レーダ装置
【課題】MUSIC法を用いた方位推定に際し、不等間隔アレーアンテナを採用することによって生じる非所望ピークの影響を抑え、高精度に物標方位を推定可能にすること。
【解決手段】レーダ装置は、受信信号に基づき自己相関行列を算出すると共に(S110)、当該行列の固有値を求め(S120)、閾値より大きい固有値の数から到来波数Mを推定する(S130)。また、各固有値に対応する固有ベクトルを用いて、MUSICスペクトルを算出し(S160)、MUSICスペクトルから、推定した到来波数Mより所定量α多い数のピークを抽出する。そして、各ピークに対応する方位を、検査対象方位に設定する(S170)。そして、検査対象方位のステアリングベクトル間の相関を、高低の二段階で判定し、相関が高い場合には、電力推定対象に設定する方位の数M’を、M+αに設定し、相関が低い場合には、数M’を、推定した到来波数Mに設定する。
【解決手段】レーダ装置は、受信信号に基づき自己相関行列を算出すると共に(S110)、当該行列の固有値を求め(S120)、閾値より大きい固有値の数から到来波数Mを推定する(S130)。また、各固有値に対応する固有ベクトルを用いて、MUSICスペクトルを算出し(S160)、MUSICスペクトルから、推定した到来波数Mより所定量α多い数のピークを抽出する。そして、各ピークに対応する方位を、検査対象方位に設定する(S170)。そして、検査対象方位のステアリングベクトル間の相関を、高低の二段階で判定し、相関が高い場合には、電力推定対象に設定する方位の数M’を、M+αに設定し、相関が低い場合には、数M’を、推定した到来波数Mに設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信して、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用のレーダ装置であって、レーダ波を発射し、その反射波を受信して、受信信号を解析することにより、物標(前方車両等)までの距離や方位、物標と自車との相対速度を推定するレーダ装置が知られている。
【0003】
この種のレーダ装置では、送信波に対する反射波の遅延量から物標までの距離を推定すると共に、送信波に対する反射波のドップラシフト量から、物標と自車との相対速度を推定する。
【0004】
また、物標方位については、受信アンテナであるアレーアンテナの各アンテナ素子が受信する反射波に、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して推定する。複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて物標の方位を検出する方法としては、MUSIC法が知られている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1参照)。
【0005】
ここで、MUSIC法について、その概要を説明する。尚、アレーアンテナは、K個のアンテナ素子を並列配置したリニアアレーアンテナであるものとする(図1参照)。
まず、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号から、式(1)に示す受信ベクトルXを構成する。次に、この受信ベクトルXを用いて、式(2)に示すK行K列の自己相関行列Rxxを生成する。
【0006】
【数1】
上式において、Tは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。また、受信ベクトルX(i)の要素xk(i)(但し、k=1,…,K)は、k番目アンテナ素子の受信信号の時刻iでの値を採る。また、Lは、サンプル数である。本例では、各アンテナ素子の受信信号に関し、L個のサンプルを用いて、自己相関行列Rxxを生成する。
【0007】
そして、自己相関行列Rxxを生成した後には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め、熱雑音電力に対応する閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定すると共に、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、算出する。
【0008】
そして、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルENと、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、下式の評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルを求める。
【0009】
【数2】
評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルは、方位θが到来波の到来方向と一致すると発散して、鋭いピークが立つため、到来波の推定方位θ1,…,θM、即ち、反射波を発生させた物標の方位は、MUSICスペクトルのピーク(ヌルポイント)を抽出することにより求めることができる。
【0010】
但し、MUSICスペクトルによってピークを抽出するだけでは、抽出したピークに、反射波に起因するピークの他、雑音成分に起因するピークが含まれる可能性がある。
このため、物標の方位推定に当たっては、MUSICスペクトルにてピーク値が最大の方位から、到来波数M分の方位θ1,…,θMを抽出して、これらの方位θ1,…,θMを電力推定対象に設定し、電力推定対象の各方位θ1,…,θMの受信電力P1,…,PMを求める。
【0011】
そして、電力推定対象の各方位θ1,…,θMの内、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定する。雑音成分に対応する方位は、当然のことながら受信電力が低い。従って、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定することにより、雑音を原因とする物標方位の誤推定を抑えることができる。
【0012】
具体的に、受信電力の推定は、次のように行う。まず、電力推定対象の各方位θ1,…,θMに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)により、方位行列Aを生成する。
【0013】
【数3】
そして、この方向行列Aを用いて、次式で表される行列Sを算出する。
【0014】
【数4】
尚、上式における行列Iは、単位行列であり、σ2は、熱雑音電力である。熱雑音電力σ2については、真値不明のため、例えば、閾値λthで代用したり、閾値λth以下の固有値の平均で代用する。
【0015】
このように行列Sを算出すれば、行列Sの第m対角成分から方位θmの受信電力Pmを得ることができる(但し、m=1,…,M)。
【0016】
【数5】
従来技術では、このようにして、電力推定対象の各方位についての受信電力を求め、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定している。
【特許文献1】特開2006−047282号公報
【特許文献2】特開2000−121716号公報
【非特許文献1】中澤利之、外2名、「不等間隔アレーを用いた方位推定」、電子情報通信学会論文誌 B、2000年6月、第J83−B巻、第6号 pp.845−851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、MUSIC法による物標の方位推定に際しては、上記アレーアンテナとして、アンテナ素子を等間隔で配列したアレーアンテナ(以下、「等間隔アレーアンテナ」と表現する。)を用いるのが一般的である。
【0018】
また、信号処理方式としてMUSIC方式を採用した等間隔アレーアンテナの場合、実際の到来波(以下、「所望波」と表現する。)についての各アンテナ素子間の位相差が2nπ倍となることにより、周期的にグレーティングローブが発生することが知られている。
【0019】
つまり、所望波方位を表すステアリングベクトルが張る空間は、グレーティングローブ発生方位を表すステアリングベクトルを含んでいることになる。従って、このグレーティングローブの検出を避けるように、走査方位範囲(以下、「視野角」と表現する。)を決定する必要がある。換言すると、等間隔アレーアンテナの場合、視野角を広げるためには、素子間隔を狭くすることが必要である。
【0020】
しかし一方で、二物標分離能はレーダ開口長で決定されるため、等間隔アレーにおいて分離能の維持と視野広角化を両立させることは、素子数の増加によるコスト増につながる。また、素子間隔を狭くすることは、アンテナ素子の数や、素子間結合が増加することからも難しい場合がある。
【0021】
これに対し、非特許文献1によると、適切な不等間隔でアンテナ素子を配置することにより、想定する到来波数内の環境において、要求視野角内の任意の方位のステアリングベクトルが、所望波方位のステアリングベクトルが張る空間に含まれないことを判定できる。
【0022】
即ち、等間隔アレーアンテナを採用した場合に比べ、適切な間隔で、各アンテナ素子を不等間隔で配列したアレーアンテナ(以下、「不等間隔アレーアンテナ」と表現する。)では、より少ない素子数で、信号処理方式にMUSIC方式を採用したアレーレーダを広角化することが可能である。
【0023】
この文献によると、任意のM個の方位[θ1,…,θM]に対応するステアリングベクトルA=[a(θ1),…,a(θM)]と、視野角内の任意のステアリングベクトルa(θs)との一次独立性を保証することで、到来波数がM以内の場合に、要求視野角内の任意の方位のステアリングベクトルが、所望波方位のステアリングベクトルが張る空間に含まれないことを保証できる。
【0024】
しかし、到来方位ステアリングベクトルと方位θsのステアリングベクトルとの一次独立性が弱まる場合、即ち、
【0025】
【数6】
(cmは任意の複素数であり、r は任意のベクトルである。)の場合、方位θsに強いMUSICスペクトルピークが発生することがある。尚、本願明細書では、MUSICスペクトルのピークであって、雑音によるピークでもなく、レーダ波の反射波が到来してきたことによるピークでもない上記偽像としてのピークを、「非所望ピーク」と表現する。また、以下では、上記式中のrのL2ノルムが小さい場合を、一次独立性が弱い(もしくは低い)と表現し、大きい場合を、一次独立性が強い(もしくは高い)と表現することにする。
【0026】
この点について詳述すると、不等間隔アレーアンテナを採用した場合には、MUSICスペクトルにおいて、レーダ波の反射波によるピークの他、雑音によるピーク、及び、非所望ピークが現れる一方で、到来波数Mの推定については、ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性とは関係がなく、等間隔アレーアンテナと同様の精度で、推定される。
【0027】
従って、不等間隔アレーアンテナを採用した場合には、MUSICスペクトルから、電力推定対象の方位を到来波数M分選択する場合に、反射波に対応するピークの方位を選択せず、非所望ピークに対応する方位を誤って選択してしまう可能性がある。
【0028】
また、非所望ピークについては、そのピークに対応する方位を電力推定対象に設定して受信電力を求めると、ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性が弱まっていることに起因して、受信電力の推定値が高く現れる可能性がある。
【0029】
このため、MUSICスペクトルから、非所望ピークに対応する方位を、誤って電力推定対象に設定してしまうと、雑音成分を電力推定対象に設定する場合とは異なり、閾値Pthと受信電力の推定値との比較によっても、非所望ピークに対応する方位を誤った情報として排除することができず、物標が本来存在しない方位を、物標の方位と誤推定してしまう可能性がある。
【0030】
例えば、図17(a)に示すMUSICスペクトルがアレーアンテナの受信信号が得られたとする。この場合に、MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっていないのであれば、各方位θ1,θ2,θ3の受信電力を推定することで、同図(b)に示すように、受信電力に著しい差が現れ、閾値Pthにより、方位θ1,θ2を物標の方位、方位θ3を雑音成分として正確に分離できる。
【0031】
一方、MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっている場合には、各方位θ1,θ2,θ3の受信電力を推定しても、同図(c)に示すように、受信電力に明確な差が現れず、方位θ1,θ2を物標の方位、方位θ3を非所望ピークに対応する方位として正確に分離できないのである。
【0032】
要するに、従来技術では、アレーアンテナとして、等間隔アレーアンテナを採用せず、不等間隔アレーアンテナを採用すると、視野角が広がる一方で、非所望ピークによる物標方位の誤推定の可能性が高くなり、物標方位の推定精度が劣化するといった問題があった。
【0033】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、MUSIC法を用いた方位推定に際して、アレーアンテナとして不等間隔アレーアンテナを採用することによって生じる非所望ピークの影響を抑え、高精度に物標方位を推定することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波を、不等間隔にアンテナ素子が配列されたアレーアンテナで受信して、各アンテナ素子の受信信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置であって、相関行列生成手段と、相関行列解析手段と、推定抽出手段と、スペクトル算出手段と、検査対象設定手段と、判定手段と、推定対象設定手段と、電力推定手段と、推定結果出力手段と、を備える。
【0035】
相関行列生成手段は、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、当該受信信号についての自己相関行列を生成し、相関行列解析手段は、この自己相関行列の固有値を算出する。
【0036】
推定抽出手段は、相関行列解析手段により算出された固有値群に基づき、アレーアンテナへの到来波数Mを推定すると共に、固有値群に対応する固有ベクトル群の中から、雑音成分に対応する固有ベクトル群を抽出する。そして、スペクトル算出手段は、推定抽出手段にて抽出された雑音成分に対応する固有ベクトル群に基づき、MUSICスペクトルPMU(θ)を算出する(式(4)参照)。
【0037】
この他、検査対象設定手段は、MUSICスペクトルPMU(θ)から、上記推定された到来波数Mよりも、予め定められた量α、多い個数(M+α)のピークG1,…,GM+αを抽出し、各ピークG1,…,GM+αに対応する方位θ1,…,θM+αを、検査対象の方位に設定する。
【0038】
また、判定手段は、上記設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを判定する。そして、推定対象設定手段は、判定手段により判定された相関の高さに基づき、検査対象の各方位θ1,…,θM+αの中から、電力推定対象に設定する方位を選択し、その選択方位を電力推定対象に設定する。
【0039】
電力推定手段は、このようにして設定された電力推定対象の各方位からの受信電力を推定する。そして、推定結果出力手段は、電力推定手段にて推定された受信電力の推定値Pに基づき、電力推定対象の各方位の内、受信電力の推定値Pが予め設定された閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定し、当該閾値Pth以上の各方位の情報を出力する。
【0040】
不等間隔アレーアンテナを用いたMUSIC法による方位推定では、上述したようにステアリングベクトルの一次従属性が原因で、MUSICスペクトルに非所望ピークが発生するため、この非所望ピークに対応する方位を検査対象に設定してしまう可能性がある。
【0041】
そして、非所望ピークに対応する方位を検査対象に設定してしまうことにより、反射波に起因するピーク(以下、「所望ピーク」と表現する。)に対応する方位を検査対象に設定することができなくなる可能性がある。
【0042】
そこで、本発明では、検査対象方位を、到来波数Mではなく、それより所定量α多い個数分設定することにより、非所望ピークに邪魔されて、所望ピークに対応する方位が検査対象方位から外されてしまうのを防止する。
【0043】
そして、本発明では、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるかどうかの判断を、ステアリングベクトル間の相関の高さを判定することにより実現する。具体的に、判定手段は、検査対象設定手段により設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、その評価値によって、相関の高さを判定する構成にすることができる(請求項3)。
【0044】
そして、本発明では、上記相関の高さに応じ、電力推定対象に設定する方位を選択する。例えば、上記相関が高い場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が混合しているとして、到来波数Mより多い個数の方位を電力推定対象に設定することによって、電力推定対象から所望ピークに対応する方位が外されないようにし、非所望ピークに対応する方位の排除を、推定結果出力手段に委ねる。
【0045】
尚、雑音成分程ではないにしろ、非所望ピークに対応する方位の受信電力推定値は、所望ピークに対応する方位の受信電力推定値よりも低くなる可能性が高い。このため、上述の手順によれば、推定結果出力手段により出力される物標方位の精度を、検査対象や電力推定対象を到来波数Mと同数とするよりも、向上させることができる。
【0046】
一方、上記相関が低く、検査対象方位に非所望ピークが混合していないと予想される場合には、例えば、到来波数M分の個数の方位を電力推定対象に設定することで、電力推定対象が到来波数Mより多く選択されることに起因して、電力推定手段による電力推定の精度が下がるのを回避する。
【0047】
このように、本発明のレーダ装置によれば、検査対象方位として到来波数Mより多い数の方位を設定し、それらの方位のステアリングベクトル間の相関の高さを判定することで非所望ピークの有無を判断し、それによって、電力推定対象を切り替えるようにしているので、非所望ピークの影響を抑えて、従来よりも精度よく物標の方位を推定することができる。
【0048】
尚、上記レーダ装置においては、上記相関の高さを、高低の二段階で判定するようにし、判定手段にて上記相関が低いと判定された場合には、検査対象の方位θ1,…,θM+αの中から、推定抽出手段により推定された到来波数Mと同数の方位を選択し、選択した各方位を、電力推定対象に設定し、上記相関が高いと判定された場合には、検査対象の方位θ1,…,θM+αの全てを、電力推定対象に設定するように、推定対象設定手段を構成するとよい。
【0049】
更に言及すれば、上記相関が低いと判定された場合には、検査対象の各方位θ1,…,θM+αの内、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、到来波数Mと同数の方位を、電力推定対象に選択するのがよい(請求項2)。このようにすれば、非所望ピークや雑音の影響を抑えて、従来よりも精度よく物標の方位を推定することができる。
【0050】
また、これらの発明は、FMCW方式のレーダ装置に適用することができる。即ち、上述の発明は、周波数変調された送信信号に従い送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信し、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、送信信号を混合して、アンテナ素子毎のビート信号を生成し、生成した各アンテナ素子のビート信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置に適用することができる。
【0051】
この場合、相関行列生成手段は、アンテナ素子毎のビート信号から受信信号成分を抽出して、当該受信信号成分から自己相関行列を生成したり、ビート信号をフーリエ変換し、そのフーリエ変換値から自己相関行列を生成したりすることができる。
【0052】
また、上記レーダ装置では、演算によってステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価して、上記相関の判定を行うようにしてもよいが、予め設計者が各方位での一次独立性を評価し、その評価結果を表すデータを判定手段に保持させることで、データ参照により、上記相関の判定を行えるように、レーダ装置を構成してもよい。
【0053】
即ち、判定手段は、検査対象として設定される方位の組合せ毎に、当該組合せに対応する各ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性についての評価値を表す判定用データを備え、当該判定用データに基づき、相関の高さを判定する構成にされてもよい(請求項4)。上記判定用データを用いて相関の高さを判定する手法を採用すれば、判定手段の処理負荷を低減することができて、安価なコンピュータを用いてレーダ装置を製造することができる。
【0054】
この他、判定手段は、所定基準より一次独立性が高い又は低いステアリングベクトルa(θ)の組合せを表す判定用データを備えて、この判定用データに基づき、相関の高さを判定する構成にされてもよい(請求項5)。判定用データをこのような構成とすれば、そのデータ量を、抑えることができる。
【0055】
また、判定手段は、一次独立性を次のように評価する構成にすることができる。即ち、判定手段は、検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から上記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに対する、残りのα個の検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)の分布から、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にすることができる(請求項6)。
【0056】
一次独立性が高ければ、各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルの空間C(換言すれば、超平面C)からの距離は、遠くなるが、一次独立性が低ければ、上記ステアリングベクトルの空間Cからの距離は、近くなる。このような原理により、一次独立性を評価すれば、非所望ピークの有無を適切に判断することができる。
【0057】
即ち、判定手段は、空間Cへの射影行列PCによって定義されるノルム||PC・a(θM+i)||、又は、当該空間Cに直交する空間CRへの射影行列PCRによって定義されるノルム||PCR・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)を、上記空間Cからの距離を表す値として用いて、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にすることができる(請求項7)。
【0058】
更に言えば、判定手段は、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Ri(但し、i=1,…,α)として、式(8)又は式(9)
【0059】
【数7】
に従う評価値Riを求め、計α個の評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Riの全てが前記閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にすることができる(請求項8)。
【0060】
また、別手法として、判定手段は、行列式又は条件数により、上記相関の高さを判定する構成にされてもよい。即ち、判定手段は、検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、によって定義される行列の行列式又は条件数を用いて、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、相関の高さを判定する構成にすることができる(請求項9)。
【0061】
具体的に、判定手段は、次式
【0062】
【数8】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の行列式det(Wi)の絶対値|det(Wi)|を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合には、上記相関が高いと判定し、評価値R1,…,Rαの全てが閾値Rthより大きい場合には、相関が低いと判定する構成にすることができる(請求項10)。
