説明

ロータリーキルン炉及び再生粒子の製造方法

【課題】熱効率が良く、しかも被処理物の飛散の問題が生じないロータリーキルン炉、及び熱効率が良く、しかも再生粒子を製造することができる再生粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】軸回りに回転する炉本体20と、この炉本体20の内周面23から突出するリフター31とを有するロータリーキルン炉であって、リフター31が、炉本体20の回転方向に間隔をおいて複数並び、各リフター31の回転方向前面33が、炉本体20の軸方向中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルン炉、及びこのロータリーキルン炉を使用した再生粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルン炉は、さまざまな物(被処理物)の熱処理に使用されており、例えば、製紙スラッジ等から再生粒子を製造する際の熱処理等においても、使用されている。そして、現在では、ロータリーキルン炉として、炉本体の内周面にリフターが取り付けられたものが提案されている。このリフターは、炉本体内の底部に堆積する被処理物を持ち上げ、落下させるために取り付けられるものであり、この被処理物の持ち上げ及び落下によって熱処理効率の向上が図られる。
【0003】
しかしながら、この持ち上げ及び落下にともなって、被処理物が飛散するため、さまざまな問題が生じる。例えば、飛散した被処理物の一部は、炉本体内に十分滞留することなく他の被処理物(十分に熱処理された被処理物)に伴って排出されてしまう。結果、得られる被処理物に熱処理が不十分な被処理物が混入することになる。また、飛散した被処理物の一部は、炉本体内に十分滞留するものの、熱処理効率が良過ぎるため、過燃焼となる。結果、得られる被処理物に過燃焼の被処理物が混入することになる。さらに、飛散した被処理物の一部は、排ガスとともに排出されてしまう。結果、歩留りが低下する。
【0004】
そこで、特に被処理物が十分に燃焼されずに排出されるとの問題を解決するためとして、リフターに特徴を有するロータリーキルン炉が提案されている(特許文献1)。同文献は、段落[0007]において、「本発明によるロータリーキルン炉においては、キルン本体が回転すると、キルン本体内に投入された被処理物はリフタにより持ち上げられ、このリフタの回転方向前側の面の傾斜に沿って回転方向後方へ落下する。すなわち、リフタが所定の高さに達して一気に被処理物が落下するのではなく、所定の高さに達するまでに徐々に被処理物が落下するため、落下距離が短くなり、被処理物の飛散量が低減する。このため、被処理物が下流側に飛散するのを抑制することができ、キルン本体内で必要な滞留時間を得ることが可能となる」とする。
【0005】
しかしながら、同形態は、被処理物の飛散量を低減させるに過ぎず、上記問題が完全に解決されるものではない。特に、被処理物を単に減容化して廃棄するのではなく、再生粒子等として再利用する場合は、得られる被処理物に極めて高度の均質性が要求されるため、熱処理が不十分な被処理物や過燃焼の被処理物が混入すると大きな問題となる。
【0006】
一方、ロータリーキルン炉は、内熱式と外熱式とに主に分類され、内熱式のロータリーキルン炉は、炉本体の内周面がキャスタブル、煉瓦等の耐火物で覆われている。そして、この内熱式のロータリーキルン炉にリフターを取り付ける場合は、耐火物に金属製のアンカー、ボルト等を埋設し、この埋設したアンカー、ボルト等の先端にリフターを取り付けることになる(例えば、特許文献2、特許文献3等参照。)。しかるに、キャスタブル、煉瓦等からなる耐火物と金属製のアンカーやボルト等とでは熱膨張率が異なるため、炉本体内の温度上昇に伴ってアンカーやボルト等の周囲の耐火物が崩れ、結果、リフターが炉本体内の底部に落ちてしまう(取れてしまう)との問題が生じる。また、リフターが落ちてしまうと熱効率が低下してしまうため、再生粒子を安定的に製造することができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008‐122043号公報
【特許文献2】特開昭58‐140589号公報
【特許文献3】特開2005‐24137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、熱効率が良く、しかも被処理物の飛散の問題が生じないロータリーキルン炉、及び熱効率が良く、しかも均質な再生粒子を製造することができる再生粒子の製造方法を提供することにある。また、好ましくは、リフターが取れるおそれのないロータリーキルン炉、及び再生粒子を安定的に製造することができる再生粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
