説明

レーザクラッド加工装置の粉末供給装置及び粉末供給方法

【課題】ノズル内部での引っ掛かりを低減して金属粉末を安定して加工部に供給することができ、肉盛りの厚みにばらつきが生じることなく高品質の肉盛りを形成することのできるレーザクラッド加工装置の粉末供給装置を提供する。
【解決手段】ノズル10の先端から金属粉末4をバルブシート部2に供給しながらレーザhvを照射して肉盛りを行うレーザクラッド加工装置の粉末供給装置において、前記ノズル10の先端から金属粉末4を噴き出す噴出口16の形状を、平面視略楕円形状とした。さらに、噴出口16の短軸L2側を、バルブシート部2の幅方向に向けて金属粉末4を供給するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザクラッド加工装置の粉末供給装置及び粉末供給方法に関し、金属粉末を噴出するノズル噴出口の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車エンジンでは、バルブシートとして従来のシートリングを打ち込む方式に変えてバルブシート合金をシリンダーヘッドへ直接肉盛りする方式が採用され初めている。
【0003】
このように、バルブシート合金をシリンダーヘッドに直接肉盛りすれば、シートリングの打ち込み方式に比べて熱伝導性を大幅に向上させることができ、冷却性能を高めることができる。
【0004】
かかる肉盛り方式は、粉末供給装置のノズルから金属粉末を加工部に供給しながらレーザ発振器からレーザを照射することによって行われる(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特許第3693161号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザクラッド加工方法では、加工部の周囲に余分な金属粉末が飛び散らないように粉末の広がりを抑えるために、ノズルの内径を次第に基端から先端へ行くに従って細く絞るようにしてある。具体的には、基端側の断面形状を円形とし、この基端側から先端に向かって次第にその径を絞り先端側の断面形状をさらに小さなな円形としている。このため、供給する金属粉末の量によっては、絞られた部分で粉末が引っ掛かかる場合がある。金属粉末が引っ掛かると、加工部での粉末供給量に変動が生じ、肉盛りの厚みにばらつきが生じ、品質不良が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、ノズル内部での引っ掛かりを低減して金属粉末を安定して加工部に供給することができ、肉盛りの厚みにばらつきが生じることなく高品質の肉盛りを形成することのできるレーザクラッド加工装置の粉末供給装置及び粉末供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ノズルの先端から金属粉末を加工部に供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うレーザクラッド加工装置の粉末供給装置において、前記ノズルの先端から金属粉末を噴き出す噴出口の形状を、平面視略楕円形状としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、ノズルの先端から金属粉末を加工部に供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うレーザクラッド加工装置の粉末供給方法において、前記ノズルの先端から金属粉末を噴き出す噴出口の形状を、平面視略楕円形状とし、その噴出口の短軸側を、前記加工部の幅方向に向けて金属粉末を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザクラッド加工装置の粉末供給装置によれば、ノズル先端の噴出口の形状を平面視略楕円形状としたので、長円側に余裕ができることからノズル内部での金属粉末の引っ掛かりを防止することができる。その結果、本発明によれば、肉盛り開始時から金属粉末を安定して加工部に供給することができ、肉盛り部の品質を高めることができる。
【0010】
