説明

レーザー光による眼底血流測定を利用した個人認証方法及び個人認証装置

【課題】レーザー光束を眼底に照射して得られる眼底血流速マップを利用して、従来のものよりも格段に精度の高い個人認証方法・装置を提供すること。
【解決手段】レーザー光束を拡げて眼底に照射し、眼底の網膜血管及び眼底内部組織にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像し、レーザースペックルの各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を算出し、その数値を2次元マップとして眼底の血流マップを求め、該血流マップ内に観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化のデータのうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人データと比較・照合することを特徴とする個人認証方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底の血流測定を利用した個人認証方法及び個人認証装置に関し、更に詳しくは、特定のレーザー光束を用いて網膜や脈絡膜など内部組織の血管の血流を測定することを特徴とする、本人認証方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本人認証は古くから指紋による方式が普及しているが、最近は目視による比較に代わって、イメージセンサーや半導体センサーとコンピュータによる画像処理を組み合わせた自動認証法が種々開発され、広く利用されている。また、最近では、指先や手の平の皮下静脈パターンを近赤外光とイメージセンサーを利用して読み取り、分岐点などの特徴を抽出して個人認証する方法も実用化されている。しかし何れの方法もまだ完全ではなく、偽造との戦いが続いている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2は、レーザーを使った鮮明な高解像度の指紋センサーを開示しているが、これでは擬似指紋を判別できない。これに対して、特許文献3は、通常光線を使用し静脈パターンによって個人認証を行うと共に、更に脈拍の光学的検出によって被認証者が生きているかどうかを判定する方法を開示している。これは指紋認識ではないが、被認証者が生きていることの確認もできるので、偽造を防ぐのに効果的ではある。しかし、静脈パターンによる認証の信頼性、あるいは装置が複雑であるなどの問題点がある。
【特許文献1】特開平5−73666号公報
【特許文献2】特開平8−16752号公報
【特許文献3】特開2003−331268号公報
【0004】
一方、レーザーを生体に向けて照射すると、その反射散乱光の強度分布は、血球などの移動散乱粒子によって動的なレーザースペックル(ランダムな斑点模様)を形成するが、このパターンを、結像面においてイメージセンサーで検出し、各画素における模様の時間変化を定量化し、マップ状に表示することで、生体表面近傍の毛細血管の血流分布を画像化できることが知られている。そして、かかる現象を利用して、皮膚の下や眼底の血流マップを測定する技術や装置は、本発明者らによっていくつか提案されている(例えば、特許文献4〜9参照)。
【特許文献4】特公平5−28133号公報
【特許文献5】特公平5−28134号公報
【特許文献6】特開平4−242628号公報
【特許文献7】特開平8−112262号公報
【特許文献8】特開2003−164431号公報
【特許文献9】特開2003−180641号公報
【0005】
本発明者は、血流マップを指紋パターンと結びつけて個人認証に用いるという概念に着想し鋭意研究を進め、皮下血流を測定することによる個人認証方法とその手段について既に提案した。即ち、(1)レーザー光束を拡げて指腹に照射し、皮下にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像する工程、(2)レーザースペックルの各画素における受光量の時間変化の速さを表す量、例えば、平均時間変化率、あるいはイメージセンサーの露光時間にしたがって積分された受光量の変動度の逆数を求め、その数値を2次元マップとして指腹の血流マップを得る工程、(3)血流マップとして現れた指紋パターンを、予め登録されている個人データと比較・判定する工程、からなる個人認証方法と、それぞれの工程を実行するための装置を提案した(PCT/JP2005/009913)。
【0006】
