説明

レーザ素子アレイ、その製造方法、及び光インターコネクションシステム

【課題】それぞれの面発光レーザ素子の発振周波数と所望の発振周波数との誤差が小さい面発光レーザ素子アレイを提供する。
【解決手段】logn回の調整工程を有し、それぞれの調整工程においてそれぞれの波長調整層の膜厚を調整するか否かを波長調整層毎に選択することで、それぞれの波長調整層を略一定間隔の膜厚にし、それぞれの調整工程における調整量は、d×2^kであらわされ、単位量dとして、それぞれのレーザ素子にそれぞれの目標発振周波数の光を発生させようとした場合の、目標発振周波数が隣接する他のレーザ素子との間で有するべき波長調整層の膜厚差の平均値を用いる製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ素子アレイ、その製造方法、及び光インターコネクションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長が異なる複数の面発光レーザ素子をアレイ状に配列し、これを信号光源として用いたWDM(Wavelength Division Multiplexing)光インターコネクションシステムが知られている。個々の面発光レーザ素子は、波長調整層の厚さを調節することにより、波長の異なるレーザ信号光を出力する(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
特許文献1 特開2007−214430
非特許文献1 Padullaparthi Babu Dayal, Takahiro Sakaguchi, Akihiro Matsutani, and Fumio Koyama, "Multiple-Wavelength Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers by Grading a Spacer Layer for Short-Reach Wavelength Division Multiplexing Applications", Appl. Phys. Express 2(2009) 092501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、レーザ素子ごとに波長に応じた厚さに波長調整層をエッチングすると、レーザ素子の数と等しい回数のエッチングプロセスが必要となる。また、各エッチングプロセスにおいて波長調整層をエッチングするか否かを、レーザ素子毎に制御することで、エッチングプロセスの回数よりも多い、多様なエッチング量を実現することができる。例えば、エッチング量がそれぞれa、bである2回のエッチングプロセスでは、エッチング量0、a、b、a+bの4通りのエッチング量を実現できる。しかし、レーザ素子の数よりも少ないエッチングプロセスで波長調整層の厚さを調整する場合において、各エッチングプロセスにおけるエッチング量をどのように設定すれば、目標発振周波数に対する発振周波数誤差が小さくなるかについては知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、下部反射層と、活性層と、上部反射層と、下部反射層および上部反射層の間に設けられた波長調整層とを有し、且つ、目標発振周波数が一定間隔のレーザ素子をN個備えたレーザ素子アレイの製造方法であって、それぞれのレーザ素子の波長調整層を形成した後に、波長調整層の膜厚を調整するLogN回(ただし、小数点以下は切りあげ)の調整工程を有し、それぞれの調整工程において、それぞれの波長調整層の膜厚を調整するか否かを波長調整層毎に選択することで、それぞれの波長調整層を略一定間隔の膜厚にし、それぞれの調整工程における調整量は、d×2^k(ただし、dは予め定められた単位量、kは0以上且つ調整工程の回数未満の整数群であり、且つ、複数の調整工程と一対一に対応する各整数)であらわされ、単位量として、それぞれのレーザ素子にそれぞれの目標発振周波数の光を発生させようとした場合の、目標発振周波数が隣接する他のレーザ素子との間で有するべき波長調整層の膜厚差の平均値を用いる製造方法を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、下部反射層と、活性層と、上部反射層と、下部反射層および上部反射層の間に設けられた波長調整層とを有し、且つ、目標発振周波数が一定間隔のレーザ素子をN個備えたレーザ素子アレイであって、それぞれのレーザ素子の波長調整層は、目標発振周波数が隣接する他のレーザ素子の波長調整層に対して一定の膜厚差を有し、膜厚差は、それぞれのレーザ素子にそれぞれの目標発振周波数の光を発生させようとした場合の、それぞれのレーザ素子が、目標発振周波数が隣接する他のレーザ素子との間で有するべき波長調整層の膜厚差の平均値であるレーザ素子アレイを提供する。
