説明

ロボットおよびロボットの制御方法

【課題】ドアを開けて出入口を通過することができるロボットおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】制御手段は、次の工程を順に実行する。係合部30をドア取手101に係合させた状態で、走行体10の後退とロボットアーム20によるドア引き寄せ制御を実行し、ドア100を開く。この際、ドアの手先側の側縁100bがドアの回動中心と走行体10のドア側の側面の前端部10xとを結ぶ線を通過する。図3(B)〜(D)参照。次に、係合部30のドア取手101に対する係合状態を維持しながら、走行体10の旋回と前進を実行することにより、走行体10の前端部10xを、ドア100の回動軌跡と干渉する領域に位置させる。図3(E)参照。次に、係合部30のドア取手101に対する係合状態を解除する。図3(F)参照。次に、走行体10を前進させて出入口201を通過させる。図3(I),(J)参照。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアを開いて出入口を通過することができるロボットおよびロボット制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建造物内で事故が発生し、有毒ガスが充満しているような環境で、ロボットにより探査を行う場合、ドアを開けて部屋に入ることが求められることがある。
【0003】
特許文献1のロボットは、走行体と、走行体に設けられたロボットアームと、ロボットアームの先端に設けたノブ回しモジュール(係合部)を備え、このノブ回しモジュールでドアのノブ(取手)を掴んで回すことによりドアのラッチ状態を解除し、ノブ回しモジュールに装備された固定手段でドア面を固定した状態で、ドアを手前に引いて開けることができるようになっている。
【特許文献1】特許3645460号公報(段落0229〜0250、図31〜図34)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1では、ドアを開いた後、どのようにしてロボットを通過させるのか、具体的な制御は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、走行体と、この走行体に設けられたロボットアームと、このロボットアームの先端に設けられたロボットハンドとしてのドア取手係合用の係合部とを備えたロボットを、ドア通り抜けのために制御する方法であって、
(ア)ドア閉じ状態において上記係合部をドア取手に係合させる第1工程と、
(イ)上記ロボットアームの制御又は上記ロボットアームと上記走行体の制御により、ドアを手前に開くとともに、ドア回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を、ドアの手先側の側縁に対して、壁寄りに位置させる第2工程と、
(ウ)上記走行体とロボットアームの制御により、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの回動軌跡と干渉する領域に位置させる第3工程と、
(エ)上記係合部のドア取手に対する係合状態を解除し、上記ロボットアームを、第5工程での走行体前進時にドアと干渉しない位置まで退避させる第4工程と、
(オ)上記走行体を前進させて出入口を通過させる第5工程と、
を順に実行することを特徴とする。
【0006】
上記方法によれば、ドア取手への係合部の係合、係合解除と、走行体のドア回動軌跡への干渉の制御を組み合わせることにより、ロボットがドアを開けて出入口を通過させるまでを円滑に行うことができる。
【0007】
好ましくは、上記第3工程において、上記走行体を、上記ドアの手先側の側縁を回り込むように超信地旋回させることにより、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの開閉軌跡と干渉させる。
これによれば、簡単な制御により走行体のドアとの干渉制御を行うことができる。
【0008】
好ましくは、上記第4工程において、上記ロボットアームを水平回動させることによりドアと干渉しない位置まで退避させる。
これによれば、簡単な制御でロボットアームの退避制御を行うことができる。
【0009】
好ましくは、上記ロボットアームの水平回動をさらに続けて上記係合部を上記ドアの出入口側の側面またはその近傍へ移動させ、その後、走行体の旋回とロボットアームのさらなる水平回動の少なくとも一方を実行することにより、上記係合部でドアを押してドアの開き角度を増大させる。
これによれば、走行体の通り抜けをより一層円滑に行うことができる。
【0010】
好ましくは、上記係合部によるドアの押し開き後、上記第5の工程の前または途中で、上記ロボットアームをクローラ幅内に収めるように水平回動させる。
この特徴は、後述する第2実施形態に対応するものであり、これによれば、ロボットアームがドアに接しない状態で走行体を出入口に向かって前進させることができる。
【0011】
好ましくは、上記第2工程において、上記係合部をドアに対して垂直に維持するように、上記走行体とロボットアームを制御する。
これによれば、係合部をドアに垂直に維持しながらドアを開くので、係合部とドア取手の係合状態を確実に維持することができる。
なお、本願において「垂直」の語は、高精度で垂直な場合のみならず、比較的広い許容範囲をもって垂直である場合も含む。
【0012】
好ましくは、上記第1工程において、走行体の中心軸線をドアおよび壁と垂直にした状態で係合部をドアと垂直にしてドア取手に係合させる。
これによれば、比較的簡単に係合部をドア取手に係合させることができる。
【0013】
好ましくは、上記第2工程で走行体を壁に対して傾斜させる。
これによれば、ロボットアームを過剰に長くすることなく、ドア回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を、ドアの手先側の側縁に対して、壁寄りに位置させることができる。
【0014】
好ましくは、上記第2工程の第1段階において、上記走行体を、壁に対する傾斜を増大させるようにしてドアの手先側の側縁の円弧軌跡の外側を回る湾曲軌跡に沿って後退させ、かつ上記ロボットアームのドア引き寄せ制御を実行することにより、上記走行体のドア側の側面の前端部をドアの手先側の側縁の近傍に位置させ、上記第2工程の第2段階で、上記ロボットアームによるドア引き寄せ制御を実行することにより、ドアの手先側の側縁がドアの回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を通過するように、ドアをさらに開く。
この特徴は後述の第1実施形態に対応するものであり、これによれば走行体の移動軌跡が比較的狭くて済む。すなわち、ドア手前側のスペースが比較的狭い場合でも、ロボットがドアを開いて出入口を通過できる。