また、本発明者は上記の方法を改良し、照明光に特定の波長のレーザーを用い指先に照射し、あるいは、複数の波長の異なるレーザーを同時または順次に指先に照射し、反射光に対する重畳的なあるいは複数の血流速マップを求めるという方法・手段を発明した(特願2006−44989)。レーザーは波長によって組織深達性が異なり、可視光のような波長が短いものでは、表面に近い血流の分布、即ち、指紋パターンのみが得られるが、近赤外光のような波長の長いものでは組織内部に深く入るため、内部の血流分布を反映した血流マップが得られる。内部の血流分布にも個人差があり、偽造が困難であるため、これを認証データに加えれば、相乗効果によって個人照合精度を向上させられる。
【0007】
従来、個人の生体情報、例えば、眼底カメラ撮影画像からの情報をコード化、暗号化して署名データやパスワードを形成する方法・装置は提案されている(特許文献10〜11)。
しかしながら、これまでに、眼底血流の画像化によって得られる網膜上の血管の走行、動脈と静脈の分布形状、更には網膜背後にある脈絡膜血管層の分布、血流経時変化などの血流データと、本発明者が先に提案した個人認証方法を組み合わせた提案はなされたことがない。
【特許文献10】特開平11−215119号公報
【特許文献11】特開平11−149453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、レーザー光束を拡げて眼底に照射し、光学系を用いて照射スポットを2次元イメージセンサー上に結像し、像面に発生した干渉模様の時間変化を画素ごとに計測して眼底血流速マップを求める方法・装置を用いて眼底血流速分布を調べたところ、網膜上の血管の走行、動脈と静脈の分布形状、更には網膜背後にある脈絡膜血管層の分布、血流経時変化など、全ての血流データが個人認証に利用できることを知見した。従って、本発明の課題は、かかる知見に基づき、レーザー光束を眼底に照射して得られる眼底血流速マップを利用して、従来のものよりも格段に精度の高い個人認証方法・装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、レーザー光束を拡げて眼底に照射し、眼底の網膜血管及び眼底内部組織にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像し、レーザースペックルの各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を算出し、その数値を2次元マップとして眼底の血流マップを求め、該血流マップを、予め登録されている個人データと比較・照合することを特徴とする個人認証方法であって、眼底の内部組織まで到達し得るレーザー光束を用い、反射光により求められる血流マップを測定し、該血流マップ内に観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化のデータのうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人データと比較・照合することを特徴とする個人認証方法である。
【0010】
請求項2記載の発明は、レーザー光束として、可視光から近赤外光までの範囲の一つ又は複数のレーザー光束を用いることを特徴とする請求項1記載の個人認証方法である。
【0011】
請求項3の発明は、レーザー光が、波長が約770〜1500nmの範囲の近赤外レーザー光であることを特徴とする請求項1又は2記載の個人認証方法である。
【0012】
請求項4記載の発明は、レーザー光束が瞳を通過するときの位置を観察できるカメラ部を別に設け、これから得られる画像信号を処理して、光学系の位置取りを制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の個人認証方法である。眼底の測定部位にレーザーを正確に照射するには、瞳面を通過するレーザー光束が瞳によってけられないようにしなければならないが、瞳面を観察するカメラ部を設け、これから得られる画像信号を処理して、血流測定系全体の駆動機構を制御すれば、瞳の開口内の適正な位置をレーザービームが通過するように調節することができる。
【0013】
