説明

一方向間欠送りユニット

【課題】ラチェットを有するスプロケットに一方向クラッチ式のトルクリミッタが組み付けられ、前記ラチェットと同軸の揺動部材に取り付けた送り爪を該ラチェットに係合させ、揺動部材の送り方向の揺動時に前記トルクリミッタが空転し、前記と逆方向に揺動した場合はロックするようにした一方向間欠送りユニットにおいて、スプロケットのバックラッシュ量を減少させ、送り精度を向上させることである。
【解決手段】前記トルクリミッタ11を構成する外部部材5の内径面に所定の間隔をおいて設けたポケット6のうち特定の隣接した2箇所ポケット6の間隔が大きく設定され、その間隔部分にラジアル受部17が設けられ、各ポケット6に収納された転動体8に作用する付勢ばね9による総和ラジアル分力P0が前記ラジアル受部17に作用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インデックステーブル等の部品供給装置等における送りユニットとして使用される一方向間欠送りユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の一方向間欠送りユニットとして、従来から、次のようなものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
即ち、図5から図7に示したように、フレーム1に固定された外部部材5にスプロケット3のスプロケット軸部4が回転自在に嵌合される。前記外部部材5の内径面に周方向に間隔をおいてポケット6が設けられ、各ポケット6の底面に周方向に傾斜したカム面7が形成されるとともに該カム面7とスプロケット軸部4とにより一定のクサビ角θが形成される。前記ポケット6に転動体8と該転動体8をクサビ角θの狭小方向に付勢する付勢ばね9が収納される。
【0004】
以上の構成によって、前記スプロケット軸部4の回転方向によって前記転動体8がクサビ角θの狭小方向に移動してロックする状態と、反対にクサビ角θの拡大方向に移動してロックが解除され所定の空転トルクをもった空転状態をとる一方向クラッチ式のトルクリミッタ11が構成される。
【0005】
また、前記スプロケット3にこれと一体に、かつ同軸状態にラチェット12が設けられ、前記固定軸2に支持された揺動部材13に前記ラチェット12に係脱する送り爪14が設けられる。送り爪14は、図示のように1個のタイプと、ラチェット12の中心対称の位置において同時に係脱する一対のものが設けられる場合がある(特許文献1の図4等参照)。
【0006】
上記構成の一方向間欠送りユニットは、揺動部材13が矢印aの方向に揺動された際に、送り爪14によってラチェット12を回転させる。このとき、トルクリミッタ11は、空転状態となり一定の空転トルクを発生させる。ラチェット12と一体のスプロケット3の回転によりフレーム1のガイド溝15に供給された搬送テープ16に1ピッチの送りが加えられる。次に、揺動部材13が前記と反対の矢印bの方向に揺動されると送り爪14が元の位置に戻るが、このとき一方向クラッチ式トルクリミッタ11は、ロック状態となりスプロケット3の逆回転を防止する。
【特許文献1】特開2005−98490号公報(図5から図7、これに対応する説明、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の一方向間欠送りユニットにおいて、揺動部材13が矢印b方向に戻る際、トルクリミッタ11がロック状態になるまでの時間遅れ、即ちバックラッシュが発生し、スプロケット3に対する揺動部材13の揺動トルクによってスプロケット3が若干逆転することがある(この逆転量をバックラッシュ量と称する。)。これによりスプロケット3の静止位置が変動するため位置決め精度が悪化し、送り精度低下の原因となる。
【0008】
一方、前記のように、送り爪14を一対設けた構成は、ラチェット12に対してバランス良く力が加えられるので、1個の送り爪14を用いる場合に比べスプロケット3の位置決め精度が改善される。
【0009】
