ワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置
【課題】直線3軸および回転3軸を備える多軸工作機械において、ワーク設置誤差を補正する。
【解決手段】数値制御装置10は指令解析部11でプログラム指令を解析し、補間部12で各軸の補間位置を作成し、工具位置方向計算部で工具位置と工具方向を求め、その工具位置と工具方向に対して設置誤差量に基づいて補正工具位置と補正工具方向を計算し、補正直線軸位置と補正回転軸位置を計算する。ワーク設置誤差補正部13は各軸の補間位置を指令位置として、設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納された設置誤差量(並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ))とトレランスD0によってワーク設置誤差補正の計算を行い直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を求め、求められた補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置に基づいて各軸のサーボ15X,15Y,15Z,15A,15B,15Cを駆動する。
【解決手段】数値制御装置10は指令解析部11でプログラム指令を解析し、補間部12で各軸の補間位置を作成し、工具位置方向計算部で工具位置と工具方向を求め、その工具位置と工具方向に対して設置誤差量に基づいて補正工具位置と補正工具方向を計算し、補正直線軸位置と補正回転軸位置を計算する。ワーク設置誤差補正部13は各軸の補間位置を指令位置として、設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納された設置誤差量(並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ))とトレランスD0によってワーク設置誤差補正の計算を行い直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を求め、求められた補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置に基づいて各軸のサーボ15X,15Y,15Z,15A,15B,15Cを駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブルに取り付けられたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸でテーブルまたは工具ヘッドを回転する機構によって加工する多軸工作機械(多軸加工機)を制御する数値制御装置に関し、特にワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直線軸3軸(X,Y,Z軸)に加えて回転軸2軸を持つ5軸加工機が普及してきている。5軸加工機においてワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置に関して、特許文献1〜3がある。
特許文献1には、5軸加工機において機械座標系で補間した位置を中間座標系に変換しワーク設置時の誤差に対して誤差補正を行い機械座標系の位置に変換する技術が述べられている(請求項1など参照)。しかし、特許文献2に記載しているような回転軸の複数の解のどれを選択するかの記載がなく、数値制御装置に実装することができない。
特許文献2には、5軸加工機において工具の指令座標系上の位置と方向を計算しワーク設置時の誤差に対して誤差補正を行った後の回転軸位置を計算する時に解が複数存在した場合に指令位置に近い解を選択する技術が述べられている(請求項1など参照)。
しかし、特許文献3において特許文献2の問題点として説明しているように特許文献3の図8(c)のような特異点近くでの回転軸の大きな動作が生じる場合がある。特異点近くでの回転軸の大きな動作が生じると、加工時間が長くなる、加工面に段差やスジが発生し加工面品位が低下するなどの不都合が生じる。特許文献3には、回転軸が特異点を越えて反対側に指令されている場合は回転軸の径路を特異点通過とする技術が述べられている(請求項1など参照)。しかし、径路を変更するため加工誤差が生じる。また、これらの従来技術は上記のように全て5軸加工機を対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15464号公報
【特許文献2】特開2009−93269号公報
【特許文献3】特開2011−133968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、図1,図2に示されるような3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドが用いられるようになっている。また、テーブル回転2軸とヘッド回転1軸を有する混合型多軸加工機(図3参照)やテーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機(図4参照)も用いられるようになっている。さらに、テーブル回転3軸を有するテーブル回転型多軸加工機(図5参照)も機械構成としては考えられる。上述したように従来技術は直線軸3軸(X,Y,Z軸)に加えて回転軸2軸を持つ5軸加工機に対する技術であり、これらの回転軸3軸を持つ多軸構成の工作機械(多軸加工機)に対して、数値制御装置においてワークを設置した時の設置誤差を補正する技術思想はなかった。
【0005】
また、上記特許文献2のように複数存在する解を選択する場合、複数の解は高々2組である(特許文献2の段落「0021」〜段落「0045」を参照)。ところが、後述するように回転軸3軸を持つ多軸加工機において回転軸位置を計算する時の解は無数に存在する。そのため、上記記載の5軸加工機に対する技術を単に回転軸3軸を持つ多軸加工機に適用することはできない。
さらに、5軸加工機においては特異点近くにおいて、上記のような回転軸の大きな動作や加工誤差が生じる場合があるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、テーブルに取り付けられたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸でテーブルまたは工具ヘッドを回転する機構によって加工する多軸工作機械においてワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置を提供することである。また、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を持つ多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差を補正する時、5軸加工機において発生していた特異点近くの大きな動作を発生しないようにする。これらのことにより、より短時間でより高品位かつより高精度の加工を行うことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御する数値制御装置において、ワーク設置時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を有し、前記ワーク設置誤差補正部は、前記直線軸3軸と前記回転軸3軸の指令位置に基づいてワーク設置時の座標系であるワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部と、前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向が前記設置誤差を有するワーク上で保持されるように、前記設置誤差に対応してあらかじめ設定した設置誤差量によって前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向に対して補正された工具の位置と方向である補正工具位置と補正工具方向の計算を行う補正工具位置方向計算部と、前記補正工具位置と前記補正工具方向から前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有し、前記補正直線軸位置と前記補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動することを特徴とする数値制御装置である。
請求項2に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記補正工具方向から前記回転軸3軸の複数解を計算し前記複数解を合成して前記補正回転軸位置を求める請求項1に記載の数値制御装置である。
請求項3に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正直線軸軸位置の計算は、前記補正工具位置に対して前記補正回転軸位置のうちテーブル回転軸位置による逆変換行列を乗算して求める請求項1または2のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項4に係る発明は、前記複数解は、第1回転軸は動作しないとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は動作しないとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は動作しないとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項5に係る発明は、前記複数解は、第1回転軸は1周期前の補間周期で求めた第1回転軸の移動量分移動するとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は1周期前の補間周期で求めた第2回転軸の移動量分移動するとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は1周期前の補間周期で求めた第3回転軸の移動量分移動するとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