軸回りに回転する炉本体と、この炉本体の内周面から突出するリフターと、を有するロータリーキルン炉であって、
前記リフターが、前記炉本体の回転方向に間隔をおいて複数並び、
各リフターの回転方向前面が、前記炉本体の軸方向中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされている、
ことを特徴とするロータリーキルン炉。
【0010】
〔請求項2記載の発明〕
前記回転方向に並ぶ複数のリフターは、一部のリフターの突出長が他のリフターの突出長よりも高くされ、
前記一部のリフターの突出長が、前記炉本体の内周面上に堆積する被処理物の堆積厚以上とされている、
請求項1記載のロータリーキルン炉。
【0011】
〔請求項3記載の発明〕
前記炉本体の内周面が耐火物で構成され、
この耐火物上に前記炉本体の回転方向に延びる帯材が載せられ、この帯材上に前記各リフターが取り付けられており、
前記帯材は、1本が又は回転方向に並ぶ複数本が、一周にわたって繋がるものとされ、かつ、各帯材の両端部が留め具で前記耐火物に固定されている、
請求項1又は請求項2記載のロータリーキルン炉。
【0012】
〔請求項4記載の発明〕
製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して再生粒子を製造する方法であって、
前記熱処理手段として、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータリーキルン炉を使用する、
ことを特徴とする再生粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明のように、軸回りに回転する炉本体と、この炉本体の内周面から突出するリフターと、を有するロータリーキルン炉において、リフターが、炉本体の回転方向に間隔をおいて複数並び、各リフターの回転方向前面が、炉本体の軸方向中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされていると、ロータリーキルン炉内周面上に堆積する被処理物の持ち上げ及び落下が防止され、被処理物の飛散の問題が生じない。しかも、熱効率が良く、例えば、均質な再生粒子を安定的に製造することができるようになる。
【0014】
また、請求項2に係る発明のように、回転方向に並ぶ複数のリフターは、一部のリフターの突出長が他のリフターの突出長よりも高くされ、一部のリフターの突出長が、炉本体の内周面上に堆積する被処理物の堆積厚以上とされていると、炉本体の内周面上に堆積する被処理物に、確実に切り込みが入るようになり、熱効率が向上する。しかも、被処理物の堆積厚以上とするリフターを一部とすることにより、被処理物の飛散をより確実に防止することができる。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明にように、炉本体の内周面が耐火物で構成され、この耐火物上に炉本体の回転方向に延びる帯材が載せられ、この帯材上に各リフターが取り付けられており、帯材は、1本が又は回転方向に並ぶ複数本が、一周にわたって繋がるものとされ、かつ、各帯材の両端部が留め具で耐火物に固定されていると、帯材が熱膨張によって炉本体の軸心を中心に内周面側に向かって広がる(拡張する)。したがって、帯材が内周面にいわば貼り付いた状態になり、たとえ留め具の内壁に対する固定が不安定になったとしても、リフターが内壁から落ちてしまうとの問題が生じない。
【0016】
また、請求項4に係る発明にように、製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して再生粒子を製造するにあたり、熱処理手段として、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータリーキルン炉を使用すると、均質な再生粒子を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】炉本体の模式縦断面図である。
【図2】炉本体の模式横断面図である。
【図3】炉本体の内周面に設けられたリフター機構を展開した状態の模式平面図である。
【図4】炉本体の内周面に設けられたリフター機構を展開した状態の模式縦断面図である。
