三次元測定方法及び装置
【課題】 測定装置自体が変形することで測定値に変動が生じてしまう場合でも、変動量を補正可能な高精度の三次元測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】 測定中における測定機構のドリフトに起因する測定データにおけるX軸、Y軸、及びZ軸の各方向における変動量を求めることから、長時間の測定を必要とする形状測定において、温度等の環境に起因するドリフトを除去し、高精度の測定を行うことが可能となり、測定環境や装置に費用をかけ、温度変動を小さくにする必要がなくなる。
【解決手段】 測定中における測定機構のドリフトに起因する測定データにおけるX軸、Y軸、及びZ軸の各方向における変動量を求めることから、長時間の測定を必要とする形状測定において、温度等の環境に起因するドリフトを除去し、高精度の測定を行うことが可能となり、測定環境や装置に費用をかけ、温度変動を小さくにする必要がなくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定方法及び装置に関する。詳しくは、測定面上でプローブを2次元面上(以下、「XY平面」と呼ぶ)に走査しながら、走査面に直交する成分を含む高さ方向つまり鉛直方向(以下、「Z軸方向」と呼ぶ)の測定を行うことにより、上記プローブの上記XY平面上のXY座標位置での上記Z軸方向におけるZ座標データ列を求め、このZ座標データ列に基づいて測定面の形状測定を行う三次元測定方法及び装置に関する。具体的には、例えば、高い測定精度が要求される非球面レンズの形状測定、若しくは、厚み方向における厚さむらや反りなどが極めて少ないことを要求される半導体製造用のウエハや磁気ディスク用基盤などの薄板材の平坦度測定が可能な三次元測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先に開発した超高精度3次元測定機は、測定面上を50mg以下の弱い押圧力のプローブを測定面に接触させながらXY座標方向に走査することにより、該プローブのXY座標位置でのZ座標データの列を求め、上記測定面の形状が設計式からどれだけずれているかを、上記Z座標データの列から直接的に測定するものである。具体的には、測定対象であるレンズやミラーの表面形状は、一般式でZ=f(X,Y)という形の設計式で表され、測定点のX、Y座標におけるZ座標の測定値から、上記設計式から求まるZ座標の設計値を差し引いて誤差を算出していた。ここで、測定に要するプローブ押圧力を50mg以下としたのは、10nm程度の高精度測定が必要であり、測定面に傷をつけてはいけないからである。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)
上述の従来技術は、接触式プローブを使用した場合であるが、非接触のプローブを使用した場合や、被測定物の側面から測定する場合や、又は被測定物の両面から厚さを測定する場合も同様である。(例えば特許文献3参照)
【特許文献1】特許第3046635号
【特許文献2】特開平06−265340号公報
【特許文献3】特開2000−283728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の測定装置は、プローブを用いて被測定物を数十mm/秒以下の比較的低速度で走査するため、被測定物の全面を測定するためには、10分以上の時間が必要となる。測定装置自体における、各軸方向での単軸の測定分解能は1nm以下であり、被測定物の周囲環境として温度変化が1℃以下となるように温度制御を行うことにより、測定装置全体の測定性能を確保している。しかし、10分以上にわたる測定を行うと、熱膨張等に起因して測定装置自体が機構的に局所的な変形を起こすため、設計上十分な考慮をしたにもかかわらず、測定値において100nmほどの変化が発生してしまう。該変動の最大の要因は、測定装置周囲の1℃以下の温度変化と考えられ、このときの変化時間は10分から1時間以上と、比較的長いのが特徴である。
【0004】
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたもので、長時間の測定中に、測定装置自体が変形することで測定値に変動が生じてしまう、いわゆるドリフトが起こった場合でも、該ドリフト分を補正可能な高精度の三次元測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様における三次元測定方法は、被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて上記被測定面の中心点から上記被測定面の外周までを直線状に走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の径方向データを取得し、
上記全面形状データと上記径方向データとにおけるX座標及びY座標が同一である上記全面形状データの第1Z座標データ、及び上記径方向データの第2Z座標データを抽出し、
上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分からZ変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正する、
ことを特徴とする。
【0006】
熱変形等に起因する測定装置自体の変形は、X軸、Y軸及びZ軸の各方向に発生するが、上記第1態様では、Z軸方向のみに上記変形つまりドリフトが発生したと仮定した場合における測定方法である。上記全面形状データを取得するための被測定面に対するプローブの走査方向は、限定するものではなく、例えば被測定面の中心点を中心とした同心円等である。
X軸、Y軸及びZ軸の各方向にドリフトが発生した、一般的な場合については、以下の第2態様のように構成することができる。
【0007】
又、本発明の第2態様における三次元測定方法は、被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて、上記被測定面の中心点にて互いに交差しかつ各両端が上記被測定面の外周まで到達する直線状に走査して、X軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の第1径方向データと第2径方向データとを取得し、
上記全面形状データと上記第1径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1径方向に生じた第1変動量、及びZ軸方向に生じた第2変動量を求め、
上記全面形状データと上記第2径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第2径方向に生じた第3変動量、及びZ軸方向に生じた第4変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データを上記第1変動量、上記第2変動量、上記第3変動量、及び上記第4変動量にて補正する、
ことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、上記第1径方向及び上記第2径方向は、互いに直交するX軸方向及びY軸方向と一致してもよいし、一致していなくてもよい。尚、上記第1径方向がX軸方向に一致するときには、上記第1変動量は、X座標データにおける変動量に相当し、上記第2径方向がY軸方向に一致するときには、上記第3変動量は、Y座標データにおける変動量に相当する。又、上記第2及び第4の変動量は、Z座標データにおける変動量に相当する。
【0009】
上記第2態様において、それぞれの上記第2変動量及び上記第4変動量は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出してもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の第1態様及び第2態様における三次元測定方法、並びに第3態様における三次元測定装置によれば、測定中における測定機構のドリフトに起因する測定データにおけるX軸、Y軸、及びZ軸の各方向における変動量を求めることから、長時間の測定を必要とする形状測定において、温度等の環境に起因するドリフトを除去し、高精度の測定を行うことが可能となり、測定環境や装置に費用をかけ、温度変動を小さくする必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態である三次元測定方法、及び該三次元測定方法を実行可能な三次元測定装置について、図を参照しながら以下に詳しく説明する。尚、各図において、同じ構成部分については同じ符号を付している。
【0012】
まず、上記三次元測定方法及び上記三次元測定装置の概略について、以下に説明する。
上述の第1及び第2態様とは別のA態様における三次元測定方法では、被測定面を測定機構に備わるプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定方法において、上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得し、
上記第1走査線と交差し、かつ上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能な第2走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得し、
上記第1走査線及び上記第2走査線に沿った測定においてX座標及びY座標が同一である上記第1走査線と上記第2走査線との交点におけるZ座標について、上記第1走査線による走査にて得られた第1Z座標データ、及び上記第2走査線による走査にて得られた第2Z座標データを抽出し、
上記第1走査線に沿った走査と、上記第2走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記測定機構に生じたZ軸方向におけるZ変動量に相当する上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分を求め、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正することを特徴とする。
【0013】
熱変形等に起因する測定装置自体の変形は、互いに直交する座標軸であるX軸、Y軸及びZ軸の各方向に発生するが、上記A態様では、Z軸方向のみに上記変形つまりドリフトが発生したと仮定した場合における測定方法である。尚、被測定物において、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していないものとする。例えば、半導体ウエハのような薄板状の被測定物の被測定面をプローブにて第1走査線に沿って走査する。該第1走査線としては、例えば、被測定面の中心点を中心とした同心円や、上記中心から螺旋状、さらには、X軸及びY軸方向に直線的な経路にてジグザグ状等が採用可能である。さらに、上記被測定面をプローブにて第2走査線に沿って走査する。該第2走査線としては、第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能であり、かつ第1走査線を時間的にほぼ等間隔になるように交差する走査線である。具体的には、例えば直線が好ましい。上記第1走査線に沿った走査、及び上記第2走査線に沿った走査は、どちらを先に行っても良い。第1走査線に沿った走査中には、当該測定機構においてドリフトが発生するが、第2走査線に沿った走査では、上述のように走査時間を短くしていることから、ドリフトは発生しないものと仮定する。
【0014】
第1走査線及び第2走査線に沿った各走査にて、被測定面におけるX座標、Y座標、Z座標のデータがそれぞれ得られる。しかし、第1走査線に沿った第1走査と、第2走査線に沿った第2走査との間の時間経過中における、当該測定機構の周りの雰囲気温度の変化に起因して、当該測定機構にはドリフトが発生している。上述のようにA態様ではZ軸方向にのみドリフトが発生している。よって、上記第1走査にて得られた測定データにおけるX座標及びY座標と、上記第2走査にて得られた測定データにおけるX座標及びY座標とが同じ測定点、つまり両走査における同一測定点、つまり第1走査線と第2走査線との交点であっても、Z座標値には両走査で差異が発生している。即ち、この差分は、Z軸方向におけるドリフト量と判断することができる。
そこで、長時間の走査を行った第1走査にて得られた測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれると考えられる測定データについて、上記差分を用いて補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
【0015】
尚、例えば第1走査線が同心円であり、第2走査線が各同心円の直径方向へ延びる直線としたとき、同心円毎に一点ずつ第2走査線との交点が存在する。このとき、一つの同心円を走査しているときに生じているドリフト量は無視できるものとする。但し、異なる同心円に沿ったそれぞれの走査間にて生じるドリフト量は無視できないので、上記差分を用いた測定データの補正は、各交点におけるそれぞれのZ座標値の差分に基づいて、各同心円走査にて得られたそれぞれの測定データ毎に行う。
【0016】
又、さらに他のB態様における三次元測定方法では、被測定面を測定機構に備わるプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定方法において、
上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得し、
上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能である、互いに交差する第2A走査線及び第2B走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得し、
上記第1走査線及び上記第2A走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第1測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1走査線に沿った走査と、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記測定機構においてX軸方向に生じたX変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、
