説明

ローラベアリング及び直動案内装置

【課題】ローラベアリングとして、外輪の振れを起こすことなく、ローラの姿勢が傾いても自律的に内輪軸の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができるものを提供する。
【解決手段】内輪軸6と、円筒状の外輪5と、内輪軸6と外輪5との間の環状間隙3に円周上に装填された複数のローラ10と、各ローラ10をそれぞれ回動自在に保持するリテーナ2とを備える。リテーナ2は、ローラ10の軸方向に所定間隔を隔てて対向配置される一対のリテーナ部材2a,2bにより構成され、各リテーナ部材2a,2bには、ローラ10の端部を回動自在に保持する切欠き20a,20bが複数設けられるとともに、外輪5の両端部を支持する鍔部21が形成されている。内輪軸6には、ローラ10の斜行姿勢を立て直すための部位として円形の外周面を断面D字状にカットした平坦なDカット面61が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラベアリング及び直動案内装置に関し、詳しくは、内輪軸と外輪との間の環状間隙に複数のローラが円周上に装填されて周方向に転動する構成としたローラベアリングであってローラの斜行姿勢を自律的に立て直すことができるローラベアリング、及びそのローラベアリングを組み込んだ直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ローラベアリングとして、図8に示すものが知られている(特許文献1)。図8(a)(b)に示すように、このローラベアリング101は、内輪軸106と、円筒状の外輪105と、内輪軸106と外輪105との間の環状間隙103に円周上に装填された複数のローラ110と、各ローラ110の端部をそれぞれ回転自在に保持する一対のリテーナ部材102a,102bにより構成するリテーナ102とを備える。このローラベアリング101は、外輪105が相手部材と接して回動する際に複数のローラ110が内輪軸106と外輪105との間の環状間隙103に周方向に転動することにより、外輪105と内輪軸106との摩擦を大幅に低減させる。そして、このようなローラベアリング101は、レールに対してスライダーがレールの長さ方向に相対移動可能に構成された直動軸受装置において、内輪軸がスライダーに軸支され、外輪がレールの外周面上に接して転動するように配設される。
【特許文献1】特開2002−310167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記ローラベアリング101は、通常、外輪105の内径寸法と内輪軸106の外径寸法との差の1/2の直径を持つローラ110が外輪105と内輪軸106との間の環状間隙103に装填されるようになっている。そのため、ローラ110の姿勢が傾くと、転動されずに傾いたまま斜行してスキューを起こすことがある。そうすると、外輪105と内輪軸106との間に大きな摩擦が発生して外輪の円滑な回転を阻害することとなる。
【0004】
なお、スキュー防止のため、外輪105の内径寸法を若干大きくすると、外輪105が相手部材に押圧されることにより相手部材と反対側の環状間隙にローラ110の直径よりも大きく広がった空間Sが形成されるようにし、この空間Sをローラ110が通過することによりローラ110の姿勢が傾いていても自律的に内輪軸106の軸方向と平行な姿勢に立て直されるようにすることが考えられる。しかし、この場合、内輪軸106の周りを周回しているローラ110の位置によって内輪軸106の軸芯位置に差Lが生じ(図9(a)(b)参照)、これに起因して外輪105の振れを発生させる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、外輪の振れを起こすことなく、ローラの姿勢が傾いても自律的に内輪軸の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができるローラベアリング及びそのローラベアリングを組み込んだ直動案内装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るローラベアリングは、
