説明

レーザー蒸着法による長尺酸化物超電導導体の製造方法

【課題】本発明は、安定したプルームを長時間均一に発生させ、長尺の基材に対し均一な膜質の酸化物超電導層を生成することを可能とする方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、レーザー光をターゲットに集光照射し、プルームを生成させ、該プルームからの粒子をテープ状の長尺基材上に堆積させて酸化物超電導層を形成する方法であって、減圧チャンバー内部の転向部材間に長尺基材が複数の隣接するレーンを構成するように巻き掛け、長尺基材のレーンに近接させてターゲットを配置し、ターゲットに対してレーザー光を集光照射する集光手段を設けたレーザー蒸着装置を用い、集光手段の焦点距離を1.0〜2.0mの範囲に、レーザー光のエネルギー密度を1.0〜4.0J/cmの範囲に設定し、ターゲットに対し斜め方向からレーザー光を集光照射しターゲット上で走査し、レーザー光の照射位置毎にプルームを発生させて成膜する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットにレーザー光を照射して、ターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、発生した粒子を長尺の基材上に堆積させて酸化物超電導層を形成することにより酸化物超電導導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはYを含む希土類元素のいず れか)は、液体窒素温度以上で優れた超電導特性を示すことから、実用上極めて有望な素材とされており、この酸化物超電導体を線材に加工して電力供給用の超電導導体として用いることが強く要望されている。
このRE−123系酸化物超電導導体の作製には、結晶配向性の高い基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。これは、この種の希土類系酸化物系超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しており、基材上に酸化物超電導層を形成する場合、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要があるからである。従って、酸化物超電導層を成膜する場合の下地となる基材においても、結晶配向性を良好とする必要がある。
【0003】
このようなRE−123系酸化物超電導導体に用いる基材として、図6に示す如くテープ状の金属基材100上に、IBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition:イオンビームアシスト)法によって中間層110を積層形成した構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上述のIBAD法により形成される中間層110とは、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が金属基材100と酸化物超電導層との中間的な値を示す材料、例えばMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO、GdZr等によって構成されている。このような中間層110は、金属基材100と酸化物超電導層との物理的特性の差を緩和するバッファー層として機能する。また、IBAD法により成膜することで中間層110の結晶として高い面内配向性を実現することができる。例えば、中間層110を構成する図7に示す複数の結晶粒120において、結晶粒120のa軸同士がなす粒界傾角Kを15゜程度以下にすることができ、その中間層110上に適切な材料からなるキャップ層を形成するならば、キャップ層の結晶配向性を5゜程度に揃えることが可能となる。
【0004】
このキャップ層の結晶面内配向性が高い方が、更にその上に成膜される酸化物超電導層も高い結晶配向性となり、この酸化物超電導層の結晶面内配向性が高くなる程、臨界電流、臨界磁場、臨界温度等の超電導特性が優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
また、前述のキャップ層上に酸化物超電導層を成膜する技術として本出願人は、レーザー光をターゲットに集光照射し、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させて構成粒子のプルームを発生させ、このプルームの粒子を長尺の基材上に堆積させて酸化物超電導層を形成するレーザー蒸着法について研究している。
【0005】
この種のレーザー蒸着法において、基板に対向させて設けたターゲットにレンズを介してレーザー光を集光照射する場合、レンズの焦点距離を長く設定することにより、レーザー光の焦点位置に対して蒸着が可能な有効範囲を広くして蒸着を行う技術が知られている。即ち、レーザー光によるターゲットのえぐれによる表面位置のずれが多少生じても蒸着に必要なレーザー光のエネルギー密度を得ることができるように、レンズの焦点距離を1m以上に設定し、その焦点の近傍にターゲットを配置し、チャンバに収容した成膜用の基板(15mm×15mm、チタン酸ストロンチウム基板)に粒子堆積を行ってレーザー蒸着する技術が知られている。(特許文献1参照)
【0006】