上記第1走査線と上記第2B走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第2測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記時間経過に起因して上記測定機構においてY軸方向に生じたY変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量にて補正することを特徴とする。
【0017】
上記B態様において、上記時間経過にて、X軸方向に上記X変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記X変動量を求め、
上記時間経過にて、Y軸方向に上記Y変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記Y変動量を求めるようにしてもよい。
【0018】
又、上記B態様において、それぞれの上記Z座標データの差分は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出するようにしてもよい。
【0019】
又、上記B態様において、上記第1走査線は、上記被測定面の軸対称線が通過する上記被測定面の中心点を中心とした円形であり、上記X変動量及び上記Y変動量を求めるための各2組の測定点は、上記中心点を中心とした軸対称にて位置するようにしてもよい。
【0020】
又、上記B態様において、上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める際に、それぞれの変動量におけるノイズ成分を除去するようにしてもよい。
【0021】
又、さらに他のC態様における三次元測定装置では、被測定面をプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定装置において、上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査し、かつ上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能である、互いに交差する第2A走査線及び第2B走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査する走査駆動機構と、
上記第1走査線に沿った走査により、X軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得するとともに、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿ったそれぞれの走査により、X軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得する測定部と、
上記第1走査線及び上記第2A走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第1測定点を上記測定部から2組抽出し、さらに、上記第1走査線及び上記第2B走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第2測定点を上記測定部から2組抽出する抽出部と、
上記第1測定点における2組の測定点データに基づいて、上記第1走査線に沿った走査と、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記駆動機構においてX軸方向に生じたX変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、さらに、上記第2測定点における2組の測定点データに基づいて、上記時間経過に起因して上記駆動機構においてY軸方向に生じたY変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求める変動量決定部と、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを、上記変動量決定部にて求めた上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量にて補正する補正部と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
上記C態様において、上記時間経過に起因して、X軸方向に上記X変動量、Y軸方向に上記Y変動量、及びZ軸方向に上記Z変動量にて上記走査駆動機構が変位したとき、上記変動量決定部は、
上記抽出部にて抽出された上記第1測定点における各組を構成する測定点データをもとにそれぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した第1演算式を設定し、さらに、上記抽出部にて抽出された上記第2測定点における各組を構成する測定点データをもとにそれぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した第2演算式を設定する演算式設定部と、
上記第1演算式及び第2演算式から上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める変動量算出部と、
を有するように構成することもできる。
【0023】
又、上記C態様において、上記変動量決定部は、さらに、上記変動量算出部にて求めた上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量からノイズ成分を除去するノイズ除去部を有するように構成することもできる。
【0024】
上記B態様及びC態様では、X軸、Y軸及びZ軸の各方向にドリフトが発生した、一般的な場合を例に採る。尚、被測定物において、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していないものとする。又、被測定物としては、上記A態様のような薄板状物に限らず、例えばレンズ等であってもよく、被測定面は、球面、非球面等であってもよい。
X軸、Y軸及びZ軸の3方向における各ドリフト量を求める必要があることから、データ上、少なくとも異なる3点の座標データが必要であり、これらのデータからなる3元連立方程式を解くことになる。第1走査線は、上述のA態様の場合と同様に、例えば、被測定面が軸対称となるような中心点を中心とした同心円や、上記中心から螺旋状、さらには、X軸及びY軸方向に直線的な経路にてジグザグ状等が採用可能である。演算量を低減し簡易に上記ドリフト量を求めるためには、上記同心円とするのが好ましい。上述のように少なくとも3点の座標データを得る必要があることから、第2走査線は、2本必要となる。演算量を低減し簡易に上記ドリフト量を求めるため、第2走査線は、上記中心を通り、互いに交差する2本の直線が好ましく、第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能であり、かつ第1走査線を時間的にほぼ等間隔になるように通過する、第2A走査線及び第2B走査線が好ましい。より好ましくは、第2A走査線と第2B走査線とは、直交しているのが好ましい。第1走査線を上記同心円とし、上記中心を通り互いに直交する第2A走査線及び第2B走査線を採用することで、一つの同心円の第1走査線と第2A走査線とで2つの交点が得られ、これらの交点は、互いに軸対称な位置に存在することになる。同様に、一つの同心円の第1走査線と第2B走査線とで、互いに軸対称な位置に存在する、2つの交点が得られる。一般的にも、これと同様に考えて、第1走査線と第2A走査線とから2点のデータを、第1走査線と第2B走査線とから2点のデータを取得すればよい。
又、第2A走査線及び第2B走査線に沿った両走査は、測定誤差を小さくする目的から連続して実行するのが好ましい。即ち、第2A走査線に沿った走査を行い、次に、第1走査線に沿った走査を行い、次に第2B走査線に沿った走査を行う、等の順は、避けるのが好ましい。
【0025】
尚、B態様及びC態様では、第1走査線及び第2走査線の各走査間において3軸方向に上記ドリフトが発生したと考えていることから、被測定面を走査する第1走査線と第2走査線との上記被測定面の物理的な交点では、同一点を測定しているにもかかわらず、測定データはX,Y,Z方向の全てにおいて異なる値となる可能性が高い。よって、B態様及びC態様において、「交点」は、被測定面を走査する第1走査線と第2走査線との被測定面上の物理的な交差点部分を意味する。
よって、一つの交点では、第1走査線に沿って測定したときの座標データと、第2走査線に沿って測定したときの座標データとの一組のデータが存在する。よって、第1走査線と、第2A走査線とは2箇所で交差することから、2組の測定点データが、同様に、第1走査線と、第2B走査線とから2組の測定点データが、合計4組の測定点データが得られる。
【0026】
そして、第1走査線と、第2A走査線とから得られる2組の測定点データに基づいて、X軸方向に生じたドリフト量であるX変動量、Z軸方向に生じたドリフト量であるZ変動量を求め、第1走査線と、第2B走査線とから得られる2組の測定点データに基づいて、Y軸方向に生じたドリフト量であるY変動量、Z軸方向に生じたドリフト量であるZ変動量を求める。尚、Z変動量は、2つ得られるので、任意の一方を採ることもできるが、両者の平均値を採るのが好ましい。
【0027】
長時間の走査を行った第1走査にて得られた被測定面の形状測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれると考えられる形状測定データに対して、上述のように求められた、ドリフト量に相当するX変動量、Y変動量、及びZ変動量を減算する補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
尚、第1走査線が複数存在するときには、第1走査線毎に、上記交点の測定点データに基づいてX変動量、Y変動量、及びZ変動量を求め、上記補正を行い、真の被測定面の形状データを得る。
【0028】
ここで、各組の測定点データに基づいた、X変動量、Y変動量、及びZ変動量の求め方について、簡単に説明する。
概略を説明すると、第1走査と第2走査との間の時間経過にて、X軸方向に上記X変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記X変動量を求める。又、上記時間経過にて、Y軸方向に上記Y変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記Y変動量を求める。より具体的に以下に説明する。
【0029】
ここでは説明を簡略化するため、図2に示すように、被測定物117は、軸対称な例えば非球面にてなる被測定面117aを有するものとし、第1走査線51は、軸対称線が通過する被測定面117aの中心点117bを中心とした同心円とし、第2走査線52は、中心点117bを通過する直線の第2A走査線52Aと、中心点117bを通過しかつ中心点117bにて第2A走査線52Aに直交する直線の第2B走査線52Bとする。よって、第1走査線51と第2A走査線52Aとの交点であるP1、P2によって、2組の測定点データが得られ、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4によって、2組の測定点データが得られる。
【0030】
図3に示すように、第1走査線51と、第2走査線52との各走査間の時間経過にて生じる上記ドリフトにより、測定データが例えばX軸方向にΔaずれ、Z軸方向にΔbずれたと仮定する。尚、上述のように被測定物117では、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していない。
例えば交点P1における一組の測定点データについて、第1走査線51及び第2走査線52における走査上で物理的に同じ測定点であっても、上記ドリフトにより座標データとしては、第1走査線51に沿った測定時には座標データ53aであったのが、第2走査線52に沿った測定時には座標データ53bとして測定される。座標データ53aを例えば(x1、y1、z1)とし、座標データ53bを例えば(x2、y2、z2)とすると、Z軸方向におけるZ座標値の差分である変化量ΔZ1は、(z2−z1)となる。又、座標データ53aを有する測定点における被測定面の傾きをαとすると、上記変化量ΔZ1は、X軸方向のずれ量Δa、及びZ軸方向へのずれ量Δbを用いて、Δa×α1+Δbの演算式にて表される。
【0031】
同様に、交点P2における一組の測定点データについて考えると、Z軸方向における変化量ΔZ2は、Δa×α2+Δbの演算式にて表される。
【0032】
ここで、各測定点における被測定面の傾きは、被測定面117aの外形と測定位置とがわかっていることから、被測定面117aの設計式から求めた値で代用することができ、又、本発明にて問題とするドリフト量は、ナノメートルのオーダーであることから、被測定面の傾きは、ドリフト量には無関係で一定値と考えて良い。
【0033】
上述の変化量ΔZ1及び変動量ΔZ2は、交点P1における一組の測定点データ、及び交点P2における一組の測定点データからそれぞれ求まる。よって、変化量ΔZ1及び変動量ΔZ2を表す上述の2つの演算式を解くことで、X軸方向におけるX変動量Δa、Z軸方向におけるZ変動量Δbを求めることができる。
【0034】
これと同様に、交点P3、P4における各組の測定点データを用いて2つの演算式を設定してこれらを解くことで、Y軸方向におけるY変動量Δc、Z軸方向におけるZ変動量Δdを求めることができる。
【0035】
上述のように軸対称な位置関係となるように、交点P1と交点P2、交点P3と交点P4をそれぞれ選択したときには、傾きα2の代わりに傾き−α1を使用することができる。
又、一般的に、第1走査線51が同心円ではなく、第2走査線52が直交していない場合であっても、上述した求め方を用いることにより各軸方向におけるドリフト量を求めることができることは容易に理解できよう。
【0036】
