説明

レールの電食状態判定システム

【課題】 電車の加重・振動を掛けた状態で踏切部などの電食の状態を判定する簡単な構成のレールの電食状態判定システムを提供することである。
【手段】 レールの電食状態判定システムは、レール1の踏切部3の両端に且つレールの真下に設置された第一磁気センサ4と第二磁気センサ5、第一磁気センサ4の検出信号から交流分を除去して第一検出信号H1を出力する第一フィルタ6、第二磁気センサ5の検出信号から交流分を除去して第二検出信号H2を出力する第二フィルタ7、及び信号処理装置とで構成されている。信号処理装置の信号処理部8は、第一検出信号H1と第二検出信号H2の差の信号に基づいて漏洩電流値iを算出する。信号処理装置の出力部9は、漏洩電流値iを液晶パネルに表示し、又はプリンタでプリントする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールを流れる電流が大地に漏れることによってレール自体に発生する電食の状態を判定するシステムに関し、特に地下トンネルや踏切部におけるレールの電食状態を判定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
直流電気鉄道においては、レールからの漏洩電流によりレール自体や埋設管等に電食が発生する。電食は金属が電気分解し溶解する現象であり、漏水の多い地下トンネル部、踏切部のレールに多く発生する。このため、地下トンネルではレール本体およびレール締結装置が溶解するため、短期間でのレール交換が必要となる。踏切部ではレールが大地と接触する箇所に漏洩電流が集中するため、レール底部が溶解する。ところが、踏切部の構造上、レールを取り外して調べることができない。従って、溶解が生じているレール底部の箇所も発見することができないため、レール折損まで至ってしまうという問題がある。
【0003】
そこで、レールを取り外さないで踏切部におけるレール底部の溶解状態を検査する方法の開発が求められてきた。この求めに応じて提案された1つの検査方法は、検査対象の踏切部のレールを両端で切り離し、切り離したレールの両端に電圧を印加して漏洩電流を調べる方法である。しかしながら、この検査方法は電車の営業終了後の時間帯でしか測定ができないこと、電車の加重・振動を掛けた状態での測定ができないこと、印加用の電源が必要であること、印加するための低抵抗の接地手段が必要なこと、レールの切り離しという面倒な作業が必要なこと等の様々な問題があり、現実には殆ど実施することは困難である。従って、踏切部におけるレール底部の溶解状態を検査する現実的な方法はこれまでは実現していなかった。
【0004】
ところで、電気鉄道の分野においてはレールから発生する磁場を簡単に調べる方法の開発が求められていたが、特開2002−267693号公報(特許文献1)に開示された電流計測システムは、この求めに応じるものとして注目されている。この電流計測システムは、レールの近傍に磁力計を配置し、磁力計で計測した磁場の強さからレールに電流が流れていない状態での磁力計位置の強さを差し引いた値と、レールの断面形状の各部分に流れる電流で決まる磁力計位置の磁場の強さとが等しくなるときのレールの各部分に流れる電流の合計を算出して、レールに流れる電流を計測する処理装置を備えた電流計測システムである。これは、レールなどの断面形状が一定の導電体に流れる電流を非接触で容易に計測できる電流計測システムである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−267693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電車の加重・振動を掛けた状態で踏切部などの電食の状態を判定する簡単な構成のレールの電食状態判定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、外乱磁場の発生源となる直流電流線が複数存在する鉄道線路において、磁気センサの利用が可能か否かを実地検証した。即ち、測定対象となるレールと対になるもう一方のレールからの発生磁場を調べた。その結果、前記発生磁場は測定値の0.9%程度の誤差要因となりうることが分かった。その他の電流線の影響についても検討した結果、外乱磁場の影響は大きく見積もっても2%以内であることを確認した。
【0008】
上述の実地検証の結果に基づいて、レールの電食状態を検査すべき箇所の一端に且つレールの真下に設置した第一磁気センサの検出信号から交流分を除去して第一検出信号を取り出した。また、レールの電食状態を検査すべき箇所の他端に且つレールの真下に設置した第二磁気センサの検出信号から交流分を除去して第二検出信号を取り出した。そして、信号処理装置によって、第一検出信号と第二検出信号の差の信号を算出し、この差の信号に基づいて電食状態を検査すべきレール箇所の漏洩電流値を演算した。そして、前記漏洩電流値によって、電食状態を判定するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電車の加重・振動を掛けた状態で踏切部などの電食の状態を判定する簡単な構成のレールの電食状態判定システムである。従って、本発明により、地下トンネルや踏切部におけるレールの電食状態を判定するシステムが初めて実用化された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態は、レールの電食状態を検査すべき箇所の両端に且つレールの真下に設置された第一磁気センサと第二磁気センサ、第一磁気センサの検出信号から交流分を除去して第一検出信号を出力する第一フィルタ、第二磁気センサの検出信号から交流分を除去して第二検出信号を出力する第二フィルタ、及び第一検出信号と第二検出信号の差信号に基づいて電食状態を検査すべきレール箇所の漏洩電流値を算出する信号処理装置とで構成されたレールの電食状態判定システムである。
【実施例1】
【0011】
