説明

レーダ装置

【課題】レーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置1は、レーダ3と、このレーダ3が接続されたECU2とを備えている。ECU2は、レーダ3によって検出された自車両の上方又は下方の正面に存在する物標の中から静止構造物を検出する。そして、ECU2は、検出された静止構造物Tの自車両Mに対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度に基づいて、自車両の上下方向に対するレーダビームのずれ角Δθ(軸ずれ量)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のレーダ装置は、時系列的に検出される先行車両の位置情報から、レーダビームの中心軸と直進時の自車両の進行方向との水平方向偏差の補正値を算出してレーダビームの中心軸を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−320371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のレーダ装置では、水平方向幅が所定範囲内にある先行車両の位置情報のみを検出しており、先行車両の上下方向の位置情報は検出していない。そのため、走行時に取得される先行車両の位置情報からレーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出することはできない。レーダ装置において正確な物標の検出を行うためには、レーダビームの上下方向の軸ずれ量についても補正や学習をする必要がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、レーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出することができるレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車両の前方に存在する物標の上下方向の方位を検出可能なレーダ装置において、自車両の前方に向けてレーダビームを照射し、自車両の上方又は下方に存在する静止構造物を検出する構造物検出手段と、構造物検出手段によって検出された静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出する角度算出手段と、角度算出手段によって算出された上下方向の角度に基づいて、自車両の上下方向に対するレーダビームの軸ずれ量を算出するずれ量算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るレーダ装置においては、レーダビームを照射することにより、自車両の上方又は下方に存在する静止構造物を検出する。そして、検出された静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度に基づいて、自車両の上下方向に対するレーダビームの軸ずれ量を算出する。すなわち、自車両の上下方向において静止構造物の相対的な移動方向と自車両の進行方向とが平行と見なせるか否かによって、自車両の上下方向に対するレーダビームの軸ずれ量を算出する。そのため、レーダビームを照射することにより得られる例えば案内標識等といった静止構造物の検出結果のみから、レーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出することが可能となる。
【0008】
好ましくは、角度算出手段は、異なる複数の時刻における静止構造物の自車両に対する相対的な位置変化量から、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出する。この場合には、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を確実に算出することができる。
【0009】
また、好ましくは、角度算出手段は、静止構造物の自車両に対する相対速度から、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す角度を算出する。この場合には、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を確実に算出することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出することができる。これにより、レーダビームの上下方向の軸ずれ量について補正や学習を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係わるレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】レーダ装置により自車両の上方に存在する静止構造物を検出する方法を模式的に示す図である。
【図3】自車両の上方の静止構造物を基準としたずれ角算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】レーダ装置により自車両の下方に存在する静止構造物を検出する方法を模式的に示す図である。
【図5】自車両の下方の静止構造物を基準としたずれ角算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図6】レーダ装置により自車両の下方の走行路(路面)を静止構造物として検出する方法を模式的に示す図である。
【図7】自車両の下方の走行路を基準としたずれ角算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図8】反射波の反射レベルと閾値との関係を示すグラフである。
