レーザ照射装置、レーザスクライブ方法、電気光学装置の製造方法
【課題】高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザ照射装置、このレーザ照射装置を用いたレーザスクライブ方法および電気光学装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】レーザ照射装置100は、レーザ光を射出するレーザ光源101と、複数の集光レンズを有する集光機構103と、複数の集光レンズのいずれかがレーザ光の光軸101a上に配置されるように集光機構103を駆動する駆動部としてのサーボモータ104と、加工対象物としての基板Wの内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構103を光軸101a方向に移動可能な第1の移動機構としてZ軸スライド機構104cと、基板Wが載置されるステージ105をレーザ光の光軸101aと略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構としてのX軸スライド部108およびY軸スライド部106と、上記各構成を制御する制御部としてのメインコンピュータ120とを備えた。
【解決手段】レーザ照射装置100は、レーザ光を射出するレーザ光源101と、複数の集光レンズを有する集光機構103と、複数の集光レンズのいずれかがレーザ光の光軸101a上に配置されるように集光機構103を駆動する駆動部としてのサーボモータ104と、加工対象物としての基板Wの内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構103を光軸101a方向に移動可能な第1の移動機構としてZ軸スライド機構104cと、基板Wが載置されるステージ105をレーザ光の光軸101aと略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構としてのX軸スライド部108およびY軸スライド部106と、上記各構成を制御する制御部としてのメインコンピュータ120とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物にレーザ光を照射し、集光点においてレーザ光のエネルギーにより加工対象物を物理的、化学的に変化させて切断加工を行うレーザ照射装置、レーザスクライブ法、電気光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ照射装置として、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することが可能なレーザ加工装置がある(特許文献1)。上記レ−ザ加工装置は、開口数が異なる複数の集光レンズを有し、内部に所望の大きさの改質スポットを形成するため、加工対象物の厚みに対応して集光レンズを選択するレンズ選択手段を備えた。
【0003】
また、加工対象物を載置する載置台と載置台を光軸上で集光レンズに対して相対移動させる移動機構とを備え、加工対象物の厚みに応じて、厚み方向に異なる焦点位置でレーザ光を集光させ、複数の改質領域を形成する他のレーザ加工装置が知られている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−1448号公報
【特許文献2】特開2005−47290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のレーザ加工装置は、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質スポットを形成し、これを起点として加工対象物を切断するものである。しかしながら、起点としての改質スポットを加工対象物の内部に複数形成した改質領域を設けても、切断時の応力の加え方によって、確実に切断予定ラインに沿って切断することが難しいことが分かった。
【0006】
切断予定ラインに沿ってより確実に切断するには、改質領域を加工対象物の内部に連続して形成することが望ましい。そのためには、レーザ光の焦点位置を加工対象物の内部で変えて走査するレーザ照射の回数が増えてしまい、生産性が低下するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を考慮してなされたものであり、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザ照射装置、このレーザ照射装置を用いたレーザスクライブ方法および電気光学装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーザ照射装置は、レーザ光を射出するレーザ光源と、少なくとも1つは異なる焦点距離を有する複数の集光部を備えた集光機構と、複数の集光部のいずれかがレーザ光の光軸上に配置されるように集光機構を駆動する駆動部と、加工対象物の内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構を光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、レーザ光源および駆動部と第1の移動機構および第2の移動機構を制御する制御部とを備え、制御部は、駆動部を駆動させ複数の集光部のいずれか1つを選択し、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面に対して反対側の表面に、レーザ光の集光領域の端部が掛かるように第1の移動機構を駆動して選択された集光部の光軸上の位置を設定し、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とする。
【0009】
集光部によりレーザ光を加工対象物の内部に集光点を結ぶように集光させると、集光領域において多光子吸収を発生させることができる。当該集光領域では、集光されたレーザ光のエネルギーにより加工対象物が物理的あるいは化学的に変化した改質領域が形成される。この構成によれば、制御部が行う第1の走査では、第1の移動機構により選択された集光部の加工対象物に対する位置を設定し、集光点の位置を移動させずに切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、入射面または入射面に対して反対側の表面に沿って加工対象物の内部に第1の改質領域が形成される。そして、第2の走査では、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第1の走査と同様に加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域が形成される。第2の改質領域は、複数の集光部のうち少なくとも1つは異なる焦点距離を有しているので、加工対象物の内部で集光領域の位置がずれて振動するように形成される。したがって、加工対象物の内部で集光点の位置をずらしてレーザ光を照射して、加工対象物の表面に沿って改質領域が積層されるように走査を行う場合に比べて、走査の回数を低減することができる。すなわち、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に連続的に形成された第1の改質領域と第2の改質領域とをヘキ壊面として切断不良を生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザ照射装置を提供することができる。
【0010】
また、上記複数の集光部が焦点距離の長さの順に光軸を横切るように集光機構に配置され、制御部は、第2の走査において焦点距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出するようにレーザ光源と駆動部とを制御することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、制御部は、第2の走査において焦点距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出する。したがって、光軸上でランダムに焦点位置を設定する場合に比べて、駆動部による集光機構の移動量を少なくして、切断予定ラインに沿った方向から見て光軸方向に隙間を生じることなく、より確実に第1の改質領域に第2の改質領域を連続させることができる。
【0012】
本発明の他のレーザ照射装置は、レーザ光を射出するレーザ光源と、それぞれに同一の焦点距離を有すると共にレーザ光の光軸上で異なる位置に配置される複数の集光部を備えた集光機構と、複数の集光部のいずれかがレーザ光の光軸上に配置されるように集光機構を駆動する駆動部と、加工対象物の内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構を光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、レーザ光源および駆動部と第1の移動機構および第2の移動機構を制御する制御部とを備え、制御部は、駆動部を駆動させ複数の集光部のいずれか1つを選択し、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面に対して反対側の表面に、レーザ光の集光領域の端部が掛かるように第1の移動機構を駆動して選択された集光部の光軸上の位置を設定し、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、制御部が行う第1の走査では、第1の移動機構により選択された集光部の加工対象物に対する位置を設定し、集光点の位置を移動させずに切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、入射面または入射面に対して反対側の表面に沿って加工対象物の内部に第1の改質領域が形成される。そして、第2の走査では、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第1の走査と同様に加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。すなわち、焦点距離が異なる複数の集光部を備える場合と同様な作用と効果を奏する。さらには、同一の焦点距離を有する集光部を複数用意し、その光軸上の位置が異なるように配置すればよいので、加工対象物の厚みに対応した集光機構の構成を容易に実現できる。
【0014】
また、上記複数の集光部が加工対象物からの距離の長さの順に前記光軸を横切るように集光機構に配置され、制御部は、第2の走査において加工対象物からの距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出するようにレーザ光源と駆動部とを制御することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、制御部は、第2の走査において加工対象物からの距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出する。したがって、光軸上でランダムに焦点位置を設定する場合に比べて、駆動部による集光機構の移動量を少なくして、切断予定ラインに沿った方向から見て光軸方向に隙間を生じることなく、より確実に第1の改質領域に第2の改質領域を連続させることができる。
【0016】
これらの発明のレーザ照射装置において、上記集光機構が回転体であり、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置されていることが好ましい。これによれば、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置されている。したがって、第2の走査において、回転体が1回転する間に光軸上に位置する集光部を介してレーザ光を照射すれば、加工対象物を光軸上で移動させることなく、レーザ光の集光点の位置を加工対象物の内部において振動させることができる。すなわち、加工対象物を光軸上で移動させず、焦点位置のみを振動させることができるので、高い位置精度で第1の改質領域に連続した第2の改質領域を形成することができる。また、加工対象物が大きくなっても、加工対象物を光軸上で移動させないので、焦点位置を高速に振動させることができる。すなわち、第2の改質領域をより緻密に形成することができ、スクライブを容易とする。
【0017】
本発明のレーザスクライブ方法は、上記発明のレーザ照射装置を用い、レーザ光を加工対象物の切断予定ラインに沿って照射して加工対象物を切断するレーザスクライブ方法であって、集光機構の複数の集光部のうち1つを選択して、レーザ光の光軸が加工対象物の切断予定ライン上に位置するように選択された集光部と加工対象物とを相対的に位置決めする位置決め工程と、レーザ光の集光領域の少なくとも一部が加工対象物のレーザ光の入射面または入射面と反対側の表面に掛かるように集光点の位置を調整する調整工程と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対移動させると共に、切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程と、加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択し、加工対象物の相対移動に同期して、切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、第1の走査工程では、集光点の位置を一定にして、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面と反対側の表面に沿って内部に第1の改質領域を形成する。第2の走査工程では、複数の集光部を順次選択して加工対象物の内部において集光点の位置を振動させ、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する。したがって、連続した第1の改質領域と第2の改質領域をヘキ壊面として切断予定ラインから外れることなく、加工対象物をスクライブして切断することができる。また、第2の改質領域は、集光点の振動により加工対象物の内部で振動した状態に形成される。よって、加工対象物の内部で集光点の位置をずらしながらレーザ光を照射して、加工対象物の表面に沿って改質領域が積層されるように走査を行う場合に比べて、走査の回数を低減することができる。すなわち、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に連続的に形成された第1の改質領域と第2の改質領域とをヘキ壊面として切断不良が生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0019】
