説明

不可逆回転伝動系のロックオン制御装置

【課題】不可逆回転伝動系に挿置したトルクダイオードを入力トルクの0への低下でロックオンさせるとき、これが、出力軸の回転位置を不変に保って行われるように構成する。
【解決手段】モータトルクTmによりクランクシャフト回転角θを目標値θsとなした制御完了時t1以降、モータトルクTmを0に向け低下させるに際し、当該モータトルクTmをt1に一気に0にするのではなく、所定の時間変化勾配ΔTmで低下させつつ、最終的に0となす。モータトルクTmの低下速度ΔTmは、モータトルクTmの低下によるトルクダイオードのロックオフ状態からロックオン状態への移行が、クランクシャフト回転角θを目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_max以下とし、好ましくはΔTm=ΔTm_maxに定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転位置制御などに有用な不可逆回転伝動系のロックオン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば回転位置制御を行うなどのための回転伝動系は、アクチュエータからのトルクを制御対象に伝達し、制御対象が目標の回転位置になるときアクチュエータを停止状態に保って当該目標回転位置を保つよう作用する。
【0003】
かかる回転伝動系としては従来、例えば特許文献1に記載のごとく、摩擦伝動式駆動力配分装置の駆動力配分制御(トラクション伝動容量制御)用に構成した、以下のようなものが知られている。
【0004】
先ず特許文献1に記載の摩擦伝動式駆動力配分装置を説明するに、これは、主駆動輪に機械的に結合された第1ローラと、従駆動輪に機械的に結合された第2ローラとを具え、
これら第1ローラおよび第2ローラを両者の外周面において相互に摩擦接触させることにより、主駆動輪へのトルクの一部を従駆動輪へ分配して出力させ得るように構成したものである。
【0005】
かかる駆動力配分装置にあっては、第1ローラおよび第2ローラ間における径方向押し付け力を加減することにより、
これらローラ間のトルク伝達容量(トラクション伝動容量)、従って主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御することができる。
【0006】
この駆動力配分制御を行うための回転伝動機構として特許文献1には、第2ローラの回転軸をモータ等のアクチュエータで偏心軸線周りに旋回させることにより第2ローラを第1ローラに対し径方向へ相対変位させ、これにより第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力、つまり主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御し得るようにしたものが提案されている。
この用に供する回転位置制御のための回転伝動系は、アクチュエータからのトルクで第2ローラ回転軸を上記偏心軸線周りに旋回させ、第2ローラ回転軸が目標の旋回位置になるときアクチュエータを停止状態に保って当該目標旋回位置を保持するものである。
【0007】
ところで上記した摩擦伝動式駆動力配分装置にあっては、第2ローラ回転軸をアクチュエータにより旋回させつつ、第1ローラに対する第2ローラの径方向押し付け力を加減する構成のため、
第2ローラ回転軸を目標旋回位置に保つべくアクチュエータを停止状態に保持するとき、アクチュエータに一定方向の反力(以下、負荷トルクと言う)を逆入力させる。
【0008】
この場合、第2ローラ回転軸を目標旋回位置に保つべくアクチュエータを停止状態に保持するためには、アクチュエータへ逆入力される一定方向の負荷トルクと同じ大きさの逆向き対抗トルクを出力し続けるようアクチュエータを絶えず駆動制御する必要があり、
アクチュエータの駆動エネルギーが多くなるという問題のほかに、制御が煩わしくなるという問題を生ずる。
【0009】
上記したアクチュエータへ逆入力される負荷トルクに対する対策としては、第2ローラ回転軸の旋回位置制御用の回転伝動系に、例えば特許文献2に記載のような逆入力防止クラッチ等の不可逆回転伝動素子を挿入して、当該回転伝動系を不可逆回転伝動系となすことが考えられる。
【0010】
かかる不可逆回転伝動系を用いる場合、アクチュエータトルクによる第2ローラ回転軸の旋回位置制御中は、アクチュエータトルクが不可逆回転伝動素子をロックオフ状態となしているため、第2ローラ回転軸の旋回位置制御を何ら妨げない。
しかして、第2ローラ回転軸が目標旋回位置になったことで、アクチュエータトルクを0にして制御を終了するとき、不可逆回転伝動素子が上記逆入力される負荷トルクによりロックオン状態にされ、当該逆入力される負荷トルクがアクチュエータへ向かうのを防止することができる。
【0011】
不可逆回転伝動系を用いる場合、上記のように、アクチュエータトルクを0にしておいても、不可逆回転伝動素子がロックオン状態により負荷トルクをアクチュエータへ向かわせなくし得るため、アクチュエータトルク=0の状態で第2ローラ回転軸を目標旋回位置に保つことができる。
このため、アクチュエータを絶えず駆動制御する必要がなくて、アクチュエータの駆動エネルギーが多くなるという問題や、制御が煩わしくなるという問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−173261号公報(図5)
【特許文献2】特開2010−127349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、第2ローラ回転軸を目標旋回位置に制御した後、アクチュエータトルクを0に向け低下させるとき、アクチュエータトルクを一気に0にすると、不可逆回転伝動素子の内部に格納される転動部と被転動部との間に生じる速度差が大きくなるため、これらの間に介在するグリスを転動部が排出する能力が低下してグリス膜厚が厚くなる。
【0014】
その結果、転動部と被転動部との間の摩擦係数が低くなってスリップが生じることで不可逆回転伝動素子のロックオン状態を生じさせる事ができないため、第2ローラ回転軸を狙い通り目標旋回位置に保ち得ず、第2ローラ回転軸が目標旋回位置からずれた位置にされるという問題が生ずることを確かめた。
【0015】
