説明

ロッカの車体前方側端部構造

【課題】車両の前面衝突時の衝突荷重を、ロッカの軸方向のみへ効率よく伝達できるロッカの車体前方側端部構造の提供を課題とする。
【解決手段】車体下部の車幅方向両外側に車体前後方向を長手方向として配設されたロッカ14と、ロッカ14の車体前方側端部に設けられ、車体前方に向かって下り傾斜となる傾斜面34を有する突起部30と、を備えたロッカ14の車体前方側端部構造10であって、車両12の前面衝突時に、フロントタイヤ28からの衝突荷重が傾斜面34に入力される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体下部の車幅方向両外側に車体前後方向を長手方向として配設されたロッカの車体前方側端部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体下部の車幅方向両外側には、ロッカが車体前後方向を長手方向として配設されている。そして、このロッカの車体前方には、フロントタイヤが配置されている。また、このロッカの車体前方側端部には、車体上方向へ延在するフロントピラーが一体的に設けられており、このフロントピラーの所定位置には、車体前方側へ向かって延在するエプロンアッパメンバが一体的に設けられている。
【0003】
したがって、車両の前面衝突時には、エプロンアッパメンバからフロントピラーへ衝突荷重が伝達(入力)されることにより、その衝突荷重が吸収され、更にフロントタイヤからロッカの車体前方側端部へ衝突荷重が伝達(入力)されることにより、その衝撃荷重が吸収される。そして、この前面衝突時の衝撃吸収性能を向上させるロッカの車体前方側端部構造が、従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−226363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の前面衝突時には、エプロンアッパメンバからフロントピラーへ入力される衝突荷重により、ロッカに対して、軸方向(長手方向)に掛かる軸力以外に、その車体前方側端部を車体上後方向側へ曲げる(押し上げる)曲げモーメント力が作用する。通常、ロッカは、軸力に対する耐力は充分とされているので、上記曲げモーメント力に対する耐力によって、ロッカの全体的な崩壊安全度が決定される。
【0005】
つまり、上記曲げモーメント力を軽減させ、車両の前面衝突時の衝突荷重を、ロッカの軸方向のみへ効率よく伝達させることができれば、ロッカの全体的な崩壊安全度を向上させることができるため、車両における衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、車両の前面衝突時の衝突荷重を、ロッカの軸方向のみへ効率よく伝達できるロッカの車体前方側端部構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載のロッカの車体前方側端部構造は、車体下部の車幅方向両外側に車体前後方向を長手方向として配設されたロッカと、前記ロッカの車体前方側端部に設けられ、車体前方に向かって下り傾斜となる傾斜面を有する突起部と、を備え、車両の前面衝突時に、フロントタイヤからの衝突荷重が前記傾斜面に入力される構成とされていることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、車両の前面衝突時には、フロントタイヤから、ロッカの車体前方側端部に設けられた突起部に衝突荷重が入力される。このとき、その突起部の車体前方側を向く前面は、車体前方に向かって下り傾斜となる傾斜面とされているので、その衝突荷重の一部は、ロッカの車体前方側端部を車体下後方向側へ曲げる(押し下げる)曲げモーメント力として作用する。
【0009】
したがって、車両の前面衝突時に、エプロンアッパメンバからフロントピラーへ入力された衝突荷重により、ロッカの車体前方側端部に発生する車体上後方向側へ曲げる(押し上げる)曲げモーメント力は、その車体下後方向側へ曲げる(押し下げる)曲げモーメント力によって相殺される。よって、車両の前面衝突時の衝突荷重は、ロッカの軸方向のみへ効率よく伝達され、車両における衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0010】
また、請求項2に記載のロッカの車体前方側端部構造は、請求項1に記載のロッカの車体前方側端部構造において、前記突起部の底面が、前記ロッカの下面と略同じ高さ位置に配置されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、突起部の底面が、ロッカの下面と略同じ高さ位置に配置されているので、突起部の傾斜面に入力された衝突荷重の一部は、ロッカの車体前方側端部を車体下後方向側へ曲げる(押し下げる)曲げモーメント力として良好に作用する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、車両の前面衝突時の衝突荷重を、ロッカの軸方向のみへ効率よく伝達できるロッカの車体前方側端部構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面に示す実施例を基に詳細に説明する。なお、各図に示す矢印UPは車体上方向を示し、矢印FRは車体前方向を示す。そして、矢印INは車幅方向内側を示す。
【0014】
図1は本発明に係るロッカ14の車体前方側端部構造10を示す概略斜視図であり、図2は本発明に係るロッカ14の車体前方側端部構造10を示す概略側面図である。また、図3は車両が前面衝突したときのロッカ14の車体前方側端部構造10の作用を示す概略側面図であり、図4はその一部拡大概略側面図である。