請求項5記載の発明は、視神経乳頭部の血管走向を観察するために、視線を誘導することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の個人認証方法である。この発明は、網膜血管が集中している視神経乳頭部の血管パターンを観察するために、視線を誘導することを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、近赤外レーザー光束を拡げて眼底に照射する一つ又は複数の照射手段と、多数の画素を有し眼底の網膜血管及び眼底内部組織にある血管層からの反射光を受光する受光手段と、該受光手段で得られた前記各画素の出力を記憶する記憶手段と、該記憶手段の記憶内容から前記各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を演算する演算手段と、前記各画素において得られた演算結果の二次元分布を血流マップとして記憶する第2の記憶手段と、該第2の記憶手段に記憶された血流マップに観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化の情報のうち少なくとも一つを抽出する手段と、該抽出データを、予め登録されている個人データと比較・判定する手段、を具備することを特徴とする個人認証装置である。
【0015】
請求項7記載の発明は、レーザー光束が瞳を通過するときの位置を観察できるカメラ部を別に設け、これから得られる画像信号を処理して、光学系の位置取りを制御する手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の個人認証装置である。
【0016】
そして、請求項8記載の発明は、視神経乳頭部の血管走向を観察するために、視線を誘導する手段を備えたことを特徴とする請求項6又は7記載の個人認証装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の個人認証方法は、パスワードや暗証番号などに比べると、偽造することが困難であると言える。従来のものは、何れも皮膚の凹凸や皮下の静脈や血流分布など、生体の表層に近い部分の情報を利用しているため、第三者が本人に気づかれないようにセンサーを配置すれば、生体情報が盗み出される危険性を否定できない。本発明は、レーザースペックルを利用した血流画像化技術を応用するという点では、本発明者が既に提案した指腹血流測定による個人認証方法と類似しているが、測定対象として、より深部にあって簡単には把握できない眼底血流を選定した点に特色がある。
【0018】
個人の認証に際して、模倣を目的として、網膜血管パターンを模した血流分布を発生させるのは、一般的に困難であるが、これに、更に、眼底の内部組織の血流分布や拍動成分を重畳させることはより困難である。従って、本発明の方法は、指腹血流を用いた個人認証方法・手段よりも、より強固な認証システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
生体情報の中でも血流から得られる情報は、本人が生きた状態でセンサーを操作しなければ認証できないという特徴がある。本発明は、レーザー散乱を利用した血流測定技術により、網膜上の血管及び眼底内部組織の血管の血流分布等を測定するものであるが、先ずレーザー光束を拡げて眼底に照射し、網膜血管及び脈絡膜などの眼底内部組織にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像する。そして、レーザースペックルをイメージセンサーを用いて連続的に走査し、各画素における受光量の時間変化の速さを表す量、例えば、平均時間変化率、あるいはイメージセンサーの露光時間にしたがって積分された受光量の変動度の逆数を算出し、得られた数値を2次元マップとして眼底血流マップを得る。この血流マップ内に観察される各種データを、予め登録されている個人データと比較・照合することによって、個人の認証が可能となるものである。
【0020】
本発明のうち一つの方法は、上記個人認証方法において、眼底の内部組織まで到達し得る長波長のレーザー光束、好ましくは、近赤外レーザー光束を用いて、その反射光により求められる眼底の血流マップを測定し、予め登録されている個人データと比較照合する方法である。そしてもう一つの方法は、可視光から近赤外光までの範囲の複数のレーザー光束、好ましくは、近赤外レーザー光束と、それよりも短波長のレーザー光束、好ましくは、可視レーザー光束を併用し、それぞれの反射光により求められる眼底の血流マップを同時又は順次に測定し、重畳的に得られた2種類の血流マップを、予め登録されている個人データと比較照合する方法である。
【0021】
この発明の眼底血流測定では、例えば、830nm前後の波長のレーザーを用いると、脈絡膜など内部組織の血流分布に重畳して、網膜血管など眼底表面にある血管の血流分布画像(血流マップ)が得られる。この発明においては、この血流マップ内に観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化のデータのうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人データと比較・照合して個人認証を行うものである。