【0015】
好ましくは、上記第2工程の第1段階において、上記走行体を、上記走行体の前後方向の中心軸線をドアに対して垂直に維持しながら、ドアの手先側の側縁の円弧軌跡から徐々に遠ざかるような湾曲した軌跡を描くようにして、後退させる。
この特徴も第1実施形態に対応するものであり、狭い移動軌跡での走行体の具体的制御を提示する。しかも、第2段階でのロボットアームによるドア引き寄せ制御を始める段階で、走行体がドアと垂直をなしているので、ドアの手先側先端が走行体のドア側の側面の前端部を円滑に通過することができる。
【0016】
好ましくは、上記ロボットアームは、走行体に水平回動可能に支持された第1水平アーム部と、この第2水平アーム部の先端に水平回動可能に支持された第2水平アーム部を含み、第2水平アーム部の先端に上記係合部が設けられており、上記第1工程において、第1水平アーム部と第2水平アーム部を真直にし、ドアに対して垂直にした状態で、上記係合部をドア取手に係合させ、上記第2工程の第1段階で、上記第2水平アーム部をドアに対して垂直に維持しながら第1水平アーム部を走行体に対して水平回動させることにより、上記ドア引き寄せ制御を実行し、上記第2工程の第2段階で、上記第1水平アーム部を水平回動させることにより、上記ドア引き寄せ制御を実行する。
この特徴も第1実施形態に対応するものであり、走行体の狭い移動スペースにおいて、係合部によるドア取手係合を安定して維持しながら、ドア開きを行うことができる。また、アーム部は高強度を要求されない。
【0017】
好ましくは、上記第2工程の上記第1、第2段階において、上記第1水平アーム部に対して上記第2水平アーム部をフリーにした状態で、第1水平アーム部を水平回動することにより、上記ドア引き寄せ制御を実行する。
この特徴も第1実施形態に対応するものであり、これによれば、第1水平アーム部の回動制御だけでロボットアームのドア引き寄せ制御を行うことができるので、制御を簡単にすることができる。
【0018】
上記ロボットアームは、走行体に水平回動可能に支持された第1水平アーム部と、この第2水平アーム部の先端に水平回動可能に支持された第2水平アーム部を含み、第2水平アーム部の先端に上記係合部が設けられており、上記第1工程において、第1水平アーム部と第2水平アーム部を真直にし、ドアに対して垂直にした状態で、上記係合部をドア取手に係合させ、上記第2工程の第1段階では、上記第1、第2水平アーム部を真直状態に維持するとともにドアに対して垂直に維持しながら、上記走行体を、ドア回動中心を中心とした第1円弧に沿って後退させつつ旋回させ、上記第2工程の第2段階では、第2アーム部の回動中心を中心とする第2円弧に沿って前進させつつ旋回させるとともに、上記第2アーム部をドアに対して垂直に維持するように上記第1アーム部を水平回動させる。
この特徴は第2実施形態に対応するものであり、走行体を円弧に沿って移動させるので、制御が比較的簡単である。
【0019】
好ましくは、上記走行体には距離計と制御手段が装備され、上記制御手段は、上記距離計によりドアおよびその近傍の壁までの距離を水平方向に所定角度範囲にわたって計測させ、この計測距離データから、壁に対するドアの位置および壁およびドアに対する走行体の位置および向きを演算し、この演算結果をフィードバックしながら少なくとも上記第2、第3の工程を実行する。
これによれば、壁およびドアに対する現在の走行体の位置および向きに応じた制御を実行することができ、確実にロボットがドアを開き出入口を通過することができる。
【0020】
好ましくは、上記第1、第2工程間において、上記係合部をドア取手に係合させた状態で、上記走行体の後退または上記ロボットアームによるドア引き寄せ制御の少なくとも一方を実行することにより、ドアを少し開き、この状態での上記距離計による計測距離データから、上記制御手段はドアおよび壁を認識する。
これによれば、ドアを認識してから本格的なドア開き制御を実行するので、ドア開き制御を円滑に行うことができる。
【0021】
好ましくは、上記制御手段は、ドアが閉じた状態での上記距離計による計測距離データを得、この計測距離データと上記のドアを少し開けた状態での計測距離データの比較により、上記ドアおよび壁を認識する。
これによれば、ドア閉じ状態とドアが少し開いた状態での計測距離データを比較することにより、ドアおよび壁を正確に認識することができる。
【0022】
本発明の他の態様は、ドアを開き、ドアによって閉じられていた出入口を通過するロボットであって、走行体と、この走行体に設けられたロボットアームと、このロボットアームの先端に設けられたロボットハンドとしてのドア取手係合用の係合部と、上記走行体、ロボットアームおよび係合部を制御する制御手段とを備え、上記制御手段が、
(ア)上記係合部をドア取手に係合させた状態で、上記ロボットアームの制御又は上記ロボットアームと上記走行体の制御により、ドアを手前に開くとともに、ドア回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を、ドアの手先側の側縁に対して、壁寄りに位置させる工程と、
(イ)上記走行体とロボットアームの制御により、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの回動軌跡と干渉する領域に位置させる工程と、
(ウ)上記係合部のドア取手に対する係合状態を解除し、上記ロボットアームを、上記走行体が出入口に向かって前進する際に、ドアと干渉しない位置まで退避させる工程と、
を順に実行する。
【0023】
上記構成によれば、走行体のドア回動軌跡への干渉の制御とドア取手に対する係合部の係合解除とを組み合わせることにより、ロボットがドアを開けて出入口を通過させるまでを円滑に行うことができる。
上記ロボットの制御手段は、上述した方法の種々の工程を実行することもできる。
【0024】
好ましくは、上記ロボットアームが、複数のアーム部により構成され、これらアーム部はそれぞれ関節およびリンクを有している。
さらに好ましくは、上記ロボットアームが、上記走行体に支持された垂直アーム部と、この垂直アーム部の先端に連結され、垂直アーム部に対して水平回動可能または垂直アーム部とともに走行体に対して水平回動可能に連結された水平アーム部とを備え、水平アーム部の先端に、上記係合部が連結されている。
さらに好ましくは、上記係合部が上記水平アーム部のリンク軸に対して回動可能である。これによれば、ドア取手を回してドアのラッチ状態を解除することができる。
さらに好ましくは、上記垂直アーム部が垂直軸線を中心に回動することにより、上記水平アーム部が水平回動するようになっており、上記水平アーム部は垂直アーム部に対して上下方向に首振り可能である。
