説明

一酸化窒素用電子センサ

例えば呼気などの流体中のNO濃度を決定する半導体デバイスが開示される。デバイス(1)は典型的に、有機半導体層(14)内にチャネル領域(16)を画成するように互いに離隔された一対の電極(18)と、チャネル領域を制御するゲート構造(10)と、チャネル領域に少なくとも部分的に重なる受容体層(22)とを有し、受容体層は、NOと錯体形成するIII族からXII族の遷移金属イオン又は鉛(Pb)イオンを含むポルフィン又はフタロシアニン配位錯体を有する。このような半導体デバイスは、ppbレンジのNO濃度を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層内にチャネル領域を画成するように互いに離隔された一対の電極と、チャネル領域を制御するゲート構造と、チャネル領域に少なくとも部分的に重なる受容体層とを有する半導体デバイスに関する。
【0002】
本発明はまた、そのような半導体デバイスを有する検出装置に関する。
【0003】
本発明は更に、呼気分析器を用いて呼気中の一酸化窒素濃度を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
医療的ケアの分野では、患者の体に関する広範な被分析物濃度をモニタリングする際に医師及び患者を支援する数多くの装置が存在している。このような濃度は、例えば、投与された薬によって医学的状態が適正に制御されているかを監視するため、あるいは、患者が患っている可能性がある医学的状態の診断を下す際の支援とするために使用されることができる。
【0005】
このような装置の例には、例えば血液若しくは尿などの体液と接触させられ得るセンサデバイス、及び監視対象の被検体によって吐き出される呼気中の化学物質の濃度を決定するセンサデバイスが含まれる。このような装置の検知機能は、トランジスタの電流特性が標的検体の濃度に相関付けられる化学的に修飾された電界効果トランジスタ(ChemFET)などの、専用の半導体デバイスによって提供され得る。
【0006】
このような半導体デバイスの周知の例には、膜障壁を通り抜けることができる検体のみにトランジスタが晒されるように選択膜で覆われたトランジスタが含まれる。しかしながら、このようなデバイスは、複雑な製造プロセスを必要とし、高コストのデバイスになってしまい得る。
【0007】
一部の検体は監視媒体内で微量濃度でしか存在せず、これらの検体の正確な検出は非常に困難である。このような検体の一例は一酸化窒素(NO)である。一酸化窒素は、ヒト患者の呼気中に存在し得るものであり、とりわけ、患者の肺内の炎症の存在を指し示すもの(インジケータ)となる。この理由により、呼気中のNO濃度を正確に決定することが可能な呼気分析器は、例えば喘息などの呼吸器疾患の治療における重要なツールである。
【0008】
特許文献1により、百万分の1(ppm)のレンジでNO濃度を決定することが可能なナノ電気センサを有する呼気分析器が開示されている。このナノ電気センサは、1つ以上のナノ構造が上に配置された基板を有している。それらナノ構造は1つ以上の導電素子に電気的に接続され、関心検体と相互作用するようにナノ構造に認識物質が動作可能に結合される。この文献は、そのような認識物質の例が、ポルフィリン及びフタロシアニンの金属錯体と、例えばポリアニリン及びポリピロールなどの導電性ポリマーとを含むことを教示している。
【0009】
この呼気分析器の欠点は、NOに対するナノ電気センサの感度を、ヒトの呼気におけるNOの典型的な濃度域である十億分の1(ppb)のレンジまで伸ばせないことである。従って、吐き出されたヒトの呼気内でNOを検出する目的でのこの呼気分析器の有用性は限られたものである。また、チャネル材料としてのナノ構造の使用は、半導体デバイスを製造するための標準的な製造プロセスを使用することができないことを意味し、ナノ電気センサ及び呼気分析器の双方のコストを増加させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0048180号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ppbレンジでNO濃度を検知することが可能な半導体デバイスを提供しようとするものである。
【0012】
本発明はまた、そのような半導体デバイスを有する検出装置を提供しようとするものである。
【0013】
