説明

ワイヤ工具

【課題】加工効率が高く、加工面の面粗度も良好なワイヤ工具を提供する。
【解決手段】ワイヤ工具10は、ワイヤ11の外周面を覆う鍍金層12で固着されたバックアップ用の粒状体13と、鍍金層12を覆う合成樹脂層14で固着された砥粒15とを備えている。鍍金層12と砥粒15との間には、砥粒15を含まない緩衝樹脂層16が設けられている。ワイヤ11の長手方向に隣り合う粒状体13と砥粒15との隙間17は砥粒15の外径より小さく、ほぼゼロに設定されている。ワイヤ11はピアノ線であり、鍍金層12はニッケル鍍金で形成され、合成樹脂層14は熱硬化性樹脂で形成され、粒状体13及び砥粒15はダイヤモンド粒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池シリコン、半導体シリコン、磁性体、サファイヤあるいはSiCなどのインゴットをスライス加工する際に使用されるワイヤ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ工具は、レジンワイヤ工具と電着ワイヤ工具とに大別される。図4(a)に示すように、レジンワイヤ工具40は、砥粒41が合成樹脂層42を介してワイヤ43の外周面に固着され、図5(a)に示すように、電着ワイヤ工具50は、砥粒51が鍍金層52を介してワイヤ53の外周面に固着されている。
【0003】
レジンワイヤ工具40は、ワイヤ43の外周面が合成樹脂層42によって被覆されているため、被柔軟性が高く、捩れに起因する断線が発生し難く、加工性能が安定している。また、図4(b)に示すように、矢線40a方向へ進行しながら切削加工を行うレジンワイヤ工具40の砥粒41は、切削加工中に被加工物44から受ける抗力によって矢線41h,41v方向へ微小変位可能であるため、被加工物44の加工面の面粗さが良好で、加工精度も高いなどの点で優れているが、砥粒保持力が弱く、加工効率が低い。
【0004】
一方、電着ワイヤ工具50は、砥粒51が鍍金層52により強く固着されているため、砥粒保持力が強く、図5(b)に示すように、矢線50a方向へ進行しながら切削加工を行う電着ワイヤ工具50の砥粒51が切削加工中に被加工物44から抗力を受けても、砥粒51が微小変位し難く、加工効率が高いという利点がある。
【0005】
単結晶インゴットの切削加工においては、加工面の面粗度が良好であって加工精度が高いことが要請され、多結晶インゴットの切削加工においては、高い加工性能が要請されている。そこで、鍍金層及び樹脂層によって砥粒がワイヤ外周面に固着されたワイヤ工具が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−50301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のワイヤーソーは、電着ワイヤ工具及びレジンワイヤ工具の長所を兼備することを目的として開発されたものであるが、超砥粒は実質的に電着層によってワイヤ外周面に固着されているため、加工面の面粗さが良好でない。また、砥粒が樹脂層で覆われているため、砥粒の突き出し量が減り、加工効率が悪化する場合がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、加工効率が高く、加工面の面粗度も良好なワイヤ工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤ工具は、ワイヤの外周面を覆う鍍金層で固着されたバックアップ用の粒状体と、前記鍍金層を覆う樹脂層で固着された砥粒と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
このような構成とすれば、ワイヤ外周面を覆う鍍金層で粒状体が強固に固着され、鍍金層を覆う樹脂層で砥粒が固着されたことにより、切削加工中、被加工物から受ける抗力によって生じる、ワイヤ進行方向と反対方向への砥粒の微小変位は、鍍金層で固着された粒状体でバックアップされるため、切削力の低下が発生せず、高い加工効率を発揮する。また、被加工物から受ける抗力で生じるワイヤ軸心に接近する方向の砥粒の微小変位は樹脂層によって適度に維持されるため、加工面の面粗度も良好となる。
【0011】
また、前記樹脂層に、無機材料若しくは金属材料のフィラーを混在させた構成とすることもできる。