また、酸化物超電導薄膜の形成方法において、酸化物超電導薄膜を安定的に形成できる方法として、Y系焼結体ターゲットにレーザービームを照射してターゲットの構成粒子のプルームを発生させるとともに、ターゲットに対向させて設けた基材の薄膜上にマスクを介してプルームの化学種を付着させるとともに、基材上においてマスクにより覆われていない結晶成長の領域に直線状に集光したレーザービームを照射しながら酸化物超電導薄膜を形成する技術が知られている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−71359号公報
【特許文献2】特開平5−24804号公報
【特許文献3】特開平6−334230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述のIBAD法による中間層の上に酸化物超電導層を形成する技術としてレーザー蒸着法の研究を進めているが、酸化物超電導導体は、送電線利用あるいは超電導磁石の巻線用としての利用を考慮しても数10m〜数100mに達する長尺の超電導導体を製造する必要がある。
このため、IBAD法に基づく中間層を備えた長尺基材に対し、酸化物超電導層を長時間連続成膜する必要があるので、レーザー蒸着法を用いて如何に長時間、安定した成膜が可能であるか研究する必要がある。
このような背景から本発明者らは、図8に示す構造のレーザー蒸着装置を用いて酸化物超電導層を形成し、レーザー蒸着方法について種々研究を行っている。
図8に示すレーザー蒸着装置50は、一方の側で複数の転向部材51a〜51gを同軸的に配列した第1の転向部材群51と、他方の側で複数の転向部材52a〜52gを同軸的に配列した第2の転向部材群52と、転向部材群51、52間に巻き掛けるように配されたテープ状の基材60の一部分61に対向するように配されたターゲット57と、ターゲット57にレーザー光La、Lb、Lcを照射するレーザー光発光手段53a、53b、53cと、基材60のターゲット57に対向する一部分61を支持する基台と、基材60を転向部材群51、52に向けて送り出す送出リール55と、基材60を巻き取る巻取リール56を備えて構成されている。
【0009】
送出リール55と巻取リール56とは、図示略の駆動装置により互いに同期して駆動されており、各転向部材51a〜51g、52a〜52gによって移動方向が転向した基材60を転向部材群51、52の間で複数列(複数のレーン)とした状態で搬送するための搬送手段を構成している。
このレーザー蒸着装置において、レーザー光La、Lb、Lcによりターゲット57から叩き出され若しくは蒸発されたターゲット57の構成粒子はプルーム58となり、基材60のターゲット57に対向する部分61に堆積して薄膜が形成される。また、ターゲット57に対して複数レーンの基材60が対向しているので、一度に蒸着される面積を広く取ることができ、プルーム58内の構成粒子を有効に利用することができる。
【0010】
図8に示す構成のレーザー蒸着装置50を用いて長尺の基材60に成膜する場合、本出願人は、複数のレーンに分かれて移動する基材60に均一に成膜することを目的とし、図9に示す如くレーザー光源から出射されたレーザー光65を一端走査ミラー66にて方向変更し、更にレンズ部材67を介し集光し、レーザー照射光69としてターゲット57に集光照射することができるような構造を検討している。
この構造によれば、走査ミラー66を図9の矢印a、a’方向に首振りするだけでターゲット57の上面においてレーザー照射光69を集光照射する位置を変更することができるので、ターゲット57の表面上をレーザー照射光69で繰り返し走査することができ、ターゲット57の有効利用を図ることができる。即ち、ターゲット57の上面をレーザー照射光69により走査してターゲット57の構成粒子を叩き出すか蒸発させる場合、レーザー照射光69の照射位置に応じて複数のプルーム(蒸発粒子の噴流)70を発生させることができ、これら複数のプルーム70を利用して上述の複数のレーン配置された基材60に対し均一成膜を行うことができる。
【0011】
しかしながら、走査ミラー66を用いてレーザー照射光69の走査を行いながら長尺の基材60に対し長時間連続成膜を行って酸化物超電導層を成膜してみたところ、以下に説明する問題を生じることが判明した。
まず、ターゲット57の表面にレンズ部材67によりレーザー照射光69を集光して焦点を合わせ複数のプルーム70を発生させて成膜する場合、ターゲット表面におけるレーザー照射光69のエネルギー密度を調節するには、レンズ部材67のレーザー光路方向の位置を調整することでターゲット表面に集光するレーザー光69のスポット幅を調節することで行うことができるが、このスポット幅の調節を適正に行わないと、即ち、ターゲット57に入射する際のレーザー照射光69のエネルギー密度の調節を適切に行わないと、図10に示す如く小さいプルーム71を発生させてしまうこととなり、エネルギー密度の大小により発生するプルームの大きさが異なることになるので、長尺の基材60に対し長時間成膜を行う場合、基材60の長さ方向に膜質がばらつく問題を生じ易いことが判明した。
【0012】
これは、走査ミラー66を首振りしてレンズ部材67の中心及び中心から離れた位置までレーザー光65を通過させてターゲット57上にレーザ照射光69を所定のスポット径で集光照射するので、集光されてターゲット57の表面に到達するレーザー照射光69の状態を考えると、ターゲット57に対しレーザー照射光69を斜め方向から集光照射しているので照射位置毎にレーザー光の入射角度が異なり、レーザー光のスポット径が異なることになることに加え、レンズ部材67の中心部を通過する場合のレーザー照射光69のスポット径とレンズ部材67の他の部分を通過する際のレーザー照射光69のスポット径とが微妙に異なるために、走査する位置毎にターゲット57に与えられるエネルギー量が微妙に異なるため、長尺の基材60に成膜して超電導導体を製造していると、基材60の長さ方向に超電導特性のばらつきを生じる問題があった。