内輪軸と、内輪軸に外装された円筒状の外輪と、内輪軸と外輪との間の環状間隙に円周上に装填されて周方向に転動する複数のローラと、各ローラをそれぞれ回動自在に保持するリテーナとを備え、
上記内輪軸には、上記ローラの斜行姿勢を立て直すための部位として円形の外周面をカットしたカット面が形成されているものである。
【0007】
上記構成より、環状間隙内を転動して周回するローラは、カット面の一方の端辺を越えてカット面上に進入すると、内輪軸の外周面と外輪の内周面とに当接されていた状態から解放される。そして、このローラがカット面上から脱出するとき、カット面の他方の端辺に当接される。これにより、ローラが斜行姿勢となっていた場合は、カット面の他方の端辺に沿ってローラの軸方向の姿勢が内輪軸の軸方向に合致される。このようにして、斜行していたローラ姿勢を内輪軸のカット面を通過することによって立て直すことができる。従って、カット面上から脱出した後のローラは、内輪軸の周方向に円滑に転動される。
また、カット面以外の環状間隙では、複数のローラが内輪軸の外周面と外輪の内周面とに嵌合されているので、内輪軸に対する外輪の振れを起こすこともない。
なお、ローラは、リテーナに保持等されているので、カット面上でローラが停滞することなく内輪軸と外輪にスムーズに嵌合される。
【0008】
上記リテーナは、ローラの軸方向に所定間隔を隔てて対向配置される一対のリテーナ部材により構成され、各リテーナ部材には、ローラの端部を回動自在に保持する切欠きが複数設けられるとともに、上記外輪の両端部を支持する鍔部が形成されており、
上記内輪軸に形成するカット面は、円形の外周面を断面D字状にカットした平坦なDカット面とすることができる。
【0009】
この場合、リテーナは、一対のリテーナ部材で構成されて各ローラの端部をそれぞれ保持するので、各リテーナ部材が同期して回動されないとローラが斜行姿勢となり得る。内輪軸と外輪とが相対回動して各リテーナ部材も回動する場合、各リテーナ部材は、外輪との間の回転速度の差により、鍔部を介して外輪から回転力が付与される。そのため、各リテーナ部材の回動の同期性がずれて、ローラが斜行姿勢となる場合がある。また、ローラが直径の細いニードルであれば更に斜行姿勢となり易い。
【0010】
そして、この場合でも、環状間隙内を転動して周回するローラは、Dカット面の一方の端辺を越えてDカット面上に進入すると、内輪軸の外周面と外輪の内周面とに当接されていた状態から解放される。そして、このローラがDカット面上から脱出するとき、Dカット面の他方の端辺に当接される。これにより、ローラが斜行姿勢となっていた場合は、Dカット面の他方の端辺に沿ってローラの軸方向の姿勢が内輪軸の軸方向に合致される。このようにして、斜行していたローラ姿勢を内輪軸のDカット面を通過することによって立て直すことができる。従って、上記リテーナが各ローラの両端部をそれぞれ保持するとともに外輪の両端部をそれぞれ支持する一対のリテーナ部材で構成されることにより、ローラが斜行姿勢となり易い場合でも、内輪軸のDカット面を通過することによって斜行していたローラ姿勢を立て直すことができる。よって、Dカット面上から脱出した後のローラは、内輪軸の周方向に円滑に転動される。
また、Dカット面以外の環状間隙では、複数のローラが内輪軸の外周面と外輪の内周面とに嵌合されているので、内輪軸に対する外輪の振れを起こすこともない。
【0011】
一方、本発明に係る直動案内装置は、
レールと、レールに対してレールの長さ方向に相対移動可能に配設されたスライダーとを備え、
上記ローラベアリングの内輪軸が上記スライダーに設けた凹溝に軸支され、上記ローラベアリングの外輪が上記レールのレール面上に転動するように配設され、
上記ローラベアリングの内輪軸には、上記ローラの斜行姿勢を立て直すための部位として円形の外周面を平坦にカットしたカット面が内輪軸の両端部にまで連続形成されており、
