説明

ワックスの水素化分解方法

【課題】中間留分の収率及び潤滑油基材の収率の両方を高水準に達成できると共に、低温流動性に優れた軽油留分を製造可能なワックスの水素化分解方法を提供すること。
【解決手段】本発明のワックスの水素化分解方法は、第1の非結晶性固体酸を含有する第1の触媒層、ゼオライトを含有する第2の触媒層、及び第2の非結晶性固体酸を含有する第3の触媒層がこの順序で配置された触媒反応部を備える固定床反応装置において、水素の存在下、ワックスを、触媒反応部の第1の触媒層から第3の触媒層に向けて流通させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワックスの水素化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境にやさしいクリーンな液体燃料、すなわち硫黄分および芳香族炭化水素の含有量が低い燃料が求められている。そこで、クリーン燃料の製造法について様々な検討されており、その一つとしてフィッシャー・トロプシュ(FT)合成法が注目されている。FT合成法は、一酸化炭素と水素を原料とするもので、パラフィン含有量に富み且つ硫黄分を含まない液体燃料基材を製造することができるため、将来的にも期待されている。
【0003】
FT合成法においてはワックスが生成し得るが、このワックスを水素化分解し、その分解生成物をクリーン燃料の基材として用いることも可能である。この場合、一般的にガソリンや軽油の液体燃料基材として使用可能な中間留分が目的物となる。そこで、中間留分選択性を重視した液体燃料基材の製造方法が検討されている。例えば、特許文献1には、非結晶性シリカアルミナに白金を担持した触媒を使用してワックスから中間留分を製造する方法が記載されている。
【0004】
また、ワックスに含まれるノルマルパラフィンを水素異性化によってイソパラフィンに変換し、イソパラフィン含有量に富む生成物を潤滑油基材として使用することが検討されている。ワックスから潤滑油基材を製造する方法として、特許文献2には、非結晶性シリカアルミナにコバルト、モリブデン、ニッケルなどを担持した触媒を用いる方法、特許文献3には、ゼオライト系触媒を用いる方法が記載されている。
【特許文献1】特開平6−41549号公報
【特許文献2】国際公開第00/14183号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/081157号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に分解とは分子量の低下を伴う化学反応を意味し、異性化とは分子量を維持したままで他の化合物への転換を意味する。水素化分解では被処理炭化水素よりも低沸点の炭化水素が生成する。一方、水素異性化では被処理炭化水素の炭素数を維持したままでその分岐度が高められる。ワックスを被処理炭化水素として、これを触媒の存在下において水素化分解する場合、水素化分解反応及び水素異性化反応が複雑に絡み合いながらで進行する。
【0006】
ワックスから液体燃料基材や潤滑油基材を製造するための要素技術として、従来、これに使用する触媒の技術開発が精力的に行われてきた。しかしながら、水素化分解は、水素異性化に加え、水素移行や炭素析出などの反応も伴うものであり反応機構が複雑である。このため、触媒に焦点を当てた長年の研究開発にも関わらず、必ずしも所望の特性を有する分解生成物を得ることができなかった。
【0007】
具体的には、ワックスの水素化分解における目的物である中間留分の収率を十分に高水準とすることができなかった。また、異性化率が不十分であることに起因して中間留分、特に軽油留分の低温流動性が不十分となったり、潤滑油基材の収率が低水準に留まったりするといった問題が生じていた。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、中間留分の収率及び潤滑油基材の収率の両方を高水準に達成できると共に、低温流動性に優れた軽油留分を製造可能なワックスの水素化分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るワックスの水素化分解方法は、第1の非結晶性固体酸を含有する第1の触媒層、ゼオライトを含有する第2の触媒層、及び第2の非結晶性固体酸を含有する第3の触媒層がこの順序で配置された触媒反応部を備える固定床反応装置において、水素の存在下、ワックスを、触媒反応部の第1の触媒層から第3の触媒層に向けて流通させることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、三層の触媒層を備える触媒反応部において水素化分解反応及び水素異性化反応を進行せしめることによって、中間留分の収率及びノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の両方を高水準に達成することができる。中間留分の収率が十分に高いため、ワックスから液体燃料基材を効率的に製造することができる。また、異性化率を十分に高くすることができるため、得られる軽油留分及び潤滑油留分の低温流動性が十分に高くなる。