これによれば、ドア取手の高さの変化に対応して係合部をドア取手に確実に係合させることができる。この構成の代わりに、垂直アーム部を上下方向に移動可能(伸縮可能)にして、水平アーム部を垂直アーム部に対して水平回動させるようにしても、同様の作用効果が得られる。
さらに好ましくは、上記水平アーム部が、上記垂直アーム部に連結された第1水平アーム部と、この第1水平アーム部の先端に水平回動可能に連結された第2水平アーム部を有し、この第2水平アーム部の先端に上記係合部が連結されている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ロボットがドアを開けて出入口を通過することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係わるロボットの第1実施形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1、図2に示すようにロボットAは、クローラ10(走行体)と、このクローラ10に装備されたロボットアーム20と、ロボットアーム20の先端に設けられたロボットハンドとしての係合部30とを備えている。
【0027】
上記クローラ10は本体11とその左右に設けられたベルト駆動式の走行部12とを有しており、左右幅寸法より前後方向の寸法が長い形状をなしている。これら左右の走行部12は独立したモータ等の駆動手段により駆動されるようになっているため、クローラ10は単なる前進、後退のみならず、方向を変えながらの前進、後退、超信地旋回(位置を殆ど変えずにその場で向きを変える)等を行うことができる。
【0028】
上記ロボットアーム20は、上記クローラ10の本体11に垂直に起立した状態で設けられた垂直アーム部21と、この垂直アーム部21の上端からほぼ水平に延びる第1水平アーム部22と、この第1水平アーム部22の先端から水平に延び第1水平アーム部22と同一平面に配置された第2水平アーム部23(先端側水平アーム部)とを有している。 この第2水平アーム部23の先端に上記係合部30が設けられている。上記第1水平アーム部22の回動中心となる上記垂直アーム部21は、クローラ10の前後方向に延びる中心軸線Y1上に位置しており、より好ましくは、クローラ10の中心に位置している。
各アーム部21〜23は、少なくとも1つの関節とリンクより構成されている。以下では、各アーム部21〜23は、走行体に近い側にある関節とそれに繋がるリンクで構成されているとする。
【0029】
上記クローラ10の本体11には、上記垂直アーム部21を垂直軸線を中心にして回動させるモータ等の回動手段(図示しない)が設けられている。この垂直アーム部21の回動により、上記第1水平アーム部22が水平回動するようになっている。
【0030】
上記第1水平アーム部22の関節には、第1水平アーム部22を上下方向に回動させる回動手段(図示しない)が設けられている。この第1水平アーム部22の回動により、上記係合部30の高さを変更できるようになっている。なお、この上下回動範囲は狭くてもよい。
【0031】
上記第2の水平アーム部23の関節には、第2水平アーム部23を第1水平アーム部22に対して水平に(厳密には第1水平アーム部22と同一平面上に)回動させる回動手段(図示しない)が設けられている。
【0032】
さらに上記ロボットアーム20には、クローラ10の前後方向に延びる中心軸線Y1に対する第1水平アーム部22の水平方向の角度を検出する角度センサ、第1水平アーム部22の垂直アーム部21に対する上下方向の角度を検出する角度センサ、第1水平アーム22に対する第2水平アーム部23の水平方向の角度を検出する角度センサ(いずれも図示せず)が設けられている。
【0033】
上記係合部30は、一対のチャック部31を有している。第2水平アーム部23の先端とチャック部31の間には、係合部30の関節として一対のチャック部31を開閉するための開閉手段および係合部30全体を係合部30の中心軸線(第2水平アーム部23の中心軸線と一直線または平行をなす)を中心にして回動させる回動手段(いずれも図示せず)が設けられている。
【0034】
上記クローラ10の本体11には、上記クローラ10、ロボットアーム20、係合部30の制御を行う制御手段40が設けられており、この本体11の上面の前部にはレーザー距離計50が搭載されている。
【0035】
上記レーザー距離計50は、クローラ10の前方の所定角度範囲(図1においてΘで示す)にわたってレーザーLを照射し、対象物から反射されたレーザーが戻るまでの時間から、対象物までの距離を計測するものである。上記角度範囲Θは、水平方向に180°より広く、本実施形態では240°となっている。したがって、クローラ10に対して左右に位置する対象物までの距離も測定できる。
【0036】
上記ロボットAのクローラ10の本体11には、ビデオカメラ55(図2にのみ示す)が搭載されるとともに、各種センサや通信機(図示しない)が搭載されている。このビデオカメラ55は、垂直アーム部21とレーザー距離計50との間で支持され、レーザー距離計50より高い位置に配置されている。
【0037】
上記ロボットAの通信機と遠隔操作装置Bの通信機との間での通信により、遠隔操作装置Bから上記制御手段40に指令信号が送られ、ビデオカメラ55の映像信号や各種センサの検出信号が遠隔制御装置Bへと送られるようになっている。
なお、上記ロボットAと遠隔制御装置Bとの間の通信は、無線通信、光ファイバー等による有線通信のいずれであってもよい。
【0038】
上記構成をなすロボットAが壁200の出入口201を閉じているドア100を開き、出入口201を通過するまでの作用について、図3、図4を参照しながら詳述する。
【0039】
ドア100一方の側縁は、ヒンジ100a(ドア100の回動中心)により出入口201の側縁に回動可能に支持されており、他方の側縁すなわち手先側の側縁100bの近傍に設けられたノブ101(取手)を引くことにより、開くようになっている。
【0040】
なお、本実施形態では、ドア100にはドアクローザー(図示しない)が付設され、ドア100が常に閉じ方向に付勢されていることを想定した制御を行うが、ドアクローザーが無い場合も同様の制御を行えばよい。また、ドア100はヒンジ100aを中心に反時計回りに開くものと想定した制御を行うが、時計回りに開く場合にも対応可能である。
【0041】
本実施形態では、ロボットAの制御は手動遠隔制御と、自動制御の2段階で行われる。まず手動遠隔制御について説明する。
操作者は、遠隔制御装置Bのモニター画面におけるビデオカメラ55の映像を見ながら遠隔操作し、その操作信号を制御手段40に送ることにより、下記の制御を行う。
【0042】