【0008】
請求項6に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記複数解に対して移動量が小さいことを大きくする評価する評価値を計算し、前記複数解による移動量に前記評価値を乗算して合成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項7に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、求めた前記回転軸3軸の回転軸位置から検証工具方向を求め前記補正工具方向との差が設定されたトレランス以内かどうかを検証し前記トレランス以内でなければ前記評価値について移動量が小さいことをより大きく評価する評価値を求めて前記補正回転軸位置の計算を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の数値制御装置である。
請求項8に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項9に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸でテーブルを回転し他の回転軸1軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項10に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸で工具ヘッドを回転し他の回転軸1軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項11に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を有する多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差があっても指令通りの正しい加工、高精度の加工を行うことができる。
更に本発明では、回転軸3軸を持つ多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差を補正するため回転軸1軸分の冗長性を利用し上記の無数の解のうちから特異点近くの大きな動作が発生しない適切な解を選択することが可能となる。そのことにより、特異点近くでの回転軸の大きな動作を発生させないことによってより短時間でより高品位の、加工誤差がないことによってより高精度の加工を行うことができる。
このように本発明によって、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を持つ多軸工作機械において、特異点近くでの回転軸の大きな動作を発生させることなくまた加工誤差なくワーク設置時の設置誤差に対する補正を行った加工を行うことが可能なワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドをB軸方向から見たときの概略構成図である。
【図2】3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドをA軸方向から見たときの概略構成図である。
【図3】テーブル回転2軸とヘッド回転1軸を有する混合型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図4】テーブル回転軸1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図5】テーブル回転3軸を有するテーブル回転型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図6】テーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機におけるワーク設置誤差補正を説明する図である。
【図7】図6のワークと工具ヘッド部分のみ図示したものである。
【図8】A,B,C軸の固定する位置を1周期前の補間周期で求められたA,B,C軸位置(a0,b0,c0)として計算した場合の各回転軸固定解をA,B,C軸を座標として図示して説明する図である。
【図9】本発明のワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置を説明するブロック図である。
【図10】本発明の実施形態1における補正直線軸回転軸位置計算部が行う処理のアルゴリズムのフローチャートを示す。
【図11】本発明を適用したワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置のハードウェアの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御するとともに、ワーク設置時の誤差を補正する前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算しそれらの位置に駆動する数値制御装置に関する。
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[実施形態1]
図6はテーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機におけるワーク設置誤差補正を説明する図である。この工作機械においては、直線軸X、Y、Z軸の動作とともに工具ヘッドがY軸回りのB軸とX軸回りのA軸によって回転し、さらに回転テーブルがZ軸周りのC軸で回転するようになっている。
ワークを設置した時のずれやテーブルの傾斜などによって本来の基準ワーク位置に対して実ワーク位置がずれている。そのずれ量はあらかじめ測定され、ワーク設置座標系に対するX,Y,Z軸方向の並進誤差量(δx,δy,δz)、X軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)として設定されている。これらの並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ)が設置誤差量である。そして、ワーク設置座標系上の基準ワーク位置と誤差座標系上の実ワーク位置が同じとなるように、この設置誤差量にしたがってワーク設置座標系に対する誤差座標系が作成されている(図7を参照)。図7は図6のワークと工具ヘッド部分のみ図示したものである。
【0013】
直線軸3軸と回転軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc,Ac,Bc,Cc)は機械座標系で指令される。直線軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc)は、工具先端点の位置としてもよいし、工具先端点から工具ヘッド側に工具長補正分離れた位置である工具基準点としてもよい。図6ではA軸とB軸の回転中心の交点を工具基準点として図示している。ここでは、直線軸3軸の指令位置は工具先端点位置とする。ワーク設置座標系はプログラム座標系でもあり、原点はC軸回転中心にあるとする。プログラム指令はプログラム座標系で指令され、補間周期毎に補間された機械座標系上の補間位置が直線軸3軸と回転軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc,Ac,Bc,Cc)とする。他にもプログラム指令においてプログラム座標系上で指令された位置を指令位置とすることもできる。誤差座標系上において指令位置に基づく工具位置と工具方向を保つように、換言すれば、誤差座標系上の工具位置と工具方向がワーク設置座標系上の指令位置による工具位置と工具方向と同じになるように、あらかじめ設定されたX,Y,Z軸方向の並進誤差量(δx,δy,δz)、X軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)によって直線軸3軸と回転軸3軸に対するワーク設置誤差補正を次のように行う。なお、上述の誤差座標系上の工具位置と工具方向は、ワーク設置座標系で見ると後述の補正工具位置と補正工具方向であり、図7でも補正工具位置と補正工具方向として図示している。
【0014】
図6は、A=0,B=0,C=0の位置を示している。A=0,B=0,C=0の時の工具方向をZ軸方向、つまりベクトル(0,0,1)Tとする。まず、指令位置に基づいてワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する。なお、ここで「T」は転置を示すが、以降自明の場合省略する。また、sin(Ac)などの三角関数の表記において自明の場合sinAcのように( )を省略する。
A=Ac,B=Bc,C=Ccの時のワーク設置座標系上の工具方向(iw,jw,kw)は数1式のように、工具位置(xw,yw,zw)は数2式のように計算される。数2式の(x0,y0,z0)は、機械座標系でのワーク設置座標系原点の位置である。ここで、数1式におけるベクトル(0,0,1)に対する行列計算は工具からワークへの回転軸順で行う。また、数2式における行列計算はテーブル回転軸(ここではC軸)の回転量分順変換する行列計算である。後述するように、図3、図5のように他にもテーブル回転軸があれば同様に順変換の行列計算を追加する。したがって、これらの数1式、数2式の計算は機械構成による。これらが、工具位置方向計算部の計算である。
【0015】
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
次に、ワーク設置座標系上の工具位置(xw,yw,zw)と工具方向(iw,jw,kw)に対して誤差補正を次のように行う。