【0063】
この他、判定手段は、式(10)で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の条件数κ(Wi)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値R1,…,Rαの全てが、閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項12)。
【0064】
また、判定手段は、次式
【0065】
【数9】
で定義される行列Wの行列式det(W)の絶対値|det(W)|を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、評価値Rが予め定められた閾値Rth以下である場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Rが前記閾値Rthより大きい場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項11)。
【0066】
また、判定手段は、式(12)で定義される行列Wの条件数κ(W)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、評価値Rが予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Rが閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項13)。
【0067】
このように判定手段を構成しても、一次独立性を適切に評価し、上記相関の判定を行うことができる。
また、上述のレーダ装置には、閾値Pthを設定する手段であって、判定手段により求められた評価値に基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替える閾値切替手段を設けるとよい(請求項14)。
【0068】
例えば、閾値切替手段は、判定手段により上記相関が高いと判定された場合に、判定手段により求められた評価値に基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替え、判定手段により上記相関が低いと判定された場合には、評価値に依らず、予め定められた固定値を、閾値Pthとして設定する構成にすることができる。
【0069】
非所望ピークに対応する方位のみかけ上の受信電力は、ステアリングベクトル間の一次独立性の高さによって変化する。よって、評価値により閾値Pthを切り替えるようにすれば、非所望ピークに対応する方位を適切な閾値Pthの設定により排除することができ、レーダ装置による物標方位の推定精度を、向上させることができる。
【0070】
尚、閾値Pthの適値については、シミュレーションにより受信電力の確率密度分布を求めることで導出することができる。具体的には、確率密度分布から、物標方位の誤推定率(非所望ピークに対応する方位を物標方位として推定してしまう確率、換言すれば、物標の誤検出率)が、一定値以下となる閾値Pthを、適値として求めればよい。
【0071】
また、このような動作の実現に際しては、シミュレーションにより、評価値と閾値Pth(の適値)との対応関係を表すテーブルを作成し、このテーブルを閾値切替手段に設けて、このテーブルが示す対応関係に従い、閾値Pthとして、判定手段で求められた評価値に対応する大きさの閾値を設定するように、閾値切替手段を構成すればよい。そして、上記テーブルには、物標方位の誤推定率が規定値未満となる閾値Pthを、評価値が採りえる値の範囲において、区間毎に記述すればよい(請求項15)。
【0072】
この他、閾値切替手段は、評価値ではなく、検査対象方位の組合せに基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替える構成にされてもよい(請求項16)。このように、閾値切替手段を構成した場合であっても、状況に応じて適切な閾値Pthを設定することができ、非所望ピークに対応する方位を、物標方位として推定(検出)してしまうのを抑制することができる。
【0073】
尚、このような手法を採用する場合にも、シミュレーションによって、閾値Pthの適値(物標方位の誤推定率が規定値未満となる値)を求めて、その結果から、検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、推定結果出力手段に対して設定すべき閾値Pth(上記適値)を記したテーブルを作成し、このテーブルを、閾値切替手段に設けて、更には、このテーブルに従い、閾値Pthとして、検査対象設定手段により設定された検査対象の方位の組合せに対応する大きさの閾値を設定するように、閾値切替手段を構成すればよい(請求項17)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。但し、本発明のレーダ装置は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【実施例1】
【0075】
図1は、第一実施例の車載用レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
また、図2は、当該レーダ装置1が備える受信アンテナ19の構成を表した説明図であり、図3は、レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。
【0076】
本実施例のレーダ装置1は、所謂FMCW方式のレーダ装置であり、周波数が時間に対して直線的に漸次増減するミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ss(図3上段参照)に応じたレーダ波を放射する送信アンテナ17と、物標(前方車両等)により反射されたレーダ波(反射波)を受信するK個のアンテナ素子からなる受信アンテナ19と、を備える。
【0077】
更に、このレーダ装置1は、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子のいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図3下段参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27と、フィルタ27の出力をサンプリングし、ディジタルデータに変換するA/D変換器29と、マイクロコンピュータを中心に構成される信号処理部30と、を備える。
【0078】
信号処理部30は、発振器11の起動/停止等を制御すると共に、マイクロコンピュータでのプログラム実行により、A/D変換器29から入力されるビート信号BTのサンプリングデータを用いた信号処理や、当該信号処理により得られる物標の位置・相対速度・方位等の情報を車間制御ECU40に送信する処理等を行う。
【0079】
また、受信アンテナ19は、K個のアンテナ素子が、不等間隔で一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成されている。以下では、K個のアンテナ素子の夫々を番号付けして、第iアンテナ素子(i=1,2,…,K)と表現し、第1〜第Kアンテナ素子の夫々を、図2では、AT_1〜AT_Kと符号付けする。
【0080】
図2に示すように、本実施例の受信アンテナ19は、第iアンテナと第(i+1)アンテナ間の距離d[i]が、d[1],…,d[K−1]間で一致しないように構成にされている。但し、ここでは、距離d[1],…,d[K−1]の全てが互いに異なる値を採ることを必ずしも意味しない。
【0081】
このように構成された本実施例のレーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動する。そして、当該起動により発振器11が生成した高周波信号は、増幅器13にて増幅された後、分配器15に入力され、分配器15によって電力分配される。これにより、レーダ装置1では、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssは、送信アンテナ17を介し、レーダ波として送出される。
【0082】
一方、送信アンテナ17から送出され物標に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子にて受信される。そして、各アンテナ素子からは、受信スイッチ21に向けて、その受信信号Srが出力される。
【0083】
また、受信スイッチ21からは、受信スイッチ21によって選択された第iアンテナ素子(i=1,…,K)の受信信号Srのみが増幅器23に出力され、増幅器23で増幅された受信信号は、ミキサ25に供給される。
【0084】
ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号Lが混合されて、信号Sr,Ssの差の周波数成分であるビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29にてサンプリングされ、ディジタルデータとして信号処理部30に取り込まれる。
【0085】
但し、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのアンテナ素子AN_1〜AN_Kを所定回ずつ選択するように、切り替えられる。そして、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してサンプリングを行う。
【0086】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、上記ビート信号のサンプリングデータを解析することにより、周知の手法で、レーダ波の反射波についての発生元である物標(前方車両)までの距離や、自車両に対する物標の相対速度を推定する。
【0087】
送信信号Ssに基づくレーダ波を送信アンテナ17が送信したことに起因して、受信アンテナ19が、反射波を受信すると、受信信号Srは、図3上段に点線で示すように、レーダ波が物標との間を往復するのに要した時間、即ち、物標までの距離に応じた時間Tr分遅延し、物標との相対速度に応じた周波数fd分ドップラシフトする。本実施例のレーダ装置は、ビート信号BTに含まれるこのような時間Tr及び周波数fdの情報から、物標までの距離や物標との相対速度を推定する。
【0088】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、自車両進行方向(アンテナ方向)を基準とした物標の方位を推定する。具体的に、信号処理部30は、MUSIC法を用いて物標の方位を推定する。
【0089】
MUSIC法では、アンテナ素子AN_1〜AN_K間の位相差を用いて到来波の到来方向(方位)を推定するが、例えば、図4(a)に示すように自車両前方に、二台の先行車両が存在する場合には、A/D変換器29から得られたビート信号BTのサンプリングデータに基づき、MUSICスペクトルを算出すると、MUSICスペクトルにおいて、図4(b)に示すように、先行車両に対応する方位に鋭いピークが立つ。
【0090】
本実施例では、このようなMUSICスペクトルのピークを抽出して、対応する方位の受信電力を推定し、受信電力が閾値Pth以上であれば、その方位を、物標方位であると推定する。尚、図4は、物標方位とMUSICスペクトルとの対応関係を示した説明図である。
【0091】
但し、本実施例では、受信アンテナ19として、不等間隔アレーアンテナを用いているので、MUSICスペクトルには、上述したように、所望ピークの他、雑音によるピーク、及び、偽像である非所望ピークが現れる。
【0092】
そこで、本実施例では、信号処理部30にて、図5及び図6に示す物標方位推定処理を実行することにより、非所望ピークの影響を抑えた方位推定を行う。尚、図5及び図6は、信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【0093】
物標方位推定処理を開始すると、信号処理部30は、A/D変換器29にてサンプリングされたビート信号BT(サンプリングデータ)に基づき、式(1)(2)に従って、自己相関行列Rxxを生成する(S110)。
【0094】
但し、受信ベクトルX(i)の要素xk(i)(但し、k=1,…,K)の値は、ビート信号BTのサンプリングデータから特定したk番目アンテナ素子の受信信号Srの時刻iでの値である。
【0095】
そして、自己相関行列Rxxの生成後には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め(S120)、予め定められた閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定する(S130)。即ち、到来波数Mを、閾値λthより大きい固有値の数と推定する。
【0096】
また、到来波数Mを推定し終えると、MUSICスペクトルから検査対象方位として抽出する方位の数n(以下、検査対象抽出数nと表現する。)を、上記推定した到来波数Mに、所定量αを加算した値に設定する(S140)。
【0097】
n=M+α
また、この処理を終えると、S110で求めた固有値であって閾値λth以下の(K−M)個の固有値λM+1,…,λKの夫々に対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、固有値が熱雑音電力以下となる雑音成分の固有ベクトルとして、算出する(S150)。
【0098】
そして、これら雑音成分の固有ベクトルeM+1,…,eKから式(3)によって定まる雑音固有ベクトルENと、受信アンテナ19の構成から定まるアレー応答ベクトル、換言すれば、ステアリングベクトルa(θ)と、から式(4)に示す評価関数PMU(θ)に従うMUSICスペクトルを算出する(S160)。
【0099】
そして、上記算出したMUSICスペクトルに基づき、当該MUSICスペクトルにてピーク値(値PMU(θ))が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、S140で決定した検査対象抽出数n分の方位θ1,…,θnを抽出し、これらn個の方位θ1,…,θnを検査対象方位に設定する(S170)。
【0100】
また、検査対象方位設定後には、相関判定処理を実行する(S180)。相関判定処理の詳細については後述するが、ここでは、S170で設定した検査対象方位θ1,…,θnの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定することにより、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるか否かを判定する。具体的に、相関判定処理では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを、高低の二段階で判定する。
【0101】
そして、相関判定処理で相関が「高い」と判定された場合には、S190でYesと判断し、S210に移行する。一方、相関判定処理で相関が「低い」と判定された場合には、S190でNoと判断し、S200に移行する。
【0102】
また、S200に移行した場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が含まれる可能性が低いため、電力推定対象数M’を、S130で推定した到来波数Mと同数に設定する(M’=M)と共に、S240で用いる受信電力の閾値Pthを、予め設計段階で定められた基本値Pth0に設定する(S205)。その後、S220に移行する。
【0103】
一方、S210に移行した場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が含まれる可能性が高いため、電力推定対象数M’を、S140で設定した検査対象抽出数nと同数に設定し(M’=n)、更には、受信電力閾値補正処理を実行することにより(S215)、S240で用いる受信電力の閾値Pthを、上記基本値Pth0とは異なる値に設定する。その後、S220に移行する。
【0104】
尚、受信電力閾値補正処理の詳細については、後述するが、S215では、信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する閾値補正テーブルに基づき、S240で用いる受信電力の閾値Pthとして、相関判定処理にて求められたステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値に対応した値を設定する。
【0105】
このような処理を経て、S220に移行すると、信号処理部30は、検査対象方位θ1,…,θn群において、MUSICスペクトルでのピーク値(値PMU(θ))が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、S200又はS210で設定された電力推定対象数M’分の方位θ1,…,θM'を選択し、これらM’個の方位θ1,…,θM'を、電力推定対象方位に設定する。
【0106】
そして、上記設定した電力推定対象方位θ1,…,θM'に対応する受信電力P1,…,PM'を、式(6)に従って求める(S230)。
即ち、方位行列Aを、次のように定義し、
【0107】
【数10】
この方位行列Aを用いて、式(6)に従い行列Sを算出し、行列Sの第m対角成分から方位θmの受信電力Pmを得る(但し、m=1,…,M’)。
【0108】
【数11】
このようにして、各電力推定対象方位θ1,…,θM'に対応する受信電力P1,…,PM'を求めると、信号処理部30は、S240に移行し、S205又はS215で設定された閾値Pthと、各受信電力P1,…,PM'との比較を行い、電力推定対象方位θ1,…,θM'の中から、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定する。そして、受信電力が閾値Pth以上の方位の情報を、物標方位の情報として、当該物標の位置・相対速度の情報と共に、車両制御ECU40に送信する。その後、当該物標方位推定処理を終了する。
【0109】
続いて、信号処理部30が、S180で実行する相関判定処理の詳細を、図7を用いて説明する。図7は、信号処理部30が実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【0110】
相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、上記設定された検査対象方位θ1,…,θn群から、MUSICスペクトルでのピーク値(値PMU(θ))が最大の方位を1番目として、ピーク値の大きい順に、上記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMを選択し、選択した方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に基づき、方向行列Aを、次式(16)に従って生成する(S310)。
【0111】
【数12】
また、この処理を終えると、S310で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに直交する空間(超平面)への射影行列PCRを、次式(17)に従って算出する(S320)。
【0112】
【数13】
また、S320での処理を終えると、信号処理部30は、S330に移行して、変数iを値αに設定し(i←α)、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを、次式(18)に従って、算出する(S340)。
【0113】
【数14】
ここで、式(18)について補足説明すると、式(18)で算出される評価値Riは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性を評価した値である。
【0114】
ノルム||PCR・a(θM+i)||は、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cからステアリングベクトルa(θM+i)への距離に対応する。従って、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高ければ、ノルム||PCR・a(θM+i)||の二乗は、大きい値を採る。
【0115】
一方、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が低ければ(換言すると、一次従属性が高ければ)、ノルム||PCR・a(θM+i)||の二乗は、ゼロに近づく。このように、式(18)で算出されるRiは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高い程、小さい値を採る。従って、評価値Riは、一次独立性についての評価値になりえるのである。
【0116】
このような性質の評価値Riを算出すると、信号処理部30は、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S350)。
そして、評価値Riが閾値Rthより大きい(Ri>Rthである)と判断した場合には(S350でYes)、S390に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0117】
一方、評価値Riが閾値Rth以下であると判断した場合(S350でNo)、信号処理部30は、上記相関の判定を保留して、S360に移行し、変数iを1小さい値に設定する(i←i−1)。そして、変数i=0でない場合には(S370でNo)、S340に移行し、更新後の変数iの値を用いて、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを算出し、評価値Riが閾値Rthより大きいか否かを判断する(S350)。
【0118】
そして、評価値Riが閾値Rthより大きいと判断した場合には(S350でYes)、上記相関が「高い」と判定し、評価値Riが閾値Rth以下である場合には(S350でNo)、S360に移行し、後続の処理を実行する。また、このような処理によって、変数i=0となった場合には(S370でYes)、上記相関が「低い」と判定し(S380)、当該相関判定処理を終了する。
【0119】
即ち、相関判定処理では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rth以下である場合には、相関が低いと判定する。
【0120】
このようにして、相関判定処理では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定し、これによって、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるか否かを判定する。
【0121】
続いて、信号処理部30が、S215で実行する受信電力閾値補正処理について、図8を用いて説明する。図8は、受信電力閾値補正処理に関する説明図であり、同図(a)は、信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理を表すフローチャートであり、同図(b)は、当該受信電力閾値補正処理で用いられる閾値補正テーブルの構成を表す説明図であり、同図(c)は、閾値補正テーブルの作成方法に関する説明図である。
【0122】
信号処理部30は、S215にて受信電力閾値補正処理を開始すると、検査対象方位θM+1,…,θnの評価値R1,…,Rαの夫々に対応する閾値Pthの適値TDを、信号処理部30が内蔵する不揮発性メモリに記憶された閾値補正テーブルから読み出す(S410)。
【0123】
尚、本実施例では、受信電力閾値補正処理において、全検査対象方位θM+1,…,θnの評価値R1,…,Rαが必要であるため、相関判定処理では、相関判定に必要であるか否かに関わらず、検査対象方位θM+1,…,θnの全てについて、評価値R1,…,Rαを求め、これを一時記憶するものとする。例えば、S390に移行した時点で未算出の評価値については、算出して相関判定処理を終えるものとする。
【0124】
図8(b)に示すように、閾値補正テーブルは、相関判定処理にて求められる評価値Riが採りえる範囲(Rmin<Ri≦Rmax)において、区間毎に、閾値Pthの適値TD[1],…,TD[q]の情報を有する。
【0125】
具体的に、図8(b)に示す例では、評価値として採りえる範囲が幅Δ毎に分割されて区間が定められ、条件式Rmin+(q−1)・Δ<Ri≦Rmin+q・Δを満足する第q区間(但し、q=1,…,Qであり、Rmin+Q・Δ=Rmax)に対しては、適値TD[q]が対応付けられている。
【0126】
このような構成の閾値補正テーブルは、図8(c)に示すように、後述するテーブル作成装置100にて作成され、レーダ装置1の製造過程で、上記不揮発性メモリに書き込まれる。
【0127】