本発明は、アクチュエータトルクを0に向け低下させることで生起される不可逆回転伝動素子のロックオフ状態からロックオン状態への移行時に、不可逆回転伝動素子の制御後における回転位置が目標回転位置からずれてしまう弊害を、アクチュエータトルクの低下速度制御により抑制、若しくは無くし得るようにした不可逆回転伝動系のロックオン制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的のため本発明による不可逆回転伝動系のロックオン制御装置は、これを以下のように構成する。
先ず前提となる不可逆回転伝動系を説明するに、これは、
アクチュエータからのトルクを入力される入力軸と、
該入力軸からのトルクを出力する出力軸と、
これら入力軸および出力軸間にあって、入力軸から出力軸へトルクを伝達する伝動時は該トルクがロックオフトルク以上となるよう上記アクチュエータを駆動制御することでロックオフ状態となって上記トルク伝達を可能にするが、入力軸から出力軸へトルクが伝達されない非伝動時は出力軸の負荷トルクによりロックオン状態にされて出力軸の負荷トルクが入力軸へ伝達されるのを阻止する不可逆回転伝動素子とを具えたものである。
【0017】
本発明は、かかる不可逆回転伝動系に対し、以下のようなアクチュエータトルク低下速度制限手段を設けた構成に特徴づけられる。
このアクチュエータトルク低下速度制限手段は、上記アクチュエータトルクの低下で生起される上記不可逆回転伝動素子のロックオフ状態からロックオン状態への移行時におけるアクチュエータトルクの低下速度を所定速度以下にするものである。
【発明の効果】
【0018】
かような本発明による不可逆回転伝動系のロックオン制御装置にあっては、
アクチュエータトルクの低下で生起される上記不可逆回転伝動素子のロックオフ状態からロックオン状態への移行時におけるアクチュエータトルクの低下速度を所定速度以下に制限するため、
不可逆回転伝動素子のロックオフ状態からロックオン状態への移行時に上記出力軸の回転位置を目標回転位置からずれた位置となす要因となっていた、不可逆回転伝動素子内における転動部と被転動部との間のスリップ現象を生じなくすることができ、
ロックオン状態への移行時も出力軸の回転位置を目標回転位置に保って、制御精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例になる不可逆回転伝動系のロックオン制御装置を内蔵する駆動力配分装置をトランスファとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【図2】図1における駆動力配分装置の縦断側面図である。
【図3】図2に示す駆動力配分装置で用いたクランクシャフトを示す縦断正面図である。
【図4】図2に示すトランスファの動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が基準点の0°である位置における第1ローラおよび第2ローラの離間状態を示す動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が180°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図である。
【図5】図2に示す駆動力配分装置のクランクシャフト回転角に対するクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)の変化特性を示す特性線図である。
【図6】図2の駆動力配分装置におけるトルクダイオードを、その出力軸側から軸線方向に見て示す端面図である。
【図7】図4に示すトルクダイオードの縦断側面図である。
【図8】図6,7に示すトルクダイオードの作用説明図で、 (a)は、駆動力配分制御用の入力トルクが存在しない状態における、トルクダイオードの不可逆回転伝動作用を説明するための説明図、 (b)は、駆動力配分制御用の入力トルクが発生した直後における状態を説明するための説明図、 (c)は、駆動力配分制御用の入力トルクが出力軸に伝達され始めた時の状態を説明するための説明図である。
【図9】図6〜8に示すトルクダイオードへのモータトルクを一気に0にした場合における、図2に示すクランクシャフトの回転角変化を示すタイムチャートである。
【図10】図6〜8に示すトルクダイオードへのモータトルクを、第1実施例のロックオン制御による速度制限下に0へ向け低下させた場合におけるクランクシャフト回転角の変化を示すタイムチャートである。
【図11】図6〜8に示すトルクダイオードへのモータトルクを、第2実施例のロックオン制御による速度制限下に0へ向け低下させた場合におけるクランクシャフト回転角の変化を示すタイムチャートである。
【図12】図6〜8に示すトルクダイオードへのモータトルクを、第3実施例のロックオン制御による速度制限下に0へ向け低下させた場合におけるクランクシャフト回転角の変化を示すタイムチャートである。
【図13】図6〜8に示すトルクダイオードへのモータトルクを、第4実施例のロックオン制御による速度制限下に0へ向け低下させた場合におけるクランクシャフト回転角の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる不可逆回転伝動系のロックオン制御装置を内蔵する駆動力配分装置1をトランスファとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図で、
本実施例においては不可逆回転伝動系を後述するごとく、トランスファ1の駆動力配分制御系として用いる。
【0021】
図1の四輪駆動車両は、エンジン2からの回転を変速機3による変速後、リヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を順次経て左右後輪6L,6Rに伝達するようにした後輪駆動車をベース車両とし、
左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を、トランスファ1により、フロントプロペラシャフト7およびフロントファイナルドライブユニット8を順次経て左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ伝達することにより、四輪駆動走行が可能となるようにした車両である。
【0022】
トランスファ1は、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力することにより、左右後輪(主駆動輪)6L,6Rおよび左右前輪(従駆動輪)9L,9R間の駆動力配分比を決定するもので、本実施例においては、この駆動力配分装置1を図2に示すように構成する。
【0023】
図2において、11はハウジングを示し、このハウジング11内に主軸12および副軸13を、それぞれの回転軸線O1およびO2が相互に平行になるよう配して、回転自在に横架する。
