ワークの取出しヘッド
【課題】 弾性係数の小さいワークでも、ワークに対して僅かな芯振れを生じても確実に吸着保持し、耐久性の向上により高い信頼性が得られ、かつ歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避できるワークの取出しヘッドを提供する。
【解決手段】 成形機(生産装置)11の金型装置(生産ヘッド部)12で保持したワーク4を吸着保持して取り出すワークの取出しヘッド1は、ワーク4の押圧時に被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワーク4と取出しヘッド1との間に気密な負圧発生空間13の形成を可能とする取出しヘッド1から突出する箇所20がある押圧部2と、負圧発生空間13に対応する吸気通路3を備え、負圧検出器18で検出した吸気通路3の負圧が負圧設定器17で設定した負圧よりも小さい場合に不良ワーク4が吸着保持されていると判断して警報装置23に作動信号を出力する比較・判断回路22を有する。
【解決手段】 成形機(生産装置)11の金型装置(生産ヘッド部)12で保持したワーク4を吸着保持して取り出すワークの取出しヘッド1は、ワーク4の押圧時に被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワーク4と取出しヘッド1との間に気密な負圧発生空間13の形成を可能とする取出しヘッド1から突出する箇所20がある押圧部2と、負圧発生空間13に対応する吸気通路3を備え、負圧検出器18で検出した吸気通路3の負圧が負圧設定器17で設定した負圧よりも小さい場合に不良ワーク4が吸着保持されていると判断して警報装置23に作動信号を出力する比較・判断回路22を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワークの取出しヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図10に示すワークの取出しヘッド50が知られている。この取出しヘッド50は、生産装置としての機能を有する成形機51に装着した生産ヘッド部である金型装置52(ただし、図10には、生産ヘッド部の一方を構成する可動金型のみが示され、生産ヘッド部の他方を構成する固定金型は図示されていない)により成形(生産)されたワーク53において、特に、被吸着面が平坦でなく凹部53aを有し、かつ負圧の発生を妨げる貫通孔53bなどが存在している理由により、通常タイプの吸盤では吸着保持が不可能なワーク53を、吸着保持して前記金型装置52から取り出すことができる。
【0003】
このワークの取出しヘッド50は、軽金属製のヘッド本体54と、このヘッド本体54の前面に貼着した弾性体からなる吸着パッド55とを有する。ヘッド本体54は、その前面に開口する環状溝54aを上流とし、下流の出口54bを図示していない真空ポンプやフアンなどの負圧発生源(図示省略)に接続した吸気通路54Aを備え、吸着パッド55は、環状溝54aの内周域に貼着される円盤状の第1弾性押圧部55aと、環状溝54aの外周域に貼着される環状の第2弾性押圧部55bとからなる。
【0004】
前記構成のワークの取出しヘッド50は、成形品取出機(図示省略)に装備され、金型装置52の型開時に前記成形品取出機の作動によってワーク53との対向位置に搬送されたのちワーク53の方向に移動する。これにより、図11に示すように、吸着パッド55はワーク53を押圧することで僅かに弾性変形して、その円盤状の第1弾性押圧部55aの先端面をワーク53における貫通孔53b外周部の外端面に弾性密着させて貫通孔53bを塞ぐとともに、環状の第2弾性押圧部55bをワーク53における凹部53a外周部の環状の外端面に弾性密着させて、ワーク53と取出しヘッド50との間に、吸気通路54Aの環状溝54aに連通する気密な負圧発生空間56を形成する。ここで、前記負圧発生源により発生した負圧を負圧発生空間56に作用させて、該負圧発生空間56にワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させることで、吸着パッド55でワーク53を吸着保持し、成形品取出機の作動によって金型装置52からワーク53を取り出す(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−37210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されている技術においては、ワーク53に吸着パッド55を高い面圧で弾性密着させることで、ワーク53と取出しヘッド50との間に、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を形成している。前記気密な負圧発生空間56の形成に必要な高い面圧は、弾性変形した吸着パッド55がその弾性復元力によってワーク53に弾性密着することにより得られるので、この弾性復元力の発生がみられる押圧力で吸着パッド55をワーク53に押圧することが要求される。
【0007】
ところで、ワーク53が吸着パッド55を弾性変形させ易い強度を備えた熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂などの非弾性体であると、吸着パッド55のみが弾性変形するので、弾性復元力の発生がみられる押圧力で吸着パッド55をワーク53に押圧することが容易である。そのため、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を容易に形成することができる。ところが、ワーク53が弾性体であると、吸着パッド55とワーク53の両者のそれぞれに弾性変形とそれに伴う弾性復元力が生じるので、ワーク53の弾性係数が小さいと、気密な負圧発生空間56を形成するのに必要な高い面圧で両者55,53が弾性密着し難い。したがって、ワーク53と取出しヘッド50との間に、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を形成することができず、弾性係数が小さいワーク53を吸着保持して取り出すことが不可能な問題点を有する。
【0008】
また、環状溝54aが円盤状の第1押圧部55aの外周から離れた位置で開口しているので、つまり、吸気通路54Aにおける出口54bの中心軸線Cから離れた位置で環状溝54aが開口しているので、不慮の理由によりワーク53の中心軸線C1に対して出口54bの中心軸線Cが僅かに芯振れしても、環状溝54aとワーク53の凹部53aとの適正な対向状態が損なわれ、これにより気密な負圧発生空間56の形成が妨げられるので、ワーク53を吸着保持して取り出すことが不可能な問題点を有する。
【0009】