S410において、このような構成の閾値補正テーブルから、評価値R1,…,Rαの夫々に対応する適値TDを読み出すと、信号処理部30は、上記読み出した各評価値R1,…,Rαに対応する計α個の適値TDに基づいて、S240で用いる閾値Pthを設定する(S420)。
【0128】
具体的に、本実施例では、上記読み出した各評価値R1,…,Rαに対応する適値TDの内、値が最大のものを選択し、これ(適値TDの最大値)を、閾値Pthに設定する。その後、当該受信電力閾値補正処理を終了し、上記設定した閾値Pthを用いて、上述した手法で、S240の処理を行う。
【0129】
次に、テーブル作成装置100における閾値補正テーブルの作成方法について、図9を用いて説明する。図9(a)は、テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0130】
テーブル作成装置100は、マイクロコンピュータを中心に構成される周知の情報処理装置であって、当該情報処理装置が備える記憶手段に、閾値補正テーブル作成処理に対応するプログラムがインストールされたものである。テーブル作成装置100は、マイクロコンピュータにて、このプログラムを実行することにより、上述した構成の閾値補正テーブルを作成する。
【0131】
具体的に、テーブル作成装置100は、図9(a)に示す閾値補正テーブル作成処理を開始すると、まずS510にて、適値算出対象の評価値R’を、上記値Rmaxに設定すると共に、変数q=Qに設定することで、適値算出対象区間を、第Q区間に設定する。
【0132】
その後、S520に移行し、評価値R’が得られる環境において生じる非所望ピークが採りえる受信電力Pの確率密度分布を、シミュレーションにより求める。
ここで、シミュレーションによる確率密度分布の導出方法を例示する。シミュレーションによる受信電力Pの確率密度分布の導出は、例えば、パラメータX,N(i)を乱数として、式(19)に従い受信電力Pの分布を求めることにより、実現することができる。
【0133】
【数15】
但し、ベクトルX,N(i)は、K次元複素ベクトルであり、ベクトルXは、条件
【0134】
【数16】
を満足する範囲でランダムに与えられる。
【0135】
具体的に、ベクトルXについては、K次元実数ベクトルrx,ryを用いて、次式により生成する。但し、ここで用いるjは、虚数単位を表し、ベクトルrx,ryの各要素は一様分布U(−1,1)に従う乱数として定義する。
【0136】
【数17】
同様に、ベクトルN(i)については、K次元実数ベクトルrx,ryを用いて、次式により生成する。但し、ベクトルrx,ryは、平均値0,共分散行列σ2Iの正規分布N(0,σ2I)に従う乱数である。
【0137】
【数18】
ここで、σは想定する熱雑音強度である。このようにして受信電力Pの確率密度分布を求めた後には、求めた確率密度分布から、受信電力Pが閾値Pth以上となる確率が、予め定められた規定値未満となる閾値Pthの最小値を特定する(S530)。図9(b)は、S520で算出される確率密度分布の例を示すグラフであり、適値TDの決定手法を示した説明図である。
【0138】
即ち、S530では、確率密度分布において、受信電力Pが閾値Pth以上の領域の面積(図9(b)に示す斜線部分の面積)が、規定値未満となる閾値Pthの最小値を特定する。尚、「受信電力Pが閾値Pth以上となる確率」は、「非所望ピークに対応する方位を物標方位である誤推定してしまう確率」に相当する。
【0139】
従って、S530の実行後には、上記特定した閾値Pthを、第q区間での閾値Pthの適値TD[q](即ち、相関判定処理で求められる評価値Riが区間R’−Δ<Ri≦R’の範囲内にある場合に設定すべき閾値Pthの適値)に設定する(S540)。
【0140】
また、S540での処理を終えると、テーブル作成装置100は、現在設定されている値qが値1未満であるか否かを判断し(S550)、値qが値1以上である場合には(S550でNo)、S560に移行して、評価値R’を、Δ減算した値に更新すると共に、変数qを1減算した値に更新した後(R’←R’−Δ,q←q−1)、S520に移行し、更新後の評価値R’を用いて後続の処理を実行する。
【0141】
そして、値qが値1未満となると(S550でYes)、これまでのS540での設定内容に従って、第1区間から第Q区間の各区間に関して、当該区間の情報及びTD[q]の情報を関連付けなるレコードを生成し、これらのレコード群からなる図8(b)に示す構成の閾値補正テーブルを生成する。そして、生成した閾値補正テーブルを出力する(S570)。S570では、例えば、モニタを通じてテーブル作成装置100を操作するユーザに対し閾値補正テーブルを表示出力してもよいし、閾値補正テーブルを、ハードディスク等に出力して保存してもよい。このようにして生成・出力された閾値補正テーブルは、不揮発性メモリに書き込まれて、レーダ装置1の製造過程で、信号処理部30に組み込まれる。
【0142】
以上、第一実施例のレーダ装置1について説明したが、本実施例のレーダ装置1では、MUSICスペクトルに現れる非所望ピークによって物標方位の推定精度が劣化しないように、検査対象方位を、到来波数Mではなく、それより所定量α多い個数分設定するようにした。そして、検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを判定することで、非所望ピークが現れていないかどうかを判定するようにした。
【0143】
そして、非所望ピークが現れている可能性が高い場合には、電力推定対象方位を、到来波数M+αに設定することで、所望ピークに対応する方位が電力推定対象から外れてしまわないようにし、物標方位の誤推定率を抑えるようにした。
【0144】
更に、本実施例では、非所望ピークが現れている可能性が高い場合、受信電力Pの閾値Pthを調整することにより、非所望ピークに対応する方位を可能な限り排除できるようにし、非所望ピークに対応する方位が物標方位として誤認識されるのを抑制するようにした。
【0145】
従って、本実施例によれば、物標方位の精度を、検査対象方位や電力推定対象方位を到来波数Mと同数とする従来技術よりも、向上させることができ、車間制御を高精度に行うことができる。
【0146】
また、本実施例では、非所望ピークが発生していない可能性が高い場合、電力推定対象数M’を、推定した到来波数Mに設定することにより、非所望ピークが発生していないにも拘わらず、電力推定対象を、到来波数Mより多く設定することにより生じる受信電力Pの推定精度の劣化を回避するようにした。
【0147】
従って、本実施例によれば、非所望ピークが発生していない状況下でも、高精度に物標方位を推定することができ、視野角が広く物標方位を高精度に推定可能なレーダ装置を提供することができる。
【0148】
ところで、第一実施例では、評価値Riに対応する閾値Pthの適値TDを記述した閾値補正テーブルを、信号処理部30に記憶させることにより、非所望ピークが現れている際にも、適切に非所望ピークに対応する方位を、物標方位から排除できるようにしたが、非所望ピークが現れる方位と、非所望ピーク以外のピークが現れる方位との間には、原理上、一定のパターンがあるので、閾値補正テーブルは、方位の組合せ毎に、閾値Pthの適値TDを保持する構成にされてもよい(第二実施例)。
【実施例2】
【0149】
続いて、第二実施例について説明する。但し、第二実施例は、テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理の内容、レーダ装置1が備える閾値補正テーブルの構成、及び、レーダ装置1が実行する受信電力閾値補正処理の内容が異なる程度であり、他の構成については、第一実施例と同様であるので、以下では、第一実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0150】
まず初めに、本実施例の閾値補正テーブルの構成を説明する。本実施例の閾値補正テーブルは、図10(a)に示すように、検査対象方位として採りえる方位の組合せΘ毎に、閾値Pthの適値TDの情報を有し、上記方位の組合せΘ及び適値TDの情報からなるレコード群により構成される。図10(a)は、本実施例において信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する閾値補正テーブルの構成を表す説明図である。
【0151】
本実施例では、閾値補正テーブルがこのような構成になっていることから、受信電力閾値補正処理では、図10(b)に示す手順により、S240で用いる閾値Pthを設定する。尚、図10(b)は、本実施例において信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理を表すフローチャートである。
【0152】
即ち、S215にて受信電力閾値補正処理を開始すると、信号処理部30は、先立って設定された検査対象方位θ1,…,θnの組合せΘ={θ1,…,θn}に合致するレコードを、信号処理部30が内蔵する不揮発性メモリに記憶された閾値補正テーブルを対象に検索し、当該レコードが示す上記組合せΘに対応する適値TDを、閾値補正テーブルから読み出す(S610)。
【0153】
そして、上記読み出した適値TDを、閾値Pthに設定する(S620)。本実施例では、このようにして受信電力閾値補正処理を実行し、この処理を終了した後には、上記設定した閾値Pthを用いて、S240の処理を行う。
【0154】
続いて、本実施例においてテーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理の内容について、図11を用いて説明する。図11は、本実施例においてテーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0155】
閾値補正テーブル作成処理を開始すると、テーブル作成装置100は、予めユーザから提供され記憶している閾値補正テーブルの初期データを読み出す(S710)。
ここでいう閾値補正テーブルの初期データとは、方位の組合せΘの情報及び適値TDの情報を有するレコードの一群からなる閾値補正テーブルの内、適値TDの情報が空欄で、方位の組合せΘの情報のみが登録された未完成の閾値補正テーブルのことである。
【0156】
閾値補正テーブルの初期データを構成する各レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}は、(n−α)個の方位の組合せΘp={θ1,…,θn-α]を示す前半部分、α個の方位の組合せΘs={θn-(α-1),…,θn]を示す後半部分からなり、後半部分は、方位の組合せΘpが得られるときに、非所望ピークが生じる方位の組合せΘsを表す。
【0157】
S710で、このような構成の閾値補正テーブルの初期データを取得した後には、閾値補正テーブルの先頭レコードを、処理対象レコードに選択する(S720)。そして、処理対象レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}に対応する行列Bを生成する(S730)。
【0158】
【数19】
また、行列Bの生成後には、当該行列Bを用いて、処理対象レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}が得られる環境において生じる各非所望ピークが採りえる受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布を、シミュレーションにより求める(S740)。
【0159】
ここで、シミュレーションによる確率密度分布の導出方法を例示する。シミュレーションによる受信電力Pの確率密度分布の導出は、組合せΘpに対応する各方位θ1,…,θn-αからの到来波を受信アンテナ19が受信したときの受信ベクトルX(i)
【0160】
【数20】
を、smを固定値とし、N(i)を、ホワイトガウシアンノイズに対応するK次元複素ベクトル(乱数)として、シミュレーションにより擬似的に生成し、この受信ベクトルX(i)を用いて、式(2)に従い自己相関行列Rxxを生成し、当該自己相関行列Rxxを用いて、次式
【0161】
【数21】
に従う行列Dを算出することにより行うことができる。但し、式(26)に示すΣは、N(i)・NH(i)の平均E[N(i)・NH(i)]である。
【0162】
行列Dの第m対角成分は、方位θmの受信電力Pmに対応する(但し、m=1,…,M+α)。
【0163】
【数22】
従って、シミュレーションにより擬似的に生成した各受信ベクトルでの受信電力Pn-(α-1),…,Pnを求めることにより、組合せΘsに対応する各方位θn-(α-1),…,θnに生じる非所望ピークに対応する受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布を求めることができる。
【0164】
また、上記各確率密度分布を算出し終えると、テーブル作成装置100は、S750に移行し、算出した各方位θn-(α-1),…,θnに対応する受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布から、各方位θn-(α-1),…,θnにおいて、受信電力が閾値Pth以上となる確率が、予め定められた規定値未満となる閾値Pthの最小値P*n-(α-1),…,P*nを、第一実施例と同様の手法で特定し、特定した各方位の最小値P*n-(α-1),…,P*nの内、値が最も高いものを、処理対象レコードの方位の組合せΘに対応する閾値Pthの適値TDに選択する(S760)。
【0165】
そして、S760での処理を終えると、S710で読み出した閾値補正テーブルの初期データを編集し、処理対象レコードにおける閾値Pthの適値TDの欄に、S760で選択した適値TDを書き込むことにより、処理対象レコードを完成させる(S770)。
【0166】
また、閾値補正テーブルの初期データに登録された全レコードに対して適値TDを書き込んで閾値補正テーブルが完成していない場合には(S780でNo)、現在処理対象レコードに設定されているレコードの次のレコードを、処理対象レコードに設定して(S785)、S730に移行し、当該処理対象レコードについて後続の処理を実行する。
【0167】
そして、閾値補正テーブルの初期データに登録された全レコードに対して適値TDを書き込んで、閾値補正テーブルが完成した場合には(S780でYes)、S790に移行し、完成した閾値補正テーブルを、第一実施例と同様に、出力する。その後、当該閾値補正テーブル作成処理を終了する。
【0168】
以上、第二実施例のレーダ装置1について説明したが、第二実施例のレーダ装置1についても、第一実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0169】
続いて、第三実施例について説明する。但し、第三実施例のレーダ装置1及びテーブル作成装置100は、「レーダ装置1の信号処理部30が不揮発性メモリに評価値テーブルを備えて、当該評価値テーブルを用いて相関判定処理を実行する構成にされていること」、及び、「評価値テーブルを作成するために、テーブル作成装置100が、評価値テーブル作成処理を実行可能に構成されていること」を除けば、第一又は第二実施例と、基本的に同一構成である。従って、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0170】
初めに、信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する評価値テーブルの構成を説明する。図12(a)は、上記評価値テーブルの構成を表す説明図である。
図12(a)に示すように、本実施例の評価値テーブルは、検査対象方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から到来波数M分の方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘT={θ1,…,θM}と、当該組合せΘTと共に検査対象方位に設定される可能性のある方位θspと、の組合せΘD={ΘT,θsp]毎に、当該組合せΘTに対応する各方位θ1,…,θMのステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θsp)の一次独立性についての評価値R(θsp)の情報を備え、組合せΘD={ΘT,θsp]と評価値R(θsp)とからなるレコードの一群から構成されている。
【0171】
一方、信号処理部30は、相関判定処理の実行時に、この評価値テーブルを参照して、検査対象方位に設定された各方位θ1,…,θnに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定する。図12(b)は、信号処理部30がS180で実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【0172】
図12(b)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まず、検査対象方位に設定された方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から推定された到来波数M分の方位を抽出して、当該到来波数M分の方位の組合せΘT={θ1,…,θM}を特定する(S810)。
【0173】
更に、残りのα個の各方位θM+1,…,θM+αの夫々と組合せΘTとを組み合わせて、検索対象の組合せとして、計α個の組合せ{ΘT,θM+1},…,{ΘT,θM+α}を設定する(S820)。
【0174】
その後、信号処理部30は、内蔵の不揮発性メモリに記憶された上記評価値テーブルを参照し、評価値テーブルから、各組合せ{ΘT,θM+1},…,{ΘT,θM+α}に関連付けられた評価値R(θM+i)(但し、i=1,…,α)の情報を読み出す(S830)。
【0175】
そして、読み出した計α個の評価値R(θM+1),…,R(θM+α)の全てが閾値Rth以下である場合には(S840でNo)、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が低いと判定し(S850)、評価値R(θM+1),…,R(θM+α)の少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には(S840でYes)、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が高いと判定する(S860)。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0176】
続いて、テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理について、図13を用いて説明する。図13は、テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0177】
評価値テーブル作成処理を開始すると、テーブル作成装置100は、検査対象方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から到来波数M分の方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘT={θ1,…,θM}の一つを、処理対象の組合せΘTに設定する(S910)。
【0178】
また、この処理を終えると、テーブル作成装置100は、処理対象の組合せΘTに対応する各方位θ1,…,θMのステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に基づき、方向行列Aを、式(16)に従って生成する(S920)。
【0179】
その後、S920で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに直交する空間への射影行列PCRを、式(17)に従って算出する(S930)。
【0180】
また、処理対象の組合せΘTと共に検査対象方位に設定される可能性のある各方位θspについての評価値R(θsp)を、次式(28)に従って算出する(S940)。
【0181】
【数23】
また、S940の実行後には、S940で算出した評価値R(θsp)毎に、当該評価値R(θsp)に対応する組合せΘD={ΘT,θsp]及び評価値R(θsp)の情報からなるレコードを、評価値テーブルに登録する(S950)。尚、評価値テーブルは、評価値テーブル作成処理の実行開始時に、空のテーブル(ファイル)として生成される。
【0182】
そして、S950での処理を終えると、テーブル作成装置100は、採りえる方位の組合せΘTの全てを処理対象の組合せに設定して、上述の処理を実行したか否かを判断し(S960)、実行していないと判断した場合には(S960でNo)、未処理の組合せΘTの一つを処理対象の組合せΘTに設定して(S970)、S920に移行し、後続の処理を実行する。
【0183】
そして、全ての組合せΘTに関して、上述の処理を実行したと判断すると(S960でYes)、S980に移行し、完成した評価値テーブルを、第一実施例の閾値補正テーブル作成処理と同様に、出力する。
【0184】
以上、第三実施例について説明したが、第三実施例においては、評価値を、演算で求めることなく評価値テーブルから読み出して特定するので、相関判定処理でのマイクロコンピュータによる処理負荷を低減でき、安価なマイクロコンピュータを用いてレーダ装置1を構成することができる。
【0185】
ところで、評価値テーブルは、評価値R(θsp)が閾値Rthより高い組合せΘD={ΘT,θsp]に対応するレコードのみからなる構成にされてもよい。このように評価値テーブルを構成する場合には、S820で検索対象に設定した組合せの内、当該組合せに対応するレコードが評価値テーブルに存在しないものについては、評価値R(θsp)が閾値Rth以下であると取り扱って、S840での判断を行えばよい。
【0186】
同様に、評価値テーブルは、評価値R(θsp)が閾値Rth以下の組合せΘD={ΘT,θsp]に対応するレコードのみからなる構成にされてもよい。このように評価値テーブルを構成する場合には、S820で検索対象に設定した組合せの内、当該組合せに対応するレコードが評価値テーブルに存在しないものについては、評価値R(θsp)が閾値Rthより高いと取り扱って、S840での判断を行えばよい。
【実施例4】
【0187】
続いて、第四実施例について説明する。但し、第四実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の一部が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一実施例又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0188】
図14は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。当該フローチャートにおいて、図7に示す第一実施例の相関判定処理と同様の処理となるステップには、ステップ番号として、図7と同一の番号を付す。
【0189】
図14に示すように本実施例においては、第一実施例とは異なり、S320の処理に代えて、S325の処理を実行し、S340の処理に代えて、S345の処理を実行する。具体的に、S325では、S310で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間C(超平面)への射影行列PCを、次式(29)に従って算出する。
【0190】
【数24】
そして、S345では、検査対象方位θM+iについての評価値Riを、次式(30)に従って、算出する。
【0191】
【数25】
尚、式(30)で算出される評価値Riは、式(18)で算出される評価値Riと同様、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性を評価した値である。
【0192】
ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高ければ、ノルム||PC・a(θM+i)||の二乗は、ゼロに近い値を採る。一方、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が低ければ、ノルム||PC・a(θM+i)||の二乗は、大きい値を採る。このように、式(30)で算出されるRiは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高い程、小さい値を採る。従って、評価値Riは、一次独立性についての評価値になりえる。
【0193】
以上、第四実施例について説明したが、第四実施例の手法で評価値Riを算出しても、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関高さを高精度に判定することができ、結果として、第一実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0194】
