説明

ワークの位置決め具及びその位置決め方法

【課題】 構造を簡易にして、測定精度を向上させるワークの位置決め具及びその位置決め方法を提供する。
【解決手段】 測定台上に配置された6個の位相ガイド7に、内周面の6個の縦ボール溝10のそれぞれを嵌合させてセットされたワーク10の上端部W1に、内側クランパー61を装着する。次に、クランパー11が内側クランパー61に挿入されると、クランパー11の傾斜部62が、内側クランパー61のピン64に当接しながら下降するため、ピン64が周方向にスライドすると共に、内側クランパー61及びワークWが回転する。そして、各縦ボール溝10の一端が対応する位相ガイド7の一端に接触して、ワークWが周方向に位置決めされて固定されるので、測定中にワークWが周方向に揺動することなく、測定精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに使用され内周面に複数の縦ボール溝を有するアウタレースの諸寸法を測定するため、アウタレースの周方向の位置決めをするためのワークの位置決め具及びその位置決め方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、内周面の周方向に等角度の間隔を置いて複数形成された縦ボール溝を有するアウタレース(以下ワークと称す)の諸寸法を測定する際には、ワークを測定機にその周方向及び径方向の位置決めして固定すると共に、縦ボール溝のそれぞれに測定子先端の測定球を接触させる。そして、ワークを軸線方向に所定距離スライドさせて、上下方向の多点において、縦ボール溝それぞれの径方向の位置を各センサーにより測定し、その測定結果に基いて測定プログラムによりワークの諸寸法、例えばワークの中心、該中心から縦ボール溝までの距離及び対向する縦ボール溝間の距離等が演算される。
【0003】
そこで、内周面に複数の縦ボール溝を有するワークの諸寸法を測定する従来の測定方法を、図1〜図6に基いて簡単に説明する。
図5及び図6に示すように、ワークWの内周面に形成される複数の縦ボール溝10に、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置される位相ガイド7をそれぞれ嵌合させて周方向の位置決めをすると共に、ワークW内の上壁面中央の凹部43に垂直方向に延びる径方向ガイド棒40の上端の凸部44を嵌合させて径方向の位置決めをして、測定台5にセットする。
次に、図1及び図2に示すように、ロック付きエアシリンダ17を駆動させると共にクランパー11を下降させて、クランパー11がワークWの上端部の軸部W1に挿入されて軸元の端面W2を固定する。この時、各測定子46の先端の測定球50が各縦ボール溝10を常時押圧できるように、各測定子46は、常時引張バネ57により各縦ボール溝10側に付勢されている。
【0004】
そして、このように位置決めされ固定されたワークWを、各測定子46先端の測定球50が各縦ボール溝10に接触された状態で、上下方向に所定速度で所定距離移動させる。そして、各縦ボール溝10の上下方向の多点において、センサー54により各縦ボール溝10の径方向の位置が測定される。この測定された測定値に基いて測定プログラムによりワークWの諸寸法、例えばワークWの中心、該中心から縦ボール溝10までの距離及び対向する縦ボール溝10、10間の距離等が演算される。
【0005】
しかしながら、従来の測定機では、位相ガイド7の幅Xは、ワークWに設けた縦ボール溝10の開口幅Yの製作寸法公差における最小寸法に設定されているため、図6に示すように、縦ボール溝10の開口幅Yが位相ガイド7の幅Xよりも大きく、位相ガイド7と縦ボール溝10との間に隙間Zが生じ、ワークWを周方向に位置決めすることができず、上述した方法で測定している最中に、ワークWが周方向に隙間Z分だけ揺動し、測定精度を悪化させていた。
しかも、他の測定機で同様の測定を行ったワーク(マスター)を、上述した方法で測定する時にも、上述した同様のガタが生じ、マスター及び測定されるワーク全ての位置決めされる位置が相違するために、測定条件が一致せず、測定値もバラバラになり、ワークの高精度の測定ができなかった。
【0006】
