説明

レーザ加工装置および太陽電池の製造方法

【課題】基板の膜面に接触することなく、基板を撓ませずに保持するとともに、基板全体を排気することなく、レーザ加工の残滓を除去すること。
【解決手段】ガラス基板1を立ててガラス基板1の周辺部を固定枠14にて固定し、レーザ光31をガラス基板1に照射するとともに、加工残滓の吸引しながら、Xステージ12をX方向に一定速度で移動させることで、ガラス基板1上の膜にスクライブパターン3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工装置および太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜Si太陽電池は、ガラス基板上に透明導電膜、光電変換層および裏面電極をこの順に積層して製造され、ガラス基板側から透明導電膜を透過した光を光電変換層で吸収し、透明導電膜および裏面電極膜に電流が流れる構造になっている。
【0003】
通常はこの薄膜からなるセルをレーザ加工により分割して、これらを直列接続した構造にして用いられる。これは直列接続することにより、電圧を高くして、少ない電流で電力を取り出せるようにし、抵抗の高い透明導電膜での電力損失を少なくするためである。この構造を作成するためは、レーザスクライブにより、透明導電膜の溝、光電変換膜の溝および光電変換膜と裏面電極膜の積層構造の溝を幅10〜100μm程度で形成する。この時、光電変換膜および裏面電極膜については、溶融残を残さないようにするために、膜の形成していないガラス面側からレーザを照射して、ガラスを透過した光で膜を熱で離脱させるように加工することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
この時、レーザはガラス基板側から照射されるため、ステージが薄膜に接触しない周辺部で基板が保持される。しかし、周辺部の保持だけでは、基板中央部は自重により撓む。レーザは集光させて照射するため、撓みにより照射位置が変化すると、ビームスポットの強度分布が変化する。
【0005】
従って、基板の撓みを補正する必要がある。そこで、頂部が小面積の基板支持ピンをステージに複数本立てて、膜面を部分的に保持し、基板の撓みを補正する方法がとられている。また、レーザ加工では多量の粉状の残滓が発生するが、この残滓は、基板の裏面全体を集塵する機構を設けて除去している(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−79007号公報
【特許文献2】特開2001−111078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術によれば、基板支持ピンを膜の付いた基板に接触させるため、膜が汚れたり、膜に傷がついたりするという問題があった。また、基板支持ピンの位置で、レーザを照射すると、基板支持ピン表面の材料が焼けるため、基板支持ピンの位置でレーザを照射できないという問題があった。さらに、残滓の除去に関しては基板全体を排気して集塵する必要があり、大きな風量を必要とするという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、基板の膜面に接触することなく、基板を撓ませずに保持するとともに、基板全体を排気することなく、レーザ加工の残滓を除去することが可能なレーザ加工装置および太陽電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のレーザ加工装置は、片面に薄膜が形成された透明絶縁基板を垂直に支持する支持部と、前記透明絶縁基板の薄膜の形成されていない側からレーザ光を前記薄膜に照射するレーザ光学系と、前記薄膜に照射されるレーザ光の位置を所定の方向に移動させる照射位置移動部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、基板の膜面に接触することなく、基板を撓ませずに保持するとともに、基板全体を排気することなく、レーザ加工の残滓を除去することが可能という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態の概略構成を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明に係るレーザ加工装置にて加工された薄膜Si太陽電池の概略構成を示す平面図である。
【図4】図4は、本発明に係るレーザ加工装置に用いられる集塵ノズルの一例を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明に係るレーザ加工装置に用いられる集塵ノズルのその他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態