尚、上記ドリフト量は、図4に示すように、時間経過における時刻t1と時刻t2とにおける変動量の差であるが、微視的には時々刻々変動し、これをノイズ54と呼んでいる。本発明において問題としているドリフト量は、最大で約100nm以下であることから、測定におけるノイズ54の方がドリフト量よりも大きくなるときもある。よって、ノイズ成分54を除去するため、被測定面を走査して得られる、X軸、Y軸、Z軸方向における変動量データに対してローパスフィルタをかけてもよいし、又、上述の演算式を多項式近似によるものとしてもよい。
【0037】
次に、上記三次元測定装置の構成について具体的に説明する。
図5及び図6に示すように、三次元測定装置101は、プローブ122を有するプローブ走査型の三次元測定装置であり、概略、以下のように構成されている。
定盤111上には、X軸及びY軸方向に移動可能なXY−テーブル112が設けられ、該XY−テーブル112上には架台113が設けられる。よって、架台113は、XY−テーブル112にてX軸及びY軸方向に可動である。架台113上には、発信周波数安定化He ―Neレーザを有する測定用スケール設定装置114と、上記プローブ122を有し垂直方向に上下移動するZ軸移動台115と、干渉計及びレンズを含む光学系を有する、Z1測定装置1161及びZ2測定装置1162と、各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系とが設けられる。更に、定盤111上には、支持体118が設けられ、この支持体118を介して、Z軸移動台115の上方に、X―Y軸基準面119が水平ミラーとして設けられる。被測定物117は、定盤111上で、Z軸移動台115の下方に配置され、本実施形態では、水平方向に保持される軸対称非球面レンズである。
又、上述の各構成部分と接続され、これら構成部分の動作制御を行うとともに、本実施形態における特徴の一つであり詳細後述する三次元計測方法を実行する制御装置180が備わる。
【0038】
又、当該三次元測定装置101周りの雰囲気温度の変化を、測定中において、1℃以下に抑えるため、当該三次元測定装置101に温度調整装置190を備え、制御装置180の動作制御の元で温度調整を行っても良い。
尚、上記雰囲気温度の変化は、当該三次元測定装置101の動作部分の発熱に起因する。即ち、当該三次元測定装置101では、プローブ122による走査のために上記テーブル等をモータ等の駆動源にて駆動させるが、これらの駆動源から熱が放出される。又、上記He ― Neレーザを安定して発振させるためヒータによる温度制御を行っているが、これによっても熱が放出される。これらの熱により、三次元測定装置101の構成部材が熱膨張等を起こし、上記ドリフトを発生させる。
【0039】
さらに詳しく説明する。測定用スケール設定装置114は、測定光F1及び参照光F2を発生する。測定光F1及び参照光F2は、その周波数の差が数百KHzから数MHz程度であり、又、互いに垂直な直線偏光となっている。測定光F1は、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によって、2つに分けられる。その1つの測定光F1aは、Z軸移動台115上に設けられたZ1測定装置1161のレンズによって、被測定物117上に集光され、該被測定物117にて反射して、架台113上に設けたZ1測定装置1161に入射する。他の1つの測定光F1bは、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によって、直接、上記Z1測定装置1161に入射する。
Z1測定装置1161は、内蔵している干渉計によって、これら2つの測定光F1a及び測定光F1bに基づき、図6に示すように、被測定物117における被測定点と、Z軸移動台115上の特定点Aとの間の距離Z1を測定する。
【0040】
参照光F2は上記各種ミラー、プリズムによって2つに分けられる。その一方の参照光F2aが、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によってX―Y軸基準面119のミラー上に集光され、反射され、上記各種ミラー、プリズム、偏光板等の光学系によってZ2測定装置1162に集光される。他方の参照光F2bは、上記各種ミラー、プリズム、偏光板等の光学系によって、直接、Z2測定装置1162に集光される。Z2測定装置1162は、内蔵している干渉計によって、図6に示すように、X―Y軸基準面119と、Z軸移動台115上の特定点であって上記特定点AとのZ軸方向における距離が特定可能な特定点Bとの距離Z2を測定する。
【0041】
上述のようにZ軸移動台115に設けられたプローブ122は、被測定物117における被測定面117aに接しプローブ122に対して微小ストロークで動作可能であり被測定面117aの形状に沿って走査するスタイラスを有し、上述の特許文献に開示されている原子間力プローブである。Z軸移動台115は、被測定物117に対して垂直なZ軸方向に可動であり、該Z軸移動台115は、被測定物117と平行つまり水平方向に移動するXY−テーブル112に設けられた架台113に設置されていることから、プローブ122は、互いに直交するX、Y、X軸方向に沿って走査可能である。
又、Z軸移動台115は、上記スタイラスの先端が上記被測定面117aに接するようにプローブ122をZ方向に移動させる(以下、サーボロックと呼ぶ)役割を担っている。したがって、XY−テーブル112を用いてプローブ122を走査させるとき、Z軸移動台115をサーボロックしておくことで、被測定物117の表面形状に沿った走査が可能になる。
ここで、Z軸移動台115、XY−テーブル112、架台113等を有し、被測定面117aの形状に沿ってプローブ122を走査させるための構成部分を走査駆動機構120と呼ぶ。
【0042】
上述した構成では、被測定物117に対するX、Y走査を行うときの機構的な問題及び温度変化に対する問題に対して十分な配慮を行い、さらに、定盤111、架台113等の主要部は御影石にて構成しているにもかかわらず、従来と同様の測定方法によれば温度等の環境に当該三次元測定装置101が影響を受け、測定値の変動つまり上記ドリフトが発生してしまう。そこで、以下に説明するような各実施形態における測定方法を採ることで、上記ドリフト分の補正を行い、より高精度な測定を可能とする。尚、該測定方法は、制御装置180にて制御されて実行される。該制御装置180は、例えばパーソナルコンピュータにて構成することができ、該制御装置180には、図7に示すように、当該三次元測定方法を実行するためのプログラムを格納可能な記憶装置181が備わる。該記憶装置181には、上記プログラムを予め格納しておいてもよいし、CD−ROM等の記録媒体や通信手段を通して後から格納することもできる。
【0043】
さらに制御装置180は、本実施形態の三次元測定方法を実行するため、機能的には、図7に示すように、測定部182、抽出部183、変動量決定部184、及び補正部185に区分され、さらに変動量決定部184は、図8に示すように、演算式設定部1841、変動量算出部1842、及びノイズ除去部1843に区分される。
測定部182は、被測定面117aをプローブ122で走査することで、上記Z1測定装置1161、Z2測定装置1162等を通して測定データを取得する部分であり、取得した測定データを記憶装置181へ格納する。尚、上記測定データとは、上述のようにX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データである。
抽出部183は、図2及び図3を参照して上述したように、第1走査線51及び第2走査線52に沿った測定による、それぞれの交点測定データを測定部182から2組ずつ抽出する部分である。
尚、ドリフトがZ軸方向のみに生じる場合には、抽出部183は、交点測定データを測定部182から1組抽出する。
変動量決定部184は、図2及び図3を参照して上述したように、抽出部183にて抽出した2組ずつの測定点データに基づいて、X変動量、Y変動量、Z変動量を求める部分であり、演算式設定部1841にて、Z座標データの差分を、X変動量とZ変動量とで表した第1演算式、及びZ座標データの差分を、Y変動量とZ変動量とで表した第2演算式を設定し、変動量算出部1842にて、各演算式を解いて上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める。
又、ドリフトがZ軸方向のみに生じる場合には、変動量決定部184は、異なる2つのZ座標データの差分を算出する。
補正部185は、上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを、変動量決定部184にて求めたX変動量、Y変動量、Z変動量にて補正する部分である。
【0044】
以上のように構成される三次元測定装置101により実行される三次元測定方法について以下に説明する。当該三次元測定方法における基本的な動作を図1に示す。図1のステップS101、ステップS102では、異なる2種類の、第1走査線及び第2走査線に沿って被測定面をプローブにて走査し、それぞれX,Y,Z軸の座標データを得る。ステップS103では、これらの座標データから、第1走査線及び第2走査線の交点における座標データを抽出し、ステップS104では、上記座標データから、当該三次元測定装置におけるドリフト量を求める。ステップS105では、測定誤差が含まれる座標データについて、上記ドリフト量にて補正する。以下に、より詳しく説明する。
【0045】
第1の測定方法;
本測定方法では、被測定物117として、例えばレンズや、半導体ウエハのような薄板状物のような、軸対称な形状の物を例に採る。このような被測定物117では、対称軸に対して同心円上の形状は、同一な等高線で定義されるため、形状加工された被測定物の形状もほぼ同一な等高線なると想定できる。このような被測定物117における形状測定では、上記同心円に沿ってプローブ122の走査を行うと、Z軸方向におけるプローブ122の移動量を抑制することが可能になる。即ち、上述のように、同心円上の形状は、同一な等高線で定義されるため、Z軸方向の測定値はほとんど変化しない。よって、プローブ122をZ軸方向に移動させる必要がなくなる。一方、プローブ122をZ軸方向に大きく高速に移動させると測定精度が悪化するため、測定速度を落とすことで測定精度の向上を図るようにしている。従って、プローブ122をZ軸方向にほとんど移動させる必要を無くすことで、プローブ走査の高速化が図れる。したがって上記対称軸を中心に同心円状に走査することで、もしくは螺旋円状に走査することで、プローブ122の高速走査が可能となり、測定時間の短縮が図れ、かつ経時的変動や環境変動に起因したドリフト量の軽減が図れる。
【0046】
図9では、被測定物117の被測定面117aに対して、軸対称となる被測定面117aの中心点34を中心とした同心円で、半径を少しずつ変えながら複数の第1走査線31に沿った走査により被測定面117aにおけるX座標、Y座標、Z座標の形状データが上記測定部182にて取得される。又、各第1走査線31と直交する直線状でありかつ一点ずつにて第1走査線31と交差する直線状の第2走査線32に沿った走査によりX座標、Y座標、Z座標のデータが上記測定部182にて取得される。第1走査線31に沿った走査は、被測定面117aの全面を走査することから、時間を要するが、第2走査線32は図示するように直線状であるので、第2走査線32に沿った走査は短時間で済む。よって、第1走査線31に沿った第1走査と、第2走査線32に沿った第2走査との間の時間経過における、当該三次元測定装置101の周りの雰囲気温度の変化に起因して、当該三次元測定装置101においてX軸、Y軸、及びZ軸方向にドリフトが発生している。
但し、当該第1測定方法では、X軸方向及びY軸方向にはドリフトが発生せず、Z軸方向のみにドリフトが発生すると仮定する。よって、上記第1走査にて得られた測定データにおけるX座標データ及びY座標データと、上記第2走査にて得られた測定データにおけるX座標データ及びY座標データとが同じ測定点、つまり第1走査線31と第2走査線32との交点33であっても、両走査により得られたZ座標データには差異が発生している。即ち、この差分は、当該三次元測定装置101のZ軸方向におけるドリフト量と判断することができる。
そこで、長時間の走査を行った第1走査にて得られた測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれる測定データについて、上記差分を用いて補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
【0047】
具体的には、上記抽出部183にて、第1走査線31に沿った走査にて得た交点33における、第1Z座標に相当するZ座標z1と、第2走査線32に沿った走査にて得た交点33における、第2Z座標に相当するZ座標z2とを抽出する。そして、上記変動量決定部184にて各Z座標の差分(z2−z1)を算出する。そして上記補正部185にて、第1走査にて得られた測定データから上記差分を減算する補正を行い、真の被測定面の形状データを得る。尚、図9に示すように交点33が複数存在するときには、交点33毎に上述の動作を行い、第1走査線31毎に真の被測定面の形状データを得る。
【0048】
尚、上述の説明では、第1走査線31と第2走査線32との交点33の座標データが存在する場合を例に採ったが、存在しない場合も考えられる。この場合、交点の測定点データを第1走査線31に沿った第1走査にて取得した形状測定データから補間して求めることができる。
該補間方法について具体的に説明する。上記第1走査線31がn個の同心円からなり、同心円半径をRiとする(iは1からn)。図10に示す、半径Riの第1走査線31上の測定点(xj、yj)は、xj2+yj2=Ri2 を満たす軌跡上にあり、局座標で表すと(Ri、θj)となる。各測定点(Ri、θj)での測定値をZjとすると、Zj=Z(Ri、θj)=Zi(θj)である。
【0049】
又、第2走査をX軸の正の方向に行えば、第2走査線32の軌跡は、y=0(x>0)となり、半径Riの第1走査線31と第2走査線32との交点AiのX、Y座標は、(x、y)=(ri、0)となる。測定は離散的に行うため、交点は必ずしも測定点であるとは限らないため、交点Aiの前後の測定点を求め、内挿することにより第2走査における交点の測定値を求めることができる。