さらに、弾性体からなる吸着パッド55では、経時劣化により吸着機能の低下が生じるばかりか、吸着パッド55がヘッド本体54の前面に貼着されている構造では、吸着パッド55に剥離が生じ易いので耐久性に劣る。したがって、ワークの取出しヘッド50としての信頼性が低い問題点もある。
【0010】
また、前記特許文献1に記載の技術では、吸着保持されているワークが不良品であることを確認する機能を有していなので、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良品を吸着保持して成形機から取り出す不具合が単発的に発生したりあるいは継続しても、この不具合を確認することができない。特に、前記の不具合が継続すると、良品に対する不良品の割合が増す歩留まりの悪化を招き、これが生産効率を低下させる一因になっている。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、また、ワークに対して僅かな芯振れを生じたとしても、ワークを確実に吸着保持することができ、耐久性の向上により高い信頼性が得られるばかりか、吸着保持されているワークが不良品であることを確認することにより、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避することができるワークのワークの取出しヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係るワークの取出しヘッドは、生産装置に装着した生産ヘッド部により生産されたワークを前記生産ヘッド部から取り出すためのワークの取出しヘッドであって、該ワークの取出しヘッドは、前記ワークの押圧時に該ワークの被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間の形成を可能とする前記取出しヘッドから突出する箇所がある押圧部と、前記負圧発生空間に対応して開口する吸気通路を備えていることを特徴としている。
【0013】
これによれば、押圧部によりワークを押圧することで、ワークの被押圧部のみが弾性変形するので、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、被押圧部を弾性復元力により高い面圧で押圧部に弾性密着させることができる。そのため、ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間を容易に形成することができ、吸気通路を介して負圧発生空間の空気を吸気することで、負圧発生空間にワークの吸着に必要な値の負圧を発生させて、ワークを確実に吸着保持することができる。また、押圧部の経時劣化や剥離は認められないので耐久性が向上する。
【0014】
また、前記押圧部は、ワークの貫通孔を閉塞し、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により密着する第1押圧部と、この第1押圧部の外周域を取り囲んで前記第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により密着する環状の第2押圧部とからなり、前記第1押圧部と第1被押圧部との密着および環状の第2押圧部と環状の第2被押圧部との密着によってワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間が形成されるとともに、この負圧発生空間に吸気通路が開口していることを特徴としている。
【0015】
これによれば、ワークが、吸着を妨げる貫通孔を有していても、この貫通孔は第1押圧部で閉塞され、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により第1押圧部に密着するとともに、第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により環状の第2被押圧部に密着することで、ワークと取出しヘッドとの間に、ワークの吸着に必要な値の負圧を発生させ得る気密な負圧発生空間を、吸気通路に連通して形成できる。
【0016】
本発明の前記吸気通路の開口位置は、前記第1押圧部の外周に沿って配置されていることが望ましい。これによると、不慮の理由によりワークに対して取出しヘッドが僅かに芯振れして適正な対向状態が損なわれても、気密な負圧発生空間を形成できるので、ワークを確実に吸着保持して取り出すことができる。
【0017】
さらに、本発明は、良品ワーク吸着保持時の前記吸気通路の負圧を設定する負圧設定器と、ワーク吸着保持時の吸気通路の負圧を検出する負圧検出器と、負圧設定器から出力される第1負圧と負圧検出器から出力される第2負圧とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に不良ワークが吸着保持されていると判断して警報装置に作動信号を出力する比較・判断回路とを備えていることを特徴としている。
【0018】
これによれば、良品ワークの吸着保持時には、第1負圧と第2負圧に圧力差が生じないので、比較・判断回路から警報装置に作動信号は出力されない。これにより、良品ワークを吸着保持していることが確認できる。しかし、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良ワークを吸着保持した場合には、第1負圧よりも第2負圧が小さくなる圧力差を生じ、この圧力差が比較・判断回路により比較・判断されて、比較・判断回路から警報装置に作動信号を出力して警報する。これにより、不良品が吸着保持されていることを確認できる。したがって、事後、原因究明のための処置を講じることで、それ以後の不良ワークの継続成形を防止できる。そのため、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、また、ワークに対して僅かな芯振れを生じたとしても、ワークを確実に吸着保持することができるとともに、押圧部の経時劣化や剥離は認められないので耐久性が向上し、その結果、高い信頼性を得ることができる。また、吸気通路の負圧の比較・判断により不良ワークの吸着保持を確認し、事後、有効な処置を講じることで、それ以後の不良ワークの継続成形を防止して、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面にしたがって説明する。図1は本発明に係るワークの取出しヘッドの一実施形態を示す正面図、図2は図1のA−A線断面図、図3はワークの一実施形態を取出しヘッドが対向する側から見た図、図4は図3のB−B線断面図である。図1,図2において、取出しヘッド1は、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂によって成形され、その正面形状は長方形を呈しており、押圧部2と吸気通路3とを備えている。
【0021】