図1は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態の概略構成を示す斜視図、図2は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態の概略構成を示す断面図である。図1および図2において、ベース11上に設置されたX方向に移動するXステージ12があり、このXステージ12にガラス基板1を立てて固定する固定枠14が取り付けられている。この固定枠14はXステージ12とガイド13にて保持され、ガイド13はアーチ状の支持枠19にて支持されている。なお、固定枠14は、ガラス基板1の周辺部を固定することができる。また、ガラス基板1上には、透明導電膜、光電変換層あるいは裏面電極またはこれらの組み合わせた薄膜を形成することができる。
【0014】
また、ベース11上には、レーザ照射ヘッド17をY方向に移動させるYステージ15があり、レーザ照射ヘッド17は、ベース11上に立てたガラス基板1に垂直にレーザ光31を照射できるように支持されている。このレーザ照射ヘッド17は、光ファイバ21を介してレーザ発振器20に接続されている。
【0015】
また、ベース11上には、集塵ノズル18をY方向に移動させるYステージ16があり、集塵ノズル18はレーザ照射ヘッド17に対向するように支持されている。ここで、集塵ノズル111は、レーザ照射ヘッド17が移動した場合においても、レーザ照射ヘッド17と常に対向関係が維持されるように位置が制御される。また、集塵ノズル18は、加工残滓の採取とガラス基板1を透過するレーザ光31の遮蔽を兼ねることができる。集塵ノズル18は図示していない集塵機22に接続されている。集塵機22は集塵ノズルを排気し、排気した空気をフィルターに通して含まれる粉塵を除いて外気に放出する。
【0016】
本装置の動作を説明する。まず、レーザ照射位置がガラス基板1を外れるまで、Xステージ12を図1の手前に動かし、レーザ照射ヘッド17および集塵ノズル18をY方向の所定の位置に移動させる。そして、レーザ光31の照射および加工残滓の吸引を開始し、レーザ光31をガラス基板1に照射するとともに、加工残滓の吸引しながら、Xステージ12をX方向(図1の奥)に一定速度で照射位置が基板から外れるまで移動させることにより、ガラス基板1の所定のY方向の位置にX方向に沿ってスクライブパターン3を形成する。
【0017】
次に、レーザ照射ヘッド17と集塵ノズル18を次のY方向の照射位置に移動し、今度はXステージ12を手前に一定速度で照射位置がガラス基板1から外れるまで移動させ、次のスクライブパターン3を形成する。以上の動作を繰り返して全スクライブパターン3を加工する。
【0018】
本装置の構成では、ガラス基板1の荷重はガラス面方向にかかるため、ガラス基板1が撓むことがない。従って、膜面側からガラス基板1を保持する機構は不要になり、装置を簡略化する効果がある。
【0019】
また、レーザ光31はガラス基板1を透過して薄膜に照射され、その部分の薄膜がガラス基板1から除去される。この時に除去された薄膜は集塵ノズル18にて吸引され、集塵機22に集められる。本装置構成では、集塵ノズル18をレーザ光31が照射される部分にのみ置くことができ、ガラス基板1全体を排気する必要がないため、排気風量を少なくすることができ、電力を節約できる。あるいは、集塵ノズル18先端を絞ることにより流速を上げて、集塵効果を高めることができる。
【0020】
図3は、本発明に係るレーザ加工装置にて加工された薄膜Si太陽電池の概略構成を示す平面図である。図3において、ガラス基板1上に透明導電膜、光電変換膜および裏面電極膜が形成された薄膜形成領域2があり、薄膜形成領域2は多数の細長いセル4に分割され、これらが直列接続されている。このセル4の境界部にはレーザ照射にて形成されたスクライブパターン3がある。このスクライブパターン3は、例えば、透明導電膜の溝、光電変換膜の溝および光電変換膜と裏面電極膜の積層構造の溝を構成することができ、これらの溝の幅は10〜100μm程度に設定することができる。また、ガラス基板1のサイズは、例えば、縦横1〜3mの範囲に設定することができる。
【0021】
ガラス基板1は、膜の形成されていないガラス基板下辺1a、ガラス基板上辺1b、ガラス基板左辺1cおよびガラス基板右辺1dを介して固定枠14に保持される。ここで。ガラス基板左辺1cおよびガラス基板右辺1dでは端から10mm程度の領域でガラス面側から真空吸着により保持することができる。このため、集塵ノズル18先端が固定枠14に当たらないようにしてガラス基板1に近接させることができる。
【0022】