主軸12の両端をそれぞれ、ハウジング11から突出させ、図2において該主軸12の左端を変速機3(図1参照)の出力軸に結合し、右端はリヤプロペラシャフト4(図1参照)を介してリヤファイナルドライブユニット5に結合する。
【0024】
主軸12の軸線方向中程には、第1ローラ31を同心に一体成形して設け、副軸13の軸線方向中程には、第2ローラ32を同心に一体成形して設け、これら第1ローラ31および第2ローラ32を共通な軸直角面内に配置する。
【0025】
副軸13は、第1ローラ31の軸線方向両側で主軸12に対し相対回転可能に吊下したベアリングサポート23,25を介し、以下のような構成によりハウジング11に対し間接的に回転自在に支持する。
つまり、副軸13の軸線方向中程に一体成形した第2ローラ32の軸線方向両側に配置して、副軸13の両端部に中空のクランクシャフト51L,51Rを遊嵌する。
これらクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra(半径をRiで図示した)と、副軸13の両端部との遊嵌部に軸受52L,52Rを介在させて、副軸13をクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra内で、これらの中心軸線O2の周りに自由に回転し得るよう支持する。
【0026】
クランクシャフト51L,51Rには図3に明示するごとく、中心孔51La,51Ra(中心軸線O2)に対し偏心した外周部51Lb,51Rb(半径をRoで図示した)を設定し、これら偏心外周部51Lb,51Rbの中心軸線O3は中心孔51La,51Raの軸線O2(第2ロータ32の回転軸線)から、両者間の偏心分εだけオフセットしている。
クランクシャフト51L,51Rの偏心外周部51Lb,51Rbはそれぞれ図2に示すごとく、軸受53L,53Rを介して対応する側におけるベアリングサポート23,25内に回転自在に支持する。
【0027】
クランクシャフト51Lおよび副軸13をそれぞれ図2の左端においてハウジング11から突出させ、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lの左端は、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8を介して左右前輪9L,9Rに結合する。
【0028】
図2に示すように、クランクシャフト51L,51Rの相互に向き合う隣接端にそれぞれ、偏心外周部51Lb,51Rbと同心で、同仕様のリングギヤ51Lc,51Rcを一体に設け、これらリングギヤ51Lc,51Rcに、共通なクランクシャフト駆動ピニオン55を噛合させる。
なおこの噛合に当たっては、クランクシャフト51L,51Rを両者の偏心外周部51Lb,51Rbが円周方向において相互に整列する回転位置にした状態で、クランクシャフト駆動ピニオン55をリングギヤ51Lc,51Rcに噛合させる。
【0029】
クランクシャフト駆動ピニオン55はピニオンシャフト56に結合し、ピニオンシャフト56の両端を軸受56a,56bによりハウジング11に回転自在に支持する。
図2の右側におけるピニオンシャフト56の右端をハウジング11に貫通してこれから突出させ、
該ピニオンシャフト56の露出端部は、不可逆回転伝動素子であるトルクダイオード61を介してローラ間押し付け力制御モータ45(アクチュエータ)のモータ軸45aに駆動結合する。
【0030】
ローラ間押し付け力制御モータ45によりトルクダイオード61、ピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御するとき、副軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が図3に破線で示す軌跡円αに沿って旋回する。
【0031】
図3の軌跡円αに沿った回転軸線O2(第2ローラ32)の旋回により、第2ローラ32が図4(a)〜(c)に示すごとく第1ローラ31に対し径方向へ接近し、これら第1ローラ31および第2ローラ32のローラ軸間距離L1(図2も参照)をクランクシャフト51L,51Rの回転角θの増大につれ、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも小さくすることができる。
かかるローラ軸間距離L1の低下により、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量)が大きくなり、ローラ軸間距離L1の低下度合いに応じてローラ間径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量)を任意に制御することができる。
【0032】
なお図4(a)に示すように本実施例では、第2ローラ回転軸線O2がクランクシャフト回転軸線O3の直下に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の軸間距離L1が最大となる下死点でのローラ軸間距離L1を、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも大きくする。
これにより当該クランクシャフト回転角θ=0°の下死点においては、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に径方向へ押し付けられることがなく、ローラ31,32間でトラクション伝動が行われないトラクション伝動容量=0の状態を得ることができ、
トラクション伝動容量を下死点での0と、図4(c)に示す上死点(θ=180°)で得られる最大値との間で任意に制御することができる。
【0033】
なお本実施例では、クランクシャフト51L,51Rの回転角基準点をクランクシャフト回転角θ=0°の下死点であることとして説明を展開する。
【0034】
また本実施例では、上記のごとく第2ローラ32の回転軸線O2モータ45により軸線O3の周りに旋回させつつ、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押し付け力を加減する構成のため、
クランクシャフト回転角θに応じクランクシャフト51L,51Rには、図5に示すような駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrが作用する。
【0035】
<トルクダイオード>
図2のごとくモータ軸45aとピニオンシャフト56との結合部に介在させたトルクダイオード61は、
ローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)からの回転操作力が何れ方向のものであっても、ローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)からピニオンシャフト56への伝動を自由に行わせるが、
逆にピニオンシャフト56からローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)への逆伝動をピニオンシャフト56の両方向回転ロックにより行わせないようにする不可逆回転伝動素子の用をなすもので、図6〜8につき以下に説明するような構成とする。
【0036】
つまりトルクダイオード61は、その円筒形のケース62を図2に示すごとくハウジング11に取着して固定する。
図6,7に示すごとく、かかる固定ケース62の軸線方向一方側から入力軸63を、また軸線方向他方側から出力軸64を、相互に同軸となるよう配して固定ケース62内に進入させる。
入力軸63は軸受65により固定ケース62に対し回転自在に支持し、出力軸64は軸受66により固定ケース62に対し回転自在に支持する。
【0037】
固定ケース62内における出力軸64の進入端部を図8に明示するごとく、軸線方向に見て六角形の拡大端部64aとなす。
かかる六角形拡大端部64aの各辺を成す外周平坦面と、固定ケース62の円筒内周面との間に、一対1組の噛み込みローラ67L,67Rを、ローラ軸線が入出力軸63,64の軸線と平行になるよう配して介在させる。
【0038】
図6,8に示すごとく、これら噛み込みローラ67L,67R間にバネ68を介在させて噛み込みローラ67L,67Rを相互に離間する方向へ附勢し、
これにより噛み込みローラ67L,67Rをそれぞれ図6および図8(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と、固定ケース62の円筒内周面との間における円周方向漸減隙間に噛み込ませる。
【0039】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には、図6および図8(a)に示すごとく、各一対1組の噛み込みローラ67L,67Rをローラ配列方向両側から挟んでローラ保持器の用をなすよう、六角形拡大端部64aの各角部と、固定ケース62の円筒内周面との間における最小隙間に位置させて、ローラ保持爪63L,63Rを設ける。
しかして、ローラ保持爪63L,63Rと、これに隣接するローラ67L,67Rとの間には、図6(a)にαで示すごとく、常態で隙間が存在するようになす。
【0040】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には更に、図7および図8(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aに向け軸線方向に突出する複数の駆動ピン63aを設け、
六角形拡大端部64aの端面には、これら各駆動ピン63aが所定の径方向隙間β(β>α)をもって遊嵌する盲孔64bを穿設する。
【0041】
上記の構成になるトルクダイオード61は、図2に示すように、ケース62をハウジング11に固着し、入力軸63をローラ間押し付け力制御モータ45のモータ軸45aに結合し、出力軸64をピニオンシャフト56に結合して、トランスファ1に実用する。
【0042】
<トルクダイオードの不可逆回転伝動作用>
トルクダイオード61の作用を、図8(a),(b),(c)に基づき以下に説明する。
図8(a)は、図2のモータ45が非作動状態でモータ45から入力軸63へトルクが入力されないときの状態を示す。
この場合、入力軸63のローラ保持爪63L,63Rが、隣接するローラ67L,67Rからそれぞれ隙間αをもって離れた中立位置にあり、また入力軸63の駆動ピン53aが、出力軸64(六角形拡大端部64a)に設けた盲孔64bの中心位置にある。
【0043】
この状態で出力軸64(六角形拡大端部64a)から、図5につき前述した負荷トルクの逆入力があっても、出力軸64(六角形拡大端部64a)は以下のようにして回転を阻止される。
出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図8(a)において時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Lを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する(トルクダイオード61のロックオン状態)。
また出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図8(a)において反時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Rを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する(トルクダイオード61のロックオン状態)。
【0044】
よって、図2のモータ45の非作動によりこれから入力軸63へトルクが入力されない状態である間、出力軸64(六角形拡大端部64a)が上記何れ方向における負荷トルクの逆入力によっても回転されることなく現在の回転位置を保ち得て、クランクシャフト51L,51Rを現在の回転位置に保つことができ、かかる不可逆回転伝動作用によりローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を現在のままに保持することができる。
【0045】
しかして、図2に示すモータ45の作動によりこれから入力軸63へトルクが入力される場合は、このトルクをトルクダイオード61が以下のようにして六角形拡大端部64a(出力軸64)に伝達し、駆動力配分制御系へ向かわせることができる。
【0046】
モータ45から入力軸63へのトルクが、図8(b),(c)に矢印で示す方向のものである場合につき説明すると、
入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Lが隙間αだけ回転した後、図8(b)に示すように対応するローラ67Lに衝接し、このローラ67Lをバネ68に抗しローラ67Rに接近する方向へ押動して、図8(c)に示すごとく六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と固定ケース62の内周面との間隔が大きくなる方向へ変位させる。
【0047】