また、上記集光機構が回転体であり、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置され、第2の走査工程では、複数の集光部を回転軌跡上に配置された順に選択して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、第2の走査工程では、複数の集光部を回転軌跡上に配置された順に選択するので、集光機構としての回転体が1回転する間に光軸上に位置する集光部を介してレーザ光を照射すれば、加工対象物を光軸上で移動させることなく、レーザ光の集光点の位置を加工対象物の内部において振動させることができる。すなわち、より高い位置精度で、加工対象物の内部に第1の改質領域に連続した第2の改質領域を形成することができる。また、加工対象物が大きくなっても、加工対象物を光軸上で移動させないので、集光点の位置を高速に振動させることができる。すなわち、第2の改質領域をより緻密に形成し、スクライブを容易に行うことが可能なレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0020】
本発明の電気光学装置の製造方法は、画素電極を有する一対の基板と、一対の基板に挟持された液晶とを備えた電気光学装置の製造方法であって、一対の基板がそれぞれ複数区画配置され所定の位置で接着されたマザー基板を加工対象物として、上記発明のレーザスクライブ方法を用い、電気光学装置を取り出すための切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するスクライブ工程を備えたことを特徴とする。
【0021】
この方法によれば、切断不良が生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザスクライブ方法を用いているので、マザー基板から高い歩留まりで電気光学装置を取り出すことができると共に、より安価に電気光学装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態は、電気光学装置としての液晶表示装置を製造する工程において、液晶表示装置が複数区画形成されたマザー基板を切断する工程で用いられるレーザ照射装置と、このレーザ照射装置を用いたレーザスクライブ方法を例に説明する。
【0023】
<液晶表示装置>
まず、液晶表示装置について説明する。図1は、液晶表示装置の構造を示す概略図である。同図(a)は概略正面図、同図(b)は同図(a)のA−A線で切った概略断面図である。
【0024】
図1(a)および(b)に示すように、液晶表示装置10は、TFT(Thin Film Transistor)素子3を有する素子基板1と、対向電極6を有する対向基板2と、シール材4によって接着された両基板1,2の隙間に挟持された液晶5とを備えている。素子基板1は対向基板2より一回り大きく額縁状に張り出した状態となっている。
【0025】
素子基板1は、厚みおよそ1.2mmの石英ガラス基板を用いており、その表面には画素を構成する画素電極(図示省略)と、3端子のうちの一つが画素電極に接続されたTFT素子3が形成されている。TFT素子3の残りの2端子は、画素電極を囲んで互いに絶縁状態で格子状に配置されたデータ線(図示省略)と走査線(図示省略)とに接続されている。データ線は、Y軸方向に引き出されて端子部1aにおいてデータ線駆動回路部9に接続されている。走査線は、X軸方向に引き出され、左右の額縁領域に形成された2つの走査線駆動回路部13,13に個々に接続されている。各データ線駆動回路部9および走査線駆動回路部13の入力側配線は、端子部1aに沿って配列した実装端子11にそれぞれ接続されている。端子部1aとは反対側の額縁領域には、2つの走査線駆動回路部13,13を繋ぐ配線12が設けられている。
【0026】
対向基板2は、厚みおよそ1.0mmの透明なガラス基板を用いており、共通電極としての対向電極6が設けられている。対向電極6は、対向基板2の四隅に設けられた上下導通部14を介して素子基板1側に設けられた配線と導通しており、当該配線も端子部1aに設けられた実装端子11に接続されている。
【0027】
液晶5に面する素子基板1の表面および対向基板2の表面には、それぞれ配向膜7,8が形成されている。
【0028】
液晶表示装置10は、外部駆動回路と電気的に繋がる中継基板が実装端子11に接続される。そして、外部駆動回路からの入力信号が各データ線駆動回路部9および走査線駆動回路部13に入力されることにより、TFT素子3が画素電極ごとにスイッチングされ、画素電極と対向電極6との間に駆動電圧が印加されて表示が行われる。
【0029】
尚、液晶表示装置10は、透過型の表示装置であり、素子基板1の背面側に冷陰極管やLEDなどの光源を有する照明装置が装備される。また、図1には図示省略したが、液晶表示装置10の表裏面には、それぞれ入出射する光を偏向する偏光板が設けられる。さらには、スイッチング素子としてTFT素子3に限らず、TFD(Thin Film Diode)素子を備えたものや、帯状の電極が直交するように各基板に設けられたパッシブマトリクス型の液晶表示装置でもよい。
【0030】
図2は、液晶表示装置が区画形成されたマザー基板を示す概略図である。同図(a)は概略平面図、同図(b)は、同図(a)のB−B線で切った概略断面図である。
【0031】
図2(a)に示すように、1つの液晶表示装置10に相当する素子基板1がマザー基板としてのウェハ状の基板Wに複数区画形成されている。そして、図2(b)に示すように、対向基板2が個々に区画形成された素子基板1と接着されている。1つの液晶表示装置10は、区画領域Dx,Dyに沿った切断予定ラインを切断して、基板Wから取り出される。この場合、基板Wは、厚み1.2mm、直径12インチの石英ガラス基板であり、200個分の素子基板1が区画形成されている。
【0032】
尚、本実施形態では、基板Wに個々の対向基板2を接着した形態であるが、ウェハ状の基板内に対向基板2が複数区画形成された他のマザー基板と基板Wとを接着し、相方のマザー基板を切断して液晶表示装置10を取り出すようにしてもよい。
【0033】
<レーザ照射装置>
次に、本発明を適用したレーザ照射装置について説明する。図3は、レーザ照射装置の構成を示す概略図である。
【0034】
図3に示すように、レーザ照射装置100は、レーザ光を射出するレーザ光源101と、射出されたレーザ光を反射するダイクロイックミラー102と、反射したレーザ光を集光する集光部としての複数の集光レンズを有する集光機構103とを備えている。複数の集光レンズのいずれかがレーザ光の光軸101a上に配置されるように集光機構103を駆動する駆動部としてのサーボモータ104を備えている。そして加工対象物としての基板Wの内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構103を光軸101a方向(Z軸方向)に移動可能な第1の移動機構としてZ軸スライド機構104cを備えている。また、基板Wを載置するステージ105と、集光機構103に対してステージ105をレーザ光の光軸101aと略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構としてのX軸スライド部108およびY軸スライド部106とを備えている。さらには、ダイクロイックミラー102を挟んで集光機構103と反対側に位置する撮像装置110を備えている。
【0035】
レーザ照射装置100は、上記各構成を制御する制御部としてのメインコンピュータ120を備えている。メインコンピュータ120には、CPUや各種メモリの他に撮像装置110が撮像した画像情報を処理する画像処理部124を有している。撮像装置110は、同軸落射型光源とCCD(固体撮像素子)が組み込まれたものである。同軸落射型光源から射出した可視光は、集光レンズを透過して焦点を結ぶ。
【0036】
また、メインコンピュータ120には、レーザ加工の際に用いられる各種加工条件のデータを入力する入力部125とレーザ加工時の各種情報を表示する表示部126が接続されている。そして、レーザ光源101の出力やパルス幅、パルス周期を制御するレーザ制御部121と、複数の集光レンズのいずれかを選択するようにサーボモータ104を駆動すると共にZ軸スライド機構104cを制御するレンズ制御部122とが接続されている。さらに、X軸スライド部108とY軸スライド部106をそれぞれレール109,107に沿って移動させるサーボモータ(図示省略)を駆動するステージ制御部123が接続されている。サーボモータ104にはエンコーダが内蔵されており、レンズ制御部122はエンコーダから複数の集光レンズの位置情報を取得可能となっている。
【0037】
集光機構103をZ軸方向に移動させるZ軸スライド機構104cには、移動距離を検出可能な位置センサが内蔵されており、レンズ制御部122は、この位置センサの出力を検出して集光機構103のZ軸方向の位置を制御可能となっている。したがって、撮像装置110の同軸落射型光源から射出した可視光の焦点が基板Wの表面と合うように集光機構103をZ軸方向に移動させれば、基板Wの厚みを計測することが可能である。
【0038】
レーザ光源101は、例えばチタンサファイアを固体光源とするレーザ光をフェムト秒のパルス幅で射出するいわゆるフェムト秒レーザである。この場合、レーザ光は、波長分散特性を有しており、中心波長が800nmであり、その半値幅はおよそ15nmである。またパルス幅はおよそ300fs(フェムト秒)、パルス周期は1kHz、出力はおよそ700mWである。
【0039】
図4は、集光機構の構造を示す概略図である。同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のC−C線で切った断面図である。図4(a)に示すように、集光機構103は軸104bを中心に回転する円板状の回転体であり、光軸101aを横切る円板104aの回転軌跡103r上に複数(8つ)の集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hが配置されている。これらの集光レンズ103a〜集光レンズ103hは、焦点距離の長さの順に配置されており、この場合、焦点距離の長さは、集光レンズ103a>集光レンズ103b=集光レンズ103h>集光レンズ103c=集光レンズ103g>集光レンズ103d=集光レンズ103f>集光レンズ103eの順となっている。すなわち、集光機構103が1回転する間に、光軸101a上に位置した集光レンズを介してレーザ光を照射すれば、集光点の位置を光軸101a上で移動(振動)させることができるようになっている。集光部は、集光レンズに限らず、フレネルレンズや回折格子を用いることも可能である。
【0040】
尚、本実施形態では、ステージ105は、Y軸スライド部106に支持されているが、X軸スライド部108とY軸スライド部106との位置関係を逆転させてX軸スライド部108に支持される形態としてもよい。また、ステージ105はθテーブルを介してY軸スライド部106に支持されることが好ましい。これによれば、基板Wを光軸101aに対してより垂直な状態とすることが可能である。
【0041】
図5は、レーザ光の集光領域の位置を加工対象物の内部で可変した状態を示す概略断面図である。同図(a)はレーザ光の集光領域の端部がレーザ光の入射面と反対側の表面に掛かるように位置決めされた状態を示す概略断面図、同図(b)はレーザ光の集光領域が入射面に徐々に近づいた状態を示す概略断面図である。
【0042】
図5(a)に示すように、サーボモータ104を駆動し光軸101a上にもっとも焦点距離が長い集光レンズ103aを配置する。集光レンズ103aにより集光されたレーザ光113は、波長分散特性を有しているため、屈折率がおよそ1.46の基板Wに入射すると、短波長側のレーザ光114から長波長側のレーザ光115までその集光点が光軸101a上でずれた集光領域116に集光される。集光領域116は、いわゆる軸上色収差を有している。この場合、集光領域116の長波長側のレーザ光115の集光点が入射面Waに対して反対側の表面Wbに近接するようにZ軸スライド機構104cを制御して集光レンズ103aの位置を設定しているので、短波長側のレーザ光114と長波長側のレーザ光115との光路差が最も大きくなっている。すなわち、基板Wの厚み方向における集光領域116の幅が最大となっている。
【0043】
図5(b)に示すように、集光点の位置が入射面Wa側に近づくように、サーボモータ104を駆動して集光レンズ103b〜集光レンズ103eを順次選択すると、焦点距離が徐々に短くなり、短波長側のレーザ光114と長波長側のレーザ光115との光路差が次第に小さくなってゆく。したがって、レーザ光113は、集光領域117から集光領域118に向かって移動しながら集光され、基板Wの厚み方向において集光領域の幅が徐々に小さくなる。当然ながら、集光点が入射面Waの近傍から反対側の表面Wbに近づくようにサーボモータ104を駆動して集光レンズ103e〜集光レンズ103aを順次選択すると、集光領域118から集光領域116へと基板Wの厚み方向における集光領域の幅が徐々に大きくなる。言い換えれば、集光領域116から集光領域118までが光軸101a上で連続するように、焦点距離が異なる複数の集光レンズ103a〜集光レンズ103eが集光機構103に配置されている。集光領域116から集光領域118が互いに光軸101a上で一部重なり合うように複数の集光レンズ103a〜集光レンズ103eの焦点距離を設定してもよい。
【0044】
尚、レーザ光源101として波長分散特性が小さい、すなわち半値幅が非常に狭く、且つ集光レンズの色収差が小さいあるいは補正されたものを用いれば、基板Wの厚み方向における集光点の位置によって集光領域の幅が変化する変化量を抑えることは可能である。
【0045】
ここで多光子吸収による改質領域の形成について説明する。加工対象物が透明な材料であっても、材料の吸収のバンドギャップEgよりも光子のエネルギーhνが非常に大きいと吸収が生じる。これを多光子吸収と言い、レーザ光のパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収のエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、イオン価数変化、結晶化または分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。本実施形態では、この屈折率変化領域を改質領域と呼ぶ。
【0046】
このようなレーザ光113の基板Wに対する照射特性を基に、レーザ照射装置100のメインコンピュータ120は、もっとも焦点距離が長い集光レンズ103aを選択して、レーザ光113の集光領域116の端部が、レーザ光113の入射面Waと反対側の表面Wbに掛かるようにZ軸スライド機構104cにより集光機構103の位置を設定して、基板Wの区画領域Dx,Dyに沿った切断予定ライン(仮想)に沿ってレーザ光113を照射する第1の走査を行う。また、複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、レーザ光113の集光点の位置を基板Wの内部において振動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の走査によって基板Wが多光子吸収して形成された第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査を行う。