補正工具位置(xa,ya,za)は、工具位置(xw,yw,zw)から回転誤差(α、β、γ)および並進誤差(δx,δy,δz)によって数3式に基づいて計算する。回転誤差を補正する順は(α)、(β)、(γ)の順とする。
【0018】
【数3】
【0019】
ここでは、直線軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc)は工具先端点の位置としたが、工具基準点の位置とする場合は、(xw,yw,zw)の代わりに(xw,yw,zw)から工具長補正ベクトル分減算したベクトルに対して数3式の行列計算を行った後工具長補正ベクトル分を加算すればよい。この時、後述実施形態のように工具ヘッド回転軸がある場合は、加算する工具長補正ベクトルは次で述べる補正工具方向によって補正された工具長補正ベクトルである。
補正工具方向(ia,ja,ka)は、工具方向(iw,jw,kw)からX軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)によって数4式に基づいて計算する。これらが、補正工具位置方向計算部の計算である。
【0020】
【数4】
【0021】
次に、(ia,ja,ka)に対する回転軸位置を求める。(ia,ja,ka)に対する回転軸A,B,C軸の位置(a,b,c)について、数1式と同様に数5式の関係式が成り立つ。
【0022】
【数5】
【0023】
しかし数5式を満たす(a,b,c)の解は無数に存在し、解析的に一意に求めることは出来ない。そこで、A軸位置を固定させた場合のA軸固定解(第1回転軸固定解)、B軸位置を固定させた場合のB軸固定解(第2回転軸固定解)、C軸位置を固定させた場合のC軸固定解(第3回転軸固定解)を求める。各軸の固定のさせ方としては、1周期前の補間周期で求められた各軸位置を採用する、あるいは1周期前の補間周期での各軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとした場合の各軸位置を採用する方法などがある。
【0024】
<A軸固定解(第1回転軸固定解)>
aは1周期前の補間周期で求められたワーク設置誤差補正後のA軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のA軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることにより固定し、それをa1とする。つまり、1周期前の補間周期で求められたワーク設置誤差補正後のA軸位置をa0,1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のA軸移動量をΔa0とすると、a1=a0とする、あるいはa1=a0+Δa0とすることによりaを固定する。ここでは1周期前の位置a0、移動量(速度)Δa0を使用したが、他にも加速度(速度の差分)、加加速度(加速度の差分)などを使用してもよい。
第1回転軸固定解のb,cをb1,c1とすると、数5式を解くことによってa1,ia,ja,kaから数6式のように計算できる。nは整数である。
【0025】
【数6】
【0026】
ここで、cos-1、sin-1およびtan-1の関数値は0〜2π間で複数あるがそれらのうちのどの値を選択するかという解選択、および整数nの決定については、b1,c1が1周期前の補間周期におけるワーク設置誤差補正後のB,C軸位置に近い解となるように決定する。または、1周期前の補間周期におけるA軸固定解のB,C軸位置に近い解となるように決定することもできる。また、b1計算におけるcos-1の( )中の分母、分子が0の場合は不定となり、またcos-1の( )中の絶対値が1より大である場合は解なしとなる。その場合、b1は1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のB軸位置とする、あるいは後述する第1回転軸固定解の評価値を0とする。c1計算についても同様である。
このような、軸位置を固定する方法、解選択や整数値の決定、および不定、解なしに対する処理は第2回転軸固定解、第3回転軸固定解の計算においても同様である。
【0027】
<B軸固定解(第2回転軸固定解)>
bは1周期前の補間周期で求められたB軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのB軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることなどにより固定し、それをb2とする。第2回転軸固定解のa,cをa2,c2とすると、数5式を解くことによってb2,ia,ja,kaから次の数7式のように計算できる。mは整数である。
【0028】
【数7】
【0029】
<C軸固定解(第3回転軸固定解)>
cは1周期前の補間周期で求められたC軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのC軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることなどにより固定し、それをc3とする。第3回転軸固定解のa,bをa3,b3とすると、数5式を解くことによってc3,ia,ja,kaから次の数8式のように計算できる。
【0030】
【数8】
【0031】
A,B,C軸の固定する位置を1周期前の補間周期で求められたA,B,C軸位置(a0,b0,c0)として計算した場合の各回転軸固定解をA,B,C軸を座標として図示すると図8のようになる。
【0032】
次に第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解に対するそれぞれの仮評価値V1’,V2’,V3’を求める。ここで第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解が複数解である。仮評価値は複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価する値とする。例えば、数9式の計算値を仮評価値とする。ここで、a0,b0,c0は1周期前の補間周期におけるA,B,C軸位置であり、数9式の各式の分母が各解による各軸合成移動量である。wは移動量が小さいことをどの程度大きく評価するかを示すべき乗値である。このように、複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価し、後述のように各解移動量に評価値を乗算して合成することによって、ワーク設置誤差補正によって生じる回転軸の移動量を小さくすることができる。そのことにより、特異点近くでの回転軸の大きな動作を回避することができる。
【0033】
【数9】
【0034】
これらの仮評価値は1例であり、各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価する値であれば他の計算式もありえる。例えば、V1’の計算において次のように定数BV1を加えてもよいし、分母を各移動量の絶対値にしてもよいし、分子を一定値NV1にしてもよい。V2’,V3’についても同様である。
【0035】
【数10】
【0036】
V1’,V2’,V3’を正規化したものを評価値V1,V2,V3とする。あるいは、複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量の最も小さい解の評価値を1、他の解の評価値を0としてもよい。このように複数解のうち1つを選択する方法も含めてここでは次のように「合成する」と言う。そして、数11式のように評価値を第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解による移動量に乗算し合成する。
【0037】
【数11】
【0038】
これによって、今回の補間周期におけるA,B,C軸の移動すべき回転軸位置(a,b,c)が求まる。ただし、第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解は数5式に対する解であるが、数11式で求めたa,b,cは厳密には数5式の解ではない。そのため、a,b,cを数5式右辺に代入して検証工具方向(iv,jv,kv)を求めて検証する。つまり、数11式で求めたa,b,cを数5式右辺に代入して求めた数5式左辺を(iv,jv,kv)とすると、数12式のようにDを求め、あらかじめ設定されているトレランスD0と比較しトレランスD0よりも小さければa,b,cを今回の補間周期におけるA,B,C軸の移動すべき位置とする。トレランスD0よりも大きければ、wを大きくして再度数9式または数10式で再度評価値を求め、数11式、数12式の計算を行いDがトレランスD0より小さくなるまで繰り返す。ここで、wを大きくするには、w=w+dwと一定値dwを加算する、w=kw*wと1より大の係数kwを乗算するなどの方法がある。
【0039】
【数12】
【0040】
最後に求めた(a,b,c)が補正回転軸位置である。
次に補正直線軸位置(x,y,z)を補正工具位置(xa,ya,za)から数13式のように計算する。ここで、cによる行列計算は補正回転軸位置として求めた(a,b,c)のうちテーブル回転軸(ここではC軸)位置による逆変換行列の乗算である。後述するように、図3、図5のように他にもテーブル回転軸があれば同様にそれらの逆変換行列の乗算も追加する。
【0041】
【数13】
【0042】
したがって、数5式〜数13式の計算が補正直線軸回転軸位置計算部の計算である。
【0043】
[実施形態2]
図1、図2の工具ヘッド回転型多軸加工機(工具ヘッド回転3軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はA,B,C軸なので数1式の代わりに数14式(数5式の代わりも同様)、テーブル回転軸はないので数2式の代わりに数15式および数13式の代わりに数16式を使用する。
