説明

下引き層用組成物、有機薄膜パターニング用基板、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明

【課題】撥液性成分を含有する感光性組成物(レジスト)を用いて基板上に構造物(隔壁)を形成するにあたり、形成された構造物で区画される部分におけるレジストの残渣や撥液性成分の残留に起因する白抜けの問題を解決する。
【解決手段】基板上に、撥液性成分を含有する感光性組成物で構造物を製造する際に、該感光性組成物と基板との間に直接または他の層を介して形成される該感光性組成物の下引き層用の組成物において、親水性有機化合物を含有することを特徴とする下引き層用組成物。この下引き層用組成物を用いて基板と感光性組成物との間に下引き層を形成することにより、上記課題が解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液性成分を含有する感光性組成物を用いて、基板上に構造物を製造するにあたり、感光性組成物と基板との間に下引き層を形成するための下引き層用組成物に関する。本発明はまた、この下引き層用組成物を用いて基板上に形成された構造物を隔壁として有する有機薄膜パターニング用基板、並びにこの有機薄膜パターニング用基板を用いた有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置および有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーディスプレイの発達は著しく、需要も増加の傾向にあるが、さらなる普及のためには製造の簡易化が求められ、製造プロセスが簡略で歩留まりがよく、低コストであるインクジェット方式を利用して画素を形成させる方法が提案されてきた。インクジェット方式では、まず画素の塗り分けのための構造物である隔壁(バンク)を基板上に形成して区画領域を形成し、この区画された領域内にRGB三原色それぞれの画素を形成するインクを吐出して、乾燥することにより画素を形成させていく。このインクにより形成される画素を、有機電界発光素子では発光性物質からなる発光層に、カラーフィルターでは顔料や染料からなる着色層に、フィールドエミッションでは蛍光体を含む発光部や電子源を含有する電界放出素子にすることで、それぞれの用途への応用が可能となる。
【0003】
しかしながら、このインクジェット方式による各種の光学素子の製造においては、その特有の問題として、混色と白抜けの問題が挙げられる。
【0004】
混色は、隣接する異なる色の画素間においてインクが混ざり合うことにより発生する。例えば、有機電界発光素子の発光層の場合、形成させる発光層の膜厚は通常数十nm程度であるが、このような発光層を形成する場合、インクジェットで安定供給可能な液滴サイズやインク中に含有される固形分濃度、隔壁の高さなどを勘案すると、隔壁の開口部の容積よりも多量のインクを吐出する必要があり、この結果、隔壁の高さを超えてインクが溢れ出し、隣接する画素領域へインクが流れ込んでしまうため、所望の色、輝度の発光が得られないという事態が生じる。
【0005】
これを回避するために、隔壁を撥液性とする(撥液化する)技術が種々提案されている。これらの技術を採用することで、隔壁の高さを超える量のインクを付与した場合においても、隔壁の表面が撥液性(撥インク性)を示すためにインクがはじかれ、隔壁を超えて隣接する他の色の領域にまでインクが及ぶことがなく、混色を防止することができる。
【0006】
一方、白抜けは、付与されたインクが隔壁によって囲まれた領域内に十分且つ均一に拡散することができないことによって発生し、発色しなかったり発光輝度にムラがある領域が見られたりする現象であり、それによって生ずる電圧の偏りによって結果的には素子寿命にまで悪影響を及ぼすこととなる。
これを回避するためには、隔壁によって区画された領域内は十分且つ均一なインク濡れ性を保持している必要がある。
【0007】
従来、隔壁の撥液化に関しての技術としては、フッ素プラズマ処理によるものが一般的であるが、この方法では、隔壁を撥液化処理する際に、隔壁以外の、インク濡れ性を確保しなければならない領域までも撥液化の影響を受けてしまうため、これが白抜けに繋がる。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献1や特許文献2等では、隔壁を形成した後、複数の処理を施す操作を行っているが、工程が非常に煩雑であり実用的ではなかった。
【0009】
また、特許文献3,4等には、撥液性成分を含有する感光性組成物を用いて自己撥液性の隔壁を形成する技術が提案されている。これらの技術を用いた場合、フォトリソグラフィーによる隔壁製造工程のみで撥液性の隔壁が得られるため、工程的に非常に好ましいが、実際のところは隔壁以外の領域の撥液性成分が現像工程で充分除去され難い。特に、隔壁形成面(下層)がガラスなどの無機物ではなく有機物である場合は、隔壁成分と下層との親和性が強く一体化し易い;撥液性成分が下層に吸着する;撥液性成分によってレジスト(感光性組成物)に現像液が浸透し難くなるため現像除去され難い;強い現像処理を行うと下層の有機層へもダメージを与える;といった諸事情により、現像処理後の非画像部のレジスト残渣や撥液性成分の残留を避けられず、白抜けの問題は極めて深刻となる。
【特許文献1】特開2002−55218号公報
【特許文献2】特開2002−55222号公報
【特許文献3】特開平10−115703号公報
【特許文献4】特開2005−60515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、撥液性成分を含有する感光性組成物(レジスト)を用いて基板上に構造物(隔壁)を形成するにあたり、形成された構造物で区画される部分におけるレジストの残渣や撥液性成分の残留を防止して、これらの成分に起因する白抜けの問題を解決する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、親水性有機化合物を含有する下引き層用組成物を用いて、基板と感光性組成物との間に下引き層を形成することにより、上記課題が解決できることがわかり、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、
基板上に、撥液性成分を含有する感光性組成物で構造物を製造する際に、該感光性組成物と基板との間に直接または他の層を介して形成される該感光性組成物の下引き層用の組成物において、親水性有機化合物を含有する下引き層用組成物、
基板上に、直接または他の層を介して、該下引き層用組成物を成膜して下引き層を形成し、該下引き層上に、撥液性成分を含有する感光性組成物を成膜して撥液性感光性組成物層を形成した後、露光、および現像することにより得られた構造物を、隔壁として有する有機薄膜パターニング用基板、
該有機薄膜パターニング用基板を用いた有機電界発光素子、
並びに
該有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置および該有機電界発光素子を用いた有機EL照明
に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の下引き層用組成物によって形成された下引き層を介して、基板上に撥液性成分を含有する感光性組成物により構造物を製造した場合には、該構造物以外の場所には撥液性成分が残らないため、構造物とそれ以外の場所において、撥液性と親液性のコントラストが極めて優れた基板が得られる。従って、この撥液性と親液性のコントラストを利用して、該構造物で区画された領域を有する有機薄膜パターニング用基板にインクジェット方式等でインクを打ち込めば、混色や白抜けのない有機薄膜を形成することができ、これによって高品位の有機電界発光素子、更にはカラーフィルター、フィールドエミッションディスプレイ(電界電子放出素子)などを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
【0015】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を含むことを意味し、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」なども同様の意味である。また、モノマー名の前に「(ポリ)」をつけたものは、当該「モノマー」と、その「ポリマー」との双方を含むことを意味し、「(酸)無水物」、「(無水)…酸」とは、「酸とその無水物」の双方を含むことを意味する。
また、「(共)重合」とは「重合」と「共重合」の双方を含むことを意味する。
また、本発明において、「全固形分」とは、組成物の構成成分のうち、溶剤を除くすべての成分を意味する。
【0016】
また、本発明において、各種の樹脂の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。
【0017】
[下引き層用組成物]
まず、本発明の下引き層用組成物について詳細に説明する。
本発明の下引き層用組成物は親水性有機化合物を含有することが必須である。
【0018】
<親水性有機化合物>
本発明において、親水性有機化合物とは、水に溶解または膨潤する有機化合物である。具体的には、分子内に、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、アミノ基、アミド基、4級アンモニウム塩基などの官能基を有する有機化合物であることが好ましい。
【0019】
本発明の下引き層用組成物に用いる親水性有機化合物は、親水性膜を形成し得るものであれば特に限定されないが、膜形成やその後の撥液性成分を含有する感光性組成物(以下、「撥液性感光性組成物」という場合がある。)の成膜に対する耐性を確保するためには、親水性樹脂であることが好ましい。ここで、親水性樹脂とは、上記官能基を有する樹脂であり、通常は、上記官能基を含有する単位(モノマーやポリマー)を重合や縮合して得られる樹脂をいう。また、通常GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量(Mw)が1000〜2,000,000程度の高分子材料をいう。
【0020】
親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール系樹脂、ポリビニルピロリドンやポリビニルピロリドン誘導体を主成分とする(共)重合体、ポリアクリル酸やアクリル酸誘導体を主成分とする(共)重合体、その他、ポリサッカライド、ゼラチン、膠、カゼイン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチル澱粉、サクローズオクタアセテート、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリスチレンスルホン酸、水溶性ポリアミド、無水マレイン酸共重合体、アラビアゴム、水溶性大豆多糖類、ホワイトデキストリン、プルラン、カードラン、キトサン、アルギン酸、酵素分解エーテル化デキストリン等の他、親水性モノマーをその構成単位として含む(共)重合体なども挙げられる。
【0021】
親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアミン塩、イタコン酸、イタコン酸のアルカリ金属塩、イタコン酸のアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン、アリルアミンのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸、3−ビニルプロピオン酸のアルカリ金属塩、3−ビニルプロピオン酸のアミン塩、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのカルボキシ基、スルホ基、リン酸基、アミノ基もしくはそれらの塩、水酸基、アミド基およびエーテル基などの親水性基を有するモノマーが挙げられる。
【0022】
親水性樹脂としてはこれらのうち、ポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコールおよびその誘導体)、セルロース系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ビニルピロリドン誘導体を主成分とする(共)重合体(ポリビニルピロリドンおよびその共重合体)、アクリル酸誘導体を主成分とする(共)重合体(ポリ(メタ)アクリル酸およびその共重合体)が好ましい。
【0023】
なお、樹脂以外の親水性有機化合物として、上に挙げた親水性樹脂の原料となる親水性モノマーをモノマーのまま用いることも好ましい。
【0024】
これらの親水性有機化合物は1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
本発明の下引き層用組成物においては、上記親水性樹脂等の親水性有機化合物は、下引き層用組成物の全固形分中10〜100重量%含有することが好ましく、20〜100重量%含有することが特に好ましい。下引き層用組成物中の親水性有機化合物の含有量がこの範囲より少ない場合、この下引き層用組成物を用いて形成した下引き層を現像によって完全に除去することが困難となる恐れがあり、このために、撥液性感光性組成物を現像除去した場所にも撥液性成分が残ってしまう恐れがあり、形成される構造物とその他の場所とで撥液性と親液性のコントラストが不充分となる恐れがある。これは例えば、構造物がインクジェット用の隔壁である場合は、均一な有機薄膜の形成が困難となり、白抜けに繋がる。
【0026】
<エチレン性不飽和基含有化合物>
本発明の下引き層用組成物は、撥液性感光性組成物と共に重合させる目的で、エチレン性不飽和基含有化合物(以下、「エチレン性不飽和化合物」という場合がある。)を含有させることも出来る。
【0027】
エチレン性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物を意味するが、重合性、架橋性、およびそれに伴う露光部と非露光部の現像液溶解性の差異を拡大できる等の点から、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましく、また、その不飽和結合は(メタ)アクリロイルオキシ基に由来する(メタ)アクリレート化合物が更に好ましい。
【0028】
エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸、およびそのアルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0029】
エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物としては、代表的には、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類、ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類、および、(メタ)アクリル酸またはヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0030】
不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
不飽和カルボン酸と多価アルコールとの反応物;多価アルコールは具体的には、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(付加数2〜14)、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(付加数2〜14)、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
不飽和カルボン酸と多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物との反応物;多価アルコールは上記と同じ。アルキレンオキサイド付加物とは具体的にはエチレンオキサイド付加物、またはプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
不飽和カルボン酸とアルコールアミンとの反応物;アルコールアミン類とは具体的にはジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0031】
さらに、具体的な不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類は以下の通りである。
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加トリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールプロピレンオキサイド付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等、および同様のクロトネート、イソクロトネート、マレエート、イタコネート、シトラコネート等
【0032】
その他、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類としては、不飽和カルボン酸と、ヒドロキノン、レゾルシン、ピロガロール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の芳香族ポリヒドロキシ化合物、或いはそれらのエチレンオキサイド付加物との反応物が挙げられる。
具体的には、例えば、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAビス〔オキシエチレン(メタ)アクリレート〕、ビスフェノールAビス〔グリシジルエーテル(メタ)アクリレート〕等、また、前記の如き不飽和カルボン酸と、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の複素環式ポリヒドロキシ化合物との反応物、例えば、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等、また、不飽和カルボン酸と多価カルボン酸とポリヒドロキシ化合物との反応物、例えば、(メタ)アクリル酸とフタル酸とエチレングリコールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とマレイン酸とジエチレングリコールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とテレフタル酸とペンタエリスリトールとの縮合物、(メタ)アクリル酸とアジピン酸とブタンジオールとグリセリンとの縮合物等が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類としては、下記一般式(5),(6),(7)で表されるものが好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
〔式(5),(6)および(7)中、R10は水素原子またはメチル基を示し、pおよびrは1〜25の整数、qは1、2、または3である。〕
【0036】
ここで、pおよびrは1〜10、特に1〜4であるのが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基含有ホスフェート類の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチレングリコールホスフェート等が挙げられ、これらはそれぞれが単独で用いられても混合物として用いられてもよい。
【0037】
ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とのウレタン(メタ)アクリレート類としては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン等の脂肪族ポリイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等の芳香族ポリイソシアネート、イソシアヌレート等の複素環式ポリイソシアネート、等のポリイソシアネート化合物との反応物等が挙げられる。このようなウレタン(メタ)アクリレート類としては例えば、新中村化学社製商品名「U−4HA」「UA−306A」「UA−MC340H」「UA−MC340H」「U6LPA」等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、1分子中に4個以上のウレタン結合〔−NH−CO−O−〕および4個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物が好ましく、該化合物は、例えば、ペンタエリスリトール、ポリグリセリン等の1分子中に4個以上の水酸基を有する化合物に、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物を反応させて得られた化合物、或いは、エチレングリコール等の1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物に、旭化成工業社製「デュラネート24A−100」、同「デュラネート22A−75PX」、同「デュラネート21S−75E」、同「デュラネート18H−70B」等ビウレットタイプ、同「デュラネートP−301−75E」、同「デュラネートE−402−90T」、同「デュラネートE−405−80T」等のアダクトタイプ等の1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物を反応させて得られた化合物、或いは、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等を重合若しくは共重合させて得られた化合物等の、1分子中に4個以上、好ましくは6個以上のイソシアネート基を有する化合物等、例えば、旭化成工業社製「デュラネートME20−100」と、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の、1分子中に1個以上の水酸基および2個以上、好ましくは3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物とを、反応させることにより得ることができる。
【0039】
(メタ)アクリル酸またはヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物とポリエポキシ化合物とのエポキシ(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクリル酸、または前記の如きヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物と、(ポリ)エチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)テトラメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ペンタメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ヘキサメチレングリコールポリグリシジルエーテル、(ポリ)トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、(ポリ)ソルビトールポリグリシジルエーテル等の脂肪族ポリエポキシ化合物、フェノールノボラックポリエポキシ化合物、ブロム化フェノールノボラックポリエポキシ化合物、(o−,m−,p−)クレゾールノボラックポリエポキシ化合物、ビスフェノールAポリエポキシ化合物、ビスフェノールFポリエポキシ化合物等の芳香族ポリエポキシ化合物、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の複素環式ポリエポキシ化合物、等のポリエポキシ化合物との反応物等が挙げられる。
【0040】
その他のエチレン性不飽和化合物として、前記以外に、例えば、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、フタル酸ジアリル等のアリルエステル類、ジビニルフタレート等のビニル基含有化合物類、エーテル結合含有エチレン性不飽和化合物のエーテル結合を5硫化燐等により硫化してチオエーテル結合に変えることにより架橋速度を向上せしめたチオエーテル結合含有化合物類、および、例えば、特許第3164407号公報および特開平9−100111号公報等に記載の、多官能(メタ)アクリレート化合物と、粒子径5〜30nmのシリカゾル〔例えば、イソプロパノール分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「IPA−ST」)、メチルエチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MEK−ST」)、メチルイソブチルケトン分散オルガノシリカゾル(日産化学社製「MIBK−ST」)等〕とを、イソシアネート基或いはメルカプト基含有シランカップリング剤を用いて結合させた化合物等の、エチレン性不飽和化合物にシランカップリング剤を介してシリカゾルを反応させ結合させることにより、強度や耐熱性を向上せしめた化合物類、等が挙げられる。