本発明は更に、呼気中のNO濃度を決定する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、有機半導体層内にチャネル領域を画成するように互いに離隔された一対の電極と、チャネル領域を制御するゲート構造とを有する半導体デバイスが提供される。当該半導体デバイスは更に、チャネル領域に少なくとも部分的に重なる受容体層を有し、該受容体層は、化学式I又はII:
【0015】
【化1】

から選択された一酸化窒素配位錯体を有し、ただし、MはPb又は3族から12族の遷移金属から選択された遷移金属イオンであり、Xは硝酸又はハロゲン化物イオンである。
【0016】
驚くべきことに、例えば電界効果トランジスタであるこのような半導体デバイスは、ppbレンジのNO濃度に感度を有することが見出された。この予期せぬ感度のメカニズムがどのようなものであるかは未だ完全には理解されていないが、これらの配位錯体のほぼ平面状の形状が、少なくとも、チャネルを通る電荷キャリアの流れに垂直な方向において、レイヤ(層)の全体的な双極子モーメントが非常に小さいレイヤをもたらし、その結果、配位錯体の中心金属原子の軸方向位置にNOが配位するときに、配位錯体の面外双極子モーメントの実質的な変化が半導体デバイスのチャネル内で検知され、半導体デバイスの導電特性に影響を及ぼすものと考えられる。
【0017】
NOを配位することが可能な如何なる遷移金属も用いられ得る。半導体デバイスの導電特性の変化に関与するのは面外のNO双極子モーメントであると考えられるので、遷移金属の種類は本発明にとって重要なことではない。しかしながら、遷移金属イオンは好ましくは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pb及びZnから選択される。これらの金属のイオンはNO錯体形成に関して良好な親和性を有することが知られているからである。より好ましくは、NOとの配位に関する優れた親和性により、遷移金属イオンはFeイオンである。
【0018】
好適な一実施形態において、一酸化窒素配位錯体は、R=フェニル且つM=Fe3+、すなわち、鉄(III)メソ−テトラフェニルポルフィンとした化学式IIの化合物である。この化合物を含めることにより、NO濃度の変化に特に感度の高い半導体デバイスが生み出されることが実証されている。
【0019】
現時点で強調しておくことには、半導体デバイスの厳密な構成は本発明にとって重要なことではない。例えば、ゲートがキャリア又は基板としても作用するボトムゲート型デバイスの場合のように、ゲート構造と受容体層とが、チャネル領域を挟んで反対側に配置されてもよい。受容体層は、チャネル領域に物理的に接触してもよいし、保護層によってチャネル領域から離隔されてもよい。後者の構成は、使用中にチャネル領域が、例えば酸素及び水といった有害物質に晒されることから保護され、ひいては、デバイス寿命が引き延ばされるという利点を有する。
【0020】
代替的な一実施形態において、チャネル領域によって検知されるゲート電位が、配位されたNOの面外双極子モーメントによって変更されるように、受容体層はゲート構造上に配置される。半導体デバイスは、チャネル領域が有機半導体層の部分を形成し、該層が更に電極対を覆う層状デバイスとし得る。これは、半導体デバイスが例えばスピンコーティングなどの安価な製造技術を用いて形成され得るという利点を有する。
【0021】
一実施形態において、有機半導体チャネル領域は自己組織化単分子層であり、該単分子層に一酸化窒素配位錯体が化学結合する。従って、自己組織化単分子層は、チャネル領域として作用する第1の領域と受容体領域として作用する第2の領域との2つの領域を有する。これは、これらの領域が単一の工程で形成され得るという利点を有する。この化学結合は、例えば共有結合、イオン結合、ファンデルワールス結合及び配位結合など、如何なる好適な結合を有してもよい。
【0022】
本発明の更なる一態様によれば、流体流入口と連通し、本発明に係る半導体デバイスを有する測定チャンバと、半導体デバイスに結合され、半導体デバイスからの信号を一酸化窒素濃度に相関付けるプロセッサと、一酸化窒素濃度をユーザに提供する出力部とを有する、例えば呼気分析器などの検出装置が提供される。出力部は例えば表示装置を有し得る。このような検出装置は、例えば吐き出された息などの流体中のNO濃度をppbレンジで決定することができる。
【0023】
本発明のより更なる一態様によれば、呼気中の一酸化窒素濃度を決定する方法が提供され、当該方法は、本発明に係る呼気分析器を準備する段階と、呼気分析器の流入口内に息を吐く段階と、一酸化窒素濃度を決定する段階とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下の図を含む添付図面を参照して、非限定的な例として、本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
