説明

レーザブレージング加工方法および加工装置

【課題】異材質の母材同士のブレージングに際し、ブレージングにあずかる部分の酸化皮膜を削ぎ落として新生面とすることで「ぬれ性」を確保し、フラックスの塗布を不要としたレーザブレージング加工方法を提供する。
【解決手段】加工点Pに溶加材ワイヤ14を供給しながらレーザ光Lを照射して、亜鉛めっき鋼板製の母材W1とアルミニウム合金製の母材W2をブレージングする方法である。その際に、段付き状の回転ピン18とガスノズル16を併用し、回転ピン18により接合される部分の酸化皮膜を除去して新生面とした上で、ガスノズル16からのアルゴンガスの供給により再酸化を防ぐ。その新生面として「ぬれ性」を確保した部分を接合面としてブレージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材上の加工点にブレージング用の溶加材(ろう材)を供給しながらレーザ光を照射して、母材とレーザ光を相対移動させながらブレージングを行う加工方法と加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のレーザブレージングに関する技術として特許文献1に記載のものが提案されている。この従来の技術では、ワイヤ供給装置から母材上の加工点に対しワイヤ状の溶加材を供給しつつレーザ加工ヘッドから同じく加工点にレーザ光を照射する一方、母材に接触しながら回転するローラを併用し、そのローラの回転をエンコーダにて検出した上で母材とレーザ光の相対移動速度を算出し、この相対移動速度に応じたワイヤの供給量となるようにワイヤ供給装置からのワイヤの送り量を制御するようになっている。
【0003】
上記特許文献1に記載のような技術を前提として、異材質の母材同士の接合、例えば鋼板とアルミニウム合金板について重ね継手の形態でブレージングを行おうとする場合、いわゆる「ぬれ性」確保のためにブレージング部位に予めフラックスを塗布しておくことが必要となる。
【0004】
すなわち、予めフラックスを塗布しておくことにより、レーザ光の照射により溶加材であるろう材を溶かす一方で、フラックスを活性化させることにより母材表面の酸化皮膜を除去して、溶加材をぬれ拡がらせるようにして接合を行うことになる。
【特許文献1】特許第3555612号公報(図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにフラックスを併用するレーザブレージング加工方法では、次に列挙するような不具合がある。
【0006】
(a)ブレージング前にフラックスを塗布する作業が必要となる一方、ブレージング後に残ったフラックスを除去する作業が必要となり、工数増加が余儀なくされる。
【0007】
(b)フラックスの除去が十分でなくフラックスが残っていると、母材の腐食の一因となる。
【0008】
(c)フラックスが活性化する際に一部が気化するため、排気装置を設ける必要がある。
【0009】
(d)特に重ね継手の形態でのブレージングでは、レーザ加工ヘッド以外に母材相互間の隙間矯正を行う装置および軌跡制御のためのいわゆるシームトラッキング装置が必要となる。
【0010】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、特にブレージングの進行に併せて、そのブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落とすことにより「ぬれ性」を確保してフラックスの塗布を不要とし、もって上記のような従来の種々の問題点を一挙に解決することができるレーザブレージング加工方法と加工装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、母材上の加工点に溶加材を供給しながらレーザ光を照射して、母材とレーザ光を相対移動させながらブレージングを行う方法であって、ブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落としながらブレージングを行うことを特徴とする。
【0012】
ブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落とす手段は、請求項2,3に記載のように、例えば加工点よりもブレージング進行方向前方側の直近位置に配置した回転部材とし、回転部材の回転運動をもって表面の酸化皮膜を積極的に削ぎ落とすものとする。
【0013】
また、請求項4に記載のように重ね継手の形態でブレージングを行うにあたっては、上側の母材の表面と端面とのなすコーナー部に段付き状の回転ピンを押し当てて、母材同士の隙間の矯正と併せてブレージングにあずかる部分の表面の削ぎ落としを行う。
【0014】
請求項7に記載の発明は、実質的に請求項1に記載の技術を装置として捉えたものであって、母材上の加工点に対し溶加材供給手段にて溶加材を供給しながらレーザ光を照射して、母材とレーザ光を相対移動させながらブレージングを行う装置として、加工点の近傍にてブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落とす回転部材等の削ぎ落とし手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
したがって、請求項1,7に記載の発明では、ブレージングにあずかる部分の表面の酸化皮膜をブレージングの直前に削ぎ落とすことで「ぬれ性」が改善され、フラックスを併用することなしに所定の接合強度のもとでのブレージングが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、フラックスの使用が不要となることによって、フラックス塗布作業およびフラックス除去作業を廃止できることから、工数の削減によりコストの低減と併せて生産性の向上が期待できるほか、フラックスの使用に伴う二次的不具合の発生も未然に防止できるようになる。
