説明

ワークの加工方法、ワークの加工用光照射装置およびそれに用いるプログラム

【課題】レーザ光をワークに照射しながら、前記レーザ光と前記ワークとを相対的に移動させて前記ワークを所定の深さまで融解するレーザ加工方法において、ワーク温度が不均一になる場合でも、前記深さを一定にする。
【解決手段】前記ワークの被照射部と異なる位置のワークの温度を測定し、前記深さと前記温度とから出力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ等の光をワークに照射しながら、光とワークの少なくとも一方を走査してワークを熱処理するワークの加工方法、ワークの加工用光照射装置およびそれに用いるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光をワークに照射しながら、レーザ光とワークの少なくとも一方を走査してワークを熱処理するとして、レーザ溶接やアニーリング、ドーピング、表面改質などがある。これらの加工では、レーザはワークに組織変化や融解など所望の加工を施すための加熱源として用いられる。またこれらの加工では、多くの場合レーザにより改質や融解させる深さをワーク内の位置によらず均一にすることが望まれる。
【0003】
特許文献1には、COレーザ溶接に係り、溶接部の溶込み深さと溶接ビート幅を一定とするため、溶接部後部の温度及び溶接幅を計測し、計測した温度と溶接幅があらかじめ設定した温度と溶接幅となるように被溶接物への入熱を制御する技術が開示されている。
【0004】
図5に特許文献1に係る装置の構成を示す。図5において、レーザ発振器101からのレーザ光103は、光学ミラー102で光路変換後、レーザ光の集光レンズ104で集光され、被溶接物120に照射される。光学ミラー102と集光レンズ104の間にハーフミラー106がレーザ光に対し45°の傾きで配置されている。ハーフミラー及び集光レンズはケース121で一体的に構成されている。この部分をレーザ溶接ヘッドと以下呼称する。溶接ヘッドの近傍には溶接部の溶解プール105の後部の温度検出用の赤外線集光ヘッド107が溶接ヘッドに固定されている。溶接部からの赤外線を赤外線集光ヘッド107で集光し、光ファイバ112で赤外線温度検出器115へ伝送する。赤外線温度検出器115では、伝送された赤外線の波長を光フィルタ113で限定し、赤外線検出器114に入射させる。ここで光電変換し、増幅器116で増幅する。すなわち、増幅器116の出力電気信号の大小は溶接部の温度に対応することとなる。増幅器116からの温度信号は、マイクロコンピュータ117で処理され、検出温度と設定温度が一致するようにレーザ照射出力の制御装置119を介して、レーザ発振器101の出力を制御する。
【0005】
一方、溶接ヘッドのハーフミラー106の部分には、溶接部を撮像するためのテレビカメラ109及びレンズ108がある。ハーフミラー106はCOレーザ光を透過し、可視光を反射する特性のミラーである。テレビカメラからの映像信号は画像信号処理装置110により2値化処理され溶接式部の溶接プール105の幅を検知する。またモニタテレビ111に溶接部は映し出され、監視用として用いられる。画像信号処理装置110からの出力すなわち溶解プール幅の信号はマイクロコンピュータ117で処理され、検出した溶接幅と設定した溶解幅が一致するように、レーザ光の集光レンズ104の位置をレンズ上下移動機構118を介して、被溶接物に対する集光したレーザ光の焦点位置を制御する。
【0006】
また、特許文献2に、所望の温度上昇カーブと施工条件が得られる光ビーム加熱装置が開示されている。
【0007】
図6に特許文献2記載の光ビーム加熱装置の構成図である。光ファイバ201とレンズ202等で照射手段が構成され、照射光203により被加熱物204を施工することができる。206は加熱中に被照射部205に供給される供給物質であり、207は供給物質送給装置である。208は被照射部205の温度を測定するための温度センサであり、209は温度センサ208からの温度測定データを記録する温度記録部である。210は温度記録部209からの温度測定データから被照射部205の熱定数を演算する熱定数演算部である。図6のフローチャートは処理の流れを示す。DATA(Tn,tn)は温度記録部209に記録される温度測定データで、測定温度Tnと測定時間tnから構成される。熱定数演算部210には温度上昇関数T(t)=f(R,C,P,t)+Taが予め準備されている。温度上昇関数T(t)は従属変数で、時間tは独立変数である。また、この温度上昇関数T(t)は、媒介変数として放熱抵抗Rと熱容量Cと照射出力P、定数項として周囲温度Taを含んでいる。媒介変数のうち放熱抵抗Rと熱容量Cが熱定数であって、被照射部205固有の値となる。周囲温度Taは照射によって加熱される前の被照射部5、または被加熱物204の温度として表現される場合もある。