【0022】
レーザーは波長によって組織深達性が異なり、可視光のような波長が短いものでは、表面に近い血流の分布のみが得られるが、近赤外光のような波長の長いものでは組織内部に深く入るため、より内部の血流分布を反映した血流マップが得られる。本発明のうちもう一つの方法は、これら二つの現象を組み合わせてより精度の高い本人認証方法を構築したものである。そして、また、本発明においては、本人のデータを登録する際に、複数の波長のレーザーによる血流マップを登録しておき、本人や認証システム側が随時切り替えるなどの方法で、なりすましに対する防衛に役立てることもできる。
【0023】
可視レーザー光束としては、約380〜770nmのものが利用可能であるが、約600〜700nmのものが好ましく、特に、約630〜650nmの波長のものが好ましい。
近赤外レーザー光束としては、通常、約770〜1500nmのものが用いられるが、約800〜900nmのものが好ましく、特に、約830〜850nmの波長のものがイメージセンサの感度も考慮すると好ましい。
【0024】
以下、図面を用いて本発明の原理を詳しく説明する。図1は眼底血流測定を利用した個人認証方法の模式図である。1は眼球、2は瞳孔、3はここを通過するレーザー光束のスポット、4は眼底でのレーザースポットで血流画像化の対象部位、5は半導体レーザー、6はミラー、7は眼底にレーザーを投影するためのレンズ、8は眼底を撮像系に結像するための対物レンズ、9、10は視線を誘導する発光ダイオード、11はダイクロイックミラー、12は瞳孔とその周囲を観察する光学系、13、14はCCDカメラなどのイメージセンサーである。15の点線内は本発明のセンサー部分全体を表す。
【0025】
半導体レーザー5を出たレーザービームをレンズ7によって瞳孔内に集光し、瞳孔通過時のスポットサイズは縮小することで、瞳孔によってけられにくくし、かつ網膜上に投影されるスポットを拡大している。眼底上のレーザースポットの像を、対物レンズ8とレーザー波長のみを通過するダイクロイックミラー11を介してイメージセンサー14上に結像する。このとき像面上には、網膜の血流速度分布を反映したスペックル場が形成され、これをコンピュータで解析することで、図2のような網膜血流マップを取り出すことができる。
【0026】
このマップは公知の手法に従って演算され、コンピュータ内の2次元配列に記憶された血流値データを、高い値ほど白いドットで描画したものである。図2では、眼底内の視神経乳頭部16とその周辺の血流マップを捉えているが、乳頭から周囲に延びている動静脈17の血流値やその分布、またそれ以外の部位に薄く現れている脈絡膜など内部組織内の血管18を流れる血流値とその分布は、個人によって全く異なり、急性の眼疾患さえなければ長期にわたって変化しないことが分かっている。従って、個々の血管の血流値を読み取って比較したり、血管走行パターンの特徴を解析することによって、極めて高い精度で個人認証データとして利用できる。
【0027】
従来の個人認証において利用されているデータは、指紋ならば隆起部のつながりが形成する模様、静脈認証ならば静脈血管の形成する模様など、あくまでもパターン情報である。そこで取り扱われる数値は、その座標での値が山か谷か/静脈が見えるか見えないかの(1か0か)の情報である。しかし眼底血流分布データには、動・静脈血管の配置や分岐などのパターン情報だけではなく、その座標での血流値(例えば0〜255までのアナログ数値)が二次元配列になって記録されている。更に、これらの血流分布データは時間とともに変動し、例えば、図3は、心臓の収縮期における最高血流時の血流マップ、図4は、心臓の拡張期における最低血流時の血流マップであり、各部位における値が大きく異なっているのが分かる。即ち、血流分布データは、二次元空間(x、y)に加えて、時間tの3変数を持つ関数f(x、y、t)であり、個々人における値の分布が大きく異なることは明白である。従来のパターンのみの比較法に比べ、利用できる情報量が桁違いに増え、且つ偽造が極めて困難になっていることが分かる。これらのアナログ量を二値化して、計算時間を短縮することはもちろん可能であり、そのときの選択肢が広いと言える。
【0028】