【0041】
以上のエチレン性不飽和化合物は、それぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
本発明において、エチレン性不飽和化合物としては、不飽和カルボン酸とポリヒドロキシ化合物とのエステル類、または、ウレタン(メタ)アクリレート類が好ましく、中でも、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等、5官能以上のものが特に好ましい。
【0043】
尚、本発明の下引き層用組成物にエチレン性不飽和化合物を用いる場合の含有量は、下引き層用組成物の固形分中1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、また、80重量%以下が好ましく、60重量%以下が特に好ましい。下引き層用組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有量がこの範囲より少ない場合、エチレン性不飽和化合物を添加する効果が現れにくいおそれがあり、多い場合は、この下引き層用組成物を用いて形成された下引き層上に撥液性感光性組成物を塗布する際に下引き層の膜が維持され難くなるおそれがある。
【0044】
<光重合開始剤>
本発明の下引き層用組成物に上記のエチレン性不飽和化合物を含有させる場合、光重合開始剤を併用することが効果的である。
【0045】
本発明の下引き層用組成物に用いることが出来る光重合開始剤は活性光線によりエチレン性不飽和基を重合させる化合物であれば特に限定されるものではなく、公知の光重合開始剤を用いる事が出来る。
【0046】
本発明で用いることができる光重合開始剤の具体的な例を以下に列挙する。
2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−エトキシカルボニルナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル化トリアジン誘導体;
2−トリクロロメチル−5−(2'−ベンゾフリル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル−5−〔β−(2'−ベンゾフリル)ビニル〕−1,3,4−オキサジアゾール等のハロメチル化オキサジアゾール誘導体;
2−(2'−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダソール2量体、2−(2'−クロロフェニル)−4,5−ビス(3'−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(2'−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体等のヘキサアリールビイミダゾール誘導体;
ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;
2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン誘導体;
ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;
2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、α−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパノン、1−ヒドロキシ−1−メチルエチル−(p−イソプロピルフェニル)ケトン、1−ヒドロキシ−1−(p−ドデシルフェニル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、1,1,1−トリクロロメチル−(p−ブチルフェニル)ケトン等のアセトフェノン誘導体;
チオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;
p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル等の安息香酸エステル誘導体;
9−フェニルアクリジン、9−(p−メトキシフェニル)アクリジン等のアクリジン誘導体;
9,10−ジメチルベンズフェナジン等のフェナジン誘導体;
ベンズアンスロン等のアンスロン誘導体;
ジシクロペンタジエニル−Ti−ジクロライド、ジシクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル−1−イル、ジシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル−1−イル、ジシクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジ−フルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イル等のチタノセン誘導体;
特開2000−80068号公報、特開2006−036750号公報等に記載されている、アセトフェノンオキシム−o−アセテート、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]、1−[9−エチル−6−(2−ベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン−1−(o−アセチルオキシム)等のオキシムエステル系化合物。
【0047】
この他、光重合開始剤としては、ファインケミカル、1991年3月1日号、Vol.20、No.4,P16〜P26や、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特公昭45−37377号公報、特開昭58−40302号公報、特開平10−39503号公報等に記載されているものも使用することができる。
【0048】
これらの光重合開始剤は、下引き層用組成物中にその1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0049】
また、光重合開始剤には、感度の向上などを目的として、以下に挙げるような水素供与性化合物が併用されてもよい。
【0050】
その水素供与性化合物としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−4(3H)−キナゾリン、β−メルカプトナフタレン、エチレングリコールジチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート等のメルカプト基含有化合物類;
ヘキサンジチオール、トリメチロールプロパントリスチオグリコネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート等の多官能チオール化合物類;
N,N−ジアルキルアミノ安息香酸エステル、N−フェニルグリシン、N−フェニルグリシンのアンモニウム塩やナトリウム塩等の誘導体;
フェニルアラニン、フェニルアラニンのアンモニウム塩やナトリウム塩等の誘導体;
フェニルアラニンのエステル等の誘導体、
等が挙げられる。
【0051】
これらは1種を単独で、または2種以上を併用することができる。
【0052】
水素供与性化合物としては、中でも、感度の観点から、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール等のメルカプト基含有へテロ環状化合物が好ましい。
特に、パターンの矩形性の観点から、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、および2−メルカプトベンゾオキサゾールよりなる群から選択された1または2以上と、上記ヘキサアリールビイミダゾール誘導体の1種又は2種以上とを組み合わせて、下引き層用組成物に使用することが好適である。
【0053】
更に、光重合開始剤には、熱重合開始剤を配合してもよい。このような熱重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ系化合物、有機過酸化物および過酸化水素等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0054】
本発明の下引き層用組成物のこれらの光重合開始剤の含有量(2種以上使用される場合には、その総量)としては、下引き層用組成物の全固形分に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上で、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。下引き層用組成物中の光重合開始剤の含有率が過度に多いと、基板に対する密着性が低下する場合がある。一方、過度に少ないと、感度が低下する場合がある。
【0055】
また、下引き層用組成物中の前述のエチレン性不飽和化合物に対する光重合開始剤の配合比としては、(エチレン性不飽和化合物)/(光重合開始剤)(重量比)の値として、通常1/1〜100/1、好ましくは2/1〜50/1である。配合比が上記範囲を逸脱すると、密着性や硬化性が低下する場合がある。
【0056】
また、光重合開始剤に水素供与性化合物や熱重合開始剤を併用する場合、これらの合計で、上述の下引き層用組成物中の光重合開始剤含有割合となるようにすることが好ましく、また、光重合開始剤と水素供与性化合物と熱重合開始剤との併用割合としては、光重合開始剤に対して水素供与性化合物を5〜300重量%、光重合開始剤に対して熱重合開始剤を5〜300重量%とすることが好ましい。
【0057】
<重合禁止剤>
本発明の下引き層用組成物には、機能を付与させる目的で必要に応じて種々の添加剤を添加することが可能であるが、その一つとして、重合禁止剤が挙げられる。重合禁止剤は、下引き層の上に設けられる撥液性感光性組成物のラジカル重合を抑制する働きがあるものであれば特に限定されないが、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、p−メトキシフェノール等、その構造中にハイドロキノン構造を有するハイドロキノン誘導体類、t−ブチルカテコール、ピロガロール、2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4−メトキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、β−ナフトール、ナフチルアミン、ニトロベンゼン、ピクリン酸、p−トルイジン、クロラニル、フェノチアジン、塩化第一銅等が挙げられ、この他にもフェノール系の樹脂などでも同様の効果を得ることができる。
【0058】
下引き層用組成物に、これら重合禁止剤を使用することで、撥液性感光性組成物の下引き層界面での重合率を抑えることが出来、それによって最終的に得られる構造物のシフト低減や、裾引きを改善などの効果が期待出来る。
【0059】
本発明の下引き層用組成物に重合禁止剤を使用する場合の含有量は、下引き層用組成物の全固形分に対して、通常10ppm以上、好ましくは通常20ppm以上で、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。上記のフェノール樹脂のような重合禁止剤的役割を果たす樹脂を用いる場合は、その下引き層用組成物中の含有量は通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上で、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下である。重合禁止剤の量が少なすぎる場合はその添加効果が得られない場合があり、多過ぎる場合は撥液性感光性組成物の密着性に悪影響を与える場合がある。
【0060】
<現像促進剤>
本発明の下引き層用組成物に、機能を付与させる目的で添加してもよい他の成分として、現像促進剤が挙げられる。現像促進剤としては、現像するときに現像液への溶解性を促す効果のあるものであれば特に限定はされず、その様な役割をするものとしては有機酸やその無水物、アルコール類、界面活性剤などが挙げられる。
【0061】
有機酸およびその無水物としては、具体的にはグリセリン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、プロピルマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、メソ酒石酸、グルタル酸、β−メチルグルタル酸、β,β−ジメチルグルタル酸、β−エチルグルタル酸、β,β−ジエチルグルタル酸、β−プロピルグルタル酸、β,β−メチルプロピルグルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和カルボン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の炭素環式飽和カルボン酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジメチル安息香酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、3,5−ジメトキシ安息香酸、p−トルイル酸、2−ヒドロキシ−p−トルイル酸、2−ヒドロキシ−m−トルイル酸、2−ヒドロキシ−o−トルイル酸、マンデル酸、没食子酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の炭素環式不飽和カルボン酸、および、メルドラム酸、アスコルビン酸などの有機酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、シクロヘキセンジカルボン酸無水物、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水フタル酸等の酸無水物を挙げることができる。
【0062】
アルコール類としては、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカニルアルコール、ウンデカニルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルキルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類、ペンタエリスリトールなどのポリオール類等が挙げられる。
【0063】
界面活性剤としては、現像促進効果が見られれば特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレングリコール類、ポリオキシプロピレングリコール類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシプロピレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシプロピレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、モノグリセリドアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤が好ましい。
具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリル化エーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−プロピレンポリスチリル化エーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアリールエーテル類;ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジステアレートなどのポリオキシアルキレンジアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類などが挙げられる。
【0064】
本発明の下引き層用組成物にこれらの現像促進剤を使用する場合の含有量は、下引き層用組成物の全固形分に対して通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上で、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。下引き層用組成物中の現像促進剤の量が上記範囲よりも少なすぎる場合はその添加効果が得られない恐れがあり、多過ぎる場合は下引き層の上部に設ける構造物の密着性が悪化する恐れがある。
【0065】
<液性改質剤>
本発明の下引き層用組成物には、基板への濡れ広がり性や塗膜の表面均一性、消泡性などを改善する目的で、それぞれ用途に応じた液性改質剤を添加してもよい。これら液性改質剤として、上記現像促進剤の項で記載した界面活性剤の他、フッ素系やシリコン系の界面活性剤や添加剤が好ましく用いられる。
【0066】
フッ素系液性改質剤(フッ素系界面活性剤)としては、末端、主鎖および側鎖の少なくともいずれかの部位にフルオロアルキル基またはフルオロアルキレン基を有する化合物を好適に用いることができる。
このようなフッ素系液性改質剤の具体例としては、市販品として、例えばメガファックF142D、同F172、同F173、同F176、同F177、同F183、同780、同781、同R30、同R08(大日本インキ社製)、フロラードFC−135、同FC−170C、同FC−430、同FC−431(住友スリーエム社製)、サーフロンS−112、同S−113、同S−131、同S−141、同S−145、同S−382、同SC−101、同SC−102、同SC−103、同SC−104、同SC−105、同SC−106(旭硝子社製)、エフトップEF351、同352、同801、同802(JEMCO社製)などが挙げられる。
【0067】
また、シリコーン系液性改質剤(シリコーン系界面活性剤)の市販品としては、例えばトーレシリコーンDC3PA、同DC7PA、同SH11PA、同SH21PA、同SH28PA、同SH29PA、同SH30PA、同SH−190、同SH−193、同SZ−6032、同SF−8428、同DC−57、同DC−190(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TSF−4440、TSF−4300、TSF−4445、TSF−4446、TSF−4460、TSF−4452(以上、GE東芝シリコーン社製)、BYK−300、BYK−306、BYK−310、BYK−330、BYK−331、BYK−341、BYK−346、BYK−348、BYK−378(以上、ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0068】
本発明の下引き層用組成物にこれらの液性改質剤を使用する場合の含有量は、下引き層用組成物の全固形分に対して通常0.01重量%以上、好ましくは0.02重量%以上で、通常5重量%以下、好ましくは2重量%以下である。下引き層用組成物中の液性改質剤の量が上記範囲よりも少なすぎる場合はその添加効果が得られない恐れがあり、多過ぎる場合は形成される下引き層の塗膜が荒れるなどの問題が生じる恐れがある。
【0069】
<その他の添加剤>
本発明の下引き層用組成物には、上記した各添加剤の他にも必要に応じて各種添加剤を加えることが可能であり、本発明の下引き層用組成物に添加し得るその他の添加剤としては、例えば熱重合開始剤、熱架橋剤、フィラー、基板密着増強剤、色材、酸化防止剤、可塑剤、保存安定剤、表面保護剤などが挙げられる。
【0070】
<溶剤>
本発明の下引き層用組成物は、通常、上記の親水性有機化合物や各種の添加剤を含む溶液として基板上に塗布し、乾燥することで下引き層を形成させる。従って、本発明の下引き層用組成物は、通常、溶剤を含有する。
【0071】
本発明の下引き層用組成物に用いる溶剤としては、下引き層の成分が溶解若しくは分散され、下引き層用組成物の塗布等により均一な膜を形成可能であれば特に限定されないが、親水性有機化合物は分散より溶解している方が好ましく、この溶解性を確保する点から、水および/またはアルコール系溶剤を用いることが好ましい。
【0072】
下引き層用組成物の溶剤としての水やアルコール系の溶剤は、特に下引き層が有機層上に設けられる場合に、該有機層を溶解させないという点でも好ましく、特に、その有機層が有機電界発光素子の正孔注入層や正孔輸送層である場合に有用である。さらに、下引き層を形成後、この下引き層上に撥液性感光性組成物を成膜する際に、下引き層が撥液性感光性組成物に含まれる溶剤に流れ出させないためにも、下引き層用組成物は水および/またはアルコール系溶剤を用いて調製され、形成された下引き層は水やアルコール系溶剤への溶解性が高く、撥液性感光性組成物に含まれる溶剤に対する溶解性が低いことが好ましい。
【0073】
本発明の下引き層用組成物に使用されるアルコール系溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−エトキシブタノール、3−メチル−3−n−プロポキシブタノール、3−メチル−3−イソプロポキシブタノール、3−メチル−3−n−ブトキシシブタノール、3−メチル−3−イソブトキシシブタノール、3−メチル−3−sec−ブトキシブタノール、3−メチル−3−tert−ブトキシシブタノール、3−メトキシブタノール等のアルコキシアルコール類が挙げられる。
【0074】
上記のアルコール系溶剤のアルキル基鎖は、あまり長くない方が親水性有機化合物の溶解性の点で好ましく、アルキルアルコール類としてはアルキル基の炭素数が2〜4程度であるものが好ましく、グリコールエーテル類としてはアルキレングリコール部分のアルキレン基の炭素数が3〜5程度であるもの、アルコキシアルコール類としては、アルコキシ基の炭素数が2〜4程度のものが好ましい。
【0075】
これらのアルコール系溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、水とアルコール系溶剤の1種または2種以上とを混合して用いてもよい。
【0076】
なお、本発明の下引き層用組成物に含まれる溶剤としては、水、アルコール系溶剤以外の溶剤であってもよく、下引き層用組成物に使用し得る、水、アルコール系溶剤以外の溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類、3−メトキシブチルアセテート、ブチルジグリコールアセテート、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、水やアルコール系溶剤と混合して用いてもよい。
【0077】
本発明の下引き層用組成物には、この下引き層用組成物の成膜、乾燥工程において、急激に乾燥されると、気化熱によって膜が結露する場合があるため、沸点90℃以上、好ましくは110℃以上の溶剤が、下引き層用組成物中の全溶剤中に10重量%以上、特に50重量%以上含まれていることが好ましい。
また、下引き層用組成物に含まれる全溶剤中の5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%が、水および/またはアルコール系溶剤であることが好ましい。
【0078】
本発明の下引き層用組成物中の溶剤の含有量は、前述の如く、塗布等による下引き層用組成物の均一な成膜が可能であれば良く、特に制限はないが、下引き層用組成物の全固形分濃度が通常30重量%以下、特に10重量%以下で、通常0.1重量%以上、特に0.2重量%以上となるように用いられることが好ましい。
全固形分濃度がこの下限を下回ると、均一な膜を成膜できない恐れがあり、上限を上回ると必要な膜厚に制御できない恐れがある。
【0079】
<下引き層の形成方法>
本発明において、下引き層は、本発明の下引き層用組成物を塗布等により湿式成膜し、形成された膜を、乾燥することにより形成される。ここで、湿式成膜の方法は限定されないが、例えばスピンコート法、ワイヤーバー法、フローコート法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、浸漬塗布法、インクジェット法などが挙げられる。これらの湿式成膜方法は、形成される下引き層の用途や膜厚によって自由に選定出来る。
【0080】
下引き層用組成物を成膜して形成された膜の乾燥は、ホットプレート、IRオーブン、またはコンベクションオーブンを使用した乾燥法によるのが好ましい。