【図5】各帯材の留め具の平面図(a)、側面図(b)及び正面図(c)である。
【図6】リフターの変形例を示す平面図である。
【図7】再生粒子の製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
(ロータリーキルン炉)
本形態のロータリーキルン炉は、図1及び図2に示すように、軸心回りに回転する円筒状の炉本体20を有する。この炉本体20は、一方端部側に被処理物10の供給口(図示せず)を有し、他方端部側に被処理物10の排出口(図示せず)を有する。被処理物10は、例えば、スクリューコンベア等の装入(供給)機によって炉本体20内に供給され、炉本体20の内周面23上に堆積する。この被処理物10の堆積厚は、例えば、10〜50cmとされる。
【0019】
炉本体20は、搬送方向に向かって非常に緩やかな下り勾配を有しており、この下り勾配と炉本体20の回転とによって、内周面23上に堆積する被処理物10が、熱処理されつつ、重力作用で排出口に向かって徐々に搬送される。炉本体20の回転は、公知の機構を利用して、例えば、炉本体20の外周面上に設けられたギア等を利用して行うことができる。
【0020】
炉本体20内には、熱風等の熱源が送り込まれ(吹き込まれ)、この熱源によって内周面23上に堆積する被処理物10が直接加熱される(内熱式)。この熱源は、被処理物10の供給口側から送り込むことも(並流式)、排出口側から送り込むことも(向流式)できる。また、炉本体20内に熱風等を吹き込むことなく、例えば、炉本体20の外周面上に外熱ジャケットを設け、この外熱ジャケットを電気ヒーター等で構成することにより、あるいは外熱ジャケット内に熱風や排ガス等を吹き込むことにより、内周面23上に堆積する被処理物10を間接的に加熱することもできる(外熱式)。
【0021】
炉本体20は、炉本体20の外殻を構成する円筒状の外壁21と、この外壁21の内周面を覆う円筒状の内壁22と、から主になる。外壁21は、例えば、ステンレス、チタン等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属で構成することができる。他方、内壁22は、例えば、キャスタブル、煉瓦等の断熱性を有する耐火物で構成することができる。
【0022】
内壁22(炉本体20)の内周面23上には、炉本体20の軸方向に間隔をおいて複数のリフター機構30が備えられている。このリフター機構30の間隔は、例えば、40〜200cmとすることができる。各リフター機構30は、炉本体20(内壁22)の内周面23から突出するリフター(リフター本体)31と、炉本体20の回転方向に延びる帯状の帯材32と、から主になる。
【0023】
リフター31は、炉本体20の回転方向に間隔をおいて複数が並ぶように、帯材32上に取り付けられている。リフター31の配置間隔は、特に限定されないが、通常、40〜200cm、好ましくは60〜100cmである。
【0024】
各リフター31は、図3及び図6から明らかなように、回転方向前面33が、炉本体20の軸方向(搬送方向)中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされている。回転方向前面33がへ字状とされていることで、内周面23上に堆積する被処理物10の持ち上げ及び落下が防止され、被処理物10の飛散が防止される。しかも、各リフター31が炉本体20の回転方向に間隔をおいて複数並んでいるため、炉本体20の回転に伴って内周面23上に堆積する被処理物10に切り込みが入り、熱処理効率が向上する。
【0025】
リフター31の回転方向前面33の軸方向中央部が、回転方向先方側にどの程度突出するかは特に限定されない。被処理物10の性状や、飛散の程度、熱処理効率等の観点から適宜決定することができ、例えば、軸方向一方の面33Lと軸方向他方の面33Rとがなす角度α(図6の(a)参照)を30〜90°とすることができる。
【0026】
他方、リフター31の回転方向後面や後端部の形状は、特に限定されず、本形態においては、図6の(a)に示すように、後面も軸方向中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされている。この形態は、金属板等の折り曲げ加工のみによってリフター31を製造することができ、製造コストを抑えることができる。ただし、図6の(b)において符号37で示すリフターのように、回転方向後面を平面とすることや、図6の(c)において符号38で示すリフターのように、回転方向後面を平面としつつ、後方に突出するように構成することもできる。
【0027】