【0050】
第1走査線31において、交点Aiの前の測定点の測定値をZi(θj)、交点Aiの後の測定点の測定値をZi(θj+1)とすると、交点Aiでの推定測定値ZAiは、
【数1】
と内挿できる。
【0051】
第2走査線32における交点Aiの測定値も同様に推定可能である。即ち、交点AiのX、Y座標は、(x、y)=(ri、0)であるので、交点Aiの前後の測定値を、ZCi(xk)、ZCi(xk+1)とすると、第2走査における交点Aiでの測定値ZCAiは、
【数2】
と推定できる。
【0052】
上述では、一次近似による内挿を行ったが、高次の近似を行っても良いし、上記ノイズ除去部1843にて、測定データにローパスフィルタをかけてノイズ成分を取り除いておいても良い。
【0053】
以上のように、第2走査における測定時間は、第1走査に比して十分短くすることにより、第2走査により得られる測定データにはドリフト成分は存在しないか、又は、非常に小さいと考えてよく、それぞれの同心円の軌跡と、第2走査との交点Aiにおける、第1走査及び第2走査のそれぞれの推定測定値ZAi、ZCAiとの差、ΔZi=ZAi−ZCAi−(ZA0、ZCA0) は、それぞれの第1走査線31の同心円におけるドリフト分と考えられる。尚、(ZA0、ZCA0)の項を追加してあるのは、i=0のとき、ΔZi=0 となる、つまり最初の測定値はドリフト補正がないように正規化したためである。
【0054】
従って、それぞれの第1走査線31における測定点(Ri、θk)の真の測定値ZT(Ri、θk)は、ZT(Ri、θk)=Zi(θk)−ΔZi と計算することができる。
以上の処理フローを図11に示す。
【0055】
一方、ここで補正しているドリフト量は、当該三次元測定装置101の場合、最大で100nm以下であるため、測定におけるノイズ成分の方が大きいことが多く、単に差をとったΔZiでは、場合によっては補正値にノイズが混入し、正しく補正できないことがある。このため、ローパスフィルタでノイズを消すことや、ΔZiの多項式近似f(i)を用いて、新しい補正値ΔZi’、 ΔZi’=f(i) を用いると効果が大きい。交点の測定時間が等間隔の場合は、上式でよいが、交点の測定時間が大きく異なる場合は、横軸に時間をとって多項式近似する必要がある。
尚、以上は、同心円測定で説明したが、第1走査線が直線の場合においても同様に測定することができる。
【0056】
第2の測定方法;
上述の第1測定方法は、被測定物が平面に近く凹凸が小さいとき、特に半導体ウエハ等の測定には有効である。しかし、レンズ等の、被測定面がZ軸に対して傾いているときは、X、Y軸でのドリフトも発生するため、3軸方向における各ドリフト量の考慮が必要となる。図2及び図3を参照して、レンズの測定におけるX、Y、Zの3軸のドリフトを補正する方法について説明する。尚、交点での具体的な推定値については、上記第1測定方法と同様にして求めることができる。
【0057】
図2及び図3を参照して、既に説明したように、第1走査線51は、軸対称線が通過する被測定面117aの中心点117bを中心とした同心円であり、第2走査線52は、中心点117bを通過する直線の第2A走査線52Aと、中心点117bを通過しかつ中心点117bにて第2A走査線52Aに直交する直線の第2B走査線52Bである。第1走査線51及び第2走査線52における走査上で物理的に同じ測定点であっても、ドリフトにより座標データとしては、第1走査線51に沿った測定時には座標データ53aであったのが、第2走査線52に沿った測定時には座標データ53bとして測定される。このように第1走査線51と第2走査線52との交点では一組の座標データが存在する。よって、第1走査線51と第2A走査線52Aとの交点であるP1、P2によって、2組の測定点データが得られ、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4によって、2組の測定点データが得られる。尚、上述のように、上記交点では、測定データはX,Y,Z方向の全てにおいて異なる値となる可能性が高い。
【0058】
上記座標データ53aを例えば(x1、y1、z1)とし、上記座標データ53bを例えば(x2、y2、z2)とすると、Z軸方向における変化量ΔZ1は、(z2−z1)となる。又、座標データ53aを有する測定点における被測定面の傾きをαとすると、上記変化量ΔZ1は、X軸方向のずれ量Δa、及びZ軸方向へのずれ量Δbを用いて、Δa×α1+Δbの演算式にて表される。
同様に、交点P2における一組の測定点データについて考えると、Z軸方向における変化量ΔZ2は、Δa×α2+Δbの演算式にて表される。
このように、Z軸方向におけるドリフト量を表すために、上記交点における被測定面117aの傾きを用いる。
【0059】
上の説明を元に、より詳しく説明する。尚、被測定物が軸対称ではない一般的な場合を例として説明する。
交点P1、P2における各組の座標データにおけるZ座標データのそれぞれの差を、ΔZ1、ΔZ2とし、又、交点P1、P2における被測定面117aの傾きをαP1、βP1、及びαP2、βP2とする。ここで、αはX軸方向に関する傾き、βはY軸方向に関する傾きを表しており、面形状をZ(x、y)とすると、
【数3】
であり、この値は被測定面117aの設計式から、又は測定値による近似から求めることができ、実用上は被測定面117aの測定値、又は設計値のどちらでも良い。
同様に、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4における各組の座標データにおけるZ座標データのそれぞれの差を、ΔZ3、ΔZ4とし、又、交点P3、P4における被測定面117aの傾きをαP3、βP3、及びαP4、βP4とする。
【0060】
X,Y,Z軸方向の各ドリフト量を、Dx、Dy、Dzとすると、下記の方程式が成立する。
ΔZ1=αP1×Dx+βP1×Dy+Dz
ΔZ2=αP2×Dx+βP2×Dy+Dz
ΔZ3=αP3×Dx+βP3×Dy+Dz
ΔZ4=αP4×Dx+βP4×Dy+Dz
【0061】
上記の方程式の内の3つの方程式を用いるか、次の2乗誤差の評価関数Fが最小になるように、
【数4】
下記の連立1次方程式を解いて、Dx、Dy、Dzを求めればよい。
【数5】
【0062】
ドリフト量Dx、Dy、Dzが大きく、交点の座標が大きく変わる場合は、ドリフト量Dx、Dy、Dzを加えた交点座標にて再度ΔZ1、ΔZ2、ΔZ3、ΔZ4を求め、ドリフト量Dx、Dy、Dzが収束するまで計算するか、ドリフト量Dx、Dy、Dzを変数として持つ測定値の差ΔZ1、ΔZ2、ΔZ3、ΔZ4を使用すればよい。
【0063】
次に、上述の説明において、被測定物が回転軸対称で、回転軸の方向がZ軸と一致しており、第2A走査線52AがX軸と平行であり、第2B走査線52BがY軸と平行でかつ回転中心を通る場合に限定すると、図3を参照して説明したように、又、下記に示すように上記傾きを同値の+、−で表せる。
βP1=0,βP2=0,α=αP1=−αP2
αP3=0,αP4=0,β=βP3=−βP4
【0064】
又、第2A走査線52Aに沿った走査から求められるZ軸方向のドリフト量をDzx、第2B走査線52Bに沿った走査から求められるZ軸方向のドリフト量をDzyとすると、ΔZ1=α×Dx+Dzx、ΔZ2=−α×Dx+Dzx、ΔZ3=β×Dy+Dzy、ΔZ4=−β×Dy+Dzyとなる。
【0065】
従って、
ΔZ1−ΔZ2=2α×Dx、ΔZ1+ΔZ2=2×Dzx、ΔZ3−ΔZ4=2β×Dy、ΔZ3+ΔZ4=2×Dzy となる。よって、
Dx=(ΔZ1−ΔZ2)/(2α)、
Dzx=(ΔZ1+ΔZ2)/2、
Dy=(ΔZ3−ΔZ4)/(2β)、
Dzy=(ΔZ3+ΔZ4)/2
となる。
又、Z軸方向のドリフト量は、DzxとDzyとの平均とすると、
Dz=(Dzx+Dzy)/2
=(ΔZ1+ΔZ2+ΔZ3+ΔZ4)/4
となる。
【0066】
以上は一つの同心円の第1走査線51について説明したが、各同心円について、上述の第1測定方法と同様にして各同心円におけるドリフト量を求め、必要ならさらに上述のノイズ除去、多項式近似を行えばよい。
【0067】
第3の測定方法;
図12に示すように、第1走査線61が螺旋状における測定方法について以下に説明する。
被測定面は、第2測定方法の場合と同様に、レンズのような球面であり、第1走査線61は、被測定面の中心を始点とした螺旋状であり、第2走査線62は、上記中心から直線状に延在する。ここでは、第2走査線62に沿った第2走査は、正のX軸方向に沿って測定している。
図12では、第1走査線61と第2走査線62との交点は11個あり、中心から交点A0、交点A1、・・・、交点A10とする。第1走査の軌跡は、r=k×θ (kは定数)であり、交点Aiのθは、θ=2π×iである。それぞれの交点における、第1走査及び第2走査による測定データは、上述の同心円測定の場合と同様にして補間することができる。
【0068】
上述の同心円測定の場合と同様にして、交点Aiにおけるドリフト量ΔZiは、
ΔZi=ZAi−ZCAi−(ZA0−ZCA0) である。
図13に示す表は、ドリフト量ΔZiの例である。図14に示すグラフは、横軸にi、縦軸にドリフト量ΔZiを表示し、曲線グラフは、ΔZiを2次の多項式近似したものであり、
f(x)=0.0676x2+0.7786x+10.741
である。
第1走査線61の螺旋軌跡をθのパラメータで表したとき、ドリフト量は、
ΔZ(θ)=f(θ/(2π))=0.0676(θ/(2π))2+0.7786(θ/(2π))+10.741
と表せる。したがって、各測定点において、測定値Z(θ)に補正量ΔZ(θ)を加えればよい。このような処理をすることで、第1測定方法の場合と異なり、補正量を連続値として近似できるため、第1測定方法ではそれぞれ独立している第1走査線31における区分点で生じる非連続点をなくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、高い測定精度が要求される非球面レンズの表面形状測定や、半導体ウエハ、磁気ディスク用基盤などの薄板材等の平坦度測定を行う、三次元測定方法及び装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態である三次元測定方法の基本的動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、Z軸方向における変動量の求め方を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態である三次元測定方法にて生じるノイズを説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態である三次元測定装置の斜視図である。
【図6】図5に示す三次元測定装置において被測定面の測定動作を説明するための図である。
【図7】図5に示す三次元測定装置に備わる制御装置の機能ブロック図である。
【図8】図7に示す変動量決定部の機能ブロック図である。
【図9】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図10】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、測定データの補間方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態である三次元測定方法の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図13】図12に示す三次元測定方法において得られたZ軸方向の変動量を示す図である。
【図14】図12に示す三次元測定方法において得られたZ軸方向の変動量と、交点位置との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
31…第1走査線、32…第2走査線、51…第1走査線、52A…第2A走査線、
52B…第2B走査線、
117a…被測定面、120…走査駆動機構、122…プローブ、
180…制御装置、182…測定部、183…抽出部、184…変動量決定部、
185…補正部、
1841…演算式設定部、1842…変動量算出部、1843…ノイズ除去部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元測定方法及び装置に関する。詳しくは、測定面上でプローブを2次元面上(以下、「XY平面」と呼ぶ)に走査しながら、走査面に直交する成分を含む高さ方向つまり鉛直方向(以下、「Z軸方向」と呼ぶ)の測定を行うことにより、上記プローブの上記XY平面上のXY座標位置での上記Z軸方向におけるZ座標データ列を求め、このZ座標データ列に基づいて測定面の形状測定を行う三次元測定方法及び装置に関する。具体的には、例えば、高い測定精度が要求される非球面レンズの形状測定、若しくは、厚み方向における厚さむらや反りなどが極めて少ないことを要求される半導体製造用のウエハや磁気ディスク用基盤などの薄板材の平坦度測定が可能な三次元測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先に開発した超高精度3次元測定機は、測定面上を50mg以下の弱い押圧力のプローブを測定面に接触させながらXY座標方向に走査することにより、該プローブのXY座標位置でのZ座標データの列を求め、上記測定面の形状が設計式からどれだけずれているかを、上記Z座標データの列から直接的に測定するものである。具体的には、測定対象であるレンズやミラーの表面形状は、一般式でZ=f(X,Y)という形の設計式で表され、測定点のX、Y座標におけるZ座標の測定値から、上記設計式から求まるZ座標の設計値を差し引いて誤差を算出していた。ここで、測定に要するプローブ押圧力を50mg以下としたのは、10nm程度の高精度測定が必要であり、測定面に傷をつけてはいけないからである。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)
上述の従来技術は、接触式プローブを使用した場合であるが、非接触のプローブを使用した場合や、被測定物の側面から測定する場合や、又は被測定物の両面から厚さを測定する場合も同様である。(例えば特許文献3参照)
