説明

レーダ装置

【課題】 位相モノパルス方式でターゲットの方位を決定するFM−CWレーダ装置において、マルチターゲットによる異常値を検出する。
【解決手段】 3本の受信アンテナを5λ/4および6λ/4の間隔で配置し、間隔5λ/4の受信アンテナの組み合わせから得られる方位と間隔6λ/4の受信アンテナの組み合わせから得られる方位との差が所定値未満であるかを判定し(ステップ1000)、それがn回連続するとき正常と判定する(ステップ1004)。n回連続していない時または方位の差が所定値以上であるときマルチターゲットによる異常値と判定する(ステップ1006)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相モノパルス方式のレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相モノパルス方式のレーダ装置では、図2に示すように、物体からの反射波を2本の受信アンテナ波で受信し、両者の受信位相差φから、例えば次式により物体の方位角θを決定する。
【0003】
θ=sin-1(λφ/2πd0) (1)
ただし、λはレーダ波の波長、d0はアンテナ間隔である。
【0004】
三角波でFM変調された送信波を用い、受信波に送信波の一部を混合して生成されたビート信号の、三角波の上り区間および下り区間における周波数の和と差から物体との距離と相対速度を得るFM−CWレーダが車載用レーダとして用いられている。このFM−CWレーダでは、前述の受信位相差φはビート信号のフーリエ変換結果に現われるピークの位相値から算出される。
【0005】
しかしながら、複数の物体からの反射による複数のピークが周波数軸上で分離できないほどに近接しているときには、上記のφとして複数の物体からの反射波を合成したものの位相を観測していることになり、正しい方位を決定することができない。この状態を方位異常状態(あるいはマルチターゲット)と称することとする。このような状況は、例えば車載用のFM−CWレーダでは、自車が走行するレーンの左右のレーンの前方で2台の車がほぼ同じ速度で併走している時や、自レーンと隣接レーンの前方で2台の車がほぼ同じ速度で併走しているときに発生する。この場合には、2台の車との距離および相対速度が近接するために、三角波の上り区間においても下り区間においても両者の周波数がほぼ一致して分離できず、方位異常状態の状況となる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−230974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、方位異常状態を検出して適切な対処をすることのできる位相モノパルス方式のレーダ装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、3本以上のアンテナと、該3本以上のアンテナのうちの2本のアンテナの組み合わせにおいて受信された反射波の受信位相差から物体の方位を決定する方位決定手段と、該受信位相差における位相折り返しが生じたことを検出することによって、該方位決定手段が決定した方位が複数物体からの反射による異常値であることを検出する方位異常状態検出手段とを具備するレーダ装置が提供される。
【0009】
前記方位異常状態検出手段は、例えば間隔の異なる2本のアンテナの予め定めた2つの組み合わせにおける受信位相差から計算される検出方位の差を所定値と比較することによって、方位異常状態を検出する。
【0010】
位相モノパルス方式のレーダ装置では、受信位相差φが±πを超えると下式に示すように2πで折り返された位相差が観測される「位相折り返し」が生じる。この状況になると受信位相差φのみからは物体の真の方位角θ′を一意に決定することができない。
【0011】
θ′=sin-1{λ(φ±2πk)/2πd0}(k=0,1,2…)
このため、通常は検出すべきθ′の範囲で位相折り返しが生じないようにアンテナ間隔d0や電波の波長λが設計される。
【0012】
本発明では逆に、この位相折り返しが生じたことを検出することによってマルチターゲットの状態であることを検出する。すなわち、後に詳述するように、間隔の異なる2本のアンテナの2つの組み合わせにおける受信位相差から計算される検出方位は、両者に位相折り返しが生じない間は両者は一致するが、少くとも一方に位相折り返しを生じると両者は一致しなくなる。複数物体からの反射による方位異常状態では複数のターゲットからの反射波を合成したものの位相を観測することになるため位相が不安定になり、頻繁に位相折り返しに似た受信になる。
【0013】
したがって、例えば間隔の異なる2本のアンテナの2つの組み合わせにおける受信位相差から計算される検出方位の差を所定値と比較することによって方位異常状態を検出することができる。
【0014】