乾燥の条件は、前記溶剤成分の種類、使用する乾燥機の性能などに応じて適宜選択することができるが、通常、40〜200℃の温度で15秒〜5分間の範囲で選ばれ、好ましくは50〜130℃の温度で30秒〜3分間の範囲で選ばれる。なお、この膜の乾燥工程は、温度を高めず、減圧チャンバー内で乾燥を行う減圧乾燥法であってもよく、また、減圧乾燥と加熱乾燥との併用でもよい。
【0081】
<下引き層の膜厚>
上記乾燥後の下引き層の膜厚は特に限定されないが、下引き層も含んだ出来上がりの構造物の高さ(後述の図1(D)のH)の3/4以下が好ましく、1/2以下であることが特に好ましい。また、1/1000以上であることが好ましく、1/100以上であることが特に好ましい。
下引き層の膜厚が上記下限よりも厚くなると、下引き層は構造物の部分よりもインク濡れ性が高いため、例えば構造物が有機薄膜を塗り分けるための隔壁である場合、有機薄膜は隔壁壁面の塗布膜厚が高いまま乾燥されてしまう恐れがあり、乾燥後も平らにならずに有機薄膜は中心部の厚みが薄く周囲が厚い不均一な状態に形成されてしまう恐れがある。逆に、下引き層の膜厚が上記下限よりも小さいと下引き層を形成したことによる効果が得られにくい。
【0082】
下引き層の具体的な膜厚は、好ましくは5nm以上、より好ましくは7nm以上、特に好ましくは10nm以上で、好ましくは4μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。これより膜厚が薄い場合は下引き層の効果が得られ難い場合があり、厚い場合は上にも記した様な不都合が生じる場合がある他、下引き層に感光性を持たせない場合は上層の構造物を保持することが難しくなる場合がある。
【0083】
本発明の下引き層用組成物で形成した下引き層は、撥液性感光性組成物を用いて構造物を形成した際にその効力を発揮する。通常、該構造物は、下引き層の上に撥液性感光性組成物を全面湿式成膜して乾燥することで撥液性感光性組成物層を形成した後、目的とする構造物のパターンを露光し、その後非画像部を下引き層と共に現像処理で除去することで形成される。
【0084】
[撥液性感光性組成物]
以下に、本発明で構造物の形成に用いる撥液性感光性組成物について説明する。
【0085】
<撥液性成分>
本発明に係る撥液性感光性組成物は、撥液性成分を含むことを必須とする。
本発明において、撥液性とは、目的とする液体、すなわち、この撥液性感光性組成物によって形成された構造物に付与される液、例えば、有機薄膜形成用インクをはじく性質であり、撥液性成分とは、このような撥液性を有する材料を意味する。この目的とする液体としては、用途に応じて水や各種有機溶剤さらにそれらに無機物や有機物の溶質を含有するものまで、自由に設定される。
好ましくは、撥液性感光性組成物は、撥液性成分を含有することにより、この撥液性感光性組成物により形成された構造物に対する目的とする液体の接触角が20°以上、より好ましくは30°以上、特に好ましくは45°以上となることである。尚、ここでいう接触角は、後述の実施例において測定される接触角と同様の条件で測定されるものである。
【0086】
ここで用いられる撥液性成分としては、構造物に撥液性を持たせる効果があれば特に限定されないが、フッ素含有化合物やシリコン含有化合物が好ましい。ここで言う撥液性とは、上述の如く、目的とする液体を弾くことを意図し、この目的とする液体としては、用途に応じて水や各種有機溶剤さらにそれらに無機物や有機物の溶質を含有するものまで、自由に設定される。よって求められる撥液性のレベルもそれに応じて様々であるが、特に極性の低い有機溶剤を主成分とする液体を撥液させる場合に最も強い撥液性が求められる。この様な有機溶剤を撥液させる場合は、撥液性成分としてはシリコン含有化合物よりはフッ素含有化合物が効果的であり、またこれらの両方を含んでいてもよい。
【0087】
撥液性感光性組成物中に撥液性成分として含まれるフッ素含有化合物の分子量は特に制限されず、低分子量の化合物でも、高分子量の化合物であってもよい。このフッ素含有化合物としては、代表的にはパーフルオロアルキル基を含む化合物が挙げられ、例えば特開平7−35916号公報、特開平11−281815号公報、国際公開第2004−042474号パンフレット、特開2005−60515号公報、特開2005−315984号公報、特開2006−171086号公報等に開示されている撥液性化合物などの他、BYK−340(ビッグケミー社製)、モディパーF200、F600、F3035(以上、日油社製)フタージェントMシリーズ、Sシリーズ、Fシリーズ、Gシリーズ、Dシリーズ、オリゴマーシリーズ(以上、ネオス社製)、ユニダイン(ダイキン工業社製)、トリフロロプロピルトリクロロシラン(信越シリコーン社製)、サーフロンS−386(AGCセイミケミカル社製)、パーフルオロ基含有アクリルモノマーを成分として共重合した樹脂等も挙げられる。
さらには安全性に懸念があるC6を超えるパーフルオロアルキル基を回避出来るパーフルオロポリエーテル基などを含む化合物等も有効である。
【0088】
また、フッ素含有化合物としては、撥液性の樹脂として、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、フッ素化ポリアミド樹脂、フッ素化ポリウレタン樹脂、フッ素化シロキサン樹脂およびそれらの変性樹脂なども用いることができる。
【0089】
なお、本発明に用いられる撥液性感光性組成物は、露光後現像される際に、撥液性成分が現像処理で流れ出てしまうことは好ましくない。この点において、撥液性成分として、撥液性樹脂を用いるのも有効であるが、撥液性成分として、露光時に架橋反応をすることができる架橋性基を有する化合物(以下、「架橋性基含有撥液剤」と称す場合がある。)を用いることが特に有効である。
【0090】
この架橋性基含有撥液剤であるフッ素含有化合物としては、例えばメガファックRS−101、RS−102、RS−105、RS−401、RS−402、RS−501、RS−502(以上、DIC社製)、オプツールDAC(ダイキン工業社製)、パーフルオロ(メタ)アクリレート、パーフルオロジ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
なお、これらの撥液性成分は、1種を単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
また、撥液性感光性組成物中の撥液性成分の含有量は、撥液性成分のフッ素含有量によっても異なり、撥液性成分におけるフッ素含有量(撥液性成分の化合物のフッ素濃度)が10重量%以上の場合は、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、撥液性成分は0.001重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、10重量%以下が好ましく、6重量%以下がより好ましい。撥液性成分のフッ素含有量が10重量%より少ない場合は、撥液性成分は撥液性感光性組成物の全固形分に対して0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。撥液性成分の含有量がこれより少ないと、形成される構造物の撥液性が不十分であり、必要とされる撥液性が得られない恐れがあり、これより多いと現像性の確保が困難となる。
【0092】
<バインダー樹脂>
撥液性感光性組成物は、バインダー樹脂を含有することが好ましい。バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
このバインダー樹脂としては現像液で現像可能な樹脂であれば特に限定されないが、現像液としてはアルカリ現像液が好ましいため、アルカリ可溶性樹脂であることが好ましい。
アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、アクリル酸系樹脂、カルボキシ基含有ウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂、カルド樹脂、各種エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂、変性ノボラック樹脂等が好適に用いられるが、各種エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂が特に好ましい。
【0094】
撥液性感光性組成物中におけるバインダー樹脂の含有割合は、全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。撥液性感光性組成物中のバインダー樹脂の含有量がこの下限を下回ると、構造物の形状確保が困難となる恐れがあり、上限を上回ると、感度や現像性の低下を招く恐れがある。
【0095】
以下に、本発明に係る撥液性感光性組成物に好適なバインダー樹脂のうち、
[A]アクリル酸系樹脂
[B]エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂
[C]変性ノボラック樹脂
について詳細に説明する。
【0096】
[A]アクリル酸系樹脂
アクリル酸系樹脂としては、アルカリ可溶性を確保するために、側鎖または主鎖にカルボキシ基またはフェノール性水酸基を有する単量体由来の構成成分を含むことが好ましく、高アルカリ性溶液での現像が可能な樹脂が好ましい。
例えば、(メタ)アクリル酸系(共)重合体またはカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸系樹脂(中でも(メタ)アクリル酸エステルを含む(共)重合体)であることが好ましい。これらのアクリル酸系樹脂は、種々の単量体と組合せて性能の異なる共重合体を得ることができ、かつ、製造方法が制御し易い利点がある。
【0097】
本発明に係るアクリル酸系樹脂は、例えば、次に挙げる単量体を構成単位の主成分とする(共)重合体であることが好ましい。
この単量体としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに酸(無水物)を付加させた化合物などが挙げられる。
【0098】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸、コハク酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、アジピン酸(2−アクリロイロキシエチル)エステル、フタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、ヘキサヒドロフタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、マレイン酸(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、コハク酸(2−(メタ)アクリロイロキシプロピル)エステル、アジピン酸(2−(メタ)アクリロイロキシプロピル)エステル、ヘキサヒドロフタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシプロピル)エステル、フタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシプロピル)エステル、マレイン酸(2−(メタ)アクリロイロキシプロピル)エステル、コハク酸(2−(メタ)アクリロイロキシブチル)エステル、アジピン酸(2−(メタ)アクリロイロキシブチル)エステル、ヘキサヒドロフタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシブチル)エステル、フタル酸(2−(メタ)アクリロイロキシブチル)エステル、マレイン酸(2−(メタ)アクリロイロキシブチル)エステル等が挙げられ、酸(無水物)としては、(無水)コハク酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸などが挙げられる。
【0099】
これらヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートも、(酸)無水物も、いずれも1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
上記の単量体と共重合させることができる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体類、桂皮酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和基含有カルボン酸類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、メトキシフェニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のエステル類、(メタ)アクリル酸にε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類を付加させた化合物類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のアクリロニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メタクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド等のアクリルアミド類、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の酸ビニル類などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
予めカルボキシ基または水酸基を有するアクリル酸系樹脂に、エチレン性不飽和基(エチレン性二重結合)を導入してもよい。これにより、エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂とすることができる。
【0102】
この場合、カルボキシ基や水酸基を有するアクリル酸系樹脂のカルボキシ基や水酸基に対して、通常好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下のエチレン性二重結合を有する化合物を結合させることが好ましい。また、アクリル酸系樹脂における、カルボキシ基の含有量は、酸価として5〜200mg−KOH/gの範囲が好ましい。酸価が5mg−KOH/g未満の場合はアルカリ性現像液に不溶となるおそれがあり、また、200mg−KOH/gを超える場合は現像感度が低下するおそれがある。
【0103】
上記のアクリル酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜100,000の範囲が好ましい。重量平均分子量が1,000未満の場合は均一な塗布膜を得るのが難しくなるおそれがあり、また、100,000を超える場合は現像性が低下するおそれがある。
【0104】
[B]エチレン性不飽和基とカルボキシ基を含有する樹脂
エチレン性不飽和基とカルボキシ基とを含有する樹脂としては、公知のエチレン性不飽和基とカルボキシ基とを少なくとも一つずつ有する樹脂の1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0105】
このような樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、マレイミド等の単独または共重合体;酸変性型エポキシアクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、等が挙げられる。
【0106】
これらの中でも、アルカリ現像性等の面から、
[B−1]側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシ基含有ビニル系樹脂
[B−2]酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート
が好適である。
【0107】
[B−1]側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシ基含有ビニル系樹脂
側鎖にエチレン性不飽和基を有するカルボキシ基含有ビニル系樹脂としては、
[B−1−1]カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物
「B−1−2」2種以上の不飽和基を有する化合物と不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体
[B−1−3]E−R−N−T樹脂
が挙げられる。
【0108】
[B−1−1]カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物
カルボキシ基含有ビニル系樹脂としては、具体的には、不飽和カルボン酸の1種または2種以上とビニル化合物の1種または2種以上との共重合体が挙げられる。
【0109】
ここで、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0110】
また、ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0111】
カルボキシ基含有ビニル系樹脂の中でも、(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体が好ましい。そして、(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体においては、(メタ)アクリレート5〜80モル%と、(メタ)アクリル酸20〜95モル%とからなる共重合体が更に好ましく、(メタ)アクリレート10〜90モル%と、(メタ)アクリル酸10〜90モル%とからなる共重合体が特に好ましい。
【0112】
また、スチレン−(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体においては、スチレン3〜60モル%と、(メタ)アクリレート10〜70モル%と、(メタ)アクリル酸10〜60モル%とからなる共重合体が好ましく、スチレン5〜50モル%と、(メタ)アクリレート20〜60モル%と、(メタ)アクリル酸15〜55モル%とからなる共重合体が特に好ましい。
【0113】
また、これらカルボキシ基含有ビニル系樹脂の酸価は、これらと反応させるエポキシ基含有不飽和化合物の量および得られる反応生成物において必要とされる酸価に応じて調整されるものであるが、通常は、50〜500mg−KOH/gである。カルボキシ基含有ビニル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、1,000〜300,000である。
【0114】
一方、エポキシ基含有不飽和化合物としては、脂肪族エポキシ基含有不飽和化合物および脂環式エポキシ基含有不飽和化合物が挙げられる。
【0115】
その脂肪族エポキシ基含有不飽和化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジルイソクロトネート、クロトニルグリシジルエーテル、イタコン酸モノアルキルモノグリシジルエステル、フマル酸モノアルキルモノグリシジルエステル、マレイン酸モノアルキルモノグリシジルエステル等が挙げられる。
【0116】
また、脂環式エポキシ基含有不飽和化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、2,3−エポキシシクロペンチルメチル(メタ)アクリレート、7,8−エポキシ〔トリシクロ[5.2.1.0]デシ−2−イル〕オキシメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0117】
上述のようなカルボキシ基含有ビニル系樹脂の1種または2種以上とエポキシ基含有不飽和化合物の1種または2種以上とは、カルボキシ基含有ビニル系樹脂が有するカルボキシ基の通常5〜90モル%、好ましくは30〜70モル%程度のエポキシ基含有不飽和化合物の量比で反応させる。なお、反応は公知の方法により実施することができる。
【0118】
カルボキシ基含有ビニル系樹脂とエポキシ基含有不飽和化合物との反応生成物の酸価は、好ましくは30〜250mg−KOH/gである。また重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜300,000である。
【0119】
「B−1−2」2種以上の不飽和基を有する化合物と不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体
2種以上の不飽和基を有する化合物としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、クロトニル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、ビニル(メタ)アクリレート、1−クロロビニル(メタ)アクリレート、2−フェニルビニル(メタ)アクリレート、1−プロペニル(メタ)アクリレート、ビニルクロトネート、ビニル(メタ)アクリルアミド等の1種または2種以上が挙げられる。
【0120】
一方、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0121】
2種以上の不飽和基を有する化合物の共重合体全体に占める割合は、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは30〜80モル%程度である。
【0122】
2種以上の不飽和基を有する化合物と不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の酸価は、好ましくは、30〜250mg−KOH/gである。また重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、1,000〜300,000である。
【0123】
[B−1−3]E−R−N−T樹脂
E−R−N−T樹脂とは、(E)成分:エポキシ基含有(メタ)アクリレートを5〜90モル%と、(R)成分:(E)成分と共重合し得る他のラジカル重合性化合物を10〜95モル%とを共重合し、得られた共重合体に含まれるエポキシ基の10〜100モル%に、(N)成分:不飽和一塩基酸を付加し、この(N)成分を付加したときに生成する水酸基の10〜100モル%に、(T)成分:多塩基酸無水物を付加して得られる樹脂である。
【0124】
ここで、E−R−N−T樹脂におけるエポキシ基含有(メタ)アクリレート((E)成分)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。中でもグリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。これらの(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0125】
(E)成分と(R)成分との共重合体における(E)成分の共重合割合は、前述した通り、通常、5モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。また、通常、90モル%以下、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。ここで、(R)成分は、(E)成分と共重合し得る他のラジカル重合性化合物である。
【0126】
(E)成分と(R)成分との共重合体における(E)成分の共重合割合が過度に多いと、相対的に(R)成分が少ないことにより、耐熱性や強度が低下する傾向がある。(E)成分の共重合割合が過度に少ないと、重合性成分およびアルカリ可溶性成分の付加量が不十分となる傾向がある。
【0127】
一方、(E)成分と(R)成分との共重合体における(R)成分の共重合割合は、前述した通り、通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。また、通常95モル%、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。(E)成分と(R)成分との共重合体における(R)成分の共重合割合が過度に多いと、相対的に(E)成分が少ないことにより重合性成分およびアルカリ可溶性成分の付加量が不十分となる傾向がある。また、(R)成分の共重合割合が過度に少ないと耐熱性や強度が低下する傾向がある。
【0128】
ここで、(R)成分としては、例えば、下記式(13)で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレートの1種または2種以上を用いても好ましい。
【0129】
【化2】

