説明

三次元形状測定装置

【課題】高い測定精度と広い測定範囲を両立させる三次元形状測定装置を提供する。
【解決手段】ある狭帯域フィルタを光学系に挿入して二次元格子パターン3を被検物2に投影する。次に被検物2上の格子パターンを複数の受光レンズ4、撮像素子5を用いて画像として取り込む。画像処理により二次元格子パターン3の縦線、および横線の重心位置を検出し、ここから各格子点の画像上の位置を求める。このとき、二次元格子パターン3の結像位置に、撮像光学系の焦点が合うように、投影レンズ6の焦点位置と、受光レンズ4の焦点位置とが決定される。フィルタを順次切り替えて上記と同じことを行うと、投影レンズ、受光レンズの波長帯域によって焦点位置が異なるので、それらの焦点深度分を重ね合わせた範囲のデータを取得することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブステレオ法を基に、三角測量を用いて物体の三次元形状を測定する三次元形状測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において被検物の三次元形状および位置を非接触で測定する必要性が高まりつつある。物体の三次元形状を非接触で測定する方法には大別して二種類の方法がある。
【0003】
一方は、計測の補助となる特定の電磁波を照射することなく測定を行う受動的な方法で、他方は、計測のために対象物に特定の電磁波を照射し、そこから情報を得ることで測定を行う能動的な方法である。受動的な方法にはレンズ焦点法、ステレオ法などがあり、一般に汎用的で物体の形状や大きさ等の制限が少ないというメリットがある。一方、能動的な方法には、光レーダー法、アクティブステレオ法、モアレトポグラフィ法、照度差ステレオ法、干渉法などがあり、一般に受動的な方法に対して精度が高いというメリットがある。
【0004】
高精度を必要とする測定には通常アクティブステレオ法などが使用される。アクティブステレオ法では代表的な方法としてスリット投影法がある。これはプロジェクタからスリット光を投影し、被検物の表面に映るスリット像の位置をカメラの画像上で検出することにより、三角測量を用いて物体の三次元情報を得るという方法である。スリット光をスキャンすることにより、物体全体の三次元形状を得ることができる。
【0005】
この方法では空間分解能はスキャンするステップに依存し、高い分解能を得るためにはステップを細かくする必要がある。これを改善する方法として、特定のパターン光を投影するグレイコードパターン投影法や、特開2001−330417号公報(特許文献1)に記載されるカラーパターン光投影法がある。これらの方法は特定のパターンを投影して被検物を細かく分割し、分割されたパートごとに三角測量を行うものである。投影するパターンを工夫することで、スリット投影法のスキャン回数よりも少ない投影回数で被検物の分割数を多くすることが可能となる。
【特許文献1】特開2001−330417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のステップを細かくする方法や、グレイコードパターン投影法やカラーパターン光投影法等では、高い空間分解能を達成することは可能であるが、各ポイントごとの測定精度そのものを向上させることはできない。測定精度を向上させるためには測定光学系に使用する集光レンズの被検物側開口数をできるだけ大きくとることが望ましいが、開口数を大きくすると今度は被検物側の焦点深度が浅くなってしまい、測定範囲を狭めてしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高い測定精度と広い測定範囲を両立させる三次元形状測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための第1の手段は、二次元格子パターンを被検物に投影する投影装置と、前記被検物上に投影された前記二次元格子パターンを受光する複数の受光手段を備えた三次元形状測定装置であって、前記投影装置を構成する投影光学系、および前記受光手段を構成する受光光学系が多焦点レンズであることを特徴とする三次元形状測定装置である。
【0009】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、前記多焦点レンズは軸上色収差を用いて多焦点を形成するものであることを特徴とするものである。
【0010】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段であって、前記多焦点レンズは偏光を用いて多焦点を形成するものであることを特徴とするものである。