ローラ67Rは、かかる変位により固定ケース62に対する六角形拡大端部64a(出力軸64)の回転ロックを解除する(トルクダイオード61のロックオフ状態)。
このロックオフがなされたとき、図8(c)に示すごとく入力軸63の駆動ピン63aが隙間βの回転により盲孔64bの内周面と係合し、入力軸63は駆動ピン63aと盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達し、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減(モータ45のトルク制御)により任意に制御することができる。
【0048】
モータ45から入力軸63へのトルクが、図8(b),(c)に矢印で示すと逆方向のものである場合も、入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Rが隙間αだけ回転した後、対応するローラ67Rに衝接してこのローラ67Rを押動することでロックオフを行い(トルクダイオード61のロックオフ状態)、
このとき入力軸63の駆動ピン63aが盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達することで、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減により任意に制御することができる。
【0049】
<駆動力配分作用>
図1〜4につき上述したトランスファ1の駆動力配分作用を以下に説明する。
変速機3(図1参照)からトランスファ1の主軸12に達したトルクは、一方でこの主軸12からそのままリヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5(ともに図1参照)を経て左右後輪6L,6R(主駆動輪)へ伝達される。
【0050】
他方でトランスファ1は、モータ45によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御して、ローラ軸間距離L1を第1ローラ31および第2ローラ32の半径の和値よりも小さくするとき、これらローラ31,32が径方向相互押圧力に応じたローラ間伝達トルク容量を持つことから、このトルク容量に応じて、左右後輪6L,6R(主駆動輪)へのトルクの一部を、第1ローラ31から第2ローラ32を経て副軸13に向かわせ、左右前輪9L,9R(副駆動輪)をも駆動することができる。
かくして車両は、左右後輪6L,6R(主駆動輪)および左右前輪(従駆動輪)9L,9Rの全てを駆動しての四輪駆動走行が可能である。
【0051】
なお、この伝動中における第1ローラ31および第2ローラ32間の径方向押圧反力Ftは、これらに共通な回転支持板であるベアリングサポート23,25で受け止められ、ハウジング11に達することがない。
そして径方向押圧反力Ftは、クランクシャフト回転角θが0°〜90°である間は0となり、クランクシャフト回転角θが90°〜180°である間、θの増大に応じて増加し、クランクシャフト回転角θが180°になるとき最大値となる。
【0052】
かかる径方向押圧反力Ftに起因して、クランクシャフト51L,51Rには、次式によって表されるクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrが作用し、
Tcr=Ft×Ro×sinθ
このクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrは、上式から明らかなように、クランクシャフト回転角θに対し図5に示すごとき非線形な特性を呈する。
【0053】
かような四輪駆動走行中、クランクシャフト51L,51Rの回転角θが図4(b)に示すごとく基準位置の90°であって、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に、この時のオフセット量OSに対応した径方向押圧力で押し付けられて摩擦接触している場合、
これらローラ間のオフセット量OSに対応したトラクション伝動容量で左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力伝達が行われる。
【0054】
そして、クランクシャフト51L,51Rを図4(b)の基準位置から、図4(c)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の上死点に向け回転操作してクランクシャフト回転角θを増大させるにつれ、ローラ軸間距離L1が更に減少して第1ローラ31および第2ローラ32の相互オーバーラップ量OLが増大する結果、第1ローラ31および第2ローラ32は径方向相互押圧力を増大され、これらローラ間のトラクション伝動容量を増大させることができる。
【0055】
クランクシャフト51L,51Rが図4(c)の上死点位置に達すると、第1ローラ31および第2ローラ32は相互に、最大のオーバーラップ量OLに対応した径方向最大押圧力で径方向へ押し付けられて、これらの間のトラクション伝動容量を最大にすることができる。
なお最大のオーバーラップ量OLは、第2ローラ回転軸線O2およびクランクシャフト回転軸線O3間の偏心量εと、図4(b)につき上記したオフセット量OSとの和値である。
【0056】
以上の説明から明らかなように、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=0°の回転位置から、クランクシャフト回転角θ=180°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの増大につれ、ローラ間トラクション伝動容量を0から最大値まで連続変化させることができる。
また逆に、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=180°の回転位置から、θ=0°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの低下につれ、ローラ間トラクション伝動容量を最大値から0まで連続変化させることができ、ローラ間トラクション伝動容量をクランクシャフト51L,51Rの回転操作により自在に制御し得る。
【0057】
<トラクション伝動容量制御>
上記した四輪駆動走行中はトランスファ1が、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力するため、第1ローラ31および第2ローラ32間のトラクション伝動容量を、左右後輪6L,6R(主駆動輪)の駆動力と、前後輪目標駆動力配分比とから求め得る、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配すべき目標前輪駆動力に対応させる必要がある。