【特許文献1】特許第3046635号
【特許文献2】特開平06−265340号公報
【特許文献3】特開2000−283728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の測定装置は、プローブを用いて被測定物を数十mm/秒以下の比較的低速度で走査するため、被測定物の全面を測定するためには、10分以上の時間が必要となる。測定装置自体における、各軸方向での単軸の測定分解能は1nm以下であり、被測定物の周囲環境として温度変化が1℃以下となるように温度制御を行うことにより、測定装置全体の測定性能を確保している。しかし、10分以上にわたる測定を行うと、熱膨張等に起因して測定装置自体が機構的に局所的な変形を起こすため、設計上十分な考慮をしたにもかかわらず、測定値において100nmほどの変化が発生してしまう。該変動の最大の要因は、測定装置周囲の1℃以下の温度変化と考えられ、このときの変化時間は10分から1時間以上と、比較的長いのが特徴である。
【0004】
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたもので、長時間の測定中に、測定装置自体が変形することで測定値に変動が生じてしまう、いわゆるドリフトが起こった場合でも、該ドリフト分を補正可能な高精度の三次元測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様における三次元測定方法は、被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて上記被測定面の中心点から上記被測定面の外周までを直線状に走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の径方向データを取得し、
上記全面形状データと上記径方向データとにおけるX座標及びY座標が同一である上記全面形状データの第1Z座標データ、及び上記径方向データの第2Z座標データを抽出し、
上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分からZ変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正する、
ことを特徴とする。
【0006】
熱変形等に起因する測定装置自体の変形は、X軸、Y軸及びZ軸の各方向に発生するが、上記第1態様では、Z軸方向のみに上記変形つまりドリフトが発生したと仮定した場合における測定方法である。上記全面形状データを取得するための被測定面に対するプローブの走査方向は、限定するものではなく、例えば被測定面の中心点を中心とした同心円等である。
X軸、Y軸及びZ軸の各方向にドリフトが発生した、一般的な場合については、以下の第2態様のように構成することができる。
【0007】
又、本発明の第2態様における三次元測定方法は、被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて、上記被測定面の中心点にて互いに交差しかつ各両端が上記被測定面の外周まで到達する直線状に走査して、X軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の第1径方向データと第2径方向データとを取得し、
上記全面形状データと上記第1径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1径方向に生じた第1変動量、及びZ軸方向に生じた第2変動量を求め、
上記全面形状データと上記第2径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第2径方向に生じた第3変動量、及びZ軸方向に生じた第4変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データを上記第1変動量、上記第2変動量、上記第3変動量、及び上記第4変動量にて補正する、
ことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、上記第1径方向及び上記第2径方向は、互いに直交するX軸方向及びY軸方向と一致してもよいし、一致していなくてもよい。尚、上記第1径方向がX軸方向に一致するときには、上記第1変動量は、X座標データにおける変動量に相当し、上記第2径方向がY軸方向に一致するときには、上記第3変動量は、Y座標データにおける変動量に相当する。又、上記第2及び第4の変動量は、Z座標データにおける変動量に相当する。
【0009】
上記第2態様において、それぞれの上記第2変動量及び上記第4変動量は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出してもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の第1態様及び第2態様における三次元測定方法、並びに第3態様における三次元測定装置によれば、測定中における測定機構のドリフトに起因する測定データにおけるX軸、Y軸、及びZ軸の各方向における変動量を求めることから、長時間の測定を必要とする形状測定において、温度等の環境に起因するドリフトを除去し、高精度の測定を行うことが可能となり、測定環境や装置に費用をかけ、温度変動を小さくする必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態である三次元測定方法、及び該三次元測定方法を実行可能な三次元測定装置について、図を参照しながら以下に詳しく説明する。尚、各図において、同じ構成部分については同じ符号を付している。
【0012】
まず、上記三次元測定方法及び上記三次元測定装置の概略について、以下に説明する。
上述の第1及び第2態様とは別のA態様における三次元測定方法では、被測定面を測定機構に備わるプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定方法において、上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得し、
上記第1走査線と交差し、かつ上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能な第2走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得し、
上記第1走査線及び上記第2走査線に沿った測定においてX座標及びY座標が同一である上記第1走査線と上記第2走査線との交点におけるZ座標について、上記第1走査線による走査にて得られた第1Z座標データ、及び上記第2走査線による走査にて得られた第2Z座標データを抽出し、
上記第1走査線に沿った走査と、上記第2走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記測定機構に生じたZ軸方向におけるZ変動量に相当する上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分を求め、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正することを特徴とする。
【0013】
熱変形等に起因する測定装置自体の変形は、互いに直交する座標軸であるX軸、Y軸及びZ軸の各方向に発生するが、上記A態様では、Z軸方向のみに上記変形つまりドリフトが発生したと仮定した場合における測定方法である。尚、被測定物において、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していないものとする。例えば、半導体ウエハのような薄板状の被測定物の被測定面をプローブにて第1走査線に沿って走査する。該第1走査線としては、例えば、被測定面の中心点を中心とした同心円や、上記中心から螺旋状、さらには、X軸及びY軸方向に直線的な経路にてジグザグ状等が採用可能である。さらに、上記被測定面をプローブにて第2走査線に沿って走査する。該第2走査線としては、第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能であり、かつ第1走査線を時間的にほぼ等間隔になるように交差する走査線である。具体的には、例えば直線が好ましい。上記第1走査線に沿った走査、及び上記第2走査線に沿った走査は、どちらを先に行っても良い。第1走査線に沿った走査中には、当該測定機構においてドリフトが発生するが、第2走査線に沿った走査では、上述のように走査時間を短くしていることから、ドリフトは発生しないものと仮定する。
【0014】
第1走査線及び第2走査線に沿った各走査にて、被測定面におけるX座標、Y座標、Z座標のデータがそれぞれ得られる。しかし、第1走査線に沿った第1走査と、第2走査線に沿った第2走査との間の時間経過中における、当該測定機構の周りの雰囲気温度の変化に起因して、当該測定機構にはドリフトが発生している。上述のようにA態様ではZ軸方向にのみドリフトが発生している。よって、上記第1走査にて得られた測定データにおけるX座標及びY座標と、上記第2走査にて得られた測定データにおけるX座標及びY座標とが同じ測定点、つまり両走査における同一測定点、つまり第1走査線と第2走査線との交点であっても、Z座標値には両走査で差異が発生している。即ち、この差分は、Z軸方向におけるドリフト量と判断することができる。
そこで、長時間の走査を行った第1走査にて得られた測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれると考えられる測定データについて、上記差分を用いて補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
【0015】
尚、例えば第1走査線が同心円であり、第2走査線が各同心円の直径方向へ延びる直線としたとき、同心円毎に一点ずつ第2走査線との交点が存在する。このとき、一つの同心円を走査しているときに生じているドリフト量は無視できるものとする。但し、異なる同心円に沿ったそれぞれの走査間にて生じるドリフト量は無視できないので、上記差分を用いた測定データの補正は、各交点におけるそれぞれのZ座標値の差分に基づいて、各同心円走査にて得られたそれぞれの測定データ毎に行う。
【0016】
又、さらに他のB態様における三次元測定方法では、被測定面を測定機構に備わるプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定方法において、
上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得し、
上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能である、互いに交差する第2A走査線及び第2B走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得し、
上記第1走査線及び上記第2A走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第1測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1走査線に沿った走査と、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記測定機構においてX軸方向に生じたX変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、
上記第1走査線と上記第2B走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第2測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記時間経過に起因して上記測定機構においてY軸方向に生じたY変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量にて補正することを特徴とする。
【0017】
上記B態様において、上記時間経過にて、X軸方向に上記X変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記X変動量を求め、
上記時間経過にて、Y軸方向に上記Y変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記Y変動量を求めるようにしてもよい。
【0018】
又、上記B態様において、それぞれの上記Z座標データの差分は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出するようにしてもよい。
【0019】
又、上記B態様において、上記第1走査線は、上記被測定面の軸対称線が通過する上記被測定面の中心点を中心とした円形であり、上記X変動量及び上記Y変動量を求めるための各2組の測定点は、上記中心点を中心とした軸対称にて位置するようにしてもよい。
【0020】
又、上記B態様において、上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める際に、それぞれの変動量におけるノイズ成分を除去するようにしてもよい。
【0021】
又、さらに他のC態様における三次元測定装置では、被測定面をプローブにて走査して上記被測定面の形状を測定する三次元測定装置において、上記被測定面を上記プローブにて第1走査線に沿って走査し、かつ上記第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能である、互いに交差する第2A走査線及び第2B走査線に沿って上記被測定面を上記プローブにて走査する走査駆動機構と、
上記第1走査線に沿った走査により、X軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の形状データを取得するとともに、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿ったそれぞれの走査により、X軸、Y軸、及びZ軸における各座標データを取得する測定部と、