上記スライダーに設けられた内輪軸を軸支する凹溝は、対向平面を有する矩形状に形成されており、
上記内輪軸の両端部のカット面は、上記凹溝において上記外輪が転動されるレール面と平行な対向平面のうちレール面より遠い側の平面と対接するように配置されているものである。
【0012】
上記構成より、ローラベアリングは、ローラの斜行姿勢を内輪軸のカット面によって内輪軸の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができるので、ローラベアリングのローラがスキューを起こすことがなく円滑に転動される。従って、ローラベアリングの外輪の回動が安定して円滑に行われ、その結果、直動案内装置のスライダーの円滑な相対移動が実現される。
【0013】
一方、ローラベアリングの外輪がレールのレール面に押し付けられると、内輪軸のカット面がスライダーの凹溝の平面に押し付けられる。従って、ローラベアリングでは外輪を通して内輪軸に加わる荷重がカット面と凹溝の平面との面接触によって受け止められるので、ローラベアリングを高荷重に対応させることができる。
【0014】
また、ローラベアリングの内輪軸は、カット面が凹溝の平面に対接されて内輪軸が回動阻止されるため、凹溝内での内輪軸の滑り等が防止され、内輪軸の摩耗、破損等が防げ、ローラベアリングを長寿命とすることができる。
【0015】
また、スライダーの凹溝を矩形状とすることにより、凹溝の加工時の寸法精度の調整がし易く、スライダーの製作を簡易且つ低コストに行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明に係るローラベアリングによれば、ローラの斜行姿勢を内輪軸のカット面によって内輪軸の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができるので、ローラがスキューを起こすことがなく円滑に転動される。また、複数のローラは、カット面以外の環状間隙では、内輪軸の外周面と外輪の内周面とに嵌合されているので、内輪軸に対する外輪の振れを起こすこともない。従って、外輪の振れを起こすことなく内輪軸に対する外輪の相対回動を安定して円滑に行うことができる。
【0017】
そして、上記ローラベアリングを組み込んだ直動案内装置によれば、ローラベアリングの外輪の回動が安定して円滑に行われ、その結果、スライダーの円滑な相対移動が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)(b)に示すように、本発明の一実施形態としてのニードルローラベアリング1は、内輪軸6と、内輪軸6に外装された円筒状の外輪5と、内輪軸6と外輪5との間の環状間隙3に円周上に装填されて周方向に転動する複数のニードルローラ(以下、「ローラ」)10と、各ローラ10をそれぞれ回動自在に保持するリテーナ2とを備えている。
【0019】
図1(b)に示すように、リテーナ2は、ローラ10の軸方向に所定間隔を隔てて対向配置された概略円筒形状の第1のリテーナ部材2aおよび第2のリテーナ部材2bとを有している。なお、内輪軸6には、第1,第2のリテーナ部材2a,2bの側方にそれぞれワッシャ15,16を配置してもよい。これらのワッシャ15,16により、第1,第2のリテーナ部材2a,2bの軸方向への移動を規制することができる。従って、例えば、ニードルローラベアリング1の内輪軸6が矩形状等の軸収容溝に軸支される場合に、この軸収容溝にリテーナ2が接触して回転が阻害されたり、その接触によりリテーナ2が破損される等の不具合を防止することができる。
【0020】
図2に示すように、第1のリテーナ部材2aは、ローラ10の一方の端部を回転自在に支持する切欠き20aを複数個有し、同様に、第2のリテーナ部材2bは、ローラ10の他方の端部を回転自在に支持する切欠き20bを複数個有し、各切欠き20a,20bは互いに対向配置されている。
【0021】