【0058】
この要求にかなうトラクション伝動容量制御のために本実施例においては、図1に示すようにトランスファコントローラ111を設け、これによりモータ45の回転制御(クランクシャフト回転角θの制御)を行うものとする。
【0059】
そのためトランスファコントローラ111には、
エンジン2の出力を加減するアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ112からの信号と、
左右後輪6L,6R(主駆動輪)の回転周速Vwrを検出する後輪速センサ113からの信号と、
車両の重心を通る鉛直軸線周りにおけるヨーレートφを検出するヨーレートセンサ114からの信号と、
トランスファコントローラ111からモータ45への電流iを検出するモータ電流センサ115からの信号とを入力するほか、
図2に示すごとくハウジング11内に設けられてクランクシャフト51L,51Rの回転角θを検出するクランクシャフト回転角センサ116からの信号を入力する。
【0060】
トランスファコントローラ111は、これら入力情報を基に、周知のトラクション伝動容量制御を行う。
概略を説明するとトランスファコントローラ111は、アクセル開度APO、後輪速Vwr、およびヨーレートφとに基づき、先ず左右後輪6L,6R(主駆動輪)の駆動力および前後輪目標駆動力配分比を求め、
次いで、これら両者から左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配すべき目標前輪駆動力を求め、
更に、第1ローラ31および第2ローラ32間のトラクション伝動容量を上記した目標前輪駆動力に対応させるのに必要なモータ45の目標回転位置(目標クランクシャフト回転角θs、つまり第2ローラ軸線O2の目標旋回位置)を実現するための目標モータトルクを求め、
最後に、モータ45がこの目標モータトルクを発生するのに必要なモータ駆動電流を、マップ検索などにより求めてモータ45に指令する。
【0061】
<トルクダイオードのロックオン制御>
かかる制御によりモータ45は、第2ローラ軸線O2の旋回位置(クランクシャフト回転角θ)を目標旋回位置(目標クランクシャフト回転角θs)となして、ローラ間トラクション伝動容量を目標前輪駆動力の伝達が可能な容量となして、狙い通りの前後輪駆動力配分制御を実現することができる。
【0062】
かようにしてクランクシャフト回転角θが目標クランクシャフト回転角θsに制御し終えた後は、モータ45のトルクを0に向けて低下させることで、図5に示す負荷トルクTcrによりトルクダイオード61が図8(a)につき前述した通りロックオン状態に保たれるため、理論上はモータトルク無しで安価に、しかも簡単にクランクシャフト回転角θを目標クランクシャフト回転角θsに保持することができる。
【0063】
しかし、モータ45のトルクTmを0に向けて低下させるとき、このモータトルクTmを図9の瞬時t1,t2,t3におけるように一気に0にすると、トルクダイオード61の六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面とローラ67との間に生じる速度差が瞬間的に大きくなる。
この速度差が大きくなると、六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面とローラ67との間に介在するグリスをローラ67が排出する能力が低下してグリス膜厚が厚くなるため、六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面とローラ67との間の摩擦係数が低くなる。
【0064】
そのため、ローラ67は六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面に対してスリップしてしまい、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Lを噛み込ませるよう作用し得ないため、クランクシャフト回転角θを目標クランクシャフト回転角θsに保ち得ず、この目標値θsからずれてしまう。
この場合、第2ローラ軸線O2の旋回位置が目標旋回位置と異なったままにされ、ローラ間トラクション伝動容量を目標前輪駆動力の伝達が可能な容量となし得ず、狙い通りの前後輪駆動力配分制御を実現することができない。
【0065】
本実施例は、モータトルクTmを0に向け低下させることで生起されるトルクダイオード61のロックオフ状態からロックオン状態への移行時に、上記のごとくクランクシャフト回転角θが目標クランクシャフト回転角θsからずれてしまうことのないようにするため、トルクダイオード61のロックオン制御を以下のごとくに行うようになす。
【0066】
つまり、本発明におけるアクチュエータトルク低下速度制限手段に相当する図1のトランスファコントローラ111が、上記のローラ間トラクション伝動容量制御を終えた後にモータトルクTmを0に向け低下させるに際し、当該モータトルクTmを図10のロックオン移行開始瞬時t1以降に示す通り、一気に0にするのではなく、所定の時間変化勾配ΔTmで低下させつつ、最終的に0となすよう時系列制御する。
【0067】
ここで、モータトルクTmの図10のロックオン移行開始瞬時t1以降に示す低下速度ΔTmは、モータトルクTmの低下によるトルクダイオード61のロックオフ状態からロックオン状態への移行が、クランクシャフト回転角θを図10に示すごとく目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_max以下とし、好ましくはΔTm=ΔTm_maxとするのが良い。
【0068】
<第1実施例の効果>
図10につき上述した第1実施例になるトルクダイオード61のロックオン制御においては、
ロックオン移行開始瞬時t1よりモータトルクTmを0に向け低下させるに際し、その低下速度ΔTmを所定速度以下に定めたため、瞬時t1にモータトルクTmが一気に0にされることがない。
【0069】
従って、図9につき前述したような弊害、つまりモータトルクTmを一気に0にしたことによるトルクダイオード61の前記したスリップ現象で、つまり六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面とローラ67との間の摩擦係数が低くなる結果、これらの間に生ずるスリップで、クランクシャフト回転角θが目標クランクシャフト回転角θsからずれて、狙い通りの前後輪駆動力配分制御を行い得なくなるという弊害を生ずることがなく、