【図9】レーダ装置により自車両の上方に存在する静止構造物を検出する他の模式図である。
【図10】自車両の上方の静止構造物を基準としたずれ角算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係わるレーダ装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係わるレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、レーダ装置1は、車両に搭載されるものである。レーダ装置1は、車両の上下方向の方位を検出可能であると共に、レーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出可能な装置である。
【0014】
レーダ装置1は、レーダ3と、このレーダ3と接続されたECU(Electronic Control Unit)2とを備えている。
【0015】
レーダ3は、自車両の前部に配置されている。レーダ3は、レーダビームを左右及び上下方向の2次元に照射し、物標(例えば、他車両、路側物、歩行者等)の表面で反射された反射波を受信して、自車両と物標との距離、自車両に対する物標の方向及び自車両と物標との相対速度を検出する。物標との距離はレーダビームを照射してから反射波が返ってくるまでの時間を利用して検出し、物標の方向は反射波の角度を利用して検出し、物標との相対速度は反射波の周波数変化(ドップラー効果)を利用して検出する。レーダ3の検出信号はECU2に送出される。なお、レーダ3としては、レーザレーダや電波レーダ等が用いられる。
【0016】
ECU2は、距離・方位取得部4と、構造物検出部5と、角度算出部6と、ずれ量算出部7とを備えている。
【0017】
距離・方位取得部4は、レーダ3から送出された検出信号に基づいて、自車両から物標までの距離、物標の上下左右方向の方位及び物標との相対速度を取得する。距離・方位取得部4は、取得した距離・方位データを構造物検出部5に送出する。
【0018】
構造物検出部5は、距離・方位取得部4から送出された距離・方位データに基づいて、自車両の上方又は下方の正面に存在する物標の中から静止構造物を検出(選択)する。静止構造物とは、例えば自車両の走行路上方に設置された案内標識及び看板等や、自車両下方の走行路上に配置された鉄板等である。また、構造物検出部5は、距離・方位取得部4から送出された距離・方位データに基づいて、所定の閾値の範囲内に存在し且つ自車両の正面下方の走行路(路面)を静止構造物として検出する。構造物検出部5は、検出した静止構造物データを角度算出部6及びずれ量算出部7に送出する。
【0019】
角度算出部6は、構造物検出部5から送出された静止構造物データに基づいて、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出する。具体的に、角度算出部6は、異なる複数の時刻における静止構造物の自車両に対する相対的な位置変化量、又は静止構造物の自車両に対する相対速度から、静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出する。角度算出部6は、算出した角度データをずれ量算出部7に送出する。
【0020】
ずれ量算出部7は、構造物検出部5から送出された静止構造物データ、又は角度算出部6から送出された角度データに基づいて、レーダ3におけるレーダビームの上下方向の軸ずれ量を算出する。具体的に、ずれ量算出部7は、静止構造物データに基づいて、自車両の正面上方又は下方に存在する静止構造物の軌跡(ベクトル)を演算し、レーダビームの上下方向のずれ角Δθ(軸ずれ量)を算出する。また、ずれ量算出部7は、角度データに基づいて、自車両の上方に存在する静止構造物の自車両に対する相対速度ベクトルと自車両の速度との論理比のずれを演算し、レーダビームの上下方向のずれ角Δθ(軸ずれ量)を算出する。ずれ量算出部7によって算出されたレーダビームの上下方向のずれ角Δθを示すデータは、軸ずれの補正や学習に用いられる。具体的には、自車両の進行方向におけるレーダ中心角度に対して、ずれ角Δθを足し引きして補正する。また、ずれ量算出部7は、例えばずれ角Δθが所定角度(例えば10°)よりも大きい場合には、故障と判断し、ダイアグを出力する。
【0021】
図2は、レーダ装置1により自車両の上方に存在する静止構造物を検出する模式図である。同図に示すように、自車両Mの前部に搭載されたレーダ3は、自車両Mの前方に向けてレーダビームBを照射し、自車両Mの上方(走行路Rの上方)で且つ正面に存在する静止構造物Tを検出する。この静止構造物Tは、例えば案内標識(本標識)である。このような自車両Mの上方に存在する静止構造物Tを基準としたレーダビームBの上下方向のずれ角度Δθの算出について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0022】
図3において、まずレーダ3によってレーダビームBが自車両Mの前方に照射される(手順S01)。次に、照射されたレーダビームBの反射波がレーダ3によって受信され、自車両Mの前方の物標との距離及び物標の上下左右方向の方位が検出される(手順S02)。
【0023】