【0130】
(式(13)中、R1d〜R6dは、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル、エチル、プロピルの炭素数1〜3のアルキル基を表し、R7dとR8dは、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基、エチル基、プロピル基の炭素数1〜3のアルキル基を表す。また、R7dとR8dは連結して環を形成していてもよい。R7dとR8dが連結して形成される環は、好ましくは脂肪族環であり、飽和または不飽和の何れでもよく、好ましくは炭素数5〜6である。)
【0131】
上記式(13)の中では、下記式(14)、式(15)、または式(16)で表される構造を有するモノ(メタ)アクリレートが好ましい。これらの部分構造を導入することによって、モノ(メタ)アクリレートの耐熱性や強度を増すことが可能である。なお、これらのモノ(メタ)アクリレートは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0132】
【化3】

【0133】
前記の式(13)で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレートとしては、公知の各種のものが使用できるが、特に次の式(17)で表されるものが好ましい。
【0134】
【化4】

【0135】
(式(17)中、R9dは水素原子またはメチル基を表し、R10dは前記の式(13)を表す。)
【0136】
(E)成分と(R)成分との共重合体中の前記の式(13)で示される部分構造を有する場合のモノ(メタ)アクリレートの含有量は、通常、5モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上である。また、通常、90モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
(E)成分と(R)成分との共重合体中の式(13)で示されるモノ(メタ)アクリレートの含有量が過度に少ないと、耐熱性などの有効な効果が充分に得られない傾向がある。また、式(13)で示されるモノ(メタ)アクリレートの含有量が過度に多いと、顔料などを併用する場合分散性が低下する傾向がある。
【0137】
また、(R)成分としては、以下に具体例を示すような、上述した式(13)で表される部分構造を有するモノ(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性化合物も挙げられる。
スチレン;
スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体;
ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジプロピルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジ−iso−プロピルアミド、(メタ)アクリル酸アントラセニルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド;
(メタ)アクリル酸アニリド、(メタ)アクリロイルニトリル、アクロレイン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニル等のビニル化合物;
シトラコン酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジエステル;
N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等のモノマレイミド;
N−(メタ)アクリロイルフタルイミド:
【0138】
これらの中でも、より優れた耐熱性や強度を付与させるためには、(R)成分として、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートおよびモノマレイミドから選択された少なくとも1種を使用することが有効である。
この場合、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートおよびモノマレイミドから選択された少なくとも1種の共重合割合は、通常1モル%以上、好ましくは3モル%以上、また、通常70モル%以下、好ましくは50モル%以下である。
【0139】
(E)成分と(R)成分との共重合体に含まれるエポキシ基に付加させる(N)成分(不飽和一塩基酸)としては、公知のものを使用することができる。このような不飽和一塩基酸としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0140】
このようなエチレン性不飽和二重結合を有する不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、マレイミドまたは、これらの(共)重合体が挙げられ、中でも、アクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましい。これらの(N)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0141】
(E)成分と(R)成分との共重合反応で得られた共重合体に含まれるエポキシ基に(N)成分を付加させる量は、該共重合体に含まれるエポキシ基の通常10モル%以上、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。(N)成分の付加割合が過度に少ないと、経時安定性が低下する等、残存エポキシ基による悪影響が出る傾向がある。
(E)成分と(R)成分との共重合体に(N)成分を付加させる方法としては、公知の方法を採用することができる。
【0142】
(E)成分と(R)成分との共重合体に(N)成分を付加させたときに生成する水酸基に付加させる(T)成分(多塩基酸無水物)としては、特に限定されず公知のものが使用できる。
なお、(T)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。このような成分を付加させることにより、アルカリ可溶性にすることができる。
【0143】
(T)成分を付加させる量は、(E)成分と(R)成分との共重合体に(N)成分を付加させたときに生成する水酸基の、通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上である。また、通常100モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下である。
(T)成分の付加量が過度に多いと、現像時の残膜率が低下する傾向がある。(T)成分の付加量が過度に少ないと、溶解性が不十分となる傾向がある。
【0144】
また、(E)成分と(R)成分との共重合物に(N)成分を付加させたときに生成される水酸基に(T)成分を付加させる方法としては、公知の方法を任意に採用することができる。
【0145】
E−R−N−T樹脂は、(T)成分付加後に生成したカルボキシ基の一部に、グリシジル(メタ)アクリレートや重合性不飽和基を有するグリシジルエーテル化合物を付加させることにより、さらに光感度を向上させることができる。
また、(T)成分付加後、生成したカルボキシ基の一部に重合性不飽和基を有さないグリシジルエーテル化合物を付加させることにより、現像性を向上させることもできる。
さらに、(T)成分付加後にこれらの両者を付加させてもよい。
【0146】
なお、上述したE−R−N−T樹脂としては、例えば、特開平8−297366号公報や特開2001−89533号公報に記載の樹脂が挙げられる。
また、上記E−R−N−T樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、通常3,000以上、好ましくは5,000以上、また、通常100,000以下、好ましくは50,000以下である。E−R−N−T樹脂の重量平均分子量(Mw)が過度に小さいと耐熱性、膜強度に劣る傾向がある。E−R−N−T樹脂の重量平均分子量(Mw)が過度に大きいと、現像液に対する溶解性が低下する傾向がある。また、E−R−N−T樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、2.0〜5.0が好ましい。
【0147】
[B−2]酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂
酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂としては、エポキシ樹脂のα,β−不飽和基含有カルボン酸付加体に、多価カルボン酸および/またはその無水物が付加された、不飽和基およびカルボキシ基含有エポキシ樹脂が挙げられる。即ち、(B−2−i)エポキシ樹脂のエポキシ基に、(B−2−ii)α,β−不飽和モノカルボン酸のカルボキシ基が開環付加されることにより、エポキシ樹脂にエステル結合(−COO−)を介してエチレン性不飽和結合が付加されていると共に、その際生じた水酸基に、(B−2−iii)多価カルボン酸および/またはその無水物のカルボキシ基が付加されたものが挙げられる。以下、酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂である不飽和基およびカルボキシ基含有エポキシ樹脂の構成成分について説明する。
【0148】
(B−2−i)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、公知のエポキシ樹脂の中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ビスフェノールSエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビフェニルノボラックエポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタンとの重合エポキシ樹脂、ジハイドロオキシルフルオレン型エポキシ、ジハイドロオキシルアルキレンオキシルフルオレン型エポキシ、9,9−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル化物、等が挙げられる。中でも、高い硬化膜強度の観点から、フェノールノボラックエポキシ樹脂、またはクレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールとジシクロペンタジエンとの重合エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレートとアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、9,9−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル化物、などが好ましい。さらに、高いテーパ角と溶融特性の観点から、グリシジルメタアクリレートとアルキル(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体が好ましい。
【0149】
(B−2−ii)α,β−不飽和モノカルボン酸
α,β−不飽和モノカルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等、および、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水琥珀酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート無水フタル酸付加物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートテトラヒドロ無水フタル酸付加物、(メタ)アクリル酸とε−カプロラクトンとの反応生成物等が挙げられる。中でも、感度の観点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0150】
(B−2−iii)多価カルボン酸および/またはその無水物
多価カルボン酸および/またはその無水物としては、例えば、琥珀酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、3−メチルテトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸、3−エチルテトラヒドロフタル酸、4−エチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3−メチルヘキサヒドロフタル酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、3−エチルヘキサヒドロフタル酸、4−エチルヘキサヒドロフタル酸、およびそれらの無水物等が挙げられる。中でも、画像再現性、現像性の観点から、マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、またはヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましく、テトラヒドロフタル酸無水物が更に好ましい。
【0151】
酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂としては、酸価が20〜200mg−KOH/gであるものが好ましく、30〜180mg−KOH/gであるものが更に好ましい。また、酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、通常1,000以上、好ましくは1,500以上であり、通常30,000以下、好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
【0152】
上記酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、従来公知の方法により合成することができる。具体的には、前記(B−2−i)エポキシ樹脂を有機溶剤に溶解させ、触媒と熱重合禁止剤の共存下、前記(B−2−ii)α,β−不飽和モノカルボン酸を加えて付加反応させ、更に(B−2−iii)多価カルボン酸および/またはその無水物を加えて反応を続ける方法を用いることができる。
【0153】
ここで、反応に用いる有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶剤の1種または2種以上が挙げられる。
【0154】
また、上記触媒としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリベンジルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンミニウム塩類、トリフェニルホスフィン等の燐化合物、トリフェニルスチビン等のスチビン類等の1種または2種以上が挙げられる。
【0155】
更に、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0156】
(B−2−ii)α,β−不飽和モノカルボン酸の配合量としては、(B−2−i)エポキシ樹脂のエポキシ基の1化学当量に対して通常0.7〜1.3化学当量、好ましくは0.9〜1.1化学当量となる量とすることができる。
また、付加反応時の温度としては、通常60〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度とすることができる。
更に、(B−2−iii)多価カルボン酸および/またはその無水物の配合量としては、前記付加反応で生じた水酸基の1化学当量に対して、通常0.1〜1.2化学当量、好ましくは0.2〜1.1化学当量となる量とすることができる。
【0157】
酸変性型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂について、構成繰返し単位の具体例を以下に示す。
【0158】
【化5】