本形態において、回転方向に並ぶ複数のリフター31は、図4に示すように、一部のリフター31Bの突出長が他のリフター31Aの突出長よりも高くされている。これらリフター31A,31Bの突出長は特に限定されるものではないが、上記一部のリフター31Bの突出長が、内周面23上に堆積する被処理物10の堆積厚以上とされていると好適である。なお、図示例では、被処理物10の堆積がラインL1までの場合は、一部のリフター31Bの突出長が内周面23上に堆積する被処理物10の堆積厚未満であり、被処理物10の堆積がラインL2までの場合は、一部のリフター31Bの突出長が内周面23上に堆積する被処理物10の堆積厚以上であることになる。
【0028】
一部のリフター31Bの突出長を被処理物10の堆積厚以上とすることにより、当該被処理物10に、確実に切り込みが入るようになる。また、被処理物10の堆積厚以上とするリフター31を一部とすることにより、被処理物10の飛散をより確実に防止することができる。
【0029】
このような観点から、被処理物10の堆積厚が10〜50cmである場合においては、例えば、一部のリフター31Bの突出長を20〜60cm、他のリフター31Aの突出長を10〜50cmとすることができる。
【0030】
一方、帯材32は、図1に示すように、その長手方向が炉本体20の回転方向に沿うように、内壁22の内周面23上に載せられている。帯材32は、各リフター機構30それぞれにおいて、1本とすることも、本形態のように回転方向に並ぶ複数本(図2の例では、4本。)とすることもできる。ただし、いずれの場合においても、帯材32は、図2に示すように、一周にわたって繋がるものとされ、かつ、各帯材32の両端部が留め具40によって、耐火物で構成される内壁22(24)に固定されているのが好ましい。
【0031】
各帯材32の両端部が留め具40によって内壁22(24)に固定されていることにより、各帯材32に取り付けられたリフター31の内周面23上における(炉本体20内における)配置が決定付けられる。この点、留め具40は、例えば、ステンレス、チタン等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属で構成され、耐火物で構成される内壁22(24)と熱膨張率が異なる。しかるに、帯材32が一周にわたって繋がるものとされていると、帯材32は、熱膨張によって炉本体20の軸心を中心に内周面23側に向かって広がるため(拡張するため)、内周面23にいわば貼り付いた状態になる。したがって、たとえ留め具40の内壁22(24)に対する固定が不安定になったとしても、リフター31が内壁22から落ちてしまうとの問題が生じない。
【0032】
ここで、帯材32が一周にわたって「繋がる」とは、一周にわたって完全に連続することのほか、各帯材32が、他の部材、例えば、後述する留め具40の横板41等を介して連続することなども含む。要は、帯材32が、熱膨張によって内周面23に貼り付いた状態となるように、繋がっていればよい。
【0033】
また、帯材32の素材は、特に限定されるものではないが、熱膨張によって内周面23に貼り付いた状態とするために、例えば、ステンレス、チタン等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属で構成するのが好ましく、また、熱膨張率をリフター31の熱膨張率と同じとするために、リフター31と同様の素材で構成するのが好ましい。
【0034】
留め具40は、図5に示すように、一対のボルト孔43が形成された平板状の横板41と、この横板41の中央部から設置状態において下方に延出する平板状の縦板42とで、正面視T字状に構成されている。この留め具40は、縦板42を内壁22に差し込むことによって固定することもできるが、本形態では、次のように固定している。
【0035】
まず、留め具40の設置部分(符号24で示す部分)の内壁22を削り出す。次に、当該削り出した部分(24)に、留め具40を配置する。この際、縦板42の先端部を外壁21の内周面に溶接等して固定すると好適である。この配置が終了したら、図5の(c)に示すように、横板42の両端部上に帯材32の端部を配置し、帯材32の端部に形成されたボルト孔(図示せず)及び横板41に形成されたボルト孔43に、ボルト51を通し、ナット52を締めて、留め具40及び帯材32を締結する。そして、内壁22を削り出した部分(24)を再度耐火物24で埋め戻し、リフター機構30の設置を終了する。
【0036】