【0015】
図1で示すように、車両12の車体下部の車幅方向両外側には、左右一対とされたロッカ14が車体前後方向を長手方向として略水平に配設されている(図1では左側のロッカ14のみが示されている)。各ロッカ14は、ロッカインナパネル16と、サイメンアウタパネル(ロッカアウタパネル)18と、を有している。
【0016】
ロッカインナパネル16は、縦(鉛直)断面がハット形状とされるとともに、開口側を車幅方向外側に向けて配設されている。そして、サイメンアウタパネル(ロッカアウタパネル)18は、縦(鉛直)断面がハット形状とされるとともに、開口側を車幅方向内側に向けて配設されている。つまり、ロッカインナパネル16とサイメンアウタパネル18とは、開口同士が対向するように配設されている。
【0017】
そして、各ロッカ14内には、ロッカ14を補強するロッカリインフォースメント(図示省略)が車体前後方向に沿って配設されている。なお、ロッカリインフォースメントは、ロッカインナパネル16の車幅方向外側に配設され、ロッカインナパネル16とで閉断面構造を構成するようになっている。
【0018】
また、各ロッカ14の車体前方側端部14Aには、車体上方向へ延在するフロントピラー(Aピラー)20が一体に連設されている(図1では左側のフロントピラー20のみが示されている)。フロントピラー20は、フロントピラーインナパネル22と、フロントピラーアウタパネル24と、を有している。フロントピラーインナパネル22は、車幅方向内側に配置され、横(水平)断面がハット形状とされており、フロントピラーアウタパネル24は、車幅方向外側に配置され、横(水平)断面がハット形状とされている。
【0019】
そして、これらフロントピラーインナパネル22とフロントピラーアウタパネル24とが、それぞれ開口側を向き合わせて、そのフランジ部同士が接合されることで、閉断面構造を構成するようになっている。また、フロントピラーインナパネル22とフロントピラーアウタパネル24とで構成される閉断面内には、フロントピラー20を補強する断面ハット形状のフロントピラーリインフォースメント(図示省略)が配設されている。
【0020】
すなわち、フロントピラーリインフォースメントのフランジ部は、フロントピラーインナパネル22のフランジ部と、フロントピラーアウタパネル24のフランジ部との間に挟まれた状態で接合されるようになっている。そして、以上のような構成の各ロッカ14及び各フロントピラー20は、車両12の車体骨格部材となっている。
【0021】
また、各フロントピラー20の高さ方向(車体上下方向)における所定位置(ベルトライン付近)には、左右一対のエプロンアッパメンバ26が車体前方向側へ延在するように設けられている(図1では左側のエプロンアッパメンバ26のみが示されている)。このエプロンアッパメンバ26もロッカ14やフロントピラー20と同様に閉断面構造とされている。
【0022】
また、各ロッカ14の車体前方側端部14Aには、車幅方向を高さ方向とするような中空三角柱状の突起部30がそれぞれ一体的に設けられている。すなわち、各突起部30は、図1、図2で示すように、ロッカ14の下面と略同じ高さ位置に配置される底面32と、その底面32の車体前方側端部に向かって下り傾斜となる傾斜面としての前面34と、車幅方向から見た側面視で略直角三角形状に形成された側面36と、を有している。
【0023】
そして、前面34の車体上方側の辺縁部から車体上方側へ延設されたフランジ部34Aと、側面36の車体後方側の辺縁部から車体後方側へ延設されたフランジ部36Aと、底面32の車体後方側の辺縁部から車体後方側へ延設されたフランジ部(図示省略)が、それぞれロッカ14の車体前方側端部14Aに、例えば溶接などの取付手段によって取り付けられることで、そのロッカ14の車体前方側端部14Aに、突起部30が一体的に設けられるようになっている。
【0024】
なお、突起部30の底面32及び前面34の幅(車幅方向の長さ)は、ロッカ14の幅(車幅方向の長さ)と同じか、それよりも若干小さくされている。そして、突起部30のフランジ部34Aを除く高さは、ロッカ14の高さと略同じ高さとされている。また、この突起部30(底面32)の車体前方側への突出長さは、通常時において、当然ながら、フロントタイヤ28に接触しない長さとされている。
【0025】
以上のような構成の突起部30を備えたロッカ14の車体前方側端部構造10において、次にその作用について説明する。図3で示すように、障壁Wに車両12が前面衝突したときには、エプロンアッパメンバ26からフロントピラー20へ衝突荷重が伝達(入力)される。したがって、図3、図4で示すように、ロッカ14の車体前方側端部14Aには、その衝突荷重により、車体前方側端部14Aを車体上後方向側へ曲げる(押し上げる)曲げモーメント力M1が発生(作用)する。
【0026】
一方、図3、図4で示すように、障壁Wに車両12が前面衝突したときには、ロッカ14の車体前方側端部14Aにも、フロントタイヤ28から衝突荷重が伝達(入力)される。すなわち、フロントタイヤ28の車体前後方向の底付きによるサスタワー(図示省略)の後退に伴い、そのフロントタイヤ28を介して、突起部30の前面34に衝突荷重が伝達(入力)される。
【0027】
このとき、突起部30の前面34は、ロッカ14の下面と略同じ高さ位置に配置される底面32の車体前方側端部に向かって下り傾斜となる(車体上前方側を向く)傾斜面とされているので、その前面34に入力された衝突荷重は、ロッカ14の下部側へ集中的に(良好に)伝達され、これによって、ロッカ14の車体前方側端部14Aには、ロッカ14の軸方向(長手方向)に加えられる(作用する)軸力F以外に、その車体前方側端部14Aを車体下後方向側へ曲げる(押し下げる)曲げモーメント力M2が発生(作用)する。