【図1】本発明の一実施形態に従った半導体デバイスを模式的に示す図である。
【図2】図1の半導体デバイスのNOに対する感度を概略的に示す図である。
【図3】本発明の他の一実施形態に従った半導体デバイスを模式的に示す図である。
【図4】本発明の更なる他の一実施形態に従った半導体デバイスを模式的に示す図である。
【図5】チャネル領域が自己組織化単分子層を有する本発明の更なる一実施形態に従った半導体デバイスを模式的に示す図である。
【図6】自己組織化に適した化合物を形成するための反応スケジュールを示す図である。
【図7】様々なNO濃度に対する図5の半導体デバイスの応答を概略的に示す図である。
【図8】図5の半導体デバイスのNOに対する感度を概略的に示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に従ったNO検出装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
理解されるべきことには、図は単に模式的なものであって縮尺通りに描かれたものではない。また、図面全体を通して、同一又は同様の部分を指し示すために同一の参照符号を使用する。
【0026】
明らかなように、本出願にて記述される独創的な概念は、FETなどの半導体デバイスのNO濃度検出感度をppbの感度域まで持っていく適切な受容体化合物を選択することである。そのような感度を達成することには、半導体デバイスについて如何なる特定の実施形態も要求されず、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な実現例に係る半導体デバイスが用いられ得る。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に従った半導体デバイス1の一実現例を示している。図1に示された半導体デバイス1は、国際公開第2007/138506号に記載されているデュアルゲートFETである。なお、簡潔さのため、この文献をここに援用する。半導体デバイス1は、ゲート電極層10、ゲート誘電体層12、及び有機半導体層14を有している。有機半導体層14は、ソース端子及びドレイン端子としてそれぞれ機能する2つの電極18の間のチャネル領域16を含んでいる。図1においては、単なる非限定的な例として、有機半導体層14は電極18を覆うように示されている。例えば、電極18が半導体層14上に置かれた構成や、有機半導体層14が電極18の高さまで平坦化された構成など、その他の構成も等しく実現可能である。
【0028】
半導体デバイス1は更に、チャネル領域16の保護層として作用し得る第2の誘電体層20と、以下の化学式I又はIIに従った配位錯体を有する受容体層22とを有している:
【0029】
【化2】

ただし、Mは3族から12族の遷移金属から選択された遷移金属イオンであり、Rは置換されていない、あるいは置換されたアリレン又はヘテロアリレン官能基であり、Xは窒化物又はハロゲン化物のイオンである。好ましくは、第4行の遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pb及びZnからのイオンが使用される。何故なら、これらのイオンはフタロシアニン及びポルフィンと良好な錯体を形成することが知られているからである。より好ましくは、これらの配位化合物と特に安定な錯体を形成するFeイオンが使用される。
【0030】
例えば化学式Iのフタロシアニン錯体及び化学式IIのポルフィン錯体といった配位錯体の平面性及び対称性の組み合わせは、秩序付けられた受容体層22の形成を可能にすることが見出された。この秩序化は受容体層22の全体的な双極子モーメントを小さくさせ、錯体の金属中心上の軸方向位置すなわち面外位置でのものと考えられるNOの錯体形成が受容体層22の全体的な双極子モーメントに実質的な変化を生じさせるので、この秩序化は重要であると考えられる。
【0031】
現時点で言及しておくに、化学式I及びIIはポルフィン構造及びフタロシアニン構造の外周上の置換基を明示的に示していないが、全体的な面内双極子モーメントが実質的に影響されない限りにおいて、非水素置換器が存在し得ることは理解されるべきである。好ましくは、そのような置換基が存在する場合、化学式I又はIIに従う化合物は幾らかの対称性を維持すべきである(すなわち、C点群に属するべきではない)。
【0032】