上記第1走査線及び上記第2A走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第1測定点を上記測定部から2組抽出し、さらに、上記第1走査線及び上記第2B走査線に沿った走査において上記測定面上にて物理的に交差した第2測定点を上記測定部から2組抽出する抽出部と、
上記第1測定点における2組の測定点データに基づいて、上記第1走査線に沿った走査と、上記第2A走査線及び上記第2B走査線に沿った走査との間の時間経過に起因して上記駆動機構においてX軸方向に生じたX変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求め、さらに、上記第2測定点における2組の測定点データに基づいて、上記時間経過に起因して上記駆動機構においてY軸方向に生じたY変動量、及びZ軸方向に生じたZ変動量を求める変動量決定部と、
上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを、上記変動量決定部にて求めた上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量にて補正する補正部と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
上記C態様において、上記時間経過に起因して、X軸方向に上記X変動量、Y軸方向に上記Y変動量、及びZ軸方向に上記Z変動量にて上記走査駆動機構が変位したとき、上記変動量決定部は、
上記抽出部にて抽出された上記第1測定点における各組を構成する測定点データをもとにそれぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した第1演算式を設定し、さらに、上記抽出部にて抽出された上記第2測定点における各組を構成する測定点データをもとにそれぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した第2演算式を設定する演算式設定部と、
上記第1演算式及び第2演算式から上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める変動量算出部と、
を有するように構成することもできる。
【0023】
又、上記C態様において、上記変動量決定部は、さらに、上記変動量算出部にて求めた上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量からノイズ成分を除去するノイズ除去部を有するように構成することもできる。
【0024】
上記B態様及びC態様では、X軸、Y軸及びZ軸の各方向にドリフトが発生した、一般的な場合を例に採る。尚、被測定物において、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していないものとする。又、被測定物としては、上記A態様のような薄板状物に限らず、例えばレンズ等であってもよく、被測定面は、球面、非球面等であってもよい。
X軸、Y軸及びZ軸の3方向における各ドリフト量を求める必要があることから、データ上、少なくとも異なる3点の座標データが必要であり、これらのデータからなる3元連立方程式を解くことになる。第1走査線は、上述のA態様の場合と同様に、例えば、被測定面が軸対称となるような中心点を中心とした同心円や、上記中心から螺旋状、さらには、X軸及びY軸方向に直線的な経路にてジグザグ状等が採用可能である。演算量を低減し簡易に上記ドリフト量を求めるためには、上記同心円とするのが好ましい。上述のように少なくとも3点の座標データを得る必要があることから、第2走査線は、2本必要となる。演算量を低減し簡易に上記ドリフト量を求めるため、第2走査線は、上記中心を通り、互いに交差する2本の直線が好ましく、第1走査線に沿った走査に要する時間に比べて短時間にて走査可能であり、かつ第1走査線を時間的にほぼ等間隔になるように通過する、第2A走査線及び第2B走査線が好ましい。より好ましくは、第2A走査線と第2B走査線とは、直交しているのが好ましい。第1走査線を上記同心円とし、上記中心を通り互いに直交する第2A走査線及び第2B走査線を採用することで、一つの同心円の第1走査線と第2A走査線とで2つの交点が得られ、これらの交点は、互いに軸対称な位置に存在することになる。同様に、一つの同心円の第1走査線と第2B走査線とで、互いに軸対称な位置に存在する、2つの交点が得られる。一般的にも、これと同様に考えて、第1走査線と第2A走査線とから2点のデータを、第1走査線と第2B走査線とから2点のデータを取得すればよい。
又、第2A走査線及び第2B走査線に沿った両走査は、測定誤差を小さくする目的から連続して実行するのが好ましい。即ち、第2A走査線に沿った走査を行い、次に、第1走査線に沿った走査を行い、次に第2B走査線に沿った走査を行う、等の順は、避けるのが好ましい。
【0025】
尚、B態様及びC態様では、第1走査線及び第2走査線の各走査間において3軸方向に上記ドリフトが発生したと考えていることから、被測定面を走査する第1走査線と第2走査線との上記被測定面の物理的な交点では、同一点を測定しているにもかかわらず、測定データはX,Y,Z方向の全てにおいて異なる値となる可能性が高い。よって、B態様及びC態様において、「交点」は、被測定面を走査する第1走査線と第2走査線との被測定面上の物理的な交差点部分を意味する。
よって、一つの交点では、第1走査線に沿って測定したときの座標データと、第2走査線に沿って測定したときの座標データとの一組のデータが存在する。よって、第1走査線と、第2A走査線とは2箇所で交差することから、2組の測定点データが、同様に、第1走査線と、第2B走査線とから2組の測定点データが、合計4組の測定点データが得られる。
【0026】
そして、第1走査線と、第2A走査線とから得られる2組の測定点データに基づいて、X軸方向に生じたドリフト量であるX変動量、Z軸方向に生じたドリフト量であるZ変動量を求め、第1走査線と、第2B走査線とから得られる2組の測定点データに基づいて、Y軸方向に生じたドリフト量であるY変動量、Z軸方向に生じたドリフト量であるZ変動量を求める。尚、Z変動量は、2つ得られるので、任意の一方を採ることもできるが、両者の平均値を採るのが好ましい。
【0027】
長時間の走査を行った第1走査にて得られた被測定面の形状測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれると考えられる形状測定データに対して、上述のように求められた、ドリフト量に相当するX変動量、Y変動量、及びZ変動量を減算する補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
尚、第1走査線が複数存在するときには、第1走査線毎に、上記交点の測定点データに基づいてX変動量、Y変動量、及びZ変動量を求め、上記補正を行い、真の被測定面の形状データを得る。
【0028】
ここで、各組の測定点データに基づいた、X変動量、Y変動量、及びZ変動量の求め方について、簡単に説明する。
概略を説明すると、第1走査と第2走査との間の時間経過にて、X軸方向に上記X変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記X変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記X変動量を求める。又、上記時間経過にて、Y軸方向に上記Y変動量、Z軸方向に上記Z変動量にて上記測定機構が変位したとき、上記組を構成する測定点データをもとにして、それぞれの組毎に、Z座標データの差分を、上記Y変動量と上記Z変動量とで表した演算式を設定し、該2つの演算式を解くことで上記Y変動量を求める。より具体的に以下に説明する。
【0029】
ここでは説明を簡略化するため、図2に示すように、被測定物117は、軸対称な例えば非球面にてなる被測定面117aを有するものとし、第1走査線51は、軸対称線が通過する被測定面117aの中心点117bを中心とした同心円とし、第2走査線52は、中心点117bを通過する直線の第2A走査線52Aと、中心点117bを通過しかつ中心点117bにて第2A走査線52Aに直交する直線の第2B走査線52Bとする。よって、第1走査線51と第2A走査線52Aとの交点であるP1、P2によって、2組の測定点データが得られ、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4によって、2組の測定点データが得られる。
【0030】
図3に示すように、第1走査線51と、第2走査線52との各走査間の時間経過にて生じる上記ドリフトにより、測定データが例えばX軸方向にΔaずれ、Z軸方向にΔbずれたと仮定する。尚、上述のように被測定物117では、雰囲気温度の変化による形状変化は発生していない。
例えば交点P1における一組の測定点データについて、第1走査線51及び第2走査線52における走査上で物理的に同じ測定点であっても、上記ドリフトにより座標データとしては、第1走査線51に沿った測定時には座標データ53aであったのが、第2走査線52に沿った測定時には座標データ53bとして測定される。座標データ53aを例えば(x1、y1、z1)とし、座標データ53bを例えば(x2、y2、z2)とすると、Z軸方向におけるZ座標値の差分である変化量ΔZ1は、(z2−z1)となる。又、座標データ53aを有する測定点における被測定面の傾きをαとすると、上記変化量ΔZ1は、X軸方向のずれ量Δa、及びZ軸方向へのずれ量Δbを用いて、Δa×α1+Δbの演算式にて表される。
【0031】
同様に、交点P2における一組の測定点データについて考えると、Z軸方向における変化量ΔZ2は、Δa×α2+Δbの演算式にて表される。
【0032】
ここで、各測定点における被測定面の傾きは、被測定面117aの外形と測定位置とがわかっていることから、被測定面117aの設計式から求めた値で代用することができ、又、本発明にて問題とするドリフト量は、ナノメートルのオーダーであることから、被測定面の傾きは、ドリフト量には無関係で一定値と考えて良い。
【0033】
上述の変化量ΔZ1及び変動量ΔZ2は、交点P1における一組の測定点データ、及び交点P2における一組の測定点データからそれぞれ求まる。よって、変化量ΔZ1及び変動量ΔZ2を表す上述の2つの演算式を解くことで、X軸方向におけるX変動量Δa、Z軸方向におけるZ変動量Δbを求めることができる。
【0034】
これと同様に、交点P3、P4における各組の測定点データを用いて2つの演算式を設定してこれらを解くことで、Y軸方向におけるY変動量Δc、Z軸方向におけるZ変動量Δdを求めることができる。
【0035】
上述のように軸対称な位置関係となるように、交点P1と交点P2、交点P3と交点P4をそれぞれ選択したときには、傾きα2の代わりに傾き−α1を使用することができる。
又、一般的に、第1走査線51が同心円ではなく、第2走査線52が直交していない場合であっても、上述した求め方を用いることにより各軸方向におけるドリフト量を求めることができることは容易に理解できよう。
【0036】
尚、上記ドリフト量は、図4に示すように、時間経過における時刻t1と時刻t2とにおける変動量の差であるが、微視的には時々刻々変動し、これをノイズ54と呼んでいる。本発明において問題としているドリフト量は、最大で約100nm以下であることから、測定におけるノイズ54の方がドリフト量よりも大きくなるときもある。よって、ノイズ成分54を除去するため、被測定面を走査して得られる、X軸、Y軸、Z軸方向における変動量データに対してローパスフィルタをかけてもよいし、又、上述の演算式を多項式近似によるものとしてもよい。
【0037】
次に、上記三次元測定装置の構成について具体的に説明する。
図5及び図6に示すように、三次元測定装置101は、プローブ122を有するプローブ走査型の三次元測定装置であり、概略、以下のように構成されている。
定盤111上には、X軸及びY軸方向に移動可能なXY−テーブル112が設けられ、該XY−テーブル112上には架台113が設けられる。よって、架台113は、XY−テーブル112にてX軸及びY軸方向に可動である。架台113上には、発信周波数安定化He ―Neレーザを有する測定用スケール設定装置114と、上記プローブ122を有し垂直方向に上下移動するZ軸移動台115と、干渉計及びレンズを含む光学系を有する、Z1測定装置1161及びZ2測定装置1162と、各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系とが設けられる。更に、定盤111上には、支持体118が設けられ、この支持体118を介して、Z軸移動台115の上方に、X―Y軸基準面119が水平ミラーとして設けられる。被測定物117は、定盤111上で、Z軸移動台115の下方に配置され、本実施形態では、水平方向に保持される軸対称非球面レンズである。
又、上述の各構成部分と接続され、これら構成部分の動作制御を行うとともに、本実施形態における特徴の一つであり詳細後述する三次元計測方法を実行する制御装置180が備わる。
【0038】
又、当該三次元測定装置101周りの雰囲気温度の変化を、測定中において、1℃以下に抑えるため、当該三次元測定装置101に温度調整装置190を備え、制御装置180の動作制御の元で温度調整を行っても良い。
尚、上記雰囲気温度の変化は、当該三次元測定装置101の動作部分の発熱に起因する。即ち、当該三次元測定装置101では、プローブ122による走査のために上記テーブル等をモータ等の駆動源にて駆動させるが、これらの駆動源から熱が放出される。又、上記He ― Neレーザを安定して発振させるためヒータによる温度制御を行っているが、これによっても熱が放出される。これらの熱により、三次元測定装置101の構成部材が熱膨張等を起こし、上記ドリフトを発生させる。
【0039】
さらに詳しく説明する。測定用スケール設定装置114は、測定光F1及び参照光F2を発生する。測定光F1及び参照光F2は、その周波数の差が数百KHzから数MHz程度であり、又、互いに垂直な直線偏光となっている。測定光F1は、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によって、2つに分けられる。その1つの測定光F1aは、Z軸移動台115上に設けられたZ1測定装置1161のレンズによって、被測定物117上に集光され、該被測定物117にて反射して、架台113上に設けたZ1測定装置1161に入射する。他の1つの測定光F1bは、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によって、直接、上記Z1測定装置1161に入射する。