押圧部2は、第1押圧部20と環状の第2押圧部21とからなる。第1押圧部20は、横方向(図1の矢印X方向)に長寸で、縦方向(図1の矢印Y方向)に短寸の長円形凸部からなり、取出しヘッド1の鉛直で平坦な前面1aから前方に突出する鉛直で平坦な先端面20aを有し、後述するワークの貫通孔の数量,位置あるいは大きさなどに律して、貫通孔の閉塞と該貫通孔周囲の第1被押圧部の押圧を可能に縦横の寸法が設定される。環状の第2押圧部21は、図1の先端面20a上に描いた内外二重の長円形の二点鎖線a,bで囲まれた領域で示すように、第1押圧部20の外周域を取り囲む先端面20a上に、後述するワークの環状の第2被押圧部の位置や大きさなどに律して、該環状の第2被押圧部の押圧を可能に仮想設定される。したがって、鉛直で平坦な押圧面21aを備えている。
【0022】
吸気通路3は、複数の分岐通路3aと、これら分岐通路3aを集合した集合部3bおよび集合部3bに連通して形成された接続通路3cとを備える。そして、吸気通路3の開口位置、つまり、複数の分岐通路3aの開口位置は、第1押圧部20の外周に沿って設定されて、第1押圧部20の先端面20aより僅かに後退している。
【0023】
接続通路3cは、弁(たとえば電磁弁)14を設けた管路15を介して真空ポンプやフアンなどの負圧発生源16に接続される。また、後述する良品ワーク吸着時の吸気通路3の負圧(−80kPa〜−65kPa)を設定する負圧設定器17と、ワーク吸着時の吸気通路3の負圧を検出する負圧検出器18と、負圧設定器17から出力される第1負圧(信号線19)と、負圧検出器18から出力される第2負圧(信号線20)とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に後述する不良ワークが吸着保持されていると判断する比較・判断回路22と、比較・判断回路22の出力によって警報を発するブザーや警報ランプなどの警報装置23を備えている。
【0024】
図3,図4において、ワーク4は、合成ゴム[熱可塑性エラストマー(TPE)]などの弾性体によって成形され、図1,図2の取出しヘッド1が対向する側から見た形状は長方形を呈しており、左右一対の貫通孔5と、これら貫通孔5周囲の第1被押圧部6と、環状の第2被押圧部7および環状の後方突出部8とを有し、これらは、鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aと鉛直で平坦な反対側の面9bとを有する基部9に形成されている。
【0025】
左右一対の貫通孔5は、基部9の中心部付近を厚さ方向貫通して左右水平に並列しており、取出しヘッド側の面9a上における各貫通孔5の周囲を第1被押圧部6としている。また、環状の第2被押圧部7は、横方向(図3の矢印X方向)に長寸で、縦方向(図3の矢印Y方向)に短寸の長円形凸部からなり、基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aから取出しヘッド1方向に突出しており、鉛直で平坦な先端面7aを有する。環状の後方突出部8は、基部9の鉛直で平坦な反対側の面9bから後方へ所定長さ突出して形成されている。
【0026】
図5に示すように、ワーク4は、生産装置としての機能を有する成形機11に装着した生産ヘッド部である金型装置12(ただし、図5には、生産ヘッド部の一方を構成する可動金型のみが示され、生産ヘッド部の他方を構成する固定金型は図示されていない)により成形されて、金型装置12の型開状態では可動金型に保持される。このように金型装置52が型開すると、図示されていない成形品取出機の作動によって、ワークの取出しヘッド1がワーク4との対向位置に搬送されたのちワーク4の方向に移動する。
【0027】
図5においてワークの取出しヘッド1がワーク4の方向に移動すると、図6に示すように、左右一対の貫通孔5(ただし、図6には図3の右側の貫通孔5のみが示されている)は第1押圧部20の先端面20aの2箇所により閉塞される。そして、各貫通孔5周囲の第1被押圧部6は各貫通孔5を閉塞している前記先端面20aの2箇所以外の部位に押圧されて弾性変形し、かつ弾性復元力により先端面20aに高い面圧で弾性密着する。この状態で、複数の分岐通路3aそれぞれの開口部は、隙間tを介して第1被押圧部6周囲の取出しヘッド側の面9aに対向する。
【0028】
一方、環状の第2押圧部21の押圧面21aにより環状の第2被押圧部7の先端面7aが押圧されて弾性変形し、かつ弾性復元力により押圧面21aに高い面圧で弾性密着する。これにより、ワーク4とワークの取出しヘッド1との間には、ワーク4における環状の第2被押圧部7内周近傍の取出しヘッド側の面9aと、環状の第2被押圧部7の内周面と、取出しヘッド1における第1押圧部20の外周面および該第1押圧部20根元近傍の前面1aとで囲まれる気密な環状の負圧発生空間13が形成される。その結果、吸気通路3を介して前記負圧発生空間13の空気を吸気することで、該負圧発生空間13にワーク4の吸着に必要な値の負圧を発生させて、弾性体からなるワーク4を確実に吸着保持することができる。また、経時による第1押圧部20および環状の第2押圧部21の劣化や剥離は認められないので耐久性が向上して、ワークの取出しヘッド1の信頼性を高めることができる。
【0029】
このように、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂によって成形したワークの取出しヘッド1によりワーク4を押圧した場合、取出しヘッド1は弾性変形することなくワーク4の第1被押圧部6および環状の第2被押圧部7のみが弾性変形するので、ワーク4が合成ゴムなどの弾性体で成形され、かつ吸着を妨げる左右一対の貫通孔5を有していても、あるいは、ワーク4が合成ゴムよりも小さい弾性係数の弾性体によって成形され、かつ吸着を妨げる左右一対の貫通孔5を有していても、第1被押圧部6を高い面圧で押圧部20に弾性密着させる弾性復元力が発生し、同時に環状の第2被押圧部7を高い面圧で環状の第2押圧部21に弾性密着させる弾性復元力が発生する押圧力でワーク4を押圧することができる。そのため、左右一対の貫通孔5を第1押圧部20の先端面20aで閉塞し、各貫通孔5周囲の第1被押圧部6を弾性復元力により第1押圧部20の先端面20aに密着させるとともに、環状の第2被押圧部7を弾性復元力により環状の第2押圧部21の押圧面21aに密着させて、ワーク4と取出しヘッド1との間に気密な負圧発生空間13を容易に形成することができる。その結果、吸気通路3を介して負圧発生空間13の空気を吸気(排気)することで、負圧発生空間13にワーク4の吸着に必要な値の負圧(−80kPa〜−65kPa)を発生させて、ワーク4を確実に吸着保持することができる。負圧発生空間13の負圧と等しい吸気通路3の負圧(−80kPa〜−65kPa)は、負圧検出器18によって検出される。
【0030】
