体粒子の出入りを遮断するものである。
【0036】
レチクル100を収容するレチクルケース150は、レチクル100をセットするベース部152と、ペリクル110を覆うカバー部154からなる。カバー部154は、ベース部152に対して着脱可能である。
カバー部154は、ペリクル膜112と十分に離間しており、ペリクル膜112がレチクル100に対して面直方向に往復揺動してもカバー部154に接触することはない。
【0037】
カバー部154には通孔156が穿設されており、内部空間130とレチクルケース150の外部とは通気孔120、フィルタ122および通孔156を通じて連通している。
ベース部152には、セットされたレチクル100を保持するホルダ158が設けられている。ホルダ158は、レチクル100を保持するロック状態と、レチクル100をベース部152に取り付けまたは取り外し可能に開放するアンロック状態とに切替駆動される。
【0038】
樹脂材料からなる接着部116および粘着部118からは、経時的にアウトガスが放出される。アウトガスの成分としては、樹脂材料中に含まれるトルエンやキシレンなどの残留有機溶剤や、未重合のモノマーなどの有機分子が挙げられる。
かかるアウトガスは、ペリクル110の外部に放出されるものと、内部空間130の内部に放出されるものとが存在する。
アウトガスに含まれる有機分子が内部空間130の内部に残留したままレチクル100がフォトリソグラフィー工程に供されると、当該有機分子が光反応し、その生成物がパターン形成面104に付着して上述のレチクルヘイズを生じる。
【0039】
樹脂材料からのアウトガスに含まれる有機分子は、ペリクル膜112を透過せず、通気孔120を通過可能である。
したがって、内部空間130に放出されたアウトガスを、ペリクル110の内部雰囲気とともに通気孔120より外部に排気する力を作用させることで、内部空間130を清浄化することができる。
【0040】
本実施形態のレチクル収納装置10では、ペリクル膜112に対する透過率のより低い第一ガスと、透過率のより高い第二ガスとで、それぞれストッカ20内をパージする。これにより、ペリクル110の内圧を一時的に上昇させてペリクル膜112を伸長させ、その弾性復元力によって内部雰囲気の排気力を得ている。
すなわち、レチクル収納装置10を用いた本実施形態の保管方法では、揺動するペリクル膜112により、樹脂材料からのアウトガスに含まれる有機分子を、通気孔120を通じてペリクル膜112の外部に排出する。
【0041】
したがって、パージガスとして用いられる第一ガスと第二ガスの組み合わせは、ペリクル膜112の気体透過率に応じて種々のものより選択することができる。
【0042】
本実施形態では、第一ガスを窒素ガスとし、第二ガスを空気としている。これは、セルロース系樹脂材料やゴム材料などの一般的なペリクル膜112に対する酸素透過率が窒素透過率よりも高いことを利用したものである。
ペリクル膜112に対する第二ガスの透過係数は、第一ガスの透過係数よりも大きい限り特に限定されない。好ましくは、ペリクル膜112に対する第二ガスの透過係数が、第一ガスの透過係数の40倍以上であることが好ましい。
【0043】
第一ガスまたは第二ガスのうち少なくとも一方には、単一種の不活性ガスを用いてもよい。ここで、不活性ガスには窒素および希ガス類を含む。したがって、本実施形態に代えて、第一ガスとして、より分子量の大きな希ガス(例えばアルゴン)を用い、第二ガスとして、より分子量の小さな希ガス(例えばヘリウム)を用いてもよい。同様に、第一ガスとして窒素、第二ガスとしてヘリウムの組み合わせを用いてもよい。
【0044】
図1に示すように、ストッカ20の収納部22には、レチクルケース150を多段に収納するための棚24が設けられている。棚24の段数、形状および配置は特に限定されない。ストッカ20は、収納部22の開口を開閉可能に閉止する扉(図示せず)を備えている。扉は、レチクルケース150を収納部22に出し入れする場合に開放され、レチクルケース150(レチクル100)の保管時には閉止される。
図3は、ストッカ20にレチクルケース150が収容された状態を示す模式図である。同図では、酸素濃度計67は図示を省略している。収納部22に多段に設けられた棚24にはそれぞれレチクルケース150が嵌め込まれて保持・収納されている。レチクルケース150には、ペリクル110が取り付けられたレチクル100が収容されている。