【0013】
また、レンズ部材67について、焦点距離が短い構造の場合はレーザー光69を極度に集光してターゲット57にエネルギーを与えて大きなプルームを生成させることができるが、集光度が高すぎると、逆にターゲット57に対するエネルギー密度が高くなり過ぎ、この場合に発生するプルームは広がりが大きくなり過ぎるために、ターゲット57からの集率が悪化する問題がある。
また、生成される酸化物超電導層の臨界電流密度について言えば、プルーム中の粒子が高エネルギーになり過ぎると、形成する酸化物超電導層にダメージを与え易くなり、臨界電流密度の低下に繋がる問題がある。
また、レンズ部材67によるレーザー照射光69の集光度が不足な場合は、エネルギー密度の低下に繋がり、プルーム自体が発生し難くなるか不安定になるので、長時間の成膜が困難になり、集率も低下する問題がある。また、成膜時にドロップレットと称される欠陥部も発生し易くなり、酸化物超電導層の膜質を低下させ、超電導特性の劣化に繋がる問題がある。
【0014】
本願発明は上述の事情に鑑みなされたもので、レーザー光によりターゲットから安定したプルームを長時間均一に発生させることができ、長尺の基材に対し均一な膜質の酸化物超電導層を生成することを可能とするレーザー蒸着法による酸化物超電導導体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明は、レーザー光をターゲットの表面に集光照射し、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させてターゲット構成粒子の噴流であるプルームを生成させ、該プルームからの粒子をテープ状の長尺基材上に堆積させて酸化物超電導層を形成することにより長尺酸化物超電導導体を製造する方法であって、減圧チャンバーの内部にテープ状の長尺基材の送出装置と巻取装置とを設け、前記送出装置と巻取装置の間に前記長尺の基材を巻き掛けて方向変換する複数の転向部材を配置してこれらの転向部材間に前記長尺基材が複数の隣接するレーンを構成するように巻き掛け、前記長尺基材のレーンに近接させて前記ターゲットを配置するとともに、前記ターゲットに対してレーザー光発光手段からのレーザー光を集光照射する集光手段を設けたレーザー蒸着装置を用い、前記集光手段の焦点距離を1.0〜2.0mの範囲に設定し、前記レーザー光のエネルギー密度を1.0〜4.0J/cmの範囲に設定し、前記ターゲットに対し斜め方向からレーザー光を集光照射しターゲット上に集光したレーザースポットをターゲット上で走査するとともに、レーザー光の照射位置毎にプルームを発生させてこれらプルームからの粒子を前記各レーンの長尺基材上に堆積させて成膜することを特徴とする。
【0016】
本発明は、前記焦点距離を1.2〜1.7mの範囲とし、前記レーザー光のエネルギー密度を2.0〜3.0J/cmの範囲とすることを特徴とする。
本発明は、前記レーザー光の光源から出射されたレーザー光を光反射部材と集光部材を介し前記ターゲットに集光照射するとともに、前記反射部材を揺動することにより前記集光部材を介し前記ターゲット上に集光照射する位置を変更してレーザー光をターゲット上において走査し、ターゲットから走査位置毎に複数のプルームを生成させながら前記レーンに位置する長尺基材上に酸化物超電導層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長尺の基材上にレーザー蒸着法により酸化物超電導層を成膜する場合、長尺の基材をレーン状に配列させ、集光手段により集光したレーザー光をターゲットに照射してターゲットから粒子を発生させてレーン状に配列した長尺基材に対して粒子の堆積を行う場合、集光手段の焦点距離を1.0〜2.0mとし、エネルギー密度を1.0〜4.0J/cmとするので、ターゲットにレーザー光を集光照射してターゲットの構成粒子の噴流であるプルームを生成させる際、ターゲット上に斜め方向から集光したレーザー光を走査し移動させてもレーザー光の照射位置毎に望ましい範囲のエネルギーを与えて安定したプルームをターゲット上の走査位置のいずれからも発生させることができ、安定した状態のプルームを長時間にわたり生成することができる。従ってレーン状に配列した長尺の基材に酸化物超電導層を成膜する場合、長尺基材の長さ方向に均質な膜質の超電導特性の優れた酸化物超電導層を成膜することができ、しかもその酸化物超電導層を優れた収率で得ることができる。
また、前述の方法により、ターゲットの走査位置のいずれからも望ましい安定したプルームを発生させて基材上に酸化物超電導層を生成できるので高い収率で酸化物超電導層を成膜することができる。
【0018】
次に、集光部材の焦点距離を1.2〜1.7mの範囲とし、レーザー光のエネルギー密度を2.0〜3.0J/cmの範囲とするならば、より望ましい焦点距離、エネルギー密度範囲のレーザー光をターゲットに照射しながらプルームを発生できるので、長尺の基材に超電導層を生成した場合に、長尺の基材の長さ方向のいずれの位置においても膜質の安定した超電導特性の良好な酸化物超電導層を成膜することができる。