そこで、この発明は、トルクリミッタ11のバックラッシュを解消してバックラッシュ量を減少せしめ、スプロケット3の位置決め精度を高めて送り精度の向上を図ることを課題とする。また、必要に応じて送り爪14を一対設けることにより、一層送り精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明においては、図1に示したように、基本的な構造は、前述の従来例と変わらない。即ち、フレーム1に固定された外部部材5にスプロケット3のスプロケット軸部4が回転自在に嵌合される。前記外部部材5の内径面に周方向に間隔をおいてポケット6が設けられ、各ポケット6の底面に周方向に傾斜したカム面7が形成されるとともに該カム面7と他方の嵌合面とにより一定のクサビ角θが形成される。前記ポケット6に転動体8と該転動体8をクサビ角θの狭小方向に付勢する付勢ばね9が収納される。
【0011】
以上の構成によって、前記スプロケット3の相対回転の方向によって前記転動体8がクサビ角θの狭小方向に移動してロックする状態と、反対にクサビ角θの拡大方向に移動してロックが解除された空転状態をとる一方向クラッチ式のトルクリミッタ11が構成される。また、前記スプロケット3にこれと一体に、かつ同軸状態にラチェット12が設けられ、前記固定軸2に支持された揺動部材13に前記ラチェット12に係脱する送り爪14が設けられる。
【0012】
以上の構成は従来例と同様であるが、この発明においては、トルクリミッタ11の外部部材5の内径面に形成されるポケット6が周方向に偏って配置されることにより特定の隣接した2箇所のポケット6、6間の柱部によってスプロケット軸部4に接触するラジアル受部17が形成された構成とした。
【0013】
前記の構成によると、図4に示したように、前記特定の2箇所のポケット6、6間の中間点においてスプロケット軸部4の外径面に引いた接線A1−A2に対して垂直な線B1−B2を基準線としたとき、各ポケット6内の転動体8が付勢ばね9に押圧されてスプロケット軸部4に作用する押圧力P〜Pの基準線方向の分力P11〜P51の総和、即ち総合ラジアル分力P(=P11+P21+P31+P41+P51)がラジアル受部17に作用する。ラジアル受部17の部分においてはポケット6が存在しないため、その部分においてはラジアル力が発生しない。このため前記のPはプラス(基準線に沿ったラジアル受部17の方向をプラス方向とする。)の一定量となり、ラジアル受部17に一定のラジアル力Pを及ぼす。このラジアル力がスプロケット軸部4に作用し、スプロケット軸部4には制動トルクが作用する結果スプロケット3のバックラッシュ量が減少する。
【0014】
さらに、前記構成に加えて、前記ラジアル受部17の位置が前記スプロケット3に作用する搬送テープ16の張力等の負荷のラジアル力Pを受ける範囲に形成された構成をとることができる。この構成によると、スプロケット3に作用する負荷ラジアル力Pが前記の総合ラジアル分力Pに加算されるので、一層大きなラジアル力がラジアル受部17に作用する。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明によるとトルクリミッタの転動体を収納したポケットが周方向に偏って配置されることにより、特定の2箇所のポケット間の柱部により相手嵌合面に接触するラジアル受部が構成され、そのラジアル受部に作用するラジアル力Pにより制動トルクが作用するため、スプロケットのバックラッシュ量が減少し送り精度が向上する。
【0016】
また、前記のラジアル受部の位置がスプロケットに作用する負荷のラジアル力Pを受ける範囲に形成された構成をとることにより、制動トルクが増大するので、スプロケットのバックラッシュ量が一層軽減され送り精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
図1から図4に示した実施例1の一方向間欠送りユニットは、フレーム1の板面に設けられた欠円形の凹部21に組み付けられる。フレーム1はその上端面にガイド溝15が設けられ、前記の凹部21の一部がそのガイド溝15に開放される。
【0019】
前記の凹部21に組み付けられるものは、図3に示したように、一方向クラッチ型のトルクリミッタ11を構成する外部部材5、その外部部材5の内径面に回転自在に嵌合された部分を有するスプロケット3及び揺動部材13であり、これらの中心部に固定軸2が貫通される。固定軸2は凹部21の底面に貫通されナット22により固定される(図2参照)。
【0020】
前記の外部部材5は凹部21の欠円形状に合致するようその外周面が欠円形に形成され、相互の嵌合により外部部材5がフレーム1に固定される。また、前記のスプロケット3はその片面の中心部にスプロケット軸部4を有し、他面の中心部に軸受部23が設けられる。スプロケット軸部4が前記外部部材5の内径面に回転自在に嵌合される。