図1に示す本発明の実施例1のレールの電食状態判定システムは、レールの電食状態を検査すべき箇所が踏切部であるシステムである。即ち、レール1の踏切部3の一端1aに且つレール1の真下には第一磁気センサ4が設置されている。且つ、レール1の踏切部3の他端1bに且つレール1の真下には第二磁気センサ5が設置されている。第一磁気センサ4の検出信号は第一フィルタ6に入力され、第一フィルタ6は前記検出信号から交流分を除去して第一検出信号H1を出力する。第二磁気センサ5の検出信号は第二フィルタ7に入力され、第二フィルタ7は前記検出信号から交流分を除去して第二検出信号H2を出力する。第一検出信号H1と第二検出信号H2は信号処理装置の信号処理部8に入力され、信号処理部8はこれら検出信号H1とH2を演算処理し、踏切部3のレール1からの漏洩電流値iアンペアを算出する。漏洩電流値iアンペアは出力部9で表示され、又はプリントされる。検査員は、出力部9で表示され、又はプリントされた漏洩電流値iアンペアから、踏切部3のレール1の電食状態を判定する。レール1の一端1aと他端1bの距離は、踏切部3の幅を少し超える程度である。
【0012】
第一磁気センサ4と第二磁気センサ5は、特許文献1に開示されているような電流計測システムを構成する磁力計と同様の磁気センサを用いることができる。即ち、市販のフラックスゲート型磁気センサを採用できる。これらの磁気センサ4、5をレール1の真下の決められた位置に確実に且つ容易に固定するために、固定治具が用いられる。この固定治具はレールに電気的な影響を与えないように、絶縁体であるベークライトで作成されている。50Nレール、60Nレール等、断面形状が異なるレールに対応するために、前記固定治具は各レールの種類に応じてセンサの取り付け位置を調整できるように構成されている。図2は、第一磁気センサ4が固定治具4aに収納されて、レール1の真下に配置されている概要の断面図である。第二磁気センサ5も第一磁気センサ4と同様に、固定治具に収納されてレール1の真下に配置される。
【0013】
レール1には通常は信号電流等の交流電流が流れている。そこで、直流840アンペアを通電中のレールに交流10アンペア(ピークとピークでは30アンペア)を重畳した際における測定値は、直流840アンペアを境にして上限値860アンペア、下限値830アンペアの三角波が重畳した電流値が出力された。第一フィルタ6は、信号電流等の交流電流による磁界の影響が含まれた第一磁気センサ4の検出信号から交流分であるノイズを除去するためのものである。同様に、第二フィルタ7は、信号電流等の交流電流による磁界の影響が含まれた第二磁気センサ5の検出信号から交流分であるノイズを除去するためのものである。
【0014】
信号処理装置は信号処理部8と出力部9で構成されている。信号処理部8には、第一磁気センサ4の検出信号を第一フィルタ6で交流分を除去した第一検出信号H1と、第二磁気センサ5の検出信号を第二フィルタ7で交流分を除去した第二検出信号H2が入力される。
【0015】
ここで、電車が図の右側から左側の方向に走行するものとし、直流840アンペアがレール1に通電されているとする。すると、踏切3のレールの一端1aにおいてレール1の真下に配置されている第一磁気センサ4の検出信号を第一フィルタ6で交流分を除去した第一検出信号H1は直流840アンペアに対応した磁界値である。そして、踏切3のレールの他端1bにおいてレール1の真下に配置されている第二磁気センサ5の検出信号を第二フィルタ7で交流分を除去した第二検出信号H2は直流840アンペアから漏洩電流iアンペアを差し引いた電流値(840−i)アンペアに対応した磁界値である。これらの第一検出信号H1と第二検出信号H2は、電車の加重・振動を掛けた状態での測定値である。
【0016】
信号処理部8は、第一検出信号H1と第二検出信号H2の差の信号(H1−H2)を算出する。電流Iと磁界Hの関係はI=kHで表される。但し、kは定数である。従って、算出された差の信号(H1−H2)に対応する電流値は容易に算出される。そして、算出された電流値は、漏洩電流値iアンペアそのものである。
【0017】
信号処理装置の出力部9は、漏洩電流値iアンペアを液晶パネルに表示し、又はプリンタでプリントする。検査員は、出力部9で表示され、又はプリントされた漏洩電流値iアンペアから、踏切部3のレール1の電食状態を判定する。
【0018】
以上、本発明を踏切部のレールに適用した実施例を説明したが、本発明は地下トンネル部のレールに同様に適用することができる。また、実施例1において、踏切部3の一対のレールの一方のレール1の漏洩電流だけでなく、他方のレール2の漏洩電流も同様に測定することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例の構成を示した図である。
【図2】磁気センサのレールの真下への取り付け方法の一例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1、2 レール
3 踏切部
4 第一磁気センサ
5 第二磁気センサ
6 第一フィルタ
7 第二フィルタ
8 信号処理部
9 出力部










【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの電食状態を検査すべき箇所の両端に且つレールの真下に設置された第一磁気センサと第二磁気センサ、第一磁気センサの検出信号から交流分を除去して第一検出信号を出力する第一フィルタ、第二磁気センサの検出信号から交流分を除去して第二検出信号を出力する第二フィルタ、及び第一検出信号と第二検出信号の差信号に基づいて電食状態を検査すべき箇所の漏洩電流値を算出する信号処理装置とで構成されたレールの電食状態判定システム。
【請求項2】
電食状態を検査すべきレール箇所は踏切部であることを特徴とする請求項1のレールの電食状態判定システム。
【請求項3】
電食状態を検査すべきレール箇所は地下トンネル部であることを特徴とする請求項1のレールの電食状態判定システム。






























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−258494(P2006−258494A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73662(P2005−73662)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】