【0159】
【化6】

【0160】
[C]変性ノボラック樹脂
変性ノボラック樹脂は、(C−i)ノボラック樹脂の1種または2種以上と(C−ii)不飽和基含有エポキシ化合物の1種または2種以上を反応させ、この反応物の水酸基にさらに(C−iii)多塩基酸および/またはその無水物の1種または2種以上を付加させる
ことで得られる。(ただし、ノボラック樹脂の代りにレゾール樹脂を用いてもよい。)
【0161】
(C−i)ノボラック樹脂
ノボラック樹脂としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、プロピルフェノール、n−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、4,4’−ビフェニルジオール、ビスフェノール−A、ピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、1,2,4−ベンゼントリオール、安息香酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、サリチル酸、フロログルシノール等のフェノール類の少なくとも1種を、酸触媒下、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類、または、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、の少なくとも1種と重縮合させた樹脂が挙げられる。
【0162】
上記フェノール類とアルデヒド類との縮合反応は、無溶剤下または溶剤中で行われる。またノボラック樹脂の重縮合における酸触媒に代えてアルカリ触媒を用いる以外は同様に
して重縮合させたレゾール樹脂も使用可能である。
【0163】
ノボラック樹脂の重量平均分子量(Mw)は通常1,000〜20,000であり、好ましくは1,000〜10,000であり、更に好ましくは1,000〜8,000である。重量平均分子量が1,000未満では画像強度が確保されないおそれがあり、20,000を超えると現像性が低下するおそれがある。
【0164】
(C−ii)不飽和基含有エポキシ化合物
不飽和基含有エポキシ化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、グリシジルオキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)ビニルなどが挙げられる。
これらのうち、特にグリシジルメタクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0165】
ノボラック樹脂と不飽和基含有エポキシ化合物の反応には公知の方法を用いることができる。例えばトリエチルアミン、ベンジルメチルアミン等の3級アミン、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、ピリジン、トリフェニルホスフィン等の1種または2種以上を触媒として、有機溶剤中、反応温度50〜150℃で数〜数十時間反応させることにより、ノボラック樹脂に不飽和基含有エポキシ化合物を付加することができる。
【0166】
該触媒の使用量は、反応原料混合物(ノボラック樹脂と不飽和基含有エポキシ化合物との合計)に対して好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.3〜5重量%である。また反応中の重合を防止するために、重合防止剤(例えばメトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ピロガロール、tert−ブチルカテコール、ジブチルヒドロキシトルエン、フェノチアジン等の1種または2種以上)を使用することが好ましく、その使用量は、反応原料混合物に対して好ましくは0.01〜10重量%、特に好ましくは0.03〜5重量%である。
【0167】
ノボラック樹脂のフェノール性水酸基に不飽和基含有エポキシ化合物を付加させる割合は、1〜100モル%である。この割合はフェノール性水酸基に対して加える不飽和基含有エポキシ化合物の量で調整できる。
【0168】
(C−iii)多塩基酸および/またはその無水物
ノボラック樹脂と不飽和基含有エポキシ化合物の反応物の水酸基にさらに多塩基酸および/またはその無水物を付加させることができる。ここで用いる多塩基酸および/またはその無水物としては、公知のものが使用でき、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、メチルテトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸等の二塩基性カルボン酸またはその無水物;トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸等の多塩基性カルボン酸またはその無水物等が挙げられる。中でも好ましくは、テトラヒドロ無水フタル酸または無水コハク酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0169】
多塩基酸および/またはその無水物の付加率は、ノボラック樹脂と不飽和基含有エポキシ化合物の反応物の水酸基の、通常10〜100モル%、好ましくは20〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%である。この付加率が少なすぎると現像性が不足するおそれがある。
【0170】
撥液性感光性組成物中における上述のようなバインダー樹脂の割合は、全固形分に対して、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、特に好ましくは60重量%以上で、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。これより少ないと構造物の形状確保が困難となる恐れがあり、一方多すぎると感度や現像性の低下を招く恐れがある。
なお、上記バインダー樹脂は1種を単独で用いても、各種混合して用いてもよい。
【0171】
<エチレン性不飽和化合物>
本発明に係る撥液性感光性組成物は、エチレン性不飽和化合物を含有することが好ましい。
【0172】
ここで使用されるエチレン性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和結合を分子内に1個以上有する化合物を意味するが、重合性、架橋性、およびそれに伴う露光部と非露光部の現像液溶解性の差異を拡大できる等の点から、エチレン性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物であることが好ましく、また、その不飽和結合は(メタ)アクリロイルオキシ基に由来する(メタ)アクリレート化合物が更に好ましい。
【0173】
撥液性感光性組成物中のエチレン性不飽和化合物の含有割合は、全固形分に対して通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下である。エチレン性不飽和化合物の含有量が、この下限を下回ると、露光の際に充分な感度が得られない恐れがあり、上限を上回ると好ましい構造物形状を確保できない恐れがある。
【0174】
本発明に係る撥液性感光性組成物に好適に含まれるエチレン性不飽和化合物の具体例および好ましい例は、前述の下引き層用組成物に含まれていてもよいエチレン性不飽和化合物として記載したものと同様である。
【0175】
<光重合開始剤>
本発明に係る撥液性感光性組成物には光重合開始剤を含有することが好ましい。
ここで使用される光重合開始剤は活性光線によりエチレン性不飽和基を重合させる化合物であれば特に限定されるものではなく、公知の光重合開始剤を用いることが出来る。
【0176】
撥液性感光性組成物中の光重合開始剤の含有割合としては、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.5重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。感光性組成物中の光重合開始剤の含有量が過度に大きいと、基板に対する密着性が低下する場合がある。一方、過度に少ないと、硬化性が低下する場合がある。
【0177】
また、撥液性感光性組成物中のエチレン性不飽和化合物に対する光重合開始剤の配合比としては、(エチレン性不飽和化合物)/(光重合開始剤)(重量比)の値として、通常1/1〜100/1、好ましくは2/1〜50/1である。エチレン性不飽和化合物と光重合開始剤との配合比がこの範囲を逸脱すると、密着性や硬化性が低下する場合がある。
【0178】
光重合開始剤の具体例としては、前述の下引き層用組成物に含有していてもよい光重合開始剤として記載したものと同様であり、好ましい例も同様である。また、撥液性感光性組成物においても、下引き層用組成物と同様に、光重合開始剤に水素供与性化合物や熱重合開始剤を併用してもよく、この具体例や好ましい例も下引き層用組成物に含有していてもよい光重合開始剤に併用してもよい水素供与性化合物や熱重合開始剤として例示したものと同様である。
【0179】
光重合開始剤に水素供与性化合物や熱重合開始剤を併用する場合、これらの合計で、前述の撥液性感光性組成物中の光重合開始剤含有割合となるようにすることが好ましく、また、光重合開始剤と水素供与性化合物と熱重合開始剤との併用割合としては、光重合開始剤に対して水素供与性化合物を5〜300重量%、光重合開始剤に対して熱重合開始剤を5〜300重量%とすることが好ましい。
【0180】
<アミノ化合物>
本発明に係る撥液性感光性組成物には、硬化を促進するためにアミノ化合物が含まれていてもよい。
【0181】
この場合、撥液性感光性組成物中のアミノ化合物の含有量としては、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。また、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上である。撥液性感光性組成物中のアミノ化合物の含有量が過度に多いと、撥液性感光性組成物の保存安定性が悪化するおそれがある。また、アミノ化合物の含有量が少ないと硬化促進効果が期待できないおそれがある。
【0182】
アミノ化合物としては、例えば、官能基としてメチロール基、それを炭素数1〜8のアルコール縮合変性したアルコキシメチル基を少なくとも2個有するアミノ化合物が挙げられる。
より具体的には、例えば、
メラミンとホルムアルデヒドとを重縮合させたメラミン樹脂;
ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとを重縮合させたベンゾグアナミン樹脂;
グリコールウリルとホルムアルデヒドとを重縮合させたグリコールウリル樹脂;
尿素とホルムアルデヒドとを重縮合させた尿素樹脂;
メラミン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、または尿素等の2種以上とホルムアルデヒドとを共重縮合させた樹脂;
上述の樹脂のメチロール基をアルコール縮合変性した変性樹脂;
等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0183】
アミノ化合物としては中でも、メラミン樹脂およびその変性樹脂が好ましく、メチロール基の変性割合が、70%以上の変性樹脂が更に好ましく、80%以上の変性樹脂が特に好ましい。
【0184】
上記アミノ化合物の具体例として、メラミン樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「サイメル」(登録商標)300、301、303、350、736、738、370、771、325、327、703、701、266、267、285、232、235、238、1141、272、254、202、1156、1158、および、三和ケミカル社製の「ニカラック」(登録商標)MW−390、MW−100LM、MX−750LM、MW−30M、MX−45、MX−302等が挙げられる。
また、上記ベンゾグアナミン樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、「サイメル」(登録商標)1123、1125、1128等が挙げられる。
また、上記グリコールウリル樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、「サイメル」(登録商標)1170、1171、1174、1172、および、「ニカラック」(登録商標)MX−270等が挙げられる。
また、上記尿素樹脂およびその変性樹脂としては、例えば、三井サイテック社製の「UFR」(登録商標)65、300、および、「ニカラック」(登録商標)MX−290等が挙げられる。
【0185】
<その他の成分>
本発明に係る撥液性感光性組成物には、また、上記成分以外に着色剤、架橋剤、塗布性向上剤、現像改良剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、エポキシ化合物、その他の樹脂等を適宜配合することができる。
【0186】
<着色剤>
着色剤としては、顔料、染料等公知の着色剤を用いることができる。また、例えば、顔料を用いる際に、その顔料が凝集したりせずに安定して撥液性感光性組成物中に存在できるように、公知の分散剤や分散助剤が併用されてもよい。特に、隔壁を黒色に着色することで、鮮明な画素が得られる効果がある。黒色着色剤としては黒色染料や、カーボンブラック、チタンブラックなどの他、有機顔料を混合させて黒く着色することも低導電性を持たせる効果として有効であり、高抵抗が求められる液晶や有機ELディスプレイ等に用いられる樹脂ブラックマトリックスやインクジェット用のバンクなどの部材として構造物を形成させる場合に適している。
【0187】
着色剤の含有量としては撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0188】
<表面改質剤、現像改良剤>
表面改質剤あるいは現像改良剤としては、例えば公知の、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、フッ素系、シリコン系界面活性剤を用いることができる。また、現像改良剤として、有機カルボン酸或いはその無水物など公知のものを用いることもできる。また、その含有量は、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【0189】
<重合禁止剤、酸化防止剤>
撥液性感光性組成物には、安定性向上の観点等から、ハイドロキノン、メトキシフェノール等の重合禁止剤や、2,6−ジ−tert−ブチル−4−クレゾール(BHT)等のヒンダードフェノール系の酸化防止剤を含有する事が好ましい。その含有量としては、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常5ppm以上1000ppm以下、好ましくは10ppm以上600ppm以下の範囲である。その含有量が過度に小さいと、安定性が悪化する傾向となる。一方、過度に多いと、例えば光および/または熱による硬化の際に、硬化が不十分となる可能性がある。特に、通常のフォトリソグラフィー法に使用される場合には、撥液性感光性組成物の保存安定性および感度の両面から鑑みた最適量に設定する必要がある。
【0190】
<シランカップリング剤>
撥液性感光性組成物には、基板との密着性を改善するため、シランカップリング剤を添加することも好ましい。シランカップリング剤の種類としては、エポキシ系、メタクリル系、アミノ系、イミダゾール系等種々の物が使用できるが、特にエポキシ系、イミダゾール系のシランカップリング剤が好ましい。その含有量は、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。
【0191】
<エポキシ化合物>
撥液性感光性組成物には、硬化性や基板との密着性を改善するため、エポキシ化合物を添加することも好ましい。
エポキシ化合物としては、所謂エポキシ樹脂の繰返し単位を構成する、ポリヒドロキシ化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル化合物、ポリカルボン酸化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエステル化合物、および、ポリアミン化合物とエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルアミン化合物等の、低分子量物から高分子量物にわたる化合物が挙げられる。
【0192】
上記ポリグリシジルエーテル化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル型エポキシ、ビス(4−ヒドロキシフェニル)のジグリシジルエーテル型エポキシ、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)のジグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ、テトラメチルビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ、エチレンオキシド付加ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ、フルオレン型ビスフェノールのジグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ等が挙げられる。これらのポリグリシジルエーテル化合物は、残存するヒドロキシル基に酸無水物や2価の酸化合物等を反応させカルボキシ基を導入したものであってもよい。
【0193】
また、上記ポリグリシジルエステル化合物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル型エポキシ、フタル酸のジグリシジルエステル型エポキシ等が挙げられる。また、上記ポリグリシジルアミン化合物としては、例えば、ビス(4−アミノフェニル)メタンのジグリシジルアミン型エポキシ、イソシアヌル酸のトリグリシジルアミン型エポキシ等が挙げられる。
【0194】
エポキシ化合物の含有量としては、撥液性感光性組成物の全固形分に対して、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。エポキシ化合物の含有量が多すぎる場合には、撥液性感光性組成物の保存安定性が悪化する可能性がある。
【0195】
<溶剤>
本発明で用いる撥液性感光性組成物は、通常水や有機溶剤などの溶剤を含有し、前述の各成分を溶剤に溶解または分散させた状態で使用される。
【0196】
その溶剤としては、特に制限は無いが、例えば、水と、以下に記載する有機溶剤が挙げられるが、好ましくは有機溶剤である。
【0197】
本発明の撥液性感光性組成物に含有させることができる有機溶剤の具体例を以下に例示する。
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコール−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、メトキシメチルペンタノール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテルのようなグリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルのようなグリコールジアルキルエーテル類;
【0198】
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、メトキシペンチルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メトキシ−1−ブチルアセテートのようなグリコールアルキルエーテルアセテート類;
エチレングリコールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,6−ヘキサノールジアセテートなどのグリコールジアセテート類;
シクロヘキサノールアセテートなどのアルキルアセテート類;
【0199】
アミルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジヘキシルエーテルのようなエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソアミルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルアミルケトン、メチルブチルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルノニルケトン、メトキシメチルペンタノンのようなケトン類;
【0200】
エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、メトキシメチルペンタノール、グリセリン、ベンジルアルコールのような1価または多価アルコール類;
n−ペンタン、n−オクタン、ジイソブチレン、n−ヘキサン、ヘキセン、イソプレン、ジペンテン、ドデカンのような脂肪族炭化水素類;
シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、ビシクロヘキシルのような脂環式炭化水素類;
【0201】
ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンのような芳香族炭化水素類;
アミルホルメート、エチルホルメート、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸アミル、メチルイソブチレート、エチレングリコールアセテート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、イソ酪酸メチル、エチルカプリレート、ブチルステアレート、エチルベンゾエート、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトンのような鎖状または環状エステル類;
3−メトキシプロピオン酸、3−エトキシプロピオン酸のようなアルコキシカルボン酸類;
ブチルクロライド、アミルクロライドのようなハロゲン化炭化水素類;