【0011】
なお、本発明でいう中間留分とは沸点150℃以上360℃以下の炭化水素を90質量%以上含有する留分を意味し、潤滑油留分とは沸点が360℃を超える炭化水素を90質量%以上含有する留分を意味する。また、軽油留分とは、中間留分の一部であって、沸点260℃以上360℃以下の炭化水素を90質量%以上含有する留分を意味する。
【0012】
また、本発明によれば、十分に高い収率で潤滑油基材を製造することが可能となる。潤滑油基材は、一般に、分解生成物の潤滑油留分に含まれるノルマルパラフィンを主成分とするワックス分の含有量を低減させる脱ろう処理を行うことで製造される。本発明の方法で得られる分解生成物に含まれる潤滑油留分は、水素異性化によってイソパラフィンの含有率に富んでいるため、脱ろう処理により除去されるノルマルパラフィンが少なく、潤滑油基材の高い収率が達成される。
【0013】
本発明においては、第2の触媒層がゼオライトとして、USYゼオライト(超安定化Y型ゼオライト)を含有することが好ましい。第2の触媒層がUSYゼオライトを含有すると、他の種類のゼオライトを含有する場合と比較し、水素化分解をより効率的に行うことができるためである。
【0014】
また、第1及び第3の触媒層が第1又は第2の非結晶性固体酸として、それぞれシリカアルミナ、シリカジルコニア及びシリコアルミノフォスフェートから選ばれる1種以上を含有することが好ましい。第1又は第2の非結晶性固体酸が上記非結晶性固体酸を含有すると、上記以外の非結晶性固体酸を含有する場合と比較し、異性化率をより向上させることができるためである。
【0015】
また、第1及び第3の触媒層がそれぞれ第1又は第2の非結晶性固体酸に担持された白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属を含有し、第2の触媒層がゼオライトに担持された白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属を含有することが好ましい。第1及び第3の触媒層、並びに、第2の触媒層において、非結晶性固体酸又はゼオライトに白金及び/又はパラジウムが担持された触媒を使用すると、これらの金属が担持されていない触媒を使用した場合と比較し、水素化分解をより効率的に行うことができるためである。
【0016】
本発明で使用するワックスは、フィッシャー・トロプシュ合成により得られるものであることが好ましい。FT合成法により得られるワックスは実質的に硫黄分や芳香族炭化水素などの環境負荷物質を含有しない。このため、原料のワックスがFT合成法により得られるものであると、環境負荷物質の含有量が十分に低減化された中間留分及び潤滑油基材が製造可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中間留分の収率及び潤滑油基材の収率の両方を高水準に達成できると共に、低温流動性に優れた軽油留分を製造可能なワックスの水素化分解方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係る固定床反応装置の好ましい一例を示す説明図である。図1に示した固定床反応装置は、反応塔10内で水素化分解及び水素異性化を行うもので、反応塔10内には触媒反応部1が配置されている。
【0019】
反応塔10の頂部には反応塔10内に水素を供給するためのラインL1が連結されており、ラインL1の反応塔10との連結部よりも上流側にはワックスを供給するためのラインL2が連結されている。これにより、ワックスを水素と共に反応塔10内に導入し、触媒反応部1を通過させてワックスの水素化分解及び水素異性化を行うことが可能となっている。また、反応塔10の底部には、分解生成物を抜き取るためのラインL3が連結されている。
【0020】