【0044】
【数14】
【0045】
【数15】
【0046】
【数16】
【0047】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0048】
[実施形態3]
図3の混合型多軸加工機(テーブル回転2軸+ヘッド回転1軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はB,A,C軸なので数1式については実施形態1と同様(数5式も同様)であり、テーブル回転軸はA,C軸なので数2式の代わりに数17式および数13式の代わりに数18式を使用する。
【0049】
【数17】
【0050】
【数18】
【0051】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0052】
[実施形態4]
図5のテーブル回転型多軸加工機(テーブル回転3軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はA,B,C軸なので実施形態2と同様数1式の代わりに数14式(数5式の代わりも同様)、テーブル回転軸はA,B,C軸なので数2式の代わりに数19式および数13式の代わりに数20式を使用する。
【0053】
【数19】
【0054】
【数20】
【0055】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0056】
図9は本発明のワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置を説明するブロック図である。
数値制御装置10は一般に、指令解析部11でプログラム指令を解析し、解析結果に基づいて補間部12で補間を行い各軸の補間位置を作成し各軸のサーボを駆動する。本発明においては、ワーク設置誤差補正部13が各軸の補間位置を指令位置として、設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納された設置誤差量(並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ))によってワーク設置誤差補正の計算を行い直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を求め、求められた補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動する。ワーク設置誤差補正部13は、ワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部、その工具位置と工具方向に対して設置誤差量に基づいて補正工具位置と補正工具方向を計算する補正工具位置方向計算部、およびその補正工具位置と補正工具方向に対する直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有する。補正直線軸回転軸位置計算部は設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納されたトレランスD0を参照する。
【0057】
図10は本発明の実施形態1における補正直線軸回転軸位置計算部が行う処理のアルゴリズムのフローチャートを示す。
●[ステップSA01]補正工具位置方向計算部での補正工具方向(ia,ja,ka)、補正工具位置(xa,ya,za)を得る。
●[ステップSA02]数6式で第1回転軸固定解を、数7式で第2回転軸固定解を、数8式で第3回転軸固定解を計算する。
●[ステップSA03]1周期前の補間周期での回転軸補間位置(a0,b0,c0)を得る。
●[ステップSA04]数9式で、第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解に対する仮評価値V1’,V2’,V3’を計算する。
●[ステップSA05]仮評価値V1’,V2’,V3’を正規化し各評価値V1,V2,V3を得る。
●[ステップSA06]数11式でA,B,C軸の移動すべき補正回転軸位置(a,b,c)を計算する。
●[ステップSA07]補正回転軸位置(a,b,c)を数5式右辺に代入して検証工具方向(iv,jv,kv)を求める。
●[ステップSA08]数12式でDを計算する。
●[ステップSA09]DはD0より小さいか否か判断し、小さい場合(つまりYESの場合)にはステップSA11へ移行し、小さくない場合(つまりNOの場合)にはステップSA10へ移行する。
●[ステップSA10]べき乗値wに一定値dwを加算したものを新たなべき乗値wとし、ステップSA04に戻り、処理を継続する。
●[ステップSA11]数13式で補正直線軸位置(x,y,z)を計算し、処理を終了する。
【0058】
図11は本発明を適用したワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置のハードウェアの構成を説明する図である。プロセッサであるCPU21はROM22に格納されたシステムプログラムに従って数値制御装置10の全体を制御する。図9の指令解析部11および補間部12は、CPU21がROM22のシステムプログラムによって実行するソフトウェアによる機能である。同様に請求項1に記載のワーク設置誤差補正部
もソフトウェアによる機能である。RAM23には入出力信号などの一時的なデータが格納される。不揮発性メモリ24には電源断も保持すべきパラメータ、加工プログラム等が格納される。
【0059】
表示装置/MDIパネル25には、グラフィック制御回路30、表示装置31、システムプログラム等によって機能が変化するソフトウェアキー32、キーボード33が設けられている。グラフィック制御回路30はガイダンス情報や入力された指定形状等を表示可能な信号に変換し、表示装置31に与える。表示装置31には液晶表示装置が使用される。
軸制御回路26はCPU(プロセッサ)21から補間パルスCPを含む軸の移動指令を受けて、軸の移動指令をサーボアンプ27に出力制御する。サーボアンプ27はこの移動指令を受けて、工作機械40に備わった図示しないサーボモータを駆動する。これらの構成要素はバス29を介してお互いに接続されている。PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)28は加工プログラムの実行時に、バス29を経由してT機能信号(工具選択指令)等を受け取る。そして、この信号をシーケンス・プログラムで処理して、動作指令として信号を出力し、工作機械40を制御する。
【符号の説明】
【0060】
10 数値制御装置
11 指令解析部
12 補間部
13 ワーク設置誤差補正部
14 設置誤差量およびトレランス量記憶部
15X X軸サーボ
15Y Y軸サーボ
15Z Z軸サーボ
15A A軸サーボ
15B B軸サーボ
15C C軸サーボ
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブルに取り付けられたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸でテーブルまたは工具ヘッドを回転する機構によって加工する多軸工作機械(多軸加工機)を制御する数値制御装置に関し、特にワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直線軸3軸(X,Y,Z軸)に加えて回転軸2軸を持つ5軸加工機が普及してきている。5軸加工機においてワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置に関して、特許文献1〜3がある。
特許文献1には、5軸加工機において機械座標系で補間した位置を中間座標系に変換しワーク設置時の誤差に対して誤差補正を行い機械座標系の位置に変換する技術が述べられている(請求項1など参照)。しかし、特許文献2に記載しているような回転軸の複数の解のどれを選択するかの記載がなく、数値制御装置に実装することができない。
特許文献2には、5軸加工機において工具の指令座標系上の位置と方向を計算しワーク設置時の誤差に対して誤差補正を行った後の回転軸位置を計算する時に解が複数存在した場合に指令位置に近い解を選択する技術が述べられている(請求項1など参照)。
しかし、特許文献3において特許文献2の問題点として説明しているように特許文献3の図8(c)のような特異点近くでの回転軸の大きな動作が生じる場合がある。特異点近くでの回転軸の大きな動作が生じると、加工時間が長くなる、加工面に段差やスジが発生し加工面品位が低下するなどの不都合が生じる。特許文献3には、回転軸が特異点を越えて反対側に指令されている場合は回転軸の径路を特異点通過とする技術が述べられている(請求項1など参照)。しかし、径路を変更するため加工誤差が生じる。また、これらの従来技術は上記のように全て5軸加工機を対象としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15464号公報
【特許文献2】特開2009−93269号公報
【特許文献3】特開2011−133968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、図1,図2に示されるような3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドが用いられるようになっている。また、テーブル回転2軸とヘッド回転1軸を有する混合型多軸加工機(図3参照)やテーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機(図4参照)も用いられるようになっている。さらに、テーブル回転3軸を有するテーブル回転型多軸加工機(図5参照)も機械構成としては考えられる。上述したように従来技術は直線軸3軸(X,Y,Z軸)に加えて回転軸2軸を持つ5軸加工機に対する技術であり、これらの回転軸3軸を持つ多軸構成の工作機械(多軸加工機)に対して、数値制御装置においてワークを設置した時の設置誤差を補正する技術思想はなかった。