図10に波線で示すように、クランクシャフト回転角θを目標クランクシャフト回転角θsに保ったままトルクダイオード61のロックオンが可能となり、その後も狙い通りの前後輪駆動力配分制御を継続することができる。
【0070】
しかも本実施例においては、モータトルクTmのロックオン移行開始瞬時t1以降における低下速度ΔTmの決定に際し、
モータトルクTmの低下によるトルクダイオード61のロックオフ状態からロックオン状態への移行が、クランクシャフト回転角θを図10に波線で示すごとく目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_max以下にモータトルクTmの低下速度ΔTmを定めたため、上記の効果を確実に達成することができる。
【0071】
なお、モータトルクTmの低下速度ΔTmを上記の上限値ΔTm_maxと同じ速度にする場合、モータトルクTmの低下によるトルクダイオード61のロックオフ状態からロックオン状態への移行が、上記の効果を達成しつつ最も高応答に完遂され得て、ロックオンの応答遅れに関する問題を生ずることもなくなる。
【0072】
<第2実施例>
図11は、本発明の第2実施例になるトルクダイオード61のロックオン制御を示し、本実施例においては、ロックオフ状態からロックオン状態への移行のためのモータトルクTmの低下が開始されたロックオン移行開始時t1のモータトルクTmに応じ、モータトルクTmの低下速度ΔTmをΔTm(L), ΔTm(S)で示すごとく異ならせる。
【0073】
具体的には、ロックオン移行開始時t1のモータトルクTmがTm(L)で示すように大きい場合は、モータトルクTmの低下速度をΔTm(L)のように緩やかな速度に定め、ロックオン移行開始時t1のモータトルクTmがTm(S)で示すように小さい場合は、モータトルクTmの低下速度をΔTm(S)のように急な速度に定め、
ロックオン移行開始時t1におけるモータトルクTmが大きいほど、モータトルクTmの低下速度を緩やかな速度にする。
【0074】
その理由は、ロックオン移行開始時t1におけるモータトルクTmが大きいほど、この瞬時t1にモータトルクTmを一気に0にしたことによるクランクシャフト回転角θの目標値θsからの「ずれ」が顕著で、これを防止するためには、ロックオン移行開始瞬時t1以降のモータトルク低下速度を一層緩やかにする必要があるためである。
【0075】
なお本実施例でも、ロックオン移行開始時t1のモータトルクTmがTm(L)で示すように大きい場合におけるモータトルク低下速度ΔTm(L)、および、ロックオン移行開始時t1のモータトルクTmがTm(S)で示すように小さい場合におけるモータトルク低下速度ΔTm(S)はそれぞれ、モータトルクTmのTm(L), Tm(S)からの低下によるトルクダイオード61のロックオンが、クランクシャフト回転角θを図11に波線で示すごとく目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_max(L), ΔTm_max(S)以下とし、好ましくはΔTm(L)=ΔTm_max(L)、ΔTm(S)=ΔTm_max(S)とするのが良い。
【0076】
<第2実施例の効果>
図11につき上述した第2実施例になるトルクダイオード61のロックオン制御においては、
ロックオン移行開始瞬時t1よりモータトルクTmを0に向け速度制限下に低下させるに際し、この瞬時t1におけるモータトルクTmがTm(L)のように大きいほど、モータトルクTmの低下速度ΔTm(L)を緩やかな速度{Tm(L) <ΔTm(S))}にするため、第1実施例と同様な効果に加えて、以下の効果をも奏し得る。
【0077】
つまり、瞬時t1におけるモータトルクTmがTm(L)のように大きい場合は、Tm(S)のように小さい場合よりも、瞬時t1にモータトルクTmを一気に0にしたことによるクランクシャフト回転角θの目標値θsからの「ずれ」が顕著で、これを防止するためには、瞬時t1以降のモータトルク低下速度を一層緩やかにする必要があるが、
第2実施例においては、将にこの要求に符合した制御を行うこととなり、モータトルクTmがTm(L)のように大きい場合も、確実に第1実施例の効果を達成し得る反面、モータトルクTmがTm(S)のように小さい場合は、トルクダイオード61のロックオン応答を高く保って、第1実施例の効果を達成することができる。
【0078】
しかも第2実施例においては、瞬時t1のモータトルクTmがTm(L)で示すように大きい場合におけるモータトルク低下速度ΔTm(L)、および、ロックオン移行開始時t1のモータトルクTmがTm(S)で示すように小さい場合におけるモータトルク低下速度ΔTm(S) の決定に際し、それぞれ、
モータトルクTmのTm(L), Tm(S)からの低下によるトルクダイオード61のロックオンが、クランクシャフト回転角θを目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_max(L), ΔTm_max(S)以下にモータトルク低下速度ΔTm(L),ΔTm(S)を定めたため、上記の効果を確実に達成することができる。
【0079】
なお、モータトルク低下速度ΔTm(L),ΔTm(S)をそれぞれ、ΔTm(L)=ΔTm_max(L)、ΔTm(S)=ΔTm_max(S) と定める場合、モータトルクTmのTm(L),Tm(S)からの低下によるトルクダイオード61のロックオン状態への移行が、上記の効果を達成しつつ最も高応答に完遂され得て、ロックオンの応答遅れに関する問題を生ずることもなくなる。
【0080】
<第3実施例>
図12は、本発明の第3実施例になるトルクダイオード61のロックオン制御を示し、本実施例においては、ロックオフ状態からロックオン状態への移行のためのモータトルクTmの低下が開始されたロックオン移行開始時t1以降、時々刻々低下するモータトルクTmのレベル変化に応じ、モータトルクTmの低下速度を徐々に速くする。
【0081】
具体的には、瞬時t1から開始される、トルクダイオード61のロックオフ状態からロックオン状態への移行のためのモータトルクTmの低下が行われている間、該モータトルクTmの低下につれてモータトルクTmの低下速度を急にする。
そして、モータトルクTmの低下が行われている間における時々刻々のモータトルク低下速度は、前記した第1,2実施例と同様な考え方に基づき決定し、好ましくは、トルクダイオード61のロックオンが、クランクシャフト回転角θを図12に波線で示すごとく目標値θsに保って行われるようなモータトルク低下速度の上限値ΔTm_maxに定めるのがよい。