【0008】
温度上昇関数T(t)を構成する変数のうち、照射出力Pと周囲温度Taの値はパワー測定器と温度計によって照射前に知ることができるため定数となる。照射出力Pと周囲温度Taの測定値と温度測定データDATA(Tn,tn)を温度上昇関数T(t)に代入し、熱定数である放熱抵抗Rと熱容量Cについて解を求める。
【0009】
求めた被照射部205固有の熱定数である放熱抵抗Rと熱容量Cによって、温度測定データを関数として表現できる。また、その関数式に任意の照射出力Pと周囲温度Taを代入することによって任意の温度上昇カーブを得ることができ、また演算した熱定数と所望の温度条件から施工条件設定値を得ることができる。
【0010】
また、特許文献3に、レーザアニール対象物のレーザビーム入射位置の融解部分の深さを計測する技術が開示されている。
【0011】
図7に、特許文献3記載のレーザアニール装置の概略図を示す。XYステージ301がアニール対象である半導体基板302を保持し、その表面に平行な2次元方向に移動させる。半導体基板302の表面に平行な面をxy面とし、基板の法線方向をz軸とするxyz直交座標系を定義する。図5は、y軸に平行な視線で見たときの概略図を示す。
【0012】
アニール用レーザ光源305が、制御装置350からのトリガ信号sig1に同期して、アニール用パルスレーザビームLaを出射する。
【0013】
アニール用レーザ光源305から出射されたレーザビームLaが、整形均一化光学系306を経由して、XYステージ301に保持された半導体基板302に入射する。整形均一化光学系306は、半導体基板302の表面におけるレーザビームの断面を、y軸方向に長い長尺形状にし、かつ面内における光強度分布を均一化させる。XYステージ301を駆動して半導体基板302をx軸方向に移動させながら、パルスレーザビームを入射させる主走査工程と、半導体基板302をy軸方向にずらす副走査工程とを繰り返すことにより、半導体基板302の表面のほぼ全面をレーザアニールすることができる。XYステージ301は制御装置350により制御される。
【0014】
測定用光源310が、測定用レーザビームを出射する。測定用光源310から出射された測定用レーザビームが、パルス化装置311、光ファイバ312、レンズ313を経由して、半導体基板302の、アニール用パルスレーザビームが入射する領域内に入射する。
【0015】
半導体基板302の表面で反射された測定用レーザビームの反射光が、レンズ320、第1のフィルタ321、第2のフィルタ322、光ファイバ323を経由して、反射光検出器324に入射する。第1のフィルタ321は、波長が530nmよりも短い光を遮光し、第2のフィルタ322は、波長が700nmよりも長い光を遮光する。第1のフィルタ321及び第2のフィルタ322により、アニール用レーザビームの入射により発生したプルームからのプラズマ光、及び温度上昇による黒体放射光等が遮光され、主として測定用レーザビームの反射光のみが反射光検出器324に入射する。
【0016】
反射光検出器324は、反射光の強度を電気信号に変換する。電気信号に変換された反射光の強度信号sig2が制御装置350に入力される。
【0017】
パルスレーザビームLaの1つのレーザパルスが半導体基板302に入射すると、その表層部が一時的に融解し、レーザパルスの入射が終了すると、融解した部分が再結晶化する。表層部が融解している期間、反射率が高くなるため、反射光強度信号sig2が大きくなる。
【0018】
反射光強度が、バックグランドレベルから最大値までの上昇分の1/2の大きさまで上昇した時点から、1/2の大きさまで低下した時点までの経過時間を、融解時間とした。制御装置350は、式(1)に基づいて、融解時間τから融解深さhを算出することができる。
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、C、Cは定数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開昭59−212184号公報
【特許文献2】特開平11−221683号公報
【特許文献3】特開2008−117877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、特許文献1記載の技術において、溶接部後部の温度及び溶接幅を一定としたとしても、常に溶込み深さが一定となるとは言えない。特許文献1記載の技術において、測定している温度は被溶接部材の表面の温度である。溶接の進行等に伴って被溶接部材の温度が変化した場合、特許文献1記載の技術を用いて溶接部後部の表面の温度を一定とするよう制御しても、その深部の温度が常に一致するとは言えない。すなわち、溶込み深さが一定となるとは言えない。