更に本発明では、これらの血管内の血流が心拍に同期して増減を繰り返す様子が観察できるが、その変動パターンは動脈と静脈では明らかに異なっている。従来、虹彩などの血管パターンを個人認証に利用する装置はあるが、それらは単に血管の走行パターンをイメージセンサーで観察しているだけで、血流値の分布やその変動を解析しているわけではない。本発明では網膜血管のそれぞれの部位における血流値や、その時間的変動、即ち、血流波形の立ち上がりと立ち下がりの勾配なども解析すれば、認証に有効に利用できる。更に、網膜上の各点における血流変動の振幅を計算してマップ状に表示すれば、これも個人に固有のデータである。このように網膜血流マップを利用すれば、従来の方法に比べて極めて多種類の個人認証用データを提供できる。
【0029】
本発明では、波長の長いレーザーを用いると、より深部の血流を反映したマップが得られる。可視光から近赤外までの複数の、好ましくは2つのレーザーを装置に組み込み、同時または別々に網膜や脈絡膜など内部組織を照射することで、血流分布の異なるマップをそれぞれ取り出すことができる。予め個人情報を登録するときに、どの波長のレーザーを認証に用いるかを指定しておけば、これは本人しか知らない情報なので、なりすましへの防衛にも利用できる。
【0030】
本発明において、眼底の測定部位にレーザーを正確に照射するには、瞳面を通過するレーザー光束が瞳によってけられないようにしなければならない。瞳面を観察するカメラ部を設け、これから得られる画像信号を処理して、血流測定系全体の駆動機構を制御すれば、瞳の開口内の適正な位置をレーザービームが通過することができる。そのためには、例えば、以下の様な方法が取られる。
【0031】
図1において、15の点線内は眼底血流測定用センサー部分全体を表す。レーザーが瞳孔を通過する際に、眼底の観察光路に重なると、角膜の表面反射がイメージセンサー上に明るい輝点となって投影され、その部分の血流が解析できなくなる。これを避けるため、レーザーは、瞳孔の周辺部を最小スポット径で通過させなければならないが、眼球の位置は測定(認証)の度に同じ場所に来るとは限らない。この問題を解決するために、本発明では、瞳孔とその周辺を観察する光学系11、12を設け、瞳孔2、レーザースポット3及び周辺の画像をイメージセンサー13で捉え、パソコンに取り込んで、レーザースポットが瞳孔内の適正な位置を通るように、センサー全体15を駆動する機構を取り入れている。
【0032】
また、発明においては、網膜血管が集中している視神経乳頭部の血管パターンを観察するために、視線を誘導することも好ましい。そのためには、例えば、以下の様な方法が取られる。
【0033】
図1において9、10は視線を誘導するための発光ダイオード(LED)で、眼底カメラなどでは固視標と呼ばれている。これを被検者に凝視させながら移動して行くと、眼球が回転し、観察したい部位を撮像系の観察野に誘導することができる。図2のように網膜血管は視神経乳頭から周囲に延びて行くため、血管走行を特徴づけるのは視神経乳頭付近の血管群である。またこの部位は太い網膜血管内を流れる非常に高い血流値と、乳頭組織血流など、非常に低い血流値が混在して観察されるため、個人認証に用いる血流データを取り出す場所としては最適である。
【0034】
この部位を観察野に誘導するためには、右眼の場合は発光ダイオード10を、左眼の場合は発光ダイオード9を点灯する。本発明ではこれらのダイオードの位置を移動させるか、ダイオードマトリクスを用いて点灯位置を変えるなどの手法で、視線の方向を微調整する機構を設ける。これにより血流マップの部位を自由に選択できるようになり、複数のマップを登録して、これらを順次切り替えるなどの操作をすれば、なりすましへの防衛に利用できる。
【0035】
請求項1の発明においては、例えば、図2の血流マップを、図5のように10×10=100のゾーンに分け、それぞれの領域の血流値を読み取り、予め登録している本人の各領域における値の分布と照合することにより認証することができる。
【0036】
あるいはまた、100のゾーンのそれぞれの領域の血流値を読み取り、拍動によって値が上下する様子を調べ、予め登録している本人の各領域における値の上下する度合いや立ち上がりと立ち下がりの勾配等と照合することにより認証することもできる。
【0037】
また、図5の100のゾーンについて平均血流値を求めて数値を並べると、(7,2)、(4,6)・・・などと順番を付すことができ、これを一つの認証データに利用できる。これは本発明が血流分布というアナログ量を用いていることの利点である。更にこの順番は、レーザー波長を変えると入れ替わるので、それぞれを登録されている順番と比較することの相乗効果によって、認証精度の向上が図られる。
【0038】