なお本発明では、例えば3本のアンテナを不等間隔配置としそのうちの2本のアンテナの2つの組み合わせにおいて位相折り返しを生じていないが残り1つの組み合わせにおいて位相折り返しが生じている状態において、残りの組み合わせについては位相折り返しを考慮した演算を行うことによってターゲットの方位θ′を算出する。すなわち本発明は、位相折り返しが生じたときの検出方位θを常に異常値とするものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る車載用FM−CWレーダ装置の構成を示すブロック図である。図1において、電圧制御発振器(VCO)10から出力される、三角波でFM変調された送信信号は送信増幅器14で増幅されサーキュレータ16を経てアンテナから送出される。図1に示されたレーダ装置では、送受信はそれぞれ3本のアンテナAT0,AT1,AT2のうちスイッチ22で選択されたものが用いられる。スイッチ22で選択されたアンテナで送信され、スイッチ22で選択されたアンテナで受信された受信信号はサーキュレータ16を経て受信増幅器26で増幅され、ミキサ28において送信波の一部と混合されて、ビート信号が生成される。ミキサ28において生成されたビート信号は、A/Dコンバータ32においてディジタル信号に変換され、高速フーリエ変換されて(34)CPU36へ入力される。
アンテナAT0,AT1,AT2は好ましくは不等間隔に、例えば搬送波の波長をλとするときAT0とAT1の間隔は5λ/4に、AT1とAT2との間隔は6λ/4になるように配置される。
【0016】
図3は検出位相差φから位相折り返しを考慮しないで(1)式により計算される検出方位θとターゲットの真の方位θ′との関係を示す。図3中実線で示すように、アンテナ間隔5λ/4のアンテナAT0とAT1の間で位相モノパルス処理を行った場合、ターゲットの方位θ′が0度から約−24度までの範囲では位相折り返しが発生しないので検出方位θがターゲットの方位に一致し、−24度から−90度までの範囲では1回の位相折り返しが発生する。図3中一点鎖線で示すアンテナ間隔6λ/4のアンテナAT1とAT2の間で位相モノパルスの処理を行った場合、ターゲットの方位θ′が0度から約−19度までの範囲では位相折り返しが発生しないので検出方位θがターゲットの方位θ′と一致し、−19度から−90度の範囲では1回の位相折り返しが発生する。アンテナ間隔11λ/4のアンテナAT0とAT2の間で位相モノパルス処理を行った場合、ターゲットの方位θ′が0度から−10度の範囲では位相折り返しが発生せず、−10度で1回目の位相折り返しが発生し、−34度で2回目の位相折り返しが発生し、さらに−66度で3回目の位相折り返しが発生する。
【0017】
ここで5λ/4のアンテナ間隔で得られる検出方位θと6λ/4のアンテナ間隔で得られる検出方位θの差に着目すると、ターゲット方位θ′が0度から−19度までの範囲では両者は一致するが、θ′が−19度から−90度までの範囲、すなわち、少くとも一方に位相折り返しが発生する範囲では、図3中×および×′で示すように、両者には常に約7度以上の差が存在する。したがって、5λ/4の検出方位θと6λ/4の検出方位θの間に7度以上の差があれば少くとも一方に位相折り返しが発生していることになる。
【0018】
一方で、マルチターゲットの状態では複数のターゲットからの反射波を合成したものの位相を観測していることになるため、位相が不安定になり、頻繁に位相折り返しを生じることになる。そこで、5λ/4の検出方位から6λ/4の検出方位を差し引いたものの絶対値が所定値以上であればマルチターゲットによる異常値であると判定し、所定値未満であれば正常と判定することにより、マルチターゲットの発生を検出することができる。この場合に、所定回数以上連続して正常であるときのみ、正常と判定することが望ましい。
【0019】
なお、ターゲット方位θ′が−10度から−19度の範囲では5λ/4と6λ/4については位相折り返しを生じていないが11λ/4については位相折り返しが生じている。この範囲ではマルチターゲットによる異常値とせず、11λ/4については位相折り返しを考慮した演算を行ってターゲットの方位θ′を算出する。また、マルチターゲットでなくてもターゲットの方位が19度以上であれば異常値と判定されるが、この場合は検出範囲外としてマルチターゲットと同等に扱うことで問題はない。
【0020】
図4は本発明に係る方位異常状態検出処理の一例のフローチャートである。まず、5λ/4の検出方位から6λ/4の検出方位を差し引いたものの絶対値が所定値未満であるかを判定する(ステップ1000)。所定値未満であれば次にそれが所定値n回以上連続しているか否かを判定する(ステップ1002)。n回連続していれば正常な受信と判定する(ステップ1004)。n回連続していないかまたはステップ1000において所定値以上であるときは、マルチターゲットによる異常値と判定する(ステップ1006)。この処理はCPU36(図1)の動作をプログラムしたソフトウェアプログラムにより実現することができる。
図5は本発明に係る方位異常状態検出処理の第2の例のフローチャートである。2本のアンテナの3つの組み合わせからそれぞれ計算される検出方位θ1,θ2,θ3の平均値θmを計算し(ステップ1100)、その現在値θm(t)とn個の過去の値θm(t−1)、θm(t−2)、・・・θm(t−n)のばらつきが規定値以内であるかと判定する(ステップ1102)。規定値以内であれば正常と判定し(ステップ1104)、規定値以内でなければ異常と判定する(ステップ1106)。
【0021】