レチクルケース150の通孔156、およびペリクル110の通気孔120,フィルタ122を通じて、ストッカ20の収納部22とペリクル110の内部空間130とは連通している。したがって、各ペリクル110の内部空間130(内部雰囲気)に含まれるアウトガスは、パージガスとともに収納部22より排気される。
【0045】
<レチクル保管方法>
本実施形態のレチクル保管方法の概要について説明する。
図4は、本実施形態のレチクル保管方法(以下、本方法と略記する場合がある。)を示すフローチャートである。
【0046】
本方法は、通気孔120を有する支持枠114と、支持枠114に張られたペリクル膜112と、を備えるペリクル110が取り付けられたレチクル100を保管する方法に関する(図2を参照)。
そして、本方法では、第一ガス(窒素ガス)でパージされていたレチクル100を、ペリクル膜112に対する透過率が第一ガスよりも高い第二ガス(乾燥空気)でパージして、ペリクル110を膨張させるとともにペリクル膜112を伸長させる膨張工程S52と、伸長したペリクル膜112の復元力により、通気孔120を通じてペリクル110内部のガスをペリクル110の外部に排出するとともにペリクル110を収縮させる収縮工程S54と、をおこなう。
【0047】
つぎに、本方法をさらに詳細に説明する。図4に示すように、本方法では、レチクル収容工程S10、ケース収納工程S20、膨張工程S52、収縮工程S54、ケース取出工程S80およびレチクル取出工程S90を、この順に行う。
レチクル収容工程S10では、通孔156を備えるレチクルケース150にレチクル100を収容する(図2を参照)。
ケース収納工程S20では、レチクル100が収容されたレチクルケース150を、第一ガス(窒素ガス)および第二ガス(乾燥空気)が切り替えて供給されるストッカ20に収納する(図3を参照)。
膨張工程S52および収縮工程S54は、それぞれ一回または複数回繰り返して行う。
ケース取出工程S80では、収納されていたレチクルケース150をストッカ20より取り出す。
レチクル取出工程S90では、ストッカ20から取り出されたレチクルケース150よりレチクル100を取り出す。
【0048】
レチクル収容工程S10およびケース収納工程S20は、常温常圧の清浄な乾燥空気雰囲気下で行うことができる。
レチクル100がそれぞれ収容された複数のレチクルケース150がストッカ20に並べて収納されると、ストッカ20は扉(図示せず)が閉止されて、ガス流路30および配管36を除いて気密に保持される。
【0049】
図5(a)〜(d)は、かかる膨張工程S52および収縮工程S54をおこなうための予備工程として、ストッカ20の初期パージガスである乾燥空気(air)を、第一ガスである窒素ガスに置換する工程を示す説明図である。
本方法の場合、予備工程は、レチクル収納装置10において、図4に示す第一パージ工程S30を実施することによりおこなわれる。
【0050】
ただし、本方法に代えて、ストッカ20の初期パージガスが窒素ガスである場合、すなわち、ケース収納工程S20を窒素雰囲気下で行った場合には、予備工程としての第一回目の第一パージ工程S30は不要となる。
【0051】
図5(a)は、初期状態として乾燥空気(air)が充填されたストッカ20の棚24にセットされたレチクルケース150(いずれも図3を参照)に収容されたレチクル100の模式図である。説明のため、図5ではレチクル100の天地方向を図3と反転させている。すなわち、レチクル100のパターン形成面104は、図5各図では上面側にあたる。かかるパターン形成面104には、パターン102(図2を参照)を囲むように支持枠114が周着され、ペリクル膜112が対向して設けられている。すなわち、パターン102は、支持枠114およびペリクル膜112を含むペリクル110により覆われている。
本実施形態のペリクル膜112は、酸素透過率が窒素透過率よりも高い材料からなる。
したがって、酸素を含有する乾燥空気(初期パージガス)は、窒素ガス(第一ガス)よりもペリクル膜112の透過速度が全体として高いガスである。
【0052】
同図(a)に示すように、初期状態のペリクル110の内部空間130には乾燥空気(air)が充満し、ストッカ20の収納部22にあたるペリクル110の外部空間140も乾燥空気(air)で満たされている。したがって、ペリクル膜112および通気孔120を通じた外部空間140と内部空間130との間のガスの出入りは平衡状態にある。
ストッカ20の内圧は特に限定されるものではないが、100から200kPa程度とすることができる。
【0053】
