レーダ装置、及び物標検出方法
【課題】物標のX座標の変位量が大きい場合があっても、高い確度で物標の位置の連続性が維持されるように物標の位置の推定を行う。
【解決手段】物標の位置が検出されないスキャンでは、当該物標の過去の軌跡がY軸付近の所定領域に含まれる場合は、前回の位置のX座標から、前記軌跡より推測されるX座標に第1の変位量さらに変位したX座標を有する位置を推定位置とし、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前回の位置のX座標から、前記軌跡より推測されるX座標に第1の変位量より大きい第2の変位量さらに変位したX座標を有する位置を推定位置とする。
【解決手段】物標の位置が検出されないスキャンでは、当該物標の過去の軌跡がY軸付近の所定領域に含まれる場合は、前回の位置のX座標から、前記軌跡より推測されるX座標に第1の変位量さらに変位したX座標を有する位置を推定位置とし、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前回の位置のX座標から、前記軌跡より推測されるX座標に第1の変位量より大きい第2の変位量さらに変位したX座標を有する位置を推定位置とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置及びその物標位置検出方法に関し、特に、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該スキャンで検出される位置を推定する物標位置推定手段とを有するレーダ装置及びその物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両前方を車載レーダ装置によりスキャンし、先行車両との衝突を予測して、車両の加減速や安全装置の作動といった衝突対応制御を行う車両制御システムが知られている。
【0003】
かかる車両システムにおける車載レーダ装置は、メカニカルスキャン式や電子スキャン式のスキャン方法により、レーダ装置正面の基準方向を中心とする所定の角度範囲に対し周波数変調されたレーダ信号の送受信を行う。そして、車載レーダ装置に備えられるマイクロコンピュータなどの情報処理装置によって送受信信号が解析され、物標の相対速度、相対距離、方位角、及びスキャン平面内における位置が検出される。すると、これらの検出結果に基づいて、車両のECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)が衝突を予測し、車両の各種アクチュエータを制御する。
【0004】
車載レーダ装置によるスキャンにおいては、物標もレーダ装置もそれぞれ高速で移動している。よって、レーダ信号に対する物標の反射面の角度は刻一刻変化するので、受信信号の強度にばらつきが生じ、常に信頼性の高い検出結果が得られるとは限らない。このため、車載レーダ装置は、各スキャンでの検出結果の信頼性を担保すべく、検出結果の連続性の有無を判定する。
【0005】
図1は、車載レーダ装置による連続性判定処理を説明する図である。図1(A)、(B)において、車両1に搭載されるレーダ装置10は、車両前方正面を基準方向Fとして、その基準方向Fを中心とする所定の角度(α)範囲内をスキャンする。図1(A)、(B)では、黒塗りの円P−1、P−2、…、P−nは1回のスキャンで検出される物標の位置(nはスキャンの回数)を示し、実線の矢印は物標の位置の変位を示す。
【0006】
レーダ装置10は、連続するスキャンで順次検出される物標の位置を情報処理装置内のメモリに記憶しておき、スキャンごとに、前回のスキャンでの物標の位置と、今回のスキャンでの物標の位置の変位量から連続性の有無を判定する。このとき、変位量が所定範囲内であるときは、連続性有りと判断される。そして、レーダ装置10は、所定回数(例えば3回)連続性有りと判断した場合、最新の物標の位置を相対速度等の情報とともに車両1のECUに出力する。
【0007】
例えば、図1(A)において、物標の位置P−1とP−2、P−2とP−3、P−3とP−4の連続性が3回続けて確認されると、最新の物標の位置P−4が出力される。以下、同様にして連続性が確認されるごとに、物標の位置P−5、P−6、P−7、…が順次出力される。
【0008】
ここで、上記処理においては、十分な強度の受信信号が得られずに、物標の位置が検出されない(物標をロストする)場合がある。図1(B)は、かかる例として、3回目のスキャンで物標をロストした場合を示す。すると、位置P−1、P−2と続いていた連続性判定回数のカウントはリセットされ、4回目のスキャンで位置P−4が検出された時点から再開される。すると、出力に必要な判定回数である3回連続性が確認されるのは、早くても位置P−7である。すると、その分、衝突対応制御の開始が遅れる。そして、図1(B)に示すように物標が次第に接近する軌跡を描く場合には、制御の遅れに伴い衝突の危険性が増大する。
【0009】
よって、車載レーダ装置は、物標をロストしたスキャンではその位置を推定することにより、再び物標の位置が検出されたときに、推定した位置と新たに検出された位置との連続性を維持する。そうすることで、連続性判定回数のカウントが途切れることにより物標の位置の出力が遅れることを防ぐ。特許文献1には、かかる推定を行う車載レーダ装置の例が記載されている。
【0010】
図2は、物標の位置推定方法を説明する図である。図2は、検出された物標の位置P−1、P−2の連続性が確認された後、3回目のスキャンで物標をロストし、当該スキャンでの物標の位置P−3を推定する場合を示す。図2では、車両1の前方である基準方向FをY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置10の位置を原点とするXY平面上において、物標の位置が示される。
【0011】
まず、レーダ装置10は、物標の位置P−1とP−2のX座標の変位量Δx1と、Y座標の変位量Δy1を求める。
【0012】
ここで、前方監視用レーダの場合、監視対象の物標は先行車両である。よって、相対速度の加減などにより、物標のY座標は比較的大きく変位する。しかし、X軸方向の物標の移動はせいぜい大きくても車線変更程度であるので、X座標の変位量は比較的小さい。すると、たまたま車線変更などによりX座標が大きく変位したときの変位量がΔx1だとすると、物標の位置P−2を起点としてX軸方向にΔx1、Y軸方向にΔy1変位した位置Pdは、実際の物標の位置より大きくX軸方向に変位している可能性が大きい。
【0013】
また、仮に位置Pdを位置P−3として推定した後、次の4回目のスキャンでも物標をロストしてその位置を推定し(位置Pd2)、その次の5回目のスキャンで位置P−5が検出されたとする。すると、推定を重ねて得られた物標の位置Pd2と、検出された物標の位置P−5が大きく乖離する。すると、位置Pd2とP−5とでは連続性有りと判断されず、物標の位置を推定する意味が損なわれる。
【0014】
よって、前方監視用のレーダ装置10は、上記の例で位置P−3を推定する際、位置P−2のX座標から、変位量Δx1の0.3倍の変位量変位したX座標と、位置P−2のY座標から変位量Δy1変位させたY座標とを有する位置を位置P−3として推定する。そして、レーダ装置10は、位置P−4を推定するときにも、位置P−2からP−3へのX座標の変位量ΔX11を用いて同様の方法で推定する。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量が抑えられるので、実際の物標の位置に近似した位置を推定でき、位置P−5が検出されたときに推定された位置P−4と高い確度で連続性が維持される。
【特許文献1】特開2004−233085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、近年、自車両の進行方向と直角方向に進行する他車両と自車両とが十字路に同時に進入することで発生する、いわゆる出会い頭衝突を防止するような車両制御システムへの要望が高まっている。しかし、メカニカルスキャン式や電子スキャン式のレーダ装置は検出可能な角度範囲に限界があるので、前方監視用レーダ装置だけで自車両の進行方向と直角方向に進行する他車両の位置を検出するのは困難である。このため、車両の前側方を監視できるように、車載レーダ装置を車両の斜め前方を基準方向として設置する方法が提案されている。