対応する電界変化はチャネル領域16まで延在し、故に、その導電性に影響を及ぼす。これは、図1に示したFETが時にしてデュアルゲートFETと呼ばれる所以である。保護誘電体層20が受容体層22と一緒になってフローティング(浮遊)ゲートとして作用し、ゲート電極層10と、受容体層22を伴う保護誘電体層20との双方がチャネル電流を制御するからである。
【0033】
図1のFETの様々なその他の層が、先述の国際公開第2007/138506号に開示されるような材料を用いて形成され得る。例えば、ゲート電極層10は、例えば、シリサイド化されてもよい高濃度ドープされたシリコン若しくはポリSi、Ag、Cu、Al及び/又はNiなどの金属、PSS/PEDOT若しくはポリアニリンなどの有機材料など、如何なる好適な導電材料を有していてもよい。
【0034】
ゲート誘電体層12は、例えば、Al、Taなどの非晶質金属酸化物、HfO、ZrO、TiO、BaTiO、BaSr1−xTiO、Pb(ZrTi1−x)O、SrTiO、BaZrO、PbTiO、LiTaOなどの遷移金属酸化物、Pr、Gd、Yなどの希土類酸化物、Si、SiOなどのシリコン化合物、又はSiO、SiOCなどのマイクロポーラス(微小孔)層など、如何なる好適な誘電体材料を有していてもよい。また、第1の誘電体層は、例えばSU−8、BCB又はPTFEなどの絶縁性ポリマーを有することができる。
【0035】
ソース及びドレイン電極18は、例えばアルミニウム、金、銀若しくは銅などの金属を用いて製造されることができ、あるいは代替的に導電性の有機材料若しくは無機材料を用いて製造されてもよい。有機半導体層16は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアリールアミン、ポリフルオレン、ポリナフタレン、ポリp−フェニレン硫化物、又はポリp−フェニレンビニレンから選択された材料を有することができる。半導体層はまた、導電性を高めるためにnドープあるいはpドープされてもよい。
【0036】
典型的にはやはり誘電体層である保護層20は、ゲート誘電体層12に関して説明したのと同じ材料から選択されることができる。この第2の誘電体層はまた、その下のレイヤ群を外部状態から保護(シールド)するので、例えばPVDF、PTFE、Zeonex(登録商標)又はシリコーンなどの防水コーティングが考慮に入れられてもよい。これらの材料の組み合わせも実現可能である。例えば、一実施形態において、保護層20はPVDF/PTFE共重合体を有する。ゲート誘電体層12及び保護層20の厚さは、FETの感度がNO濃度をppbレンジで検出するのに十分なままであるように、これらの層を介してのリーク電流が制御されるように選定される。好適な厚さは、典型的に、選択された材料群の組み合わせに依存する。当業者であれば、半導体デバイス1の設計時の通常作業に関する事項として好適厚さを決定することができるであろう。
【0037】
電界効果トランジスタの動作中、ゲート電極層10とゲート誘電体層12とを有する組立体のキャパシタンスは、保護層20と受容体層22とによって形成される組立体のキャパシタンスより小さいことが好ましい。先述の国際公開第2007/138506号に更に詳細に説明されているように、電界効果トランジスタの感度はこのキャパシタンス関係によって有利に影響され得ることが分かっている。しかしながら、このキャパシタンス関係を保持しない半導体デバイスであっても、NO濃度をppbレンジで検出するのに十分な感度を有することが予期される。
【0038】
受容体層22は、例えば保護層20上など、チャネル領域16の上方に如何なる好適な手法で形成されてもよい。例えば、化学式I又はIIの配位錯体は、チャネル領域16の上方の表面に当該配位錯体を固定するために、リング構造の周囲に反応基を有していてもよい。このような反応基は、例えば、配位錯体と受容面との間に共有結合、配位結合又はイオン結合を形成し得る。
【0039】
代替的に、配位錯体は受容面上にスピンコートされてもよい。この目的のため、有機溶媒中に配位錯体を含む懸濁液が形成され得る。この懸濁液は、有機溶媒を配位錯体で飽和させるように超音波を用いて活性化されてもよく、その後、懸濁液は濾過され、濾過された液体が受容面上にスピンコートされ得る。配位錯体は有機溶媒に溶解しにくいものであってもよく、また、有機溶媒は、半導体デバイス製造プロセスの時間を制限するために、スピンコートされた溶媒の比較的迅速な気化を可能にするよう、妥当な揮発性を有するべきである。好適な溶媒の非限定的な一例はイソプロピルアルコールである。
【0040】
更なる代替例として、配位錯体の自己組織化単分子層がチャネル領域16の上方に形成されてもよい。当業者にはその他の代替例も明らかになるであろう。