【0023】
また、特許文献2記載の技術も、周囲温度Taを定数としており、溶接の進行等に伴って周辺温度Taが変化する場合は考慮されていない。そのため、周辺温度Taが変化に伴い放熱抵抗Rと熱容量Cの算出に誤差を生じる可能性がある。また、加熱によって被照射物を所定の深さまで融解させるための技術ではないため、係る用途に用いることができない。
【0024】
また、特許文献3記載の技術では、式(1)に係る算出において、半導体基板302に与えられたエネルギのうち熱伝導等による損失分を一定と仮定しているが、半導体基板302のレーザ照射前の温度が一定でない場合、前記損失分が変化することになるため、融解深さhの算出に誤差を生じる。
【0025】
例えば、レーザ光をワーク上に照射しながらスキャンする場合、レーザ照射領域からの熱伝導によりワーク面内で温度ムラが生じる。このため、融解深さの算出に誤差を生じる。また、融解時間τまたはレーザ出力を一定に保ってワークをスキャンしても融解深さが不均一になる。
【0026】
図8に、ワーク上に円形のレーザ光をスキャンしながら照射して直線を等間隔に描く場合の、ワーク上の温度分布を等温線で模式的に示す。図8(a)はワーク上の点P1からレーザ照射を開始する直前における温度分布を示す。図8(a)において基板面内の温度Tiは一定であるため、等温線はワーク上に無い。その後、レーザ照射が行なわれるにつれて、レーザ光の照射によってワークに加えられた熱はワーク内に熱伝導で広がり、ワークの温度は上昇する。そのため、図8(b)に示す4本目のスキャンを点P3より開始する直前においては、3本目のスキャンの終了点P2を中心とした温度勾配が生じる。また、点P3におけるレーザ照射する直前の温度Ti’はTiより高い。そのため、点P1におけるレーザ出力と点P3におけるレーザ出力を同じとした場合、点P3における融解深さの方が点P1における融解深さより深くなる。また、点P1における融解時間と点P3における融解時間とを同じとしても点P3における融解深さは点P1における融解深さより深くなる。
【0027】
また、特許文献3記載の技術はパルス照射における融解時間τを用いて深さを算出する技術であるので、レーザ光等を連続照射する場合は融解深さを算出することができない。
【0028】
上記の問題を鑑み、本発明は、所望の融解深さまでワークを融解させる加工方法、光照射装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【0029】
また、本発明は光照射域からの熱伝導などでワークの温度が不均一となる場合でも、融解深さを一定とする加工方法、光照射装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【0030】
また、本発明は、連続照射する光出射器を用いて、融解深さを一定とする加工方法、加工装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するために、本発明の加工方法は、光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて、前記ワークを所定の深さまで融解する加工方法において、前記被照射部と異なる位置のワークの温度Txを測定し、前記深さと前記温度Txから前記光の出力を制御することを特徴とする。
【0032】
また、前記被照射部の温度Tsを測定し、前記温度Ts、前記温度Tx及び前記出力から前記出力を制御することを特徴とする。
【0033】
また、前記出力の制御は、前記温度Ts、前記温度Tx及び前記出力から前記被照射部の表面温度の論理値を算出し、前記温度Tsを論理値に近づけるよう行われることを特徴とする。
【0034】
また、前記論理値と前記温度Tsとの比率を前記出力の補正係数αとして、前記光の出力の制御を行うことを特徴とする。
【0035】
また、前記異なる位置は、前記被照射部から前記光の走査方向前方に所定距離離れた位置であることを特徴とする。
【0036】
また、前記温度Txとして、所定の時間だけ以前に測定された温度を用いることを特徴とする。
【0037】
また、前記異なる位置は、前記被照射部の裏面であることを特徴とする。
【0038】
また、本発明のプログラムは、光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて前記ワークを熱処理する光照射装置を制御するプログラムであって、前記プログラムは、前記ワークの被照射面上の前記光が照射される位置である被照射部と異なる位置のワークの温度Txを測定するステップと、前記深さと前記温度Txとから出力を算出するステップと、前記算出するステップに基づき前記光の出力を制御するステップと、からなることを特徴とする。
【0039】