続いて、第五実施例について説明する。但し、第五実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の内容が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0195】
図15(a)は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。図15(a)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まずS1010にて、変数iを値αに設定する(i←α)。
【0196】
その後、S1020に移行し、検査対象方位θ1,…,θn=M+αであって、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から先立って推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象方位θM+1,…,θM+αの内の一つであって、変数iに対応する方位θM+iのステアリングベクトルa(θM+i)と、に基づき、次式(31)に従う行列Ziを算出する。
【0197】
【数26】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、S1030に移行し、次式(32)に従う行列Wiを算出する。
【0198】
【数27】
そして、行列Wiの算出後には、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして、行列Wiの行列式の絶対値を算出する(S1040)。
【0199】
【数28】
尚、行列Wiの行列式は、行列Wiを構成するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM),a(θM+i)間の一次従属性が高くなる程、値ゼロに近づく。
【0200】
このため、S1040における評価値Riの算出後には、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1050)。そして、評価値Riが閾値Rth以下である(Ri≦Rthである)と判断した場合には(S1050でYes)、S1090に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0201】
一方、評価値Riが閾値Rthより大きいと判断した場合(S1050でNo)、信号処理部30は、上記相関の判定を保留して、S1060に移行し、変数iを1小さい値に設定する(i←i−1)。そして、変数i=0でない場合には(S1070でNo)、S1020に移行し、更新後の変数iの値を用いて、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを算出し、評価値Riが閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1020〜S1050)。
【0202】
一方、変数i=0となった場合には(S1070でYes)、上記相関が「低い」と判定し(S1080)、当該相関判定処理を終了する。
このようにして、本実施例の相関判定処理では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合、上記相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rthより大きい場合には、相関が低いと判定する。
【0203】
以上、第五実施例について説明したが、本実施例の手法により、一次独立性を評価し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定する場合でも、第一実施例等と同様に、適切に相関の高さを判定して、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができる。
【0204】
また、本実施例では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして、行列Wiの行列式の絶対値を算出するようにしたが、行列Wiの条件数κ(Wi)を、評価値Riとして、算出することもできる。
【0205】
行列Wiの条件数κ(Wi)は、行列Wiを構成するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM),a(θM+i)間の一次従属性が高くなる程、大きい値を採る。従って、行列Wiの条件数κ(Wi)を算出しても、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを適切に判定することができるのである。
【0206】
図15(b)は、評価値Riとして、行列Wiの条件数κ(Wi)を算出する変形例の相関判定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
図15(b)に示す変形例の相関判定処理は、S1040の処理に代えて、S1045の処理を実行し、S1050の処理に代えて、S1055の処理を実行する構成にされ、その他は、基本的に、図15(a)に示す相関判定処理と同一構成にされている。従って、以下では、変形例の相関判定処理として、S1045及びS1055で実行される処理の内容を選択的に説明する。
【0207】
変形例では、S1045において、上述したように、行列Wiの条件数κ(Wi)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして算出する。
【0208】
【数29】
また、S1045における評価値Riの算出後には、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S1055)。そして、評価値Riが閾値Rthより大きい(Ri>Rthである)と判断すると(S1055でYes)、S1090に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。一方、評価値Riが閾値Rth以下であると判断した場合(S1055でNo)、S1060に移行する。
【0209】
このようにして、変形例では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rth以下である場合には、相関が低いと判定する。
【実施例6】
【0210】
続いて、第六実施例について説明する。但し、第六実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の内容が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0211】
図16(a)は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。図16(a)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まず、先立って設定された検査対象方位θ1,…,θn=M+αであって、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から先立って推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、に基づき、次式(35)に従う行列Zを算出する(S1110)。
【0212】
【数30】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、次式(36)に従う行列Wを算出する(S1120)。
【0213】
【数31】
そして、行列Wの算出後には、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして、行列Wの行列式の絶対値を算出する(S1130)。
【0214】
【数32】
また、評価値Rの算出後には、上記算出した評価値Rが、設計段階で定められた閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1140)。そして、評価値Rが閾値Rth以下である(R≦Rthである)と判断した場合には(S1140でYes)、S1160に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0215】
一方、評価値Rが閾値Rthより大きいと判断した場合には(S1140でNo)、S1150に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「低い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0216】
このような手法によって相関の判定を行うレーダ装置1においても、第五実施例と同様の原理により適切に相関の高さを判定することができ、結果として、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができて、非所望ピークの影響を抑え、高精度に、物標方位を推定することができる。
【0217】
ところで、信号処理部30は、第五実施例と同様、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして、行列Wの行列式の絶対値ではなく、行列Wの条件数κ(W)を算出する構成にされてもよい。図16(b)は、評価値Rとして、行列Wの条件数κ(W)を算出する変形例の相関判定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
【0218】
図16(b)に示すように、変形例の相関判定処理は、S1130の処理に代えて、S1135の処理を実行し、S1140の処理に代えて、S1145の処理を実行する構成にされている他は、基本的に、図16(a)に示す相関判定処理と同一構成である。従って、以下では、変形例の相関判定処理として、S1135及びS1145で実行される処理の内容を選択的にする。
【0219】
変形例では、S1135において、上述したように、行列Wの条件数κ(W)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして算出する。
【0220】
【数33】
また、S1135における評価値Rの算出後には、上記算出した評価値Rが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S1145)。そして、評価値Rが閾値Rthより大きい(R>Rthである)と判断した場合には(S1145でYes)、S1160に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0221】
一方、評価値Rが閾値Rth以下であると判断した場合(S1145でNo)、S1150に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「低い」と判定する。
【0222】
このような手法によって相関の判定を行うレーダ装置1においても、第五実施例と同様、適切に相関の高さを判定することができるので、結果として、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができて、非所望ピークの影響を抑え、高精度に、物標方位を推定することができる。
【0223】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明の相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS110の処理にて実現され、相関行列解析手段は、S120の処理にて実現されている。また、推定抽出手段は、S130及びS150の処理にて実現され、スペクトル算出手段は、S160の処理にて実現されている。
【0224】
この他、検査対象設定手段は、S140及びS170の処理にて実現され、判定手段は、S180の処理にて実現されている。また、推定対象設定手段は、S190,S200,S210,S220の処理にて実現され、電力推定手段は、S230の処理にて実現されている。
【0225】
そして、推定結果出力手段は、S240の処理にて実現され、本発明の閾値切替手段は、信号処理部30が実行するS205,S215の処理にて実現されている。
尚、上述の実施例において、値αの具体例について説明しなかったが、非所望ピークは数多く生じるものでもないため、例えば、α=1やα=2等に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】レーダ装置1が備える受信アンテナ19の構成を表した説明図である。
【図3】レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。
【図4】物標方位とMUSICスペクトルとの対応関係を示した説明図である。
【図5】信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【図6】信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【図7】信号処理部30が実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【図8】信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理に関する説明図である。
【図9】テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理に関する説明図である。
【図10】第二実施例の受信電力閾値補正処理に関する説明図である。
【図11】第二実施例の閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【図12】第三実施例の相関判定処理に関する説明図である。
【図13】テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【図14】第四実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。
【図15】第五実施例の相関判定処理(a)及び変形例の相関判定処理(b)を表すフローチャートである。
【図16】第六実施例の相関判定処理(a)及び変形例の相関判定処理(b)を表すフローチャートである。
【図17】MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっている場合及びそうでない場合の受信電力のパターンを例示した説明図である。
【符号の説明】
【0227】
1…レーダ装置、11…発振器、13,23…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30…信号処理部、40…車間制御ECU、100…テーブル作成装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信して、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用のレーダ装置であって、レーダ波を発射し、その反射波を受信して、受信信号を解析することにより、物標(前方車両等)までの距離や方位、物標と自車との相対速度を推定するレーダ装置が知られている。
【0003】
この種のレーダ装置では、送信波に対する反射波の遅延量から物標までの距離を推定すると共に、送信波に対する反射波のドップラシフト量から、物標と自車との相対速度を推定する。
【0004】
また、物標方位については、受信アンテナであるアレーアンテナの各アンテナ素子が受信する反射波に、到来方向に応じた位相差が生じることを利用して推定する。複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナを用いて物標の方位を検出する方法としては、MUSIC法が知られている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1参照)。
【0005】
ここで、MUSIC法について、その概要を説明する。尚、アレーアンテナは、K個のアンテナ素子を並列配置したリニアアレーアンテナであるものとする(図1参照)。
まず、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号から、式(1)に示す受信ベクトルXを構成する。次に、この受信ベクトルXを用いて、式(2)に示すK行K列の自己相関行列Rxxを生成する。
【0006】
【数1】
上式において、Tは、ベクトル転置を示し、Hは、複素共役転置を示す。また、受信ベクトルX(i)の要素xk(i)(但し、k=1,…,K)は、k番目アンテナ素子の受信信号の時刻iでの値を採る。また、Lは、サンプル数である。本例では、各アンテナ素子の受信信号に関し、L個のサンプルを用いて、自己相関行列Rxxを生成する。
【0007】
そして、自己相関行列Rxxを生成した後には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め、熱雑音電力に対応する閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定すると共に、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、算出する。
【0008】
そして、熱雑音電力以下となる(K−M)個の固有値λM+1,…,λKに対応した固有ベクトルeM+1,…,eKからなる雑音固有ベクトルENと、方位θに対するアレーアンテナの複素応答、即ち、ステアリングベクトルa(θ)とから、下式の評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルを求める。
【0009】
【数2】
評価関数PMU(θ)で表されるMUSICスペクトルは、方位θが到来波の到来方向と一致すると発散して、鋭いピークが立つため、到来波の推定方位θ1,…,θM、即ち、反射波を発生させた物標の方位は、MUSICスペクトルのピーク(ヌルポイント)を抽出することにより求めることができる。
【0010】
但し、MUSICスペクトルによってピークを抽出するだけでは、抽出したピークに、反射波に起因するピークの他、雑音成分に起因するピークが含まれる可能性がある。
このため、物標の方位推定に当たっては、MUSICスペクトルにてピーク値が最大の方位から、到来波数M分の方位θ1,…,θMを抽出して、これらの方位θ1,…,θMを電力推定対象に設定し、電力推定対象の各方位θ1,…,θMの受信電力P1,…,PMを求める。
【0011】
そして、電力推定対象の各方位θ1,…,θMの内、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定する。雑音成分に対応する方位は、当然のことながら受信電力が低い。従って、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定することにより、雑音を原因とする物標方位の誤推定を抑えることができる。
【0012】
具体的に、受信電力の推定は、次のように行う。まず、電力推定対象の各方位θ1,…,θMに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)により、方位行列Aを生成する。
【0013】
【数3】
そして、この方向行列Aを用いて、次式で表される行列Sを算出する。
【0014】
【数4】
尚、上式における行列Iは、単位行列であり、σ2は、熱雑音電力である。熱雑音電力σ2については、真値不明のため、例えば、閾値λthで代用したり、閾値λth以下の固有値の平均で代用する。
【0015】
このように行列Sを算出すれば、行列Sの第m対角成分から方位θmの受信電力Pmを得ることができる(但し、m=1,…,M)。
【0016】
【数5】
従来技術では、このようにして、電力推定対象の各方位についての受信電力を求め、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定している。
【特許文献1】特開2006−047282号公報
【特許文献2】特開2000−121716号公報
【非特許文献1】中澤利之、外2名、「不等間隔アレーを用いた方位推定」、電子情報通信学会論文誌 B、2000年6月、第J83−B巻、第6号 pp.845−851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、MUSIC法による物標の方位推定に際しては、上記アレーアンテナとして、アンテナ素子を等間隔で配列したアレーアンテナ(以下、「等間隔アレーアンテナ」と表現する。)を用いるのが一般的である。
【0018】
また、信号処理方式としてMUSIC方式を採用した等間隔アレーアンテナの場合、実際の到来波(以下、「所望波」と表現する。)についての各アンテナ素子間の位相差が2nπ倍となることにより、周期的にグレーティングローブが発生することが知られている。
【0019】
つまり、所望波方位を表すステアリングベクトルが張る空間は、グレーティングローブ発生方位を表すステアリングベクトルを含んでいることになる。従って、このグレーティングローブの検出を避けるように、走査方位範囲(以下、「視野角」と表現する。)を決定する必要がある。換言すると、等間隔アレーアンテナの場合、視野角を広げるためには、素子間隔を狭くすることが必要である。
【0020】
しかし一方で、二物標分離能はレーダ開口長で決定されるため、等間隔アレーにおいて分離能の維持と視野広角化を両立させることは、素子数の増加によるコスト増につながる。また、素子間隔を狭くすることは、アンテナ素子の数や、素子間結合が増加することからも難しい場合がある。
【0021】
これに対し、非特許文献1によると、適切な不等間隔でアンテナ素子を配置することにより、想定する到来波数内の環境において、要求視野角内の任意の方位のステアリングベクトルが、所望波方位のステアリングベクトルが張る空間に含まれないことを判定できる。
【0022】
即ち、等間隔アレーアンテナを採用した場合に比べ、適切な間隔で、各アンテナ素子を不等間隔で配列したアレーアンテナ(以下、「不等間隔アレーアンテナ」と表現する。)では、より少ない素子数で、信号処理方式にMUSIC方式を採用したアレーレーダを広角化することが可能である。
【0023】
この文献によると、任意のM個の方位[θ1,…,θM]に対応するステアリングベクトルA=[a(θ1),…,a(θM)]と、視野角内の任意のステアリングベクトルa(θs)との一次独立性を保証することで、到来波数がM以内の場合に、要求視野角内の任意の方位のステアリングベクトルが、所望波方位のステアリングベクトルが張る空間に含まれないことを保証できる。
【0024】
しかし、到来方位ステアリングベクトルと方位θsのステアリングベクトルとの一次独立性が弱まる場合、即ち、
【0025】
【数6】
(cmは任意の複素数であり、r は任意のベクトルである。)の場合、方位θsに強いMUSICスペクトルピークが発生することがある。尚、本願明細書では、MUSICスペクトルのピークであって、雑音によるピークでもなく、レーダ波の反射波が到来してきたことによるピークでもない上記偽像としてのピークを、「非所望ピーク」と表現する。また、以下では、上記式中のrのL2ノルムが小さい場合を、一次独立性が弱い(もしくは低い)と表現し、大きい場合を、一次独立性が強い(もしくは高い)と表現することにする。
【0026】
この点について詳述すると、不等間隔アレーアンテナを採用した場合には、MUSICスペクトルにおいて、レーダ波の反射波によるピークの他、雑音によるピーク、及び、非所望ピークが現れる一方で、到来波数Mの推定については、ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性とは関係がなく、等間隔アレーアンテナと同様の精度で、推定される。
【0027】
従って、不等間隔アレーアンテナを採用した場合には、MUSICスペクトルから、電力推定対象の方位を到来波数M分選択する場合に、反射波に対応するピークの方位を選択せず、非所望ピークに対応する方位を誤って選択してしまう可能性がある。
【0028】
また、非所望ピークについては、そのピークに対応する方位を電力推定対象に設定して受信電力を求めると、ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性が弱まっていることに起因して、受信電力の推定値が高く現れる可能性がある。
【0029】
このため、MUSICスペクトルから、非所望ピークに対応する方位を、誤って電力推定対象に設定してしまうと、雑音成分を電力推定対象に設定する場合とは異なり、閾値Pthと受信電力の推定値との比較によっても、非所望ピークに対応する方位を誤った情報として排除することができず、物標が本来存在しない方位を、物標の方位と誤推定してしまう可能性がある。