【0047】
このようなレーザ照射装置100によれば、基板Wの内部でレーザ光113の集光点の位置を順次ずらしてレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿って厚み方向(Z軸方向)に連続する改質領域を形成する場合に比べて、レーザ光113の集光点を振動させて第2の改質領域を形成するので、レーザ光113の走査の回数を減らすことが可能である。また、基板Wの切断予定ラインに沿って第1の改質領域を形成するので、外部応力を加えて基板Wを切断する際に、第1の改質領域を起点として切断される。よって、破断面に外形不良が生じることを低減することが可能である。
【0048】
なお、このような第1および第2の改質領域を形成するためのレーザ光113の照射条件としては、加工対象物によってレーザ光113の出力やパルス幅、パルス周期、レーザスキャン速度等の設定が必要なことは言うまでもない。特に、レーザ光源101の出力は、ダイクロイックミラー102や各集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hなど光軸101a上に配置される物質による吸収で減衰することを考慮する必要がある。したがって、実際の加工対象物を用いた予備試験を実施して、最適な照射条件を導くことが望ましい。
【0049】
<液晶表示装置の製造方法>
本実施形態の液晶表示装置10の製造方法は、画素電極などの各構成要素が形成された基板W(素子基板1)と対向基板2とをシール材4を用いて接着すると共に液晶5を封入して組み立てる組立工程と、基板Wの切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射してスクライブするスクライブ工程とを備えている。
【0050】
組立工程では、まず、基板Wの表面の画素領域を囲むようにシール材4を配置する。シール材4としては、熱硬化性のエポキシ系接着剤や光硬化型の変性エポキシ系接着剤を用いることができる。シール材4には、基板W(素子基板1)と対向基板2とを所定の間隔で対向配置して接着するためのギャップ材等が含まれている。シール材4を配置する方法としては、スクリーンやオフセットなどの印刷法、当該接着剤をシリンジ等に充填してニードルなどから吐出描画する定量吐出法が挙げられる。
【0051】
次に、シール材4が配置された基板Wに減圧下で所定量の液晶5を吐出して、所定の位置で対向基板2を押し付けるように接合させる。そして、接合した基板Wと対向基板2とを加熱あるいは露光することにより、当該接着剤を硬化させる。当該接着剤の硬化は、仮固定ができる程度でよく、後に本硬化させる。これにより複数の液晶表示装置10が区画形成された基板W(図2参照)ができあがる。
【0052】
スクライブ工程は、基板Wから液晶表示装置10を取り出すために、区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに沿ってレーザ照射する工程である。本実施形態のスクライブ工程では、前述したレーザ照射装置100を用いると共に、本発明を適用したレーザスクライブ方法を用いる。
【0053】
<レーザスクライブ方法>
次に本発明を適用したレーザスクライブ方法について説明する。図6は、レーザスクライブ方法を示すフローチャートである。
【0054】
図6に示すように、本実施形態のレーザスクライブ方法は、レーザ照射装置100を用い、集光機構103とステージ105に載置された基板Wとを相対的に位置決めする位置決め工程(ステップS1)と、基板Wの厚みを計測する計測工程(ステップS2)と、レーザ光113の集光点の位置を調整する調整工程(ステップS3)とを備えている。また、基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程としての1次レーザスキャン工程(ステップS4)を備えている。そして、基板Wを相対移動させると共に複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、集光領域を基板Wの内部において振動させながら、切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て1次レーザスキャン工程で形成された第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程としての2次レーザスキャン工程(ステップS5)を備えている。また、レーザ光113の集光領域の端部が基板Wの入射面Waに掛かるように、集光レンズ103eを選択して、基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第2の改質領域に連続する第3の改質領域を形成する3次レーザスキャン工程(ステップS6)を備えている。また、複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、集光領域を基板Wの内部において振動させながら、基板Wを相対移動させると共に切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域と第3の改質領域に連続するように第4の改質領域を形成する4次レーザスキャン工程(ステップS7)を備えている。さらに、基板Wに外部応力を加え切断予定ラインに沿って基板Wを切断(分割)するブレイク工程(ステップS8)を備えている。
【0055】
図6のステップS1は、基板Wの位置決め工程である。ステップS1では、図2に示した基板Wを対向基板2側がステージ105の表面に接するように載置する。そして、区画領域DxがX軸方向に平行となるように基板Wを位置決めする。メインコンピュータ120は、集光レンズ103aが選択され光軸101a上に配置されるようにレンズ制御部122を介してサーボモータ104を駆動する。また、ステージ制御部123は、レーザ光113の光軸101aが基板Wの任意の区画領域Dx,Dyの切断予定ライン上に位置するように、サーボモータ(図示省略)を駆動しX軸スライド部108およびY軸スライド部106を移動させる。この場合、ウェハ状の基板Wには、位置決め用のアライメントマークが形成されており、撮像装置110によってこのアライメントマークを認識し、画像処理部124に取り込んだ画像データに基づいて座標を演算することにより、基板Wを位置決めする。そして、ステップS2へ進む。
【0056】
図6のステップS2は、基板Wの厚みを計測する工程である。ステップS2では、オペレータは、メインコンピュータ120を操作して、基板Wの厚み測定を実施する。撮像装置110が捉えた映像を表示部126に表示させ、基板Wのレーザ光の入射面Wa(図5参照)と、もう一方の反対側の表面Wb(図5参照)とに撮像装置110から射出される可視光の焦点を合わせる動作を行わせることにより、メインコンピュータ120は、Z軸スライド機構104cの位置センサの出力から基板Wの厚みを演算する。演算結果は、メインコンピュータ120の記憶部にZ軸方向の座標として記憶される。そして、ステップS3に進む。
【0057】
図6のステップS3は、レーザ光113の集光点の位置を調整する調整工程である。ステップS3では、撮像装置110が捉えた可視光の焦点と集光領域116とのZ軸方向の位置関係をあらかじめレーザ照射する予備試験の結果から求めておき、データとして入力しておく。このデータとステップS2で求められた基板Wの厚みデータ(Z軸方向の座標)とに基づいて、ステップS3では、図5(a)に示すように、レンズ制御部122は、Z軸スライド機構104cを駆動して集光領域116の端部がレーザ光113の入射面Waに対して反対側の表面Wbに掛かるように集光機構103をZ軸方向に移動させる。そして、ステップS4へ進む。
【0058】
図6のステップS4は、1次レーザスキャン工程である。図7は、第1の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS4では、図7に示すように集光レンズ103aに対して基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第1の改質領域21を形成する。この場合、図2に示すように基板Wには複数(200個)の液晶表示装置10が区画形成されており、区画領域Dxに対応してX軸方向に基板Wを横断するレーザスキャンを19回行う。また、続いて区画領域Dyに対応してY軸方向に基板Wを横断するレーザスキャンを15回行う。当然、液晶表示装置10の基板Wにおける区画配置に対応して所定のピッチでX軸またはY軸方向にずらしながら各レーザスキャンを行う。切断予定ラインは、あらかじめデータとして入力されているので、メインコンピュータ120は、このデータに基づいた制御信号をステージ制御部123に送る。ステージ制御部123は、制御信号に基づいてX軸スライド部108とY軸スライド部106とを移動させることにより、基板Wを集光レンズ103aに対して相対移動させる。この場合、レーザ光113の照射に対応して基板Wを移動させる速度すなわちレーザスキャン速度は、およそ20mm/秒である。したがって、X軸方向へ19回およびY軸方向へ15回のレーザスキャンに要する時間は、基板Wのウェハサイズが12インチ(300mm)のため、およそ9分である。この場合の集光領域116におけるピークパワー密度は、8×1012W/cm2である。このようにして基板Wがレーザ光113を多光子吸収して形成された第1の改質領域21の厚み方向(Z軸方向)の幅は、およそ300μmである。そして、ステップS5へ進む。
【0059】
図6のステップS5は、2次レーザスキャン工程である。図8は、第2の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS5では、先のステップS4と同様にして、メインコンピュータ120は、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。また、これらのレーザスキャンに同期してサーボモータ104により複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光113を照射する。すなわち、レーザ光113の集光点が基板Wの内部で振動し、集光領域117から集光領域118の間で変化する。そして、図8に示すように、切断予定ラインに沿った方向(走査方向)から見て第1の改質領域21に厚み方向で連続する第2の改質領域22が形成される。この場合の第2の改質領域22の振幅は、およそ800μmである。また、レンズ制御部122によって制御されたサーボモータ104の回転数は、およそ1回/秒である。したがって、1秒間で1回の振動が行われ、レーザスキャン速度が20mm/秒であるため、振動周期もほぼ20mmである。そして、ステップS6へ進む。
【0060】
図6のステップS6は、3次レーザスキャン工程である。図9は、第3の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS6では、ステップS4と同様にして、メインコンピュータ120は、サーボモータ104を駆動し集光レンズ103eを選択する。また、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。これにより、図9に示すように基板Wの入射面Waの切断予定ラインに沿った方向に、第2の改質領域22の振幅の極大部分と重なった第3の改質領域23が形成される。すなわち、切断予定ラインに沿った方向(走査方向)から見て第2の改質領域22に連続する第3の改質領域23が形成される。この場合の第3の改質領域23の厚み方向(Z軸方向)の幅は、集光領域が入射面Waに近づくことによって小さくなるので、およそ100μmである。そして、ステップS7へ進む。
【0061】
図6のステップS7は、4次レーザスキャン工程である。図10は、第4の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS7では、ステップS5と同様にして、メインコンピュータ120は、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。また、これらのレーザスキャンに同期してサーボモータ104により複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光113を照射する。この場合、先の2次レーザスキャン工程で形成された第2の改質領域22に対して位相がずれるようにサーボモータ104による複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hの選択をレンズ制御部122が制御する。これにより図10に示すように基板Wの内部において、各改質領域21,22,23に一部で重なった第4の改質領域24が形成される。尚、少なくとも第2の改質領域22と第4の改質領域24とが一部で重なっていれば、第1の改質領域21と第3の改質領域23とには、重ならなくてもよい。これによれば、第1の改質領域21と第3の改質領域23との間において、形成される改質領域の密度を高めることが可能である。すなわち、後のブレイク工程(ステップS8)での切断を容易にすることが可能となる。そして、ステップS8へ進む。
【0062】
図6のステップS8は、基板Wを切断予定ラインで切断するブレイク工程である。図11は、ブレイク方法を示す概略断面図である。同図(a)は切断予定ラインに沿った方向から見た外部応力の与え方を示す断面図、同図(b)は同じくブレイク後を示す断面図である。ステップS8では、例えば図11(a)に示すように、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS7によって、基板Wの厚み方向に連続して形成された改質領域Rcに対して、EまたはF方向に外部応力を加える。これにより基板Wは、図11(b)に示すように、改質領域Rcで分断される。また、基板Wのレーザ光113の入射面Waと表面Wbすなわち表裏面の切断予定ラインに沿った厚み方向に第1の改質領域21、第3の改質領域23が形成されているため、これを起点として切断が進み、破断面に外形不良が発生することを低減することができる。したがって、高い精度で切断が可能である。この場合の改質領域Rcの幅(Z軸方向に直交する方向の幅)は、およそ10〜20μmである。
【0063】
このようなレーザスクライブ方法は、基板Wの内部でレーザ光113の集光点を順次ずらしてレーザ光113を照射し、厚み方向に連続する改質領域を形成する場合に比べて、第2の改質領域22および第4の改質領域24は、振動した状態で形成されるので、レーザスキャンの回数を低減することが可能である。また、基板Wの厚みが例えば600μm程度に薄くなれば、3次レーザスキャン工程または4次レーザスキャン工程、あるいは3次および4次レーザスキャン工程を省いても、基板Wの切断を行うことが可能である。
【0064】
