レーダ装置
【課題】気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定し、気象クラッタを適切に抑圧することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】パルス信号の送受信によって目標物を検出する装置であって、低周波受信パルス信号から気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部6と、ビーム走査毎に、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部8と、ビーム走査間で、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部10と、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部12とを備えたものである。
【解決手段】パルス信号の送受信によって目標物を検出する装置であって、低周波受信パルス信号から気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部6と、ビーム走査毎に、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部8と、ビーム走査間で、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部10と、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部12とを備えたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば艦船等に搭載され、電磁波を送受信して目標物までの距離等を測定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁波の送受信によって目標物までの距離を測定する装置として、レーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、パルス信号を空間に送信し、目標物で反射したパルス信号を受信して、受信したパルス信号の空間伝搬時間を測定することにより、目標物までの距離を測定している。
受信したパルス信号には、目標物で反射したパルス信号の他に、例えば、雨粒や雲等で反射した信号(気象クラッタ)が含まれている。目標物で反射したパルス信号がこの気象クラッタに埋もれると、目標物までの距離を測定することが困難になる。
【0003】
そこで、気象クラッタを抑圧するために、フィルタが利用されている。このフィルタの中心周波数は、気象クラッタのドップラー周波数によって決まる値であり、フィルタの特性を決める重要なパラメータの1つである。すなわち、フィルタの中心周波数を正確に決定するためには、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定する必要がある。
【0004】
気象クラッタのドップラー周波数を測定する方法としては、気象レーダで降雨量などの測定に広く利用されているパルスペア方式を利用する方法がある。パルスペア方式では、同一距離から反射した2つの連続するパルス信号を受信し、パルス信号の位相差を検出してドップラー周波数を測定している(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、ドップラー周波数を高精度に測定するために、レーダ覆域中の距離方向および方位方向について、気象クラッタのドップラー周波数の測定値を平均化する処理が実行されている。
ドップラー周波数の測定値を平均化するものとして、従来のレーダ信号処理装置は、クラッタのドップラー周波数を距離方向に測定した後、ドップラー周波数の測定値に対してレンジブロック単位で平均化処理を実行する平均処理部を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、パルスペア方式を用いて気象クラッタのドップラー周波数を測定する場合には、パルス繰り返し周波数に対応してドップラー周波数の測定値の符号が反転し、距離方向または方位方向で値が不連続となる折り返し現象が発生する恐れがある。折り返し現象が発生すると、ドップラー周波数の測定値を平均化した場合に、符号が反転した箇所では、正確なドップラー周波数の平均値を得ることができず、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0007】
そこで、ドップラー周波数を高精度に測定するために、ドップラー周波数の測定値に対する平均化処理に先立って、ドップラー周波数の測定値に対する折り返し補正処理が実行されている。折り返し補正処理では、距離方向または方位方向で値が連続となるように、符号が反転したドップラー周波数の測定値に対して補正値を加算している(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
なお、上記従来のレーダ装置では、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理は、レーダ装置のビーム走査毎(レーダ装置のビームがレーダ覆域を1周する毎)に実行されている。
【0009】
【非特許文献1】気象研究所編集、「気象研究所技術報告(第19号)ドップラーレーダによる気象・海象の研究」、気象研究所、1986年3月31日、p.10‐13、p.63‐64
【特許文献1】特開2001−201568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、気象レーダ等のレーダ装置では、低速でアンテナを回転させながら各方位についてパルス信号を送受信しているので、1回のビーム走査で大量のパルス信号を送受信することができる。そのため、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理を実行して、ドップラー周波数を高精度に測定することができる。
【0011】
これに対して、例えば艦船等に搭載される捜索用のレーダ装置では、高速でアンテナを回転させながら各方位についてパルス信号を送受信している。そのため、ビーム走査1回あたりの時間が短くなり、送受信されるパルス信号の数(パルスヒット数)が気象レーダの場合よりも減少する。したがって、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理を実行した場合であっても、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0012】
そこで、艦船等に搭載されるレーダ装置において気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定するための方法として、複数回のビーム走査によって測定されたドップラー周波数どうしを平均化すること、すなわちビーム走査間(複数回のビーム走査の間)でドップラー周波数の測定値を平均化することが考えられる。しかしながら、ビーム走査間でドップラー周波数の測定値を平均化する場合には、ビーム走査毎に実行される折り返し補正処理による折り返し方向が、ビーム走査間で必ずしも同じ方向にならない。そのため、ビーム走査間で正確なドップラー周波数の平均値を得ることができず、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定し、気象クラッタを適切に抑圧することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るレーダ装置は、周波数変換を行うための局部発振信号を発生して出力する局部発振部と、低周波送信パルス信号を発生するとともに、局部発振信号を用いて低周波送信パルス信号を高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する送信部と、高周波送信パルス信号を空間に放射するとともに、目標物で反射した高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する空中線部と、局部発振信号を用いて高周波受信パルス信号を低周波受信パルス信号に周波数変換するとともに、低周波受信パルス信号をAD変換して出力する受信部と、デジタル化された低周波受信パルス信号から不要な信号である気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部と、ビームがレーダ覆域を走査するビーム走査毎に、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部と、複数回のビーム走査の間であるビーム走査間で、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部と、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部と、第1補正後ドップラー周波数およびドップラー周波数平均値のいずれか一方に基づいて、デジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出するフィルタ設定部と、フィルタ係数に基づいて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力するクラッタ抑圧処理部と、抑圧後受信パルス信号に基づいて目標物を検出する目標検出部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明のレーダ装置によれば、第1折り返し補正部は、ビーム走査毎に気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する。第2折り返し補正部は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する。また、平均処理部は、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。クラッタ抑圧処理部は、ドップラー周波数平均値に基づいて算出されたフィルタ係数に応じて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧する。
そのため、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定し、気象クラッタを適切に抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当する部材、部位については、同一符号を付して説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図1において、このレーダ装置は、局部発振部1と、送信部2と、サーキュレータ3と、空中線部4と、受信部5と、気象クラッタ検出部6と、気象クラッタマップ作成部7と、第1折り返し補正部8と、切り換えスイッチ9と、第2折り返し補正部10と、データ記憶部11と、平均処理部12と、フィルタ設定部13と、クラッタ抑圧処理部14と、目標検出部15とを備えている。
【0018】
局部発振部1は、周波数変換を行うための局部発振信号を発生して、送信部2および受信部5に出力する。
送信部2は、低周波の正弦波信号をパルス変調して低周波送信パルス信号を発生する。また、送信部2は、局部発振部1からの局部発振信号を用いて、低周波送信パルス信号をギガヘルツ帯の高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する。
【0019】
サーキュレータ3は、送信部2からの高周波送信パルス信号を空中線部4に出力するとともに、空中線部4からの高周波受信パルス信号を受信部5に出力する。
空中線部4は、ビームを電子的に走査しながら、サーキュレータ3からの高周波送信パルス信号を空間に放射する。また、空中線部4は、空間中に存在する目標物で反射した高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する。
【0020】
受信部5は、局部発振部1からの局部発振信号を用いて、空中線部4からの高周波受信パルス信号を低周波帯(数十〜数百メガヘルツ)の低周波受信パルス信号に周波数変換する。また、受信部5は、低周波受信パルス信号をAD変換(アナログ−デジタル変換)し、デジタル化された低周波受信パルス信号を出力する。
【0021】
以下、図2を参照しながら、受信部5による低周波受信パルス信号のAD変換処理について説明する。
図2は、この発明の実施の形態1に係る低周波受信パルス信号のAD変換処理を示す説明図である。
図2において、低周波送信パルス信号は、パルス繰り返し時間間隔で発生され、高周波送信パルス信号に周波数変換されて送信される。また、目標物で反射して受信された高周波受信パルス信号は、低周波受信パルス信号に周波数変換される。
【0022】
ここで、パルス繰り返し時間は、10の区間に分割されており、1区間がサンプリング間隔に相当する。また、これら10区間のうち、低周波送信パルス信号の発生タイミングを除く9区間は、レーダ装置からの距離(第1距離〜第9距離)に対応している。
すなわち、低周波受信パルス信号をAD変換することにより、レーダからの距離毎の情報が得られる。また、AD変換した低周波受信パルス信号をパルス繰り返し時間毎に並べ替えることにより、同一距離におけるパルス繰り返し時間毎の時系列データが、各距離について作成される。
図2には、例として、デジタル化された低周波受信パルス信号がパルス繰り返し時間毎に並べ替えられて作成された第5距離における時系列データを示す。この時系列データのサンプリング時間間隔は、パルス繰り返し時間と一致する。
【0023】
気象クラッタ検出部6は、受信部5でデジタル化されてパルス繰り返し時間毎に並べ替えられた低周波送信パルス信号から、雨粒や雲等で反射した不要な信号である気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する。
気象クラッタのドップラー周波数は、前述したパルスペア方式を用いて、次式(1)のように算出される。また、気象クラッタのドップラー周波数は、レーダ装置からの各距離について算出される。
【0024】
【数1】
【0025】
式(1)において、fd(x)は第x距離における気象クラッタのドップラー周波数、Tsはパルス繰り返し時間、argは複素数値の位相角、Mはパルスヒット数、v(x,k)は第x距離におけるkヒット目の低周波受信パルス信号、*は複素共役を示している。
また、気象クラッタの強度は、各距離について低周波受信パルス信号の電力または電圧を測定することによって求められる。
なお、気象クラッタのドップラー周波数および強度は、ビームが走査範囲(ビーム覆域)を走査するビーム走査毎に、各距離および各方位について測定される。
【0026】
気象クラッタマップ作成部7は、気象クラッタ検出部6から出力された気象クラッタのドップラー周波数および強度のデータに基づいて、ドップラー周波数および強度の距離特性を示す気象クラッタマップを、方位毎に作成する。