【0012】
このような構成とすれば、樹脂層にフィラーが存在することにより、切削加工中、樹脂層で固着された砥粒に加わる荷重をフィラーに分散させることができ、ワイヤ工具によって加工面に持ち込まれる切削液も増えるので、加工面の面粗度向上に有効である。
【0013】
さらに、前記鍍金層と前記砥粒との間に砥粒を含まない緩衝樹脂層を設けた構成とすることもできる。
【0014】
このような構成とすれば、樹脂層で固着された砥粒が、被加工物から受ける抗力によって生じるワイヤ軸心に接近する方向の微小変位を、緩衝樹脂層によって増加させることができるため、加工面の面粗度向上に有効である。
【0015】
一方、前記ワイヤの長手方向に隣り合う前記粒状体と前記砥粒との隙間を前記砥粒の外径より小とすることができる。
【0016】
このような構成とすれば、切削加工中に、砥粒が被加工物から受ける抗力によって生じる、ワイヤ進行方向の砥粒の微小変位を抑制することができるので、加工効率の向上に有効である。
【0017】
また、前記鍍金層で固着された粒状体の個数より、前記樹脂層で固着された砥粒の個数を大とすることもできる。
【0018】
このような構成とすれば、樹脂層で固着された砥粒による切削が主となるため、加工面の面粗度の向上に有効である。
【0019】
さらに、前記鍍金層で固着された粒状体の粒径より、前記樹脂層で固着された砥粒の粒径を小とすることもできる。
【0020】
このような構成とすれば、樹脂層で固着された砥粒の先端を揃えることができるので、加工面の面粗度の向上に有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、加工効率が高く、加工面の面粗度も良好なワイヤ工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態であるワイヤ工具を示す一部省略断面図である。
【図2】本発明の第二実施形態であるワイヤ工具を示す一部省略断面図である。
【図3】本発明の第三実施形態であるワイヤ工具を示す一部省略断面図である。
【図4】従来のレジンワイヤ工具を示す一部省略断面図である。
【図5】従来の電着ワイヤ工具を示す一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に基づいて、本発明の第一実施形態であるワイヤ工具10について説明する。図1に示すように、ワイヤ工具10は、ワイヤ11の外周面を覆う鍍金層12で固着されたバックアップ用の粒状体13と、鍍金層12を覆う合成樹脂層14で固着された砥粒15とを備えている。鍍金層12と砥粒15との間には、砥粒15を含まない緩衝樹脂層16が設けられている。
【0024】
ワイヤ11の長手方向に隣り合う粒状体13と砥粒15との隙間17は砥粒15の外径より小さく設定され、特に、本実施形態では粒状体13と砥粒15とが接触しているため隙間17がほぼゼロに等しい。ワイヤ11はピアノ線であり、鍍金層12はニッケル鍍金で形成され、合成樹脂層14は熱硬化性樹脂で形成され、粒状体13及び砥粒15はダイヤモンド粒であるが、これらに限定するものではない。
【0025】
図1に示すように、ワイヤ工具10を矢線X方向に移動させながら被加工物18を切削加工するとき、砥粒15は被加工物18から矢線Xと反対方向への抗力を受けるが、ワイヤ11の外周面を覆う鍍金層12で粒状体13が強固に固着され、鍍金層12を覆う合成樹脂層14で砥粒15が固着され、且つ、各砥粒15はワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向に位置する粒状体13に接触した状態にあるため、ワイヤ進行方向と反対方向への各砥粒15の微小変位が発生し難い。
【0026】
即ち、切削加工中、被加工物18から砥粒15が受ける抗力によって生じる、ワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向への砥粒15の微小変位は、鍍金層12で固着された粒状体13でバックアップされることによって、最小限に抑制されるため、切削力の低下が発生せず、ワイヤ工具10は高い加工効率を発揮する。
【0027】
一方、切削加工中、被加工物18から砥粒15が受ける抗力によって生じるワイヤ11軸心に接近する方向(矢線Y方向)への砥粒15の微小変位は合成樹脂層14によって適度に維持されるため、被加工物18の加工面の面粗度は良好となる。