【0006】
本発明の第3の態様においては、レーザ素子アレイと、受光した光信号を電気信号に変換する受光素子とを有する半導体集積素子と、レーザ素子アレイが発振するレーザ光を伝搬する光導波路と、レーザ光を光導波路に光学的に結合させる光合波器と、光導波路を伝搬するレーザ光を受光素子に結合させる光分波器とを備える光インターコネクションシステムが提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る光インターコネクションシステムの斜視図である。
【図2】図1に示す光インターコネクションシステムに実装される半導体集積素子を示す。
【図3】図2に示す半導体集積素子に実装される面発光レーザ素子アレイ及び光導波路の断面図である。
【図4】それぞれの波長調整層の膜厚を調整する膜厚調整工程の一例を示す。
【図5】エッチング工程が終了した後の、隣接するチャンネル間の波長調整層の層厚差を示す。
【図6】隣接するチャンネル間の目標発振周波数の差を200GHzとした場合のチャンネル番号と隣接チャンネルとの膜厚差との関係を示す。
【図7】例1、例2及び例4の場合における、チャンネル番号と隣接チャンネルとの膜厚差との関係を示す。
【図8】例1から例4の場合における、チャンネル番号と隣接チャンネルとの周波数差との関係を示す。
【図9】例1から例3の場合における、チャンネル番号と各チャンネルでの周波数と狙いの周波数との誤差との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係る光インターコネクションシステム1000の斜視図である。光インターコネクションシステム1000は、基板1と、複数の半導体集積素子100と、複数の光導波路2と、レーザ光を光導波路2に光学的に結合させる光合波器3と、光導波路2を伝搬するレーザ光を半導体集積素子100に結合させる光分波器4とを備える。
【0011】
基板1はシリコン基板であってよい。光導波路2は、基板1の表面から垂直方向に突出するように形成されたリッジ型のシリコン光導波路であってよい。光導波路2は互いに等間隔に平行に設けられてよい。
【0012】
それぞれの半導体集積素子100は、光学的に結合される光導波路2を介して、他の半導体集積素子100とレーザ光を送受信する。また、基板1の表面において光導波路2を挟んで対称な位置に、半導体集積素子100が設けられてよい。光合波器3と光分波器4は、光導波路2と半導体集積素子100との間に互いに離間して配置されてよい。光合波器3と光分波器4は、半導体集積素子100を光導波路2に光学的に結合する。
【0013】
図2は、半導体集積素子100の構成を説明する図である。半導体集積素子100は、演算処理装置110と、レーザ駆動装置120と、面発光レーザ素子アレイ130と、受光素子140と、光導波路(150、160)とを有する。光導波路150は、面発光レーザ素子アレイ130と光合波器3とを光学的に結合する。光導波路160は、受光素子140と光分波器4とを光学的に結合する。
【0014】
演算処理装置110は、外部からの指令に従って演算を実行し、電圧信号S1をレーザ駆動装置120に出力する。電圧信号S1は、演算結果の情報を含むように、例えば、±100mVの振幅で変調されたn個の差動電圧信号を含む。レーザ駆動装置120は外部からバイアス電流I1を受け取る。レーザ駆動装置120は、バイアス電流I1に電圧信号S1を重畳して、n個の変調電流信号を含む電流信号I2を面発光レーザ素子アレイ130に出力する。
【0015】
面発光レーザ素子アレイ130は、複数の面発光レーザ素子を有する。電流信号I2に含まれるn個の変調電流信号は、予め定められた面発光レーザ素子のそれぞれに供給される。面発光レーザ素子はそれぞれ波長の異なるレーザ信号光OS1−1〜OS1−nを出力する。光導波路150は、n個のレーザ信号光OS1−1〜OS1−nを含む高密度なWDM信号光であるレーザ信号光OS1を光合波器3へ出力する。光合波器3は、レーザ信号光OS1を光導波路2へ光学的に結合する。光導波路2は、レーザ信号光OS1をシングルモードで伝搬してよい。