かかる平衡状態では、乾燥空気(air)を構成する窒素ガスや酸素ガスは、ペリクル膜112や通気孔120をペリクル110の外部から内部に通過する速度と、逆に内部から外部に通過する速度が、ガス成分ごとに等しい。よって、ペリクル110の内圧と外圧とは等しくなる。
【0054】
この状態から、窒素ガス(第一ガス)でレチクル100をパージする(図4:第一パージ工程S30)。第一パージ工程S30の開始時のペリクル110の状態を同図(b)に示す。パージ圧(第一パージ圧)は特に限定されないが、本実施形態では、初期状態のストッカ20の内圧(初期パージ圧)と等しくする。具体的には、150kPaのパージ圧とすることができる。
【0055】
窒素ガスにより外部空間140をパージすると、ペリクル膜112の内部には乾燥空気に含まれる形で酸素ガス(O)が存在するのに対して外部には窒素ガス(N)がもっぱら存在することとなる。すなわち、ペリクル膜112を外部から内部に透過するガス(窒素ガス)の透過速度よりも、ペリクル膜112を内部から外部に透過するガス(酸素ガス)の透過速度の方が大きくなる。
一方、通気孔120やフィルタ122(図2を参照)の孔径は酸素分子や窒素分子よりも十分に大きいため、通気孔120を通じたガスの出入りの速度はペリクル110の内外圧力差に支配される。本実施形態の場合、第一パージ工程のパージ圧は初期圧力と等しいため、通気孔120を通じたガスの流入速度と流出速度とはバランスする。
これにより、ペリクル110の内部空間130からはペリクル膜112を通じた酸素ガスの流出が卓越し、ペリクル110の内圧は初期圧力よりも降下する。
【0056】
同図(c)は、第一ガス(窒素ガス)のパージ直後のペリクル110の状態(非平衡状態S32)を示す模式図である。
ペリクル110は、内圧が降下したことにより収縮する。本実施形態の支持枠114およびレチクル100は十分な剛性を有しており、ペリクル膜112が伸長してレチクル100に向かって凹形状に変形することによりペリクル110は収縮する。
ペリクル膜112の変形深さとしては、0.2〜1mm程度が好ましい。ペリクル膜112がかかる凹変形をするよう、ペリクル膜112と第一ガスとの組み合わせを選択するとよい。
【0057】
収縮したペリクル110には、通気孔120を通じて外部雰囲気が吸引され、伸長したペリクル膜112は弾性復元力により徐々に初期状態に回復する。
【0058】
同図(d)は、第一ガスのパージから所定時間が経過してペリクル膜112が初期状態に回復した状態(平衡状態S34)を示す模式図である。
通気孔120から窒素ガスを内部空間130に導入したペリクル110は、初期状態の体積に回復するとともに、内部空間130が窒素ガスで充満されている。
また、ペリクル110の外部空間140は、パージされた窒素ガスで満たされていることから、ペリクル膜112および通気孔120を通じたペリクル110へのガスの流入と流出とは平衡する。
【0059】
第一パージ工程S30におけるストッカ20内のガス組成は、レチクル収納装置10の検出部(酸素濃度計67)による測定結果に基づいて知ることができる。
例えば、酸素濃度計67によって測定されるストッカ20内の酸素濃度は、第一パージ工程S30の開始時点における約20%から、第一ガス(窒素ガス)の45分間のパージによって、実質的に0%まで下がる。
【0060】
本方法では、第一ガス(窒素ガス)もしくは第二ガス(乾燥空気)の濃度が、予め定められた閾値THに到達した場合に、レチクル100をパージするガスを第一ガス(窒素ガス)または第二ガス(乾燥空気)に切り替えるとよい。
【0061】
閾値THは、制御部60(図1を参照)に記憶させておく。閾値THは複数を設定するとよい。
また、第一ガス(窒素ガス)または第二ガス(乾燥空気)に含まれる特定のガス成分の濃度を閾値THとして設定してもよい。
【0062】
具体的には、本実施形態では、第二ガス(乾燥空気)に含まれる酸素の濃度を、閾値TH(TH1、TH2)として制御部60に設定しておく。例えば、ストッカ20内の酸素濃度の下側閾値TH1=1%、上側閾値TH2=19%と設定するとよい。そして、第一パージ工程S30によってストッカ20内が窒素ガスでパージされて、酸素濃度計67による酸素濃度測定値が1%(下側閾値TH1)を下回ったときに、制御部60は第一パージ工程S30の終了と判定する。
【0063】