【0028】
また、ワイヤ工具10において、鍍金層12と砥粒15との間に砥粒15を含まない緩衝樹脂層16を設けたことにより、合成樹脂層14で固着された砥粒15が、被加工物18から受ける抗力によって生じるワイヤ11軸心に接近する方向(矢線Y方向)の微小変位を、緩衝樹脂層16によって増加させることができるため、被加工物18の加工面の面粗度向上に有効である。
【0029】
さらに、前述したように、ワイヤ11の長手方向に隣り合う粒状体13と砥粒15との隙間17を砥粒15の外径より小(ほぼゼロ)としたことにより、切削加工中に、砥粒15が被加工物18から受ける抗力によって生じる、ワイヤ11の進行方向(矢線X方向)と反対方向への砥粒15の微小変位が抑制されるので、加工効率の向上に有効である。
【0030】
ワイヤ工具10においては、鍍金層12で固着された粒状体13の個数と、合成樹脂層14で固着された砥粒15の個数とを略同数としているが、これに限定しないので、鍍金層12で固着された粒状体13の個数より、合成樹脂層14で固着された砥粒15の個数を大とすることもできる。粒状体13の個数よりも砥粒15の個数を大とすれば、切削加工中、合成樹脂層14で固着された砥粒15による切削が主となるため、被加工物の加工面の面粗度の向上に有効である。
【0031】
次に、図2に基づいて本発明の第二実施形態であるワイヤ工具20について説明する。図2に示すように、ワイヤ工具20は、ワイヤ21の外周面を覆う鍍金層22で固着されたバックアップ用の粒状体23と、鍍金層22を覆う合成樹脂層24で固着された砥粒25とを備え、合成樹脂層24にフィラー26が混在している。
【0032】
ワイヤ21の長手方向に隣り合う粒状体23と砥粒25との隙間27は砥粒15の外径より小さく、ほぼゼロに設定されている。ワイヤ21はピアノ線であり、鍍金層22はニッケル鍍金で形成され、合成樹脂層24は熱硬化性樹脂で形成され、粒状体23は及び砥粒25はダイヤモンド粒であり、フィラー26はシリカ(酸化ケイ素)であるが、これらに限定するものではない。
【0033】
図2に示すように、ワイヤ工具20を矢線X方向に移動させながら被加工物28を切削加工するとき、図1に示すワイヤ工具10の場合と同様、砥粒25は被加工物28から矢線Xと反対方向への抗力を受けるが、ワイヤ21の外周面を覆う鍍金層22で粒状体23が強固に固着され、鍍金層22を覆う合成樹脂層24で砥粒25が固着され、且つ、各砥粒25はワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向に位置する粒状体23に接触した状態にあるため、各砥粒25はワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向へ微小変位し難い。このため、ワイヤ工具20は、切削力の低下が発生せず、高い加工効率を発揮する。
【0034】
一方、切削加工中、被加工物28から砥粒25が受ける抗力によって生じるワイヤ21軸心に接近する方向(矢線Y方向)への砥粒25の微小変位は合成樹脂層24によって適度に維持されるため、被加工物28の加工面の面粗度は良好となる。
【0035】
さらに、ワイヤ工具20においては、合成樹脂層24にフィラー26を混在させたことにより、切削加工中、合成樹脂層24によって固着された砥粒25に加わる荷重を多数のフィラー26に分散させることができるだけでなく、ワイヤ工具20によって加工面に持ち込まれる切削液も増えるので、加工面の面粗度が向上する。なお、フィラー26としては、前記シリカ(酸化ケイ素)のほかに、SiC,Al,ダイヤモンド、cBN、ガラスなどの無機材料あるいは金属材料を使用することもできる。
【0036】
次に、図3に基づいて本発明の第三実施形態であるワイヤ工具30について説明する。図3に示すように、ワイヤ工具30は、ワイヤ31の外周面を覆う鍍金層32で固着されたバックアップ用の粒状体33と、鍍金層32を覆う合成樹脂層34で固着された砥粒35とを備え、鍍金層32で固着された粒状体33の粒径より、合成樹脂層34で固着された砥粒35の粒径を小としている。
【0037】