【0016】
光分波器4は、予め割り当てられた特定の波長のレーザ信号光OS2のみを光導波路2から分波する。光導波路160は光分波器4からレーザ信号光S2を受け取り、それを受光素子140に入力する。受光素子140は、レーザ信号光OS2を所定の差動電圧信号を含む変調電流信号I3に変換し、演算処理装置110に出力する。受光素子140は、例えば、Si/Ge材料を含むフォトダイオードである。このように構成された光インターコネクションシステム1000によれば、半導体集積素子100は、WDM信号光であるレーザ信号光OS1を用いて他の半導体集積素子100と高速通信することができる。
【0017】
図3は、図2に示す面発光レーザ素子アレイ130及び光導波路150の、基板1と垂直でかつ光の伝搬方向に沿った断面図を示す。面発光レーザ素子アレイ130は、基板5と、基板5上にアレイ状に配列された複数の面発光レーザ素子129―1、129−2、・・・129−nを有する。本例の面発光レーザ素子アレイ130は、一次元的に配列されたn個の面発光レーザ素子129−1〜129−nを含む。面発光レーザ素子129−1〜129−nは、基板5上に2次元のマトリクス状に配列されてもよい。光導波路150は、面発光レーザ素子アレイ130の面発光レーザ素子129−1〜129−nのそれぞれの上に接して載置されてよい。
【0018】
それぞれの面発光レーザ素子129は、基板5、下部反射層131、メサポスト構造132、p型電極134、波長調整層135、上部反射層136およびn型電極133を備える。基板5は、他の面発光レーザ素子129−2〜129−nと共通のGaAs基板であってよい。
【0019】
下部反射層131は、メサポスト構造132、波長調整層135および上部反射層136は、基板5の表面と垂直な方向に順次形成される。下部反射層131は半導体多層膜構造のDBRミラーであってよい。下部反射層131は、例えば、GaAs/Al0.9Ga0.1Asの34ペアを含む。下部反射層131の最上部には後述するn型電極133のコンタクト層となるn型GaAs層が堆積されてよい。
【0020】
メサポスト構造132は、活性層138および電流狭窄層139を有する。活性層138は、例えば、3層のInGaAs量子井戸層と、4層のGaAs障壁層とが交互に積層して構成された歪み多重量子井戸構造を有する。活性層138の下側にはn型クラッド層が形成されてもよい。n型クラッド層はSiが1E18cm−3の濃度でドープされたAlGaAs層を含んでよい。電流狭窄層139は活性層138に注入する電流を狭窄する。電流狭窄層139は中央に電流が注入される開口部を有してよい。電流狭窄層139の開口部は直径5μm〜6μmのAlAsを含んでよい。開口部の周辺の電流狭窄部はAl2O3を含んでよい。電流狭窄層139の上下には、基板5の表面と垂直な方向において電流狭窄層139から離れるにつれてAlの組成比が段階的に減少するように構成されたAlGa1−xAs層が形成されてよい。
【0021】
電流狭窄層139の上にはp型クラッド層とp+型コンタクト層が順に形成されてよい。p型クラッド層は炭素が1E18cm−3の濃度でドープされたAlGaAs層を含んでよい。p+型コンタクト層は炭素が1E19cm−3の濃度でドープされたGaAs層を含んでよい。
【0022】
メサポスト構造132の周囲の下部反射層131の表面には、円環形状のn型電極133が形成されている。n型電極133の外径は約80μm、内径は約40μmであってよい。n型電極133は、例えば、AuGeNi/Auを含む。p+型コンタクト層の上には円環形状のp型電極134が形成されている。p型電極134の外径は約30μmでありメサポスト構造132の外周と一致してよい。p型電極134の内径は約11μm〜16μmであってよい。p型電極134は、例えば、Pt/Tiを含む。
【0023】
波長調整層135は、下部反射層131および上部反射層136の間に形成される。波長調整層135−1は、p型電極134の中央の開口部内に形成されてよい。波長調整層135−1は、発振するレーザ光の波長を厚さに応じて調整する波長調整機能を有する。波長調整層135−1は、誘電体を含んでよい。例えば、誘電体は窒化珪素SiNxである。
【0024】
上部反射層136は、波長調整層135−1の上に形成される。上部反射層136は誘電体多層構造のDBRミラーであってよい。上部反射層136は、例えば、SiNx/SiO2の10〜12ペアを含む。
【0025】