【0005】
また、上記特許文献2のように複数存在する解を選択する場合、複数の解は高々2組である(特許文献2の段落「0021」〜段落「0045」を参照)。ところが、後述するように回転軸3軸を持つ多軸加工機において回転軸位置を計算する時の解は無数に存在する。そのため、上記記載の5軸加工機に対する技術を単に回転軸3軸を持つ多軸加工機に適用することはできない。
さらに、5軸加工機においては特異点近くにおいて、上記のような回転軸の大きな動作や加工誤差が生じる場合があるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、テーブルに取り付けられたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸でテーブルまたは工具ヘッドを回転する機構によって加工する多軸工作機械においてワークを設置した時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置を提供することである。また、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を持つ多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差を補正する時、5軸加工機において発生していた特異点近くの大きな動作を発生しないようにする。これらのことにより、より短時間でより高品位かつより高精度の加工を行うことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御する数値制御装置において、ワーク設置時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を有し、前記ワーク設置誤差補正部は、前記直線軸3軸と前記回転軸3軸の指令位置に基づいてワーク設置時の座標系であるワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部と、前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向が前記設置誤差を有するワーク上で保持されるように、前記設置誤差に対応してあらかじめ設定した設置誤差量によって前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向に対して補正された工具の位置と方向である補正工具位置と補正工具方向の計算を行う補正工具位置方向計算部と、前記補正工具位置と前記補正工具方向から前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有し、前記補正直線軸位置と前記補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動することを特徴とする数値制御装置である。
請求項2に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記補正工具方向から前記回転軸3軸の複数解を計算し前記複数解を合成して前記補正回転軸位置を求める請求項1に記載の数値制御装置である。
請求項3に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正直線軸軸位置の計算は、前記補正工具位置に対して前記補正回転軸位置のうちテーブル回転軸位置による逆変換行列を乗算して求める請求項1または2のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項4に係る発明は、前記複数解は、第1回転軸は動作しないとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は動作しないとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は動作しないとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項5に係る発明は、前記複数解は、第1回転軸は1周期前の補間周期で求めた第1回転軸の移動量分移動するとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は1周期前の補間周期で求めた第2回転軸の移動量分移動するとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は1周期前の補間周期で求めた第3回転軸の移動量分移動するとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
【0008】
請求項6に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記複数解に対して移動量が小さいことを大きくする評価する評価値を計算し、前記複数解による移動量に前記評価値を乗算して合成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項7に係る発明は、前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、求めた前記回転軸3軸の回転軸位置から検証工具方向を求め前記補正工具方向との差が設定されたトレランス以内かどうかを検証し前記トレランス以内でなければ前記評価値について移動量が小さいことをより大きく評価する評価値を求めて前記補正回転軸位置の計算を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の数値制御装置である。
請求項8に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項9に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸でテーブルを回転し他の回転軸1軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項10に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸で工具ヘッドを回転し他の回転軸1軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
請求項11に係る発明は、前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を有する多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差があっても指令通りの正しい加工、高精度の加工を行うことができる。
更に本発明では、回転軸3軸を持つ多軸工作機械においてワーク設置時の設置誤差を補正するため回転軸1軸分の冗長性を利用し上記の無数の解のうちから特異点近くの大きな動作が発生しない適切な解を選択することが可能となる。そのことにより、特異点近くでの回転軸の大きな動作を発生させないことによってより短時間でより高品位の、加工誤差がないことによってより高精度の加工を行うことができる。
このように本発明によって、少なくとも直線軸3軸および回転軸3軸を持つ多軸工作機械において、特異点近くでの回転軸の大きな動作を発生させることなくまた加工誤差なくワーク設置時の設置誤差に対する補正を行った加工を行うことが可能なワーク設置誤差補正部を備える数値制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドをB軸方向から見たときの概略構成図である。
【図2】3軸の回転軸を持ったヘッド回転型多軸加工機用の工具ヘッドをA軸方向から見たときの概略構成図である。
【図3】テーブル回転2軸とヘッド回転1軸を有する混合型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図4】テーブル回転軸1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図5】テーブル回転3軸を有するテーブル回転型多軸加工機の機械構成を説明する概略構成図である。
【図6】テーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機におけるワーク設置誤差補正を説明する図である。
【図7】図6のワークと工具ヘッド部分のみ図示したものである。
【図8】A,B,C軸の固定する位置を1周期前の補間周期で求められたA,B,C軸位置(a0,b0,c0)として計算した場合の各回転軸固定解をA,B,C軸を座標として図示して説明する図である。
【図9】本発明のワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置を説明するブロック図である。
【図10】本発明の実施形態1における補正直線軸回転軸位置計算部が行う処理のアルゴリズムのフローチャートを示す。
【図11】本発明を適用したワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置のハードウェアの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御するとともに、ワーク設置時の誤差を補正する前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算しそれらの位置に駆動する数値制御装置に関する。
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[実施形態1]
図6はテーブル回転1軸とヘッド回転2軸を有する混合型多軸加工機におけるワーク設置誤差補正を説明する図である。この工作機械においては、直線軸X、Y、Z軸の動作とともに工具ヘッドがY軸回りのB軸とX軸回りのA軸によって回転し、さらに回転テーブルがZ軸周りのC軸で回転するようになっている。