【0021】
前記外部部材5の内径面に周方向に所定の間隔をおいてポケット6が設けられる(図1参照)。各ポケット6の底面に周方向に傾斜したカム面7が形成されるとともに該カム面7とスプロケット軸部4の外径面とにより一定のクサビ角θが形成される。前記ポケット6に転動体8と該転動体8をクサビ角θの狭小方向に付勢する付勢ばね9が収納される。
【0022】
以上の構成によって、前記スプロケット3と外部部材5の相対回転の方向によって転動体8がクサビ角θの狭小方向に移動してロックする状態と、反対にクサビ角θの拡大方向に移動してロックが解除された空転状態となる一方向クラッチ式のトルクリミッタ11が構成される。
【0023】
また、前記スプロケット3の軸受部23を設けた側の面において、該軸受部23より大径でスプロケット3より小径の内歯型のラチェット12がスプロケット3と一体に、かつ同軸状態に設けられる(図3参照)。スプロケット3の一部がガイド溝15に突き出し、搬送テープ16に係合される。
【0024】
前記の揺動部材13は、ラチェット12の前面において固定軸2を中心にして揺動自在に取り付けられる。揺動部材13はアーム部24とそのアーム部24の先端に設けられた円板部25とからなり、その円板部25の中心部に前記の軸受部23に回転自在に嵌合される軸受孔が設けられる。また、円板部25の内周縁部が前記ラチェット12の前面に接触される。前記の円板部25は抜け止め用の座金26を介して前記固定軸2によって揺動自在に取付けられる。
【0025】
前記の円板部25のラチェット12側の面において、中心対称の2箇所にピン27により送り爪14が取り付けられる。各送り爪14は付勢ばね28によりラチェット12にその送り方向(図1の矢印A参照)に係合される。なお、送り爪14は1個だけ設けられる場合もある。
【0026】
前記の外部部材5の内径面に形成される5箇所のポケット6は、従来の場合は全周にわたり一定間隔をおいて設けられるのが一般的であったが、この実施例1の場合は、図1、図4に示したように、欠円部29を挟んだ両側のポケット6、6の間にポケットは設けられておらず、その部分のポケット6間の間隔(柱部10´)は他のポケット6間の間隔(柱部10)より広くなり、全体として見れば柱部10´以外の部分に偏在した配置となっている。前記の柱部10´を挟んだ一対のポケット6、6間の内径面にラジアル受部17が形成され、そのラジアル受部17にグリース溜り31が設けられる。
【0027】
ここで、ラジアル受部17に作用する力の方向の説明の便宜のため、前記のグリース溜り31を含むラジアル受部17の中間点において接線A1−A2を引き、さらに、その中間点において接線A1−A2に垂直に基準線B1−B2を引く。基準線B1−B2は、全部で5個の転動体8のうち中間部分の1箇所の転動体8の中心を通る。
【0028】
いま、トルクリミッタ11がロック状態から空転状態に移行した時点の状態を考えると、各ポケット6においては、転動体8が付勢ばね9によって押されその転動体8がスプロケット軸部4を押す。各ポケット6の押圧力をP〜Pで示し、それぞれの押圧力の基準線B1−B2の方向の分力をP11、P21、P31、P41、P51で示す。接線A1−A2方向の分力は特に符号は付けていない。前記分力P11、P21、P31、P41、P51を総合した総合ラジアル力Pは、B1からB2の方向をプラスにとると、
=P21+P31+P41−(P11+P51)……(1)
となる。
【0029】
図示の場合、P11=P21、P41=P51であるから、P=P31>0となる。即ち、ラジアル受部17にP(=P31)のラジアル力が作用する。このラジアル力は、スプロケット軸部4をラジアル受部17に押圧し、スプロケット3の回転に対し制動トルクを付与する。これにより、スプロケットのバックラッシュ量が減少される。
【0030】
前記の総合ラジアル力Pは、外部部材5の姿勢に拘わらず得られる力である。即ち、図4の場合の外部部材5は、その欠円部29又は柱部10´が接線A1−A2に沿う姿勢であるが、これらの部分が基準線B1−B2の方向に沿う姿勢であっても大きさは不変である。これに対し、スプロケット3に係合された搬送テープ16の張力等による負荷ラジアル力Pは、フレーム1の縦方向(基準線B1−B2の方向)にしか作用しない。このため、外部部材5の姿勢を図4のように、欠円部29が接線A1−A2に沿う姿勢となるようフレーム1に組み付けることにより、P+Pのラジアル力をラジアル受部17に及ぼすことができ、一層大きい制動トルクが得られる。