光導波路150は、面発光レーザ素子アレイ130の各面発光レーザ素子129−1〜129−nの上面に接して設けられる基部151と、クラッド部152と、コア部153と、クラッド部154とが順次積層して構成されている。光導波路150は、コア部153の屈折率が最も高く、次にクラッド部152及び154、基部151の順に屈折率が低くなるように構成されている。コア部153の厚さと、コア部153とクラッド部152及びクラッド部154との屈折率差とは、光導波路150が面発光レーザ素子129−1〜129−nの出力するレーザ光をシングルモードで伝搬するように設定される。
【0026】
コア部153は、各面発光レーザ素子129−1〜129−nの上方の位置に、溝加工により形成された複数の反射部155を有する。各反射部155は、基板5の法線に対して45°の角度で傾斜した傾斜面を有する。反射部155は、各面発光レーザ素子129−1〜129−nが出力するレーザ光を反射して、コア部153内を伝搬させる。
【0027】
光導波路160は、光導波路150と同様に、受光素子140上に配置され、基部、クラッド部、コア部、及びクラッド部が順次積層して構成されてよい。コア部は光導波路160を伝搬してきた光を反射して受光素子140に入力させるための反射部を有する。
【0028】
電流信号I2に含まれるn個の変調電流信号は、予め割り当てられた面発光レーザ素子129−1〜129−nに供給される。その結果、それぞれの面発光レーザ素子129−1〜129−nは割り当てられた変調電流信号によって直接変調され、互いに波長が異なるレーザ信号OS1−1〜OS1−nを出力する。光導波路150は、それぞれの面発光レーザ素子129−1〜129−nから出力され、コア部153に入力された各レーザ信号光OS1−1〜OS1−nを、各反射部155で反射させ、シングルモードで伝搬させる。光導波路150は、n個のレーザ信号光OS1−1〜OS1−nを含む高密度なWDM信号光であるレーザ信号光OS1を生成し、当該レーザ信号光OS1を光合波器3へ出力する。
【0029】
上述したように、波長調整層135−1〜135−nの厚さを変えることにより、面発光レーザ素子129の発振波長を調整することができる。面発光レーザ素子アレイ130をWDMの光源として使用する場合、隣接する面発光レーザ素子129のチャンネル間の発振周波数の差を等間隔にすることが望ましい。つまり、それぞれの面発光レーザ素子129の目標発振周波数は一定間隔であり、それぞれの面発光レーザ素子129の波長調整層135の膜厚は、当該目標発振周波数に応じて調整される。なお、目標発振周波数は、面発光レーザ素子アレイ130等の製品仕様表に表示される仕様値等のように、面発光レーザ素子アレイ130に対して何らかの方法で示される性能目標値を指してよい。
【0030】
図4は、それぞれの波長調整層135の膜厚を調整する膜厚調整工程の一例を示す。膜厚調整工程は、logN回(ただし、小数点以下は切りあげ)の調整工程によって、波長調整層135の膜厚を調整する。
【0031】
なお、それぞれの波長調整層135を形成した後に、それぞれの調整工程を行なってよい。この場合、各調整工程において、波長調整層135をエッチングするか否かを波長調整層15毎に選択する。また、それぞれの波長調整層135の膜厚を調整しながら、波長調整層135を形成してもよい。この場合、各調整工程において、波長調整層135を成長または再成長させるか否かを波長調整層15毎に選択する。以下の例では、調整工程において波長調整層15をエッチングする場合を説明する。この場合の調整工程をエッチング工程と称する。図4においてチャンネル番号1から16は、面発光レーザ素子129のチャンネル番号を示す。また、図4の縦方向に、1回目から4回目のエッチング工程を示す。
【0032】
図4ではN=16の場合を示すが、Nは16に限定されない。また、図4では、面発光レーザ素子129が一次元的に配列されているが、これに限定されず、二次元のマトリクス状に配列されてもよい。
【0033】
それぞれのエッチング工程において、それぞれのチャンネルの波長調整層135をエッチングするか否かを、チャンネル毎(波長調整層135毎)に選択する。これにより、logN回のエッチング工程で、16通りの膜厚を形成する。このとき、それぞれの波長調整層135の膜厚を昇順または降順で整列させた場合に、それぞれの波長調整層135が略一定間隔の膜厚にするように、各エッチング工程における調整量(すなわちエッチング量)を設定する。
【0034】