なお、乾燥空気における酸素の比率が約20%であることから、酸素濃度計67によって測定された酸素濃度が1%であるとき、第二ガス(乾燥空気)の濃度は約5%にあたる。したがって、酸素濃度の下側閾値TH1=1%と制御部60に設定することは、第二ガス(乾燥空気)の下限濃度の閾値THを5%と設定することに相当する。
【0064】
図4のフローチャートに示すように、レチクル収納装置10によるレチクル100の保管が継続する場合(ステップS40:N)、制御部60は、信号線62,64,66を通じて開閉弁42の閉止、開閉弁44の開放、および開閉弁46の開放を実行する。
これにより、ストッカ20の収納部22にはガス流路30を通じて第二ガス(乾燥空気)が供給されて第二パージ工程S50が行われる。
【0065】
一方、第一パージ工程S30とともにレチクル100の保管が終了する場合(ステップS40:Y)、本方法では、乾燥空気による最終パージ工程S70を行った後にケース取出工程S80を行う。
【0066】
レチクルケース150をストッカ20の外に出す直前に行う最終パージ工程S70に用いるパージガスには、清浄度の高い乾燥空気を用いる。これは、ストッカ20から取り出されたレチクル100の内部雰囲気と外部雰囲気の出入りを抑制して、ストッカ20の外部でペリクル膜112が収縮または膨張状態にならないようにするためである。このため、最終パージ工程S70では、ストッカ20の外部雰囲気と同じ気体、すなわち乾燥空気によってレチクル100をパージする。
これにより、乾燥空気雰囲気下で行われるフォトリソグラフィー工程にレチクル100が供されている間にペリクル膜112が揺動することがなく、ペリクル110の焦点深度が変化する不具合が生じることを防止している。
【0067】
図6(a)〜(d)は、本方法における膨張工程S52と収縮工程S54を示す説明図である。膨張工程S52は、レチクル収納装置10において第二パージ工程S50を実施することによりおこなわれる。
すなわち、本方法では、膨張工程S52にて、レチクル100を第二ガス雰囲気中に保持することにより、レチクル100を第二ガスでパージする。
【0068】
同図(a)は、膨張工程S52の初期状態を示している。かかる状態では、レチクル100はペリクル膜112に対する透過率のより低い第一ガス(窒素ガス)でパージされている。
【0069】
この状態から、透過率のより高い第二ガス(乾燥空気)でレチクル100をパージする(第二パージ工程S50)。第二パージ工程S50の開始時のペリクル110の状態を同図(b)に示す。本実施形態では、第二パージ工程S50の開始時の圧力を、初期パージ圧および第一パージ圧と等しくしている。
なお、本実施形態では初期パージガスと第二ガスを乾燥空気で共通としているが、第一ガスよりもペリクル膜112の透過率の高いガスであるかぎり、第二ガスは初期パージガスと相違してよい。
【0070】
乾燥空気(第二ガス)により外部空間140をパージすると、ペリクル膜112の内部には窒素ガスが充填されているのに対して外部には乾燥空気に含まれる形で酸素ガス(O)が存在することとなる。これにより、ペリクル膜112におけるガスの通過速度は、ペリクル110への流入が流出に卓越する。一方、通気孔120はペリクル膜112に比して十分に孔径が大きく、ガス種ごとの通過速度はほぼ等しいため、通気孔120通じたガスの流入速度と流出速度とはバランスする。
これにより、ペリクル110の内圧は初期圧力よりも上昇する。
【0071】
同図(c)は、第二ガスによるパージ直後のペリクル110の状態を示す模式図である。
ペリクル110は、内圧が上昇したことにより膨張し、ペリクル膜112がレチクル100から離れる方向に伸長して凸形状に変形する。
ペリクル膜112の変形高さとしては、0.5〜1.5mm程度が好ましい。ペリクル膜112がかかる凸変形をするよう、ペリクル膜112と第二ガスとの組み合わせを選択するとよい。
【0072】
続けて、ペリクル110では収縮工程S54がおこなわれる。
収縮工程S54にて排出されるペリクル110内部のガスには、支持枠114とレチクル100とを接合する樹脂材料からのアウトガスが含まれている。
【0073】
本実施形態の収縮工程S54において、膨張したペリクル110からは、通気孔120を通じて内部雰囲気が排出されてペリクル110は収縮する。一方、伸長したペリクル膜112は弾性復元力により徐々に初期状態に回復する。すなわち、伸長したペリクル膜112の復元力により、通気孔120を通じてペリクル110内部のガスが排出される。ペリクル膜112は、レチクル100の面直方向に揺動し、減衰停止する。