上記実施形態の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、メインコンピュータ120は、レーザ光源101およびサーボモータ104、Z軸スライド機構104cおよびX軸スライド部108ならびにY軸スライド部106をそれぞれ制御して、1次〜4次レーザスキャンを行う。これにより、基板Wの内部に切断予定ラインに沿って表面Wbに掛かる第1の改質領域21と入射面Waに掛かる第3の改質領域23とが形成される。また、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域21と第3の改質領域23とに連続するように振動した状態の第2の改質領域22および第4の改質領域24が形成される。すなわち、基板Wの内部に連続した改質領域Rcが形成されるので、ブレイク工程で基板Wに外部応力を加えれば、切断予定ラインに沿って第1の改質領域21または第3の改質領域23を起点として精度よく且つ容易に基板Wを切断することができる。また、基板Wの内部に連続した改質領域Rcを形成するレーザスキャンの回数を減じて高い生産性で基板Wのスクライブが可能なレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0065】
(2)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、集光機構103には、複数の集光部としての集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hが焦点距離の長さの順に光軸101aを横切る回転軌跡103r上に配置されている。したがって、回転体である集光機構103が1回転する間に、各集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光を照射すれば、切断予定ラインに沿った方向から見て隙間無く第2の改質領域22を形成することができる。
【0066】
(3)上記実施形態の電気光学装置としての液晶表示装置10の製造方法では、レーザ照射装置100を使用したレーザスクライブ方法を用いて、基板Wに区画形成された複数の液晶表示装置10をスクライブして取り出す。したがって、高い生産性と歩留まりで液晶表示装置10を製造することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記実施形態以外の変形例は、以下の通りである。
【0068】
(変形例1)上記実施形態のレーザ照射装置100において、集光機構103の構造はこれに限定されない。図12は、変形例の集光機構の構造を示す概略図である。同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のD−D線で切った断面図である。図12(a)に示すように、集光機構203は、中心から放射状に伸びた複数の支持部の先端側に同一の焦点距離を有する複数(8つ)の集光レンズ203a〜集光レンズ203hが設けられている。各集光レンズ203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203hは、光軸101aを横切る集光機構203の回転軌跡203r上に配置されている。また、図12(b)に示すように、集光機構203が1回転すると集光点が振幅ΔLで振動するように各集光レンズ203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203hが回転軸204bに対して取り付けられている。レーザ光を照射する基板Wの厚みに対応してΔLを設定すれば、基板Wの内部で振動するように改質領域を形成することができる。また、焦点距離が同じ複数の集光レンズを用いて構成すればよいので、焦点距離が異なる集光レンズを用意する場合に比べて、比較的容易に集光機構203を形成することができる。
【0069】
(変形例2)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、サーボモータ104により複数の集光レンズ103b〜集光レンズ103hを順次選択してレーザ照射し、振動した第2の改質領域22および第4の改質領域24を形成する方法は、これに限定されない。図13は、変形例の改質領域の形成状態を示す概略断面図である。例えば、図13(a)に示すように、集光機構103に配置される集光レンズの数を基板Wの厚みに対応して増やして行けば、より滑らかに幅が変化する波状の第2の改質領域22や第4の改質領域24を形成することができる。
【0070】
(変形例3)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、第2の改質領域22または第4の改質領域24の形成方法は、これに限定されない。例えば、図13(b)に示すように、基板Wの厚みがさらに厚くなった場合には、走査方向から見てレーザ光113の入射面Wa側に改質領域35を形成し、反対側の表面Wb側に改質領域31を形成する。そして、改質領域31と改質領域35との間において、Z軸スライド機構104cにより焦点位置をずらしながら、振動した複数の改質領域32,33,34を切断予定ラインに沿った方向から見て互いに連続するように形成してもよい。このようにすれば、基板Wの厚みに対応して集光レンズの数を増やさなくても、基板Wの内部に連続する改質領域を形成することができる。
【0071】
(変形例4)上記実施形態のレーザ照射装置100において、レーザ光源101は、固体光源としてチタンサファイアを用いたフェムト秒レーザとしたが、これに限定されない。例えば、加工対象物が半導体ウェハのようにシリコン等からなる基板ならばYAGレーザの高調波を用いることもできる。
【0072】
(変形例5)上記実施形態のレーザスクライブ方法において、加工対象物は石英ガラスからなる基板Wに限定されない。レーザ光に対して透明な加工対象物であれば本発明のレーザスクライブ方法を適用することが可能であり、例えば、低アルカリガラスやソーダガラス、あるいはシリコン等からなる半導体ウェハのスクライブにも用いることができる。
【0073】
(変形例6)上記実施形態のレーザスクライブ方法において、レーザ加工の順番および方法は、これに限定されない。例えば、1次および3次レーザスキャン工程を先に実施してから、2次および4次レーザスキャン工程を実施してもよい。また、2次レーザスキャン工程が終わったところで、基板Wを反転してステージ105に載置し、再び基板Wの位置決め工程と調整工程で、集光点の位置を調整する。そして、3次および4次レーザスキャン工程を実施する。このようにすれば、3次レーザスキャン工程で形成される第3の改質領域23のZ軸方向における幅は、第1の改質領域21の幅とほぼ同等となる。また、4次レーザスキャン工程で形成される第4の改質領域24の形状は、第2の改質領域22を反転した状態とすることができる。すなわち、基板Wの表裏面から内部に向けて形成される改質領域を表裏面からの距離に寄らずほぼ同等な分布で形成することができる。よって、ブレイク工程で外部応力がどの方向に加わっても容易にブレイクすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)および(b)は液晶表示装置の構造を示す概略図。
【図2】(a)および(b)は液晶表示装置が区画形成された基板を示す概略図。
【図3】レーザ照射装置の構成を示す概略図。
【図4】(a)および(b)は集光機構の構造を示す概略図。
【図5】(a)はレーザ光の集光領域の端部がレーザ光の入射面と反対側の表面に掛かるように位置決めされた状態を示す概略断面図、(b)はレーザ光の集光領域が入射面に徐々に近づいた状態を示す概略断面図。
【図6】レーザスクライブ方法を示すフローチャート。
【図7】第1の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図8】第2の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図9】第3の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図10】第4の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図11】(a)は切断予定ラインに沿った方向から見た外部応力の与え方を示す断面図、(b)はブレイク後を示す断面図。
【図12】(a)および(b)は変形例の集光機構の構造を示す概略図。
【図13】(a)および(b)は変形例の改質領域の形成状態を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0075】
1,2…一対の基板、5…液晶、10…電気光学装置としての液晶表示装置、21…第1の改質領域、22…第2の改質領域、100…レーザ照射装置、101…レーザ光源、101a…光軸、103…集光機構、103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103h…集光部としての集光レンズ、103r…回転軌跡、104…駆動部としてのサーボモータ、104c…第1の移動機構としてのZ軸スライド機構、106…第2の移動機構としてのY軸スライド部、108…第2の移動機構としてのX軸スライド部、113…レーザ光、116,117,118…集光領域、203…集光機構、203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203h…集光部としての集光レンズ、203r…回転軌跡、W…加工対象物およびマザー基板としての基板、Wa…入射面、Wb…入射面に対して反対側の表面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物にレーザ光を照射し、集光点においてレーザ光のエネルギーにより加工対象物を物理的、化学的に変化させて切断加工を行うレーザ照射装置、レーザスクライブ法、電気光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ照射装置として、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することが可能なレーザ加工装置がある(特許文献1)。上記レ−ザ加工装置は、開口数が異なる複数の集光レンズを有し、内部に所望の大きさの改質スポットを形成するため、加工対象物の厚みに対応して集光レンズを選択するレンズ選択手段を備えた。
【0003】
また、加工対象物を載置する載置台と載置台を光軸上で集光レンズに対して相対移動させる移動機構とを備え、加工対象物の厚みに応じて、厚み方向に異なる焦点位置でレーザ光を集光させ、複数の改質領域を形成する他のレーザ加工装置が知られている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−1448号公報
【特許文献2】特開2005−47290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のレーザ加工装置は、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質スポットを形成し、これを起点として加工対象物を切断するものである。しかしながら、起点としての改質スポットを加工対象物の内部に複数形成した改質領域を設けても、切断時の応力の加え方によって、確実に切断予定ラインに沿って切断することが難しいことが分かった。
【0006】
切断予定ラインに沿ってより確実に切断するには、改質領域を加工対象物の内部に連続して形成することが望ましい。そのためには、レーザ光の焦点位置を加工対象物の内部で変えて走査するレーザ照射の回数が増えてしまい、生産性が低下するという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を考慮してなされたものであり、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザ照射装置、このレーザ照射装置を用いたレーザスクライブ方法および電気光学装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーザ照射装置は、レーザ光を射出するレーザ光源と、少なくとも1つは異なる焦点距離を有する複数の集光部を備えた集光機構と、複数の集光部のいずれかがレーザ光の光軸上に配置されるように集光機構を駆動する駆動部と、加工対象物の内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構を光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、レーザ光源および駆動部と第1の移動機構および第2の移動機構を制御する制御部とを備え、制御部は、駆動部を駆動させ複数の集光部のいずれか1つを選択し、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面に対して反対側の表面に、レーザ光の集光領域の端部が掛かるように第1の移動機構を駆動して選択された集光部の光軸上の位置を設定し、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とする。
【0009】
集光部によりレーザ光を加工対象物の内部に集光点を結ぶように集光させると、集光領域において多光子吸収を発生させることができる。当該集光領域では、集光されたレーザ光のエネルギーにより加工対象物が物理的あるいは化学的に変化した改質領域が形成される。この構成によれば、制御部が行う第1の走査では、第1の移動機構により選択された集光部の加工対象物に対する位置を設定し、集光点の位置を移動させずに切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、入射面または入射面に対して反対側の表面に沿って加工対象物の内部に第1の改質領域が形成される。そして、第2の走査では、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第1の走査と同様に加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域が形成される。第2の改質領域は、複数の集光部のうち少なくとも1つは異なる焦点距離を有しているので、加工対象物の内部で集光領域の位置がずれて振動するように形成される。したがって、加工対象物の内部で集光点の位置をずらしてレーザ光を照射して、加工対象物の表面に沿って改質領域が積層されるように走査を行う場合に比べて、走査の回数を低減することができる。すなわち、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に連続的に形成された第1の改質領域と第2の改質領域とをヘキ壊面として切断不良を生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザ照射装置を提供することができる。
【0010】