【0030】
例えば、図17(a)に示すMUSICスペクトルがアレーアンテナの受信信号が得られたとする。この場合に、MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっていないのであれば、各方位θ1,θ2,θ3の受信電力を推定することで、同図(b)に示すように、受信電力に著しい差が現れ、閾値Pthにより、方位θ1,θ2を物標の方位、方位θ3を雑音成分として正確に分離できる。
【0031】
一方、MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっている場合には、各方位θ1,θ2,θ3の受信電力を推定しても、同図(c)に示すように、受信電力に明確な差が現れず、方位θ1,θ2を物標の方位、方位θ3を非所望ピークに対応する方位として正確に分離できないのである。
【0032】
要するに、従来技術では、アレーアンテナとして、等間隔アレーアンテナを採用せず、不等間隔アレーアンテナを採用すると、視野角が広がる一方で、非所望ピークによる物標方位の誤推定の可能性が高くなり、物標方位の推定精度が劣化するといった問題があった。
【0033】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、MUSIC法を用いた方位推定に際して、アレーアンテナとして不等間隔アレーアンテナを採用することによって生じる非所望ピークの影響を抑え、高精度に物標方位を推定することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波を、不等間隔にアンテナ素子が配列されたアレーアンテナで受信して、各アンテナ素子の受信信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置であって、相関行列生成手段と、相関行列解析手段と、推定抽出手段と、スペクトル算出手段と、検査対象設定手段と、判定手段と、推定対象設定手段と、電力推定手段と、推定結果出力手段と、を備える。
【0035】
相関行列生成手段は、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、当該受信信号についての自己相関行列を生成し、相関行列解析手段は、この自己相関行列の固有値を算出する。
【0036】
推定抽出手段は、相関行列解析手段により算出された固有値群に基づき、アレーアンテナへの到来波数Mを推定すると共に、固有値群に対応する固有ベクトル群の中から、雑音成分に対応する固有ベクトル群を抽出する。そして、スペクトル算出手段は、推定抽出手段にて抽出された雑音成分に対応する固有ベクトル群に基づき、MUSICスペクトルPMU(θ)を算出する(式(4)参照)。
【0037】
この他、検査対象設定手段は、MUSICスペクトルPMU(θ)から、上記推定された到来波数Mよりも、予め定められた量α、多い個数(M+α)のピークG1,…,GM+αを抽出し、各ピークG1,…,GM+αに対応する方位θ1,…,θM+αを、検査対象の方位に設定する。
【0038】
また、判定手段は、上記設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを判定する。そして、推定対象設定手段は、判定手段により判定された相関の高さに基づき、検査対象の各方位θ1,…,θM+αの中から、電力推定対象に設定する方位を選択し、その選択方位を電力推定対象に設定する。
【0039】
電力推定手段は、このようにして設定された電力推定対象の各方位からの受信電力を推定する。そして、推定結果出力手段は、電力推定手段にて推定された受信電力の推定値Pに基づき、電力推定対象の各方位の内、受信電力の推定値Pが予め設定された閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定し、当該閾値Pth以上の各方位の情報を出力する。
【0040】
不等間隔アレーアンテナを用いたMUSIC法による方位推定では、上述したようにステアリングベクトルの一次従属性が原因で、MUSICスペクトルに非所望ピークが発生するため、この非所望ピークに対応する方位を検査対象に設定してしまう可能性がある。
【0041】
そして、非所望ピークに対応する方位を検査対象に設定してしまうことにより、反射波に起因するピーク(以下、「所望ピーク」と表現する。)に対応する方位を検査対象に設定することができなくなる可能性がある。
【0042】
そこで、本発明では、検査対象方位を、到来波数Mではなく、それより所定量α多い個数分設定することにより、非所望ピークに邪魔されて、所望ピークに対応する方位が検査対象方位から外されてしまうのを防止する。
【0043】
そして、本発明では、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるかどうかの判断を、ステアリングベクトル間の相関の高さを判定することにより実現する。具体的に、判定手段は、検査対象設定手段により設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、その評価値によって、相関の高さを判定する構成にすることができる(請求項3)。
【0044】
そして、本発明では、上記相関の高さに応じ、電力推定対象に設定する方位を選択する。例えば、上記相関が高い場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が混合しているとして、到来波数Mより多い個数の方位を電力推定対象に設定することによって、電力推定対象から所望ピークに対応する方位が外されないようにし、非所望ピークに対応する方位の排除を、推定結果出力手段に委ねる。
【0045】
尚、雑音成分程ではないにしろ、非所望ピークに対応する方位の受信電力推定値は、所望ピークに対応する方位の受信電力推定値よりも低くなる可能性が高い。このため、上述の手順によれば、推定結果出力手段により出力される物標方位の精度を、検査対象や電力推定対象を到来波数Mと同数とするよりも、向上させることができる。
【0046】
一方、上記相関が低く、検査対象方位に非所望ピークが混合していないと予想される場合には、例えば、到来波数M分の個数の方位を電力推定対象に設定することで、電力推定対象が到来波数Mより多く選択されることに起因して、電力推定手段による電力推定の精度が下がるのを回避する。
【0047】
このように、本発明のレーダ装置によれば、検査対象方位として到来波数Mより多い数の方位を設定し、それらの方位のステアリングベクトル間の相関の高さを判定することで非所望ピークの有無を判断し、それによって、電力推定対象を切り替えるようにしているので、非所望ピークの影響を抑えて、従来よりも精度よく物標の方位を推定することができる。
【0048】
尚、上記レーダ装置においては、上記相関の高さを、高低の二段階で判定するようにし、判定手段にて上記相関が低いと判定された場合には、検査対象の方位θ1,…,θM+αの中から、推定抽出手段により推定された到来波数Mと同数の方位を選択し、選択した各方位を、電力推定対象に設定し、上記相関が高いと判定された場合には、検査対象の方位θ1,…,θM+αの全てを、電力推定対象に設定するように、推定対象設定手段を構成するとよい。
【0049】
更に言及すれば、上記相関が低いと判定された場合には、検査対象の各方位θ1,…,θM+αの内、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、到来波数Mと同数の方位を、電力推定対象に選択するのがよい(請求項2)。このようにすれば、非所望ピークや雑音の影響を抑えて、従来よりも精度よく物標の方位を推定することができる。
【0050】
また、これらの発明は、FMCW方式のレーダ装置に適用することができる。即ち、上述の発明は、周波数変調された送信信号に従い送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信し、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に、送信信号を混合して、アンテナ素子毎のビート信号を生成し、生成した各アンテナ素子のビート信号に基づき、アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置に適用することができる。
【0051】
この場合、相関行列生成手段は、アンテナ素子毎のビート信号から受信信号成分を抽出して、当該受信信号成分から自己相関行列を生成したり、ビート信号をフーリエ変換し、そのフーリエ変換値から自己相関行列を生成したりすることができる。
【0052】
また、上記レーダ装置では、演算によってステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価して、上記相関の判定を行うようにしてもよいが、予め設計者が各方位での一次独立性を評価し、その評価結果を表すデータを判定手段に保持させることで、データ参照により、上記相関の判定を行えるように、レーダ装置を構成してもよい。
【0053】
即ち、判定手段は、検査対象として設定される方位の組合せ毎に、当該組合せに対応する各ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性についての評価値を表す判定用データを備え、当該判定用データに基づき、相関の高さを判定する構成にされてもよい(請求項4)。上記判定用データを用いて相関の高さを判定する手法を採用すれば、判定手段の処理負荷を低減することができて、安価なコンピュータを用いてレーダ装置を製造することができる。
【0054】
この他、判定手段は、所定基準より一次独立性が高い又は低いステアリングベクトルa(θ)の組合せを表す判定用データを備えて、この判定用データに基づき、相関の高さを判定する構成にされてもよい(請求項5)。判定用データをこのような構成とすれば、そのデータ量を、抑えることができる。
【0055】
また、判定手段は、一次独立性を次のように評価する構成にすることができる。即ち、判定手段は、検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から上記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに対する、残りのα個の検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)の分布から、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にすることができる(請求項6)。
【0056】
一次独立性が高ければ、各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルの空間C(換言すれば、超平面C)からの距離は、遠くなるが、一次独立性が低ければ、上記ステアリングベクトルの空間Cからの距離は、近くなる。このような原理により、一次独立性を評価すれば、非所望ピークの有無を適切に判断することができる。
【0057】
即ち、判定手段は、空間Cへの射影行列PCによって定義されるノルム||PC・a(θM+i)||、又は、当該空間Cに直交する空間CRへの射影行列PCRによって定義されるノルム||PCR・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)を、上記空間Cからの距離を表す値として用いて、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にすることができる(請求項7)。
【0058】
更に言えば、判定手段は、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Ri(但し、i=1,…,α)として、式(8)又は式(9)
【0059】
【数7】
に従う評価値Riを求め、計α個の評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Riの全てが前記閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にすることができる(請求項8)。
【0060】
また、別手法として、判定手段は、行列式又は条件数により、上記相関の高さを判定する構成にされてもよい。即ち、判定手段は、検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、によって定義される行列の行列式又は条件数を用いて、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、相関の高さを判定する構成にすることができる(請求項9)。
【0061】
具体的に、判定手段は、次式
【0062】
【数8】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の行列式det(Wi)の絶対値|det(Wi)|を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合には、上記相関が高いと判定し、評価値R1,…,Rαの全てが閾値Rthより大きい場合には、相関が低いと判定する構成にすることができる(請求項10)。
【0063】
この他、判定手段は、式(10)で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の条件数κ(Wi)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値R1,…,Rαの全てが、閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項12)。
【0064】
また、判定手段は、次式
【0065】
【数9】
で定義される行列Wの行列式det(W)の絶対値|det(W)|を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、評価値Rが予め定められた閾値Rth以下である場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Rが前記閾値Rthより大きい場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項11)。
【0066】
また、判定手段は、式(12)で定義される行列Wの条件数κ(W)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、評価値Rが予め定められた閾値Rthより大きい場合には、上記相関が高いと判定し、評価値Rが閾値Rth以下である場合には、上記相関が低いと判定する構成にされてもよい(請求項13)。
【0067】
このように判定手段を構成しても、一次独立性を適切に評価し、上記相関の判定を行うことができる。
また、上述のレーダ装置には、閾値Pthを設定する手段であって、判定手段により求められた評価値に基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替える閾値切替手段を設けるとよい(請求項14)。
【0068】
例えば、閾値切替手段は、判定手段により上記相関が高いと判定された場合に、判定手段により求められた評価値に基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替え、判定手段により上記相関が低いと判定された場合には、評価値に依らず、予め定められた固定値を、閾値Pthとして設定する構成にすることができる。
【0069】
非所望ピークに対応する方位のみかけ上の受信電力は、ステアリングベクトル間の一次独立性の高さによって変化する。よって、評価値により閾値Pthを切り替えるようにすれば、非所望ピークに対応する方位を適切な閾値Pthの設定により排除することができ、レーダ装置による物標方位の推定精度を、向上させることができる。
【0070】
尚、閾値Pthの適値については、シミュレーションにより受信電力の確率密度分布を求めることで導出することができる。具体的には、確率密度分布から、物標方位の誤推定率(非所望ピークに対応する方位を物標方位として推定してしまう確率、換言すれば、物標の誤検出率)が、一定値以下となる閾値Pthを、適値として求めればよい。
【0071】
また、このような動作の実現に際しては、シミュレーションにより、評価値と閾値Pth(の適値)との対応関係を表すテーブルを作成し、このテーブルを閾値切替手段に設けて、このテーブルが示す対応関係に従い、閾値Pthとして、判定手段で求められた評価値に対応する大きさの閾値を設定するように、閾値切替手段を構成すればよい。そして、上記テーブルには、物標方位の誤推定率が規定値未満となる閾値Pthを、評価値が採りえる値の範囲において、区間毎に記述すればよい(請求項15)。
【0072】
この他、閾値切替手段は、評価値ではなく、検査対象方位の組合せに基づき、推定結果出力手段に対して設定する閾値Pthを切り替える構成にされてもよい(請求項16)。このように、閾値切替手段を構成した場合であっても、状況に応じて適切な閾値Pthを設定することができ、非所望ピークに対応する方位を、物標方位として推定(検出)してしまうのを抑制することができる。
【0073】
尚、このような手法を採用する場合にも、シミュレーションによって、閾値Pthの適値(物標方位の誤推定率が規定値未満となる値)を求めて、その結果から、検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、推定結果出力手段に対して設定すべき閾値Pth(上記適値)を記したテーブルを作成し、このテーブルを、閾値切替手段に設けて、更には、このテーブルに従い、閾値Pthとして、検査対象設定手段により設定された検査対象の方位の組合せに対応する大きさの閾値を設定するように、閾値切替手段を構成すればよい(請求項17)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。但し、本発明のレーダ装置は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【実施例1】
【0075】
図1は、第一実施例の車載用レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
また、図2は、当該レーダ装置1が備える受信アンテナ19の構成を表した説明図であり、図3は、レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。
【0076】
本実施例のレーダ装置1は、所謂FMCW方式のレーダ装置であり、周波数が時間に対して直線的に漸次増減するミリ波帯の高周波信号を生成する発振器11と、発振器11が生成する高周波信号を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器15と、送信信号Ss(図3上段参照)に応じたレーダ波を放射する送信アンテナ17と、物標(前方車両等)により反射されたレーダ波(反射波)を受信するK個のアンテナ素子からなる受信アンテナ19と、を備える。
【0077】
更に、このレーダ装置1は、受信アンテナ19を構成するアンテナ素子のいずれかを順次選択し、選択されたアンテナ素子からの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ21と、受信スイッチ21から供給される受信信号Srを増幅する増幅器23と、増幅器23にて増幅された受信信号Sr及びローカル信号Lを混合して、ビート信号BTを生成(図3下段参照)するミキサ25と、ミキサ25が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ27と、フィルタ27の出力をサンプリングし、ディジタルデータに変換するA/D変換器29と、マイクロコンピュータを中心に構成される信号処理部30と、を備える。
【0078】
信号処理部30は、発振器11の起動/停止等を制御すると共に、マイクロコンピュータでのプログラム実行により、A/D変換器29から入力されるビート信号BTのサンプリングデータを用いた信号処理や、当該信号処理により得られる物標の位置・相対速度・方位等の情報を車間制御ECU40に送信する処理等を行う。
【0079】
また、受信アンテナ19は、K個のアンテナ素子が、不等間隔で一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成されている。以下では、K個のアンテナ素子の夫々を番号付けして、第iアンテナ素子(i=1,2,…,K)と表現し、第1〜第Kアンテナ素子の夫々を、図2では、AT_1〜AT_Kと符号付けする。
【0080】
図2に示すように、本実施例の受信アンテナ19は、第iアンテナと第(i+1)アンテナ間の距離d[i]が、d[1],…,d[K−1]間で一致しないように構成にされている。但し、ここでは、距離d[1],…,d[K−1]の全てが互いに異なる値を採ることを必ずしも意味しない。
【0081】
このように構成された本実施例のレーダ装置1では、信号処理部30からの指令に従って発振器11が起動する。そして、当該起動により発振器11が生成した高周波信号は、増幅器13にて増幅された後、分配器15に入力され、分配器15によって電力分配される。これにより、レーダ装置1では、送信信号Ss及びローカル信号Lが生成され、送信信号Ssは、送信アンテナ17を介し、レーダ波として送出される。
【0082】
一方、送信アンテナ17から送出され物標に反射して戻ってきたレーダ波(反射波)は、受信アンテナ19を構成する各アンテナ素子にて受信される。そして、各アンテナ素子からは、受信スイッチ21に向けて、その受信信号Srが出力される。
【0083】
また、受信スイッチ21からは、受信スイッチ21によって選択された第iアンテナ素子(i=1,…,K)の受信信号Srのみが増幅器23に出力され、増幅器23で増幅された受信信号は、ミキサ25に供給される。
【0084】
ミキサ25では、受信信号Srに分配器15からのローカル信号Lが混合されて、信号Sr,Ssの差の周波数成分であるビート信号BTが生成される。このビート信号BTは、フィルタ27にて不要な信号成分が除去された後、A/D変換器29にてサンプリングされ、ディジタルデータとして信号処理部30に取り込まれる。
【0085】
但し、受信スイッチ21は、レーダ波の一変調周期の間に、全てのアンテナ素子AN_1〜AN_Kを所定回ずつ選択するように、切り替えられる。そして、A/D変換器29は、この切替タイミングに同期してサンプリングを行う。
【0086】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、上記ビート信号のサンプリングデータを解析することにより、周知の手法で、レーダ波の反射波についての発生元である物標(前方車両)までの距離や、自車両に対する物標の相対速度を推定する。
【0087】
送信信号Ssに基づくレーダ波を送信アンテナ17が送信したことに起因して、受信アンテナ19が、反射波を受信すると、受信信号Srは、図3上段に点線で示すように、レーダ波が物標との間を往復するのに要した時間、即ち、物標までの距離に応じた時間Tr分遅延し、物標との相対速度に応じた周波数fd分ドップラシフトする。本実施例のレーダ装置は、ビート信号BTに含まれるこのような時間Tr及び周波数fdの情報から、物標までの距離や物標との相対速度を推定する。
【0088】
また、信号処理部30は、プログラムの実行によって、自車両進行方向(アンテナ方向)を基準とした物標の方位を推定する。具体的に、信号処理部30は、MUSIC法を用いて物標の方位を推定する。
【0089】
MUSIC法では、アンテナ素子AN_1〜AN_K間の位相差を用いて到来波の到来方向(方位)を推定するが、例えば、図4(a)に示すように自車両前方に、二台の先行車両が存在する場合には、A/D変換器29から得られたビート信号BTのサンプリングデータに基づき、MUSICスペクトルを算出すると、MUSICスペクトルにおいて、図4(b)に示すように、先行車両に対応する方位に鋭いピークが立つ。
【0090】
本実施例では、このようなMUSICスペクトルのピークを抽出して、対応する方位の受信電力を推定し、受信電力が閾値Pth以上であれば、その方位を、物標方位であると推定する。尚、図4は、物標方位とMUSICスペクトルとの対応関係を示した説明図である。
【0091】
但し、本実施例では、受信アンテナ19として、不等間隔アレーアンテナを用いているので、MUSICスペクトルには、上述したように、所望ピークの他、雑音によるピーク、及び、偽像である非所望ピークが現れる。
【0092】
そこで、本実施例では、信号処理部30にて、図5及び図6に示す物標方位推定処理を実行することにより、非所望ピークの影響を抑えた方位推定を行う。尚、図5及び図6は、信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【0093】
