説明

レーダ装置

【課題】 2以上のアンテナまたはアレイアンテナ等からの信号を合成してビームを形成し、目標物を探知または追尾する際、処理効率の良いレーダ装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 複数の受信アンテナ1−1〜1−n、受信アンテナ1−1〜1−nのそれぞれに接続した受信モジュール2−1〜2−n、受信モジュール2−1〜2−nからの受信信号を合成して方位方向の受信ビームを形成する方位方向信号合成装置51および受信モジュール2−1〜2−nからの受信信号を合成して仰角方向の受信ビームを形成する仰角方向信号合成装置52を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2以上のアンテナまたはアレイアンテナ等からの信号を合成してビームを形成し、目標物を探知または追尾するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、複数のアンテナ部が受信した受信信号を合成して目標物を探索または追尾するものである。例えば特許文献1には、異なる位置に配置された複数のアンテナからの信号を合成し、この合成信号に基づき目標物を検出するレーダ装置が記載されている。
【0003】
一般的に、レーダ装置等の受信装置にはマルチパスの影響により受信感度が低下する問題があり、マルチパス対策として、複数の周波数を用いて送受信する周波数ダイバーシチや複数個のアンテナで信号を送受信するスペースダイバーシチなどの手法がある。特許文献2には探索方向の距離に応じて受信信号のパターン形状を変更するレーダ装置が記載されており、特に受信信号のパターン形状がペンシル状の尖鋭ビームである場合には、マルチパスの影響を小さくすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−277533(第4、5頁、図1)
【特許文献2】特開平06−174823(第4頁、図1)
【0005】
上述のように、マルチパスの影響が小さければ受信感度の低下が抑制され、目標物の追尾をより正確に行なうことができる。しかし、広い領域内での目標物の探索に尖鋭ビームを用いると、ビームのレーダ反射断面積が狭いために探索領域内でのビーム走査に時間が掛かるという問題があった。
また、特許文献2におけるビーム形成の際、方位方向のビーム形成の後に仰角方向のビームを形成するため、処理に時間を要するという問題や、方位方向または仰角方向に分離してビームを形成できないという欠点もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、処理効率の良いレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るレーダ装置は、複数の受信アンテナ、受信アンテナのそれぞれに接続した受信モジュール、受信モジュールからの受信信号を合成して方位方向の受信ビームを形成する方位方向信号合成装置および受信モジュールからの受信信号を合成して仰角方向の受信ビームを形成する仰角方向信号合成装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、方位方向信号合成装置および仰角方向信号合成装置を備えて方位方向の受信信号処理および仰角方向の受信信号処理を同時に行なうため、処理効率の良いレーダ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成図である。実施の形態1に係るレーダ装置は、複数の受信アンテナおよび複数の送信アンテナであるアンテナ1−1〜1−n、受信アンテナのそれぞれに接続した受信モジュールであるとともに送信アンテナのそれぞれに接続した送信モジュールでもある送受信装置2−1〜2−n、統合送受信制御装置4、信号処理装置5および表示装置6を備え、方位方向および仰角方向の2次元のデジタルビームフォーミングを行なうものである。
【0010】
n個のアンテナ1−1〜1−nは分散して設置され、受信信号および送信信号であるレーダ信号を送受信する。このアンテナ1−1〜1−nのそれぞれは1つのアンテナであるが、アレイアンテナやパラボラアンテナ等、レーダ信号を送受信できればアンテナの種類を限定しない。
【0011】
n個の送受信装置2−1〜2−nはアンテナ1−1〜1−nのそれぞれに接続するとともに、対応するアンテナ1−1〜1−nを介してレーダ信号の送受信処理を行なう。特に、レーダ信号受信時には、処理したレーダ信号を受信データとして信号処理装置5に出力する。
