説明

不全角化抑制剤及び該不全角化抑制剤を含有してなる化粧品

【課題】 不全角化に起因する皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善効果、皮膚にしっとり感や滑らかさを与える効果を有する不全角化抑制剤及び該不全角化抑制剤を含有してなる化粧品を提供すること。
【解決手段】 乳清又はこれの分画物を含有することを特徴とする不全角化抑制剤及びそれを含有してなる化粧品とする。或いは、前記不全角化抑制剤にさらにε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物から選ばれる1種以上を配合することを特徴とする不全角化抑制剤及びそれを含有してなる化粧品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不全角化抑制剤及び該不全角化抑制剤を含有してなる化粧品に関する。詳細には、不全角化に起因する皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善効果を有する不全角化抑制剤及び該不全角化抑制剤を含有してなる化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
「角化」とは、表皮を構成する細胞の大部分である角化細胞が、生まれてから垢となってはがれ落ちるまでの過程をいい、この過程は、およそ28日間前後といわれている。角化が順調に行われていないと、角質層が厚くなってきたり、皮膚表面から角質が剥がれ落ちる量が多くなったりし、皮膚がカサついたり、白く粉を吹いたように見えるようになる。
【0003】
乾燥肌で悩んでいる女性の多くは、上記のような過程により皮膚の乾燥が引きこされていることにも気づかず、乾燥した皮膚に水分を与えるために、保湿クリーム、保湿液等を継続的に使用しており、また、そのような女性をターゲットとして、従来から多くの保湿用化粧品が販売されているのが現状である。
当然のことながら、このような化粧品を不全角化に起因する乾燥肌に適用しても、その効果は一時的であり、本質的に予防又は改善させることは困難である。また使用を止めると、乾燥が再発するという問題があった。
【0004】
さらに、男性、女性問わず多く人が、Tゾーンと呼ばれる鼻の周囲など、皮脂の分泌量の多い部位の毛穴が黒くなるというトラブルで悩んでいる。これは、毛穴周辺で角質層が厚く角化してしまっていて、毛穴に角質や汚れが詰まっている状態、即ち角栓が原因で引き起こされる。これを改善するために、例えば、アルコール成分又は植物抽出物有効成分を配合して毛穴を引き締める方法、物理的に角栓を除去する方法が多く提案されている。(特許文献1、2参照)しかしながら、これらアルコール又は植物抽出物有効成分含有化粧品及び物理的角栓除去テープ等は、本質的な改善方法でないばかりか、皮膚への負荷が大きく、その効果も充分ではなかった。
【0005】
従って、角化、即ち、表皮の細胞が角質細胞に成熟し、やがて垢となり剥がれ落ちるまでの新陳代謝の流れを整えることにより、皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善を実現する不全角化抑制剤の開発が望まれてきた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−19617号公報
【特許文献2】特開2000−04940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、不全角化に起因する皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善効果、皮膚にしっとり感や滑らかさを与える効果を有する不全角化抑制剤及び該不全角化抑制剤を含有してなる化粧品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、乳清又はこれの分画物を含有することを特徴とする不全角化抑制剤に関する。
請求項2に係る発明は、さらにε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物から選ばれる1種以上を配合することを特徴とする請求項1記載の不全角化抑制剤に関する。
請求項3に係る発明は、前記乳清がヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタの乳清から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の不全角化抑制剤に関する。
請求項4に係る発明は、前記乳清が分娩後5日以内の初乳清であることを特徴とする請求項1又は2記載の不全角化抑制剤に関する。
請求項5に係る発明は、前記乳清の分画物が、乳清の酸・アルコール処理によって得られることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の不全角化抑制剤に関する。
請求項6に係る発明は、前記乳清の分画物が、アルコール濃度10〜50%(v/v)である乳清とアルコールの混合液をpH1〜5に調整した後、該混合液から不溶物を除去することにより得られることを特徴とする請求項5に記載の不全角化抑制剤に関する。
請求項7に係る発明は、前記請求項1乃至6に記載の不全角化抑制剤が含有されてなる化粧品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の不全角化抑制剤は、不全角化に起因する皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善効果、皮膚にしっとり感や滑らかさを与える効果を有する。
本発明の不全角化抑制剤を含有する化粧品は、不全角化に起因する皮膚の乾燥及び毛穴の目立ちやにきび等の予防・改善効果、皮膚にしっとり感や滑らかさを与える効果を有するとともに、容易に使用できる形態として消費者に提供できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の不全角化抑制剤について説明する。
本発明の不全角化抑制剤は、その必須成分として、乳清又はこれの分画物を含有する。
【0011】