【0041】
好適な一実施形態において、配位錯体は、化学式III:
【0042】
【化3】

に従った化合物である。ただし、R’は、配位錯体の全体的な(面内)双極子モーメントが小さいままである限りにおいて、水素、又は例えばC−C12直鎖又は分岐アルキル部分などの1つ以上のアルキル部分とし得る。好ましくは、この理由により、配位錯体は対称な錯体である。また、Xは、好ましくは例えばClなどのハロゲン化物であるが、例えばNOイオンなどの別の好適なイオンであってもよい。この錯体を含む受容体層22を含有する半導体デバイス1はNOに対して特に高感度であることが見出された。
【0043】
これを以下の例によって例証する。
【0044】
例I
図1の半導体デバイス1が、先述の国際公開第2007/138506号に実質的に記載されているようにして形成される。n++ドープされたポリSiゲート層10がSiOゲート誘電体層12で覆われ、ゲート誘電体層12上に2つの金電極18が形成される。SiO層12及び金電極18の上にポリアリールアミン半導体層14がスピンコートされ、それにより金電極18間にチャネル領域16が形成される。ポリアリールアミン半導体層14上に保護PVDF/PTFE共重合体層20が堆積され、その後、R’=H且つX=Clとした化学式IIIの配位錯体をイソプロピルアルコール中に含む溶液を保護層20上にスピンコートすることによって、受容体層22が形成される。
【0045】
比較例I
保護PVDF/PTFE層20上への受容体層22の形成なしで、例Iにおいてのようにして半導体デバイスが形成される。
【0046】
図2は、例I(1なるラベルを付す)及び比較例I(REFなるラベルを付す)の半導体デバイスを用いて行った測定の結果を示している。双方のデバイスを、可変ゲート電圧Vにて、50ppbのNOを含む空気流にそれぞれ10分及び30分間晒した。また、更なる参考として、例Iの半導体デバイスを200ミリバールの空気流に晒した。
【0047】
図2は、本発明に係る半導体デバイスを流れる電流の変化によって表されるように、参考デバイスと比較して高められた半導体デバイス1のNO感度を明瞭に例証している。また、本発明に係る半導体デバイスが、ブランク参考すなわち200ミリバールの空気流と、50ppbのNOを含有する空気流とを区別可能であることが例証されている。50ppbのNOに10分間だけ晒した後であっても、例Iの半導体デバイスは、特に当該デバイスの降伏電圧の近くで、すなわち、V=50−60Vの間で、ブランク参考と50ppbのNOを含む空気流とを区別することが可能である。更に認識されるべきことには、50V未満のゲート電圧での、ブランク参考と50ppbのNOを含有する空気流との間でのドレイン−ソース電流の差は少量であるように見えるが、これらの差は実際に測定可能且つ再現可能であり、例えば呼気などの空気流中のppbレンジのNOを検出するために、より控えめなゲート電圧を印加してもよい。
【0048】
図2から見て取れるように、受容体層22が保護層20によってチャネル領域16から離隔されていても、受容体層22は依然としてチャネル領域16を十分にバイアスすることができる。この理由により、チャネル領域16が受容体層22から離隔されたその他の半導体デバイス設計、例えばトランジスタ設計、も実現可能であることが予期される。
【0049】
図3はそのような設計の一例であり、受容体層22がゲート電極10上に設けられる。これは事実上、ゲート電極10をフローティングゲートに変化させる。ゲート電位がゲート電極に印加させる制御電圧と、受容体層22の配位錯体に配位されたNO分子の面外双極子モーメントにより生成される電界との和になるからである。
【0050】
代替的な一実施形態において、受容体層22は、有機半導体層14上に直接的に設けられてもよい。これは図4に示されている。この半導体デバイスは、受容体層22に対するチャネル領域16の更なる近接性により、NOに対して更に高い感度を有することが予期される。
【0051】
これは、図5に示す更なる一実施形態によって例証される。図5において、有機半導体チャネル領域26は、ソース及びドレインの電極18間の、ゲート誘電体層12上の自己組織化単分子層によって形成されている。ゲート電極層10は、例えばガラス基板又はシリコン基板などの如何なる好適な基板ともし得る基板24上に形成されている。受容体層22は、自己組織化単分子層26とソース/ドレイン電極18との上に直接的に形成されている。このようなデバイスをどのように製造するかの一例は、例IIにて与えられる。図5に示した半導体デバイスの自己組織化半導体材料としての使用に適した材料に関する議論は、E.C.P Smits等による論文“Bottom−up organic integrated circuits”(Nature、第455巻、2008年、っp。956−959)に見出すことができる。