なお、アンテナ1−1〜1−nの一つ一つが複数の素子アンテナからなるアレイアンテナである場合には、アンテナ1−1〜1−nおよび送受信装置2−1〜2−nのそれぞれは各素子アンテナが受信したレーダ信号を合成し、1つのアンテナおよび送受信装置につき1つの受信データを出力する処理を行なう。
【0012】
統合送受信制御装置4は、所望の方向にレーダ信号を送信できるよう各アンテナ1−1〜1−nのそれぞれについて送信方向を計算し、レーダ信号として送信すべき信号およびアンテナ1−1〜1−nのそれぞれに対応する送信方向を指示した第1の制御データを送受信装置2−1〜2−nに伝送している。
このとき、送受信装置2−1〜2−nは、第1の制御信号に基づき所定の位相差をもった信号を生成し、生成した信号を送受信装置2−1〜2−nのそれぞれに対応するアンテナ1−1〜1−nを介してレーダ信号として放射する。
【0013】
また、統合送受信制御装置4は、所望の方向からレーダ信号を受信できるよう各アンテナ1−1〜1−nのそれぞれについて受信方向を計算し、受信方向を指示した第2の制御データを送受信装置2−1〜2−nに伝送している。
このとき、送受信装置2−1〜2−nは、第2の制御信号に基づき受信したレーダ信号を所定の移相処理を行なうことにより受信データを生成する。これにより、信号処理装置5が送受信装置2−1〜2−nからの受信データを正しく処理することができる。
なお、第1の制御データおよび第2の制御データで指示される送信方向および受信方向は、信号処理装置5による処理結果に基づき決定される。一般的に、レーダ信号の送信方向および受信方向は同一である。
【0014】
信号処理装置5は、送受信装置2−1〜2−nから入力された受信データを方位方向および仰角方向について解析し、目標物の検出処理や追尾処理などを行う。また、レーダ信号の送信方向および受信方向を決定し、レーダ信号を送受信すべき方向を統合送受信制御装置4に指示する。
【0015】
表示装置6は、信号処理装置5による受信データの処理結果を表示する。オペレータは、表示装置6に表示された処理結果に基づき、目標物を探索する。
【0016】
図2は、信号処理装置5の構成図である。この実施の形態1に係る信号処理装置5は、送受信装置2−1〜2−nからの受信信号を合成して方位方向の受信ビームを形成する方位方向信号合成装置であるAZ方向信号合成装置51、送受信装置2−1〜2−nからの受信信号を合成して仰角方向の受信ビームを形成する仰角方向信号合成装置であるEL方向信号合成装置52、任意の方向にレーダ信号を送信するために送信タイミングおよび位相量を調整する時間/位相補正部53、アンテナ1−1〜1−nから送信されるレーダ信号の基準となる信号を発生する基準信号発生部54を備えている。AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52の構成は以降に記載の通りであり、受信データに基づきビームフォーミングを行う。
【0017】
AZ方向信号合成装置51は、受信信号を合成して方位方向に扇状のファンビームを形成する第1のファンビーム形成部であるファンビーム形成部511、受信信号を合成して方位方向に尖鋭なマルチビームを形成する第1のマルチビーム形成部であるマルチビーム形成部512、および外部から入力されたビーム形成切替信号に基づき受信信号をファンビーム形成部511またはマルチビーム形成部512のいずれか一方に入力させる第1のビーム切替器であるビーム切替器513からなる。
ファンビーム形成部511は最大固有値法を用いて受信データから幅の広いファンビームを形成し、マルチビーム形成部512は離散フーリエ変換を用いて受信データからファンビームよりも幅の狭いマルチビームを形成し、ビーム切替器513はファンビーム形成部511またはマルチビーム形成部512のいずれか一方に受信データを入力させて、ファンビームまたはマルチビームのいずれか一方を形成する。
【0018】
このビーム切替器513には外部端末である入力装置55が接続しており、入力装置55からは、ファンビームを形成する指示およびマルチビームを形成する指示をビーム形成切替信号としてビーム切替器513に入力することができる。ビーム切替器513は、入力装置55から入力されたビーム形成切替信号に基づき、ファンビーム形成部511またはマルチビーム形成部512のいずれか一方に受信データを入力させる。
【0019】