そこで、上述したワークの測定機に対する周方向の位置決め手段として、特許文献1には、等速ボールジョイントに使用されるアウタレースのボール溝間寸法を自動的に測定する測定装置が開示されている。すなわち、この特許文献1には、まず、ワークが回転軸上にクランプされると共に、割出しモータにより回転軸が回転しつつワークを回転させて、ボール溝センサーにより、ボール溝が検出された角度位置でワークが位置決めされる。その後、ワークを軸方向にスライドさせると共に、ワーク内に一対の測定球を挿入して、これら測定球を対向する2つのボール溝のそれぞれに係合させる。この時さらに、ワークを割出しモータによって微細に回転させて、電気マイクロメータの出力が最大値となる角度位置、すなわち、測定球がボール溝に正確に合致した角度位置でワークが位置決めされ固定されることが開示されている。
【特許文献1】特開昭62−214312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の発明は、ワークを、一対の測定球が対向するボール溝に正確に係合する、すなわち一対の測定球の作動直線上に対向するボール溝が配置されるように、割出しモータにより2段階に分けて回転させて周方向の位置決めが成されているが、位置決めするための機構が複雑で、高価なものとなり、さらには、ワークを位置決めする際の時間が長くなる虞があり、測定する際の作業効率が非常に悪い。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、構造を簡易にして、測定精度を向上させるワークの位置決め具及びその位置決め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載したワークの位置決め具の発明は、内周面に測定箇所である複数の縦ボール溝を有するワークを、測定機に対してその周方向の位置決めをするワークの位置決め具において、前記複数の縦ボール溝のそれぞれに嵌合され、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置される位相ガイドと、前記ワークの端部に挿入され、該ワークを固定するクランパーと、該クランパーを前記ワークの端部に挿入させて固定する際に、前記ワークを周方向に回転させて、前記各縦ボール溝の一端を前記対応する位相ガイドの一端に接触させる回転手段と、を有することを特徴とするものである。
請求項2に記載したワークの位置決め具の発明は、請求項1に記載した発明において、前記回転手段は、前記クランパーと前記ワークとの間に介装され、前記ワークの端部に装着される内側クランパーと、該内側クランパーの所定部位から突設されるピンと、前記クランパーに設けられ、前記ピンが当接可能な傾斜部とからなり、前記クランパーを前記内側クランパーの端部に挿入させると、前記クランパーの傾斜部が前記内側クランパーのピンの端部に当接しつつ、前記ピンが前記傾斜部に沿ってスライドすると共に、前記内側クランパーと共に前記ワークが周方向に回転する構成であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載したワークの位置決め方法の発明は、内周面に測定箇所である複数の縦ボール溝を有するワークを、測定機に対してその周方向の位置決めをして固定する際には、まず、前記ワークの前記複数の縦ボール溝に、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置された位相ガイドをそれぞれ嵌合させてセットし、次に、クランパーを前記ワークの端部に挿入させて固定する際に、前記ワークを周方向に回転させると共に、前記各縦ボール溝の一端を前記対応する位相ガイドの一端に接触させた状態で位置決めして固定することを特徴とするものである。
請求項4に記載したワークの位置決め方法の発明は、請求項3に記載した発明において、前記ワークの前記複数の縦ボール溝に、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置される位相ガイドをそれぞれ嵌合させてセットする工程は、前記測定機から複数延び、前記ワークの周方向に屈曲自在である各測定子の先端の測定球を、前記ワークの前記各縦ボール溝のそれぞれに接触させる工程を含むことを特徴とするものである。