以下、図3を参照しながら、気象クラッタマップ作成部7で作成される気象クラッタマップについて説明する。
【0027】
図3は、この発明の実施の形態1に係る気象クラッタマップを示す説明図である。図3では、例として、i番目の方位(第i方位)における気象クラッタマップを示す。
図3において、気象クラッタマップは、距離方向を横軸とし、ドップラー周波数および強度をそれぞれ縦軸として方位毎に作成されている。また、距離方向の各レンジセルは、図2で示した第1距離〜第9距離にそれぞれ対応している。
【0028】
第1折り返し補正部8は、気象クラッタマップ作成部7で作成された気象クラッタマップに基づいて、気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を距離方向および方位方向について実行し、第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度を出力する。第1折り返し補正部8は、ビーム走査毎にこの折り返し補正処理を実行する。また、第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度は、ビーム走査毎にデータ記憶部11に記憶される。
【0029】
気象クラッタの折り返しには、距離の折り返しおよびドップラー周波数の折り返しがある。距離の折り返しは、前に送信された高周波送信パルス信号が非常に遠い物体で反射し、次に送信された高周波送信パルス信号に混入して受信される場合に発生するものである。
ここで、距離の折り返しを抑制するために、パルス繰り返し時間を大きくすることが考えられるが、この場合には、ドップラー周波数の折り返しが発生する。
【0030】
ドップラー周波数の折り返しは、次式(2)で表される最大折り返し周波数fmaxよりも高いドップラー周波数が正確に認識されないために発生するものである。
式(2)において、Tsはパルス繰り返し時間を示している。
【0031】
【数2】
【0032】
すなわち、図4に示すように、真のドップラー周波数に対して、ドップラー周波数の測定値は、−fmax〜fmaxの値をとる。そのため、最大折り返し周波数fmaxよりも大きなドップラー周波数を直接測定することができない。
ドップラー周波数の折り返しが発生すると、真のドップラー周波数に最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値が加算または減算されるので、折り返しの発生前後で距離方向に不連続な領域が生じる。
【0033】
そこで、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しを検出するとともに、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を距離方向について実行する。
以下、図5を参照しながら、第1折り返し補正部8によるドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理について説明する。
【0034】
図5は、この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
図5において、まず、第1折り返し補正部8は、距離毎に気象クラッタの強度とあらかじめ設定されたしきい値とを比較し、気象クラッタの強度がしきい値よりも小さい場合に、その気象クラッタのドップラー周波数および強度をノイズとして除去する。また、第1折り返し補正部8は、残った気象クラッタの強度のうち、強度が最大の距離(レンジセル)を検出し、この距離におけるドップラー周波数を基準(真)値とする。以下、このドップラー周波数の基準値を基準ドップラー周波数と表記する。
【0035】
続いて、第1折り返し補正部8は、着目する距離におけるドップラー周波数fnと、ドップラー周波数fnに隣接するドップラー周波数fmとを比較する。第1折り返し補正部8は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(3)が成り立つ場合に、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0036】
|fn−fm|>fmax ・・・(3)
【0037】
第1折り返し補正部8は、最初に上記基準ドップラー周波数と、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数とを比較する。このとき、着目する距離におけるドップラー周波数fnが基準ドップラー周波数となり、ドップラー周波数fnに隣接するドップラー周波数fmが基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数となる。
【0038】
第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、ドップラー周波数fmを補正しない。
また、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、ドップラー周波数fmがドップラー周波数fnに最も近くなるように、ドップラー周波数fmに最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算して、次式(4)で表されるドップラー周波数fpに補正する。
式(4)において、sは1または−1である。
【0039】
fp=fm+2sfmax ・・・(4)
【0040】
次に、第1折り返し補正部8は、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数と、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数にさらに隣接する(すなわち、基準ドップラー周波数の2つ隣の)ドップラー周波数とを比較する。このとき、着目する距離におけるドップラー周波数fnは、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数(fmまたはfp)となる。第1折り返し補正部8は、以下、同様にして次々と隣接する距離方向のドップラー周波数を補正する。
【0041】
なお、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定値には、ノイズ等による誤差が含まれているので、ドップラー周波数および強度は、不連続な値をとることがある。この不連続な値を、ドップラー周波数の折り返しが発生していると誤って判断すると、ドップラー周波数を適切に補正することができない。
そのため、ドップラー周波数および強度の測定値に対して、既存の処理であるメジアンフィルタ処理等のノイズ除去処理を事前に施す必要がある。
【0042】
以上、図5を参照しながら、ドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理について説明した。しかしながら、距離方向の折り返し補正処理を実行した場合であっても、隣接する方位で折り返しの向き(プラス方向側およびマイナス方向側のいずれかの向き)が一致しないので、方位方向でドップラー周波数が不連続な値をとる可能性がある。
【0043】
そこで、第1折り返し補正部8は、距離方向についてドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行した後に、方位方向についてドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
以下、図6を参照しながら、第1折り返し補正部8によるドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理について説明する。
【0044】
図6は、この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
図6において、まず、第1折り返し補正部8は、着目する第i方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fiと、第i方位に隣接する第i+1方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+1とを比較する。第1折り返し補正部8は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(5)が成り立つ場合に、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0045】
|fi+1−fi|>fmax ・・・(5)
【0046】
第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、ドップラー周波数fi+1を補正しない。
また、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、第i+1方位のドップラー周波数が第i方位のドップラー周波数に最も近くなるように、第i+1方位のドップラー周波数を補正する。具体的には、第i+1方位における各距離のドップラー周波数のそれぞれに、最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算する。第i+1方位における各距離の補正後のドップラー周波数fi+1(x)は、次式(6)で表される。
【0047】
fi+1(x)=fi+1,x+2tfmax ・・・(6)
【0048】
式(6)において、fi+1,xは第i+1方位における第x距離のドップラー周波数を示している。また、式(6)において、tは1または−1である。
次に、第1折り返し補正部8は、第i+1方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+1と、第i+1方位に隣接する第i+2方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+2とを比較する。第1折り返し補正部8は、以下、同様にして次々と隣接する方位方向のドップラー周波数を補正する。
【0049】
切り換えスイッチ9は、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数の進路を切り換えて、第2折り返し補正部10およびフィルタ設定部13のいずれか一方に出力する。
切り換えスイッチ9をフィルタ設定部13側に切り換えた場合には、ビーム走査毎に折り返し補正処理が実行された気象クラッタのドップラー周波数、および気象クラッタの強度に基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数が算出される。
一方、切り換えスイッチ9を第2折り返し補正部10側に切り換えた場合には、ビーム走査間で折り返し補正処理が実行され、平均化処理された気象クラッタのドップラー周波数(ドップラー周波数平均値)、および平均化処理された気象クラッタの強度に基づいて、フィルタ係数が算出される。
【0050】
第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度を出力する。
前述の第1折り返し補正部8は、気象クラッタのドップラー周波数に対する距離方向および方位方向の折り返し補正処理をビーム走査毎に実行している。しかしながら、ビーム走査毎に折り返しの向きがプラス方向側またはマイナス方向側となり、ビーム走査間で見ると、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生している可能性がある。
【0051】
そこで、第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
以下、図7を参照しながら、第2折り返し補正部10による第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理について説明する。
図7は、この発明の実施の形態1に係る第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を示す説明図である。
【0052】
図7において、まず、第2折り返し補正部10は、j回目のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数と、j+1回目のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数とを方位毎に比較する。具体的には、j回目のビーム走査において第i方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj,iと、j+1回目のビーム走査において第i方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj+1,iとを比較する。
第2折り返し補正部10は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(7)が成り立つ場合に、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0053】
|fj+1,i−fj,i|>fmax ・・・(7)
【0054】
第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、第1補正後ドップラー周波数fj+1,iを補正しない。
また、第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、j+1回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数が、j回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数に最も近くなるように、j+1回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数を補正する。具体的には、j+1回目のビーム走査の第i方位における各距離の第1補正後ドップラー周波数のそれぞれに、最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算する。j+1回目のビーム走査の第i方位における各距離の補正後の第1補正後ドップラー周波数fj+1,i(x)は、次式(8)で表される。
【0055】
fi+1,i(x)=fj+1,i,x+2ufmax ・・・(8)
【0056】
式(8)において、fj+1,i,xは、j+1回目のビーム走査における第i方位、第x距離の第1補正後ドップラー周波数を示している。また、式(8)において、uは1または−1である。
なお、第2折り返し補正部10によるビーム走査間の折り返し補正処理は、ビーム走査回数が2回以上になると実行することができる。すなわち、第2折り返し補正部10は、ビーム走査回数が2回以上になると、データ記憶部11に記憶された第1補正後ドップラー周波数を読み出す。また、第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行した後、第2補正後ドップラー周波数としてデータ記憶部11に格納する。
【0057】