Z1測定装置1161は、内蔵している干渉計によって、これら2つの測定光F1a及び測定光F1bに基づき、図6に示すように、被測定物117における被測定点と、Z軸移動台115上の特定点Aとの間の距離Z1を測定する。
【0040】
参照光F2は上記各種ミラー、プリズムによって2つに分けられる。その一方の参照光F2aが、上記各種ミラー、プリズム、及び偏光板等の光学系によってX―Y軸基準面119のミラー上に集光され、反射され、上記各種ミラー、プリズム、偏光板等の光学系によってZ2測定装置1162に集光される。他方の参照光F2bは、上記各種ミラー、プリズム、偏光板等の光学系によって、直接、Z2測定装置1162に集光される。Z2測定装置1162は、内蔵している干渉計によって、図6に示すように、X―Y軸基準面119と、Z軸移動台115上の特定点であって上記特定点AとのZ軸方向における距離が特定可能な特定点Bとの距離Z2を測定する。
【0041】
上述のようにZ軸移動台115に設けられたプローブ122は、被測定物117における被測定面117aに接しプローブ122に対して微小ストロークで動作可能であり被測定面117aの形状に沿って走査するスタイラスを有し、上述の特許文献に開示されている原子間力プローブである。Z軸移動台115は、被測定物117に対して垂直なZ軸方向に可動であり、該Z軸移動台115は、被測定物117と平行つまり水平方向に移動するXY−テーブル112に設けられた架台113に設置されていることから、プローブ122は、互いに直交するX、Y、X軸方向に沿って走査可能である。
又、Z軸移動台115は、上記スタイラスの先端が上記被測定面117aに接するようにプローブ122をZ方向に移動させる(以下、サーボロックと呼ぶ)役割を担っている。したがって、XY−テーブル112を用いてプローブ122を走査させるとき、Z軸移動台115をサーボロックしておくことで、被測定物117の表面形状に沿った走査が可能になる。
ここで、Z軸移動台115、XY−テーブル112、架台113等を有し、被測定面117aの形状に沿ってプローブ122を走査させるための構成部分を走査駆動機構120と呼ぶ。
【0042】
上述した構成では、被測定物117に対するX、Y走査を行うときの機構的な問題及び温度変化に対する問題に対して十分な配慮を行い、さらに、定盤111、架台113等の主要部は御影石にて構成しているにもかかわらず、従来と同様の測定方法によれば温度等の環境に当該三次元測定装置101が影響を受け、測定値の変動つまり上記ドリフトが発生してしまう。そこで、以下に説明するような各実施形態における測定方法を採ることで、上記ドリフト分の補正を行い、より高精度な測定を可能とする。尚、該測定方法は、制御装置180にて制御されて実行される。該制御装置180は、例えばパーソナルコンピュータにて構成することができ、該制御装置180には、図7に示すように、当該三次元測定方法を実行するためのプログラムを格納可能な記憶装置181が備わる。該記憶装置181には、上記プログラムを予め格納しておいてもよいし、CD−ROM等の記録媒体や通信手段を通して後から格納することもできる。
【0043】
さらに制御装置180は、本実施形態の三次元測定方法を実行するため、機能的には、図7に示すように、測定部182、抽出部183、変動量決定部184、及び補正部185に区分され、さらに変動量決定部184は、図8に示すように、演算式設定部1841、変動量算出部1842、及びノイズ除去部1843に区分される。
測定部182は、被測定面117aをプローブ122で走査することで、上記Z1測定装置1161、Z2測定装置1162等を通して測定データを取得する部分であり、取得した測定データを記憶装置181へ格納する。尚、上記測定データとは、上述のようにX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データである。
抽出部183は、図2及び図3を参照して上述したように、第1走査線51及び第2走査線52に沿った測定による、それぞれの交点測定データを測定部182から2組ずつ抽出する部分である。
尚、ドリフトがZ軸方向のみに生じる場合には、抽出部183は、交点測定データを測定部182から1組抽出する。
変動量決定部184は、図2及び図3を参照して上述したように、抽出部183にて抽出した2組ずつの測定点データに基づいて、X変動量、Y変動量、Z変動量を求める部分であり、演算式設定部1841にて、Z座標データの差分を、X変動量とZ変動量とで表した第1演算式、及びZ座標データの差分を、Y変動量とZ変動量とで表した第2演算式を設定し、変動量算出部1842にて、各演算式を解いて上記X変動量、上記Y変動量、及び上記Z変動量を求める。
又、ドリフトがZ軸方向のみに生じる場合には、変動量決定部184は、異なる2つのZ座標データの差分を算出する。
補正部185は、上記第1走査線に沿った走査により得られた上記被測定面の形状データを、変動量決定部184にて求めたX変動量、Y変動量、Z変動量にて補正する部分である。
【0044】
以上のように構成される三次元測定装置101により実行される三次元測定方法について以下に説明する。当該三次元測定方法における基本的な動作を図1に示す。図1のステップS101、ステップS102では、異なる2種類の、第1走査線及び第2走査線に沿って被測定面をプローブにて走査し、それぞれX,Y,Z軸の座標データを得る。ステップS103では、これらの座標データから、第1走査線及び第2走査線の交点における座標データを抽出し、ステップS104では、上記座標データから、当該三次元測定装置におけるドリフト量を求める。ステップS105では、測定誤差が含まれる座標データについて、上記ドリフト量にて補正する。以下に、より詳しく説明する。
【0045】
第1の測定方法;
本測定方法では、被測定物117として、例えばレンズや、半導体ウエハのような薄板状物のような、軸対称な形状の物を例に採る。このような被測定物117では、対称軸に対して同心円上の形状は、同一な等高線で定義されるため、形状加工された被測定物の形状もほぼ同一な等高線なると想定できる。このような被測定物117における形状測定では、上記同心円に沿ってプローブ122の走査を行うと、Z軸方向におけるプローブ122の移動量を抑制することが可能になる。即ち、上述のように、同心円上の形状は、同一な等高線で定義されるため、Z軸方向の測定値はほとんど変化しない。よって、プローブ122をZ軸方向に移動させる必要がなくなる。一方、プローブ122をZ軸方向に大きく高速に移動させると測定精度が悪化するため、測定速度を落とすことで測定精度の向上を図るようにしている。従って、プローブ122をZ軸方向にほとんど移動させる必要を無くすことで、プローブ走査の高速化が図れる。したがって上記対称軸を中心に同心円状に走査することで、もしくは螺旋円状に走査することで、プローブ122の高速走査が可能となり、測定時間の短縮が図れ、かつ経時的変動や環境変動に起因したドリフト量の軽減が図れる。
【0046】
図9では、被測定物117の被測定面117aに対して、軸対称となる被測定面117aの中心点34を中心とした同心円で、半径を少しずつ変えながら複数の第1走査線31に沿った走査により被測定面117aにおけるX座標、Y座標、Z座標の形状データが上記測定部182にて取得される。又、各第1走査線31と直交する直線状でありかつ一点ずつにて第1走査線31と交差する直線状の第2走査線32に沿った走査によりX座標、Y座標、Z座標のデータが上記測定部182にて取得される。第1走査線31に沿った走査は、被測定面117aの全面を走査することから、時間を要するが、第2走査線32は図示するように直線状であるので、第2走査線32に沿った走査は短時間で済む。よって、第1走査線31に沿った第1走査と、第2走査線32に沿った第2走査との間の時間経過における、当該三次元測定装置101の周りの雰囲気温度の変化に起因して、当該三次元測定装置101においてX軸、Y軸、及びZ軸方向にドリフトが発生している。
但し、当該第1測定方法では、X軸方向及びY軸方向にはドリフトが発生せず、Z軸方向のみにドリフトが発生すると仮定する。よって、上記第1走査にて得られた測定データにおけるX座標データ及びY座標データと、上記第2走査にて得られた測定データにおけるX座標データ及びY座標データとが同じ測定点、つまり第1走査線31と第2走査線32との交点33であっても、両走査により得られたZ座標データには差異が発生している。即ち、この差分は、当該三次元測定装置101のZ軸方向におけるドリフト量と判断することができる。
そこで、長時間の走査を行った第1走査にて得られた測定データ、即ちドリフトによる測定誤差が含まれる測定データについて、上記差分を用いて補正を行うことで、ドリフト量の存在しない真の被測定面の形状データを得ることが可能となる。
【0047】
具体的には、上記抽出部183にて、第1走査線31に沿った走査にて得た交点33における、第1Z座標に相当するZ座標z1と、第2走査線32に沿った走査にて得た交点33における、第2Z座標に相当するZ座標z2とを抽出する。そして、上記変動量決定部184にて各Z座標の差分(z2−z1)を算出する。そして上記補正部185にて、第1走査にて得られた測定データから上記差分を減算する補正を行い、真の被測定面の形状データを得る。尚、図9に示すように交点33が複数存在するときには、交点33毎に上述の動作を行い、第1走査線31毎に真の被測定面の形状データを得る。
【0048】
尚、上述の説明では、第1走査線31と第2走査線32との交点33の座標データが存在する場合を例に採ったが、存在しない場合も考えられる。この場合、交点の測定点データを第1走査線31に沿った第1走査にて取得した形状測定データから補間して求めることができる。
該補間方法について具体的に説明する。上記第1走査線31がn個の同心円からなり、同心円半径をRiとする(iは1からn)。図10に示す、半径Riの第1走査線31上の測定点(xj、yj)は、xj2+yj2=Ri2 を満たす軌跡上にあり、局座標で表すと(Ri、θj)となる。各測定点(Ri、θj)での測定値をZjとすると、Zj=Z(Ri、θj)=Zi(θj)である。
【0049】
又、第2走査をX軸の正の方向に行えば、第2走査線32の軌跡は、y=0(x>0)となり、半径Riの第1走査線31と第2走査線32との交点AiのX、Y座標は、(x、y)=(ri、0)となる。測定は離散的に行うため、交点は必ずしも測定点であるとは限らないため、交点Aiの前後の測定点を求め、内挿することにより第2走査における交点の測定値を求めることができる。
【0050】
第1走査線31において、交点Aiの前の測定点の測定値をZi(θj)、交点Aiの後の測定点の測定値をZi(θj+1)とすると、交点Aiでの推定測定値ZAiは、
【数1】
と内挿できる。
【0051】
第2走査線32における交点Aiの測定値も同様に推定可能である。即ち、交点AiのX、Y座標は、(x、y)=(ri、0)であるので、交点Aiの前後の測定値を、ZCi(xk)、ZCi(xk+1)とすると、第2走査における交点Aiでの測定値ZCAiは、
【数2】
と推定できる。
【0052】
上述では、一次近似による内挿を行ったが、高次の近似を行っても良いし、上記ノイズ除去部1843にて、測定データにローパスフィルタをかけてノイズ成分を取り除いておいても良い。
【0053】
以上のように、第2走査における測定時間は、第1走査に比して十分短くすることにより、第2走査により得られる測定データにはドリフト成分は存在しないか、又は、非常に小さいと考えてよく、それぞれの同心円の軌跡と、第2走査との交点Aiにおける、第1走査及び第2走査のそれぞれの推定測定値ZAi、ZCAiとの差、ΔZi=ZAi−ZCAi−(ZA0、ZCA0) は、それぞれの第1走査線31の同心円におけるドリフト分と考えられる。尚、(ZA0、ZCA0)の項を追加してあるのは、i=0のとき、ΔZi=0 となる、つまり最初の測定値はドリフト補正がないように正規化したためである。
【0054】
従って、それぞれの第1走査線31における測定点(Ri、θk)の真の測定値ZT(Ri、θk)は、ZT(Ri、θk)=Zi(θk)−ΔZi と計算することができる。
以上の処理フローを図11に示す。
【0055】
一方、ここで補正しているドリフト量は、当該三次元測定装置101の場合、最大で100nm以下であるため、測定におけるノイズ成分の方が大きいことが多く、単に差をとったΔZiでは、場合によっては補正値にノイズが混入し、正しく補正できないことがある。このため、ローパスフィルタでノイズを消すことや、ΔZiの多項式近似f(i)を用いて、新しい補正値ΔZi’、 ΔZi’=f(i) を用いると効果が大きい。交点の測定時間が等間隔の場合は、上式でよいが、交点の測定時間が大きく異なる場合は、横軸に時間をとって多項式近似する必要がある。
尚、以上は、同心円測定で説明したが、第1走査線が直線の場合においても同様に測定することができる。
【0056】
第2の測定方法;
上述の第1測定方法は、被測定物が平面に近く凹凸が小さいとき、特に半導体ウエハ等の測定には有効である。しかし、レンズ等の、被測定面がZ軸に対して傾いているときは、X、Y軸でのドリフトも発生するため、3軸方向における各ドリフト量の考慮が必要となる。図2及び図3を参照して、レンズの測定におけるX、Y、Zの3軸のドリフトを補正する方法について説明する。尚、交点での具体的な推定値については、上記第1測定方法と同様にして求めることができる。
【0057】
