説明

一液型液状エポキシ樹脂組成物

【課題】本発明の目的は、リレーの気密封止や絶縁封止をする場合において、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが改善された一液型液状エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】 リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)熱可塑性樹脂を必須成分とし、前記(C)熱可塑性樹脂を前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1重量部から25重量部含む一液型液状エポキシ樹脂組成物において数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リレーは、エレクトロニクス産業の発展とともに、その生産量も順調に伸びており、通信機器、OA機器、家電機器、自販機等使用される分野も多岐にわたっている。特にプリント配線基盤に搭載されるリレーが増加しつつある。その必要特性として、半田フラックスの侵入防止、部品の溶剤洗浄が可能であることあるいは半田リフロー処理後に気密性を保持できること等が挙げられ、樹脂等による完全気密封止型のリレーが多くなってきており、その信頼性要求は、ますます厳しくなっている。
【0003】
この様に、リレーとして、その気密性が強く要求されることに伴い、優れた封止材料が必要とされており、従来から、この様な目的のための封止樹脂としては、エポキシ樹脂が用いられていた。エポキシ樹脂組成物としては、ポリアミドアミン、酸無水物等の硬化剤とエポキシ樹脂とを使用直前に混合して使ういわゆる二液型エポキシ樹脂組成物と、潜在性硬化剤として、ジシアンジアミド等を予めエポキシ樹脂組成物と混合しておく、いわゆる一液型液状エポキシ樹脂組成物がある。
【0004】
一般に、二液型エポキシ樹脂組成物の欠点として、配合時の計量ミスによる硬化不良や配合後のポットライフが短い等が挙げられる。また、硬化剤にポリアミドアミン、脂肪族アミン等を用いた場合、硬化物の耐熱性が低く、封止後、半田槽を通過後の気密不良が生じることが多い。また、同様に酸無水物を用いた場合は、硬化温度を高くしなければならないという欠点があった。従って、最近では材料ロスが少なく生産性の高い一液型液状エポキシ樹脂組成物に移行している。
【0005】
従来から、一液型液状エポキシ樹脂組成物は、その電気特性や耐熱性の良好なことから電気、電子部品の生産にとっては必須の材料であり、接着剤、封止剤として使用されている。また、電気、電子部品の構成部材は、端子材料、コイル、磁石等以外は、プラスチック材料が主体であるため、硬化温度は120℃以下が望まれている。
【0006】
また、近年になって、電気、電子部品の小型化、軽量化や高密度化に伴い、各種部品の接着部分や封止部分における隙間の間隔が数μm以下と非常に狭くなってきている。数μm以下の極めて狭い隙間においては、毛細管現象により液状エポキシ樹脂と硬化剤との分離が発生し、この硬化剤と分離した液状エポキシ樹脂が可動部や接点部等の場所にまで入り込み、特性不良を引き起こすという問題が発生している。
【0007】
上記問題を解決する手段として、隙間に流入した部分も完全硬化する一液型液状エポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入すること自体については改善されていないため、特に気密封止又は絶縁封止の必要なリレーにおいては、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが低減された一液型液状エポキシ樹脂組成物の開発が強く望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−220429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リレーを気密封止又は絶縁封止をする場合において、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが改善された一液型液状エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の一液型液状エポキシ樹脂組成物について鋭意検討した結果、リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)熱可塑性樹脂を必須成分とし、前記(C)熱可塑性樹脂を前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1重量部から25重量部含む一液型液状エポキシ樹脂組成物を用いることにより、リレーにおける数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一液型エポキシ樹脂組成物を用いることにより、リレーの気密封止や絶縁封止をする場合において、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みが改善された一液型液状エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
本発明において用いられる(A)エポキシ樹脂としては、従来から一液型エポキシ樹脂組成物、好ましくはリレー封止用エポキシ樹脂組成物に使用されているエポキシ化合物であれば、特に限定なく使用することができる。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中でビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独あるいは混合で使用しても差し支えない。
【0013】