【0016】
しかしながら、その場合、図3に示すように、例えば車両前方に向かって右斜め前方の基準方向FdをY軸、これと直角方向をX軸としたときの、物標のX座標の変位量ΔX31は前方監視の場合より大きい。よって、物標の位置をロストした場合に次のような問題が生じる。
【0017】
図4は、前方監視用のレーダ装置を車両の前側方監視に用いた場合の、物標の位置推定方法を説明する図である。図中、Y軸は車両右斜め前方の基準方向Fdに対応する。図4は、検出された物標の位置P−1、P−2の連続性が確認された後の3回目のスキャンで物標をロストし、位置P−3を推定する場合を示す。ここで、図2に示した前方監視の場合と同じ方法で位置P−3を推定すると、X座標の変位量が抑えられて推定される。しかし、前側方監視の場合物標の位置はX軸方向に大きく変動するので、位置P−1からP−2へのX座標の変位量Δx2は図2のX座標の変位量Δx1より大きい。よって、推定された位置P−3と実際の位置とがX軸方向に大きく乖離する可能性が大きい。すると、直後のスキャンで物標の位置P−4が検出された場合であっても、推定された物標の位置P−3と検出された物標の位置P−4との乖離が大きく、連続性がとれなくなる可能性が大きくなる。すると、検出結果の出力が遅れてしまう。
【0018】
そこで、本発明の目的は、物標のX座標の変位量が大きい場合があっても、高い確度で物標の位置の連続性が維持されるように物標の位置の推定を行う、レーダ装置及びその物標位置検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置であって、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定手段とを有することを特徴とする。
【0020】
上記側面の好ましい実施態様では、前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記側面によれば、前記物標位置推定手段は、物標の軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量さらに変位したX座標を有する位置、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定するので、物標のX座標の変位量が小さいときは変位量を抑えて位置を推定でき、変位量が大きいときは変位量を大きくして位置を推定できる。
【0022】
すなわち、前側方監視の場合、出会い頭衝突の蓋然性が大きい物標の軌跡には、自車両と他車両との速度と移動距離の組み合わせに応じて、基準方向であるY軸付近においてY軸に沿って物標が接近するパターンと、基準方向から離れた方位角から物標が接近するパターンとがある。そして、前者の場合は、X座標の変位量が小さいので、物標をロストしたときに位置を推定する際、X座標の変位量を抑えることにより、再び物標が検出された場合の連続性を維持することができる。一方、後者の場合は、X座標の変位量が大きいので、X座標の変位量を大きくして物標の位置を推定することにより、再び物標が検出された場合の連続性を維持することができる。よって、いずれの場合であっても、高い確度で物標の位置の連続性を維持することができる。そして、出会い頭衝突の蓋然性が大きい場合に、物標の位置の出力が遅れることなく、迅速に衝突対応制御を行うことができる。
【0023】
上記の好ましい実施態様によれば、前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として推定を行うので、物標の位置がロストされるスキャンが複数回連続しても連続性を維持することができる。よって、再び物標が検出されたときに連続性が途切れる可能性を小さくすることができ、検出結果の出力が遅れることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0025】
図5は、本実施形態におけるレーダ装置が車両に搭載される例を示す。レーダ装置101(102)は、車両1前面のバンパー右端(左端)近傍に備えられ、レドームを透過して車両1の前方Fに対し右(または左)45度方向F1(またはF2)を中心として、所定の角度(約20度)範囲においてレーダ信号の送信と、反射信号の受信を行う。なお、以下の説明では、レーダ装置101を例とするが、レーダ装置102も左右方向を反転させることで同様の説明が適用される。
【0026】
本実施形態では、図6に示すように、基準方向F1をY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置101を原点とするXY座標平面において、物標のY軸(0度)に対する角度θを方位角、X座標、Y座標により定まるXY平面上の位置を物標の位置とする。このとき、物標のX座標x6とY座標y6は、物標の相対距離R6と方位角θから、x6=R6・sinθ、y6=R6・cosθとして算出される。
【0027】
図7は、本実施形態におけるレーダ装置101の構成例を示す。レーダ装置101は、FM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式により周波数変調したレーダ信号を送信し、物標により反射される反射波を複数のアンテナで受信することにより、角度αの範囲内をスキャンする電子スキャン式のレーダ装置である。レーダ装置101は、送信回路30、アンテナ切替部20、アンテナ11、12、13、受信回路40からなるスキャン手段と、スキャンの結果得られるデータを処理する情報処理装置50からなる情報処理手段とを有する。
【0028】
送信回路30は、上昇区間と下降区間が交互に繰返される三角波に従って周波数変調されたレーダ信号を生成する。このレーダ信号の周波数と時間との関係を図8に示すと、レーダ信号の周波数は、上昇区間UP1、UP2、…では直線的に漸増し、下降区間DN1、DN2、…では直線的に漸減する。そして、上昇区間UP1〜下降区間DN3までが、繰返される。このようなレーダ信号の一部分は分岐されて受信回路40に入力され、他の部分はアンテナ切替部20に入力される。
【0029】
アンテナ切替部20は、アンテナ11にレーダ信号の送信と受信とを時分割で実行させながら、3本のアンテナ11、12、13のうち2本のアンテナからなる3通りのアンテナ対を順次電気的に切替えて、各アンテナ対に反射信号を受信させる。具体的には、図8で示したレーダ信号の一対の上昇区間と下降区間で、1つのアンテナ対が対応するように、上昇区間の開始ごとに切替えが行われる。すなわち、上昇区間UP1と下降区間DN1でアンテナ11、12からなるアンテナ対、上昇区間UP2と下降区間DN2でアンテナ11、13からなるアンテナ対、そして、上昇区間UP3と下降区間DN3でアンテナ12、13からなるアンテナ対が対応し、以後の区間でも同様にアンテナ対の切替が繰返される。そして、それぞれのアンテナ対は、各区間において物標により反射されたレーダ信号を受信信号として受信する。ここで、アンテナ11、12、13はアンテナ相互の間隔d1、d2、d3が全て異なるように配置されている。よって、各アンテナ対ではそのアンテナ間隔に応じた受信波の位相差が生じる。この位相差は、後述の処理で物標の方位角算出に用いられる。
【0030】
ここで、3とおりのアンテナ対で受信波を受信する1サイクル、つまり図8の例では上昇区間UP1から下降区間DN3までの1サイクルを1スキャンという。そして、アンテナ切替部20は、1スキャンごとに各アンテナ対による受信信号を受信回路40に入力する。
【0031】
受信回路40は、1スキャンごとに、アンテナ切替部20から入力される受信信号と、送信回路30から入力されたレーダ信号、つまり送信波の一部をミキシングする。ここで、受信信号は、物標の相対距離に起因する時間的遅れと、相対速度に起因するドップラシフトを受けるので、送信信号との周波数差が生じる。すると、ミキシングの結果、送受信信号の周波数差に対応する周波数差信号が生成される。受信回路40は、この周波数差信号を情報処理装置50に入力する。この周波数差信号の周波数は、後述の処理で物標の相対距離、相対速度の算出に用いられる。