データ記憶部11は、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度、および第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数を記憶する。
【0058】
平均処理部12は、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値および強度平均値を出力する。平均処理部12は、ビーム走査間での同一距離および同一方位における第2補正後ドップラー周波数どうし、および強度どうしを平均する。
なお、平均化処理に用いるビーム走査回数は、固定の値であるとする。平均化処理に用いるビーム走査回数が多いほど、信号処理に用いるパルスヒット数が増加するので、気象クラッタのドップラー周波数の測定精度を向上させることができる。
【0059】
フィルタ設定部13は、受信部5からのデジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出する。
フィルタ設定部13は、第1折り返し補正部8からの第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度が入力された場合には、第1補正後ドップラー周波数に減衰特性を有し、気象クラッタの強度以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。
【0060】
また、フィルタ設定部13は、平均処理部12からのドップラー周波数平均値および強度平均値が入力された場合には、ドップラー周波数平均値に減衰特性を有し、強度平均値以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。
ここで、例えば公知のFIR型またはIIR型のデジタルフィルタにおけるフィルタ係数を設定することにより、気象クラッタを抑圧するフィルタが設定される。
【0061】
クラッタ抑圧処理部14は、フィルタ設定部13で算出された帯域制限フィルタのフィルタ係数に基づいて、受信部5からのデジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力する。
【0062】
すなわち、切り換えスイッチ9が第2折り返し補正部10側に切り換えられている場合、クラッタ抑圧処理部14には、n回目までの過去の複数回のビーム走査に対してビーム走査間で平均化された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に応じた帯域制限フィルタが設定されている。また、クラッタ抑圧処理部14は、この帯域制限フィルタを用いて、n+1回目のビーム走査で受信部5から出力されるデジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行する。この結果、デジタル化された低周波受信パルス信号から気象クラッタ成分が抑圧される。
【0063】
目標検出部15は、クラッタ抑圧処理部14から出力された抑圧後受信パルス信号に基づいて、目標物を検出する。
目標検出部15は、例えば公知のCFAR(Constant False Alarm Rate)処理等の方法によって、目標物を検出する。
【0064】
この発明の実施の形態1に係るレーダ装置によれば、第1折り返し補正部8は、気象クラッタマップ作成部7からの気象クラッタマップに基づいて、ビーム走査毎に気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する。第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する。また、平均処理部12は、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。クラッタ抑圧処理部14は、ドップラー周波数平均値に基づいてフィルタ設定部13で算出されたフィルタ係数に応じて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧する。
そのため、ビーム走査間で正確なドップラー周波数平均値を得ることができるので、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定することができる。
また、このドップラー周波数平均値に基づいて帯域制限フィルタのフィルタ係数を正確に算出することにより、気象クラッタを適切に抑圧することができる。
【0065】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、平均処理部12において、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理に用いるビーム走査回数は、固定の値であるとした。しかしながら、これに限定されず、平均化処理に用いるビーム走査回数は、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて任意に設定されてもよい。
以下、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて平均化処理に用いるビーム走査回数を可変設定する処理について説明する。
【0066】
図8は、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図8において、このレーダ装置は、図1に示した平均処理部12に代えて、平均処理部12Aを備えている。また、このレーダ装置は、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理に用いるビーム走査回数を設定し、平均処理部12Aに出力する平均回数制御部16を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0067】
一般的に、気象クラッタを抑制するためのフィルタ係数は、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度が高いほど正確な値となる。気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度を向上させるための方法として、平均化処理に用いるパルスヒット数を増加させることが考えられる。パルスヒット数を増加させるためには、平均化処理に用いるビーム走査回数を増加させればよい。
【0068】
そこで、平均回数制御部16は、目標検出部15における目標物の検出結果、具体的には、クラッタ抑圧処理部14からの抑圧後受信パルス信号における気象クラッタの消え残りの大きさに応じて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。平均処理部12Aは、平均回数制御部16で設定されたビーム走査回数に応じて、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行する。
【0069】
このため、抑圧後受信パルス信号における所望信号対クラッタ信号の電力比で表される気象クラッタの消え残りの大きさを、平均化処理に用いるビーム走査回数と対応付けてあらかじめ設定しておく。平均回数制御部16は、所望信号対クラッタ信号の電力比を実際に測定した結果に基づいて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。なお、所望信号とは、目標物を示す信号であり、クラッタ信号とは、気象クラッタを示す信号である。
【0070】
ここで、抑圧後受信パルス信号における所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係を図9に例示する。
図9において、所望信号対クラッタ信号の電力比が小さいほど、所望信号が気象クラッタに埋もれているので、平均化処理に用いるビーム走査回数が大きく設定されている。
なお、所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係は、図9に示されたものに限定されず、レーダ装置の仕様や電波環境等に応じて変更される。
【0071】
この発明の実施の形態2に係るレーダ装置によれば、平均回数制御部16は、目標検出部15における目標物の検出結果、すなわち気象クラッタの消え残りの大きさを示す所望信号対クラッタ信号の電力比に応じて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。
そのため、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度を向上させることができるとともに、気象クラッタを抑圧するための帯域フィルタのフィルタ係数をより正確に算出することができる。
【0072】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、第2折り返し補正部10は、隣接する2回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返しの発生を判断し、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行していた。しかしながら、これに限定されず、2回以上の複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を一度に判定し、この折り返し方向に基づいて、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行してもよい。
以下、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定し、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する処理について説明する。
【0073】
図10は、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図10において、このレーダ装置は、図1に示した第2折り返し補正部10に代えて、第2折り返し補正部10Bを備えている。また、このレーダ装置は、折り返し方向判定部17を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0074】
折り返し方向判定部17は、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する。また、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査として決定したビーム走査の回数番号、および第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査の回数番号を第2折り返し補正部10Bに出力する。第2折り返し補正部10Bは、基準として決定したビーム走査の値を基準にして、折り返し補正処理が必要と判断されたビーム走査についてのみ、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
【0075】
以下、図11を参照しながら、折り返し方向判定部17の動作について詳細に説明する。
図11は、この発明の実施の形態3に係る折り返し方向判定部17の動作を示す説明図である。ここでは、3回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定し、基準のビーム走査および折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査を決定する処理について説明する。
【0076】
図11において、まず、折り返し方向判定部17には、データ記憶部11から、複数回のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度が入力される。続いて、折り返し方向判定部17は、各々のビーム走査における気象クラッタの強度を比較し、最大の強度が含まれているビーム走査を基準のビーム走査として決定する。
具体的には、j−1回目、j回目、j+1回目のビーム走査のうち、強度が最大の気象クラッタを測定したビーム走査を基準のビーム走査とする。ここでは、j−1回目の第p方位において気象クラッタの強度が最大になったとし、j−1回目のビーム走査を基準のビーム走査と決定する。
【0077】
続いて、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査において気象クラッタの強度が最大である方位と同じ方位に限定して、基準のビーム走査と他のビーム走査との間で、気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数を比較する。折り返し方向判定部17は、互いの差の絶対値が前述した式(2)に示す最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合に、他のビーム走査を、折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査と決定する。
【0078】
具体的には、j−1回目のビーム走査において第p方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj−1,pと、j回目およびj+1回目のビーム走査において第p方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj,p、fj+1,pとをそれぞれ比較する。ここでは、j回目のビーム走査において第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生しているので、j回目のビーム走査を、折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査と決定する。
【0079】
この発明の実施の形態3に係るレーダ装置によれば、折り返し方向判定部17は、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する。また、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査として決定したビーム走査の回数番号、および第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査の回数番号を第2折り返し補正部10Bに出力する。
そのため、2回以上の複数回のビーム走査について第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する場合に、第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向および折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査が分かった上で、折り返し補正処理を実行することができる。
したがって、折り返し方向を逐一決定して折り返し補正処理を実行する場合と比較して、手順を簡素化することができる。
【0080】
実施の形態4.