【0031】
実施例の一方向間欠ユニットは以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0032】
いま、揺動部材13のアーム部24が駆動源からの作用によって、図1の矢印aの方向に揺動されると、送り爪14がラチェット12に係合してこれと一体のスプロケット3を送り方向(矢印A参照)に回転させ、そのスプロケット3に係合された搬送テープ16に1ピッチの送りを与える。このとき、トルクリミッタ11は空転トルクを発生して、スプロケット3の回転、即ち搬送テープ16の送りに一定のトルクを加え、必要以上に前進することが無いようにして、送り精度を上げている。
【0033】
次に、アーム部24が逆方向(矢印b方向)に揺動されると、送り爪14がラチェット12上を元の位置まで戻る。トルクリミッタ11はロック状態となり、スプロケット3の逆転が防止される。このとき、トルクリミッタ11がロック状態になるまで若干の時間を要し(即ち、バックラッシュが発生し)、その結果スプロケット3が一定量逆回転する(即ちバックラッシュ量(通常数10μm)が発生する。)。しかし、この実施例においては、前述のように、P又はP+Pのラジアル力が制動トルクとしてラジアル受部17に作用するためバックラッシュ量が減少する。バックラッシュ量が減少すると、スプロケット3の停止姿勢が一定し、次の送りピッチの精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の縦断正面図
【図2】図1のX−X線の断面図
【図3】実施例1の分解斜視図
【図4】同上のトルクリミッタ部分の概略図
【図5】従来例の縦断正面図
【図6】図5のY−Y線の断面図
【図7】従来例の分解斜視図
【符号の説明】
【0035】
1 フレーム
2 固定軸
3 スプロケット
4 スプロケット軸部
5 外部部材
6 ポケット
7 カム面
8 転動体
9 付勢ばね
10、10´ 柱部
11 トルクリミッタ
12 ラチェット
13 揺動部材
14 送り爪
15 ガイド溝
16 搬送テープ
17 ラジアル受部
21 凹部
22 ナット
24 アーム部
25 円板部
26 座金
27 ピン
28 付勢ばね
29 欠円部
31 グリース溜り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに固定された外部部材にスプロケットが回転自在に嵌合され、前記外部部材の嵌合面に周方向に間隔をおいてポケットが設けられ、各ポケットの底面に周方向に傾斜したカム面が形成されるとともに該カム面と前記スプロケットの嵌合面とにより一定のクサビ角が形成され、前記ポケットに転動体と該転動体をクサビ角の狭小方向に付勢する付勢ばねが収納され、前記スプロケットの回転の方向によって前記転動体がクサビ角の狭小方向に移動してロックする状態と、反対にクサビ角の拡大方向に移動してロックが解除されて空転する状態となる一方向クラッチ式のトルクリミッタが構成され、前記スプロケットにこれと一体のラチェットが同軸状態に設けられ、前記固定軸に支持された揺動部材に前記ラチェットに係脱する送り爪が設けられた一方向間欠送りユニットにおいて、前記ポケットのうち特定の隣接した2箇所のポケット間の柱部が他のポケット間の間隔より大きく形成され、その間隔部分に前記スプロケットの嵌合面に接触するラジアル受部が構成されたことを特徴とする一方向間欠送りユニット。
【請求項2】
前記ラジアル受部の位置が前記スプロケットに作用する負荷のラジアル力を受ける範囲に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の一方向間欠送りユニット。
【請求項3】
前記送り爪が前記ラチェットの中心対称の位置に同時に係脱する一対の送り爪により構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向間欠送りユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−292105(P2007−292105A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117537(P2006−117537)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】