ワークを設置した時のずれやテーブルの傾斜などによって本来の基準ワーク位置に対して実ワーク位置がずれている。そのずれ量はあらかじめ測定され、ワーク設置座標系に対するX,Y,Z軸方向の並進誤差量(δx,δy,δz)、X軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)として設定されている。これらの並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ)が設置誤差量である。そして、ワーク設置座標系上の基準ワーク位置と誤差座標系上の実ワーク位置が同じとなるように、この設置誤差量にしたがってワーク設置座標系に対する誤差座標系が作成されている(図7を参照)。図7は図6のワークと工具ヘッド部分のみ図示したものである。
【0013】
直線軸3軸と回転軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc,Ac,Bc,Cc)は機械座標系で指令される。直線軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc)は、工具先端点の位置としてもよいし、工具先端点から工具ヘッド側に工具長補正分離れた位置である工具基準点としてもよい。図6ではA軸とB軸の回転中心の交点を工具基準点として図示している。ここでは、直線軸3軸の指令位置は工具先端点位置とする。ワーク設置座標系はプログラム座標系でもあり、原点はC軸回転中心にあるとする。プログラム指令はプログラム座標系で指令され、補間周期毎に補間された機械座標系上の補間位置が直線軸3軸と回転軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc,Ac,Bc,Cc)とする。他にもプログラム指令においてプログラム座標系上で指令された位置を指令位置とすることもできる。誤差座標系上において指令位置に基づく工具位置と工具方向を保つように、換言すれば、誤差座標系上の工具位置と工具方向がワーク設置座標系上の指令位置による工具位置と工具方向と同じになるように、あらかじめ設定されたX,Y,Z軸方向の並進誤差量(δx,δy,δz)、X軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)によって直線軸3軸と回転軸3軸に対するワーク設置誤差補正を次のように行う。なお、上述の誤差座標系上の工具位置と工具方向は、ワーク設置座標系で見ると後述の補正工具位置と補正工具方向であり、図7でも補正工具位置と補正工具方向として図示している。
【0014】
図6は、A=0,B=0,C=0の位置を示している。A=0,B=0,C=0の時の工具方向をZ軸方向、つまりベクトル(0,0,1)Tとする。まず、指令位置に基づいてワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する。なお、ここで「T」は転置を示すが、以降自明の場合省略する。また、sin(Ac)などの三角関数の表記において自明の場合sinAcのように( )を省略する。
A=Ac,B=Bc,C=Ccの時のワーク設置座標系上の工具方向(iw,jw,kw)は数1式のように、工具位置(xw,yw,zw)は数2式のように計算される。数2式の(x0,y0,z0)は、機械座標系でのワーク設置座標系原点の位置である。ここで、数1式におけるベクトル(0,0,1)に対する行列計算は工具からワークへの回転軸順で行う。また、数2式における行列計算はテーブル回転軸(ここではC軸)の回転量分順変換する行列計算である。後述するように、図3、図5のように他にもテーブル回転軸があれば同様に順変換の行列計算を追加する。したがって、これらの数1式、数2式の計算は機械構成による。これらが、工具位置方向計算部の計算である。
【0015】
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
次に、ワーク設置座標系上の工具位置(xw,yw,zw)と工具方向(iw,jw,kw)に対して誤差補正を次のように行う。
補正工具位置(xa,ya,za)は、工具位置(xw,yw,zw)から回転誤差(α、β、γ)および並進誤差(δx,δy,δz)によって数3式に基づいて計算する。回転誤差を補正する順は(α)、(β)、(γ)の順とする。
【0018】
【数3】
【0019】
ここでは、直線軸3軸の指令位置(Xc,Yc,Zc)は工具先端点の位置としたが、工具基準点の位置とする場合は、(xw,yw,zw)の代わりに(xw,yw,zw)から工具長補正ベクトル分減算したベクトルに対して数3式の行列計算を行った後工具長補正ベクトル分を加算すればよい。この時、後述実施形態のように工具ヘッド回転軸がある場合は、加算する工具長補正ベクトルは次で述べる補正工具方向によって補正された工具長補正ベクトルである。
補正工具方向(ia,ja,ka)は、工具方向(iw,jw,kw)からX軸回りの回転誤差量(α)、Y軸回りの回転誤差量(β)、Z軸回りの回転誤差量(γ)によって数4式に基づいて計算する。これらが、補正工具位置方向計算部の計算である。
【0020】
【数4】
【0021】
次に、(ia,ja,ka)に対する回転軸位置を求める。(ia,ja,ka)に対する回転軸A,B,C軸の位置(a,b,c)について、数1式と同様に数5式の関係式が成り立つ。
【0022】
【数5】
【0023】
しかし数5式を満たす(a,b,c)の解は無数に存在し、解析的に一意に求めることは出来ない。そこで、A軸位置を固定させた場合のA軸固定解(第1回転軸固定解)、B軸位置を固定させた場合のB軸固定解(第2回転軸固定解)、C軸位置を固定させた場合のC軸固定解(第3回転軸固定解)を求める。各軸の固定のさせ方としては、1周期前の補間周期で求められた各軸位置を採用する、あるいは1周期前の補間周期での各軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとした場合の各軸位置を採用する方法などがある。
【0024】
<A軸固定解(第1回転軸固定解)>
aは1周期前の補間周期で求められたワーク設置誤差補正後のA軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のA軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることにより固定し、それをa1とする。つまり、1周期前の補間周期で求められたワーク設置誤差補正後のA軸位置をa0,1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のA軸移動量をΔa0とすると、a1=a0とする、あるいはa1=a0+Δa0とすることによりaを固定する。ここでは1周期前の位置a0、移動量(速度)Δa0を使用したが、他にも加速度(速度の差分)、加加速度(加速度の差分)などを使用してもよい。
第1回転軸固定解のb,cをb1,c1とすると、数5式を解くことによってa1,ia,ja,kaから数6式のように計算できる。nは整数である。
【0025】
【数6】
【0026】
ここで、cos-1、sin-1およびtan-1の関数値は0〜2π間で複数あるがそれらのうちのどの値を選択するかという解選択、および整数nの決定については、b1,c1が1周期前の補間周期におけるワーク設置誤差補正後のB,C軸位置に近い解となるように決定する。または、1周期前の補間周期におけるA軸固定解のB,C軸位置に近い解となるように決定することもできる。また、b1計算におけるcos-1の( )中の分母、分子が0の場合は不定となり、またcos-1の( )中の絶対値が1より大である場合は解なしとなる。その場合、b1は1周期前の補間周期でのワーク設置誤差補正後のB軸位置とする、あるいは後述する第1回転軸固定解の評価値を0とする。c1計算についても同様である。
このような、軸位置を固定する方法、解選択や整数値の決定、および不定、解なしに対する処理は第2回転軸固定解、第3回転軸固定解の計算においても同様である。
【0027】
<B軸固定解(第2回転軸固定解)>
bは1周期前の補間周期で求められたB軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのB軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることなどにより固定し、それをb2とする。第2回転軸固定解のa,cをa2,c2とすると、数5式を解くことによってb2,ia,ja,kaから次の数7式のように計算できる。mは整数である。
【0028】
【数7】
【0029】
<C軸固定解(第3回転軸固定解)>
cは1周期前の補間周期で求められたC軸位置とする、あるいは1周期前の補間周期でのC軸移動量が今回の補間周期でも同じであるとすることなどにより固定し、それをc3とする。第3回転軸固定解のa,bをa3,b3とすると、数5式を解くことによってc3,ia,ja,kaから次の数8式のように計算できる。
【0030】
【数8】
【0031】
A,B,C軸の固定する位置を1周期前の補間周期で求められたA,B,C軸位置(a0,b0,c0)として計算した場合の各回転軸固定解をA,B,C軸を座標として図示すると図8のようになる。
【0032】