上記実施の形態1では、フィルタ設定部13において、ドップラー周波数平均値に減衰特性を有し、強度平均値以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数が算出されるとした。しかしながら、これに限定されず、気象クラッタの周波数幅を測定して、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定してもよい。
以下、気象クラッタの周波数幅を測定して、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定する処理について説明する。
【0081】
図12は、この発明の実施の形態4に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図12において、このレーダ装置は、図1に示した気象クラッタ検出部6、気象クラッタマップ作成部7および平均処理部12に代えて、気象クラッタ検出部6C、気象クラッタマップ作成部7Cおよび平均処理部12Cを備えている。また、このレーダ装置は、フィルタ形状算出部19を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0082】
気象クラッタ検出部6Cは、受信部5でデジタル化されてパルス繰り返し時間毎に並べ替えられた低周波送信パルス信号から、気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数、強度および周波数幅を出力する。
ここで、気象クラッタのドップラー周波数および強度は、前述した実施の形態1で示した方法によって算出される。一方、気象クラッタの周波数幅は、低周波送信パルス信号を使用して、前述したパルスペア方式により、次式(9)のように算出される。なお、気象クラッタの周波数幅は、ビーム走査毎に、各距離および各方位について測定される。
【0083】
【数3】
【0084】
式(9)において、σf(x)は第x距離における気象クラッタの周波数幅、Tsはパルス繰り返し時間、R(x,Ts)は第x距離においてパルス繰り返し時間Tsをタイムラグとした受信パルス列の自己相関、R(x,0)は第x距離における受信パルス列の自己相関を示している。また、記号| |は絶対値を示している。
なお、式(9)におけるR(x,Ts)およびR(x,0)は、次式(10)および次式(11)でそれぞれ表される。
【0085】
【数4】
【数5】
【0086】
式(10)および式(11)において、Tsはパルス繰返し時間、argは複素数値の位相角、Mはパルスヒット数、v(x,k)は第x距離におけるkヒット目の低周波受信パルス信号、*は複素共役を示している。
気象クラッタマップ作成部7Cは、気象クラッタ検出部6Cから出力された気象クラッタのドップラー周波数、強度および周波数幅のデータに基づいて、ドップラー周波数、強度および周波数幅の距離特性を示す気象クラッタマップを、方位毎に作成する。
ここで、第i方位における周波数幅の距離特性を示す気象クラッタマップを図13に例示する。
【0087】
また、平均処理部12Cは、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行するとともに、複数のビーム走査間で気象クラッタの周波数幅に対する平均化処理を実行し、周波数幅平均値を出力する。
【0088】
フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Cから出力されるドップラー周波数平均値、強度平均値および周波数幅平均値に基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ形状を算出する。すなわち、ドップラー周波数平均値に一致するようにフィルタの中心周波数を設定し、強度平均値以上となるように減衰量を設定し、周波数幅平均値以上となるようにフィルタの帯域幅を設定する。なお、フィルタの設定は、各方位について距離毎に行われる。
【0089】
また、フィルタ設定部13は、前述した実施の形態1で示した方法で、帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。すなわち、例えば公知のFIR型またはIIR型のデジタルフィルタにおけるフィルタ係数を設定し、気象クラッタを抑圧するフィルタを設定する。
【0090】
この発明の実施の形態4に係るレーダ装置によれば、気象クラッタ検出部6Cは、気象クラッタの周波数幅を測定する。また、フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Cで平均化された周波数幅平均値を用いて、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定する。
そのため、気象クラッタを抑圧するフィルタの形状を正確に設定することができる。
【0091】
実施の形態5.
上記実施の形態4では、フィルタ形状算出部19は、気象クラッタの強度および周波数幅について、平均処理部12Cで平均化された強度平均値および周波数幅平均値を用いてフィルタ形状を算出するとした。しかしながら、これに限定されず、気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を検出し、これらの最大値を用いてフィルタ形状を算出してもよい。
以下、気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を用いてフィルタ形状を算出する処理について説明する。
【0092】
図14は、この発明の実施の形態5に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図14において、このレーダ装置は、図12に示した平均処理部12Cおよびフィルタ形状算出部19に代えて、平均処理部12Dおよびフィルタ形状算出部19Dを備えている。また、このレーダ装置は、最大値検出部20を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態4と同様であり、その説明を省略する。
【0093】
平均処理部12Dは、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。
最大値検出部20は、複数のビーム走査(ビーム走査間で平均化処理を実行しようとした場合のビーム走査回数)で、各方位について距離毎に気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を検出し、強度最大値および周波数幅最大値を出力する。
【0094】
フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Dから出力されるドップラー周波数平均値と、最大値検出部20から出力される強度最大値および周波数幅最大値とに基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ形状を算出する。すなわち、ドップラー周波数平均値に一致するようにフィルタの中心周波数を設定し、強度最大値以上となるように減衰量を設定し、周波数幅最大値以上となるようにフィルタの帯域幅を設定する。なお、フィルタの設定は、各方位について距離毎に行われる。
【0095】
この発明の実施の形態5に係るレーダ装置によれば、フィルタ形状算出部19Dは、最大値検出部20で検出された強度最大値および周波数幅最大値を用いて、気象クラッタを抑圧するフィルタの減衰量および帯域幅を設定する。
そのため、フィルタの減衰特性を十分に確保することができ、気象クラッタの抑圧性能を向上させることができる。
【0096】
なお、フィルタ形状算出部19は、気象クラッタの時間的な変動に応じて、強度平均値および周波数幅平均値と、強度最大値および周波数幅最大値との何れかを選択してフィルタ形状を算出してもよい。
この場合も、上記実施の形態4または5と同様の効果を奏することができる。
【0097】
なお、上記実施の形態1〜5では、レンジセルの数を9としているが、これに限定されない。レンジセルの数は、任意の値に設定することができる。
この場合も、上記実施の形態1〜5と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る低周波受信パルス信号のAD変換処理を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る気象クラッタマップを示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る真のドップラー周波数とドップラー周波数の測定値との関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る折り返し方向判定部の動作を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態4に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4に係る周波数幅の距離特性を示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態5に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0099】
1 局部発振部、2 送信部、4 空中線部、5 受信部、6、6C 気象クラッタ検出部、8 第1折り返し補正部、10、10B 第2折り返し補正部、12、12A、12C、12D 平均処理部、13 フィルタ設定部、14 クラッタ抑圧処理部、15 目標検出部、16 平均回数制御部、17 折り返し方向判定部、19、19D フィルタ形状算出部、20 最大値検出部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば艦船等に搭載され、電磁波を送受信して目標物までの距離等を測定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁波の送受信によって目標物までの距離を測定する装置として、レーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、パルス信号を空間に送信し、目標物で反射したパルス信号を受信して、受信したパルス信号の空間伝搬時間を測定することにより、目標物までの距離を測定している。
受信したパルス信号には、目標物で反射したパルス信号の他に、例えば、雨粒や雲等で反射した信号(気象クラッタ)が含まれている。目標物で反射したパルス信号がこの気象クラッタに埋もれると、目標物までの距離を測定することが困難になる。
【0003】
そこで、気象クラッタを抑圧するために、フィルタが利用されている。このフィルタの中心周波数は、気象クラッタのドップラー周波数によって決まる値であり、フィルタの特性を決める重要なパラメータの1つである。すなわち、フィルタの中心周波数を正確に決定するためには、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定する必要がある。
【0004】
気象クラッタのドップラー周波数を測定する方法としては、気象レーダで降雨量などの測定に広く利用されているパルスペア方式を利用する方法がある。パルスペア方式では、同一距離から反射した2つの連続するパルス信号を受信し、パルス信号の位相差を検出してドップラー周波数を測定している(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、ドップラー周波数を高精度に測定するために、レーダ覆域中の距離方向および方位方向について、気象クラッタのドップラー周波数の測定値を平均化する処理が実行されている。
ドップラー周波数の測定値を平均化するものとして、従来のレーダ信号処理装置は、クラッタのドップラー周波数を距離方向に測定した後、ドップラー周波数の測定値に対してレンジブロック単位で平均化処理を実行する平均処理部を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、パルスペア方式を用いて気象クラッタのドップラー周波数を測定する場合には、パルス繰り返し周波数に対応してドップラー周波数の測定値の符号が反転し、距離方向または方位方向で値が不連続となる折り返し現象が発生する恐れがある。折り返し現象が発生すると、ドップラー周波数の測定値を平均化した場合に、符号が反転した箇所では、正確なドップラー周波数の平均値を得ることができず、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0007】
そこで、ドップラー周波数を高精度に測定するために、ドップラー周波数の測定値に対する平均化処理に先立って、ドップラー周波数の測定値に対する折り返し補正処理が実行されている。折り返し補正処理では、距離方向または方位方向で値が連続となるように、符号が反転したドップラー周波数の測定値に対して補正値を加算している(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
なお、上記従来のレーダ装置では、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理は、レーダ装置のビーム走査毎(レーダ装置のビームがレーダ覆域を1周する毎)に実行されている。
【0009】
【非特許文献1】気象研究所編集、「気象研究所技術報告(第19号)ドップラーレーダによる気象・海象の研究」、気象研究所、1986年3月31日、p.10‐13、p.63‐64
【特許文献1】特開2001−201568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、気象レーダ等のレーダ装置では、低速でアンテナを回転させながら各方位についてパルス信号を送受信しているので、1回のビーム走査で大量のパルス信号を送受信することができる。そのため、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理を実行して、ドップラー周波数を高精度に測定することができる。
【0011】
これに対して、例えば艦船等に搭載される捜索用のレーダ装置では、高速でアンテナを回転させながら各方位についてパルス信号を送受信している。そのため、ビーム走査1回あたりの時間が短くなり、送受信されるパルス信号の数(パルスヒット数)が気象レーダの場合よりも減少する。したがって、気象クラッタのドップラー周波数の測定値に対する平均化処理および折り返し補正処理を実行した場合であっても、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0012】