一例として、それぞれのエッチング工程におけるエッチング量は、d×2^k(ただし、dは予め定められた単位量(すなわち単位エッチング量)、kは0以上且つエッチング工程の回数未満の整数群であり、且つ、複数のエッチング工程と一対一に対応する各整数)であらわされる。本例ではkは0、1、2、3の各整数であり、k=0が1回目のエッチング工程に対応し、k=1が2回目のエッチング工程に対応し、k=2が3回目のエッチング工程に対応し、k=3が4回目のエッチング工程に対応する。
【0035】
すなわち、1回目のエッチング工程のエッチング量d1は8d、2回目のエッチング量d2は4d、3回目のエッチング量d3は2d、4回目のエッチング量d4はdとなる。一例として、1回目のエッチング工程では、チャンネル1からチャンネル8までをマスクで覆い、チャンネル9からチャンネル16までをエッチング量d1でエッチングする。2回目のエッチング工程では、チャンネル1から4及びチャンネル9から12をマスクで覆い、チャンネル5から8及びチャンネル13から16をエッチング量d2でエッチングする。
【0036】
3回目のエッチング工程では、チャンネル1、2、5、6、9、10、13、14をマスクで覆い、チャンネル3、4、7、8、11、12、15、16をエッチング量d3でエッチングする。4回目のエッチング工程では、チャンネル1、3、5、7、9、11、13、15をマスクで覆い、チャンネル2、4、6、8、10、12、14、16をエッチング量d4でエッチングする。このようにエッチングした結果、チャンネル番号が小さい面発光レーザ素子129ほど発振波長が長く、チャンネル番号が大きい面発光レーザ素子129ほど発振波長が短い面発光レーザ素子アレイ130を形成することができる。尚、各エッチング工程で選択されるチャンネルは、上記の例に限定されない。
【0037】
図5は、4回のエッチング工程が終了した後の隣接するチャンネル間の波長調整層135の層厚差を示す。4回のエッチング処理により、d4、d3−d4、d2−d3−d4、d1−d2−d3−d4の4種類の層厚差を形成することができる。ただし、図4に示した例では、d1=8d、d2=4d、d3=2d、d4=dなので、d4=d3−d4=d2−d3−d4=d1−d2−d3−d4となり、一定の膜厚差となる。
【0038】
なお、複数のチャンネルには、発振波長が略同一のチャンネルが含まれてよい。この場合、チャンネル数はNより多くてよい。例えば、各発振波長について2個ずつのチャンネルを形成する場合、チャンネル数は2Nとなる。このような構成により、いずれかのチャンネルに不具合が生じても、予備のチャンネルを用いることができるので、歩留まりを向上させることができる。
【0039】
図6は、隣接するチャンネル間の目標発振周波数の差を200GHzとした場合のチャンネル番号と隣接チャンネルとの層厚差との関係を示す。波長λと周波数fとの間にはf=c/λ(cは光速)の関係がある。周波数間隔Δfと波長間隔Δλとの間には、Δf=(−c/λ)Δλの関係がある。したがって、波長が短い(チャンネル番号が大きい)ほど、200GHzに相当する膜厚の差が小さくなることを示している。
【0040】
図6に示すように、全チャンネルにおいて、波長調整層135を目標発振周波数に対応する膜厚にしようとすると、各チャンネル間の膜厚差はすべて異なる値となる。このため、logN回のエッチング工程では、全チャンネルの発振周波数を目標発振周波数に一致させることはできず、発振周波数に誤差が生じる。このため、n種類の膜厚を形成できる最小のエッチング回数logn回で、当該誤差が小さくなるような各エッチング工程のエッチング量を検討する。
【0041】
図7は、面発光レーザ素子アレイ130の波長調整層135をいくつかの方法でエッチングした例を説明する図である。図7における「所望の膜厚差」は、図6に示したように、エッチング工程の回数を制限せずに、それぞれの波長調整層135の膜厚を目標発振周波数に対応して調整した例を示す。
【0042】
図7における例4は、各エッチング工程のエッチング量を、各チャンネルの発振周波数と、目標発振周波数との誤差が最小となるように、最小2乗法で最適化した場合を示す。なお例4の場合、図7に示すように波長調整層135の膜厚差は一定値とならない。
【0043】