本発明のレーザクラッド加工装置における粉末供給方法によれば、ノズル先端の噴出口の形状が平面視略楕円形状であるので、長円側に余裕ができることによりノズル内部での金属粉末の引っ掛かりを防止することができる。その結果、本発明によれば、肉盛り開始時から金属粉末を安定して加工部に供給することができ、肉盛り部の品質を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1はレーザクラッド装置を示す斜視図、図2は粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を加工部に供給している状態を示す図、図3は粉末供給装置のノズル部分を示し、(A)は一方向から見たときのノズル先端部分の拡大縦断面図、(B)はノズルを先端側から見たときの平面図、(C)は他方向から見たときのノズル先端部分の拡大断面図、図4はノズル先端の噴出口の短軸側をバルブシート部の幅方向に向けて金属粉末を供給している状態を示す要部拡大断面図、図5は従来のノズル部分を示し、(A)はノズル先端部の拡大縦断面図、(B)はノズルを先端側から見たときの平面図である。
【0013】
レーザクラッド装置は、図1に示すように、例えば自動車用エンジンなどのシリンダーヘッド1の加工部であるバルブシート部2にレーザhvを照射するレーザ照射装置3と、バルブシート部2に金属粉末4を供給する粉末供給装置5とを備えている。
【0014】
レーザ照射装置3は、レーザ発振器6と、このレーザ発振器6により発振されるレーザの強さなどを制御するレーザ発振器制御部7と、NC制御装置8と、レーザを集光してバルブシート部2に照射させる集光ヘッド9とからなる。レーザ発振器6で発振されたレーザは、レーザ発振器制御部7で制御されて集光ヘッド9に供給され、この集光ヘッド9で絞られてバルブシート部2に照射される。
【0015】
なお、レーザhvは、例えば波長0.8〜9μm、出力2kW、照射速度1.2m/分で照射される。
【0016】
粉末供給装置5は、バルブシート部2に金属粉末4を供給するノズル10(図1では図示を省略し図2に示す)と、金属粉末4を収容して置くホッパー11と、金属粉末4の量を計測する荷重計12と、ホッパー11からノズル10へと金属粉末4を送り込むフィーダ13と、これらを制御する粉末制御部14とからなる。ノズル10の先端からは、ホッパー11に収容された金属粉末4がフィーダ13により送られることで、前記バルブシート部2へと吹き付けられる(注:粉末供給装置5の構成に関してはこの記載で良いかチェック頂きたいと存じます)。
【0017】
なお、金属粉末4は、例えば銅合金が使用され、0.8g/秒で供給される。
【0018】
このレーザクラッド装置では、前記レーザ発振器6とレーザ発振器制御部7とNC制御装置8と粉末供給制御部14とがそれぞれコンピュータ15によって制御されている。そして、このように構成されたレーザクラッド装置によりバルブシート部2に金属粉末4を供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うことでバルブシート合金を形成するが、その際に、図2に示すように、シリンダーヘッド1を矢印Aで示すように回転させながらレーザクラッド加工を行う。
【0019】
特に、本実施の形態では、バルブシート部2の周辺に余分な金属粉末4を送給しないよう粉末の広がりを抑えるために、図3に示すように、ノズル10の先端に形成される噴出口16の形状を平面視略楕円形状とし、且つこの噴出口16へと金属粉末4を供給するための粉末供給路17を基端から先端に向かって細くなるように絞ってある。
【0020】
具体的には、ノズル10の先端に形成する噴出口16は、図5に示す従来構造におけるように円形状とするのではなく平面視略楕円形状とする。さらに、この噴出口16の長軸L1側における粉末供給路17の断面形状をストレート形状とし、短軸L2側における粉末供給路17の断面形状を基端側から噴出口16に向かって先細り形状としている。
【0021】
長軸L1側では、粉末供給路17の基端から先端に亘り前記噴出口16の開口幅W3でストレート形状とされている。この粉末供給路17の流路壁17dは、絞られることなく真っ直ぐ同一の開口幅W3として基端から先端に亘って保持されている。
【0022】
これに対して、短軸L2側では、粉末供給路17の基端から先端に向かって流路幅を途中で絞って先細りの形状とされている。この粉末供給路17の基端側の流路壁17aは、先端側の流路壁17cよりも広く、途中の傾斜する流路壁17bにて先端側の流路壁17cと繋がっている。そして、この短軸側の噴出口開口幅をW1、粉末供給路開口幅をW2としたときに、W1<W2なる関係としている。これにより、流路壁17bが段差形状になるので、金属粉末4が一時的に貯留され、途切れることなく供給される。
【0023】
また、本実施の形態では、図4に示すように、噴出口16の短軸側を、バルブシート部2の幅方向に向けて金属粉末4を供給するようにしている。噴出口16の長軸側をバルブシート部2の幅方向に向けた場合には、バルブシート部2の周辺に余分な金属粉末4が飛び散ることになり、肉盛り部の品質に影響が出てしまう。しかし、本実施の形態におけるように、噴出口16の短軸側をバルブシート部2の幅方向に向ければ、バルブシート部2の周囲に余分な金属粉末4が飛散することなくレーザクラッドするに足る金属粉末4を安定して供給することができ、肉盛り部の加工品質も安定させることができる。