そして、第1のリテーナ部材2aには、隣り合う各切欠き20aの間に凸部22aが形成され、同様に、第2のリテーナ部材2bにも隣り合う各切欠き20bの間に凸部22bが形成されており、互いに対向配置される各凸部22a,22bの間には、空所4が形成されている。この空所4がグリース溜まりを構成する。これにより、グリースが外輪5および内輪軸6と各ローラ10との転動面に直接塗布され、転動面を十分にかつ確実に潤滑できるようになる。しかも、グリース溜まりがリテーナ表面に凹状に形成されるのではなく、第1,第2のリテーナ部材2a,2b間において何ら部材が存在していない空所4に形成されるので、とくに、ニードルローラベアリングのようにリテーナ2が薄肉の場合や、ベアリングの外径が小さく隣り合う各ローラ10間の間隔が非常に狭い場合においても、グリース溜まりを確実に確保でき、十分な潤滑機能を発揮できるようになる。
【0022】
図1(b)に示すように、第1,第2のリテーナ部材2a,2bには、外輪5の両端部を支持する環状の鍔部21がそれぞれ形成されている。これにより、外輪5を介して、第1,第2のリテーナ部材2a,2bの軸方向距離を一定に保つことができるとともに、第1,第2のリテーナ部材2a,2bおよび外輪5を一体化することができ、ニードルローラベアリングの組付けが容易に行えるようになる。
【0023】
また、第1,第2のリテーナ部材2a,2bの鍔部21には、外輪5と接触する部分に油溝26が形成されるとともに、外側端面に油溝28が形成されている(図1(b)参照。)これにより、とくに、内輪軸6が固定された状態で外輪5が回転するような場合に、外輪5と接触する部分に形成した油溝26により、外輪5と第1,第2のリテーナ部材2a,2bとの間の回転速度の差によって各リテーナ部材2a,2bが摩耗するのを防止することができる。また、外側端面に形成された油溝28により、各リテーナ部材2a,2bの外側端面と接触するワッシャ15,16との間の摩耗を防止することができる。
【0024】
また、鍔部21には、外輪5の内周面と接触する断面テーパ状のリップ部24がそれぞれ形成されている。これにより、第1,第2のリテーナ部材2a,2b間の空所4に貯留されたグリースが外輪5の内周面から外輪5の両端部と第1,第2のリテーナ部材2a,2bとの間のすき間を通って外部に漏出するのを防止することができる。
【0025】
上記内輪軸6には、上記ローラ10の姿勢を立て直すための部位として円形の外周面を断面D字状にカットした平坦なDカット面61が形成されている(図1(a)(b)参照)。このDカット面61は、内輪軸6の全長にわたって形成されている。
【0026】
これにより、環状間隙3内を転動して周回するローラ10は、Dカット面61の一方の端辺62を越えてDカット面61上に進入すると、内輪軸6の外周面と外輪5の内周面とに当接されていた状態から解放される。そして、このローラ10がDカット面61上から脱出するとき、Dカット面61の他方の端辺63に当接される。従って、ローラ10が斜行姿勢となっていた場合は、Dカット面61の他方の端辺63に沿ってローラ10の軸方向の姿勢が内輪軸6の軸方向と平行になるように矯正される。このようにして、斜行していたローラ姿勢を内輪軸6のDカット面61を通過することによって内輪軸6の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができる。
【0027】
また、Dカット面61の幅は、内輪軸6の周りを周回している複数のローラ10の位置によって内輪軸6の軸芯位置に差を生じさせない大きさに形成される。例えば、図1(a)に示すものでは、Dカット面61の幅は、その両端辺62,63にそれぞれローラ10が配置され、Dカット面61上に1つのローラ10が配置される大きさに形成されている。これにより、Dカット面61以外の環状間隙3では、複数のローラ10が内輪軸6の外周面と外輪5の内周面とに嵌合されているので、内輪軸6に対する外輪5の振れを起こすこともない。
【0028】