遠隔操作により、クローラ10をドア100に向かって進める。ドア100に近づいたら、クローラ10の中心軸線Y1がドア100と垂直になるように、かつこの中心軸線Y1とドア100のノブ101が同一の垂直面上に位置するように(垂直アーム部21とノブ101が同一の垂直面上に位置するように)、クローラ10の位置および向きを制御する。このクローラ10の位置、姿勢は高い精度を要求されない。
【0043】
次に、垂直アーム部21の回動制御(すなわち第1水平アーム部22を水平回動させる制御)により、第1水平アーム部22をクローラ10の中心軸線Y1と平行(ドア100と垂直)に前方へ延ばし、第2水平アーム部23を回動制御して、第1水平アーム部22と一直線にし、この状態でクローラ10を前進させる。
【0044】
上記クローラ10の前進により、開き状態の係合部30がドア100のノブ101に達する。なお、係合部30の高さとノブ101の高さが異なる場合には、第1水平アーム部22を上下方向に回動して、係合部30の高さをノブ101の高さに合わせる。
【0045】
係合部30がノブ101に達したら、図3(A)に示すように係合部30の一対のチャック部31を閉じ、ノブ101を掴む(図4のステップS1)。このノブ101を掴んだ時に、水平アーム部22,23は一直線をなし、ドア100と垂直をなすが、高い精度を要求されず、比較的広い許容範囲を有する。
【0046】
次に、係合部30を回動させて、ノブ101を回わすことにより、ドア100のラッチ機構によるラッチ状態を解除する(ステップS2)。
【0047】
次に、操作者は自動制御指令信号を制御手段40に送る。これにより、制御手段40は上記のような遠隔操作によらずに下記の自動制御を実行する。
【0048】
最初に、図3(A)に示すように、レーザー距離計50によりクローラ10の前方の周囲状況を認識する。すなわち、レーザー距離計50から上記所定角度範囲Θにわたって、レーザーLを照射し、ドア100およびこのドア100の左右に隣接する壁200までの距離を計測し、この計測距離データから、ドア100および壁200を含む対象物の面の形状および位置を認識する(ステップS3)。なお、ドア100の閉じ状態では、ドア100と壁200が面一ないしは平行をなしているため、通常はドア100と壁200の判別を正確に行うことはできない。
【0049】
これ以降、制御手段40はレーザー距離計50による角度範囲Θの距離計測を短時間間隔で周期的に実行し、リアルタイムで計測距離データを取り込んで、後述のように壁200に対するドア100の位置(角度)、ドア100や壁200に対するクローラ10の位置および向き(姿勢)等を把握し、この情報をフィードバックして制御を行う。
【0050】
次に、図3(B)に示すように、水平アーム部22,23の関節をフリーにした状態でクローラ10を後退させ(ステップS4)、この後退の最中にレーザー距離計50による計測距離データからドア100が少し開いたかどうかを判断する(ステップS5)。
なお、水平アーム部22,23は上記関節フリーによりクローラ10の後退の際に真直状態を維持される。
【0051】
上記ステップS3,S4の意味について説明する。ドア100が少し開かれると、ステップS3で認識したドア100および壁200の位置と、少し開かれた時のドア100および壁200の位置との比較から、ドア100および壁200を正確に識別することができる。
【0052】
上記ドア100が少し開いた状態か否かの判断は、例えばドア100の手先側の側縁100bが、壁200に対して手前に所定量変位したかどうか、あるいはドア100の開き角度が所定角度に達したか否かを基準とする。この開き量は、上記ドア100を正確に認識できる量であればよく、係合部30のノブ101の把持状態を良好に維持するために、ドア100と第2水平アーム部23の角度が垂直から大きく外れない程度に抑えるのが好ましい。例えば開き角度にして2°〜10°が好ましい。この開き角度は、自動制御におけるドア100の最大開き角度に比べて遥かに小さい。
【0053】
上記ステップS5で否定判断する場合にはステップS4のクローラ10の後退を継続し、肯定判断した時には、ステップS6に進み、計測距離データから壁200の位置と、上記ヒンジ100a(すなわちドア100の回動中心)の位置と手先側の側縁100bの位置(またはドア100の幅寸法)を演算し、認識する。
【0054】
さらに、上記ステップS6で認識した位置情報から、ドア100の開閉に伴う軌跡を演算するとともに、このドア100の開閉軌跡に基づいて、クローラ10(より具体的にはクローラ10の中心点(所定点))の移動軌跡(後退および旋回の軌跡)を演算する(ステップS7)。
このクローラ10の移動軌跡は、ドア100の側縁100bの円弧軌跡にほぼ沿ってその外側を回る。正確にはこの円弧軌跡から徐々に外側に離れるような湾曲した軌跡を描く。
【0055】
次に、本格的なドア100の開き動作を行う。この開き動作はクローラ10の後退、旋回制御(ステップS8)とロボットアーム20のドア引き寄せ制御(ステップS9)を含む。
【0056】
上記ステップS8のクローラ10の後退制御では、クローラ10の中心点が上記演算された移動軌跡上を移動するようにクローラ10を後退させる。この際、クローラ10の軸線Y1がドア100と垂直をなすようにクローラ10の向きも制御される(旋回制御)。
【0057】
上記クローラ10の制御により、図3(C)に示すように、クローラ10はその中心軸線Y1が壁200と垂直をなす姿勢から、壁200の法線との角度を増大させるようにして傾くとともに、ドア100の手先側の側縁100bの円弧軌跡(換言すればドア100の回動中心)から徐々に離れる。
【0058】
上記ステップS9のロボットアーム20のドア引き寄せ制御では、第2水平アーム部23を第1水平アーム部22に対してフリー(自由に水平回動可能)にし、垂直アーム21の回動制御により第1水平アーム22を水平回動することにより、第2水平アーム部23のドア100に対する垂直状態(すなわち係合部30のドア100に対する垂直状態)を維持する。これにより、係合部30によるドアノブ101の把持状態(係合状態)を良好に維持できる。
【0059】
上記ロボットアーム20のドア引き寄せ制御は、必然的に第1水平アーム部22と第2水平アーム部23を真直状態から屈曲状態に変え、クローラ10のドア100側の側面の前端部10xをドア100の手先側の側縁100bに近づけることになる。
【0060】
上記クローラ10の後退制御は、ドア100および壁200に対するクローラ10の位置および向きのフィードバック情報を用いながら、実行する。
上記ロボットアーム20の制御は、クローラ10の中心軸線Y1に対する第1水平アーム部22の水平方向の角度の情報及び第2水平アーム部23の第1水平アーム部22に対する水平方向の角度の情報をフィードバックしながら実行される。
以下でのクローラ10の制御、ロボットアーム20の制御でも同様のフィードバック制御を実行する。