レーザー光をターゲットに対して走査する場合、光反射部材を揺動させてレーザー光でターゲット上を走査するならば、光反射部材の揺動によって集光したレーザー光をターゲット上で確実かつ容易に走査することができるとともに、集光部材の焦点距離を1.2〜1.7mの範囲とし、レーザー光のエネルギー密度を2.0〜3.0J/cmの範囲としているので、走査したいずれの位置からも安定したプルームを発生させて長尺の基材上に酸化物超電導層を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明に係るレーザー蒸着装置の一例を示す構成説明図。
【図2】図2は図1に示すレーザー蒸着装置の要部を示す斜視図。
【図3】図3は同レーザー蒸着装置においてプルームを発生させている状態を示すもので、図3(A)はレーザー光のスポット径を大きくしてエネルギー密度を小さくした状態の一例を示す説明図、図3(B)はレーザー光のスポット径を小さくしてエネルギー密度を高くした状態の一例を示す説明図。
【図4】図4は図3に示すレーザー蒸着装置によりプルームを発生させている状態におけるレーン状に配置された長尺基材とプルームの位置関係を示す構成図。
【図5】図5はテープ状の基材上に多結晶中間層とキャップ層と酸化物超電導層を形成した酸化物超電導導体の一例構造を示す断面図。
【図6】図6は金属テープの基材上にIBAD法により形成した中間層の一例を示す構成図。
【図7】図7はIBAD法により形成した中間層の結晶粒を示す構成図。
【図8】図8は長尺の基材上に酸化物超電導層を形成するためのレーザー蒸着装置の一例を示す構成図。
【図9】図9はレーザー光を集光部材により集光してターゲットに照射している状態の一例を示す説明図。
【図10】図10はレーザー光をレンズ部材により集光してターゲットに照射している状態の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について、以下説明する。
図1〜図4は、本発明方法の実施に用いるレーザー蒸着装置の第1実施形態を示す図であり、図1はレーザー蒸着装置10の構成図、図2はこのレーザー蒸着装置10の要部斜視図、図3はターゲットに対するレーザー光の照射状態を示す説明図、図4はターゲットと長尺基材のレーン配置関係を示す断面図である。なお、本実施形態では、図5に示すように、テープ形状の基材27上に多結晶中間薄膜29とキャップ層30を形成した長尺基材12に対し、レーザー蒸着装置により酸化物超電導層31を形成してなる酸化物超電導導体28を製造する場合を例示して以下に説明する。
【0021】
本発明の実施に用いるレーザー蒸着装置10は、長尺基材12を収容する処理容器11と、該処理容器11内に配置され長尺基材12を囲んで保温する開口付きのヒータボックス13と、該ヒータボックス13の開口14に隣接して設けられたターゲットホルダ16と、該ターゲットホルダ16に保持されるターゲット15にレーザー光18を反射部材(反射ミラー)25と集光部材(集光レンズ)26とを介し照射するレーザー光発光手段17とを備えて構成され、レーザー光18をターゲット15の表面に斜め上方から照射し、該ターゲット15から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子の噴流(以下、プルーム19と記す。)の粒子をヒータボックス13内の長尺基材12の表面に堆積させて成膜することができるようになっている。なお、本実施形態では予め後述する如くテープ素材27上に多結晶中間薄膜29とキャップ層30を形成した長尺基材12を用いてレーザー蒸着装置10により酸化物超電導層31を形成するものである。
【0022】
前記処理容器11内には、多結晶中間薄膜29とキャップ層30を備えた長尺基材12が巻回された送出リール20と、酸化物超電導層31の成膜を終えた酸化物超電導導体28を収納する巻取リール21が設けられている。これらの送出リール20と巻取リール21との間に設けられたヒータボックス13内には、長尺基材12を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなる一対の巻回部材群22、23が対向配置され、これら一対の巻回部材群22、23に巻回された長尺基材12が、これらの巻回部材群22、23を介し必要回数周回することにより、蒸着粒子の堆積領域内において複数ターン配列された構成にされている。
【0023】
これらの巻回部材群22、23を収容しているヒータボックス13は、内壁面に複数個の図示略のヒータが設けられ、これらのヒータに通電することで、巻回部材群22、23及び巻回部材群22、23に周回可能に巻回されている長尺基材12を均一に加熱し、目的の温度範囲に保温できるようになっている。また、ヒータボックス13の底面部には、ターゲット15の表面で生じたプルーム19をヒータボックス13内に導入するための開口14が穿設されている。
【0024】
この開口14の外側(下側)には、ターゲット15を固定したターゲットホルダ16が、ヒータボックス13の開口14に対して近接する平行な面に沿って移動可能に設けられている。さらに、このターゲットホルダ16は、ターゲット15の中心を軸として回転可能に設けられていることが好ましい。このように、ターゲット15を移動可能及び回転可能に設けるならば、長時間の成膜を継続して実施しても、ターゲット15の表面がほぼ均一に削られるので、ターゲット15表面の形状乱れによってプルーム19の方向や大きさが変わる不具合を防止することができ、長尺基材12の長手方向に均一な膜厚の酸化物超電導層31を形成することが可能となる。