このように、上述した実施の形態によれば、ガラス基板1を垂直に保持するので、ガラス基板1を周辺部のみで保持しても、ガラス基板1の撓みを回避できる。このため、撓みを補正する支持ピンがなくても、ガラス基板1とレーザ光31の光軸上の最適照射位置の距離を一定に保つことができる。また、ガラス基板1を垂直に置くことで、レーザ加工装置の設置面積を小さくする効果もある。
【0023】
また、レーザ加工で発生する加工残滓が、装置やガラス基板1に付着して汚すことを防止できるとともに、ガラス基板1を透過したレーザ光を遮蔽することにより装置の安全性を高めることができる。また、レーザ照射位置近傍のみの加工残滓の吸引口を設ければよく、ガラス基板1全体を排気する必要がないので、風量を小さくすることができ、省エネルギーの効果もある。
【0024】
さらに、レーザ照射位置とともに集塵ノズル18を垂直に移動できるようにすることで、ガラス基板1を垂直に移動させることなくガラス基板1の全面を加工することができ、装置の高さを低くすることが可能になる。
【0025】
図4は、本発明に係るレーザ加工装置に用いられる集塵ノズルの一例を示す断面図である。図4において、集塵ノズル18は吸気機能だけでなく、乾燥空気の吹き付け機能が設けられている。この集塵ノズル18には、吸引ノズル41とその周囲を囲んで形成された吹き付けノズル42が設けられている。ここで、吸引ノズル41には内管43が設けられ、吹き付けノズル42には内管43の周囲に配置された外管44が設けられている。そして、外管44には、給気流32を外管44に供給する給気管45が設けられている。
【0026】
そして、レーザ加工にて発生した加工残滓35は、吸引ノズル41にて吸引され、吸引ノズル41からの排気流34は加工残滓35とともに集塵機22に導かれる。一方、給気流32が吹き付けノズル42に吸気されると、吹き付け流33がガラス基板201上に吹き付けられ、その一部は外気へ放出され、他の一部は排気34として排気される。
【0027】
なお、加工残滓35の捕捉効果を上げるためには排気流34の風速を上げることが有効である。しかし、排気流34の風速を上げるために集塵ノズル18をガラス基板1に近づけ、吸引の圧力を下げると、吸引ノズル41内は負圧になる。このため、ガラス基板1が引き寄せられ、基板1の撓みの原因となる。このため、排気と吹き付けを同時に行うことにより、集塵ノズル18をガラス基板1に近接させ、排気風量を大きくしても、ガラス基板1の撓みを抑制することが可能になる。
【0028】
吹き付け流33の圧力は、ガラス基板1の撓みを光学式あるいは静電容量式センサ等で計測し、撓みがなくなるように調整するようにしてもよい。
【0029】
さらに、ガラス基板1の撓みを検知する光学式または静電容量式センサを常時設置して、レーザ照射位置での垂直方向のガラス基板1の変位を計測し、吹き付け流33を吹き付ける際の圧力により変位を低減するように制御してもよい。吹き付け圧力を上述の釣り合い圧力より下げれば、ガラス基板1は集塵ノズル18に引き寄せられる。これと反対に、吹き付け圧力を釣り合い圧力より大きくすれば、ガラス基板1は集塵ノズル18から引き離される力を受ける。
【0030】
このような方法を用いれば、例えば、ガラス基板1の表面に形成された薄膜の応力を原因として基板に反りが発生した場合においても、このような反りに起因するガラス基板1の垂直方向の変位を低減することができる。
【0031】
図5は、本発明に係るレーザ加工装置に用いられる集塵ノズルのその他の例を示す断面図である。図5において、集塵ノズル18´には、図4の吹き付けノズル42の代わりに吹き付けノズル42´が設けられている。ここで、吹き付けノズル42´には、外管44a、44bが設けられている。そして、外管44aは内管43に固定され、外管44aには給気管45が設けられている。外管44bは外管44aに対して軸方向に移動自在に配置されている。なお、外管44bは、例えば、外管44aに対しねじにより左右に動かせるようにしてもよい。そして、ねじを回すことにより、外管44bをガラス基板1に近づけたり、ガラス基板1から遠ざけたりすることができ、吹き付け圧を高くしたり低くしたりすることができる。
【0032】
なお、上述した実施の形態では、スクライブパターン3をX方向に形成するために、Xステージ12をX方向に移動させる方法について説明したが、レーザ照射ヘッド17をX方向に移動させるようにしてもよい。また、上述した実施の形態では、レーザ光31の照射位置をY方向に移動させるために、レーザ照射ヘッド17をY方向に移動させる方法について説明したが、ガラス基板1をY方向に移動させるようにしてもよい。また、上述した実施の形態では、スクライブパターン3をX方向に形成する方法について説明したが、スクライブパターン3をY方向に形成するようにしてもよい。また、上述した実施の形態では、レーザ照射ヘッドは1つで説明したが、基板1枚辺りの加工時間を短くするため、複数のレーザ照射ヘッドを1つの装置に搭載しても良い。このとき、それぞれのレーザヘッドに対応して集塵ノズルが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように本発明に係るレーザ加工装置は、基板の膜面に接触することなく、基板を撓ませずに保持するとともに、基板全体を排気することなく、レーザ加工の残滓を除去することが可能となり、太陽電池に用いられるガラス基板上の膜に溝を形成する方法に適している。