また、本発明者の光照射装置は、光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて前記ワークを所定の深さまで融解する光照射装置であって、光出射器と、前記被照射部と異なる位置の温度Txを測定する周辺用温度計と、
前記深さと前記温度Txとから出力を算出する演算部と、前記出力に前記光の出力を制御する制御部と、を備えることを特徴とする光照射装置。
【0040】
また、前記光出射器は、前記光の走査方向と直交する方向に開口寸法を調整可能な絞りと、前記絞りの像を結像させる結像レンズと、を備えることを特徴とする。
【0041】
また、前記被照射部と異なる位置は、被照射部を中心とした位置を移動可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、融解深さを所望の深さまでワークを融解させる光照射を行なうことができる。
【0043】
また、周辺温度計によって測定された照射前の温度Txに基づいて、光の出力Qを算出するので、融解深さを一定とすることができる。
【0044】
また、連続照射する光出射器を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施の形態に係るレーザ光照射装置の構成を示す模式図である。
【図2】本実施の形態に係るレーザ加工方法の制御の流れを示すフローチャートである。
【図3】本実施の形態に係る常温から準定常状態となるまでの温度変化をグラフである。
【図4】本実施の形態に係るレーザ光照射装置の構成を示す模式図である。
【図5】従来技術に係るCOレーザ溶接に用いる装置の概略図である。
【図6】従来技術に係る光ビーム加熱装置の概略図である。
【図7】従来技術に係るレーザアニール装置の概略図である。
【図8】ワーク上の温度分布を等温線で示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態であるワークの加工方法、ワークの加工用光照射装置およびそれに用いるプログラムについて詳細に説明する。
【0047】
以下において、光の照射による加熱によって少なくともその表面の一部を融解させる被加工対象物をワークと呼ぶ。本発明に実施形態に係るワークの加工方法の用途としては、半導体ウェファをワークとするドーピング処理や再結晶化のためのレーザアニール等がある。また、ハンダ付けや溶接等、被加工対象物を融解させる目的であれば他のワークにおいても適用可能である。
【実施例1】
【0048】
図1は、光照射装置の構成を示す模式図である。光出射器であるレーザ発振器2は、制御部7からの信号を受けてレーザ光を発振し、レーザ光をワーク3の被照射面に照射する。照射されるレーザ光は、被照射面において半径20μmの円形の均一なエネルギ分布をもつ。ワーク3は移動部であるステージ8上に支持されており、レーザ光照射装置1は、ステージ8の動作によって、ワーク3をレーザ光の光軸に対して相対移動することができる。本実施の形態のレーザ光照射装置は、レーザ光を照射しながらステージ8を動作させることで、ワーク3の被照射面において任意のパターンに沿ってレーザ光を照射し、熱処理することができる。
【0049】
ワーク3の上方には、2つの放射温度計が設置される。一方はワーク3の被照射面上のレーザ光が照射される位置(以下、被照射部と呼ぶ)においてワーク3の表面温度を測定する被照射部用温度計5であり、前記被照射部に焦点を合わせて設置される。
【0050】
もう一方の周辺用温度計4はワーク3の被照射部と異なる位置の温度を測定するため、前記異なる位置に焦点を合わせて設置される。周辺用温度計4が焦点を合わせる位置は、被照射部からの熱伝導が無視できる程度に、被照射部から離れていることが必要である。本実施例においては、前記熱伝導から生じる被照射部の温度における誤差を、被照射部における温度上昇量の1%以下とするため、周辺温度計4が焦点を合わせる位置と被照射部との距離xを0.2mmとした。
【0051】
前記異なる位置は、被照射部からステージ8の送り方向の反対方向、換言すると、レーザ光の走査方向前方に距離x離れた被照射面上の位置とする。
【0052】
また、周辺用温度計4が焦点を合わせる位置は、被照射部を中心とした位置を移動可能に構成されていることが望ましい。該構成では、レーザ光の走査方向を変更する場合に、周辺用温度計4が焦点を合わせる位置を回転移動させるだけで、周辺用温度計4が焦点を合わせる位置をレーザ光の走査方向前方とすることができ、かつ距離xが変化することが無い。従って、レーザ光の走査方向を任意に変更することが可能となる。
【0053】
また、スキャンの方向に応じて被照射部用温度計5と周辺用温度計4とを入れ変えて用いても良い。この場合、周辺用温度計4が焦点を合わせる位置を被照射部とし、被照射部用温度計5が焦点を合わせる位置をレーザ光の走査方向前方とするために、被照射部用温度計5が焦点の合わせる位置、周辺用温度計4が焦点の合わせる位置、または被照射部の位置を移動させることが必要である。