この点、本形態においては、前述したように帯材32の熱膨張を利用してリフター31の落下を防止するため、以上の留め具40を外壁21に固定する作業を省略することもできる。しかしながら、内壁22と留め具40とは熱膨張率が異なり、熱処理を繰り返すと留め具40がぐらつく可能性があるため、より設備の耐久性を向上させるという観点から、留め具40を外壁21に固定するのが好適である。
【0037】
また、例えば、帯材32の熱膨張による伸縮が大きい場合等は、ボルト51の破損防止等を目的として、帯材32のボルト孔(図示せず)や横板41のボルト孔43を、帯材32の延在方向(長手方向)に長い長孔とし、帯材32の熱膨張による伸縮を吸収するように構成しておくと好適である。この点、横板41のボルト孔を長孔とした場合を、図5の(a)に符号43Aで示している。なお、長孔43Aの長さ(帯材32の延在方向の寸法)L3を、どの程度とするかは特に限定されず、例えば、帯材32の熱膨張係数や熱処理温度等を考慮して適宜設計することができる。
【0038】
(再生粒子の製造方法)
次に、本形態のリフター機構30が備わるロータリーキルン炉400,500,600を用いた再生粒子の製造方法について説明する。
図7に示すように、本形態の製造方法においては、製紙スラッジを主原料(50質量%以上)とする被処理物10から、再生粒子を製造する。
【0039】
被処理物10の主原料となる製紙スラッジは、例えば、パルプ等の繊維成分、澱粉や合成樹脂接着剤等の有機物、添料や塗工用顔料等の無機物などが利用されずに排水中へ移行したもの、パルプ化工程等で発生するリグニンや微細繊維、古紙由来の填料や印刷インキ、生物排水処理工程から生じる余剰汚泥などからなる。また、例えば、古紙パルプ製造工程において印刷インキ等を除去する脱墨工程や製紙用原料を回収して洗浄する洗浄工程に由来する固形成分等を含有していてもよい。
【0040】
ただし、古紙パルプ製造工程においては、安定した品質の古紙パルプを連続的に生産するために、選定、選別を行った一定品質の古紙を使用する。そのため、古紙パルプ製造工程に持ち込まれる無機物の種類や比率、量等は、基本的に一定になる。しかも、本形態の再生粒子の製造方法において未燃率の変動要因となるビニールやフィルム等のプラスチック類が、古紙中に含まれていても、これらは脱墨フロスが生成される脱墨工程に至る前段階の例えば、パルパーやスクリーン、クリーナー等で除去される。したがって、工場排水工程や製紙原料調成工程等の他の工程で発生する製紙スラッジと比べて、脱墨フロスは、極めて安定した品質の再生粒子を製造するための被処理物10の好適な原料となる。
【0041】
被処理物10は、脱水設備100において、公知の脱水機等を用いて脱水する。ただし、この脱水は、例えば、スクリーンによって被処理物10の水分率が70〜90%となるまで脱水し、次いで、スクリュープレスによって被処理物10の水分率が30〜50%となるまで脱水するというように、多段で行うのが好ましい。被処理物10の脱水を多段で行うことで、急激な脱水が避けられ、無機物の流出を抑制することができ、しかも、被処理物10のフロックが硬くなり過ぎるのを防止することができる。
【0042】
ここで被処理物10の「水分率」は、定温乾燥機を用い、当該乾燥機内に試料(被処理物)を静置し、約105℃で6時間以上保持することで質量変動を認めなくなった時点を乾燥後質量とし、下記式にて乾燥前後の質量測定結果より算出した値である。
水分率(%)=(乾燥前質量−乾燥後質量)÷乾燥前質量×100
【0043】
脱水後の被処理物10は、熱処理設備において熱処理するに先立って、破砕機200で破砕すると好適である。この破砕は、被処理物10の平均粒子径が2.5〜12.5mmとなるように、好ましくは2.5〜7.0mmとなるように、より好ましくは2.5〜4.0mmとなるように行う。被処理物10の平均粒子径が2.5mmを下回ると、後段の熱処理において過剰な熱処理が生じ易くなる。他方、被処理物10の平均粒子径が12.5mmを上回ると、被処理物10を表面部から芯部まで均一に熱処理するのが困難になる。
【0044】
ここで被処理物10の「平均粒子径」は、目穴の異なる篩で篩い分けを行い、各篩い分けを行った試料(被処理物)の質量を測定し、この測定値の合計値が全体の50質量%に相当する段階における篩の目穴の大きさであり、JIS Z 8801‐2:2000に基づき、金属製の板ふるいを用いて測定した値である。
【0045】
破砕機200で破砕した含水物10は、熱処理設備において乾燥、熱分解、燃焼等の熱処理を行う。この熱処理は、1つの装置で連続的に行うこともできるが、乾燥と他の熱処理とは、各別の装置で行うのが好ましい。本形態では、1台の乾燥装置300と、3台の他の熱処理装置400,500,600が備わる。