メトキシメチルペンタノンのようなエーテルケトン類;
アセトニトリル、ベンゾニトリルのようなニトリル類等:
【0202】
上記に該当する市販の溶剤としては、ミネラルスピリット、バルソル#2、アプコ#18ソルベント、アプコシンナー、ソーカルソルベントNo.1およびNo.2、ソルベッソ#150、シェルTS28 ソルベント、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート、ジグライム(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0203】
上記溶剤は、撥液性感光性組成物中の各成分を溶解または分散させることができるもので、撥液性感光性組成物の使用方法に応じて選択されるが、沸点が60〜280℃の範囲のものを選択するのが好ましい。より好ましくは70℃以上、260℃以下の沸点をもつものであり、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−1−ブチルアセテート、イソプロパノール等が好ましい。これらの溶剤は1種を単独でもしくは2種以上を混合して使用することができる。
【0204】
また、これらの溶剤は、撥液性感光性組成物中の全固形分の割合が、通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下となるように使用されることが好ましい。
全固形分濃度がこの下限を下回ると、均一な膜を成膜できない恐れがあり、上限を上回ると必要な膜厚に制御できない恐れがある。
【0205】
[構造物の形成]
以下に図面を参照して前述の本発明の下引き層用組成物と、上述の撥液性感光性組成物を用いて、基板上に本発明で目的とする構造物を形成する方法を説明する。
【0206】
図1(A)〜(E)は、本発明の下引き層用組成物と撥液性感光性組成物を用いて構造物(図1ではバンク)を形成して本発明の有機薄膜パターニング用基板を製造する製造手順と製造された有機薄膜パターニング用基板への有機薄膜の形成工程の実施の形態を示す模式的な断面図である。
【0207】
<下引き層形成>
まず、基板11上に直接または他の層を介して本発明の下引き層用組成物を、前述の方法で成膜して乾燥することにより下引き層12を形成する(図1(A))。本発明の下引き層用組成物は、基板上に他の層を介して形成されることが好ましく、特に基板上に形成された有機層上に形成されることが好ましい。この場合、基板と有機層の間にはさらに他の層を有していてもよい。
【0208】
ここで、基板11上に形成し得る他の層とは、例えば有機電界発光素子用途であれば、陽極や陰極などの電極層や正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、発光層などの有機層が挙げられる。他の層は、1層からなるものであっても、2層以上が積層されたものであってもよい。これら、陽極や陰極などの電極層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、発光層および基板については、後述の有機電界発光素子の説明部分で詳述する。
【0209】
<撥液性感光性組成物層の形成>
<成膜>
上述の撥液性感光性組成物を、前述の本発明の下引き層用組成物により形成した下引き層12上に成膜して、撥液性感光性組成物層(以下、「レジスト層」という場合がある。)13を形成する際の成膜方法としては、例えば、スピナー法、ワイヤーバー法、フローコート法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法などを採用することができる。
中でも、ダイコート法は、撥液性感光性組成物の使用量が大幅に削減され、かつ、スピンコート法によった際に付着するミストなどの影響が全くない、異物発生が抑制されるなど、総合的な観点から好ましい。
【0210】
成膜に供される撥液性感光性組成物の使用量は、形成される構造物の高さに応じて自由に設定されるが、例えば構造物がそれによって区画された領域内に有機薄膜を塗り分けるためのバンクとして用いられる場合は、乾燥膜厚として、下引き層12も含めた構造物の高さ、即ち、後述の図1(D)の厚さHが、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1μm以上、通常10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは7μm以下の膜厚となる量である。この際、乾燥膜厚あるいは最終的に形成されたバンクの高さが、基板全域に渡って均一であることが重要である。このばらつきが大きい場合には、有機薄膜をパターニングした基板にムラ欠陥を生ずることとなるおそれがある。
【0211】
<乾燥>
下引き層上に撥液性感光性組成物を成膜した後の乾燥には、ホットプレート、IRオーブン、またはコンベクションオーブンを使用することが好ましい。
【0212】
乾燥条件は、撥液性感光性組成物に含まれる溶剤成分の種類、使用する乾燥機の性能などに応じて適宜選択することができ、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、通常130℃以下、好ましくは110℃以下の温度で乾燥する。また、乾燥時間としては、15秒以上が好ましく、30秒以上が好ましく、5分以下が好ましく、3分以下が好ましい。乾燥温度が低過ぎたり乾燥時間が短い場合には十分に乾燥を行うことができず、その後の露光における感度が不安定となるおそれがあり、乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎると、生産性低下や、基板、その他の層の熱劣化のおそれがある。
なお、乾燥は、温度を高めず、減圧チャンバー内で乾燥を行う減圧乾燥法であってもよく、また減圧乾燥と加熱乾燥との併用でもよい。
【0213】
<構造物の形成>
上述のように下引き層12の上に、撥液性感光性組成物を全面的に成膜して、乾燥することで撥液性感光性組成物層13を形成した後、露光マスク20を用いてバンクパターンを露光し、さらに非画像部の撥液性感光性組成物層13を下引き層12と共に現像処理で除去することにより、構造物14を形成する(図1(C),(D))。
【0214】
<露光>
露光は、撥液性感光性組成物を成膜、乾燥して形成された撥液性感光性組成物層13上に、露光マスク(マスクパターン)20を重ね、この露光マスクを介し、紫外線または可視光線等の光活性線の光源を照射して行う。このように露光マスク20を用いて露光を行う場合には、露光マスクをレジスト層に近接させる方法や、露光マスクをレジスト層から離れた位置に配置し、該露光マスクを介した露光光を投影する方法によってもよい。
また、露光マスクを用いないレーザー光による走査露光方式によってもよい。
【0215】
この際、必要に応じ、酸素によるレジスト層の感度の低下を防ぐため、脱酸素雰囲気下で行ったり、レジスト層上にポリビニルアルコール層などの酸素遮断層を形成した後に露光を行ってもよい。
【0216】
上記の露光に使用される光源は、特に限定されるものではない。光源としては、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、中圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、蛍光ランプなどのランプ光源や、アルゴンイオンレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、窒素レーザー、ヘリウムカドミニウムレーザー、青紫色半導体レーザー、近赤外半導体レーザーなどのレーザー光源などが挙げられる。特定の波長の光を照射して使用する場合には、光学フィルタを利用することもできる。
【0217】
光学フィルタとしては、例えば薄膜で露光波長における光透過率を制御可能なタイプでもよく、その場合の材質としては、例えばCr化合物(Crの酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物など)、MoSi、Si、W、Al等が挙げられる。
【0218】
露光量としては、通常、1mJ/cm以上、好ましくは5mJ/cm以上、より好ましくは10mJ/cm以上であり、通常300mJ/cm以下、好ましくは200mJ/cm以下、より好ましくは150mJ/cm以下である。
また、近接露光方式の場合には、露光対象とマスクパターンとの距離としては、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは75μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下である。
【0219】
<現像>
上記の露光を行った後、現像することで、構造物パターンを形成することができる。現像に用いる現像液としては、限定されるものではないが、アルカリ性化合物の水溶液や有機溶剤を用いることが好ましい。
現像液には、さらに界面活性剤、消泡剤、緩衝剤、錯化剤等を含ませることができる。
【0220】
アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、水酸化アンモニウムなどの無機アルカリ性化合物や、モノ−・ジ−またはトリエタノールアミン、モノ−・ジ−またはトリメチルアミン、モノ−・ジ−またはトリエチルアミン、モノ−またはジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノ−・ジ−またはトリイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、コリンなどの有機アルカリ性化合物が挙げられる。これらのアルカリ性化合物は、2種以上の混合物であってもよい。
【0221】
なお、形成された構造物を有機電界発光素子の製造に用いる場合は、素子性能への悪影響が少ない点で、アルカリ性化合物を現像液として用いる場合は有機アルカリ性化合物の水溶液を用いることが好ましい。
この場合、この有機アルカリ水溶液の有機アルカリ性化合物濃度は過度に高濃度であるとバンクにダメージを与える可能性があり、過度に低濃度であると充分な現像性が確保できない可能性がある。
【0222】
有機溶剤としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよく、また水溶液として用いてもよい。
【0223】
現像は、アルカリ性化合物や有機溶剤からなるものをそれぞれ用いてもよいし、これらを混合して例えば、TMAH等の有機アルカリ0.05〜5重量%と、エチルアルコール等のアルコール類0.1〜20重量%を含む水溶液として用いてもよいし、さらに複数の現像液を何段階かに分けて使用してもよい。例えばTMAH水溶液を用いて1段階目の現像をした後、エタノールを用いて2段階目の現像をするなどの方法を採用することができる。
【0224】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、モノグリセリドアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類などのアニオン性界面活性剤;アルキルベタイン類、アミノ酸類などの両性界面活性剤:が挙げられる。
【0225】
現像処理の方法については特に制限は無いが、通常10℃以上、好ましくは15℃以上、通常50℃以下、好ましくは45℃以下の現像温度で、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法により行われる。
【0226】
現像の際、非画像部の下引き層はレジスト層とともに除去される。従って、非画像部にレジスト層および下引き層は残留せず、非画像部には、下引き層の下層の基板または他の層が表出する。ここで、非画像部とは、露光、現像により除去される部分であって、構造物として残る以外の部分をいう。
【0227】
ここで、下引き層はレジスト層と基板との界面に存在し、下引き層と構造物は完全に一体化した構造物を形成するため、例えば特開2005−326799公報に提案されている様な、二段式のバンクとは全く異なるものである。又、特開2005−174906公報に提案されている様な側面が親液性で、上面部のみ撥液性という2層式のバンクとも異なるものであり、本発明により得られる構造物は、あくまでも側面は、撥液性成分を含有する上面部と同一の撥液性感光性組成物から得られるものであり、下引き層は、基板または他の層との界面の極下層部だけに存在するものである。
なお、下引き層と構造物は形状的に一体化してはいるものの、撥液性感光性組成物の塗布時には下引き層は膜を維持しており、構造物形成後も二層になっている様子が観察されるが、現像後のベークや経時等で下引き層と構造物がコンタミし、限りなく一体化することもある。
【0228】
<追露光および熱硬化処理>
現像の後、必要により上記の露光方法と同様な方法により追露光を行ってもよく、また熱硬化処理を行ってもよい。
追露光の条件としては、上記露光条件と同様である。
熱硬化処理条件の温度は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、通常280℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下であり、時間は、通常5分以上、好ましくは20分以上、通常60分以下である。特に、撥液性の発現には、熱硬化処理を200〜240℃で20〜60分程度実施することが好ましい。
尚、本発明に係る構造物を有機電界発光素子の正孔注入層や正孔輸送層上に形成する場合は、この熱硬化処理を窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0229】
<製法の特徴>
本発明により得られる構造物を有した基板は、上述のように、親水性有機化合物を含有する下引き層を介して基板上に撥液性の構造物が形成されている。
【0230】
該撥液性の構造物を有した基板は、構造物に含まれる撥液性成分が、製造途中においても基板に直接接することがないため非構造物領域に撥液性成分が残渣として残らない。例えばこの構造物を撥インク性の隔壁(バンク)として用い、その隔壁で囲まれた領域にインクを施しても、インクの被塗布面、すなわち、隔壁で囲まれた領域にハジキによる白抜けなどが起こらず、インクの塗布性が良好となるので、隔壁で囲まれた領域にインク吐出型の塗布方法により有機薄膜が形成される場合に好適である。特に、基板上に他の層として有機層を介する場合、一般的には撥液性感光性組成物の残渣が残り易いが、本発明に係る下引き層を介せば残渣の問題が解決され、好適である。中でも、その基板上の有機層が、有機電界発光素子の正孔注入層や正孔輸送層上である場合、撥液性感光性組成物の残渣が素子性能も大きく悪化させることとなるため、このような撥液性感光性組成物の残渣の問題のない本発明の技術は非常に効果的である。
【0231】
すなわち、有機層上に隔壁を形成する場合、レジスト層と有機層との親和性が高く、現像の際に非画像部のレジスト層を除去し難い。また、現像で有機層にダメージやイオン性の付着物を与えてしまうと、素子性能を顕著に悪化させる。従って、有機層に影響を及ぼすことなく非画像部のレジスト層を完全に現像除去することが特に重要となる。この場合において、本発明では、現像除去性に優れた下引き層を介して撥液性感光性組成物を施してレジスト層を形成することから、現像除去もマイルドな条件で行うことができ、製造プロセスにおいても、得られる素子性能においても、従来法に比べて格段に改善される。
【0232】
[有機薄膜の形成]
本発明の下引き層用組成物と上述の撥液性感光性組成物を用いて形成される構造物は、有機薄膜を区画するために用いられる隔壁であることが好ましく、従って、このような構造物を直接または他の層を介して形成してなる基板は、これを有機薄膜パターニング用基板として用い、構造物である基板上の隔壁(バンク)によって区画された領域内に、例えば有機電界発光素子の有機層などの有機薄膜を形成する用途に用いることが好ましい。
【0233】
以下にこの有機薄膜の形成方法について図1(D),(E)を参照して説明する。
【0234】
有機薄膜パターニング用基板の基板11上のバンク(構造物)14で区画された領域15内に有機薄膜16を形成させるには、通常、有機薄膜16の成分を溶剤に溶解または分散させたインクをバンク区画領域15内に供給して乾燥させる。
【0235】
このインクをバンク区画領域15内に供給させる方法は特に限定されないが、インクジェット法(液滴吐出法)やノズルプリント法(液流吐出法)といったインク吐出型の塗布法が好ましい(特開昭59−75205号公報、特開昭61−245106号公報、特開昭63−235901号公報)。
即ち、インク吐出型の塗布法は特定の領域にのみ選択的にインクを塗布することができ、材料ロスが少なく、また効率的な製造プロセスで良好に有機薄膜を形成することができるという利点を有している。また、インクの塗布とパターニングの両方を同時に行うことが可能であるという特徴があるため、製造コストの点で極めて有利な製造法である。
【0236】
インク吐出型の塗布法に用いられるインクの溶剤としては、高沸点溶剤成分を比較的多く添加することにより、ノズルの乾燥を防止することが一般的に知られており、また、パターニングを塗布と同時に行う吐出型の塗布法においては、スピンコート法やダイコート法と異なり、組成物中の溶剤成分が、最終的に得られる塗膜の膜厚や、形状、均一性にことのほか影響を与えることが報告されており(「表面科学セミナー」2001年65〜77頁など)、溶剤の選定にはこれらを考慮した上で最適な溶剤を選定することが好ましい。
【0237】
バンク区画領域内にインクを供給した後は、乾燥工程によって有機薄膜を形成させるが、この乾燥条件は公知の方法を自由に選定することができ、例えばホットプレート、IRオーブン、コンベクションオーブンなどが挙げられる。また、温度を高めず、減圧チャンバー内で乾燥を行う、減圧乾燥法を組み合わせてもよい。またその環境は、形成させる有機薄膜の特性に応じて、大気中、Nガス中、減圧中などを選定できる。
【0238】
[有機電界発光素子]
本発明の下引き層用組成物は、有機電界発光素子の製造に好適に用いられる。
即ち、本発明の下引き層用組成物と上述の撥液性感光性組成物を用いて形成された構造物は、有機電界発光素子の有機層を区画するために用いられる隔壁であることが好ましく、特にこの有機層は、発光層を含む層であることが好ましい。
従って、基板上に、直接または他の層を介して、本発明の下引き層用組成物を成膜、乾燥して下引き層を形成し、この下引き層上に、前述の撥液性感光性組成物を成膜、乾燥して撥液性感光性組成物層を形成した後、露光、および現像することにより得られた構造物を隔壁として有する本発明の有機薄膜パターニング用基板は、有機電界発光素子の製造に用いることが好ましい。
【0239】
この本発明の有機薄膜パターニング用基板を用いた本発明の有機電界発光素子は、基板上にバンクおよび該バンクによって区画された領域を有し、該バンクによって区画された領域内に有機薄膜を有する有機電界発光素子であって、該バンクは、本発明の下引き層用組成物により形成された下引き層上に前述の撥液性感光性組成物を用いて形成された構造物よりなるものである。
【0240】
本発明の有機電界発光素子において、バンク区画領域内に形成される有機薄膜としては、高精度に色分けができるという点においても、少なくとも1層は発光層であることが好ましい。また、バンクは、有機層上に形成されていることが好ましく、この有機層としては、正孔注入層および/または正孔輸送層が好ましい。
【0241】
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図2を参照して説明する。
【0242】
図2は、本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図2において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0243】
なお、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0244】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0245】
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
【0246】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0247】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0248】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0249】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0250】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは、好ましい。
【0251】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0252】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0253】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0254】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0255】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
【0256】
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0257】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物等が挙げられる。
【0258】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
【0259】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0260】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0261】
【化7】