物標方位推定処理を開始すると、信号処理部30は、A/D変換器29にてサンプリングされたビート信号BT(サンプリングデータ)に基づき、式(1)(2)に従って、自己相関行列Rxxを生成する(S110)。
【0094】
但し、受信ベクトルX(i)の要素xk(i)(但し、k=1,…,K)の値は、ビート信号BTのサンプリングデータから特定したk番目アンテナ素子の受信信号Srの時刻iでの値である。
【0095】
そして、自己相関行列Rxxの生成後には、自己相関行列Rxxの固有値λ1,…,λK(但し、λ1≧λ2≧…λk)を求め(S120)、予め定められた閾値λthより大きい固有値の数から到来波数Mを推定する(S130)。即ち、到来波数Mを、閾値λthより大きい固有値の数と推定する。
【0096】
また、到来波数Mを推定し終えると、MUSICスペクトルから検査対象方位として抽出する方位の数n(以下、検査対象抽出数nと表現する。)を、上記推定した到来波数Mに、所定量αを加算した値に設定する(S140)。
【0097】
n=M+α
また、この処理を終えると、S110で求めた固有値であって閾値λth以下の(K−M)個の固有値λM+1,…,λKの夫々に対応する固有ベクトルeM+1,…,eKを、固有値が熱雑音電力以下となる雑音成分の固有ベクトルとして、算出する(S150)。
【0098】
そして、これら雑音成分の固有ベクトルeM+1,…,eKから式(3)によって定まる雑音固有ベクトルENと、受信アンテナ19の構成から定まるアレー応答ベクトル、換言すれば、ステアリングベクトルa(θ)と、から式(4)に示す評価関数PMU(θ)に従うMUSICスペクトルを算出する(S160)。
【0099】
そして、上記算出したMUSICスペクトルに基づき、当該MUSICスペクトルにてピーク値(値PMU(θ))が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、S140で決定した検査対象抽出数n分の方位θ1,…,θnを抽出し、これらn個の方位θ1,…,θnを検査対象方位に設定する(S170)。
【0100】
また、検査対象方位設定後には、相関判定処理を実行する(S180)。相関判定処理の詳細については後述するが、ここでは、S170で設定した検査対象方位θ1,…,θnの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定することにより、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるか否かを判定する。具体的に、相関判定処理では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを、高低の二段階で判定する。
【0101】
そして、相関判定処理で相関が「高い」と判定された場合には、S190でYesと判断し、S210に移行する。一方、相関判定処理で相関が「低い」と判定された場合には、S190でNoと判断し、S200に移行する。
【0102】
また、S200に移行した場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が含まれる可能性が低いため、電力推定対象数M’を、S130で推定した到来波数Mと同数に設定する(M’=M)と共に、S240で用いる受信電力の閾値Pthを、予め設計段階で定められた基本値Pth0に設定する(S205)。その後、S220に移行する。
【0103】
一方、S210に移行した場合には、検査対象方位に非所望ピークに対応する方位が含まれる可能性が高いため、電力推定対象数M’を、S140で設定した検査対象抽出数nと同数に設定し(M’=n)、更には、受信電力閾値補正処理を実行することにより(S215)、S240で用いる受信電力の閾値Pthを、上記基本値Pth0とは異なる値に設定する。その後、S220に移行する。
【0104】
尚、受信電力閾値補正処理の詳細については、後述するが、S215では、信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する閾値補正テーブルに基づき、S240で用いる受信電力の閾値Pthとして、相関判定処理にて求められたステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値に対応した値を設定する。
【0105】
このような処理を経て、S220に移行すると、信号処理部30は、検査対象方位θ1,…,θn群において、MUSICスペクトルでのピーク値(値PMU(θ))が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、S200又はS210で設定された電力推定対象数M’分の方位θ1,…,θM'を選択し、これらM’個の方位θ1,…,θM'を、電力推定対象方位に設定する。
【0106】
そして、上記設定した電力推定対象方位θ1,…,θM'に対応する受信電力P1,…,PM'を、式(6)に従って求める(S230)。
即ち、方位行列Aを、次のように定義し、
【0107】
【数10】
この方位行列Aを用いて、式(6)に従い行列Sを算出し、行列Sの第m対角成分から方位θmの受信電力Pmを得る(但し、m=1,…,M’)。
【0108】
【数11】
このようにして、各電力推定対象方位θ1,…,θM'に対応する受信電力P1,…,PM'を求めると、信号処理部30は、S240に移行し、S205又はS215で設定された閾値Pthと、各受信電力P1,…,PM'との比較を行い、電力推定対象方位θ1,…,θM'の中から、受信電力が閾値Pth以上の方位を、物標の方位であると推定する。そして、受信電力が閾値Pth以上の方位の情報を、物標方位の情報として、当該物標の位置・相対速度の情報と共に、車両制御ECU40に送信する。その後、当該物標方位推定処理を終了する。
【0109】
続いて、信号処理部30が、S180で実行する相関判定処理の詳細を、図7を用いて説明する。図7は、信号処理部30が実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【0110】
相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、上記設定された検査対象方位θ1,…,θn群から、MUSICスペクトルでのピーク値(値PMU(θ))が最大の方位を1番目として、ピーク値の大きい順に、上記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMを選択し、選択した方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に基づき、方向行列Aを、次式(16)に従って生成する(S310)。
【0111】
【数12】
また、この処理を終えると、S310で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに直交する空間(超平面)への射影行列PCRを、次式(17)に従って算出する(S320)。
【0112】
【数13】
また、S320での処理を終えると、信号処理部30は、S330に移行して、変数iを値αに設定し(i←α)、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを、次式(18)に従って、算出する(S340)。
【0113】
【数14】
ここで、式(18)について補足説明すると、式(18)で算出される評価値Riは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性を評価した値である。
【0114】
ノルム||PCR・a(θM+i)||は、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cからステアリングベクトルa(θM+i)への距離に対応する。従って、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高ければ、ノルム||PCR・a(θM+i)||の二乗は、大きい値を採る。
【0115】
一方、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が低ければ(換言すると、一次従属性が高ければ)、ノルム||PCR・a(θM+i)||の二乗は、ゼロに近づく。このように、式(18)で算出されるRiは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高い程、小さい値を採る。従って、評価値Riは、一次独立性についての評価値になりえるのである。
【0116】
このような性質の評価値Riを算出すると、信号処理部30は、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S350)。
そして、評価値Riが閾値Rthより大きい(Ri>Rthである)と判断した場合には(S350でYes)、S390に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0117】
一方、評価値Riが閾値Rth以下であると判断した場合(S350でNo)、信号処理部30は、上記相関の判定を保留して、S360に移行し、変数iを1小さい値に設定する(i←i−1)。そして、変数i=0でない場合には(S370でNo)、S340に移行し、更新後の変数iの値を用いて、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを算出し、評価値Riが閾値Rthより大きいか否かを判断する(S350)。
【0118】
そして、評価値Riが閾値Rthより大きいと判断した場合には(S350でYes)、上記相関が「高い」と判定し、評価値Riが閾値Rth以下である場合には(S350でNo)、S360に移行し、後続の処理を実行する。また、このような処理によって、変数i=0となった場合には(S370でYes)、上記相関が「低い」と判定し(S380)、当該相関判定処理を終了する。
【0119】
即ち、相関判定処理では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rth以下である場合には、相関が低いと判定する。
【0120】
このようにして、相関判定処理では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定し、これによって、検査対象方位に、非所望ピークに対応する方位が含まれるか否かを判定する。
【0121】
続いて、信号処理部30が、S215で実行する受信電力閾値補正処理について、図8を用いて説明する。図8は、受信電力閾値補正処理に関する説明図であり、同図(a)は、信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理を表すフローチャートであり、同図(b)は、当該受信電力閾値補正処理で用いられる閾値補正テーブルの構成を表す説明図であり、同図(c)は、閾値補正テーブルの作成方法に関する説明図である。
【0122】
信号処理部30は、S215にて受信電力閾値補正処理を開始すると、検査対象方位θM+1,…,θnの評価値R1,…,Rαの夫々に対応する閾値Pthの適値TDを、信号処理部30が内蔵する不揮発性メモリに記憶された閾値補正テーブルから読み出す(S410)。
【0123】
尚、本実施例では、受信電力閾値補正処理において、全検査対象方位θM+1,…,θnの評価値R1,…,Rαが必要であるため、相関判定処理では、相関判定に必要であるか否かに関わらず、検査対象方位θM+1,…,θnの全てについて、評価値R1,…,Rαを求め、これを一時記憶するものとする。例えば、S390に移行した時点で未算出の評価値については、算出して相関判定処理を終えるものとする。
【0124】
図8(b)に示すように、閾値補正テーブルは、相関判定処理にて求められる評価値Riが採りえる範囲(Rmin<Ri≦Rmax)において、区間毎に、閾値Pthの適値TD[1],…,TD[q]の情報を有する。
【0125】
具体的に、図8(b)に示す例では、評価値として採りえる範囲が幅Δ毎に分割されて区間が定められ、条件式Rmin+(q−1)・Δ<Ri≦Rmin+q・Δを満足する第q区間(但し、q=1,…,Qであり、Rmin+Q・Δ=Rmax)に対しては、適値TD[q]が対応付けられている。
【0126】
このような構成の閾値補正テーブルは、図8(c)に示すように、後述するテーブル作成装置100にて作成され、レーダ装置1の製造過程で、上記不揮発性メモリに書き込まれる。
【0127】
S410において、このような構成の閾値補正テーブルから、評価値R1,…,Rαの夫々に対応する適値TDを読み出すと、信号処理部30は、上記読み出した各評価値R1,…,Rαに対応する計α個の適値TDに基づいて、S240で用いる閾値Pthを設定する(S420)。
【0128】
具体的に、本実施例では、上記読み出した各評価値R1,…,Rαに対応する適値TDの内、値が最大のものを選択し、これ(適値TDの最大値)を、閾値Pthに設定する。その後、当該受信電力閾値補正処理を終了し、上記設定した閾値Pthを用いて、上述した手法で、S240の処理を行う。
【0129】
次に、テーブル作成装置100における閾値補正テーブルの作成方法について、図9を用いて説明する。図9(a)は、テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0130】
テーブル作成装置100は、マイクロコンピュータを中心に構成される周知の情報処理装置であって、当該情報処理装置が備える記憶手段に、閾値補正テーブル作成処理に対応するプログラムがインストールされたものである。テーブル作成装置100は、マイクロコンピュータにて、このプログラムを実行することにより、上述した構成の閾値補正テーブルを作成する。
【0131】
具体的に、テーブル作成装置100は、図9(a)に示す閾値補正テーブル作成処理を開始すると、まずS510にて、適値算出対象の評価値R’を、上記値Rmaxに設定すると共に、変数q=Qに設定することで、適値算出対象区間を、第Q区間に設定する。
【0132】
その後、S520に移行し、評価値R’が得られる環境において生じる非所望ピークが採りえる受信電力Pの確率密度分布を、シミュレーションにより求める。
ここで、シミュレーションによる確率密度分布の導出方法を例示する。シミュレーションによる受信電力Pの確率密度分布の導出は、例えば、パラメータX,N(i)を乱数として、式(19)に従い受信電力Pの分布を求めることにより、実現することができる。
【0133】
【数15】
但し、ベクトルX,N(i)は、K次元複素ベクトルであり、ベクトルXは、条件
【0134】
【数16】
を満足する範囲でランダムに与えられる。
【0135】
具体的に、ベクトルXについては、K次元実数ベクトルrx,ryを用いて、次式により生成する。但し、ここで用いるjは、虚数単位を表し、ベクトルrx,ryの各要素は一様分布U(−1,1)に従う乱数として定義する。
【0136】
【数17】
同様に、ベクトルN(i)については、K次元実数ベクトルrx,ryを用いて、次式により生成する。但し、ベクトルrx,ryは、平均値0,共分散行列σ2Iの正規分布N(0,σ2I)に従う乱数である。
【0137】
【数18】
ここで、σは想定する熱雑音強度である。このようにして受信電力Pの確率密度分布を求めた後には、求めた確率密度分布から、受信電力Pが閾値Pth以上となる確率が、予め定められた規定値未満となる閾値Pthの最小値を特定する(S530)。図9(b)は、S520で算出される確率密度分布の例を示すグラフであり、適値TDの決定手法を示した説明図である。
【0138】
即ち、S530では、確率密度分布において、受信電力Pが閾値Pth以上の領域の面積(図9(b)に示す斜線部分の面積)が、規定値未満となる閾値Pthの最小値を特定する。尚、「受信電力Pが閾値Pth以上となる確率」は、「非所望ピークに対応する方位を物標方位である誤推定してしまう確率」に相当する。
【0139】
従って、S530の実行後には、上記特定した閾値Pthを、第q区間での閾値Pthの適値TD[q](即ち、相関判定処理で求められる評価値Riが区間R’−Δ<Ri≦R’の範囲内にある場合に設定すべき閾値Pthの適値)に設定する(S540)。
【0140】
また、S540での処理を終えると、テーブル作成装置100は、現在設定されている値qが値1未満であるか否かを判断し(S550)、値qが値1以上である場合には(S550でNo)、S560に移行して、評価値R’を、Δ減算した値に更新すると共に、変数qを1減算した値に更新した後(R’←R’−Δ,q←q−1)、S520に移行し、更新後の評価値R’を用いて後続の処理を実行する。
【0141】
そして、値qが値1未満となると(S550でYes)、これまでのS540での設定内容に従って、第1区間から第Q区間の各区間に関して、当該区間の情報及びTD[q]の情報を関連付けなるレコードを生成し、これらのレコード群からなる図8(b)に示す構成の閾値補正テーブルを生成する。そして、生成した閾値補正テーブルを出力する(S570)。S570では、例えば、モニタを通じてテーブル作成装置100を操作するユーザに対し閾値補正テーブルを表示出力してもよいし、閾値補正テーブルを、ハードディスク等に出力して保存してもよい。このようにして生成・出力された閾値補正テーブルは、不揮発性メモリに書き込まれて、レーダ装置1の製造過程で、信号処理部30に組み込まれる。
【0142】
以上、第一実施例のレーダ装置1について説明したが、本実施例のレーダ装置1では、MUSICスペクトルに現れる非所望ピークによって物標方位の推定精度が劣化しないように、検査対象方位を、到来波数Mではなく、それより所定量α多い個数分設定するようにした。そして、検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを判定することで、非所望ピークが現れていないかどうかを判定するようにした。
【0143】
そして、非所望ピークが現れている可能性が高い場合には、電力推定対象方位を、到来波数M+αに設定することで、所望ピークに対応する方位が電力推定対象から外れてしまわないようにし、物標方位の誤推定率を抑えるようにした。
【0144】
更に、本実施例では、非所望ピークが現れている可能性が高い場合、受信電力Pの閾値Pthを調整することにより、非所望ピークに対応する方位を可能な限り排除できるようにし、非所望ピークに対応する方位が物標方位として誤認識されるのを抑制するようにした。
【0145】
従って、本実施例によれば、物標方位の精度を、検査対象方位や電力推定対象方位を到来波数Mと同数とする従来技術よりも、向上させることができ、車間制御を高精度に行うことができる。
【0146】
また、本実施例では、非所望ピークが発生していない可能性が高い場合、電力推定対象数M’を、推定した到来波数Mに設定することにより、非所望ピークが発生していないにも拘わらず、電力推定対象を、到来波数Mより多く設定することにより生じる受信電力Pの推定精度の劣化を回避するようにした。
【0147】
従って、本実施例によれば、非所望ピークが発生していない状況下でも、高精度に物標方位を推定することができ、視野角が広く物標方位を高精度に推定可能なレーダ装置を提供することができる。
【0148】
ところで、第一実施例では、評価値Riに対応する閾値Pthの適値TDを記述した閾値補正テーブルを、信号処理部30に記憶させることにより、非所望ピークが現れている際にも、適切に非所望ピークに対応する方位を、物標方位から排除できるようにしたが、非所望ピークが現れる方位と、非所望ピーク以外のピークが現れる方位との間には、原理上、一定のパターンがあるので、閾値補正テーブルは、方位の組合せ毎に、閾値Pthの適値TDを保持する構成にされてもよい(第二実施例)。
【実施例2】
【0149】
続いて、第二実施例について説明する。但し、第二実施例は、テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理の内容、レーダ装置1が備える閾値補正テーブルの構成、及び、レーダ装置1が実行する受信電力閾値補正処理の内容が異なる程度であり、他の構成については、第一実施例と同様であるので、以下では、第一実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0150】
まず初めに、本実施例の閾値補正テーブルの構成を説明する。本実施例の閾値補正テーブルは、図10(a)に示すように、検査対象方位として採りえる方位の組合せΘ毎に、閾値Pthの適値TDの情報を有し、上記方位の組合せΘ及び適値TDの情報からなるレコード群により構成される。図10(a)は、本実施例において信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する閾値補正テーブルの構成を表す説明図である。
【0151】
本実施例では、閾値補正テーブルがこのような構成になっていることから、受信電力閾値補正処理では、図10(b)に示す手順により、S240で用いる閾値Pthを設定する。尚、図10(b)は、本実施例において信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理を表すフローチャートである。
【0152】
即ち、S215にて受信電力閾値補正処理を開始すると、信号処理部30は、先立って設定された検査対象方位θ1,…,θnの組合せΘ={θ1,…,θn}に合致するレコードを、信号処理部30が内蔵する不揮発性メモリに記憶された閾値補正テーブルを対象に検索し、当該レコードが示す上記組合せΘに対応する適値TDを、閾値補正テーブルから読み出す(S610)。
【0153】
そして、上記読み出した適値TDを、閾値Pthに設定する(S620)。本実施例では、このようにして受信電力閾値補正処理を実行し、この処理を終了した後には、上記設定した閾値Pthを用いて、S240の処理を行う。
【0154】
続いて、本実施例においてテーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理の内容について、図11を用いて説明する。図11は、本実施例においてテーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0155】
閾値補正テーブル作成処理を開始すると、テーブル作成装置100は、予めユーザから提供され記憶している閾値補正テーブルの初期データを読み出す(S710)。
ここでいう閾値補正テーブルの初期データとは、方位の組合せΘの情報及び適値TDの情報を有するレコードの一群からなる閾値補正テーブルの内、適値TDの情報が空欄で、方位の組合せΘの情報のみが登録された未完成の閾値補正テーブルのことである。
【0156】
閾値補正テーブルの初期データを構成する各レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}は、(n−α)個の方位の組合せΘp={θ1,…,θn-α]を示す前半部分、α個の方位の組合せΘs={θn-(α-1),…,θn]を示す後半部分からなり、後半部分は、方位の組合せΘpが得られるときに、非所望ピークが生じる方位の組合せΘsを表す。
【0157】
S710で、このような構成の閾値補正テーブルの初期データを取得した後には、閾値補正テーブルの先頭レコードを、処理対象レコードに選択する(S720)。そして、処理対象レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}に対応する行列Bを生成する(S730)。
【0158】
【数19】
また、行列Bの生成後には、当該行列Bを用いて、処理対象レコードが示す方位の組合せΘ={θ1,…,θn}が得られる環境において生じる各非所望ピークが採りえる受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布を、シミュレーションにより求める(S740)。
【0159】
ここで、シミュレーションによる確率密度分布の導出方法を例示する。シミュレーションによる受信電力Pの確率密度分布の導出は、組合せΘpに対応する各方位θ1,…,θn-αからの到来波を受信アンテナ19が受信したときの受信ベクトルX(i)
【0160】
【数20】
を、smを固定値とし、N(i)を、ホワイトガウシアンノイズに対応するK次元複素ベクトル(乱数)として、シミュレーションにより擬似的に生成し、この受信ベクトルX(i)を用いて、式(2)に従い自己相関行列Rxxを生成し、当該自己相関行列Rxxを用いて、次式
【0161】
【数21】
に従う行列Dを算出することにより行うことができる。但し、式(26)に示すΣは、N(i)・NH(i)の平均E[N(i)・NH(i)]である。
【0162】
行列Dの第m対角成分は、方位θmの受信電力Pmに対応する(但し、m=1,…,M+α)。
【0163】
【数22】