【0028】
したがって、車両12の前面衝突時に、エプロンアッパメンバ26からフロントピラー20へ入力された衝突荷重によりロッカ14の車体前方側端部14Aに発生した車体上後方向側へ曲げる(押し上げる)曲げモーメント力M1は、フロントタイヤ28から突起部30へ入力された衝突荷重によりロッカ14の車体前方側端部14Aに発生した車体下後方向側へ曲げる(押し下げる)曲げモーメント力M2によって相殺される。これにより、車両12の前面衝突時の衝突荷重は、ロッカ14の軸方向のみへ効率よく伝達されることになり、車両12における衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0029】
ここで、ロッカ14のような車体骨格部材(梁部材)においては、一般に軸方向(長手方向)に掛かる荷重(軸力)をF、軸方向の耐力をPf、曲げ方向に掛かる力(曲げモーメント力)をM、曲げ方向の耐力をPmとすると、(F/Pf+M/Pm)<1の式によって崩壊の目安が設定される。
【0030】
したがって、曲げ方向に掛かる力(曲げモーメント力)Mを減少させた方が、軸方向に掛かる荷重(軸力)Fをより多く伝えることができる。よって、上記形状とされた突起部30を、各ロッカ14の車体前方側端部14Aに一体的に設けることは、非常に有効となる。
【0031】
すなわち、エプロンアッパメンバ26を備えた車両12において、例えば図5で示すように、ロッカ14の図心高さTよりも車体上方側に、フロントタイヤ28からの荷重が入力された場合、ロッカ14の図心高さTよりも車体下方側(ロッカ14の下面位置付近)に、矢印Aで示すような荷重の入力があれば、上記のように曲げモーメント力を相殺できる。
【0032】
しかしながら、図6で示すように、ロッカ14の図心高さTよりも車体下方側(ロッカ14の下面位置付近)に、矢印Aで示すような荷重を入力させられるように、フロントタイヤ28に対するロッカ14の高さ位置を高くすると、車両12に対する乗員の乗降に支障が出る懸念がある。
【0033】
そこで、図1〜図4で示すように、車体前方(底面32の車体前方側端部)に向かって下り傾斜となる傾斜面としての前面34を有し、更にはロッカ14の下面と略同じ高さ位置に配置される底面32を有する突起部30を、ロッカ14の車体前方側端部14Aに一体的に設けた。
【0034】
これにより、車両12の前面衝突によってロッカ14の車体前方側端部14Aに発生(作用)する曲げモーメント力M1、M2を相殺することができ、ロッカ14の車体前方側端部14Aに軸力Fだけを効率よく伝達することができる。つまり、ロッカ14は、車両12の前面衝突時に、軸方向に掛かる荷重(軸力)Fのみを効率よく受け持つことが可能となる。
【0035】
以上、本発明に係るロッカ14の車体前方側端部構造10を図面に示す実施例を基に説明したが、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば突起部30は、車両12の重量増加を防止する観点からは中空構造とすることが望ましいが、中実構造とされてもよい。
【0036】
また、この突起部30は、車体前方に向かって下り傾斜となる傾斜面としての前面34を有し、更にはロッカ14の下面と略同じ高さ位置に配置される底面32を有する形状であれば、例えば側面36の形状が車幅方向から見た側面視で略台形状等に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るロッカの車体前方側端部構造を示す概略斜視図
【図2】本発明に係るロッカの車体前方側端部構造を示す概略側面図
【図3】車両が前面衝突したときのロッカの車体前方側端部構造の作用を示す概略側面図
【図4】車両が前面衝突したときのロッカの車体前方側端部構造の作用を示す一部拡大概略側面図
【図5】突起部が設けられていないロッカの車体前方側端部構造を示す概略側面図
【図6】突起部が設けられていないロッカの車体前方側端部構造を示す概略側面図
【符号の説明】
【0038】
10 車体前方側端部構造
12 車両
14 ロッカ
14A 車体前方側端部
20 フロントピラー
26 エプロンアッパメンバ
28 フロントタイヤ
30 突起部
32 底面
34 前面(傾斜面)
36 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体下部の車幅方向両外側に車体前後方向を長手方向として配設されたロッカと、
前記ロッカの車体前方側端部に設けられ、車体前方に向かって下り傾斜となる傾斜面を有する突起部と、
を備え、
車両の前面衝突時に、フロントタイヤからの衝突荷重が前記傾斜面に入力される構成とされていることを特徴とするロッカの車体前方側端部構造。
【請求項2】
前記突起部の底面が、前記ロッカの下面と略同じ高さ位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のロッカの車体前方側端部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−47178(P2010−47178A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214373(P2008−214373)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】