また、上記複数の集光部が焦点距離の長さの順に光軸を横切るように集光機構に配置され、制御部は、第2の走査において焦点距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出するようにレーザ光源と駆動部とを制御することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、制御部は、第2の走査において焦点距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出する。したがって、光軸上でランダムに焦点位置を設定する場合に比べて、駆動部による集光機構の移動量を少なくして、切断予定ラインに沿った方向から見て光軸方向に隙間を生じることなく、より確実に第1の改質領域に第2の改質領域を連続させることができる。
【0012】
本発明の他のレーザ照射装置は、レーザ光を射出するレーザ光源と、それぞれに同一の焦点距離を有すると共にレーザ光の光軸上で異なる位置に配置される複数の集光部を備えた集光機構と、複数の集光部のいずれかがレーザ光の光軸上に配置されるように集光機構を駆動する駆動部と、加工対象物の内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構を光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、レーザ光源および駆動部と第1の移動機構および第2の移動機構を制御する制御部とを備え、制御部は、駆動部を駆動させ複数の集光部のいずれか1つを選択し、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面に対して反対側の表面に、レーザ光の集光領域の端部が掛かるように第1の移動機構を駆動して選択された集光部の光軸上の位置を設定し、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第2の移動機構による加工対象物の相対移動に同期して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、制御部が行う第1の走査では、第1の移動機構により選択された集光部の加工対象物に対する位置を設定し、集光点の位置を移動させずに切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。これにより、入射面または入射面に対して反対側の表面に沿って加工対象物の内部に第1の改質領域が形成される。そして、第2の走査では、駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択して、第1の走査と同様に加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射する。すなわち、焦点距離が異なる複数の集光部を備える場合と同様な作用と効果を奏する。さらには、同一の焦点距離を有する集光部を複数用意し、その光軸上の位置が異なるように配置すればよいので、加工対象物の厚みに対応した集光機構の構成を容易に実現できる。
【0014】
また、上記複数の集光部が加工対象物からの距離の長さの順に前記光軸を横切るように集光機構に配置され、制御部は、第2の走査において加工対象物からの距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出するようにレーザ光源と駆動部とを制御することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、制御部は、第2の走査において加工対象物からの距離の長さの順に複数の集光部のうち1つを選択してレーザ光を射出する。したがって、光軸上でランダムに焦点位置を設定する場合に比べて、駆動部による集光機構の移動量を少なくして、切断予定ラインに沿った方向から見て光軸方向に隙間を生じることなく、より確実に第1の改質領域に第2の改質領域を連続させることができる。
【0016】
これらの発明のレーザ照射装置において、上記集光機構が回転体であり、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置されていることが好ましい。これによれば、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置されている。したがって、第2の走査において、回転体が1回転する間に光軸上に位置する集光部を介してレーザ光を照射すれば、加工対象物を光軸上で移動させることなく、レーザ光の集光点の位置を加工対象物の内部において振動させることができる。すなわち、加工対象物を光軸上で移動させず、焦点位置のみを振動させることができるので、高い位置精度で第1の改質領域に連続した第2の改質領域を形成することができる。また、加工対象物が大きくなっても、加工対象物を光軸上で移動させないので、焦点位置を高速に振動させることができる。すなわち、第2の改質領域をより緻密に形成することができ、スクライブを容易とする。
【0017】
本発明のレーザスクライブ方法は、上記発明のレーザ照射装置を用い、レーザ光を加工対象物の切断予定ラインに沿って照射して加工対象物を切断するレーザスクライブ方法であって、集光機構の複数の集光部のうち1つを選択して、レーザ光の光軸が加工対象物の切断予定ライン上に位置するように選択された集光部と加工対象物とを相対的に位置決めする位置決め工程と、レーザ光の集光領域の少なくとも一部が加工対象物のレーザ光の入射面または入射面と反対側の表面に掛かるように集光点の位置を調整する調整工程と、集光機構に対して加工対象物をレーザ光の光軸と略直交する平面内で相対移動させると共に、切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程と、加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように複数の集光部を順次選択し、加工対象物の相対移動に同期して、切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、第1の走査工程では、集光点の位置を一定にして、加工対象物のレーザ光の入射面または入射面と反対側の表面に沿って内部に第1の改質領域を形成する。第2の走査工程では、複数の集光部を順次選択して加工対象物の内部において集光点の位置を振動させ、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する。したがって、連続した第1の改質領域と第2の改質領域をヘキ壊面として切断予定ラインから外れることなく、加工対象物をスクライブして切断することができる。また、第2の改質領域は、集光点の振動により加工対象物の内部で振動した状態に形成される。よって、加工対象物の内部で集光点の位置をずらしながらレーザ光を照射して、加工対象物の表面に沿って改質領域が積層されるように走査を行う場合に比べて、走査の回数を低減することができる。すなわち、切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に連続的に形成された第1の改質領域と第2の改質領域とをヘキ壊面として切断不良が生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0019】
また、上記集光機構が回転体であり、複数の集光部が光軸を横切る回転体の回転軌跡上に配置され、第2の走査工程では、複数の集光部を回転軌跡上に配置された順に選択して、加工対象物の切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射することが好ましい。これによれば、第2の走査工程では、複数の集光部を回転軌跡上に配置された順に選択するので、集光機構としての回転体が1回転する間に光軸上に位置する集光部を介してレーザ光を照射すれば、加工対象物を光軸上で移動させることなく、レーザ光の集光点の位置を加工対象物の内部において振動させることができる。すなわち、より高い位置精度で、加工対象物の内部に第1の改質領域に連続した第2の改質領域を形成することができる。また、加工対象物が大きくなっても、加工対象物を光軸上で移動させないので、集光点の位置を高速に振動させることができる。すなわち、第2の改質領域をより緻密に形成し、スクライブを容易に行うことが可能なレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0020】
本発明の電気光学装置の製造方法は、画素電極を有する一対の基板と、一対の基板に挟持された液晶とを備えた電気光学装置の製造方法であって、一対の基板がそれぞれ複数区画配置され所定の位置で接着されたマザー基板を加工対象物として、上記発明のレーザスクライブ方法を用い、電気光学装置を取り出すための切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するスクライブ工程を備えたことを特徴とする。
【0021】
この方法によれば、切断不良が生ずることなく、高い生産性で加工対象物のスクライブが可能なレーザスクライブ方法を用いているので、マザー基板から高い歩留まりで電気光学装置を取り出すことができると共に、より安価に電気光学装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態は、電気光学装置としての液晶表示装置を製造する工程において、液晶表示装置が複数区画形成されたマザー基板を切断する工程で用いられるレーザ照射装置と、このレーザ照射装置を用いたレーザスクライブ方法を例に説明する。
【0023】
<液晶表示装置>
まず、液晶表示装置について説明する。図1は、液晶表示装置の構造を示す概略図である。同図(a)は概略正面図、同図(b)は同図(a)のA−A線で切った概略断面図である。
【0024】
図1(a)および(b)に示すように、液晶表示装置10は、TFT(Thin Film Transistor)素子3を有する素子基板1と、対向電極6を有する対向基板2と、シール材4によって接着された両基板1,2の隙間に挟持された液晶5とを備えている。素子基板1は対向基板2より一回り大きく額縁状に張り出した状態となっている。
【0025】
素子基板1は、厚みおよそ1.2mmの石英ガラス基板を用いており、その表面には画素を構成する画素電極(図示省略)と、3端子のうちの一つが画素電極に接続されたTFT素子3が形成されている。TFT素子3の残りの2端子は、画素電極を囲んで互いに絶縁状態で格子状に配置されたデータ線(図示省略)と走査線(図示省略)とに接続されている。データ線は、Y軸方向に引き出されて端子部1aにおいてデータ線駆動回路部9に接続されている。走査線は、X軸方向に引き出され、左右の額縁領域に形成された2つの走査線駆動回路部13,13に個々に接続されている。各データ線駆動回路部9および走査線駆動回路部13の入力側配線は、端子部1aに沿って配列した実装端子11にそれぞれ接続されている。端子部1aとは反対側の額縁領域には、2つの走査線駆動回路部13,13を繋ぐ配線12が設けられている。
【0026】
対向基板2は、厚みおよそ1.0mmの透明なガラス基板を用いており、共通電極としての対向電極6が設けられている。対向電極6は、対向基板2の四隅に設けられた上下導通部14を介して素子基板1側に設けられた配線と導通しており、当該配線も端子部1aに設けられた実装端子11に接続されている。
【0027】
液晶5に面する素子基板1の表面および対向基板2の表面には、それぞれ配向膜7,8が形成されている。
【0028】
液晶表示装置10は、外部駆動回路と電気的に繋がる中継基板が実装端子11に接続される。そして、外部駆動回路からの入力信号が各データ線駆動回路部9および走査線駆動回路部13に入力されることにより、TFT素子3が画素電極ごとにスイッチングされ、画素電極と対向電極6との間に駆動電圧が印加されて表示が行われる。
【0029】
尚、液晶表示装置10は、透過型の表示装置であり、素子基板1の背面側に冷陰極管やLEDなどの光源を有する照明装置が装備される。また、図1には図示省略したが、液晶表示装置10の表裏面には、それぞれ入出射する光を偏向する偏光板が設けられる。さらには、スイッチング素子としてTFT素子3に限らず、TFD(Thin Film Diode)素子を備えたものや、帯状の電極が直交するように各基板に設けられたパッシブマトリクス型の液晶表示装置でもよい。
【0030】
図2は、液晶表示装置が区画形成されたマザー基板を示す概略図である。同図(a)は概略平面図、同図(b)は、同図(a)のB−B線で切った概略断面図である。
【0031】
図2(a)に示すように、1つの液晶表示装置10に相当する素子基板1がマザー基板としてのウェハ状の基板Wに複数区画形成されている。そして、図2(b)に示すように、対向基板2が個々に区画形成された素子基板1と接着されている。1つの液晶表示装置10は、区画領域Dx,Dyに沿った切断予定ラインを切断して、基板Wから取り出される。この場合、基板Wは、厚み1.2mm、直径12インチの石英ガラス基板であり、200個分の素子基板1が区画形成されている。
【0032】
尚、本実施形態では、基板Wに個々の対向基板2を接着した形態であるが、ウェハ状の基板内に対向基板2が複数区画形成された他のマザー基板と基板Wとを接着し、相方のマザー基板を切断して液晶表示装置10を取り出すようにしてもよい。
【0033】
<レーザ照射装置>
次に、本発明を適用したレーザ照射装置について説明する。図3は、レーザ照射装置の構成を示す概略図である。
【0034】
図3に示すように、レーザ照射装置100は、レーザ光を射出するレーザ光源101と、射出されたレーザ光を反射するダイクロイックミラー102と、反射したレーザ光を集光する集光部としての複数の集光レンズを有する集光機構103とを備えている。複数の集光レンズのいずれかがレーザ光の光軸101a上に配置されるように集光機構103を駆動する駆動部としてのサーボモータ104を備えている。そして加工対象物としての基板Wの内部にレーザ光の集光点が位置するように、集光機構103を光軸101a方向(Z軸方向)に移動可能な第1の移動機構としてZ軸スライド機構104cを備えている。また、基板Wを載置するステージ105と、集光機構103に対してステージ105をレーザ光の光軸101aと略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構としてのX軸スライド部108およびY軸スライド部106とを備えている。さらには、ダイクロイックミラー102を挟んで集光機構103と反対側に位置する撮像装置110を備えている。
【0035】
レーザ照射装置100は、上記各構成を制御する制御部としてのメインコンピュータ120を備えている。メインコンピュータ120には、CPUや各種メモリの他に撮像装置110が撮像した画像情報を処理する画像処理部124を有している。撮像装置110は、同軸落射型光源とCCD(固体撮像素子)が組み込まれたものである。同軸落射型光源から射出した可視光は、集光レンズを透過して焦点を結ぶ。
【0036】