また、EL方向信号合成装置52は、受信信号を合成して仰角方向に尖鋭なマルチビームを形成する第2のマルチビーム形成部であるマルチビーム形成部522を備える。このマルチビーム形成部522は、マルチビーム形成部512と同様、離散フーリエ変換を用いて受信データから幅の狭いマルチビームを形成する。
【0020】
また、時間/位相補正部53は、AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52が形成したビームが入力される。すると、これらのビームの種類や方向を解析し、次回に探索または追尾すべき方向を決定して、決定した方向でレーダ信号を送受信するための位相量を計算する。位相量および基準信号発生部54で発生した基準信号は、統合送受信制御装置4に出力される。
【0021】
次にレーダ装置のレーダ信号受信時の動作を説明する。
アンテナ1−1〜1−nを介して送受信装置2−1〜2−nがレーダ信号を受信すると、周波数や位相等の受信処理を行い、受信データを信号処理装置5に出力する。
【0022】
信号処理装置5に入力された受信データはAZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52に入力し、方位方向および仰角方向それぞれについてビームが形成される。
AZ方向信号合成装置51では、目標物を探索する探知モード時にはファンビーム形成部511が動作し、探知した目標物を追跡する追尾モード時にはマルチビーム形成部512が動作する。本レーダ装置の最初の動作は目標物の探索であり、レーダ装置の起動直後のAZ方向信号合成装置51は探知モードとして動作している。つまり、ファンビーム形成部511に受信データが入力されて方位方向に広がったファンビームが形成され、フェンスサーチが可能な状態になっている。形成されたファンビームは表示装置6に出力される。
一方、EL方向信号合成装置52では、マルチビーム形成部522が受信データから幅の狭いマルチビームを形成し、表示装置6に出力する。
【0023】
図3は、実施の形態1におけるレーダ装置が受信したレーダ信号から形成するビームを模式的に示した図である。図3の(a)および(b)は、探索モード時にAZ方向信号制御合成装置51が形成するファンビームを鉛直方向上から見た図、およびEL方向信号制御合成装置52が形成するマルチビームを水平方向から見た図であり、図中の「О」は集合したアンテナ1−1〜1−nを示す。図3(a)では方位方向に幅の広いファンビームが形成されており、図3(b)では仰角方向に幅の狭いマルチビームが形成されている。
このように、探知モード時には、仰角方向ではマルチビームにより高精度の測角が実現されるとともに、方位方向ではフェンスサーチにより一時に広範な探索が可能となる。
【0024】
AZ方向信号処理装置51およびEL方向信号処理装置52により形成されたそれぞれのビームは表示装置6に表示され、オペレータは、表示されたビームを確認することにより目標物を探索できる。目標物の存在がレーダ信号に反映されない間は、表示装置6上には変化が表れず、AZ方向信号合成装置51は探知モードとして動作している。
【0025】
次に、目標物の存在がビームに表れた場合の動作を説明する。
オペレータは表示装置6に表示されたAZ方向のファンビームおよびEL方向のマルチビームを監視しており、目標物の存在を発見した場合には、方位方向のビームもマルチビームに切り替えて当該目標物を追尾するよう、レーダ装置に指令する。具体的には、AZ方向信号合成装置51で形成するビームをマルチビームに切り替える指示を入力装置55に入力する。入力装置55は、マルチビームを形成する旨の指示を表すビーム形成切替信号をビーム切替器513に出力する。
【0026】
ビーム切替器513は、入力装置55からビーム形成切替指示が入力されると、探知モードから追尾モードに遷移し、受信データの入力をファンビーム形成部511からマルチビーム形成部512に切り替える。これにより、方位方向において形成されるビームがファンビームからマルチビームに切り替わると同時に、目標物の追尾が開始される。追尾モード時には、方位方向のビームも仰角方向のビームもマルチビームとなる。
【0027】
また、追尾モードから探知モードへの遷移は、探知モードから追尾モードに遷移した場合と同様、入力装置55が出力するビーム形成切替信号により行なわれる。AZ方向信号合成装置51で形成するビームをファンビームに切り替える指示を入力装置55に入力すると、入力装置55がファンビームを形成する旨の指示を表すビーム形成切替信号をビーム切替器513に出力する。