前記乳清は、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の哺乳動物から採取された乳汁、或いはその乳汁を予め乾燥粉末化した後、水に溶解したものが用いられ、通常、遠心分離によって最上層の脂肪分を取りのぞいて、脱脂後、種々の方法でカゼイン画分を除去して得られる。カゼイン画分の除去は通常、大きく二つの方法に分けられる。一つは乳酸、塩酸、硫酸等の酸の添加によりpH4.4〜4.6程度の酸性でカゼインを等電点沈殿させる。もう一つはキモシン等の酵素の作用によりカゼインを凝固させ、いずれも不溶化したカゼイン画分を濾過、遠心分離或いはデカンテーション等により除去する方法で行なわれる。
【0012】
本発明に係る乳清としては、哺乳動物の分娩後5日以内に採取される初乳が好ましく用いられ、これは、従来、初乳中にはグロブリン含量が多いことが知られていることからも、生理学上、重要な意味をもつものと考えられる。
【0013】
本発明の不全角化抑制剤は、乳清又はこれの分画物とともに、さらに、ε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物から選ばれる1種以上を配合する。
本発明の不全角化抑制剤において、乳清又はこれの分画物と、ε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物の好ましい配合比(重量比)は、以下の通りである。
【0014】
ε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物のうち、ε‐アミノカプロン酸単独で配合される場合、乳清又はこれの分画物が1に対して、ε‐アミノカプロン酸の配合量は、0.002〜10、より好ましくは、0.02〜5である。この理由は、乳清又はこれの分画物が1に対して、ε‐アミノカプロン酸の配合量が0.002未満の場合や、また10を超えると、相乗的効果が認められなく、いずれの場合も好ましくないからである。
【0015】
ε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物のうち、糖蜜及び/又はこれの分画物が配合される場合、乳清又はこれの分画物が1に0.01〜100、より好ましくは0.1〜10である。この理由は、乳清及び/又はこれの分画物が1に対して、糖蜜及び/又はこれの分画物の配合量が0.01未満の場合や100を超えると、相乗的効果が認められなく、いずれの場合も好ましくないからである。
【0016】
以下、乳清の分画物について説明する。
本発明における分画物は、本発明の属する技術分野において通常用いられる分画方法により、乳清抽出物から得られるものであれば特に限定されない。分画方法としては、例えば、任意の溶媒を用いての抽出による分画、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムを用いた分画、およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどが含まれる。
【0017】
本発明に係る乳清の分画物としては、好ましくは、乳清とアルコールを混和し、この混合液を酸性に調整した溶液から不溶物を除去したものを用いる。
詳細には、前記アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、より望ましくは、エタノールが用いられる。
アルコールと乳清の混合液のアルコール濃度は、10〜50%(v/v)、好ましくは15〜45%(v/v)である。10%未満の場合や50%を超えると効果のある画分が得られないためいずれの場合も望ましくない。
【0018】
アルコールと乳清の混合液が酸性に調整される際、好ましくはpH1〜5、より望ましくはpH2〜4とされる。この理由は、pH1未満の場合や、またpH5を超えると効果のある画分が得られないため、いずれの場合も好ましくないからである。
酸性に調整される方法としては、前記混合液に酸を加える方法が挙げられる。好ましくは、酢酸、クエン酸、リン酸、乳酸、塩酸が用いられる。
【0019】
次に、乳清とアルコールを混和し、この混合液を酸性に調整した溶液から不溶物を除去する。不溶物の除去は、濾過、濃縮、遠心分離或いはデカンテーション等により行われる。このようにして、本発明に係る乳清の分画物が得られる。
【0020】
次に、糖蜜の分画物について説明する。
本発明における糖蜜の分画物もまた、本発明の属する技術分野において通常用いられる分画方法により得ることができる。本発明において、好ましくは、糖蜜とアルコールを混合し、攪拌抽出した後、濾過により不溶物を取り除く。得た濾液を減圧濃縮しアルコールを取り除く。これに水及び活性炭を加えて攪拌した後、これを濾過し糖蜜の分画物とする。
前記アルコールとしては、好ましくは、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、より望ましくは、エタノールが用いられる。
【0021】
次に本発明の化粧品について説明する。
本発明の化粧品は、本発明の不全角化抑制剤が含有されてなる。
本発明の化粧品としては、特に用途、剤形は限定されないが、例えば、コールドクリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、エモリエントクリーム、サンスクリーンクリーム等の各種クリーム、シャンプー、リンス、ヘアスタイリング剤、染毛剤等のヘアケア製品、乳液、化粧水、ファンデージョン、洗顔料、口紅、美容液及びパック等が挙げられる。
【0022】
本発明の化粧品中の本発明の不全角化抑制剤の配合量は、剤形によって異なるが、化粧品全量に対して、0.001〜50重量%が好ましく、0.005〜10重量%がより望ましい。
【0023】
本発明の化粧品には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で化粧品等に一般に用いられる各種成分を配合し、目的の製品を常法により製造できる。例えば、油性成分、水性成分、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、親油性非イオン界面活性剤、親水性非イオン界面活性剤、天然系界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、粉末成分、顔料、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料、色素、金属イオン封鎖剤、帯電防止剤及び精製水等を必要に応じて適宜配合し、目的とする剤形に応じて常法により製造することが出来る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。