【0032】
情報処理装置50は、各種処理プログラムに従い演算処理を行うCPUと、そのプログラムを格納するROM、及び作業領域用のRAMなどを有するマイクロコンピュータにより構成される。次に説明する情報処理装置50の各部は、それぞれの動作に対応する処理プログラムと、これに従い動作するCPUにより実現される。
【0033】
送信制御部51は、送信回路30に周波数変調されたレーダ信号の生成を指示するとともに、レーダ信号の変調区間に対応したタイミングでのアンテナ対の切替えを、送信回路30を介してアンテナ切替部20に実行させる。また、FFT(高速フーリエ変換)処理部52は、受信回路40から入力される周波数差信号をAD変換し、これにより得られたデータをFFT処理して、周波数差信号の周波数と、上記のアンテナ対ごとの受信波の位相差を解析する。そして、物標検出部53は、FFT処理結果に基づき、後述の手順に従ってスキャンごとの物標の相対距離、相対速度、方位角、及び位置を検出し、検出結果の連続性を確認した後に、検出結果を車両1のECU60に出力する。
【0034】
図9は、物標検出部53の処理手順を説明するフローチャート図である。図9に示す手順は、1スキャンごとに実行される。
【0035】
物標検出部53は、FFT処理結果から、レーダ信号の周波数の上昇区間、下降区間それぞれで周波数差信号の周波数スペクトルを検出し、そのレベルピーク群を検出する(S10)。そして、物標検出部53は、検出された上昇区間、下降区間のレベルピーク群の極大値同士を互いにペアリング(対応付け)する(S12)。このペアリングによって、物標の相対距離、相対速度の算出に必要な、上昇区間、下降区間それぞれにおける周波数差信号の周波数が対応づけられる。そして、1対のペアリング結果が1つの物標に対応する。
【0036】
ペアリングが終了すると、物標検出部53は、各ペアリング結果について、3通りのアンテナ対での受信波の位相差に基づき、物標の方位角を算出する(S14)。このとき、各アンテナ対の受信波の位相差に対応して、複数の方位角の候補が算出される。よって、物標検出部53は、各候補から最も近似する複数の候補を抽出して、それらの代表値、例えば平均を、検出された方位角として採用する。
【0037】
また、物標検出部53は、各ペアリング結果においてレーダ信号の上昇区間と下降区間それぞれで極大値を示す周波数に基づいて、物標の相対距離、相対速度を算出する(S16)。
【0038】
そして、物標検出部は、物標の方位角、相対距離から図6に示したように物標の位置を算出し、情報装置50内のRAMに格納する(S17)。よって、かかる手順S17を行う物標検出部53が、「物標位置検出手段」に対応する。
【0039】
次に、物標検出部53は、前回のスキャンで検出された物標の位置と、今回のスキャンで検出された物標の位置との連続性の有無を判定する(S18)。よって、かかる手順S18を行う物標検出部53が、「連続性判定手段」に対応する。また、このとき、物標検出部53は、物標をロストした場合に、後述するサブルーチンの手順に従ってその位置を推定する。よって、かかる手順を行う物標検出部53が、「物標位置推定手段」に対応する。
【0040】
そして、物標検出部53は、単一の物標から複数の検出結果が得られた場合に、これらを結合させて単一の物標の検出結果を生成するグループ化処理を行う(S20)。そして、物標検出部53は、連続性の履歴に基づいて、所定回数以上連続性有りと判定された物標の位置、方位角、相対速度、相対距離等の検出結果を、出力可能と判断し(S22)、その検出結果を車両1のECU60に出力する(S24)。
【0041】
図10は、物標検出部53による連続性判定手順を説明するフローチャート図である。図10の手順は、図9の手順S18に対応する。
【0042】
物標検出部53は、前回のスキャンでの物標の位置と今回のスキャンでの物標の位置とを比較して連続性を判断し、物標ごとのカウンタ変数である連続性カウンタの値を更新する(S30)。このとき、2つの位置の変位量が所定範囲内であれば、連続性有りと判定される。そして、連続性カウンタは、連続性有りの場合はインクリメントし、連続性無しの場合はデクリメントする。そして、連続性有りと判定された回数つまり連続性カウンタのカウント値が、情報処理装置50のRAMに記憶される。
【0043】
次に、物標検出部53は、過去に連続性が確認されていない新規の物標位置をRAMに格納し、その物標についての連続性カウンタのカウントを開始する(S32)。
【0044】
そして、物標検出部53は、送信信号の周波数の上昇区間、下降区間のいずれかのみで周波数差信号のレベルピークが検出された場合は、相対速度や位置が検出できないので、連続性カウンタを更新せずに、その結果をRAMに格納する(S34)。また、物標検出部53は、良好なSN比が得られない受信信号に基づいて物標の位置が検出された場合は、検出結果の信頼性が不十分なので連続性カウンタを更新せずに、その結果をRAMに格納する(S36)。
【0045】
そして、物標検出部53は、送信信号の周波数の上昇区間、下降区間の両方で物標の位置が検出されない場合には、物標をロストしたと判断し、物標位置推定手順を実行する(S38)。
【0046】
ここで、本実施形態における物標位置推定手順について説明する。本実施形態においては、レーダ装置101は、車両1の進行方向と直角の方向に進行する他車両を監視し、その物標の位置を検出して車両1のECUに出力する。そして、ECU60が出会い頭衝突の蓋然性を判断し、適宜衝突対応制御を行う。よって、本実施形態におけるレーダ装置101の物標検出部53は、次の手順でロストされた物標の位置を推定することにより、出会い頭衝突の蓋然性が大きい場合において特に、物標の位置の連続性が途切れないようにする。そうすることで、検出結果の出力が遅れないようにでき、迅速な衝突対応制御を可能にするという効果を有する。
【0047】
ここで、具体的に、出会い頭衝突する場合の自車両と他車両の動きを図11(A)に示し、その場合に検出される物標の位置を図11(B)に示す。図11(A)に示すように、自車両1と、その進行方向と直角方向に進行する他車両2がともに十字路Cに進入する場合において、自車両1の速度V11と他車両2の速度V21がほぼ等しく、自車両1の移動距離R11と他車両2の移動距離R21とがほぼ等しいときは、他車両2の位置の変位は図11(B)の軌跡D11のように、自車両1の前方右45度の基準方向F1、つまりY軸にほぼ沿って接近してくる軌跡を描く。よって、軌跡D11では、X座標の変位量Δx11は比較的小さい。よって、この場合は、物標をロストした場合に、前方監視の場合のようにX座標を抑えた推定を行うことにより、推定された位置と再び検出される位置との連続性を維持できる。
【0048】
また、自車両の速度V11より他車両の速度V22が大きく、かつ自車両1の移動距離R11より他車両2の移動距離R22が大きい場合には、他車両2の位置の変位は正の方位角の方向から接近する軌跡D21を描く。このとき、軌跡D21のX座標の変位量Δx21は、軌跡D11のときの変位量Δx11より大きい。
【0049】
また、自車両の速度V11より他車両の速度V23が小さく、かつ自車両1の移動距離R11より他車両2の移動距離R23が小さい場合には、他車両2の位置の変位は負の方位角の方向から接近する軌跡D31を描く。このとき、軌跡D31のX座標の変位量Δx31は、軌跡D11のときの変位量Δx11より大きい。
【0050】
よって、車両2の位置の変位が軌跡D21やD31のような軌跡を描くときに、軌跡D21のときのようなX座標の変位量を抑えた推定を行うと、図3で示したように、物標が再び検出されたときに新たな位置と推定位置がX軸方向に大きく乖離して、連続性が途切れるおそれがある。
【0051】
そこで、本実施形態においては、レーダ装置101は、Y軸付近の所定領域、例えば、±3度の角度範囲内で軌跡D11のような軌跡が観測されるときは、前方監視用と同様のX座標の変位量を抑えた位置の推定を行い、それ以外の領域、つまり±3度以上の方位角方向から接近する軌跡D21やD31のような軌跡が観測されるときは、X座標の変位量を大きくする位置の推定を行う。
【0052】
図12は、物標検出部53による物標位置推定手順を説明するフローチャート図である。図12の手順は、図10の手順S38に対応する。