また、吸気通路3の開口位置、つまり、複数の分岐通路3aの開口位置は、第1押圧部20の外周に沿って設定されているので、不慮の理由によりワーク4に対して取出しヘッド1が僅かに芯振れして適正な対向状態が損なわれても、気密な負圧発生空間13を形成できるので、ワーク4を吸着保持して取り出すことができる。
【0031】
一方、良品ワーク4の吸着時には、予め負圧設定器17によって設定されている第1負圧(−80kPa〜−65kPa)と、負圧検出器18によって検出された第2負圧に圧力差が生じないので、比較・判断回路22から警報装置23に作動信号は出力されない。これにより、良品ワークを吸着していることが確認できる。しかし、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良ワーク4を吸着保持した場合には、前記第1負圧よりも前記第2負圧が小さくなる圧力差を生じ、この圧力差が比較・判断回路22により比較・判断されて、警報装置23に作動信号を出力し、ブザーの吹鳴あるいはランプを点灯する。これにより、不良ワーク4が吸着保持されていることを確認できる。したがって、事後、成形機11を停止し、原因究明のための処置を講じることで、それ以後の不良ワーク4の継続成形を防止できる。そのため、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下が回避されることになる。
【0032】
前記実施形態では、ワークの取出しヘッド1における鉛直で平坦な前面1aの環状の第2押圧部21で、ワーク4における基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aから取出しヘッド1方向に突出して形成した環状の第2被押圧部7を押圧する構成で説明しているが、図7に示すように、取出しヘッド1における鉛直で平坦な前面1aから前方に突出して環状の第2押圧部21を形成し、この環状の第2押圧部21で、ワーク4における基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aの一部を環状の第2被押圧部7として押圧する構成であっても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、図7において、図6と同一部分には同一符号を付して、重複する構造および作用の説明は省略する。
【0033】
また、前記実施形態では、ワークの取出しヘッド1における環状の第2押圧部21の面一な押圧面21aで、ワーク4における環状の第2被押圧部7の面一な先端面7aを押圧する構成で説明しているが、図8に示すように、段差を有する第2押圧部21の押圧面21aで、段差を有する環状の第2被押圧部7の先端面7aを押圧する構成であっても、図9(a)に示すように、環状の第2押圧部21の波のうねり状の押圧面21aで、環状の第2被押圧部7の波のうねり状の先端面7aを押圧する構成、あるいは図9(b)に示すように、環状の第2押圧部21の山形の押圧面21aで、環状の第2被押圧部7の山形の先端面7aを押圧する構成であっても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、図8において、図6と同一部分には同一符号を付して、重複する構造および作用の説明は省略する。
【0034】
さらに、前記実施形態では、複数の分岐通路3aを吸気通路3の吸気口として機能させているが、吸気通路3の吸気口として機能する分岐通路3aの数は1つでもよい。そして、分岐通路3aの開口位置は、負圧発生空間13に通じる任意の位置を選択して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るワークの取出しヘッドの一実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】ワークの一実施形態を取出しヘッドが対向する側から見た図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】本発明のワークの取出しヘッドがワークに対向している状態の説明断面図である。
【図6】本発明のワークの取出しヘッドがワークを吸着している状態の説明断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態を示す断面図である。
【図9】環状の第2押圧部の押圧面と環状の第2被押圧部の先端面の変形例を示し、図9(a)は第1変形例の周方向展開図であり、図9(b)は第2変形例の周方向展開図である。
【図10】従来例のワークの取出しヘッドがワークに対向している状態の説明断面図である。
【図11】従来例のワークの取出しヘッドがワークを吸着している状態の説明断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ワークの取出しヘッド
2 押圧部
20 第1押圧部
21 環状の第2押圧部
3 吸気通路
4 ワーク
5 貫通孔
6 第1被押圧部
7 環状の第2被押圧部
11 成形機(生産装置)
12 金型装置(生産ヘッド部)
13 負圧発生空間
17 負圧設定器
18 負圧検出器
22 比較・判断回路
23 警報装置
【技術分野】
【0001】
本発明はワークの取出しヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図10に示すワークの取出しヘッド50が知られている。この取出しヘッド50は、生産装置としての機能を有する成形機51に装着した生産ヘッド部である金型装置52(ただし、図10には、生産ヘッド部の一方を構成する可動金型のみが示され、生産ヘッド部の他方を構成する固定金型は図示されていない)により成形(生産)されたワーク53において、特に、被吸着面が平坦でなく凹部53aを有し、かつ負圧の発生を妨げる貫通孔53bなどが存在している理由により、通常タイプの吸盤では吸着保持が不可能なワーク53を、吸着保持して前記金型装置52から取り出すことができる。
【0003】
このワークの取出しヘッド50は、軽金属製のヘッド本体54と、このヘッド本体54の前面に貼着した弾性体からなる吸着パッド55とを有する。ヘッド本体54は、その前面に開口する環状溝54aを上流とし、下流の出口54bを図示していない真空ポンプやフアンなどの負圧発生源(図示省略)に接続した吸気通路54Aを備え、吸着パッド55は、環状溝54aの内周域に貼着される円盤状の第1弾性押圧部55aと、環状溝54aの外周域に貼着される環状の第2弾性押圧部55bとからなる。
【0004】