図7における例1および2は、4回のエッチング量のそれぞれをd1=8d、d2=4d、d3=2d、d4=dとすることにより、隣接するチャンネルの波長調整層の膜厚の差を一定値dとした例を示す。例1は、単位エッチング量dとして、目標発振周波数が最小のチャンネル1と、次に目標発振周波数が小さいチャンネル2において、波長調整層135が有するべき膜厚差を用いた例を示す。
【0044】
例2は、単位エッチング量dとして、それぞれの面発光レーザ素子129に、それぞれ対応する目標発振周波数の光を発生させようとした場合の、目標発振周波数が隣接する他の面発光レーザ素子129との間で有するべき波長調整層135の層厚差の平均値を用いた例を示す。つまり、図6および図7に示すように、各チャンネルの目標発振周波数がチャンネル番号に対して昇順または降順に割り当てられている場合、例2における単位エッチング量dは、中央の隣接チャンネル8およびチャンネル9の波長調整層135が有するべき膜厚差に一致する。
【0045】
図7に示すように、例2の場合の隣接チャンネル間の膜厚差は、例4の場合の隣接チャンネル間の膜厚差と概ね一致する。従って、最小2乗法等の処理を用いずとも、例2のように、エッチング工程におけるエッチング量をd×2^kとし、単位エッチング量dを各チャンネル間で有するべき膜厚差の平均値とすることで、隣接チャンネル間の膜厚差を最適化することができる。
【0046】
図8は、チャンネル番号と隣接チャンネルとの周波数差との関係を示す。例1では、チャンネル番号の増加に伴って隣接チャンネルとの周波数差が線形的に増加している。例2では、チャンネル1から8までは隣接チャンネルとの周波数差は200GHzより小さく、チャンネル9から15までは隣接チャンネルとの周波数差は200GHzより大きい。例2においてもチャンネル番号の増加に伴って隣接チャンネルとの周波数差が線形的に増加している。例4の結果は例2とほぼ等しい。
【0047】
図9は、チャンネル番号と、各チャンネルでの発振周波数および目標発振周波数の誤差との関係を示す。図9では、図7および図8に示した例1、2に加え、例3を合わせて示す。例3における各エッチング工程のエッチング量は、例2における各エッチング工程のエッチング量に所定のオフセット量を加算している。
【0048】
例1では、チャンネル番号の増加に伴って発振周波数の誤差が増大している。つまり、発振波長が短くなるに従い発振周波数の誤差が大きくなる。最も波長が短いチャンネル16では、発振周波数の誤差が約30GHz(約15%)である。
【0049】
例2では、チャンネル1から8までは発振周波数の誤差は徐々に減少し、チャンネル9からチャンネル16までは発振周波数の誤差が徐々に増加するので、発振周波数の誤差は所定の範囲内に収まる。しかし、例2では、発振周波数の誤差は全チャンネルを通じてマイナスとなるので、発振周波数の誤差のピーク値は比較的に大きな値となる(約8GHz)。
【0050】
例3は、例2におけるエッチング量にオフセット量を加算したので、発振周波数の誤差も、例2に対してシフトする。例3における各エッチング工程のエッチング量は、Do+d×2^k(ただしDoは、オフセット量)で示される。そして、図9の例3に示すように、発振周波数が最小のチャンネルにおける発振周波数の誤差が正の値となり、発振周波数が中央値となるチャンネルにおける発振周波数の誤差が負の値となるように、オフセット量Doを設定することで、発振周波数の誤差のピーク値を低減することができる。
【0051】
つまり、オフセット量Doは、発振周波数が最小のチャンネルの発振周波数が、当該チャンネルの目標発振周波数より大きくなり、発振周波数が中央値となるチャンネルの発振周波数が、当該チャンネルの目標発振周波数より小さくなる範囲で設定される。より好ましくは、オフセット量Doは、発振周波数が最小のチャンネルの発振周波数と、当該チャンネルの目標発振周波数との差分が、発振周波数が中央値となるチャンネルの発振周波数と、当該チャンネルの目標発振周波数との差分が略等しくなるように設定される。これにより、発振周波数の誤差を最小化することができる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0053】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0054】