そこで、艦船等に搭載されるレーダ装置において気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定するための方法として、複数回のビーム走査によって測定されたドップラー周波数どうしを平均化すること、すなわちビーム走査間(複数回のビーム走査の間)でドップラー周波数の測定値を平均化することが考えられる。しかしながら、ビーム走査間でドップラー周波数の測定値を平均化する場合には、ビーム走査毎に実行される折り返し補正処理による折り返し方向が、ビーム走査間で必ずしも同じ方向にならない。そのため、ビーム走査間で正確なドップラー周波数の平均値を得ることができず、ドップラー周波数を高精度に測定することができないという問題点があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定し、気象クラッタを適切に抑圧することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るレーダ装置は、周波数変換を行うための局部発振信号を発生して出力する局部発振部と、低周波送信パルス信号を発生するとともに、局部発振信号を用いて低周波送信パルス信号を高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する送信部と、高周波送信パルス信号を空間に放射するとともに、目標物で反射した高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する空中線部と、局部発振信号を用いて高周波受信パルス信号を低周波受信パルス信号に周波数変換するとともに、低周波受信パルス信号をAD変換して出力する受信部と、デジタル化された低周波受信パルス信号から不要な信号である気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部と、ビームがレーダ覆域を走査するビーム走査毎に、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部と、複数回のビーム走査の間であるビーム走査間で、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部と、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部と、第1補正後ドップラー周波数およびドップラー周波数平均値のいずれか一方に基づいて、デジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出するフィルタ設定部と、フィルタ係数に基づいて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力するクラッタ抑圧処理部と、抑圧後受信パルス信号に基づいて目標物を検出する目標検出部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明のレーダ装置によれば、第1折り返し補正部は、ビーム走査毎に気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する。第2折り返し補正部は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する。また、平均処理部は、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。クラッタ抑圧処理部は、ドップラー周波数平均値に基づいて算出されたフィルタ係数に応じて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧する。
そのため、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定し、気象クラッタを適切に抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の各実施の形態について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当する部材、部位については、同一符号を付して説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図1において、このレーダ装置は、局部発振部1と、送信部2と、サーキュレータ3と、空中線部4と、受信部5と、気象クラッタ検出部6と、気象クラッタマップ作成部7と、第1折り返し補正部8と、切り換えスイッチ9と、第2折り返し補正部10と、データ記憶部11と、平均処理部12と、フィルタ設定部13と、クラッタ抑圧処理部14と、目標検出部15とを備えている。
【0018】
局部発振部1は、周波数変換を行うための局部発振信号を発生して、送信部2および受信部5に出力する。
送信部2は、低周波の正弦波信号をパルス変調して低周波送信パルス信号を発生する。また、送信部2は、局部発振部1からの局部発振信号を用いて、低周波送信パルス信号をギガヘルツ帯の高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する。
【0019】
サーキュレータ3は、送信部2からの高周波送信パルス信号を空中線部4に出力するとともに、空中線部4からの高周波受信パルス信号を受信部5に出力する。
空中線部4は、ビームを電子的に走査しながら、サーキュレータ3からの高周波送信パルス信号を空間に放射する。また、空中線部4は、空間中に存在する目標物で反射した高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する。
【0020】
受信部5は、局部発振部1からの局部発振信号を用いて、空中線部4からの高周波受信パルス信号を低周波帯(数十〜数百メガヘルツ)の低周波受信パルス信号に周波数変換する。また、受信部5は、低周波受信パルス信号をAD変換(アナログ−デジタル変換)し、デジタル化された低周波受信パルス信号を出力する。
【0021】
以下、図2を参照しながら、受信部5による低周波受信パルス信号のAD変換処理について説明する。
図2は、この発明の実施の形態1に係る低周波受信パルス信号のAD変換処理を示す説明図である。
図2において、低周波送信パルス信号は、パルス繰り返し時間間隔で発生され、高周波送信パルス信号に周波数変換されて送信される。また、目標物で反射して受信された高周波受信パルス信号は、低周波受信パルス信号に周波数変換される。
【0022】
ここで、パルス繰り返し時間は、10の区間に分割されており、1区間がサンプリング間隔に相当する。また、これら10区間のうち、低周波送信パルス信号の発生タイミングを除く9区間は、レーダ装置からの距離(第1距離〜第9距離)に対応している。
すなわち、低周波受信パルス信号をAD変換することにより、レーダからの距離毎の情報が得られる。また、AD変換した低周波受信パルス信号をパルス繰り返し時間毎に並べ替えることにより、同一距離におけるパルス繰り返し時間毎の時系列データが、各距離について作成される。
図2には、例として、デジタル化された低周波受信パルス信号がパルス繰り返し時間毎に並べ替えられて作成された第5距離における時系列データを示す。この時系列データのサンプリング時間間隔は、パルス繰り返し時間と一致する。
【0023】
気象クラッタ検出部6は、受信部5でデジタル化されてパルス繰り返し時間毎に並べ替えられた低周波送信パルス信号から、雨粒や雲等で反射した不要な信号である気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する。
気象クラッタのドップラー周波数は、前述したパルスペア方式を用いて、次式(1)のように算出される。また、気象クラッタのドップラー周波数は、レーダ装置からの各距離について算出される。
【0024】
【数1】
【0025】
式(1)において、fd(x)は第x距離における気象クラッタのドップラー周波数、Tsはパルス繰り返し時間、argは複素数値の位相角、Mはパルスヒット数、v(x,k)は第x距離におけるkヒット目の低周波受信パルス信号、*は複素共役を示している。
また、気象クラッタの強度は、各距離について低周波受信パルス信号の電力または電圧を測定することによって求められる。
なお、気象クラッタのドップラー周波数および強度は、ビームが走査範囲(ビーム覆域)を走査するビーム走査毎に、各距離および各方位について測定される。
【0026】
気象クラッタマップ作成部7は、気象クラッタ検出部6から出力された気象クラッタのドップラー周波数および強度のデータに基づいて、ドップラー周波数および強度の距離特性を示す気象クラッタマップを、方位毎に作成する。
以下、図3を参照しながら、気象クラッタマップ作成部7で作成される気象クラッタマップについて説明する。
【0027】
図3は、この発明の実施の形態1に係る気象クラッタマップを示す説明図である。図3では、例として、i番目の方位(第i方位)における気象クラッタマップを示す。
図3において、気象クラッタマップは、距離方向を横軸とし、ドップラー周波数および強度をそれぞれ縦軸として方位毎に作成されている。また、距離方向の各レンジセルは、図2で示した第1距離〜第9距離にそれぞれ対応している。
【0028】
第1折り返し補正部8は、気象クラッタマップ作成部7で作成された気象クラッタマップに基づいて、気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を距離方向および方位方向について実行し、第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度を出力する。第1折り返し補正部8は、ビーム走査毎にこの折り返し補正処理を実行する。また、第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度は、ビーム走査毎にデータ記憶部11に記憶される。
【0029】
気象クラッタの折り返しには、距離の折り返しおよびドップラー周波数の折り返しがある。距離の折り返しは、前に送信された高周波送信パルス信号が非常に遠い物体で反射し、次に送信された高周波送信パルス信号に混入して受信される場合に発生するものである。
ここで、距離の折り返しを抑制するために、パルス繰り返し時間を大きくすることが考えられるが、この場合には、ドップラー周波数の折り返しが発生する。
【0030】
ドップラー周波数の折り返しは、次式(2)で表される最大折り返し周波数fmaxよりも高いドップラー周波数が正確に認識されないために発生するものである。
式(2)において、Tsはパルス繰り返し時間を示している。
【0031】
【数2】
【0032】
すなわち、図4に示すように、真のドップラー周波数に対して、ドップラー周波数の測定値は、−fmax〜fmaxの値をとる。そのため、最大折り返し周波数fmaxよりも大きなドップラー周波数を直接測定することができない。
ドップラー周波数の折り返しが発生すると、真のドップラー周波数に最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値が加算または減算されるので、折り返しの発生前後で距離方向に不連続な領域が生じる。
【0033】
そこで、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しを検出するとともに、ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を距離方向について実行する。
以下、図5を参照しながら、第1折り返し補正部8によるドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理について説明する。
【0034】
図5は、この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
図5において、まず、第1折り返し補正部8は、距離毎に気象クラッタの強度とあらかじめ設定されたしきい値とを比較し、気象クラッタの強度がしきい値よりも小さい場合に、その気象クラッタのドップラー周波数および強度をノイズとして除去する。また、第1折り返し補正部8は、残った気象クラッタの強度のうち、強度が最大の距離(レンジセル)を検出し、この距離におけるドップラー周波数を基準(真)値とする。以下、このドップラー周波数の基準値を基準ドップラー周波数と表記する。
【0035】
続いて、第1折り返し補正部8は、着目する距離におけるドップラー周波数fnと、ドップラー周波数fnに隣接するドップラー周波数fmとを比較する。第1折り返し補正部8は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(3)が成り立つ場合に、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0036】
|fn−fm|>fmax ・・・(3)
【0037】
第1折り返し補正部8は、最初に上記基準ドップラー周波数と、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数とを比較する。このとき、着目する距離におけるドップラー周波数fnが基準ドップラー周波数となり、ドップラー周波数fnに隣接するドップラー周波数fmが基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数となる。
【0038】
第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、ドップラー周波数fmを補正しない。
また、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、ドップラー周波数fmがドップラー周波数fnに最も近くなるように、ドップラー周波数fmに最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算して、次式(4)で表されるドップラー周波数fpに補正する。
式(4)において、sは1または−1である。
【0039】
fp=fm+2sfmax ・・・(4)
【0040】