前記構成のワークの取出しヘッド50は、成形品取出機(図示省略)に装備され、金型装置52の型開時に前記成形品取出機の作動によってワーク53との対向位置に搬送されたのちワーク53の方向に移動する。これにより、図11に示すように、吸着パッド55はワーク53を押圧することで僅かに弾性変形して、その円盤状の第1弾性押圧部55aの先端面をワーク53における貫通孔53b外周部の外端面に弾性密着させて貫通孔53bを塞ぐとともに、環状の第2弾性押圧部55bをワーク53における凹部53a外周部の環状の外端面に弾性密着させて、ワーク53と取出しヘッド50との間に、吸気通路54Aの環状溝54aに連通する気密な負圧発生空間56を形成する。ここで、前記負圧発生源により発生した負圧を負圧発生空間56に作用させて、該負圧発生空間56にワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させることで、吸着パッド55でワーク53を吸着保持し、成形品取出機の作動によって金型装置52からワーク53を取り出す(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−37210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載されている技術においては、ワーク53に吸着パッド55を高い面圧で弾性密着させることで、ワーク53と取出しヘッド50との間に、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を形成している。前記気密な負圧発生空間56の形成に必要な高い面圧は、弾性変形した吸着パッド55がその弾性復元力によってワーク53に弾性密着することにより得られるので、この弾性復元力の発生がみられる押圧力で吸着パッド55をワーク53に押圧することが要求される。
【0007】
ところで、ワーク53が吸着パッド55を弾性変形させ易い強度を備えた熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂などの非弾性体であると、吸着パッド55のみが弾性変形するので、弾性復元力の発生がみられる押圧力で吸着パッド55をワーク53に押圧することが容易である。そのため、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を容易に形成することができる。ところが、ワーク53が弾性体であると、吸着パッド55とワーク53の両者のそれぞれに弾性変形とそれに伴う弾性復元力が生じるので、ワーク53の弾性係数が小さいと、気密な負圧発生空間56を形成するのに必要な高い面圧で両者55,53が弾性密着し難い。したがって、ワーク53と取出しヘッド50との間に、ワーク53の吸着保持に必要な値の負圧を発生させる気密な負圧発生空間56を形成することができず、弾性係数が小さいワーク53を吸着保持して取り出すことが不可能な問題点を有する。
【0008】
また、環状溝54aが円盤状の第1押圧部55aの外周から離れた位置で開口しているので、つまり、吸気通路54Aにおける出口54bの中心軸線Cから離れた位置で環状溝54aが開口しているので、不慮の理由によりワーク53の中心軸線C1に対して出口54bの中心軸線Cが僅かに芯振れしても、環状溝54aとワーク53の凹部53aとの適正な対向状態が損なわれ、これにより気密な負圧発生空間56の形成が妨げられるので、ワーク53を吸着保持して取り出すことが不可能な問題点を有する。
【0009】
さらに、弾性体からなる吸着パッド55では、経時劣化により吸着機能の低下が生じるばかりか、吸着パッド55がヘッド本体54の前面に貼着されている構造では、吸着パッド55に剥離が生じ易いので耐久性に劣る。したがって、ワークの取出しヘッド50としての信頼性が低い問題点もある。
【0010】
また、前記特許文献1に記載の技術では、吸着保持されているワークが不良品であることを確認する機能を有していなので、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良品を吸着保持して成形機から取り出す不具合が単発的に発生したりあるいは継続しても、この不具合を確認することができない。特に、前記の不具合が継続すると、良品に対する不良品の割合が増す歩留まりの悪化を招き、これが生産効率を低下させる一因になっている。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、また、ワークに対して僅かな芯振れを生じたとしても、ワークを確実に吸着保持することができ、耐久性の向上により高い信頼性が得られるばかりか、吸着保持されているワークが不良品であることを確認することにより、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避することができるワークのワークの取出しヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係るワークの取出しヘッドは、生産装置に装着した生産ヘッド部により生産されたワークを前記生産ヘッド部から取り出すためのワークの取出しヘッドであって、該ワークの取出しヘッドは、前記ワークの押圧時に該ワークの被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間の形成を可能とする前記取出しヘッドから突出する箇所がある押圧部と、前記負圧発生空間に対応して開口する吸気通路を備えていることを特徴としている。
【0013】
これによれば、押圧部によりワークを押圧することで、ワークの被押圧部のみが弾性変形するので、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、被押圧部を弾性復元力により高い面圧で押圧部に弾性密着させることができる。そのため、ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間を容易に形成することができ、吸気通路を介して負圧発生空間の空気を吸気することで、負圧発生空間にワークの吸着に必要な値の負圧を発生させて、ワークを確実に吸着保持することができる。また、押圧部の経時劣化や剥離は認められないので耐久性が向上する。
【0014】
また、前記押圧部は、ワークの貫通孔を閉塞し、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により密着する第1押圧部と、この第1押圧部の外周域を取り囲んで前記第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により密着する環状の第2押圧部とからなり、前記第1押圧部と第1被押圧部との密着および環状の第2押圧部と環状の第2被押圧部との密着によってワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間が形成されるとともに、この負圧発生空間に吸気通路が開口していることを特徴としている。
【0015】