【0054】
2つの放射温度計は、演算部6に接続され、温度の測定値は演算部6に入力される。演算部6はプログラムを記憶する記憶部と、プログラムを実行するCPUとを備え、記憶されたプログラムは、本実施例のレーザ光照射装置を制御して、周辺用温度計4および被照射部用温度計5から入力された測定値に基づき、レーザ発振器2が出射すべきレーザ光の出力を算出し、本実施例の加工方法を実行するよう構成される。
【0055】
演算部6は制御部7に接続され、算出した結果を制御部7に入力できるように構成される。レーザ発振器2からワーク3までのレーザ光の軸上に、開口寸法を調整可能な絞り9と絞り9の像を結像させる結像レンズ10が設置され、ワーク3に照射されるレーザ光の形状を調整することができる。
【0056】
なお、本実施例のレーザ光照射装置1においては、レーザ光の光軸とワーク3との少なくとも一方を移動させることにより、相対的に移動できれば良い(本明細書では、該移動を「スキャン」と呼ぶこととする)。すなわち、本実施例のレーザ光照射装置1は、ステージ8を固定ステージとし、レーザ発振器2、周辺用温度計4、被照射部用温度計5、絞り9、結像レンズ10を移動させる移動部を代わりに備えても良い。
【0057】
図2は本実施例のレーザ加工方法の制御の流れを示すフローチャートである。以下、図1、図2を用いてワークを所定の深さzまで融解する本実施例のレーザ加工方法の手順を説明する。
【0058】
まずS1において、演算部6が記憶する変数である補正係数αに初期値として1を入力する。次にS2において、周辺用温度計4が周辺温度Txを測定し、演算部6が前記周辺温度Txを記憶する。
【0059】
次にS3において、演算部6が、所望の融解深さzと前記周辺温度Txとから必要なレーザ光の出力Q[W]を算出する。前記算出には、演算部6に記憶された周辺温度Txのうち、距離xをスキャン速度vで割った時間x/vだけ以前に測定した周辺温度Txを用いる。前記Txは、出力Q算出時において被照射部に位置するワーク3表面の以前の温度である。但し、スキャン開始またはTx測定開始からの経過時間がx/v[sec]未満の時は、レーザ光の走査開始時またはTx測定開始時(開始時からの経過時間が0sec)の値を用いる。本実施例においては、x=0.2mm、v=100mm/秒であるので、x/v=0.002秒とした。
【0060】
なお、出力Qの算出時と該出力Qに制御されるレーザ光の照射時とのタイムラグΔtを用いて、時間x/v−Δtだけ以前に測定したTxを出力Qの算出に用いても良い。この場合、該出力Qに制御される前記レーザ光の照射時において被照射部に位置するワーク3表面の以前の温度を該出力Qの算出に用いることになる。
【0061】
本実施例においては、前記被照射部からレーザ光の走査方向前方に離れた位置で周辺温度Txを測定するよう構成したことによって、また、出力Qの算出時または該出力Qに制御される前記レーザ光の照射時において被照射部に位置するワーク3表面の以前の温度を該出力Qの算出に用いることにより、温度Txの測定位置と被照射部とのワーク3における位置が異なることによる測定誤差を無くすことができる。
【0062】
前記算出の原理について、詳細に説明する。「日経技術図書株式会社 レーザプロセシング 220-221」によれば、半径aの円形均一分布熱をもつ移動熱源に対する温度上昇量θ(r,z)[K]とワークが吸収する熱流束q[W/m]との定常状態における関係は、式(2)で与えられる。
【0063】
【数2】

【0064】
v:スキャン速度、k:熱拡散率、λ:熱伝導率である。
【0065】
ここで、レーザ照射前の深さzにおける温度をTxと仮定し、被照射部直下の深さzにおいて温度が融点Tmに達すると仮定すると、式(2)においてθ(0,z)=Tm−Tx,r=0であり、代入して整理すれば必要な出力Q[W]は式(3)で与えられる。
【0066】
【数3】

【0067】
A:ワーク表面の吸収率、α:補正係数とする。
【0068】
式(3)のQには、ワークの融解熱が考慮されていないので、融解熱に相当する上昇温度として、βΔTを加える。βΔT加算後の式を式(4)に示す。
【0069】
【数4】

【0070】
ΔTは、ワーク3の融解熱L[J/kg]と比熱c[J/kg・K]を用いて、ΔT=L/c[K]として算出した値である。また、βは補正係数であり、事前の照射実験における熱量Qと融解深さzとの関係に基づき算出した値である。式(4)によれば、半径aの円形均一分布熱をもつ移動熱源によって、深さzまで融解させるに必要な熱量Qを算出することができる。
【0071】