次に第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解に対するそれぞれの仮評価値V1’,V2’,V3’を求める。ここで第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解が複数解である。仮評価値は複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価する値とする。例えば、数9式の計算値を仮評価値とする。ここで、a0,b0,c0は1周期前の補間周期におけるA,B,C軸位置であり、数9式の各式の分母が各解による各軸合成移動量である。wは移動量が小さいことをどの程度大きく評価するかを示すべき乗値である。このように、複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価し、後述のように各解移動量に評価値を乗算して合成することによって、ワーク設置誤差補正によって生じる回転軸の移動量を小さくすることができる。そのことにより、特異点近くでの回転軸の大きな動作を回避することができる。
【0033】
【数9】
【0034】
これらの仮評価値は1例であり、各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量が小さいことを大きく評価する値であれば他の計算式もありえる。例えば、V1’の計算において次のように定数BV1を加えてもよいし、分母を各移動量の絶対値にしてもよいし、分子を一定値NV1にしてもよい。V2’,V3’についても同様である。
【0035】
【数10】
【0036】
V1’,V2’,V3’を正規化したものを評価値V1,V2,V3とする。あるいは、複数解の各解による各軸(A,B,C軸)合成移動量の最も小さい解の評価値を1、他の解の評価値を0としてもよい。このように複数解のうち1つを選択する方法も含めてここでは次のように「合成する」と言う。そして、数11式のように評価値を第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解による移動量に乗算し合成する。
【0037】
【数11】
【0038】
これによって、今回の補間周期におけるA,B,C軸の移動すべき回転軸位置(a,b,c)が求まる。ただし、第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解は数5式に対する解であるが、数11式で求めたa,b,cは厳密には数5式の解ではない。そのため、a,b,cを数5式右辺に代入して検証工具方向(iv,jv,kv)を求めて検証する。つまり、数11式で求めたa,b,cを数5式右辺に代入して求めた数5式左辺を(iv,jv,kv)とすると、数12式のようにDを求め、あらかじめ設定されているトレランスD0と比較しトレランスD0よりも小さければa,b,cを今回の補間周期におけるA,B,C軸の移動すべき位置とする。トレランスD0よりも大きければ、wを大きくして再度数9式または数10式で再度評価値を求め、数11式、数12式の計算を行いDがトレランスD0より小さくなるまで繰り返す。ここで、wを大きくするには、w=w+dwと一定値dwを加算する、w=kw*wと1より大の係数kwを乗算するなどの方法がある。
【0039】
【数12】
【0040】
最後に求めた(a,b,c)が補正回転軸位置である。
次に補正直線軸位置(x,y,z)を補正工具位置(xa,ya,za)から数13式のように計算する。ここで、cによる行列計算は補正回転軸位置として求めた(a,b,c)のうちテーブル回転軸(ここではC軸)位置による逆変換行列の乗算である。後述するように、図3、図5のように他にもテーブル回転軸があれば同様にそれらの逆変換行列の乗算も追加する。
【0041】
【数13】
【0042】
したがって、数5式〜数13式の計算が補正直線軸回転軸位置計算部の計算である。
【0043】
[実施形態2]
図1、図2の工具ヘッド回転型多軸加工機(工具ヘッド回転3軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はA,B,C軸なので数1式の代わりに数14式(数5式の代わりも同様)、テーブル回転軸はないので数2式の代わりに数15式および数13式の代わりに数16式を使用する。
【0044】
【数14】
【0045】
【数15】
【0046】
【数16】
【0047】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0048】
[実施形態3]
図3の混合型多軸加工機(テーブル回転2軸+ヘッド回転1軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はB,A,C軸なので数1式については実施形態1と同様(数5式も同様)であり、テーブル回転軸はA,C軸なので数2式の代わりに数17式および数13式の代わりに数18式を使用する。
【0049】
【数17】
【0050】
【数18】
【0051】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0052】
[実施形態4]
図5のテーブル回転型多軸加工機(テーブル回転3軸)を想定する。工具からワークへの回転軸順はA,B,C軸なので実施形態2と同様数1式の代わりに数14式(数5式の代わりも同様)、テーブル回転軸はA,B,C軸なので数2式の代わりに数19式および数13式の代わりに数20式を使用する。
【0053】
【数19】
【0054】
【数20】
【0055】
後は実施形態1と同様の計算なので省略する。
【0056】
図9は本発明のワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置を説明するブロック図である。
数値制御装置10は一般に、指令解析部11でプログラム指令を解析し、解析結果に基づいて補間部12で補間を行い各軸の補間位置を作成し各軸のサーボを駆動する。本発明においては、ワーク設置誤差補正部13が各軸の補間位置を指令位置として、設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納された設置誤差量(並進誤差量(δx,δy,δz)、回転誤差量(α,β,γ))によってワーク設置誤差補正の計算を行い直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を求め、求められた補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動する。ワーク設置誤差補正部13は、ワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部、その工具位置と工具方向に対して設置誤差量に基づいて補正工具位置と補正工具方向を計算する補正工具位置方向計算部、およびその補正工具位置と補正工具方向に対する直線軸3軸の補正直線軸位置と回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有する。補正直線軸回転軸位置計算部は設置誤差量およびトレランス量記憶部14に格納されたトレランスD0を参照する。
【0057】
図10は本発明の実施形態1における補正直線軸回転軸位置計算部が行う処理のアルゴリズムのフローチャートを示す。
●[ステップSA01]補正工具位置方向計算部での補正工具方向(ia,ja,ka)、補正工具位置(xa,ya,za)を得る。
●[ステップSA02]数6式で第1回転軸固定解を、数7式で第2回転軸固定解を、数8式で第3回転軸固定解を計算する。
●[ステップSA03]1周期前の補間周期での回転軸補間位置(a0,b0,c0)を得る。
●[ステップSA04]数9式で、第1回転軸固定解、第2回転軸固定解、第3回転軸固定解に対する仮評価値V1’,V2’,V3’を計算する。
●[ステップSA05]仮評価値V1’,V2’,V3’を正規化し各評価値V1,V2,V3を得る。
●[ステップSA06]数11式でA,B,C軸の移動すべき補正回転軸位置(a,b,c)を計算する。
●[ステップSA07]補正回転軸位置(a,b,c)を数5式右辺に代入して検証工具方向(iv,jv,kv)を求める。
●[ステップSA08]数12式でDを計算する。
●[ステップSA09]DはD0より小さいか否か判断し、小さい場合(つまりYESの場合)にはステップSA11へ移行し、小さくない場合(つまりNOの場合)にはステップSA10へ移行する。
●[ステップSA10]べき乗値wに一定値dwを加算したものを新たなべき乗値wとし、ステップSA04に戻り、処理を継続する。
●[ステップSA11]数13式で補正直線軸位置(x,y,z)を計算し、処理を終了する。
【0058】
図11は本発明を適用したワーク設置誤差補正部を有する多軸工作機械用数値制御装置のハードウェアの構成を説明する図である。プロセッサであるCPU21はROM22に格納されたシステムプログラムに従って数値制御装置10の全体を制御する。図9の指令解析部11および補間部12は、CPU21がROM22のシステムプログラムによって実行するソフトウェアによる機能である。同様に請求項1に記載のワーク設置誤差補正部
もソフトウェアによる機能である。RAM23には入出力信号などの一時的なデータが格納される。不揮発性メモリ24には電源断も保持すべきパラメータ、加工プログラム等が格納される。
【0059】
表示装置/MDIパネル25には、グラフィック制御回路30、表示装置31、システムプログラム等によって機能が変化するソフトウェアキー32、キーボード33が設けられている。グラフィック制御回路30はガイダンス情報や入力された指定形状等を表示可能な信号に変換し、表示装置31に与える。表示装置31には液晶表示装置が使用される。
軸制御回路26はCPU(プロセッサ)21から補間パルスCPを含む軸の移動指令を受けて、軸の移動指令をサーボアンプ27に出力制御する。サーボアンプ27はこの移動指令を受けて、工作機械40に備わった図示しないサーボモータを駆動する。これらの構成要素はバス29を介してお互いに接続されている。PMC(プログラマブル・マシン・コントローラ)28は加工プログラムの実行時に、バス29を経由してT機能信号(工具選択指令)等を受け取る。そして、この信号をシーケンス・プログラムで処理して、動作指令として信号を出力し、工作機械40を制御する。