次に、第1折り返し補正部8は、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数と、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数にさらに隣接する(すなわち、基準ドップラー周波数の2つ隣の)ドップラー周波数とを比較する。このとき、着目する距離におけるドップラー周波数fnは、基準ドップラー周波数に隣接するドップラー周波数(fmまたはfp)となる。第1折り返し補正部8は、以下、同様にして次々と隣接する距離方向のドップラー周波数を補正する。
【0041】
なお、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定値には、ノイズ等による誤差が含まれているので、ドップラー周波数および強度は、不連続な値をとることがある。この不連続な値を、ドップラー周波数の折り返しが発生していると誤って判断すると、ドップラー周波数を適切に補正することができない。
そのため、ドップラー周波数および強度の測定値に対して、既存の処理であるメジアンフィルタ処理等のノイズ除去処理を事前に施す必要がある。
【0042】
以上、図5を参照しながら、ドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理について説明した。しかしながら、距離方向の折り返し補正処理を実行した場合であっても、隣接する方位で折り返しの向き(プラス方向側およびマイナス方向側のいずれかの向き)が一致しないので、方位方向でドップラー周波数が不連続な値をとる可能性がある。
【0043】
そこで、第1折り返し補正部8は、距離方向についてドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行した後に、方位方向についてドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
以下、図6を参照しながら、第1折り返し補正部8によるドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理について説明する。
【0044】
図6は、この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
図6において、まず、第1折り返し補正部8は、着目する第i方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fiと、第i方位に隣接する第i+1方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+1とを比較する。第1折り返し補正部8は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(5)が成り立つ場合に、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0045】
|fi+1−fi|>fmax ・・・(5)
【0046】
第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、ドップラー周波数fi+1を補正しない。
また、第1折り返し補正部8は、ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、第i+1方位のドップラー周波数が第i方位のドップラー周波数に最も近くなるように、第i+1方位のドップラー周波数を補正する。具体的には、第i+1方位における各距離のドップラー周波数のそれぞれに、最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算する。第i+1方位における各距離の補正後のドップラー周波数fi+1(x)は、次式(6)で表される。
【0047】
fi+1(x)=fi+1,x+2tfmax ・・・(6)
【0048】
式(6)において、fi+1,xは第i+1方位における第x距離のドップラー周波数を示している。また、式(6)において、tは1または−1である。
次に、第1折り返し補正部8は、第i+1方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+1と、第i+1方位に隣接する第i+2方位において気象クラッタの強度が最大となる距離におけるドップラー周波数fi+2とを比較する。第1折り返し補正部8は、以下、同様にして次々と隣接する方位方向のドップラー周波数を補正する。
【0049】
切り換えスイッチ9は、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数の進路を切り換えて、第2折り返し補正部10およびフィルタ設定部13のいずれか一方に出力する。
切り換えスイッチ9をフィルタ設定部13側に切り換えた場合には、ビーム走査毎に折り返し補正処理が実行された気象クラッタのドップラー周波数、および気象クラッタの強度に基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数が算出される。
一方、切り換えスイッチ9を第2折り返し補正部10側に切り換えた場合には、ビーム走査間で折り返し補正処理が実行され、平均化処理された気象クラッタのドップラー周波数(ドップラー周波数平均値)、および平均化処理された気象クラッタの強度に基づいて、フィルタ係数が算出される。
【0050】
第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度を出力する。
前述の第1折り返し補正部8は、気象クラッタのドップラー周波数に対する距離方向および方位方向の折り返し補正処理をビーム走査毎に実行している。しかしながら、ビーム走査毎に折り返しの向きがプラス方向側またはマイナス方向側となり、ビーム走査間で見ると、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生している可能性がある。
【0051】
そこで、第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
以下、図7を参照しながら、第2折り返し補正部10による第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理について説明する。
図7は、この発明の実施の形態1に係る第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を示す説明図である。
【0052】
図7において、まず、第2折り返し補正部10は、j回目のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数と、j+1回目のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数とを方位毎に比較する。具体的には、j回目のビーム走査において第i方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj,iと、j+1回目のビーム走査において第i方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj+1,iとを比較する。
第2折り返し補正部10は、両者の差の絶対値が最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合、すなわち次式(7)が成り立つ場合に、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断する。
【0053】
|fj+1,i−fj,i|>fmax ・・・(7)
【0054】
第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していないと判断した場合には、第1補正後ドップラー周波数fj+1,iを補正しない。
また、第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生していると判断した場合には、j+1回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数が、j回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数に最も近くなるように、j+1回目のビーム走査における第i方位の第1補正後ドップラー周波数を補正する。具体的には、j+1回目のビーム走査の第i方位における各距離の第1補正後ドップラー周波数のそれぞれに、最大折り返し周波数fmaxを偶数倍した値を加算または減算する。j+1回目のビーム走査の第i方位における各距離の補正後の第1補正後ドップラー周波数fj+1,i(x)は、次式(8)で表される。
【0055】
fi+1,i(x)=fj+1,i,x+2ufmax ・・・(8)
【0056】
式(8)において、fj+1,i,xは、j+1回目のビーム走査における第i方位、第x距離の第1補正後ドップラー周波数を示している。また、式(8)において、uは1または−1である。
なお、第2折り返し補正部10によるビーム走査間の折り返し補正処理は、ビーム走査回数が2回以上になると実行することができる。すなわち、第2折り返し補正部10は、ビーム走査回数が2回以上になると、データ記憶部11に記憶された第1補正後ドップラー周波数を読み出す。また、第2折り返し補正部10は、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行した後、第2補正後ドップラー周波数としてデータ記憶部11に格納する。
【0057】
データ記憶部11は、第1折り返し補正部8から出力された第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度、および第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数を記憶する。
【0058】
平均処理部12は、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値および強度平均値を出力する。平均処理部12は、ビーム走査間での同一距離および同一方位における第2補正後ドップラー周波数どうし、および強度どうしを平均する。
なお、平均化処理に用いるビーム走査回数は、固定の値であるとする。平均化処理に用いるビーム走査回数が多いほど、信号処理に用いるパルスヒット数が増加するので、気象クラッタのドップラー周波数の測定精度を向上させることができる。
【0059】
フィルタ設定部13は、受信部5からのデジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出する。
フィルタ設定部13は、第1折り返し補正部8からの第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度が入力された場合には、第1補正後ドップラー周波数に減衰特性を有し、気象クラッタの強度以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。
【0060】
また、フィルタ設定部13は、平均処理部12からのドップラー周波数平均値および強度平均値が入力された場合には、ドップラー周波数平均値に減衰特性を有し、強度平均値以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。
ここで、例えば公知のFIR型またはIIR型のデジタルフィルタにおけるフィルタ係数を設定することにより、気象クラッタを抑圧するフィルタが設定される。
【0061】
クラッタ抑圧処理部14は、フィルタ設定部13で算出された帯域制限フィルタのフィルタ係数に基づいて、受信部5からのデジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力する。
【0062】
すなわち、切り換えスイッチ9が第2折り返し補正部10側に切り換えられている場合、クラッタ抑圧処理部14には、n回目までの過去の複数回のビーム走査に対してビーム走査間で平均化された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に応じた帯域制限フィルタが設定されている。また、クラッタ抑圧処理部14は、この帯域制限フィルタを用いて、n+1回目のビーム走査で受信部5から出力されるデジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行する。この結果、デジタル化された低周波受信パルス信号から気象クラッタ成分が抑圧される。
【0063】
目標検出部15は、クラッタ抑圧処理部14から出力された抑圧後受信パルス信号に基づいて、目標物を検出する。
目標検出部15は、例えば公知のCFAR(Constant False Alarm Rate)処理等の方法によって、目標物を検出する。
【0064】
この発明の実施の形態1に係るレーダ装置によれば、第1折り返し補正部8は、気象クラッタマップ作成部7からの気象クラッタマップに基づいて、ビーム走査毎に気象クラッタのドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する。第2折り返し補正部10は、ビーム走査間で第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する。また、平均処理部12は、第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。クラッタ抑圧処理部14は、ドップラー周波数平均値に基づいてフィルタ設定部13で算出されたフィルタ係数に応じて、デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、気象クラッタを抑圧する。
そのため、ビーム走査間で正確なドップラー周波数平均値を得ることができるので、気象クラッタのドップラー周波数を高精度に測定することができる。
また、このドップラー周波数平均値に基づいて帯域制限フィルタのフィルタ係数を正確に算出することにより、気象クラッタを適切に抑圧することができる。
【0065】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、平均処理部12において、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理に用いるビーム走査回数は、固定の値であるとした。しかしながら、これに限定されず、平均化処理に用いるビーム走査回数は、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて任意に設定されてもよい。