従って、シミュレーションにより擬似的に生成した各受信ベクトルでの受信電力Pn-(α-1),…,Pnを求めることにより、組合せΘsに対応する各方位θn-(α-1),…,θnに生じる非所望ピークに対応する受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布を求めることができる。
【0164】
また、上記各確率密度分布を算出し終えると、テーブル作成装置100は、S750に移行し、算出した各方位θn-(α-1),…,θnに対応する受信電力Pn-(α-1),…,Pnの確率密度分布から、各方位θn-(α-1),…,θnにおいて、受信電力が閾値Pth以上となる確率が、予め定められた規定値未満となる閾値Pthの最小値P*n-(α-1),…,P*nを、第一実施例と同様の手法で特定し、特定した各方位の最小値P*n-(α-1),…,P*nの内、値が最も高いものを、処理対象レコードの方位の組合せΘに対応する閾値Pthの適値TDに選択する(S760)。
【0165】
そして、S760での処理を終えると、S710で読み出した閾値補正テーブルの初期データを編集し、処理対象レコードにおける閾値Pthの適値TDの欄に、S760で選択した適値TDを書き込むことにより、処理対象レコードを完成させる(S770)。
【0166】
また、閾値補正テーブルの初期データに登録された全レコードに対して適値TDを書き込んで閾値補正テーブルが完成していない場合には(S780でNo)、現在処理対象レコードに設定されているレコードの次のレコードを、処理対象レコードに設定して(S785)、S730に移行し、当該処理対象レコードについて後続の処理を実行する。
【0167】
そして、閾値補正テーブルの初期データに登録された全レコードに対して適値TDを書き込んで、閾値補正テーブルが完成した場合には(S780でYes)、S790に移行し、完成した閾値補正テーブルを、第一実施例と同様に、出力する。その後、当該閾値補正テーブル作成処理を終了する。
【0168】
以上、第二実施例のレーダ装置1について説明したが、第二実施例のレーダ装置1についても、第一実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0169】
続いて、第三実施例について説明する。但し、第三実施例のレーダ装置1及びテーブル作成装置100は、「レーダ装置1の信号処理部30が不揮発性メモリに評価値テーブルを備えて、当該評価値テーブルを用いて相関判定処理を実行する構成にされていること」、及び、「評価値テーブルを作成するために、テーブル作成装置100が、評価値テーブル作成処理を実行可能に構成されていること」を除けば、第一又は第二実施例と、基本的に同一構成である。従って、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0170】
初めに、信号処理部30が不揮発性メモリに記憶する評価値テーブルの構成を説明する。図12(a)は、上記評価値テーブルの構成を表す説明図である。
図12(a)に示すように、本実施例の評価値テーブルは、検査対象方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から到来波数M分の方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘT={θ1,…,θM}と、当該組合せΘTと共に検査対象方位に設定される可能性のある方位θspと、の組合せΘD={ΘT,θsp]毎に、当該組合せΘTに対応する各方位θ1,…,θMのステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θsp)の一次独立性についての評価値R(θsp)の情報を備え、組合せΘD={ΘT,θsp]と評価値R(θsp)とからなるレコードの一群から構成されている。
【0171】
一方、信号処理部30は、相関判定処理の実行時に、この評価値テーブルを参照して、検査対象方位に設定された各方位θ1,…,θnに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定する。図12(b)は、信号処理部30がS180で実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【0172】
図12(b)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まず、検査対象方位に設定された方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から推定された到来波数M分の方位を抽出して、当該到来波数M分の方位の組合せΘT={θ1,…,θM}を特定する(S810)。
【0173】
更に、残りのα個の各方位θM+1,…,θM+αの夫々と組合せΘTとを組み合わせて、検索対象の組合せとして、計α個の組合せ{ΘT,θM+1},…,{ΘT,θM+α}を設定する(S820)。
【0174】
その後、信号処理部30は、内蔵の不揮発性メモリに記憶された上記評価値テーブルを参照し、評価値テーブルから、各組合せ{ΘT,θM+1},…,{ΘT,θM+α}に関連付けられた評価値R(θM+i)(但し、i=1,…,α)の情報を読み出す(S830)。
【0175】
そして、読み出した計α個の評価値R(θM+1),…,R(θM+α)の全てが閾値Rth以下である場合には(S840でNo)、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が低いと判定し(S850)、評価値R(θM+1),…,R(θM+α)の少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には(S840でYes)、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が高いと判定する(S860)。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0176】
続いて、テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理について、図13を用いて説明する。図13は、テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【0177】
評価値テーブル作成処理を開始すると、テーブル作成装置100は、検査対象方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘ={θ1,…,θn}の内、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から到来波数M分の方位の組合せとして採りえる方位の組合せΘT={θ1,…,θM}の一つを、処理対象の組合せΘTに設定する(S910)。
【0178】
また、この処理を終えると、テーブル作成装置100は、処理対象の組合せΘTに対応する各方位θ1,…,θMのステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に基づき、方向行列Aを、式(16)に従って生成する(S920)。
【0179】
その後、S920で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間Cに直交する空間への射影行列PCRを、式(17)に従って算出する(S930)。
【0180】
また、処理対象の組合せΘTと共に検査対象方位に設定される可能性のある各方位θspについての評価値R(θsp)を、次式(28)に従って算出する(S940)。
【0181】
【数23】
また、S940の実行後には、S940で算出した評価値R(θsp)毎に、当該評価値R(θsp)に対応する組合せΘD={ΘT,θsp]及び評価値R(θsp)の情報からなるレコードを、評価値テーブルに登録する(S950)。尚、評価値テーブルは、評価値テーブル作成処理の実行開始時に、空のテーブル(ファイル)として生成される。
【0182】
そして、S950での処理を終えると、テーブル作成装置100は、採りえる方位の組合せΘTの全てを処理対象の組合せに設定して、上述の処理を実行したか否かを判断し(S960)、実行していないと判断した場合には(S960でNo)、未処理の組合せΘTの一つを処理対象の組合せΘTに設定して(S970)、S920に移行し、後続の処理を実行する。
【0183】
そして、全ての組合せΘTに関して、上述の処理を実行したと判断すると(S960でYes)、S980に移行し、完成した評価値テーブルを、第一実施例の閾値補正テーブル作成処理と同様に、出力する。
【0184】
以上、第三実施例について説明したが、第三実施例においては、評価値を、演算で求めることなく評価値テーブルから読み出して特定するので、相関判定処理でのマイクロコンピュータによる処理負荷を低減でき、安価なマイクロコンピュータを用いてレーダ装置1を構成することができる。
【0185】
ところで、評価値テーブルは、評価値R(θsp)が閾値Rthより高い組合せΘD={ΘT,θsp]に対応するレコードのみからなる構成にされてもよい。このように評価値テーブルを構成する場合には、S820で検索対象に設定した組合せの内、当該組合せに対応するレコードが評価値テーブルに存在しないものについては、評価値R(θsp)が閾値Rth以下であると取り扱って、S840での判断を行えばよい。
【0186】
同様に、評価値テーブルは、評価値R(θsp)が閾値Rth以下の組合せΘD={ΘT,θsp]に対応するレコードのみからなる構成にされてもよい。このように評価値テーブルを構成する場合には、S820で検索対象に設定した組合せの内、当該組合せに対応するレコードが評価値テーブルに存在しないものについては、評価値R(θsp)が閾値Rthより高いと取り扱って、S840での判断を行えばよい。
【実施例4】
【0187】
続いて、第四実施例について説明する。但し、第四実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の一部が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一実施例又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0188】
図14は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。当該フローチャートにおいて、図7に示す第一実施例の相関判定処理と同様の処理となるステップには、ステップ番号として、図7と同一の番号を付す。
【0189】
図14に示すように本実施例においては、第一実施例とは異なり、S320の処理に代えて、S325の処理を実行し、S340の処理に代えて、S345の処理を実行する。具体的に、S325では、S310で求めた方向行列Aを用いて、当該方向行列Aの要素である各ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間C(超平面)への射影行列PCを、次式(29)に従って算出する。
【0190】
【数24】
そして、S345では、検査対象方位θM+iについての評価値Riを、次式(30)に従って、算出する。
【0191】
【数25】
尚、式(30)で算出される評価値Riは、式(18)で算出される評価値Riと同様、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性を評価した値である。
【0192】
ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高ければ、ノルム||PC・a(θM+i)||の二乗は、ゼロに近い値を採る。一方、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が低ければ、ノルム||PC・a(θM+i)||の二乗は、大きい値を採る。このように、式(30)で算出されるRiは、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性が高い程、小さい値を採る。従って、評価値Riは、一次独立性についての評価値になりえる。
【0193】
以上、第四実施例について説明したが、第四実施例の手法で評価値Riを算出しても、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関高さを高精度に判定することができ、結果として、第一実施例と同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0194】
続いて、第五実施例について説明する。但し、第五実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の内容が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0195】
図15(a)は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。図15(a)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まずS1010にて、変数iを値αに設定する(i←α)。
【0196】
その後、S1020に移行し、検査対象方位θ1,…,θn=M+αであって、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から先立って推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象方位θM+1,…,θM+αの内の一つであって、変数iに対応する方位θM+iのステアリングベクトルa(θM+i)と、に基づき、次式(31)に従う行列Ziを算出する。
【0197】
【数26】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、S1030に移行し、次式(32)に従う行列Wiを算出する。
【0198】
【数27】
そして、行列Wiの算出後には、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして、行列Wiの行列式の絶対値を算出する(S1040)。
【0199】
【数28】
尚、行列Wiの行列式は、行列Wiを構成するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM),a(θM+i)間の一次従属性が高くなる程、値ゼロに近づく。
【0200】
このため、S1040における評価値Riの算出後には、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1050)。そして、評価値Riが閾値Rth以下である(Ri≦Rthである)と判断した場合には(S1050でYes)、S1090に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0201】
一方、評価値Riが閾値Rthより大きいと判断した場合(S1050でNo)、信号処理部30は、上記相関の判定を保留して、S1060に移行し、変数iを1小さい値に設定する(i←i−1)。そして、変数i=0でない場合には(S1070でNo)、S1020に移行し、更新後の変数iの値を用いて、当該変数iに対応する検査対象方位θM+iについての評価値Riを算出し、評価値Riが閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1020〜S1050)。
【0202】
一方、変数i=0となった場合には(S1070でYes)、上記相関が「低い」と判定し(S1080)、当該相関判定処理を終了する。
このようにして、本実施例の相関判定処理では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合、上記相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rthより大きい場合には、相関が低いと判定する。
【0203】
以上、第五実施例について説明したが、本実施例の手法により、一次独立性を評価し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを判定する場合でも、第一実施例等と同様に、適切に相関の高さを判定して、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができる。
【0204】
また、本実施例では、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして、行列Wiの行列式の絶対値を算出するようにしたが、行列Wiの条件数κ(Wi)を、評価値Riとして、算出することもできる。
【0205】
行列Wiの条件数κ(Wi)は、行列Wiを構成するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM),a(θM+i)間の一次従属性が高くなる程、大きい値を採る。従って、行列Wiの条件数κ(Wi)を算出しても、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関の高さを適切に判定することができるのである。
【0206】
図15(b)は、評価値Riとして、行列Wiの条件数κ(Wi)を算出する変形例の相関判定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
図15(b)に示す変形例の相関判定処理は、S1040の処理に代えて、S1045の処理を実行し、S1050の処理に代えて、S1055の処理を実行する構成にされ、その他は、基本的に、図15(a)に示す相関判定処理と同一構成にされている。従って、以下では、変形例の相関判定処理として、S1045及びS1055で実行される処理の内容を選択的に説明する。
【0207】
変形例では、S1045において、上述したように、行列Wiの条件数κ(Wi)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして算出する。
【0208】
【数29】
また、S1045における評価値Riの算出後には、上記算出した評価値Riが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S1055)。そして、評価値Riが閾値Rthより大きい(Ri>Rthである)と判断すると(S1055でYes)、S1090に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。一方、評価値Riが閾値Rth以下であると判断した場合(S1055でNo)、S1060に移行する。
【0209】
このようにして、変形例では、評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、相関が高いと判定し、評価値Riの全てが閾値Rth以下である場合には、相関が低いと判定する。
【実施例6】
【0210】
続いて、第六実施例について説明する。但し、第六実施例は、信号処理部30が実行する相関判定処理の内容が、第一又は第二実施例と異なる程度であり、他の構成は、第一又は第二実施例と同様であるので、以下では、これらの実施例と同一構成についての説明を適宜省略する。
【0211】
図16(a)は、信号処理部30が実行する本実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。図16(a)に示す相関判定処理を開始すると、信号処理部30は、まず、先立って設定された検査対象方位θ1,…,θn=M+αであって、MUSICスペクトルでのピーク値が最大の方位から先立って推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、残りのα個の検査対象方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、に基づき、次式(35)に従う行列Zを算出する(S1110)。
【0212】
【数30】
また、この処理を終えると、信号処理部30は、次式(36)に従う行列Wを算出する(S1120)。
【0213】
【数31】
そして、行列Wの算出後には、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして、行列Wの行列式の絶対値を算出する(S1130)。
【0214】
【数32】
また、評価値Rの算出後には、上記算出した評価値Rが、設計段階で定められた閾値Rth以下であるか否かを判断する(S1140)。そして、評価値Rが閾値Rth以下である(R≦Rthである)と判断した場合には(S1140でYes)、S1160に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0215】
一方、評価値Rが閾値Rthより大きいと判断した場合には(S1140でNo)、S1150に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「低い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0216】
このような手法によって相関の判定を行うレーダ装置1においても、第五実施例と同様の原理により適切に相関の高さを判定することができ、結果として、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができて、非所望ピークの影響を抑え、高精度に、物標方位を推定することができる。
【0217】
ところで、信号処理部30は、第五実施例と同様、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして、行列Wの行列式の絶対値ではなく、行列Wの条件数κ(W)を算出する構成にされてもよい。図16(b)は、評価値Rとして、行列Wの条件数κ(W)を算出する変形例の相関判定処理の一部を抜粋して表したフローチャートである。
【0218】
図16(b)に示すように、変形例の相関判定処理は、S1130の処理に代えて、S1135の処理を実行し、S1140の処理に代えて、S1145の処理を実行する構成にされている他は、基本的に、図16(a)に示す相関判定処理と同一構成である。従って、以下では、変形例の相関判定処理として、S1135及びS1145で実行される処理の内容を選択的にする。
【0219】
変形例では、S1135において、上述したように、行列Wの条件数κ(W)を、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の一次独立性についての評価値Rとして算出する。
【0220】
【数33】
また、S1135における評価値Rの算出後には、上記算出した評価値Rが、設計段階で定められた閾値Rthより大きいか否かを判断する(S1145)。そして、評価値Rが閾値Rthより大きい(R>Rthである)と判断した場合には(S1145でYes)、S1160に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「高い」と判定する。その後、当該相関判定処理を終了する。
【0221】
一方、評価値Rが閾値Rth以下であると判断した場合(S1145でNo)、S1150に移行し、ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θn)間の相関が「低い」と判定する。
【0222】
このような手法によって相関の判定を行うレーダ装置1においても、第五実施例と同様、適切に相関の高さを判定することができるので、結果として、非所望ピークの有無に応じ、適切に電力推定対象数M’を切り替えることができて、非所望ピークの影響を抑え、高精度に、物標方位を推定することができる。
【0223】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明の相関行列生成手段は、信号処理部30が実行するS110の処理にて実現され、相関行列解析手段は、S120の処理にて実現されている。また、推定抽出手段は、S130及びS150の処理にて実現され、スペクトル算出手段は、S160の処理にて実現されている。
【0224】
この他、検査対象設定手段は、S140及びS170の処理にて実現され、判定手段は、S180の処理にて実現されている。また、推定対象設定手段は、S190,S200,S210,S220の処理にて実現され、電力推定手段は、S230の処理にて実現されている。
【0225】
そして、推定結果出力手段は、S240の処理にて実現され、本発明の閾値切替手段は、信号処理部30が実行するS205,S215の処理にて実現されている。