また、メインコンピュータ120には、レーザ加工の際に用いられる各種加工条件のデータを入力する入力部125とレーザ加工時の各種情報を表示する表示部126が接続されている。そして、レーザ光源101の出力やパルス幅、パルス周期を制御するレーザ制御部121と、複数の集光レンズのいずれかを選択するようにサーボモータ104を駆動すると共にZ軸スライド機構104cを制御するレンズ制御部122とが接続されている。さらに、X軸スライド部108とY軸スライド部106をそれぞれレール109,107に沿って移動させるサーボモータ(図示省略)を駆動するステージ制御部123が接続されている。サーボモータ104にはエンコーダが内蔵されており、レンズ制御部122はエンコーダから複数の集光レンズの位置情報を取得可能となっている。
【0037】
集光機構103をZ軸方向に移動させるZ軸スライド機構104cには、移動距離を検出可能な位置センサが内蔵されており、レンズ制御部122は、この位置センサの出力を検出して集光機構103のZ軸方向の位置を制御可能となっている。したがって、撮像装置110の同軸落射型光源から射出した可視光の焦点が基板Wの表面と合うように集光機構103をZ軸方向に移動させれば、基板Wの厚みを計測することが可能である。
【0038】
レーザ光源101は、例えばチタンサファイアを固体光源とするレーザ光をフェムト秒のパルス幅で射出するいわゆるフェムト秒レーザである。この場合、レーザ光は、波長分散特性を有しており、中心波長が800nmであり、その半値幅はおよそ15nmである。またパルス幅はおよそ300fs(フェムト秒)、パルス周期は1kHz、出力はおよそ700mWである。
【0039】
図4は、集光機構の構造を示す概略図である。同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のC−C線で切った断面図である。図4(a)に示すように、集光機構103は軸104bを中心に回転する円板状の回転体であり、光軸101aを横切る円板104aの回転軌跡103r上に複数(8つ)の集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hが配置されている。これらの集光レンズ103a〜集光レンズ103hは、焦点距離の長さの順に配置されており、この場合、焦点距離の長さは、集光レンズ103a>集光レンズ103b=集光レンズ103h>集光レンズ103c=集光レンズ103g>集光レンズ103d=集光レンズ103f>集光レンズ103eの順となっている。すなわち、集光機構103が1回転する間に、光軸101a上に位置した集光レンズを介してレーザ光を照射すれば、集光点の位置を光軸101a上で移動(振動)させることができるようになっている。集光部は、集光レンズに限らず、フレネルレンズや回折格子を用いることも可能である。
【0040】
尚、本実施形態では、ステージ105は、Y軸スライド部106に支持されているが、X軸スライド部108とY軸スライド部106との位置関係を逆転させてX軸スライド部108に支持される形態としてもよい。また、ステージ105はθテーブルを介してY軸スライド部106に支持されることが好ましい。これによれば、基板Wを光軸101aに対してより垂直な状態とすることが可能である。
【0041】
図5は、レーザ光の集光領域の位置を加工対象物の内部で可変した状態を示す概略断面図である。同図(a)はレーザ光の集光領域の端部がレーザ光の入射面と反対側の表面に掛かるように位置決めされた状態を示す概略断面図、同図(b)はレーザ光の集光領域が入射面に徐々に近づいた状態を示す概略断面図である。
【0042】
図5(a)に示すように、サーボモータ104を駆動し光軸101a上にもっとも焦点距離が長い集光レンズ103aを配置する。集光レンズ103aにより集光されたレーザ光113は、波長分散特性を有しているため、屈折率がおよそ1.46の基板Wに入射すると、短波長側のレーザ光114から長波長側のレーザ光115までその集光点が光軸101a上でずれた集光領域116に集光される。集光領域116は、いわゆる軸上色収差を有している。この場合、集光領域116の長波長側のレーザ光115の集光点が入射面Waに対して反対側の表面Wbに近接するようにZ軸スライド機構104cを制御して集光レンズ103aの位置を設定しているので、短波長側のレーザ光114と長波長側のレーザ光115との光路差が最も大きくなっている。すなわち、基板Wの厚み方向における集光領域116の幅が最大となっている。
【0043】
図5(b)に示すように、集光点の位置が入射面Wa側に近づくように、サーボモータ104を駆動して集光レンズ103b〜集光レンズ103eを順次選択すると、焦点距離が徐々に短くなり、短波長側のレーザ光114と長波長側のレーザ光115との光路差が次第に小さくなってゆく。したがって、レーザ光113は、集光領域117から集光領域118に向かって移動しながら集光され、基板Wの厚み方向において集光領域の幅が徐々に小さくなる。当然ながら、集光点が入射面Waの近傍から反対側の表面Wbに近づくようにサーボモータ104を駆動して集光レンズ103e〜集光レンズ103aを順次選択すると、集光領域118から集光領域116へと基板Wの厚み方向における集光領域の幅が徐々に大きくなる。言い換えれば、集光領域116から集光領域118までが光軸101a上で連続するように、焦点距離が異なる複数の集光レンズ103a〜集光レンズ103eが集光機構103に配置されている。集光領域116から集光領域118が互いに光軸101a上で一部重なり合うように複数の集光レンズ103a〜集光レンズ103eの焦点距離を設定してもよい。
【0044】
尚、レーザ光源101として波長分散特性が小さい、すなわち半値幅が非常に狭く、且つ集光レンズの色収差が小さいあるいは補正されたものを用いれば、基板Wの厚み方向における集光点の位置によって集光領域の幅が変化する変化量を抑えることは可能である。
【0045】
ここで多光子吸収による改質領域の形成について説明する。加工対象物が透明な材料であっても、材料の吸収のバンドギャップEgよりも光子のエネルギーhνが非常に大きいと吸収が生じる。これを多光子吸収と言い、レーザ光のパルス幅を極めて短くして、多光子吸収を加工対象物の内部に起こさせると、多光子吸収のエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、イオン価数変化、結晶化または分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。本実施形態では、この屈折率変化領域を改質領域と呼ぶ。
【0046】
このようなレーザ光113の基板Wに対する照射特性を基に、レーザ照射装置100のメインコンピュータ120は、もっとも焦点距離が長い集光レンズ103aを選択して、レーザ光113の集光領域116の端部が、レーザ光113の入射面Waと反対側の表面Wbに掛かるようにZ軸スライド機構104cにより集光機構103の位置を設定して、基板Wの区画領域Dx,Dyに沿った切断予定ライン(仮想)に沿ってレーザ光113を照射する第1の走査を行う。また、複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、レーザ光113の集光点の位置を基板Wの内部において振動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の走査によって基板Wが多光子吸収して形成された第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査を行う。
【0047】
このようなレーザ照射装置100によれば、基板Wの内部でレーザ光113の集光点の位置を順次ずらしてレーザ光を照射して、切断予定ラインに沿って厚み方向(Z軸方向)に連続する改質領域を形成する場合に比べて、レーザ光113の集光点を振動させて第2の改質領域を形成するので、レーザ光113の走査の回数を減らすことが可能である。また、基板Wの切断予定ラインに沿って第1の改質領域を形成するので、外部応力を加えて基板Wを切断する際に、第1の改質領域を起点として切断される。よって、破断面に外形不良が生じることを低減することが可能である。
【0048】
なお、このような第1および第2の改質領域を形成するためのレーザ光113の照射条件としては、加工対象物によってレーザ光113の出力やパルス幅、パルス周期、レーザスキャン速度等の設定が必要なことは言うまでもない。特に、レーザ光源101の出力は、ダイクロイックミラー102や各集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hなど光軸101a上に配置される物質による吸収で減衰することを考慮する必要がある。したがって、実際の加工対象物を用いた予備試験を実施して、最適な照射条件を導くことが望ましい。
【0049】
<液晶表示装置の製造方法>
本実施形態の液晶表示装置10の製造方法は、画素電極などの各構成要素が形成された基板W(素子基板1)と対向基板2とをシール材4を用いて接着すると共に液晶5を封入して組み立てる組立工程と、基板Wの切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射してスクライブするスクライブ工程とを備えている。
【0050】
組立工程では、まず、基板Wの表面の画素領域を囲むようにシール材4を配置する。シール材4としては、熱硬化性のエポキシ系接着剤や光硬化型の変性エポキシ系接着剤を用いることができる。シール材4には、基板W(素子基板1)と対向基板2とを所定の間隔で対向配置して接着するためのギャップ材等が含まれている。シール材4を配置する方法としては、スクリーンやオフセットなどの印刷法、当該接着剤をシリンジ等に充填してニードルなどから吐出描画する定量吐出法が挙げられる。
【0051】
次に、シール材4が配置された基板Wに減圧下で所定量の液晶5を吐出して、所定の位置で対向基板2を押し付けるように接合させる。そして、接合した基板Wと対向基板2とを加熱あるいは露光することにより、当該接着剤を硬化させる。当該接着剤の硬化は、仮固定ができる程度でよく、後に本硬化させる。これにより複数の液晶表示装置10が区画形成された基板W(図2参照)ができあがる。
【0052】
スクライブ工程は、基板Wから液晶表示装置10を取り出すために、区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに沿ってレーザ照射する工程である。本実施形態のスクライブ工程では、前述したレーザ照射装置100を用いると共に、本発明を適用したレーザスクライブ方法を用いる。
【0053】
<レーザスクライブ方法>
次に本発明を適用したレーザスクライブ方法について説明する。図6は、レーザスクライブ方法を示すフローチャートである。
【0054】
図6に示すように、本実施形態のレーザスクライブ方法は、レーザ照射装置100を用い、集光機構103とステージ105に載置された基板Wとを相対的に位置決めする位置決め工程(ステップS1)と、基板Wの厚みを計測する計測工程(ステップS2)と、レーザ光113の集光点の位置を調整する調整工程(ステップS3)とを備えている。また、基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程としての1次レーザスキャン工程(ステップS4)を備えている。そして、基板Wを相対移動させると共に複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、集光領域を基板Wの内部において振動させながら、切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て1次レーザスキャン工程で形成された第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程としての2次レーザスキャン工程(ステップS5)を備えている。また、レーザ光113の集光領域の端部が基板Wの入射面Waに掛かるように、集光レンズ103eを選択して、基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第2の改質領域に連続する第3の改質領域を形成する3次レーザスキャン工程(ステップS6)を備えている。また、複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択して、集光領域を基板Wの内部において振動させながら、基板Wを相対移動させると共に切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域と第3の改質領域に連続するように第4の改質領域を形成する4次レーザスキャン工程(ステップS7)を備えている。さらに、基板Wに外部応力を加え切断予定ラインに沿って基板Wを切断(分割)するブレイク工程(ステップS8)を備えている。
【0055】
図6のステップS1は、基板Wの位置決め工程である。ステップS1では、図2に示した基板Wを対向基板2側がステージ105の表面に接するように載置する。そして、区画領域DxがX軸方向に平行となるように基板Wを位置決めする。メインコンピュータ120は、集光レンズ103aが選択され光軸101a上に配置されるようにレンズ制御部122を介してサーボモータ104を駆動する。また、ステージ制御部123は、レーザ光113の光軸101aが基板Wの任意の区画領域Dx,Dyの切断予定ライン上に位置するように、サーボモータ(図示省略)を駆動しX軸スライド部108およびY軸スライド部106を移動させる。この場合、ウェハ状の基板Wには、位置決め用のアライメントマークが形成されており、撮像装置110によってこのアライメントマークを認識し、画像処理部124に取り込んだ画像データに基づいて座標を演算することにより、基板Wを位置決めする。そして、ステップS2へ進む。
【0056】
図6のステップS2は、基板Wの厚みを計測する工程である。ステップS2では、オペレータは、メインコンピュータ120を操作して、基板Wの厚み測定を実施する。撮像装置110が捉えた映像を表示部126に表示させ、基板Wのレーザ光の入射面Wa(図5参照)と、もう一方の反対側の表面Wb(図5参照)とに撮像装置110から射出される可視光の焦点を合わせる動作を行わせることにより、メインコンピュータ120は、Z軸スライド機構104cの位置センサの出力から基板Wの厚みを演算する。演算結果は、メインコンピュータ120の記憶部にZ軸方向の座標として記憶される。そして、ステップS3に進む。
【0057】
図6のステップS3は、レーザ光113の集光点の位置を調整する調整工程である。ステップS3では、撮像装置110が捉えた可視光の焦点と集光領域116とのZ軸方向の位置関係をあらかじめレーザ照射する予備試験の結果から求めておき、データとして入力しておく。このデータとステップS2で求められた基板Wの厚みデータ(Z軸方向の座標)とに基づいて、ステップS3では、図5(a)に示すように、レンズ制御部122は、Z軸スライド機構104cを駆動して集光領域116の端部がレーザ光113の入射面Waに対して反対側の表面Wbに掛かるように集光機構103をZ軸方向に移動させる。そして、ステップS4へ進む。