【0025】
ターゲットホルダ16に取り付けられたターゲット15は、形成しようとする酸化物超電導層31と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板材からなっている。従って、酸化物超電導体のターゲット15は、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)またはそれらに類似した組成の材料を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)等であるが、その他の酸化物超電導体、例えば、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導層と同一の組成か、近似した組成のものを用いることが好ましい。
【0026】
このターゲット15にレーザー光18を照射するレーザー光発光手段17としては、ターゲット15から蒸着粒子を叩き出すことができるレーザー光18を発生するものであれば、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)などのエキシマレーザ、YAGレーザ、CO2レーザなどのいずれのものを用いても良い。レーザー光発光手段17から照射されるレーザー光18は、処理容器11の側方に設けられている反射部材(反射ミラー)25により光路を変更され、集光部材26により集光されてターゲット15の上面に斜め方向から照射されるようになっているとともに、レーザー光18は処理容器11の側面の適当な位置に設けられている図示していない透明窓から該処理容器11内に入り、ターゲット15の表面に照射されるようになっている。
【0027】
レーザー光18の集光度に伴うエネルギー密度の調整は、ターゲット15の表面において集光手段26によりレーザー光18の集光状態を制御してターゲット15の表面におけるレーザー光18のスポット径の大小を調整することにより行うことができる。例えば、図3(A)に符号S1で示す如くレーザー光18のスポット径を大きくした場合と、図3(B)に符号S2で示す如くレーザー光18のスポット径を小さくした場合とを比較すると、レーザー光18のエネルギー密度は図3(A)のスポット径の場合よりも図3(B)の場合のスポット径の場合の方が大きくなるが、これらのいずれの場合であっても、レーザー光18のエネルギー密度を1.0〜4.0J/cmの範囲あるいは2.0〜3.0J/cmの範囲とする。
また、レーザー光はパルスレーザであることが好ましく、その照射周波数は、1秒間当たりに間欠的に発振されるレーザーのパルスの数を示すものであり、この調整は、レーザー光発光手段17に電力を一定の周波数をもって間欠的に供給するか、レーザー光18が通過する経路のどこかに、回転セクタ等の機械的シャッタを設け、この機械的シャッタを一定の周波数をもって作動させることにより、容易に調整することができる。
【0028】
集光手段26の焦点距離は、本実施形態において1.0m以上、2.0m以下の範囲であることが好ましく、1.2m以上、1.7m以下の範囲であることがより好ましい。
本実施形態のレーザー蒸着装置では、集光手段26の焦点距離が短い場合、レーザー光を極度に集光することはできるが、エネルギー密度が高くなり過ぎる傾向となり、その場合に生成するプルーム19は必要以上に広がりをもってしまうため、収率が低下する。また、焦点距離が短くてエネルギー密度が高くなりすぎると、プルーム中の粒子が高エネルギーを有するので、生成中の膜にダメージを与える結果、臨界電流値(Jc)が低下する虞がある。逆に、集光部材26の焦点距離が長すぎる場合、集光度を高くすることができず、プルーム自体が発生し難くなるか、不安定になるので、長時間成膜が困難となり、収率も低下する傾向となる。
【0029】
この実施形態で用いる長尺基材12は、テープ素材27上にイオンビームアシストスパッタリング法(IBAD法)等によってGdZr、CeO、YSZなどからなる1層又は2層以上の多結晶中間薄膜29を形成し、その上にキャップ層30を形成してなるものである。
【0030】
長尺のテープ素材27の構成材料としては、ステンレス鋼、銅、または、ハステロイ(登録商標)などのニッケル合金などの各種金属材料から適宜選択される長尺の金属テープを用いることができる。このテープ素材27の厚みは、0.01〜0.5mm、好ましくは0.02〜0.15mmとされる。テープ素材27の厚みが0.5mm以上では、後述する超電導層31の膜厚に比べて厚くなり過ぎ、オーバーオール(酸化物超電導導体全断面積)あたりの臨界電流密度としては低下する傾向となる。一方、テープ素材27の厚みが0.01mm未満では、テープ素材27の強度が低下し、電導導層31の補強効果を消失する傾向となる。
【0031】
多結晶中間薄膜29は、立方晶系の結晶構造を有する結晶の集合した微細な結晶粒が多数相互に結晶粒界を介して接合一体化されてなるものであり、各結晶粒の結晶軸のc軸は基材1の上面(成膜面)に対してほぼ直角に向けられ、各結晶粒の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。多結晶中間薄膜29の厚みは例えば、0.1〜1.0μmとされる。多結晶中間薄膜29の厚みを1.0μmを超えて厚くしても結晶配向性向上効果の増大は期待できず、経済的にも不利となる。一方、多結晶中間薄膜29の厚みが0.1μm未満であると、薄すぎて酸化物超電導層31を十分支持できない恐れがある。この多結晶中間薄膜29の構成材料としてはGdZr、CeO、YSZの他に、MgO、SrTiO3等を用いることができる。