【0082】
<第3実施例の効果>
図12に示す第3実施例になるトルクダイオード61のロックオン制御においても、ロックオン移行開始瞬時t1以降におけるモータトルクTmの低下速度を上記のごとくに設定するため、第1実施例および第2実施例と同様な効果を得ることができるほか、これら実施例よりも更にトルクダイオード61のロックオン応答を高くすることができて、大いに有利である。
【0083】
<第4実施例>
なお第1実施例〜第3実施例ではいずれも、ロックオン移行開始瞬時t1以降にモータトルクTmを連続的に低下させる場合について説明したが、瞬時t1以降におけるモータトルクTmの低下を図13に示すごとく段歩的に低下させる場合においても、本発明の着想は同様の考え方により適用可能であるのは言うまでもない。
【0084】
但し、この場合におけるモータトルクTmの前記した低下速度制御は、該モータトルクTmの段歩的な低下態様の選択により、つまり、1ステップ当たりのモータトルク低下量αの変更や、モータトルク保持時間Δtの変更により実現する。
【0085】
<その他の実施例>
なお上記各実施例では、不可逆回転伝動系が駆動力配分制御装置1のクランクシャフト回転位置制御系である場合について説明したが、本発明の上記した着想は、それ以外の不可逆回転伝動系にも用い得るのは言うまでもない。
【0086】
また上記各実施例では、不可逆回転伝動素子として図2,6〜8に示すようなトルクダイオード61を用いる場合について説明したが、不可逆回転伝動素子はこれに限られるものでないこと勿論である。
【符号の説明】
【0087】
1 駆動力配分装置
2 エンジン
3 変速機
4 リヤプロペラシャフト
5 リヤファイナルドライブユニット
6L,6R 左右後輪(主駆動輪)
7 フロントプロペラシャフト
8 フロントファイナルドライブユニット
9L,9R 左右前輪(従駆動輪)
11 ハウジング
12 主軸
13 副軸
23,25 ベアリングサポート
31 第1ローラ
32 第2ローラ
45 ローラ間押し付け力制御モータ(アクチュエータ)
51L,51R クランクシャフト
51La,51Ra 中心孔
51Lb,51Rb 偏心外周部
51Lc,51Rc リングギヤ
55L,55R クランクシャフト駆動ピニオン
56 ピニオンシャフト
61 トルクダイオード(不可逆回転伝動素子)
62 固定ケース
63 入力軸
63a 駆動ピン
63L,63R ローラ保持爪
64 出力軸
64a 六角形拡大端部
64b 盲孔
65,66 軸受
67L,67R 噛み込みローラ
68 バネ
111 トランスファコントローラ(アクチュエータトルク低下速度制限手段)
112 アクセル開度センサ
113 後輪速センサ
114 ヨーレートセンサ
115 モータ電流センサ
116 クランクシャフト回転角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータからのトルクを入力される入力軸と、
該入力軸からのトルクを出力する出力軸と、
これら入力軸および出力軸間にあって、入力軸から出力軸へトルクを伝達する伝動時は該トルクがロックオフトルク以上となるよう前記アクチュエータを駆動制御することでロックオフ状態となって前記トルク伝達を可能にするが、入力軸から出力軸へトルクが伝達されない非伝動時は出力軸の負荷トルクによりロックオン状態にされて出力軸の負荷トルクが入力軸へ伝達されるのを阻止する不可逆回転伝動素子とを具えた不可逆回転伝動系において、
前記アクチュエータトルクの低下で生起される前記ロックオフ状態からロックオン状態への移行時におけるアクチュエータトルクの低下速度を所定速度以下にするアクチュエータトルク低下速度制限手段を設けたことを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された不可逆回転伝動系のロックオン制御装置において、
前記アクチュエータトルクの低下に係わる所定速度は、該アクチュエータトルクの低下による前記ロックオフ状態からロックオン状態への移行が、前記出力軸の回転位置を不変に保って行われるようなアクチュエータトルクの低下速度の上限値であることを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された不可逆回転伝動系のロックオン制御装置において、
前記アクチュエータトルク低下速度制限手段は、前記ロックオフ状態からロックオン状態への移行のためのアクチュエータトルクの低下が開始されたロックオン移行開始時のアクチュエータトルクに応じ、該ロックオン移行開始時のアクチュエータトルクが大きいほどアクチュエータトルクの低下速度を緩やかにするものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載された不可逆回転伝動系のロックオン制御装置において、
前記アクチュエータトルク低下速度制限手段は、前記ロックオフ状態からロックオン状態への移行のためのアクチュエータトルクの低下が行われている間、該アクチュエータトルクの低下につれてアクチュエータトルクの低下速度を急にするものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の不可逆回転伝動系のロックオン制御装置において、
前記アクチュエータトルク低下速度制限手段は、前記アクチュエータトルクの低下速度制御を、該アクチュエータトルクの段歩的な低下態様の選択により実現するものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の不可逆回転伝動系のロックオン制御装置において、
一対のローラを径方向に押圧接触させて具え、これらローラ間の摩擦により伝動を行うようにした摩擦伝動ユニットに前記不可逆回転伝動系は用いられ、該不可逆回転伝動系により前記ローラ間の径方向押圧力を制御するものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロックオン制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−220000(P2012−220000A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89780(P2011−89780)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】