【0011】
従って、請求項1に記載したワークの位置決め具の発明では、クランパーがワークの端部に挿入されてワークを固定する際に、ワークが周方向に回転されて、ワークの各縦ボール溝の一端が対応する位相ガイドの一端に接触された状態で位置決め固定される。
請求項2に記載したワークの位置決め具の発明では、クランパーが内側クランパーの端部に挿入されると、クランパーの傾斜部が内側クランパーのピンの端部に当接し、ピンが傾斜部に沿ってスライドするので、内側クランパーと共にワークが周方向に回転される。
【0012】
請求項3に記載したワークの位置決め方法の発明では、まず、ワークの各縦ボール溝に位相ガイドをそれぞれ嵌合させてセットし、次に、クランパーをワークの端部に挿入させて固定する際にワークを周方向に回転させると、ワークは、各縦ボール溝の一端が対応する位相ガイドの一端に接触した状態で位置決めされて固定される。
請求項4に記載したワークの位置決め方法の発明では、クランパーをワークの端部に挿入させて固定する際にワークを周方向に回転させ、ワークが、各縦ボール溝の一端を対応する位相ガイドの一端に接触させた状態で位置決めされ固定された時、各測定子は、ワークの回転に伴って、ワークの周方向に屈曲して、先端の各測定球が各縦ボール溝に接触された状態が維持される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造を簡易にして、測定精度を向上させるワークの位置決め具及びその位置決め方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図7に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るワークの位置決め具は、図1〜図4に示す測定機に採用されており、まず、この測定機の主構成について詳細に説明する。
測定機は、図1〜図4に示すように、複数のフレーム及びプレートにより骨組みされた第1〜第3枠体1〜3により構成されており、第1枠体1及び第2枠体2は並設され、第3枠体3は、第1枠体1の下方に配置されている。
ワークWが載置される測定台5は、図1及び図2に示すように、第1枠体1の開口部1bを有する下部プレート1a上に固定されている。この測定台5は、複数のプレート材を組み合わせたブロック状に形成されると共に、その略中央で上下に貫通する開口部6を備え、測定台5の上面と下部フレーム1aとの間には図示しない弾性部材が組み込まれており、測定台5の上面が、下部フレーム1aに対して上下動する構成となっている。
【0015】
また、図1及び図2に示すように、測定台5の開口部6の上端周縁には位相ガイド7が立設されている。この位相ガイド7は、図6に示すように、円形の開口部6の上端周縁に等角度の間隔を置いてワークWの縦ボール溝10の数に対応する数(本実施の形態では6個)が配置されている。なお、位相ガイド7については後で詳述する。
【0016】
また、測定台5の上方には、図1及び図2に示すように、円筒状のクランパー11が移動台12に固定されている。この移動台12は、上下に延びる連結プレート13を介して上部プレート14に連結されている。これら移動台12及び上部プレート14には、それぞれ円筒状ガイド15、15が固定されている。これら円筒状ガイド15、15は、第1枠体1に固定されたガイド棒16に挿通されると共に、上方の円筒状ガイド15には、測定台5に並設され第1枠体1に固定されたロック付きエアシリンダ17のシリンダロッド18に連結されている。このロック付きエアシリンダ17は、シリンダロッド18を伸縮動作させ、シリンダロッド18を適宜の位置でロックさせる機能を備えている。
【0017】
さらに、図1及び図2に示すように、クランパー11の上方には、ロック付きエアシリンダ19が配置され、上部プレート14に固定されている。このロック付きエアシリンダ19は、シリンダロッド20を伸縮動作させ、シリンダロッド20を最大伸長位置でロックさせる機能を備えている。また、このロック付きエアシリンダ19のシリンダロッド20の下端には中間部プレート21が固定されている。この中間部プレート21の両側には、ロッド22、22がそれぞれ固定されている。これらのロッド22、22は、移動台12内を上下に移動可能で、その下端には下部プレート23を介して突起部24、24がそれぞれ設けられている。