【符号の説明】
【0034】
1 ガラス基板
1a ガラス基板下辺
1b ガラス基板上辺
1c ガラス基板左辺
1d ガラス基板右辺
2 薄膜形成領域
3 スクライブパターン
4 セル
11 ベース
12 Xステージ
13 ガイド
14 固定枠
15、16 Yステージ
17 レーザ照射ヘッド
18、18´ 集塵ノズル
19 支持枠
20 レーザ発振器
21 光ファイバ
31 レーザ光
32 給気流
33 吹き付け流
34 排気流
35 加工残滓
41 吸引ノズル
42、42´ 吹き付けノズル
43 内管
44、44a、44b 外管
45 給気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面に薄膜が形成された透明絶縁基板を垂直に支持する支持部と、
前記透明絶縁基板の薄膜の形成されていない側からレーザ光を前記薄膜に照射するレーザ光学系と、
前記薄膜に照射されるレーザ光の位置を所定の方向に移動させる照射位置移動部とを備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記透明絶縁基板の周辺部を固定する固定枠を備え、
前記照射位置移動部は、前記固定枠を支持し、前記固定枠を水平方向に移動させるXステージを備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光の照射位置に対向するように配置され、加工残滓を吸引する集塵ノズルをさらに備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記集塵ノズルは、
前記加工残滓を吸引する吸引ノズルと、
前記吸引ノズルの周囲を囲むように配置され、前記薄膜に向けて空気を吹き付ける吹き付けノズルを備えることを特徴とする請求項3記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記吹き付けノズルから吹き付けられる空気圧は、前記吸引ノズルからの排気流に起因する透明絶縁基板の撓みがなくなるように調整されることを特徴とする請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記吹き付けノズルは、
前記吸引ノズルに固定され、給気管が設けられた第1の外管と、
前記第1の外管に対して軸方向に移動自在に配置された第2の外管とを備えることを特徴とする請求項4または5記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記レーザ光の照射位置を垂直方向に移動させる第1のYステージと、
前記レーザ光の照射位置の移動に伴って前記集塵ノズルを垂直方向に移動させる第2のYステージとを備えることを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記薄膜は、透明導電膜、光電変換層あるいは裏面電極またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
片面に薄膜が形成された透明絶縁基板を垂直に支持する工程と、
前記薄膜上の照射位置を所定の方向に移動させながら、前記透明絶縁基板の薄膜の形成されていない側からレーザ光を照射することにより、前記薄膜に溝を形成する工程とを備えることを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項10】
前記薄膜上の照射位置に移動に伴って集塵ノズルを移動させながら加工残滓を吸引することを特徴とする請求項9に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記薄膜は、透明導電膜、光電変換層あるいは裏面電極またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項9または10に記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−82398(P2011−82398A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234559(P2009−234559)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】