【0028】
ビーム切替器513は、ビーム形成切替指示が入力されると、追尾モードから探知モードに遷移し、受信データの入力をマルチビーム形成部512からファンビーム形成部511に切り替える。これにより、方位方向において形成されるビームがマルチビームからファンビームに切り替わり、レーダ装置は探知領域における目標物の探知動作に戻る。
【0029】
図3の(c)および(d)は、追尾モード時にAZ方向信号制御合成装置51が形成するマルチビームを鉛直方向上から見た図、およびEL方向信号制御合成装置52が形成するマルチビームを水平方向からから見た図である。図3(c)および(d)に示すように、追尾モード時には、方位方向および仰角方向ともに幅の狭い、尖鋭なビームが形成されるので、マルチパスの影響を避けて目標物を正確に確認することができる。
【0030】
なお、追尾モードから探知モードへの切り替えは、入力装置55からの指示の他、マルチビーム形成部512の起動後一定時間経過後に自動で切り替わるようにしても良い。例えばビーム切替器513がマルチビーム形成部512への受信データの入力を開始したときからタイマを起動し、タイマのタイムアップ時に受信データの入力をファンビーム形成部511に切り替えれば、一定時間後のモード遷移を実現することができる。
【0031】
以上のように、この実施の形態1に係るレーダ装置では、方位方向および仰角方向の2次元デジタルビームフォーミングを行なうため、受信したレーダ信号を速やかに解析することができ、目標物の探索および追尾の処理を高速に行なうことが可能となる。
また、方位方向においてファンビームおよびマルチビームを適宜形成し、探知モード時にはファンビームによるフェンスサーチを行って目標物の探索を高速に実施できるともに、追尾モード時にはマルチビームにより目標物を追尾するためマルチパス等の影響が少ない状態で正確に追尾することができ、目標物の迅速な探索と精度の良い追尾という、効率の良いレーダ装置を実現することができる。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1では、オペレータが表示装置6を監視して目標物の出現を監視し、目標物探知時に探知モードから追尾モードへの遷移の指示を行なっていたが、目標物の探知と追尾モードへの切り替えを自動で行なっても良い。
【0033】
図4は、実施の形態2に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態2に係る信号処理装置5は、図2に示す実施の形態1に係る信号処理装置5の入力装置55の替わりに目標検出部56を設置したものである。また、目標検出部56にはAZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52からの信号が入力される。
目標検出部56は、AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52からの信号に基づき目標物を探知すると受信データをファンビーム形成部511からマルチビーム形成部512に入力させるためのビーム形成切替信号をビーム切替器513に出力するものである。
【0034】
目標検出部56は、目標物か否かを区別するためのレーダ反射断面積の値やスピードを定めたデータベースを有しており、AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52からの入力信号を解析してレーダ反射断面積や目標物候補のスピード等を取得するとともに、データベース中の値と比較することで目標物の有無を判別する。目標検出部56が探知モード時に目標物を探知した場合には、マルチビームを形成する旨の指示を表すビーム形成切替信号をビーム切替器513に出力する。なお、ビーム形成切替指示信号は、実施の形態1において入力装置55からビーム切替器513に出力されるビーム形成切替指示信号と同じであり、ビーム切替器513のビーム形成切替指示信号を受信した場合の動作は、実施の形態1と同様である。
【0035】
以上のように、この実施の形態2に係るレーダ装置では、目標検出部56がAZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52からの信号を解析して目標物の有無を確認し、目標物検出時には追尾を指示するので、目標物の探知から追尾への変更を自動で行なうことができる。
【0036】
実施の形態3.