以下、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて平均化処理に用いるビーム走査回数を可変設定する処理について説明する。
【0066】
図8は、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図8において、このレーダ装置は、図1に示した平均処理部12に代えて、平均処理部12Aを備えている。また、このレーダ装置は、目標検出部15における目標物の検出結果に応じて、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理に用いるビーム走査回数を設定し、平均処理部12Aに出力する平均回数制御部16を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0067】
一般的に、気象クラッタを抑制するためのフィルタ係数は、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度が高いほど正確な値となる。気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度を向上させるための方法として、平均化処理に用いるパルスヒット数を増加させることが考えられる。パルスヒット数を増加させるためには、平均化処理に用いるビーム走査回数を増加させればよい。
【0068】
そこで、平均回数制御部16は、目標検出部15における目標物の検出結果、具体的には、クラッタ抑圧処理部14からの抑圧後受信パルス信号における気象クラッタの消え残りの大きさに応じて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。平均処理部12Aは、平均回数制御部16で設定されたビーム走査回数に応じて、第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行する。
【0069】
このため、抑圧後受信パルス信号における所望信号対クラッタ信号の電力比で表される気象クラッタの消え残りの大きさを、平均化処理に用いるビーム走査回数と対応付けてあらかじめ設定しておく。平均回数制御部16は、所望信号対クラッタ信号の電力比を実際に測定した結果に基づいて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。なお、所望信号とは、目標物を示す信号であり、クラッタ信号とは、気象クラッタを示す信号である。
【0070】
ここで、抑圧後受信パルス信号における所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係を図9に例示する。
図9において、所望信号対クラッタ信号の電力比が小さいほど、所望信号が気象クラッタに埋もれているので、平均化処理に用いるビーム走査回数が大きく設定されている。
なお、所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係は、図9に示されたものに限定されず、レーダ装置の仕様や電波環境等に応じて変更される。
【0071】
この発明の実施の形態2に係るレーダ装置によれば、平均回数制御部16は、目標検出部15における目標物の検出結果、すなわち気象クラッタの消え残りの大きさを示す所望信号対クラッタ信号の電力比に応じて、平均化処理に用いるビーム走査回数を設定する。
そのため、気象クラッタのドップラー周波数および強度の測定精度を向上させることができるとともに、気象クラッタを抑圧するための帯域フィルタのフィルタ係数をより正確に算出することができる。
【0072】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、第2折り返し補正部10は、隣接する2回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返しの発生を判断し、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行していた。しかしながら、これに限定されず、2回以上の複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を一度に判定し、この折り返し方向に基づいて、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行してもよい。
以下、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定し、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する処理について説明する。
【0073】
図10は、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図10において、このレーダ装置は、図1に示した第2折り返し補正部10に代えて、第2折り返し補正部10Bを備えている。また、このレーダ装置は、折り返し方向判定部17を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0074】
折り返し方向判定部17は、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する。また、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査として決定したビーム走査の回数番号、および第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査の回数番号を第2折り返し補正部10Bに出力する。第2折り返し補正部10Bは、基準として決定したビーム走査の値を基準にして、折り返し補正処理が必要と判断されたビーム走査についてのみ、第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する。
【0075】
以下、図11を参照しながら、折り返し方向判定部17の動作について詳細に説明する。
図11は、この発明の実施の形態3に係る折り返し方向判定部17の動作を示す説明図である。ここでは、3回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定し、基準のビーム走査および折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査を決定する処理について説明する。
【0076】
図11において、まず、折り返し方向判定部17には、データ記憶部11から、複数回のビーム走査における第1補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度が入力される。続いて、折り返し方向判定部17は、各々のビーム走査における気象クラッタの強度を比較し、最大の強度が含まれているビーム走査を基準のビーム走査として決定する。
具体的には、j−1回目、j回目、j+1回目のビーム走査のうち、強度が最大の気象クラッタを測定したビーム走査を基準のビーム走査とする。ここでは、j−1回目の第p方位において気象クラッタの強度が最大になったとし、j−1回目のビーム走査を基準のビーム走査と決定する。
【0077】
続いて、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査において気象クラッタの強度が最大である方位と同じ方位に限定して、基準のビーム走査と他のビーム走査との間で、気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数を比較する。折り返し方向判定部17は、互いの差の絶対値が前述した式(2)に示す最大折り返し周波数fmaxよりも大きくなる場合に、他のビーム走査を、折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査と決定する。
【0078】
具体的には、j−1回目のビーム走査において第p方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj−1,pと、j回目およびj+1回目のビーム走査において第p方位の気象クラッタの強度が最大となる距離における第1補正後ドップラー周波数fj,p、fj+1,pとをそれぞれ比較する。ここでは、j回目のビーム走査において第1補正後ドップラー周波数の折り返しが発生しているので、j回目のビーム走査を、折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査と決定する。
【0079】
この発明の実施の形態3に係るレーダ装置によれば、折り返し方向判定部17は、複数回のビーム走査の間で第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する。また、折り返し方向判定部17は、基準のビーム走査として決定したビーム走査の回数番号、および第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査の回数番号を第2折り返し補正部10Bに出力する。
そのため、2回以上の複数回のビーム走査について第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行する場合に、第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向および折り返し補正処理を実行する必要のあるビーム走査が分かった上で、折り返し補正処理を実行することができる。
したがって、折り返し方向を逐一決定して折り返し補正処理を実行する場合と比較して、手順を簡素化することができる。
【0080】
実施の形態4.
上記実施の形態1では、フィルタ設定部13において、ドップラー周波数平均値に減衰特性を有し、強度平均値以上の減衰量特性を有する帯域制限フィルタのフィルタ係数が算出されるとした。しかしながら、これに限定されず、気象クラッタの周波数幅を測定して、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定してもよい。
以下、気象クラッタの周波数幅を測定して、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定する処理について説明する。
【0081】
図12は、この発明の実施の形態4に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図12において、このレーダ装置は、図1に示した気象クラッタ検出部6、気象クラッタマップ作成部7および平均処理部12に代えて、気象クラッタ検出部6C、気象クラッタマップ作成部7Cおよび平均処理部12Cを備えている。また、このレーダ装置は、フィルタ形状算出部19を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0082】
気象クラッタ検出部6Cは、受信部5でデジタル化されてパルス繰り返し時間毎に並べ替えられた低周波送信パルス信号から、気象クラッタを検出し、気象クラッタのドップラー周波数、強度および周波数幅を出力する。
ここで、気象クラッタのドップラー周波数および強度は、前述した実施の形態1で示した方法によって算出される。一方、気象クラッタの周波数幅は、低周波送信パルス信号を使用して、前述したパルスペア方式により、次式(9)のように算出される。なお、気象クラッタの周波数幅は、ビーム走査毎に、各距離および各方位について測定される。
【0083】
【数3】
【0084】
式(9)において、σf(x)は第x距離における気象クラッタの周波数幅、Tsはパルス繰り返し時間、R(x,Ts)は第x距離においてパルス繰り返し時間Tsをタイムラグとした受信パルス列の自己相関、R(x,0)は第x距離における受信パルス列の自己相関を示している。また、記号| |は絶対値を示している。
なお、式(9)におけるR(x,Ts)およびR(x,0)は、次式(10)および次式(11)でそれぞれ表される。
【0085】
【数4】
【数5】
【0086】
式(10)および式(11)において、Tsはパルス繰返し時間、argは複素数値の位相角、Mはパルスヒット数、v(x,k)は第x距離におけるkヒット目の低周波受信パルス信号、*は複素共役を示している。
気象クラッタマップ作成部7Cは、気象クラッタ検出部6Cから出力された気象クラッタのドップラー周波数、強度および周波数幅のデータに基づいて、ドップラー周波数、強度および周波数幅の距離特性を示す気象クラッタマップを、方位毎に作成する。
ここで、第i方位における周波数幅の距離特性を示す気象クラッタマップを図13に例示する。
【0087】
また、平均処理部12Cは、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数および気象クラッタの強度に対する平均化処理を実行するとともに、複数のビーム走査間で気象クラッタの周波数幅に対する平均化処理を実行し、周波数幅平均値を出力する。
【0088】
フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Cから出力されるドップラー周波数平均値、強度平均値および周波数幅平均値に基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ形状を算出する。すなわち、ドップラー周波数平均値に一致するようにフィルタの中心周波数を設定し、強度平均値以上となるように減衰量を設定し、周波数幅平均値以上となるようにフィルタの帯域幅を設定する。なお、フィルタの設定は、各方位について距離毎に行われる。
【0089】
また、フィルタ設定部13は、前述した実施の形態1で示した方法で、帯域制限フィルタのフィルタ係数を算出する。すなわち、例えば公知のFIR型またはIIR型のデジタルフィルタにおけるフィルタ係数を設定し、気象クラッタを抑圧するフィルタを設定する。
【0090】
この発明の実施の形態4に係るレーダ装置によれば、気象クラッタ検出部6Cは、気象クラッタの周波数幅を測定する。また、フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Cで平均化された周波数幅平均値を用いて、気象クラッタを抑圧するフィルタの帯域幅を設定する。
そのため、気象クラッタを抑圧するフィルタの形状を正確に設定することができる。
【0091】
実施の形態5.