なお、図1には水素供給ラインL1とワックス供給ラインL2が合流している反応装置の例を示したが、水素供給ラインL1とワックス供給ラインL2とはそれぞれ別個に反応塔10に連結されていてもよい。また、ワックスの流通方向は、図1に示したように反応塔10の頂部側から底部側に向かう方向とすることが好ましい。
【0021】
触媒反応部1は、第1の非結晶性固体酸を含有する触媒層1a(第1の触媒層)と、ゼオライトを含有する触媒層1b(第2の触媒層)と、第2の非結晶性固体酸を含有する触媒層1c(第3の触媒層)とを備えている。触媒反応部1においては、触媒層1a、触媒層1b及び触媒層1cの順序でこれらの触媒層が上流側から下流側に向けて配置されている。なお、第1及び第2の非結晶性固体酸は、同一であっても相違するものであってもよい。
【0022】
触媒層1a及び触媒層1cを構成する非結晶性固体酸を含有する触媒(以下、「非結晶性固体酸触媒」という。)としては、水素化分解能及び水素異性化能を有する触媒であれば特に制限されないが、その担体として、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナボリア、シリカチタニア、シリカマグネシア、カオリナイト、アルミノフォスフェート及びシリコアルミノフォスフェートから選ばれる1種以上の非結晶性固体酸を含有する触媒を用いることが好ましく、シリカアルミナ、シリカジルコニア及びシリコアルミノフォスフェートから選ばれる1種以上の非結晶性固体酸を含有する触媒を用いることがより好ましい。
【0023】
また、非結晶性固体酸触媒としては、上記の担体上に、周期律表第VI族Aの金属及び/又は第VIII族の金属を担持させた触媒が好ましい。第VI族Aの金属としては、具体的には、クロム、モリブデン、タングステンなどが挙げられる。また、第VIII族の金属としては、具体的には、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらの中でも、パラジウム及び/又は白金が好ましく、白金がより好ましい。担体に担持させる金属量は特に制限はないが、好ましくは、担体に対して0.01〜2質量%であり、担体に担持させる金属がパラジウム及び/又は白金の場合、好ましくは、0.05〜2質量%である。触媒層1a及び触媒層1cを構成する非結晶性固体酸触媒が含有する金属は、同一であっても相違するものであってもよい。
【0024】
非結晶性固体酸触媒は、担体成型のためのバインダーを更に含有してもよい。バインダーは特に制限されないが、好ましいバインダーとしてはアルミナまたはシリカが挙げられる。担体の形状は特に制限されず、粒状、円柱状(ペレット)などの形状とすることができる。なお、触媒層1a及び触媒層1cを構成する非結晶性固体酸触媒が含有するバインダーは、同一であっても相違するものであってもよい。
【0025】
触媒層1bを構成するゼオライトを含有する触媒(以下、「ゼオライト系触媒」という。)は、水素化分解能及び水素異性化能を有する触媒であれば特に制限されないが、その担体として、USYゼオライト、HYゼオライト、モルデナイト、βゼオライト及びΩゼオライトから選ばれる1種以上のゼオライトを含有する触媒を用いることが好ましく、これらの中でもUSYゼオライトを含有する触媒と用いることが特に好ましい。ゼオライト系触媒の担体がUSYゼオライトを含んで構成される場合、担体に占めるUSYゼオライトの割合は特に制限されないが、分解生成物の軽質化の抑制の点から、USYゼオライトの割合は、担体全量を基準として、15質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0026】
また、USYゼオライトにおけるシリカ/アルミナのモル比は特に制限されないが、好ましくは20〜200、より好ましくは25〜100、最も好ましくは30〜60である。また、USYゼオライトの平均粒子径は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。なお、USYゼオライトの平均粒子径が1.0μmより大きいと、得られる分解生成物が軽質化する傾向にある。
【0027】
また、ゼオライト系触媒としては、上記の担体上に、周期律表第VI族Aの金属及び/又は第VIII族の金属を担持させた触媒が好ましい。第VI族Aの金属としては、具体的には、クロム、モリブデン、タングステンなどが挙げられる。また、第VIII族の金属としては、具体的には、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらの中でも、パラジウム及び/又は白金が好ましく、白金がより好ましい。担体に担持させる金属量は特に制限はないが、好ましくは、担体に対して0.01〜2質量%であり、担体に担持させる金属がパラジウム及び/又は白金の場合、好ましくは、0.05〜2質量%である。