【0046】
被処理物10を乾燥する乾燥装置300としては、例えば、ストーカー炉、流動床炉、サイクロン炉、キルン炉等の公知の乾燥装置を用いることができる。ただし、本形態においては、含水物10を熱気流に同伴させて乾燥する「気流乾燥装置」を用いるのが好ましい。気流乾燥装置を用いると、被処理物10が、乾燥されるのと同時に、圧縮力が加えられることなく大きな分散力(被処理物10を分散させる力)をもって分散されるため、被処理物10が全体にわたって均一に乾燥され、しかも本乾燥処理の後段で行う他の熱処理がより均一かつ確実に行われるようになり、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造することができるようになる。なお、気流乾燥装置としては、例えば、新日本海重工業社製の商品名:クダケラ等の装置を例示することができる。
【0047】
本形態において、被処理物10を乾燥するための温度は、特に限定されず、例えば、200〜600℃、好ましくは300〜500℃、より好ましくは300〜400℃とすることができる。被処理物10は、脱水され、更に破砕されているため、わずか1〜3秒で水分率0〜5%になるまで、より好ましくは水分率0〜3%になるまで、特に好ましくは水分率0〜1%になるまで乾燥される。また、被処理物10は、水分が蒸発した次の瞬間には乾燥装置から排出されるため、意図しない有機物の熱分解・燃焼等の熱処理が生じるおそれもない。なお、被処理物10の「水分率」は、前述したとおりである。
【0048】
乾燥後の被処理物10は、本形態のロータリーキルン炉400,500,600を用いて、熱分解、燃焼等の熱処理をする。この熱処理は、1つのロータリーキルン炉で行うこともできるが、直列的に設けられた2つのロータリーキルン炉で行うのが好ましく、本形態のように、直列的に設けられた3つのロータリーキルン炉400,500,600で行うのがより好ましい。
【0049】
また、3つのロータリーキルン炉400,500,600に分けて熱処理する場合は、炉本体内の温度が順に高くなるように制御するのが好ましく、第1のロータリーキルン炉400において250〜370℃、第2のロータリーキルン炉500において360〜400℃、第3のロータリーキルン炉600において550〜780℃となるように温度制御するのがより好ましい。これは、以下の理由からである。
【0050】
すなわち、被処理物10の主原料となる製紙スラッジは、各種有機物(有機成分)を含有し、この有機物のなかには、紙由来の220℃近傍で発熱量のピークをもつアクリル系有機物、320℃近傍で発熱量のピークをもつセルロース、420℃近傍で発熱量のピークをもつスチレン系有機分が含まれる。これらの有機分を他の有機分と一緒に熱処理して除去しようとすると、200〜300℃で熱分解される有機分が発火、過燃焼するため、熱処理制御が困難となり、白色度の低下のみならず、ゲーレナイトやアノーサイト等の硬質物質の生成をまねく。そこで、まず、第1のロータリーキルン炉400において、所定の高発熱量成分(アクリル系有機物及びセルロース)を被処理物10から熱処理除去し、もって過燃焼を抑え、硬質物質の生成を抑制する。また、第1のロータリーキルン炉400において被処理物10に含まれるアクリル系有機物及びセルロースを熱分解ガス化し、第2のロータリーキルン炉500において被処理物10に含まれるスチレン系有機物を熱分解ガス化することで、得られる再生粒子の品質安定化、白色度向上に対する寄与が大きく、均一かつ安定的に再生粒子を得ることができる。そして、第3のロータリーキルン炉600においては、被処理物10に含まれる残カーボン等を含む有機物が、効率良く熱処理除去され、また、過燃焼によって生じる硬質物質の生成が抑えられる。なお、セルロースの熱分解ガスの発火温度はスチレンの熱分解温度を下回るため、第1のロータリーキルン炉400においてセルロースを熱分解除去してしまい、スチレンは第2のロータリーキルン炉500において熱分解するのが好適である。
【0051】
第1〜第3のロータリーキルン炉400,500,600としては、ストーカー炉、流動床炉、サイクロン炉等を用いることも考えられるが、横型ロータリーキルン炉を用いるのが好ましい。特に本形態のリフター機構30が備わるロータリーキルン炉によれば、被処理物10の飛散が防止されるため、得られる再生粒子が極めて均質なものとなり、しかも、歩留りが向上する。
【0052】