車載用のFM−CWレーダでは、過去のデータと照合して同一のターゲットによるピークであることを判定することによってターゲットの動きを追跡する連続性判定が行なわれる。そして、何らかの理由で過去のデータに対応するピークが得られないとき、一定期間内は過去のデータから予測される位置・速度でターゲットが存在するものとして取り扱われる。したがって、上記のマルチターゲット検出処理でマルチターゲットによる異常値であると判定されてターゲットの方位が決定できず、したがってターゲットの位置が決定できない場合も、一定期間内は、過去のデータから予測される位置・速度でターゲットが存在するものとして取り扱われる。
【0022】
或いはまたマルチターゲットと判定されるとき、予測される方位の近傍で3本の受信アンテナによるDBF(デジタルビームフォーミング)処理を行ってターゲットの方位を決定するようにしても良い。
【0023】
アンテナの間隔と判定閾値は、上記した例に限られず、間隔の異なる2本のアンテナの2つの組み合わせにおける位相折り返しが検出できる間隔と判定閾値であれば良い。また、等間隔であっても、左側または右側のアンテナと中央のアンテナの組み合わせと左右のアンテナ組み合わせとで位相折り返しを検出することもできる。また、アンテナの本数も3本に限られず3本以上であれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明が適用される車載用FM−CWレーダ装置の構成の一例を示す図である。
【図2】位相モノパルス方式を説明する図である。
【図3】種々のアンテナ間隔における検出方位θとターゲット方位θ′の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の方位異常状態検出処理のフローチャートである。
【図5】本発明の方位異常状態検出処理の第2の例のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3本以上のアンテナと、該3本以上のアンテナのうちの2本のアンテナの組み合わせにおいて受信された反射波の受信位相差から物体の方位を決定する方位決定手段と、
該受信位相差における位相折り返しが生じたことを検出することによって、該方位決定手段が決定した方位が複数物体からの反射による異常値であることを検出する方位異常状態検出手段とを具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記方位異常状態検出手段は、間隔の異なる3本以上のアンテナから任意の2本を組合せその受信位相差から計算される検出方位を、他の組合せから求められる検出方位と比較し、その差を所定値と比較することによって、方位異常状態を検出する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記2つ以上の組み合わせにおけるアンテナの各間隔は搬送波の波長より大きく、互いに異なる請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記方位異常状態検出手段は、前記検出方位の差が所定回数以上連続して前記所定値未満であるときのみ前記方位決定手段が決定した方位が正常値であると判定する請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記方位決定手段が決定した方位が異常値と判定されるとき、それまでに得られた検出物体の位置および相対速度に基いて予測した位置および相対速度を検出物体の位置および相対速度とする予測手段をさらに具備する請求項4記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記方位決定手段が決定した方位が前記方位異常状態検出手段により異常値と判定されるとき、前記複数のアンテナにおける受信波からビームフォーミングにより物体の方位を決定する第2の方位決定手段をさらに具備する請求項4記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記方位決定手段が決定した方位が異常値と判断されるとき、物体の情報として、距離と相対速度と方位異常フラグを出力する請求項1〜6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記方位決定手段が決定した方位が異常値と判断されるとき、物体の距離、速度は現在の検出信号から求め、方位については、現在の検出位相から、過去の位置及び方位から予測される方位による位相成分にて補正を行って演算する請求項1〜7のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項9】
間隔の異なる3本以上のアンテナの予め定めた2つ以上の組合せにおける受信位相差から計算される検出方位を平均し、その平均を時系列処理して、変動が大きい場合に方位異常状態と判定する、請求項1記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記時系列処理は、距離と速度情報の近いものについて行う請求項9記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−47114(P2006−47114A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228615(P2004−228615)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】