これによれば、ワークが、吸着を妨げる貫通孔を有していても、この貫通孔は第1押圧部で閉塞され、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により第1押圧部に密着するとともに、第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により環状の第2被押圧部に密着することで、ワークと取出しヘッドとの間に、ワークの吸着に必要な値の負圧を発生させ得る気密な負圧発生空間を、吸気通路に連通して形成できる。
【0016】
本発明の前記吸気通路の開口位置は、前記第1押圧部の外周に沿って配置されていることが望ましい。これによると、不慮の理由によりワークに対して取出しヘッドが僅かに芯振れして適正な対向状態が損なわれても、気密な負圧発生空間を形成できるので、ワークを確実に吸着保持して取り出すことができる。
【0017】
さらに、本発明は、良品ワーク吸着保持時の前記吸気通路の負圧を設定する負圧設定器と、ワーク吸着保持時の吸気通路の負圧を検出する負圧検出器と、負圧設定器から出力される第1負圧と負圧検出器から出力される第2負圧とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に不良ワークが吸着保持されていると判断して警報装置に作動信号を出力する比較・判断回路とを備えていることを特徴としている。
【0018】
これによれば、良品ワークの吸着保持時には、第1負圧と第2負圧に圧力差が生じないので、比較・判断回路から警報装置に作動信号は出力されない。これにより、良品ワークを吸着保持していることが確認できる。しかし、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良ワークを吸着保持した場合には、第1負圧よりも第2負圧が小さくなる圧力差を生じ、この圧力差が比較・判断回路により比較・判断されて、比較・判断回路から警報装置に作動信号を出力して警報する。これにより、不良品が吸着保持されていることを確認できる。したがって、事後、原因究明のための処置を講じることで、それ以後の不良ワークの継続成形を防止できる。そのため、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワークがたとえ弾性係数の小さい弾性体であっても、また、ワークに対して僅かな芯振れを生じたとしても、ワークを確実に吸着保持することができるとともに、押圧部の経時劣化や剥離は認められないので耐久性が向上し、その結果、高い信頼性を得ることができる。また、吸気通路の負圧の比較・判断により不良ワークの吸着保持を確認し、事後、有効な処置を講じることで、それ以後の不良ワークの継続成形を防止して、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面にしたがって説明する。図1は本発明に係るワークの取出しヘッドの一実施形態を示す正面図、図2は図1のA−A線断面図、図3はワークの一実施形態を取出しヘッドが対向する側から見た図、図4は図3のB−B線断面図である。図1,図2において、取出しヘッド1は、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂によって成形され、その正面形状は長方形を呈しており、押圧部2と吸気通路3とを備えている。
【0021】
押圧部2は、第1押圧部20と環状の第2押圧部21とからなる。第1押圧部20は、横方向(図1の矢印X方向)に長寸で、縦方向(図1の矢印Y方向)に短寸の長円形凸部からなり、取出しヘッド1の鉛直で平坦な前面1aから前方に突出する鉛直で平坦な先端面20aを有し、後述するワークの貫通孔の数量,位置あるいは大きさなどに律して、貫通孔の閉塞と該貫通孔周囲の第1被押圧部の押圧を可能に縦横の寸法が設定される。環状の第2押圧部21は、図1の先端面20a上に描いた内外二重の長円形の二点鎖線a,bで囲まれた領域で示すように、第1押圧部20の外周域を取り囲む先端面20a上に、後述するワークの環状の第2被押圧部の位置や大きさなどに律して、該環状の第2被押圧部の押圧を可能に仮想設定される。したがって、鉛直で平坦な押圧面21aを備えている。
【0022】
吸気通路3は、複数の分岐通路3aと、これら分岐通路3aを集合した集合部3bおよび集合部3bに連通して形成された接続通路3cとを備える。そして、吸気通路3の開口位置、つまり、複数の分岐通路3aの開口位置は、第1押圧部20の外周に沿って設定されて、第1押圧部20の先端面20aより僅かに後退している。
【0023】
接続通路3cは、弁(たとえば電磁弁)14を設けた管路15を介して真空ポンプやフアンなどの負圧発生源16に接続される。また、後述する良品ワーク吸着時の吸気通路3の負圧(−80kPa〜−65kPa)を設定する負圧設定器17と、ワーク吸着時の吸気通路3の負圧を検出する負圧検出器18と、負圧設定器17から出力される第1負圧(信号線19)と、負圧検出器18から出力される第2負圧(信号線20)とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に後述する不良ワークが吸着保持されていると判断する比較・判断回路22と、比較・判断回路22の出力によって警報を発するブザーや警報ランプなどの警報装置23を備えている。
【0024】
図3,図4において、ワーク4は、合成ゴム[熱可塑性エラストマー(TPE)]などの弾性体によって成形され、図1,図2の取出しヘッド1が対向する側から見た形状は長方形を呈しており、左右一対の貫通孔5と、これら貫通孔5周囲の第1被押圧部6と、環状の第2被押圧部7および環状の後方突出部8とを有し、これらは、鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aと鉛直で平坦な反対側の面9bとを有する基部9に形成されている。
【0025】
左右一対の貫通孔5は、基部9の中心部付近を厚さ方向貫通して左右水平に並列しており、取出しヘッド側の面9a上における各貫通孔5の周囲を第1被押圧部6としている。また、環状の第2被押圧部7は、横方向(図3の矢印X方向)に長寸で、縦方向(図3の矢印Y方向)に短寸の長円形凸部からなり、基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aから取出しヘッド1方向に突出しており、鉛直で平坦な先端面7aを有する。環状の後方突出部8は、基部9の鉛直で平坦な反対側の面9bから後方へ所定長さ突出して形成されている。
【0026】
図5に示すように、ワーク4は、生産装置としての機能を有する成形機11に装着した生産ヘッド部である金型装置12(ただし、図5には、生産ヘッド部の一方を構成する可動金型のみが示され、生産ヘッド部の他方を構成する固定金型は図示されていない)により成形されて、金型装置12の型開状態では可動金型に保持される。このように金型装置52が型開すると、図示されていない成形品取出機の作動によって、ワークの取出しヘッド1がワーク4との対向位置に搬送されたのちワーク4の方向に移動する。