1・・・基板、2・・・光導波路、3・・・光合波器、4・・・光分波器、5・・・基板、100・・・半導体集積素子、110・・・演算処理装置、120・・・レーザ駆動装置、130・・・面発光レーザ素子アレイ、129・・・面発光レーザ素子、131・・・下部反射層、132・・・メサポスト構造、133・・・n型電極、134・・・p型電極、135−1〜135−n・・・波長調整層、136・・・上部反射層、138・・・活性層、139・・・電流狭窄層、140・・・受光素子、150・・・光導波路、151・・・基部、152・・・クラッド部、153・・・コア部、154・・・クラッド部、155・・・反射部、160・・・光導波路、1000・・・光インターコネクションシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部反射層と、活性層と、上部反射層と、前記下部反射層および前記上部反射層の間に設けられた波長調整層とを有し、且つ、目標発振周波数が一定間隔のレーザ素子をn個備えたレーザ素子アレイの製造方法であって、
前記波長調整層の膜厚を調整するlogn回(ただし、小数点以下は切りあげ)の調整工程を有し、前記調整工程のそれぞれにおいて、それぞれの前記波長調整層の膜厚を調整するか否かを前記波長調整層毎に選択することで、それぞれの前記波長調整層を略一定間隔の膜厚にし、
それぞれの前記調整工程における調整量は、d×2^k(ただし、dは予め定められた単位量、kは0以上且つ調整工程の回数未満の整数群であり、且つ、複数の前記調整工程と一対一に対応する各整数)であらわされ、
前記単位量として、それぞれの前記レーザ素子にそれぞれの前記目標発振周波数の光を発生させようとした場合の、前記目標発振周波数が隣接する他の前記レーザ素子との間で有するべき前記波長調整層の膜厚差の平均値を用いる製造方法。
【請求項2】
それぞれの前記調整工程における調整量は、Do+d×2^k(ただしDoは、発振周波数が最小の前記レーザ素子の前記発振周波数が、当該レーザ素子の前記目標発振周波数より大きくなり、前記発振周波数が中央値となる前記レーザ素子の前記発振周波数が、当該レーザ素子の前記目標発振周波数より小さくなる範囲で設定されるオフセット量)であらわされる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記オフセット量は、前記発振周波数が最小の前記レーザ素子の前記発振周波数と、当該レーザ素子の前記目標発振周波数との差分が、前記発振周波数が中央値となる前記レーザ素子の前記発振周波数と、当該レーザ素子の前記目標発振周波数との差分が略等しくなるように設定される請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記調整工程において、それぞれの前記波長調整層をエッチングするか否かを前記波長調整層毎に選択する
請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記調整工程において、それぞれの前記波長調整層を成長させるか否かを前記波長調整層毎に選択する
請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
下部反射層と、活性層と、上部反射層と、前記下部反射層および前記上部反射層の間に設けられた波長調整層とを有し、且つ、目標発振周波数が一定間隔のレーザ素子をn個備えたレーザ素子アレイであって、
それぞれの前記レーザ素子の前記波長調整層は、前記目標発振周波数が隣接する他の前記レーザ素子の前記波長調整層に対して一定の膜厚差を有し、
前記膜厚差は、それぞれの前記レーザ素子にそれぞれの前記目標発振周波数の光を発生させようとした場合のそれぞれの前記レーザ素子が、前記目標発振周波数が隣接する他の前記レーザ素子との間で有するべき前記波長調整層の膜厚差の平均値であるレーザ素子アレイ。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ素子アレイと、受光した光信号を電気信号に変換する受光素子とを有する半導体集積素子と、
前記レーザ素子アレイが発振するレーザ光を伝搬する光導波路と、
前記レーザ光を前記光導波路に光学的に結合させる光合波器と、
前記光導波路を伝搬する前記レーザ光を前記受光素子に結合させる光分波器と、
を備える光インターコネクションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−230949(P2012−230949A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96873(P2011−96873)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】