【0053】
物標検出部53は、前回のスキャンで検出されたにもかかわらず今回のスキャンでロストされた物標のすべてについて(S50、S60)、次の処理を行う。物標検出部53は、前回のスキャンでの物標の位置と、前々回のスキャンでの物標の位置から、物標の軌跡を算出する(S52)。このとき、物標の軌跡は、前回の物標の位置と前々回の物標の位置とのX座標の変位量とY座標の変位量により表される。
【0054】
そして、それぞれの軌跡について、Y軸付近の所定の角度範囲(±3度)に含まれるかの判断を行う。すると、図11(B)の例では、軌跡D11は含まれるが、軌跡D21、D31は含まれない。そこで、物標検出部53は、軌跡D11については手順S56で図13に示すX座標推定処理を行う。
【0055】
図13においては、前々回の物標の位置P−11と前回の物標の位置P−12との連続性が確認され、今回スキャンでロストした物標の位置P−13を推定する例が示される。まず、物標検出部53は、位置P−11と位置P−12とのX座標の変位量Δx51と、Y座標の変位量Δy51を求める。このとき、位置P−11から位置P−12への軌跡がD11に対応する。そして、物標検出部53は、物標の位置P−12のX座標から変位量Δx51の0.3倍の変位量変位したX座標と、位置P−12のY座標を変位量Δy51変位させたY座標とを有する位置を位置P−13として推定する。
【0056】
そして、物標検出部53は、その次のスキャンでロストした位置P−14を推定するときにも、位置P−12からP−13へのX座標の変位量ΔX52を用いて同様の方法で推定を行う。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量が抑えられるので、実際の物標の位置に近似した位置を推定でき、次のスキャンで位置P−15が検出されたときに推定された位置P−14と高い確度で連続性が維持される。
【0057】
一方、物標検出部53は、軌跡D21またはD31については、手順S58で、図14に示すX座標推定処理を行う。
【0058】
図14においては、前々回の物標の位置P−21と前回の物標の位置P−22との連続性が確認され、今回スキャンでロストされた物標の位置P−23を推定する例が示される。まず、物標検出部53は、位置P−21と位置P−22とのX座標の変位量Δx61と、Y座標の変位量Δy61を求める。このとき、位置P−21から位置P−22への軌跡がD21またはD31に対応する。
【0059】
そして、物標検出部53は、物標の位置P−22のX座標から変位量Δx61の0.9倍の変位量変位したX座標と、位置P−22のY座標を変位量Δy61変位させたY座標とを有する位置を位置P−23として推定する。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量を大きくすることができ、実際の物標の位置に近似した位置を推定できる。よって、次のスキャンで位置P−24が検出されたときに推定された位置P−23と高い確度で連続性が維持される。
【0060】
このように、Y軸付近の所定領域で軌跡が観測されるときには、前方監視用と同様のX座標の変位量を抑えた位置の推定を行い、それ以外の領域で軌跡が観測されるときには、X座標の変位量を大きくする位置の推定を行う。そうすることにより、再び物標が検出されたときに、高い確度で連続性をとることができる。
【0061】
なお、軌跡に対応するX座標の変位量に乗ずる係数は上記に限られず、Y軸付近の軌跡のときX座標の変位量より、Y軸から離れた軌跡のときのX座標の変位量の方が大きくなるような係数であればよい。あるいは、図15に示すように、軌跡が含まれる角度範囲に応じて、係数を動的に求めてもよい。
【0062】
このようにして物標検出部53は、ロストした物標の位置を推定し、その位置が次のスキャンでは前回スキャンで検出された位置として連続性が判断される。そうすることにより、連続したスキャンで物標をロストしても、前回スキャンでの推定結果に基づいて今回スキャンでの位置を推定できるので、連続性を維持できる。そして、再び物標が検出されたときに、高い確度で連続性をとることができる。
【0063】
なお、物標検出部53は、上述した手順において連続性を判断するときに、位置の変位量のほかに相対距離の変位量を判断基準としてもよい。その場合、上記のようにして推定した物標の位置のX座標とY座標とから、ロストした物標の位置に加え物標の相対距離を推定してもよい。例えば、三平方の定理を用い、推定されたX座標の2乗と推定されたY座標の2乗の和の平方根を相対距離として算出することが可能である。
【0064】
なお、上述においては、自動車に搭載されるレーダ装置を例として説明したが、自動車以外の移動体に搭載されるレーダ装置であっても、本実施形態は適用できる。また、レーダ装置は電子スキャン式に限られず、メカニカルスキャン式であっても、本実施形態は適用できる。
【0065】
以上、説明したように、本実施形態におけるレーダ装置101によれば、物標のX座標の変位量が大きい場合があっても、高い確度で物標の位置の連続性が維持されるように物標の位置の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】車載レーダ装置による連続性判定処理を説明する図である。
【図2】物標の位置推定方法を説明する図である。
【図3】前側方監視の場合の物標の変位を説明する図である。
【図4】前方監視用のレーダ装置を車両の前側方監視に用いた場合の、物標の位置推定方法を説明する図である。
【図5】本実施形態におけるレーダ装置が車両に搭載される例を示す。
【図6】本実施形態における座標平面を説明する図である。
【図7】本実施形態におけるレーダ装置101の構成例を示す図である。
【図8】レーダ装置101の送信信号の周波数変調を説明する図である。
【図9】物標検出部53の処理手順を説明するフローチャート図である。
【図10】物標検出部53による連続性判定手順を説明するフローチャート図である。
【図11】出会い頭に衝突する場合の物標の軌跡を説明する図である。
【図12】物標検出部53による物標位置推定手順を説明するフローチャート図である。
【図13】X座標の変位量が小さい物標位置推定処理について説明する図である。
【図14】X座標の変位量が大きい物標位置推定処理について説明する図である。
【図15】推定位置のX座標を求める係数と、軌跡が含まれる方位角との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
101:レーダ装置、50:情報処理装置、53:物標認識部
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置及びその物標位置検出方法に関し、特に、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該スキャンで検出される位置を推定する物標位置推定手段とを有するレーダ装置及びその物標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両前方を車載レーダ装置によりスキャンし、先行車両との衝突を予測して、車両の加減速や安全装置の作動といった衝突対応制御を行う車両制御システムが知られている。
【0003】
かかる車両システムにおける車載レーダ装置は、メカニカルスキャン式や電子スキャン式のスキャン方法により、レーダ装置正面の基準方向を中心とする所定の角度範囲に対し周波数変調されたレーダ信号の送受信を行う。そして、車載レーダ装置に備えられるマイクロコンピュータなどの情報処理装置によって送受信信号が解析され、物標の相対速度、相対距離、方位角、及びスキャン平面内における位置が検出される。すると、これらの検出結果に基づいて、車両のECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)が衝突を予測し、車両の各種アクチュエータを制御する。
【0004】
車載レーダ装置によるスキャンにおいては、物標もレーダ装置もそれぞれ高速で移動している。よって、レーダ信号に対する物標の反射面の角度は刻一刻変化するので、受信信号の強度にばらつきが生じ、常に信頼性の高い検出結果が得られるとは限らない。このため、車載レーダ装置は、各スキャンでの検出結果の信頼性を担保すべく、検出結果の連続性の有無を判定する。