尚、上述の実施例において、値αの具体例について説明しなかったが、非所望ピークは数多く生じるものでもないため、例えば、α=1やα=2等に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】レーダ装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】レーダ装置1が備える受信アンテナ19の構成を表した説明図である。
【図3】レーダ波の送信信号Ss及び受信信号Srを示したグラフ(上段)及びビート信号BTを示したグラフ(下段)である。
【図4】物標方位とMUSICスペクトルとの対応関係を示した説明図である。
【図5】信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【図6】信号処理部30が実行する物標方位推定処理を表すフローチャートである。
【図7】信号処理部30が実行する相関判定処理を表すフローチャートである。
【図8】信号処理部30が実行する受信電力閾値補正処理に関する説明図である。
【図9】テーブル作成装置100が実行する閾値補正テーブル作成処理に関する説明図である。
【図10】第二実施例の受信電力閾値補正処理に関する説明図である。
【図11】第二実施例の閾値補正テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【図12】第三実施例の相関判定処理に関する説明図である。
【図13】テーブル作成装置100が実行する評価値テーブル作成処理を表すフローチャートである。
【図14】第四実施例の相関判定処理を表すフローチャートである。
【図15】第五実施例の相関判定処理(a)及び変形例の相関判定処理(b)を表すフローチャートである。
【図16】第六実施例の相関判定処理(a)及び変形例の相関判定処理(b)を表すフローチャートである。
【図17】MUSICスペクトルに非所望ピークが混じっている場合及びそうでない場合の受信電力のパターンを例示した説明図である。
【符号の説明】
【0227】
1…レーダ装置、11…発振器、13,23…増幅器、15…分配器、17…送信アンテナ、19…受信アンテナ、21…受信スイッチ、25…ミキサ、27…フィルタ、29…A/D変換器、30…信号処理部、40…車間制御ECU、100…テーブル作成装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、前記送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信して、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置であって、
前記アレーアンテナは、前記各アンテナ素子が不等間隔に配列された構成にされ、
当該レーダ装置は、
前記各アンテナ素子の受信信号に基づき、当該受信信号についての自己相関行列を生成する相関行列生成手段と、
前記相関行列生成手段により生成された自己相関行列の固有値を算出する相関行列解析手段と、
前記相関行列解析手段により算出された固有値群に基づき、前記アレーアンテナへの到来波数Mを推定すると共に、前記固有値群に対応する固有ベクトル群の中から、雑音成分に対応する固有ベクトル群を抽出する推定抽出手段と、
前記推定抽出手段にて抽出された雑音成分に対応する固有ベクトル群に基づき、MUSICスペクトルPMU(θ)を算出するスペクトル算出手段と、
前記スペクトル算出手段にて算出された前記MUSICスペクトルPMU(θ)から、前記推定抽出手段にて推定された前記到来波数Mよりも、予め定められた量α、多い個数(M+α)のピークG1,…,GM+αを抽出し、各ピークG1,…,GM+αに対応する方位θ1,…,θM+αを、検査対象の方位に設定する検査対象設定手段と、
前記検査対象設定手段にて設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを、判定する判定手段と、
前記判定手段により判定された前記相関の高さに基づき、前記検査対象の各方位θ1,…,θM+αの中から、電力推定対象に設定する方位を選択して、当該選択した方位を前記電力推定対象に設定する推定対象設定手段と、
前記推定対象設定手段にて設定された電力推定対象の各方位からの受信電力を、推定する電力推定手段と、
前記電力推定手段にて推定された受信電力の推定値Pに基づき、前記電力推定対象の各方位の内、受信電力の推定値Pが予め設定された閾値Pth以上の方位を、前記物標の方位であると推定し、当該閾値Pth以上の各方位の情報を出力する推定結果出力手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記相関の高さを、高低の二段階で判定し、
前記推定対象設定手段は、前記判定手段により前記相関が低いと判定された場合、前記検査対象の各方位θ1,…,θM+αの内、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、前記推定抽出手段により推定された前記到来波数Mと同数の方位を選択し、選択した各方位を、前記電力推定対象に設定し、前記判定手段により前記相関が高いと判定された場合には、前記検査対象の方位θ1,…,θM+αの全てを、前記電力推定対象に設定する構成にされていること
を特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記検査対象設定手段により設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、その評価値によって、前記相関の高さを判定する構成にされていること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記判定手段は、
前記検査対象設定手段により前記検査対象として設定される方位の組合せ毎に、当該組合せに対応する各ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性についての評価値を表す判定用データ
を備え、当該判定用データに基づき、前記相関の高さを判定する構成にされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記判定手段は、
所定基準より一次独立性が高い又は低いステアリングベクトルa(θ)の組合せを表す判定用データ
を備え、当該判定用データに基づき、前記相関の高さを判定する構成にされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から前記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間C
に対する、残りのα個の前記検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)の分布から、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にされていること
を特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記空間Cへの射影行列PCによって定義されるノルム||PC・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)、又は、当該空間Cに直交する空間CRへの射影行列PCRによって定義されるノルム||PCR・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)を用いて、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にされていること
を特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、
前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Ri(但し、i=1,…,α)として、
次式
【数1】
又は、次式
【数2】
に従う評価値Riを求め、
計α個の前記評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Riの全てが前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記判定手段は、
前記検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から前記到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、
残りのα個の前記検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、
によって定義される行列の行列式又は条件数
を用いて、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、前記相関の高さを判定する構成にされていること
を特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数3】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の行列式det(Wi)の絶対値|det(Wi)|を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、
計α個の前記評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値R1,…,Rαの全てが前記閾値Rthより大きい場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数4】
で定義される行列Wの行列式det(W)の絶対値|det(W)|を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、
前記評価値Rが予め定められた閾値Rth以下である場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Rが前記閾値Rthより大きい場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数5】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の条件数κ(Wi)を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、
計α個の前記評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値R1,…,Rαの全てが、前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数6】
で定義される行列Wの条件数κ(W)を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、
前記評価値Rが予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Rが前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記閾値Pthを設定する手段であって、前記判定手段により求められた前記評価値に基づき、前記推定結果出力手段に対して設定する前記閾値Pthを切り替える閾値切替手段
を備えることを特徴とする請求項3又は請求項4又は請求項6〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記閾値切替手段は、前記評価値と前記閾値Pthとの対応関係を表すテーブルを備え、このテーブルが示す対応関係に従い、前記閾値Pthとして、前記判定手段にて求められた前記評価値に対応する大きさの閾値を設定する構成にされ、
前記テーブルには、前記物標方位の誤推定率が規定値未満となる前記閾値Pthが、前記評価値が採りえる値の範囲において、区間毎に記述されていることを特徴とする請求項14記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記閾値Pthを設定する手段であって、前記検査対象設定手段にて設定される検査対象の方位の組合せに基づき、前記推定結果出力手段に対して設定する前記閾値Pthを切り替える閾値切替手段
を備えることを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記閾値切替手段は、前記検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、前記推定結果出力手段に対して設定すべき前記閾値Pthが記されたテーブルを備え、このテーブルに従い、前記閾値Pthとして、前記検査対象設定手段により設定された検査対象の方位の組合せに対応する大きさの閾値を設定する構成にされ、
前記テーブルには、前記物標方位の誤推定率が規定値未満となる前記閾値Pthが、前記検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、記述されていることを特徴とする請求項16記載のレーダ装置。
【請求項1】
送信アンテナを通じてレーダ波を送信し、前記送信したレーダ波の反射波をアレーアンテナで受信して、前記アレーアンテナを構成する各アンテナ素子の受信信号に基づき、前記アレーアンテナが受信した反射波の発生元である物標の方位θを推定するレーダ装置であって、
前記アレーアンテナは、前記各アンテナ素子が不等間隔に配列された構成にされ、
当該レーダ装置は、
前記各アンテナ素子の受信信号に基づき、当該受信信号についての自己相関行列を生成する相関行列生成手段と、
前記相関行列生成手段により生成された自己相関行列の固有値を算出する相関行列解析手段と、
前記相関行列解析手段により算出された固有値群に基づき、前記アレーアンテナへの到来波数Mを推定すると共に、前記固有値群に対応する固有ベクトル群の中から、雑音成分に対応する固有ベクトル群を抽出する推定抽出手段と、
前記推定抽出手段にて抽出された雑音成分に対応する固有ベクトル群に基づき、MUSICスペクトルPMU(θ)を算出するスペクトル算出手段と、
前記スペクトル算出手段にて算出された前記MUSICスペクトルPMU(θ)から、前記推定抽出手段にて推定された前記到来波数Mよりも、予め定められた量α、多い個数(M+α)のピークG1,…,GM+αを抽出し、各ピークG1,…,GM+αに対応する方位θ1,…,θM+αを、検査対象の方位に設定する検査対象設定手段と、
前記検査対象設定手段にて設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の相関の高さを、判定する判定手段と、
前記判定手段により判定された前記相関の高さに基づき、前記検査対象の各方位θ1,…,θM+αの中から、電力推定対象に設定する方位を選択して、当該選択した方位を前記電力推定対象に設定する推定対象設定手段と、
前記推定対象設定手段にて設定された電力推定対象の各方位からの受信電力を、推定する電力推定手段と、
前記電力推定手段にて推定された受信電力の推定値Pに基づき、前記電力推定対象の各方位の内、受信電力の推定値Pが予め設定された閾値Pth以上の方位を、前記物標の方位であると推定し、当該閾値Pth以上の各方位の情報を出力する推定結果出力手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記相関の高さを、高低の二段階で判定し、
前記推定対象設定手段は、前記判定手段により前記相関が低いと判定された場合、前記検査対象の各方位θ1,…,θM+αの内、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から、ピーク値の大きい順に、前記推定抽出手段により推定された前記到来波数Mと同数の方位を選択し、選択した各方位を、前記電力推定対象に設定し、前記判定手段により前記相関が高いと判定された場合には、前記検査対象の方位θ1,…,θM+αの全てを、前記電力推定対象に設定する構成にされていること
を特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記検査対象設定手段により設定された検査対象の各方位θ1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)に基づき、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、その評価値によって、前記相関の高さを判定する構成にされていること
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記判定手段は、
前記検査対象設定手段により前記検査対象として設定される方位の組合せ毎に、当該組合せに対応する各ステアリングベクトルa(θ)間の一次独立性についての評価値を表す判定用データ
を備え、当該判定用データに基づき、前記相関の高さを判定する構成にされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記判定手段は、
所定基準より一次独立性が高い又は低いステアリングベクトルa(θ)の組合せを表す判定用データ
を備え、当該判定用データに基づき、前記相関の高さを判定する構成にされていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から前記推定された到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)が張る空間C
に対する、残りのα個の前記検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)の分布から、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にされていること
を特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記空間Cへの射影行列PCによって定義されるノルム||PC・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)、又は、当該空間Cに直交する空間CRへの射影行列PCRによって定義されるノルム||PCR・a(θM+i)||(但し、i=1,…,α)を用いて、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価する構成にされていること
を特徴とする請求項6記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、
前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Ri(但し、i=1,…,α)として、
次式
【数1】
又は、次式
【数2】
に従う評価値Riを求め、
計α個の前記評価値Riの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Riの全てが前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項7記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記判定手段は、
前記検査対象の方位θ1,…,θM+αであって、前記MUSICスペクトルPMU(θ)でのピーク値が最大の方位から前記到来波数Mと同数の方位θ1,…,θMの夫々に対応するステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)と、
残りのα個の前記検査対象の各方位θM+1,…,θM+αに対応するステアリングベクトルa(θM+1),…,a(θM+α)と、
によって定義される行列の行列式又は条件数
を用いて、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性を評価し、前記相関の高さを判定する構成にされていること
を特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数3】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の行列式det(Wi)の絶対値|det(Wi)|を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、
計α個の前記評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rth以下である場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値R1,…,Rαの全てが前記閾値Rthより大きい場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数4】
で定義される行列Wの行列式det(W)の絶対値|det(W)|を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、
前記評価値Rが予め定められた閾値Rth以下である場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Rが前記閾値Rthより大きい場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数5】
で定義される行列Wi(但し、i=1,…,α)の条件数κ(Wi)を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM)に対するステアリングベクトルa(θM+i)の一次独立性についての評価値Riとして求め、
計α個の前記評価値R1,…,Rαの少なくとも一つが、予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値R1,…,Rαの全てが、前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記判定手段は、
前記相関の高さを、高低の二段階で判定する構成にされ、次式
【数6】
で定義される行列Wの条件数κ(W)を、前記ステアリングベクトルa(θ1),…,a(θM+α)間の一次独立性についての評価値Rとして求め、
前記評価値Rが予め定められた閾値Rthより大きい場合には、前記相関が高いと判定し、前記評価値Rが前記閾値Rth以下である場合には、前記相関が低いと判定する構成にされていること
を特徴とする請求項9記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記閾値Pthを設定する手段であって、前記判定手段により求められた前記評価値に基づき、前記推定結果出力手段に対して設定する前記閾値Pthを切り替える閾値切替手段
を備えることを特徴とする請求項3又は請求項4又は請求項6〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記閾値切替手段は、前記評価値と前記閾値Pthとの対応関係を表すテーブルを備え、このテーブルが示す対応関係に従い、前記閾値Pthとして、前記判定手段にて求められた前記評価値に対応する大きさの閾値を設定する構成にされ、
前記テーブルには、前記物標方位の誤推定率が規定値未満となる前記閾値Pthが、前記評価値が採りえる値の範囲において、区間毎に記述されていることを特徴とする請求項14記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記閾値Pthを設定する手段であって、前記検査対象設定手段にて設定される検査対象の方位の組合せに基づき、前記推定結果出力手段に対して設定する前記閾値Pthを切り替える閾値切替手段
を備えることを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記閾値切替手段は、前記検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、前記推定結果出力手段に対して設定すべき前記閾値Pthが記されたテーブルを備え、このテーブルに従い、前記閾値Pthとして、前記検査対象設定手段により設定された検査対象の方位の組合せに対応する大きさの閾値を設定する構成にされ、
前記テーブルには、前記物標方位の誤推定率が規定値未満となる前記閾値Pthが、前記検査対象設定手段により設定される検査対象の方位の組合せ毎に、記述されていることを特徴とする請求項16記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−32314(P2010−32314A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193764(P2008−193764)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】
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