【0028】
ゼオライト系触媒は、担体成型のためのバインダーを更に含有してもよい。バインダーは特に制限されないが、好ましいバインダーとしてはアルミナまたはシリカが挙げられる。担体の形状は特に制限されず、粒状、円柱状(ペレット)などの形状とすることができる。
【0029】
触媒反応部1における第1及び第2の非結晶性固体酸触媒、並びに、ゼオライト系触媒の充填量(容積)の比率は特に限定されないが、触媒層1bを構成するゼオライト系触媒の充填量を1容積部とすると、触媒層1aを構成する第1の非結晶性固体酸触媒の充填量は、0.5〜3容積部であることが好ましい。第1の非結晶性固体酸触媒の充填量が0.5〜3容積部の範囲外であると、範囲内である場合と比較し、中間留分の収率が低くなる傾向がある。
【0030】
一方、触媒層1bを構成するゼオライト系触媒の充填量を1容積部とすると、触媒層1cを構成する第3の非結晶性固体酸触媒の充填量は、0.5〜2.0容積部であることが好ましい。第3の非結晶性固体酸触媒の充填量が0.5未満であると、中間留分の収率が高くなるがその低温流動性が不十分となる傾向があり、他方、2容積部を超えると、中間留分の低温流動性が向上するがその収率が低くなる傾向がある。
【0031】
水素供給ラインL1を介して反応塔10に導入されるワックスとしては、例えば炭素数が15〜100、好ましくは炭素数が20〜60のノルマルパラフィンを30質量%以上含んだ石油系又は合成系ワックスが挙げられる。石油系ワックスとしてはスラックワックス、マイクロワックスなどを、合成系ワックスとしてはFT合成で製造されるいわゆるFTワックスを挙げることができる。環境負荷低減の観点から、ワックスとしてFTワックスが特に好適である。
【0032】
反応塔10における水素化分解の処理条件は特に制限されないが、反応温度は好ましくは250〜370℃、より好ましくは280〜330℃である。反応温度が250℃未満であると水素化分解が十分に進行しない傾向にある。他方、反応温度が370℃を超えると、水素化分解の中間留分の収率が低下し、また、分解生成物が着色する傾向にある。
【0033】
また、反応塔10における液空間速度は、好ましくは0.1〜10.0h−1、より好ましくは0.2〜3.0h−1である。液空間速度が0.1h−1未満であると、中間留分の収率が低下する傾向にある。他方、液空間速度が10.0h−1を超えると水素化分解が十分に進行しない傾向にある。
【0034】
また、反応塔10における反応圧力は特に制限されないが、水素分圧は、好ましくは0.5〜10.0MPa、より好ましくは2.0〜7.0MPaである。さらに、反応塔10における水素/油比は、好ましくは150〜1200NL/L、より好ましくは200〜700NL/Lである。
【0035】
ラインL3で移送される分解生成物には、通常、ナフサ(沸点145℃未満の留分)、中間留分(沸点145〜360℃の留分)及び潤滑油留分(沸点360℃を超える留分)が含まれ、これらの留分を分留することにより各種用途に応じた基材を得ることができる。
【0036】
低温始動性ないしは低温運転性の観点から、液体燃料基材として使用される中間留分の流動点が低いことが好ましい。特に、軽油留分(沸点260〜360℃の留分)の流動点は好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、さらにより好ましくは−20℃以下、さらにより一層好ましくは−25℃以下である。なお、ここでいう流動点とは、JIS K 2269−1987「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に準拠して測定される流動点を意味する。
【0037】
分解生成物から分留した潤滑油留分は流動点が十分に低くない場合には、所望の流動点を有する潤滑油基油を得るために脱ろうする。脱ろうは溶剤脱ろう法又は接触脱ろう法などの通常の方法で行うことができる。このうち、溶剤脱ろう法は一般にMEK、トルエンの混合溶剤が用いられるが、ベンゼン、アセトン、MIBK等の溶剤を用いてもよい。溶剤を用いた脱ろうは、溶剤/油比1〜6倍、ろ過温度−5〜−45℃、好ましくは−10〜−40℃の条件で行うことが好ましい。なお、ここで除去されるろう分は、スラックワックスとして、再び反応塔10に導入することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