続いて、レーダ3によって検出された物標の中から、図2に示すように、自車両Mの正面上方に存在する静止構造物Tが検出される(手順S03)。具体的に、静止構造物Tは、レーダ3によって検出された周波数変化(ドップラー情報)から求められる相対速度、或いは自車両MのΔT秒間の移動距離ΔDから求められる相対速度(=ΔD/ΔT)と、例えば車速センサによって検出された自車両Mの走行速度(車速)との一致度に基づいて、物標の中から検出される。また、自車両Mの進行方向Dに対する左右方向の角度から、静止構造物Tが自車両Mの正面方向にあるか否かが判断されると共に、自車両Mの進行方向Dに対する上下方向の角度から、静止構造物Tが自車両Mの上方にあるか否かが判断される。
【0024】
そして、検出された自車両Mの上方の正面に存在する静止構造物Tのベクトルが演算され、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される(手順S04)。具体的には、以下の(1)〜(3)式によって求められる。
ΔL=L1×cosθ1−L2×cosθ2 …(1)
ΔH=L1×sinθ1−L2×sinθ2 …(2)
Δθ=tan−1(ΔH/ΔL) …(3)
【0025】
図2に示すように、上記(1)〜(3)式において、L1は、ある時刻に検出された静止構造物Tと自車両Mとの距離を示し、θ1は、そのときの静止構造物Tの方向と自車両Mの進行方向Dとが成す上下(垂直)方向の角度を示している。また、L2は、上記の時刻から所定時間(ΔT秒後)経過した時刻に検出された静止構造物Tと自車両Mとの距離を示し、θ2は、そのときの静止構造物Tの方向と自車両Mの進行方向Dとが成す上下方向の角度を示している。すなわち、(1)式のΔLは、ΔT秒間に検出された自車両Mと静止構造物Tとの前後方向の距離の差を示しており、(2)式のΔHは、ΔT秒間に検出された自車両Mと静止構造物Tとの上下方向の距離の差を示している。このような上記(1)〜(3)式により、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθが算出される。
【0026】
上記(1)〜(3)式によって求められたずれ角Δθは、ECU2のメモリ(図示しない)に一時的に記憶される。そして、上記の演算が複数回(例えば、数分〜数時間)実施され、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθの平均値が算出される(手順S05)。この平均値が、最終的なレーダビームBの上下方向のずれ角Δθとされる。以上のように、自車両Mの上方の正面に存在する静止構造物Tを基準として、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される。
【0027】
図4は、レーダ装置1により自車両の下方に存在する静止構造物を検出する模式図である。同図に示すように、自車両Mの前部に搭載されたレーダ3は、自車両Mの前方に向けてレーダビームBを照射し、自車両Mの下方(走行路R上)で且つ正面に存在する静止構造物Tを検出する。この静止構造物Tは、例えば走行路Rに設置された鉄板等であり、走行路Rの路面段差となるものである。このような自車両Mの下方に存在する静止構造物Tを基準としたレーダビームBの上下方向のずれ角度Δθの算出について、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0028】
図5において、まずレーダ3によってレーダビームBが自車両Mの前方に照射される(手順S11)。次に、照射されたレーダビームBの反射波がレーダ3によって受信され、自車両Mの前方の物標との距離及び物標の上下左右方向の方位が検出される(手順S12)。
【0029】
続いて、レーダ3によって検出された物標の中から、図4に示すように、自車両Mの正面下方に存在する静止構造物Tが検出される(手順S13)。静止構造物Tの検出方法については、上記静止構造物Tの検出方法と同様である。そして、検出された自車両Mの下方の正面に存在する静止構造物Tを基準として、レーダビームBの上下方向のずれ角θ(軸ずれ量)が上記(1)〜(3)式により算出される(手順S14)。
【0030】
上記(1)〜(3)式により求められたずれ角Δθは、ECU2のメモリ(図示しない)に一時的に記憶される。そして、上記の演算が複数回実施され、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθの平均値が算出される(手順S15)。この平均値が、最終的なレーダビームBの上下方向のずれ角Δθとされる。以上のように、自車両Mの下方の正面に存在する静止構造物Tを基準として、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される。
【0031】
図6は、レーダ装置1により自車両の下方の走行路(路面)を静止構造物として検出する模式図である。同図に示すように、自車両Mの前部に搭載されたレーダ3は、自車両Mの前方に向けてレーダビームBを照射し、走行路Rを静止構造物として検出する。このような自車両Mの走行路R(静止構造物)を基準としたレーダビームBの上下方向のずれ角度Δθの算出について、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0032】
図7において、まずレーダ3によってレーダビームBが自車両Mの前方に照射される(手順S21)。次に、照射されたレーダビームBの反射波がレーダ3によって受信され、自車両Mの前方の物標との距離及び物標の上下左右方向の方位が検出される(手順S22)。
【0033】
続いて、レーダ3によって検出された物標の中から、図6に示すように、自車両Mの正面下方の走行路Rが静止構造物として検出される(手順S23)。具体的には、レーダ3によって受信された反射波が所定の閾値を越えており、且つその反射波を返した物標が自車両Mの下方に存在する場合に、その反射波を走行路Rからの反射波とし、走行路Rが静止構造物として検出される。