【0032】
キャップ層30は、その上に設けられる酸化物超電導層31の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層31を構成する元素の他の層への拡散を抑制する機能などを有する。
キャップ層30としては、特に、多結晶中間層29の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜された膜であるのがより好ましい。このように選択成長しているキャップ層30は、多結晶中間層29よりも更に高い面内配向度が得られる。
キャップ層30を構成する材料としては、このような機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、例えば、CeO、LaMnO、SrTiO、Y、Al等を用いるのが好ましい。
キャップ層30の構成材料としてCeOを用いる場合、キャップ層30は、全体がCeOによって構成されている必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
キャップ層30の適正な膜厚は、その構成材料によって異なり、例えばCeOによってキャップ層30を構成する場合には、50〜5000nmの範囲、100〜5000nmの範囲などを例示することができる。キャップ層24の膜厚がこれらの範囲から外れると、十分な配向度が得られない場合がある。
【0033】
酸化物超電導層31を構成するRE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)等であるが、その他の酸化物超電導体、例えば、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体からなるものである。この酸化物超電導層31の厚みは、0.5〜5μm程度で、かつ均一な厚みとなっている。また、酸化物超電導層31の膜質は均一となっており、酸化物超電導層31の結晶のc軸とa軸とb軸もキャップ層30の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
【0034】
次に、前述したように構成された本実施形態のレーザー蒸着装置10を用い、多結晶中間薄膜29とキャップ層30を形成した長尺基材12の表面に酸化物超電導体からなる酸化物超電導層31を成膜し、酸化物超電導導体28を製造する方法について説明する。
図1に示すレーザー蒸着装置10を用いて長尺基材12のキャップ層30上に酸化物超電導層31を成膜するには、送出リール20に巻回されている長尺基材12を引き出しながら、ヒータボックス13内に導入し、その内部に収容されている一対の巻回部材群22、23に順次巻回し、その後先端側をヒータボックス13から導出し、巻取リール21に巻き取り可能に固定する。
これによって、一対の巻回部材群22、23に巻回された長尺基材12がこれらの巻回部材群22、23を周回し、プルーム19が導入される開口14近傍に複数列並んでレーン状態に移動するようになる。また、この開口14に隣接したターゲットホルダ16にターゲット15を取り付ける。その後、排気装置24を駆動し、処理容器11内を減圧する。この際、必要に応じて処理容器11内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。
【0035】
長尺基材12を前述したようにセットした後、ターゲット15にレーザー光18を照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、ヒータボックス13の内壁に設けられたヒータに通電してヒータボックス13内の長尺基板12と一対の巻回部材群22、23を全体的に加熱し、一定温度に保温しておくことが好ましい。ヒータボックス13内の長尺基材12の温度制御は、ヒータボックス13内の適所に複数の温度センサを設置しておき、ヒータボックス13内の長尺基材12の温度が均一になるように複数のヒータを個別にON/OFFすることなどによって行うことが好ましい。
【0036】
次に、送出リール20から長尺基材12を送り出しつつ、レーザー光発光手段17からレーザー光18を発生させ、反射部材25と集光レンズ26と透明窓を通してレーザー光18を処理容器11内に導入し、集光されたレーザー照射光18aとしてターゲット15に斜め上方から照射する。この時、レーザー照射光18aの照射位置をターゲット15の表面上で移動させる走査を行いながらレーザー照射光18aをターゲット15の表面に照射する。
また、ターゲット15は、図示していないターゲット移動機構によって、開口14に対して平行な面に沿って往復移動させることにする。さらに、このターゲット15をその中心軸を中心に回転させてもよい。このターゲット15の回転運動によりレーザー光18は円状の軌跡を描くので、ターゲット15表面は円状に削られ、また、前記往復運動によりレーザー照射光18はターゲット15の径方向に動くので、ターゲット15の円周側から中心側にかけても削られるので、異なる場所のターゲット15の蒸着粒子を叩き出すか蒸発させてターゲット15の表面全域を有効利用することができる。
【0037】