ワイヤ31の長手方向に隣り合う粒状体33と砥粒35との隙間37は砥粒35の外径より小さく、ほぼゼロに設定されている。ワイヤ31はピアノ線であり、鍍金層32はニッケル鍍金で形成され、合成樹脂層34は熱硬化性樹脂で形成され、粒状体33及び砥粒35はダイヤモンドであるが、これらに限定するものではない。
【0038】
図3に示すように、ワイヤ工具30を矢線X方向に移動させながら被加工物38を切削加工するとき、図1,図2に示すワイヤ工具10,20の場合と同様、砥粒35は被加工物38から矢線Xと反対方向への抗力を受けるが、ワイヤ31の外周面を覆う鍍金層32で粒状体33が強固に固着され、鍍金層32を覆う合成樹脂層34で砥粒35が固着され、且つ、各砥粒35はワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向に位置する粒状体33に接触した状態にあるため、各砥粒35はワイヤ進行方向(矢線X方向)と反対方向へ微小変位し難い。このため、ワイヤ工具30は、切削力の低下が発生せず、高い加工効率を発揮する。
【0039】
一方、切削加工中、被加工物38から砥粒35が受ける抗力によって生じるワイヤ31軸心に接近する方向(矢線Y方向)への砥粒35の微小変位は合成樹脂層34によって適度に維持されるため、被加工物38の加工面の面粗度は良好となる。
【0040】
さらに、ワイヤ工具30において、鍍金層32で固着された粒状体33の粒径より、合成樹脂層34で固着された砥粒35の粒径を小としたことにより、図3に示すように、合成樹脂層34で固着された砥粒35の先端を揃えることができるので、被加工物38の加工面の面粗度向上に有効である。
【0041】
なお、前述したワイヤ工具10,20,30においては、ワイヤ11,21,31の長手方向に隣り合う粒状体13,23,33と砥粒15,25,35との隙間17,27,37は、ほぼゼロに設定されているが、これらに限定するものではないので、隙間17,27,37はゼロより大きく砥粒15,25,35の外径より小さい値の範囲内で変更することが可能である。
【0042】
前記範囲内で隙間17,27,37を変化させることにより、切削加工中に被加工物18,28,38から砥粒15,25,35が受けるワイヤ進行方向(X方向)と反対方向への微小変位量を調整することができるので、切削性能及び被加工物18,28,38の面精度を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のワイヤ工具は、太陽電池シリコン、半導体シリコン、磁性体、サファイヤあるいはSiCなどのインゴットをスライス加工する産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10,20,30 ワイヤ工具
11,21,31 ワイヤ
12,22,32 鍍金層
13,23,33 粒状体
14,24,34 合成樹脂層
15,25,35 砥粒
16 緩衝樹脂層
17,27,37 隙間
18,28,38 被加工物
26 フィラー
X,Y 矢線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの外周面を覆う鍍金層で固着されたバックアップ用の粒状体と、前記鍍金層を覆う樹脂層で固着された砥粒と、を備えたことを特徴とするワイヤ工具。
【請求項2】
前記樹脂層に、無機材料若しくは金属材料のフィラーを混在させた請求項1記載のワイヤ工具。
【請求項3】
前記鍍金層と前記砥粒との間に砥粒を含まない緩衝樹脂層を設けた請求項1または2記載のワイヤ工具。
【請求項4】
前記ワイヤの長手方向に隣り合う前記粒状体と前記砥粒との隙間が前記砥粒の外径より小である請求項1〜3のいずれかに記載のワイヤ工具。
【請求項5】
前記鍍金層で固着された粒状体の個数より、前記樹脂層で固着された砥粒の個数が大である請求項1〜4のいずれかに記載のワイヤ工具。
【請求項6】
前記鍍金層で固着された粒状体の粒径より、前記樹脂層で固着された砥粒の粒径が小である請求項1〜5のいずれかに記載のワイヤ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−176459(P2012−176459A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40679(P2011−40679)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】