【0058】
図6のステップS4は、1次レーザスキャン工程である。図7は、第1の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS4では、図7に示すように集光レンズ103aに対して基板Wを相対移動させながら切断予定ラインに沿ってレーザ光113を照射して第1の改質領域21を形成する。この場合、図2に示すように基板Wには複数(200個)の液晶表示装置10が区画形成されており、区画領域Dxに対応してX軸方向に基板Wを横断するレーザスキャンを19回行う。また、続いて区画領域Dyに対応してY軸方向に基板Wを横断するレーザスキャンを15回行う。当然、液晶表示装置10の基板Wにおける区画配置に対応して所定のピッチでX軸またはY軸方向にずらしながら各レーザスキャンを行う。切断予定ラインは、あらかじめデータとして入力されているので、メインコンピュータ120は、このデータに基づいた制御信号をステージ制御部123に送る。ステージ制御部123は、制御信号に基づいてX軸スライド部108とY軸スライド部106とを移動させることにより、基板Wを集光レンズ103aに対して相対移動させる。この場合、レーザ光113の照射に対応して基板Wを移動させる速度すなわちレーザスキャン速度は、およそ20mm/秒である。したがって、X軸方向へ19回およびY軸方向へ15回のレーザスキャンに要する時間は、基板Wのウェハサイズが12インチ(300mm)のため、およそ9分である。この場合の集光領域116におけるピークパワー密度は、8×1012W/cm2である。このようにして基板Wがレーザ光113を多光子吸収して形成された第1の改質領域21の厚み方向(Z軸方向)の幅は、およそ300μmである。そして、ステップS5へ進む。
【0059】
図6のステップS5は、2次レーザスキャン工程である。図8は、第2の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS5では、先のステップS4と同様にして、メインコンピュータ120は、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。また、これらのレーザスキャンに同期してサーボモータ104により複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光113を照射する。すなわち、レーザ光113の集光点が基板Wの内部で振動し、集光領域117から集光領域118の間で変化する。そして、図8に示すように、切断予定ラインに沿った方向(走査方向)から見て第1の改質領域21に厚み方向で連続する第2の改質領域22が形成される。この場合の第2の改質領域22の振幅は、およそ800μmである。また、レンズ制御部122によって制御されたサーボモータ104の回転数は、およそ1回/秒である。したがって、1秒間で1回の振動が行われ、レーザスキャン速度が20mm/秒であるため、振動周期もほぼ20mmである。そして、ステップS6へ進む。
【0060】
図6のステップS6は、3次レーザスキャン工程である。図9は、第3の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS6では、ステップS4と同様にして、メインコンピュータ120は、サーボモータ104を駆動し集光レンズ103eを選択する。また、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。これにより、図9に示すように基板Wの入射面Waの切断予定ラインに沿った方向に、第2の改質領域22の振幅の極大部分と重なった第3の改質領域23が形成される。すなわち、切断予定ラインに沿った方向(走査方向)から見て第2の改質領域22に連続する第3の改質領域23が形成される。この場合の第3の改質領域23の厚み方向(Z軸方向)の幅は、集光領域が入射面Waに近づくことによって小さくなるので、およそ100μmである。そして、ステップS7へ進む。
【0061】
図6のステップS7は、4次レーザスキャン工程である。図10は、第4の改質領域が形成された状態を示す概略断面図である。ステップS7では、ステップS5と同様にして、メインコンピュータ120は、ステージ制御部123を介してX軸スライド部108およびY軸スライド部106を駆動し区画領域Dx,Dyの切断予定ラインに対応してX軸方向へ19回、Y軸方向へ15回のレーザスキャンを行う。また、これらのレーザスキャンに同期してサーボモータ104により複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光113を照射する。この場合、先の2次レーザスキャン工程で形成された第2の改質領域22に対して位相がずれるようにサーボモータ104による複数の集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hの選択をレンズ制御部122が制御する。これにより図10に示すように基板Wの内部において、各改質領域21,22,23に一部で重なった第4の改質領域24が形成される。尚、少なくとも第2の改質領域22と第4の改質領域24とが一部で重なっていれば、第1の改質領域21と第3の改質領域23とには、重ならなくてもよい。これによれば、第1の改質領域21と第3の改質領域23との間において、形成される改質領域の密度を高めることが可能である。すなわち、後のブレイク工程(ステップS8)での切断を容易にすることが可能となる。そして、ステップS8へ進む。
【0062】
図6のステップS8は、基板Wを切断予定ラインで切断するブレイク工程である。図11は、ブレイク方法を示す概略断面図である。同図(a)は切断予定ラインに沿った方向から見た外部応力の与え方を示す断面図、同図(b)は同じくブレイク後を示す断面図である。ステップS8では、例えば図11(a)に示すように、ステップS4、ステップS5、ステップS6、ステップS7によって、基板Wの厚み方向に連続して形成された改質領域Rcに対して、EまたはF方向に外部応力を加える。これにより基板Wは、図11(b)に示すように、改質領域Rcで分断される。また、基板Wのレーザ光113の入射面Waと表面Wbすなわち表裏面の切断予定ラインに沿った厚み方向に第1の改質領域21、第3の改質領域23が形成されているため、これを起点として切断が進み、破断面に外形不良が発生することを低減することができる。したがって、高い精度で切断が可能である。この場合の改質領域Rcの幅(Z軸方向に直交する方向の幅)は、およそ10〜20μmである。
【0063】
このようなレーザスクライブ方法は、基板Wの内部でレーザ光113の集光点を順次ずらしてレーザ光113を照射し、厚み方向に連続する改質領域を形成する場合に比べて、第2の改質領域22および第4の改質領域24は、振動した状態で形成されるので、レーザスキャンの回数を低減することが可能である。また、基板Wの厚みが例えば600μm程度に薄くなれば、3次レーザスキャン工程または4次レーザスキャン工程、あるいは3次および4次レーザスキャン工程を省いても、基板Wの切断を行うことが可能である。
【0064】
上記実施形態の効果は、以下の通りである。
(1)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、メインコンピュータ120は、レーザ光源101およびサーボモータ104、Z軸スライド機構104cおよびX軸スライド部108ならびにY軸スライド部106をそれぞれ制御して、1次〜4次レーザスキャンを行う。これにより、基板Wの内部に切断予定ラインに沿って表面Wbに掛かる第1の改質領域21と入射面Waに掛かる第3の改質領域23とが形成される。また、切断予定ラインに沿った方向から見て第1の改質領域21と第3の改質領域23とに連続するように振動した状態の第2の改質領域22および第4の改質領域24が形成される。すなわち、基板Wの内部に連続した改質領域Rcが形成されるので、ブレイク工程で基板Wに外部応力を加えれば、切断予定ラインに沿って第1の改質領域21または第3の改質領域23を起点として精度よく且つ容易に基板Wを切断することができる。また、基板Wの内部に連続した改質領域Rcを形成するレーザスキャンの回数を減じて高い生産性で基板Wのスクライブが可能なレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法を提供することができる。
【0065】
(2)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、集光機構103には、複数の集光部としての集光レンズ103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hが焦点距離の長さの順に光軸101aを横切る回転軌跡103r上に配置されている。したがって、回転体である集光機構103が1回転する間に、各集光レンズ103b,103c,103d,103e,103f,103g,103hを順次選択してレーザ光を照射すれば、切断予定ラインに沿った方向から見て隙間無く第2の改質領域22を形成することができる。
【0066】
(3)上記実施形態の電気光学装置としての液晶表示装置10の製造方法では、レーザ照射装置100を使用したレーザスクライブ方法を用いて、基板Wに区画形成された複数の液晶表示装置10をスクライブして取り出す。したがって、高い生産性と歩留まりで液晶表示装置10を製造することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。例えば上記実施形態以外の変形例は、以下の通りである。
【0068】
(変形例1)上記実施形態のレーザ照射装置100において、集光機構103の構造はこれに限定されない。図12は、変形例の集光機構の構造を示す概略図である。同図(a)は平面図、同図(b)は同図(a)のD−D線で切った断面図である。図12(a)に示すように、集光機構203は、中心から放射状に伸びた複数の支持部の先端側に同一の焦点距離を有する複数(8つ)の集光レンズ203a〜集光レンズ203hが設けられている。各集光レンズ203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203hは、光軸101aを横切る集光機構203の回転軌跡203r上に配置されている。また、図12(b)に示すように、集光機構203が1回転すると集光点が振幅ΔLで振動するように各集光レンズ203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203hが回転軸204bに対して取り付けられている。レーザ光を照射する基板Wの厚みに対応してΔLを設定すれば、基板Wの内部で振動するように改質領域を形成することができる。また、焦点距離が同じ複数の集光レンズを用いて構成すればよいので、焦点距離が異なる集光レンズを用意する場合に比べて、比較的容易に集光機構203を形成することができる。
【0069】
(変形例2)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、サーボモータ104により複数の集光レンズ103b〜集光レンズ103hを順次選択してレーザ照射し、振動した第2の改質領域22および第4の改質領域24を形成する方法は、これに限定されない。図13は、変形例の改質領域の形成状態を示す概略断面図である。例えば、図13(a)に示すように、集光機構103に配置される集光レンズの数を基板Wの厚みに対応して増やして行けば、より滑らかに幅が変化する波状の第2の改質領域22や第4の改質領域24を形成することができる。
【0070】
(変形例3)上記実施形態のレーザ照射装置100およびレーザスクライブ方法において、第2の改質領域22または第4の改質領域24の形成方法は、これに限定されない。例えば、図13(b)に示すように、基板Wの厚みがさらに厚くなった場合には、走査方向から見てレーザ光113の入射面Wa側に改質領域35を形成し、反対側の表面Wb側に改質領域31を形成する。そして、改質領域31と改質領域35との間において、Z軸スライド機構104cにより焦点位置をずらしながら、振動した複数の改質領域32,33,34を切断予定ラインに沿った方向から見て互いに連続するように形成してもよい。このようにすれば、基板Wの厚みに対応して集光レンズの数を増やさなくても、基板Wの内部に連続する改質領域を形成することができる。
【0071】
(変形例4)上記実施形態のレーザ照射装置100において、レーザ光源101は、固体光源としてチタンサファイアを用いたフェムト秒レーザとしたが、これに限定されない。例えば、加工対象物が半導体ウェハのようにシリコン等からなる基板ならばYAGレーザの高調波を用いることもできる。
【0072】
(変形例5)上記実施形態のレーザスクライブ方法において、加工対象物は石英ガラスからなる基板Wに限定されない。レーザ光に対して透明な加工対象物であれば本発明のレーザスクライブ方法を適用することが可能であり、例えば、低アルカリガラスやソーダガラス、あるいはシリコン等からなる半導体ウェハのスクライブにも用いることができる。
【0073】
(変形例6)上記実施形態のレーザスクライブ方法において、レーザ加工の順番および方法は、これに限定されない。例えば、1次および3次レーザスキャン工程を先に実施してから、2次および4次レーザスキャン工程を実施してもよい。また、2次レーザスキャン工程が終わったところで、基板Wを反転してステージ105に載置し、再び基板Wの位置決め工程と調整工程で、集光点の位置を調整する。そして、3次および4次レーザスキャン工程を実施する。このようにすれば、3次レーザスキャン工程で形成される第3の改質領域23のZ軸方向における幅は、第1の改質領域21の幅とほぼ同等となる。また、4次レーザスキャン工程で形成される第4の改質領域24の形状は、第2の改質領域22を反転した状態とすることができる。すなわち、基板Wの表裏面から内部に向けて形成される改質領域を表裏面からの距離に寄らずほぼ同等な分布で形成することができる。よって、ブレイク工程で外部応力がどの方向に加わっても容易にブレイクすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)および(b)は液晶表示装置の構造を示す概略図。
【図2】(a)および(b)は液晶表示装置が区画形成された基板を示す概略図。
【図3】レーザ照射装置の構成を示す概略図。
【図4】(a)および(b)は集光機構の構造を示す概略図。
【図5】(a)はレーザ光の集光領域の端部がレーザ光の入射面と反対側の表面に掛かるように位置決めされた状態を示す概略断面図、(b)はレーザ光の集光領域が入射面に徐々に近づいた状態を示す概略断面図。
【図6】レーザスクライブ方法を示すフローチャート。