【0017】
また、従来は必須とされた排気装置も廃止できるようになり、設備の簡素化も併せて実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜3は本発明に係るレーザブレージング加工装置のより具体的な実施の形態を示しており、図1はその概略説明図を、図2は図1の左側面図を、図3,4は図2の要部拡大図をそれぞれ示している。そして、本実施の形態では、異材質の母材同士をブレージングする場合、すなわち例えば亜鉛めっき鋼板である下側の母材W1とアルミニウム合金である上側の母材W2とを重ね継手(重ね接合)の形態でブレージングする場合の例を示している。
【0019】
図1,2に示すように、多関節型の溶接ロボットのロボットアーム1のリスト部2には取付ブラケット3を介してピン駆動装置4が装着されているとともに、このピン駆動装置4にはブラケット5を介してレーザ加工ヘッド6が装着されている。レーザ加工ヘッド6にはレーザ発振器7から出力されたレーザ光が光ファイバーケーブル8を介して導入されて、内部の光学系を経た上でそのレーザ光Lは被溶接部材である母材W1,W2上の加工点(レーザ光照射位置)Pに対して集光・照射される。また、ピン駆動装置4には補助ブラケット9を介してワイヤノズル10が装着されており、このワイヤノズル10は加工点P方向を指向しているとともに、ワイヤノズル10にはコンジットチューブ12を介して溶加材供給手段としてのワイヤ供給装置13から溶加材ワイヤ(ろう材)14が供給されるようになっている。
【0020】
ワイヤ供給装置13は、所定直径の溶加材ワイヤ14が巻回されたワイヤリール15と、そのワイヤリール15から溶加材ワイヤ14を繰り出しながらワイヤノズル10側に連続供給するサーボモータ駆動の図示外のワイヤ供給ローラを備えており、例えば母材W1,W2を固定側、ピン駆動装置4およびレーザ加工ヘッド6等を可動側とした場合、レーザ加工ヘッド6の移動に基づくブレージング動作の進行に併せて加工点Pに溶加材ワイヤ14が所定速度で連続供給される。これにより母材W1,W2同士がブレージングされることになる。
【0021】
また、ピン駆動装置4にはガスノズル16が付設されており、このガスノズル16はガスホース17を介して図示外のガス供給源に接続されている。そして、ガスノズル16は加工点Pの近傍に向けてシールドガスとして不活性ガスであるところのアルゴン(Ar)ガスを供給することになる。
【0022】
上記のピン駆動装置4は、図3に示すように先端の小径部18aと大径部18bとをもっていわゆる段付きピン形状とした削ぎ落とし手段および回転部材としての直立姿勢の金属製の回転ピン18を、その軸心を回転中心として図示外の電動モータ等により回転駆動させる機能を有している。より詳しくは、同図から明らかなように、回転ピン18の段状部である大径部18bの下端面を押し付け力F1をもって上側の母材W2の上面に、同じく回転ピン18の段状部である小径部18aの円筒外周面を押し付け力F2をもって上側の母材W2の端面にそれぞれ押し当てた上で、その回転ピン18を上側の母材W2の端面に沿って移動させることで、上側の母材W2のうちブレージングにあずかる外隅部の表面の皮膜、すなわち上側の母材W2のうち回転ピン18の当接部分の酸化皮膜を積極的に剥離もしくは削ぎ落とす機能を有している。
【0023】
ここで、回転ピン18の小径部18aの長さHは上側の母材W2の板厚よりも予め小さく設定してあり、図3に示すように回転ピン18の段状部を上側の母材W2に押し当てたとしても、その回転ピン18における小径部18aの先端面が下側の母材W1の上面に当たらないように隙間Gを設定してある。これは、下側の母材W1である亜鉛めっき鋼板のめっき層までも剥離してしまわないようにするためである。
【0024】
また、図3および図4から明らかなように、加工点(レーザ光照射位置)Pに向けて溶加材ワイヤ14を供給することを前提とした場合、回転ピン18の位置は加工点Pよりもブレージング進行方向前方側の直近位置とし、その位置に向けてガスノズル16からアルゴンガスを吹き付けるものとする。
【0025】
したがって本実施の形態によれば、図3,4に示すように、互いに重ね合わせた上下の母材W1,W2を固定側とするとともに、回転ピン18を主要素とするピン駆動装置4を母体として集約したレーザ加工ヘッド6やワイヤノズル10およびガスノズル16等を可動側として、レーザ光Lを照射しながら同部位に対して溶加材ワイヤ14やアルゴンガスを供給するとともに、回転ピン18を上側の母材W2の外隅部に押し付け力F1,F2をもって二方向から押し付けながらM方向に回転駆動させて、その状態で上記の各要素を図3の紙面と直交方向(図4の進行方向a)に相対移動させることにより、上下の母材W1,W2同士の段差をもって形成された内隅部に溶融金属がビードBとして盛られてブレージングが施されることになる。
【0026】
その際に、ブレージングが施される直前に上側の母材W2のうちブレージングにあずかる部分、すなわち上側の母材W2のうちその上面の一部と端面とにおいて表面の酸化被膜が回転ピン18によって削ぎ落とされて、その瞬間に粗面となった新生面があらわれ、同時にその新生面はアルゴンガスの吹き付けにより再酸化が抑制される。そして、その新生面が次々と加工点Pに移動してブレージングに供されることにより「ぬれ性」としては必要十分なものとなり、フラックスの併用の必要なくして、溶加材ワイヤ14が溶融することでできた溶融金属がぬれ拡がることでビードBをもってブレージングが施されることになる。つまり、酸化皮膜が削ぎ落とされることで形成されたばかりの新生面を加工点Pが追いかけるようにして連続的に移動することでビードBをもってブレージングが施される。
【0027】
なお、上側の母材W2の上面には、回転ピン18の大径部18bが通過した痕跡としてカッタパスのごとき粗面が残存することになる。