実施の形態1および2では、AZ方向信号合成装置51の追尾モード時、およびEL方向信号合成装置52においてマルチビームを形成している。マルチビーム形成時には、グレーティングローブが発生するという問題がある。この実施の形態3では、グレーティングローブの発生を抑制するためにレーダ信号を一方向につき異なる周波数で複数回送信する。
【0037】
図5は、実施の形態3に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態3に係る信号処理装置5は、図2に示す実施の形態1に係る信号処理装置5に周波数切替器57を付加したものである。
周波数切替器57は、所定の方向に送信される1つのレーダ信号につき複数の異なる周波数での送信を送受信モジュール2−1〜2−nに指示するものである。
【0038】
レーダ信号の送信時、基準信号発生部54で生成された送信信号は、時間/位相補正部53により指定された所定の方向を示す位相情報とともに統合送受信制御装置4に出力される。実施の形態3では、所定の方向が指定された送信信号につき、周波数切替器57が複数の周波数を指定する。
統合送受信制御装置4は、周波数切替器57からの周波数の指定に従い、所定の方向と指定された周波数とを指示した第1の制御信号を送受信装置2−1〜2−nに伝送する。送受信装置2−1〜2−nは第1の制御信号に従い、所定の方向に指定された周波数でレーダ信号を送信し、周波数の異なるレーダ信号を同一方向につき複数回送信する。
【0039】
同時に、統合送受信制御装置4は、送信したレーダ信号を受信できるよう、方向と周波数を指示した第2の制御信号を送受信装置2−1〜2−nに伝送する。
【0040】
次にレーダ信号の処理を説明する。アンテナ1−1〜1−nから送信されたレーダ信号は、背景または目標物に反射することにより、アンテナ1−1〜1−nに再び入射する。送受信装置2−1〜2−nは、所定の同一方向から入射する周波数のみ異なるレーダ信号を複数回受信するとともに、同一方向から受信した、周波数のみ異なるレーダ信号を重ね合わせる。
なお、同一方向からの複数の受信データは、上記のように送受信装置2−1〜2−nが重ね合わせても良いが、統合送受信制御装置4が行なっても良い。統合送受信制御装置4で受信データの重ね合わせを行なう場合は、送受信装置2−1〜2−nはレーダ信号を受信するたびに受信データを統合送受信制御装置4に出力し、統合送受信制御装置4は受信データを送受信2−1〜2−nごとに分類し、さらに同一方向からの受信データを合成する。
【0041】
グレーティングローブの生じるパターンは周波数毎に異なるため、一方向から受信したレーダ信号を重ね合わせるとサイドローブが打ち消しあい、グレーティングローブのレベルが低減する。
【0042】
以上のように、この実施の形態3に係るレーダ装置では、周波数切替器57を備え、レーダ信号を同一方向に周波数切替器57が指示した周波数で複数回送信するため、マルチビーム形成時にグレーティングローブの発生を抑制することができる。これにより、仰角方向の探知および追尾精度ならびに方位方向の追尾精度を高めることができる。
【0043】
実施の形態4.
