説明

レーダ装置

【課題】希望波以外の妨害波に対する自受信機のダイナミックレンジを拡大することのできるレーダ装置を提供。
【解決手段】信号処理部20にて検出される妨害波位相データを信号処理部20内の位相調整器28にてタイミングを調整し、さらにI/Q信号切替スイッチ42および直交変換器48において、位相0−πおよび位相π/2−3π/2の2つの位相変調を切り替えて、自装置10から発した送信波がターゲットにて反射した反射波である希望波を受信する際、複数のレーダ波が存在する場合、周辺の他のレーダ装置から発せられる最大妨害波のレベルを抑圧して、希望波以外の妨害波に対する自受信機のダイナミックレンジを拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、たとえば車載レーダにおいて、希望波以外の妨害波に対する受信系のダイナミックレンジを拡大するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえば特許文献1に記載のように、自動車などの移動体に搭載される車載レーダシステムが開発されている。このようなレーダ装置の受信系では、受信アンテナからアナログディジタル変換器までを含むフロントエンド部の受信ダイナミックレンジが、レーダシステムの距離測定および相対速度検出など性能に影響する。
【0003】
道路を走行する車載レーダでは、近傍の妨害波が存在した電波環境にて、遠方の測距対象車からの希望波(自装置送信波の反射波)を受信する必要がある。ここで、妨害波の最大受信レベルをPu_maxとし、希望波の最小受信レベルをPd_minとし、フロントエンド部の受信ダイナミックレンジをGaとして、次式(1)を満たす条件下では、受信系の所要CNR(Carrier to Noise Ratio)が許容範囲内にあるにもかかわらず、たとえば測距が不能となるという問題があった。
Pu_max−Pd_min>=Ga ・・・(1)
【特許文献1】特開2002-22826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような問題点を解決するために、フロントエンド部各段の増幅器の直線性を高めたり、アナログディジタル変換部のビット数を高くしたりしてダイナミックレンジを拡大する必要があり、これに伴って高コスト化となり、また、レーダ装置の消費電力が大きくなるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の欠点を解消し、希望波以外の妨害波に対する自受信機のダイナミックレンジを拡大することのできるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために、2相位相変調方式を用いるレーダ装置において、この装置は、受信される妨害波のレベルと所望の受信波のレベルとの比が、所定の電波環境を示す値である場合に、妨害波の2相位相変調における第1の位相角と、第1の位相角を90度位相シフトした第2の位相角とを切り替える切替手段と、第1の位相角による2相位相変調波および第2の位相角による2相位相変調波を受信する受信手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、妨害波の2相位相変調における第1の位相角と、第1の位相角を90度位相シフトした第2の位相角とを切り替えて、第1および第2の位相角による2相位相変調波を受信することにより、妨害波のレベルと所望の受信波のレベルとの比が、所定の電波環境を示す値である場合に、希望波以外の妨害波に対する自受信機のダイナミックレンジを拡大することができ、レーダ装置の規模およびコストの増大を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に添付図面を参照して本発明によるレーダ装置の実施例を詳細に説明する。図1を参照すると、本発明が適用されたレーダ装置の一実施例が示され、本レーダ装置は、たとえば自動車などの移動体に搭載される車載レーダ装置である。なお、以下の説明において本発明に直接関係のない部分は、図示およびその説明を省略し、また、信号の参照符号はその現われる接続線の参照番号で表す。
【0009】
図示するようにレーダ装置10は、送信データ12と同期信号パターン信号14とを入力して位相調整して送信データを出力16に出力し、IQ切替信号18を生成する信号処理部20を備えている。信号処理部20は受信データの相関を検波して希望波レーダ解析信号22と妨害波位相同期信号24とを生成する相関検波器26を備えている。信号処理部20は、生成された妨害波位相同期信号24に基づいて送信データ16の位相調整を行う位相調整器28とを含む。位相調整器28の出力16は信号処理部20の出力を形成してディジタル/アナログ変換器(DAC)30に接続され、DAC 30は送信データをアナログの送信信号に変換して出力32に出力する。DAC 30の出力32はローパスフィルタ34に接続されている。