【0005】
図1は、車載レーダ装置による連続性判定処理を説明する図である。図1(A)、(B)において、車両1に搭載されるレーダ装置10は、車両前方正面を基準方向Fとして、その基準方向Fを中心とする所定の角度(α)範囲内をスキャンする。図1(A)、(B)では、黒塗りの円P−1、P−2、…、P−nは1回のスキャンで検出される物標の位置(nはスキャンの回数)を示し、実線の矢印は物標の位置の変位を示す。
【0006】
レーダ装置10は、連続するスキャンで順次検出される物標の位置を情報処理装置内のメモリに記憶しておき、スキャンごとに、前回のスキャンでの物標の位置と、今回のスキャンでの物標の位置の変位量から連続性の有無を判定する。このとき、変位量が所定範囲内であるときは、連続性有りと判断される。そして、レーダ装置10は、所定回数(例えば3回)連続性有りと判断した場合、最新の物標の位置を相対速度等の情報とともに車両1のECUに出力する。
【0007】
例えば、図1(A)において、物標の位置P−1とP−2、P−2とP−3、P−3とP−4の連続性が3回続けて確認されると、最新の物標の位置P−4が出力される。以下、同様にして連続性が確認されるごとに、物標の位置P−5、P−6、P−7、…が順次出力される。
【0008】
ここで、上記処理においては、十分な強度の受信信号が得られずに、物標の位置が検出されない(物標をロストする)場合がある。図1(B)は、かかる例として、3回目のスキャンで物標をロストした場合を示す。すると、位置P−1、P−2と続いていた連続性判定回数のカウントはリセットされ、4回目のスキャンで位置P−4が検出された時点から再開される。すると、出力に必要な判定回数である3回連続性が確認されるのは、早くても位置P−7である。すると、その分、衝突対応制御の開始が遅れる。そして、図1(B)に示すように物標が次第に接近する軌跡を描く場合には、制御の遅れに伴い衝突の危険性が増大する。
【0009】
よって、車載レーダ装置は、物標をロストしたスキャンではその位置を推定することにより、再び物標の位置が検出されたときに、推定した位置と新たに検出された位置との連続性を維持する。そうすることで、連続性判定回数のカウントが途切れることにより物標の位置の出力が遅れることを防ぐ。特許文献1には、かかる推定を行う車載レーダ装置の例が記載されている。
【0010】
図2は、物標の位置推定方法を説明する図である。図2は、検出された物標の位置P−1、P−2の連続性が確認された後、3回目のスキャンで物標をロストし、当該スキャンでの物標の位置P−3を推定する場合を示す。図2では、車両1の前方である基準方向FをY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置10の位置を原点とするXY平面上において、物標の位置が示される。
【0011】
まず、レーダ装置10は、物標の位置P−1とP−2のX座標の変位量Δx1と、Y座標の変位量Δy1を求める。
【0012】
ここで、前方監視用レーダの場合、監視対象の物標は先行車両である。よって、相対速度の加減などにより、物標のY座標は比較的大きく変位する。しかし、X軸方向の物標の移動はせいぜい大きくても車線変更程度であるので、X座標の変位量は比較的小さい。すると、たまたま車線変更などによりX座標が大きく変位したときの変位量がΔx1だとすると、物標の位置P−2を起点としてX軸方向にΔx1、Y軸方向にΔy1変位した位置Pdは、実際の物標の位置より大きくX軸方向に変位している可能性が大きい。
【0013】
また、仮に位置Pdを位置P−3として推定した後、次の4回目のスキャンでも物標をロストしてその位置を推定し(位置Pd2)、その次の5回目のスキャンで位置P−5が検出されたとする。すると、推定を重ねて得られた物標の位置Pd2と、検出された物標の位置P−5が大きく乖離する。すると、位置Pd2とP−5とでは連続性有りと判断されず、物標の位置を推定する意味が損なわれる。
【0014】
よって、前方監視用のレーダ装置10は、上記の例で位置P−3を推定する際、位置P−2のX座標から、変位量Δx1の0.3倍の変位量変位したX座標と、位置P−2のY座標から変位量Δy1変位させたY座標とを有する位置を位置P−3として推定する。そして、レーダ装置10は、位置P−4を推定するときにも、位置P−2からP−3へのX座標の変位量ΔX11を用いて同様の方法で推定する。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量が抑えられるので、実際の物標の位置に近似した位置を推定でき、位置P−5が検出されたときに推定された位置P−4と高い確度で連続性が維持される。
【特許文献1】特開2004−233085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、近年、自車両の進行方向と直角方向に進行する他車両と自車両とが十字路に同時に進入することで発生する、いわゆる出会い頭衝突を防止するような車両制御システムへの要望が高まっている。しかし、メカニカルスキャン式や電子スキャン式のレーダ装置は検出可能な角度範囲に限界があるので、前方監視用レーダ装置だけで自車両の進行方向と直角方向に進行する他車両の位置を検出するのは困難である。このため、車両の前側方を監視できるように、車載レーダ装置を車両の斜め前方を基準方向として設置する方法が提案されている。
【0016】
しかしながら、その場合、図3に示すように、例えば車両前方に向かって右斜め前方の基準方向FdをY軸、これと直角方向をX軸としたときの、物標のX座標の変位量ΔX31は前方監視の場合より大きい。よって、物標の位置をロストした場合に次のような問題が生じる。
【0017】
図4は、前方監視用のレーダ装置を車両の前側方監視に用いた場合の、物標の位置推定方法を説明する図である。図中、Y軸は車両右斜め前方の基準方向Fdに対応する。図4は、検出された物標の位置P−1、P−2の連続性が確認された後の3回目のスキャンで物標をロストし、位置P−3を推定する場合を示す。ここで、図2に示した前方監視の場合と同じ方法で位置P−3を推定すると、X座標の変位量が抑えられて推定される。しかし、前側方監視の場合物標の位置はX軸方向に大きく変動するので、位置P−1からP−2へのX座標の変位量Δx2は図2のX座標の変位量Δx1より大きい。よって、推定された位置P−3と実際の位置とがX軸方向に大きく乖離する可能性が大きい。すると、直後のスキャンで物標の位置P−4が検出された場合であっても、推定された物標の位置P−3と検出された物標の位置P−4との乖離が大きく、連続性がとれなくなる可能性が大きくなる。すると、検出結果の出力が遅れてしまう。
【0018】
そこで、本発明の目的は、物標のX座標の変位量が大きい場合があっても、高い確度で物標の位置の連続性が維持されるように物標の位置の推定を行う、レーダ装置及びその物標位置検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置であって、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定手段とを有することを特徴とする。
【0020】
上記側面の好ましい実施態様では、前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
上記側面によれば、前記物標位置推定手段は、物標の軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量さらに変位したX座標を有する位置、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定するので、物標のX座標の変位量が小さいときは変位量を抑えて位置を推定でき、変位量が大きいときは変位量を大きくして位置を推定できる。
【0022】