したがって、本方法によれば、内部空間130に存在するアウトガスなどの不純ガスをペリクル110から排出することができる。
【0074】
同図(d)は、第二ガスによるパージから所定時間が経過して収縮工程S54が終了し、ペリクル膜112が初期状態に回復した状態を示す模式図である。
通気孔120から窒素ガスを外部空間140に排出したペリクル110は、初期状態の体積(容積)に回復するとともに、内部空間130が乾燥空気で充満されている。
また、ペリクル110の外部空間140は、パージされた乾燥空気で満たされていることから、ペリクル膜112および通気孔120を通じたペリクル110へのガスの流入と流出とは平衡化している。
以上により、膨張工程S52および収縮工程S54を含む第二パージ工程S50が終了する。
【0075】
第二パージ工程S50を所定時間に亘って継続し、収納部22の内部を清浄な乾燥空気でパージしたのち、制御部60は、信号線62,64,66を通じて開閉弁42、44および46をすべて閉止してもよい。これにより、収納部22の内部は、ペリクル110から再びアウトガスが放出されるまで清浄を保つことができる。
【0076】
本方法では、第一ガス(窒素ガス)でパージされていたレチクル100を第二ガス(乾燥空気)でパージした場合の、第二ガス(乾燥空気)がペリクル膜112を通過する単位時間あたりの流量が、第二ガス(乾燥空気)が通気孔120を通過する単位時間あたりの流量よりも大きい。
【0077】
これにより、ペリクル110の内外圧を調整する通気孔120を備えるペリクル110においても、ペリクル膜112を揺動させて内部雰囲気を排気するための駆動力を得ることができる。
【0078】
つぎに、図4のフローチャートに示すように、レチクル収納装置10によるレチクル100の保管が継続する場合(ステップS60:N)、制御部60は、信号線62,64,66を通じて開閉弁42の開放、開閉弁44の閉止、および開閉弁46の開放を実行する。
これにより、ストッカ20の収納部22にはガス流路30を通じて第一ガス(窒素ガス)が供給される。
【0079】
すなわち、本方法では、第二パージ工程S50に続けて、すなわち第二パージ工程S50における収縮工程S54の後に、レチクル100を第一ガス(窒素ガス)でパージする。
ここで、第二パージ工程S50の終了状態である図6(d)の状態は、第一パージ工程S30の開始状態である図5(a)の状態と共通である。
したがって、本実施形態の第二パージ工程S50に続けて、再び第一パージ工程S30をおこなうことが可能である。これにより、かかるパージ工程を繰り返すことで、ペリクル110の内部雰囲気を排気する膨張工程S52および収縮工程S54を再び実施することができる。
【0080】
第二パージ工程S50から第一パージ工程S30への切り替えに際しても、酸素濃度計67を用いることができる。
【0081】
本方法では、第二ガス(乾燥空気)の濃度が、予め定められた閾値THに到達した場合に、レチクル100をパージするガスを第二ガス(乾燥空気)から第一ガス(窒素ガス)に切り替える。
【0082】
具体的には、酸素濃度計67による酸素濃度の測定値が、制御部60(図1を参照)に予め記憶された酸素濃度の上側閾値TH2を上回ったときに、制御部60は第二パージ工程S50の終了と判定する。
本方法では、上側閾値TH2として19%が設定されている。そして、乾燥空気における酸素の比率が約20%であることから、酸素濃度計67によって測定された酸素濃度が19%であるとき、第二ガス(乾燥空気)の濃度は約95%にあたる。
したがって、酸素濃度の上側閾値TH2=19%と制御部60に設定することは、第二ガス(乾燥空気)の上限濃度の閾値THを95%と設定することに相当する。
【0083】
本方法では、一回または複数回の第二パージ工程S50を行い、レチクル収納装置10によるレチクル100の保管が終了すると(ステップS60:Y)、ケース取出工程S80およびレチクル取出工程S90を行う。
第二パージ工程S50では、レチクル100は乾燥空気によってパージされているため、上述した最終パージ工程S70は不要である。すなわち、本方法においては、乾燥空気をパージガスとするパージ工程に続けてケース取出工程S80を行う場合には、最終パージ工程S70は不要である。
【0084】
ケース取出工程S80では、制御部60は信号線62,64,66を通じて開閉弁42、44および46を閉止する。そして、操作者は、ストッカ20の扉(図示せず)を開放してレチクルケース150を取り出す。