【0010】
ローパスフィルタ34は、DAC 30にてアナログ信号に変換した送信信号の低域を通過するフィルタであり、その出力36はベースバンド増幅器38に接続されている。ベースバンド増幅器38は、入力される送信信号を増幅し、増幅した送信信号を出力40に出力する。この出力40はI/Q切替スイッチ42に接続されている。
【0011】
I/Q切替スイッチ42は、信号処理部20から供給されるIQ切替信号18に応じて、同相(I)および直交(Q)位相を切り替え、同相信号を出力44に出力し、直交信号を出力46に出力する。I/Q切替スイッチ42の出力44および46はI/Q直交変調器48に接続されている。I/Q直交変調器48は、入力される搬送周波数信号50によってIQ信号を位相角度変調する。I/Q直交変調器48は、送信信号を第1プライオリティの位相0−πにて位相角度変調する機能と、第2プライオリティの位相π/2―3π/2にて位相角度変調する機能とを有している。
【0012】
I/Q直交変調器48は変調した送信信号を出力52に出力し、この出力52は中間周波数帯バンドパスフィルタ54に接続されている。中間周波数帯バンドパスフィルタ54の出力56はアップコンバージョンミキサ58に接続されている。アップコンバージョンミキサ58は、入力信号を搬送周波数信号60によって周波数変換して出力62に出力する。出力62は増幅器64を介して送信バンドパスフィルタ66に接続され、送信バンドパスフィルタ66の出力が送信アンテナ68に接続されている。これらローパスフィルタ34、ベースバンド増幅器38、I/Q切替スイッチ42、I/Q直交変調器48、中間周波数帯バンドパスフィルタ54、アップコンバージョンミキサ58、増幅器64、フィルタ66および送信アンテナ68は、2相位相変調波を送出する送信側のフロントエンド部を形成している。
【0013】
次に、2相位相変調波を受信する受信側のフロントエンド部について説明すると、受信側の受信アンテナ80は、受信バンドパスフィルタ82を介して低雑音増幅器84に接続され、低雑音増幅器84は増幅した受信信号を出力86に出力する。低雑音増幅器84の出力86はダウンコンバージョンミキサ88に接続されている。
【0014】
ダウンコンバージョンミキサ88は、第1ローカル部(1st-LO)90から供給される搬送波信号92によって受信信号86を周波数変換し、変換した受信信号を出力94に出力する。出力94は受信バンドパスフィルタ96に接続されている。受信バンドパスフィルタ96の出力98はI/Q直交復調器100に接続されている。なお、第1ローカル部90は、搬送波信号60を生成し、その出力60は前述のアップコンバージョンミキサ58に接続されている。
【0015】
I/Q直交復調器100は、第2ローカル部(2nd-LO) 102から供給される搬送波信号104によって受信信号98を復調し、復調した同相および直交位相の受信信号をそれぞれ出力110および112に出力する。出力110および112はそれぞれ、ベースバンド増幅器114および116に接続されている。ベースバンド増幅器114および116はそれぞれ受信信号を増幅して、それぞれ出力118および120に出力する。出力118および120はそれぞれローパスフィルタ122および124に接続され、低域通過された受信信号は、それぞれ出力126および128を介してアナログ/ディジタル変換器(ADC) 130および132に接続されている。
【0016】
ADC 130および132はそれぞれ、入力される受信信号をディジタル信号に変換して、変換された受信データをそれぞれ出力134および136に出力する。これら出力134および136は、信号処理部20内の相関検波器26にそれぞれ接続されている。
【0017】
また、受信バンドパスフィルタ96の出力98は受信電界強度信号(RSSI)検出器140に接続され、RSSI検出器140は、受信信号98を入力してその電界強度に応じた受信電界強度信号142を出力する。
【0018】
以上の構成により、信号処理部20にて検出される妨害波位相データを信号処理部20内部の位相調整器28にてデータタイミングを調整し、さらにI/Q信号切替スイッチ42および直交変換器48において、位相0−πおよび位相π/2−3π/2の2つの位相変調を切り替える。複数のレーダ波が存在する場合、自装置10から発した送信波がターゲットにて反射した反射波である希望波を受信する際、周辺の他のレーダ装置から発する最大妨害波レベルを抑圧して、希望波以外の妨害波に対する自受信機のダイナミックレンジを拡大し、ターゲットとの距離および相対速度などを判定する。
【0019】