【0024】
以上のように構成されたレーザクラッド装置でバルブシート合金を形成するには、先ず、図4に示すように、ノズル10の噴出口16の短軸側をバルブシート部2の幅方向に向けた後、粉末供給装置5からノズル10に金属粉末4を供給する。そして、レーザ照射装置3によりレーザhvをバルブシート部2に照射させ、シリンダーヘッド1を回転させながらレーザクラッド加工を行う。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、ノズル先端の噴出口16の形状を平面視略楕円形状としたので、長円側に余裕ができることからノズル10内部での金属粉末4の引っ掛かりを防止することができる。その結果、本発明によれば、肉盛り開始時から金属粉末4を安定してバルブシート部2に供給することができ、肉盛り部の品質を高めることができる。
【0026】
また、本実施の形態によれば、噴出口16の短軸側をバルブシート部2の幅方向に向けて金属粉末4を供給しているので、バルブシート部2の周辺に余分な金属粉末4が飛散するのを防止でき、肉盛り部の品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】レーザクラッド装置を示す斜視図である。
【図2】粉末供給装置のノズル先端から金属粉末を加工部に供給している状態を示す図である。
【図3】粉末供給装置のノズル部分を示し、(A)は一方向から見たときのノズル先端部分の拡大縦断面図、(B)はノズルを先端側から見たときの平面図、(C)は他方向から見たときのノズル先端部分の拡大断面図である。
【図4】ノズル先端の噴出口の短軸側をバルブシート部の幅方向に向けて金属粉末を供給している状態を示す要部拡大断面図である。
【図5】従来のノズル部分を示し、(A)はノズル先端部の拡大縦断面図、(B)はノズルを先端側から見たときの平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…シリンダーヘッド
2…バルブシート部(加工部)
3…レーザ照射装置
4…金属粉末
5…粉末供給装置
6…レーザ発振器
9…集光ヘッド
10…ノズル
16…噴出口
17…粉末供給路
L1…噴出口の長軸
L2…噴出口の短軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの先端から金属粉末を加工部に供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うレーザクラッド加工装置の粉末供給装置において、
前記ノズルの先端から金属粉末を噴き出す噴出口の形状を、平面視略楕円形状とした
ことを特徴とするレーザクラッド加工装置の粉末供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザクラッド加工装置の粉末供給装置であって、
前記噴出口の短軸側を、前記加工部の幅方向に向けて金属粉末を供給する
ことを特徴とするレーザクラッド加工装置の粉末供給装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザクラッド加工装置の粉末供給装置であって、
前記噴出口の長軸側における粉末供給路の断面形状をストレート形状とし、短軸側における粉末供給路の断面形状を基端側から噴出口に向かって先細り形状とし、その短軸側の噴出口開口幅をW1、粉末供給路開口幅をW2としたときにW1<W2である
ことを特徴とするレーザクラッド加工装置の粉末供給装置。
【請求項4】
ノズルの先端から金属粉末を加工部に供給しながらレーザを照射して肉盛りを行うレーザクラッド加工装置における粉末供給方法において、
前記ノズルの先端から金属粉末を噴き出す噴出口の形状を、平面視略楕円形状とし、その噴出口の短軸側を、前記加工部の幅方向に向けて金属粉末を供給する
ことを特徴とするレーザクラッド加工装置における粉末供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−142765(P2008−142765A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336106(P2006−336106)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】