【0011】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第1の手段から第3の手段のいずれかであって、投影される前記二次元格子パターンは、線の行、列数を識別できるように、線に特定のパターンを持つことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い測定精度と広い測定範囲を両立させる三次元形状測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の例を模式的に示す図である。パターン投影装置1から二次元格子パターン3を被検物2に投影し、その像を複数の受光光学系4により各撮像素子5上に撮像するシステムになっている。撮像素子5上で格子パターンの各格子点の位置を検出することで、受光レンズ4間の基線長Lに対して格子までの角度α、βが求まり、三角測量の原理を用いて各格子点の位置が決定できる。被検物2上には複数の格子点が存在するため、被検物2上の複数位置が決定できることになる。さらに格子をx、y方向にピッチ1つ分スキャンすることで被検物2全面の位置を決定できることになる。
【0014】
本発明ではパターン投影装置1、受光光学系4に特徴がある。パターン投影装置1の光学系の詳細を図2に示す。パターン投影装置1は照明光学系9、フィルタターレット8、二次元格子マスク7、投影光学系6を有する。
【0015】
照明光学系9は図示しない光源、コレクタレンズなどから構成されており二次元格子マスク7を均一に照明する。二次元格子マスク7は格子状に光線が透過できるように暗視野パターンになっている。投影光学系6、および受光光学系4は軸上の色収差をあえて出すように設計されており、波長帯域により集光位置が順々にずれるようになっている。照明光学系9と二次元格子マスク7の間にはフィルタターレット8が配置されており、複数の狭帯域フィルタ10がはめ込まれている。それぞれのフィルタで選択される波長域で図3に示すとおり、上述の投影光学系6、受光光学系4の集光位置が異なるように配慮されている。フィルタターレット8を回転することにより任意の狭帯域フィルタ10を光学系に挿入することができ、それに応じて焦点位置を変えることができる。
【0016】
以下、測定の方法について説明する。まず、ある狭帯域フィルタ10を光学系に挿入して二次元格子パターン3を被検物2に投影する。次に被検物2上の格子パターンを複数の受光光学系4、撮像素子5を用いて画像として取り込む。画像処理により二次元格子パターン3の縦線、および横線の重心位置を検出し、ここから各格子点の画像上の位置を求める。このとき、投影光学系6の焦点位置と、受光光学系4の焦点位置は、被検物2上に合わせる。
【0017】
このとき一般に被検物は凸凹しているため、被検物2上の二次元格子パターン3は投影レンズ6の焦点のあった場所(二次元格子パターン7の結像位置)ではくっきりとしているが、焦点が外れるに従ってボケている。また像を撮像する受光光学系においてもちょうど焦点の合う位置の格子パターンは撮像素子上にくっきりと像をつくるが、焦点位置から外れた格子パターンは撮像素子上にボケた像をつくる。
【0018】
すなわち、投影光学系、受光光学系の各々によって焦点がはずれた格子パターンはボケてしまう。ボケた格子パターンから重心位置を求めると測定誤差が大きくなってしまうため、そのような格子パターンは測定には使用しないほうが望ましい。そこで上記で求めた各格子点において像のボケ判定を行い、ボケ量が指定した基準値よりも小さいものだけを格子点の位置として記憶する。これにより測定誤差を低減できる。
【0019】
しかしこの状態では被検物における全ての格子点の位置を求めることはできない。そこでフィルタを順次切り替えて上記と同じことを行うと、投影光学系、受光光学系の波長帯域によって焦点位置が異なるので、それらの焦点深度分を重ね合わせた範囲のデータを取得することが可能となる。
【0020】
この全体としての焦点深度は、投影光学系、および受光光学系の被検物側開口数から決まる焦点深度よりもはるかに深くすることが可能であり、測定範囲を大幅に広げることができる。波長帯域を考慮した実質の焦点深度を想定される被検物サイズに合わせておくことで、波長を切り替えて順次焦点の合った格子点の位置を記憶していくと、ほぼ被検物全面にわたる格子点の位置を求めたことになる。
【0021】
複数の受光光学系において各格子点の画像上の位置が求まったので、対応する格子点の判定がつけば図1における基線長からの角度α、βが求まり、三角測量を用いて被検物中の格子点の座標を決定できる。
【0022】
以下、対応する格子点の判定方法を説明する。二次元格子パターンのそれぞれの縦、横線にパターンを設けることで、格子点の判定が容易に可能となる。例えば図4に示すようなパターンが考えられる。この例では縦、横線とも10本毎にパターンの異なる線を用いている。1〜9本目は直線、10〜19本目は短い一点鎖線、20〜29本目は短い二点鎖線と、10本毎に短い鎖線を設けて、100本毎には長い鎖線を設けるといったパターン付けをしている。これにより画像上で対象としている格子点が何行、何列目のものであるかを識別することが可能となる。そこで先に述べた画像上の格子点の位置を記録する際に何行、何列目といった情報も合わせて記録しておくようにする。
【0023】
なお線の識別パターンはここで述べたものに限定されるものではなく、例えば線幅を変化させたり、濃さを変化させたりすることも可能である。こうすることで複数の撮像素子上で全格子点の位置を対応付けることが可能となり、三角測量を用いて被検物上の複数点における座標を求めることができる。さらに格子の位置を縦方向、横方向に1ピッチ分スキャンすることで被検物全面にわたる座標を得ることができる。