実施の形態3では、周波数切替器57を用いて同一方向について周波数の異なるレーダ信号を複数回送信することでグレーティングローブの発生を抑制していた。この実施の形態4では、グレーティングローブ抑制アルゴリズムを用いることを特徴とする。
【0044】
図6は、実施の形態4に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態4に係る信号処理装置5は、図2に示す実施の形態1に係る信号処理装置5にグレーティングローブ抑圧器58を付加したものである。
グレーティングローブ抑圧器58は、受信データを用いてCaponアルゴリズムによりビームを形成する制御装置の一種であり、AZ方向信号合成装置51のマルチビーム形成部512およびEL方向信号合成装置52のマルチビーム形成部522と接続している。
【0045】
マルチビーム形成部512および522は、受信データを受信した際にグレーティングローブ抑圧器58を用いて受信データからビーム形成処理を行う。
【0046】
以上のように、この実施の形態4に係るレーダ装置は、グレーティングローブ抑圧器58を付加するだけでマルチビーム形成時のグレーティングローブの発生を抑制することができ、高精度の探索および追尾を実現することができる。
また、実施の形態3と比較すると、同一方向においてレーダ信号を複数回送受信する必要がないため、レーダ信号の送受信によるレーダ装置の負荷を低減することができる。さらに、所定の方向から受信したレーダ信号を処理する時間を短縮することができ、目標物の探索および追尾を高速に処理することができる。
【0047】
なお、上述及び図6においては、マルチビーム形成部512およびマルチビーム形成部522のいずれもがグレーティングローブ抑圧器58に接続しているが、いずれか一方がグレーティングローブ抑圧器58に接続しても良い。
【0048】
実施の形態5.
実施の形態1から4では、AZ方向信号合成装置51はファンビームとマルチビームを適宜形成し、EL方向信号合成装置52はマルチビームを形成していたが、方位方向および仰角方向ともにファンビームを形成して目標物を探索しても良い、
【0049】
図7は、実施の形態5に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態5に係る信号処理装置5は、図2に示す実施の形態1に係る信号処理装置5のAZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52に扇状のファンビームの形成機能を持たせたものである。なお、実施の形態1から4に係るEL方向信号合成装置52はマルチビーム形成部522を備えてマルチビームを形成していたが、この実施の形態5に係るEL方向信号合成装置52は受信データを合成して仰角方向に扇状で幅の広いファンビームを形成する第2のファンビーム形成部となるファンビーム形成部521を備えてファンビームを形成するものである。なお、ファンビーム形成部511および521におけるファンビーム形成には、最大固有値法を用いる。
【0050】
送受信装置2−1〜2−nから信号処理装置5に入力された受信データは、AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52にそれぞれ入力され、方位方向および仰角方向のファンビームが形成される。最大固有値法によると、M個のアンテナで構成されるアンテナ群で互いに相関関係のないn個の受信電力S,S,・・・Sの信号を受信すると、合成受信電力SoutはSout=M(S+S+・・・+S)と表される。つまり、いくつかの方向から到来した反射波と所望波とをコヒーレントに加算でき、S/N比の劣化を防ぐことができる。
【0051】
以上のように、この実施の形態5に係るレーダ装置では、方位方向および仰角方向のそれぞれにおいてファンビームによるフェンスサーチを実施するため、目標物探知が実施の形態1よりも高速になり、高速探知専用のレーダ装置を得ることができる。また方位方向および仰角方向を同時に処理するため、処理速度が速いレーダ装置を得ることができる。
【0052】
実施の形態6.
実施の形態5では方位方向および仰角方向の両方をファンビームにより探知していたため、高速探知が可能であった。実施の形態6では、方位方向および仰角方向の両方においてマルチビームを形成する。
【0053】
図8は、実施の形態6に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態5と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態6に係る信号処理装置5は、実施の形態5に係る信号処理装置5におけるファンビームを形成する機能を尖鋭なマルチビームを形成する機能に置き換えたものである。つまり、AZ方向信号合成装置51ではファンビーム形成部511をマルチビーム形成部512に置き換え、EL方向信号合成装置52ではファンビーム形成部521をマルチビーム形成部522に置き換えたものである。これにより、信号処理装置5により形成される受信ビームはペンシル状になる。
また、実施の形態4と同様にグレーティングローブ抑圧器58を有し、マルチビーム形成部512および522は、受信データ処理時にグレーティングローブ抑圧器58に受信データを入力してビームを形成する。
【0054】
信号処理装置5に入力した受信データは方位方向および仰角方向のそれぞれについてマルチビームが形成される。また、グレーティングローブ抑圧器58により、グレーティングローブの発生が抑制される。
【0055】
以上のように、この実施の形態6に係るレーダ装置では、方位方向および仰角方向のそれぞれについてマルチビームが形成されるため、測角精度が向上し、高精度の追尾専用レーダ装置を得ることができる。また方位方向および仰角方向を同時に処理するため、処理速度が速いレーダ装置を得ることができる。
【0056】
なお、上述ではグレーティングローブ抑圧器58を備えた場合を説明したが、グレーティングローブ抑圧器58の替わりに、周波数切替器57を配置して実施の形態3と同様の動作を行なっても良い。また、グレーティングローブ抑圧器58と周波数切替器57との両方を備えても良い。これらの周波数切替器57やグレーティングローブ抑圧器58の使用により、マルチビーム形成時にグレーティングローブの発生を抑制することができる。
【0057】
実施の形態7.