ターゲット15から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大した炎型のプルーム19となり、ヒータボックス13に穿設された開口14からヒータボックス13内に導入される。この開口14近傍には、一対の巻回部材群22、23に巻回された長尺基材12がこれらの巻回部材群22、23を周回することによって複数列レーン状に並んで移動している。ヒータボックス13内にプルーム19を導入することで、開口14近傍を複数列並んでレーン状に移動している長尺基材12の表面に、蒸着粒子を堆積させることができ、長尺基材12がこれらの巻回部材群22、23を周回する間に、酸化物超電導体からなる酸化物超電導層31が成膜される。
【0038】
このレーザー光18のエネルギー密度は1.0〜4.0J/mの範囲であることが好ましい。レーザー光18のエネルギー密度が1.0J/m未満であると、ターゲット15に与える熱エネルギーが小さすぎてターゲット15の蒸着粒子を十分に叩き出し若しくは蒸発させることができず、生成するプルーム19が小さくなり過ぎ、酸化物超電導層31の成膜速度が低下するとともに長尺の基材12に成膜した場合に長さ方向における膜質のばらつきを生じやすくなるからであり、また、レーザー光18のエネルギー密度が4.0J/mを越えると、ターゲット15に与えるエネルギーが大きすぎてターゲット15に割れ等が生じる虞があるからである。
なお、ここで示すエネルギー密度とは、ターゲット上でレーザー走査する場合のレーザー光18のエネルギー密度測定値である。
また、レーザー光18のエネルギー密度は、1.2〜1.7J/mの範囲であることがより好ましい。エネルギー密度がこの範囲内であれば、図3に示す如く反射部材25を首振り回動させて集光部材26を通過させてレーザー光18を集光し、レーザー照射光18aとしてターゲット15の表面に照射した場合、均質な成膜に有利な安定したプルーム19を長時間連続生成させることが可能であり、この安定したプルーム19の生成により長尺基材12上に酸化物超電導層31を連続成膜した場合であっても膜質の良好な欠陥のない均質の薄膜を形成することができる。
【0039】
また、レーザー光18は図4に示す如く走査されてターゲット15の一側端部(図4の右側端部)から他側端部(図4の左側端部)まで移動しながら、走査位置毎に複数のプルーム19を発生させるので、ターゲット15の一側端部(図4の右側端部)にレーザー光18を照射する場合と、ターゲット15の他側端部(図4の左側端部)にレーザー光18を照射する場合とでは、ターゲット15に対するレーザー光18の入射角度が異なるので、レーザー光18のスポット径が異なり、それに応じてターゲット15に照射されるエネルギー密度が異なるが、集光手段26の焦点距離を1.0m以上、2.0m以下の範囲とするとともに、レーザー光18のエネルギー密度を1.0〜4.0J/cmの範囲に設定することで、ターゲット15の一側端部(図4の右側端部)にレーザー光18を照射する場合と、ターゲット15の他側端部(図4の左側端部)にレーザー光18を照射する場合のいずれの場合であっても均一なプルーム19を発生させることができる。
【0040】
以上のように、長尺基材12が巻回部材群22、23を周回する間に、プルーム19内を複数回通過することになる。長尺基材12がプルーム19内を通過する毎に、酸化物超電導体からなる薄膜が順次成膜されるので、その結果、キャップ層30上に各層の厚みが略一定となるような積層構造の酸化物超電導層31が成膜され、図5に示す酸化物超電導導体28が得られる。酸化物超電導層31の成膜後、得られた酸化物超電導導体28は、ヒータボックス13から導出され、巻取リール21に巻き取られる。
【0041】
本実施形態のレーザー蒸着装置10は、処理容器11内に長尺基材12を囲んで保温するヒータボックス13を設け、ヒータボックス13内で適温に加熱された長尺基材12の表面にターゲット15からの蒸着粒子を堆積させる構成とし、しかも、ターゲット15に照射するレーザー光18のエネルギー密度を1.0〜4.0J/mの範囲とし、集光部材26の焦点距離を1〜2mの範囲としたので、酸化物超電導層31の成膜不良が少なくなり、長手方向の超電導特性が均一な長尺の酸化物超電導導体28を製造することができる。
また、集光手段26の焦点距離を1.2m以上、1.7m以下の範囲とするとともに、レーザー光18のエネルギー密度を2.0〜3.0J/cmの範囲に設定することにより、ターゲット15のいずれの位置から発生させるプルーム19をも均一化することができ、長尺の基材12の全長にわたり均質の酸化物超電導層31を成膜することができるので、長尺の酸化物超電導導体28の全長において長さ方向に超電導特性の均一性を見た場合であっても、超電導特性のばらつきの無い酸化物超電導導体28を製造することができる効果を奏する。
【実施例】
【0042】
幅10mm、厚さ0.1mm、長さ100mのハステロイ(登録商標)製のテープ状の金属素材の表面にイオンビームアシストスパッタ法とイオンビームスパッタ法により厚さ1μmのGdZr中間層を形成後、レーザー蒸着法により厚さ0.2μmのCeOのキャップ層を成膜したものを長尺基材として用いた。
次に、図1〜図4に示す構成のレーザー蒸着装置により、長尺基材の表面にGdBaCuからなる組成の厚さ1μmの酸化物超電導層を成膜した。
ターゲットはGdBaCuの組成の円板状(半径:150mm:厚さ5mm)の酸化物ターゲットを用いた。
長尺基材はローラ状の巻回部材により5レーンに分けてターゲット上を走行する形態で搬送し、基材走行速度を40m/h、成膜温度800℃としてレーザー蒸着を行った。