【0061】
上記ステップS8,S9は理解を容易にするために分離して示したが、実際には同時に実行される。すなわち、クローラ10を上記移動軌跡に沿って後退制御するとともに、クローラ10をドア100に対して垂直にすべくクローラ10の姿勢制御を行い、これと同時に、第2水平アーム部23をドア100に対して垂直にすべく第1水平アーム部23の回動制御を行う。
【0062】
次に、クローラ10がステップS6で演算されたドア100の開閉軌跡と干渉しているか否かを判断する(ステップS10)。なお、この開閉軌跡は、ドア100の現在の開き位置からさらに開いた時の軌跡を含む。したがって、ステップS10の判断は、クローラ10の位置および向きをそのまま維持した状態でドア100を更に開いた時にドア100がクローラ10に当たるか否かを判断することになる。ここで肯定判断した時には、ステップS7,S8を継続して実行する。
【0063】
クローラ10の移動軌跡が、前述したようにドア100の手先側の側縁100bの円弧軌跡から徐々に遠ざかるように描かれるため、上記クローラ10と第2水平アーム部23がドア100と垂直な状態を維持しながらクローラ10を後退させると、やがて図3(C)に示すように、クローラ10が上記ドア100の開閉軌跡から外れる位置および姿勢に至る。この時、ステップS10で否定判断し、ロボットアーム20の水平回動制御に進む(ステップS11)。具体的には、第2水平アーム23の第1水平アーム部22に対するフリー状態を維持しながら、垂直アーム部21を回動して第1水平アーム部22を時計回りに水平回動させ、ドア100を引き寄せる。
【0064】
上記ステップS11でのロボットアーム20の制御により、ドア100はさらに開かれる。この際、図3(D)に示すように、ドア100の手先側の側縁100bが、ドア100の回動中心とクローラ10のドア100側の側面の前端部10xとを結ぶ線を通過する。これにより、ドア100の側縁100bがクローラ10の側方において前端部10xの近傍に位置することになる。
【0065】
上記ドア100の引き寄せが完了したか否かを判断し(ステップS12)、肯定判断したら、ステップS13に進む。なお、この引き寄せ完了は、手先側の側縁100bがクローラ10の前端部10xに対する後方への変位量が一定量以上になった時、または水平アーム部22,23の交差角度が所定角度(例えば90°)に達した時に、肯定判断する。
【0066】
上記ステップS13では、クローラ10を制御して、ドア100の側縁100bを回り込むようにする。具体的には、クローラ10を時計回りに超信地旋回させるか、同方向の旋回とともに若干前進させる。この際、ドア100の開き位置をそのまま維持するために、アーム20の制御をも行う(ステップS14)。具体的には第2水平アーム部23をフリーにしたまま第1水平アーム部22を時計回り方向に回動させる。
【0067】
なお、このクローラ10の回り込み制御の際に、ロボットアーム20の制御により、ドア100をさらに開くように制御してもよい。
【0068】
上記ステップS13におけるクローラ10の回り込み制御およびステップS14におけるロボットアーム20の制御は、クローラ10のドア側の側面の前端部10xが、ドア100の開閉軌跡と干渉する位置に達するまで行う。図3(E)に示すように、前端部10xが干渉位置に達した時にはステップS15で肯定判断し、図3(F)に示すように、係合部30のチャック部31を開いてドア100のノブ101の把持状態を解除するとともに、垂直アーム部21を回動して第1水平アーム部22を水平回動させて係合部30をノブ101から離す(ステップS16)。
【0069】
上記のようにノブ101の把持状態を解除した後、図3(G)に示すように、クローラ10が壁と垂直になるまでクローラ10の旋回を継続する(ステップS17)。この旋回により、ドア100はクローラ10に押されてさらに開き角度が増大する。なお、ここでのクローラ10の旋回は、超信地旋回が好ましい。
【0070】
上記クローラ10が壁100と垂直な姿勢に達した時には、ステップS18で肯定判断して、クローラ10の旋回を終了する(ステップS19)。
【0071】
次に、第2水平アーム部23のフリー状態を解除し、この第2水平アーム部23を第1水平アーム部22に対して所定交差角度になるように時計回りに旋回させるとともに、第1水平アーム部22を時計回りに旋回させ、図3(H)に示すように、その先端の係合部30をドア10に押し当てて、このドア10の開き角度をさらに増大させる(ステップS20)。これら水平アーム部22,23の旋回制御は、クローラ10の前進時にロボットアーム20がドア100と干渉するのを回避するための動作でもある。
【0072】
最後に、図3(I)、(J)に示すように、クローラ10を前進させ、壁200の出入口201を通過させる(ステップS21)。ロボットアーム20の先端の係合部30がドア100に当たっているので、ドア100がクローラ10に接することがなく、このクローラ10の前進を円滑に行うことができる。なお、ロボットアーム20は、クローラ10の前進時にクローラ10の幅内に収まるように退避させてもよい。
【0073】
上記のようにして、ロボットAがドア100を開き、出入口201を通過してドア100の向こうの部屋に入るまでの自動制御が終了する。
【0074】
本実施形態では、ビデオカメラ55及びレーザー距離計50を装備しているので、ロボットAが自動制御を実行しているときに人等の侵入を検出した時には、ビデオカメラの映像及び/又はレーザー距離計50の計測距離データから侵入を検出して、自動制御を中止することもできる。
【0075】
次に、図5,図6を参照しながら本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では第1実施形態と略同様の構造のロボットAが用いられる。ただし、第1水平アーム部22、第2水平アーム部23は、フリー状態にはならない。ステップS1〜S6までの制御(図3(A)、(B)参照)は第1実施形態と同じである。
【0076】
第2実施形態では、第1実施形態のステップS7〜S21の代わりに下記のステップS30〜S44の自動制御を実行する。
ステップS6を実行した後、ステップS30に進み、ここでクローラ10を超信地旋回(その場旋回)させ、ステップS31で、クローラ10の中心軸線Y1がドア100のヒンジ100aを中心とした第1円弧C1の接線上に位置するか否かを判断する。ステップS31で否定判断した時にはステップS30を継続して実行する。図3(B)、図5(A)参照。
【0077】
ステップS30では、上記クローラ10の旋回と同時に、第1水平アーム部22をクローラ10と逆方向に同角度量回動制御し、常に第1水平アーム部22と第2水平アーム23を、ドア100と垂直に維持する。なお、第2水平アーム23は第1水平アーム部22に対して一直線になるように維持されており、実質的に固定状態にある。