【0027】
図5においてワークの取出しヘッド1がワーク4の方向に移動すると、図6に示すように、左右一対の貫通孔5(ただし、図6には図3の右側の貫通孔5のみが示されている)は第1押圧部20の先端面20aの2箇所により閉塞される。そして、各貫通孔5周囲の第1被押圧部6は各貫通孔5を閉塞している前記先端面20aの2箇所以外の部位に押圧されて弾性変形し、かつ弾性復元力により先端面20aに高い面圧で弾性密着する。この状態で、複数の分岐通路3aそれぞれの開口部は、隙間tを介して第1被押圧部6周囲の取出しヘッド側の面9aに対向する。
【0028】
一方、環状の第2押圧部21の押圧面21aにより環状の第2被押圧部7の先端面7aが押圧されて弾性変形し、かつ弾性復元力により押圧面21aに高い面圧で弾性密着する。これにより、ワーク4とワークの取出しヘッド1との間には、ワーク4における環状の第2被押圧部7内周近傍の取出しヘッド側の面9aと、環状の第2被押圧部7の内周面と、取出しヘッド1における第1押圧部20の外周面および該第1押圧部20根元近傍の前面1aとで囲まれる気密な環状の負圧発生空間13が形成される。その結果、吸気通路3を介して前記負圧発生空間13の空気を吸気することで、該負圧発生空間13にワーク4の吸着に必要な値の負圧を発生させて、弾性体からなるワーク4を確実に吸着保持することができる。また、経時による第1押圧部20および環状の第2押圧部21の劣化や剥離は認められないので耐久性が向上して、ワークの取出しヘッド1の信頼性を高めることができる。
【0029】
このように、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂によって成形したワークの取出しヘッド1によりワーク4を押圧した場合、取出しヘッド1は弾性変形することなくワーク4の第1被押圧部6および環状の第2被押圧部7のみが弾性変形するので、ワーク4が合成ゴムなどの弾性体で成形され、かつ吸着を妨げる左右一対の貫通孔5を有していても、あるいは、ワーク4が合成ゴムよりも小さい弾性係数の弾性体によって成形され、かつ吸着を妨げる左右一対の貫通孔5を有していても、第1被押圧部6を高い面圧で押圧部20に弾性密着させる弾性復元力が発生し、同時に環状の第2被押圧部7を高い面圧で環状の第2押圧部21に弾性密着させる弾性復元力が発生する押圧力でワーク4を押圧することができる。そのため、左右一対の貫通孔5を第1押圧部20の先端面20aで閉塞し、各貫通孔5周囲の第1被押圧部6を弾性復元力により第1押圧部20の先端面20aに密着させるとともに、環状の第2被押圧部7を弾性復元力により環状の第2押圧部21の押圧面21aに密着させて、ワーク4と取出しヘッド1との間に気密な負圧発生空間13を容易に形成することができる。その結果、吸気通路3を介して負圧発生空間13の空気を吸気(排気)することで、負圧発生空間13にワーク4の吸着に必要な値の負圧(−80kPa〜−65kPa)を発生させて、ワーク4を確実に吸着保持することができる。負圧発生空間13の負圧と等しい吸気通路3の負圧(−80kPa〜−65kPa)は、負圧検出器18によって検出される。
【0030】
また、吸気通路3の開口位置、つまり、複数の分岐通路3aの開口位置は、第1押圧部20の外周に沿って設定されているので、不慮の理由によりワーク4に対して取出しヘッド1が僅かに芯振れして適正な対向状態が損なわれても、気密な負圧発生空間13を形成できるので、ワーク4を吸着保持して取り出すことができる。
【0031】
一方、良品ワーク4の吸着時には、予め負圧設定器17によって設定されている第1負圧(−80kPa〜−65kPa)と、負圧検出器18によって検出された第2負圧に圧力差が生じないので、比較・判断回路22から警報装置23に作動信号は出力されない。これにより、良品ワークを吸着していることが確認できる。しかし、たとえば、ショート現象やウエルドマークなどが生じた不良ワーク4を吸着保持した場合には、前記第1負圧よりも前記第2負圧が小さくなる圧力差を生じ、この圧力差が比較・判断回路22により比較・判断されて、警報装置23に作動信号を出力し、ブザーの吹鳴あるいはランプを点灯する。これにより、不良ワーク4が吸着保持されていることを確認できる。したがって、事後、成形機11を停止し、原因究明のための処置を講じることで、それ以後の不良ワーク4の継続成形を防止できる。そのため、製品歩留まりの悪化による生産効率の低下が回避されることになる。
【0032】
前記実施形態では、ワークの取出しヘッド1における鉛直で平坦な前面1aの環状の第2押圧部21で、ワーク4における基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aから取出しヘッド1方向に突出して形成した環状の第2被押圧部7を押圧する構成で説明しているが、図7に示すように、取出しヘッド1における鉛直で平坦な前面1aから前方に突出して環状の第2押圧部21を形成し、この環状の第2押圧部21で、ワーク4における基部9の鉛直で平坦な取出しヘッド側の面9aの一部を環状の第2被押圧部7として押圧する構成であっても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、図7において、図6と同一部分には同一符号を付して、重複する構造および作用の説明は省略する。
【0033】
また、前記実施形態では、ワークの取出しヘッド1における環状の第2押圧部21の面一な押圧面21aで、ワーク4における環状の第2被押圧部7の面一な先端面7aを押圧する構成で説明しているが、図8に示すように、段差を有する第2押圧部21の押圧面21aで、段差を有する環状の第2被押圧部7の先端面7aを押圧する構成であっても、図9(a)に示すように、環状の第2押圧部21の波のうねり状の押圧面21aで、環状の第2被押圧部7の波のうねり状の先端面7aを押圧する構成、あるいは図9(b)に示すように、環状の第2押圧部21の山形の押圧面21aで、環状の第2被押圧部7の山形の先端面7aを押圧する構成であっても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、図8において、図6と同一部分には同一符号を付して、重複する構造および作用の説明は省略する。
【0034】
さらに、前記実施形態では、複数の分岐通路3aを吸気通路3の吸気口として機能させているが、吸気通路3の吸気口として機能する分岐通路3aの数は1つでもよい。そして、分岐通路3aの開口位置は、負圧発生空間13に通じる任意の位置を選択して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るワークの取出しヘッドの一実施形態を示す正面図である。