この酸化物ターゲットに対し、レーザー光を照射するにあたり、集光手段として焦点距離を0.1m、1.0m、1.2m、1.7m、2.0m、10mとしたそれぞれのレンズ部材を用意して試験に供した。、また、レーザー光発光装置から出射されてターゲットに照射するレーザー光のエネルギー密度を透明窓の直前に設けたレーザー光計測装置にて計測した。
【0043】
上述の長尺基材について100mのほぼ全長にわたり酸化物超電導層を成膜し、酸化物超電導導体を得た後、得られた酸化物超電導導体に対し、臨界電流値(Jc)と収率(%)を測定した。更に、前述の条件で酸化物超電導層を製造した場合、ターゲットにレーザー光を集光照射して生成させたプルームの安定時間(時間)を測定した。
エネルギー密度においては、ターゲット表面にレーザー光を集光照射した場合に生じるスポット径のサイズについても同様に計測した。なお、図1〜図4に示すレーザー蒸着装置ではターゲットに対し斜め方向からレーザー光の照射を行うので、ターゲットの中央と端部においてレーザー光のスポットサイズが異なる。このため、レーザー光のエネルギー密度が変動するので、エネルギー密度変動範囲とスポットサイズの両方を測定した。
前記収率は、基材に形成された酸化物超電導層の重量とターゲットが消費した重量を調べることにより計算した。
前記プルーム安定時間とは、酸化物超電導層の膜厚およびJc特性が均一に維持できる時間のことである。
以上の測定結果を表1に併せて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果から、図1〜図4に示す構成のレーザー蒸着装置をレンズ部材の焦点距離として1.0〜2.0mの範囲、レーザー光のエネルギー密度範囲を1〜4J/cmの範囲とすることで、収率50〜70%の優れた結果を維持しつつ、長時間安定なプルームを生成させることができる結果として、長尺の酸化物超電導導体の全長において、Jc値の分布特性に優れた酸化物超電導導体を製造できることが判明した。
また、図1〜図4に示す構成のレーザー蒸着装置をレンズ部材の焦点距離として1.2〜1.7mの範囲、レーザー光のエネルギー密度範囲を2〜3J/cmの範囲とすることで、より高い収率でJc値の分布特性に優れた酸化物超電導導体を製造できることが判明した。
【符号の説明】
【0046】
10…レーザー蒸着装置、11…処理容器、12…長尺基材、13…ヒーターボックス、14…開口、15…ターゲット、17…レーザー光発光手段、18…レーザー光、19…プルーム、20…供給リール、21…巻取リール、22、23…転向部材、25…反射部材(反射ミラー)、26…集光部材(集光レンズ)、27…テープ素材、28…酸化物超電導導体、29…多結晶中間層、30…キャップ層、31…酸化物超電導層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光をターゲットの表面に集光照射し、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させてターゲット構成粒子の噴流であるプルームを生成させ、該プルームからの粒子をテープ状の長尺基材上に堆積させて酸化物超電導層を形成することにより長尺酸化物超電導導体を製造する方法であって、
減圧チャンバーの内部にテープ状の長尺基材の送出装置と巻取装置とを設け、前記送出装置と巻取装置の間に前記長尺の基材を巻き掛けて方向変換する複数の転向部材を配置してこれらの転向部材間に前記長尺基材が複数の隣接するレーンを構成するように巻き掛け、前記長尺基材のレーンに近接させて前記ターゲットを配置するとともに、前記ターゲットに対してレーザー光発光手段からのレーザー光を集光照射する集光手段を設けたレーザー蒸着装置を用い、前記集光手段の焦点距離を1.0〜2.0mの範囲に設定し、前記レーザー光のエネルギー密度を1.0〜4.0J/cmの範囲に設定し、前記ターゲットに対し斜め方向からレーザー光を集光照射しターゲット上に集光したレーザースポットをターゲット上で走査するとともに、レーザー光の照射位置毎にプルームを発生させてこれらプルームからの粒子を前記各レーンの長尺基材上に堆積させて成膜することを特徴とする長尺酸化物超電導導体の製造方法。
【請求項2】
前記焦点距離を1.2〜1.7mの範囲とし、前記レーザー光のエネルギー密度を2.0〜3.0J/cmの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の長尺酸化物超電導導体の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光の光源から出射されたレーザー光を光反射部材と集光部材を介し前記ターゲットに集光照射するとともに、前記反射部材を揺動することにより前記集光部材を介し前記ターゲット上に集光照射する位置を変更してレーザー光をターゲット上において走査し、ターゲットから走査位置毎に複数のプルームを生成させながら前記レーンに位置する長尺基材上に酸化物超電導層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の長尺酸化物超電導導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−60668(P2011−60668A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210877(P2009−210877)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】