そして、リテーナ2は、上述のとおり、一対のリテーナ部材2a,2bで構成されて各ローラ10の両端部をそれぞれ保持するので、各リテーナ部材2a,2bの回動が同期されないとローラ10が傾斜姿勢となり得る。内輪軸6と外輪5とが相対回動して各リテーナ部材2a,2bも回動する場合、各リテーナ部材2a,2bは、外輪5との間の回転速度の差により、鍔部21を介して外輪5から回転力が付与される。そのため、各リテーナ部材2a,2bの回動の同期性がずれて、ローラ10が斜行姿勢となる場合がある。また、ローラ10が直径の細いニードルであれば更に斜行姿勢となり易い。この場合であっても、内輪軸6のDカット面61を通過することによって斜行していたローラ姿勢を内輪軸6の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができる。従って、Dカット面61上から脱出した後のローラ10は、内輪軸6の周方向に円滑に転動される。
【0029】
以上のように、実施形態に係るニードルローラベアリング1によれば、ローラ10の斜行姿勢を内輪軸6のDカット面61によって内輪軸6の軸方向と平行な姿勢に立て直すことができるので、ローラ10がスキューを起こすことがなく円滑に転動される。また、複数のローラ10は、Dカット面61以外の環状間隙3では、内輪軸6の外周面と外輪5の内周面とに嵌合されているので、内輪軸6に対する外輪5の振れを起こすこともない。従って、外輪5の振れを起こすことなく内輪軸6に対する外輪5の相対回動を安定して円滑に行うことができる。
【0030】
なお、内輪軸6のDカット面61は、内輪軸6の全長にわたって形成されているが、ローラ10が周回する中央部にだけ形成するようにしてもよい。
また、Dカット面61は、内輪軸6の周方向に複数個所設けるようにしてもよい。ただし、内輪軸6の周りを周回している複数のローラ10の位置によって内輪軸6の軸芯位置に差を生じさせない数に設定する必要がある。
また、Dカット面61の幅は、内輪軸6の周りを周回している複数のローラ10の位置によって内輪軸6の軸芯位置に差を生じさせない大きさに形成されればよく、少なくとも1つのローラ10がDカット面61上に配置される大きさとしてもよい。
【0031】
さらに、Dカット面61は、平坦なカット面に限らず、ローラ10の斜行姿勢を立て直すための部位として機能すれば、内輪軸6の外周円弧よりもRが大きい曲面や凹面等のような種々の面形状であってもよい。
また、リテーナ2は、上述の一対のリテーナ部材2a,2bで構成されるものに限らず、円筒体の側壁に各ローラ10をそれぞれ保持する複数の矩形孔を設けたものを用いてもよい。
【0032】
次に、上記ニードルローラベアリング1が直動軸受装置としてのコラムガイドに適用された一例を示す。図3に示すように、このコラムガイドは、直線状に延びるレール8と、レール8に対して長さ方向に往復移動自在に設けられたスライダー9とを有している。
図4に示すように、レール8は、第1のレール面8aと、これと角度θをなす第2のレール面8bとを有しており、これら第1,第2のレール面8a,8bは、レール8の配設方向に沿って直線状に延びている。また、レール8の断面形状は左右対称に形成されている。なお、角度θは、図4に示すものでは60度に設定されているが、当該角度には限定されない。
【0033】
スライダー9は、概略コ字状または門型の断面を有する複数のコラム部材90を積層して固定することにより構成されている(図3参照)。隣り合う各コラム部材90の合わせ面には、複数の略十字状の凹溝7がそれぞれ形成されている(図4参照)。隣り合う各コラム部材90において対向配置された各凹溝7により形成される空間内には、上述のニードルローラベアリング1が収容されている。すなわち、ニードルローラベアリング1の内輪軸6は、凹溝7の軸収容溝71に軸支され、外輪5は、凹溝7の外輪収容溝72に収容されるとともに外輪5の外周面がレール8のレール面8a,8bと接触されている。これにより、各ニードルローラベアリング1の外輪5が内輪軸6の回りを回転しつつ、レール8の各レール面8a,8b上を転動することによって、スライダー9がレール8に対してレール8の長さ方向に摩擦低減されて円滑に相対移動される。
【0034】