次に、S4において制御部7は、演算部6が算出した熱量Qに基づきレーザ発振器2を発振させ、レーザ光を照射させる。
【0072】
次に、S5において、被照射部用温度計5が被照射部の表面温度Tsを測定する。
【0073】
次に、S6において、演算部6は、被照射部の表面温度の論理値Ts’を式(2)に用いて、Ts’=θ(0,0)+Tx−ΔTとして算出する。なお、θ(0,0)算出にあたり、qとして、出力Qをその照射面積πaで除した値を用いる。次に、S5において測定したTsと前記論理値Ts’とを用いて、前記論理値Ts’と前記温度Tsとの比率に基づき、補正係数α=(Ts−Tx)/(Ts’−Tx)として計算し、演算部6が記憶する補正係数αの値を前記算出した補正係数αの値に更新する。
【0074】
次にS7において、スキャンが完了したか否かを判断する。完了していれば照射を停止し、完了していなければS2に戻る。補正係数αはS6において更新されているので、次のS3における出力Qの算出には、更新された補正係数αが用いられる。これによりフィードバック制御が可能となる。なお、本実施例においては、S2〜S6を1つのサイクルとするフィードバックループ制御が0.002秒に1回の割合で行なわれる。式(2)〜式(4)は定常状態における関係式であるが、本実施例においては、レーザ照射開始後、極めて短時間で準定常状態となるため、フィードバック制御の間隔が、準定常状態となるまでの時間より大きい本実施例においては、その誤差は許容範囲となる。
【0075】
図3にレーザを照射して、常温から準定常状態となるまでの温度変化をグラフで示す。図3のグラフより、照射開始後0.0006秒後1330度に達し、0.0008秒後に1328度に低下し、0.001秒後に1334度に再上昇していることがわかる。すなわち、0.0008秒以後、上昇傾向が観察されず、1328度から1334度までの6℃の範囲内を推移する定常状態となっていると推測される。
【0076】
本実施例のレーザ光照射装置は、所望の融解深さzと周辺温度Txによって定まる出力Qにレーザ光の出力を制御するレーザ光照射装置である。
【0077】
また、本実施例のレーザ光照射装置は、出力Qと周辺温度Txによって、一意に定まる被照射部の表面温度の論理値Ts’に測定値Tsを近づけるようレーザ光の出力Qを制御するレーザ光照射装置である。
【0078】
本実施例によれば、融解深さを所望の深さzまでワークを融解させるレーザ照射を行なうことができる。
【0079】
また、周辺温度計4によって測定されたレーザ照射前の温度Txに基づいて、レーザ光の出力Qを算出するので、温度Txに関わらず融解深さを一定とすることができる。
【0080】
また、連続照射するレーザを用いることができる。
【0081】
なお、ワーク3が固体の時と液体の時とでレーザ光の吸収率Aが異なる場合、θ(0,0)<Tmである区間(すなわち、ワーク3表面が融点Tmに達するまで)に関し、固体の吸収率を用いて出力Qsを求め、融点に到達後の期間に関し、液体の吸収率を用いて出力Qlを求め、前記出力Qsと前記出力Qlを合算して出力Qを求めても良い。
【0082】
なお、レーザ光が被照射面において円形の均一な分布でない場合、式(2)〜(4)に替えて、各分布に対応する式を用いれば良い。
【0083】
たとえば、レーザ発振器2としてガウス分布のレーザ発振器を用いても良く、その場合、「日経技術図書株式会社 レーザプロセシング 220-221」にあるように、式(2)の代わりに式(5)を用いて算出すれば良い。
【0084】
【数5】

【0085】
また、近似として「日経技術図書株式会社 レーザプロセシング 220-221」に記載の理想点熱源の式(6)を式(2)の代わりに用いて算出しても良い。
【0086】
【数6】

【0087】
また、レーザ出力の制御に伴って水平方向の温度分布が変化して融解領域の幅が変化した場合、絞り9のレーザ光の走査方向と直交する方向の開口寸法を調整することで融解領域の幅を調整することが望ましい。例えば、レーザ出力の制御により融解幅が増大した場合、開口寸法を狭くして照射領域を小さくする。ここでレーザ光の単位面積当たりの出力は変化しないため、融解深さzに及ぼす影響は小さく、また融解幅の減少量は開口寸法の減少量とほぼ等しいため、高精度に融解幅を調整できる。
【0088】
また、本実施例ではレーザ発振器2を連続的に発振させてレーザ光を連続照射したが、レーザ光をパルス発振させても良い。その場合、パルス照射に対応する温度上昇量θの算出式を式(2)〜(4)の代わりに用いれば良い。
【実施例2】
【0089】
図4は、本実施例のレーザ光照射装置(光照射装置)の構成を示す模式図である。本実施例では、実施例1と異なり、周辺用温度計4は、ステージ8の下方に設置され、被照射部の真裏に焦点を合わせて設置されている。
【0090】