本発明において必要に応じて用いられる(A−1)固形エポキシ樹脂とは、25℃で固体であるエポキシ樹脂であり、具体的には、25℃で固体のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂やフルオレン系エポキシ樹脂が挙げられる。25℃で固体のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、日本化薬社製EOCN-102S-65、EPPN-502H等が挙げられる。25℃で固体のフルオレン系エポキシ樹脂としては、例えば、ナガセケムテックス社製オンコートEX−1011、大阪ガスケミカル社製オグソールEG等が挙げられる。
【0014】
本発明において必要に応じて用いられる(A−2)粘度が60Pa・s(25℃)以上の液状エポキシ樹脂としては、具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やグリシジルアミン型エポキシ樹脂のうち、25℃での粘度が60Pa・s以上のものが挙げられる。25℃での粘度が60Pa・s以上のフェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、ダウ・ケミカル社製D.E.N.431等が挙げられ、25℃での粘度が60Pa・s以上のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノフェニルメタン等が挙げられる。
【0015】
(A−1)固形エポキシ樹脂および/または(A−2)粘度が60Pa・s(25℃)以上の液状エポキシ樹脂の使用量は、併用する(C)熱可塑性樹脂の使用量によって変化するが、前記(A)エポキシ樹脂100重量部の内、1重量部から10重量部が好ましく、3重量部から10重量部がさらに好ましい。(A−1)固形エポキシ樹脂および/または(A−2)粘度が60Pa・s(25℃)以上の液状エポキシ樹脂の使用量の合計が前記(A)エポキシ樹脂100重量部の内、1重量部未満であると、隙間への流れ込みに対する改善効果が小さく、10重量部を越えると組成物の粘度が高くなり、好ましくない。ここで、粘度はBH型粘度計(トキメック社製)のロータ7番を用いて測定した値である。
【0016】
本発明における(B)硬化剤としては、硬化後、本発明の性能を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族系カルボン酸ジヒドラジド、芳香族系カルボン酸ジヒドラジド、複素環系カルボン酸ジヒドラジド、第三級アミン化合物、イミダゾール化合物、イミダゾールアダクト系化合物、アミンアダクト系化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物等が挙げられ、好ましくはイミダゾールアダクト系化合物、アミンアダクト系化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物が用いられる。 第三級アミン化合物としては、例えば、ベンジルジメチルアミンや2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールに代表されるトリス(ジアルキルアミノアルキル)フェノール化合物が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。イミダゾールアダクト系化合物としては、例えば、味の素テクノファイン社製アミキュアPN−23、アミキュアPN−R等が挙げられ、アミンアダクト系化合物としては、例えば、味の素テクノファイン社製アミキュアMY−24、アミキュアMY−Rや特開昭57−100127号公報に示されたアダクト系化合物等が挙げられ、変性脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、富士化成工業社製フジキュアーFXE−1000等が挙げられる。
【0017】
本発明における(B)硬化剤は少なくとも1種以上含有していればよく、その使用量は、硬化剤の種類によって変化するが、前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して、通常、3重量部から30重量部であり、好ましくは5重量部から25重量部である。
【0018】
本発明における(C)熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン及びこれらの共重合体
等が挙げられ、エポキシ樹脂に分散させられるものであれば特に制限されないが、通常、軟化点が130℃以下で分解開始温度は150℃以上のものが用いられ、好ましくは、分解開始温度が200℃以上のものが用いられる。(C)熱可塑性樹脂として具体的には、例えば、ガンツ化成社製ゼフィアックF320、ゼフィアックF301、ゼフィアックF303、ゼフィアックF325等が挙げられる。熱可塑性樹脂の使用量は、前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1重量部から25重量部である。(C)熱可塑性樹脂の使用量が前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して0.1重量部未満であると、隙間への流れ込みに対する改善効果が小さい場合があり、25重量部より多い場合は、組成物の粘度が高くなり、望ましくない。また、軟化点が130℃以上の熱可塑性樹脂では、要求される120℃以下の硬化温度において、狭い間隔の隙間における流れ込みの抑制効果が得られない場合があり、分解開始温度が150℃未満のものでは、加熱硬化時に分解が起こり、十分な封止性能が得られない場合がある。本発明において、熱可塑性樹脂の軟化点は環球法(JIS K 7234準拠)による測定値であり、分解開始温度は熱重量測定方法による重量減少が開始した温度である。
【0019】
本発明の一液型液状エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤、カップリング剤、着色剤等を配合することができる。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラスフィラー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ等が挙げられ、カップリング剤としては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられ、着色剤としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン等が挙げられる。