あるいはまた、いくつかのゾーンをまたがって血管が走っている場合、隣り合うゾーンの平均血流値や、拍動によって値が上下する度合い、変化するタイミングなども近い値を取る。このように各ゾーンが隣接するゾーンの値とどの程度の相関を持つかを調べ、予め登録している本人の情報と照合すれば、これも認証データとして利用できる。
【0039】
本発明においては、例えば、半導体レーザーなどの小型のレーザー光源から出た光を、光学系を通して拡げ、眼底の広い面積に照射する。この照射スポットを、レンズを通してCCDカメラなどの受光面に結像する。CCDカメラから得られる映像信号を、A/D変換してパソコンやマイコンに取り込み、各画素における受光量の時間変化の速さを表す量、例えば、平均時間変化率、あるいはイメージセンサーの露光時間にしたがって積分された受光量の変動度の逆数を算出し、必要な場合にはマップ状に表示して、血流マップデータとする。
【0040】
かくして表現される眼底血流のマップには、網膜血管の血流分布や、血管走行パターンが浮き出てくる。一方網膜下層の脈絡膜まで到達したレーザー光は、脈絡膜血管層に当たり、細くシャープな網膜血管の血流マップに重畳するように、全体的に淡く輪郭のぼけた別の低い血流値マップとして観察される。
【0041】
本発明によれば、前記のごとき各工程からなる個人認証方法を実行するための装置が提供される。本発明の装置は、レーザー光束を拡げて眼底に照射する一つ又は複数の、好ましくは二つの照射手段と、多数の画素を有し眼底からの反射光を受光する受光手段と、この受光手段で得られた前記各画素の出力を記憶する記憶手段と、この記憶手段の記憶内容から前記各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を演算する演算手段と、前記各画素において得られた演算結果の二次分布を血流マップとして記憶する第2の記憶手段と、この第2の記憶手段に記憶された血流マップを、予め登録されている個人データと比較・判定する手段、を具備することを特徴とする個人認証装置である。近赤外レーザー光束と可視レーザー光束とを同時に照射する場合には、照射手段は二つ以上必要であるが、順次に照射する場合には又は近赤外レーザー光束のみ照射する場合は一つの照射手段で良い。
【0042】
照射手段としては、例えば、半導体レーザーから出射した光をレンズを通して拡げ、眼底の広い領域を一度に照射する。受光手段としては、ラインセンサーやエリアセンサー等のイメージセンサーが用いられる。センサーからの電気信号は、A/D変換した後、マイコンやパソコンの記憶部に記憶される。数秒間にわたり連続して画像信号を記憶部に取りこみ、マイコンやパソコンにあらかじめ設定されたプログラムにより、連続する2枚の画像の差を求めて、受光量の時間変化の速さを演算する。または画像のぶれ率、すなわちイメージセンサーの露光時間内で光量が高速に変化すると、信号が積分され、逆に2画面の差が減少する性質を利用して受光量の時間変化の速さを演算する。演算結果は各画素の配置に従って、パソコンの画面上に二次元のカラーマップとして表示することもできる。演算した値を、あるいは表示手段に表示された血流マップを、予め登録されている個人の血流マップと比較・判定する手段には、従来公知の各種の手段を用いることができる。
【0043】
本発明の方法及び装置には、血流変動の経時変化を測定し、波形の立ち上りの傾きと立ち下りの傾きを検知し、これらの傾きが上りが急峻で、下りが緩いことを検出し、生きていることを検知する方法・手段に採用することもできる。
【実施例】
【0044】
図1において、1は眼球、2は瞳孔、3はここを通過するレーザー光束のスポット、4は眼底でのレーザースポットで血流画像化の対象部位、5は半導体レーザー、6はミラー、7は眼底にレーザーを投影するためのレンズ、8は眼底を撮像系に結像するための対物レンズ、9、10は視線を誘導する発光ダイオード、11はダイクロイックミラー、12は瞳孔とその周囲を観察する光学系、13、14はCCDカメラなどのイメージセンサーである。15の点線内は本発明のセンサー部分全体を表す。
【0045】
半導体レーザー5を出たレーザービームをレンズ7によって瞳孔内に集光し、瞳孔通過時のスポットサイズは縮小することで、瞳孔によってけられにくくし、かつ網膜上に投影されるスポットを拡大している。眼底上のレーザースポットの像を、対物レンズ8とレーザー波長のみを通過するダイクロイックミラー11を介してイメージセンサー14上に結像する。このとき像面上には、網膜の血流速度分布を反映したスペックル場が形成され、これをコンピュータで解析することで、図2のような網膜血流マップを取り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による個人認証システムは、複雑な眼底血流分布とその時間変化の情報を組み合わせているため、偽造が難しい。この利点を生かして、高度なセキュリティ管理を要求される施設の入退室監視や、出入国管理等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】眼底血流測定を用いた個人認証方法の説明図である。