ワーク3の板厚は、被照射部からの熱伝導が無視できる程度に厚いことが必要である。本実施例においては、前記熱伝導から生じる被照射部の温度における誤差を、被照射部における温度上昇量の1%以下とするため、周辺温度計4が焦点を合わせる位置と被照射部との距離xを0.2mmとした。
【0091】
被照射部の裏面で温度Txを測定することにより、温度Tsを測定する時と温度Tmを測定する時との間隔を短く、理想的には同時にすることができるので、該間隔による経時変化によって生じる誤差を小さくすることができる。
【0092】
また、周辺用温度計4が測定する位置を被照射部を中心として回転移動できるように構成することを要しないための本実施例のレーザ光照射装置の構成を単純とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係る加工方法および照射装置は、レーザ光のみならず、可視光線を含む電磁波を照射、または高温ガス等を噴射してワークを熱して所定の深さまで融解させる利用分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0094】
2 レーザ発振器
4 周辺用温度計
5 被照射部用温度計
6 演算部
7 制御部
8 ステージ
9 絞り
10 結像レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて、前記ワークを所定の深さまで融解する加工方法において、
前記被照射部と異なる位置のワークの温度Txを測定し、
前記深さと前記温度Txから前記光の出力を制御することを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記被照射部の温度Tsを測定し、
前記温度Ts、前記温度Tx及び前記出力から前記出力を制御することを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項3】
前記出力の制御は、前記温度Ts、前記温度Tx及び前記出力から前記被照射部の表面温度の論理値を算出し、前記温度Tsを論理値に近づけるよう行われることを特徴とする請求項1ないし2記載の加工方法。
【請求項4】
前記論理値と前記温度Tsとの比率を前記出力の補正係数αとして、前記光の出力の制御を行うことを特徴とする請求項3記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記異なる位置は、前記被照射部から前記光の走査方向前方に所定距離離れた位置であることを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項6】
前記温度Txとして、所定の時間だけ以前に測定された温度を用いることを特徴とする請求項5記載の加工方法。
【請求項7】
前記異なる位置は、前記被照射部の裏面であることを特徴とする請求項1記載の加工方法。
【請求項8】
光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて前記ワークを熱処理する光照射装置を制御するプログラムであって、
前記プログラムは、
前記ワークの被照射面上の前記光が照射される位置である被照射部と異なる位置のワークの温度Txを測定するステップと、
前記深さと前記温度Txとから出力を算出するステップと、
前記算出するステップに基づき前記光の出力を制御するステップと、
からなることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
光をワークの被照射部に照射しながら、前記光の光軸と前記ワークを相対的に移動させて前記ワークを所定の深さまで融解する光照射装置であって、
光出射器と、
前記被照射部と異なる位置の温度Txを測定する周辺用温度計と、
前記深さと前記温度Txとから出力を算出する演算部と、
前記出力に前記光の出力を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする光照射装置。
【請求項10】
前記光出射器は、
前記光の走査方向と直交する方向に開口寸法を調整可能な絞りと、前記絞りの像を結像させる結像レンズと、
を備えることを特徴とする請求項9に記載の光照射装置。
【請求項11】
前記被照射部と異なる位置は、被照射部を中心とした位置を移動可能に構成されていることを特徴とする請求項10記載の光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−11402(P2012−11402A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148417(P2010−148417)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】