【0020】
さらに、本発明の一液型液状エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてチキソトロピー剤を配合することができる。チキソトロピー剤としては、例えば、日本アエロジル株式会社製アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、楠本化成社製ディスパロンC-308、ディスパロン4110、ディスパロン4300、ディスパロン6500、ディスパロン6600等が挙げられる。
【0021】
本発明の一液型液状エポキシ樹脂組成物の調製方法は、通常のエポキシ樹脂組成物の調製方法と同様に一般的な撹拌混合装置と混合条件が適用される。使用される装置としては、ミキシングロール、ディゾルバ、プラネタリミキサ、ニーダ、押出機等である。混合条件としてはエポキシ樹脂等を溶解および/または低粘度化し、撹拌混合効率を向上させるために加熱してもよい。また、摩擦発熱、反応発熱等を除去するために必要に応じて冷却してもよい。撹拌混合の時問は必要により定めればよく、特に制約されることはない。
【0022】
本発明の一液型液状エポキシ樹脂組成物を用いることにより、例えば、9μmの隙間に前記一液型液状エポキシ樹脂組成物を一定量塗布し、100℃で60分硬化後の隙間に入り込んだ距離(流れ込み距離)の最大値を5mm以下とすることができる。
(実施例)
【0023】
本発明について実施例をもって詳述するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
(流れ込み距離の測定方法)
1. 2枚のスライドガラス(縦26mm×横76mm×厚み1.5mm )の間に厚み9μmのスペーサーを相対する26mmの2辺に挟み、その両端をスライドガラスの上からクリップでとめる。
2. 1.の2枚のスライドガラスの76mmの辺が上下になる形で垂直に立て、9μmの隙間の上端部に均等に実施例1〜4、比較例1〜4で調製した一液型エポキシ樹脂組成物0.1gを塗布し、100℃で60分硬化させた後、隙間に入り込んだ距離の最大値を測定した。
【0025】
(流れ込み距離の評価方法)
流れ込み距離の評価は以下のとおり。
流れ込み距離(mm):
×:5.0を超える、○:3.0〜5.0、◎:3.0未満
【実施例1】
【0026】
D.E.R.*331J、95重量部(ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ダウ・ケミカル(株)製、jER604 5重量部(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン:ジャパンエポキシレジン(株)製)、 ゼフィアックF320 (アクリル樹脂:、ガンツ化成(株)製) 2重量部、サンマイドLH-210(イミダゾールアダクト型エポキシ樹脂:、エアープロダクト ジャパン(株)製) 8重量部、炭酸カルシウム(製品名:NS#100、日東粉化工業(株)製)20重量部、微粉シリカ(製品名:アエロジル200、日本アエロジル(株)製)1重量部を混合した後、ミキシングロールを使って混練し、一液型液状エポキシ樹脂組成物を調製した。 これらの一液型液状エポキシ樹脂組成物について、流れ込み距離を測定し、評価した結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2〜7および比較例1〜4)
表1及び表2に示す割合で各材料を混合した後、一液型液状エポキシ樹脂組成物を調製した。これらの一液型液状エポキシ樹脂組成物について実施例1と同様に流れ込み距離を測定し、評価した結果を表1及び表2に示す。尚、実施例3及び比較例3では固形エポキシ樹脂をjER807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)に予め溶融したものを用いて混合した。

【0028】
【表1】

D.E.R.*331J:(ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ダウ・ケミカル社製)
jER604:(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン:
ジャパンエポキシレジン(株)製)
jER807:(ビスフェノールF型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン社製)
オンコート EX-1011 (フルオレン系エポキシ樹脂;ナガセケムテックス社製)
サンマイドLH-210(イミダゾールアダクト型硬化剤:
エアープロダクト ジャパン社製)
ゼフィアックF320 (アクリル樹脂:ガンツ化成社製)
アエロジル200(微粉シリカ:日本アエロジル社製)







【0029】
【表2】

















【0030】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)熱可塑性樹脂を必須成分とし、前記(C)熱可塑性樹脂を前記(A)エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1重量部から25重量部含むことを特徴とする一液型液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(A)エポキシ樹脂100重量部中に(A−1)固形エポキシ樹脂および/または(A−2)粘度が60Pa・s(25℃)以上の液状エポキシ樹脂を合わせて1〜10重量部含むことを特徴とする請求項1記載の一液型液状エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−47717(P2010−47717A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214764(P2008−214764)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】