【0018】
そして、ロック付きエアシリンダ17を駆動させると、シリンダロッド18が縮退動作して、ロック付きエアシリンダ19、移動台12及びクランパー11が一点鎖線で示す位置まで下降しつつ、クランパー11が内側クランパー61(図5参照)を介してワークWの上方に延びる円柱状の軸部W1に挿入されてワークWの軸元の端面W2を固定して、シリンダロッド18がロックされる。そして、ワークWがクランパー11により固定される。
次に、ロック付きエアシリンダ19を駆動させると、シリンダロッド20が伸長動作すると共に、上部プレート21に固定された2本のロッド22、22が移動台12内を下降して、それぞれ下端の突起部24、24が測定台5の上面を押圧してロックされる。この時、測定台5の上面は、突起部24、24により押圧されて所定距離下降して、位相ガイド7の上端がワークWの下端付近まで下降する形態となる。この構成により、ワークWの縦ボール溝10の上下方向の測定範囲を広げることが可能となっている。
【0019】
さらに、図3に示すように、第1枠体1は、上下動自在に第2枠体2に支持されている。すなわち、第1枠体1のフレーム30には、円筒状ガイド31を介して内面にネジ部を有する円筒状移動体32が連結されている。この円筒状移動体32は、サーボモータ34から延設され外周面にネジ部を有する棒状回転体33に装着されている。この棒状回転体33は、回転可能に第2枠体2のフレーム2aに支持されている。そして、サーボモータ34により棒状回転体33が回転されると円筒状移動体32と共に第1枠体1が上下方向に移動する構成となっている。そこで、円筒状移動体32の上下には、第2枠体2の上下に延設されるガイド棒35に挿通されるガイド体36、36がそれぞれ配置され、第1枠体1のフレーム30に固定されている。
【0020】
さらにまた、図4に示すように、第1枠体1に備えられた測定台5の下方には、第3枠体3が配置されており、この第3枠体3の下部フレーム3aの下方には、ワークWの上下方向の移動距離を測定する図示しないセンサーが配置されている。このセンサーから延びるシャフト41はシャフトガイドブロック42内を挿通してワークWの径方向の位置決めをする径方向ガイド棒40の下端に接触されている。この径方向ガイド棒40の下端は、円筒状プレート5bの中央に設けた固定部5aに固定されている。この円筒状プレート5bは、測定台5の底面に固定されると共に、下部プレート1aの開口部1bに配置されている。また、径方向ガイド棒40は、測定台5の開口部6の中央に延び、その上端に形成された台形状の凸部44が、ワークW内の中央上壁面に設けられた凹部43に係合するようになる。さらに、円筒状プレート5bの固定部5aの下方で、シャフトガイドブロック42との間には、径方向ガイド棒40を常時上方に付勢する圧縮バネ45がシャフト41の外周面に沿って配置されている。
【0021】
図4に示すように、径方向ガイド棒40の周りには、ワークWの縦ボール溝10(図6参照)の数に対応する数(本実施の形態では6本)の測定子46が円周上に等角度の間隔を置いて配列されている。これら測定子46は、上部に配される上部測定子47と、この上部測定子47と板バネ48を介して接続される下部測定子49とから構成されている。
【0022】
上部測定子47は、図4に示すように、その下部がプレート状で、中間部から上部までが棒状に形成されている。また、上部測定子47の上端には、外方に向けて測定球50が形成されている。この測定球50は、その直径がワークWの縦ボール溝10(図6参照)の直径と略同等に設定されている。また、測定子46は、板バネ48の部位で周方向に屈曲可能であり、先端の測定球50が矢印の方向にスイングできる構成となっている。
【0023】
下部測定子49は、図4に示すように、上部ブロック状測定子51と下部ブロック状測定子52とから構成され、上下に延在する縦ブロック状測定子53、53’により連結されている。また、上部ブロック状測定子51の端面に、センサー部54’が接触できるようにセンサー本体54が配置されており、このセンサー本体54は、第3枠体3の下部フレーム3aに固定されたL字状ブロック56の上部に固定されている。そして、このセンサ部54’より、測定子46先端の測定球50の位置(縦ボール溝10の径方向の位置)を検出することが可能となっている。