【図2】図2は図1のA−A線断面図である。
【図3】ワークの一実施形態を取出しヘッドが対向する側から見た図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】本発明のワークの取出しヘッドがワークに対向している状態の説明断面図である。
【図6】本発明のワークの取出しヘッドがワークを吸着している状態の説明断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態を示す断面図である。
【図9】環状の第2押圧部の押圧面と環状の第2被押圧部の先端面の変形例を示し、図9(a)は第1変形例の周方向展開図であり、図9(b)は第2変形例の周方向展開図である。
【図10】従来例のワークの取出しヘッドがワークに対向している状態の説明断面図である。
【図11】従来例のワークの取出しヘッドがワークを吸着している状態の説明断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ワークの取出しヘッド
2 押圧部
20 第1押圧部
21 環状の第2押圧部
3 吸気通路
4 ワーク
5 貫通孔
6 第1被押圧部
7 環状の第2被押圧部
11 成形機(生産装置)
12 金型装置(生産ヘッド部)
13 負圧発生空間
17 負圧設定器
18 負圧検出器
22 比較・判断回路
23 警報装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産装置に装着した生産ヘッド部により生産されたワークを前記生産ヘッド部から取り出すためのワークの取出しヘッドであって、
該ワークの取出しヘッドは、前記ワークの押圧時に該ワークの被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間の形成を可能とする前記取出しヘッドから突出する箇所がある押圧部と、前記負圧発生空間に対応して開口する吸気通路を備えていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
前記押圧部は、ワークの貫通孔を閉塞し、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により密着する第1押圧部と、この第1押圧部の外周域を取り囲んで前記第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により密着する環状の第2押圧部とからなり、前記第1押圧部と第1被押圧部との密着および環状の第2押圧部と環状の第2被押圧部との密着によってワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間が形成されるとともに、この負圧発生空間に吸気通路が開口していることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
前記吸気通路の開口位置が前記第1押圧部の外周に沿って配置されていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項4】
請求項1,請求項2または請求項3に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
良品ワーク吸着保持時の前記吸気通路の負圧を設定する負圧設定器と、ワーク吸着保持時の吸気通路の負圧を検出する負圧検出器と、負圧設定器から出力される第1負圧と負圧検出器から出力される第2負圧とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に不良ワークが吸着保持されていると判断して警報装置に作動信号を出力する比較・判断回路とを備えていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項1】
生産装置に装着した生産ヘッド部により生産されたワークを前記生産ヘッド部から取り出すためのワークの取出しヘッドであって、
該ワークの取出しヘッドは、前記ワークの押圧時に該ワークの被押圧部を弾性変形させ被押圧部の弾性復元力により密着して、該ワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間の形成を可能とする前記取出しヘッドから突出する箇所がある押圧部と、前記負圧発生空間に対応して開口する吸気通路を備えていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
前記押圧部は、ワークの貫通孔を閉塞し、かつ貫通孔周囲の第1被押圧部が弾性復元力により密着する第1押圧部と、この第1押圧部の外周域を取り囲んで前記第1被押圧部外周域の環状の第2被押圧部が弾性復元力により密着する環状の第2押圧部とからなり、前記第1押圧部と第1被押圧部との密着および環状の第2押圧部と環状の第2被押圧部との密着によってワークと取出しヘッドとの間に気密な負圧発生空間が形成されるとともに、この負圧発生空間に吸気通路が開口していることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
前記吸気通路の開口位置が前記第1押圧部の外周に沿って配置されていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【請求項4】
請求項1,請求項2または請求項3に記載のワークの取出しヘッドにおいて、
良品ワーク吸着保持時の前記吸気通路の負圧を設定する負圧設定器と、ワーク吸着保持時の吸気通路の負圧を検出する負圧検出器と、負圧設定器から出力される第1負圧と負圧検出器から出力される第2負圧とを比較して、第2負圧が第1負圧よりも小さい場合に不良ワークが吸着保持されていると判断して警報装置に作動信号を出力する比較・判断回路とを備えていることを特徴とするワークの取出しヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−50928(P2009−50928A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218141(P2007−218141)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000138473)株式会社ユーシン精機 (117)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000138473)株式会社ユーシン精機 (117)
【Fターム(参考)】
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