【符号の説明】
【0060】
10 数値制御装置
11 指令解析部
12 補間部
13 ワーク設置誤差補正部
14 設置誤差量およびトレランス量記憶部
15X X軸サーボ
15Y Y軸サーボ
15Z Z軸サーボ
15A A軸サーボ
15B B軸サーボ
15C C軸サーボ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御する数値制御装置において、
ワーク設置時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を有し、
前記ワーク設置誤差補正部は、
前記直線軸3軸と前記回転軸3軸の指令位置に基づいてワーク設置時の座標系であるワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部と、
前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向が前記設置誤差を有するワーク上で保持されるように、前記設置誤差に対応してあらかじめ設定した設置誤差量によって前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向に対して補正された工具の位置と方向である補正工具位置と補正工具方向の計算を行う補正工具位置方向計算部と、
前記補正工具位置と前記補正工具方向から前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有し、
前記補正直線軸位置と前記補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動することを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記補正工具方向から前記回転軸3軸の複数解を計算し前記複数解を合成して前記補正回転軸位置を求める請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正直線軸軸位置の計算は、前記補正工具位置に対して前記補正回転軸位置のうちテーブル回転軸位置による逆変換行列を乗算して求める請求項1または2のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記複数解は、第1回転軸は動作しないとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は動作しないとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は動作しないとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記複数解は、第1回転軸は1周期前の補間周期で求めた第1回転軸の移動量分移動するとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は1周期前の補間周期で求めた第2回転軸の移動量分移動するとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は1周期前の補間周期で求めた第3回転軸の移動量分移動するとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記複数解に対して移動量が小さいことを大きくする評価する評価値を計算し、前記複数解による移動量に前記評価値を乗算して合成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項7】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、求めた前記回転軸3軸の回転軸位置から検証工具方向を求め前記補正工具方向との差が設定されたトレランス以内かどうかを検証し前記トレランス以内でなければ前記評価値について移動量が小さいことをより大きく評価する評価値を求めて前記補正回転軸位置の計算を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の数値制御装置。
【請求項8】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項9】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸でテーブルを回転し他の回転軸1軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項10】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸で工具ヘッドを回転し他の回転軸1軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項11】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項1】
テーブルに取付られたワーク(加工物)に対して少なくとも直線軸3軸と回転軸3軸によって加工する多軸工作機械を制御する数値制御装置において、
ワーク設置時の設置誤差を補正するワーク設置誤差補正部を有し、
前記ワーク設置誤差補正部は、
前記直線軸3軸と前記回転軸3軸の指令位置に基づいてワーク設置時の座標系であるワーク設置座標系上の工具位置と工具方向を計算する工具位置方向計算部と、
前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向が前記設置誤差を有するワーク上で保持されるように、前記設置誤差に対応してあらかじめ設定した設置誤差量によって前記ワーク設置座標系上の前記工具位置と前記工具方向に対して補正された工具の位置と方向である補正工具位置と補正工具方向の計算を行う補正工具位置方向計算部と、
前記補正工具位置と前記補正工具方向から前記直線軸3軸の補正直線軸位置と前記回転軸3軸の補正回転軸位置を計算する補正直線軸回転軸位置計算部を有し、
前記補正直線軸位置と前記補正回転軸位置に基づいて各軸を駆動することを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記補正工具方向から前記回転軸3軸の複数解を計算し前記複数解を合成して前記補正回転軸位置を求める請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正直線軸軸位置の計算は、前記補正工具位置に対して前記補正回転軸位置のうちテーブル回転軸位置による逆変換行列を乗算して求める請求項1または2のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記複数解は、第1回転軸は動作しないとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は動作しないとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は動作しないとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記複数解は、第1回転軸は1周期前の補間周期で求めた第1回転軸の移動量分移動するとした場合の第1回転軸固定解、第2回転軸は1周期前の補間周期で求めた第2回転軸の移動量分移動するとした場合の第2回転軸固定解、第3回転軸は1周期前の補間周期で求めた第3回転軸の移動量分移動するとした場合の第3回転軸固定解であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、前記複数解に対して移動量が小さいことを大きくする評価する評価値を計算し、前記複数解による移動量に前記評価値を乗算して合成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項7】
前記補正直線軸回転軸位置計算部の前記補正回転軸位置の計算は、求めた前記回転軸3軸の回転軸位置から検証工具方向を求め前記補正工具方向との差が設定されたトレランス以内かどうかを検証し前記トレランス以内でなければ前記評価値について移動量が小さいことをより大きく評価する評価値を求めて前記補正回転軸位置の計算を繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の数値制御装置。
【請求項8】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項9】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸でテーブルを回転し他の回転軸1軸で工具ヘッドを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項10】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸のうち回転軸2軸で工具ヘッドを回転し他の回転軸1軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【請求項11】
前記多軸工作機械は、前記回転軸3軸でテーブルを回転する多軸工作機械であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の数値制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−58035(P2013−58035A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195234(P2011−195234)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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