すなわち、前側方監視の場合、出会い頭衝突の蓋然性が大きい物標の軌跡には、自車両と他車両との速度と移動距離の組み合わせに応じて、基準方向であるY軸付近においてY軸に沿って物標が接近するパターンと、基準方向から離れた方位角から物標が接近するパターンとがある。そして、前者の場合は、X座標の変位量が小さいので、物標をロストしたときに位置を推定する際、X座標の変位量を抑えることにより、再び物標が検出された場合の連続性を維持することができる。一方、後者の場合は、X座標の変位量が大きいので、X座標の変位量を大きくして物標の位置を推定することにより、再び物標が検出された場合の連続性を維持することができる。よって、いずれの場合であっても、高い確度で物標の位置の連続性を維持することができる。そして、出会い頭衝突の蓋然性が大きい場合に、物標の位置の出力が遅れることなく、迅速に衝突対応制御を行うことができる。
【0023】
上記の好ましい実施態様によれば、前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として推定を行うので、物標の位置がロストされるスキャンが複数回連続しても連続性を維持することができる。よって、再び物標が検出されたときに連続性が途切れる可能性を小さくすることができ、検出結果の出力が遅れることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0025】
図5は、本実施形態におけるレーダ装置が車両に搭載される例を示す。レーダ装置101(102)は、車両1前面のバンパー右端(左端)近傍に備えられ、レドームを透過して車両1の前方Fに対し右(または左)45度方向F1(またはF2)を中心として、所定の角度(約20度)範囲においてレーダ信号の送信と、反射信号の受信を行う。なお、以下の説明では、レーダ装置101を例とするが、レーダ装置102も左右方向を反転させることで同様の説明が適用される。
【0026】
本実施形態では、図6に示すように、基準方向F1をY軸、その直角方向をX軸、レーダ装置101を原点とするXY座標平面において、物標のY軸(0度)に対する角度θを方位角、X座標、Y座標により定まるXY平面上の位置を物標の位置とする。このとき、物標のX座標x6とY座標y6は、物標の相対距離R6と方位角θから、x6=R6・sinθ、y6=R6・cosθとして算出される。
【0027】
図7は、本実施形態におけるレーダ装置101の構成例を示す。レーダ装置101は、FM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式により周波数変調したレーダ信号を送信し、物標により反射される反射波を複数のアンテナで受信することにより、角度αの範囲内をスキャンする電子スキャン式のレーダ装置である。レーダ装置101は、送信回路30、アンテナ切替部20、アンテナ11、12、13、受信回路40からなるスキャン手段と、スキャンの結果得られるデータを処理する情報処理装置50からなる情報処理手段とを有する。
【0028】
送信回路30は、上昇区間と下降区間が交互に繰返される三角波に従って周波数変調されたレーダ信号を生成する。このレーダ信号の周波数と時間との関係を図8に示すと、レーダ信号の周波数は、上昇区間UP1、UP2、…では直線的に漸増し、下降区間DN1、DN2、…では直線的に漸減する。そして、上昇区間UP1〜下降区間DN3までが、繰返される。このようなレーダ信号の一部分は分岐されて受信回路40に入力され、他の部分はアンテナ切替部20に入力される。
【0029】
アンテナ切替部20は、アンテナ11にレーダ信号の送信と受信とを時分割で実行させながら、3本のアンテナ11、12、13のうち2本のアンテナからなる3通りのアンテナ対を順次電気的に切替えて、各アンテナ対に反射信号を受信させる。具体的には、図8で示したレーダ信号の一対の上昇区間と下降区間で、1つのアンテナ対が対応するように、上昇区間の開始ごとに切替えが行われる。すなわち、上昇区間UP1と下降区間DN1でアンテナ11、12からなるアンテナ対、上昇区間UP2と下降区間DN2でアンテナ11、13からなるアンテナ対、そして、上昇区間UP3と下降区間DN3でアンテナ12、13からなるアンテナ対が対応し、以後の区間でも同様にアンテナ対の切替が繰返される。そして、それぞれのアンテナ対は、各区間において物標により反射されたレーダ信号を受信信号として受信する。ここで、アンテナ11、12、13はアンテナ相互の間隔d1、d2、d3が全て異なるように配置されている。よって、各アンテナ対ではそのアンテナ間隔に応じた受信波の位相差が生じる。この位相差は、後述の処理で物標の方位角算出に用いられる。
【0030】
ここで、3とおりのアンテナ対で受信波を受信する1サイクル、つまり図8の例では上昇区間UP1から下降区間DN3までの1サイクルを1スキャンという。そして、アンテナ切替部20は、1スキャンごとに各アンテナ対による受信信号を受信回路40に入力する。
【0031】
受信回路40は、1スキャンごとに、アンテナ切替部20から入力される受信信号と、送信回路30から入力されたレーダ信号、つまり送信波の一部をミキシングする。ここで、受信信号は、物標の相対距離に起因する時間的遅れと、相対速度に起因するドップラシフトを受けるので、送信信号との周波数差が生じる。すると、ミキシングの結果、送受信信号の周波数差に対応する周波数差信号が生成される。受信回路40は、この周波数差信号を情報処理装置50に入力する。この周波数差信号の周波数は、後述の処理で物標の相対距離、相対速度の算出に用いられる。
【0032】
情報処理装置50は、各種処理プログラムに従い演算処理を行うCPUと、そのプログラムを格納するROM、及び作業領域用のRAMなどを有するマイクロコンピュータにより構成される。次に説明する情報処理装置50の各部は、それぞれの動作に対応する処理プログラムと、これに従い動作するCPUにより実現される。
【0033】
送信制御部51は、送信回路30に周波数変調されたレーダ信号の生成を指示するとともに、レーダ信号の変調区間に対応したタイミングでのアンテナ対の切替えを、送信回路30を介してアンテナ切替部20に実行させる。また、FFT(高速フーリエ変換)処理部52は、受信回路40から入力される周波数差信号をAD変換し、これにより得られたデータをFFT処理して、周波数差信号の周波数と、上記のアンテナ対ごとの受信波の位相差を解析する。そして、物標検出部53は、FFT処理結果に基づき、後述の手順に従ってスキャンごとの物標の相対距離、相対速度、方位角、及び位置を検出し、検出結果の連続性を確認した後に、検出結果を車両1のECU60に出力する。
【0034】
図9は、物標検出部53の処理手順を説明するフローチャート図である。図9に示す手順は、1スキャンごとに実行される。
【0035】
物標検出部53は、FFT処理結果から、レーダ信号の周波数の上昇区間、下降区間それぞれで周波数差信号の周波数スペクトルを検出し、そのレベルピーク群を検出する(S10)。そして、物標検出部53は、検出された上昇区間、下降区間のレベルピーク群の極大値同士を互いにペアリング(対応付け)する(S12)。このペアリングによって、物標の相対距離、相対速度の算出に必要な、上昇区間、下降区間それぞれにおける周波数差信号の周波数が対応づけられる。そして、1対のペアリング結果が1つの物標に対応する。
【0036】
ペアリングが終了すると、物標検出部53は、各ペアリング結果について、3通りのアンテナ対での受信波の位相差に基づき、物標の方位角を算出する(S14)。このとき、各アンテナ対の受信波の位相差に対応して、複数の方位角の候補が算出される。よって、物標検出部53は、各候補から最も近似する複数の候補を抽出して、それらの代表値、例えば平均を、検出された方位角として採用する。
【0037】
また、物標検出部53は、各ペアリング結果においてレーダ信号の上昇区間と下降区間それぞれで極大値を示す周波数に基づいて、物標の相対距離、相対速度を算出する(S16)。
【0038】
そして、物標検出部は、物標の方位角、相対距離から図6に示したように物標の位置を算出し、情報装置50内のRAMに格納する(S17)。よって、かかる手順S17を行う物標検出部53が、「物標位置検出手段」に対応する。
【0039】
次に、物標検出部53は、前回のスキャンで検出された物標の位置と、今回のスキャンで検出された物標の位置との連続性の有無を判定する(S18)。よって、かかる手順S18を行う物標検出部53が、「連続性判定手段」に対応する。また、このとき、物標検出部53は、物標をロストした場合に、後述するサブルーチンの手順に従ってその位置を推定する。よって、かかる手順を行う物標検出部53が、「物標位置推定手段」に対応する。