【0078】
やがて、クローラ10が図5(A)に示すように、クローラ10の中心軸線Y1が上記第1円弧C1の接線上に位置するようになり、この時、上記ステップS31で肯定判断したらステップS32に進み、ここでクローラ10を上記第1円弧C1に沿って後退、旋回させる。この際、クローラ10は軸線Y1が当該円弧C1の接線上に位置する姿勢を維持される。図5(A)、(B)参照。
【0079】
ステップS32において、第1水平アーム部22、第2水平アーム部23をそれぞれ実質的な固定状態にしてもドア100に対して垂直な状態を維持できる。ただし、クローラ10の姿勢制御が不安定である場合には、必要に応じて第1水平アーム部22を水平回動制御して、ドア100に対する垂直状態を維持するようにしてもよい。
【0080】
次のステップS33では、ドア100が、クローラ10が通り抜けられるのに十分な所定量だけ開いたか否かを判断する。ここで否定判断した場合には上記ステップS32を継続して実行する。
【0081】
上記ステップS33で肯定判断した場合にはステップS34に進み、ここでクローラ10を超信地旋回させる。図5(B)、(C)参照。次のステップS35では、クローラ10の軸線Y1が真直状態をなすアーム部22,23と垂直をなすか否か、換言すれば第2水平アーム部22の基端(回動中心)を中心とした第2円弧C2の接線上に位置するか否かを判断する。
【0082】
クローラ10が図5(C)に示す姿勢になり、ステップS35で肯定したら、ステップS36に進み、ここで上記第2円弧C2を描くように、クローラ10を前進、旋回させる。この旋回によりクローラ10の軸線Y1は、上記第2円弧C2の接線上に維持される。このクローラ10制御の際、第1水平アーム部22は実質的な固定状態にあり、第2水平アーム部23はドア100と垂直な姿勢を維持するように回動制御される。これにより、水平アーム部22,23は屈曲状態となる。図5(C)、(D)参照。
【0083】
次のステップ37では、クローラ10がドア100を引っ掛けられる位置に達したか否かを判断する。すなわち、この位置でクローラ10を超信地旋回させることにより、クローラ10のドア側の側面の前端部10xがドア100に引っ掛かるか否か(クローラ10のドア側の前端部10xが、ドア100の開閉軌跡の領域に入ることができるか否か)を判断する。ステップ37で否定判断した場合にはステップS36を継続して実行する。
【0084】
クローラ10が図5(D)の位置に達し、ステップ37で肯定判断した時には、ステップS38に進み、クローラ10を超信地旋回させる。図5(D)、(E)参照。この際、第2水平アーム部23を固定状態にし、第1水平アーム部22をクローラ10と同角度量回動制御することにより、第2水平アーム部23とドア100との垂直状態を維持する。
【0085】
次のステップS39では、クローラ10のドア側の前端部10xがドア100の開閉軌跡の領域に入ったか否か、より具体的にはドア100の手先側の側縁100bがクローラ10の側面に当たるかその近傍に位置した状態になったか否かを判断する。ここで否定判断した場合にはステップS38を継続して実行する。
【0086】
クローラ10が図5(E)に示す位置になり、ステップS39で肯定判断した時にはステップS40に進み、ここで係合部30によるドアノブ101の把持状態を解除し、第1水平アーム部22を水平回動させる。この第1水平アーム部22の水平回動の過程で第2水平アーム部23も水平回動させる。図5(E)〜(G)参照。
【0087】
次のステップS41では、水平アーム部22,23がドア押さえ位置に達したか否か、換言すれば第2水平アーム部23の先端の係合部30がドア100の側面またはその近傍に達したか否かを判断する。ここで否定判断した場合にはステップ40を継続して実行する。
【0088】
図5(G)に示すように係合部30がドア押さえ位置に達したら、ステップS42に進み、ここで、クローラ10を超信地旋回させる。すると、クローラ10の壁200に対する姿勢が変わるとともに、ドア100が係合部30に押されてさらに開かれる。図5(G)、(H)参照。
【0089】
次のステップS43では、クローラ10を前進したと仮定した時に出入口を通り抜けられる角度に達したか否かを判断する。ここで否定判断したらステップS42を継続して実行する。
【0090】
クローラ10が図5(H)の姿勢になり通り抜け可能となったら、ステップS43で肯定判断してステップS44に進み、第2アーム部23を回動させてロボットアーム20全体をクローラ10の幅内に収納し、さらにクローラ10を前進させて出入口201を通り抜ける。図5(H)、(I)参照。
【0091】
上記第2実施形態によれば、第1実施形態に比べてクローラ10の移動軌跡が長くなるが、ドア100の手前のスペースが広い場合には実行可能である。この実施形態では、クローラ10の制御が、円弧軌跡での移動制御と超信地旋回制御の組み合わせなので、比較的制御が簡単である。また、円弧軌跡での移動により、クローラ10のスリップ量が少なくて済み、安定したクローラ10の制御を行える。また、クローラ10の制御の際に、基本的には水平アーム部22,23のうちの一方の水平回動制御で済むので、この点からも制御が簡単である。
【0092】
図7は、本発明の第3実施形態を示す。この実施形態では、第2水平アーム部23の関節の構造、即ち第1水平アーム部22と第2水平アーム部23の連結構造だけが、第1実施形態と異なる。詳述すると、第1水平アーム部22の先端と第2水平アーム部23の基端の一方が凹球面をなし、他方が凸球面をなし、両者が接合して連結する構造(いわゆるカップとコーンの連結構造)の関節となっている。
【0093】
第2水平アーム部23の基端にはワイヤ60の先端が連結されており、このワイヤ60は第1水平アーム部22と垂直アーム部21を通り、クローラ10の本体11内で、巻取装置65により巻き取られている。
【0094】
上記巻取装置65によりワイヤ60を巻き取ってワイヤ60を緊張させると、第2水平アーム部23が第1水平アーム部22と真直な状態で固定され、巻取装置65がワイヤ60を巻き出すとワイヤ60が緩んで第2水平アーム部23がフリーとなる。
【0095】
図7のロボットでも第1実施形態と同様の制御を行うことができる。ワイヤ60が緩んでも係合部30がドアノブを掴んでいる状態では第2水平アーム部23が第1水平アーム部22から垂れ下がることはない。
【0096】
なお、図7のロボットの場合、ドア開きの制御の他に、ワイヤ60を繰り出して第2水平アーム部23を吊り下げることにより、係合部30で床に落ちているものを拾うこともできる。
【0097】