<非結晶性固体酸触媒の調製>
(触媒A−1)
アルミナの含有率14質量%、細孔容積0.68ml/g、平均粒子径5μmのアモルファスシリカアルミナ60質量部に対し、バインダーとしてベーマイト(アルミナ)40質量部を添加した。アモルファスシリカアルミナ及びベーマイトからなる混合物をよく混練した後、φ1.6mm、長さ約2mmの円柱状の担体を成型し、これを焼成(焼成温度:500℃、保持時間:3時間)することより非結晶性固体酸を得た。この非結晶性固体酸にジクロロテトラアンミン白金(II)の水溶液を含浸し、非結晶性固体酸に対して0.5質量%の白金を担持した。これを乾燥、焼成(焼成温度:500℃、保持時間:1時間)することで触媒A−1を得た。
【0040】
(触媒A−2)
アルミナの含有率41質量%、五酸化リン56質量%及びシリカ3質量%からなるアルミノフォスフェート(SAPO−11)50質量部に対し、バインダーとしてベーマイト50質量部を添加した。アルミノフォスフェート及びベーマイトからなる混合物をよく混練した後、φ1.6mm、長さ約2mmの円柱状に成型し、これを焼成(焼成温度:500℃、保持時間:3時間)することより非結晶性固体酸を得た。この非結晶性固体酸にジクロロテトラアンミン白金(II)の水溶液を含浸し、非結晶性固体酸に対して0.5質量%の白金を担持した。これを乾燥、焼成(焼成温度:500℃、保持時間:1時間)することで触媒A−2を得た。
【0041】
<ゼオライト系触媒の調製>
(触媒Z−1)
シリカ/アルミナのモル比38、平均粒子径0.8μmのUSYゼオライト3質量部に対し、バインダーとしてベーマイト97質量部を添加した。USYゼオライト及びベーマイトからなる混合物をよく混練した後、φ1.6mm、長さ約2mmの円柱状に成型し、これを焼成(焼成温度:500℃、保持時間:3時間)することよりゼオライトを含有する担体を得た。この担体にジクロロテトラアンミン白金(II)の水溶液を含浸し、担体に対して0.6質量%の白金を担持した。これを乾燥、焼成(焼成温度:500℃、保持時間:1時間)することで触媒Z−1を得た。
【0042】
(実施例1)
<ワックスの水素化分解>
次に、図1に示した固定床反応装置の触媒層1aとして触媒A−1を100ml、触媒層1bとして触媒Z−1を100ml、触媒層1cとして触媒A−1を100mlそれぞれ充填し、ワックスの水素化分解を行った。なお、ワックスの水素化分解の実施に先立って、触媒反応部1内を水素の存在下、温度340℃にて2時間保持することによって各触媒の還元処理を行った。
【0043】
原料ワックスは沸点360℃を超えるFTワックスであり、この原料ワックスを反応塔10の頂部から200ml/hの速度で供給した。また、原料ワックスに対して水素/油比590NL/Lにて水素を塔頂より供給した。反応塔10の圧力は入り口圧4MPaで一定になるように背圧弁にて調整した。また、反応塔10における水素化分解温度は、ワックスの分解率が80質量%となるように調節したところ、312℃であった。ここで、ワックスの分解率とは、下記式(1)で定義される分解率を意味する。下記式(1)中、「分解生成物の合計質量」とは、水素化分解によって得られた生成油及び生成ガスの合計の質量であり、また、「沸点360℃未満の留分の質量」とは、分解生成物に含まれる沸点360℃未満の留分の質量である。
【数1】

【0044】
次に、得られた分解生成物を常圧蒸留することにより灯油留分(沸点145〜260℃の留分)、軽油留分(沸点260〜360℃の留分)及び潤滑油留分(沸点360℃を超える留分)のそれぞれに分留し、原料ワックスの質量を基準として各留分の収率を求めた。表1には、灯油留分及び軽油留分の収率を合計した中間留分(沸点145〜360℃の留分)の収率及びJIS K 2269−1987に準拠して測定した軽油留分の流動点の測定結果を示す。
【0045】
また、潤滑油留分を溶剤脱ろうすることによって潤滑油基材を製造した。溶剤としてメチルエチルケトン−トルエン混合溶剤を用い、溶剤/油比4倍、ろ過温度−20℃の条件で行った。原料ワックスの質量を基準として潤滑油基材の収率を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