【0024】
また、図4に示すように、センサ部54’の下方には、引張バネ57が配され、その一端が縦ブロック状測定子53’に接続され、その他端がL字状ブロック56の中間部に接続されている。そして、引張バネ57により、常時、各測定子46先端の測定球50がワークWの縦ボール溝10(図6参照)を付勢するように構成されている。
【0025】
さらに、引張バネ57の下方には、エアシリンダ55が配置され、L字状ブロック56の中間部に固定されている。そして、ワークWの測定が終了すると、エアシリンダ55が駆動されて、シリンダロッド55’の先端が縦ブロック状測定子53の端面を押して、測定子46先端の測定球50を縦ボール溝10から離間させるよう構成されている。
なお、上述した構成は、測定子46の1本に対する構成であり、残りの5本の測定子46についても同様の構成が採用されている。
【0026】
そして、本発明の実施の形態に係るワークの位置決め具は、図5及び図6に示すように、ワークWの内周面の6個の縦ボール溝10のそれぞれに嵌合され、円周上に等角度の間隔を置いて6個配置される位相ガイド7と、上下にスライド可能で、ワークWの上端部の軸部W1に挿入されて、ワークWの軸元の端面W2を固定するクランパー11と、このクランパー11を下降させてワークWの上端部の軸部W1に挿入させて固定する際、ワークWを周方向に回転させて、各縦ボール溝10の一端を対応する位相ガイド7の垂直部8の一端に接触させる回転手段60とから構成されている。
【0027】
位相ガイド7は、前述したように、測定台5の開口部6の上端周縁に等角度の間隔を置いて6個配置されている。これら位相ガイド7は、図1及び図6に示すように、側面視形状が略L字状に形成されており、その垂直部8が、ワークWの内周面に形成された6個の縦ボール溝10にそれぞれ嵌合されるようになる。この垂直部8は、その上面視形状が略矩形状に形成されている。この垂直部8の長手方向の幅Xは、縦ボール溝10の開口幅Yよりも短いため、各位相ガイド7の垂直部8にワークWの縦ボール溝10のそれぞれが嵌合されると、各垂直部8の両端と各縦ボール溝10の開口両縁との間には隙間Zが生じるようになる。
【0028】
回転手段60は、図5及び図6に示すように、クランパー11とワークWの上端部の軸部W1との間に介装され、ワークWの軸部W1に装着される内側クランパー61と、該内側クランパー61の下端の環状フランジ部63から上方に突設されるピン64と、クランパー11の環状下端面65に設けられ、ピン64が当接可能な傾斜部62とから構成されている。この傾斜部62は、環状下端面65から反時計周り方向の斜め上方に傾斜させたものである。
【0029】
そして、このように回転手段60が構成されると、測定台5上の位相ガイド7のそれぞれに内周面の各縦ボール溝10を嵌合させてセットされたワークWの軸部W1の外周面に内側クランパー61の内周面を当接させるように装着する。その後、クランパー11を下降させて内側クランパー61の端部に挿入させる。すると、クランパー11の傾斜部62が内側クランパー61のピン64の上端に当接しながら下降し、ピン64が傾斜部62に沿って周方向にスライドして、内側クランパー61と共にワークWが周方向で反時計周り方向に回転する。そして、図7に示すように、それぞれの縦ボール溝10の一端が、対応する位相ガイド7の垂直部8の一端に接触してワークWの周方向の位置決めが可能となる。
なお、図5においては、ピン64及び該ピン64と対応する傾斜部62とは、1組しか形成されていないが、適宜の数を形成してもよい。
【0030】
次に、ワークWを上述した測定機に位置決めする方法を説明する。
まず、ワークWを、その内周面の6個の縦ボール溝10のそれぞれが、円周上に等角度の間隔を置いて6個配置された位相ガイド7のそれぞれに嵌合するように、且つ、ワークW内の中央上壁部の凹部43に、径方向ガイド棒40の上端に設けた凸部44を嵌合させて、測定台5にセットする。また、この時、エアシリンダ55のシリンダロッド55’は延出されておらず、6本の測定子46先端の測定球50が、引張バネ57により、それぞれ対応する縦ボール溝10を付勢する形態となっている。さらに、この段階では、位相ガイド7の垂直部8と縦ボール溝10と間には隙間Zが生じており、ワークWがしっかりと周方向に位置決めされていない形態となっている。