【0052】
例II
クロロ[11−(5’’’’−エチル−2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’:5’’’,2’’’’−クインクエチエン−5−イル)ウンデシル]ジメチルシランなる活性分子1(図6参照)を、5−エチル−5’’’’−ウンデス−10−エン−l−イル−2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’:5’’’,2’’’’−クインクエチチオフェン[1](化合物2)のジメチルクロロシランとのヒドロシリル化によって合成した。化合物1と比較して移動された二重結合を有する約50%の副生成物、5−エチル−5’’’’−ウンデス−9−エン−l−イル−2,2’:5’,2’’:5’’,2’’’:5’’’,2’’’’−クインクエチチオフェン(化合物3)も形成された。化合物1と3とを分離することは、如何なる従来方法によっても不可能であることが分かった。しかしながら、化合物3は非機能性の不純物であるため、すなわち、それはSi−OH表面に共有結合することができないため、この生成混合物は、先述のNature誌に記載されるようなSAMFETの準備に使用され得る。R’=H且つX=Clとした化学式IIIの配位錯体をイソプロピルアルコール中に含む溶液を自己組織化単分子層上にスピンコートすることによって、SAMFET上に受容体層22が形成される。
【0053】
図7は、例IIのSAMFET半導体デバイスを用いて行った測定の結果を示している。例IIのSAMFET半導体デバイスを、可変ゲート電圧Vにて、50、100、150、そして200ppbのNOを含む空気流に30分間晒した。また、更なる参考として、例Iの半導体デバイスを50ミリバールのN流に晒した。Nに代えてNOにデバイスが晒されるときにオン電流の有意なシフトが達成されることが明瞭に例証されている。さらに、特にV=10Vの領域において、異なるNO濃度はオン電流に検出可能な差をもたらしている。
【0054】
図8は、0.1nAのチャネル電流における例IIのSAMFET半導体デバイスの閾値電圧のシフトを、当該トランジスタが晒された空気流中のNO濃度の関数として示している。この図は、20−30ppbという小ささのNO濃度が、例えば信号プロセッサなどの好適な検出装置によって検出され得る1Vの幅の閾値電圧シフトを生じさせることを明瞭に例証している。
【0055】
図9は、本発明に係る半導体デバイス1を有する検出装置100の一実施形態例を示している。検出装置100は、流入口102を介して流体を受け入れるように構成されている。流体は空気又は体液とし得る。好ましくは、検出装置100は呼気分析器である。検出装置100は更に、流出口104と、流入口102及び流出口104に流体的に連通した測定チャンバ(図示せず)とを有し得る。1つ以上の半導体デバイス1がこの測定チャンバ内に配置され得る。上記1つ以上の半導体デバイス1は、上記1つ以上の半導体デバイス1から受信した信号を処理する信号プロセッサ120に結合される。この処理は、上記1つ以上の半導体デバイス1から受信した信号をNO濃度に相関付けることを含む。この目的のため、信号プロセッサ120は、例えば、ルックアップテーブル、又はこの相関付けを行うアルゴリズムを有し得る。このようなアルゴリズムは典型的に、NO濃度に対する上記1つ以上の半導体デバイス1の応答関数に基づく。
【0056】
信号プロセッサ120は、決定したNO濃度を出力140に送るように構成される。出力140は、表示装置、又は出力信号を更に処理する例えばコンピュータ若しくは外付けモニタなどの更なる装置に信号を転送する信号出力とし得る。検出装置100を用いることによって、呼気中のNO濃度の正確な決定が行われ得る。
【0057】
図面及び以上の記載にて本発明を詳細に図示して説明したが、これらの図示及び説明は、限定的なものではなく、例示的あるいは典型的なものと見なされるべきである。本発明は、開示した実施形態に限定されるものではない。
【0058】