【0024】
以下、具体例について述べる。撮像素子として素子サイズ10mm×10mmで画素数2000pixel×2000pixelの400万画素のCCDを使用する。1ピクセルのサイズは5μmとする。投影光学系、受光光学系は共通として、倍率10倍、被検物側の開口数NAを0.007とする。この光学系を用いると、被検物として100mm×100mmの範囲を一度に撮像することが可能である。
【0025】
投影光学系、受光光学系は軸上色収差を大きく出す設計にしてあり、被検物側の軸上色差が100mmあるとする。この軸上色差100mmを10等分するそれぞれの波長近傍で狭帯域フィルタを用意する。つまりフィルタを切り替えることで被検物側の焦点位置を約10mmずつ10等分変えられる構成になっている。二次元格子マスクの線幅は5μm、ピッチ20μmとする。投影光学系、受光光学系の被検物側のエアリーディスク直径は波長588nmで100μm、焦点深度は±6mmとなる。
【0026】
まずある波長を選択して測定する場合を考える。この場合物体面上に投影された二次元格子パターンの1つの線幅は倍率10倍がかかり、ここに回折によるボケが加わって150μm程度になる。これは撮像素子上で換算すると3ピクセルに相当する。格子のピッチは20μmであるため、撮像素子上では4ピクセルに相当し、格子の各線が1ピクセルの間隔を持って並んでいることになる。画像処理により3ピクセルの広がりをもった線幅の重心位置を求めるのに、サブピクセル処理等の技術を用いることで1/20ピクセル程度の精度を達成することができる。これは被検物換算で3μmに相当する。
【0027】
ただしこの状態では焦点深度が±6mmしかないため、被検物の奥行き方向は12mm程度の範囲内でしか焦点のあった格子点が決まらない。そこでフィルタを順次切り替えて測定を行うことで、10mmずつ焦点の位置を変化させることができ、先の焦点深度を順につないでいくことが可能である。これにより最大100mmまで焦点深度を深くでき、物体のサイズとしては100×100×100mm程度のものを3μm程度の精度で測定することが可能となる。
【0028】
上記説明では波長の切り替えをパターン投影側で行っているが、撮像側で切り替えても同様の効果が得られることは明らかである。なお、パターン撮像側で波長を切り替えれば、撮像側には当然その波長の光しかこないので、撮像側での波長切り替えは不要である。
【0029】
なお上記の実施例では投影レンズ、受光レンズに色収差を用いて焦点深度を深くする例を述べたが、偏光を用いた2重焦点レンズ等を用いても同様の効果が期待できる。この時、フィルタ切り替えに相当するのが、互いに偏光方向が直交した2組の偏光板である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の例を模式的に示す図である。
【図2】パターン投影装置の光学系を詳細に示す図である。
【図3】投影光学系、受光光学系の波長ごとの焦点位置を示す図である。
【図4】二次元格子パターンの例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1:パターン投影装置、2:被検物、3:二次元格子パターン、4:受光光学系、5:撮像素子、6:投影光学系、7:二次元格子マスク、8:フィルタターレット、9:照明光学系、10:狭帯域フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元格子パターンを被検物に投影する投影装置と、前記被検物上に投影された前記二次元格子パターンを受光する複数の受光手段を備えた三次元形状測定装置であって、前記投影装置を構成する投影光学系、および前記受光手段を構成する受光光学系が多焦点レンズであることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元形状測測定装置であって、前記多焦点レンズは軸上色収差を用いて多焦点を形成するものであることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の三次元形状測定装置であって、前記多焦点レンズは偏光を用いて多焦点を形成するものであることを特徴とする三次元形状測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の三次元形状測定装置であって、投影される前記二次元格子パターンは、線の行、列数を識別できるように、線に特定のパターンを持つことを特徴とする三次元形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145121(P2008−145121A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329233(P2006−329233)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】