<不全角化抑制試験>
以下の方法で試料A及び試料Bを調製し、[表1]の組成(濃度:重量%)に基づき実施例1〜6及び比較例1を調製した。これら実施例1〜6及び比較例1を被験者の両腕に塗布することにより、不全角化抑制効果について試験した。
【0025】
(試料A;牛初乳清の分画成分の調製)
牛の分娩後1〜5日経過時に採取された初乳10Lを遠心分離(15000g×30min)し、最上層の脂肪分を除去した後、30℃に加温、適量のキモシンを加え2時間攪拌後、遠心分離(720g×30min)し、その上清をメンブランフィルターにて濾過し清澄な初乳清を得た。この初乳清5Lにエタノール2.5Lを混和し、酢酸でpH3.0とし、更にホモミキサーで2時間混合した。その後、デカンテーションにより上清を分取し、分画分子量1万の限外濾過膜で2倍濃縮し、セライト濾過により清澄な初乳清分画成分を得た。
【0026】
(試料B;糖蜜分画分成分の調製)
糖蜜1kgに70%エタノール水溶液5Lを加え、攪拌抽出した後、濾過により不溶物を取り除く。濾液を減圧濃縮しメタノールを取り除く。これに水4L、活性炭120gを加えて1時間攪拌する。次にこれを濾過しエキス4Lを得た。
【0027】
【表1】

【0028】
(不全角化抑制試験)
乾燥肌の女性10人を被験者とし、被験者の両腕の上腕内側7箇所に、1日2回、実施例1〜6、比較例1を各1箇所塗布した。塗布前、1ヶ月目、3ヶ月目、6ヶ月目に試料を塗布した箇所の肌の皮膚をテープストリッピングにより角層細胞を剥離し、これをゲンチアナバイオレット及びブリリアントグリーンで染色した後、顕微鏡で観察した。この顕微鏡観察により、テスト前後における角層細胞が重なって剥がれる重層剥離の程度の変化をスコア化し、モニター10人のスコアの平均を採った。
スコアは、最も重層剥離の悪い状態、即ち単層で剥離されている角層細胞がない状態を「1」とし、全く重層剥離のない状態を「5」とした。また、これらの間の状態も含め、合計5段階で評価した。この評価値に基づいて、「試験後のスコア」と「試験前のスコア」との差を求め、そのスコアの差を表に示した。結果を[表2]に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果より、本発明の不全角化抑制剤を適用した肌は、比較例1と比較し、角層細胞の重層剥離が顕著に少ないため、皮膚の新陳代謝の流れが順調に行われていることが分かる。さらに、被験者10人全員が、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、全ての段階において、比較例1を適用した肌と比較して、実施例1〜6を適用した肌が、しっとり滑らかになったと評価した。
【0031】
以下本発明の不全角化抑制剤の処方例を示す。
(本発明の不全角化抑制剤の調製)
乳清の分画物(試料A) 50.0
糖蜜の分画物(試料B) 40.0
ε‐アミノカプロン酸 10.0
合計 100.0重量%
【0032】
(処方例1:ローション)
不全角化抑制剤 0.1
スクワラン 5.0
ワセリン 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレイン酸エステル(20EO) 0.8
プロピレングリコール 5.0
エタノール 5.0
水酸化カリウム 0.1
香料 適量
酸化防止剤 適量
精製水 残部
合計 100.0重量%
【0033】
(処方例2:保湿クリーム)
不全角化抑制剤 5.0
ステアリン酸 10.0
蜜ロウ 3.0
セタノール 8.0
スクワラン 10.0
モノステアリン酸グリセリン 3.0
ポリオキシエチレンモノラウレート 3.0
ラノリン誘導体 2.0
プロピレングリコール 10.0
トリエタノールアミン 1.0
香料 0.5
精製水 残部
合計 100.0重量%
【0034】
(処方例3:ヘアクリーム)
不全角化抑制剤 1.0
蜜ロウ 3.0
流動パラフィン 50.0
ステアリン酸 3.0
界面活性剤 4.0
香料 適宜
防腐、酸化防止剤 適宜
精製水 残部
合計 100.0重量%
【0035】
前記処方例1〜3で示す本発明の化粧品もまた、前述の実施例1〜6と同様に優れた不全角化抑制効果を有していた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清又はこれの分画物を含有することを特徴とする不全角化抑制剤。
【請求項2】
さらにε‐アミノカプロン酸、糖蜜又はこれの分画物から選ばれる1種以上を配合することを特徴とする請求項1記載の不全角化抑制剤。
【請求項3】
前記乳清がヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタの乳清から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の不全角化抑制剤。
【請求項4】
前記乳清が分娩後5日以内の初乳清であることを特徴とする請求項1又は2記載の不全角化抑制剤。
【請求項5】
前記乳清の分画物が、乳清の酸・アルコール処理によって得られることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の不全角化抑制剤。
【請求項6】
前記乳清の分画物が、
アルコール濃度10〜50%(v/v)である乳清とアルコールの混合液をpH1〜5に調整した後、該混合液から不溶物を除去することにより得られることを特徴とする請求項5に記載の不全角化抑制剤。
【請求項7】
前記請求項1乃至6に記載の不全角化抑制剤が含有されてなる化粧品。

【公開番号】特開2007−131545(P2007−131545A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323611(P2005−323611)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(503186560)株式会社ベスビオ (9)
【出願人】(397019287)コスメテックスローランド株式会社 (13)
【Fターム(参考)】