【0031】
次に、このワークWの軸部W1に内側クランパー61を当接させて装着した後、ロック付きエアシリンダ17を駆動させて、ロック付きエアシリンダ19、移動台12及びクランパー11を一点鎖線で示す位置まで下降させて、クランパー11を内側クランパー61の端部に挿入する。
すると、クランパー11の傾斜部62が内側クランパー61のピン64の上端に当接しながら下降し、ピン64が傾斜部62に沿って周方向にスライドすると共に、内側クランパー61と共にワークWが周方向で反時計周り方向に回転する。
そして、図7に示すように、それぞれの縦ボール溝10の一端が、対応する位相ガイド7の垂直部8の一端に接触してワークWが位置決めされ固定される。
また、これと同時に、6本の測定子46先端の測定球50は、ワークWの回転と同時にそれぞれの板バネ48がワークWの回転方向(反時計周り方向)に屈曲して、各縦ボール溝10との接触が維持される。
【0032】
次に、ロック付きエアシリンダ19が駆動されて、測定台5の上面が、2本のロッド22、22により押圧されて所定距離下降して、位相ガイド7の垂直部8の上端がワークWの下端付近まで下降した形態となる。
以上でワークWの位置決めが完了する。
【0033】
また、上述した位置決め方法における別の方法を説明する。
上述した位置決め方法では、ワークWを回転させる前に、予め、各測定球50を縦ボール溝10に接触させておき、その状態でワークWを回転させて位置決めを完了していたが、ワークWの位置決めが全て完了されるまでは、エアシリンダ55のシリンダロッド55’を延出させ、各測定球50を縦ボール溝10から待避させた状態としておく。そして、ワークWの回転が完了し全ての位置決めが完了した後に、エアシリンダ55のシリンダロッド55’を縮退させて、引張バネ57により、各測定球50を、ワークWの内周面に接触させると同時に、板バネ48をワークWの回転方向に屈曲させて、各測定球50を対応する縦ボール溝10のそれぞれに接触させるようにしている。この方法を採用することにより、ワークWの位置決めの最中にワークWに作用する荷重により、各測定子46が変形したり、損傷したりすることを防ぐ。
【0034】
そして、ワークWを、モータ34を駆動させることにより、上下方向に所定速度で移動させて、上下方向の多点において、全縦ボール溝10の径方向の位置が各センサー54により同時測定される。この測定された結果に基いて、測定プログラムによってワークWの諸寸法、例えばワークWの中心、該中心から縦ボール溝10までの距離及び対向する縦ボール溝10、10間の距離等が演算される。
【0035】
その後、ワークWの測定が完了すると、各エアシリンダ55が駆動されて、各測定子46先端の測定球50が各縦ボール溝10から離間されると共に、ロック付きエアシリンダ17によりクランパー11を元の位置に上昇させた状態として、測定後のワークWを取り外して、次のワークWを位相ガイド7に嵌合して、上述した動作が繰り返される。
【0036】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、測定台5上に配置された6個の位相ガイド7に、内周面の6個の縦ボール溝10を嵌合させてセットされたワークWの軸部W1に、内側クランパー61を装着する。その後、クランパー11を内側クランパー61に挿入すると、クランパー11の傾斜部62が、内側クランパー61のピン64に当接しながら下降して、ピン64が周方向にスライドすると共に、内側クランパー61と共にワークWが回転する。そして、それぞれの縦ボール溝10の一端が対応する位相ガイド7の垂直部8の一端に接触して、ワークWが周方向に位置決めされて固定される。
【0037】
これにより、ワークWをモータ34を駆動させて、上下方向に移動させても、ワークWはしっかりと位置決め固定されているので、ワークWが測定中に周方向に揺動せず、測定精度を向上させることができる。しかも、ワークWのマスターを測定する際でも、マスターを上述したように回転させて位置決めして測定するため、マスターと、測定されるワークWとは、位置決め固定される位置が近似され測定条件が一致するので、ワークWの測定結果をマスターと比較でき、ワークWの高精度な測定が可能となる。