【図2】眼底血流マップの測定例
【図3】眼底血流マップの測定例(最高血流時)
【図4】眼底血流マップの測定例(最低血流時)
【図5】眼底血流マップを10×10のゾーンに分割した例
【符号の説明】
【0048】
1 眼球
2 瞳孔
3 レーザー光束のスポット
4 眼底でのレーザースポットで血流画像化の対象部位
5 半導体レーザー
9、10 視線を誘導する発光ダイオード
11 ダイクロイックミラー
13、14 イメージセンサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光束を拡げて眼底に照射し、眼底の網膜血管及び眼底内部組織にある血管層から反射した光を、光学系を用いてイメージセンサー上にレーザースペックルとして結像し、レーザースペックルの各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を算出し、その数値を2次元マップとして眼底の血流マップを求め、該血流マップを、予め登録されている個人データと比較・照合することを特徴とする個人認証方法であって、眼底の内部組織まで到達し得るレーザー光束を用い、反射光により求められる血流マップを測定し、該血流マップ内に観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化のデータのうち少なくとも一つを利用して、これを予め登録されている個人データと比較・照合することを特徴とする個人認証方法。
【請求項2】
レーザー光束として、可視光から近赤外光までの範囲の一つ又は複数のレーザー光束を用いることを特徴とする請求項1記載の個人認証方法。
【請求項3】
レーザー光が、波長が約770〜1500nmの範囲の近赤外レーザー光であることを特徴とする請求項1又は2記載の個人認証方法。
【請求項4】
レーザー光束が瞳を通過するときの位置を観察できるカメラ部を別に設け、これから得られる画像信号を処理して、光学系の位置取りを制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の個人認証方法。
【請求項5】
視神経乳頭部の血管走向を観察するために、視線を誘導することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の個人認証方法。
【請求項6】
レーザー光束を拡げて眼底に照射する一つ又は複数の照射手段と、多数の画素を有し眼底の網膜血管及び眼底内部組織にある血管層からの反射光を受光する受光手段と、該受光手段で得られた前記各画素の出力を記憶する記憶手段と、該記憶手段の記憶内容から前記各画素における受光量の時間変化の速さを表す量を演算する演算手段と、前記各画素において得られた演算結果の二次元分布を血流マップとして記憶する第2の記憶手段と、該第2の記憶手段に記憶された血流マップに観察される血流分布データ、網膜血管の走向を反映するパターン、これに重畳して観察される眼底内部組織の血管の走行を反映するパターン、及びこれらの経時変化のデータのうち少なくとも一つを抽出する手段と、該抽出データを、予め登録されている個人データと比較・判定する手段、を具備することを特徴とする個人認証装置。
【請求項7】
レーザー光束が瞳を通過するときの位置を観察できるカメラ部を別に設け、これから得られる画像信号を処理して、光学系の位置取りを制御する手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の個人認証装置。
【請求項8】
視神経乳頭部の血管走向を観察するために、視線を誘導する手段を備えたことを特徴とする請求項6又は7記載の個人認証装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95350(P2009−95350A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158542(P2006−158542)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】