また、ニードルローラベアリング1は、第1,第2のリテーナ部材2a,2bの側方にそれぞれワッシャ15,16を配置した状態で凹溝7内に収容されている。これにより、内輪軸6を軸支する軸収容溝71に第1,第2のリテーナ部材2a,2bが接触してリテーナ2の回転が阻害されたり、その接触により第1,第2のリテーナ部材2a,2bが破損される等の不具合を防止することができる。また、上記ワッシャ15,16が第1,第2のリテーナ部材2a,2bに接触されるので、これらワッシャ15,16により第1,第2のリテーナ部材2a,2bの接触面の面祖度の安定化を図ることができ、しかも、これらワッシャ15,16の厚みを調整することにより凹溝7の外輪収容溝72の幅調整を容易に行うことができる。
【0035】
ところで、従来は、スライダーに設けられた凹溝においてローラベアリングの内輪軸を収容する軸収容溝は、内輪軸の軸径よりも公差範囲で大きな相似形のR形状となっている。そして、レールの外周面(転動面)からローラベアリングの外輪に作用した負荷は、ローラを通じて内輪軸へと加わり、内輪軸からスライダーへと伝わる。そのため、内輪軸とスライダーの軸収容溝との接触が線接触となり、高荷重を受けるとこの軸収容溝が塑性変形し、ローラベアリングのガタを生じさせる。しかも、この軸収容溝が内輪軸の軸径よりも公差範囲で大きくなっているため、スライダーの移動に伴ってローラベアリングの内輪軸が回転し、軸収容溝内で滑り等を起こし、そのため、スライダーの軸収容溝や内輪軸に表面損傷を生じさせ、ローラベアリングのガタを生じさせ、最悪の場合は損傷部から疲労亀裂が発生して軸収容溝や内輪軸の破壊に至るおそれがある。
【0036】
図5に示すように、本実施の形態の場合、スライダー9におけるニードルローラベアリング1の内輪軸6を収容する軸収容溝71は、平面で構成される矩形状に形成されている。なお、図6に示すように、軸収容溝71を含む凹溝7は、隣り合うコラム部材90の一方に形成され、他方のコラム部材90は、これに蓋をする形式であってもよい。そして、内輪軸6のDカット面61は、外輪5の転動面であるレール面8a(8b)と平行な対向平面71a,71bのうちレール面8a(8b)より遠い側の平面71bと対接するように配置される。これにより、外輪5がレール8のレール面8a(8b)に押し付けられると、内輪軸6のDカット面61が矩形状の軸収容溝71の平面71bに押し付けられ、外輪5を通して内輪軸6に加わる押圧力がDカット面61と軸収容溝71との面接触によって受け止められる。従って、上記ニードルローラベアリング1によれば、内輪軸6のDカット面61と軸収容溝71の平面71bとの面接触で荷重を受けるので、ニードルローラベアリング1を高荷重に対応することができる。
【0037】
また、内輪軸6は、Dカット面61が軸収容溝71の平面71bに対接するので、内輪軸6が回転阻止されるため、軸収容溝71内での内輪軸6の滑り等が防止され、、内輪軸6の破損等が防げ、ニードルローラベアリング1を長寿命にすることができる。
【0038】
また、スライダー9において内輪軸6を収容する軸収容溝71のみならず、ニードルローラベアリング1を配設する凹溝(外輪収容溝72も含む。)7をも矩形状とすることにより、凹溝7の加工時の寸法精度の調整がし易く、スライダー9の製作を簡易且つ低コストに行うことができる。
【0039】
以上のことから、上記ニードルローラベアリング1は、ローラ10の斜行姿勢が自律的に立て直されることから、外輪5の回動が安定して円滑に行われ、その結果、スライダー9の円滑な相対移動が実現される。しかも、上記ニードルローラベアリング1を高荷重に対応させることができるから、高荷重を受けてもニードルローラベアリング1のガタを生じさせ難いコラムガイドが得られる。
【0040】
なお、ニードルローラベアリング1の内輪軸6を収容する軸収容溝としては、少なくともDカット面61に当接される平面を有するものであれば、例えば、図7に示すような半円形状等の軸収容溝71’であってもよい。また、図7に示すように、内輪軸6のDカット面61は、軸収容溝71’におけるレール面8a(8b)と垂直な平面71cと対接するように配置されてもよい。これらの場合でも、内輪軸6は、Dカット面61が軸収容溝71’の平面71cに対接するので、内輪軸6が回転阻止されるため、軸収容溝71内での内輪軸6の滑り等が防止され、内輪軸6の破損等が防げ、ニードルローラベアリング1を長寿命にすることができる。