図面、明細書及び特許請求の範囲を調べて請求項に係る発明を実施する当業者によって、開示した実施形態へのその他の変形が理解されて実現され得る。特許請求の範囲において、用語“有する”はその他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞“a”又は“an”は複数であることを排除するものではない。単一のプロセッサ又はその他の装置が、請求項中に列挙された複数の項目の機能を果たしてもよい。特定の複数の手段が相互に異なる従属項にて列挙されているという単なる事実は、それらの手段の組み合わせが有利に使用され得ないということを指し示すものではない。請求項中の如何なる参照符号も、その範囲を限定するものとして解されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層内にチャネル領域を画成するように互いに離隔された一対の電極と、前記チャネル領域を制御するゲート構造と、前記チャネル領域に少なくとも部分的に重なる受容体層と、を有する半導体デバイスであって、
前記受容体層は、化学式I又はII:
【化1】

から選択された一酸化窒素配位錯体を有し、ただし、MはPb又は3族から12族の遷移金属から選択された遷移金属イオンであり、Rは置換されていない、あるいは置換されたアリレン又はヘテロアリレン官能基であり、Xは窒化物又はハロゲン化物イオンである、
半導体デバイス。
【請求項2】
前記遷移金属イオンは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pb及びZnから選択される、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記遷移金属イオンはFeイオンである、請求項2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記一酸化窒素配位錯体は化学式III:
【化2】

の化合物であり、ただし、R’は水素又はアルキル置換基であり、Xはハロゲン化物又は硝酸イオンである、請求項3に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記ゲート構造と前記受容体層とが、前記チャネル領域を挟んで反対側に配置されている、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記受容体層は保護層によって前記チャネル領域から離隔されている、請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記受容体層は前記ゲート構造上に配置されている、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記有機半導体のチャネル領域はポリアリールアミンを有する、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
前記有機半導体層は前記一対の電極を覆っている、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項10】
前記電極は金電極である、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項11】
前記有機半導体層は自己組織化単分子層であり、前記一酸化窒素配位錯体は該単分子層に化学結合している、請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項12】
流体流入口と連通した測定チャンバであり、請求項1乃至11の何れかに記載の半導体デバイスを有する測定チャンバ;
前記半導体デバイスに結合され、前記半導体デバイスからの信号を一酸化窒素濃度に相関付けるプロセッサ;及び
前記一酸化窒素濃度をユーザに提供する出力部;
を有する検出装置。
【請求項13】
前記出力部は表示装置を有する、請求項12に記載の検出装置。
【請求項14】
呼気分析器である請求項12に記載の検出装置。
【請求項15】
呼気中の一酸化窒素濃度を決定する方法であって:
請求項14に記載の呼気分析器を準備する段階;
前記流入口内に息を吐く段階;及び
前記一酸化窒素濃度を決定する段階;
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−512392(P2012−512392A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540311(P2011−540311)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055637
【国際公開番号】WO2010/070544
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】