そして、レチクル取出工程S90では、レチクルケース150よりレチクル100を取り出す。取り出されたレチクル100は、内部がアウトガスに汚染されることなく、フォトリソグラフィー工程等のデバイス製造工程に供される。
【0085】
上記本実施形態のレチクル収納装置10および保管方法の作用効果について説明する。
本実施形態では、第一ガス(窒素ガス)でパージされていたストッカ20内のレチクル100を、ペリクル膜112に対する透過率が第一ガスよりも高い第二ガス(乾燥空気)でパージする。これにより、ペリクル膜112を通じてパージガスがペリクル110の内部に出入りすることを利用して、内部空間130に含まれる不純ガスをペリクル110から排気することができる。
【0086】
支持枠114とペリクル膜112、または支持枠114とレチクル100が、樹脂材料により互いに接合されている場合、経時的なアウトガスの発生が問題となる。これに対して、本実施形態のレチクル収納装置10および保管方法によれば、レチクルヘイズの原因となる有機分子をペリクル110から除去することができる。
【0087】
樹脂材料からのアウトガスに含まれる有機分子が、ペリクル膜112を透過せず、通気孔120を通過可能とすることにより、これをペリクル110の内部雰囲気とともに除去することができる。
【0088】
本実施形態では、第一ガスでパージされていたレチクル100を第二ガスでパージした場合に、第二ガスがペリクル膜112を通過する単位時間あたりの流量が、通気孔120を通過する流量よりも大きい。これにより、ペリクル膜112を通じたガスの透過速度のアンバランスを利用してペリクル110を膨張および収縮させることができる。よって、ペリクル膜112が、あたかも呼吸するかの如く往復揺動して内部空間130に充填されたガスを吐き出すことができる。
【0089】
本実施形態では、収縮工程の後に、レチクル100を第一ガスでパージする。これにより、膨張工程および収縮工程を含む本方法を繰り返しておこなうことができる。
【0090】
<第二実施形態>
図7は、第二実施形態にかかるレチクル収納装置10の構成を示す模式図である。
本実施形態のレチクル収納装置10は、ストッカ20内の状態を検知する検出部として、支持枠114に対して揺動するペリクル膜112の変位を検出するレーザー変位計68を備えている。
【0091】
本実施形態では、ペリクル110が膨張する方向をペリクル膜112の正の変位方向とし、ペリクル110が収縮する方向をペリクル膜112の負の変位方向とする。
【0092】
レーザー変位計68は、光学的な手段によってペリクル膜112の位置を検出する。そして、自然状態(平衡状態)を基準とするペリクル膜112の位置を測定する。
レーザー変位計68と制御部60とは、信号線69によって電気的に接続されている。
レーザー変位計68は、ペリクル膜112の変位量を所定の時間間隔で測定し、信号線69を通じて検出信号を制御部60に送信する。
【0093】
本実施形態を用いたレチクル保管方法も、図4に示すレチクル収容工程S10からレチクル取出工程S90にしたがって行うことができる。
そして、制御部60による第一パージ工程S30と第二パージ工程S50との切り替えを、レーザー変位計68の検出信号に基づいて行う。
【0094】
本方法では、ペリクル膜112の変位が、予め定められた閾値THに到達した場合に、レチクル100をパージするガスを第一ガス(窒素ガス)または第二ガス(乾燥空気)に切り替える。
【0095】
例えば、第一パージ工程S30における第一ガス(窒素ガス)のパージによって、レチクル100は非平衡状態S32となり、ペリクル膜112は例えば最大0.4mm凹む(図5(c)を参照)。そして、凹んだペリクル膜112は、平衡状態S34(図5(d)を参照)に至るまで約220分を掛けて元に戻る。
一方、第二パージ工程S50によって第二ガス(乾燥空気)をパージすると、ペリクル膜112は膨張工程S52にて、例えば、約40分をかけて最大1mm程度膨張する(図6(c)を参照)。そして、ペリクル膜112が最大膨張位置に達すると、今度はペリクル膜112の弾性力に従ってレチクル100は収縮工程S54に入り、約200分をかけて元に戻る(図6(d)を参照)。
【0096】
本実施形態のレチクル収納装置10では、収納部22にレーザー変位計68が設けられており、揺動するペリクル膜112の変位量が数値化されて制御部60に送信される。
【0097】
制御部60には、ペリクル膜112の変位に関する下側閾値TH3と上側閾値TH4をそれぞれ設定しておくとよい。