【0028】
この時、回転ピン18を押し付け力F1をもって下方に押し付けることにより母材W1,W2相互間の隙間矯正効果が発揮されて、同時に摩擦熱で上側の母材W2の軟化が促進されるため、小さな加圧力F1で母材W1,W2相互間の隙間を矯正することができるとともに、下側の母材W1の撓みも同時に抑制することができる。
【0029】
また、回転ピン18の先端面は下側の母材W1に接触することはなく、回転ピン18が通過した後においても下側の母材W1の表面には亜鉛めっき層が残存している。そのため、溶融金属と下側の母材の鋼基地との直接接触が妨げられて、ブレージング接合部には不適とされる脆弱な金属間化合物の生成を未然に防ぐことができる。
【0030】
その上、図3から明らかなように、上側の母材W2の端面に回転ピン18側の小径部18aが実際に当接する位置と加工点(レーザ光照射位置)Pとのなす距離をピンオフセットSとすると、このピンオフセットSを上側の母材W2の端面の精度ばらつきの最大許容幅よりも予め大きく設定してあることにより、回転ピン18の位置からレーザ光Lを照射すべき位置を容易に推定可能であり、したがって上側の母材W2の端面を検知するためのいわゆるシームトラッキング機構を必要としない。
【0031】
このようの本実施の形態によれば、異材質の母材W1,W2同士のブレージングでありながらも、フラックスを併用することなしに接合強度に優れたブレージングを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るブレージング加工装置のより具体的な実施の形態を示す構成説明図。
【図2】図1の左側面説明図。
【図3】図1,2の要部拡大説明図。
【図4】図4の斜視図。
【符号の説明】
【0033】
4…ピン駆動装置
6…レーザ加工ヘッド
7…レーザ発振器
13…ワイヤ供給装置(溶加材供給手段)
14…溶加材ワイヤ
16…ガスノズル
18…回転ピン(削ぎ落とし手段,回転部材)
L…レーザ光
P…加工点(レーザ光照射位置)
W1,W2…母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上の加工点に溶加材を供給しながらレーザ光を照射して、母材とレーザ光を相対移動させながらブレージングを行う方法であって、
ブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落としながらブレージングを行うことを特徴とするレーザブレージング加工方法。
【請求項2】
ブレージングにあずかる部分に押し付けた回転部材によってその表面を削ぎ落としながらブレージングを行うことを特徴とする請求項1に記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項3】
加工点よりもブレージング進行方向前方側の直近位置に配置した回転部材によって表面の削ぎ落としを行うことを特徴とする請求項2に記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項4】
重ね継手の形態でブレージングを行うにあたり、
上側の母材の表面と端面とのなすコーナー部に段付き状の回転ピンを押し当てて、母材同士の隙間の矯正と併せてブレージングにあずかる部分の表面の削ぎ落としを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項5】
下側の母材がめっき鋼板であるのに対して上側の母材がアルミニウム合金であり、
下側の母材に対しては回転ピンを常時非接触状態とすることを特徴とする請求項4に記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項6】
加工点近傍にシールドガスを供給しながらブレージングを行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザブレージング加工方法。
【請求項7】
母材上の加工点に対し溶加材供給手段にて溶加材を供給しながらレーザ光を照射して、母材とレーザ光を相対移動させながらブレージングを行う装置であって、
加工点の近傍にてブレージングにあずかる部分の表面を削ぎ落とす削ぎ落とし手段を備えていることを特徴とするレーザブレージング加工装置。
【請求項8】
削ぎ落とし手段が回転部材であることを特徴とする請求項7に記載のレーザブレージング加工装置。
【請求項9】
回転部材を加工点よりもブレージング進行方向前方側の直近位置に配置したことを特徴とする請求項8に記載のレーザブレージング加工装置。
【請求項10】
重ね継手の形態でブレージングを行う装置として、
上側の母材の表面と端面とのなすコーナー部に段付き状の回転ピンを押し当てて、母材同士の隙間の矯正と併せてブレージングにあずかる部分の表面の削ぎ落としを行うようになっていることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のレーザブレージング加工装置。
【請求項11】
下側の母材がめっき鋼板であるのに対して上側の母材がアルミニウム合金であり、
下側の母材に対しては回転ピンが常時非接触状態となっていることを特徴とする請求項10に記載のレーザブレージング加工装置。
【請求項12】
加工点近傍にシールドガスを供給しながらブレージングを行うことを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載のレーザブレージング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−167725(P2006−167725A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359280(P2004−359280)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】