【0262】
(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0263】
【化8】

(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
【0264】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0265】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0266】
およびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが
挙げられる。
【0267】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0268】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0269】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0270】
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0271】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。
【0272】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0273】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0274】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0275】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、
中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0276】
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0277】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0278】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
【0279】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
【0280】
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0281】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。
【0282】
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0283】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0284】
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0285】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0286】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0287】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0288】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0289】
{正孔輸送層}
正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0290】
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。ただし、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0291】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0292】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,
91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
【0293】
湿式成膜で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0294】
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0295】
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0296】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0297】
正孔輸送層4は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、架橋基を有する化合物であって、架橋することによりポリマーを形成する。架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0298】
架橋性化合物の架橋基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブタン由来の基などが挙げられる。
【0299】
架橋性化合物、すなわち、架橋基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーが有する架橋基の数に特に制限はないが、単位電荷輸送ユニットあたり通常2.0未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下となる数が好ましい。これは正孔輸送層形成材料の比誘電率を好適な範囲に調整するためである。また、架橋基の数が多すぎると、反応活性種が発生し、他の材料に悪影響を与える可能性があるためである。ここで、単位電荷輸送ユニットとは、架橋性ポリマーを形成する材料がモノマー体の場合、モノマー体そのものであり、架橋基を除いた骨格(主骨格)のことを示す。他種類のモノマーを混合する場合においても、それぞれのモノマーの主骨格のことを示す。架橋性ポリマーを形成する材料がオリゴマーやポリマーの場合、有機化学的に共役がとぎれる構造の繰り返しの場合は、その繰り返しの構造を単位電荷輸送ユニットとする。また、広く共役が連なっている構造の場合には、電荷輸送性を示す最小繰り返し構造、乃至はモノマー構造を示す。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペリレンなどの多環系芳香族、フルオレン、トリフェニレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラアリールベンジジン、1,4−ビス(ジアリールアミノ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0300】
さらに、架橋性化合物としては、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。この場合の正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘
導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0301】
架橋性化合物の分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。
【0302】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜法により成膜し、その後架橋性化合物を架橋させる。
【0303】
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0304】
また、正孔輸送層形成用組成物は、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物、バインダー樹脂などを含有していてもよい。
【0305】
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0306】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
【0307】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
【0308】
成膜後の加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
【0309】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0310】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0311】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0312】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0313】
{発光層}
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0314】
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0315】
(発光材料)
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における、蛍光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
【0316】
発光材料としては、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。また、青色は蛍光発光材料を用い、緑色や赤色は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
【0317】
なお、発光材料としては、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いることが好ましい。
【0318】
以下、発光材料のうち蛍光発光材料(蛍光色素)の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。
【0319】
青色発光を与える蛍光色素(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。 中でも、アントラセン、クリセン、ピレンおよびそれらの誘導体等が好ましい。
【0320】
緑色発光を与える蛍光色素(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、Al(CNO)などのアルミニウム錯体およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0321】
黄色発光を与える蛍光色素(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0322】
赤色発光を与える蛍光色素(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチレン)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザベンゾチオキサンテン等のキサンテンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0323】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または有機金属錯体が挙げられる。
【0324】
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウムまたは白金である。
【0325】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0326】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0327】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0328】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0329】
発光層5における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0330】
(正孔輸送性化合物)
発光層5には、その構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、
正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔注入層3における(低分子量の正孔輸送性化合物)として例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。
【0331】
これらの正孔輸送性化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0332】
また、発光層5が正孔輸送性化合物を含む場合、発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0333】
(電子輸送性化合物)
発光層5には、その構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。
【0334】
これらの電荷輸送性化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0335】
発光層5が電子輸送性化合物を含む場合、発光層5における電子輸送性化合物の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0336】
<発光層の形成>
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、上記材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。
【0337】
発光層5を湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。発光層用溶剤の好適な例は、上記正孔注入層形成用組成物で説明した溶剤と同様である。
【0338】
発光層5を形成するための発光層形成用組成物中の発光層用溶剤の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0339】
また、発光層形成用組成物中の発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、通常70重量%以下、好ましくは30重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0340】
このような発光層形成用組成物を用いて発光層5を形成するには、発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去する。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。湿式成膜の具体的な方法は、上記正孔注入層3の形成において記載した方法と同様である。
【0341】
このようにして形成される発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0342】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0343】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0344】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0345】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0346】
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0347】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50n
m以下である。
【0348】
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
【0349】
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0350】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0351】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0352】
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
【0353】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0354】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0355】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0356】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用す
ることができる。
【0357】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0358】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0359】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0360】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0361】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0362】
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0363】
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は、電子阻止層を設けることが効果的である。
【0364】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で作製する場合、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット記載)等が挙げられる。
【0365】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0366】
電子阻止層の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用する
ことができる。
【0367】
さらに陰極9と発光層5または電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(ii)(CsCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0368】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図2の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0369】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0370】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0371】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0372】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0373】
{各層の形成}
本発明の有機薄膜パターニング用基板を用いて、図2に示す上述のような本発明の有機電界発光素子を製造するには、基板1上に陽極2と、有機層としての正孔注入層3および/または正孔輸送層4とを形成したものを、図1(A)に示す基板11として用い、この上に前述の方法で下引き層12および撥液性感光性組成物層13を順次積層形成し、その後、露光、現像を行って、図1(D)に示すような構造物(バンク)14を形成する。その後、この構造物(バンク)14で区画された領域15内に、図1(E)に示すように有機薄膜16として発光層5を形成し、必要に応じて、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8を形成し、更に陰極9を形成して有機電界発光素子10とすることが好適である。
【0374】
[有機EL表示装置]
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0375】
[有機EL照明]
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0376】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例で用いた下引き層用組成物および撥液性感光性組成物の組成をそれぞれ表1,表2に示す。
ただし、表1,2中の各成分の詳細は次の通りである。
【0377】
<親水性有機化合物−1>
ポリビニルピロリドン K−90(日本触媒社製)
<親水性有機化合物−2>
ポリビニルピロリドン K−30(日本触媒社製)
<親水性有機化合物−3>
ビニルピロリドン/酢酸ビニル=7/3共重合体(東京化成社製)
<親水性有機化合物−4>
ポリアクリル酸 ジュリマーAC−10L(日本純薬社製)
<バインダー樹脂−1>
以下の合成例1で製造された樹脂
<バインダー樹脂−2>
以下の合成例2で製造された樹脂
<エチレン性不飽和化合物−1>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)(日本化薬社製)
【0378】
<エチレン性不飽和化合物−2>
デコナールアクリレートDA−314(ナガセケムテックス社製)
【化9】