下側閾値TH3は負の値であり、ペリクル膜112が最大凹み状態(図5(c))に至ったか否かを判定するための閾値である。
上側閾値TH4は正の値であり、ペリクル膜112が最大膨張状態(図6(c))に至ったか否かを判定するための閾値である。
本方法では、下側閾値TH3をマイナス0.4mmと設定し、上側閾値TH4をプラス1.0mmと設定するとよい。
【0098】
そして、第一パージ工程S30において、レーザー変位計68で計測されたペリクル膜112の変位量が下側閾値TH3(=マイナス0.4mm)に至ったとき、制御部60は第一ガス(窒素ガス)の供給を停止するとよい。
また、第二パージ工程S50において、レーザー変位計68で計測されたペリクル膜112の変位量が上側閾値TH4(=プラス1.0mm)に至ったとき、制御部60は第二ガス(乾燥空気)の供給を停止するとよい。
【0099】
これにより、本実施形態のレチクル収納装置10によれば、第一ガスおよび第二ガスをストッカ20に過剰に供給することがない。また、第二パージ工程S50と第一パージ工程S30とが繰り返されて、ペリクル110からアウトガスが排出され、ペリクル110の内部空間130が清浄に維持される。
【0100】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0101】
例えば上記各実施形態において、乾燥空気に代えて、高濃度酸素など酸素ガスを主成分として含むガスを第二ガスとして用いてもよい。
そして、第一ガスとして窒素ガスを選択するにより、ペリクル膜112に対するパージガスの透過速度を、第一ガスと第二ガスとでより大きく相違させることができる。
【0102】
さらに、高濃度の酸素ガスでパージされた状態のレチクル100をフォトリソグラフィー工程に供することにより、ペリクル110内の酸素分子は露光光との光反応によりオゾンとなる。これにより、内部空間130に残存するアウトガスの有機分子がオゾン分解され、異物としてレチクル100のパターン形成面104に付着することが更に防止される。
【0103】
また、上記各実施形態では第一ガスと第二ガスとでレチクル100を交互にパージしているが、三種以上のパージガスを任意の順に用いてもよい。また、パージ圧に関しても、パージ工程ごとに相違させてもよい。
これにより、各パージ工程の初期状態において内部空間130に充填されているガス種と、外部空間140にパージされるガス種との組み合わせやパージ圧に応じて、ペリクル110を膨張状態から収縮状態まで迅速に遷移させて、内部雰囲気の高い排出力を得ることができる。
【0104】
また、レチクル収納装置10は、第一実施形態の酸素濃度計67と第二実施形態のレーザー変位計68を両方とも備えてもよい。そして、酸素濃度計67で測定された酸素濃度と、レーザー変位計68で測定されたペリクル膜112の変位量の両方を用いて第一パージ工程S30および第二パージ工程S50の終了のタイミングを検知してもよい。
これにより、第一パージ工程S30と第二パージ工程S50とが確実に切り替えられ、ペリクル110の内部空間130が好適に清浄化される。
【符号の説明】
【0105】
10 レチクル収納装置
20 ストッカ
22 収納部
24 棚
30 ガス流路
32,34,36 配管
38 排気口
42,44,46 開閉弁
50 第一ガス容器
52 第二ガス容器
60 制御部
62,64,66,69 信号線
67 酸素濃度計
68 レーザー変位計
100 レチクル
102 パターン
104 パターン形成面
110 ペリクル
112 ペリクル膜
114 支持枠
116 接着部
118 粘着部
120 通気孔
122 フィルタ
130 内部空間
140 外部空間
150 レチクルケース
152 ベース部
154 カバー部
156 通孔
158 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気孔を有する支持枠と、該支持枠に張られたペリクル膜と、を備えるペリクルが取り付けられたレチクルを、ストッカ内に収納するレチクル収納装置であって、
第一ガスと、前記ペリクル膜に対する透過率が前記第一ガスよりも高い第二ガスとで、それぞれ前記ストッカ内をパージするガス流路を備えるレチクル収納装置。
【請求項2】
前記支持枠と前記ペリクル膜、または前記支持枠と前記レチクルが、樹脂材料により互いに接合されている請求項1に記載のレチクル収納装置。
【請求項3】
前記樹脂材料からのアウトガスに含まれる有機分子が、前記ペリクル膜を透過せず、前記通気孔を通過可能である請求項2に記載のレチクル収納装置。