次に、図2を参照して本実施例におけるレーダ装置20の動作を図2に示すフローチャートを参照して説明する。測距が開始されると、ステップS200において、レーダ装置20の送信側および受信側の各フロントエンド部が第1プライオリティ位相変調モードに設定される。ここでは、仮に位相0−πモードが設定されている。式(1)が不成立する電波環境は、希望波が妨害波よりも十分に受信レベルが高い場合であり、その場合、受信側のレーダ処理部にて、希望波によってターゲット車との距離などの情報を得ることが可能であり、第1プライオリティ位相変調モードのままレーダ波受信動作をする。
【0020】
一方、ステップS202において受信側の処理部にて希望波の測距検出信号がなく、かつステップS204にてRSSI検出部140がRSSI信号を検出すると式(1)が成立する。この場合、受信環境は妨害波レベルが大きい環境であり、その妨害波は位相変調(0−π)であると見なして、ステップS208にて送信波のデータ送出タイミングを調整し、次いでステップS210にて装置10の送信側位相変調を第2プライオリティ位相変調(π/2−3π/2)モードに設定する。これとともに受信側も同様に位相復調器100をπ/2−3π/2位相変調モードに設定する。その後ステップS212に進んで測距検出の処理が実行される。
【0021】
本実施例による特性改善例を図3および図4に示す。図3は、自装置10に妨害波が入力された場合の直交復調器96における妨害波の抑圧レベル比を示す。特性曲線300は、妨害波レベルおよび希望波受信レベルを示し、特性曲線302は、妨害波抑圧後の妨害波レベルを示している。このように本実施例適用前の妨害波レベルと適用後の妨害波レベルとの差が抑圧比304となり、大きく改善されていることがわかる。本シミュレーションデータは、本装置10を実機に実装する際に、アナログ回路における性能劣化量を考慮して、無線機の位相雑音および直交復調器96の振幅誤差および位相誤差を含めた条件で算出した値であり、25[db]以上の抑圧が可能である。本特性例では周波数100[kHz]における位相雑音―80[db]、振幅誤差は2[db]、位相誤差は2パーセントとしている。
【0022】
また、図3に示した抑圧比改善によるEb/No対ビット誤り率(BER)特性データを図4に示す。図示するように、特性曲線400はBPSK(Binary Phase Shift Keying)の理論値を示し、特性曲線402は本実施例による特性例である。なお、本実施例を適用していない場合を特性曲線404にて示す。このように本実施例によってBER特性が向上することがグラフから明らかである。この結果、レーダ装置10の規模およびコストの増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用されたレーダ装置の実施例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す実施例におけるレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】レーダ装置による妨害波抑圧比の効果例を示すグラフである。
【図4】レーダ装置によるビット誤り率の改善例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
10 レーダ装置
34 ローパスフィルタ
38 ベースバンド増幅器
42 I/Q切替スイッチ
48 I/Q直交変調器
54 中間周波数帯バンドパスフィルタ
58 アップコンバージョンミキサ
64 増幅器
66 フィルタ
68 送信アンテナ
80 受信アンテナ
82 受信バンドパスフィルタ
84 低雑音増幅器
88 ダウンコンバージョンミキサ
90 第1ローカル部(1st-LO)
96 受信バンドパスフィルタ
100 I/Q直交復調器
102 第2ローカル部(2nd-LO)
114、116 ベースバンド増幅器
122、124 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2相位相変調方式を用いるレーダ装置において、該装置は、
受信される妨害波のレベルと所望の受信波のレベルとの比が、所定の電波環境を示す値である場合に、前記妨害波の2相位相変調における第1の位相角と、該第1の位相角を90度位相シフトした第2の位相角とを切り替える切替手段と、
前記第1の位相角による2相位相変調波および前記第2の位相角による2相位相変調波を受信する受信手段とを備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記所定の電波環境は、前記妨害波のレベルと前記所望の受信波のレベルとの比が該装置の受信ダイナミックレンジを超える電波環境であることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−76290(P2008−76290A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257364(P2006−257364)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】