【0379】
<エチレン性不飽和化合物−3>
【化10】

【0380】
<光重合開始剤−1>
イルガキュアー907(チバスペシャルケミカルズ社製)
【化11】

【0381】
<光重合開始剤−2>
イルガキュアOXE02(チバスペシャルケミカルズ社製)
【化12】

【0382】
<架橋剤−1>
【化13】

【0383】
<撥液性成分−1>
メガファック RS−102(DIC社製)
<撥液性成分−2>
オプツールDAC(ダイキン工業社製)
<重合禁止剤−1>
ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)
<現像促進剤−1>
ジエチレングリコール
<液性改質剤−1>
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン BYK−330(ビックケミー社製)
<液性改質剤−2>
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン BYK−378(ビックケミー社製)
<溶剤−1>
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
<溶剤−2>
プロピレングリコールモノメチルエーテル
<溶剤−3>
3−メトキシ−1−ブタノール
【0384】
[合成例1:バインダー樹脂−1の製造]
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート145重量部を窒素置換しながら攪拌し、120℃に昇温した。これに、スチレン20重量部、グリシジルメタクリレート57重量部およびトリシクロデカン骨格を有するモノアクリレート(日立化成(株)製「FA−513M」)82重量部を滴下し、更に、140℃で2時間攪拌し続けた。次に、反応容器内を空気置換し、アクリル酸27重量部にトリスジメチルアミノメチルフェノール0.7重量部およびハイドロキノン0.12重量部を投入し、120℃で6時間反応を続けた。その後、テトラヒドロ無水フタル酸(THPA)52重量部、トリエチルアミン0.7重量部を加え、120℃で3.5時間反応させ、下記式で表されるアルカリ可溶性樹脂であるバインダー樹脂−1を得た。この樹脂の重量平均分子量(Mw)は約8000であった。
【0385】
【化14】

【0386】
[合成例2:バインダー樹脂−2の製造]
重量平均分子量(Mw)4000のm−クレゾールノボラック樹脂120gとグリシジルメタクリレート71gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート191gに溶解し、パラメトキシフェノール0.19gおよびテトラエチルアンモニウムクロライド1.9gを加え、90℃で13時間反応させた。ガスクロ分析でグリシジルメタクリレートが1%以下になったことを確認し、テトラヒドロフタル酸無水物45.6gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート45.6gを加え、95℃で更に5時
間反応させた。IRで酸無水物がなくなったことを確認し、下記式で表されるバインダー樹脂−2を得た。この樹脂の重量平均分子量(Mw)は7500であった。
【0387】
【化15】

【0388】
【表1】

【0389】
【表2】

【0390】
[実施例1〜9]
下記手順に従って、基板上に、正孔注入層および正孔輸送層を形成した上に、下引き層と撥液性感光性組成物層を順次形成し、その後、露光現像して撥液性感光性組成物層の一部を除去し、構造物の形成された部分(ベタ部)と現像処理により撥液性感光性組成物層が除去された部分(クリア部)の接触角をシクロヘキシルベンゼンを用いて測定した。
【0391】
<ガラス基板の洗浄>
ディスプレイ用ガラス基板(旭ガラス社製「AN100」)の研磨面を洗浄剤(ライオン社製「サンウォッシュTL−100」)によって超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄した後、水切りし、次いで180℃のオーブンで10分間乾燥させ、最後にUVオゾン処理(低圧水銀灯にて1000mj/cm)を1分間行った。
【0392】
<正孔注入層の形成>
上記ガラス基板上に、下記式(P1)で表される繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物(重量平均分子量(Mw)20000)、電子受容性化合物として、下記式(A1)で表される4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。この正孔注入層形成用組成物中、(P1):(A1)=100:40(重量比)の比率であり、固形分濃度((P1)および(A1)の合計の含有量)は、2.0重量%であった。
【0393】
【化16】

【0394】
この正孔注入層形成用組成物を乾燥膜厚30nmとなるように、基板上にスピンコートにより成膜し、230℃で3時間加熱して正孔注入層を形成した。
【0395】
<正孔輸送層の形成>
下記式で表される正孔輸送性高分子化合物(重量平均分子量(Mw)52000)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。この正孔輸送層形成用組成物の固形分濃度は、2.0重量%であった。
【0396】
【化17】

【0397】
該正孔輸送層形成用組成物を上記正孔注入層上に、乾燥膜厚20nmとなるようにスピンコートにより成膜し、230℃で1時間加熱架橋させることにより正孔輸送層を形成した。
【0398】
<下引き層の形成>
表1に示す下引き層用組成物1〜6をそれぞれ調製した。調製は、それぞれの成分を配合し、よく混ぜ合わせることにより行った。
この下引き層用組成物1〜6を用いて、それぞれスピンコートにより、表3に示す乾燥膜厚になるように正孔輸送層上に塗布して下引き層を形成した。乾燥は、ホットプレートにて80℃で1分間で実施した。
【0399】
<撥液性感光性組成物によるベタ/クリア画像の形成>
表2に示した撥液性感光性組成物1〜4をそれぞれ調製した。調製は、それぞれの成分を配合し、よく混ぜ合わせることにより行った。
この撥液性感光性組成物1〜4を上記形成された下引き層上に、それぞれスピンコートにより乾燥膜厚3μmになるよう塗布して撥液性感光性組成物層を形成した。
乾燥は1分間、真空乾燥し、さらにホットプレートにて80℃、1分間の条件で実施した。
尚、下引き層用組成物1〜6と撥液性感光性組成物の1〜4は、実施例ごとに表3に示すように組み合わせて用いた。
【0400】
その後、撥液性感光性組成物層形成面の半分を遮光して、3kW高圧水銀を用いて300mJ/cmの露光条件にて露光を施した。
次いで、表3に従って、下記の(現像条件−1)または(現像条件−2)にて現像し、その後これを230℃のオーブンで30分間ポストベークし、撥液性感光性組成物層を用いて形成された構造物のベタ部およびクリア部を有する基板を得た。
なお、この撥液性感光性組成物層のベタ部およびクリア部の画像の形成工程は、紫外光をカットしたイエロー光の下で実施した。
【0401】
(現像条件−1)
TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)2.38重量%を含有する水溶液を現像液として、23℃において水圧0.1MPaのシャワー現像を30秒間施した後、水洗スプレーにて30秒間水洗し、さらに、特級エタノールにて0.1MPaのシャワー圧にて10秒間2次現像を実施し、再び水洗スプレーにて30秒間水洗した後、圧空で水気を切った。
【0402】
(現像条件−2)
TMAH0.5重量%と特級エタノール2重量%を含有する水溶液を現像液として、23℃において水圧0.1MPaのシャワー現像を30秒間実施したのち、水洗スプレーにて30秒間水洗し、圧空で水気を切った。
【0403】
<接触角の測定>
上記得られた構造物のベタ部およびクリア部を有する基板のベタ部とクリア部について、シクロヘキシルベンゼンに対する接触角を測定した。結果を表3に示す。
なお、接触角の測定条件は、次の通りである。
測定装置:協和界面科学社製CA−D型
測定温度:23℃
測定湿度:50%
液滴サイズ:6μm
液着滴後10秒で測定
【0404】
[比較例1〜4]
下引き層を形成しないこと以外は、実施例1〜9と同様にして、同様にベタ部とクリア部のシクロヘキシルベンゼンに対する接触角を測定し、結果を表3に示した。
【0405】
【表3】

【0406】
表3より、下引き層を形成しない比較例1〜4よりも、本発明の下引き層用組成物により下引き層を形成した実施例1〜9は、クリア部の接触角が小さく、撥液性感光性組成物層の残留がなく、次工程の有機薄膜の形成において、有機薄膜を均一に形成することができることが分かる。
【0407】
[実施例10]
図2に示す有機電界発光素子を以下の手順で作製した。なお、発光層は、正孔輸送層上に下引き層を介して撥液性感光性組成物によって形成された構造物としての隔壁(バンク)で区切られた領域内に形成した。
【0408】
<陽極の形成>
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いてパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0409】
<正孔注入層、正孔輸送層、下引き層の形成>
上記得られた陽極2上に、実施例1と同様にして、正孔注入層3、正孔輸送層4および下引き層を形成した。
下引き層は、実施例10では、表1における下引き層用組成物2を用いて形成した。下引き層用組成物2の調製は、それぞれの成分を配合し、よく混ぜ合わせることにより行い、下引き層は乾燥膜厚70nmとなるように形成した。
【0410】
<構造物としての隔壁(バンク)の形成>
撥液性感光性組成物層は、表2における撥液性感光性組成物1を用いて、実施例2と同様にして形成した。撥液性感光性組成物1の調製は、それぞれの成分を配合し、よく混ぜ合わせることにより行った。
その後、30μm幅のライン状の開口が100μmピッチで格子状に並ぶマスクを用いて、3kW高圧水銀を用い、100mJ/cmの露光条件にて露光を施した。次いで、上記現像条件−1で現像を行った。
次に、これを230℃のオーブンで30分間ポストベークし、バンクを得た。
なお、以上のバンク形成の工程は、紫外光をカットしたイエロー光の下で実施した。
【0411】
<発光層の形成>
次に、以下に示す有機化合物(C3)、(C4)、およびイリジウム錯体(D2)を、(C3):(C4):(D2)=10:10:1(重量比)の比率で、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを用い、固形分濃度1重量%の発光層形成用組成物を調製した。
【0412】
【化18】

【0413】
この組成物をインクジェットにて、バンク区画内に液滴量25plで吐出した。
なお、インクジェットは、25ノズルを同時に使用して、25×50画素領域に描画した。これを、減圧下(10kPa)、130℃で、1時間で乾燥した。
このようにして膜厚25nmの発光層5を形成した。
【0414】
<正孔阻止層の形成>
次に、発光層5までを成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が5.1×10−4Pa以下になるまで排気した後、正孔阻止材料として、下記構造式(XX)で表される化合物を真空蒸着法によって成膜した。蒸着速度を0.7〜1.0Å/秒の範囲で制御し、発光層5の上に積層して膜厚5nmの正孔阻止層6を形成した。
【0415】
【化19】

【0416】
<電子輸送層の形成>
次に、電子輸送材料としてトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを蒸着法により成膜した。蒸着速度は、0.6〜1.5Å/秒の範囲で制御し、正孔阻止層6の上に積層して膜厚30nmの電子輸送層7を形成した。
【0417】
<電子注入層の形成>
続けて、陰極蒸着用の真空蒸着装置に移して、装置内の真空度が2.1×10−4Pa以下になるまで排気した。
電子注入層8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、蒸着速度を0.07〜0.1Å/秒で制御し、0.5nmの膜厚で電子輸送層7上に積層した。
【0418】
<陰極の形成>
さらに、陰極9としてアルミニウムを蒸着速度0.7〜6.1Å/秒で制御して膜厚80nmの陰極9を形成した。
【0419】
<封止>
上記方法で得られた各層が形成された基板と、別途用意した封止用のガラスとを紫外線硬化樹脂により貼り合わせ、紫外線を照射することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0420】
[比較例5]
実施例10において、下引き層を形成しなかったこと以外は、同様にして各層の形成と封止を行って有機電界発光素子を得た。
【0421】
[インク濡れ広がり性の評価]
上記有機電界発光素子の形成工程において、インクジェットにて、発光層形成用組成物を吐出、乾燥した後で発光層の濡れ広がり性をそれぞれ顕微鏡で観察したところ、表4に示すように、実施例10では、発光層形成用組成物(インク)がバンクで区切られた領域内において、均一に濡れ広がったが、比較例5では弾いて隅に寄ってしまっていることが分かる。
【0422】
[素子評価]
実施例10で作製した有機電界発光素子について、電圧を印加して発光状況を確認したところ、表4に示すように、発光層がバンクから溢れて隣の画素と混ざり合うこともなく、バンク内および発光面全面でほぼ均一な発光を呈することを確認することができた。
【0423】
なお、表4において、インク濡れ広がり性の評価は、発光層の顕微鏡写真を示し、素子評価は、有機電界発光素子に電圧を印加したときの顕微鏡写真を示す。
【0424】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0425】
【図1】本発明の下引き層用組成物を用いた場合の、撥液性感光性組成物による構造物形成工程、および構造物がバンクである場合のパターニング用基板の製造手順と製造された有機薄膜パターニング用基板への有機薄膜の形成工程の実施の形態を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の一例を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
【0426】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子
11 基板
12 下引き層
13 撥液性感光性組成物層
14 構造物(バンク)
15 バンクの区画領域
16 有機薄膜
20 露光マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、撥液性成分を含有する感光性組成物で構造物を製造する際に、該感光性組成物と基板との間に直接または他の層を介して形成される該感光性組成物の下引き層用の組成物において、親水性有機化合物を含有することを特徴とする下引き層用組成物。
【請求項2】
該親水性有機化合物が、親水性樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の下引き層用組成物。
【請求項3】
該親水性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアルキレングリコール系樹脂、ビニルピロリドン誘導体を主成分とする(共)重合体、およびアクリル酸誘導体を主成分とする(共)重合体からなる群より選ばれるものであることを特徴とする、請求項2に記載の下引き層用組成物。
【請求項4】
水および/またはアルコール系溶剤を含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項5】
エチレン性不飽和基含有化合物を含有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項6】
重合禁止剤を含有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項7】
現像促進剤を含有することを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項8】
液性改質剤を含有することを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項9】
該下引き層が、前記基板上に形成された有機層上に形成されることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項10】
該構造物が、有機薄膜を区画するために用いられる隔壁であることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の下引き層用組成物。
【請求項11】
該隔壁が、有機電界発光素子の有機層を区画するために用いられることを特徴とする、請求項10に記載の下引き層用組成物。
【請求項12】
該有機層が、発光層を含む層であることを特徴とする、請求項11に記載の下引き層用組成物。
【請求項13】
基板上に、直接または他の層を介して、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の下引き層用組成物を成膜して下引き層を形成し、該下引き層上に、撥液性成分を含有する感光性組成物を成膜して撥液性感光性組成物層を形成した後、露光、および現像することにより得られた構造物を、隔壁として有することを特徴とする、有機薄膜パターニング用基板。
【請求項14】
請求項13に記載の有機薄膜パターニング用基板を用いた有機電界発光素子。
【請求項15】
請求項14に記載の有機電界発光素子を用いた有機EL表示装置。
【請求項16】
請求項14に記載の有機電界発光素子を用いた有機EL照明。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−129344(P2010−129344A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302240(P2008−302240)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】