【0034】
ここで、図8に示すように、反射波の反射レベル(強度)から物標を検出する際の閾値は、第1閾値Th1と第2閾値Th2とに分けられる。第1閾値Th1は、例えば反射レベルの高い物標(例えば車両等)を検出するために距離に応じて設定されている値であり、第2閾値Th2は、走行路Rを静止構造物として検出するために距離に応じて設定されている値である。すなわち、第1閾値Th1を越える反射レベルの物標は、例えば先行車両等として検出され、第1閾値Th1を越えないが第2閾値Th2を越える反射レベルの物標は、静止構造物とされる走行路Rとして検出される。図8においては、所定範囲PR内の反射レベルが第2閾値Th2を越えているため、その反射波を返した所定範囲PR内に位置する走行路Rが静止構造物として検出される。
【0035】
走行路Rが静止構造物として検出されると、基準角度θが算出される(手順S24)。具体的には、以下の(4)式によって基準角度θが算出される。
θ=sin−1(H/L) …(4)
【0036】
上記(4)式において、Lは、上述した第2閾値Th2を越えた反射レベルの反射波を返した走行路Rの位置と自車両Mとの距離を示しており、Hは、走行路Rからのレーダ3の搭載高さ(レーダビームBの照射高さ)を示している。そして、上記(4)式によって算出されたθと静止構造物として検出した走行路Rの上下方向の角度θとの差分によって、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθ(=θ−θ)が算出される(手順S25)。
【0037】
以上のように求められたずれ角Δθは、ECU2のメモリ(図示しない)に一時的に記憶される。そして、上記の演算が複数回実施され、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθの平均値が算出される(手順S26)。この平均値が、最終的なレーダビームBの上下方向のずれ角Δθとされる。以上のように、自車両Mの下方の走行路Rを基準として、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される。
【0038】
図9は、レーダ装置1により自車両の上方に存在する静止構造物を検出する他の模式図である。同図に示すように、自車両Mの前部に搭載されたレーダ3は、自車両Mの前方に向けてレーダビームBを照射し、自車両Mの上方で且つ正面に存在する静止構造物Tの自車両に対する相対的な移動方向を検出する。このような自車両Mの上方に存在する静止構造物Tの自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とに基づいたレーダビームBの上下方向のずれ角度Δθの算出について、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
図10において、まずレーダ3によってレーダビームBが自車両Mの前方に照射される(手順S31)。次に、照射されたレーダビームBの反射波がレーダ3によって受信され、自車両Mの前方の物標との距離、相対速度V及び物標の上下左右方向の方位が検出される(手順S32)。
【0040】
続いて、自車両Mの車速Vが例えば車速センサによって検出される(手順S33)。そして、物標の自車両Mに対する相対速度Vと自車両Mの車速Vとに基づいて、自車両Mの前方の物標が静止構造物Tであるか否かが以下の(5)式によって判定される(手順S34)。
|V・V・cosθ|<ΔV …(5)
なお、(5)式において、図9に示すように、θは、ある時刻に検出された静止構造物Tの自車両に対する相対的な移動方向と自車両Mの進行方向Dとが成す上下(垂直)方向の角度(レーダ軸中心から見える物標の角度)であり、ΔVは、予め設定された閾値である。
【0041】
上記(5)式を満たしていると判定された場合には、自車両Mの進行方向Dに対する左右方向の角度から、静止構造物Tが自車両Mの正面方向にあるか否かが判断されると共に、自車両Mの進行方向Dに対する上下方向の角度から、静止構造物Tが自車両Mの上方にあるか否かが判断されることにより、自車両Mの正面上方の静止構造物Tが選択され、手順S35に進む。一方、上記(5)を満たしていないと判定された場合には、処理が終了する。
【0042】
手順S35では、検出された自車両Mの上方正面に存在する静止構造物Tの自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とに基づいて、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される。具体的には、以下の(6)〜(8)式によって求められる。
=V・cosθ …(6)
=V・cos(Δθ+θ) …(7)
Δθ=cos−1(V/V)−θ …(8)
【0043】
上記(6)〜(8)式において、(6)式は、レーザビームBの中心軸がずれていない場合を示しており、(7)式は、レーザビームBの中心軸がずれている場合を示している。従って、(8)式により、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθが算出される。
【0044】
上記(6)〜(8)式によって求められたずれ角Δθは、ECU2のメモリ(図示しない)に一時的に記憶される。そして、上記の演算が複数回(例えば、数分〜数時間)実施され、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθの平均値が算出される(手順36)。そして、この平均値は、軸ずれの調整フィルター演算が実施される。具体的には、以下の(9)式によって演算される。