実施の形態5では方位方向および仰角方向においてファンビームを形成し、実施の形態6では方位方向および仰角方向においてマルチビームを形成するレーダ装置について説明したが、AZ方向信号合成装置51およびEL方向信号合成装置52のそれぞれがファンビームおよびマルチビームを適宜形成しても良い。
【0058】
図9は、実施の形態7に係る信号処理装置5の構成図である。図中において実施の形態1と同一の構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。実施の形態7に係る信号処理装置5は、図2に示す実施の形態1に係る信号処理装置5内のEL方向信号合成装置52の構成を、AZ方向信号合成装置51の構成と同様にしたものである。つまり、EL方向信号合成装置52は、マルチビーム形成部522に加えて、ファンビーム形成部521、およびビーム形成切替信号に基づき受信データをファンビーム形成部521またはマルチビーム形成部522のいずれか一方に入力させる第2のビーム切替器となるビーム切替器513を備えている。
【0059】
また、入力装置55はAZ方向信号合成装置51のビーム切替器513およびEL方向信号合成装置52のビーム切替器523の両方に接続している。入力装置55を用いた探知モードから追尾モードへの遷移の指令は実施の形態1と同様であり、オペレータのビーム形成切替指示により行なわれる。なお、実施の形態7においては、探知モード時には方位方向および仰角方向の両方でファンビームが形成されており、ビーム形成切替指示により方位方向よび仰角方向の両方でマルチビームが形成される。
【0060】
以上のように、この実施の形態7に係るレーダ装置によれば、探知時には方位方向および仰角方向についてファンビームにより探索するため目標物を高速で探索できるとともに、追尾時にはマルチビームを形成するため、高精度な追尾が可能となり、探索と追尾の効率が実施の形態1から4よりもさらに良いレーダ装置を得ることができる。
【0061】
なお、実施の形態3と同様、周波数切替器57を備えて同一方向へのレーダ信号につき異なる周波数で複数回送信する動作を追加したり、実施の形態4や6と同様、マルチビーム形成部512にグレーティングローブ抑圧器58を接続したりすれば、グレーティングローブの発生を抑制することができる。
【0062】
ところで、上記説明では、図1に代表するようにアンテナが分散して位置する、いわゆる分散アレイを有するレーダ装置を引用して説明した。しかし、分散アレイアンテナを用いたレーダ装置でなく、一般的なアレイアンテナに適用することもできる。
この場合、アンテナ1−1〜1−nがn個のアンテナ素子に相当し、送受信モジュール2−1〜2−nは素子アンテナに対応する送受信モジュールとして動作すれば良い。このように、アレイアンテナを有するレーダ装置に本発明を適用した場合にも、実施の形態1から7と同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、実施の形態3から7では、探知モードと追尾モードとの切り替え、つまりファンビームとマルチビームとの切り替えを外部からの入力で実現していた。つまりオペレータが入力装置55から指令していた。しかし、実施の形態3から7においても、実施の形態2のように、入力されたビームから目標物の検出を判定する目標検出部56を備えれば、探知モードと追尾モードの切り替えを自動で行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る信号処理装置の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1における形成されたビームの模式図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る信号処理装置の構成図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係る信号処理装置の構成図である。
【図6】この発明の実施の形態4に係る信号処理装置の構成図である。
【図7】この発明の実施の形態5に係る信号処理装置の構成図である。
【図8】この発明の実施の形態6に係る信号処理装置の構成図である。
【図9】この発明の実施の形態7に係る信号処理装置の構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1−1〜1−n アンテナ 2−1〜2−n 送受信装置 51 AZ方向信号合成装置