触媒層1cとして触媒A−1の代わりに触媒A−2を100ml充填したことの他は、実施例1と同様にして、ワックスの水素化分解、溶剤脱ろう及び各種測定を行った。反応塔10における水素化分解温度は、ワックスの分解率が80質量%となるように調節したところ、310℃であった。測定結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
触媒層1bとして触媒Z−1を100ml充填し、触媒層1a及び触媒層1cを設けなったことの他は、実施例1と同様にして、ワックスの水素化分解、溶剤脱ろう及び各種測定を行った。反応塔10における水素化分解温度は、ワックスの分解率が80質量%となるように調節したところ、317℃であった。測定結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
触媒層1aとして触媒A−1を100ml、触媒層1bとして触媒Z−1を100ml充填し、触媒層1cを設けなかったことの他は、実施例1と同様にして、ワックスの水素化分解、溶剤脱ろう及び各種測定を行った。反応塔10における水素化分解温度は、ワックスの分解率が80質量%となるように調節したところ、314℃であった。測定結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
触媒層1bとして触媒Z−1を100ml、触媒層1cとして触媒A−1を100ml充填し、触媒層1aを設けなったことの他は、実施例1と同様にして、ワックスの水素化分解、溶剤脱ろう及び各種測定を行った。反応塔10における水素化分解温度は、ワックスの分解率が80質量%となるように調節したところ、315℃であった。測定結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
以上のように、非結晶性固体酸触媒、ゼオライト系触媒及び非結晶性固体酸触媒がこの順序で配置された三層構造からなる触媒反応部で水素化分解を行うことで、中間留分の収率及び潤滑油基材の収率の両方を高水準に達成できると共に、低温流動性に優れた軽油留分が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明で用いられる固定床反応装置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1…触媒反応部、1a…触媒層(第1の触媒層)、1b…触媒層(第2の触媒層)、1c…触媒層(第3の触媒層)、10…反応塔(固定床反応装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非結晶性固体酸を含有する第1の触媒層、ゼオライトを含有する第2の触媒層、及び第2の非結晶性固体酸を含有する第3の触媒層がこの順序で配置された触媒反応部を備える固定床反応装置において、水素の存在下、ワックスを、前記触媒反応部の前記第1の触媒層から前記第3の触媒層に向けて流通させることを特徴とするワックスの水素化分解方法。
【請求項2】
前記第2の触媒層がUSYゼオライトを含有することを特徴とする、請求項1に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項3】
前記第1及び第3の触媒層がそれぞれシリカアルミナ、シリカジルコニア及びシリコアルミノフォスフェートから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項4】
前記第1及び第3の触媒層がそれぞれ前記第1又は第2の非結晶性固体酸に担持された白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属を含有し、前記第2の触媒層が前記ゼオライトに担持された白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項5】
前記ワックスは、フィッシャー・トロプシュ合成により得られるものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のワックスの水素化分解方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−269902(P2007−269902A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95256(P2006−95256)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法30条の適用を受けるもの
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】