ロボットの係合部は、ドアノブを把持せずに引っ掛ける構造を採用してもよい。その一例を図8に示す。図8に示す係合部70は、基端部が第2水平アーム部23の先端に固定される本体71と、本体71の外周に対して回動可能に設けられた回動筒部72と、本体71の先端に設けられた係止爪73とを有している。摩擦係数が高く弾力のある素材からなる回動筒部72の外周をドアノブの外周に押し当てた状態で、回動筒部72をモータで回動することにより、ドアノブを回し、ドアのラッチ状態を解除する。この係合部70では、係止爪73をドアノブの裏面に引っ掛けることにより係合状態を得ることができる。
【0098】
上記係合部70を用いる場合には、ロボットアーム20を上下に首振りさせることにより、係合部70の係止爪73をドアノブに引っ掛けたり、この引っ掛け状態を解除する制御は、係合部70の制御に含まれる。
【0099】
上述した構成のロボットは、ドアを引いて開けることができるが、押して開けることも可能である。すなわち、係合部30でドアのラッチを外した後、そのまま走行体10を前進させてドアを押し開く。なお、走行体10が壁の出入口に達したら、係合部30とドア取手との係合状態を解除してもよい。この際、ロボットアームによりドアを押し当てながら走行体10を前進させてもよいし、ロボットアームを後退させて走行体10をドアに直接押し当てながら前進させてもよい。
【0100】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。
例えば、ロボットアームは、関節とリンクにより連結された複数のアーム部により構成するもののみならず、1つのアーム部の先端に係合部を有するワイヤを備え、このワイヤを引っ張ることにより、ドアを開ける構成であってもよい。
【0101】
第1、第2実施形態のロボット制御において、遠隔操作によりドアを引いて少しだけ開く制御を実行し、この後自動制御を実行するようにしてもよい。
第1、第2実施形態において、上述した自動制御を手動による遠隔制御に置き換えることもできる。例えば最終段階の制御(第1実施形態のステップS21や第2実施形態のステップ44)を遠隔制御により実行してもよい。
ロボットアームがより多い関節を有している場合や係合部30をドアに対して垂直に維持せずに済む場合には、クローラ10を図5(A)に示す向きにした後でロボットアームの引き寄せ制御することより第2工程を実行してもよい。
さらに、係合部30をドアに対して垂直に維持せずに済む場合には、第1工程において、走行体を閉じ状態のドアに対して傾斜させた状態で、係合部をドア取手に係合させてもよい。
第3工程において、走行体を前進するだけで、走行体のドア側の前端部をドアの開閉軌跡と干渉させることができる場合もある。
【0102】
ドア取手位置が一定である場合とか垂直アーム部が伸縮する構造の場合には、第1水平アーム部22は上下回動せずに垂直アーム部21に固定してもよい。
また、垂直アーム部をクローラに固定し、垂直アーム部に対して第1水平アーム部を回動させるようにしてもよい。
ドアの取手がレバー形状の場合にも、これに適応した係合部を用いることにより本願発明を適用することができる。
走行体に角速度センサを設け、走行体の角度(姿勢)を認識して、状態認識の精度を向上させてもよい。
走行体はクローラの代わりにタイヤ式のものを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1実施形態をなすロボットの側面図である。
【図2】同ロボットの平面図である。
【図3】(A)〜(J)は、同ロボットがドアを開けて出入口を通過するまでの工程を順を追って説明する概略平面図である。
【図4】同ロボットがドアを開けて出入口を通過するまでの工程を実行する制御のフローチャートである。
【図5】(A)〜(I)は本発明の第2実施形態において、ロボットがドアを開けて出入口を通過するまでの工程を順を追って説明する概略平面図である。
【図6】同第2実施形態において、同ロボットがドアを開けて出入口を通過するまでの工程を実行する制御のフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態をなすロボットの概略側面図である。
【図8】ロボット先端の係合部の他の態様を示す側面図である。
【符号の説明】
【0104】
10 クローラ(走行体)
20 ロボットアーム
21 垂直アーム部
22 第1水平アーム部
23 第2水平アーム部
30、70 係合部(ロボットハンド)
40 制御手段
50 レーザー距離計(距離計)
100 ドア
100a ヒンジ側の側縁(ドアの回動中心)
100b 手先側の側縁
101 ノブ(取手)
200 壁
201 出入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、この走行体に設けられたロボットアームと、このロボットアームの先端に設けられたロボットハンドとしてのドア取手係合用の係合部とを備えたロボットを、ドア通り抜けのために制御する方法であって、
(ア)ドア閉じ状態において上記係合部をドア取手に係合させる第1工程と、
(イ)上記ロボットアームの制御又は上記ロボットアームと上記走行体の制御により、ドアを手前に開くとともに、ドア回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を、ドアの手先側の側縁に対して、壁寄りに位置させる第2工程と、
(ウ)上記走行体とロボットアームの制御により、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの回動軌跡と干渉する領域に位置させる第3工程と、
(エ)上記係合部のドア取手に対する係合状態を解除し、上記ロボットアームを、第5工程での走行体前進時にドアと干渉しない位置まで退避させる第4工程と、
(オ)上記走行体を前進させて出入口を通過させる第5工程と、
を順に実行することを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
上記第3工程において、上記走行体を、上記ドアの手先側の側縁を回り込むように超信地旋回させることにより、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの開閉軌跡と干渉させることを特徴とする請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
上記第4工程において、上記ロボットアームを水平回動させることによりドアと干渉しない位置まで退避させることを特徴とする請求項1または2に記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