【0041】
また、コラムガイドとしては、円柱形又は円筒形のポストに、筒状のスリーブを挿通させ、これらのポストとスリーブとの間にニードルローラベアリング1を配置させるもの等、種々の形状のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態によるニードルローラベアリングの構成を示す一部断面図であり、同図(a)は内輪軸と直交方向の一部断面図、同図(b)は内輪軸の軸方向の一部断面図である。
【図2】リテーナ部材の構成を示す部分拡大図である。
【図3】実施形態によるニードルローラベアリングを組み込んだコラムガイドの外観を示す斜視図である。
【図4】実施形態によるニードルローラベアリングを組み込んだコラムガイドの内部構造を示す断面図である。
【図5】スライダーの軸収容溝におけるニードルローラベアリングの内輪軸の配設位置を示す断面図である。
【図6】スライダーの軸収容溝の変形例を示した断面図である。
【図7】スライダーの軸収容溝の他の変形例を示した断面図である。
【図8】従来のローラベアリングの構成を示す一部断面図であり、同図(a)は内輪軸と直交方向の一部断面図、同図(b)は内輪軸の軸方向の一部断面図である。
【図9】ローラベアリングにおいて外輪の径を大きくしたときの外輪の振れを説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ニードルローラベアリング
2 リテーナ
2a,2b リテーナ部材
3 環状間隙
5 外輪
6 内輪軸
7 凹溝
8 レール
9 スライダー
10 ローラ
61 Dカット面
71 軸収容溝
72 外輪収容溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪軸と、内輪軸に外装された円筒状の外輪と、内輪軸と外輪との間の環状間隙に円周上に装填されて周方向に転動する複数のローラと、各ローラをそれぞれ回動自在に保持するリテーナとを備え、
上記内輪軸には、上記ローラの斜行姿勢を立て直すための部位として円形の外周面をカットしたカット面が形成されているローラベアリング。
【請求項2】
請求項1に記載のローラベアリングにおいて、
上記リテーナは、ローラの軸方向に所定間隔を隔てて対向配置される一対のリテーナ部材により構成され、各リテーナ部材には、ローラの端部を回動自在に保持する切欠きが複数設けられるとともに、上記外輪の両端部を支持する鍔部が形成されており、
上記内輪軸に形成するカット面は、円形の外周面を断面D字状にカットした平坦なDカット面とするローラベアリング。
【請求項3】
レールと、レールに対してレールの長さ方向に相対移動可能に配設されたスライダーとを備え、
請求項1又は2に記載のローラベアリングの内輪軸が上記スライダーに設けた凹溝に軸支され、上記ローラベアリングの外輪が上記レールのレール面上に転動するように配設され、
上記ローラベアリングの内輪軸には、上記ローラの斜行姿勢を立て直すための部位として円形の外周面を平坦にカットしたカット面が内輪軸の両端部にまで連続形成されており、
上記スライダーに設けられた内輪軸を軸支する凹溝は、対向平面を有する矩形状に形成されており、
上記内輪軸の両端部のカット面は、上記凹溝において上記外輪が転動されるレール面と平行な対向平面のうちレール面より遠い側の平面と対接するように配置されている直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−270623(P2009−270623A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121137(P2008−121137)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】