【図7】第1の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図8】第2の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図9】第3の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図10】第4の改質領域が形成された状態を示す概略断面図。
【図11】(a)は切断予定ラインに沿った方向から見た外部応力の与え方を示す断面図、(b)はブレイク後を示す断面図。
【図12】(a)および(b)は変形例の集光機構の構造を示す概略図。
【図13】(a)および(b)は変形例の改質領域の形成状態を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0075】
1,2…一対の基板、5…液晶、10…電気光学装置としての液晶表示装置、21…第1の改質領域、22…第2の改質領域、100…レーザ照射装置、101…レーザ光源、101a…光軸、103…集光機構、103a,103b,103c,103d,103e,103f,103g,103h…集光部としての集光レンズ、103r…回転軌跡、104…駆動部としてのサーボモータ、104c…第1の移動機構としてのZ軸スライド機構、106…第2の移動機構としてのY軸スライド部、108…第2の移動機構としてのX軸スライド部、113…レーザ光、116,117,118…集光領域、203…集光機構、203a,203b,203c,203d,203e,203f,203g,203h…集光部としての集光レンズ、203r…回転軌跡、W…加工対象物およびマザー基板としての基板、Wa…入射面、Wb…入射面に対して反対側の表面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を射出するレーザ光源と、
少なくとも1つは異なる焦点距離を有する複数の集光部を備えた集光機構と、
前記複数の集光部のいずれかが前記レーザ光の光軸上に配置されるように前記集光機構を駆動する駆動部と、
加工対象物の内部に前記レーザ光の集光点が位置するように、前記集光機構を前記光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、
前記レーザ光源および前記駆動部と前記第1の移動機構および前記第2の移動機構を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記駆動部を駆動させ前記複数の集光部のいずれか1つを選択し、前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面に対して反対側の表面に、前記レーザ光の集光領域の端部が掛かるように前記第1の移動機構を駆動して選択された前記集光部の前記光軸上の位置を設定し、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して前記集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、前記駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択して、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記複数の集光部が焦点距離の長さの順に前記光軸を横切るように前記集光機構に配置され、前記制御部は、前記第2の走査において焦点距離の長さの順に前記複数の集光部のうち1つを選択して前記レーザ光を射出するように前記レーザ光源と前記駆動部とを制御することを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
レーザ光を射出するレーザ光源と、
それぞれに同一の焦点距離を有すると共に前記レーザ光の光軸上で異なる位置に配置される複数の集光部を備えた集光機構と、
前記複数の集光部のいずれかが前記レーザ光の光軸上に配置されるように前記集光機構を駆動する駆動部と、
加工対象物の内部に前記レーザ光の集光点が位置するように、前記集光機構を前記光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、
前記レーザ光源および前記駆動部と前記第1の移動機構および前記第2の移動機構を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記駆動部を駆動させ前記複数の集光部のいずれか1つを選択し、前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面に対して反対側の表面に、前記レーザ光の集光領域の端部が掛かるように前記第1の移動機構を駆動して選択された前記集光部の前記光軸上の位置を設定し、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して前記集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、前記駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択して、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項4】
前記複数の集光部が前記加工対象物からの距離の長さの順に前記光軸を横切るように前記集光機構に配置され、前記制御部は、前記第2の走査において前記加工対象物からの距離の長さの順に前記複数の集光部のうち1つを選択して前記レーザ光を射出するように前記レーザ光源と前記駆動部とを制御することを特徴とする請求項3に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記集光機構が回転体であり、前記複数の集光部が前記光軸を横切る前記回転体の回転軌跡上に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のレーザ照射装置を用い、レーザ光を前記加工対象物の切断予定ラインに沿って照射して前記加工対象物を切断するレーザスクライブ方法であって、
前記集光機構の前記複数の集光部のうち1つを選択して、前記レーザ光の光軸が前記加工対象物の前記切断予定ライン上に位置するように選択された前記集光部と前記加工対象物とを相対的に位置決めする位置決め工程と、
前記レーザ光の集光領域の少なくとも一部が前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面と反対側の表面に掛かるように集光点の位置を調整する調整工程と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対移動させると共に、前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程と、
前記加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択し、前記加工対象物の相対移動に同期して、前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程とを備えることを特徴とするレーザスクライブ方法。
【請求項7】
前記集光機構が回転体であり、前記複数の集光部が前記光軸を横切る前記回転体の回転軌跡上に配置され、
前記第2の走査工程では、前記複数の集光部を前記回転軌跡上に配置された順に選択して、前記加工対象物の前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項6に記載のレーザスクライブ方法。
【請求項8】
画素電極を有する一対の基板と、前記一対の基板に挟持された液晶とを備えた電気光学装置の製造方法であって、
前記一対の基板がそれぞれ複数区画配置され所定の位置で接着されたマザー基板を加工対象物として、請求項6ないし7のいずれか一項に記載のレーザスクライブ方法を用い、前記電気光学装置を取り出すための切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するスクライブ工程を備えたことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項1】
レーザ光を射出するレーザ光源と、
少なくとも1つは異なる焦点距離を有する複数の集光部を備えた集光機構と、
前記複数の集光部のいずれかが前記レーザ光の光軸上に配置されるように前記集光機構を駆動する駆動部と、
加工対象物の内部に前記レーザ光の集光点が位置するように、前記集光機構を前記光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、
前記レーザ光源および前記駆動部と前記第1の移動機構および前記第2の移動機構を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記駆動部を駆動させ前記複数の集光部のいずれか1つを選択し、前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面に対して反対側の表面に、前記レーザ光の集光領域の端部が掛かるように前記第1の移動機構を駆動して選択された前記集光部の前記光軸上の位置を設定し、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して前記集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、前記駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択して、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項2】
前記複数の集光部が焦点距離の長さの順に前記光軸を横切るように前記集光機構に配置され、前記制御部は、前記第2の走査において焦点距離の長さの順に前記複数の集光部のうち1つを選択して前記レーザ光を射出するように前記レーザ光源と前記駆動部とを制御することを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
レーザ光を射出するレーザ光源と、
それぞれに同一の焦点距離を有すると共に前記レーザ光の光軸上で異なる位置に配置される複数の集光部を備えた集光機構と、
前記複数の集光部のいずれかが前記レーザ光の光軸上に配置されるように前記集光機構を駆動する駆動部と、
加工対象物の内部に前記レーザ光の集光点が位置するように、前記集光機構を前記光軸方向に移動可能な第1の移動機構と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対的に移動可能な第2の移動機構と、
前記レーザ光源および前記駆動部と前記第1の移動機構および前記第2の移動機構を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記駆動部を駆動させ前記複数の集光部のいずれか1つを選択し、前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面に対して反対側の表面に、前記レーザ光の集光領域の端部が掛かるように前記第1の移動機構を駆動して選択された前記集光部の前記光軸上の位置を設定し、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して前記集光領域において多光子吸収による第1の改質領域を形成する第1の走査と、前記駆動部を駆動させ加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択して、前記第2の移動機構による前記加工対象物の相対移動に同期して、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続する第2の改質領域を形成する第2の走査とを行うことを特徴とするレーザ照射装置。
【請求項4】
前記複数の集光部が前記加工対象物からの距離の長さの順に前記光軸を横切るように前記集光機構に配置され、前記制御部は、前記第2の走査において前記加工対象物からの距離の長さの順に前記複数の集光部のうち1つを選択して前記レーザ光を射出するように前記レーザ光源と前記駆動部とを制御することを特徴とする請求項3に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記集光機構が回転体であり、前記複数の集光部が前記光軸を横切る前記回転体の回転軌跡上に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のレーザ照射装置を用い、レーザ光を前記加工対象物の切断予定ラインに沿って照射して前記加工対象物を切断するレーザスクライブ方法であって、
前記集光機構の前記複数の集光部のうち1つを選択して、前記レーザ光の光軸が前記加工対象物の前記切断予定ライン上に位置するように選択された前記集光部と前記加工対象物とを相対的に位置決めする位置決め工程と、
前記レーザ光の集光領域の少なくとも一部が前記加工対象物の前記レーザ光の入射面または前記入射面と反対側の表面に掛かるように集光点の位置を調整する調整工程と、
前記集光機構に対して前記加工対象物を前記レーザ光の光軸と略直交する平面内で相対移動させると共に、前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して第1の改質領域を形成する第1の走査工程と、
前記加工対象物の内部において集光点の位置が振動するように前記複数の集光部を順次選択し、前記加工対象物の相対移動に同期して、前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射して、前記切断予定ラインに沿った方向から見て前記第1の改質領域に連続するように第2の改質領域を形成する第2の走査工程とを備えることを特徴とするレーザスクライブ方法。
【請求項7】
前記集光機構が回転体であり、前記複数の集光部が前記光軸を横切る前記回転体の回転軌跡上に配置され、
前記第2の走査工程では、前記複数の集光部を前記回転軌跡上に配置された順に選択して、前記加工対象物の前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項6に記載のレーザスクライブ方法。
【請求項8】
画素電極を有する一対の基板と、前記一対の基板に挟持された液晶とを備えた電気光学装置の製造方法であって、
前記一対の基板がそれぞれ複数区画配置され所定の位置で接着されたマザー基板を加工対象物として、請求項6ないし7のいずれか一項に記載のレーザスクライブ方法を用い、前記電気光学装置を取り出すための切断予定ラインに沿ってレーザ光を照射するスクライブ工程を備えたことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−326127(P2007−326127A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159387(P2006−159387)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]