【0040】
そして、物標検出部53は、単一の物標から複数の検出結果が得られた場合に、これらを結合させて単一の物標の検出結果を生成するグループ化処理を行う(S20)。そして、物標検出部53は、連続性の履歴に基づいて、所定回数以上連続性有りと判定された物標の位置、方位角、相対速度、相対距離等の検出結果を、出力可能と判断し(S22)、その検出結果を車両1のECU60に出力する(S24)。
【0041】
図10は、物標検出部53による連続性判定手順を説明するフローチャート図である。図10の手順は、図9の手順S18に対応する。
【0042】
物標検出部53は、前回のスキャンでの物標の位置と今回のスキャンでの物標の位置とを比較して連続性を判断し、物標ごとのカウンタ変数である連続性カウンタの値を更新する(S30)。このとき、2つの位置の変位量が所定範囲内であれば、連続性有りと判定される。そして、連続性カウンタは、連続性有りの場合はインクリメントし、連続性無しの場合はデクリメントする。そして、連続性有りと判定された回数つまり連続性カウンタのカウント値が、情報処理装置50のRAMに記憶される。
【0043】
次に、物標検出部53は、過去に連続性が確認されていない新規の物標位置をRAMに格納し、その物標についての連続性カウンタのカウントを開始する(S32)。
【0044】
そして、物標検出部53は、送信信号の周波数の上昇区間、下降区間のいずれかのみで周波数差信号のレベルピークが検出された場合は、相対速度や位置が検出できないので、連続性カウンタを更新せずに、その結果をRAMに格納する(S34)。また、物標検出部53は、良好なSN比が得られない受信信号に基づいて物標の位置が検出された場合は、検出結果の信頼性が不十分なので連続性カウンタを更新せずに、その結果をRAMに格納する(S36)。
【0045】
そして、物標検出部53は、送信信号の周波数の上昇区間、下降区間の両方で物標の位置が検出されない場合には、物標をロストしたと判断し、物標位置推定手順を実行する(S38)。
【0046】
ここで、本実施形態における物標位置推定手順について説明する。本実施形態においては、レーダ装置101は、車両1の進行方向と直角の方向に進行する他車両を監視し、その物標の位置を検出して車両1のECUに出力する。そして、ECU60が出会い頭衝突の蓋然性を判断し、適宜衝突対応制御を行う。よって、本実施形態におけるレーダ装置101の物標検出部53は、次の手順でロストされた物標の位置を推定することにより、出会い頭衝突の蓋然性が大きい場合において特に、物標の位置の連続性が途切れないようにする。そうすることで、検出結果の出力が遅れないようにでき、迅速な衝突対応制御を可能にするという効果を有する。
【0047】
ここで、具体的に、出会い頭衝突する場合の自車両と他車両の動きを図11(A)に示し、その場合に検出される物標の位置を図11(B)に示す。図11(A)に示すように、自車両1と、その進行方向と直角方向に進行する他車両2がともに十字路Cに進入する場合において、自車両1の速度V11と他車両2の速度V21がほぼ等しく、自車両1の移動距離R11と他車両2の移動距離R21とがほぼ等しいときは、他車両2の位置の変位は図11(B)の軌跡D11のように、自車両1の前方右45度の基準方向F1、つまりY軸にほぼ沿って接近してくる軌跡を描く。よって、軌跡D11では、X座標の変位量Δx11は比較的小さい。よって、この場合は、物標をロストした場合に、前方監視の場合のようにX座標を抑えた推定を行うことにより、推定された位置と再び検出される位置との連続性を維持できる。
【0048】
また、自車両の速度V11より他車両の速度V22が大きく、かつ自車両1の移動距離R11より他車両2の移動距離R22が大きい場合には、他車両2の位置の変位は正の方位角の方向から接近する軌跡D21を描く。このとき、軌跡D21のX座標の変位量Δx21は、軌跡D11のときの変位量Δx11より大きい。
【0049】
また、自車両の速度V11より他車両の速度V23が小さく、かつ自車両1の移動距離R11より他車両2の移動距離R23が小さい場合には、他車両2の位置の変位は負の方位角の方向から接近する軌跡D31を描く。このとき、軌跡D31のX座標の変位量Δx31は、軌跡D11のときの変位量Δx11より大きい。
【0050】
よって、車両2の位置の変位が軌跡D21やD31のような軌跡を描くときに、軌跡D21のときのようなX座標の変位量を抑えた推定を行うと、図3で示したように、物標が再び検出されたときに新たな位置と推定位置がX軸方向に大きく乖離して、連続性が途切れるおそれがある。
【0051】
そこで、本実施形態においては、レーダ装置101は、Y軸付近の所定領域、例えば、±3度の角度範囲内で軌跡D11のような軌跡が観測されるときは、前方監視用と同様のX座標の変位量を抑えた位置の推定を行い、それ以外の領域、つまり±3度以上の方位角方向から接近する軌跡D21やD31のような軌跡が観測されるときは、X座標の変位量を大きくする位置の推定を行う。
【0052】
図12は、物標検出部53による物標位置推定手順を説明するフローチャート図である。図12の手順は、図10の手順S38に対応する。
【0053】
物標検出部53は、前回のスキャンで検出されたにもかかわらず今回のスキャンでロストされた物標のすべてについて(S50、S60)、次の処理を行う。物標検出部53は、前回のスキャンでの物標の位置と、前々回のスキャンでの物標の位置から、物標の軌跡を算出する(S52)。このとき、物標の軌跡は、前回の物標の位置と前々回の物標の位置とのX座標の変位量とY座標の変位量により表される。
【0054】
そして、それぞれの軌跡について、Y軸付近の所定の角度範囲(±3度)に含まれるかの判断を行う。すると、図11(B)の例では、軌跡D11は含まれるが、軌跡D21、D31は含まれない。そこで、物標検出部53は、軌跡D11については手順S56で図13に示すX座標推定処理を行う。
【0055】
図13においては、前々回の物標の位置P−11と前回の物標の位置P−12との連続性が確認され、今回スキャンでロストした物標の位置P−13を推定する例が示される。まず、物標検出部53は、位置P−11と位置P−12とのX座標の変位量Δx51と、Y座標の変位量Δy51を求める。このとき、位置P−11から位置P−12への軌跡がD11に対応する。そして、物標検出部53は、物標の位置P−12のX座標から変位量Δx51の0.3倍の変位量変位したX座標と、位置P−12のY座標を変位量Δy51変位させたY座標とを有する位置を位置P−13として推定する。
【0056】
そして、物標検出部53は、その次のスキャンでロストした位置P−14を推定するときにも、位置P−12からP−13へのX座標の変位量ΔX52を用いて同様の方法で推定を行う。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量が抑えられるので、実際の物標の位置に近似した位置を推定でき、次のスキャンで位置P−15が検出されたときに推定された位置P−14と高い確度で連続性が維持される。
【0057】
一方、物標検出部53は、軌跡D21またはD31については、手順S58で、図14に示すX座標推定処理を行う。
【0058】
図14においては、前々回の物標の位置P−21と前回の物標の位置P−22との連続性が確認され、今回スキャンでロストされた物標の位置P−23を推定する例が示される。まず、物標検出部53は、位置P−21と位置P−22とのX座標の変位量Δx61と、Y座標の変位量Δy61を求める。このとき、位置P−21から位置P−22への軌跡がD21またはD31に対応する。
【0059】
そして、物標検出部53は、物標の位置P−22のX座標から変位量Δx61の0.9倍の変位量変位したX座標と、位置P−22のY座標を変位量Δy61変位させたY座標とを有する位置を位置P−23として推定する。そうすることで、推定される位置のX軸方向の変位量を大きくすることができ、実際の物標の位置に近似した位置を推定できる。よって、次のスキャンで位置P−24が検出されたときに推定された位置P−23と高い確度で連続性が維持される。