上記実施の形態4では、フィルタ形状算出部19は、気象クラッタの強度および周波数幅について、平均処理部12Cで平均化された強度平均値および周波数幅平均値を用いてフィルタ形状を算出するとした。しかしながら、これに限定されず、気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を検出し、これらの最大値を用いてフィルタ形状を算出してもよい。
以下、気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を用いてフィルタ形状を算出する処理について説明する。
【0092】
図14は、この発明の実施の形態5に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図14において、このレーダ装置は、図12に示した平均処理部12Cおよびフィルタ形状算出部19に代えて、平均処理部12Dおよびフィルタ形状算出部19Dを備えている。また、このレーダ装置は、最大値検出部20を備えている。
その他の構成については、前述の実施の形態4と同様であり、その説明を省略する。
【0093】
平均処理部12Dは、第2折り返し補正部10から出力された第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する。
最大値検出部20は、複数のビーム走査(ビーム走査間で平均化処理を実行しようとした場合のビーム走査回数)で、各方位について距離毎に気象クラッタの強度および周波数幅の最大値を検出し、強度最大値および周波数幅最大値を出力する。
【0094】
フィルタ形状算出部19は、平均処理部12Dから出力されるドップラー周波数平均値と、最大値検出部20から出力される強度最大値および周波数幅最大値とに基づいて、気象クラッタを抑圧するためのフィルタ形状を算出する。すなわち、ドップラー周波数平均値に一致するようにフィルタの中心周波数を設定し、強度最大値以上となるように減衰量を設定し、周波数幅最大値以上となるようにフィルタの帯域幅を設定する。なお、フィルタの設定は、各方位について距離毎に行われる。
【0095】
この発明の実施の形態5に係るレーダ装置によれば、フィルタ形状算出部19Dは、最大値検出部20で検出された強度最大値および周波数幅最大値を用いて、気象クラッタを抑圧するフィルタの減衰量および帯域幅を設定する。
そのため、フィルタの減衰特性を十分に確保することができ、気象クラッタの抑圧性能を向上させることができる。
【0096】
なお、フィルタ形状算出部19は、気象クラッタの時間的な変動に応じて、強度平均値および周波数幅平均値と、強度最大値および周波数幅最大値との何れかを選択してフィルタ形状を算出してもよい。
この場合も、上記実施の形態4または5と同様の効果を奏することができる。
【0097】
なお、上記実施の形態1〜5では、レンジセルの数を9としているが、これに限定されない。レンジセルの数は、任意の値に設定することができる。
この場合も、上記実施の形態1〜5と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る低周波受信パルス信号のAD変換処理を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る気象クラッタマップを示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る真のドップラー周波数とドップラー周波数の測定値との関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する距離方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るドップラー周波数に対する方位方向の折り返し補正処理を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る所望信号対クラッタ信号の電力比と、平均化処理に用いるビーム走査回数との関係を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る折り返し方向判定部の動作を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態4に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4に係る周波数幅の距離特性を示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態5に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0099】
1 局部発振部、2 送信部、4 空中線部、5 受信部、6、6C 気象クラッタ検出部、8 第1折り返し補正部、10、10B 第2折り返し補正部、12、12A、12C、12D 平均処理部、13 フィルタ設定部、14 クラッタ抑圧処理部、15 目標検出部、16 平均回数制御部、17 折り返し方向判定部、19、19D フィルタ形状算出部、20 最大値検出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変換を行うための局部発振信号を発生して出力する局部発振部と、
低周波送信パルス信号を発生するとともに、前記局部発振信号を用いて前記低周波送信パルス信号を高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する送信部と、
前記高周波送信パルス信号を空間に放射するとともに、目標物で反射した前記高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する空中線部と、
前記局部発振信号を用いて前記高周波受信パルス信号を低周波受信パルス信号に周波数変換するとともに、前記低周波受信パルス信号をAD変換して出力する受信部と、
デジタル化された前記低周波受信パルス信号から不要な信号である気象クラッタを検出し、前記気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部と、
ビームがレーダ覆域を走査するビーム走査毎に、前記ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部と、
複数回の前記ビーム走査の間であるビーム走査間で、前記第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部と、
前記第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部と、
前記第1補正後ドップラー周波数および前記ドップラー周波数平均値のいずれか一方に基づいて、前記デジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出するフィルタ設定部と、
前記フィルタ係数に基づいて、前記デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、前記気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力するクラッタ抑圧処理部と、
前記抑圧後受信パルス信号に基づいて前記目標物を検出する目標検出部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記目標検出部における前記目標物の検出結果に応じて、前記平均化処理に用いる前記ビーム走査の回数を設定する平均回数制御部を備え、
前記平均処理部は、前記平均回数制御部で設定された前記ビーム走査の回数に応じて、前記平均化処理を実行することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
複数回の前記ビーム走査による前記第1補正後ドップラー周波数に基づいて、前記第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する折り返し方向判定部を備え、
前記第2折り返し補正部は、前記折り返し方向判定部で判定された前記折り返し方向に応じて、前記第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
フィルタ形状算出部を備え、
前記気象クラッタ検出部は、前記気象クラッタの周波数幅を出力し、
前記平均処理部は、前記ビーム走査間で前記周波数幅に対する平均化処理を実行して周波数幅平均値を出力し、
前記フィルタ形状算出部は、前記周波数幅平均値を用いて、前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタの形状を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
最大値検出部を備え、
前記気象クラッタ検出部は、前記気象クラッタの強度を出力し、
前記最大値検出部は、前記気象クラッタの強度および前記気象クラッタの周波数幅の最大値を検出して強度最大値および周波数幅最大値を出力し、
前記フィルタ形状算出部は、前記強度最大値および前記周波数幅最大値を用いて、前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタの形状を算出することを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項1】
周波数変換を行うための局部発振信号を発生して出力する局部発振部と、
低周波送信パルス信号を発生するとともに、前記局部発振信号を用いて前記低周波送信パルス信号を高周波送信パルス信号に周波数変換して出力する送信部と、
前記高周波送信パルス信号を空間に放射するとともに、目標物で反射した前記高周波送信パルス信号を高周波受信パルス信号として受信する空中線部と、
前記局部発振信号を用いて前記高周波受信パルス信号を低周波受信パルス信号に周波数変換するとともに、前記低周波受信パルス信号をAD変換して出力する受信部と、
デジタル化された前記低周波受信パルス信号から不要な信号である気象クラッタを検出し、前記気象クラッタのドップラー周波数および強度を出力する気象クラッタ検出部と、
ビームがレーダ覆域を走査するビーム走査毎に、前記ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第1補正後ドップラー周波数を出力する第1折り返し補正部と、
複数回の前記ビーム走査の間であるビーム走査間で、前記第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行し、第2補正後ドップラー周波数を出力する第2折り返し補正部と、
前記第2補正後ドップラー周波数に対する平均化処理を実行して、ドップラー周波数平均値を出力する平均処理部と、
前記第1補正後ドップラー周波数および前記ドップラー周波数平均値のいずれか一方に基づいて、前記デジタル化された低周波受信パルス信号に含まれる前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタ係数を算出するフィルタ設定部と、
前記フィルタ係数に基づいて、前記デジタル化された低周波受信パルス信号に対するフィルタ処理を実行し、前記気象クラッタを抑圧した抑圧後受信パルス信号を出力するクラッタ抑圧処理部と、
前記抑圧後受信パルス信号に基づいて前記目標物を検出する目標検出部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記目標検出部における前記目標物の検出結果に応じて、前記平均化処理に用いる前記ビーム走査の回数を設定する平均回数制御部を備え、
前記平均処理部は、前記平均回数制御部で設定された前記ビーム走査の回数に応じて、前記平均化処理を実行することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
複数回の前記ビーム走査による前記第1補正後ドップラー周波数に基づいて、前記第1補正後ドップラー周波数の折り返し方向を判定する折り返し方向判定部を備え、
前記第2折り返し補正部は、前記折り返し方向判定部で判定された前記折り返し方向に応じて、前記第1補正後ドップラー周波数に対する折り返し補正処理を実行することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
フィルタ形状算出部を備え、
前記気象クラッタ検出部は、前記気象クラッタの周波数幅を出力し、
前記平均処理部は、前記ビーム走査間で前記周波数幅に対する平均化処理を実行して周波数幅平均値を出力し、
前記フィルタ形状算出部は、前記周波数幅平均値を用いて、前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタの形状を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
最大値検出部を備え、
前記気象クラッタ検出部は、前記気象クラッタの強度を出力し、
前記最大値検出部は、前記気象クラッタの強度および前記気象クラッタの周波数幅の最大値を検出して強度最大値および周波数幅最大値を出力し、
前記フィルタ形状算出部は、前記強度最大値および前記周波数幅最大値を用いて、前記気象クラッタを抑圧するためのフィルタの形状を算出することを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−109457(P2009−109457A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284860(P2007−284860)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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