図2及び図3を参照して、既に説明したように、第1走査線51は、軸対称線が通過する被測定面117aの中心点117bを中心とした同心円であり、第2走査線52は、中心点117bを通過する直線の第2A走査線52Aと、中心点117bを通過しかつ中心点117bにて第2A走査線52Aに直交する直線の第2B走査線52Bである。第1走査線51及び第2走査線52における走査上で物理的に同じ測定点であっても、ドリフトにより座標データとしては、第1走査線51に沿った測定時には座標データ53aであったのが、第2走査線52に沿った測定時には座標データ53bとして測定される。このように第1走査線51と第2走査線52との交点では一組の座標データが存在する。よって、第1走査線51と第2A走査線52Aとの交点であるP1、P2によって、2組の測定点データが得られ、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4によって、2組の測定点データが得られる。尚、上述のように、上記交点では、測定データはX,Y,Z方向の全てにおいて異なる値となる可能性が高い。
【0058】
上記座標データ53aを例えば(x1、y1、z1)とし、上記座標データ53bを例えば(x2、y2、z2)とすると、Z軸方向における変化量ΔZ1は、(z2−z1)となる。又、座標データ53aを有する測定点における被測定面の傾きをαとすると、上記変化量ΔZ1は、X軸方向のずれ量Δa、及びZ軸方向へのずれ量Δbを用いて、Δa×α1+Δbの演算式にて表される。
同様に、交点P2における一組の測定点データについて考えると、Z軸方向における変化量ΔZ2は、Δa×α2+Δbの演算式にて表される。
このように、Z軸方向におけるドリフト量を表すために、上記交点における被測定面117aの傾きを用いる。
【0059】
上の説明を元に、より詳しく説明する。尚、被測定物が軸対称ではない一般的な場合を例として説明する。
交点P1、P2における各組の座標データにおけるZ座標データのそれぞれの差を、ΔZ1、ΔZ2とし、又、交点P1、P2における被測定面117aの傾きをαP1、βP1、及びαP2、βP2とする。ここで、αはX軸方向に関する傾き、βはY軸方向に関する傾きを表しており、面形状をZ(x、y)とすると、
【数3】
であり、この値は被測定面117aの設計式から、又は測定値による近似から求めることができ、実用上は被測定面117aの測定値、又は設計値のどちらでも良い。
同様に、第1走査線51と第2B走査線52Bとの交点であるP3、P4における各組の座標データにおけるZ座標データのそれぞれの差を、ΔZ3、ΔZ4とし、又、交点P3、P4における被測定面117aの傾きをαP3、βP3、及びαP4、βP4とする。
【0060】
X,Y,Z軸方向の各ドリフト量を、Dx、Dy、Dzとすると、下記の方程式が成立する。
ΔZ1=αP1×Dx+βP1×Dy+Dz
ΔZ2=αP2×Dx+βP2×Dy+Dz
ΔZ3=αP3×Dx+βP3×Dy+Dz
ΔZ4=αP4×Dx+βP4×Dy+Dz
【0061】
上記の方程式の内の3つの方程式を用いるか、次の2乗誤差の評価関数Fが最小になるように、
【数4】
下記の連立1次方程式を解いて、Dx、Dy、Dzを求めればよい。
【数5】
【0062】
ドリフト量Dx、Dy、Dzが大きく、交点の座標が大きく変わる場合は、ドリフト量Dx、Dy、Dzを加えた交点座標にて再度ΔZ1、ΔZ2、ΔZ3、ΔZ4を求め、ドリフト量Dx、Dy、Dzが収束するまで計算するか、ドリフト量Dx、Dy、Dzを変数として持つ測定値の差ΔZ1、ΔZ2、ΔZ3、ΔZ4を使用すればよい。
【0063】
次に、上述の説明において、被測定物が回転軸対称で、回転軸の方向がZ軸と一致しており、第2A走査線52AがX軸と平行であり、第2B走査線52BがY軸と平行でかつ回転中心を通る場合に限定すると、図3を参照して説明したように、又、下記に示すように上記傾きを同値の+、−で表せる。
βP1=0,βP2=0,α=αP1=−αP2
αP3=0,αP4=0,β=βP3=−βP4
【0064】
又、第2A走査線52Aに沿った走査から求められるZ軸方向のドリフト量をDzx、第2B走査線52Bに沿った走査から求められるZ軸方向のドリフト量をDzyとすると、ΔZ1=α×Dx+Dzx、ΔZ2=−α×Dx+Dzx、ΔZ3=β×Dy+Dzy、ΔZ4=−β×Dy+Dzyとなる。
【0065】
従って、
ΔZ1−ΔZ2=2α×Dx、ΔZ1+ΔZ2=2×Dzx、ΔZ3−ΔZ4=2β×Dy、ΔZ3+ΔZ4=2×Dzy となる。よって、
Dx=(ΔZ1−ΔZ2)/(2α)、
Dzx=(ΔZ1+ΔZ2)/2、
Dy=(ΔZ3−ΔZ4)/(2β)、
Dzy=(ΔZ3+ΔZ4)/2
となる。
又、Z軸方向のドリフト量は、DzxとDzyとの平均とすると、
Dz=(Dzx+Dzy)/2
=(ΔZ1+ΔZ2+ΔZ3+ΔZ4)/4
となる。
【0066】
以上は一つの同心円の第1走査線51について説明したが、各同心円について、上述の第1測定方法と同様にして各同心円におけるドリフト量を求め、必要ならさらに上述のノイズ除去、多項式近似を行えばよい。
【0067】
第3の測定方法;
図12に示すように、第1走査線61が螺旋状における測定方法について以下に説明する。
被測定面は、第2測定方法の場合と同様に、レンズのような球面であり、第1走査線61は、被測定面の中心を始点とした螺旋状であり、第2走査線62は、上記中心から直線状に延在する。ここでは、第2走査線62に沿った第2走査は、正のX軸方向に沿って測定している。
図12では、第1走査線61と第2走査線62との交点は11個あり、中心から交点A0、交点A1、・・・、交点A10とする。第1走査の軌跡は、r=k×θ (kは定数)であり、交点Aiのθは、θ=2π×iである。それぞれの交点における、第1走査及び第2走査による測定データは、上述の同心円測定の場合と同様にして補間することができる。
【0068】
上述の同心円測定の場合と同様にして、交点Aiにおけるドリフト量ΔZiは、
ΔZi=ZAi−ZCAi−(ZA0−ZCA0) である。
図13に示す表は、ドリフト量ΔZiの例である。図14に示すグラフは、横軸にi、縦軸にドリフト量ΔZiを表示し、曲線グラフは、ΔZiを2次の多項式近似したものであり、
f(x)=0.0676x2+0.7786x+10.741
である。
第1走査線61の螺旋軌跡をθのパラメータで表したとき、ドリフト量は、
ΔZ(θ)=f(θ/(2π))=0.0676(θ/(2π))2+0.7786(θ/(2π))+10.741
と表せる。したがって、各測定点において、測定値Z(θ)に補正量ΔZ(θ)を加えればよい。このような処理をすることで、第1測定方法の場合と異なり、補正量を連続値として近似できるため、第1測定方法ではそれぞれ独立している第1走査線31における区分点で生じる非連続点をなくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、高い測定精度が要求される非球面レンズの表面形状測定や、半導体ウエハ、磁気ディスク用基盤などの薄板材等の平坦度測定を行う、三次元測定方法及び装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態である三次元測定方法の基本的動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、Z軸方向における変動量の求め方を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態である三次元測定方法にて生じるノイズを説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態である三次元測定装置の斜視図である。
【図6】図5に示す三次元測定装置において被測定面の測定動作を説明するための図である。
【図7】図5に示す三次元測定装置に備わる制御装置の機能ブロック図である。
【図8】図7に示す変動量決定部の機能ブロック図である。
【図9】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図10】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、測定データの補間方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態である三次元測定方法の動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態である三次元測定方法を説明するための図であり、第1走査線及び第2走査線を示す図である。
【図13】図12に示す三次元測定方法において得られたZ軸方向の変動量を示す図である。
【図14】図12に示す三次元測定方法において得られたZ軸方向の変動量と、交点位置との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
31…第1走査線、32…第2走査線、51…第1走査線、52A…第2A走査線、
52B…第2B走査線、
117a…被測定面、120…走査駆動機構、122…プローブ、
180…制御装置、182…測定部、183…抽出部、184…変動量決定部、
185…補正部、
1841…演算式設定部、1842…変動量算出部、1843…ノイズ除去部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて上記被測定面の中心点から上記被測定面の外周までを直線状に走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の径方向データを取得し、
上記全面形状データと上記径方向データとにおけるX座標及びY座標が同一である上記全面形状データの第1Z座標データ、及び上記径方向データの第2Z座標データを抽出し、
上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分からZ変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正する、
ことを特徴とする三次元測定方法。
【請求項2】
上記全面形状データの測定は、上記被測定面の中心点を中心とした同心円にて行う、請求項1記載の三次元測定方法。
【請求項3】
被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて、上記被測定面の中心点にて互いに交差しかつ各両端が上記被測定面の外周まで到達する直線状に走査して、X軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の第1径方向データと第2径方向データとを取得し、
上記全面形状データと上記第1径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1径方向に生じた第1変動量、及びZ軸方向に生じた第2変動量を求め、
上記全面形状データと上記第2径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第2径方向に生じた第3変動量、及びZ軸方向に生じた第4変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データを上記第1変動量、上記第2変動量、上記第3変動量、及び上記第4変動量にて補正する、
ことを特徴とする三次元測定方法。
【請求項4】
それぞれの上記第2変動量及び上記第4変動量は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出する、請求項3記載の三次元測定方法。
【請求項5】
上記全面形状データの測定は、上記被測定面の中心点を中心とした同心円で行う、請求項3又は4記載の三次元測定方法。
【請求項1】
被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて上記被測定面の中心点から上記被測定面の外周までを直線状に走査してX軸、Y軸、及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の径方向データを取得し、
上記全面形状データと上記径方向データとにおけるX座標及びY座標が同一である上記全面形状データの第1Z座標データ、及び上記径方向データの第2Z座標データを抽出し、
上記第1Z座標データと上記第2Z座標データとの差分からZ変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データのZ座標データを上記Z変動量にて補正する、
ことを特徴とする三次元測定方法。
【請求項2】
上記全面形状データの測定は、上記被測定面の中心点を中心とした同心円にて行う、請求項1記載の三次元測定方法。
【請求項3】
被測定面の全面をプローブにて走査してX軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の全面形状データを取得し、
上記被測定面を上記プローブにて、上記被測定面の中心点にて互いに交差しかつ各両端が上記被測定面の外周まで到達する直線状に走査して、X軸、Y軸及びZ軸における各座標データからなる上記被測定面の第1径方向データと第2径方向データとを取得し、
上記全面形状データと上記第1径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第1径方向に生じた第1変動量、及びZ軸方向に生じた第2変動量を求め、
上記全面形状データと上記第2径方向データとにおける上記測定面上にて交差した測定点を2組抽出し、該2組の測定点データに基づいて、上記第2径方向に生じた第3変動量、及びZ軸方向に生じた第4変動量を求め、
上記被測定面の全面形状データを上記第1変動量、上記第2変動量、上記第3変動量、及び上記第4変動量にて補正する、
ことを特徴とする三次元測定方法。
【請求項4】
それぞれの上記第2変動量及び上記第4変動量は、上記測定点における上記被測定面の傾きを用いて算出する、請求項3記載の三次元測定方法。
【請求項5】
上記全面形状データの測定は、上記被測定面の中心点を中心とした同心円で行う、請求項3又は4記載の三次元測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−138698(P2006−138698A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327602(P2004−327602)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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