【0060】
このように、Y軸付近の所定領域で軌跡が観測されるときには、前方監視用と同様のX座標の変位量を抑えた位置の推定を行い、それ以外の領域で軌跡が観測されるときには、X座標の変位量を大きくする位置の推定を行う。そうすることにより、再び物標が検出されたときに、高い確度で連続性をとることができる。
【0061】
なお、軌跡に対応するX座標の変位量に乗ずる係数は上記に限られず、Y軸付近の軌跡のときX座標の変位量より、Y軸から離れた軌跡のときのX座標の変位量の方が大きくなるような係数であればよい。あるいは、図15に示すように、軌跡が含まれる角度範囲に応じて、係数を動的に求めてもよい。
【0062】
このようにして物標検出部53は、ロストした物標の位置を推定し、その位置が次のスキャンでは前回スキャンで検出された位置として連続性が判断される。そうすることにより、連続したスキャンで物標をロストしても、前回スキャンでの推定結果に基づいて今回スキャンでの位置を推定できるので、連続性を維持できる。そして、再び物標が検出されたときに、高い確度で連続性をとることができる。
【0063】
なお、物標検出部53は、上述した手順において連続性を判断するときに、位置の変位量のほかに相対距離の変位量を判断基準としてもよい。その場合、上記のようにして推定した物標の位置のX座標とY座標とから、ロストした物標の位置に加え物標の相対距離を推定してもよい。例えば、三平方の定理を用い、推定されたX座標の2乗と推定されたY座標の2乗の和の平方根を相対距離として算出することが可能である。
【0064】
なお、上述においては、自動車に搭載されるレーダ装置を例として説明したが、自動車以外の移動体に搭載されるレーダ装置であっても、本実施形態は適用できる。また、レーダ装置は電子スキャン式に限られず、メカニカルスキャン式であっても、本実施形態は適用できる。
【0065】
以上、説明したように、本実施形態におけるレーダ装置101によれば、物標のX座標の変位量が大きい場合があっても、高い確度で物標の位置の連続性が維持されるように物標の位置の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】車載レーダ装置による連続性判定処理を説明する図である。
【図2】物標の位置推定方法を説明する図である。
【図3】前側方監視の場合の物標の変位を説明する図である。
【図4】前方監視用のレーダ装置を車両の前側方監視に用いた場合の、物標の位置推定方法を説明する図である。
【図5】本実施形態におけるレーダ装置が車両に搭載される例を示す。
【図6】本実施形態における座標平面を説明する図である。
【図7】本実施形態におけるレーダ装置101の構成例を示す図である。
【図8】レーダ装置101の送信信号の周波数変調を説明する図である。
【図9】物標検出部53の処理手順を説明するフローチャート図である。
【図10】物標検出部53による連続性判定手順を説明するフローチャート図である。
【図11】出会い頭に衝突する場合の物標の軌跡を説明する図である。
【図12】物標検出部53による物標位置推定手順を説明するフローチャート図である。
【図13】X座標の変位量が小さい物標位置推定処理について説明する図である。
【図14】X座標の変位量が大きい物標位置推定処理について説明する図である。
【図15】推定位置のX座標を求める係数と、軌跡が含まれる方位角との関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
101:レーダ装置、50:情報処理装置、53:物標認識部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置であって、
前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、
前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定手段とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
過去に検出または推定された複数の位置の変位量が所定範囲内にある回数をカウントし、前記カウント値が規定値に達したときは、検出された位置を出力する連続性判定手段をさらに有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
移動体に搭載され、前記基準方向は前記移動体の進行方向に対し斜め前方であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置の物標検出方法であって、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出工程と、
前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定工程とを有することを特徴とする物標検出方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記物標位置推定工程では、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とする物標検出方法。
【請求項1】
所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置であって、
前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出手段と、
前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定手段とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記物標位置推定手段は、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
過去に検出または推定された複数の位置の変位量が所定範囲内にある回数をカウントし、前記カウント値が規定値に達したときは、検出された位置を出力する連続性判定手段をさらに有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
移動体に搭載され、前記基準方向は前記移動体の進行方向に対し斜め前方であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
所定の基準方向を中心とする所定の角度範囲をスキャンするレーダ装置の物標検出方法であって、前記スキャンごとに、前記基準方向をY軸、前記基準方向と直角方向をX軸とするXY座標平面内での前記角度範囲内の物標の位置を検出する物標位置検出工程と、
前記物標の位置が検出されないスキャンでは、過去に検出された当該物標の第1の位置と前記第1の位置の後に検出された第2の位置から当該物標の軌跡を求め、当該軌跡が前記Y軸付近の所定領域に含まれる場合は、前記第2の位置のX座標から第1の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定し、前記軌跡が前記所定領域に含まれない場合は、前記第2の位置のX座標から前記第1の変位量より大きい第2の変位量変位したX座標を有する位置を当該スキャンで検出される位置として推定する物標位置推定工程とを有することを特徴とする物標検出方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記物標位置推定工程では、過去に検出または推定された位置を前記第1または第2の位置として前記推定を行うことを特徴とする物標検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−180515(P2009−180515A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17147(P2008−17147)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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