ロータリーキルン炉は、熱処理効率を重視して内熱式とすることも、熱処理制御の容易性を重視して外熱式とすることもできるが、図示例のように、第1のロータリーキルン炉400及び第2のロータリーキルン炉500は外熱ジャケット29等が備わる外熱式とし、第3のロータリーキルン炉600は内壁22を有する内熱式とするのが好ましい。第1及び第2のロータリーキルン炉400,500が熱処理の対象とする被処理物10は、アクリル系有機物や、セルロース、スチレン系有機物等の高発熱量成分を含むため、被処理物10が発火し易い状態にある。したがって、炉本体内は低酸素濃度であるのが好ましく、外熱式のロータリーキルン炉が好適に用いられる。他方、第3のロータリーキルン炉600が熱処理の対象とする被処理物10は、高発熱量成分を含まないため、被処理物10が発火し難い状態にあり、また、相対的に高温で熱処理するため、内熱式のキルン炉が好適に用いられる。
【0053】
ロータリーキルン炉400,500,600において熱処理された被処理物10は、平均粒子径が15.0μm以下となるように、好ましくは0.1〜10.0μmとなるように、より好ましくは1.0〜5.0μmとなるように粉砕することができる。
【0054】
この粉砕後の被処理物10の平均粒子径は、試料(被処理物)のスラリーをレーザー回折方式の粒度分布径(型番:SA−LD−2200、島津製作所製)を用いて測定した体積平均粒子径(D50)である。
【0055】
本形態において、被処理物10の粉砕方法は特に限定されず、例えば、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、アトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機などを用いることができる。
【0056】
この粉砕を行った被処理物10は、好適には凝集体であり、冷却機等において冷却した後、振動篩機等の粒径選別機により選別をし、再生粒子としてサイロに一時貯留し、適宜製紙用の添料や顔料等の用途先に仕向けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ロータリーキルン炉、及びこのロータリーキルン炉を使用した再生粒子の製造方法として適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
10…被処理物、20…炉本体、21…外壁、22…内壁、23…内周面、24…耐火物、30…リフター機構、31,37,38…リフター(本体)、32…帯材、40…留め具、41…横板、42…縦板、43…ボルト孔、51…ボルト、52…ナット、100…脱水設備、200…破砕機、300…乾燥装置、400,500,600…ロータリーキルン炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに回転する炉本体と、この炉本体の内周面から突出するリフターと、を有するロータリーキルン炉であって、
前記リフターが、前記炉本体の回転方向に間隔をおいて複数並び、
各リフターの回転方向前面が、前記炉本体の軸方向中央部が回転方向先方側に突出するへ字状とされている、
ことを特徴とするロータリーキルン炉。
【請求項2】
前記回転方向に並ぶ複数のリフターは、一部のリフターの突出長が他のリフターの突出長よりも高くされ、
前記一部のリフターの突出長が、前記炉本体の内周面上に堆積する被処理物の堆積厚以上とされている、
請求項1記載のロータリーキルン炉。
【請求項3】
前記炉本体の内周面が耐火物で構成され、
この耐火物上に前記炉本体の回転方向に延びる帯材が載せられ、この帯材上に前記各リフターが取り付けられており、
前記帯材は、1本が又は回転方向に並ぶ複数本が、一周にわたって繋がるものとされ、かつ、各帯材の両端部が留め具で前記耐火物に固定されている、
請求項1又は請求項2記載のロータリーキルン炉。
【請求項4】
製紙スラッジを主原料とする被処理物を、脱水及び熱処理して再生粒子を製造する方法であって、
前記熱処理手段として、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロータリーキルン炉を使用する、
ことを特徴とする再生粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−252650(P2011−252650A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126075(P2010−126075)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】