52 EL方向信号合成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信アンテナ、
前記受信アンテナのそれぞれに接続した受信モジュール、
前記受信モジュールからの受信信号を合成して方位方向の受信ビームを形成する方位方向信号合成装置、
前記受信モジュールからの前記受信信号を合成して仰角方向の受信ビームを形成する仰角方向信号合成装置
を備えたレーダ装置。
【請求項2】
方位方向信号合成装置は、受信信号を合成して方位方向に扇状のファンビームを形成する第1のファンビーム形成部、前記受信信号を合成して方位方向に尖鋭なマルチビームを形成する第1のマルチビーム形成部、および外部から入力されたビーム形成切替信号に基づき前記受信信号を前記第1のファンビーム形成部または前記第1のマルチビーム形成部のいずれか一方に入力させる第1のビーム切替器を備え、
仰角方向信号合成装置は、前記受信信号を合成して仰角方向に尖鋭なマルチビームを形成する第2のマルチビーム形成部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
方位方向信号合成装置は受信信号を合成して方位方向に尖鋭なマルチビームを形成する第1のマルチビーム形成部を備え、
仰角方向信号合成装置は前記受信信号を合成して仰角方向に尖鋭なマルチビームを形成する第2のマルチビーム形成部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
方位方向信号合成装置は受信信号を合成して方位方向に扇状のファンビームを形成する第1のファンビーム形成部を備え、
仰角方向信号合成装置は前記受信信号を合成して仰角方向に扇状のファンビームを形成する第2のファンビーム形成部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
方位方向信号合成装置は、受信信号を合成して方位方向に扇状のファンビームを形成する第1のファンビーム形成部、前記受信信号を合成して方位方向に尖鋭なマルチビームを形成する第1のマルチビーム形成部、および外部から入力されたビーム形成切替信号に基づき前記受信信号を前記第1のファンビーム形成部または前記第1のマルチビーム形成部のいずれか一方に入力させる第1のビーム切替器を備え、
仰角方向信号合成装置は、前記受信信号を合成して仰角方向に扇状のファンビームを形成する第2のファンビーム形成部、前記受信信号を合成して仰角方向に尖鋭なマルチビームを形成する第2のマルチビーム形成部、および前記ビーム形成切替信号に基づき前記受信信号を前記第2のファンビーム形成部または前記第2のマルチビーム形成部のいずれか一方に入力させる第2のビーム切替器を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
方位方向信号合成装置からの信号および仰角方向信号合成装置からの信号に基づき目標物を探知すると受信信号を第1のマルチビーム形成部または第2のマルチビーム形成部のいずれかに入力させるビーム形成切替信号を第1のビーム切替器または第2のビーム切替器のいずれか一方若しくは両方に出力する目標物検出部を備えたことを特徴とする請求項2または5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
第1のマルチビーム形成部または第2のマルチビーム形成部のいずれかが、Caponアルゴリズムを用いて受信信号を合成して尖鋭なマルチビームを形成するグレーティングローブ抑圧器を備えたことを特徴とする請求項2、3および5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
複数の送信アンテナ、
前記送信アンテナのそれぞれに接続するとともに前記送信アンテナが送信する送信信号を指示された周波数で任意の方向に送信する送信モジュール、
所定の方向に送信される1つの前記送信信号につき複数の異なる周波数での送信を前記送信モジュールに指示する周波数切替器
を備え、
前記送信信号が目標または背景で反射して受信アンテナで受信された受信信号を合成することを特徴とする請求項2、3および5のいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−240184(P2007−240184A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59352(P2006−59352)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】