Δθ_ave=k1×Δθ_ave(−1)+k2×Δθ …(9)
なお、(9)式において、k1,k2は、k1+k2=1の関係を満たし、ave(−1)は、前回のアベレージの演算値である。
【0045】
上記のようにフィルター処理が実施された値が、最終的なレーダビームBの上下方向のずれ角Δθとされる。以上のように、自車両Mの上方の正面に存在する静止構造物Tの自車両に対する相対的な移動方向と自車両の進行方向とに基づいて、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθ(軸ずれ量)が算出される。
【0046】
以上のように本実施形態のレーダ装置1にあっては、レーダビームBを照射することにより、自車両Mの上方又は下方に存在する静止構造物Tを検出する。そして、検出された静止構造物Tからの反射波よりベクトルが推定され、このベクトルから静止構造物Tの方向と自車両Mの進行方向Dとが成す角度θ1,θ2及び自車両Mと静止構造物Tとの距離L1,L2に基づいて、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθを算出する。そのため、レーダ3によって検出されるが、例えばACC(アダプティブクルーズコントロール)システム等においては通常除外される自車両Mの上方に存在する案内標識等や自車両Mの下方に存在する路面段差となる鉄板等といった静止構造物Tの検出結果から、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθ(軸ずれ量)を算出することが可能となる。その結果、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθについて補正や学習を行うことができる。
【0047】
また、自車両Mが走行する走行路Rを静止構造物として検出することにより、例えば自車両Mの上方や下方に案内標識や鉄板等といった静止構造物が存在しない状況であっても、走行路Rからの反射波によってレーダビームBの上下方向のずれ角Δθを算出することができる。
【0048】
また、本実施形態では、検出された静止構造物Tの自車両Mに対する相対速度から、静止構造物Tの自車両Mに対する相対的な移動方向と自車両Mの進行方向とが成す上下方向の角度を算出し、この角度に基づいて、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBのずれ角Δθを算出する。すなわち、自車両Mの上下方向において静止構造物Tの相対的な移動方向と自車両Mの進行方向とが平行と見なせるか否かによって、自車両Mの上下方向に対するレーダビームBの軸ずれ量を算出する。そのため、レーダビームBを照射することにより得られる例えば案内標識等といった静止構造物Tの検出結果のみから、レーダビームBの上下方向のずれ角Δθを算出することが可能となる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ずれ角Δθを複数回算出し、その平均値を算出することでレーダビームBの上下方向のずれ角Δθを求めているが、算出された平均値全てにフィルター処理を実施することによりレーダビームBの上下方向のずれ角Δθが求められてもよい。
【0050】
また、上記実施形態に加えて、図8に示す第1閾値Th1及び第2閾値Th2とは異なるレーダビームBの補正・学習用の閾値を設定し、静止構造物Tとなる物標の検出がし易くなるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…レーダ装置、2…ECU、3…レーダ、4…距離・方位取得部、5…構造物検出部(構造物検出手段)、6…角度算出部(角度検出手段)、7…ずれ量算出部(ずれ量算出手段)、R(R)…走行路、Δθ…ずれ角(軸ずれ量)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に存在する物標の上下方向の方位を検出可能なレーダ装置において、
前記自車両の前方に向けてレーダビームを照射し、前記自車両の上方又は下方に存在する静止構造物を検出する構造物検出手段と、
前記構造物検出手段によって検出された前記静止構造物の前記自車両に対する相対的な移動方向と前記自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出する角度算出手段と、
前記角度算出手段によって算出された前記上下方向の角度に基づいて、前記自車両の上下方向に対する前記レーダビームの軸ずれ量を算出するずれ量算出手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記角度算出手段は、異なる複数の時刻における前記静止構造物の自車両に対する相対的な位置変化量から、前記静止構造物の自車両に対する相対的な移動方向と前記自車両の進行方向とが成す上下方向の角度を算出することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記角度算出手段は、前記静止構造物の前記自車両に対する相対速度から、前記静止構造物の前記自車両に対する相対的な移動方向と前記自車両の進行方向とが成す角度を算出することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−210483(P2010−210483A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57899(P2009−57899)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】