さらに、本発明の実施の形態に係るワークの位置決め具は、複雑な構造及び制御を採用せず、構造を簡易にしているため、安価なワークの位置決め具を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るワークの位置決め具を採用した測定機の正面の上部を示した図である。
【図2】図2は、図1の測定機の側面の一部を示した図である。
【図3】図3は、図1の測定機の側面の一部を示した図である。
【図4】図4(a)は、図1の測定機の正面の下部を示し、図4(b)は、測定子を拡大して示した図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係るワークの位置決め具を拡大した図である。
【図6】図6は、ワークの縦ボール溝が位相ガイドに嵌合された上面図である。
【図7】図7は、ワークが回転されて縦ボール溝の一端が位相ガイドの一端に接触した状態を示した上面図である。
【符号の説明】
【0039】
7 位相ガイド、10 縦ボール溝、11 クランパー、46 測定子、50 測定球、
60 回転手段、61 内側クランパー、62 傾斜部、64 ピン、W ワーク、W1 軸部(端部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に測定箇所である複数の縦ボール溝を有するワークを、測定機に対してその周方向の位置決めをするワークの位置決め具において、
前記複数の縦ボール溝のそれぞれに嵌合され、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置される位相ガイドと、前記ワークの端部に挿入され、該ワークを固定するクランパーと、該クランパーを前記ワークの端部に挿入させて固定する際に、前記ワークを周方向に回転させて、前記各縦ボール溝の一端を前記対応する位相ガイドの一端に接触させる回転手段と、を有することを特徴とするワークの位置決め具。
【請求項2】
前記回転手段は、前記クランパーと前記ワークとの間に介装され、前記ワークの端部に装着される内側クランパーと、該内側クランパーの所定部位から突設されるピンと、前記クランパーに設けられ、前記ピンが当接可能な傾斜部とからなり、前記クランパーを前記内側クランパーの端部に挿入させると、前記クランパーの傾斜部が前記内側クランパーのピンの端部に当接しつつ、前記ピンが前記傾斜部に沿ってスライドすると共に、前記内側クランパーと共に前記ワークが周方向に回転する構成であることを特徴とする請求項1に記載のワークの位置決め具。
【請求項3】
内周面に測定箇所である複数の縦ボール溝を有するワークを、測定機に対してその周方向の位置決めをして固定する際には、まず、前記ワークの前記複数の縦ボール溝に、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置された位相ガイドをそれぞれ嵌合させてセットし、次に、クランパーを前記ワークの端部に挿入させて固定する際に、前記ワークを周方向に回転させると共に、前記各縦ボール溝の一端を前記対応する位相ガイドの一端に接触させた状態で位置決めして固定することを特徴とするワークの位置決め方法。
【請求項4】
前記ワークの前記複数の縦ボール溝に、円周上に等角度の間隔を置いて複数配置される位相ガイドをそれぞれ嵌合させてセットする工程は、前記測定機から複数延び、前記ワークの周方向に屈曲自在である各測定子の先端の測定球を、前記ワークの前記各縦ボール溝のそれぞれに接触させる工程を含むことを特徴とする請求項3に記載のワークの位置決め方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−162549(P2006−162549A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358375(P2004−358375)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】