【請求項4】
前記第一ガスまたは前記第二ガスのうち少なくとも一方が、単一種の不活性ガスである請求項1から3のいずれかに記載のレチクル収納装置。
【請求項5】
前記第一ガスが窒素ガスであり、前記第二ガスが空気である請求項1から4のいずれかに記載のレチクル収納装置。
【請求項6】
前記第一ガスが窒素ガスであり、前記第二ガスが酸素ガスを主成分として含む請求項1から4のいずれかに記載のレチクル収納装置。
【請求項7】
前記ストッカ内の状態を検知する検出手段と、
前記検出手段の検知結果に基づいて、前記ガス流路を通じて前記ストッカ内に供給されるガスを前記第一ガスまたは前記第二ガスに切り替える制御手段と、をさらに備える請求項1から6のいずれかに記載のレチクル収納装置。
【請求項8】
前記検出手段が、前記ストッカ内の前記第一ガスまたは前記第二ガスの濃度を検知する請求項7に記載のレチクル収納装置。
【請求項9】
前記検出手段が、前記支持枠に対して揺動する前記ペリクル膜の変位を検出する請求項7に記載のレチクル収納装置。
【請求項10】
通気孔を有する支持枠と、該支持枠に張られたペリクル膜と、を備えるペリクルが取り付けられたレチクルを保管する方法であって、
第一ガスでパージされていた前記レチクルを、前記ペリクル膜に対する透過率が前記第一ガスよりも高い第二ガスでパージして、前記ペリクルを膨張させるとともに前記ペリクル膜を伸長させる膨張工程と、
伸長した前記ペリクル膜の復元力により、前記通気孔を通じて前記ペリクルの内部のガスを前記ペリクルの外部に排出するとともに前記ペリクルを収縮させる収縮工程と、
をおこなうことを特徴とするレチクル保管方法。
【請求項11】
前記第一ガスでパージされていた前記レチクルを前記第二ガスでパージした場合の、該第二ガスが前記ペリクル膜を通過する単位時間あたりの流量が、該第二ガスが前記通気孔を通過する単位時間あたりの流量よりも大きいことを特徴とする請求項10に記載のレチクル保管方法。
【請求項12】
前記収縮工程の後に、前記レチクルを前記第一ガスでパージする請求項10または11に記載のレチクル保管方法。
【請求項13】
前記支持枠と前記ペリクル膜、または前記支持枠と前記レチクルが、樹脂材料により互いに接合されているとともに、
前記収縮工程にて排出されるペリクル内部の前記ガスが、前記樹脂材料からのアウトガスを含む請求項10から12のいずれかに記載のレチクル保管方法。
【請求項14】
前記第一ガスまたは第二ガスが、酸素ガスを主成分として含む請求項10から13のいずれかに記載のレチクル保管方法。
【請求項15】
前記膨張工程にて、前記レチクルを前記第二ガスの雰囲気中に保持することにより、前記レチクルを前記第二ガスでパージすることを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載のレチクル保管方法。
【請求項16】
前記第一ガスもしくは前記第二ガスの濃度、または前記ペリクル膜の変位の少なくとも一方が、予め定められた閾値に到達した場合に、前記レチクルをパージするガスを前記第一ガスまたは前記第二ガスに切り替えることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載のレチクル保管方法。
【請求項17】
通孔を備えるレチクルケースに前記レチクルを収容するレチクル収容工程と、
前記レチクルが収容された前記レチクルケースを、前記第一ガスおよび前記第二ガスが切り替えて供給されるストッカに収納するケース収納工程と、
それぞれ一回または複数回繰り返して行う前記膨張工程および前記収縮工程と、
収納されていた前記レチクルケースを前記ストッカより取り出すケース取出工程と、
ストッカから取り出された前記レチクルケースより前記レチクルを取り出すレチクル取出工程と、
をこの順に行う請求項10から16のいずれかに記載のレチクル保管方法。
【請求項18】
乾燥空気による最終パージ工程を行った後に前記ケース取出工程を行う請求項17に記載のレチクル保管方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−72624(P2010−72624A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148334(P2009−148334)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】