上記ロボットアームの水平回動をさらに続けて上記係合部を上記ドアの出入口側の側面またはその近傍へ移動させ、その後、走行体の旋回とロボットアームのさらなる水平回動の少なくとも一方を実行することにより、上記係合部でドアを押してドアの開き角度を増大させることを特徴とする請求項3に記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
上記係合部によるドアの押し開き後、上記第5の工程の前または途中で、上記ロボットアームをクローラ幅内に収めるように水平回動させることを特徴とする請求項4に記載のロボットの制御方法。
【請求項6】
上記第2工程において、上記係合部をドアに対して垂直に維持するように、上記走行体とロボットアームを制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のロボットの制御方法。
【請求項7】
上記第1工程において、ドア閉じ状態において走行体の中心軸線をドアおよび壁と垂直にした状態で係合部をドアと垂直にしてドア取手に係合させることを特徴とする請求項6に記載のロボットの制御方法。
【請求項8】
上記第2工程で走行体を壁に対して傾斜させることを特徴とする請求項7に記載のロボットの制御方法。
【請求項9】
上記第2工程の第1段階において、上記走行体を、壁に対する傾斜を増大させるようにしてドアの手先側の側縁の円弧軌跡の外側を回る湾曲軌跡に沿って後退させ、かつ上記ロボットアームのドア引き寄せ制御を実行することにより、上記走行体のドア側の側面の前端部をドアの手先側の側縁の近傍に位置させ、
上記第2工程の第2段階で、上記ロボットアームによるドア引き寄せ制御を実行することにより、ドアの手先側の側縁がドアの回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を通過するように、ドアをさらに開くことを特徴とする請求項8に記載のロボットの制御方法。
【請求項10】
上記第2工程の第1段階において、上記走行体を、上記走行体の前後方向の中心軸線をドアに対して垂直に維持しながら、ドアの手先側の側縁の円弧軌跡から徐々に遠ざかるような湾曲した軌跡を描くようにして、後退させることを特徴とする請求項9に記載のロボットの制御方法。
【請求項11】
上記ロボットアームは、走行体に水平回動可能に支持された第1水平アーム部と、この第2水平アーム部の先端に水平回動可能に支持された第2水平アーム部を含み、第2水平アーム部の先端に上記係合部が設けられており、
上記第1工程において、第1水平アーム部と第2水平アーム部を真直にし、ドアに対して垂直にした状態で、上記係合部をドア取手に係合させ、
上記第2工程の第1段階で、上記第2水平アーム部をドアに対して垂直に維持しながら第1水平アーム部を走行体に対して水平回動させることにより、上記ドア引き寄せ制御を実行し、
上記第2工程の第2段階で、上記第1水平アーム部を水平回動させることにより、上記ドア引き寄せ制御を実行することを特徴とする請求項9または10に記載のロボットの制御方法。
【請求項12】
上記第2工程の上記第1、第2段階において、上記第1水平アーム部に対して上記第2水平アーム部をフリーにした状態で、第1水平アーム部を水平回動することにより、上記ドア引き寄せ制御を実行することを特徴とする請求項11に記載のロボットの制御方法。
【請求項13】
上記ロボットアームは、走行体に水平回動可能に支持された第1水平アーム部と、この第2水平アーム部の先端に水平回動可能に支持された第2水平アーム部を含み、第2水平アーム部の先端に上記係合部が設けられており、
上記第1工程において、第1水平アーム部と第2水平アーム部を真直にし、ドアに対して垂直にした状態で、上記係合部をドア取手に係合させ、
上記第2工程の第1段階では、上記第1、第2水平アーム部を真直状態に維持するとともにドアに対して垂直に維持しながら、上記走行体を、ドア回動中心を中心とした第1円弧に沿って後退させつつ旋回させ、
上記第2工程の第2段階では、第2アーム部の回動中心を中心とする第2円弧に沿って前進させつつ旋回させるとともに、上記第2アーム部をドアに対して垂直に維持するように上記第1アーム部を水平回動させることを特徴とする請求項7に記載のロボットの制御方法。
【請求項14】
上記走行体には距離計と制御手段が装備され、上記制御手段は、上記距離計によりドアおよびその近傍の壁までの距離を水平方向に所定角度範囲にわたって計測させ、この計測距離データから、壁に対するドアの位置および壁およびドアに対する走行体の位置および向きを演算し、この演算結果をフィードバックしながら少なくとも上記第2、第3の工程を実行することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のロボットの制御方法。
【請求項15】
上記第1、第2工程間において、上記係合部をドア取手に係合させた状態で、上記走行体の後退または上記ロボットアームによるドア引き寄せ制御の少なくとも一方を実行することにより、ドアを少し開き、この状態での上記距離計による計測距離データから、上記制御手段はドアおよび壁を認識することを特徴とする請求項14に記載のロボットの制御方法。
【請求項16】
上記制御手段は、ドアが閉じた状態での上記距離計による計測距離データを得、この計測距離データと上記のドアを少し開けた状態での計測距離データの比較により、上記ドアおよび壁を認識することを特徴とする請求項15に記載のロボットの制御方法。
【請求項17】
ドアを開き、ドアによって閉じられていた出入口を通過するロボットであって、
走行体と、この走行体に設けられたロボットアームと、このロボットアームの先端に設けられたロボットハンドとしてのドア取手係合用の係合部と、上記走行体、ロボットアームおよび係合部を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段が、
(ア)上記係合部をドア取手に係合させた状態で、上記ロボットアームの制御又は上記ロボットアームと上記走行体の制御により、ドアを手前に開くとともに、ドア回動中心と上記走行体のドア側の側面の前端部とを結ぶ線を、ドアの手先側の側縁に対して、壁寄りに位置させる工程と、
(イ)上記走行体とロボットアームの制御により、上記走行体のドア側の側面の前端部を、ドアの回動軌跡と干渉する領域に位置させる工程と、
(ウ)上記係合部のドア取手に対する係合状態を解除し、上記ロボットアームを、上記走行体が出入口に向かって前進する際に、ドアと干渉しない位置まで退避させる工程と、
を順に実行することを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−95972(P2009−95972A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245605(P2008−245605)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】